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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01S 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01S |
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管理番号 | 1356624 |
審判番号 | 不服2018-15372 |
総通号数 | 240 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-11-20 |
確定日 | 2019-11-08 |
事件の表示 | 特願2017-501897「SOA集積EA-DFBレーザ及びその駆動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 1日国際公開、WO2016/136183〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2016年(平成28年)2月16日(優先権主張 平成27年2月23日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。 平成29年12月28日付け:拒絶理由通知書 平成30年 3月 2日 :意見書・手続補正書 平成30年 8月15日付け:拒絶査定 平成30年11月20日 :審判請求書・手続補正書 第2 原査定における拒絶の理由 原査定における拒絶の理由は、次のものを含む。 本願の請求項4に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2013-258336号公報(引用文献1)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 第3 平成30年11月20日に提出された手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成30年11月20日に提出された手続補正書による手続補正を却下する。 [理由] 1 平成30年11月20日に提出された手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)の内容 本件補正は、 本件補正前の請求項4の記載である 「DFBレーザ部とEA変調器部とを含むEA-DFBレーザの出射端にSOA部が集積されたSOA集積EA-DFBレーザであって、 EA-DFBレーザを光送信モジュールに搭載した場合に許容される前記EA-DFBレーザのDFBレーザ部への最大注入電流から削減量ΔI_(DFB)を削減することによって前記SOA集積EA-DFBレーザのDFBレーザ部で削減できた消費電力と前記SOA集積EA-DFBレーザのEA変調器部で削減できた消費電力との合計分を超えない消費電力の範囲内で前記SOA部に電流I_(SOA)が注入され、 前記SOA集積EA-DFBレーザのDFBレーザ部及びSOA部は同一の制御端子から電流を注入され、 I_(SOA)=115[mA/mm]×L_(SOA)[mm]+10[mA]±ΔI_(DFB)/2[mA]を満たすように前記SOA集積EA-DFBレーザのDFBレーザ部及びSOA部の光導波方向に関する長さが設計されていることを特徴とするSOA集積EA-DFBレーザ。」を、 本件補正後の請求項4の記載である 「DFBレーザ部とEA変調器部とを含むEA-DFBレーザの出射端にSOA部が集積されたSOA集積EA-DFBレーザであって、 EA-DFBレーザを光送信モジュールに搭載した場合に許容される前記EA-DFBレーザのDFBレーザ部への最大注入電流から削減量ΔI_(DFB)を削減することによって前記SOA集積EA-DFBレーザのDFBレーザ部で削減できた消費電力と前記SOA集積EA-DFBレーザのEA変調器部で削減できた消費電力との合計分を超えない消費電力の範囲内で前記SOA部に電流I_(SOA)が注入され、 前記SOA集積EA-DFBレーザのDFBレーザ部及びSOA部は同一の制御端子から電流を注入され、 I_(SOA)=115[mA/mm]×L_(SOA)[mm]+10[mA]±ΔI_(DFB)/2[mA]を満たすように前記SOA集積EA-DFBレーザのDFBレーザ部及びSOA部の光導波方向に関する長さが設計されているとともに、 L_(SOA)は50μm以上150μm未満であることを特徴とするSOA集積EA-DFBレーザ。」へと補正することを含むものである(下線は補正箇所である。)。 2 本件補正の適否 本件補正のうち上記1で述べた補正は、本件補正前の請求項4に記載された発明を特定するために必要な事項である「L_(SOA)」について、「50μm以上150μm未満である」との限定を付加するものであって、本件補正前の請求項4に記載された発明と本件補正後の請求項4に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、上記補正を含む本件補正が、同条第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件に適合するか、すなわち、本件補正後の請求項4に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1において本件補正後の請求項4として記載したとおりである。 以下、本件補正発明の「I_(SOA)=115[mA/mm]×L_(SOA)[mm]+10[mA]±ΔI_(DFB)/2[mA]」との数式を、「本件数式」ということがある。 (2)引用文献1の記載事項 ア 原査定における拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1である特開2013-258336号公報には、次の記載がある(下線は当審が付した。以下、同じ。)。 (ア)「【特許請求の範囲】」、 「DFBレーザと、EA変調器と、SOAとが同一基板上にモノリシック集積された半導体光集積素子であって、 光導波方向に対して、前記DFBレーザ、前記EA変調器、前記SOAの順に集積され、 前記DFBレーザ及び前記SOAは、同一の制御端子によって電流を注入されることを特徴とする半導体光集積素子。」(【請求項1】)、 「前記SOAの光導波方向についての長さは、50μm以上150μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体光集積素子。」(【請求項2】) (イ)「このように、EA変調器に印加するDCバイアスV_(b)は、・・・」(【0007】) (ウ)「・・・EA変調器出力端にSOAが接続されている場合は、EA変調器出力端にSOAが接続されていない場合と同等の光波形が得られるまでDCバイアスV_(b)の絶対値を小さくしていくことが可能であり、その結果光出力の増加を実現することができる。」(【0024】)、 「図4を用いて、本発明に係る半導体光集積素子の制御について説明する。図4に示されるように、本発明に係る半導体光集積素子においては、従来のEA-DFBレーザの制御と同等の簡便な駆動を実現するため、同一基板上にモノリシック集積したSOAとDFBレーザとを同一の制御端子で制御する。当該同一の制御端子から注入する電流値Iopは、DFBレーザ及びSOAに注入する電流をそれぞれI_(DFB)及びI_(SOA)とすると、 I_(op)=I_(DFB)+I_(SOA) (式2) となる。」(【0025】)、 「一般に、EA-DFBレーザを搭載した光送信モジュールにおいて許容されるI_(op)値は60?80mAである。本発明に係る半導体光集積素子を用いた光送信モジュールにおいても、EA-DFBレーザの改良を目指すために、I_(op)の値は80mAを上限値としなくてはならない。」(【0026】)、 「図5は、本発明の半導体光集積素子のようなEA-DFBレーザ-SOA素子におけるI_(op)とI_(DFB)及びI_(SOA)との関係を示す。図5においては、一般的な長さである450μmのDFBレーザを使用した。図5に示されるように、SOA長が50μmである場合、SOA長はDFBレーザの長さ(450μm)に対して1/9であるため、注入した電流のほとんどはDFBレーザに流れる。」(【0027】)、 「一方、図5に示されるように、SOA長が150μmである場合、SOA長はDFBレーザの長さに対して1/3であるため、I_(op)=80mAのとき、I_(DFB)=60mA程度がDFBレーザに注入され、I_(SOA)=20mA程度がSOAに注入される。」(【0028】)、 「このように、DFBレーザ及びSOAを同一端子で接続し、SOA長を調整することにより、所定の電流注入量I_(op)に対してDFBレーザ部及びSOA部への各電流注入量I_(DFB)及びI_(SOA)が所望の割合となるように電流量を割り振ることができ、それによりI_(DFB)及びI_(SOA)を調整することができる。このため、従来のEA-DFBレーザに対して消費電力が大きく増加することなく、SOAに電流注入することができ、さらにEA変調器に印加するDCバイアスV_(b)の絶対値を小さくすることができる分、消費電力を削減できることになる。ここで、DFBレーザの駆動には、閾値電流及びSMSRを得るために60mAは必要であるため、光導波方向に関するSOA長は150μm以下とすることが望ましい。」(【0029】) (エ)「(実施例) 以下、図6を用いて、本発明の実施例に係る半導体光集積素子の製作過程を説明する。ただし、図6はあくまで本実施例を説明するものであって、図6に示される構成要素の大きさと本実施例記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。」(【0030】)、 「まず、図6(a)に示されるように、n型InPからなる基板1上に、InGaAlAs系材料からなり、量子井戸構造を有するEA変調器部層2をMOCVD法により形成する。このとき、25℃におけるEA変調器部層2の発光波長は約1470nmであり、EA変調器部層2の量子井戸構造は、例えば、量子井戸層厚6nm、障壁層厚10nmとし、量子井戸層と障壁層とを10層程度、交互に積層している。これにより、消光に十分な光閉じ込め構造を形成することができる。続いて、図6(b)に示されるように、EA変調器部層2を部分的に基板1上に残すように基板1の表面までエッチングを行うことにより、基板1上に所望の長さのEA変調器を形成する。」(【0031】)、 「次に、図6(c)に示されるように、基板1上に、それぞれInGaAlAs系材料からなり、量子井戸構造を有するDFBレーザ部層3及びSOA部層4を形成する。25℃におけるDFBレーザ部層3及びSOA部層4の発光波長は約1540nmであり、DFBレーザ部層3及びSOA部層4は、例えば、量子井戸層厚4nm、障壁層厚10nmとし、量子井戸層と障壁層とが6層程度、交互に積層されている。」(【0032】)、 「次に、図6(d)に示されるように、InGaAsP系材料からなる光導波路層5を、バッドジョイントプロセスを用いて光導波路層を各層に接続することにより、EA変調器部層2とDFBレーザ部層3との間、EA変調器部層2とSOA部層4との間、及びSOA部層4と素子端面との間にそれぞれ形成する。光導波路層5の構造としては、例えば、厚さ100nm、組成波長1150nmのInGaAsPバルク成長層に続いて、厚さ200nm、組成波長1300nmのInGaAsP成長層を積層し、さらに厚さ100nm、組成波長1150nmのInGaAsPバルク成長層を積層した構造が望ましい。前記構造により、光損失の小さい光導波路層5を形成することができる。」(【0033】)、 「次に、図6(e)に示されるように、DFBレーザ部層3上に、回折格子6を形成する。次に、図6(f)に示されるように、p型InPからなるクラッド層7を、EA変調器部層2、DFBレーザ部層3、SOA部層4及び光導波路層5上に形成する。次に、図6(g)に示されるように、導波路構造がリッジ型導波路構造となるようにクラッド層7をエッチング処理する。リッジ型導波路構造のリッジ幅を2μm程度にすると、光通信に好適な安定した横シングルモード発振が得られる。」(【0034】)、 「次に、図6(h)に示されるように、EA変調器部層2、DFBレーザ部層3、SOA部層4、光導波路層5及びクラッド層7上をそれぞれ覆うように、絶縁膜8を形成する。次に、図6(i)に示されるように、絶縁膜8上にベンゾシクロブテン(BCB)9を形成し、BCB9上にEA変調器部層2に電流を印加するためのp型電極10、DFBレーザ部層3に電流を印加するためのp型電極11、SOA部層5に電流を印加するためのp型電極12をそれぞれ形成し、基板1において各p型電極10乃至12が形成されている側の面に対して反対側の基板面上にn型電極13を形成する。各電極10乃至13を形成した後、劈開により素子を切り出し、後端面に反射率90%の反射膜、前端面に反射率1%以下の低反射膜をスパッタリング法により形成する。」(【0035】) (オ)図5によれば、SOA長が50μmの場合、I_(OP)が80mAのときのI_(SOA)が6?8mA程度であることが見て取れる。 イ 上記アによれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、引用発明の認定に用いた段落番号等を、参考までに、括弧内に付してある。 「DFBレーザと、EA変調器と、SOAとが同一基板上にモノリシック集積された半導体光集積素子であって、 光導波方向に対して、前記DFBレーザ、前記EA変調器、前記SOAの順に集積され、 前記DFBレーザ及び前記SOAは、同一の制御端子によって電流を注入される半導体光集積素子であって、(【請求項1】)、 前記SOAの光導波方向についての長さは、50μm以上150μm以下であり、(【請求項2】) EA変調器出力端にSOAが接続されている場合は、EA変調器出力端にSOAが接続されていない場合と同等の光波形が得られるまでEA変調器に印加するDCバイアスV_(b)の絶対値を小さくしていくことが可能であり、その結果光出力の増加を実現することができ、(【0007】・【0024】) 当該同一の制御端子から注入する電流値I_(op)は、DFBレーザ及びSOAに注入する電流をそれぞれI_(DFB)及びI_(SOA)とすると、I_(op)=I_(DFB)+I_(SOA)であり、(【0025】) EA-DFBレーザを搭載した光送信モジュールにおいて許容されるI_(op)値は80mAが上限値であり、(【0026】) SOA長が50μmである場合、SOA長はDFBレーザの長さ(450μm)に対して1/9であるため、注入した電流のほとんどはDFBレーザに流れ、I_(OP)が80mAのときのI_(SOA)が6?8mA程度であり、(【0027】、上記ア(オ)) SOA長が150μmである場合、SOA長はDFBレーザの長さに対して1/3であるため、I_(op)=80mAのとき、I_(DFB)=60mA程度がDFBレーザに注入され、I_(SOA)=20mA程度がSOAに注入され、(【0028】) DFBレーザ及びSOAを同一端子で接続し、SOA長を調整することにより、所定の電流注入量I_(op)に対してDFBレーザ部及びSOA部への各電流注入量I_(DFB)及びI_(SOA)が所望の割合となるように電流量を割り振ることができ、それによりI_(DFB)及びI_(SOA)を調整することができる、(【0029】) 半導体光集積素子。」 (3)対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 ア 本件補正発明の「DFBレーザ部とEA変調器部とを含むEA-DFBレーザの出射端にSOA部が集積されたSOA集積EA-DFBレーザであって、」との特定事項について (ア)引用発明の「同一基板上にモノリシック集積された」「DFBレーザ」は、本件補正発明の「DFBレーザ部」に相当する。 (イ)引用発明の「同一基板上にモノリシック集積された」「EA変調器」は、本件補正発明の「EA変調器部」に相当する。 (ウ)引用発明の「同一基板上にモノリシック集積された」「SOA」は、本件補正発明の「SOA部」に相当する。 (エ)引用発明の「半導体光集積素子」は、「光導波方向に対して、前記DFBレーザ、前記EA変調器、前記SOAの順に集積され」ているから、上記(ア)?(ウ)も踏まえると、本件補正発明でいう「EA-DFBレーザの出射端にSOA部が集積されたSOA集積EA-DFBレーザ」であるといえる。 (オ)よって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。 イ 本件補正発明の「前記SOA集積EA-DFBレーザのDFBレーザ部及びSOA部は同一の制御端子から電流を注入され、」との特定事項について 引用発明は、「前記DFBレーザ及び前記SOAは、同一の制御端子によって電流を注入される」ものであるから、上記アにも照らせば、本件補正発明の上記特定事項を備える。 ウ 本件補正発明の「EA-DFBレーザを光送信モジュールに搭載した場合に許容される前記EA-DFBレーザのDFBレーザ部への最大注入電流から削減量ΔI_(DFB)を削減することによって前記SOA集積EA-DFBレーザのDFBレーザ部で削減できた消費電力と前記SOA集積EA-DFBレーザのEA変調器部で削減できた消費電力との合計分を超えない消費電力の範囲内で前記SOA部に電流I_(SOA)が注入され、」との特定事項について (ア)引用発明の「SOAに注入する電流」である「I_(SOA)」は、本件補正発明の「I_(SOA)」に相当する。 (イ)本件補正発明の「EA-DFBレーザを光送信モジュールに搭載した場合に許容される前記EA-DFBレーザのDFBレーザ部への最大注入電流」における「EA-DFBレーザ」は、その文言に照らせば、SOAが集積されていないEA-DFBレーザを意味すると解される。そうすると、「EA-DFBレーザを光送信モジュールに搭載した場合に許容される前記EA-DFBレーザのDFBレーザ部への最大注入電流」における「EA-DFBレーザ」とは、「SOAが集積されていないEA-DFBレーザを光送信モジュールに搭載した場合に許容される前記EA-DFBレーザのDFBレーザ部への最大注入電流」を意味するのであり、これは、要するに、SOA非集積EA-DFBレーザにおけるDFBレーザ部への許容される最大注入電流を意味すると解される。 他方、引用発明では、「EA-DFBレーザを搭載した光送信モジュールにおいて許容されるI_(op)値」の「上限値」が「80mA」であり、「I_(op)=I_(DFB)+I_(SOA)」とされている。ここで、SOA非集積EA-DFBレーザを観念すれば、当然、I_(SOA)=0であるため、SOA非集積EA-DFBレーザにおけるI_(DFB)の許容される上限値は、80mAとなる。 よって、引用発明における「80mA」が、本件補正発明の「EA-DFBレーザを光送信モジュールに搭載した場合に許容される前記EA-DFBレーザのDFBレーザ部への最大注入電流」に相当する。 (ウ)上記(ア)及び(イ)によれば、引用発明の用語でいえば、「80mA-I_(DFB)」が、本件補正発明における「削減量ΔI_(DFB)」に相当する。 (エ)上記(ア)?(ウ)に照らせば、引用発明には、本件補正発明でいう「EA-DFBレーザを光送信モジュールに搭載した場合に許容される前記EA-DFBレーザのDFBレーザ部への最大注入電流から削減量ΔI_(DFB)を削減することによって前記SOA集積EA-DFBレーザのDFBレーザ部で削減できた消費電力」が、正の値として、存在する。 (オ)引用発明は、「EA変調器出力端にSOAが接続されている場合は、EA変調器出力端にSOAが接続されていない場合と同等の光波形が得られるまでEA変調器に印加するDCバイアスV_(b)の絶対値を小さくしていくことが可能であ」るものである。 よって、引用発明には、本件補正発明でいう「前記SOA集積EA-DFBレーザのEA変調器部で削減できた消費電力」が、正の値として、存在する。 (カ)上記(エ)及び(オ)のとおり、引用発明には、本件補正発明でいう「EA-DFBレーザを光送信モジュールに搭載した場合に許容される前記EA-DFBレーザのDFBレーザ部への最大注入電流から削減量ΔI_(DFB)を削減することによって前記SOA集積EA-DFBレーザのDFBレーザ部で削減できた消費電力と前記SOA集積EA-DFBレーザのEA変調器部で削減できた消費電力との合計分」が、正の値として、存在する。 また、引用発明は、本件補正発明でいう「前記SOA部に電流I_(SOA)が注入され」るものであるから、その注入が、所定の「消費電力の範囲内で」なされているとはいえる。 しかしながら、引用発明は、その所定の「消費電力」が、「EA-DFBレーザを光送信モジュールに搭載した場合に許容される前記EA-DFBレーザのDFBレーザ部への最大注入電流から削減量ΔI_(DFB)を削減することによって前記SOA集積EA-DFBレーザのDFBレーザ部で削減できた消費電力と前記SOA集積EA-DFBレーザのEA変調器部で削減できた消費電力との合計分」を超えないとは、明記していない。 ウ 本件補正発明の「I_(SOA)=115[mA/mm]×L_(SOA)[mm]+10[mA]±ΔI_(DFB)/2[mA]を満たすように前記SOA集積EA-DFBレーザのDFBレーザ部及びSOA部の光導波方向に関する長さが設計されているとともに、L_(SOA)は50μm以上150μm未満である」との特定事項について (ア)引用発明の「前記SOAの光導波方向についての長さ」は、本件補正発明の「L_(SOA)」に相当する。 (イ)しかし、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項そのものを明記するものではない。 エ 本件補正発明の「SOA集積EA-DFBレーザ」との特定事項について 上記アのとおり、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。 (4)一致点及び相違点の認定 上記(3)によれば、本件補正発明と引用発明とは、 「DFBレーザ部とEA変調器部とを含むEA-DFBレーザの出射端にSOA部が集積されたSOA集積EA-DFBレーザであって、 所定の消費電力の範囲内で前記SOA部に電流I_(SOA)が注入され、 前記SOA集積EA-DFBレーザのDFBレーザ部及びSOA部は同一の制御端子から電流を注入される、 SOA集積EA-DFBレーザ。」である点で一致し、次の点で一応相違する。 [相違点1] 「EA-DFBレーザを光送信モジュールに搭載した場合に許容される前記EA-DFBレーザのDFBレーザ部への最大注入電流から削減量ΔI_(DFB)を削減することによって前記SOA集積EA-DFBレーザのDFBレーザ部で削減できた消費電力と前記SOA集積EA-DFBレーザのEA変調器部で削減できた消費電力との合計分」と「所定の消費電力」との関係について、 本件補正発明では、「所定の消費電力」が当該「合計分」を超えないのに対し、 引用発明では、そうであるとは明記されていない点。 [相違点2] 本件補正発明では、 「I_(SOA)=115[mA/mm]×L_(SOA)[mm]+10[mA]±ΔI_(DFB)/2[mA]を満たすように前記SOA集積EA-DFBレーザのDFBレーザ部及びSOA部の光導波方向に関する長さが設計されているとともに、L_(SOA)は50μm以上150μm未満である」のに対し、 引用発明では、そうであるとは明記されていない点。 (5)相違点2の判断 事案にかんがみ、相違点2から判断する。 ア 相違点2に係る本件補正発明の特定事項は、I_(SOA)に関する本件数式を含むところ、その中に「±」の符号が存在する。しかるに、この符号の意味が、(i)I_(SOA)の値そのものを特定する、すなわち、I_(SOA)が2つの値(「+」の場合の値と「-」の場合の値)であることを特定するということなのか、それとも、(ii)I_(SOA)の値そのものではなくI_(SOA)が取りうる範囲の上限と下限を特定するということなのかが必ずしも明確でない。 そこで、本願明細書【0039】及び図8をみると、(ii)の意味であることが理解できる。 よって、I_(SOA)に関する本件数式をこのように理解した上で、検討を進める。 イ 本件補正発明は「L_(SOA)は50μm以上150μm未満である」ところ、引用発明は、L_(SOA)が「50μm以上150μm以下」であるとともに、「SOA長を調整する」ものであるから、引用発明には、L_(SOA)が150μmよりも若干小さな値の場合も当然に想定されている。 そこで、引用発明が、L_(SOA)が150μmよりも若干小さな値の場合に、I_(SOA)としてどの程度の値をとるのかについて、検討する。 (ア)まず、引用発明は、L_(SOA)=150μmのときは、相当程度の余裕をもって、本件数式を満たす。 すなわち、引用発明では、L_(SOA)=150μmのときは、I_(DFB)=60mA程度、I_(SOA)=20mA程度とされている。この条件において、本件数式の右辺を計算すると、右辺=(27.25±10)mAとなるから、引用発明のI_(SOA)が17.25mA以上37.25mA以下であれば、本件数式を満たすことになる。よって、引用発明は、L_(SOA)=150μmのときは、本件数式を満たし、しかも、その余裕(すなわち、本件数式で規定される範囲の境界と引用発明のI_(SOA)の値との差)が、下側に少なくとも2mA、上側に少なくとも17mA存在する。 (イ)次に、引用発明では、「SOA長を調整することにより、所定の電流注入量I_(op)に対してDFBレーザ部及びSOA部への各電流注入量I_(DFB)及びI_(SOA)が所望の割合となるように電流量を割り振ることができ」ることが予定されている。具体的には、I_(OP)が80mAの場合について、L_(SOA)が150μmのときはI_(SOA)が20mA程度であり、L_(SOA)が50μmのときはI_(SOA)が6?8mA程度である。 このように、引用発明では、L_(SOA)が100μm減少したとしても、I_(SOA)の減少量は12?14mA程度にとどまる。 そうすると、引用発明では、L_(SOA)が150μmよりも若干小さな値になったとき(例えば、149μmとなったとき)に、I_(SOA)が、上記(ア)で説示した余裕を超えて変動することはないと推認できる。 (ウ)実際、L_(SOA)が149μmのときの引用発明は、次のとおりの概算に基づき、本件数式を満たすといえる。 a 引用発明は、引用文献1に記載されているとおり、「SOA長が50μmである場合、SOA長はDFBレーザの長さ(450μm)に対して1/9であるため、注入した電流のほとんどはDFBレーザに流れ」る(【0027】)ものであるとともに、「SOA長が150μmである場合、SOA長はDFBレーザの長さに対して1/3であるため、I_(op)=80mAのとき、I_(DFB)=60mA程度がDFBレーザに注入され、I_(SOA)=20mA程度がSOAに注入される」(【0028】)ものである。このように、引用発明では、I_(DFB)とI_(SOA)が、L_(SOA)とL_(DFB)との比に依存している。 次に、その依存の度合いを定量的にみると、I_(DFB):I_(SOA)が、概ね、L_(SOA):L_(DFB)に等しい(いわゆる逆比となっている。)ことが理解できる。すなわち、L_(SOA)=150μmのとき、L_(SOA):L_(DFB)=450:150である一方、I_(DFB):I_(SOA)=60mA程度:20mA程度である。また、L_(SOA)=50μmのとき、L_(SOA):L_(DFB)=450:50である一方、I_(DFB):I_(SOA)=72?74mA:8?6mAである。 以上によれば、I_(DFB):I_(SOA)=L_(SOA):L_(DFB)であるとみることにより、L_(SOA)が特定の値のときのI_(SOA)を概算することができる。 b 上記aの理解は、次の点からも首肯できる。 すなわち、引用文献1に記載された実施例(上記(2)ア(エ))をみると、DFBレーザ部3とSOA部4は、同一基板上に、概ね同一の積層構造でもって、モノリシックに集積されており(特に【0031】・【0032】・図6を参照。)、また、サイズについても、SOA長及びDFBレーザの長さに係る方向以外に沿った方向の長さ(すなわち、幅や厚さ)は、同一であると考えられる(特に、図6(i)参照。)。 このようなDFBレーザ部及びSOA部の構造からみると、I_(DFB):I_(SOA)が、概ね、L_(SOA):L_(DFB)に等しいことは首肯できる。 c 以上を踏まえ、引用発明において、L_(SOA)=149μmのときのI_(SOA)を概算すると、L_(SOA):L_(DFB)=149:450であって、I_(SOA)+I_(DFB)=80mAであるから、I_(SOA)=19.9mAとなる。 他方、L_(SOA)=149μmのときの本件数式の右辺は、27.1mA±9.9mAである。 よって、引用発明において、L_(SOA)=149μmのとき、本件数式を満たすことになる。 (なお、同様に概算することにより、引用発明が、概ね、L_(SOA)が96μm以上のときに、本件数式を満たすこともわかる。) ウ 以上によれば、引用発明は、例えば、L_(SOA)=149μmのときに、本件数式を満たすのであり、よって、相違点2に係る構成も満足する。 そして、引用発明が「SOA長を調整することにより、所定の電流注入量I_(op)に対してDFBレーザ部及びSOA部への各電流注入量I_(DFB)及びI_(SOA)が所望の割合となるように電流量を割り振ることができ、それによりI_(DFB)及びI_(SOA)を調整することができ」ることも踏まえれば、当業者は、引用発明において、L_(SOA)が149μmの態様を当然に認識できる。 したがって、相違点2は実質的ではない。 (6)相違点1の判断 ア まず、相違点1に係る構成についてみると、本願明細書の【0040】には、「このように、本発明に係るSOA集積EA-DFBレーザにおいては、EA-DFBレーザを光送信モジュールに搭載した場合に許容されるDFBレーザ部への最大許容電流を予め測定・記録しておき、当該最大許容電流と、SOA集積EA-DFBレーザのDFBレーザ部11へのDFB注入電流I_(DFB)との差分から削減量ΔI_(DFB)を算出する。DFB注入電流削減により、DFBレーザ部11で削減できた消費電力ΔP_(DFB)及びEA変調器部12で削減できた消費電力ΔP_(EA)の合計分を超えない範囲内の電力消費で且つ高出力化を実現できるように、駆動電流範囲I_(SOArng)は、I_(SOArng)[mA]=115[mA/mm]×L_(SOA)[mm]+10[mA]±ΔI_(DFB)/2[mA]の範囲内のSOA注入電流I_(SOA)をSOA部13に注入する。それにより、負チャープ値化を実現しつつ従来よりも光強度の増大及び低消費電力化を同時に実現することができる。」と記載されている。 このように、本件数式を満たすことによって低消費電力化を実現することができるのであるから、本件数式を満たせば、相違点1に係る構成を満たすといえる。 イ しかるに、上記(5)のとおり、引用発明では、例えば、L_(SOA)が149μmの場合に本件数式を満たしている。よって、引用発明は、当該場合に、相違点1に係る構成も満たすことになる。 したがって、相違点1は実質的ではない。 (7)請求人の主張に対する判断 これに対し、請求人は、審判請求書において種々主張するが、次のとおり採用できない。 ア 請求人は、本件補正により、L_(SOA)が「150μm未満」であることが特定されたことによって、SOA長150μmの場合が除外されたところ、引用文献1が開示する電流値は、SOAの光導波方向の長さの上限である150μmの場合のものだけである旨主張する。 さらに、請求人は、SOAは、一般にSOA長L_(SOA)を短くするにつれて電流が少なくなり、有利になるデバイスであるから、多くの場合150μmより短いものが採用されるところ、引用文献1には、SOA長が150μmより短い場合の駆動条件(具体的にはSOA部に流す電流I_(SOA))について何ら記載も示唆もない旨主張する。 しかしながら、引用発明は、L_(SOA)が「50μm以上150μm以下」であるから、L_(SOA)が150μm未満の態様も当然に含むものである。そして、上記(5)のとおり、引用発明は、例えばL_(SOA)が149μmのときに本件数式を満たすものであるし、上記(5)イ(ウ)のとおり、そのときのI_(SOA)の値を概算できるものでもある。 したがって、請求人の主張は採用できない。 イ 請求人は、引用文献1には、本件数式が記載も示唆もされていないので、当業者が引用文献1を参酌したとしても、SOA長L_(SOA)が50μm以上150μm未満という条件のもとで高出力化、低消費電力及び低チャープ値化を同時に実現するための諸条件に到達し得ない旨主張する。 しかしながら、本件補正発明の特定事項は、DFBレーザ部の長さ及びSOA部の長さが本件数式を満たすように設計されたあらゆる態様(なお、当該各態様が本件数式以外の他の特定事項を満たしている前提である。)を特定していると解されるのであるから、そのうち少なくとも一つの態様について新規性が否定されれば、本件補正発明の新規性が否定されるのであり、そのことは、上記(4)?(6)で認定判断したとおりである。 請求人の主張は、本件数式を満たすように設計されたあらゆる態様の新規性が否定されない限り、本件補正発明の新規性が否定されないというに等しく、採用できない。 (8)小括 以上によれば、本件補正発明と引用発明との間に相違点はないから、本件補正発明は引用発明である。 したがって、本件補正発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。 3 本件補正についてのむすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第4 本願発明について 1 本願発明の認定 本件補正は、上記第3のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年3月2日に提出された手続補正書による補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項4に記載された事項により特定される、上記第3の[理由]1において本件補正前の請求項4として記載されたとおりのものである。 2 引用文献1の記載事項について 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、上記第3の[理由]2(2)に記載したとおりである。 3 対比・判断 本願発明は、上記第3の[理由]2で検討した本件補正発明から、「L_(SOA)」についての「50μm以上150μm未満である」との限定事項を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第3の[理由]2(3)及び(4)に記載したとおり、引用発明であるから、本願発明も引用発明である。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-09-10 |
結審通知日 | 2019-09-11 |
審決日 | 2019-09-25 |
出願番号 | 特願2017-501897(P2017-501897) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01S)
P 1 8・ 113- Z (H01S) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 百瀬 正之 |
特許庁審判長 |
小松 徹三 |
特許庁審判官 |
山村 浩 星野 浩一 |
発明の名称 | SOA集積EA-DFBレーザ及びその駆動方法 |
代理人 | 豊田 義元 |
代理人 | 永田 健悟 |