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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1356584
審判番号 不服2018-2479  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-21 
確定日 2019-10-31 
事件の表示 特願2014- 69512「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 2日出願公開、特開2015-189905〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2014年(平成26年)3月28日を出願日とする特許出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年10月11日付け:拒絶理由通知
同年12月14日 :意見書、手続補正書の提出
同年12月20日付け:拒絶査定
平成30年 2月21日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 4月 9日付け:拒絶理由通知(前置)
同年 6月13日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 1月22日付け:拒絶理由通知(当審)
同年 3月27日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年 5月 9日付け:審尋

審尋に対する審判請求人(以下、「請求人」という。)からの応答はなかった。


第2 本願発明

本願の請求項1?5に係る発明は、平成31年3月27日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
下記一般式(I)で表される構造単位を有し、重量平均分子量が、35,000?100,000の範囲内である芳香族ポリカーボネート樹脂と、安定剤、紫外線吸収剤及び離型剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤と、下記一般式(IIa)で表される環状カーボネートとを含み、
前記芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度が、1000ppm以下であり、前記芳香族ポリカーボネート樹脂が、下記一般式(III)で表される構造単位を含み、その含有率が、前記一般式(I)で表される構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂中に2000ppm未満であり、
安定剤が、ヒンダードフェノール化合物及びリン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤であり、
紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール化合物、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチロキシ)フェノール、2,2’-(1,4-フェニレン)ビス[4H-3,1-ベンゾキサジン-4-オン]及び[(4-メトキシフェニル)-メチレン]-プロパンジオイックアシッド-ジメチルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、
離型剤が、脂肪族カルボン酸及び脂肪族カルボン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、かつ
下記一般式(IIa)で表される環状カーボネート含有率が、下記一般式(I)で表される構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂に対して0.1ppm以上3000ppm以下である、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(式中、p及びqは、0を表し、Xは、下記(Ia)の群から選択される基を表す)
【化2】

(ここで、R_(3)及びR_(4)は、メチル基を表す)
【化3】

(式中、Raは、エチル基を表し、Rbは、ブチル基を表す)
【化5】

(式中、Xは、一般式(I)におけるXと同義である)。」


第3 当審が通知した拒絶理由の概要

平成31年1月22日付けで当審が通知した拒絶理由は、以下のものを含むものである。

この出願の請求項1?9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:国際公開第2012/157766号
引用文献2:特開2002-308977号公報

なお、本願発明1は、当審が通知した拒絶理由の対象となった平成30年6月13日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の、請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項4に係る発明に、さらに一般式(I)中の「X」を



と限定した上で、R_(3)及びR_(4)の選択肢をメチル基に限定し、一般式(IIa)中のRaの選択肢をエチル基に、Rbの選択肢をブチル基に限定した発明である。


第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1の記載

引用文献1には、以下の事項が記載されている。

「[請求項16]
芳香族ポリカーボネートと、下記一般式(g1)で表される脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化する高分子量化工程を含むことを特徴とする、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
[化9]

(一般式(g1)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1?12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。mは1?30の整数を表す。)
・・・
[請求項18]
前記一般式(g1)で表される脂肪族ジオール化合物が、下記一般式(g2)で表される化合物であることを特徴とする、請求項16記載の製造方法。
[化10]

(一般式(g2)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1?12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。nは1?28の整数を表す。)
・・・
[請求項20]
前記一般式(g2)で表される脂肪族ジオール化合物が、下記一般式(g3)で表される化合物であることを特徴とする、請求項18記載の製造方法。
[化11]

(一般式(g3)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1?12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。)
・・・
[請求項22]
前記一般式(g3)中、Ra及びRbはそれぞれ独立して炭素数1?4の直鎖又は分岐のアルキル基を表すことを特徴とする、請求項20記載の製造方法。
[請求項23]
前記脂肪族ジオール化合物が、2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオール、2,2-ジイソブチルプロパン-1,3-ジオール、2-エチル-2-メチルプロパン-1,3-ジオール、2,2-ジエチルプロパン-1,3-ジオール、及び2-メチル-2-プロピルプロパン-1,3-ジオールからなる群から選択されることを特徴とする、請求項22記載の高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
・・・
[請求項26]
芳香族ポリカーボネートと脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化する高分子量化工程と、前記高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程とを含むことを特徴とする、請求項16又は24記載の製造方法。
[請求項27]
前記環状カーボネートが下記一般式(h1)で表される化合物である、請求項26記載の製造方法。
[化14]

(一般式(h1)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1?12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。mは1?30の整数を表す。)
・・・
[請求項29]
前記一般式(h1)で表される環状カーボネートが、下記一般式(h2)で表される化合物であることを特徴とする、請求項27記載の製造方法。
[化15]


(一般式(h2)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1?12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。nは1?28の整数を表す。)
・・・
[請求項31]
前記一般式(h2)で表される環状カーボネートが、下記一般式(h3)で表される化合物であることを特徴とする、請求項29記載の製造方法。
[化16]


(一般式(h3)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1?12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。)
・・・
[請求項39]
請求項16又は24記載の製造方法で得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂を主体とし、下記一般式(h1)で表される環状カーボネートを3000ppm以下含むことを特徴とする、ポリカーボネート樹脂組成物。
[化17]


(一般式(h1)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1?12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。mは1?30の整数を表す。)
・・・
[請求項41]
前記一般式(h1)で表される環状カーボネートが、下記一般式(h2)で表される化合物であることを特徴とする、請求項39記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[化18]


(一般式(h2)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1?12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。nは1?28の整数を表す。)
・・・
[請求項43]
前記一般式(h2)で表される環状カーボネートが、下記一般式(h3)で表される化合物であることを特徴とする、請求項41記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[化19]


(一般式(h3)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、炭素数1?12の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はフェニル基を表す。)
[請求項44]
前記一般式(h3)中、Ra及びRbはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1?5の直鎖アルキル基を表すことを特徴とする、請求項43記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[請求項45]
前記高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の、下記数式(1)で表されるN値(構造粘性指数)が1.25以下であることを特徴とする、請求項39記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[数4]
N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160-log10)・・・(1)」
「[0025]
しかしながら、上記いずれの技術でも高流動化は可能かも知れないが、同時にポリカーボネート樹脂本来の物性が損なわれる、混練操作等の工程が追加され製造工程が煩雑となる、離型性等の流動性以外の成形性が悪化する、使用対象が限定される、毒性が強くなる可能性がある等の欠点がある。よって、芳香族ポリカーボネートの有用な物性である耐衝撃性をはじめとする機械強度や耐熱性を保持したまま、高い流動性を有するポリカーボネート樹脂を得ることは容易ではなかった。」
「[0033]
本発明が解決しようとする課題は、他の樹脂や添加剤等を用いることなくポリカーボネート本来の良好な品質を保持しつつ、高分子量でありながら高流動性を有する新規なポリカーボネート共重合体を提供することである。
また、本発明が解決しようとする課題は、芳香族ポリカーボネート樹脂の良好な品質を保持し、かつ十分な高分子量化を達成しうる、改良された高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法を提供することである。
また、本発明が解決しようとする課題は、脂肪族ジオール化合物を用いた高分子量ポリカーボネートの製造に適したプレポリマーとしての芳香族ポリカーボネート化合物を提供することである。」
「[0120]
このように、本発明のポリカーボネート共重合体は、添加剤を用いることなく芳香族ポリカーボネートの有用な物性である耐衝撃性、耐摩耗性、耐ストレスクラッキング性等の機械強度や、良好な色相、光学的特性、低平衡吸水率、耐熱性、寸法安定性、透明性、耐候性、耐加水分解性、難燃性といった物性を保持したまま、高分子量で且つ高流動性を達成し得たポリカーボネート樹脂である。さらに、高分子量で且つ高流動性であるだけでなく、分岐構造や異種構造の少ない(N値の小さい)ポリカーボネート樹脂である。
[0121]
また、本発明の新規な製造方法によれば、芳香族ポリカーボネート(プレポリマー)と特定構造の脂肪族ジオール化合物との反応により、芳香族ポリカーボネートが高分子量化されるとともに、副生する環状カーボネートが反応系外へ除去され、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の主鎖中に脂肪族ジオール化合物はほとんど取り込まれない。そのため、得られる高分子量芳香族ポリカーボネート樹脂は、連結部位が鎖中にほとんど残らず、構造上は従来の界面法又は溶融法で得られるポリカーボネートとほぼ同じとなる。例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールA(BPA)を用いた芳香族ポリカーボネートプレポリマーからは、通常のビスフェノールA由来のポリカーボネート樹脂(BPA-PC)とほぼ同じ化学構造を有するポリマーが得られる。このようにして得られるポリカーボネート樹脂は、従来の界面法によるポリカーボネートと同等の物性を有する上に、脂肪族ジオール化合物を連結剤に用いて高速に高分子量化したものであるから、分岐度が小さい、異種構造が少ないなどの品質上の利点を有するだけでなく、脂肪族ジオール化合物からなる連結剤由来の骨格が含まれないため、高温下での熱安定性(耐熱性)が大幅に改善されたものとなる。」
「[0200]
(2)一般式(II)で表される構造単位
本発明のポリカーボネート共重合体の芳香族ポリカーボネート形成単位は、一般式(II)で表される構造単位である。
[0201]
[化57]


[0202]
一般式(II)中、R_(1)及びR_(2)は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1?20のアルキル基、炭素数1?20のアルコキシル基、炭素数6?20のシクロアルキル基、炭素数6?20のアリール基、炭素数6?20のシクロアルコキシル基、又は炭素数6?20のアリールオキシ基を表す。p及びqは、0?4の整数を表す。Xは単なる結合又は下記一般式(II’)で表される二価の有機基群から選択される基を表す。
[0203]
[化58]


[0204]
一般式(II’)中、R_(3)及びR_(4)は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1?10のアルキル基、または炭素数6?10のアリール基を表し、R_(3)及びR_(4)とが結合して脂肪族環を形成していても良い。
[0205]
上記一般式(II)で表される構造単位を誘導する芳香族ジヒドロキシ化合物としては、下記一般式(II’)で表される化合物が挙げられる。
[0206]
[化59]


[0207]
上記一般式(II’)中、R_(1)?R_(2)、p、q、及びXは、各々上記一般式(II)におけるのと同様である。
[0208]
このような芳香族ジヒドロキシ化合物としては、具体的にはビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等が挙げられる。
[0209]
中でも2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンがモノマーとしての安定性、更にはそれに含まれる不純物の量が少ないものの入手が容易である点等の理由により好ましいものとして挙げられる。」
「[0252]
本発明のように末端封止された芳香族ポリカーボネートプレポリマーに脂肪族ジオール化合物をエステル交換触媒存在下、減圧条件にて作用させる方法で得られたポリカーボネート共重合体は、高分子量でありながら高いQ値を示し、さらに好ましくは低いN値を示し、また本発明において必ずしも好ましくない作用効果をもたらす可能性のある異種構造を有するユニットの割合が極めて少ない。ここで、異種構造を有するユニットとは、従来の溶融法で得られるポリカーボネートに多く含まれる分岐点ユニットなどを言う。異種構造を有するユニットとしては、例えば以下に示す構造を有するユニットが挙げられるが、これらに限られない。なお、下記式中の(R_(1))p、(R_(2))q、及びXは、上記一般式(II)において示したものと同様である。Yは、水素原子、フェニル基、メチル基、一般式(II)などが結合していることを示す。
[0253]
[化61]



「[0302](2)芳香族ポリカーボネート
本発明の高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法で用いられる芳香族ポリカーボネートは、上記ポリカーボネート共重合体の製造に用いられるのと同様に、前記一般式(II)で示される構造を主たる繰り返し単位とする重縮合ポリマー(芳香族ポリカーボネートプレポリマー)である。本発明の製造方法は、かかる芳香族ポリカーボネートプレポリマーと、前記一般式(g1)?(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物とを、減圧下でエステル交換反応させる工程を含む。これによって、耐衝撃性等のポリカーボネート樹脂本来の特性を維持しつつ、高分子量でありながら高流動性を与える連結高分子量化されたポリカーボネートの利点を有し、しかも耐熱性が格段に向上した芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる。
・・・
[0309]
また、Ti複合体による分光測定によって末端水酸基濃度を測定することが可能である。同評価による末端水酸基濃度としては1,500ppm以下が好ましく、さらに好ましくは1,000ppm以下が好適である。この範囲を超える水酸基末端或いはこの範囲未満の封止末端量では脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応によって十分な高分子量化の効果が得られないおそれがある。」
「[0332]
しかしながら、本発明の前記一般式(g1)?(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法では、高分子量化反応の進行とともに、特定構造の環状カーボネートが副生する。そして、副生する環状カーボネートを反応系外へ除去した後には、ほぼホモポリカーボネート樹脂と同じ骨格を有する高分子量ポリカーボネート樹脂が得られる。副生する環状カーボネートは使用する脂肪族ジオール化合物に対応する構造を有しており、脂肪族ジオール化合物由来の環状体であると考えられるが、このような高分子量化とともに環状カーボネートが副生される反応機構は、必ずしも明らかではない。
[0333]
例えば以下のスキーム(1)又は(2)に示すメカニズムが考えられるが、必ずしも明確ではない。本発明の前記一般式(g1)?(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法は、芳香族ポリカーボネートプレポリマーに特定構造の脂肪族ジオール化合物を反応させ、そこで副生する脂肪族ジオール化合物の構造に対応する構造の環状カーボネートを除去するものであり、いかなる反応機構に限定されるものでもない。
[0334]
スキーム(I)
[化73]


[0335]
スキーム(II)
[化74]


[0336]
本発明の前記一般式(g1)?(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法によって得られる高分子量ポリカーボネート樹脂は、連結剤を用いた連結高分子量化方法によって得られる高分子量ポリカーボネート共重合体と異なり、連結剤由来の共重合成分はほとんど含まれず、樹脂の骨格はホモポリカーボネート樹脂とほぼ同じである。
[0337]
このため、他の連結高分子量化方法によって得られる高分子量ポリカーボネート樹脂と比べ、連結剤である脂肪族ジオール化合物由来の共重合成分が骨格に含まれないか、含まれるとしても極めて少量であることから、熱安定性が極めて高く耐熱性に優れている。一方で、従来のホモポリカーボネート樹脂と同じ骨格を有しながら、他の連結高分子量化方法によって得られる高分子量ポリカーボネート樹脂と共通する利点としてN値が低い、異種構造を有するユニットの割合が少ない、色調に優れている、などの優れた品質を備えることができる。ここで、異種構造を有するユニットとは、従来の溶融法で得られるポリカーボネートに多く含まれる分岐点ユニットなどを言う。異種構造を有するユニットの具体例としては、上記のポリカーボネート共重合体に関して言及した異種構造を有するユニットと同様のユニットが挙げられるが、これらに限られない。」
「[0355]
(iii)環状カーボネート除去工程
本発明の方法では、上記高分子量化反応によって芳香族ポリカーボネートプレポリマーが高分子量化されると同時に、該反応で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する。副生する環状カーボネートを反応系外へ除去することによって芳香族ポリカーボネートプレポリマーの高分子量化反応が進行する。
[0356]
環状カーボネートの除去方法としては、例えば同じく副生するフェノール及び未反応の脂肪族ジオール化合物などとともに反応系より留去する方法が挙げられる。反応系より留去する場合の温度は260?320℃である。
[0357]
環状カーボネートの除去については、副生する環状カーボネートの少なくとも一部について行う。副生する環状カーボネートの全てを除去するのが最も好ましいが、完全に除去するのは一般に難しい。完全に除去できない場合に製品化したポリカーボネート樹脂中に環状カーボネートが残存していることは許容される。製品中の残存量の好ましい上限は3000ppmである。すなわち、本発明の前記一般式(g1)?(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法では、後述するように、環状カーボネートが3000ppm以下含まれるポリカーボネート樹脂組成物が得られる。」
「[0364]
さらに本発明に於いて、上記熱安定化剤、加水分解安定化剤の他に、酸化防止剤、顔料、染料、強化剤や充填剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、流動性改良材、帯電防止剤等を添加することができる。」
「[0367]
(4)高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂
本発明の前記一般式(g1)?(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法により得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)は30,000?100,000、好ましくは30,000?80,000、より好ましくは35,000?75,000であり、高分子量でありながら、高い流動性を併せ持つ。重量平均分子量が低すぎると、ブロー成形、押出成形等の用途に用いた場合、溶融張力が低くなり、ドローダウンを生じやすく満足な成形品が得られなくなる。また、射出成形等の用途に用いた場合、糸引き等により満足な成形品が得られなくなる。さらに得られる成形品の機械的物性、耐熱性等の物性が低下する。また、オリゴマー領域が増大し、耐有機溶剤性等の物性も低下する。重量平均分子量が高すぎると、精密部品や薄物の射出成形が困難となり、成形サイクル時間が長時間となり生産コストへ悪影響を及ぼす。そのため、成形温度を上げる等の措置が必要となるが、高温下では、ゲル化、異種構造の出現、N値の増大などの可能性が生じる。
[0368]
また、本発明の高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂においては、下記数式(1)で表されるN値(構造粘性指数)が、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.28以下、特に好ましくは1.25以下である。
[数7] N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160-log10) ・・・(1)」
「[0370]
構造粘性指数「N値」は、芳香族ポリカーボネート樹脂の分岐化度の指標とされる。本発明のポリカーボネート共重合体におけるN値は低く、分岐構造の含有割合が少なく直鎖構造の割合が高い。ポリカーボネート樹脂は一般に、同じMwに於いては分岐構造の割合を多くしても流動性が高くなる(Q値が高くなる)傾向にあるが、本発明のポリカーボネート共重合体は、N値を低く保ったまま高い流動性(高いQ値)を達成している。」
「[0378]
上記環状カーボネートの具体例としては、以下に示す構造の化合物が挙げられる。
[化78]


[0379]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中における上記一般式(h1)で表される環状カーボネートの含有量は3000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、特に好ましくは300ppm以下である。環状ポリカーボネートの含有量の下限は特に制限されない。理想的には0%であり、通常は検出限界値となるが、好ましくは0.0005ppm以上である。環状カーボネートの含有量が高すぎると、樹脂強度の低下等のデメリットがある場合がある。」
「[0444]
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。なお、実施例中の測定値は、以下の方法あるいは装置を用いて測定した。
・・・
[0451]
7)流動性(Q値):Q値は溶融樹脂の流出量(ml/sec)であり、高化式フローテスターCFT-500D(島津製作所(株)製)を用いて、130℃で5時間乾燥後、280℃、荷重160kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積により評価した。
[0452]
8)N値:高化式フローテスターCFT-500D(島津製作所(株)製)を用いて、130℃で5時間乾燥した芳香族ポリカーボネート(試料)について、280℃、荷重160kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積をQ160値とし、同様に280℃、荷重10kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積をQ10値として、これらを用いて下式(1)により求めた。
[0453]
[数10] N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160-log10) ・・・(1)」
「[0488]
<プレポリマーの製造例4;PP-D>
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン10,000.6g(43.81モル)、ジフェニルカーボネート10,560.0g(49.30モル)及び触媒として炭酸セシウムを0.5μmol/mol(触媒は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに対してのモル数として計算)とを攪拌機及び留出装置付の50LのSUS製反応器に入れ、系内を窒素雰囲気下に置換した。減圧度を27kPaA(200torr)に調整し、200℃にて原料を加熱溶融し、30分間攪拌した。
[0489]
その後、4時間かけて、反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集、除去しつつエステル交換反応を行ない、系内を260℃、減圧度を0.13kPaA(1torr)以下とし、さらに1時間保持した。重量平均分子量(Mw);22,000のポリカーボネートプレポリマー(以下、「PP-D」と略すことがある)を得た。 得られたポリカーボネートプレポリマーのOH濃度(ppm)及びフェニル末端濃度(Ph末端濃度;mol%)等を表5に示す。なお表5中、OH濃度は、NMRより算出した値であり、全ポリマー中に含まれるOH基濃度を示す。また、Ph末端濃度は、NMRより算出した値であり、全フェニレン基及びフェニル末端中のフェニル基(水酸基で置換されたフェニル基を含む)末端濃度を示す。・・・」
「[0498]
[表5]




「[0503]
<実施例20>
上記プレポリマーの製造例4で得られた芳香族ポリカーボネートプレポリマー「PP-D」30.13gを、攪拌機及び留出装置付の300cc四つ口フラスコに入れ、280℃にて加熱溶融させた。続いて、脂肪族ジオール化合物として2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオール(BEPD)0.34gをジャケット温度280℃にて、常圧で添加し3分間攪拌混練した。
[0504]
引き続きジャケット温度280℃、圧力0.04kPaA(0.3torr)で70分間攪拌混練して、エステル交換反応を行った。触媒は、芳香族ポリカーボネートプレポリマー重合時の重合触媒をそのまま使用した。
[0505]
反応系より留出するフェノール、環状カーボネート(5-ブチル-5-エチル-1,3-ジオキサン-2-オン)及び未反応の2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオール(BEPD)を冷却管にて凝集し、反応系より除去して重量平均分子量(Mw)=56,400、N値=1.19、環状カーボネート(5-ブチル-5-エチル-1,3-ジオキサン-2-オン)を154ppm含有するポリカーボネート樹脂を得た。
[0506]
得られた樹脂1gを試験管に入れ、窒素で置換されたグローブボックス(酸素濃度0.0%)内にて、120℃に設定したブロックヒーターで2時間乾燥した。引き続き同グローブボックス内にて、360℃に設定したブロックヒーターで50分間加熱滞留した。 その結果、滞留試験前後の分子量(Mw)保持率(%)は98%、YI値の変化量は+5.0であった。
[0507]
BEPDの添加・攪拌終了時の混合物の^(1)H-NMRチャートを図5に、及び最終的に得られたポリカーボネート樹脂の^(1)H-NMRチャートを図6に示す。図5では、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと反応したBEPD由来のピークが未反応のBEPDモノマーのピークとは別に認められる。一方、図6では、反応したBEPD由来のピーク及び未反応のBEPDモノマーのピークは消失している。
[0508]
このことから、ここで得られた芳香族ポリカーボネート樹脂は、脂肪族ジオール化合物由来の構造単位を有しないホモポリカーボネートであり、添加した脂肪族ジオールがいったんは芳香族ポリカーボネートプレポリマーと反応した後環状カーボネートとして反応系外へ除去されたことがわかる。
[0509]
<実施例21?26>
芳香族ポリカーボネートプレポリマーの仕込み量及び使用した脂肪族ジオール化合物並びにその仕込み量を表7に示すように変えた以外は、実施例20と同様に行い、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の各種物性を表7に示す。
[0510]
<比較例6>
実施例20と同じ芳香族ポリカーボネートプレポリマーを用い、脂肪族ジオール化合物を添加しなかった以外は実施例20と同様に短時間で反応を行ったところ、Mwは22000のままで分子量は上がらなかった。
[0511]
[表7]


[0512]
実施例20?26で示したように、最終的に得られた樹脂中の脂肪族ジオール化合物由来の構造単位の割合(モル数)は、脂肪族ジオール化合物の添加・混練終了時における同割合(モル数)に対して著しく減少する。本発明の前記一般式(g1)?(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法によれば、最終的に得られる樹脂中の脂肪族ジオール化合物由来の構造単位の割合(モル数)は、脂肪族ジオール化合物の添加・混練終了時における同割合(モル数)に対して50%以下、好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下、特に好ましくは20%以下、最も好ましくは10%以下となる。
[0513]
本発明の前記一般式(g1)?(g4)で示される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法で得られるホモポリカーボネート樹脂に近い高分子量ポリカーボネート樹脂は高い熱安定性を有し、360℃-50分という極めて過酷な熱滞留試験の前後で分子量(Mw)保持率が高くYI値変化量が低いことが、上記実施例20?26の結果からわかる。」


2 引用文献1に記載された発明

(1)引用発明1a

引用文献1には、特許請求の範囲の請求項1?15にあるように、「高流動性ポリカーボネート共重合体」と、同請求項16?45にあるように、「高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法」と、同請求項46?51にあるように、「芳香族ポリカーボネート化合物」の発明がそれぞれ記載されている。そして、「高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法」に関しては、同請求項16に、「芳香族ポリカーボネートと、」「一般式(g1)で表される脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化する高分子量化工程を含むことを特徴とする、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。」が記載され、この請求項16と請求項18、20、22を順に引用する請求項23には、「2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオール」が、「前記脂肪族ジオール化合物」の選択肢の1つとして記載される該製造方法が記載されている。また、段落[0367]には、「一般式(g1)」「で示される脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法により得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂」の一般記載がされており、同[0503]?[0508]の実施例20には、該「高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂」の具体例として、製造例4で製造された芳香族ポリカーボネートプレポリマーを、該「芳香族ポリカーボネート」として用い、これに、該「脂肪族ジオール化合物」として2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオールを反応させて得られる「高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂」が記載されている。
そうすると、引用文献1には、製造例4を書き下した実施例20として、
「2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン10,000.6g(43.81モル)、ジフェニルカーボネート10,560.0g(49.30モル)及び触媒として炭酸セシウムを0.5μmol/mol(触媒は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに対してのモル数として計算)とを攪拌機及び留出装置付の50LのSUS製反応器に入れ、系内を窒素雰囲気下に置換し、減圧度を27kPaA(200torr)に調整し、200℃にて原料を加熱溶融し、30分間攪拌し、その後、4時間かけて、反応系より留出するフェノールを冷却管にて凝集、除去しつつエステル交換反応を行ない、系内を260℃、減圧度を0.13kPaA(1torr)以下とし、さらに1時間保持し、重量平均分子量(Mw);22,000、OH濃度(ppm)が60ppmのポリカーボネートプレポリマー(以下、「PP-D」と略すことがある)を得て、得られた芳香族ポリカーボネートプレポリマー「PP-D」30.13gを、攪拌機及び留出装置付の300cc四つ口フラスコに入れ、280℃にて加熱溶融させ、続いて、脂肪族ジオール化合物として2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオール(BEPD)0.34gをジャケット温度280℃にて、常圧で添加し3分間攪拌混練し、引き続きジャケット温度280℃、圧力0.04kPaA(0.3torr)で70分間攪拌混練して、エステル交換反応を行い、触媒は、芳香族ポリカーボネートプレポリマー重合時の重合触媒をそのまま使用し、反応系より留出するフェノール、環状カーボネート(5-ブチル-5-エチル-1,3-ジオキサン-2-オン)及び未反応の2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオール(BEPD)を冷却管にて凝集し、反応系より除去して得られる重量平均分子量(Mw)=56,400、N値=1.19、環状カーボネート(5-ブチル-5-エチル-1,3-ジオキサン-2-オン)を154ppm含有する芳香族ポリカーボネート樹脂。」の発明(以下、「引用発明1a」という。)が記載されているものと認められる。

(2)引用発明1b

引用文献1の特許請求の範囲の請求項16には、「芳香族ポリカーボネートと、」「一般式(g1)で表される脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化する高分子量化工程を含むことを特徴とする、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。」が記載され、この請求項16を引用する請求項26には、「芳香族ポリカーボネートと脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化する高分子量化工程と、前記高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程とを含むことを特徴とする、」該製造方法が記載され、この請求項26を引用する請求項27には、「前記環状カーボネートが」「一般式(h1)で表される化合物である」該製造方法が記載されている。
また、この請求項16を引用する請求項39には、該「製造方法で得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂を主体とし、」「一般式(h1)で表される環状カーボネートを3000ppm以下含むことを特徴とする、ポリカーボネート樹脂組成物」が記載され、この請求項39を引用する請求項45には、「前記高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の、下記数式(1)で表されるN値(構造粘性指数)が1.25以下であることを特徴とする」「ポリカーボネート樹脂組成物。
[数4] N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160-log10) ・・・(1)」が記載されている。
ここで、同[0332]?[0336]には、上記(1)で示した「高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法」に関する反応機構が記載されているところ、この反応機構から、「副生する環状カーボネート」は、「脂肪族ジオール化合物」に由来するものであって、同[0355]-[0357]の記載によれば、該環状カーボネートを除去することにより、該環状カーボネートの含有量の好ましい上限は3000ppmである「ポリカーボネート樹脂組成物」が得られるから、請求項16を引用する請求項26において、「一般式(g1)で表される脂肪族ジオール化合物」を反応させたときに「副生する環状カーボネート」は、請求項27の「一般式(h1)で表される化合物」であり、それを除去することにより、請求項39の「一般式(h1)で表される環状カーボネートを3000ppm以下含む」「ポリカーボネート樹脂組成物」が得られるものと認められる。
また、副生する環状カーボネートの前駆体とされる「脂肪族ジオール化合物」としては、請求項16と請求項18、20を順に引用する請求項22に「一般式(g3)で表される化合物」であって、「一般式(g3)中、Ra及びRbはそれぞれ独立して炭素数1?4の直鎖又は分岐のアルキル基を表すこと」が記載され、請求項39の「一般式(h1)で表される環状カーボネート」としては、請求項39と請求項41、43を順に引用する請求項44に「一般式(h3)で表される化合物」であって、「一般式(h3)中、Ra及びRbはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1?5の直鎖アルキル基を表すこと」が記載されている。
そうすると、引用文献1には、「芳香族ポリカーボネートと、一般式(g3)で表される化合物であって、一般式(g3)中、Ra及びRbはそれぞれ独立して炭素数1?4の直鎖又は分岐のアルキル基を表す、脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化する高分子量化工程と、前記高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程とを含む高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法で得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂を主体とし、一般式(h3)で表される化合物であって、一般式(h3)中、Ra及びRbはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1?5の直鎖アルキル基を表す、環状カーボネートを3000ppm以下含むポリカーボネート樹脂組成物であって、 前記高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の、下記数式(1)で表されるN値(構造粘性指数)が1.25以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
[数4] N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160-log10) ・・・(1)


」の発明(以下、「引用発明1b」という。)が記載されているものと認められる。


3 引用文献2の記載

引用文献2には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】 溶融法で得られる、粘度平均分子量16,000?27,000のポリカーボネートであって、温度250℃、角速度10rad/sの条件で測定した損失角δ及び複素粘性率η^(*)(Pa・s)が、下記関係式(1)を満たすことを特徴とするポリカーボネート。
【数1】4700≦Tanδ/η^(*-0.87)(1)
【請求項2】 末端OH基含有量が50?1000ppmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート。
【請求項3】 請求項1又は2に記載のポリカーボネートを含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】 安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、難燃剤、着色剤から選ばれた少なくとも1種の添加剤を含むことを特徴とする請求項3に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】 安定剤が、ヒンダードフェノール化合物及びリン化合物から選ばれた少なくとも1種の酸化防止剤であることを特徴とする請求項4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】 紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール化合物、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチロキシ)フェノール、2,2’-(1,4-フェニレン)ビス[4H-3,1-ベンゾキサジン-4-オン]、[(4-メトキシフェニル)-メチレン]-プロパンジオイックアシッド-ジメチルエステルから選ばれた少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】 離型剤が、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステルから選ばれた少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。」
「【0043】ポリカーボネート樹脂組成物: 本発明のポリカーボネートは、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、難燃剤、着色剤から選ばれた少なくとも1種の添加剤を配合してポリカーボネート樹脂組成物とすることができる。そのような添加剤としては、特に制限は無く、通常ポリカーボネートに使用されているものが使用できる。
【0044】安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール化合物、リン化合物、イオウ化合物、エポキシ化合物、ヒンダードアミン化合物等が挙げられる。これらの中で、ヒンダードフェノール化合物及びリン化合物から選ばれた少なくとも1種の酸化防止剤が好ましく用いられる。」
「【0052】紫外線吸収剤としては、酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛等の無機紫外線吸収剤の他、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、トリアジン化合物等の有機紫外線吸収剤が挙げられる。本発明では、これらのうち有機紫外線吸収剤が好ましく、特にベンゾトリアゾール化合物、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチロキシ)フェノール、2,2’-(1,4-フェニレン)ビス[4H-3,1-ベンゾキサジン-4-オン]、[(4-メトキシフェニル)-メチレン]-プロパンジオイックアシッド-ジメチルエステルから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。」
「【0060】離型剤としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル、数平均分子量200?15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルから選ばれた少なくとも1種の化合物である。これらの中で、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステルから選ばれた少なくとも1種が好ましく用いられる。」
「【0081】
【実施例1】図1に従って、本発明のポリカーボネートを製造する方法の一例である実施態様を説明する。図1は、本発明の製造方法の1例を示したフローシート図である。図中、1はDPC(ジフェニルカーボネート)貯槽、2は撹拌翼、3はBPA(ビスフェノールA)ホッパー、4a,bは原料混合槽、5はDPC流量制御弁、6はBPA流量制御弁、7はポンプ、8は触媒流量制御弁、9はプログラム制御装置、10はポンプ、11は触媒貯槽である。図中、12は副生物排出管、13a,b,cは竪型重合槽、14はマックスブレンド翼、15は横型重合槽、16は格子翼である。
【0082】窒素ガス雰囲気下120℃で調製されたジフェニルカーボネート融液、及び、窒素ガス雰囲気下計量されたビスフェノールA粉末を、それぞれ、DPC貯槽(1)から205.0モル/h、及びBPAホッパー(3)から197.1モル/h(原料モル比1.040)の送量となるように、マイクロモーション式流量計及びロスインウェイト方式の重量フィーダーで計量し、窒素雰囲気下140℃に調整された原料混合槽(4a)に連続的に供給した。続いて、原料混合液を原料混合槽(4b)に、さらにポンプ(7)を介して容量100Lの第1竪型撹拌重合槽(13a)に連続的に供給した。一方、上記混合物の供給開始と同時に、触媒として2重量%の炭酸セシウム水溶液を、触媒導入管を介して、1.1mL/h(設定触媒量:ビスフェノールA1モルに対し、0.35μモル)の流量で連続供給を開始した。
【0083】このとき、実際の触媒流量制御は、プログラム制御装置(9)で、BPA流量制御弁(6)で検知したBPA流量と設定触媒量より、設定触媒流量を計算して、この値と触媒流量制御弁(8)に設けられた測定装置で実測された触媒流量とが一致するように触媒流量制御弁(8)の開度をコントロールすることによって遂行された。
【0084】マックスブレンド翼(14)を具備した第1竪型撹拌重合槽(13a)は、常圧、窒素雰囲気下、220℃に制御し、さらに平均滞留時間が60分になるように、槽底部のポリマー排出ラインに設けられたバルブ開度を制御しつつ、液面レベルを一定に保った。
【0085】槽底より排出された重合液は、引き続き、第2、第3のマックスブレンド翼を具備した容量100Lの竪型撹拌重合槽(13b、13c)、及び第4の格子翼(16)を具備した容量150Lの横型重合槽(15)に逐次連続供給された。
【0086】第2?第4重合槽での反応条件は、それぞれ、下記のように、反応の進行とともに高温、高真空、低撹拌速度となるように条件設定した。
温度 圧力 撹拌速度
第2重合槽(13b) 220℃ 1.33×10^(4 )Pa 110rpm
第3重合槽(13c) 240℃ 2.0 ×10^(3 )Pa 75rpm
第4重合槽(15) 280℃ 2.66×10 Pa 10rpm
反応の間は、第2?第4重合槽の平均滞留時間が60分となるように、液面レベルの制御を行い、また、各重合槽においては、副生したフェノールを副生物排出管(12)より除去した。以上の条件下で、1500時間連続して運転した。なお、第4重合槽底部のポリマー排出口から抜き出されたポリカーボネートは、溶融状態のまま、3段ベント口を具備した2軸押出機に導入され、p-トルエンスルホン酸ブチルをポリカーボネート重量に対して2.8ppm(触媒の中和量に対し、4.5倍モル)添加し、水添、脱揮した後、ペレット化した。
【0087】得られたポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)及び末端OH基含有量は、それぞれ、21,800及び500ppmであった。また、触媒流量制御弁(8)に設けられた測定装置で実測された触媒流量の連続測定データ(以下、「触媒流量制御弁の連続測定データ」と略称する。)より、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、設定触媒量±0.06μモル以内及び±0.1μモル以内の時間を算出したところ、それぞれ、全製造時間の96.1%及び99.0%であった。分子量分布(Mw/Mn)及びTanδ/η^(*-0.87)の値は、それぞれ、2.2及び5,980であった。これをPC-1と表す。
【0088】
【実施例2】実施例1において、第4重合槽底部のポリマー排出口から抜き出されたポリカーボネートを、溶融状態のまま、3段ベント口を具備した2軸押出機に導入し、p-トルエンスルホン酸ブチルを添加し、水添、脱揮した後、ポリカーボネート100重量部に対して、安定剤1を0.05重量部、安定剤2を0.05重量部、UV剤1を0.3重量部、離型剤1を0.02重量部、着色剤1を0.0001重量部、着色剤2を0.0001重量部、添加し、脱揮した後、ペレット化した以外は、実施例1と同様にして実施した。本実施例で使用するポリカーボネートは、上記添加剤を含まなければ実施例1と同様であるので、その粘度平均分子量(Mv)、末端OH基含有量、分子量分布(Mw/Mn)及びTanδ/η^(*-0.87)は、実施例1のPC-1の値と同じ21,800、500ppm、2.2及び5,980である。」
「【0098】なお、上記の実施例及び比較例で使用した原材料を以下に示す。
安定剤1 トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト(アデカスタブ2112、旭電化(株)製)
安定剤2 ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](イルガノックス1010、チバスペシャリティケミカルズ社製)
UV剤1 2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)-ベンゾトリアゾール(シーソーブ709、シプロ化成(株)製)
離型剤1 ペンタエリスリトールジステアレート(ユニスターH?476D、日本油脂(株)製)
難燃剤1 ジフェニルスルホン-3-スルホン酸カリウム塩(KSS、GE社製)
着色剤1 MACROLEX Blue RR、バイエル社製
着色剤2 MACROLEX Violet 3R、バイエル社製
【0099】実施例及び比較例の評価結果を表1にまとめた。
【0100】
【表1】



4 引用文献3の記載

当審が、本願出願日時点の技術常識を示す文献として新たに引用する引用文献3には、以下の事項が記載されている。

引用文献3:本間 精一編、ポリカーボネート樹脂ハンドブック、日本、1992年、p.152?156

(1)
「5.6 添加剤

添加剤は、プラスチックの持つ特性を生かしながら、本来持ち合わせていない性能を付与する目的で添加されるものである。ポリカーボネートにおいて重要な添加剤は安定剤(熱安定剤、紫外線吸収剤)、離型剤、着色剤などである。

5.6.1 安定剤
(1)熱安定剤
プラスチックの一般的な性質として、成形加工時や成形品の使用時に加熱、酸化劣化を起こす。
ポリカーボネートにおいては、熱あるいは光熱誘起のC-0、C-C結合切断によるラジカルが発生し、その後脱炭酸やラジカルカップリング、結合開裂を繰返して劣化が進行し(図5.52)、分子鎖切断による強度、分子量低下、着色、また架橋による硬化、ゲル化、着色などが考えられる。特にポリカーボネートは透明であるだけに色相変化は顕著に現れる。
そこで、熱安定剤として酸化防止剤をポリカーボネートに添加することにより、加工時の熱分解を抑制し、
(a) 溶融粘度の変化防止
(b) 物性低下の防止
(c) 色調変化の防止
が結果としてえられる。
酸化防止剤としては、
(a) ラジカル連鎖を防止する1次酸化防止剤としてフェノール系
(b) 過酸化物分解剤となる2次酸化防止剤としてリン系、硫黄系がある。」(第152頁第5行?第153頁下から11行)

(2)
「(2)紫外線吸収剤
紫外線吸収剤(UV剤)は、ポリカーボネートが屋内外の紫外線環境下の使用で分解することから、これを保護する目的に使用される。
・・・
UV剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系が知られている。いずれも基本は水酸基のHのケトーエノール互変異性により吸収UVエネルギーを熱エネルギーに変換し放出している(図5.55)。」(第153頁下から第7行?第154頁第6行)

(3)
「5.6.2 離型剤
ポリカーボネートは非晶性樹脂のため、成形収縮率(5?7/1000)が小さく、成形品を金型から離型するためには離型剤が必要であることが多い。
離型剤は低粘度の化合物で成形品の表層に集中し、非極性の化学構造部分が離型性を発現すると考えられている。
ポリカーボネートの離型剤としては、カルボン酸エステル、ポリシロキサン化合物、パラフィンワックス(ポリオレフィン系)、ポリカプロラクトンなどが知られている。」(第155頁下から第6行?第156頁第2行)


第5 本願発明1と引用発明1aとの対比及び判断

1 対比

本願発明1と引用発明1aを対比する。

引用発明1aの「芳香族ポリカーボネート樹脂」は、「2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン10,000.6g(43.81モル)、ジフェニルカーボネート10,560.0g(49.30モル)」から「得られた芳香族ポリカーボネートプレポリマー「PP-D」30.13g」と、「脂肪族ジオール化合物として2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオール(BEPD)0.34g」とをエステル交換反応を行って得られるものであり、「重量平均分子量(Mw)=56,400」であるから、本願発明1の「下記一般式(I)で表される構造単位を有し、重量平均分子量が35,000?100,000の範囲内である芳香族ポリカーボネート樹脂」
「【化1】


(式中、p及びqは、0を表し、Xは、下記(Ia)の群から選択される基を表す)
【化2】

(ここで、R_(3)及びR_(4)は、メチル基を表す)」に相当する。
また、引用発明1aの「環状カーボネート(5-ブチル-5-エチル-1,3-ジオキサン-2-オン)」は、本願発明1の「下記一般式(IIa)で表される環状カーボネート」
「【化3】

(式中、Raは、エチル基を表し、Rbは、ブチル基を表す)。」に相当する。そして、引用発明1aの「芳香族ポリカーボネート樹脂」は、「環状カーボネート(5-ブチル-5-エチル-1,3-ジオキサン-2-オン)」を「154ppm含有する」ものであるから、本願発明1の「一般式(IIa)で表される環状カーボネート」を含有し、その含有量は、本願発明1の「0.1ppm以上3000ppm以下」と重複一致する。
また、引用発明1aの「芳香族ポリカーボネート樹脂」と、本願発明1の「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」は、「芳香族ポリカーボネート樹脂」の限りで一致する。

そうすると、両者は次の点で一致する。

<一致点>
「下記一般式(I)で表される構造単位を有し、重量平均分子量が35,000?100,000の範囲内である芳香族ポリカーボネート樹脂と、下記一般式(IIa)で表される環状カーボネートとを含み、下記一般式(IIa)で表される環状カーボネート含有率が、下記一般式(I)で表される構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂に対して0.1ppm以上3000ppm以下である、芳香族ポリカーボネート樹脂:
【化1】

(式中、p及びqは、0を表し、Xは、下記(Ia)の群から選択される基を表す)
【化2】

(ここで、R_(3)及びR_(4)は、メチル基を表す)
【化3】

(式中、Raは、エチル基を表し、Rbは、ブチル基を表す)」

そして、次の点で相違する。

<相違点1>
本願発明1は、「前記芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度が1000ppm以下であ」ると特定されているのに対し、引用発明1aは、芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度が明らかでない点。

<相違点2>
本願発明1は、「前記芳香族ポリカーボネート樹脂が、下記一般式(III)で表される構造単位を含み、その含有率が、前記一般式(I)で表される構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂中に2000ppm未満である」
「【化5】


(式中、Xは、一般式(I)におけるXと同義である。)」と特定されているのに対し、引用発明1aは、そのような特定がない点。

<相違点3>
本願発明1は、「安定剤、紫外線吸収剤及び離型剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤」を含み、「安定剤が、ヒンダードフェノール化合物及びリン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤であり、
紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール化合物、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチロキシ)フェノール、2,2’-(1,4-フェニレン)ビス[4H-3,1-ベンゾキサジン-4-オン]及び[(4-メトキシフェニル)-メチレン]-プロパンジオイックアシッド-ジメチルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、
離型剤が、脂肪族カルボン酸及び脂肪族カルボン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であ」る芳香族ポリカーボネート「樹脂組成物」であるのに対し、引用発明1aは、添加剤を含むことが特定されておらず、芳香族ポリカーボネート「樹脂」である点。

2 判断

(1)相違点1について
引用発明1aの芳香族ポリカーボネート樹脂は、「芳香族ポリカーボネートプレポリマー「PP-D」30.13g」と、「脂肪族ジオール化合物として2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオール(BEPD)0.34g」との「エステル交換反応を行い、触媒は、芳香族ポリカーボネートプレポリマー重合時の重合触媒をそのまま使用し、反応系より留出するフェノール、環状カーボネート(5-ブチル-5-エチル-1,3-ジオキサン-2-オン)及び未反応の2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオール(BEPD)」を「反応系より除去して得られる」ものであり、芳香族ポリカーボネートプレポリマーのOH濃度は、60ppmである。ここで、引用文献1の段落[0332]?[0336]には、上記第4の2(1)で示した「高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法」に関する反応機構が記載され、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂は、連結剤としての脂肪族ジオール化合物由来の構造単位が極めて少なく、樹脂の骨格はホモポリカーボネート樹脂とほぼ同じとなることが記載されており、この反応機構からみて、芳香族ポリカーボネートプレポリマーを脂肪族ジオール化合物で高分子量化した当該「芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法」により得られた「芳香族ポリカーボネート樹脂」の末端水酸基濃度は、原料である芳香族ポリカーボネートプレポリマーの末端水酸基濃度より少なくなるものと理解できる。そして、引用文献1の[表7]には、実施例20について、「得られた樹脂中の脂肪族ジオール化合物由来の構造単位の割合」が0.00モル%であることが記載されていることからも、実施例20における反応は、上記反応機構に従っているものといえるので、引用発明1aの芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は、プレポリマー「PP-D」のOH濃度60ppmより少ないものであることは、明らかである。
したがって、引用発明1aの芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は、1000ppm以下であるものといえる。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。

(2)相違点2について
引用発明1aは、N値が1.19である芳香族ポリカーボネート樹脂である。このN値について、引用文献1の段落[0370]には、「構造粘性指数「N値」は、芳香族ポリカーボネート樹脂の分岐化度の指標とされる」こと、「本発明のポリカーボネート共重合体(合議体注:「芳香族ポリカーボネート樹脂」の誤記であると認められる。)におけるN値は低く、分岐構造の含有割合が少なく直鎖構造の割合が高い」ことが記載されている。ここで、この分岐構造の含有割合が少ないことに関する記載として、同[0337]には、連結剤を用いて高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂が、N値が低い、「異種構造を有するユニット」の割合が少ないなどの利点を有する旨記載され、この「異種構造を有するユニット」とは、分岐ユニットを言い、その代表的な具体例として、同[0252]?[0253]に、


」が例示され、例示された構造には、本願発明1の「一般式(III)で表される構造が含まれている。
してみると、引用発明1aの芳香族ポリカーボネート樹脂には、上記の例示された異種構造を有するユニットが含まれるものと解され、該ユニットは、本願発明1の「下記一般式(III)で表される構造単位を含」む
「【化5】

(式中、Xは、一般式(I)におけるXと同義である。)」に相当する。また、該「異種構造を有するユニット」は、「分岐構造」であるといえ、引用文献1には、上述のとおり、分岐構造の割合が少ないことが記載されていることから、引用発明1aの芳香族ポリカーボネート樹脂は、該「異種構造を有するユニット」の含有量が少ないものであるといえる。
ここで、本願明細書の段落【0054】には、「異種構造の割合が少ない芳香族ポリカーボネート樹脂は、例えば、後述する特定構造のジオール化合物を含む連結剤を用いて芳香族ポリカーボネートプレポリマーを高分子量化する工程を含む方法によって製造することができる。」と記載され、同【0111】には、「好ましい芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと下記一般式(IV)で表されるジオール化合物とをエステル交換触媒の存在下に反応させて、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂を得る高分子量化工程と、前記高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程とを含む製造方法である。」と記載され、該ジオール化合物について、同【0121】には、「特に好ましいものは、2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオール・・・からなる群から選択されるジオール化合物である」と記載されている。また、同【0063】には、「構造粘性指数「N値」は、芳香族ポリカーボネート樹脂の分岐化度の指標とされる。芳香族ポリカーボネート樹脂においては、N値は低く、分岐構造の含有割合が少なく直鎖構造の割合が高いことが好ましい。」と記載され、同【表1】には、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物「PC-1」のN値が1.19、異種構造量が500ppm、同「PC-2」のN値が1.29、異種構造量が2000ppmであることが記載されている。これらの記載から、N値がより低いものは異種構造量が少ないことが理解でき、少なくとも、「芳香族ポリカーボネートプレポリマーと特定のジオール化合物とをエステル交換触媒の存在下に反応させて、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂を得る高分子量化工程と、前記高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程とを含む」方法によって製造され、N値が1.29より小さい値である「芳香族ポリカーボネート樹脂」の異種構造量は2000ppm未満であるものといえる。
そして、引用発明1aの「芳香族ポリカーボネートプレポリマー「PP-D」」と、「脂肪族ジオール化合物として2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオール(BEPD)」との「エステル交換反応を行い、触媒は、芳香族ポリカーボネートプレポリマー重合時の重合触媒をそのまま使用し、反応系より留出するフェノール、環状カーボネート(5-ブチル-5-エチル-1,3-ジオキサン-2-オン)、未反応のBEPD)」を「反応系より除去」するという方法は、上記の「芳香族ポリカーボネートプレポリマーと特定のジオール化合物とをエステル交換触媒の存在下に反応させて、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂を得る高分子量化工程と、前記高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程とを含む」方法に相当し、引用発明1aのN値は、1.29より小さい1.19であるから、上記「異種構造を有するユニット」の濃度は、2000ppm未満であるといえる。
してみると、引用発明1aの芳香族ポリカーボネート樹脂は、「下記一般式(III)で表される構造単位を含み、その含有率が、前記一般式(I)で表される構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂中に2000ppm未満である
【化5】

(式中、Xは、一般式(I)におけるXと同義である。)」ものといえる。
したがって、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。

なお、引用文献1の[表7]には、実施例20において得られる「芳香族ポリカーボネート樹脂」のN値が1.21である旨記載されているが、仮に引用発明1aのN値が1.21であったとしても、上記の「異種構造を有するユニット」の濃度は、2000ppm未満であるといえるので、上記相違点2は、実質的な相違点とはならない。

(3)相違点3について
引用文献1の段落[0364]には、上記第4の2(1)で示した「高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法」について、「さらに本発明に於いて、上記熱安定化剤、加水分解安定化剤の他に、酸化防止剤、顔料、染料、強化剤や充填剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、流動性改良材、帯電防止剤等を添加することができる。」と記載され、この記載から、引用文献1には、実施例20で得られた引用発明1aに対しても安定剤、紫外線吸収剤、離型剤を配合することが示唆されているといえる。また、本願出願日時点の技術常識を示す文献として引用した引用文献3の摘記4(1)にも記載されるとおり、ポリカーボネート樹脂において、樹脂の持つ特性を生かしながら、本来持ち合わせていない性能を付与する目的で、安定剤、紫外線吸収剤、離型剤等を添加することは、当業者が通常行う程度の事項であったといえる。
そして、引用文献2の請求項5?7、段落【0044】、【0052】、【0060】、【0098】や、引用文献3の摘記4(1)に記載されるとおり、ポリカーボネート樹脂に対して、安定剤としてヒンダードフェノール化合物及びリン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤、紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール化合物、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチロキシ)フェノール、2,2’-(1,4-フェニレン)ビス[4H-3,1-ベンゾキサジン-4-オン]及び[(4-メトキシフェニル)-メチレン]-プロパンジオイックアシッド-ジメチルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、離型剤として脂肪族カルボン酸及び脂肪族カルボン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いることは、当業者に周知の事項である。
してみると、引用発明1aの芳香族ポリカーボネート樹脂に、引用文献1に配合することが示唆された安定剤として、ヒンダードフェノール化合物及びリン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤、紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール化合物、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチロキシ)フェノール、2,2’-(1,4-フェニレン)ビス[4H-3,1-ベンゾキサジン-4-オン]及び[(4-メトキシフェニル)-メチレン]-プロパンジオイックアシッド-ジメチルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、離型剤として、脂肪族カルボン酸及び脂肪族カルボン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用い、樹脂組成物とすることは、引用文献2及び引用文献3に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たことである。

(4)本願発明1の効果について

進歩性を判断するに当たり、検討する必要がある効果は、引用発明と比較した場合の効果であるといえる。
ここではまず、本願発明1が引用発明1aと比較して有利な効果を奏するか否かについて検討する。
本願発明1と引用発明1aとを比較すると、上記1、2(1)及び(2)で述べたように、両者は、特定の「安定剤、紫外線吸収剤及び離型剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤」を含有するか否かにおいて実質的に相違するので、この相違点による有利な効果について検討する。
本願明細書の段落【0009】には、「特定の環状カーボネートを所定量以下で含むポリカーボネート樹脂と、各種添加剤とを配合することで、実用上十分に優れた流動性、色相及び機械強度のポリカーボネート樹脂組成物を構成し得ることを見出し、本発明に到達した。
」と記載され、同【0033】には、「本発明によれば、流動性、色相及び機械強度が改善された、安定剤、紫外線吸収剤及び離型剤等の添加剤を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供することができる。」と記載されていることから、本願発明1の効果は、「流動性、色相及び機械強度に優れる」ことであると把握でき、同【0220】には、実施例1?5及び比較例1?5のQ値、MVR値、YI値、耐衝撃性及び延性率の試験におけるデータが具体的に示されている。
一方、引用文献1の段落[0120]には、芳香族ポリカーボネートの有用な物性として、耐衝撃性等の機械強度や良好な色相が記載され、同[0121]には、上記第4の2(1)で示した「高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法」について、「耐衝撃性等のポリカーボネート樹脂本来の特性を維持しつつ、高分子量でありながら高流動性を与える連結高分子量化されたポリカーボネートの利点を有し、しかも耐熱性が格段に向上した芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる。」と記載されていることから、引用文献1に記載された「高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂」は、耐衝撃性等の機械強度や良好な色相を有しつつ、流動性に優れるものであると解される。そして、引用文献3の摘記4(1)に、「添加剤は、プラスチックの持つ特性を生かしながら、本来持ち合わせていない性能を付与する目的で添加されるものである。」と記載されていることからすれば、引用文献1に記載された特定の「高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂」に添加剤を配合することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂が本来有する物性を維持して添加剤の機能が付与され、流動性、色相及び機械強度に優れる樹脂組成物が得られることは、一定の予測がされるといえる。
また、本願明細書の実施例及び比較例を具体的にみても、本願明細書の実施例1?5はいずれも、段落【0200】、【0221】に記載されるとおり、安定剤として酸化防止剤であるn-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(イルガノックス1076)を1000ppmの濃度で含むものであり、本願明細書には、添加剤を含有しない芳香族ポリカーボネート樹脂自体の例が示されていないので、引用発明と比較した場合の本願発明の効果を具体的に理解することはできない。
以上のとおりであるから、本願発明の効果は、当業者の予測範囲内であるといわざるを得ず、格別顕著であるとはいえない。
上記のとおり、本願発明1は引用発明と比較して格別顕著な効果を奏するものではないが、本願明細書の実施例1?5及び比較例1?5に基づいて当該効果をより詳細に検討する。
芳香族ポリカーボネート樹脂として実施例1、2はPC-1、比較例1、2はPC-7を用いるものであり、本願明細書の段落【0172】?【0217】の記載及び表1を参照するに、当該PC-1は、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオールを用いてエステル交換触媒の存在下に反応させる高分子量化工程と前記高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程を経た芳香族ポリカーボネート樹脂であって、重量平均分子量が47200、Mw/Mnが2.3、末端水酸基濃度が400ppm、環状カーボネート量が7ppm、異種構造量が500ppm、N値1.19であるのに対し、当該PC-7は、芳香族ポリカーボネートプレポリマーを単に高分子量化反応させた芳香族ポリカーボネート樹脂であって、重量平均分子量が57900、Mw/Mnが2.9、末端水酸基濃度が1050ppm、環状カーボネート量がなく、異種構造量が2100ppm、N値が1.32である。つまり、PC-7は、末端水酸基濃度、環状カーボネート量及び異種構造量の点が本願発明1を満足しない芳香族ポリカーボネート樹脂であると認識できる。
また、これらの樹脂を用いて調製した樹脂組成物の評価結果は、流動性を評価するQ値、MVR値、MVR/Q値については、当該PC-1を含む実施例1では、それぞれ6.7、10.0、1.5であり、当該PC-7を含む比較例1では6.5、8.5、1.3である。色相を評価するYI値については、実施例1は1.67、比較例1は1.97である。機械強度を評価するシャルピー衝撃試験による耐衝撃性(kJ/m^(2))については、実施例1は、それぞれ70(23℃)、70(0℃)、51(-30℃)、比較例1は、それぞれ、70(23℃)、60(0℃)、18(-30℃)である。延性率(延性破壊数/試験数)については、実施例1は5/5(23℃)、5/5(0℃)、3/5(-30℃)、比較例1は5/5(23℃)、4/5(0℃)、0/5(-30℃)である。
同様に、流動性を評価するQ値、MVR値、MVR/Q値については、当該PC-1を含む実施例2では、それぞれ7.2、11.0、1.5であり、当該PC-7を含む比較例2では7.0、9.1、1.3である。色相を評価するYI値については、実施例2が1.42、比較例2が1.85である。機械強度を評価するシャルピー衝撃試験による耐衝撃性(kJ/m2)については、実施例2は、70(23℃)、69(0℃)、50(-30℃)、比較例2は、70(23℃)、60(0℃)、18(-30℃)である。延性率(延性破壊数/試験数)については、前者は5/5(23℃)、5/5(0℃)、3/5(-30℃)、比較例2は5/5(23℃)、4/5(0℃)、0/5(-30℃)である。
そして、ポリカーボネート樹脂以外の配合処方が同一である実施例1と比較例1、実施例2と比較例2をそれぞれ比較してみると、PC-7を含む比較例1よりも、PC-1を含む実施例1が、Q値、MVR値、MVR/Q値が大きく、耐衝撃性及び延性率の値は大きく、YI値は小さく、また、PC-7を含む比較例2よりも、PC-1を含む実施例2が、Q値、MVR値、MVR/Q値が大きく、耐衝撃性及び延性率の値は大きく、YI値は小さくなっている。
これらのことから、PC-1を含む実施例1、2がPC-7を含む比較例1、2よりも、流動性、色相、耐衝撃性等の機械強度が改善されたとの効果を奏することが具体的なデータとともに示されているといえるところ、実施例1と比較例1、及び、実施例2と比較例2のそれぞれの配合処方の異なる点は、芳香族ポリカーボネート樹脂のみであるから、当該効果は、特定の製造方法により得られた、特定の芳香族ポリカーボネート樹脂を用いた組成物により奏されるものと認識できる。しかしながら、当該効果が、特定の添加剤を配合したことにより奏される、すなわち、引用発明と比較した場合の本願発明の効果を示したものであるとは認識できない。
また、引用文献1に記載された特定の「高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂」に特定の添加剤を配合したことによる効果を確認することできないのは、上記したとおりであるが、念のため、PC-1を用い、上記安定剤を含有する実施例5と、同一の樹脂PC-1を用い、さらに離型剤を配合した実施例1、さらに離型剤、安定剤及び紫外線吸収剤を配合した実施例2をそれぞれ比較してみても、Q値、MVR値、MVR/Q値、耐衝撃性、延性率に有意な差はないものといえる。そして、実施例5のYI値は1.68であるのに対し、実施例2のYI値が1.42であり、色相が改善されたものと認識できるが、これは、引用文献3の摘記4(1)に「熱安定剤として酸化防止剤をポリカーボネートに添加することにより、」「色調変化の防止が結果としてえられる」旨記載されるとおり、安定剤を配合することによる色相の改善であると解され、当業者が当然予測し得るものである。
してみると、引用発明1aにおいて、特定の「安定剤、紫外線吸収剤及び離型剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤」を配合したことにより奏される効果が、当業者が予測できないほど顕著であるとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用発明1a、及び、引用文献2、3に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 本願発明1と引用発明1bとの対比及び判断

1 対比

本願発明1と引用発明1bを対比する。

引用発明1bの「一般式(h3)(化学構造式の表記は省略)で表される化合物であって、一般式(h3)中、Ra及びRbはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1?5の直鎖アルキル基を表す、環状カーボネート」は、本願発明1の「下記一般式(IIa)(化学構造式の表記は省略)で表される環状カーボネート」と、
「一般式(IIa)で表される化合物

」において、「Ra及びRbはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1?5の直鎖アルキル基を表す」限りにおいて、一致する。
引用発明1bの「3000ppm以下含む」は、本願発明1の「0.1ppm以上3000ppm以下である」と重複一致する。
引用発明1bの「ポリカーボネート樹脂組成物」は、本願発明1の「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」に相当する。

そうすると、両者は次の点で一致する。

<一致点>
「芳香族ポリカーボネート樹脂と、下記一般式(IIa)で表され、Ra及びRbはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1?5の直鎖アルキル基を表す、環状カーボネートとを含み、下記一般式(IIa)で表される環状カーボネートが、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して0.1ppm以上3000ppm以下である、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】



そして、次の相違点4?8で相違する。

<相違点4>
「一般式(IIa)(化学構造式の表記は省略)で表される環状カーボネート」の「Ra及びRbはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1?5の直鎖アルキル基を表す」ことに関し、本願発明1は「Raは、エチル基を表し、Rbは、ブチル基を表す」と特定するのに対し、引用発明1bは、そのような特定がない点。

<相違点5>
芳香族ポリカーボネート樹脂に関し、本願発明1は、「下記一般式(I)で表される構造単位を有し、重量平均分子量が35,000?100,000の範囲内である」及び
「【化1】

(式中、p及びqは、0を表し、Xは、下記(Ia)の群から選択される基を表す)
【化2】

(ここで、R_(3)及びR_(4)は、メチル基を表す)」と特定されているのに対し、引用発明1bは、構造単位及び重量平均分子量が特定されていない点。

<相違点6>
本願発明1は、「芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度が1000ppm以下であ」るのに対し、引用発明1bは、芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度が特定されていない点。

<相違点7>
本願発明1は、「前記芳香族ポリカーボネート樹脂が、下記一般式(III)で表される構造単位を含み、その含有率が、前記一般式(I)で表される構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂中に2000ppm未満である」
「【化5】

(式中、Xは、一般式(I)におけるXと同義である。)」と特定されているのに対し、引用発明1bは、そのような特定がない点。

<相違点8>
本願発明1は、「安定剤、紫外線吸収剤及び離型剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤」を含み、「安定剤が、ヒンダードフェノール化合物及びリン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤であり、
紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール化合物、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチロキシ)フェノール、2,2’-(1,4-フェニレン)ビス[4H-3,1-ベンゾキサジン-4-オン]及び[(4-メトキシフェニル)-メチレン]-プロパンジオイックアシッド-ジメチルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、
離型剤が、脂肪族カルボン酸及び脂肪族カルボン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であ」ると特定するのに対し、引用発明1bは、添加剤を含むことが特定されていない点。

2 判断

(1)相違点4について
引用文献1の段落[0503]?[0508]の実施例20には、引用発明1bの「製造方法で得られる、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂」の具体例として、製造例4で製造された芳香族ポリカーボネートプレポリマーを、「芳香族ポリカーボネート」として用い、これに、「脂肪族ジオール化合物」として2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオールを反応させて、副生する環状カーボネートである「5-ブチル-5-エチル-1,3-ジオキサン-2-オン」を除去して得られる「高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂」が記載されており、この実施例20で得られたものは、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂を主体とし、環状カーボネートとして「5-ブチル-5-エチル-1,3-ジオキサン-2-オン」を3000ppm以下である154ppm含むものであるから、実施例20には、該脂肪族ジオール化合物が2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオールであり、該環状カーボネートが5-ブチル-5-エチル-1,3-ジオキサン-2-オンである該「ポリカーボネート樹脂組成物」が記載されているものと認められる。そして、該「5-ブチル-5-エチル-1,3-ジオキサン-2-オン」は、「一般式(IIa)(化学構造式の表記は省略)で表される環状カーボネート」において、「式中、Raは、エチル基を表し、Rbは、ブチル基を表す」ものである。
してみると、引用発明1bの「一般式(IIa)(化学構造式の表記は省略)で表される環状カーボネート」において、「Raは、エチル基を表し、Rbは、ブチル基を表す」ものとすることは、引用文献1に記載された事項に基づき、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点5について
引用文献1の段落[0302]には、上記第4の2(1)で示した「高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法」において、「用いられる芳香族ポリカーボネートは、上記ポリカーボネート共重合体の製造に用いられるのと同様に、前記一般式(II)で示される構造を主たる繰り返し単位とする重縮合ポリマー(芳香族ポリカーボネートプレポリマー)である。」と記載され、同[0200]?[0204]には一般式(II)が記載され、同[0205]?[0209]には、「上記一般式(II)で表される構造単位を誘導する芳香族ジヒドロキシ化合物として」、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンが記載されている。そして、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンは、引用文献1の実施例20においても使用されている。
ここで、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導された一般式(II)で示される構造は、同式における「p及びq」が0であり、「X」が

(ここで、R_(3)及びR_(4)は、メチル基を表す)
なる構造である。
そうすると、引用発明1bにおいて、「芳香族ポリカーボネート」として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導された一般式(II)で示される構造を主たる繰り返し単位とする重縮合ポリマー(芳香族ポリカーボネートプレポリマー)を用いることは、当業者が容易に想到し得たことであり、それを高分子量化したものは、「一般式(II)で示される構造」を有するものといえるから、得られた「高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂」は、本願発明1の「下記一般式(I)で表される構造単位」及び
「【化1】

(式中、p及びqは、0を表し、Xは、下記(Ia)の群から選択される基を表す)
【化2】

(ここで、R_(3)及びR_(4)は、メチル基を表す)」との構成を備えることとなる。

また、引用文献1の段落[0367]には、上記第4の2(1)で示した「高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法」により得られる芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)が30,000?100,000であることが記載されている。
そうすると、引用発明1bの「芳香族ポリカーボネート樹脂」の重量平均分子量(Mw)は30,000?100,000であるといえ、本願発明1の「重量平均分子量が35,000?100,000の範囲内」と重複一致する。
したがって、上記相違点5は、実質的な相違点ではない。

(3)相違点6について
引用文献1の段落[0309]には、上記第4の2(1)で示した「高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法」で用いられる芳香族ポリカーボネートプレポリマーについて、末端水酸基濃度が「1500ppm以下が好ましく、さらに好ましくは1000ppm以下が好適であ」り、「この範囲を超える水酸基末端」「では脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応によって十分な高分子量化の効果が得られないおそれがある」旨記載されている。そうすると、引用発明1bの「芳香族ポリカーボネート」は、上記「高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法」に用いるプレポリマーであるから、末端水酸基濃度が1000ppm以下であるといえる。そして、上記第5の2(1)で述べたとおり、芳香族ポリカーボネートプレポリマーを脂肪族ジオール化合物で高分子量化した「芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法」により得られた「芳香族ポリカーボネート樹脂」の末端水酸基濃度は、原料である芳香族ポリカーボネートプレポリマーの末端水酸基濃度より少なくなることが明らかであるから、引用発明1bの「芳香族ポリカーボネート樹脂」の末端水酸基濃度は、1000ppm以下であるということができる。
したがって、上記相違点6は、実質的な相違点ではない。
仮に、この点で相違するとしても、脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応によって十分に高分子量化するために、反応前の芳香族ポリカーボネートプレポリマーの末端水酸基を少なくし、引用発明1bの「芳香族ポリカーボネート樹脂」の「末端水酸基濃度」を1000ppm以下とすることは、引用文献1に記載された事項に基づき、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)相違点7について
上記第5の2(2)で述べたのと同様に、引用発明1bの芳香族ポリカーボネート樹脂には、引用文献1の段落[0252]?[0253]に例示された異種構造を有するユニットが含まれるものと解され、該ユニットは、本願発明1の「下記一般式(III)で表される構造単位を含」む
「【化5】

(式中、Xは、一般式(I)におけるXと同義である。)」に相当する。また、上記第5の2(2)で述べたのと同様に、引用発明1bの芳香族ポリカーボネート樹脂は、該「異種構造を有するユニット」の含有量が少ないものであるといえる。
そして、上記第5の2(2)で述べたとおり、本願明細書の段落【0054】、【0063】、【0111】、【0121】、【表1】の記載から、N値がより低いものは異種構造量が少ないことが理解でき、少なくとも、「芳香族ポリカーボネートプレポリマーと特定のジオール化合物とをエステル交換触媒の存在下に反応させて、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂を得る高分子量化工程と、前記高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程とを含む」方法によって製造され、N値が1.29より小さい値であれば、得られる「芳香族ポリカーボネート樹脂」の異種構造量は2000ppm未満であるものといえる。
そうしてみると、引用発明1bの「芳香族ポリカーボネートと、2-ブチル-2-エチルプロパン-1,3-ジオールとを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化する高分子量化工程と、前記高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程とをを含む高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法」は、上記の「芳香族ポリカーボネートプレポリマーと特定のジオール化合物とをエステル交換触媒の存在下に反応させて、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂を得る高分子量化工程と、前記高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程とを含む」方法に相当し、引用発明1bのN値は1.25以下であるから、上記の「異種構造を有するユニット」の濃度は、2000ppm未満であるといえる。
してみると、引用発明1bの芳香族ポリカーボネート樹脂は、「下記一般式(III)で表される構造単位を含み、その含有率が、前記一般式(I)で表される構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂中に2000ppm未満である
【化5】

(式中、Xは、一般式(I)におけるXと同義である。)」ものといえる。
したがって、上記相違点7は、実質的な相違点ではない。

(5)相違点8について
上記第5の2(3)と同様に、引用発明1bの芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、樹脂の持つ特性を生かしながら、他の性能を付与するために、配合することが示唆された安定剤として、ヒンダードフェノール化合物及びリン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤、紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール化合物、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチロキシ)フェノール、2,2’-(1,4-フェニレン)ビス[4H-3,1-ベンゾキサジン-4-オン]及び[(4-メトキシフェニル)-メチレン]-プロパンジオイックアシッド-ジメチルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、離型剤として、脂肪族カルボン酸及び脂肪族カルボン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を配合することは、単に周知技術を付加したものであって、引用文献2及び引用文献3に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たことである。

(6)本願発明1の効果について
上記第5の2(4)と同様の判断である。

(7)まとめ
したがって、本願発明1は、引用発明1b、及び、引用文献2、3に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第7 請求人の主張について

1 請求人の主張

請求人は、平成31年3月27日提出の意見書において、以下の点を主張する。

<主張1>「引用文献2からは、安定剤、紫外線吸収剤および離型剤等の添加剤によって、芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性、色相および機械強度を改善するという動機付けは得られない。」から、引用文献1に記載された発明において、「環状カーボネートのような微量成分や異種構造量/構造単位や分子量/末端水酸基量ではなく溶融粘弾性の観点から規定されるポリカーボネートに係る引用文献2の記載を参酌して、そこで使用された特定の添加剤を採用し、補正後の請求項1に係る、特定の安定剤、紫外線吸収剤および離型剤を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に係る発明を容易にできるとは認められない。」
<主張2>「特定の環状カーボネート(5-ブチル-5-エチル-1,3-ジオキサン-2-オン)を含まないビスフェノールA由来の構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂に特定の酸化防止剤のみを添加した樹脂組成物(PC-7;比較例4)と、さらに特定の離型剤を添加した樹脂組成物(PC-7A;比較例1)や、さらに特定の離型剤、安定剤および紫外線吸収剤を添加した樹脂組成物(PC-7B;比較例2)とを比べると、流動性および色相は、添加剤により改善していることが示されているものの、機械強度(特に低温耐衝撃性)は、添加剤により悪化していることが示されている。
一方、特定の環状カーボネート(5-ブチル-5-エチル-1,3-ジオキサン-2-オン)を含むビスフェノールA由来の構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂に特定の酸化防止剤のみを添加した樹脂組成物(PC-1;実施例5)と、さらに特定の離型剤を添加した樹脂組成物(PC-1A;実施例1)や、さらに特定の離型剤、安定剤および紫外線吸収剤を添加した樹脂組成物(PC-1B;実施例2)とを比べると、流動性および色相のみならず、機械強度(特に低温耐衝撃性)もまた添加剤により改善していることが示されている。このことから、末端水酸基濃度および異種構造が特定の範囲であって、且つ特定の環状カーボネートを含む芳香族ポリカーボネート樹脂(PC-1)に、特定の添加剤を組み合わせた樹脂組成物は、比較例や引用文献2に示唆された傾向に反し、流動性および色相のみならず、機械強度(特に低温耐衝撃性)も改善し得ることが示されている。
本発明の樹脂組成物のこのような効果は、これらの添加剤について言及の無い引用文献1や、ポリカーボネートの機械物性の低下を、特定の分子量、且つ、特定の溶融粘弾性を有するポリカーボネートを用いることで解決しようとし、さらに本願の比較例と同様に、添加剤により機械強度(特に低温耐衝撃性)の悪化が示唆されている引用文献2に記載の発明から、予想できない優れたものである。」

2 主張1について

上記第5の2(3)及び第6の2(4)で述べたとおり、ポリカーボネート樹脂の技術分野において、樹脂の持つ特性を生かしながら、他の性能を付与するために、安定剤、紫外線吸収剤及び/又は離型剤等の添加剤を配合することは、本願出願日時点において、当業者に周知の技術事項であったので、引用発明1a又は1bにおいて、当該添加剤を配合することは、動機付けがあるものであり、当業者が容易になし得ることである。
よって、請求人の上記主張1は、採用しない。

3 主張2について

請求人は、実施例1、2と実施例5の対比、および比較例1、2と比較例3の対比から、本願発明1に係る特定の特定の環状カーボネート(5-ブチル-5-エチル-1,3-ジオキサン-2-オン)を含む芳香族ポリカーボネート樹脂(PC-1)と特定の添加剤を含む樹脂組成物が、特定の環状カーボネートを含まない芳香族ポリカーボネート樹脂(PC-7)と特定の添加剤を含む樹脂組成物と比較して、機械強度(特に低温耐衝撃性)の低下が抑制されることが理解できるとして、本願発明1の効果を主張している。
しかしながら、請求人が主張するこのような効果は、以下のとおり、本願明細書に何ら示されていない効果の観点であり、本願発明が奏する効果であると認識することはできない。
すなわち、本願明細書には、本願発明1が、添加剤を配合したことによる機械強度(特に低温耐衝撃性)の低下を抑制できる旨の記載はない。そして、実施例及び比較例の測定結果の具体的データは示されているものの、これらの結果から、実施例の樹脂組成物が、比較例の樹脂組成物と比較して、機械強度(特に低温耐衝撃性)の低下が抑制されていることが理解できる旨の記載もない。
そうではあるが、請求人が具体的に述べているので、以下に検討しておく。
本願明細書の段落【0220】に記載された【表2】中の実施例1?5、比較例1?5はいずれも、同【0200】、【0221】に記載されるとおり、安定剤として酸化防止剤であるn-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(イルガノックス1076)を1000ppmの濃度で含むものであり、当該安定剤は、本願発明における選択成分の1つであって、必須成分ではないから、これらを比較した結果から認識できる効果が、引用発明と比較した場合の本願発明の効果であるとすることはできない。つまり、本願発明1である、特定の環状カーボネートを含むビスフェノールA由来の構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂に、特定の添加剤を組み合わせた樹脂組成物が、上記の効果を奏し、当該効果が予測できないものであるというためには、(添加剤を含有しない)芳香族ポリカーボネート樹脂自体と、特定の添加剤を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物とを比較する必要があるので、特定の環状カーボネートを含まず、上記特定の酸化防止剤を含有しない芳香族ポリカーボネート樹脂(PC-7)の例と比較例1?3とを比較した結果、及び、特定の環状カーボネートを含み、上記特定の酸化防止剤を含有しない芳香族ポリカーボネート樹脂(PC-1)の例と実施例1、2、5とを比較した結果を比較して確認する必要があるところ、本願明細書には、上記特定の酸化防止剤を含有しないPC-7の例、及び、上記特定の酸化防止剤を含有しないPC-1の例が示されていない。
そして、この点について、第1で述べたとおり、請求人に審尋をしたが、応答がなかった。
したがって、いくら上記のような対比を試みたとしても、本願発明1による効果を直接裏付けるものとはいえず、本願発明1の効果が格別であるとはいえない。
以上のとおりであるから、請求人の上記主張2は、採用しない。


第8 むすび

以上のとおり、本願発明1は、引用発明1a、及び、引用文献2、3に記載された周知技術、又は、引用発明1b、及び、引用文献2、3に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-08-29 
結審通知日 2019-09-03 
審決日 2019-09-18 
出願番号 特願2014-69512(P2014-69512)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三原 健治岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官
武貞 亜弓
佐藤 健史
発明の名称 芳香族ポリカーボネート樹脂組成物  
代理人 特許業務法人 津国  

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