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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A23L |
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管理番号 | 1356618 |
審判番号 | 不服2018-11950 |
総通号数 | 240 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-09-06 |
確定日 | 2019-11-19 |
事件の表示 | 特願2012-228046「酵母タンパク由来調味料」拒絶査定不服審判事件〔平成26年5月8日出願公開、特開2014-79179、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 本願は、平成24年10月15日の出願であって、出願後の主な手続の経緯は次のとおりである。 平成28年 6月30日付け 拒絶理由通知 同年 9月 2日受付け 意見書及び手続補正書提出 平成29年 1月 6日付け 拒絶理由通知 同年 5月11日受付け 意見書提出 同年10月11日付け 拒絶理由通知 同年12月14日受付け 意見書提出 平成30年 5月31日付け 拒絶査定 同年 9月 6日受付け 拒絶査定不服審判請求 第2 原査定の概要 原査定(平成30年5月31日付けの拒絶査定)は、平成29年10月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものというものであり、その理由1の概要は以下のとおりである。 理由1(特許法第29条第2項:進歩性) この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 理由1A:請求項1、2、4/引用文献1及び引用文献2?7 理由1B:請求項3、4/引用文献1及び引用文献2?8 理由1C:請求項1?4/引用文献8及び引用文献2?7 引用文献1:特開2005-245438号公報 引用文献2:月刊フードケミカル,2012年10月1日, Vol.28,No.10,35?37頁 引用文献3:特開2011-205927号公報 引用文献4:特開昭50-046886号公報 引用文献5:特開2007-049988号公報 引用文献6:特開2009-261253号公報 引用文献7:特開2007-49989号公報 引用文献8:特開2005-102549号公報 第3 本願発明 本願の請求項1?4に係る発明(以下、「本願発明1」、「本願発明2」などという。)は、平成28年9月2日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 酵母エキス抽出後の酵母菌体にプロテアーゼを含まない細胞壁溶解酵素を作用させた後に細胞壁構成成分を除去して得られた酵母タンパクを酵素分解してなるものである、酵母由来調味料の製造方法。 【請求項2】 前記細胞壁溶解酵素がプロテアーゼを含まないグルカナーゼであることを特徴とする請求項1に記載の酵母由来調味料の製造方法。 【請求項3】 前記細胞壁溶解酵素の作用に次いで、50?95℃、5分以上の加熱処理を行った後に細胞壁構成成分を除去することを特徴とする請求項1または2に記載の酵母由来調味料の製造方法。 【請求項4】 前記酵母菌体がキャンディダ・ユティリス又はサッカロマイセス・セレビシエである請求項1?3のいずれか一項に記載の酵母由来調味料の製造方法。」 第4 引用文献の記載事項 1 引用文献1に記載された事項 (1a)「【請求項1】 下記式(1)で示されるペプチドの含量が20重量%以上であり、かつ下記式(2)で示される全アミノ酸に対するペプチドの含有比率が80%以上である酵母エキス。 【数1】 【数2】 ・・・ 【請求項10】 酵母の菌体内酵素を失活させた後、菌体の細胞壁を破砕した菌体処理物にエンド型プロテアーゼを作用させる、酵母エキスの製造方法。」 (1b)「【0001】 本発明は、酵母エキスおよびその製造方法に関し、詳しくはコク味付与能、マスキング能に優れた酵母エキスおよびその製造法に関するものである。 ・・・ 【0010】 本発明は、飲食品本来の味を損ねることなく、飲食品に濃厚感を付与する酵母エキスおよびその製法を提供することを課題とする。また本発明は、飲食品本来の味を損ねることなく、飲食品の不快な臭いをマスキング若しくは低減する酵母エキスおよびその製法を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0011】 本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、酵母エキス中のペプチド含量およびペプチド比率(全アミノ酸含量に対するペプチド含量の比率)を所定の数値以上に調製することにより、その酵母エキスが飲食品に濃厚感を与え、また飲食品の不快な臭いを低減あるいはマスキングする性質に優れることを見出した。また、この酵母エキスは遊離アミノ酸の含量も少なく、添加対象物となる飲食品本来の味を変化させにくいことも見出した。さらに、本発明者らは、5’-イノシン酸および5’-グアニル酸などのヌクレオチド類の含量を所定量以下に抑制することによって、飲食品本来の味質をより変化させにくい添加物とすることができる。 【0012】 上記本発明の酵母エキスを得るためには、予め酵母の菌体内酵素をすべて失活させた後、エンド型プロテアーゼを作用させることが好適である。このような方法を採用することにより、添加対象となる飲食品が元々持っているコク味を増強する作用を有するペプチド含量が高まり、遊離アミノ酸やヌクレオチド類の生成を抑制し、好ましい成分配合の酵母エキスを得られることを見出した。」 (1c)「【0045】 菌体の細胞壁を破砕し菌体処理物を得る方法は、細胞壁を破壊することができれば特に限定はなく、例えば、自己消化法、酵素分解法、酸分解法、超音波破砕法、ホモジナイザー法、圧力破砕法、ビーズ衝撃法、摩砕法、凍結融解法などが例示され、好ましくは酵素を添加して細胞壁を破壊する酵素分解法などが例示される。 【0046】 酵素分解法による製法を具体例として説明する。本発明の酵母エキスの製造に適した酵素分解法の一例としては、(i)加熱などにより菌体内酵素を失活させる工程、(ii)酵母またはその菌体を含む培養物等に細胞壁溶解酵素を添加して菌体の細胞壁を分解し菌体処理物を得る工程、(iii)菌体内タンパク質をペプチドに分解するエンド型プロアーゼを添加する工程の3工程を含む。・・・ ・・・ 【0048】 上記(ii)の工程においては、細胞壁溶解酵素を作用させ、菌体の細胞壁を破砕し、細胞内の成分を溶出させる。酵素添加量、酵素反応温度、pHは特に限定するものではなく、各々の酵素の最適条件下で行えばよい。細胞壁溶解酵素としては、酵母の細胞壁は、β-1,3-グルカンとマンナンが主成分であるので、グルカナーゼ、マンナナーゼを含有し、酵母細胞壁を溶解するに十分な活性を有するものであればよい。例えば市販の細胞壁溶解酵素としては、YL-15(天野エンザイム(株)製)、ツニカーゼ(大和化成(株)製),キタラーゼ(クミアイ化学(株)製)などがあげられる。 ・・・ 【0051】 各酵素反応後、遠心分離して上澄液を回収し、必要に応じて濃縮し、スプレードライ等の方法により乾燥させ、固形物として酵母エキスを得ることができる。また、高濃度に濃縮し、液状濃縮エキスとしても良い。」 (1d)「【0065】 [実施例1]酵母エキス1の調製 サッカロマイセス・セレビシエ(IFO 1954)を、糖蜜1m3に対し、リン酸一アンモニウム3.3kg、塩化アンモニウム6.8kg、塩化カリウム1.7kg、硫酸マグネシウム1.7kg、硫酸亜鉛17g、微量金属類(ホウ酸0.15g、硫酸マンガン0.075g、硫酸銅0.10g、塩化第二鉄0.62g、モリブデン酸ナトリウム0.063g)を加えた培地(以下、糖蜜培地という)を用いて約1日間(20時間から24時間)培養し、集菌洗浄後、それを水に懸濁し、酵母スラリー(菌体濃度15%)1000mlを調製した。 【0066】 酵母スラリーを、95℃、10分加熱し菌体内酵素を失活させた後、pHを6に調製し、細胞壁溶解酵素(商品名:YL-15(天野エンザイム(株)製)を1.5g添加し50℃にて4時間反応させた。 【0067】 その後エンド型主体のプロテアーゼ(商品名:「アマノN」(天野エンザイム(株)製)を1g添加しpH5に調製後7時間反応させた。 反応後、遠心分離により上澄み液を回収し、粉末乾燥し、110gの酵母エキス1を得た。 ・・・ 【0069】 [実施例2]酵母エキス2の調製 キャンディダ・ユーティリス(IFO 0619)を、糖蜜培地を用いて培養し、集菌洗浄後、それを水に懸濁し、酵母スラリー(菌体濃度15%)1000mlを調製した。 【0070】 酵母スラリーを95℃、10分加熱し菌体内酵素を失活させた後pHを6.5に調製した後、細胞壁溶解酵素(商品名:ツニカーゼ(大和化成(株)製)を1.8g添加し40℃にて5時間反応させた。 【0071】 その後、エンド型プロテアーゼ(商品名:「アマノP」(天野エンザイム(株)製)を1g添加し、pH6に調製後、5時間反応させた。反応後、遠心分離により上澄み液を回収し、粉末乾燥し、108gの酵母エキス2を得た。 ・・・ 【0073】 [実施例3]酵母エキス3の調製 実施例2の酵母スラリーを、95℃、10分加熱し菌体内酵素を失活させた後pHを9.5に調製した後、細胞壁溶解酵素(商品名:YL-15(天野エンザイム(株)製)を1.5g、及びエンド型プロテアーゼ(商品名:「プロレーザー」(天野エンザイム(株)製)を0.5g添加し50℃にて4時間反応させた。 【0074】 反応後、遠心分離し上澄み液を回収し、粉末乾燥し、110gの酵母エキス3を得た。」 2 引用文献2に記載された事項 (2a)「『デナチームGEL』は,酵母の細胞壁の主成分であるβグルカンを効率よく分解し,糸状菌や酵母細胞壁に対する特異性が高い。酵母エキス製造時にプロテアーゼと併用して利用すると生産効率が高くなり,収率がプロテアーゼのみの場合と比較して1.5倍まで高くなる。また,細胞壁をかなり小さな単位まで分解するため,製造残渣を大幅に低減できる。」(36頁左欄2?9行) (2b)「酵母エキス用の原料には,パン酵母,(使用済みの)ビール酵母,トルラ酵母などの種類のもの使用することができ,その形態は,乾燥させたもの,水分を含んだもの,あるいは一度酵母エキスを抽出した後の残渣でも使用することがある。」(37頁左欄8?13行) (2c)「9.『デナチームGEL』の使用例 (1)乾燥パン酵母の濃度が10?15%になるように水を添加し,pHを6.5に調整する (2)デナチームGELを酵母の乾燥重量に対して0.5%,ビオプラーゼSP-20FG(当社プロテアーゼ)を乾燥酵母重量に対して1.5%添加する (3)溶液が均一になるように攪拌しながら,60℃で16時間反応させる (4)85℃以上で30分処理し(酵素を不活性化するため),遠心分離した後,上清を乾燥して(スプレードライなどで),酵母エキスを回収する」(37頁左欄14?26行) 3 引用文献3に記載された事項 (3a)「【0018】 実施例1 酵母エキス水溶液の製造 酵母懸濁液の調製: 乾燥ビール酵母(サッカロマイセス・セレビジエ)15gを、75mLの水道水に懸濁し、48%NaOH水溶液を用いてpHが6.5になるように調整して酵母懸濁液1とした。カンジタ・ユーティリスの酵母エキス抽出乾燥残渣10gを80mLの水道水に懸濁し、48%NaOH水溶液を用いてpHが6.5になるように調整して酵母懸濁液2とした。 ・・・ 【0024】 酵素処理後、試験区A?Cの反応液は、2500×g、2分間遠心分離(・・・)し、上清を回収した。・・・上清のBrixを測定した。上清を水で4倍希釈して、・・・OD650nmにて濁度を測定した。試験区D?Fの反応液は、15,000rpm、1分間遠心分離し、上清を回収し、希釈せずにBrix及びOD650nmを測定した。測定の結果は、表2及び表3に示した。 ・・・ 【0026】 表2から、酵素液をグルカナーゼ及びプロテアーゼを添加せずに抽出した酵母エキスのBrixが低いため、酵母エキス中の各種旨味成分の含有量が低いことが推測される。一方、グルカナーゼ及びプロテアーゼを添加したものは、高いBrixを有していることから、酵母細胞内の旨味成分が抽出されたことが推測される。また、ホスホリパーゼやリパーゼなど各種澄明化候補酵素をさらに添加した場合、添加しないものに比べてBrix値がほとんど変わらないことから、澄明化候補酵素の添加によるエキス中の各種旨味成分の損失がなかったことが示唆される。」 4 引用文献4に記載された事項 (4a)「2.特許請求の範囲 脱核酸及び又は脱グルタチオン処理を経た酵母に、細胞膜溶解酵素を作用させた後、菌体蛋白質多糖類及び酵母エキスを各別に分離抽出採取することを特徴とする酵母から多糖類、菌体蛋白質及び酵母エキスを製造する方法。」 5 引用文献5に記載された事項 (5a)「【0036】 各工程において用いた酵素の失活は、例えば加熱により行うことができる。酵母を10-15%程度の適当な濃度で水に懸濁させた後、80-120℃好ましくは90-100℃で加熱し、酵素の失活を行う。加熱時間は、10分程度で十分である。酵素の失活は各工程ごとに行っても良いし、最後の工程の後にまとめておこなっても良い。」 (5b)「【0038】 上記各工程において分解されずに不溶成分として残っている酵母菌体などの抽出残渣は、通常の酵母エキスの製造において行われるように適宜除去される。酵母菌体などを除去する方法としては、例えば遠心分離や膜分離などを挙げることができ、中でも工業製造には遠心分離が好適である。」 6 引用文献6に記載された事項 (6a)「【0031】 実施例3 ・・・ ここに得られた酵母に水を加え、全量を200mlとし、次いで,湯浴中で加熱し、90℃に逹温してから、90℃で2分間加熱した。この後直ちに流水中で冷却し、液温を50℃とした後、ツニカーゼ(天野エンザイム製細胞壁溶解酵素)の0.2gを少量の水に溶解後添加し、50℃で1hr撹拌しながら反応させた。反応後の液を遠心分離により不溶性固形分を除去しエキスを得た。このエキスに対して、グルタミナーゼ C100S 0.56gを添加し、実施例2と同様に反応、濃縮、乾燥させ、粉末酵母エキス約11gを得た。」 7 引用文献7に記載された事項 (7a)「【0049】 [実施例5]酵母エキス5 ・・・ 【0050】 酵母スラリーを、pH9.0、温度50℃、及び1?2時間の条件でアルカリ処理した後、50℃のときにエンド型プロテアーゼ(商品名:プロメラインF(天野エンザイム(株)製))を0.3g、細胞壁溶解酵素(商品名:YL-NL(天野エンザイム(株)製))を0.2g添加して50℃にて15?20時間自己消化反応を行った。 次に、結果物を、95?100℃で10分加熱し、菌体内酵素と、添加したプロテアーゼ及び細胞壁溶解酵素とを失活させた後、遠心分離機にて、抽出液と菌体固形分に分離した。抽出液をpH5、70℃に調製後、5’-リボ核酸分解酵素(商品名:スミチームNP(新日本化学工業(株)製))を0.5g添加し7時間反応させた。抽出液を45℃に調製後、デアミナーゼ(商品名:デアミザイム(天野エンザイム(株)製))を0.3g添加し6時間反応させた。その後、エンド/エキソ型プロテアーゼ(商品名:フレーバーザイム(ノボザイム(株)製))を0.3g添加し12時間反応させたその後、反応後常法により処理し72gの酵母エキスを得た。」 8 引用文献8に記載された事項 (8a)「【請求項1】 酵母を消化、或いは分解した酵母エキスであり、1マイクロメーターの口径を有する濾過膜を透過させ、その透過部をゲル濾過に供し、分画された流出液中の220nmにおける吸光光度法で検出されたペプタイド類において、分子量10000以上となるものの比率が、全検出されたペプタイド類の総量に対し、10%以上となる事を特徴とする酵母エキス。」 (8b)「【0001】 本発明は、畜肉、或いは魚介類を煮出しただし液の呈味のうち、厚み、複雑味にかかわる部分のみならず、全体のだし呈味をバランスよく強化し、さらに旨味の部分においても適正に強化することを可能にする酵母エキスに関するものである。」 (8c)「【0009】 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明における酵母エキスは、酵母を消化、或いは分解した酵母エキスであり、1マイクロメーターの口径を有する濾過膜を透過させた場合、その透過部において、分子量10000以上のペプタイド類画分が、ペプタイド類の総量に対し、10%以上となる酵母エキスであればよい。当該酵母エキスは、その製法や酵母の種類、由来により何ら限定されるものではないが、たとえば、通常の培養にて得た酵母菌体を集菌洗浄後適量の水に酵母を懸濁し自己消化または酵母の細胞壁溶解酵素を用いてエキス分の抽出を行った後エンド型プロテアーゼに対しエキソ型プロテアーゼを多く含むプロテアーゼを添加作用させてタンパク質を分解させ、常法により液状、ペースト化、または粉末化することによって得ることができる。また、細胞中にグルタミン酸またはコハク酸を高蓄積する酵母菌株を用いてもよい。 【0010】 こうして得られた酵母エキスには、1マイクロメーター透過画分において独特のアミノ酸、たんぱく質、ペプタイド等の分子量分布を構成する(以後ペプチドパターンと呼ぶ)。」 (8d)「【実施例1】 【0019】 パン酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)3-2-C?7株(工業技術院生命技術研究所委託株FERM P-14013)を300Lジャーファーメンターを用い常法で培養し酵母菌体を固形分10%になるように水を加え懸濁し40%NaOH溶液でpH5.7に調整した後細胞壁溶解酵素YL-15(天野エンザイム)を固形分当たり0.1%添加し、45℃でそれぞれ8時間および10時間反応させた。反応後70℃30分加熱し酵素を失活させ、40℃に冷却後ペプチダーゼR(天野エンザイム)を固形分当たり0.2%添加し40℃2時間反応させた。反応後70℃30分間加熱し酵素を失活させた後常法によりペースト状の酵母エキスを得た。 ・・・ 【実施例2】 【0025】 パン酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)HG-1株(3-2-C?7株の変異株、グルタミン酸高生成株)を300Lジャーファーメンターを用い常法で培養し酵母菌体を固形分10%になるように水を加え懸濁し40%NaOH溶液でpH5.7に調整した後細胞壁溶解酵素YL-15(天野エンザイム)を固形分当たり0.1%添加し、45℃8時間反応させた。反応後70℃30分加熱し酵素を失活させ、40℃に冷却後ペプチダーゼR(天野エンザイム)を固形分当たり0.2%添加し40℃2時間反応させた。反応後70℃30分間加熱し酵素を失活させた後70℃30分加熱して常法によりペースト状の酵母エキスを得た。 ・・・ 【実施例3】 【0033】 パン酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)3-2-C?7株を300Lジャーファーメンターを用い常法で培養し酵母菌体を固形分10%になるように水を加え懸濁し40%NaOH溶液でpH5.7に調整した後細胞壁溶解酵素YL-15(天野エンザイム)を固形分当たり0.1%添加し、45℃8時間反応させた。反応後70℃30分加熱し酵素を失活させ、45℃に冷却後エキソ型プロテアーゼ活性の弱いニュートラーゼF3G(天野エンザイム)を固形分当たり0.2%添加し45℃1時間および2時間反応させた。反応後70℃30分間加熱し酵素を失活させた後常法によりペースト状の酵母エキスを得た。 ・・・ 【実施例4】 【0036】 パン酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)KY-2株(3-2-C?7株の変異株、コハク酸高生成株)を300Lジャーファーメンターを用い常法で培養し酵母菌体を固形分10%になるように水を加え懸濁し40%NaOH溶液でpH5.7に調整した後細胞壁溶解酵素YL-15(天野エンザイム)を固形分当たり0.1%添加し、45℃8時間反応させた。反応後70℃30分加熱し酵素を失活させ、40℃に冷却後ペプチダーゼR(天野エンザイム)を固形分当たり0.1%添加し40℃1時間反応させた。反応後70℃30分間加熱し酵素を失活させた後常法によりペースト状の酵母エキスを得た。」 第5 対比・判断 1 理由1Aについて (1)引用文献1に記載の発明 上記(1a)【請求項10】には、「酵母の菌体内酵素を失活させた後、菌体の細胞壁を破砕した菌体処理物にエンド型プロテアーゼを作用させる、酵母エキスの製造方法」が記載されており、上記(1c)【0045】?【0046】には、細胞壁の破壊は、細胞壁溶解酵素を用いる酵素分解法が好ましいこと、エンド型プロテアーゼにより菌体内タンパク質をペプチドに分解することが記載されている。 また、上記(1a)【請求項1】及び上記(1b)の記載からみて、上記製造方法で得られた酵母エキスは、酵母エキス中のペプチド含量及びペプチド比率が所定の数値以上に調製され、コク味付与能、マスキング能に優れたものであるといえる。 したがって、これらの記載からみて、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。 「酵母の菌体内酵素を失活させた後、細胞壁溶解酵素を添加して菌体の細胞壁を破砕した菌体処理物に含まれる菌体内タンパク質にエンド型プロテアーゼを作用させる、コク味付与能、マスキング能に優れた酵母エキスの製造方法。」 (2)対比・判断 ア 本願発明1について (ア)本願発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「酵母の菌体内酵素を失活させた」ものと、本願発明1の「酵母エキス抽出後の酵母菌体」とは、「酵母由来の原料」で共通する。 引用発明1の「細胞壁溶解酵素」と、本願発明1の「プロテアーゼを含まない細胞壁溶解酵素」とは、「細胞壁溶解酵素」で共通する。 引用発明1の「菌体の細胞壁を破砕した菌体処理物に含まれる菌体内タンパク質」と、本願発明1の「細胞壁構成成分を除去して得られた酵母タンパク」とは、「酵母タンパク」で共通する。 引用発明1の「菌体内タンパク質にエンド型プロテアーゼを作用」させることと、本願発明1の「酵母タンパクを酵素分解」することとは、「酵母タンパクを酵素分解」することで共通する。 引用発明1の「酵母エキスの製造方法」と、本願発明1の「酵母由来調味料の製造方法」とは、「酵母由来の産物の製造方法」で共通する。 よって、両発明は次の一致点及び相違点1-1?1-3を有すると認める。 一致点 「酵母由来の原料に細胞壁溶解酵素を作用させ、得られた酵母タンパクを酵素分解してなるものである、酵母由来の産物の製造方法。」である点。 相違点1-1: 「酵母由来の原料」からの「酵母由来の産物の製造方法」が、本願発明1は「酵母エキス抽出後の酵母菌体」からの「酵母由来調味料の製造方法」であるのに対し、引用発明1は「酵母の菌体内酵素を失活させた」ものからの「コク味付与能、マスキング能に優れた酵母エキスの製造方法」である点。そして、本願発明1の「酵母エキス抽出後の酵母菌体」は、本願明細書【0013】に「本発明の酵母菌体としては、第一に酵母エキス抽出後の酵母菌体、すなわち酵母エキス抽出残渣が挙げられる。」と説明されているとおり、酵母に細胞壁溶解酵素などを用いて抽出処理することにより酵母エキスを抜いた後の残渣のことである。 したがって、本願発明1は酵母エキスの抽出残渣から調味料を製造するのに対して、引用発明1は酵母全体から酵母エキスを製造する点で相違するといえる。 相違点1-2: 「細胞壁溶解酵素」が、本願発明1は「プロテアーゼを含まない」ものに特定しているのに対し、引用発明1では不明な点。 相違点1-3: 本願発明1は、「細胞壁溶解酵素を作用させ」る工程と、「酵母タンパクを酵素分解」する工程の間に「細胞壁構成成分を除去」する工程を有するのに対し、引用発明1は「細胞壁溶解酵素を添加」する工程と「菌体内タンパク質にエンド型プロテアーゼを作用させ」る工程との間に、そのような工程を有さない点。 (イ)そこで、上記相違点1-1?1-3について検討する。 a 相違点1-1について 上記(1b)には、「飲食品本来の味を損ねることなく、飲食品に濃厚感を付与する酵母エキスおよびその製法を提供すること」及び「飲食品本来の味を損ねることなく、飲食品の不快な臭いをマスキング若しくは低減する酵母エキスおよびその製法を提供すること」を課題とし、「酵母エキス中のペプチド含量およびペプチド比率(全アミノ酸含量に対するペプチド含量の比率)を所定の数値以上に調製することにより、その酵母エキスが飲食品に濃厚感を与え、また飲食品の不快な臭いを低減あるいはマスキングする性質に優れる」こと、そのような酵母エキスを得るためには、「予め酵母の菌体内酵素をすべて失活させた後、エンド型プロテアーゼを作用させることが好適」であり、「このような方法を採用することにより、添加対象となる飲食品が元々持っているコク味を増強する作用を有するペプチド含量が高まり、遊離アミノ酸やヌクレオチド類の生成を抑制し、好ましい成分配合の酵母エキスを得られる」ことが記載されている。 そうすると、引用発明1の「酵母エキス」を調味料とすることは、引用文献1に示されているといえる。 引用文献2の上記(2b)には、酵母エキスの原料として、「一度酵母エキスを抽出した後の残渣でも使用することがある」と記載され、引用文献3の上記(3a)の実施例1には、「カンジタ・ユーティリスの酵母エキス抽出乾燥残渣」から酵母エキスを抽出したことが記載され、引用文献4の上記(4a)には、「脱核酸及び又は脱グルタチオン処理を経た酵母」から酵母エキスを製造することが、それぞれ記載されていることから、酵母エキスを製造する原料として、「酵母エキス抽出後の酵母菌体」を用いることは、本出願前周知の事項であったといえる。 しかしながら、引用発明1は、コク味付与能、マスキング能に優れた酵母エキスを提供するために酵母全体を原料とし、上記(1a)【請求項1】に記載されるペプチド含有(重量%)及びペプチド比率(%)の酵母エキスを製造するものと認められるから、引用発明1では酵母全体から酵母エキスを製造することが必要であり、酵母全体に代えて酵母エキスの抽出残渣を用いることを動機付けられるところはない。 よって、相違点1-1は、当業者が容易になし得たものではない。 b 相違点1-2について 引用文献1には、「細胞壁溶解酵素」については、上記(1c)【0048】に「グルカナーゼ、マンナナーゼを含有し、酵母細胞壁を溶解するに十分な活性を有するものであればよい」と説明されているが、プロテアーゼを含むか否かについては記載されていない。 引用文献2に記載される「デナチームGEL」は、本願明細書【0015】にプロテアーゼ活性をほとんど有さない細胞壁溶解酵素の具体例として示されるものであるが、引用文献2の上記(2a)及び(2c)には、デナチームGELは、酵母エキス製造時にプロテアーゼと併用することが示されており、引用文献2に開示された技術的事項を参酌しても、引用発明1においてプロテアーゼを含まない細胞壁溶解酵素のみを作用させて酵母エキスを得ることを当業者が容易になし得るとはいえない。 よって、相違点1-2は、当業者が容易になし得たものではない。 c 相違点1-3について 引用文献1の上記(1c)【0051】には、「各酵素反応後、遠心分離して上澄液を回収し、必要に応じて濃縮し、スプレードライ等の方法により乾燥させ、固形物として酵母エキスを得ることができる」ことが記載されており、他に、細胞壁溶解酵素の反応の後で、細胞壁構成成分などを除去する工程を行うことについては記載も示唆もされていない。 そして、上記(1d)の実施例でも、細胞壁溶解酵素とエンド型プロテアーゼを同時に添加して反応を行う[実施例3]はもとより、細胞壁溶解酵素を添加して反応を行い、その後にエンド型プロテアーゼを添加して反応を行う[実施例1]?[実施例2]においても、2つの酵素反応の途中で分離処理などを行うことなく、酵素反応後に遠心分離により上澄み液を回収して酵母エキスを得ている。 引用文献5の上記(5b)、引用文献6の上記(6a)及び引用文献7の上記(7a)には、酵母から酵母エキスを製造する方法において、異なる酵素処理を行う間に遠心分離などにより不溶成分を除去することが記載されているように、工程の途中で不溶成分を除去することは、当業者に周知の事項であったといえるが、引用発明1の「酵母エキスの製造方法」は、「細胞壁溶解酵素を添加」する工程と「エンド型プロテアーゼを作用させ」る工程とを逐次又は同時に行った後で、遠心分離により上澄み液を回収することで足りるものであり、そのような製造方法について、敢えて「細胞壁構成成分を除去」する工程を行うことが、当業者に動機付けられるとはいえない。 よって、相違点1-3は、当業者が容易になし得たものではない。 d 本願発明1の効果について 本願発明1は、本願明細書【0010】に「本発明により、従来は産業廃棄物になっていた酵母エキス抽出残渣を調味料の製造原料として有効利用できるようになり、廃棄物の大幅な減量が可能になった。得られた調味料は、全窒素含量が11%以上でコクがあり魚介系の独特で良好な風味をもつものであり、新しい種類の調味液として利用できる。」と記載されているとおりの効果を奏するものであり、引用発明1及び引用文献1?7の記載から、本願発明1の奏する効果を予測することはできない。 (ウ)まとめ 以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものではない。 イ 本願発明2、4について 本願発明2及び4は、それぞれ本願発明1を引用して、「細胞壁溶解酵素がプロテアーゼを含まないグルカナーゼである」こと、「酵母菌体がキャンディダ・ユティリス又はサッカロマイセス・セレビシエである」ことを特定するものである。 そこで検討するに、引用文献1の上記(1d)の[実施例1]及び[実施例2]では、酵母菌体として「サッカロマイセス・セレビシエ(IFO 1954)」及び「キャンディダ・ユーティリス(IFO 0619)」を用いたことが示されている。 しかしながら、上記ア(イ)で検討したとおり、本願発明1が、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものではない以上、本願発明2及び4も、同様に当業者が容易になし得たものではない。 2 理由1Bについて (1)引用文献1に記載の発明 引用発明1は、上記1(1)で認定したとおりのものである。 (2)対比・判断 ア 本願発明3について 本願発明3は、本願発明1を引用して、「前記細胞壁溶解酵素の作用に次いで、50?95℃、5分以上の加熱処理を行った後に細胞壁構成成分を除去する」ことを特定するものである。 ここで、上記(5b)及び(8d)にあるとおり、酵母から酵母エキスを製造する方法において、細胞壁溶解酵素などによる反応を行った後で、50?95℃程度の温度で5分以上の時間、加熱処理を行って酵素を失活させることは、当業者に周知の事項であったといえる。 しかしながら、上記1(2)ア(イ)cのとおり、引用発明1において、「細胞壁構成成分を除去する」工程を行うことは、当業者が容易になし得たものとはいえないのであるから、さらにその前処理を特定する本願発明3も、同様に当業者が容易になし得たものではない。 イ 本願発明4について 本願発明4は、本願発明3を引用してさらなる特定をするものであるから、上記アと同様に、当業者が容易になし得たものではない。 3 理由1Cについて (1)引用文献8に記載の発明 上記(8a)及び(8c)の記載によれば、引用文献8には、独特のペプチドパターンを構成する酵母エキスであって、全体のだし呈味をバランスよく強化し、さらに旨味の部分においても適正に強化することを可能にする酵母エキスが記載されているといえる。 そして、このような酵母エキスの製造方法は、上記(8c)及び(8d)の記載からみて、酵母を培養して得た酵母菌体を水に懸濁し、細胞壁溶解酵素を反応させた後、エンド型プロテアーゼに対しエキソ型プロテアーゼを多く含むプロテアーゼを反応させてタンパク質を分解させることと認められる。 したがって、引用文献8には、次の発明(以下、「引用発明8」という。)が記載されていると認める。 「酵母を培養して得た酵母菌体を水に懸濁し、細胞壁溶解酵素を反応させた後、エンド型プロテアーゼに対しエキソ型プロテアーゼを多く含むプロテアーゼを反応させてタンパク質を分解させる、全体のだし呈味をバランスよく強化し、さらに旨味の部分においても適正に強化することを可能にする酵母エキスの製造方法。」 (2)対比・判断 ア 本願発明1について (ア)本願発明1と引用発明8とを対比する。 引用発明8の「酵母を培養して得た酵母菌体を水に懸濁し」たものと、本願発明1の「酵母エキス抽出後の酵母菌体」とは、「酵母由来の原料」で共通する。 引用発明8の「細胞壁溶解酵素」と、本願発明1の「プロテアーゼを含まない細胞壁溶解酵素」とは、「細胞壁溶解酵素」で共通する。 引用発明8の「エンド型プロテアーゼに対しエキソ型プロテアーゼを多く含むプロテアーゼを反応させてタンパク質を分解させる」させることと、本願発明1の「酵母タンパクを酵素分解」することとは、「酵母タンパクを酵素分解」することで共通する。 引用発明8の「全体のだし呈味をバランスよく強化し、さらに旨味の部分においても適正に強化することを可能にする酵母エキスの製造方法」と、本願発明1の「酵母由来調味料の製造方法」とは、「酵母由来の産物の製造方法」で共通する。 よって、両発明は次の一致点及び相違点8-1?8-3を有すると認める。 一致点 「酵母由来の原料に細胞壁溶解酵素を作用させ、得られた酵母タンパクを酵素分解してなるものである、酵母由来の産物の製造方法。」である点。 相違点8-1: 「酵母由来の原料」からの「酵母由来の産物の製造方法」が、本願発明1は「酵母エキス抽出後の酵母菌体」からの「酵母由来調味料の製造方法」であるのに対し、引用発明8は「酵母を培養して得た酵母菌体を水に懸濁し」たものからの「全体のだし呈味をバランスよく強化し、さらに旨味の部分においても適正に強化することを可能にする酵母エキスの製造方法」である点。そして、本願発明1の「酵母エキス抽出後の酵母菌体」は、酵母に細胞壁溶解酵素などを用いて抽出処理することにより酵母エキスを抜いた後の残渣のことである。 したがって、本願発明1は酵母エキスの抽出残渣から調味料を製造するのに対して、引用発明8は酵母全体から酵母エキスを製造する点で相違するといえる。 相違点8-2: 「細胞壁溶解酵素」が、本願発明1は「プロテアーゼを含まない」ものに特定しているのに対し、引用発明8では不明な点。 相違点8-3: 本願発明1は、「細胞壁溶解酵素を作用させ」る工程と、「酵母タンパクを酵素分解」する工程の間に「細胞壁構成成分を除去」する工程を有するのに対し、引用発明8は「細胞壁溶解酵素を反応させ」る工程と「エンド型プロテアーゼに対しエキソ型プロテアーゼを多く含むプロテアーゼを反応させてタンパク質を分解させる」工程との間に、そのような工程を有さない点。 (イ)そこで、上記相違点8-1?8-3について検討する。 a 相違点8-1について 上記(8b)にもあるとおり、引用発明8の酵母エキスは、全体のだし呈味をバランスよく強化し、さらに旨味の部分においても適正に強化することを可能にするものであるから、引用発明8の「酵母エキス」を調味料とすることは、引用文献1に示されているといえる。 上記1(2)ア(イ)aで検討したとおり、引用文献2?4の記載から、酵母エキスを製造する原料として、「酵母エキス抽出後の酵母菌体」を用いることは、本出願前周知の事項であったといえるが、引用発明8は、全体のだし呈味をバランスよく強化し、さらに旨味の部分においても適正に強化することを可能にする酵母エキスを提供するために酵母全体を原料とし、上記(8a)【請求項1】に記載される独特のペプチドパターンの酵母エキスを製造するものと認められるから、引用発明8では酵母全体から酵母エキスを製造することが必要であり、酵母全体に代えて酵母エキスの抽出残渣を用いることを動機付けられるところはない。 よって、相違点8-1は、当業者が容易になし得たものではない。 b 相違点8-2について 引用発明8の「細胞壁溶解酵素」については、上記(8d)の【実施例1】?【実施例4】で「細胞壁溶解酵素YL-15(天野エンザイム)」を用いたことが示されているだけであり、この市販の酵素が「プロテアーゼを含まない」ものであるか否かについては記載も示唆もされていない。 そして、上記1(2)ア(イ)bで検討したのと同様に、引用文献2に開示された技術的事項を参酌しても、引用発明8においてプロテアーゼを含まない細胞壁溶解酵素のみを作用させて酵母エキスを得ることを当業者が容易になし得るとはいえない。 よって、相違点8-2は、当業者が容易になし得たものではない。 c 相違点8-3について 引用文献8には、細胞壁溶解酵素を反応させた後、プロテアーゼを反応させる工程について説明したところはないが、上記(8d)の【実施例1】?【実施例4】では、いずれも、細胞壁溶解酵素を添加し反応させ、その後加熱し酵素を失活させ、冷却後プロテアーゼを添加し反応させ、その後加熱し酵素を失活させた後常法により酵母エキスを得ており、途中で不溶成分などを除去することなく、酵母エキスを得る方法が記載されているといえる。 そうすると、上記1(2)ア(イ)cで検討したとおり、引用文献5?7の記載から、酵母から酵母エキスを製造する工程の途中で不溶成分を除去することは、当業者に周知の事項であったといえるものの、そのことを考慮しても、当業者が敢えて工程を増やそうとする動機付けがあるとはいえない。 よって、相違点8-3は、当業者が容易になし得たものではない。 d 本願発明1の効果について 本願発明1は、上記1(2)ア(イ)dのとおりの効果を奏するものであり、引用発明8及び引用文献2?8の記載からも、同様に、本願発明1の奏する効果を予測することはできない。 (ウ)まとめ 以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献8に記載された発明及び引用文献2?7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものではない。 イ 本願発明2?4について 本願発明2?4は、それぞれ本願発明1を引用して、「細胞壁溶解酵素がプロテアーゼを含まないグルカナーゼである」こと、「前記細胞壁溶解酵素の作用に次いで、50?95℃、5分以上の加熱処理を行った後に細胞壁構成成分を除去する」こと、及び「酵母菌体がキャンディダ・ユティリス又はサッカロマイセス・セレビシエである」ことを特定するものである。 そこで検討するに、引用文献8の上記(8d)の【実施例1】?【実施例4】には、パン酵母サッカロミセス・セレビシエを用い、細胞壁溶解酵素を添加し反応させ、反応後70℃30分加熱し酵素を失活させたことが示されている。 しかしながら、上記ア(イ)で検討したとおり、本願発明1が、引用文献8に記載された発明及び引用文献2?7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものではない以上、本願発明2?4も、同様に当業者が容易になし得たものではない。 第6 原査定について 上記第5で検討したとおりであり、原査定の理由を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-10-30 |
出願番号 | 特願2012-228046(P2012-228046) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A23L)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 小倉 梢 |
特許庁審判長 |
中島 庸子 |
特許庁審判官 |
関 美祝 天野 宏樹 |
発明の名称 | 酵母タンパク由来調味料 |
代理人 | 榎本 政彦 |