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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1356554
審判番号 不服2018-10162  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-25 
確定日 2019-10-30 
事件の表示 特願2015-502484「X線焦点スポット運動の直接制御」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月 3日国際公開、WO2013/144752、平成27年 4月20日国内公表、特表2015-511520〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)3月8日(パリ条約による優先権主張 2012年3月26日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年12月9日付けで拒絶理由が通知され、平成29年3月8日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年8月7日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年11月1日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成30年3月20日付けで補正の却下の決定がされたところ、同日付けで拒絶査定され、同年7月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成30年7月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年7月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「対象物の関心体積の空間情報を供するX線撮像システムであって:
X線画像取得ユニット;
ディスプレイユニット;
入力ユニット;及び
適合手段;
を有し、
前記X線画像取得ユニットは、第1投影方向での対象物の関心体積の第1画像を取得し、かつ、第2投影方向での対象物の関心体積の第2画像を取得するように構成され、
前記X線画像取得ユニットは立体画像データを供し、
前記第1画像及び前記第2画像のそれぞれは立体視用第1画像及び立体視用第2画像を含み、
前記ディスプレイユニットは、前記立体視用第1画像と前記立体視用第2画像を表示するように構成され、
前記ディスプレイユニットが、前記立体視用第1画像を表示するように構成された第1ディスプレイ、及び、前記立体視用第2画像を表示するように構成された第2ディスプレイを有し、
前記立体視用第1画像と前記立体視用第2画像が仮想焦点へ向かう共通の検視方向を構成するように、前記第1ディスプレイと前記第2ディスプレイは、ユーザーの眼に対して配置され、
前記入力ユニットは、ユーザー入力に基づいて前記第2投影方向を決定するように構成され、
前記ユーザー入力は、前記第1画像を検視するユーザーの検視方向の第2検視方向への変化を含み、
前記適合手段は、前記決定された第2検視方向と一致する前記第2投影方向での前記第2画像の取得のため、前記X線画像取得ユニットのX線投影方向と前記対象物の関心体積との間の空間関係を調節するように構成される、
X線撮像システム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年3月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「対象物の関心体積の空間情報を供するX線撮像システムであって:
X線画像取得ユニット;
ディスプレイユニット;
入力ユニット;及び
適合手段;
を有し、
前記X線画像取得ユニットは、第1投影方向での対象物の関心体積の第1画像を取得し、かつ、第2投影方向での対象物の関心体積の第2画像を取得するように構成され、
前記画像取得ユニットは立体画像データを供し、
前記第1画像及び前記第2画像のそれぞれは立体視用第1画像及び立体視用第2画像を含み、
前記ディスプレイユニットは、前記立体視用第1画像と前記立体視用第2画像を表示するように構成され、
前記ディスプレイユニットが、前記立体視用第1画像を表示するように構成された第1ディスプレイ、及び、前記立体視用第2画像を表示するように構成された第2ディスプレイを有し、
前記立体視用第1画像と前記立体視用第2画像が仮想焦点へ向かう共通の検視方向を構成するように、前記第1ディスプレイと前記第2ディスプレイは、ユーザーの眼に対して配置され、
前記入力ユニットは、ユーザー入力に基づいて前記第2投影方向を決定するように構成され、
前記ユーザー入力は、前記第1画像を検視するユーザーの検視方向の第2検視方向への変化を含み、
前記適合手段は、前記第2検視方向と相関する前記第2投影方向での前記第2画像の取得のため、前記画像取得ユニットの投影方向と前記対象物の関心体積との間の空間関係を調節するように構成される、
X線撮像システム。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記適合手段」が、「前記第2画像の取得のため」の「前記画像取得ユニットの投影方向と前記対象物の関心体積との間の空間関係」の「調節」が、「前記第2検視方向と相関する前記第2投影方向で」調節することを、「前記決定された第2検視方向と一致する前記第2投影方向で」調節することと、調節するための「前記第2投影方向」に限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された引用文献である、特開2009-022602号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(以下、下線は、当審にて付した。)

(引1a)「【0014】
図1に示されるように、本実施形態のX線画像診断装置は、検査室に設けられ、
・天井走行部101によって矢印X-Y方向に移動する天井懸垂部102と、
・その天井懸垂部102の先端で矢印A方向に回転し矢印B方向に(アームに沿って)スライドするCアーム103と、
・Cアーム103の一方の端部に保持された放射線発生部としてのX線管104と、
・Cアーム103の他方の端部にX線管104と対向して取り付けられ、矢印C方向(X線管104とX線受像部105を結ぶ軸方向)に前進後退する、放射線受像部としてのX線受像部105と、
・被検体を載せ矢印D方向にスライドする天板106を有し、上下(矢印E方向)に昇降する検診台107と、
・上述の各可動部で構成される移動機構(矢印A、B、C、D、EおよびX-Y方向への各部の移動を実現するための機構)とシステム全体を制御する制御装置108と、
・撮像したX線画像を表示する表示装置109と、
・術者の頭部に装着しX線画像と実際の患者の様子を観察することができるとともに、得られたX線画像を表示するための表示部を提供するシースルータイプのヘッドマウントディスプレイ(HMD110)と、
・HMD110を装着した術者(観察者)の視線位置を検出する視線検出部と、
・上記術者(観察者)の検察室における位置を検出するマット上の感圧センサ111とを備えている。
【0015】
シースルー型のHMD110は、ヴァーチャルリアリティの技術分野において公知のものであり、外見的には水中眼鏡型やヘルメット型をしており、術者等の頭部に装着される。本実施形態で採用されるHMD110は、HMDの視線正面方向の一部、例えば下半分が透明なカバーまたはレンズ等で覆われ、前方の視界が観察可能になっている。そして、この視野の一部(例えば上側)に小型液晶ディスプレイ等の表示装置が配置され、映像信号を受けて画像を表示できるようになっている。
【0016】
本実施形態のX線画像診断装置においては、術者は頭部にシースルー型のHMD110を装着して、HMD110上に表示したX線画像の一部を注視したり、頭部を動かすだけで、所望の照射部位にCアーム103を移動することを可能とする。なお、本実施形態では、X線撮影及びX線透視を総称してX線投影という。」

(引1b)「【0018】
次に図2のX線画像診断装置の処理フローチャートを用いて、本実施形態のX線画像診断装置による処理の流れについて詳しく説明する。
【0019】
<ステップS201>
装置の主電源がONされると、ステップS201において、視線検出機能を有する視線検出部1122と角度検出機能を有する頭部方位検出部1123を具備したHMD110が起動される。視線検出機能とジャイロセンサなどの角度検出機能を用いて装着者が見ようとする視線位置と頭部の傾きを検出することができる。なお、視線検出機能と角度検出機能を有するHMD、すなわち、視線検出部1122と頭部方位検出部1123とを有するHMDとしては、例えば特開平8-328512や、特開平11-177907に記載された装置を適用することができる。また、検査室のCアーム103および検診台107の周囲の床に敷かれた感圧センサ111から術者の位置情報を取得する。
【0020】
<ステップS202>
次に、ステップS202においてHMDの画像表示部1121にX線画像を表示する。
【0021】
図3は、HMDに表示する画像の初期設定状態を示した図である。図3の301はシースルー機能を有するHMDを通して装着者が実際の風景を観察可能な表示領域である。図3の302はX線画像であり、画像処理部1102で補正処理がなされた画像データが装着者が実際に見ている表示領域301の風景の上に重ねて表示される。このように、本実施形態の画像表示部1121は、術者(観察者)の頭部に装着が可能なシースルー型のヘッドマウントディスプレイである。そして、このヘッドマウントディスプレイには、シースルー画像の表示領域301の一部に放射線が投影されることによって得られる放射線投影画像であるX線画像302を表示する表示画面が設けられている。
【0022】
なお、画像処理部1102は、感圧センサ111からの術者の位置情報に基づいてX線画像302の回転処理を行う。図14は、その具体例を示すものである。図14(a)に示すように、術者が天板106の下側(患者の下方)に位置する場合には、実際の患者の方向とX線画像の表示方向が合っているので、画像処理部1102は、X線画像の回転処理を実行しない。また、図14(b)に示すように、術者が天板106の左側に位置する場合には、画像処理部1102は、表示されるX線画像302の90度の右回転処理を行い、実際の患者の方向に合わせる。また、図14(c)に示すように、術者が天板106の右側に位置する場合には、画像処理部1102は、表示されるX線画像302の90度の右回転処理を行い、実際の患者の方向に合わせる。
このような処理により、術者によるX線画像と実際の患者の患部の位置把握が容易となる。
【0023】
<ステップS203>
次にステップS203において、視線検出部1122は、HMD装着者の視点を抽出し、図3のX線画像302を注視したかどうかを判定する。
【0024】
以下に、HMD装着者がX線画像302を注視したか否かの判定の方法について図4を用いて詳しく述べる。
【0025】
まず、視線検出部1122により、HMD装着者の視線位置の計測を行う。視線位置の計測は定期的に繰り返し行われ、視点を図4の401,402,403のように検出したとする。視点の位置座標を(X1,Y1),(X2,Y2),(X3,Y3)、検出した時の相対時刻をt1,t2,t3とし、相対時刻の関係がt1<t2<t3になっているとする。この場合、視点がX線画像302の表示領域内に、連続して所定の時間以上存在する場合に、X線画像が注視されたとみなし、処理を次のステップ204に移行させる。また、視点がX線画像302の領域内に連続して所定時間以上存在しなかった場合、或いは、X線画像302の領域外に視点が検出された場合は、X線画像が注視されていないと判断され、S203の処理が繰り返される。
【0026】
<ステップS204>
上述のステップS203によりX線画像が注視されていると判断された場合、照射位置を移動制御するステップに移行する。視線検出部1122と頭部方位検出部1123は、HMD110の装着者の視点位置と頭の傾きを抽出する。図6は、X線画像302の部分領域と、その領域内で視点が検出された場合に移動する相対位置の関係を示した図である。
【0027】
領域Aで視点が検出された場合はX線管104とX線受像部105の天板106(被検体1)に対する2次元的な移動は行わない。それ以外のB,C,D,E,F,G、H,I領域で視点が検出された場合は、それぞれ図6の一覧表に示した方向に移動する処理が行われる。たとえば、図7の701に示す領域Hに視点が検出された場合には、造影剤やカテーテルがさらに現在の位置から702で示すベクトル方向に移動していくことが想定される。従って、照射部位を現在の位置よりも702で示すベクトル方向に移動させる処理
を行う。これにより、照射部位は図8の801から802に移動することになる。より具体的には、図1の天井懸垂部102をX方向にx1、Y方向にy1だけ移動させることにより、図8の803に示すベクトル量の移動が可能になる。具体的には、視線検出部1122は、視点の検出を一定の時間ごとに繰り返し行う。そして、視点がどの領域で検出されたかにより、移動する方向が決定され、移動制御部1105により、予め定められた移動量で2次元的な照射位置が移動する仕組みになっている。このように、移動制御部1105は、視線検出部1122が検出した視線位置に基づいて、2次元的な照射位置を制御する。」

(引1c)「【0032】
<ステップS205>
ステップS205において、位置算出部1104は、Cアームおよび天板の相対位置を算出する。
【0033】
図10はCアーム103と天板106の相対位置を示した図である。Pを中心とする3次元の仮想空間にCアーム103及び天板106の位置座標を記録していく。視線及び頭部の傾きの検出後Cアーム103や天板106の移動量が算出されるので、移動後の位置座標を算出し記録していく。図10において、X線受像部105のP1?P4の相対位置と、X線管104のQ1?Q4の相対位置と、天板106のT1?T4及びS1?S4の相対位置を算出する。天板106の上部の四隅T1?T4は、天板106上に被検体1が横たわったときを想定し、予め被検体の高さを含んだ座標位置になっている。これによりバーチャルな3次元空間において、リアルタイムにCアーム103及び天板106の現在の位置を確認することができる。」

(引1d)「【0040】
<ステップS208>
一方、ステップS206で接触の危険がないと判断された場合には、ステップS208において、移動制御部1105は、ステップS205で算出された移動量に基づいて移動機構を制御し、Cアーム103および天板106を移動させる。すなわち、移動制御部1105は、視線検出部1122で検出された視線位置と頭部方位検出部1123で検出された術者の頭部の傾きとに基づいて移動機構を制御する。これにより、術者が意図する照射位置、照射方向によるX線投影画像が取得され、画像表示部1121に表示される。
【0041】
このように本実施形態のX線画像診断装置においては、術者が装置を直接触らないで、X線画像を注視したり頭部を動かしたりすることで所望する位置にコントロールすることが可能になる。」

(引1e)「【図6】



(イ)上記(引1a)?(引1e)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「術者は頭部にシースルー型のHMD110を装着して、HMD110上に表示したX線画像の一部を注視したり、頭部を動かすだけで、所望の照射部位にCアーム103を移動することを可能とするX線画像診断装置において、
X線画像診断装置は、
Cアーム103の一方の端部に保持された放射線発生部としてのX線管104と、
Cアーム103の他方の端部にX線管104と対向して取り付けられる、放射線受像部としてのX線受像部105と、
各可動部で構成される移動機構とシステム全体を制御する制御装置108と、
術者の頭部に装着しX線画像と実際の患者の様子を観察することができるとともに、得られたX線画像を表示するための表示部を提供するシースルータイプのヘッドマウントディスプレイ(HMD110)と、
HMD110を装着した術者(観察者)の視線位置を検出する視線検出部と、
上記術者(観察者)の検察室における位置を検出するマット上の感圧センサ111とを備え、
視線検出機能を有する視線検出部1122を具備したHMD110が起動され、視線検出機能を用いて装着者が見ようとする視線位置を検出するステップS201と、
HMDの画像表示部1121に、画像処理部1102で、感圧センサ111からの術者の位置情報に基づいてX線画像302の回転処理を行う補正処理がなされた画像データであるX線画像302を表示するステップS202と、
視線検出部1122は、HMD装着者の視点を抽出し、視点がX線画像302の表示領域内に、連続して所定の時間以上存在する場合に、X線画像が注視されたとみなし、処理を次のステップ204に移行させるステップS203と、
視線検出部1122は、HMD110の装着者の視点位置を抽出し、領域Aで視点が検出された場合はX線管104とX線受像部105の天板106(被検体1)に対する2次元的な移動は行わず、それ以外のB,C,D,E,F,G、H,I領域で視点が検出された場合は、一覧表に示した方向に移動する処理が行われるステップ204と、
位置算出部1104は、視線の検出後Cアーム103や天板106の移動量を算出することにより、Cアーム103および天板106の相対位置を算出するステップS205と、
移動制御部1105は、ステップS205で算出された移動量に基づいて移動機構を制御し、Cアーム103および天板106を移動させ、移動制御部1105は、視線検出部1122で検出された視線位置に基づいて移動機構を制御し、術者が意図する照射位置、照射方向によるX線投影画像が取得され、画像表示部1121に表示されるステップS208とを有する
X線画像診断装置。」

イ 引用文献2
(ア)同じく原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された特開平08-000604号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。

(引2a)「【0013】
【作用】この医用X線透視装置においては、異なる2方向から交互に被検者に対してX線を照射し、得られた2方向からの透視画像を、X線照射の切り替えに同期して術者の左右の眼にそれぞれ対応した画像を切り替えて表示する。したがって、これにより、術者は左右の眼で、それぞれ異なる方向からの透視画像を見ることになり、被検者のX線透視画像を立体的に見ることが可能になる。
【0014】
【実施例】図1は、本発明に係る医用X線透視装置の一実施例の、制御装置のブロック図である。
【0015】本実施例においては、X線管として、焦点を2つ有する2焦点X線管を用いている。そして、被検者2に、このX線管4aの一方の焦点からX線を照射し、被検者2を透過したX線がI.I.6aに入射すると、透過X線は、図示を省略してあるテレビカメラでアナログ信号に変換される。このアナログ信号はA/D変換器52でデジタル信号に変換され、画像処理部54に送られる。送られてきたデジタル画像信号は、コントラスト、ガンマ特性変換等の画像処理が行われ、フレームメモリA86に格納された後、階調処理をする表示階調処理部56に送られる。階調処理が済むとデジタル画像信号はR/L切り替え部94を経て、液晶表示制御部96へ送られ、術者の左眼に対応する左側液晶ディスプレイ102に、被検者2の透視像を表示する。また、次のタイミングにおいては、X線管4aの他の焦点から放射されたX線は、上記と同じ処理を行い、デジタル画像信号がフレームメモリB88に格納された後、R/L切り替え部94により、液晶表示制御部98へ送られ、術者の右眼に対応する右側液晶ディスプレイ104に、被検者2の透視像を表示する。以上の説明におけるR/L切り替え部94の切り替えのタイミングは、以下に述べる焦点の切り替えに同期するように、システムコントローラ84で制御される。」

(イ)上記記載から、引用文献2には、次の技術が記載されていると認められる。(以下、「技術事項2」という。)

「術者は左右の眼で、それぞれ異なる方向からの透視画像を見ることにより、被検者のX線透視画像を立体的に見ることを可能にするため、X線管4aの一方の焦点からX線を照射し、被検者を透過したX線がイメージインテンシファイヤに入射すると、透過X線は、テレビカメラでアナログ信号に変換され、このアナログ信号はA/D変換器でデジタル信号に変換され、画像処理部に送られる。送られてきたデジタル画像信号は、コントラスト、ガンマ特性変換等の画像処理が行われ、フレームメモリに格納された後、階調処理をする表示階調処理部に送られ、階調処理が済むとデジタル画像信号は、液晶表示制御部へ送られ、術者の左眼に対応する左側液晶ディスプレイに、被検者の透視像を表示し、X線管の他の焦点から放射されたX線は、上記と同じ処理を行い、デジタル画像信号がフレームメモリに格納された後、液晶表示制御部へ送られ、術者の右眼に対応する右側液晶ディスプレイに、被検者の透視像を表示する医用X線透視装置。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「X線画像診断装置」及び「「HMD110」は、それぞれ、本件補正発明の「X線撮像システム」及び「ディスプレイユニット」に相当する。そして、引用発明の「X線画像診断装置」の「HMD110上に表示したX線画像」は、本件補正発明の「対象物の関心体積の空間情報」であることは明らかであるから、引用発明の「HMD110上に」「X線画像」を「表示」する「X線画像診断装置」は、本件補正発明の「対象物の関心体積の空間情報を供するX線撮像システム」に相当する。

(イ)引用発明の「Cアーム103」には、「一方の端部に保持された放射線発生部としてのX線管104と」、「他方の端部にX線管104と対向して取り付けられる、放射線受像部としてのX線受像部105と」を備えているから、本件補正発明の「X線画像取得ユニット」に相当する。

(ウ)引用発明の「HMD110を装着した術者(観察者)の視線位置を検出する視線検出部」及び「移動制御部1105」は、それぞれ、本件補正発明の「入力ユニット」及び「適合手段」に相当する。

(エ)引用発明の「ステップS202」では、「HMDの画像表示部1121に、画像処理部1102で、感圧センサ111からの術者の位置情報に基づいてX線画像302の回転処理を行う補正処理がなされた画像データであるX線画像302」が表示され、この「X線画像302」は、「術者」が「対象物の関心体積」に対して見たい方向の投影画像であることは明らかであるから、本件補正発明の「第1投影方向での対象物の関心体積の第1画像」に相当する。また、引用発明の「ステップS208」では、「移動制御部1105は、ステップS205で算出された移動量に基づいて移動機構を制御し、Cアーム103および天板106を移動させ、移動制御部1105は、視線検出部1122で検出された視線位置に基づいて移動機構を制御し、術者が意図する照射位置、照射方向によるX線投影画像が取得され、画像表示部1121に表示され」ているから、この「術者が意図する照射位置、照射方向によるX線投影画像」は、本件補正発明の「第2投影方向での対象物の関心体積の第2画像」に相当する。そして、引用発明の「X線画像診断装置」と、本件補正発明の「X線画像取得ユニット」とは、「第1投影方向での対象物の関心体積の第1画像を取得し、かつ、第2投影方向での対象物の関心体積の第2画像を取得するように構成され」ている点で一致する。

(オ)引用発明の「ステップS208」で、「移動制御部1105は、ステップS205で算出された移動量に基づいて移動機構を制御し、Cアーム103および天板106を移動させ、移動制御部1105は、視線検出部1122で検出された視線位置に基づいて移動機構を制御し、術者が意図する照射位置、照射方向によるX線投影画像が取得され、画像表示部1121に表示される」。
ここで「ステップS208」における「術者が意図する照射位置、照射方向」は、本件補正発明の「前記第2投影方向」に相当する。そして、この「術者が意図する照射位置、照射方向」は、「視線検出部1122で検出された視線位置」「に基づいて移動機構を制御」されるものである。また、引用発明の「視線検出部1122で検出された視線位置」は、本件補正発明の「前記ユーザー入力」に相当する。
すると、引用発明の「視線検出部1122」と、本件補正発明の「前記入力ユニット」とは、「ユーザー入力に基づいて前記第2投影方向を決定するように構成され」ている点で一致する。

(カ)引用発明の「視線検出部1122で検出された視線位置」は、「視線検出機能を有する視線検出部1122」により検出されているものであって、視線の方向にある位置を検出していることから、検視方向であるといえる。そして、引用発明の「ステップ204」では、「視線検出部1122は、HMD110の装着者の視点位置を抽出し、領域Aで視点が検出された場合はX線管104とX線受像部105の天板106(被検体1)に対する2次元的な移動は行わず、それ以外のB,C,D,E,F,G、H,I領域で視点が検出された場合は、一覧表に示した方向に移動する処理が行われる」ことから、「視線検出部1122で検出された視線位置」が、「領域A」「以外のB,C,D,E,F,G、H,I領域で視点が検出された場合は」、「領域A」から「それ以外のB,C,D,E,F,G、H,I領域」に視線の方向が変化したといえる。すると、「領域A」への視線の方向及び「それ以外のB,C,D,E,F,G、H,I領域」への視線の方向は、それぞれ、本件補正発明の「前記第1画像を検視するユーザーの検視方向」及び「第2検視方向」に相当し、引用発明の「視線検出部1122で検出された視線位置」と、本件補正発明の「前記ユーザー入力」とは、「前記第1画像を検視するユーザーの検視方向の第2検視方向への変化を含」む点で一致する。

(キ)引用発明の「ステップS205」では、「視線の検出後Cアーム103や天板106の移動量を算出」し、「ステップS208」では、「移動制御部1105は、ステップS205で算出された移動量に基づいて移動機構を制御し、Cアーム103および天板106を移動させ、移動制御部1105は、視線検出部1122で検出された視線位置に基づいて移動機構を制御し、術者が意図する照射位置、照射方向によるX線投影画像」を取得しており、この「術者が意図する照射位置、照射方向」は、「ステップS204」における、「それ以外のB,C,D,E,F,G、H,I領域」への視線の方向と一致する方向であることは明らかであるから、「視線の検出後Cアーム103や天板106の移動量を算出」し、「術者が意図する照射位置、照射方向によるX線投影画像」を取得するために「移動制御部1105は、ステップS205で算出された移動量に基づいて移動機構を制御し、Cアーム103および天板106を移動させ、移動制御部1105は、視線検出部1122で検出された視線位置に基づいて移動機構を制御」することは、本件補正発明の「前記適合手段は、前記決定された第2検視方向と一致する前記第2投影方向での前記第2画像の取得のため、前記X線画像取得ユニットのX線投影方向と前記対象物の関心体積との間の空間関係を調節する」ことに相当する。

イ 以上(ア)?(キ)より、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「対象物の関心体積の空間情報を供するX線撮像システムであって:
X線画像取得ユニット;
ディスプレイユニット;
入力ユニット;及び
適合手段;
を有し、
前記X線画像取得ユニットは、第1投影方向での対象物の関心体積の第1画像を取得し、かつ、第2投影方向での対象物の関心体積の第2画像を取得するように構成され、
前記入力ユニットは、ユーザー入力に基づいて前記第2投影方向を決定するように構成され、
前記ユーザー入力は、前記第1画像を検視するユーザーの検視方向の第2検視方向への変化を含み、
前記適合手段は、前記決定された第2検視方向と一致する前記第2投影方向での前記第2画像の取得のため、前記X線画像取得ユニットのX線投影方向と前記対象物の関心体積との間の空間関係を調節するように構成される、
X線撮像システム。」

【相違点】
「前記X線画像取得ユニット」及び「ディスプレイユニット」について、本件補正発明は、前者が「立体画像データを供し、前記第1画像及び前記第2画像のそれぞれは立体視用第1画像及び立体視用第2画像を含」むもので、後者が「前記立体視用第1画像と前記立体視用第2画像を表示するように構成され」、「前記立体視用第1画像を表示するように構成された第1ディスプレイ、及び、前記立体視用第2画像を表示するように構成された第2ディスプレイを有し、前記立体視用第1画像と前記立体視用第2画像が仮想焦点へ向かう共通の検視方向を構成するように、前記第1ディスプレイと前記第2ディスプレイは、ユーザーの眼に対して配置され」るのに対し、引用発明は、立体視ではない点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
技術事項2は「被検者のX線透視画像を立体的に見ることを可能にするため」に、「術者の左眼に対応する左側液晶ディスプレイ」と「術者の右眼に対応する右側液晶ディスプレイ」とに、「被検者の透視像を表示する」ように構成されているから、「左側液晶ディスプレイ」は「術者の左眼に対応する」「被検者の透視像」を、また、「右側液晶ディスプレイ」は、「術者の右眼に対応する」「被検者の透視像」を、それぞれ表示している。そして、「術者の左眼に対応する」「被検者の透視像」は、「X線管の一方の焦点からX線」により得られた画像であり、「術者の右眼に対応する」「被検者の透視像」は、「X線管の他の焦点から放射されたX線」により得られた画像であり、この2つの画像により「X線透視画像を立体的」に見せるためには、「X線管の一方の焦点」へ向かう視線方向と「他の焦点」へ向かう視線方向が共通の視線方向を構成するものでなければならないことも明らかである。
ここで、技術事項2の「被検者のX線透視画像を立体的に見ること」、「術者の左眼に対応する」「被検者の透視像」、「術者の右眼に対応する」「被検者の透視像」、「術者の左眼に対応する左側液晶ディスプレイ」及び「術者の右眼に対応する右側液晶ディスプレイ」は、それぞれ、本件補正発明の上記相違点に係る「立体画像データを供」すること、「立体視用第1画像」、「立体視用第2画像」、「前記立体視用第1画像を表示するように構成された第1ディスプレイ」及び「前記立体視用第2画像を表示するように構成された第2ディスプレイ」に相当しており、そして、上記技術事項2においても、「X線透視画像を立体的」に見せるためには、「X線管の一方の焦点」へ向かう視線方向と「他の焦点」へ向かう視線方向が共通の視線方向を構成するものでなければならないことも明らかであるから、「前記立体視用第1画像と前記立体視用第2画像が仮想焦点へ向かう共通の検視方向を構成するように」されている。
一方、引用発明の「X線画像診断装置」における「前記X線画像取得ユニット」及び「ディスプレイユニット」は、「立体視用」のものではないが、引用発明の「X線画像診断装置」においても、術者(観察者)が画像診断を行う上でその画像を立体的に見るという動機は十分にあることから、引用発明において、その画像を立体的に見るために、「X線画像診断装置」における「前記X線画像取得ユニット」及び「ディスプレイユニット」について、上記技術事項2を適用して、本件補正発明の相違点に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用文献1及び引用文献2に記載された事項から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年7月25日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年3月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1-11に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2009-022602号公報
引用文献2:特開平08-000604号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明の「前記適合手段」が、「前記第2画像の取得のため」の「前記画像取得ユニットの投影方向と前記対象物の関心体積との間の空間関係」の「調節」が、「前記第2検視方向と相関する前記第2投影方向で」調節することを、「前記決定された第2検視方向と一致する前記第2投影方向で」調節することとした、調節するための「前記第2投影方向」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び技術事項2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-05-31 
結審通知日 2019-06-04 
審決日 2019-06-18 
出願番号 特願2015-502484(P2015-502484)
審決分類 P 1 8・ 14- Z (A61B)
P 1 8・ 537- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 九鬼 一慶  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 福島 浩司
▲高▼見 重雄
発明の名称 X線焦点スポット運動の直接制御  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  

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