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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G09G 審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 G09G 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G09G |
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管理番号 | 1356471 |
審判番号 | 不服2018-13158 |
総通号数 | 240 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-10-03 |
確定日 | 2019-11-12 |
事件の表示 | 特願2016-174520「電気光学装置および電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月15日出願公開、特開2016-212445、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年10月18日に出願した特願2011-228885号の一部を平成28年9月7日に新たな特許出願としたものであり、その手続の経緯は、概略、以下の通りである。 手続補正:平成28年10月4日付け 拒絶理由通知:平成29年10月30日付け 手続補正:平成30年1月4日付け 拒絶査定:平成30年6月28日付け(謄本送達日:同年7月3日) 拒絶査定不服審判の請求:平成30年10月3日 手続補正:平成30年10月3日付け 拒絶理由通知:令和元年6月27日付け 手続補正:令和元年8月23日付け なお、令和元年6月27日付けの拒絶理由通知については、以下、「当審拒絶理由」という。 第2 本願発明 本願請求項1-9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明9」という。)は、令和元年8月23日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-9は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 データ信号を出力するデータ信号出力回路と、 前記データ信号が供給される第1入力端と、第1出力端とを有する第1スイッチと、 前記第1出力端に接続された第2入力端と、第2出力端とを有する第2スイッチと、 前記第1出力端及び前記第2スイッチの前記第2入力端の電位を保持する第1容量素子と、 一端が前記第2スイッチの前記第2出力端に接続された第2容量素子と、 前記第2容量素子の他端に接続された第1配線と、 前記第1配線に接続され、発光素子を含む画素回路と、 第1電位が供給された第1給電線と、 前記第2出力端及び前記第2容量素子の一端と、前記第1給電線との間の導通または非導通を制御する第3スイッチと、 を備え、 前記第1スイッチと前記第2スイッチとは排他的にオンする ことを特徴とする電気光学装置。 【請求項2】 初期化電位が供給された第2給電線と、 前記第2容量素子の他端及び前記第1配線と、前記第2給電線との間の導通または非導通を制御する第4スイッチと、 をさらに備える ことを特徴とする請求項1に記載の電気光学装置。 【請求項3】 前記画素回路は、 第1トランジスターと、 2端子を有する前記発光素子と、 前記第1配線と前記第1トランジスターのゲートとの間でオンまたはオフする第2トランジスターと、 前記第1トランジスターにおけるゲートとドレインとの間でオンまたはオフする第3トランジスターと、 を含み、 前記第1トランジスターと前記発光素子とは、高位側の電源と低位側の電源との間で直列に接続される ことを特徴とする請求項1または2に記載の電気光学装置。 【請求項4】 前記画素回路は、 前記発光素子における2端子のうち、前記第1トランジスター側の端子と、所定のリセット電位を給電する第3給電線との間でオンまたはオフする第4トランジスターを有する ことを特徴とする請求項3に記載の電気光学装置。 【請求項5】 前記第1配線に沿って設けられた第3給電線をさらに備える ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電気光学装置。 【請求項6】 一端が前記第1配線に接続され、他端が前記第3給電線に接続された第3容量素子をさらに備える ことを特徴とする請求項5に記載の電気光学装置。 【請求項7】 前記第2容量素子の容量は、前記第3容量素子の容量よりも小さい ことを特徴とする請求項6に記載の電気光学装置。 【請求項8】 データ信号を出力するデータ信号出力回路と、 前記データ信号が供給される共通端子と、第1出力端とを有する第1スイッチと、 前記データ信号が供給される共通端子と、第2出力端とを有する第2スイッチと、 前記第1出力端に接続された第1入力端と、第3出力端とを有する第3スイッチと、 前記第2出力端に接続された第2入力端と、第4出力端とを有する第4スイッチと、 前記第1出力端及び前記第1入力端の電位を保持する第1容量素子と、 前記第2出力端及び前記第2入力端の電位を保持する第2容量素子と、 一端が前記第3出力端に接続された第3容量素子と、 一端が前記第4出力端に接続された第4容量素子と、 前記第3容量素子の他端に接続された第1配線と、 前記第4容量素子の他端に接続された第2配線と、 前記第1配線に接続され、第1発光素子を含む第1画素回路と、 前記第2配線に接続され、第2発光素子を含む第2画素回路と、 第1電位が供給された第1給電線と、 前記第3出力端及び前記第3容量素子の一端と、前記第1給電線との間の導通または非導通を制御する第5スイッチと、 前記第4出力端及び前記第4容量素子の一端と、前記第1給電線との間の導通または非導通を制御する第6スイッチと、 を備え、 前記第1スイッチと前記第3スイッチとは排他的にオンし、 前記第2スイッチと前記第4スイッチとは排他的にオンする ことを特徴とする電気光学装置。 【請求項9】 請求項1乃至8のいずれかに記載の電気光学装置を備える ことを特徴とする電子機器。」 第3 引用文献、引用発明等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2011-53635号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審による。以下同様。)。 「【0001】 本発明は、有機電界発光表示装置及びその駆動方法に関し、特に、駆動トランジスタの閾値電圧及び第1電源の電圧降下を補償できるようにした有機電界発光表示装置及びその駆動方法に関する。」 「【0014】 そこで、本発明の目的は、駆動トランジスタの閾値電圧及び第1電源の電圧降下を補償できるようにした有機電界発光表示装置及びその駆動方法を提供することである。」 「【0021】 図2に示すように、本実施形態による有機電界発光表示装置は、第1走査線S11?S1n、第2走査線S21?S2n、及び第2データ線D21?D2mの交差部に位置する画素140を備える画素部130と、DEMUX170に接続される第1データ線D11?D1mと第2データ線D21?D2mとの間にそれぞれ接続される共通回路部160と、第1走査線S11?S1n、第2走査線S21?S2n、及び発光制御線E1?Enを駆動するための走査駆動部110と、水平期間において、出力線O1?Oiの各々にj(jは自然数)個のデータ信号を供給するためのデータ駆動部120と、走査駆動部110及びデータ駆動部120を制御するためのタイミング制御部150とを備える。 」 「【0031】 図3は、図2に示す画素の実施形態を示す図である。図3では、説明の便宜上、第2mデータ線D2m及び第1n走査線S1nに接続された画素を示すものとする。 【0032】 図3に示すように、本実施形態による画素140は、有機発光ダイオードOLEDと、有機発光ダイオードOLEDに電流を供給するための画素回路142とを備える。」 「【0041】 図4に示すように、共通回路部160は、第1端子が第1データ線D1mに接続され、第2端子が第2データ線D2mに接続される第1キャパシタC1と、基準電源Vrefと第1キャパシタC1の第1端子との間に接続される第1共通トランジスタCM1と、初期電源Vintと第1キャパシタC1の第2端子との間に接続される第2共通トランジスタCM2とを備える。 【0042】 第1共通トランジスタCM1は、基準電源Vrefと第1キャパシタC1の第1端子との間に接続され、第1制御信号CS1が供給されたときにターンオンされる。第1共通トランジスタCM1がターンオンされると、第1キャパシタC1の第1端子に基準電源Vrefの電圧が供給される。」 「【0049】 第12トランジスタM12は、出力線Oiと第1mデータ線D1mとの間に接続される。この第12トランジスタM12は、第5制御信号CS5が供給されたときにターンオンされ、出力線Oiから供給されたデータ信号を第1mデータ線D1mに供給する。」 「【0066】 第5期間t5には、第1制御信号CS1の供給が中断されると共に、第3制御信号CS3、第4制御信号CS4、及び第5制御信号CS5が順次供給される。第1制御信号CS1の供給が中断されると、図8eのように、第1共通トランジスタCM1がターンオフされる。ここで、第1走査信号の供給が中断された後に第1制御信号CS1の供給が中断されるため、第3トランジスタM3のターンオフにかかわらず、第2ノードN2は、基準電源Vrefの電圧を維持する。」 引用文献1には以下の図が示されている。 【図2】 【図3】 【図4】 【図5】 上記事項から、引用文献1に開示されている発明を、本願発明に即して整理すれば次のとおりである(以下、「引用発明」という。) 「出力線O1?Oiの各々にj(jは自然数)個のデータ信号を供給するためのデータ駆動部120と(【0021】)、 出力線Oiと第1mデータ線D1mとの間に接続される第12トランジスタM12と(【0049】)、 第1キャパシタC1と(【0041】)、 第1キャパシタC1の第2端子に接続される第2データ線D2mと(【0041】)、 第2mデータ線D2mに接続された、有機発光ダイオードOLEDと、有機発光ダイオードOLEDに電流を供給するための画素回路142とを備える画素140と(【0031】、【0032】)、 基準電源Vrefと(【0042】)、 第1キャパシタC1の第1端子と基準電源Vrefとの間に接続され、ターンオンとターンオフが行われる第1共通トランジスタCM1と(【0042】、【0066】)、 を備える有機電界発光表示装置(【0021】)。」 2.引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特表2002-516417号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。 「【0001】 (発明の属する技術分野) 本発明は、一般的には表示装置用のバス配列に関するものであり、特に、液晶表示装置(LCD)あるいはプラズマ表示装置のような表示装置のピクセルに輝度(ブライトネス)信号を供給するシステムに関するものである。」 「【0008】 A/D変換器14は、100グループの出力ライン22を具えたメモリ21に輝度レベル、すなわちグレー(gray:灰)スケール・コードを供給する出力バス19を有している。メモリ21の出力ライン22の各グループは、記憶されたディジタル情報を対応するディジタル-アナログ(D/A)変換器23に供給する。100グループのライン22にそれぞれ対応する100個のD/A変換器23が存在する。D/A変換器23からの出力アナログ信号DBS(j)は、対応する輝度情報キャリー導体DB(j)を介して、対応する列に関連するデマルチプレクサ・トランジスタMNIに供給される。トランジスタMNIは薄膜トランジスタ(TFT)でもよい。記号(j)は、100個のD/A変換器23に関連する1乃至100の値を仮定している。デマルチプレクサ・トランジスタMNIは、対応する輝度情報キャリー導体DB(j)上に発生した信号DBS(j)の情報を対応するサンプリング・キャパシタC43に供給して、アナログ信号VC43をそのキャパシタC43中に記憶させる。信号VC43は対応するデータ・ライン・ドライバ100に供給され、該ドライバ100は対応する列に関連する対応するデータ・ライン17を駆動する。」 【0009】 選択ライン・スキャナ60は、アレイ16の所定の行を通常の態様で選択する行選択信号をライン18中に発生する。100本のデータ・ライン17に発生した電圧は、32マイクロ秒のライン時間の期間中に選択された行のピクセル16aに供給される。」 「【0011】 時間を効率よく利用するために、2段パイプライン・サイクル(two-stage pipeline cycle)が使用される。信号DBS(j)はパルス信号DWS(i)の動作によってデマルチプレックスされ、2400個のキャパシタC43中に記憶される。次いで、キャパシタC43中の情報はデータ・ライン・ドライバ100に同時に転送される。従って、キャパシタC43は次の行情報のデマルチプレックスのために利用可能になり、一方先行する行情報はピクセルに供給される。」 引用文献2には以下の図が示されている。 【図1】 また、上記【図1】から、データ・ライン・ドライバ100がトランジスタMN7を有していることが見てとれる。 してみると、引用文献2には、液晶表示装置(LCD)あるいはプラズマ表示装置のような表示装置において(【0001】)、輝度情報キャリー導体DB(j)を介して信号DBS(j)が供給されるデマルチプレクサ・トランジスタMNIと、デマルチプレクサ・トランジスタMNIから信号DBS(j)の情報が供給されて、アナログ信号VC43を記憶するサンプリング・キャパシタC43とを備え、サンプリング・キャパシタC43が記憶するアナログ信号VC43を、トランジスタMN7を有しているデータ・ライン・ドライバ100に供給する事項(【0008】、【図1】)が記載されていると認められる。 引用文献2には、「時間を効率よく利用するために、2段パイプライン・サイクル(two-stage pipeline cycle)が使用される。信号DBS(j)はパルス信号DWS(i)の動作によってデマルチプレックスされ、2400個のキャパシタC43中に記憶される。次いで、キャパシタC43中の情報はデータ・ライン・ドライバ100に同時に転送される。」(【0011】)と記載されていることから、時間を効率よく利用するために、上記事項における「輝度情報キャリー導体DB(j)を介して信号DBS(j)が供給されるデマルチプレクサ・トランジスタMNIと、デマルチプレクサ・トランジスタMNIから信号DBS(j)の情報が供給されて、アナログ信号VC43を記憶するサンプリング・キャパシタC43とを備え、サンプリング・キャパシタC43が記憶するアナログ信号VC43を、トランジスタMN7を有しているデータ・ライン・ドライバ100に供給する」という「2段パイプライン・サイクル(two-stage pipeline cycle)」が使用されているものと認められる。 したがって、上記事項から、引用文献2には、液晶表示装置(LCD)あるいはプラズマ表示装置のような表示装置において、時間を効率よく利用するために、輝度情報キャリー導体DB(j)を介して信号DBS(j)が供給されるデマルチプレクサ・トランジスタMNIと、デマルチプレクサ・トランジスタMNIから信号DBS(j)の情報が供給されて、アナログ信号VC43を記憶するサンプリング・キャパシタC43とを備え、サンプリング・キャパシタC43が記憶するアナログ信号VC43を、トランジスタMN7を有しているデータ・ライン・ドライバ100に供給するという技術的事項が記載されていると認められる。 3.引用文献3について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2003-208127号公報)の【0018】-【0026】、【図1】には、有機ELディスプレイに関する技術分野において、発光素子を有する画素回路に第1?第4トランジスターを設けるという周知技術が示されている。 第4 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 引用発明における「出力線O1?Oiの各々にj(jは自然数)個のデータ信号を供給するためのデータ駆動部120」は、本願発明1における「データ信号を出力するデータ信号出力回路」に相当する。 トランジスタは入出力端を有するものであるから、引用発明における「出力線Oiと第1mデータ線D1mとの間に接続される第12トランジスタM12」は、出力線Oiから供給されるデータ信号が入力される入力端と、第1mデータ線D1mにデータ信号を出力する出力端とを有しているといえる。それゆえ、引用発明の「第12トランジスタM12」は、本願発明1における「前記データ信号が供給される第1入力端と、第1出力端とを有する第1スイッチ」に相当する。 引用発明における「第1キャパシタC1」は、本願発明1における「第2容量素子」と、「容量素子」である点で共通する。 引用発明における「第1キャパシタC1の第2端子に接続される第2データ線D2m」は、本願発明1における「前記第2容量素子の他端に接続された第1配線」と、「容量素子の他端に接続された第1配線」である点で共通する。 引用発明における「第2mデータ線D2mに接続された、有機発光ダイオードOLEDと、有機発光ダイオードOLEDに電流を供給するための画素回路142とを備える画素140」は、本願発明1における「前記第1配線に接続され、発光素子を含む画素回路」に相当する。 引用発明における「基準電源Vref」からの配線が、本願発明1における「第1電位が供給された第1給電線」に相当する。 引用発明における「第1キャパシタC1の第1端子と基準電源Vref」からの配線「との間に接続され、ターンオンとターンオフが行われる第1共通トランジスタCM1」は、本願発明1における「前記第2容量素子の一端と、前記第1給電線との間の導通または非導通を制御する第3スイッチ」と、「容量素子の一端と、前記第1給電線との間の導通または非導通を制御するスイッチ」である点で共通する。 引用発明における「有機電界発光表示装置」は、本願発明1における「電気光学装置」に相当する。 したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「データ信号を出力するデータ信号出力回路と、 前記データ信号が供給される第1入力端と、第1出力端とを有する第1スイッチと、 容量素子と、 前記容量素子の他端に接続された第1配線と、 前記第1配線に接続され、発光素子を含む画素回路と、 第1電位が供給された第1給電線と、 前記容量素子の一端と、前記第1給電線との間の導通または非導通を制御するスイッチと、 を備える電気光学装置。」 (相違点) (相違点1) 本願発明1は、「前記第1出力端に接続された第2入力端と、第2出力端とを有する第2スイッチと、前記第1出力端及び前記第2スイッチの前記第2入力端の電位を保持する第1容量素子と、」「を備え、前記第1スイッチと前記第2スイッチとは排他的にオンする」構成を備えるのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。 (相違点2) 本願発明1は、「一端が前記第2スイッチの前記第2出力端に接続された第2容量素子と、前記第2容量素子の他端に接続された第1配線」の構成を備えているのに対し、引用発明は、「容量素子」と、「前記容量素子の他端に接続された第1配線」の構成を有しているものの、該「容量素子」がその「一端が前記第2スイッチの前記第2出力端に接続された」ものではない点。 (相違点3) 本願発明1は、「前記第2出力端及び前記第2容量素子の一端と、前記第1給電線との間の導通または非導通を制御する第3スイッチ」の構成を備えているのに対し、引用発明は、「前記容量素子の一端と、前記第1給電線との間の導通または非導通を制御するスイッチ」の構成を有しているものの、該「スイッチ」が、「導通または非導通を制御する」箇所を「前記第2出力端及び前記第2容量素子の一端と、前記第1給電線との間」としたものではない点。 (2)相違点についての判断 まず相違点1について検討する。 「第3 引用文献、引用発明等」の「2.引用文献2について」に記載のとおり、引用文献2には、液晶表示装置(LCD)あるいはプラズマ表示装置のような表示装置において、時間を効率よく利用するために、輝度情報キャリー導体DB(j)を介して信号DBS(j)が供給されるデマルチプレクサ・トランジスタMNIと、デマルチプレクサ・トランジスタMNIから信号DBS(j)の情報が供給されて、アナログ信号VC43を記憶するサンプリング・キャパシタC43とを備え、サンプリング・キャパシタC43が記憶するアナログ信号VC43を、トランジスタMN7を有しているデータ・ライン・ドライバ100に供給するという技術的事項が記載されていると認められる。 しかしながら、引用文献2に記載されている該技術的事項において、「時間を効率よく利用する」ということが、どのような時間を効率よく利用しようとしているのかが不明である。また、引用発明は「有機電界発光表示装置」を対象とした発明であるのに対して、引用文献2に記載された技術的事項は、液晶表示装置(LCD)あるいはプラズマ表示装置のような表示装置を対象としたものであり、両発明の前提とする表示装置は異なるものである。そして、引用文献2に記載されている上記技術的事項において効率よく利用しようとする「時間」が、引用発明においても共通する時間であるのか否かについても不明である。そのため、引用文献2に記載されている技術的事項によって、引用発明において具体的にどのような時間を効率よく利用できるのかが不明でもある。 してみると、引用発明に対して、引用文献2に記載されている技術的事項を採用する動機付けが存在するとはいえない。 また、相違点1に係る構成は、引用文献3において記載や示唆がなされているものではなく、また、周知技術であるともいえない。 そして、本願発明は、1水平走査期間に実行すべき動作について時間的な制約を緩和することができ、補償期間を長く確保することが可能である(本願の明細書における段落【0065】参照。)、という引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項からその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が予測することができない効果を奏するものである。 したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2.本願発明2-9について 本願発明2-7は、本願発明1の構成を全て含み、したがって、本願発明1の上記相違点1に係る構成を有しているから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 本願発明8は、上記の相違点1に係る構成に対応する、「前記第1出力端に接続された第1入力端と、第3出力端とを有する第3スイッチと、前記第2出力端に接続された第2入力端と、第4出力端とを有する第4スイッチと、前記第1出力端及び前記第1入力端の電位を保持する第1容量素子と、前記第2出力端及び前記第2入力端の電位を保持する第2容量素子と、」「を備え、前記第1スイッチと前記第3スイッチとは排他的にオンし、前記第2スイッチと前記第4スイッチとは排他的にオンする」構成を有しているから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 本願発明9は、本願発明1又は8の構成を全て含み、したがって、本願発明1の上記相違点1に係る構成、あるいは、上記の相違点1に係る構成に対応する本願発明8の上記構成を有するものとなっているから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用発明及び引用文献2-3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 1 原査定の概要 原査定(平成30年6月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 (1)理由1(特許法第17条の2第3項)について ・請求項1-5,8-9 画素回路が接続される第1配線(データ線)に接続されている容量について、平成28年10月4日付け手続補正書でした補正の前では第1,第2保持容量の2つであったものが、(前記補正及び)平成30年1月4日付け手続補正書でした補正により第2容量素子の1つのみになった。 しかしながら、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、データ線14に接続される容量について、保持容量44,保持容量50の2つとすることのみが記載されており、また、当初明細書等には、当該容量について1つとする具体的な示唆はなく、加えて、当該容量を2つ設けてデータ信号を容量比分圧縮することにより、非常に細かい精度でデータ信号を出力させるという課題を解決(段落0004,0039-0041)していることにかんがみれば、具体的な示唆がなくとも、前記課題が解決されなくなる当該容量を1つのみとすることが、当初明細書等の記載から自明なものともいえず、補正により、データ線に接続される容量についての新たな技術事項を導入するものである。 したがって、平成30年1月4日付け手続補正書でした補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。 (2)理由3(特許法第29条第2項)について ・請求項1-3,5-9 ・引用文献等1-2 本願請求項1-3,5-9に係る発明は、以下の引用文献1-2に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・請求項4-7 ・引用文献等1-3 本願請求項4-7に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.特開2011-53635号公報 2.特表2002-516417号公報 3.特開2003-208127号公報(周知技術を示す文献) 2 原査定についての判断 (1)理由1(特許法第17条の2第3項)について 令和元年8月23日付け手続補正書における請求項1-5,8-9に係る発明は、「前記データ信号が供給される第1入力端と、第1出力端とを有する第1スイッチと、前記第1出力端に接続された第2入力端と、第2出力端とを有する第2スイッチと、前記第1出力端及び前記第2スイッチの前記第2入力端の電位を保持する第1容量素子と、」「を備え、前記第1スイッチと前記第2スイッチとは排他的にオンする」構成、または、「前記データ信号が供給される共通端子と、第1出力端とを有する第1スイッチと、前記データ信号が供給される共通端子と、第2出力端とを有する第2スイッチと、前記第1出力端に接続された第1入力端と、第3出力端とを有する第3スイッチと、前記第2出力端に接続された第2入力端と、第4出力端とを有する第4スイッチと、前記第1出力端及び前記第1入力端の電位を保持する第1容量素子と、前記第2出力端及び前記第2入力端の電位を保持する第2容量素子と、」「を備え、前記第1スイッチと前記第3スイッチとは排他的にオンし、前記第2スイッチと前記第4スイッチとは排他的にオンする」構成を有している。それゆえ、請求項1-5,8-9に係る発明は、これらの構成のいずれかを有することによって、1水平走査期間に実行すべき動作について時間的な制約を緩和することができ、補償期間を長く確保することが可能であるという効果(本願の当初明細書における段落【0065】参照)を奏するものとして、本願の当初明細書等において明示的に記載された発明であると認められる。 したがって、令和元年8月23日付け手続補正書でした補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、原査定の理由1を維持することはできない。 (2)理由3(特許法第29条第2項)について 前記「第4 対比・判断」のとおり、令和元年8月23日付け手続補正書における請求項1-9に係る発明は、当業者であっても、拒絶査定に引用された引用文献1-3に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。 したがって、原査定の理由3を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由について 1.特許法第36条第6項第1号について 当審では、請求項1、8、及び、請求項1、8をそれぞれ引用する請求項2、5-7、9について、発明の詳細な説明に記載されている電気光学装置の発明は、画素回路に発光素子が含まれていることを前提とした発明のみであり、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないとの拒絶の理由を通知しているが、令和元年8月23日付け手続補正書において、請求項1に係る発明については、「前記第1配線に接続され、発光素子を含む画素回路と、」と補正され、請求項8に係る発明については、「前記第1配線に接続され、第1発光素子を含む第1画素回路と、前記第2配線に接続され、第2発光素子を含む第2画素回路と、」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 また、請求項8、及び、請求項8を引用する請求項9に係る発明においては、「デマルチプレクサ」と、「第1スイッチ」と、「第2スイッチ」とを別体として備えていると認められるのに対して、発明の詳細な説明には、デマルチプレクサ30が、トランスミッションゲート34(「第1スイッチ」、「第2スイッチ」)を備える発明については記載されているものの、両者が別体である発明については、その記載や示唆がなされておらず、また、発明の詳細な説明には、請求項8に係る発明における、「前記デマルチプレクサは、前記第1スイッチおよび第2スイッチがオフの状態で、前記共通端子と、前記第1出力端または前記第2出力端との間で導通させ、前記第1スイッチおよび前記第2スイッチは、前記共通端子と、前記第1出力端および前記第2出力端との間で非導通の状態で、オンする」構成についても、その記載や示唆がなされていないとの拒絶の理由を通知しているが、令和元年8月23日付け手続補正書において、請求項8に係る発明について、「前記データ信号が供給される共通端子と、第1出力端とを有する第1スイッチと、前記データ信号が供給される共通端子と、第2出力端とを有する第2スイッチと、前記第1出力端に接続された第1入力端と、第3出力端とを有する第3スイッチと、前記第2出力端に接続された第2入力端と、第4出力端とを有する第4スイッチと、・・・前記第3出力端及び前記第3容量素子の一端と、前記第1給電線との間の導通または非導通を制御する第5スイッチと、前記第4出力端及び前記第4容量素子の一端と、前記第1給電線との間の導通または非導通を制御する第6スイッチと、を備え、前記第1スイッチと前記第3スイッチとは排他的にオンし、前記第2スイッチと前記第4スイッチとは排他的にオンする」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 2.特許法第36条第6項第2号について 当審では、請求項5、及び、請求項5を引用する請求項6、7に係る発明は、請求項4を引用する場合、「前記画素回路は、前記発光素子における2端子のうち、前記第1トランジスター側の端子と、所定のリセット電位を給電する第3給電線との間でオンまたはオフする第4トランジスターを有する」構成と、「前記第1配線に沿って設けられた第3給電線をさらに備える」構成とを兼ね備える発明であると認められるところ、前者の上記構成のみで、「第3給電線」を備えているものと認められるが、後者の構成を備えることにより、第3給電線をさらに備えるということが、請求項5に係る発明の「電気光学装置」をどのように特定することになるのかが不明であるとの拒絶の理由を通知しているが、令和元年8月23日付け手続補正書において、請求項5に係る発明について、「請求項1乃至3のいずれかに記載の電気光学装置」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-10-23 |
出願番号 | 特願2016-174520(P2016-174520) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G09G)
P 1 8・ 55- WY (G09G) P 1 8・ 537- WY (G09G) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 武田 悟 |
特許庁審判長 |
中塚 直樹 |
特許庁審判官 |
小林 紀史 梶田 真也 |
発明の名称 | 電気光学装置および電子機器 |
代理人 | 大林 章 |
代理人 | 高橋 太朗 |
代理人 | 高田 聖一 |