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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1356596
審判番号 不服2018-12669  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-21 
確定日 2019-10-31 
事件の表示 特願2017-223769「光学素子及び投射型画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月20日出願公開、特開2019- 95554〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成29年11月21日を出願日とする出願であって、平成30年2月8日付けで拒絶理由が通知され、同年4月23日付けで意見書が提出されるとともに手続補正書が提出され、同年6月14日付けで拒絶査定がなされ、同年9月21日付けで本件拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 本件発明
本件出願の請求項1?8に係る発明は、平成30年9月21日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである(以下、「本件発明」という。)。
「使用波長帯域の光に対して透明である基板と、
酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜からなる複屈折層と、
屈折率の異なる2種類以上の誘電体膜が積層されてなる反射防止層を少なくとも1層とを備え、
前記反射防止層が、TiO_(2)、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、CeO_(2)、ZrO_(2)、ZrO、Nb_(2)O_(5)、HfO_(2)から選択される2種類以上の誘電体膜が積層されてなる光学素子。」
(当合議体注:なお、平成30年9月21日付けの手続補正書による補正(本件拒絶査定不服審判の請求と同時にされた補正)では、請求項1は補正されていない。)

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:R. B. Tokas et al.,"Spectroscopic Ellipsometry Investigations of Optical Anisotropy in Obliquely Deposited Hafnia Thin Films",AIP Conference Proceedings ,Vol.1731, Issue 1,p.60007-1?60007-3,[online],24 May 2016
引用文献2:特開2012-242449号公報
引用文献3:特開2015-82010号公報
引用文献4:特開2008-216644号公報
引用文献5:特開2013-228574号公報
引用文献6:特開2014-122984号公報
引用文献7:特開2008-268466号公報
(引用文献2?7は周知技術を示すために引用された文献である。)

第4 引用文献及び引用発明
1 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本件出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明を記載した、R. B. Tokas et al.,"Spectroscopic Ellipsometry Investigations of Optical Anisotropy in Obliquely Deposited Hafnia Thin Films",AIP Conference Proceedings ,Vol.1731, Issue 1,p.60007-1?60007-3,[online],24 May 2016(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。下線は、当合議体が付したものである。

(1) p.60007-1の「表題」
「Spectroscopic Ellipsometry Investigations of Optical Anisotropy in Obliquely Deposited Hafnia Thin Films」

参考訳:
「斜め蒸着ハフニウム薄膜の光学的異方性の分光偏光解析法による調査」

(2) p.60007-1の「Abstract」欄
「Abstract.In present work, HfO_(2) thin films have been deposited at various oblique incidences on Si substrates by electron beam evaporation. These refractory oxide films exhibited anisotropy in refractive index predictably due to special columnar microstructure. Spectroscopic ellipsometry being a powerful tool for optical characterization has been employed to investigate optical anisotropy. It was observed that the film deposited at glancing angle (80°) exhibits the highest optical anisotropy. Further, anisotropy was noticed to decrease with lower values of deposition angles while effective refractive index depicts opposite trend. Variation in refractive index and anisotropy has been explained in light of atomic shadowing during growth of thin films at oblique angles.」

参考訳:
「要旨 本研究では、HfO_(2)薄膜が、電子ビーム蒸発により、さまざまな斜め入射でSi基板上に蒸着された。これらの耐火性酸化膜は、特殊な柱状の微細構造により予想されるように、屈折率異方性を示した。光学的特性評価のための有力な手段である分光偏光解析法が、光学的異方性の調査のために用いられた。視射角(80°)で蒸着された膜が最も高い光学的異方性を示すことが認められた。さらに、異方性は蒸着角度が小さくなるにつれて低下し、有効屈折率はこれと逆の傾向を示すことが分かった。屈折率と異方性の変化は、斜め入射角での薄膜の成長の間の原子遮蔽の観点から説明された。」

(3) p.60007-1の「INTRODUCTION」欄
「INTRODUCTION
Oblique angle deposition is being very popular among researchers due to applications in photonic crystals, optical multilayer devices, micro sensors, and microelectronics and rugate devices. Oblique angle deposition of thin films is routinely used for fabricating rugate interference filters using single optical materials by varying refractive index along the film thickness [1]. Variation of refractive index is achieved by varying the angle of deposition which results varying porosity due to atomic shadowing and limited ad-atom diffusion [2] during growth. Oblique angle deposition generally produces substantial change in porosity or index of refraction at angle more than 60 degree with normal to the substrate. When this angle reaches around 80 degree, it becomes glancing angle deposition (GLAD). Oblique angle deposition results in special morphological nanostructures & microstructure of the film. By employing substrate rotation and varying deposition angle, different geometries like pillar, helix, zigzag, erect columns etc. have been achieved successfully [3]. Yumei Zhu et al., have developed multi-stop band interference rugate filter exploiting GLAD technique. Stephan Fahr et al., have developed optical rugate filters for light trapping in solar cells [4]. Many researchers have also fabricated GLAD antireflection coating [5], narrow band pass rugate filter and relative humidity sensors by utilizing oblique angle deposition of different optical materials. GLAD optical thin films also exhibit optical anisotropy due to their engineered micro-structure and such property can be used for polarization separation.
Hafnium oxide is widely used to fabricate interference multilayer thin film devices. It possesses high refractive index & high laser induced damage threshold [6] and exhibits high band gap & transparency over a wide spectral range [7]. In present work, five HfO_(2) thin films at different deposition angle have been deposited and spectroscopic ellipsometry has been used to probe refractive indices and optical anisotropy.]

参考訳:
「序論
斜め角蒸着は、フォトニック結晶、光学多層膜素子、マイクロセンサ、マイクロエレクトロニクス、およびルゲート素子への応用のため、研究者の間では非常に一般的となっている。薄膜の斜め角蒸着は、膜の厚み方向に沿って屈折率を変化させることにより、単一の光学材料を用いてルゲート干渉フィルタを製造するために日常的に用いられている[1]。薄膜成長中の原子遮蔽と限定的な吸着原子拡散[2]により空隙率を変化させることとになる、蒸着角度を変化させることによって、屈折率変化が達成される。斜め角蒸着は、一般的に、基板の垂直方向から60°以上の角度で、空隙性または屈折率の大きな変化を生じる。この角度がおよそ80°になると、視斜角蒸着(GLAD)となる。斜め角蒸着は、膜の特殊な形態学的ナノ構造およびミクロ構造という結果をもたらす。基板を回転し、蒸着角度を変化させることにより、柱状、螺旋状、ジグザグ状、直立した円柱状などの異なる形状がうまく達成された[3]。Yumei Zhu他は、GLAD技術を利用し、マルチストップバンド干渉ルゲートフィルタを開発した。Stephan Fahr他は、太陽電池セル中に光を捕捉するための光学ルゲートフィルタを開発した[4]。多くの研究者が、異なる光学材料による斜め角蒸着を使用して、GLAD反射防止コート[5]、狭帯域透過ルゲートフィルタ、および相対湿度計を製造した。設計されたミクロ構造のため、GLAD光学薄膜も光学異方性を示し、そのような特性は偏光分離に用いることができる。
多層膜干渉薄膜素子を製造するために、酸化ハフニウムは幅広く用いられている。これは、高屈折率と高いレーザー損傷閾値[6]を持ち、高いバンドギャップと広い波長帯にわたって透明性[7]を示す。本研究では、異なる蒸着角度の5つのHfO_(2)薄膜が蒸着され、屈折率と光学異方性を調査するために、分光偏光解析法が用いられた。」

(4) p.60007-3の「SUMMARY」欄
「SUMMARY
In present work, we fabricated five HfO_(2) thin films at different deposition angle by EB evaporation and characterized them by spectroscopic ellipsometry. Sample deposited at angel 80°(GLAD) exhibits the least refractive index and highest optical anisotropy. Further, refractive index increases and anisotropy decreases as the angle of deposition decreases. Such properties of obliquely deposited HfO_(2) thin films are the attribute of atomic shadowing of ad-atoms during thin film growth.」

参考訳:
「まとめ
本研究では、我々は、EB蒸発を用いて異なる蒸着角度で5つのHfO_(2)薄膜を製造し、分光偏光解析法によりそれらを特徴づけた。80°(GLAD)で蒸着したサンプルは、最も小さい屈折率と最も高い光学的異方性を示す。さらに、屈折率は、蒸着角度が減少するにつれて増大し、異方性は低下する。斜め蒸着HfO_(2)薄膜のこのような特性は、薄膜成長時の吸着原子の原子的遮蔽に起因している。」

2 引用発明
(1) 上記1(3)によれば、「斜め角蒸着は」、「光学多層膜素子」「への応用のため、研究者の間では非常に一般的となっている」。

(2) 上記1(3)によれば、「多層膜干渉薄膜素子を製造するために、酸化ハフニウムは幅広く用いられている」。また、「酸化ハフニウムは」、「高屈折率と高いレーザー損傷閾値」「を持ち、高いバンドギャップと広い波長帯にわたって透明性」「を示す」。

(3) 上記1(2)によれば、「斜め入射で」「蒸着された」「HfO_(2)薄膜」である「耐火性酸化膜は」、「屈折率異方性を示」す。

(4) 上記1(1)?(4)及び上記(1)?(3)より、引用文献1には、「高屈折率と高いレーザー損傷閾値を持ち、高いバンドギャップと広い波長帯にわたって透明性を示す酸化ハフニウム(HfO_(2))を斜め角蒸着した光学多層膜素子であって、斜め入射で蒸着されたHfO_(2)薄膜は、屈折率異方性を示す、光学多層膜素子。」の発明が記載されているものと認められる(以下、「引用発明」という。)。

3 対比
(1) 「基板」について
ア 引用発明は、「酸化ハフニウム(HfO_(2))を斜め角蒸着した光学多層膜素子」である。
斜め角蒸着により形成した光学素子に係る技術常識からみて、上記の引用発明が「基板」を有すること、また、引用発明においては、「酸化ハフニウム(HfO_(2))」を、当該「基板」に垂直な法線に対してある角度で基板に対して斜めに入射させて当該「基板」上に蒸着させたものであることは明らかである(以上のことは、上記1(3)の「斜め角蒸着は、一般的に、基板の垂直方向から60°以上の角度で、空隙性または屈折率の大きな変化を生じる。この角度がおよそ80°になると、視斜角蒸着(GLAD)となる。」との記載からも裏付けられる。)。
また、引用発明の当該「基板」は、使用する波長帯域に光に対して透明であることも明らかなことである。

イ 引用発明の上記「基板」は、本件発明の「基板」に相当する。
また、引用発明の「基板」は、本件発明の「基板」の「使用波長帯域の光に対して透明である」との要件を具備する。

(2) 「複屈折層」について
ア 引用発明の「斜め入射で蒸着されたHfO_(2)薄膜は、屈折率異方性を示す」。
そうすると、引用発明の「斜め入射で蒸着されたHfO_(2)薄膜」は、複屈折層であるということができる。
してみると、引用発明の「斜め入射で蒸着されたHfO_(2)薄膜」は、本件発明の「複屈折層」に相当する。

イ 引用発明の「HfO_(2)薄膜」は、「斜め入射で蒸着された」ものである。
そうすると、引用発明の「HfO_(2)薄膜」は、酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜であるということができる。
してみると、上記アより、引用発明の「斜め入射で蒸着されたHfO_(2)薄膜」は、本件発明の「複屈折層」の「酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜からなる」との要件を具備する。

(3) 「光学素子」について
ア 引用発明の「光学多層膜素子」は、本件発明でいう「光学素子」に該当する。

イ 上記(1)と(2)より、引用発明と、本件発明は、「使用波長帯域の光に対して透明である基板と、酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜からなる複屈折層と」「を備え」ている点で一致する。

(4) 以上の対比結果を踏まえると、本件発明と引用発明は、
「使用波長帯域の光に対して透明である基板と、
酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜からなる複屈折層とを、備えた光学素子。」である点において一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本件発明が、「屈折率の異なる2種類以上の誘電体膜が積層されてなる反射防止層を少なくとも1層」「を備え」、「前記反射防止層が、TiO_(2)、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、CeO_(2)、ZrO_(2)、ZrO、Nb_(2)O_(5)、HfO_(2)から選択される2種類以上の誘電体膜が積層されてなる」ものであるのに対して、
引用発明が、そのような「反射防止層」を備えているとまではいえない点。

第5 判断
上記相違点について検討する。
1 「光学素子に対して、光学素子の基板と空気との界面における反射や、光学素子の蒸着側の表面と空気との界面における反射を防止するために、低屈折率層と高屈折率層とが積層された反射防止膜を設けること」及び「反射防止膜を、SiO_(2)と、TiO_(2)、Al_(2)O_(3)、CeO_(2)、ZrO_(2)、Nb_(2)O_(5)、HfO_(2)のいずれかとを積層して形成すること」は、以下に例示するように、いずれも本件出願前に周知の技術である(以下、前者を「周知技術1」、後者を「周知技術2」という。なお、前者については、光学素子一般に共通していえる自明な課題と考えることもできる。)。

(1) 周知技術1に関して、例えば、原査定の拒絶の理由で周知技術を示す引用文献2として引用された特開2012-242449号公報(以下、同じく「引用文献2」という。)には、透明基板(11)上に斜方蒸着膜(13)を形成した位相差素子において、ガラス、石英、水晶などの透明基板(11)の表面、あるいは、透明基板(11)上に形成された酸化物からなる斜方蒸着膜(13)への大気中の水分の出入りを防止する保護護であるCVD誘電体膜(14)の表面に、高屈折率、低屈折率からなる反射防止膜(AR膜)(15A,16B)を設けて、表面反射を防ぎ、透過性を向上させることが記載されている(引用文献2の段落【0016】、【0027】、【0028】、【0029】、【0030】、図1等を参照)。
また、原査定の拒絶の理由で周知技術を示す引用文献3して引用された特開2015-82010号公報には、基板(21)上に斜方蒸着により複屈折膜を形成した光学素子において、基板(21)の表面に高屈折率層と低屈折率層とからなる第1のAR膜(23)、保護膜(25)の表面に、同様な第2のAR膜(26)を形成して、表面反射を軽減し、透過率を向上させることが記載されている(引用文献3の段落【0011】、【0014】、【0015】、【0018】、【0020】、【0024】、【0025】、【0028】、【0034】、【0037】、【0038】、図1、図2等参照。)。
また、原査定の拒絶の理由で周知技術を示す引用文献4あるいは引用文献5として引用された特開2008-216644号公報あるいは特開2013-228574号公報(以下、同じく「引用文献4」あるいは「引用文献5」という。)にも、斜方蒸着膜を備えた位相差板あるいは複屈折板において、高屈折率層と低屈折率層とからなる反射防止膜を設けることが記載されている(引用文献4の段落【0020】、【0043】、図6等、引用文献5の段落【0036】、図1等を参照。)。
さらに、原査定の拒絶の理由で周知技術を示す引用文献6あるいは引用文献7として引用された特開2014-122984号公報あるいは特開2008-268466号公報(以下、同じく「引用文献6」あるいは「引用文献7」という。)にも、光学異方性の光学フィルムあるいは位相差補償素子において、高屈折率層と低屈折率層とからなる反射防止膜を設けることが記載されている(引用文献6の段落【0025】等、引用文献7の段落【0040】等を参照。)。

(2) 周知技術2に関して、例えば、引用文献2には、界面での反射を抑制する界面反射防止層を、SiO_(2)層とNb_(2)O_(5)層とを積層して形成することが記載されている(引用文献2の段落【0017】、【0018】、【0033】、【0076】等参照。)。
また、引用文献7には、位相差補償素子において、反射防止層を、Nb_(2)O_(5)層とSiO_(2)層とを2?6層程度に積層した一般的な光学干渉薄膜で構成することが記載されている(引用文献7の段落【0040】等参照。)。
さらに、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2006-119444号公報(以下、「引用文献8」という。)には、位相差補償素子において、反射防止層を、SiO_(2)層とTiO_(2)層とを積層して形成することが記載されている(引用文献8の段落【0051】、図1等参照。)。
加えて、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2006-220873号公報(以下、「引用文献9」という。)には、反射防止層を、SiO_(2)層とTiO_(2)層とを積層して形成することが記載されている(引用文献9の段落【0024】、【0025】等参照。)。
さらに、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2000-39522号公報(以下、「引用文献10」という。)には、反射防止層(反射防止薄膜4a,4b)を、低屈折率のSiO_(2)と高屈折率のTiO_(2)とを積層して形成することや、反射防止層の形成材料として、他にもAl_(2)O_(3)(屈折率1.62)、CeO_(2)(屈折率1.62)、ZrO_(2)(屈折率2.1)等があげられることが記載されている(引用文献10の段落【0028】、【0029】、図1等参照。)
さらに加えて、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2005-275005号公報(以下、「引用文献11」という。)には、反射防止層を、SiO_(2)と、Al_(2)O_(3)、ZrO_(2)、HfO_(2)、CeO_(2)、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)のいずれかとを積層して形成すること、あるいは、実施例1?3として、SiO_(2)とHfO_(2)とを積層して形成することが記載されている(引用文献11の段落【0029】、【0053】、【0061】、【0068】等参照。)

2 当業者であれば、上記1の周知技術1及び周知技術2の知見を備えるところ、不要な反射を減らし、引用発明の光学的機能を最大限発揮させることを目的として、引用発明において、HfO_(2)薄膜側とは反対側の表面における反射や、HfO_(2)薄膜側の表面における反射の抑制を抑制する反射防止膜を設けることは、当業者が当然に考慮する技術的事項である。
そうすると、引用発明において、上記1の周知技術1及び周知技術2を参考にして、引用発明において、HfO_(2)薄膜側とは反対側の表面や、HfO_(2)薄膜側の表面に、SiO_(2)と、TiO_(2)、Al_(2)O_(3)、CeO_(2)、ZrO_(2)、Nb_(2)O_(5)、HfO_(2)のいずれかとを積層して形成された反射防止層を備えた構成として、上記相違点に係る本件発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

3 本件出願の明細書の段落【0010】に記載の「斜方蒸着膜が酸化ハフニウムを主成分として形成されているため、高輝度かつ高出力の光に対して優れた耐性を得ることができる」との本件発明の効果についても、引用発明は、高屈折率と高いレーザー損傷閾値を持ち、高いバンドギャップと広い波長帯にわたって透明性を示す酸化ハフニウム(HfO_(2))を斜め角蒸着したものであるから、酸化ハフニウム(HfO_(2))の斜方蒸着膜(HfO_(2)薄膜)も、同じように広い波長帯にわたる透明性及び高いレーザー損傷閾値を持つことは明らかである。
そうすると、本件発明の上記効果は、引用発明の構成から、当業者が予測できることであるから、格別のものでない。

4 以上のとおりであるから、本件発明は、引用発明及び引用文献2?11等に記載された本件出願前に周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 審判請求書における請求人の主張について
(1) 平成30年9月21日提出の審判請求書の「(4)本願発明と引用発明との対比」「(4-1)請求項1」において、請求人は、「本願発明は、『高輝度かつ高出力の光に対して優れた耐性を得る』課題を解決するため、『酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜からなる複屈折層と、屈折率の異なる2種類以上の誘電体膜が積層されてなる反射防止層を少なくとも1層とを備える』構成(特徴点)を採用したものです。」、「一方、引用文献1-7には、上記課題及び上記特徴点についての記載がなく、また、上記特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等についても記載されていません。引用文献1(第60007-1頁右欄第9-12行)には、酸化ハフニウム自体が高レーザー光に起因する損傷を受けにくいことが記載されていますが、当該引用文献1には、酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜が高輝度かつ高出力の光に対して優れた耐性を有することについて何ら開示も示唆もされていません。」、「よって、引用文献1に記載された屈折率異方性を有する酸化ハフニウム薄膜に、上記の周知技術を適用し、SiO_(2)からなる層及びNb_(2)O_(5)からなる層を含む反射防止層を設けることは当業者が容易に想到し得たことであるとの審査官殿の指摘は、課題の把握の段階から解決手段ないし解決結果の要素を入り込ませたものです。」、「本願発明は、反射防止層を設けることにより、透過率が増加し、光による損傷も大きくなる傾向となるが、酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜を複屈折層とすることにより、レーザー光源などからの高輝度かつ高出力の光に対して優れた耐性を有する光学素子とすることができます。」、「このような優れた効果は、引用文献1-7に記載された技術からは、予測あるいは発見することの困難なものであり、かつ、予測あるいは発見される効果と比較して、顕著なものです。よって、本願発明は、引用文献1-7に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明できたものではありません。」と主張している。

(2) しかしながら、引用発明において、上記1の周知技術1及び周知技術2を参考にして、上記相違点に係る本件発明の構成とすることが当業者であれば容易になし得たことであることは、上記1?4において示したとおりである。
また、上記3で述べたとおり、引用発明の酸化ハフニウム(HfO_(2))の斜方蒸着層(複屈折層)が、広い波長帯にわたる透明性及び高いレーザー損傷閾値を持つことは明らかであり、また、反射防止層を備えた構成としても、広い波長帯にわたる透明性及び高いレーザー損傷閾値が発揮されることは同様である。
してみると、請求人が主張する、「本願発明は、反射防止層を設けることにより、透過率が増加し、光による損傷も大きくなる傾向となるが、酸化ハフニウムを主成分とする斜方蒸着膜を複屈折層とすることにより、レーザー光源などからの高輝度かつ高出力の光に対して優れた耐性を有する光学素子とすることができます。」との効果は、引用発明の構成から、当業者が予測できることであり、格別のものでない。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用発明及び本件出願前に周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-02 
結審通知日 2019-09-03 
審決日 2019-09-17 
出願番号 特願2017-223769(P2017-223769)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小西 隆沖村 美由清水 督史井上 徹  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 河原 正
宮澤 浩
発明の名称 光学素子及び投射型画像表示装置  
代理人 野口 信博  

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