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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  C11D
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C11D
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C11D
管理番号 1356361
審判番号 無効2018-800011  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-02-02 
確定日 2019-10-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第4740373号発明「スクラブ石けん」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4740373号の請求項2及び3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4740373号は、平成19年1月31日に出願した特願2007-22488号の一部を平成22年1月12日に新たな特許出願とした特願2010-4406号について、平成23年5月13日に特許権の設定登録がなされたものであり、これに対して、平成30年2月2日に日本生化学株式会社により本件特許を無効にすることについての審判の請求がなされたところ、その審判における手続の経緯は、以下のとおりである。

平成30年2月 2日 審判請求書及び甲第1?8号証提出(請求人)
同年2月16日 上申書提出(請求人)
同年3月 2日 手続補正書、証拠申出書及び甲第9?11号証の2
提出(請求人)
同年5月18日 答弁書及び乙第1?2号証提出(被請求人)
同年6月26日 上申書及び甲第12?18号証提出(請求人)
同年8月13日 審理事項通知書(起案日)
同年9月26日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
同日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
同年10月10日 口頭審理・証拠調べ
同月22日 上申書提出(請求人)
同月31日 上申書提出(被請求人)
平成31年3月15日 審決の予告

なお、被請求人は、平成31年3月15日付けの審決の予告に対して、指定した期間内に何ら応答をしていない。

第2 本件発明
本件特許第4740373号の請求項1?3に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである(以下、請求項1?3に係る発明を「本1発明」?「本3発明」ともいう。)。
「【請求項1】
膨化処理を施した中空状の微粒火山灰を含有する固形状または半固形状のスクラブ石けんであって、
前記微粒火山灰の中空内部には、固形状または半固形状の石けんが収納されており、この固形状または半固形状の石けんは、前記微粒火山灰の中空内部に浸入させた界面活性剤を含有するアルカリ溶液に、脂肪酸溶液を反応させて形成したものであることを特徴とするスクラブ石けん。
【請求項2】
膨化処理を施した中空状の微粒火山灰を含有する固形状または半固形状のスクラブ石けんであって、
前記微粒火山灰の中空内部は、同微粒火山灰の中空内部の中心部に至るまで、固形状または半固形状の石けんが収納されていることを特徴とするスクラブ石けん。
【請求項3】
膨化処理を施した中空状の微粒火山灰を含有する固形状または半固形状のスクラブ石けんであって、
前記微粒火山灰の中空内部は、固形状または半固形状の石けんで満たされていることを特徴とするスクラブ石けん。」

第3 請求人の主張
1 請求の趣旨
特許第4740373号発明の特許請求の範囲の請求項2,請求項3に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の費用とする、との審決を求める。

2 無効理由の概要及び証拠方法
請求人は、以下の無効理由(1)?(4)を主張し、証拠方法として下記(5)の甲第1号証?甲第18号証を提出した(以下、甲号証は、単に甲1などと記載することもある。)。

(1)無効理由1(主引用発明を甲1記載の発明とする進歩性欠如)
本2及び本3発明は、甲1記載の発明に甲2記載の発明を単に組み合わせたものであって、進歩性を有しない発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とされるべきである。

(2)無効理由2(主引用発明を甲2記載の発明とする進歩性欠如)
本2及び本3発明は、甲2記載の発明に甲3記載の発明を組み合わせたものであって、進歩性を有しない発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とされるべきである。

(3)無効理由3(サポート要件違反及び明確性要件違反)
本件特許請求項2及び3における「膨化処理を施した中空状のシラスバルーン」との記載が、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明に記載したものではなく、また、特許を受けようとする発明が不明確であるから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしておらず、本2及び本3発明は、特許法第123条第1項第4号に該当し、その特許は無効とされるべきである。

(4)無効理由4(実施可能要件違反)
甲8に示すように、本件審判請求人が本件特許の明細書に基いて実験したところ、シラスバルーンの中空内部に石けんを形成することができなかったことから、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本2及び本3発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであって、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本2及び本3発明は、特許法第123条第1項第4号に該当し、その特許は無効とされるべきである。

(5)証拠方法(甲1?甲18)
請求人が提出した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証:特開昭62-599号公報
甲第2号証:居福朋大、幡手泰男、吉田昌弘、河野恵宣、“シラスマイクロバルーンを含有する洗顔料に関する基礎的製造技術”、化学関連支部合同九州大会・外国人研究者交流国際シンポジウム講演予稿集、2005年、42巻、262頁
甲第3号証:特開平10-182264号公報
甲第4号証:藤原光輝、“シラス多孔質ガラス(SPG)の応用”、NEW GLASS、2008、Vol.23 No.1、28?33頁
甲第5号証:袖山研一、“シラス利用の新しい展開”、[online]、平成23年3月、鹿児島県工業技術センター、目次、70?76頁、[2018年1月7日検索]、鹿児島県工業技術センターHP(https://www.kagoshima-it.go.jp/?page_id=8153)
甲第6号証:木村邦夫、“シラス微粒中空ガラス”、工業材料、平成9年、Vol.45 No.7、日刊工業新聞社、表紙、目次、102?106頁、奥付
甲第7号証:諫山幸男、陣内和彦、木村邦夫、“シラスの分離回収ならびにその有効利用”、浮選、1976年、Vol.23 No.3、144?157頁
甲第8号証:堀口高英、“分析結果報告書”、株式会社UBE科学分析センター、平成28年9月27日
甲第9号証:請求人代理人、科学技術振興機構が運営するデータベースJ-GLOBALの検索結果の頁、[平成30年3月2日検索]、インターネット(http://jglobal.jst.go.jp/public/20090422/200902217172440186)
甲第10号証:請求人代理人、一般社団法人ニューガラスフォーラムのホームページ、[平成30年3月2日検索]、インターネット(http://www.newglass.jp/c2j.shtml及びhttp://www.newglass.jp/mag/TITL/maghtml/88.html)
甲第11号証の1:請求人代理人、科学技術振興機構が運営するデータベースJ-STAGEの検索結果の頁、[平成30年3月2日検索]、インターネット(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/rpsj1954/-char/ja)
甲第11号証の2:請求人代理人、J-STAGEにおける『浮選』23巻3号の検索結果の頁、[平成30年3月2日検索]、インターネット(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/rpsj1954/23/3/_contents/-char/ja)
甲第12号証:平成28年(ワ)第10759号事件の被告代理人、“第2準備書面”、平成28年12月2日
甲第13号証:平成28年(ワ)第10759号事件の原告代理人、“原告第2準備書面”、平成29年1月20日
甲第14号証:平成28年(ワ)第10759号事件の原告代理人、“原告第3準備書面”、平成29年3月2日
甲第15号証:平成28年(ワ)第10759号事件の被告代理人、“第3準備書面”、平成29年4月26日
甲第16号証:平成28年(ワ)第10759号事件の原告代理人、“原告第4準備書面”、平成29年6月27日
甲第17号証:平成28年(ワ)第10759号事件の被告代理人、“第4準備書面”、平成29年8月28日
甲第18号証:平成28年(ワ)第10759号事件の原告代理人、“原告第5準備書面”、平成29年10月2日

第4 被請求人の主張
1 答弁の趣旨
本件特許無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。

2 被請求人の反論及び証拠方法
被請求人は、以下の反論を主張し、証拠方法として下記(4)の乙第1号証?乙第2号証を提出した(以下、乙号証は、単に乙1などと記載することもある。)。

(1)無効理由1及び2に対する反論
ア 平成30年5月18日付けの審判事件答弁書(第5頁第13行?第7頁第4行)における主張
本2発明は、シラスバルーンの中空内部中心部に至るまで石けんを収納しているが、これは単に石けんが中空部内に存在することだけを表しているのではなく、「いかにして中心部に至るまで石けんを収納させたか」の本1発明の技術が本2発明に潜在していると考えなければならない。すなわち、実施例の記載で理解できる石けんの収納技術によって初めて「中心部に至るまで石けんを収納させる」ことができるのであるから、シラスバルーン中空部内において石けんが形成されるというプロセスを経て、本2発明が完成したことになる。
かかる理解は、本件特許の権利構成が一出願で3発明を記載した多項制出願であること、多項制出願においては各項の発明に一定の技術的な関連性がなければならないこと等を勘案すれば容易に首肯できる。
本件特許明細書等の記載及び審判請求人が提出する各甲号証を勘案すれば、本2発明における「収納」や、本3発明における「満たされている」は、スクラブ石けんの「泡持ち」を改善するという課題解決のために、微粒火山灰の中空内部に侵入した界面活性剤を含有するアルカリ溶液と脂肪酸溶液との反応生成物「が収納」や「で満たされている」と理解すべきであり、審査官はこの点を特別な技術的特徴と認めた上で、本1発明と本2、3発明との技術的な関連性を前提として一出願での権利化を認めたと考えるのが相当であるから、本1発明はシラスバルーン内部でアルカリ溶液と脂肪酸溶液との鹸化反応が生起して内部に石けんが形成されることを前提としている以上、当然に本2発明も本3発明もかかる技術前提で「石けんが中心部に至るまで収納された状態」と考察しなければならない。
かかる見地で考察すれば無効理由1で引用した甲1にはなんら無効理由の根拠がないといわねばならない。
また、請求人は、本2発明と本3発明は実質的に同一であるとして、前述の無効理由1と同一の理由で無効理由2を主張するが、前述の無効理由1に対する特許権者の答弁を援用して、請求人の主張する無効理由2には理由がないことと答弁する。

イ 平成30年9月26日付けの口頭審理陳述要領書(第2頁第23行?第3頁第18行)における主張
本2及び本3発明は、いずれもその要部は「微粒火山灰の中空内部の中心部に至るまで石けんが収納」「微粒火山灰の中空内部は石けんで満たされている」ことであり、これらの発明は、突然に独立請求項として記載された発明とみるべきではなく、本1発明との係りの中で関連発明として発明技術を理解しなければならない。
すなわち、本2及び本3発明の石けんが微粒火山灰の中空内部の「中心部に至るまで収納」或いは「満たされている」という技術記載の内容は本1発明との関連において理解しなければならない。
換言すれば、本2及び本3発明はシラスバルーン内部で鹸化反応を生起することを前提として、シラスバルーン内部で石けんを生成する技術を前提として構成された発明と認識しなければならず、シラスバルーン内部で鹸化反応を生起することを前提として石けんがシラスバルーン中空内部の「中心部に至るまで収納」或いは「満たされている」と解釈されなければならない。
そうすると請求人の提出する甲各号証にはシラスバルーンの中空内部における鹸化反応の根拠は全く開示されていないために、請求人の主張する無効理由には全く根拠がないと言わねばならない。

(2)無効理由3に対する反論(審判事件答弁書の第7頁第6?18行)
請求人は、本2及び本3発明に記載の「膨化処理を施した中空状の微粒火山灰」は多孔質のシラスバルーンかシラス多孔質ガラスか不明確であると主張しているが、本件特許の明細書の段落0046には「シラスバルーン特有の多孔質」と記載されており、シラス多孔質ガラスであることが開示されている。
また、請求人は、明細書の粒径数値が記載されていることに対して、本2及び本3発明には平均粒径が特定されていないと主張するが、本件特許の明細書の粒径数値はあくまで一実施例の記載であり、かつ、本件特許の石けんがシラスバルーンの中空部内に収納されている技術にシラスバルーンの平均粒径の特定は不要である。
従って、発明が不明確で特許法第36条第6項第1,2号に違反との主張には理由がない。

(3)無効理由4に対する反論(審判事件答弁書の第7頁第19行?第9頁第1行)
請求人は、自己の商品(イ号製品)であるスクラブ石けんを分析した分析結果報告書を甲8として提出し、イ号製品のシラス石けんではシラスバルーン内に石けんが入り込まないとしている。
しかし、甲8で観察された切断前というシラスバルーンには、外見上表面にクラックがないが、表面にクラックがなければ、そもそもシラスバルーンの内部に石けんが収納される余地はないのだから、実験の試料として完全に不適切であり、甲8は全く信用性がないというべきである。
よって、甲8に基づく請求人の主張も全く理由がない。

(4)証拠方法(乙1?乙2)
被請求人が提出した証拠方法は以下のとおりである。
乙第1号証:友清芳二、“「火山灰でできたすごか石けん」の中に含まれるシラスバルーンの分析”、平成29年3月10日作成
乙第2号証:友清芳二、“「火山灰でできたすごか石けん」の中に含まれるシラスバルーンの分析(第2回)”、平成29年6月23日作成

なお、乙第1号証の作成日は、平成30年9月26日付けの口頭審理陳述要領書(被請求人)の第2頁第8行で釈明されたものである。

第5 当審の判断
1 無効理由1、2について
(1)甲1?3の記載事項
ア 甲1は、本件特許の出願前の昭和62年1月6日に頒布された刊行物であって、次の記載がある。

摘記1a:請求項1?3
「1.6?26kg/cm^(2)の範囲内の破砕強度を有するマイクロカプセルを組成物全体の0.1?10重量%分散含有することを特徴とする固型石けん組成物。
2.マイクロカプセルの粒径が30?300μmである特許請求の範囲第1項記載の固型石けん組成物。
3.マイクロカプセル中の芯物質含有量が70?96重量%である特許請求の範囲第1項又は第2項記載の固型石けん組成物。」

摘記1b:第3頁左上欄第4?10行
「また、マイクロカプセル化すべき内容物(芯物質)としては種々のものがあり、組成物の用途との関連で種々の添加剤が用いられるが、一般的には少量で高価な添加剤や、物理的及び化学的に不安定な添加剤が有効に使用され、例えば香料、殺菌剤、消炎剤、保湿剤、ビタミン類等が挙げられる。」

摘記1c:第3頁右上欄第19行?左下欄第1行
「本発明の石けん組成物は上記の如きマイクロカプセルを洗浄剤成分としての石けんベースに均一に分散させたものである。」

摘記1d:第4頁左上欄第18行?右上欄第10行
「発明の効果
本発明の石けん組成物は、マイクロカプセルとして石けん組成物の特性に合致した特定の破砕強度のものを使用したことにより、石けん製造時にはマイクロカプセルが崩壊せず、使用する時にマイクロカプセルが崩壊するので、種々の石けん添加物をマイクロカプセル化することにより、その特性を使用時まで保持して有効に発揮させることができ、長期間にわたって貯蔵、保管しても、洗浄力その他の石けん機能の低下は全くなく、また変色や変臭などの不都合な現象もない顕著に改善された満足しうる安定性を有し、商品価値及び実用的価値の優れたものである。」

イ 甲2は、甲9を参酌するに、本件特許の出願前の平成17年(2005年)に頒布された刊行物であって、次の記載がある。

摘記2a:第262頁第1?19行
「シラスマイクロバルーンを含有する洗顔料に関する基礎的製造技術
((株)天元)○居福朋大 (鹿児島大学)幡手泰男・吉田昌弘・河野恵宣)
[序論]
シラスは鹿児島県に広く形成される火山灰体積物で、主に二酸化ケイ素や酸化アルミなどを含有し、その有効な活用法が期待されている。中でも、ガラス質であるシラスを発砲させたシラスマイクロバルーンと呼ばれる微細中空球は高性能材料として、近年、研究が多くなされている。今回シラスマイクロバルーンが球形であること、またシラスが油分に対して強い吸着力を持つことに着目し、半固形洗顔石けんに含有させ、そのスクラブ的機能や洗浄力の向上が与えられることや、その基礎的な原料や製造技術の確立を目的とし、さらに付加価値を与えることを目指す。
[実験]
基本的な洗顔石けんは、C8?C18程度のある割合に混合している飽和・不飽和脂肪酸とアルカリのけん化により作られる。本実験ではシラスマイクロバルーンの混合し易い軟石けんのカリウム石けんの調整について検討した。石けんのけん化の反応速度に影響を及ぼす攪拌状態、反応温度、添加アルカリ水溶液濃度の影響を検討した。更に脂肪酸組成、界面活性剤の添加により石けんの仕上がりや使用感を検討した。更にシラスマイクロバルーンの混合量や添加方法を検討した。
[結果と考察]
各条件によるけん化度を測定し、もっとも効率の良い温度と攪拌条件を検討した。けん化効率に及ぼす脂肪酸組成による影響は少ないが、添加アルカリ水溶液濃度により大きな変化が現れた。シラスマイクロバルーンを添加することにより、空気の混入が起こり操作中に泡が生じ、仕上がり状態や使用感に差がでた。」

ウ 甲3は、本件特許の出願前の平成10年7月7日に頒布された刊行物であって、次の記載がある。

摘記3a:請求項7、8、10、13、15、16、23、25及び31
「【請求項7】粉末集合体のセラミックの球状殻の内部に球状空間を有し、かつその球状空間内に〔A〕液体、〔B〕ガス体及び〔C〕高温で液体又は気体となる固体からなる群から選ばれたものが充填されてなることを特徴とするセラミック造粒体。
【請求項8】セラミックの球状殻が、焼結されたセラミックであることを特徴とする請求項6又は7に記載のセラミック造粒体。…
【請求項10】球状のセラミック造粒体の殻が多孔質のものであることを特徴とする請求項6ないし9のいずれかに記載のセラミック造粒体。…
【請求項13】セラミック原料又はセラミックが、粘土、粘土鉱物、シャモット、珪砂、陶石、長石、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、シリカ、ムライト、コーディエライト、アパタイト、高炉スラグ、シラス、フライアッシュ、フェライト、炭化珪素、窒化アルミニウム及び窒化珪素から選ばれた1種以上のものであることを特徴とする請求項6ないし12のいずれかに記載のセラミック造粒体…
【請求項15】セラミック造粒体が、〔1〕触媒担体、〔2〕セメントモルタル用又はコンクリート用混和材料、〔3〕軽量骨材、〔4〕肥料を含有してなる肥料、〔5〕土壌改良剤を含有してなる土壌改良材料、〔6〕発光物質を含有してなる発光材料、〔7〕燐光発生物質を含有してなる燐光発生材料、〔8〕pH調整物質を含有してなるpH調整材料、〔9〕昇華性物質を含有してなる昇華性物質放出、〔10〕香料を含有してなる香料徐放性製品で、〔11〕酵素を含有してなる酵素含有製品、〔12〕細菌類を含有してなる細菌類含有製品、〔13〕殺菌剤を含有してなる殺菌剤含有製品、〔14〕殺虫剤を含有してなる殺虫剤製品、〔15〕色材を含有してなる色材製品、〔16〕消化剤を含有してなる消化剤含有製品、〔17〕消火剤を含有してなる消火剤含有製品、〔18〕界面活性剤を含有してなる界面活性剤含有製品、〔19〕強磁性体材料を含有してなる強磁性体材料含有製品、〔20〕希土類磁石材料を含有してなる希土類磁石材料含有製品、〔21〕中性子吸収材を含有してなる中性子吸収材含有製品、〔22〕放射能放射材を含有してなる放射能放射材含有製品、〔23〕着色されたもの、〔24〕抗生物質を含有してなる抗生物質含有製品、〔25〕ホルモン物質を含有してなるホルモン含有製品、〔26〕水素吸蔵物質を含有してなる水素吸蔵物質含有製品、及び〔27〕高吸水性ポリマーを含有してなる高吸水性ポリマー含有製品からなる群から選ばれたいずれかのものであることを特徴とする請求項6ないし14のいずれかに記載のセラミック造粒体。
【請求項16】セラミックの球状殻が、多層構造のものであることを特徴とする請求項6ないし15のいずれかに記載のセラミック造粒体。…
【請求項23】請求項1ないし19のいずれかに記載の造粒体を液体中に浸漬し、内部の球状空間に液体を内蔵してなることを特徴とする造粒体。…
【請求項25】粉末体が、〔1〕医薬、〔2〕肥料、〔3〕食品、〔4〕セメント、〔5〕飼料、〔6〕色材、〔7〕農薬、〔8〕化粧料、〔9〕酵素含有物、〔10〕界面活性剤、〔11〕半導体、〔12〕金属、〔13〕多重カプセル構成物、〔14〕サーメット材、〔15〕塗料コーティング材、〔16〕濾過材、〔17〕断熱材、〔18〕吸音材、〔19〕電波吸収材、〔20〕吸光材、〔21〕反射材、〔22〕交通標識表示材、〔23〕ボールベアリング、〔24〕バイオリアクター、〔25〕遠赤外線放射材、〔26〕電熱材、〔27〕軽量骨材、〔28〕球技材、〔29〕除湿材、〔30〕炉材、〔31〕エンジンルーム壁材、〔32〕ガスタービンルーム壁材、〔33〕裏貼(ライニング)材、〔34〕通気口材、〔35〕土壌材、〔36〕生体材バイオセラミックス、〔37〕傾斜材、〔38〕アパタイト、〔39〕遅効性材料、〔40〕プラスチック、〔41〕感光材、〔42〕水素吸蔵材、〔43〕楽器材、〔44〕音響スピーカ材、〔45〕オゾン分解材、〔46〕ホウロウ材、〔47〕釉薬材、〔48〕宇宙飛行材、〔49〕太陽炉材、〔50〕人工歯材、〔51〕タイル材、〔52〕顔料、〔53〕充填材料、〔54〕接着剤主成分、〔55〕超微粒子材料、〔56〕永久磁石材料、及び〔57〕形状記憶材料からなる群から選ばれたいずれかのものであることを特徴とする請求項1ないし24のいずれかに記載の造粒体。…
【請求項31】造粒体が、〔1〕医薬、〔2〕肥料、〔3〕食品、〔4〕セメント、〔5〕飼料、〔6〕色材、〔7〕農薬、〔8〕化粧料、〔9〕酵素含有物、〔10〕界面活性剤、〔11〕半導体、〔12〕金属、〔13〕多重カプセル構成物、〔14〕サーメット材料、〔15〕塗料コーティング材、〔16〕濾過材、〔17〕断熱材、〔18〕吸音材、〔19〕電波吸収材、〔20〕吸光材、〔21〕反射材、〔22〕交通標識表示材、〔23〕ボールベアリング、〔24〕バイオリアクター、〔25〕遠赤外線放射材、〔26〕電熱材、〔27〕軽量骨材、〔28〕球技材、〔29〕除湿材、〔30〕炉材、〔31〕エンジンルーム壁材、〔32〕ガスタービンルーム壁材、〔33〕裏貼(ライニング)材、〔34〕通気口材、〔35〕土壌材、〔36〕生体材用バイオセラミックス、〔37〕傾斜材、〔38〕アパタイト、〔39〕遅効性材料、〔40〕プラスチック材料、〔41〕感光材、〔42〕水素吸蔵材、〔43〕楽器材、〔44〕音響用スピーカ材、〔45〕オゾン分解材、〔46〕ホウロウ材料、〔47〕釉薬材料、〔48〕宇宙飛行材、〔49〕太陽炉材料、〔50〕人工歯材料、〔51〕タイル材料、〔52〕顔料、〔53〕充填材料、〔54〕接着剤主成分、〔55〕超微粒子材料、〔56〕永久磁石材料、及び〔57〕形状記憶材料からなる群から選ばれたいずれかのものであることを特徴とする請求項1ないし24のいずれか、又は請求項28に記載の造粒体。」

摘記3b:段落0001?0002
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は新規な造粒体に関し、特に球状の殻の内部に球状空間(中空部)を有してなる造粒体に関する。より好ましくは本発明は新規なセラミック造粒体に関し、特に球状の殻の内部に球状空間を有してなるセラミック造粒体に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来造粒体は、医薬工業分野、肥料工業分野、食品工業分野、飼料工業分野、農業分野、触媒工業分野、色材工業分野、窯業分野、セラミック工業分野、粉末冶金工業分野、洗剤工業分野、化粧品工業分野、プラスチック工業分野、バイオ工業分野等において広く使用されつつある。そして、それら造粒体は、転動造粒法、圧縮型造粒法、撹拌型造粒法、押出し造粒法、破砕型造粒法、流動層型造粒法、溶融造粒法、噴霧乾燥造粒法、液相造粒法、真空凍結造粒法、液中造粒法等によって製造される。しかしながら、それら造粒法によっては、中空の造粒体を得ることは容易でなく、わずかに噴霧乾燥造粒法等により中空のものが得られている。特に内部に球状空間を有する造粒体、特にはセラミック造粒体の提供は困難であった。」

摘記3c:段落0016及び0023?0024
「【0016】上記〔1〕医薬、〔2〕肥料、〔3〕食品、〔4〕セメント、〔5〕飼料、〔6〕色材、〔7〕農薬、〔8〕化粧料、〔9〕酵素含有物、〔10〕界面活性剤、〔11〕半導体、〔12〕金属、〔13〕多重カプセル構成物、〔14〕サーメット、〔15〕塗料コーティング材、〔16〕濾過材、〔17〕断熱材、〔18〕吸音材、〔19〕電波吸収材、〔20〕吸光材、〔21〕反射材、〔22〕交通標識表示材、〔23〕ボールベアリング、〔24〕バイオリアクター、〔25〕遠赤外線放射材、〔26〕電熱材、〔27〕軽量骨材、〔28〕球技材、〔29〕除湿材、〔30〕炉材、〔31〕エンジンルーム壁材、〔32〕ガスタービンルーム壁材、〔33〕裏貼(ライニング)材、〔34〕通気口材、〔35〕土壌材、〔36〕生体材バイオセラミックス、〔37〕傾斜材、〔38〕アパタイト、〔39〕遅効性材料、〔40〕プラスチック、〔41〕感光材、〔42〕水素吸蔵材、〔43〕楽器材、〔44〕音響用スピーカ材、〔45〕オゾン分解材、〔46〕ホウロウ材料、〔47〕釉薬材料、〔48〕宇宙飛行材、〔49〕太陽炉材料、〔50〕人工歯材料、〔51〕タイル材料、〔52〕顔料、〔53〕充填材料、〔54〕接着剤主成分、〔55〕超微粒子材料、〔56〕永久磁石材料、及び〔57〕形状記憶材料からなる群から選ばれたものとしては、当該分野で公知のものあるいはそれらを改良して得られたものであれば特に限定されないが、例えば、社団法人日本化学会編、「化学便覧応用編(改訂3版)」、丸善株式会社、昭和55年3月15日発行;社団法人日本化学会編、「化学便覧応用化学編」、丸善株式会社、昭和61年;社団法人日本化学会編、「化学便覧応用化学編(第5版)」、丸善株式会社、平成7年3月15日発行(第1分冊及び第2分冊)に記載されたもの、さらにはそれらで引用している文献(参考文献)に記載されたものであることができる。…
【0023】化粧料としては、基礎化粧品用物、…浴用化粧品用物、…香料などが挙げられる。基礎化粧品としては、例えばクリーム、乳液、化粧水などが挙げられ、メイクアップ化粧品としては、例えば白粉、口紅、ネイルエナメル、マスカラ、アイシャドウなどのアイメイクアップ類などが挙げられ、薬用化粧品としては、日焼け止め製品、サンタン製品、防臭化粧品などが挙げられる。毛髪用化粧品としては、例えばシャンプー、コールドウェーブローション、染毛料、ポマード、ヘアーリキッドなどが挙げられ、口腔用化粧品としては、歯みがき、口腔清浄剤、消臭剤などが挙げられる。
【0024】界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、…両性界面活性剤などが挙げられる。陰イオン界面活性剤としては、例えば、セッケン、…N-(Z-スルホ)エチル-N-メチルアルカンアミド塩などが挙げられる。…界面活性剤は、洗浄剤、湿潤剤、浸透剤、分散剤、凝集剤、乳化剤、乳化破壊剤、可溶化剤、起泡剤、消泡剤、平滑剤、減摩剤、柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、殺菌剤、防錆剤などに用いられていることから、造粒体も同様な用途が期待できる。」

摘記3d:段落0028?0029
「【0028】本発明では好ましくはセラミック造粒体が得られる。セラミック原料粉末としては、粒径数μm?数100μmのものが好ましい。セラミック原料粉末としては、高温で焼結されるものであればよく、例えば粘土、粘土鉱物、シャモット、珪砂、陶石、長石、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、シリカ、ムライト、コーディエライト、高炉スラグ、シラス、フライアッシュ、フェライト、アパタイト、炭化珪素、窒化アルミニウム、窒化珪素等があり、通常1000?2000℃で焼結されるものである。
【0029】セラミック原料粉末には、成形時、乾燥時及び焼成時の形状維持及び強度保持ために、低温時における形状・強度維持のためのカルボキシメチルセルローズ、澱粉、水ガラス等の低温バインダ及び/又は焼成時の形状・強度維持のための釉薬フリット、フッ化カルシウム、ガラスフリット等の高温バインダを混合することが好ましい。なお、バインダは必ずしも必要でなく、バインダ無しでセラミック原料粉末のみを焼結することもできる。焼結は、焼結適温であることが好ましく、それにより粒子同志が点接触で接合されるため、焼結された球状のセラミック殻は多孔質、すなわち連通細孔の多孔質殻壁となり、その球状の多孔質殻壁を介して内部の球状空間と外部との間に気体、液体の流通が実現される。この流通性は、通常連通性細孔を通して徐々に流通されるため種々の機能効果を発揮させるものであり、種々の用途製品の提供を可能とする。例えば、内部の球状空間に充填された気体、例えば殺菌性ガスの塩素、反応性ガス等が徐々に流通・流出する。また、内部の球状空間に充填された液体、例えば香料、アルカリ液、酸液等のpH調整剤、殺菌剤液、金属塩溶液、有機溶剤等が、徐々に流通・流出する。さらに、内部の球状空間に充填された固体、例えば樟脳、固形香料、蝋材、肥料等が徐々に放出される。土壌中に埋設された本発明のセラミック造粒体中の肥料等は、雨水等の侵入により、徐々に土壌中へ溶出し、長期持続性の肥料となる。なお、内部の球状空間に液体、気体等を導入する方法としては、例えば真空チャンバー内に本発明の造粒体を入れ、内部の球状空間を真空とした後、その造粒体の周囲を液体又は気体で包囲し、常圧に戻すことで容易に実施することができる。固体の導入は、真空チャンバー内に入れた本発明の造粒体の周囲を高温加熱により液状化した蝋、アルミニウム、錫等の金属で包囲し、常圧に戻すことで容易に導入することができる。」

摘記3e:段落0043
「【0043】また、高周波誘電加熱は、周波数2450MHz前後、電力180?600W、通電加熱時間10分?60分間で実施されることが好ましい。さらに、高周波誘電加熱されて乾燥された球状の中空未焼成セラミック造粒体を焼成炉内で焼成することによって、焼結体とすることが好ましい。なお、セラミック原料は、粘土であること、粘土鉱物、シャモット、珪砂、陶石、長石、アルミナ、マグネシア、ムライト、ジルコニア、シリカ、アパタイト、高炉スラグ、シラス、フライアッシュ、炭化珪素、及び窒化珪素から選ばれた1種以上のものと粘結剤との混合物であることも好ましい。さらに、上記方法によって得られた未焼成セラミック造粒体は、雪だるま形成法(snow-ball法)等を採用して、その表面に同一物質又は他物質を被覆して、複層未焼成セラミック造粒体となし、更に高温焼成して複層セラミック造粒体とすこともできる。本発明で得られた球状の中空を有する造粒体は、多孔質体として形成することが可能であり、該造粒体を液体中に浸漬し、造粒体の殻に液体を含浸させることができるし、該造粒体を固体微粉末の懸濁液に浸漬し、乾燥して、造粒体の殻に固体微粉末を混在させた造粒体を得ることもできるし、該造粒体を液体中に浸漬し、内部の球状空間に液体を内蔵する造粒体を得ることもできるし、該造粒体をガス体中に放置し、内部の球状空間にガス体を内蔵する造粒体を得ることもできる。該造粒体に含浸された成分や該造粒体に内蔵された成分は、それを徐々に放出するようにすることが可能である。好ましい場合、該造粒体を浸漬せしめる液体としては、金属塩溶液などが挙げられる。本発明で得られた球状の中空部を有する造粒体は、より高温で焼結する、例えば、溶融焼結するなどして、その一部あるいは全部をガラス質にまで変性させ、無孔質体として形成することも可能である。」

摘記3f:段落0053
「【0053】
【発明の効果】本発明の粉末集合体よりなる球状殻の内部に球状空間を有してなる新規な造粒体は、優れた医薬工業製品、肥料製品、食品製品、飼料製品、農業製品、触媒製品、窯業製品、セラミック製品、粉末冶金製品、洗剤製品、プラスチック製品、バイオ工業製品等として、例えば触媒、軽量材料、防音材料、マイクロカプセル、軽量骨材等として使用できる。特には本発明の球状殻の内部に球状空間を有してなる新規なセラミック造粒体は、優れた触媒製品、窯業製品、セラミック製品、バイオ工業製品等として使用できる。特に、造粒体の殻が多孔質壁で構成された造粒体は、内部の球状空間と外部との間を気体、液体が徐々に流通するため、内部に充填された気体、液体が徐々に外部へ放出されるため、種々の有用な用途に適用できる。」

(2)甲1、甲2に記載された発明(甲1発明、甲2発明)の認定
ア 甲1発明
摘記1aから、甲1には、「マイクロカプセルを含有する固形型の石けん組成物であって、マイクロカプセル中の芯物質含有量が70?96重量%である固型の石けん組成物。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 甲2発明
甲2の「ガラス質であるシラスを発砲させたシラスマイクロバルーンと呼ばれる微細中空球は高性能材料として」という記載において、ガラス質であるシラスを「発泡させ」て、シラスマイクロバルーンと呼ばれる微細中空球が得られるのであるから、「発砲」は「発泡」の誤記と認められる。
そうすると、摘記2aから、甲2には、「ガラス質であるシラスを発泡させた、微細中空球のシラスマイクロバルーンを含有させた、半固形洗顔石けん。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)無効理由1(主引用発明を甲1発明とした進歩性欠如)について
ア 本2発明についての対比・判断
(ア)対比
本2発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「マイクロカプセル」と、本2発明の「膨化処理を施した中空状の微粒火山灰」は、両者とも「中空状の微粒子」という点で共通する。
また、本件特許明細書の段落0003には、「固形状や半固形状の石けんは、保形成が高く、液状の石けんに比して内容物の沈殿が生じないことから、水に不溶な粒子を混入し、いわゆるスクラブ石けんとして多く利用されている。」と記載され、固形状の石けんに、水に不溶な微粒子を混入したものはスクラブ石けんといえるところ、甲1発明の「固型の石けん組成物」は固型の石けんに、水に不溶な微粒子であるマイクロカプセルを含むことから「スクラブ石けん」であるといえるものであって、本2発明の「固形状または半固形状のスクラブ石けん」に相当する。
してみると、本2発明と甲1発明は「中空状の微粒子を含有する固形状または半固形状のスクラブ石けん。」という点において一致し、次の相違点1-1及び1-2において相違する。

相違点1-1:
中空状の微粒子について、本2発明は「膨化処理を施した中空状の微粒火山灰」であるのに対し、甲1発明は「マイクロカプセル」である点。

相違点1-2:
中空状の微粒子の中空内部について、本2発明は「同微粒火山灰の中空内部の中心部に至るまで、固形状または半固形状の石けんが収納されている」のに対し、甲1発明のマイクロカプセルは、「芯物質含有量が70?96重量%」であり、その「芯物質」が「固形状または半固形状の石けん」であるかどうか不明な点。

(イ)判断
上記相違点1-1について検討する。
甲1発明の「マイクロカプセル」は、摘記1b及び1dの記載にあるように「香料、殺菌剤、消炎剤、保湿剤、ビタミン類等」の「物理的及び化学的に不安定な添加剤」を「マイクロカプセル化」することにより「その特性を使用時まで保持して有効に発揮させることができ、長期間にわたって貯蔵、保管しても、洗浄力その他の石けん機能の低下は全くなく、また変色や変臭などの不都合な現象もない」という改善を得るために用いられているのに対し、甲2記載の「シラスマイクロバルーン」は、摘記2aの記載にあるように「シラスが油分に対して強い吸着力を持つことに着目」して「スクラブ的機能や洗浄力の向上が与えられる」という改善を得るために用いられているので、甲1発明の「マイクロカプセル」と甲2記載の「シラスマイクロバルーン」は、両者とも「中空状の微粒子」という点において共通しているものの、その機能・特性等が全く異なるものであるといわざるを得ない。
このため、甲1発明に、甲2記載の発明を組み合わせることに、動機付けがあるとはいえず、上記相違点1-1についての構成を容易に想到できるとはいえない。
次に、上記相違点1-2について検討する。
甲1発明の「マイクロカプセル」の内容物(芯物質)は、摘記1b及び1dの記載にあるように「香料、殺菌剤、消炎剤、保湿剤、ビタミン類等」の「物理的及び化学的に不安定な添加剤」であって、甲1発明は、そのような添加剤を「マイクロカプセル化」することにより「その特性を使用時まで保持して有効に発揮させることができ、長期間にわたって貯蔵、保管しても、洗浄力その他の石けん機能の低下は全くなく、また変色や変臭などの不都合な現象もない」というものである。
そうすると、一般に、「石けん」は「物理的及び化学的に不安定な添加剤」とはいえないことから、甲1発明の「マイクロカプセル」の内容物(芯物質)として、「固形状または半固形状の石けん」は想定されないというべきである。
また、甲2記載の「シラスマイクロバルーン」は、「中空内部の中心部に至るまで、固形状または半固形状の石けんが収納されている」ものかどうかは明らかではなく、甲2記載の「微細中空球のシラスマイクロバルーン」が「微粒火山灰」であるといえたとしても、甲1発明の、内容物を含有する「芯物質含有量が70?96重量%」の「マイクロカプセル」に替えて、甲2記載の「微粒中空球のシラスマイクロバルーン」を採用したものは、上記相違点1-2に係る本2発明の発明特定事項のように、「中空内部の中心部に至るまで、固形状または半固形状の石けんが収納されている」ものになるとはいえない。
してみると、上記相違点1-2についての構成を容易に想到できるとはいえない。
したがって、本2発明が、甲1発明及び甲2記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得たものであるとすることはできない。

(ウ)請求人の主張について
請求人は、「甲1のマイクロカプセルと甲2のシラスマイクロバルーンは共に、粒径が300μm以下の中空状体であって、かつ石けん中に含有させる物であり、更には、石けんに対して付加価値を与える点において共通する」という動機付けがあるため、甲1発明の「マイクロカプセル」を、甲2記載の「ガラス質であるシラスを発泡させた、微細中空球のシラスマイクロバルーン」に置き換えることは、容易に想到し得るものであると主張する(口頭審理陳述要領書3頁30行?4頁4行)。
しかしながら、甲1発明の「マイクロカプセル」は香料や殺菌剤などの不安定な添加剤を長期間貯蔵しても変色などの現象が生じないようにするためのものであるのに対して、甲2記載の「シラスマイクロバルーン」は油分に対する強い吸着力に着目した洗浄力の向上のためのものであるから、それぞれ、石けんに付加価値を与えるとしても、その付加価値の意義は異なり、甲1発明の「マイクロカプセル」を甲2記載の「シラスマイクロバルーン」に置き換えるべき動機付けがあるとはいえず、請求人の上記主張は採用することができない。

イ 本3発明についての対比・判断
(ア)対比
本3発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「マイクロカプセル」と、本3発明の「膨化処理を施した中空状の微粒火山灰」は、両者とも「中空状の微粒子」という点で共通する。
また、本件特許明細書の段落0003には、「固形状や半固形状の石けんは、保形成が高く、液状の石けんに比して内容物の沈殿が生じないことから、水に不溶な粒子を混入し、いわゆるスクラブ石けんとして多く利用されている。」と記載され、半固形状の石けんに、水に不溶な微粒子を混入したものはスクラブ石けんといえるところ、甲1発明の「固型石けん組成物」は水に不溶であるマイクロカプセルを含むことから「スクラブ石けん」であるといえるものであって、本3発明の「固形状または半固形状のスクラブ石けん」に相当する。
してみると、本3発明と甲1発明は「中空状の微粒子を含有する固形状または半固形状のスクラブ石けん。」という点において一致し、次の相違点1-3及び1-4において相違する。

相違点1-3:
中空状の微粒子について、本3発明は「膨化処理を施した中空状の微粒火山灰」であるのに対し、甲1発明は「マイクロカプセル」である点。

相違点1-4:
中空状の微粒子の中空内部について、本3発明は「固形状または半固形状の石けんで満たされている」のに対し、甲1発明は「芯物質含有量が70?96重量%」で満たされ、その「芯物質」が「固形状または半固形状の石けん」であるかどうか不明な点。

(イ)判断
上記相違点1-3について検討する。
甲1発明の「マイクロカプセル」は、摘記1b及び1dの記載にあるように「香料、殺菌剤、消炎剤、保湿剤、ビタミン類等」の「物理的及び化学的に不安定な添加剤」を「マイクロカプセル化」することにより「その特性を使用時まで保持して有効に発揮させることができ、長期間にわたって貯蔵、保管しても、洗浄力その他の石けん機能の低下は全くなく、また変色や変臭などの不都合な現象もない」という改善を得るために用いられているのに対し、甲2記載の「シラスマイクロバルーン」は、摘記2aの記載にあるように「シラスが油分に対して強い吸着力を持つことに着目」して「スクラブ的機能や洗浄力の向上が与えられる」という改善を得るために用いられているので、甲1発明の「マイクロカプセル」と甲2記載の「シラスマイクロバルーン」は、両者とも「中空状の微粒子」という点において共通しているものの、その機能・特性等が全く異なるものであるといわざるを得ない。
このため、甲1発明に、甲2記載の発明を組み合わせることに、動機付けがあるとはいえず、上記相違点1-3についての構成を容易に想到できるとはいえない。
次に、上記相違点1-4について検討する。
甲1発明の「マイクロカプセル」の内容物(芯物質)は、摘記1b及び1dの記載にあるように「香料、殺菌剤、消炎剤、保湿剤、ビタミン類等」の「物理的及び化学的に不安定な添加剤」であって、甲1発明は、そのような添加剤を「マイクロカプセル化」することにより「その特性を使用時まで保持して有効に発揮させることができ、長期間にわたって貯蔵、保管しても、洗浄力その他の石けん機能の低下は全くなく、また変色や変臭などの不都合な現象もない」というものである。
そうすると、一般に、「石けん」は「物理的及び化学的に不安定な添加剤」とはいえないことから、甲1発明の「マイクロカプセル」の内容物(芯物質)として、「固形状または半固形状の石けん」は想定されないというべきである。
また、甲2記載の「シラスマイクロバルーン」は、中空状の微粒子の中空内部が「固形状または半固形状の石けんで満たされている」ものかどうかは明らかではなく、甲2記載の「微細中空球のシラスマイクロバルーン」が「微粒火山灰」であるといえたとしても、甲1発明の、内容物を含有する「芯物質含有量が70?96重量%」の「マイクロカプセル」に替えて、甲2記載の「微粒中空球のシラスマイクロバルーン」を採用したものは、上記相違点1-4に係る本3発明の発明特定事項のように、微粒火山灰の中空内部が「固形状または半固形状の石けんで満たされている」ものになるとはいえない。
してみると、上記相違点1-4についての構成を容易に想到できるとはいえない。
したがって、本3発明が、甲1発明及び甲2記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得たものであるとすることはできない。

(ウ)請求人の主張について
請求人は、「甲1のマイクロカプセルと甲2のシラスマイクロバルーンは共に、粒径が300μm以下の中空状体であって、かつ石けん中に含有させる物であり、更には、石けんに対して付加価値を与える点において共通する」という動機付けがあるため、甲1発明の「マイクロカプセル」を、甲2記載の「ガラス質であるシラスを発泡させた、微細中空球のシラスマイクロバルーン」に置き換えることは、容易に想到し得るものであると主張する(口頭審理陳述要領書3頁30行?4頁4行)。
しかしながら、甲1発明の「マイクロカプセル」は香料や殺菌剤などの不安定な添加剤を長期間貯蔵しても変色などの現象が生じないようにするためのものであるのに対して、甲2記載の「シラスマイクロバルーン」は油分に対する強い吸着力に着目した洗浄力の向上のためのものであるから、甲1発明の「マイクロカプセル」を甲2記載の「シラスマイクロバルーン」に置き換えるべき動機付けがあるとはいえず、請求人の上記主張は採用することができない。

ウ 無効理由1のまとめ
以上のとおり、本2及び本3発明は、甲1発明及び甲2記載の発明を単に組み合わせたものであって、進歩性を有しない発明であるとすることはできない。
よって、無効理由1には理由がない。

(4)無効理由2(主引用発明を甲2発明とした進歩性欠如)について
ア 本2発明についての対比・判断
(ア)対比
本2発明と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「ガラス質であるシラスを発泡させた、微細中空球のシラスマイクロバルーン」について、「発泡させた」構成及び「微細中空球のシラスマイクロバルーン」は、本2発明の「膨化処理を施した」構成及び「中空状の微粒火山灰」にそれぞれ相当するから、本2発明の「膨化処理を施した中空状の微粒火山灰」に相当する。
また、本件特許明細書の段落0003には、「固形状や半固形状の石けんは、保形成が高く、液状の石けんに比して内容物の沈殿が生じないことから、水に不溶な粒子を混入し、いわゆるスクラブ石けんとして多く利用されている。」と記載され、半固形状の石けんに、水に不溶な粒子を混入したものはスクラブ石けんといえるところ、甲2発明の「半固形洗顔石けん」は水に不溶であるシラスマイクロバルーンを含むことから「スクラブ石けん」であるといえるものであって、本2発明の「固形状または半固形状のスクラブ石けん」に相当する。
してみると、本2発明と甲2発明は「膨化処理を施した中空状の微粒火山灰を含有する固形状または半固形状のスクラブ石けん。」という点において一致し、次の相違点2-1において相違する。

相違点2-1:
本2発明は「微粒火山灰の中空内部は、同微粒火山灰の中空内部の中心部に至るまで、固形状または半固形状の石けんが収納されている」のに対し、甲2発明はシラスマイクロバルーンの中空内部の中心部に至るまで固形状又は半固形状の石けんが収納されているかどうか不明な点。

(イ)判断
甲3には、「セラミック造粒体」について、請求項7及び段落0024に「セラミックの球状殻の内部」の「球状空間内」に「セッケン」が「充填」されたものが記載されており、該セラミック造粒体は、「充填」という文言や段落0029の内部の球状空間に液体を充填する方法からみて、セッケンが「中空内部の中心部に至るまで」収納されたものといえる。
また、甲3の段落0043には「造粒体に内蔵された成分」を「徐々に放出するようにすること」が可能であることが記載され、同段落0053には「造粒体の殻が多孔質壁で構成された造粒体は、内部の球状空間と外部との間を気体、液体が徐々に流通するため、内部に充填された気体、液体が徐々に外部へ放出されるため、種々の用途に適用できる」ことが記載されている。
そして、甲3の請求項10及び段落0043には、球状のセラミック造粒体の殻が「多孔質のもの」であり、セラミック造粒体が「シラス」をセラミック原料とし、焼成炉内で焼成することによって「焼結体」としたものであることが記載されているところ、甲2発明の「シラスマイクロバルーン」と甲3記載の「セラミック造粒体」は共に、シラスを出発原料とした多孔質の造粒体に関するものであり、いずれも石けんに用いられるものであるから、甲2発明に甲3記載を適用することに、動機付けがあるというべきである。
してみると、甲2発明の「半固形洗顔石けん」に含有される「微細中空球のシラスマイクロバルーン」に、甲3記載の「球状空間内にセッケンが充填されたシラスをセラミック原料とする球状のセラミック造粒体」を採用して、その中空内部の中心部に至るまで半固形状の石けんを収納したものとすることは、当業者が容易に想到し得ることといえる。
そして、甲3には、内蔵された成分を徐々に放出するようにできるという効果が記載されているので、本件特許明細書の段落0049に記載された「石けん成分をシラスバルーン内から徐放することができ、確実に泡持ちを向上させることができる」という本2発明の効果が格別顕著なものであるとはいえない。
したがって、本2発明は、甲2発明及び甲3記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(ウ)被請求人の主張について
被請求人は、本2発明はシラスバルーン内部で鹸化反応を生起してシラスバルーン内部で石けんを生成する技術を前提として構成された発明と認識しなければならず、シラスバルーン内部で鹸化反応を生起することを前提に、石けんがシラスバルーン中空内部の「中心部に至るまで収納」されていると解釈されなければならないとして、請求人の提出する甲各号証にはシラスバルーンの中空内部における鹸化反応の根拠は全く開示されていないため無効理由には全く根拠がないと主張する(口頭審理陳述要領書3頁9?18行)。
しかしながら、本2発明は本1発明を引用するものではなく、本2発明は本1発明の「固形状または半固形状の石けんは、前記微粒火山灰の中空内部に侵入させた界面活性剤を含有するアルカリ溶液に、脂肪酸溶液を反応させて形成したものである」という事項を発明特定事項とするものではない。
このため、被請求人の上記主張は採用することができない。

イ 本3発明についての対比・判断
(ア)対比
本3発明と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「ガラス質であるシラスを発泡させた、微細中空球のシラスマイクロバルーン」について、「発泡させた」及び「微細中空球のシラスマイクロバルーン」は、本3発明の「膨化処理を施した」及び「中空状の微粒火山灰」にそれぞれ相当するから、本3発明の「膨化処理を施した中空状の微粒火山灰」に相当する。
また、本件特許明細書の段落0003には、「固形状や半固形状の石けんは、保形成が高く、液状の石けんに比して内容物の沈殿が生じないことから、水に不溶な粒子を混入し、いわゆるスクラブ石けんとして多く利用されている。」と記載され、半固形状の石けんに、水に不溶な粒子を混入したものはスクラブ石けんといえるところ、甲2発明の「半固形洗顔石けん」は水に不溶であるシラスマイクロバルーンを含むことから「スクラブ石けん」であるといえるものであって、本3発明の「固形状または半固形状のスクラブ石けん」に相当する。
してみると、本3発明と甲2発明は「膨化処理を施した中空状の微粒火山灰を含有する固形状または半固形状のスクラブ石けん。」という点において一致し、次の相違点2-2において相違する。

相違点2-2:
本3発明は「前記微粒火山灰の中空内部は、固形状または半固形状の石けんで満たされている」のに対し、甲2発明はシラスマイクロバルーンの中空内部に固形状又は半固形状の石けんが満たされているかどうか不明な点。

(イ)判断
甲3には、「セラミック造粒体」について、請求項7及び段落0024に「セラミックの球状殻の内部」の「球状空間内」に「セッケン」が「充填」されたものが記載されており、該セラミック造粒体は、「充填」という文言や段落0029の内部の球状空間に液体を充填する方法からみて、セッケンが内部の球状空間内に「満たされている」ものといえる。
また、甲3の段落0043には「造粒体に内蔵された成分」を「徐々に放出するようにすること」が可能であることが記載され、同段落0053には「造粒体の殻が多孔質壁で構成された造粒体は、内部の球状空間と外部との間を気体、液体が徐々に流通するため、内部に充填された気体、液体が徐々に外部へ放出されるため、種々の用途に適用できる」ことが記載されている。
そして、甲3の請求項10及び段落0043には、球状のセラミック造粒体の殻が「多孔質のもの」であり、セラミック造粒体が「シラス」をセラミック原料とし、焼成炉内で焼成することによって「焼結体」としたものであることが記載されているところ、甲2発明の「シラスマイクロバルーン」と甲3記載の「セラミック造粒体」は共に、シラスを出発原料とした多孔質の造粒体に関するものであり、いずれも石けんに用いられるものであるから、甲2発明に甲3記載を適用することに、動機付けがあるというべきである。
してみると、甲2発明の「半固形洗顔石けん」に含有される「微細中空球のシラスマイクロバルーン」に、甲3記載の「球状空間内にセッケンが充填されたシラスをセラミック原料とする球状のセラミック造粒体」を採用して、その中空内部を半固形状の石けんで満たすようにしてみることは、当業者が容易に想到し得ることといえる。
そして、甲3には、内蔵された成分を徐々に放出するようにできるという効果が記載されているので、本件特許明細書の段落0049に記載された「石けん成分をシラスバルーン内から徐放することができ、確実に泡持ちを向上させることができる」という効果が格別顕著なものであるとはいえない。
したがって、本3発明は、甲2発明及び甲3記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(ウ)被請求人の主張について
被請求人は、本3発明はシラスバルーン内部で鹸化反応を生起してシラスバルーン内部で石けんを生成する技術を前提として構成された発明と認識しなければならず、シラスバルーン内部で鹸化反応を生起することを前提に、シラスバルーン中空内部が石けんで「満たされている」と解釈されなければならないとして、請求人の提出する甲各号証にはシラスバルーンの中空内部における鹸化反応の根拠は全く開示されていないため無効理由には全く根拠がないと主張する(口頭審理陳述要領書3頁9?18行)。
しかしながら、本3発明は本1発明を引用するものではなく、本3発明は本1発明の「固形状または半固形状の石けんは、前記微粒火山灰の中空内部に侵入させた界面活性剤を含有するアルカリ溶液に、脂肪酸溶液を反応させて形成したものである」という事項を発明特定事項とするものではない。
このため、被請求人の上記主張は採用することができない。

ウ 無効理由2のまとめ
以上のとおり、本2及び本3発明は、甲2発明及び甲3記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本2及び3発明についての特許は、無効理由2により無効とすべきものである。

2 無効理由3、4について
(1)本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、次の記載がある。

摘示A:解決しようとする課題
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】しかしながら、上記従来の火山灰を混入したスクラブ石けんでは、その洗浄性の高さから、皮脂や汚れを素早く皮膚から掻き取って、泡中に溶解することとなるため、起泡性が減衰しやすく、洗浄の際に泡持ちが悪いという問題があった。
【0009】また、火山灰は顕微鏡などで観察すると、比較的鋭利な形状であるため、洗浄時の泡立ちが悪い場合、皮膚表面を細かく傷つけてしまうおそれがあった。
【0010】本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、高い洗浄効果を有しながらも、泡持ちが良く、しかも、皮膚に対して刺激が少ない固形状または半固形状のスクラブ石けんの製造方法及びスクラブ石けんを提供する。」

摘示B:発明の効果
「【発明の効果】
【0016】本発明に係るスクラブ石けんでは、膨化処理を施した中空状の微粒火山灰を含有する固形状または半固形状のスクラブ石けんであって、前記微粒火山灰の中空内部に、固形状または半固形状の石けんを収納したため、火山灰を含有しながらも、皮膚に対して刺激の少ないスクラブ石けんとすることができ、しかも、徐放性を付与することができて、高い洗浄効果を備えながらも、良好な泡持ちを有するスクラブ石けんとすることができる。」

摘示C:界面活性剤を有するアルカリ溶液の利点
「【0034】この方法によれば、アルカリ火山灰溶液を調製した際に、シラスバルーン表面のクラック(割れ目)や孔からアルカリ溶液が内部に浸入し、シラスバルーン内部はアルカリ溶液で満たされることとなる。
【0035】この際、アルカリ溶液には、界面活性剤を添加しているため、アルカリ溶液の表面張力が弱められて、シラスバルーン表面の微細なクラックからシラスバルーンの内部へ、アルカリ溶液を容易に浸入させることができる。」

摘示D:アルカリ溶液と脂肪酸溶液の添加順序の利点
「【0042】例えば仮に、脂肪酸溶液とシラスバルーンとを混合し、次いで、アルカリ溶液を添加した場合、シラスバルーンの内部にある脂肪酸溶液と、シラスバルーン内に浸入してきたアルカリ溶液とが、シラスバルーンの表面で石けんを形成してしまい、アルカリ溶液の更なる浸入を妨げるため、シラスバルーン中心部の脂肪酸溶液が未反応となりやすく、内包石けんが形成されにくいため好ましくない。
【0043】一方、本願発明の如く、アルカリ溶液とシラスバルーンとを混合してアルカリ火山灰溶液を調製し、次いで、脂肪酸溶液を徐々に添加した場合は、シラスバルーンの表面で石けんを形成しても、反応当初は高濃度のアルカリ溶液が脂肪酸溶液に比して多量にあるため、速やかに石けん分子が分散することとなり、シラスバルーン内部に脂肪酸溶液が入るのを妨げることがない。」

摘示E:シラスバルーン特有の多孔質が活かされない事例
「【0045】また、固形状または半固形状の基材石けんに、シラスバルーンを混入させただけでは、単にシラスバルーンの表面に基材石けんが付着するのみであり、粘度の高い基材石けんがシラスバルーンの中空内部に入って内包石けんとなることはない。
【0046】このようなスクラブ石けんにあっては、泡持ちが悪く、シラスバルーン特有の多孔質が生かされているとは言い難い。」

摘示F:内包石けんの徐放による泡持ちの向上
「【0049】一方、本発明に係るスクラブ石けんの製造方法によれば、シラスバルーン内に固形または半固形の石けんを内包させた内包石けんを形成することができるため、石けん成分をシラスバルーン内から徐放することができ、確実に泡持ちを向上させることができる。」

摘示G:アルカリ溶液の浸透工程(ステップS4)
「【0051】図1は、本実施形態に係るスクラブ石けんの処方を示した図であり、図2は、本実施形態に係るスクラブ石けんの製造方法を示したフローである。…
【0063】そこで、調合タンク内で撹拌を行うためには、まず、プラネタリーミキサー等で液中及び液面を穏やかに撹拌(例えば、20?40rpm程度)し、次いで、ディスパー等により、強力な渦流を発生させて液中に巻き込むように撹拌混合(例えば、800?1200rpm程度)を行って浸透工程を実施する(ステップS4)。
【0064】浸透工程において、このような撹拌をおこなうことで、シラスバルーンや白色顔料が粉塵として宙に舞うことを防止することができる。
【0065】また、界面活性剤を含有するアルカリ溶液にシラスバルーンを添加した当初の時点で、できるだけ空気を抱き込ませずに撹拌を行うことができるため、シラスバルーンの中空内部まで、効率よく界面活性剤を含有するアルカリ溶液を浸透させることができる。
【0066】仮に、界面活性剤を含有するアルカリ溶液にシラスバルーンを添加した当初より、強力な撹拌を行うと、シラスバルーンは空気を抱き込んで溶液中に懸濁されることとなるため、シラスバルーンの中空内部に効率よく溶液を浸透させることが困難となる。」

摘示H:図2(スクラブ石けんの製造方法を示すフロー)




(2)無効理由3(サポート要件及び明確性要件)について
ア 請求人の主張
無効理由3について、請求人は、次の(ア)及び(イ)について主張している。
(ア)無効理由3a
本件特許の請求項2及び3の「膨化処理を施した中空状の微粒火山灰」との記載に関し、甲3(第13頁右欄第30?33行)に「造粒体は…無孔質体として形成する」と記載されているように、シラスを加熱により変性させたものは無孔質体として形成され、シラスバルーンは無孔質体であると考えられるのに、本件特許明細書の段落0046では「シラスバルーン特有の多孔質」と記載され、多孔質のシラスバルーンを用いることが前提となっている。このように、微粒火山灰(シラスバルーン)が「無孔質」を意味するのか「多孔質」を意味するのか不明確であり、特許法第36条第6項第2号に違反する(審判請求書の第28頁第11行?第29頁第26行)。

(イ)無効理由3b
本件特許の請求項2及び3の「膨化処理を施した中空状の微粒火山灰」との記載に関し、甲6の第102頁左欄第10?18行に「シラスバルーンの弱点は…セメントなどと混合されるときに壊れやすい.…さらに微細化することができれば,強度も上がり,…最近開発されている20μm以下のシラス微粒中空ガラスについて紹介する」と記載されているように、シラスバルーンは、平均粒径が約30μm以上である場合には、破壊されやすいという性質があるのに、微粒火山灰(シラスバルーン)の「平均粒径」が特定されず、拡張ないし一般化した微粒火山灰(シラスバルーン)が対象とされている点において、明細書の発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているから、特許法第36条第6項第1号に違反する(審判請求書の第29頁第27行?第31頁第14行)。

イ 当審の判断
(ア)本2及び本3発明の課題と解決手段について
本件特許明細書の段落0008?0010(摘示A)の「従来の火山灰を混入したスクラブ石けんでは、その洗浄性の高さから、皮脂や汚れを素早く皮膚から掻き取って、泡中に溶解することとなるため、起泡性が減衰しやすく、洗浄の際に泡持ちが悪いという問題があった。…また、火山灰は顕微鏡などで観察すると、比較的鋭利な形状であるため、洗浄時の泡立ちが悪い場合、皮膚表面を細かく傷つけてしまうおそれがあった。…本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、高い洗浄効果を有しながらも、泡持ちが良く、しかも、皮膚に対して刺激が少ない固形状または半固形状のスクラブ石けんの製造方法及びスクラブ石けんを提供する。」との記載からみて、本2及び本3発明が解決しようとする課題は「高い洗浄効果を有しながらも、泡持ちが良く、しかも、皮膚に対して刺激が少ない固形状または半固形状のスクラブ石けんの提供」にあるものと認められる。
そして、本件特許明細書の段落0049(摘示F)には「本発明に係るスクラブ石けんの製造方法によれば、シラスバルーン内に固形または半固形の石けんを内包させた内包石けんを形成することができるため、石けん成分をシラスバルーン内から徐放することができ、確実に泡持ちを向上させることができる。」と記載されていることから、本2発明の「前記微粒火山灰の中空内部は、同微粒火山灰の中空内部の中心部に至るまで、固形状または半固形状の石けんが収納されている」という発明特定事項、及び本3発明の「前記微粒火山灰の中空内部は、固形状または半固形状の石けんで満たされている」という発明特定事項によって、「石けん成分をシラスバルーン内から徐放すること」で、「高い洗浄効果を有しながらも、泡持ちが良」いという課題を解決することが理解できる。
また、同段落0009(摘示A)の「火山灰は顕微鏡などで観察すると、比較的鋭利な形状であるため、洗浄時の泡立ちが悪い場合、皮膚表面を細かく傷つけてしまうおそれがあった。」という問題点に対しては、本2及び本3発明の「膨化処理を施した中空状の微粒火山灰」は、膨化処理によって火山灰の鋭利な形状が失われ、脆いものとなるので、「比較的鋭利な形状」になく、「皮膚表面を細かく傷つけてしまう」ことを少なくできると認識できる。そうすると、本2及び本3発明が上記課題のうちの「皮膚に対して刺激が少ない」という課題が解決されることが理解できる。
してみると、本2及び本3発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(イ)無効理由3aについて
無効理由3aは「シラスバルーンは無孔質体であると考えられる」ということを前提にしたものであるが、甲7の第154頁左欄第9?12行の「シラスバルーンには,水の通る孔を有するもの,水は通らないが空気の通る孔を有するもの,及び孔を全く有しないものが混在している」との記載にあるように、通常のシラスバルーン(膨化処理を施した中空状の微粒火山灰)は「多孔質」のものと「無孔質」のものとが混在しているものとして認識され、無孔質体のみであるとは解せない。
また、甲3の「造粒体は…溶融焼結するなどして、その一部あるいは全部をガラス質にまで変性させ、無孔質体として形成することも可能である」との記載は、造粒体を「溶融焼結」すれば、その一部又は全部を「無孔質体」として形成することも「可能」であるという可能性を述べているにすぎず、甲3を根拠に、本2及び本3発明の「膨化処理」を施した微粒火山灰の全部が、無孔質体のみであると解することはできない。
さらに、請求人が示した主張及び証拠を精査しても、本2及び本3発明の「膨化処理を施した中空状の微粒火山灰」について、これが「無孔質体」のみからなるといえる根拠を見出すことはできず、そのような技術常識があるということもできない。
してみると、本2及び本3発明の「膨化処理を施した中空状の微粒火山灰」について、これを「多孔質」のものとして特定せずとも、水や空気が通る「孔」が存在することは明らかである。
そして、通常のシラスバルーンは「多孔質」のものと「無孔質」のものが混在しているものとして普通に認識されており、本2及び本3発明の「膨化処理を施した中空状の微粒火山灰」との記載を「多孔質」のものに限定しなければ、その記載が不明確になるとはいえないので、本件特許の請求項2及び3の記載が明確性要件を満たしていないとはいえない。
したがって、上記無効理由3aには理由がない。

(ウ)無効理由3bについて
無効理由3bは甲6の「平均粒径が約30μm以上である場合には、破壊されやすいという性質がある」ということに依拠したものであるが、本2及び本3発明は、粒径が大きく、破壊され、中空状でない微粒火山灰を用いるものとして特定されるものではなく、シラスバルーンの粒径が大きいと破壊されやすいことがあるとしても、本2及び本3発明は「中空状の微粒火山灰」を発明特定事項としたものであって、シラスバルーン(膨化処理を施した中空状の微粒火山灰)の全部が中空状でなくなるほどにまで破壊される場合を含むものではない。
そして、シラスバルーンの平均粒径が約30μm以上であっても、その「中空状の微粒火山灰」としての形態が保持されていれば、上記課題を解決できることは明らかであって、上記(ア)に示したように、本2及び本3発明は、「膨化処理を施した中空状の微粒火山灰」の「平均粒径」を特定せずとも、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるといえるから、本件特許の請求項2及び3の記載がサポート要件を満たしていないとはいえない。
したがって、上記無効理由3bには理由がない。

ウ 無効理由3のまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項2及び3の記載は、特許を受けようとする発明が明確でないとはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合しないとはいえない。
また、本件特許の請求項2及び3の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえない。
したがって、無効理由3には理由がない。

(3)無効理由4について
ア 請求人の主張
無効理由4について、請求人は、次の(ア)について主張している。

(ア)無効理由4a
甲8に示すように、審判請求人が本件特許明細書に基づいて実験したところ、微粒火山灰(シラスバルーン)の中空内部に石けんを形成することができなかったから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、本2及び本3発明についての特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない(審判請求書の第3頁第22行?第4頁第1行及び第31頁第26行?第33頁第13行)。

イ 当審の判断
(ア)無効理由4aについて
甲8(株式会社UBE科学分析センター分析結果報告書)の試験は、その参考図2から、次の工程を経て試料を製造したものであると認められる。
○アラノンALE(界面活性剤)、精製水等を乳化釜に入れる(界面活性剤・他水溶液調整工程)
○界面活性剤・他水溶液調整工程の後、ウィンライト(シラスバルーン)を乳化釜にいれ、よく混ざるまで攪拌する(シラスバルーン添加工程)
○シラスバルーン添加工程の後、水酸化カリウムを投入後、85℃まで温度上昇する(アルカリ剤添加工程)
○アルカリ剤添加工程の後、ルナック、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸の脂肪酸を溶解槽で85℃溶解後、投入し、85?90℃・真空で、20分ケン化攪拌する(脂肪酸添加工程)
○脂肪酸添加工程の後、ダイヤノールCDEを20分添加攪拌し、ロイヤルゼリーエキス等を5分添加攪拌する(増泡剤・美容成分・防腐剤添加工程)

すなわち、本件特許明細書の実施例の方法は、その段落0063(摘示G)の「まず、プラネタリーミキサー等で液中及び液面を穏やかに撹拌(例えば、20?40rpm程度)し、次いで、ディスパー等により、強力な渦流を発生させて液中に巻き込むように撹拌混合(例えば、800?1200rpm程度)を行って浸透工程を実施する(ステップS4)」との記載にあるとおりの「浸透工程」を実施することにより、同段落0065(摘示G)の「シラスバルーンの中空内部まで、効率よく界面活性剤を含有するアルカリ溶液を浸透」させているのに対して、甲8の試験は、その「アルカリ剤添加工程」の段階において、本件特許明細書の「ステップS4」の「浸透工程」に相当する工程(中空内部にアルカリ溶液を浸透させる工程)が実施されていないという点において、本2及び本3発明の実施例の製造方法を忠実に再現した実験になっていない。
してみると、甲8の試験結果は、本2及び本3発明の「実施可能要件の適否」の判断の際に採用するまでもないものである。
そして、本件特許明細書には、摘示G及びHのように記載されており、実施可能要件を満たすものである。
したがって、上記無効理由4aには理由がない。

イ 無効理由4のまとめ
以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本2及び本3発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
したがって、無効理由4には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本2及び本3発明についての特許は、無効理由2により無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-08-01 
結審通知日 2019-08-05 
審決日 2019-09-02 
出願番号 特願2010-4406(P2010-4406)
審決分類 P 1 123・ 536- Z (C11D)
P 1 123・ 537- Z (C11D)
P 1 123・ 121- Z (C11D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中根 知大  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 佐々木 秀次
木村 敏康
登録日 2011-05-13 
登録番号 特許第4740373号(P4740373)
発明の名称 スクラブ石けん  
代理人 澤田 優子  
代理人 久米川 正光  
代理人 渡邊 敏  
代理人 渡邊 敏  
代理人 山上 祥吾  
代理人 松尾 憲一郎  
代理人 山上 祥吾  
代理人 市川 泰央  
代理人 佐藤 史肇  
代理人 木下 茂  
代理人 市川 泰央  
代理人 松尾 憲一郎  

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