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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1356397
審判番号 不服2017-16041  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-30 
確定日 2019-10-24 
事件の表示 特願2016- 87672「代謝活性化剤」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月12日出願公開、特開2016-145246〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年2月23日に出願した特願2009-38969号(優先権主張 平成20年9月30日)の一部を平成28年4月26日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年 2月 8日付け 拒絶理由通知書
平成29年 4月 6日受付 意見書、手続補正書の提出
平成29年 4月25日付け 拒絶理由通知書
平成29年 6月 2日受付 意見書、手続補正書の提出
平成29年 7月26日付け 拒絶査定
平成29年10月30日受付 審判請求書、手続補正書の提出
平成31年 2月28日付け 拒絶理由通知書
令和 1年 5月 7日受付 意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明について
本願の請求項1?4に係る発明は、令和1年5月7日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「サラシア・キネンシスの熱水抽出物を有効成分として含む脂質代謝活性化剤であって、該熱水抽出物を1日あたり450mg以上、2400mg以下となる量で摂取されるように用いられることを特徴する、前記脂質代謝活性化剤。」

第3 拒絶理由について
平成31年2月28日付け拒絶理由通知書により当審が通知した拒絶理由のうち、「3 理由3(進歩性)について」で通知した拒絶理由は、概略、以下のとおりである。

本願の請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献2に記載された発明、及び周知技術(以下の引用文献1,3,6,7参照)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献2:New Diet Therapy, 2007, Vol.23, No.1, pp.41-47

(周知技術を示す文献)
引用文献1:特開2001-288099号公報
引用文献3:吉川雅之 他,タイ産Salacia chinensisの生物活性:α-グルコシダーゼ阻害活性を指標として品質評価,YAKUGAKU ZASSHI,2003,Vol.123,No.10,pp.871-880
引用文献6:特開2003-63974号公報
引用文献7:特開2001-226275号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明について
1 各引用文献に記載された事項
(1)引用文献2(上記第3参照)には、以下の事項が記載されている。

ア 「はじめに
サラシア・レテイーキュラータ(Salaciareticulate Wight III)は、スリランカに生息するニシキギ科のつる性植物で、スリランカの伝統医学として古来より糖尿病の治療薬として用いられてきた経緯がある。このサラシア・レテイーキュラータの抽出物がコタラヒムR(当審注:原文ではRの丸囲いの記号である、以下同様。)エキス末で、これまでに肝臓での糖新生抑制、脂肪の代謝促進効果などが主に実験動物で明らかにされている。
・・・
ヒトのエネルギー代謝は、自律神経に強く影響される^(1))。現代社会の肥満を温床とした生活習慣病の予防におけるコタラヒムRエキス末の生理活性をヒトの自立神経活動や脂質代謝と対応して研究する意義は深いと思われる。そこで、本研究では2種類のコタラヒムR抽出末(エタノール顆粒、発酵顆粒)とプラセボをヒト試験で自律神経活動やエネルギー代謝、特に脂質代謝に与える生理活性効果を検討し、新たな知見を得たので報告する。

実験方法
実験は2重盲検で健常男子学生8名を対象に行った。実験間は各試行間を一週間以上空け、各被験者に対して計3試行(エタノール顆粒:Ethnol、発酵顆粒:Ferment、またはプラセボ:CON)のデータを取得するため、朝食2時間後に試験用粉末サンプルを100mlの水と共にランダムに摂取させた。安静時のベースラインはサンプル摂取前に安静座位にて行った。サンプルの摂取30分後を測定開始時間0分として、120分間の安静心電図及び呼気ガス分析を30分毎に5分間連続で行った。その後、換気性作業閾値(VT)の50%の運動強度となる心拍数で10分の有酸素運動を実施して、同様に運動負荷中の心電図及び呼気ガスのデータを摂取した。」
(p42、1行?22行)

イ 「結果
・・・
エネルギー代謝
安静時及び運動負荷中の酸素摂取量では、プラセボとコタラヒム両試行で有意な差は認められなかったが、呼吸商はコタラヒム試行、特に発酵顆粒(Ferment)では安静時2時間後及び運動負荷中に有意な低下を示し、脂質代謝の有意な亢進作用が認められた(P<0.05)(図7)。
これらを反映して、エネルギー代謝が顕著な運動負荷時では、同一酸素摂取量にもかかわらず、コタラヒム発酵顆粒試行で脂質消費量の有意な増加が認められた(図8参照)。
以上の結果から、コタラヒム試行では統計学的有意差は認められなかったが、交感神経系を介した熱産生や脂質代謝に関係する自律神経活動動態への顕著な効果が認められ、それに伴う呼吸商の有意な低下に起因する顕著な脂質消費量の増加が実験的に証明されたことになる。」
(p44、14行?p45、11行)

ウ 「


(p44、図7及びp45、図8)

エ 「一方、安静時のエネルギー代謝では、安静時2時間後及び運動負荷中に統計学的な有意差は認められなかったが、代謝が顕著に亢進する運動負荷時では、利用されたエネルギー基質を反映する呼吸商がコタラヒム試行、特に発酵顆粒(Ferment)で有意な低下を示し、脂質代謝の有意な亢進作用が認められた。・・・」
(p45、下から4行?最下行)

(2)本願優先日当時の技術常識を示す、「食品と科学」平成18年1月号、株式会社食品と科学社、2005年12月10日発行、36-40頁(以下、「引用文献8」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 「スリランカには約二千種類の薬草・薬木(ハーブ)が存在し、国民の大多数が約八百種類のハーブを使っているといわれている。これらの中でもコタラヒムは血糖値を下げる糖尿病の貴重な薬木として長期間にわたり利用されてきた。
コタラヒムはスリランカ国内ではコタラヒムブツ(Kotalahimbutu)と呼ばれ、コタラヒムブツとはシンハラ語で「神からの恵みもの」という意味である。学名はサラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)といい、デチンムル科(Hippocrateaceae)のツル性植物である。類似の植物はインドやタイにも自生している。コタラヒムの化学的研究および薬理学的証明は京都薬科大学生薬学教室の吉川らによってなされ、コタラヒムの抽出成分には主に以下のような生理作用が明らかにされている。
・血糖値上昇抑制作用^((1)?(5))
・抗肥満作用^((6))
・肝保護作用^((7))
・抗酸化作用^((7))」
(p36、上段2行?中段8行)

イ 「・・・コタラヒム熱水抽出物に分岐サイクロデキストリンを加えて食品として利用しやすい形態にしたコタラヒムエキス末を用いて血糖値におよぼす影響を調べた。
・・・
ヒト試験を行うにあたり、コタラヒムエキス末をより摂取しやすい形にするために、コタラヒムエキス末とα-サイクロデキストリンを混合し顆粒状にして、八百mgに個包装したコタラヒム顆粒品を作成した。コタラヒム顆粒品八百mgにはコタラヒムエキス末が三百mg含まれる。
・・・
空腹時血糖値が百十mg/dl以上の境界型糖尿病(六名)および軽症II型糖尿病^(※)症例者(十名)の計十六名に、コタラヒム顆粒品の十二週間摂取試験を行った。コタラヒム顆粒品摂取は枚食事五?十分前に行い、十二週間継続させた。・・・以上の結果から、コタラヒム顆粒品の摂取は、境界型および軽度II型糖尿病症例者の空腹時血糖およびヘモグロビンAlcの改善に有用であることが示された。
また、血液生化学検査では、血圧をはじめ、肝臓、腎臓などの臓器に与える影響も認められなかった。これらの結果より、コタラヒムエキス末三百mgを含むコタラヒム顆粒品は十二週間の長期摂取において副作用はみられず、安全性の高い食品であることが証明された。」
(p36、下段7行?p37、中下段9行)

ウ 「コタラヒムエキス末は、二糖類分解酵素の阻害活性を有するコタラヒムからエキスを熱水抽出し、分岐サイクロデキストリンを添加し粉末化した新しい食品素材である。エキスと比べて取り扱いの容易な粉末であり、溶解性、分散性、保存性に優れ、木質由来のにおいや味も抑えているので、さまざまな食品への利用が可能である。」
(p39、下段7行?16行)

(3)本願優先日当時の技術常識を示す引用文献6(上記第3参照)には、以下の事項が記載されている。

ア 「本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ニシキギ科又はデチンムル科に属するサラシア属の植物、とくにサラシア・キネンシス(Salaciachinensis)、サラシア・オブロンガ(Salacia oblonga)、サラシア・レティキュラ-タ(Salacia reticulata)に、抗酸化作用、NO産生抑制作用及び抗潰瘍作用において、優れた薬効を示す成分が含まれることを知見した。これらの植物は、インド又はタイの伝承医学において古来から生薬として用いられてきたもので、長期間服用しても副作用がないことが保証されている。」
(【0009】)

イ 「・・・サラシア・キネンシス(以下、SCと略記する)は、東南アジア(タイ・マレーシア・中国南部等)、インド、スリランカなどに自生する蔓性の潅木(高さ5m以下)で、葉は長さ4?8cm程度の楕円形、黄色又は緑黄色の花を咲かせ、熟すと赤くなる1?2cmの小球状の実を付ける植物である。
サラシア・オブロンガ(以下、SOと略記する)及びサラシア・レティキュラータ(以下、SRと略記する)は、インド、スリランカなどに多く自生し、SCと類似した植物であるが、樹高がSCよりも低く、実は3?5cmとSCよりも大きい点が相違する。SC,SO,SRのいずれも、タイ、インド等の伝承医学において、種々の薬効を有する生薬として、古来から広く用いられてきたものである。」
(【0015】【0016】)

ウ 「本発明において、上記のいずれの植物においても、地上部(樹皮、木質部、葉部など)や地下部(根皮、根茎)のいずれをも用いることができるが、薬効成分を多く含むという点から、樹皮又は木質部を用いることが好ましい(以下、とくに言及しない限り、発明の実施の形態に関する記述は、SC,SO,SRのいずれにも共通するものである)。また、植物体自体若しくはこれを乾燥、粉砕したものを用いてもよく、これから水又は有機溶媒で抽出した抽出物を用いてもよい。
有機溶媒としては、例えばエタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールや、酢酸エチル等のエステル類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、経済性と安全性の点からは、水及び/又はエタノールで抽出することが好ましい。
水で抽出する場合は、植物体の乾燥物又はその粉砕物をその容積の2?5倍程度の熱水(60?90℃)中に1?5時間程度浸漬して抽出すれば良い。常温の水中に長時間(1?5日間)浸漬して抽出してもよい。抽出液又はその濃縮エキスをそのまま服用してもよいが、通常はこれの乾燥粉末を使用する。」
(【0017】-【0019】)

エ 「経口投与量は、1回の服用につき抽出物乾量で1?500mg/体重kg程度とし、植物体粉砕物の場合は、この5倍量程度にすればよい。服用回数はとくに限定を要しないが、1日1?5回程度とすればよい。なお、消化器系の潰瘍の予防又は治療という観点からは、1日3回程度食後に服用することが好ましい。」
(【0022】)

(4)本願優先日当時の技術常識を示す、特開2006-160710号公報(以下、「引用文献9」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 「従来、サラシア属植物は、スリランカやインドの伝統医学において天然薬物と利用されてきた。スリランカの薬物書には、上記のサラシア属植物がリュウマチ、淋病および皮膚病の治療に有効であると共に、糖尿病の治療に用いられることが記載されている(非特許文献1)。また、インドでも、サラシア属植物を上記と同様の目的で用いることが伝承されている。
さらに、近年、上記のサラシア属植物の抗糖尿病活性に関していくつか報告されている。すなわち、例えば、α-グルコシダーゼ阻害活性については、サラシア プリノイデス(Salacia prinoides)の含有物質が報告されており(特許文献1)、α-グルコシダーゼおよびアルドースレダクターゼ阻害活性については、サラシア レティキュラータ(Salacia reticulata)、サラシア オブロンガ(Salacia oblonga)およびサラシア キネンシス(Salacia chinensis)の含有物質が報告されている(非特許文献1)。」
(【0009】【0010】)

イ 「本発明者は、鋭意研究の結果、サラシアの抽出物および石蓮花の抽出物の併用が、意外にも、血糖上昇抑制において相乗効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、有効成分としてサラシアの抽出物および石蓮花の抽出物が、相乗効果を奏する割合で含まれることを特徴とする糖尿病の予防・治療用組成物が提供される。」
(【0015】)

ウ 「本発明において用いられている用語「サラシア」は、デチンムル科(Hippocrateaceae) (旧分類ではニシキギ科(Celastrineae))に属するサラシア(Salacia)属植物の総称として、さらに同属植物を原料として開発された健康食品素材を意味する一般名称として用いられている。サラシア属植物は、インド、スリランカ、タイおよびインドネシアなど東南アジアおよびブラジルなどの熱帯地域に広く自生し、分布する多年生のつる性植物であり、現在約120種が同属植物として知られている。
本発明に用いられるサラシアとしては、サラシア レティキュラータ(Salacia reticulata)、サラシア オブロンガ(Salacia oblonga)、サラシア キネンシス(Salacia chinensis)、サラシア プリノイデス(Salacia prinoides)、サラシア ラティフォリア(Salacia latifolia)、サラシア ブルノニアーナ(Salacia burunoniana)、サラシア グランディフローラ(Salacia grandiflora)、サラシア マクロスペルマ(Salacia macrosperma)またはサラシア ロクスブルギイ(Salacia roxburghii)などのサラシア属植物が挙げられ、それらの根および茎を用いることができる。
なかでも入手し易いサラシア レティキュラータ、サラシア オブロンガおよびサラシア キネンシスが好ましい。また、市場で入手可能なサラシア属植物を原料とする健康食品素材を用いることもできる。」
(【0018】-【0020】)

エ 「なお、好ましくはサラシアの抽出には水または含水メタノールを、石蓮花の抽出にはメタノールを用いることができる。
これらの抽出溶媒は、抽出材料に対して、1?50倍(容量)程度、好ましくは2?10倍程度用いられる。
抽出は、熱時または室温で行うことができ、抽出温度は、室温と溶媒の沸点の間で任意に設定できる。熱時抽出の場合、例えば、50℃?抽出溶媒の沸点の温度で、振盪下もしくは非振盪下または還流下に、上記の抽出材料を上記の抽出溶媒に浸漬することによって行うのが適当である。抽出材料を振盪下に浸漬する場合には、30分間?5時間程度行うのが適当であり、非振盪下に浸漬する場合には、1時間?20日間程度行うのが適当である。また、抽出溶媒の還流下に抽出するときは、30分?数時間加熱還流するのが好ましい。」
(【0026】【0027】)

オ 「すなわち、本発明によれば、有効成分として本発明の抽出物、すなわちサラシアの抽出物と石蓮花の抽出物を乾燥重量比で1:0.05?1:7、好ましくは1:0.1?1:6の割合で含むことにより、血糖値上昇抑制効果において相乗効果を奏することが見出された。」
「サラシアの抽出物および石蓮花の抽出物の使用量は、年齢、症状等によって異なるが、予防・治療に用いる場合には、成人1回につき、サラシアの抽出物と石蓮花の抽出物の前記の乾燥重量比の混合物を0.1?10g程度、好ましくは0.3?2g程度使用でき、食前30分位に1日3回服用するのが望ましい。また、健康食品として使用する場合には、食品の味や外観に悪影響を及ぼさない量、例えば、対象となる食品1kgに対し上記の混合物を、0.1?5g程度の範囲で用いることができる。」
(【0033】及び【0041】)

(5)本願優先日当時の技術常識を示す引用文献3(上記第3参照)には、以下の事項が記載されている。

ア 「デチンムル科(Hippocerateaceae)1)Salacia属植物は,インド,スリランカを始め,タイやインドネシアなどの東南アジア,ブラジルなどの熱帯地域に広く分布し,約120種が知られている.スリランカ,インド,タイなどに多く自生するSalacia(S.) reticulata,S. oblonga及びS. chinensis(syn. S. prinoides)は,つる性の多年性木本で,その根部や幹は,インドやスリランカの伝統医学であるアーユルヴェーダを始め,中国やタイの伝承医学において天然薬物として利用されてきた.」
(p871、左欄1行?10行)

イ 「これまでに我々はSalacia属植物のS. oblonga及びS. reticulataに強いα-glucosidase阻害活性を有するsalacinol(1)及びkotaanol(2)を始め,aldose還元酵素阻害活性や抗酸化作用を示すmangiferin(3)などのポリフェノール成分やトリテルペン成分などの多種の成分を含有していることを明らかにしている.今回,同属のS. chinensisについても同様に抗糖尿病作用や抗炎症作用が期待できることを明らかにし,活性本体はsalacinol(1)であることを確認した.」
(p879、左欄23行?32行)

2 引用文献2に記載された発明
上記1(1)アには、サラシア・レテイーキュラータの抽出物がコタラヒムRエキス末であること、また2種類のコタラヒムR抽出末(エタノール顆粒、発酵顆粒)について、朝食2時間後に試験用粉末サンプルを水と摂取させるヒト試験で、特に脂質代謝に与える生理活性効果を検討したことが記載されている。
また、上記1(1)イ?エ、特にイの図8についての説明、ウの図8及びエには、上記検討の結果として、代謝が顕著に亢進する運動負荷時では、呼吸商がコタラヒム試行、特に発酵顆粒で有意な低下を示し、脂質代謝の有意な亢進作用が認められたことが記載されている。
そうすると、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「代謝が顕著に亢進する運動負荷時に脂質代謝の有意な亢進作用が認められる、サラシア・レテイーキュラータ抽出物のエタノール顆粒又は発酵顆粒であるコタラヒムR抽出末。」

第5 対比、判断
1 本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は「サラシア・キネンシス」の抽出物を有効成分として含むものであるのに対し、引用発明は「サラシア・レテイーキュラータ」の抽出物のエタノール顆粒又は発酵顆粒であるコタラヒムR抽出末を含むものであるところ、「サラシア・キネンシス」と「サラシア・レテイーキュラータ」とは、同じサラシア属に属する植物であるから、両者は少なくともサラシア属植物の抽出物を含む点で一致する。
また、引用発明の「代謝が顕著に亢進する運動負荷時」における「脂質代謝の有意な亢進作用」は、本願明細書の「・・・運動による脂質代謝量・・・の測定試験を行った。4km/hでウォーキングを30分間行い、30分間の脂質代謝量・・・を呼吸代謝測定装置・・・により計測・・・」なる記載(【0031】)、及び「本試験例から、・・・サラシア属植物抽出物の脂質に対する代謝活性化効果が顕著であり、代謝増加量はプラセボの60?97倍であることが確認された。」(【0034】)なる記載からみて、本願発明の「脂質代謝活性化」に相当するといえるので、引用発明の「代謝が顕著に亢進する運動負荷時に脂質代謝の有意な亢進作用を発揮する、・・・コタラヒムR抽出末」は、本願発明の「脂質代謝活性化剤」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「サラシア属植物の抽出物を有効成分として含む脂質代謝活性化剤」
である点で一致する一方、以下の点で相違する。

<相違点1>
サラシア属植物が、本願発明では「サラシア・キネンシス」であるのに対し、引用発明では「サラシア・レテイーキュラータ」である点

<相違点2>
本願発明では抽出物が「熱水抽出物」であり、該抽出物の1日あたりの摂取量が「450mg以上、2400mg以下となる量」となるように用いられるのに対し、引用発明では抽出物の抽出溶媒及びその1日あたりの摂取量が特定されていない点。

2 以下、上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
サラシア属植物の抽出物は天然の薬効成分として古来より広く用いられてきたものであり(例えば、上記第4 1(2)ア、1(3)イ、1(4)ア及びウ、並びに1(5)ア等参照)、中でもサラシア・レティキュラータ及びサラシア・キネンシスの両種が、同様の薬効を期待して並んで検討されることは、本願優先日当時において技術常識であったといえる(例えば、上記第4 1(3)ア及びイ、1(4)ア?ウ、並びに1(5)ア及びイ等参照)。
そして、引用発明の「サラシア・レテイーキュラータ」が、上記サラシア・レティキュラータであることは明らかである(以下、表記をサラシア・レティキュラータに統一する)。
そうすると、引用発明において、サラシア・レティキュラータ抽出物と同様の脂質代謝亢進作用を期待して、同じサラシア属植物として並んで検討されることが技術常識であったサラシア・キネンシス抽出物についても当該作用を確認してみることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

(2)相違点2について
ア サラシア・レティキュラータやサラシア・キネンシス等のサラシア属植物から抽出物を得る際に、水や低級アルコール等を抽出溶媒とすることは、本願優先日当時において技術常識であり、特に熱水は抽出溶媒として汎用されていたものである(例えば、第4 1(2)イ及びウ、1(3)ウ、並びに1(4)エ等参照)。

イ また、サラシア属植物の抽出物に何らかの薬効を発揮させるためのヒトの摂取量として、1日あたり数百?数千mgの摂取量は、本願優先日当時において一般的に想定される範囲であったといえる(例えば、上記第4 1(2)イ、1(3)エ及び1(4)オ等参照)。

ウ そうすると、引用発明において、上記ア及びイに基づき、熱水を抽出溶媒として抽出物を得るとともに、一般的に想定される摂取量である1日あたり数百?数千mgの範囲で、医薬品や健康食品における一般的な手法に則り、十分な薬効と、コスト面や副作用、さらにはコンプライアンス等とのバランスの観点から、好適な摂取量を画定することは、当業者であれば適宜なし得る事項である。

3 以下、本願発明の効果について検討する。
(1)例えば引用文献3,6,9等に示されるとおり、種々の薬効について、サラシア・キネンシスの抽出物とサラシア・レティキュラータの抽出物とは同等の効果が奏されることが知られていたのだから、サラシア・キネンシスの抽出物がサラシア・レティキュラータの抽出物と同程度の脂質代謝活性化を奏することは、予測し得る範囲内の事項である。
そして、本願明細書【0012】等には、サラシア・キネンシス、サラシア・レティキュラータ及びサラシア・オブロンガが並列に記載され、また本願明細書【0032】の【表1】には、脂質代謝活性化について、サラシア・キネンシスの熱水抽出物とサラシア・レティキュラータの熱水抽出物とは同容量で同程度の作用を示したことが記載されており、サラシア・レティキュラータ抽出物と比較して、サラシア・キネンシス抽出物により顕著に有利な又は異質な効果が奏されたとはいえない。

(2)本願明細書【0035】の【表3】には、サラシア・キネンシスの熱水抽出物の摂取量が1回150mg(1日あたり450mg)である場合に脂質代謝量がある程度増加し、摂取量を増やすと代謝量も増加するが、1日あたり1350mgの摂取量と1800mgの摂取量とでは増加量がほぼ同等であることが示されているといえるものの、薬効成分量が増大するとその効果も増大し、ある一定量でその増大が飽和するという挙動は、薬効成分の挙動として極めて一般的なものでしかなく(必要であれば、例えば「薬剤予測学入門」、株式会社薬業時報社、1993年8月発行、p360上部の図面等参照)、本願優先日当時の技術常識からみて何ら異質なものとはいえない。また、本願明細書の記載からは、上下限値の設定による臨界的な効果も特段見出せない。

4 以下、令和1年5月7日提出の意見書における請求人の主張について検討する
(1)請求人は上記意見書において、
「・・・引用文献2には「サラシア・レティーキュラータの抽出物のエタノール顆粒又は発酵顆粒」がどのようなものかについて何らの記載も含まれておりません。この点について審判官殿は「引用発明2における発酵顆粒の抽出溶媒は明らかでないものの、エタノール顆粒の抽出溶媒は、その文言からみてエタノール又はエタノール含有溶媒であると推測される。」と述べられておりますが、全く根拠がありません。むしろ、「抽出物のエタノール顆粒又は発酵顆粒」と記載されている以上、抽出物をエタノール処理や発酵処理した後に顆粒としたものと解すべきと考えます。エタノールを抽出溶媒と解する根拠がないことは明らかですが、仮にそのように推測すると発酵顆粒の抽出溶媒について記載されてないことになり、記載の形式の観点から極めて不自然なことになります。」
なる旨主張する。
確かに引用文献2には、引用発明のエタノール顆粒又は発酵顆粒であるコタラヒムR抽出末について、その抽出溶媒の具体的な記載はなされていない。しかしながら、上記2(2)に説示したとおり、サラシア属植物の抽出溶媒として熱水は汎用されていたものであり、引用発明において熱水を抽出溶媒として抽出物を得ることは、当業者であれば適宜なし得る事項である。
また、上記請求人の主張のとおり、引用発明の「エタノール顆粒又は発酵顆粒」とは、抽出物にエタノール処理や発酵処理を施したものと解されるが、本願発明の抽出物は抽出物に対する後処理を排除するものではない。

(2)請求人は同意見書において、
「引用文献2の「実験方法」の項(42頁)には「朝食2時間後に試験用粉末サンプルを100mlの水と共にランダムに摂取させた」と記載されておりますが、試験に当たっての各サンプルの具体的な投与量について引用文献2には何ら記載が見いだせません。当該文献の図7や図8においてエネルギー代謝に関する試験結果が示されておりますが、この試験がどのような設定で行われたのかを引用文献2から理解することはできません。
すなわち、引用文献2においては被験者に投与したサンプルがどのようなものかについて記載が無く、さらにどのような設定で試験を行ったかについても記載がありません。したがって、当業者が引用文献2に基づいてもグラフで示されている試験を理解することも再現することもできないことは明らかであり、引用文献2が具体的な技術的知見を含む開示を含んでいるとは解されないものと思量致します。
このような文献の記載が当業者に本願発明を想到する上での何らかの動機付けを与えるとは解されませんので、引用文献2およびその他の引用文献を参酌しても、当業者が補正後の請求項1に係る発明を容易に想到できるとは解され得ず、補正後の本願請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の要件を満たす発明であると思量致します。」
なる旨主張する。
しかしながら、引用文献2には、サラシア・レティキュラータの抽出物のエタノール顆粒又は発酵顆粒であるコタラヒムR抽出末を試験用粉末サンプルとして健常男子に摂取させ、その結果、代謝が顕著に亢進する運動負荷時に脂質代謝の有意な亢進作用が認められたことが記載されており(上記第4 1(1)ア?エ)、少なくとも定性的にコタラヒムR抽出末が運動負荷時に脂質代謝を亢進することは理解できる以上、単にその摂取量や試験における具体的な設定が記載されていないことをもって、引用発明は引用文献2の記載から抽出し得る具体的な技術的思想ではないということはできない。

第6 むすび
以上のことからみて、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2に記載された発明及び本願優先日当時の技術常識(引用文献3,6,8,9参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-08-29 
結審通知日 2019-08-30 
審決日 2019-09-11 
出願番号 特願2016-87672(P2016-87672)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鶴見 秀紀  
特許庁審判長 光本 美奈子
特許庁審判官 前田 佳与子
小川 知宏
発明の名称 代謝活性化剤  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山本 修  
代理人 寺地 拓己  
代理人 中西 基晴  
代理人 宮前 徹  
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