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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16B
管理番号 1356551
審判番号 不服2018-7905  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-07 
確定日 2019-10-30 
事件の表示 特願2016-512490号「釘」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月15日国際公開、WO2015/155803〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)4月9日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
平成29年7月28日付け:拒絶理由の通知
平成29年8月23日 :意見書及び手続補正書の提出
平成30年1月12日付け:拒絶理由の通知
平成30年2月21日 :意見書及び手続補正書の提出
平成30年4月27日付け:拒絶査定
平成30年6月7日 :審判請求書の提出
令和1年5月13日付け :拒絶理由の通知
令和1年6月19日 :意見書及び手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、令和1年6月19日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「柱体の上端部に頭部が形成された軟質鉄材製の釘本体と、この釘本体の下端部に形成した円錐台形状あるいは多角錐台形状の先端部と、この先端部の下端部側の一部のみを焼入れ、あるいは塑性鍛造により硬化処理を行なったことを特徴とする釘。」

第3 引用文献に記載の発明
1 引用文献1に記載の事項
当審において通知した拒絶の理由に引用された特許第5052411号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る取付材の接着のための仮止め構造体の特徴は、基礎材と、これに仮止めされる前記基礎材より軟質の取付材と、前記基礎材及び取付材の間に設けられこれらを接着する粘弾性の接着材と、弾性の保持材に釘を貫通支持する仮止め釘とを備え、前記釘の先端部は少なくとも硬化加工され、前記保持材は釘の長手方向に沿った柱状部の貫通孔と釘とを密接させることでこの保持材と釘との相対位置を摩擦力により保持し、前記仮止め釘を取付材に貫通させて基礎材に打ち込み、前記保持材と前記釘との摩擦力によりこの保持材を介して前記取付材を前記基礎材側に押し付けて前記接着材を硬化させるまで前記釘の頂部と前記柱状部の頂部との間にクリアランスを設けた状態で仮止めすることにある。」
「【0014】
仮止め釘2は、軟質な合成樹脂等で構成される保持材20に鋼製の釘10を貫通させてなる。釘10の先端部11は比較的鋭利に形成され、電磁気を利用した高周波焼き入れや炭化等により硬質に加工され、形状の点を除きコンクリート等に対する打ち込みに耐え得る硬度を有している。例えば、ロックウェル硬度では52HRC以上57HRC以下、ビッカース硬度では550HV以上640HV以下が望ましい。中間部12はほぼ同径であり、頭部13を有している。
【0015】
保持材20は中央に釘の長手方向に沿った柱状部21を有し、貫通孔22に釘10の中間部12が摩擦力で保持され、円盤部23で取付材3を圧接する。したがって、釘10は先端部11が基礎材4に維持されれば足り、頭部13を柱状部21の先端に接触させるまで打ち込む必要はない。この円盤部23は取付材3の表面に溝部32が存在したり凹凸であっても釘10の姿勢を安定させることができる。」

2 引用文献1に記載された発明
上記引用文献1の記載内容から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
[引用発明]
「鋼製の釘10であって、
釘10の先端部11は比較的鋭利に形成され、高周波焼き入れや炭化等により硬質に加工され、
釘10の中間部12はほぼ同径であり、頭部13を有している、
鋼製の釘10。」

第4 当審の判断
1 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明は、「釘10の中間部12はほぼ同径であり、頭部13を有している鋼製の釘10」という構成を具備するから、柱状である中間部12の上端部に頭部13が形成された鉄材製である。また、引用発明は、「釘10の先端部11は比較的鋭利に形成され」ているから、頭部13を有する中間部12及び先端部11からなる釘本体の下端部に錐形状の先端部11が形成されているといえる。
したがって、引用発明の、「鋼製の釘10であって、釘10の先端部11は比較的鋭利に形成され」、「釘10の中間部12はほぼ同径であり、頭部13を有している鋼製の釘10」は、本願発明の「柱体の上端部に頭部が形成された軟質鉄材製の釘本体と、この釘本体の下端部に形成した円錐台形状あるいは多角錐台形状の先端部と」からなる「釘」との対比において、「柱体の上端部に頭部が形成された鉄材製の釘本体と、この釘本体の下端部に形成した錐形状の先端部と」からなる「釘」との限度で一致する。
さらに、引用発明は、「先端部11」が「高周波焼き入れ」「により硬質に加工され」ており、中間部12及び頭部13を除いた先端部11のみを焼入れして硬化処理されているといえる(引用文献1の段落【0025】を参照。)から、引用発明の、「先端部11」が「高周波焼き入れ」「により硬質に加工され」ていることは、本願発明の「この先端部の下端部側の一部のみを焼入れ、あるいは塑性鍛造により硬化処理を行なったこと」との対比において、「この先端部を焼入れ、あるいは塑性鍛造により硬化処理を行なったこと」との限度で共通する。
したがって、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「柱体の上端部に頭部が形成された鉄材製の釘本体と、この釘本体の下端部に形成した錐形状の先端部と、この先端部を焼入れ、あるいは塑性鍛造により硬化処理を行った釘。」
<相違点1>
釘の材質である鉄材に関し、本願発明は、「軟質鉄材」であるのに対し、引用発明は、「鋼」である点。
<相違点2>
錐形状の先端部の形状に関し、本願発明は、「円錐台形状あるいは多角錐台形状」であるのに対し、引用発明は、「比較的鋭利に形成され」ている形状である点。
<相違点3>
先端部の硬化処理に関し、本願発明は、「先端部の下端部側の一部のみを」硬化処理しているのに対し、引用発明は、中間部12及び頭部13を除いた「先端部11」が「硬質に加工され」ているものである点。

(2)判断
各相違点について検討する。
ア 相違点1について
釘は線材から製造され、頭部については線材の一端を塑性加工(鍛造、プレス)することにより形成されることが一般的であり(特開2004-316761号公報の段落【0003】、【0034】及び【0035】を参照。)、釘の材質である鉄材について、塑性加工及び切断加工が容易である軟鉄あるいは軟鋼と呼ばれる低炭素鋼を使用することが周知・慣用であるといえる(特開2004-316761号公報の段落【0010】及び特開2000-234607号公報の段落【0014】並びに日本工業規格(日本産業規格)JIS A 5508:2009の第3頁、JIS G 3532:2011の第1?3頁、及びJIS G 3505:2004の第1、2頁を参照。)。
したがって、引用発明において、釘の材質である鉄材について、塑性加工及び切断加工が容易である軟鉄あるいは軟鋼と呼ばれる低炭素鋼を使用すること、すなわち、相違点1に係る本願発明の構成となすことは当業者であれば容易に想到し得たものである。
イ 相違点2について
釘の先端部の形状として、円錐台形状あるいは多角錐台形状は周知・慣用であり(実願昭49-51087号(実開昭50-138469号)のマイクロフィルム、実願昭57-141847号(実開昭59-45313号)のマイクロフィルム、及び、実願昭57-38158号(実開昭58-140313号)のマイクロフィルムを参照。)、当該形状は、「比較的鋭利に形成され」ているといえる。
してみれば、引用発明において、比較的鋭利に形成された釘の錐形状の先端部として、周知・慣用である円錐台形状あるいは多角錐台形状とすること、すなわち、相違点2に係る本願発明の構成となすことは当業者であれば容易に想到し得たものである。
そして、先端の形状を尖ったものではなく、平坦とすることによって、釘が対象物に打ち込まれる際、平坦な先端形状によって対象物に対して剪断力が働くという作用効果も、当業者であれば予測しうる程度のものであって格別なものではない(実願昭49-51087号(実開昭50-138469号)のマイクロフィルムの明細書第1頁第11、12行、実願昭57-38158号(実開昭58-140313号)のマイクロフィルムの明細書第2頁第7?10行を参照。)。

ウ 相違点3について
硬化範囲を釘の先端部の下端部側の一部とするか、あるいは、先端部の全体とするかによって、作用効果に格別の相違が生じるものとはいえない。
この点について、審判請求人は、令和1年6月19日に提出した意見書の中で、「本願発明では、先端部の全体ではなく下端部側の一部にのみ硬化処理を施す(少なくとも胴部側のテーパー部の一部に焼入れを施さない)ことにより、木材の節部等の硬い部分を通過する際に、必要以上に節部を押し広げて釘が通過することなく、釘を打ち込むことができる。」「一方、これに対して前記引用文献1では、先端部の全体を硬化処理しているものであり、仮にこの釘に引用文献4乃至6の構成を組み合わせて釘の下端部を平坦に加工し、節部を有する木材に打ち込んだ場合には、節部を高硬度の先端部が胴部と同径となるまで押し広げ、硬い節部にひび割れを生じさせるおそれがあるものである。」したがって、「本願発明の請求項1?2は前記引用文献1?6とは明らかに目的、構成が相違し、それらの作用効果にも顕著なる差異がある」と主張する。
しかしながら、本願明細書には、段落【0014】に「上記構成の釘1を、節7のある所の木材8に打ち込むと、釘1の先端部5は節7の所まで簡単に打ち込むことができるとともに、節7の部分でも、焼入れにより硬化された先端部硬化処理部6が、図5に示すように節7から逃げることなく直進して打ち込むことができ、確実に釘1による接続を行なうことができる。」との記載等がなされているものの、審判請求人が当該意見書で主張する作用効果についての記載は見いだされない。したがって、当該意見書における審判請求人の主張は、本願明細書の記載に基づかない主張である。
仮にその点をおいたとしても、まず、釘において硬化範囲を選択的に限定することに、困難性は認められない。この点に関して必要であれば、上記特開2000-234607号公報の段落【0007】に、「選択された位置においてのみ焼入れされた釘を提供する」ことが記載されている点を参照されたい。
次に、本願発明において、作用効果に当該意見書において主張されているような「顕著なる差違」があるとは認められない。すなわち、硬化範囲を釘の先端部の下端部側の一部とした場合であっても、先端部が対象物の硬い部分(例えば節部)を通過し、先端部の全体、あるいは、胴部がこの硬い部分に達すれば、この硬い部分は胴部と同径またはそれに近い径となるまで押し広げられるのであるから、硬化範囲を先端部の全体とした場合と比較して、作用効果に格別の差異があるとは認められない。
そして例えば、焼入れによる硬化処理における硬化範囲は、加熱範囲や温度、時間の設定等により任意に設定しうるものである。
したがって、引用発明において、高周波焼入れにより硬質に加工する部分を先端部11の下端部側の一部とすること、すなわち、相違点3に係る本願発明1の構成となすことは当業者における設計上の一事項にすぎず、当業者であれば容易になし得たものといえる。
エ 作用効果について
そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知・慣用の技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
オ 小括
ア?エのとおりであるから、本願発明は引用発明及び周知・慣用の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び周知・慣用の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-03 
結審通知日 2019-09-04 
審決日 2019-09-18 
出願番号 特願2016-512490(P2016-512490)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷井 雅昭  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 尾崎 和寛
内田 博之
発明の名称 釘  
代理人 三浦 光康  

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