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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1356581
審判番号 不服2018-530  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-16 
確定日 2019-10-31 
事件の表示 特願2017-526996「空気入りタイヤ用ゴム組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月19日国際公開、WO2017/179576〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)4月11日(優先権主張 2016年4月14日、日本)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 8月 9日付け:拒絶理由通知書
同年10月 5日 :意見書、手続補正書の提出
同年11月 2日 :拒絶査定
平成30年 1月16日 :審判請求書の提出
平成31年 2月 4日 :当審拒絶理由通知書
同年 4月 2日 :意見書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?12に係る発明は、平成29年10月5日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりものと認められ、そのうち、請求項1及び2に係る発明は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
0℃でのせん断弾性率が12?40kPaであり、かつ、95℃でのせん断弾性率が2?10kPaである空気入りタイヤ用シーラント層用ゴム組成物。
【請求項2】
0℃での粘度と95℃での粘度との差の絶対値が1?79kPa・sであり、かつ、0℃でのせん断弾性率と95℃でのせん断弾性率との差の絶対値が2?38kPaである請求項1記載の空気入りタイヤ用シーラント層用ゴム組成物。」(以下、「本願発明1」及び「本願発明2」という。)

第3 当審が通知した拒絶理由
当審が通知した拒絶理由のうち、理由2(実施可能要件)は、「この出願は、明細書の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」というものであり、その概略は、以下のとおりである。
「『0℃でのせん断弾性率が12?40kPa』及び『95℃でのせん断弾性率が2?10kPa』を同時に実現するためには、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤が必要になると解される。
したがって、発明の詳細な説明には、当業者が本願発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
・・・本願発明2におけるせん断弾性率及び粘度の条件の全てを満たすゴム組成物を当業者が製造できると解することはできない。」

第4 当審の判断
1 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
特許法第36条第4項第1号は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。
そして、物の発明における発明の実施とは、その物を生産、使用等をすることをいうから、物の発明においては、発明の詳細な説明に、その物を製造する方法及び使用する方法について具体的な記載が必要である。
これは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が、明細書に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤や複雑高度な実験等を行うことなく、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならないことを意味するものである。
そこで、この点について以下に検討する。

2 本願発明1について
(1)ゴム組成物を構成する成分及びその配合量について
本願発明1は、請求項1の記載からみて、せん断弾性率の数値範囲を特定したタイヤ用シーラント層用ゴム組成物であるから、ゴム組成物を構成する成分として、ゴム成分を含有すること以外は、他の構成成分及びこれらの配合量を何ら特定するものではない。また、本願発明1は、タイヤ用シーラント層用という用途からも、他の構成成分及びこれらの配合量が自ずと定まるものでもない。これらのことから、本願発明1は、ゴム成分を含有すること以外は、他の構成成分及びこれらの配合量は任意であると解される。

(2)発明の詳細な説明に記載された事項
発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0023】
本発明においては、シーラント材の定常流せん断粘度を以下の条件で測定して、測定温度ごとに計測歪を横軸、せん断粘度を縦軸としたグラフを作成した場合の、せん断粘度の最大値を各温度(0℃、95℃)における粘度とし、また、計測歪0?100%でのグラフの傾きを各温度(0℃、95℃)におけるせん断弾性率とする。
シーラント材の定常流せん断粘度を測定し、計測歪を横軸にせん断粘度を縦軸にとったグラフを作成した場合の一例の概略を図10に示す。図10中、計測歪0?100%の範囲を色づけしている。すなわち、図10中の色づけされた領域におけるグラフの傾きがせん断弾性率を表す。
<測定条件>
測定機:レオメーターMCR52(アントンパール社製)
測定モード:定常流せん断粘度
測定温度:0℃又は95℃
予熱時間:1分間(設定温度に熱したプレート間に挟み込んでからの時間)
ギャップ:1mm(プレート間距離、ただし、シーラント材のはみ出しはなし)
計測時間:15(秒)
計測歪:0?10,000(%)
せん断速度:6(1/s)
ロータ形状:円形プレート」

イ 「【0031】
上記ゴム組成物において、0℃での粘度と95℃での粘度との差の絶対値が1?79kPa・sである粘度、及び、0℃でのせん断弾性率と95℃でのせん断弾性率との差の絶対値が2?38kPaであるせん断弾性率は、該ゴム組成物を後述する所定の配合とすることにより付与することができるが、これに限らず、以下の理由から、0℃での粘度と95℃での粘度との差の絶対値、0℃でのせん断弾性率と95℃でのせん断弾性率との差の絶対値がそれぞれ所定範囲である本願発明のゴム組成物をどのように調製すればよいのかは当業者であれば理解可能である。
【0032】
まず、粘度については、粘度は一般に化合物の分子量と関係しており、分子量が小さければ粘度は低くなり、分子量が大きければ粘度は高くなる傾向にある、ということは化学分野において技術常識である。したがって、ゴム組成物にどのような成分を配合する場合であっても、用いる成分の分子量から当該成分を配合すると組成物の粘度は高くなるのか低くなるのか、といったことは当業者であれば容易に理解することができる事項である。そして更には、ゴム成分などのポリマー成分は分子量が大きくなれば、分子が動きにくくなり、粘度が高くなること、補強剤(充填剤)の配合量が多くなれば、補強効果が高くなり、粘度が高くなること、架橋剤の配合量が多くなれば、架橋がより進行し、粘度が高くなること、液状成分の配合量が多くなれば、ポリマー成分間の距離が開き、粘度が低くなること、といったこともシーラント材分野の技術常識である。これらのことから、当業者であれば、ゴム組成物にどのような成分を配合する場合であっても、ゴム組成物の0℃での粘度と95℃での粘度との差の絶対値を所定範囲に調整することは可能である。
【0033】
次に、せん断弾性率について、一般に化合物の分子間は化学結合により架橋しており、その架橋点間が伸ばされ破壊される際に強度が発現するものであり、ゴム組成物の場合、せん断変形によってゴムが変形する際に架橋点が伸ばされ、その際に硬くなり、せん断弾性率は高くなる。すなわち、せん断弾性率はゴム組成物の架橋の度合いと関係しており、架橋の度合いが高ければせん断弾性率は高くなり、架橋の度合いが低ければせん断弾性率は低くなる傾向にある。これらのことは化学分野において技術常識である。ここで、化学的な架橋については、架橋されるポリマー成分や、その分子をつなぐ架橋剤の種類を調整したり、混練条件を調整したりすることによって、架橋点の量を制御することが可能である。このことも化学分野において技術常識である。そして更には、架橋剤の配合量が少なくなれば、ゴム組成物中での化学的架橋反応が少なくなり、せん断弾性率が低くなること、混練時の圧力を下げたり、温度を下げたりすることで混練時の押出機内での反応の進行が緩やかになり、結果ゴム組成物中での化学的架橋反応が少なくなり、せん断弾性率が低くなること、といったことはシーラント材分野の技術常識である。これらのことから、当業者であれば、ゴム組成物にどのような成分を配合する場合であっても、ゴム組成物の0℃でのせん断弾性率と95℃でのせん断弾性率との差の絶対値を所定範囲に調整することは可能である。
したがって、例えば、ゴム成分などのポリマー成分として分子量の大きいものを採用して高粘度とし、かつ、架橋剤の配合量を減らしたり、あるいは、混練時の圧力を下げたり、温度を下げたりしてせん断弾性率を低くすることができるように、これらの指針を組み合わせることで、0℃での粘度と95℃での粘度との差の絶対値、0℃でのせん断弾性率と95℃でのせん断弾性率との差の絶対値がそれぞれ所定範囲である本願発明のゴム組成物を調製することが可能である。
【0034】
0℃での粘度と95℃での粘度との差の絶対値が1?79kPa・sである粘度、及び、0℃でのせん断弾性率と95℃でのせん断弾性率との差の絶対値が2?38kPaであるせん断弾性率は、特には、例えば、ゴム組成物に配合する、ゴム成分の種類、架橋剤の種類や配合量、更にはゴム組成物に液状ポリマーを配合する場合には液状ポリマーの種類や配合量を調整したり、ゴム組成物の混練条件(圧力、温度等)を調整したりすることにより、付与することができる。
・・・
【0036】
なお、本明細書において、0℃での粘度は、レオメーターを用いて0℃条件下で定常流せん断粘度を測定することで得られる値であり、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
・・・
【0038】
なお、本明細書において、95℃での粘度は、レオメーターを用いて95℃条件下で定常流せん断粘度を測定することで得られる値であり、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【0039】
上記ゴム組成物において、16?80kPa・sの0℃での粘度、及び、1?15kPa・sの95℃での粘度は、該ゴム組成物を後述する所定の配合とすることにより付与することができるが、これに限らず、調整可能であることは上述のとおりである。
【0040】
一般的に、0℃での粘度、95℃での粘度は共に、ゴム組成物に配合する、ゴム成分の種類や配合量、補強剤(充填剤)の種類や配合量、架橋剤、架橋助剤の種類や配合量、更にはゴム組成物に液状ポリマーを配合する場合には液状ポリマーの種類や配合量により調整することができる、ということが知られている。
【0041】
基本的に、0℃での粘度にはゴム組成物中のポリマーの分子運動性が大きな影響を与えており、ポリマーの分子運動性が低いほど、粘度は上昇する傾向にある。一方で、95℃での粘度にはゴム組成物中のゴム成分の架橋密度の度合いが大きな影響を与えており、ゴム成分の架橋密度が高いほど、粘度は上昇する傾向にある。
【0042】
より具体的には、ゴム成分、補強剤(充填剤)、架橋剤、又は架橋助剤の配合量を増加させると、0℃での粘度、95℃での粘度は共に上昇し、液状ポリマーの配合量を増加させると、0℃での粘度、95℃での粘度は共に低下する。」

ウ 「【0043】
本発明のゴム組成物は、0℃でのせん断弾性率が12?40kPaであることが好ましい。0℃でのせん断弾性率がこのような範囲であることにより、冬場などの低温条件でも適度な流動性を確保しつつ、釘等の異物によりタイヤに穴が開いたときに、その異物に対してシーラント材が良好に粘着することができ、良好なシール性を発揮することができる。上記0℃でのせん断弾性率としては、上記範囲内で小さい方が好ましく、具体的には、38kPa以下がより好ましく、25kPa以下が更に好ましく、20kPa以下がより更に好ましく、17kPa以下が特に好ましい。
【0044】
なお、本明細書において、0℃でのせん断弾性率は、レオメーターを用いて0℃条件下で定常流せん断粘度を測定し、計測歪0?100%のときのせん断弾性率を読み取ることで得られる値であり、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【0045】
本発明のゴム組成物は、95℃でのせん断弾性率が2?10kPaであることが好ましい。95℃でのせん断弾性率がこのような範囲であることにより、走行中の高温状態でも流動し過ぎないが、一方で、適度な流動性は確保しつつ、釘等の異物によりタイヤに穴が開いたときに、その異物に対してシーラント材が良好に粘着することができ、良好なシール性を発揮することができる。上記95℃でのせん断弾性率としては、上記範囲内で大きい方が好ましく、具体的には、3kPa以上がより好ましく、4kPa以上が更に好ましく、5kPa以上がより更に好ましく、6kPa以上が特に好ましく、7kPa以上が最も好ましい。
【0046】
なお、本明細書において、95℃でのせん断弾性率は、レオメーターを用いて95℃条件下で定常流せん断粘度を測定し、計測歪0?100%のときのせん断弾性率を読み取ることで得られる値であり、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【0047】
上記ゴム組成物において、12?40kPaの0℃でのせん断弾性率、及び、2?10kPaの95℃でのせん断弾性率は、該ゴム組成物を後述する所定の配合とすることにより付与することができるが、これに限らず、調整可能であることは上述のとおりである。
【0048】
また、一般的に、0℃でのせん断弾性率、95℃でのせん断弾性率は共に、ゴム組成物に配合する、ゴム成分の種類や配合量、補強剤(充填剤)の種類や配合量、架橋剤、架橋助剤の種類や配合量、更にはゴム組成物に液状ポリマーを配合する場合には液状ポリマーの種類や配合量を調整したり、ゴム組成物の混練条件(圧力、温度等)を調整したりすることにより調整できる、ということが知られている。
【0049】
基本的に、0℃でのせん断弾性率にはゴム組成物中の架橋の度合い、すなわちポリマーの分子運動性が大きな影響を与えており、ポリマーの分子運動性が高い(架橋の度合いが低い)ほど、0℃でのせん断弾性率は低下する傾向にある。一方で、95℃でのせん断弾性率にはゴム組成物中のゴム成分の架橋密度の度合いが大きな影響を与えており、ゴム成分の架橋密度が高いほど、架橋の度合いが高く、95℃でのせん断弾性率は上昇する傾向にある。
【0050】
より具体的には、架橋剤、架橋助剤の配合量を増加させると、95℃でのせん断弾性率が上昇する。また、液状ポリマーの配合量を増加させると、系全体が柔軟になり、0℃でのせん断弾性率が低下する。」

エ 「【0056】
以下、本発明のシーラントタイヤの製造方法の好適例について説明する。
・・・
【0058】
シーラント材はゴム成分と架橋の量により、硬さをコントロールして、使用温度に応じた粘度、せん断弾性率にコントロールする必要がある。そこでゴム成分のコントロールとして、液状ゴム、可塑剤、加工助剤、充填剤の種類や量を調整する。一方、架橋の量のコントロールのために、架橋剤と架橋助剤の種類や量を調整する。
【0059】
シーラント材としては、粘着性を有するものであれば特に限定されず、タイヤのパンクシールに用いられる通常のゴム組成物を使用することができる。ゴム組成物の主成分を構成するゴム成分として、ブチル系ゴムが用いられる。ブチル系ゴムとしては、ブチルゴム(IIR)の他、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl-IIR)などのハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)等も挙げられる。なかでも、流動性等の観点から、ブチルゴム、若しくはハロゲン化ブチルゴムのどちらか一方、又は両方を好適に使用できる。また、ブチル系ゴムは、ペレット化されたものを使用することが好ましい。これにより、連続混練機にブチル系ゴムを精度良く好適に供給でき、シーラント材を生産性よく製造できる。
【0060】
上記ブチル系ゴムは、ハロゲン化ブチルゴムであることが好ましい。ハロゲン化していないブチルゴムに比べてハロゲン化ブチルゴムは架橋反応が進行しやすく、架橋密度を高めやすいため、ハロゲン化ブチルゴムを用いることで95℃での粘度、せん断弾性率を高くすることができ、これは0℃でのせん断弾性率と95℃でのせん断弾性率との差、0℃での粘度と95℃での粘度との差を小さくすることに寄与し、温度依存性の低いシーラント材を得るうえで好ましい。更には、架橋反応の促進効果がより高いという理由から、臭素化ブチルゴムが特に好ましい。
【0061】
上記ブチル系ゴムは、シーラント材のシール性と流動性をより好適に確保できるという観点から、125℃のムーニー粘度ML1+8は20?60が好ましく、40?60がより好ましい。20未満であると、流動性が低下するおそれがあり、60を超えると、シール性が低下するおそれがある。
【0062】
なお、125℃のムーニー粘度ML1+8は、JIS K-6300-1:2001に準拠し、試験温度125℃で、L形の形状を有するロータを余熱時間1分間とし、ロータの回転時間を8分間として測定されるものである。
【0063】
上記ハロゲン化ブチルゴムのハロゲン含有率は、好ましくは0.1?5.0質量%、より好ましくは0.5?4.0質量%である。これにより、より好適な架橋反応の促進効果が得られ、本発明の効果がより好適に得られる。
該ハロゲン含有率は、溶液NMRにより測定できる。
【0064】
上記ブチル系ゴムの含有量は、ゴム成分100質量%中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。これにより、本発明の効果がより好適に得られる。
【0065】
上記ゴム成分に加えて、ゴム成分として、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴム等、他の成分を併用しても良い。
【0066】
本発明のシーラント材は、液状ポリマーを含むことが好ましい。
【0067】
上記液状ポリマーとして、液状ポリブテン、液状ポリイソブテン、液状ポリイソプレン、液状ポリブタジエン、液状ポリα-オレフィン、液状イソブチレン、液状エチレンα-オレフィン共重合体、液状エチレンプロピレン共重合体、液状エチレンブチレン共重合体等が挙げられる。なかでも、粘着性付与等の観点から、液状ポリブテンが好ましい。液状ポリブテンとしては、イソブテンを主体とし、更にノルマルブテンを反応させて得られる長鎖状炭化水素の分子構造を持った共重合体等が挙げられ、水素添加型液状ポリブテンも使用可能である。これら液状ポリマーとしては、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0068】
液状ポリブテン等の液状ポリマーとして、高速走行時のシーラント材の流動を防止する観点から、100℃の動粘度が550?625mm^(2)/sの液状ポリマーA及び/又は100℃の動粘度が3540?4010mm^(2)/sの液状ポリマーBの使用が好ましく、該液状ポリマーA及びBの併用がより好ましい。
【0069】
液状ポリブテン等の液状ポリマーAの100℃における動粘度は、好ましくは550mm^(2)/s以上・・・である。550mm^(2)/s未満であると、シーラント材の流動が生じるおそれがある。該100℃における動粘度は、好ましくは625mm^(2)/s以下・・・である。625mm^(2)/sを超えると、シーラント材の粘度が高くなり、押し出し性が悪化するおそれがある。
【0070】
液状ポリブテン等の液状ポリマーBの100℃における動粘度は、好ましくは3600mm^(2)/s以上・・・である。3540mm^(2)/s未満であると、シーラント材の粘度が下がり過ぎて、タイヤ使用中に流動しやすくなり、シール性、ユニフォミティーが悪化するおそれがある。
該100℃における動粘度は、好ましくは3900mm^(2)/s以下・・・である。4010mm^(2)/sを超えると、シール性が悪化するおそれがある。
【0071】
液状ポリブテン等の液状ポリマーAの40℃における動粘度は、好ましくは20000mm^(2)/s以上・・・以上である。20000mm^(2)/s未満であると、シーラント材が柔らかく、流動が生じるおそれがある。該40℃における動粘度は、好ましくは30000mm^(2)/s以下・・・以下である。30000mm^(2)/sを超えると、シーラント材の粘度が高くなり過ぎて、シール性が悪化するおそれがある。
【0072】
液状ポリブテン等の液状ポリマーBの40℃における動粘度は、好ましくは120000mm^(2)/s以上・・・である。120000mm^(2)/s未満であると、シーラント材の粘度が下がり過ぎて、タイヤ使用中に流動しやすくなり、シール性、ユニフォミティーが悪化するおそれがある。
該40℃における動粘度は、好ましくは200000mm^(2)/s以下・・・である。200000mm^(2)/sを超えると、シーラント材の粘度が高くなり過ぎて、シール性が悪化するおそれがある。
【0073】
上記液状ポリマーとしては、1種のみを使用してもよく、その場合、液状ポリマーの100℃における動粘度は、好ましくは550mm^(2)/s以上・・・であり、また、好ましくは3900mm^(2)/s以下・・・である。
また、液状ポリマーの40℃における動粘度は、好ましくは20000mm^(2)/s以上・・・以上であり、また、好ましくは200000mm^(2)/s以下・・・である。
【0074】
なお、動粘度は、JIS K2283-2000に準拠し、100℃、40℃の条件で測定される値である。
【0075】
上記液状ポリマーの含有量(液状ポリマーA、B等の合計量)は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部以上・・・である。50質量部未満では、粘着性が低下するおそれがある。該含有量は、好ましくは400質量部以下・・・である。400質量部を超えると、シーラント材の流動が生じるおそれがある。
【0076】
液状ポリマーA、Bを併用する場合、これらの配合比(液状ポリマーAの含有量/液状ポリマーBの含有量)は、好ましくは10/90?90/10・・・である。上記範囲内であると、良好な粘着性が付与される。
【0077】
中でも、上記液状ポリマーとしては、100℃における動粘度が550?3900mm^(2)/sであり、40℃における動粘度が20000?200000mm^(2)/sである液状ポリマーを1種のみ、上述した含有量で用いることが好ましい。このような種類、含有量の液状ポリマーを用いることにより、シーラント材の0℃での粘度、95℃での粘度、0℃でのせん断弾性率及び95℃でのせん断弾性率をそれぞれ上記所定の範囲内とすることができ、本発明の効果をより好適に得ることができる。
【0078】
上記有機過酸化物(架橋剤)としては特に限定されず、従来公知の化合物を使用できる。有機過酸化物架橋系において、ブチル系ゴムや液状ポリマーを用いることで、粘着性、シール性、流動性、加工性が改善される。
【0079】
上記有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド等のアシルパーオキサイド類、1-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシフタレートなどのパーオキシエステル類、メチルエチルケトンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類、ジ-t-ブチルパーオキシベンゾエート、1,3-ビス(1-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどのアルキルパーオキサイド類、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド等が挙げられる。なかでも、粘着性、流動性の観点から、アシルパーオキサイド類が好ましく、ジベンゾイルパーオキサイドが特に好ましい。また、有機過酸化物(架橋剤)は、粉体状態のものを使用することが好ましい。これにより、連続混練機に有機過酸化物(架橋剤)を精度良く好適に供給でき、シーラント材を生産性よく製造できる。
【0080】
上記有機過酸化物(架橋剤)の含有量は、多くすることでゴム架橋反応がより進行し、架橋密度が高くなって、95℃での粘度、せん断弾性率が高くなる傾向があるが、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上・・・である。0.5質量部未満では、架橋密度が低くなり、シーラント材の流動が生じるおそれがある。該含有量は、好ましくは40質量部以下・・・である。40質量部を超えると、架橋密度が高くなり過ぎ、シーラント材が硬くなり過ぎて、シール性が低下するおそれがある。
【0081】
上記架橋助剤(加硫促進剤)としては、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオ尿素系、グアニジン系、ジチオカルバミン系、アルデヒド-アミン系、アルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、キサントゲン酸系、及びキノンジオキシム化合物(キノイド化合物)からなる群より選択される少なくとも1種を使用することができるが、例えば、キノンジオキシム化合物(キノイド化合物)を好適に使用可能である。有機過酸化物に更に架橋助剤を添加した架橋系において、ブチル系ゴムや液状ポリマーを用いることで、粘着性、シール性、流動性、加工性が改善される。
【0082】
上記キノンジオキシム化合物としては、p-ベンゾキノンジオキシム、p-キノンジオキシム、p-キノンジオキシムジアセテート、p-キノンジオキシムジカプロエート、p-キノンジオキシムジラウレート、p-キノンジオキシムジステアレート、p-キノンジオキシムジクロトネート、p-キノンジオキシムジナフテネート、p-キノンジオキシムスクシネート、p-キノンジオキシムアジペート、p-キノンジオキシムジフロエート(difuroate)、p-キノンジオキシムジベンゾエート、p-キノンジオキシムジ(o-クロロベンゾエート)、p-キノンジオキシムジ(p-クロロベンゾエート)、p-キノンジオキシムジ(p-ビトロベンゾエート)、p-キノンジオキシムジ(m-ビトロベンゾエート)、p-キノンジオキシムジ(3,5-ジニトロベンゾエート)、p-キノンジオキシムジ(p-メトキシベンゾエート)、p-キノンジオキシムジ(n-アミルオキシベンゾエート)、p-キノンジオキシムジ(m-ブロモベンゾエート等が挙げられる。なかでも、粘着性、シール性、流動性の観点から、p-ベンゾキノンジオキシムが好ましい。また、架橋助剤(加硫促進剤)は、粉体状態のものを使用することが好ましい。これにより、連続混練機に架橋助剤(加硫促進剤)を精度良く好適に供給でき、シーラント材を生産性よく製造できる。
【0083】
上記架橋助剤(加硫促進剤)としてはまた、酸化亜鉛も好適に用いることができる。有機過酸化物を添加した架橋系において、ブチル系ゴムや液状ポリマーを用いる際、架橋助剤として酸化亜鉛を用いることで、粘着性、シール性、流動性、加工性(特に、シール性)が改善される。
【0084】
キノンジオキシム化合物、酸化亜鉛等の架橋助剤の含有量は、多くすることでゴム架橋反応がより進行し、架橋密度が高くなって、95℃での粘度、せん断弾性率が高くなる傾向があるが、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上・・・である。0.5質量部未満では、シーラント材の流動が生じるおそれがある。該含有量は、好ましくは40質量部以下・・・である。40質量部を超えると、シール性が低下するおそれがある。
【0085】
上記シーラント材には、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、タルク、マイカ等の充填剤;芳香族系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、パラフィン系プロセスオイル等の可塑剤;脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、アミドエステル、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩とアミドエステルとの混合物、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物等の加工助剤を添加しても良い。
【0086】
紫外線による劣化を防止する観点から、上記充填剤としてカーボンブラックが好ましい。この場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上・・・である。1質量部未満では、紫外線による劣化により、シール性が低下するおそれがある。該含有量は、好ましくは50質量部以下・・・である。50質量部を超えると、シーラント材のせん断弾性率が高くなり過ぎて、シール性が悪化するおそれがある。
【0087】
また、上記充填剤としては、シリカも好適に用いることができる。充填剤としてシリカを用いることで、特に流動性を向上させることができる。シリカを配合する場合の、シリカの含有量としては、上述したカーボンブラックの含有量と同様である。
【0088】
上記可塑剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上・・・である。1質量部未満では、タイヤへの粘着性が低下し、充分なシール性が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは40質量部以下・・・である。40質量部を超えると、混練機内ですべりが生じ、シーラント材を混練することが困難となるおそれがある。
【0089】
上記加工助剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上・・・である。1質量部未満では、タイヤへの粘着性が低下し、充分なシール性が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは40質量部以下・・・である。40質量部を超えると、混練機内ですべりが生じ、シーラント材を混練することが困難となるおそれがある。
【0090】
シーラント材としては、ペレット化したブチル系ゴム、粉体の架橋剤、及び粉体の架橋助剤を混合することにより調製されたものであることが好ましく、ペレット化したブチル系ゴム、液状のポリブテン、可塑剤や加工助剤、粉体のカーボンブラックやシリカ、粉体の架橋剤、及び粉体の架橋助剤を混合することにより調製されたものであることがより好ましい。これにより、連続混練機に各原料を好適に供給でき、シーラント材を生産性よく製造できる。
【0091】
シーラント材としては、ブチル系ゴムを含むゴム成分に対して、所定量の液状ポリマー、有機過酸化物、架橋助剤を配合したものが好ましい。
【0092】
シーラント材に、ブチルゴムに液状ポリブテン等の液状ポリマーを配合したものを用いること、特にブチルゴム、液状ポリマーとして、液状ポリブテンを用いることで、粘着性、シール性、流動性、加工性がバランス良く改善される。これは、ゴム成分としてブチルゴムを用いた有機過酸化物架橋系に、液状ポリマー成分を導入して粘着性が付与されるとともに、特に液状ポリブテンや固形ブチルゴムにより高速走行時のシーラント材の流動が抑制されることで、粘着性、シール性、流動性、加工性がバランス良く改善される。
【0093】
また、シーラント材としては、ブチル系ゴムと有機過酸化物とを含むものを用いること、特に、ブチル系ゴムを含み、有機過酸化物と架橋助剤とをそれぞれ特定量含むものを用いることにより、シール性と流動性をバランスよく優れたものとすることができ好ましい。
【0094】
上記シーラント材の粘度(40℃)は特に限定されないが、粘着性、流動性、及びシーラント材がタイヤの内周面に塗布された時点で、シーラント材が略紐状形状を好適に保持する等の観点から、好ましくは3000Pa・s以上・・・であり、また、好ましくは70000Pa・s以下・・・である。3000Pa・s未満であると、シーラント材の塗布後にタイヤを停止したときにシーラント材が流動し、膜厚を維持できないおそれがある。また、70000Pa・sを超えると、ノズルからシーラント材を吐出させることが困難となる。
なお、上記シーラント材の粘度は、JIS K 6833に準拠し、40℃の条件で、回転式粘度計により測定される値である。」

オ 「【実施例】
【0208】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0209】
以下に、実施例で用いた各種薬品について説明する。
非ハロゲン化ブチルゴム:ブチル268(エクソンモービル社製、125℃におけるムーニー粘度ML1+8=51、ハロゲン含有率:0質量%)
臭素化ブチルゴム:ブロモブチル2255(エクソンモービル社製、125℃におけるムーニー粘度ML1+8=46、ハロゲン含有率:2.0質量%)
液状ポリブテン:日石ポリブテンHV300(JX日鉱日石エネルギー(株)製、40℃における動粘度26000mm^(2)/s、100℃における動粘度590mm^(2)/s、数平均分子量1400)
カーボンブラック:N330(キャボットジャパン(株)製、HAFグレード、DBP吸油量102ml/100g)
シリカ:Evonik社製のULTRASIL VN3(N2SA:175m^(2)/g)
可塑剤:DOP(ジオクチルフタレート、昭和化学(株)製、比重0.96、粘度81mPs・S)
加工助剤:シル&ザイラッハー(Schill&Seilacher)社製のストラクトールEF44(脂肪酸金属塩)
架橋助剤:バルノックGM(大内新興化学(株)製、p-ベンゾキノンジオキシム)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
架橋剤:ナイパーNS(日油(株)製、ジベンゾイルパーオキサイド(40%希釈品、ジベンゾイルパーオキサイド:40% ジブチルフタレート:48%)、表1の配合量は純ベンゾイルパーオキサイド量)
【0210】
<シーラントタイヤの製造>
表1の配合に従って、二軸混練押出機の上流側供給口から、ブチルゴム、カーボンブラック若しくはシリカ及び架橋助剤を、中流供給口から、液状ポリブテンを、下流供給口から、可塑剤若しくは加工助剤及び架橋剤を投入し、バレル温度100℃、スクリュー回転数200rpm、圧力5.0MPaの条件下で、混練加工し、シーラント材を調製した。なお、液状ポリブテンについては、50℃の液状ポリブテンを供給口から投入した。
(各材料の混練時間)
ブチルゴム、カーボンブラック若しくはシリカ及び架橋助剤の混合時間:2分
液状ポリブテンの混合時間:2分
可塑剤若しくは加工助剤及び架橋剤の混合時間:1.5分
【0211】
次いで、二軸混練押出機の排出口に直接接続され、かつ先端がタイヤ内面に設置されたノズルから、周方向へ回転するタイヤ(予熱温度:40℃)の内面に、順次調製されるシーラント材(温度100℃、粘度20000Pa・s(40℃)、略紐状形状)を吐出し、図1?4に従って、連続的にらせん状にタイヤの内周面に塗布し、シーラントタイヤを製造した。
なお、40℃でのシーラント材の粘度は、JIS K 6833-1:2008に準拠し、40℃の条件で、回転式粘度計により測定した。
また、シーラント材の定常流せん断粘度を以下の条件で測定して、測定温度ごとに計測歪を横軸、せん断粘度を縦軸としたグラフを作成し、せん断粘度の最大値を各温度(0℃、95℃)における粘度とし、また、計測歪0?100%のときのせん断弾性率(計測歪0?100%でのグラフの傾き)を各温度(0℃、95℃)で読み取り、各温度(0℃、95℃)でのせん断弾性率とした。
<測定条件>
測定機:レオメーターMCR52(アントンパール社製)
測定モード:定常流せん断粘度
測定温度:0℃又は95℃
予熱時間:1分間(設定温度に熱したプレート間に挟み込んでからの時間)
ギャップ:1mm(プレート間距離、ただし、シーラント材のはみ出しはなし)
計測時間:15(秒)
計測歪:0?10,000(%)
せん断速度:6(1/s)
ロータ形状:円形プレート
【0212】
1.シール性評価
195/65R15サイズの加硫後のタイヤ内面(周方向は全域、幅方向はブレーカーエッジ部からもう一方のブレーカーエッジ部まで)にシーラント材料を3mm厚さで塗布し、内圧230kPaに空気を充填した状態で、径4mm、長さ50mmの釘を打ち、3時間後に釘を抜いた直後の内圧を測定した。下記式により、比較例1を基準とし、各例のシール性(エアシール性)を指数で表示した。シール性指数が大きいほど、内圧の低下が少なく、シール性(エアシール性)に優れることを示す。
(シール性指数)=(各例の内圧)/(比較例1の内圧)×100
【0213】
2.流動性評価
195/65R15サイズの加硫後のタイヤ内面(周方向は全域、幅方向はブレーカーエッジ部からもう一方のブレーカーエッジ部まで)にシーラント材(温度100℃、粘度20000Pa・s(40℃)、略紐状形状)を3mm厚さで塗布し、内圧230kPa、速度80km/hで走行させ、ブレーカーエッジ部のシーラント材料の移動距離を測定した。下記式により、比較例1を基準とし、各例の流動性(初期流動性)を指数で表示した。流動性指数が大きいほど、移動距離が小さく、流動性(初期流動性)に優れることを示す。
(流動性指数)=(比較例1の移動距離)/(各例の移動距離)×100
【0214】
【表1】

【0215】
0℃での粘度と95℃での粘度との差の絶対値、0℃でのせん断弾性率と95℃でのせん断弾性率との差の絶対値がそれぞれ所定範囲内である実施例のシーラント材は、シール性と流動性に特にバランスよく優れていた。」

(3)実施可能要件の検討
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明1の実施例として、非ハロゲン化ブチルゴム又は臭素化ブチルゴムを含有するゴム組成物(実施例1?11)が記載されており(摘記2(5)の表1)、上記実施例及びその周辺領域の構成成分及び配合量であれば、本願発明1に係るゴム組成物を当業者が製造できることは理解できる。

ア ゴム組成物を構成する成分の具体例が実施例と異なる場合
(ア)発明の詳細な説明の上記(2)エには、本願発明1のゴム組成物を構成する成分が具体的に記載されており、本願発明1の実施例に使用されている構成成分の具体例や該実施例に使用されていない構成成分の具体例も記載されており、また、ゴム組成物を構成する成分として、液状ポリマーや補強剤(充填剤)を含まなくてもよい旨の記載もされている。
そして、発明の詳細な説明には、せん断弾性率はゴム組成物の架橋の度合いと関係すること、架橋されるポリマー成分や架橋剤の種類を調整したり混練条件を調整したりすることにより架橋点の量を制御可能であること、及び、架橋剤の配合量が少なくなったり混練時の圧力や温度を下げたりすることでせん断弾性率が低くなることは、本願出願日時点の技術常識であること(以上、上記(2)イの段落【0033】を参照)、並びに、0℃及び95℃でのせん断弾性率は、ゴム成分、補強剤(充填剤)、架橋剤、架橋助剤、及び液状ポリマーのそれぞれの種類及び配合量を調整したり混練条件(圧力、温度等)を調整したりすることにより調整できること(上記(2)ウの段落【0048】)が記載され、このような事項に従って、本願発明1で特定された0℃でのせん断弾性率及び95℃でのせん断弾性率を満たすゴム組成物を製造可能であると説明する。
しかしながら、発明の詳細な説明には、実施例として使用される構成成分の具体例と異なるゴム組成物、例えば、ゴム組成物を構成する成分のうち、ゴム成分と架橋剤として用いる具体的な化合物の組み合わせが異なる場合や、液状ポリマーや補強剤(充填剤)等を含まない場合などに、本願発明1で特定されるせん断弾性率を実現するための指針が具体的に記載されている訳ではなく、また、この指針が本願出願日時点の技術常識であったと解すべき事情も見当たらない。
また、ゴム組成物を構成する成分のうち、ゴム成分の具体例及びゴム成分以外の構成成分の具体例との組み合わせやゴム成分以外の構成成分の具体例同士の組み合わせによる化学的な相互作用はそれぞれ異なるというのが本願出願日時点の技術常識であって、構成成分の具体例同士の組み合わせによりどのようにせん断弾性率が変化するのかということまでも本願出願日時点の技術常識であったとはいえず、上記実施例を参考にしても、実施例やその周辺領域以外の構成成分及び配合量を有し、本願発明1で特定されるせん断弾性率を満足するゴム組成物を、直ちに製造できるとは解せない。
更に、ゴム組成物を構成する成分及び配合量が任意であっても、本願発明1で特定された0℃でのせん断弾性率及び95℃でのせん断弾性率に設定するための混練条件(圧力、温度等)が、本願出願日時点の技術常識であったともいえない。
そうすると、発明の詳細な説明は、本願発明1に係るゴム組成物を当業者が製造することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(イ)発明の詳細な説明には、0℃でのせん断弾性率にはゴム組成物中のポリマーの分子運動性が大きな影響を与えており、液状ポリマーの配合量を増加させると低下すること、及び、95℃でのせん断弾性率にはゴム成分の架橋密度の度合いが大きな影響を与えており、架橋剤や架橋助剤の配合量を増加させると上昇すること(上記(2)ウの段落【0049】及び【0050】)が記載されている。
しかしながら、上記液状ポリマーの配合量とせん断弾性率との関係は、0℃でのせん断弾性率に限って当てはまることが、本願出願日時点の技術常識であると解すべき根拠はなく、95℃でのせん断弾性率にも共通するものと解される。また、上記架橋剤や架橋助剤の配合量とせん断弾性率との関係についても、95℃でのせん断弾性率だけでなく、0℃でのせん断弾性率にも共通するものと解される。このことから、液状ポリマー、架橋剤及び架橋助剤の配合量を調整して、本願発明1に係るゴム組成物を製造する際には、0℃でのせん断弾性率又は95℃でのせん断弾性率の一方を本願発明1で特定された数値範囲に設定した後、他方の温度でのせん断弾性率を調整しようとすると、先に設定した上記一方のせん断弾性率も変動してしまうと考えられる。そのため、本願発明1に係るゴム組成物を製造するには、0℃でのせん断弾性率と95℃でのせん断弾性率が共に本願発明1で特定された数値範囲を満たす構成成分の具体例とそれらの配合量の組み合わせを見出す以外に方法はなく、具体的には、ゴム組成物を構成する成分の具体例を選択し、その配合量を設定してゴム組成物とし、上記(2)アに記載される方法で、計測歪を横軸、せん断粘度を縦軸としたグラフを測定温度ごとに作成して、0℃でのせん断弾性率及び95℃でのせん断弾性率をそれぞれ測定(又は算出)し、それが本願発明1で特定される数値範囲を満たすか否かを確認する工程を繰り返すことが必要とされ、これは当業者に期待される程度を超える試行錯誤を要するものと解される。
そうすると、発明の詳細な説明は、本願発明1に係るゴム組成物を当業者が製造することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

イ ゴム組成物を構成する成分の具体例が実施例と同じ場合
発明の詳細な説明には、ゴム組成物を構成する成分及びその配合量に関して、ゴム成分が非ハロゲン化ブチルゴムや臭素化ブチルゴムであること(上記(2)エの段落【0064】)、液状ポリマーは液状ポリブテンであり、液状ポリマーの配合量は、ゴム成分100部に対して50?400部であること(同段落【0067】及び段落【0075】)、有機過酸化物(架橋剤)は、ジベンゾイルパーオキサイドやジクミルパーオキサイドであり、有機過酸化物の配合量は0.5?40部であること(同段落【0079】及び段落【0080】)、架橋助剤(加硫促進剤)はp-ベンゾキノンジオキシムであり、架橋助剤(加硫促進剤)の配合量は0.5?40部であること(同段落【0082】及び【0084】)、補強剤(充填剤)はカーボンブラックやシリカであり、補強剤(充填剤)の配合量は同じく1?50部であること(同段落【0086】及び【0087】)、可塑剤の配合量は1?40部であること(同段落【0088】)が記載され、上記各種成分を上記配合量で含む実施例1?11(上記(2)オの段落【0209】及び表1)も記載されている。そして、上記実施例と共に記載された比較例1?4は、上記構成成分及びその配合量を満たすものであるが、本願発明1で特定される0℃及び95℃でのせん断弾性率を示すものではないし、このような実施例及び比較例を見ても、上記0℃及び95℃でのせん断弾性率を調整する具体的な指針を読み取ることはできない。
また、平成31年4月2日提出の意見書において提出した引用文献1(特開2014-214313号公報)の実施例1及び比較例1に関するせん断弾性率の測定結果でも、実施例1及び比較例1におけるタイヤ用カラーシーラント組成物は、重量部で、ブチルゴム100部、ポリブテン210部、純度40%のジクミルパーオキサイド過酸化物7部(2.8部に相当)、カーボンブラック又はシリカ50部などを含有しており、これらの成分は、本願発明1のゴム組成物を構成する成分の具体例に相当するものであり、また、上記本願明細書に示された各構成成分の好ましい配合量を満たすが、その0℃及び95℃でのせん断弾性率は、本願発明1で特定された数値範囲から大きく外れるものになっている。
これらのことから、上記構成成分の具体例を上記配合量の範囲で含むゴム組成物であっても、必ずしも本願発明1で特定される0℃及び95℃でのせん断弾性率を示すものにはならないのであって、本願発明1に係るゴム組成物を製造するためには、上記(3)アで述べたように、ゴム組成物を構成する成分の具体例を選択し、その配合量を設定してゴム組成物とし、計測歪を横軸、せん断粘度を縦軸としたグラフを測定温度ごとに作成して、0℃でのせん断弾性率及び95℃でのせん断弾性率をそれぞれ測定(又は算出)し、それが本願発明1で特定される数値範囲を満たすか否かを確認する工程を繰り返すことが必要とされ、これは当業者に期待される程度を超える試行錯誤を要するものと解される。
そうすると、発明の詳細な説明は、本願発明1に係るゴム組成物を当業者が製造することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1に係るタイヤ用シーラント層用ゴム組成物を製造することができる程度に、明確かつ十分に記載されていると解することはできない。

3 本願発明2について
(1)ゴム組成物を構成する成分及びその配合量について
本願発明2は、本願発明1を引用し、更に「0℃での粘度と95℃での粘度との差の絶対値が1?79kPa・sであり、かつ、0℃でのせん断弾性率と95℃でのせん断弾性率との差の絶対値が2?38kPa・sである」ことを更に特定するものであり、本願発明1と同様に、ゴム成分を含有すること以外は、他の構成成分及びこれらの配合量を何ら特定するものでなく、タイヤ用シーラント層用という用途からも、他の構成成分及びこれらの配合量が自ずと定まるものでもない。これらのことから、本願発明2も、本願発明1と同様に、ゴム組成物を構成する成分としてゴム成分を含有すること以外は、他の構成成分及びこれらの配合量は任意である。

(2)実施可能要件の検討
本願発明2における更に特定された点について検討する。
ア 「0℃でのせん断弾性率と95℃でのせん断弾性率との差の絶対値が2?38kPa・sである」ことについて
発明の詳細な説明には、上記2(3)アで述べたせん断弾性率に関する事項の他に、粘度に関して、粘度が化合物の分子量と関係すること、補強剤(充填剤)や架橋剤の配合量が多くなれば粘度が高くなり、液状成分の配合量が多くなれば粘度が低くなること(摘記2(2)の段落【0032】)は、本願出願日時点の技術常識であること、0℃及び95℃での粘度は、ゴム成分、補強剤(充填剤)、架橋剤、架橋助剤、及び液状ポリマーの具体例及び配合量により調整できること(段落【0040】)が記載されている。
そして、本願発明2において更に特定された点について、0℃と95℃との粘度の差の絶対値を1?79kPa・sとし、0℃と95℃とのせん断弾性率の差の絶対値を2?38kPaとすることは、ゴム成分、架橋剤、及び液状ポリマーの具体例及び配合量を調整したり混練条件(圧力、温度等)を調整したりすることにより付与できること(段落【0034】)が記載されている。
しかしながら、上記2(3)ア(イ)において述べたように、ゴム組成物に含まれる構成成分の配合量を変更すると、0℃及び95℃でのせん断弾性率は同様に変動し、構成成分の具体例や混練条件(圧力、温度等)を変更する場合も同様であると解されるから、構成成分の具体例や配合量及び混練条件を調整して、「0℃と95℃とのせん断弾性率の差の絶対値が2?38kPaである」本願発明2に係るゴム組成物を製造しようとしても、0℃と95℃とのせん断弾性率の差の絶対値を調整することは、当業者であっても困難であると解される。
そのため、「0℃と95℃とのせん断弾性率の差の絶対値が2?38kPaである」本願発明2に係るゴム組成物を製造するには、その数値範囲を満たす構成成分の具体例とそれらの配合量の組み合わせを見出す以外に方法はなく、具体的には、ゴム組成物を構成する成分の具体例を選択し、その配合量を設定してゴム組成物とし、上記2(2)アに記載される方法で、計測歪を横軸、せん断粘度を縦軸としたグラフを測定温度ごとに作成して、0℃でのせん断弾性率及び95℃でのせん断弾性率をそれぞれ測定(又は算出)し、それらの差の絶対値が本願発明2で特定される数値範囲を満たすか否かを確認する工程を繰り返すことが必要とされ、これは当業者に期待される程度を超える試行錯誤を要するものと解される。
また、「0℃と95℃とのせん断弾性率の差の絶対値が2?38kPaである」せん断弾性率に設定するための混練条件(圧力、温度等)が、本願出願日時点の技術常識であったともいえない。
そうすると、発明の詳細な説明は、当業者が、「0℃と95℃とのせん断弾性率の差の絶対値が2?38kPaである」ゴム組成物を当業者が製造することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

イ 「0℃での粘度と95℃での粘度との差の絶対値が1?79kPa・sであ」ることについて
本願発明2における「0℃での粘度と95℃での粘度との差の絶対値が1?79kPa・sであ」るとの特定事項についても、発明の詳細な説明には、そのような粘度にするための具体的な指針は記載されていないし、この指針が本願出願日時点の技術常識であったと解することもできない。
また、上記(2)アにおいてせん断弾性率について述べたのと同様に、構成成分の配合量を変更すれば、0℃及び95℃の両方の温度での粘度が同様に変動し、構成成分の具体例や混練条件(圧力、温度等)を変更しても0℃及び95℃での粘度が同様に変動すると解されるから、「0℃での粘度と95℃での粘度との差の絶対値が1?79kPa・sである」粘度に調整することは、当業者であっても困難であると解され、これは当業者に期待される程度を超える試行錯誤を要するものと解される。
そうすると、発明の詳細な説明は、当業者が、「0℃での粘度と95℃での粘度との差の絶対値が1?79kPa・sであ」るゴム組成物を当業者が製造することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

ウ 本願発明2が引用する本願発明1の特定事項の考慮
本願発明2に係るゴム組成物は、本願発明1で特定された0℃でのせん断弾性率及び95℃でのせん断弾性率に加えて、本願発明2で特定される0℃での粘度と95℃での粘度との差の絶対値及び0℃でのせん断弾性率と95℃でのせん断弾性率との差の絶対値を満たすものであり、本願発明2における特定事項はゴム組成物の構成成分と配合量を具体化するものでもないから、本願発明2に係るゴム組成物を製造することは、本願発明1に係るゴム組成物を製造するよりも当業者にとって困難なことであると解される。

(3)まとめ
そうすると、発明の詳細な説明には、当業者が本願発明2に係るタイヤ用シーラント層用ゴム組成物を製造することができる程度に、明確かつ十分に記載されていると解することはできない。

4 請求人の主張に対する検討
請求人は、平成31年4月2日提出の意見書において、「0℃でのせん断弾性率と95℃でのせん断弾性率は、それぞれ異なるメカニズムに支配されており、異なる性能を有する成分の配合量を調整することで調節できますので、別々に調節することが可能なパラメータです」(上記意見書の第1頁「(3)実施可能要件」の14?16行)と主張し、具体的に以下のように述べている。
ア 「0℃でのせん断弾性率にはゴム組成物中のポリマーの分子運動性が大きな影響を与えており、ポリマーの分子運動性が高いほど、0℃でのせん断弾性率は低下する傾向にあります。そして、例えば、液状ポリマーのようなポリマーの分子運動性を高めることができる成分の配合量を増加させると、系全体が柔軟になり、0℃でのせん断弾性率が低下します。このことは、例えば、本願実施例2と本願実施例3とを比較してみると、液状ポリブテン
を増量することで、95℃でのせん断弾性率はほぼ変化がないのに対して、0℃でのせん断弾性率が低下していることからも明らかです。」(「(3)実施可能要件」の1?7行)
イ 「95℃でのせん断弾性率にはゴム組成物中のゴム成分の架橋密度の度合いが大きな影響を与えており、ゴム成分の架橋密度が高いほど、95℃でのせん断弾性率は上昇する傾向にあります。そして、例えば、架橋剤、架橋助剤のようなゴム成分の架橋密度を高めることができる成分の配合量を増加させると、95℃でのせん断弾性率が上昇します。このことは、例えば、本願実施例3と本願実施例4とを比較してみると、架橋剤、架橋助剤を増量することで、0℃でのせん断弾性率は変化がないのに対して、95℃でのせん断弾性率が上昇していることからも明らかです。」(「(3)実施可能要件」の7?14行)

(1)主張アについて
実施例2と実施例3の関係と同じく、比較例1と比較例2とは、液状ポリブテンの量だけが異なるものであり、それらの液状ポリブテンの配合量は、いずれも好ましい範囲であるゴム成分100質量部に対して50?400質量部に包含されるものである(上記2(2)エの段落【0075】を参照)。
しかしながら、比較例1及び比較例2における95℃でのせん断弾性率はそれぞれ1kPa及び10.5kPaであり、同じく0℃でのせん断弾性率はそれぞれ45kPa及び11.5kPaであって、比較例1及び比較例2における液状ポリブテンの配合量を変えることにより、95℃でのせん断弾性率をほぼ変化させることなく、0℃でのせん断弾性率を低下させることができるといえるものではない。
そうすると、ポリマーの分子運動性を高めることができる液状ポリマーを増量しても、必ずしも、請求人が主張するように、95℃でのせん断弾性率を変化させずに0℃でのせん断弾性率を低下させることができるとはいえない。

(2)主張イについて
実施例3と実施例4の関係と同じく、比較例2と比較例4とは、架橋剤及び架橋助剤の量だけが異なるものであり、それらの架橋剤及び架橋助剤の配合量は、いずれも好ましい範囲であるゴム成分100質量部に対してそれぞれ0.5?40質量部に包含されるものである(上記2(2)エの段落【0080】及び段落【0084】)。
しかしながら、比較例2と比較例4における0℃でのせん断弾性率はそれぞれ11.5kPa及び18kPaであり、同じく95℃でのせん断弾性率はそれぞれ10.5kPa及び13kPaであって、比較例2及び比較例4における架橋剤及び架橋助剤の配合量を変えることにより、0℃でのせん断弾性率を変化させずに、95℃でのせん断弾性率を上昇させることができるといえるものではない。
そうすると、架橋剤や架橋助剤のようなゴム成分の架橋密度を高めることができる成分の配合量を増量しても、必ずしも、請求人が主張するように、0℃でのせん断弾性率を変化させずに95℃でのせん断弾性率を上昇させることができるとはいえない。

(3)まとめ
これらのことから、本願発明1に係るゴム組成物を構成する成分が、ブチル系ゴム及び液状ポリマーを含むものに限ってみても、実施例及びその周辺領域以外の構成成分と配合量において、0℃でのせん断弾性率と95℃でのせん断弾性率を別々に調整可能であると解することはできない。

また、請求人は、審判請求書において、実施可能要件に関し、「明細書に実施の一態様が記載されていれば十分であり、あらゆる態様が記載されていることを要しません。」(3頁12?13行)、及び「本願発明の骨子に関わる配合剤であり、当業者に特性等が良く知られているブチル系ゴム等のゴム成分;液状ポリブテン等の液状ポリマー;カーボンブラック、シリカ等の補強剤;ジベンゾイルパーオキサイド等の架橋剤;p-ベンゾキノンジオシキム等の架橋助剤が列挙され、その配合量も記載されており、実施例も11例記載されています。」(4頁11?16行)と述べ、本願が実施可能要件を満たすなどとも主張する。
実施可能要件は、第4の1で述べたように、物の発明においては、発明の詳細な説明に、その物を製造する方法及び使用する方法について具体的な記載が必要であり、当業者が、明細書に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤や複雑高度な実験等を行うことなく、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならないものである。
このような観点から、本願の発明の詳細な説明の記載を見てみると、上記2及び3で述べたように、実施例及びその周辺領域以外の構成成分及び配合量の場合に、本願出願日時点の技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明には、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤を行うことなく、当業者が本願発明1及び2に係るゴム組成物を製造できるように記載されていないのであって、上記請求人の主張を採用することはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願明細書は、当業者が本願発明1及び本願発明2に係るタイヤ用シーラント層用ゴム組成物を製造することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるということはできず、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないから、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
 
審理終結日 2019-08-30 
結審通知日 2019-09-03 
審決日 2019-09-18 
出願番号 特願2017-526996(P2017-526996)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08L)
P 1 8・ 537- WZ (C08L)
P 1 8・ 113- WZ (C08L)
P 1 8・ 536- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中西 聡  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 近野 光知
佐藤 健史
発明の名称 空気入りタイヤ用ゴム組成物  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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