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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C08L 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08L |
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管理番号 | 1356629 |
審判番号 | 不服2019-868 |
総通号数 | 240 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-01-23 |
確定日 | 2019-11-26 |
事件の表示 | 特願2018-529311「熱伝導性ポリオルガノシロキサン組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月 6日国際公開、WO2018/221662、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成30年5月31日(優先権主張:平成29年5月31日)を国際出願日とする出願であって、平成30年6月28日付けで拒絶理由通知がされ、同年8月30日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年10月16日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成31年1月23日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 第2 原査定の概要 平成30年10月16日付け拒絶査定(原査定)の概要は次のとおりである。 1 理由1(新規性)及び理由2(進歩性) 本願の請求項1?4に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 本願の請求項1?4に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2009-203373号公報 2.特開平11-222524号公報 第3 本願発明 本願の請求項1?4に係る発明は、平成30年8月30日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本願発明1」等という。)。 「【請求項1】 (A)熱伝導性充填剤; (B)分子内にビニル基を一つ有する直鎖状ポリシロキサン(b1)、及び、分子内にビニル基を二つ以上有する直鎖状ポリシロキサンからなる、ポリオルガノシロキサン樹脂組成物; (C)アルコキシシリル基及び直鎖状シロキサン構造を有するシロキサン化合物(但し、前記(B)又は下記(D)に該当する化合物は除かれる); (D)ハイドロジェンポリオルガノシロキサン;及び (E)白金触媒 を含み、前記(B)ポリオルガノシロキサン樹脂組成物全体に対する、分子内にビニル基を一つ有する直鎖状ポリシロキサン(b1)の含有量が、80質量%より大きく、(B)ポリオルガノシロキサン樹脂の配合量が、熱伝導性充填剤100質量部に対して(B)成分全体で3?30質量部の範囲であり、(C)シロキサン化合物の配合量が、熱伝導性充填剤100質量部に対して0.01?20質量部の範囲であり、前記(E)白金触媒の配合量が、前記(B)成分に対し、白金元素として0.1?1000ppmとなる量であり、そして、組成物中に含まれる、ケイ素に直接結合した水素とビニル基との物質量の比(H/Vi比)が0.7?2.0の範囲である、熱伝導性ポリシロキサン組成物。 【請求項2】 アルコキシシリル基及び直鎖状シロキサン構造を有するシロキサン化合物が、下記一般式(3): 【化11】 (式中、 R^(1):炭素数1?4のアルコキシシリル基を有する基 R^(2):下記一般式(4): 【化12】 (式中、R^(4)は、それぞれ独立して炭素数1?12の1価の炭化水素基であり、Yはメチル、ビニル及びR^(1)からなる群より選択される基であり、dは2?60の整数である)で示される直鎖状オルガノシロキシ基 X:それぞれ独立して炭素数2?10の2価の炭化水素基 a及びb:それぞれ独立して1以上の整数 c:0以上の整数 a+b+c:4以上の整数 R^(3):それぞれ独立して、炭素数1?6の1価の炭化水素基 である) で示されるシロキサン化合物である、請求項1記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物。 【請求項3】 請求項1又は2記載の熱伝導性ポリシロキサン組成物の硬化物。 【請求項4】 請求項3記載の硬化物を含む、電子部品。」 第4 当審の判断 1 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明 (1) 引用文献1の記載事項及び引用発明1 引用文献1には、以下の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 (A)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を平均して0.6個以上2個未満有し、23℃における粘度が0.01?0.5Pa・sであるポリオルガノシロキサン100重量部と、 (B)熱伝導性充填剤200?5000重量部と、 (C)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を平均して3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを、前記(A)成分中のアルケニル基1個に対して、本成分中のケイ素原子に結合した水素原子が0.2?2個となる量と、 (D)1分子中にケイ素原子に結合した加水分解性基であるアルコキシ基を1個有し、かつアルケニル基を含有しないポリオルガノシロキサン10?80重量部、および (E)白金系触媒の触媒量 を含有することを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物。 【請求項2】 前記(D)成分は、下記一般式(1): 【化1】 (式中、R^(1)は炭素原子数1?4のアルコキシ基を含有するシリル基を有する1価の炭化水素基、R^(2)は下記一般式(2)で表されるシロキサン、または炭素原子数6?18の1価の炭化水素基、R^(3)は独立に炭素原子数1?6の1価の炭化水素基または水素原子、Xは独立に炭素原子数2?10の2価の炭化水素基、aは1、bは1以上の整数、cは0以上の整数、a+b+cは4?20の整数である。)で表されるアルコキシ基含有シリル基を有する環状シロキサンであることを特徴とする請求項1記載の熱伝導性シリコーン組成物。 【化2】 (式中、R^(4)は独立に炭素原子数1?12の1価の炭化水素基、dは2?500の整数である。)」 イ 「【0001】 本発明は、柔軟性に優れ良好な熱伝導性を有する、ゲル状あるいは表面のみ硬化して内部は未硬化(粘土状)の硬化物を得ることができる熱伝導性シリコーン組成物に関する。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の目的は、熱伝導性充填剤の配合量を増しても柔軟性を失うことがなく、かつ優れた熱伝導性を併せ持つ硬化性のシリコーン組成物を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、(A)1分子中に含有させるケイ素原子結合アルケニル基数が所定の範囲にあるポリオルガノシロキサンをベース成分とし、これに架橋剤である(C)ポリオルガノハイドロジェンシロキサンと、(D)ケイ素原子に結合した加水分解性基(アルコキシ基)を有するポリオルガノシロキサンを配合することによって、(B)熱伝導性充填剤の配合量を増加させることができ、その結果十分な熱伝導性を有しかつ柔軟性に優れた熱伝導性シリコーン組成物が得られることを見出した。 ・・・ 【発明の効果】 【0010】 上記構成により、良好な熱伝導性を有しかつ柔軟性に優れた硬化物を形成する熱伝導性シリコーン組成物を得ることができる。」 ウ 「【0012】 [(A)成分] (A)成分のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンは、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を(A)成分全体の平均で0.6個以上2個未満有するものである。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペテニル基、ヘキセニル基等の炭素原子数2?6の基が挙げられ、好ましくはビニル基である。 【0013】 1分子中のアルケニル基の数が(A)成分全体の平均で0.6個より少ないと、架橋に関与しない(A)成分(ポリオルガノシロキサン)の量が増加するため、加熱反応後においても硬化物が得られず、未硬化のまま(粘土状)となる。また、アルケニル基の数が平均2個以上の場合には、硬化物が硬さ80以上のゴム状となり、柔らかなゲル状にならない。そのため、発熱性電子部品や放熱部材の表面への密着性が不十分となり好ましくない。 ・・・ 【0015】 (A)成分であるアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンのシロキサン骨格は、得られるゲル状物に適度の柔らかさを与えることから、実質的に直鎖状であることが好ましいが、少量の分岐が存在してもよい。また、少量の環状ポリオルガノシロキサンが共存していても差し支えないが、環状ポリオルガノシロキサンがケイ素原子結合アルケニル基を有する場合、その反応性は低く、ゲル状物の形成に寄与しないことになる。 ・・・ 【0017】 (A)成分であるケイ素原子結合アルケニル基(以下、単にアルケニル基と記す。)を平均で0.6個以上2個未満有するポリオルガノシロキサンを得るには、例えば、両末端にアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンと、アルケニル基を含有しない直鎖状ないし分岐状のポリオルガノシロキサンを、前記したアルケニル基の平均個数を満足させるように、かつ前述の粘度範囲を実現する平均分子量となるように配合し、硫酸、塩酸、活性白土等の酸触媒、または水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム等のアルカリ触媒の存在下に、常法によりシロキサンの切断、平衡化を行う。この場合、原料の一部として、環状ポリシロキサン特にビニル基を含有しない環状ポリシロキサンを併用してもよい。平衡化の後、常法により触媒を除去し、減圧下で加熱し、副生する低分子ポリオルガノシロキサンないし未反応の低分子ポリオルガノシロキサンを除去することにより精製される。 【0018】 さらに、このような方法により得られた1分子中に1個未満(例えば0.5個)のアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンと、両末端にアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンとを混合し調製しても良い。またさらに、アルケニル基数が平均で1個以上2個未満のものを得るには、片側末端にアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンと、両末端にアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンとを単に混合してもよい。すなわち、アルケニル基含有数の異なる複数種類のものを混合し、1分子当り平均して0.6個以上2個未満のアルケニル基を有するようにすることができる。」 エ 「【0027】 (C)成分の配合量は、(A)成分のアルケニル基1個に対して、(C)成分のケイ素原子に結合した水素原子が0.2?2個となる量であり、好ましくは0.4?1.5個となる量である。ケイ素原子に結合した水素原子が0.2個未満では、硬化物の十分な架橋が得られず、所望の硬化性を得ることが難しい。一方、2個を超えると、硬化物全体としてゴム状の弾性体になりやすく、柔軟性に優れたゲル状物を得ることができない。」 オ 「【0040】 (E)成分の配合量は、組成物の硬化に必要な量であればよく、所望の硬化速度等に応じて適宜調整することができる。通常、組成物の合計量に対して、白金元素に換算して0.01?100ppmの範囲とすることが好ましい。配合量が0.01ppm未満であると、組成物が十分に硬化しにくくなり、一方100ppmを超える量を配合しても組成物の硬化速度が顕著に向上しにくい。」 カ 「【0055】 実施例1 (A-1)23℃における粘度が0.1Pa・sであり、1分子中に平均して0.5個のビニル基を有するポリジメチルシロキサン90重量部、(A-3)23℃における粘度が0.03Pa・sであり、1分子中に平均して2個のビニル基を有するポリジメチルポリシロキサン10重量部、(B-1)平均粒径10μmの丸み状のアルミニウム粉580重量部、(B-2)平均粒径0.5μmの丸み状の酸化亜鉛粉670重量部、および(D)下記式: 【化8】 で表される加水分解性基含有ポリオルガノシロキサン30重量部を、プラネタリーミキサーで150℃に加熱して120分間混練した後、30℃まで冷却した。 【0056】 次いで、(E)塩化白金酸のビニルシロキサン錯体化合物(白金量2.0重量%)2重量部(白金量として5ppm)と、(C)23℃における粘度が0.1Pa・sであり、下記式: (CH_(3))_(3)SiO[SiH(CH3)O]53[Si(CH3)2O]47Si(CH3)3 で表されるポリオルガノハイドロジェンシロキサン(Si-H基の含有量7.8mmol/g)2.4重量部をさらに添加し均一に混練して、熱伝導性シリコーン組成物を得た。この組成物の特性を測定し、結果を表1に示した。 【0057】 実施例2 (C)成分であるポリオルガノハイドロジェンシロキサンの配合量を1.5重量部とした以外は、実施例1と同様にして、熱伝導性シリコーン組成物を得た。この組成物の特性を測定し、結果を表1に示した。 【0058】 実施例3 (A-1)23℃における粘度が0.1Pa・sであり、1分子中に平均して0.5個のビニル基を有するポリジメチルシロキサン70重量部、(A-4)下記式: 【化9】 で表される、ビニル基(式中、Viで示す。)を有するポリオルガノシロキサン30重量部、(B-1)平均粒径10μmの丸み状のアルミニウム粉610重量部、(B-2)平均粒径0.5μmの丸み状の酸化亜鉛粉710重量部、および実施例1と同様の(D)加水分解性基含有ポリオルガノシロキサン30重量部を、プラネタリーミキサーで150℃に加熱して120分間混練した後、30℃まで冷却した。 【0059】 次いで、(E)塩化白金酸のビニルシロキサン錯体化合物(白金量2.0重量%)2重量部(白金量として5ppm)と、(C)23℃における粘度が0.1Pa・sのポリオルガノハイドロジェンシロキサン(Si-H基の含有量7.8mmol/g)4.1重量部をさらに添加し均一に混練して、熱伝導性シリコーン組成物を得た。この組成物の特性を測定し、結果を表1に示した。 【0060】 比較例1 実施例1の(A-1)23℃における粘度が0.1Pa・sで1分子中に平均して0.5個のビニル基を有するポリジメチルポリシロキサン90重量部の代わりに、(A-2)23℃における粘度が0.1Pa・sで1分子中に平均して2個のビニル基を有するポリジメチルシロキサン90重量部を使用した。また、実施例1の(C)成分であるポリオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量を5.9重量部とした。それ以外は実施例1と同様にして、熱伝導性シリコーン組成物を得た。この組成物の特性を測定し、結果を表1に示した。 【0061】 比較例2 実施例1の(A-1)23℃における粘度が0.1Pa・sで1分子中に平均して0.5個のビニル基を有するポリジメチルポリシロキサン90重量部の代わりに、(A-2)23℃における粘度が0.1Pa・sで1分子中に平均して2個のビニル基を有するポリジメチルシロキサン90重量部を使用した。また、実施例1の(C)成分であるポリオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量を3.6重量部とした。それ以外は実施例1と同様にして、熱伝導性シリコーン組成物を得た。この組成物の特性を測定し、結果を表1に示した。 【0062】 比較例3 実施例1の(A-1)23℃における粘度が0.1Pa・sで1分子中に平均して0.5個のビニル基を有するポリジメチルポリシロキサン90重量部の代わりに、(A-2)23℃における粘度が0.1Pa・sで1分子中に平均して2個のビニル基を有するポリジメチルシロキサン90重量部を使用した。また、実施例1の(C)成分であるポリオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量を3.2重量部とした。それ以外は実施例1と同様にして、熱伝導性シリコーン組成物を得た。この組成物の特性を測定し、結果を表1に示した。 【0063】 比較例4 実施例1の(A-1)23℃における粘度が0.1Pa・sで1分子中に平均して0.5個のビニル基を有するポリジメチルポリシロキサンの配合量を100重量部とし、(A-3)23℃における粘度が0.03Pa・sで1分子に平均して2個のビニル基を有するポリジメチルシロキサンの配合量を0重量部とした。また、(C)成分であるポリオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量を1.3重量部とした。それ以外は実施例1と同様にして、熱伝導性シリコーン組成物を得た。この組成物の特性を測定し、結果を表1に示した。 【0064】 【表1】 【0065】 表1から明らかなように、実施例1?3で得られたシリコーン組成物は、(B)成分である熱伝導性充填剤が高い配合比率で充填されているが、硬化後の組成物(シリコーンゲル)が、針入度15?60と柔軟性を失うことがない。また、熱伝導率が4W/(m・K)以上と高く、優れた熱伝導性を有している。」 上記摘記アより、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「(A)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を平均して0.6個以上2個未満有し、23℃における粘度が0.01?0.5Pa・sであるポリオルガノシロキサン100重量部と、 (B)熱伝導性充填剤200?5000重量部と、 (C)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を平均して3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンを、前記(A)成分中のアルケニル基1個に対して、本成分中のケイ素原子に結合した水素原子が0.2?2個となる量と、 (D)1分子中にケイ素原子に結合した加水分解性基であるアルコキシ基を1個有し、かつアルケニル基を含有しないポリオルガノシロキサン10?80重量部、および (E)白金系触媒の触媒量 を含有し、前記(D)成分は、下記一般式(1): 【化1】 (式中、R^(1)は炭素原子数1?4のアルコキシ基を含有するシリル基を有する1価の炭化水素基、R^(2)は下記一般式(2): 【化2】 (式中、R^(4)は独立に炭素原子数1?12の1価の炭化水素基、dは2?500の整数である。)で表されるシロキサン、または炭素原子数6?18の1価の炭化水素基、R^(3)は独立に炭素原子数1?6の1価の炭化水素基または水素原子、Xは独立に炭素原子数2?10の2価の炭化水素基、aは1、bは1以上の整数、cは0以上の整数、a+b+cは4?20の整数である。)で表されるアルコキシ基含有シリル基を有する環状シロキサンである、熱伝導性シリコーン組成物。」(以下、「引用発明1」という。) (2)引用文献2に記載された事項 引用文献2には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0054】[比較例3]分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された、25℃で30000cSの粘度を有するポリジメチルシロキサン100g、前記の平均分子式(1)で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサン1.8g、表面をジメチルジクロロシランで処理した表面積(BET法)が200m^(2)/gの煙霧状シリカ10g、下記平均組成式 (C_(6)H_(5))SiO_(3/2):80mol% (CH_(2)=CH)SiO_(3/2):20mol% で示される融点50?85℃のシリコーンレジン5gに、0.1wt%白金ビニル基含有シロキサン錯体5gを包含させて得たヒドロシリル化反応触媒を白金濃度30ppmになるように混合したところ、25℃で5時間の可使時間を与えたが、120℃,20分加熱して漸く硬化した。 【0055】[比較例4]分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された、25℃で30000cSの粘度を有するポリジメチルシロキサン100g、前記の平均分子式(1)で示されるメチルハイドロジェンポリシロキサン1.8g、表面をジメチルジクロロシランで処理した表面積(BET法)が200m^(2)/gの煙霧状シリカ10g、下記平均組成式 (C_(6)H_(5))SiO_(3/2):70mol% (C_(3)H_(7))SiO_(3/2):30mol% で示される融点35?70℃のシリコーンレジン5gに、0.1wt%白金ビニル基含有シロキサン錯体5gを包含させて得たヒドロシリル化反応触媒を白金濃度30ppmになるように混合したところ、100℃,5分で完全に硬化したが、25℃で15分の可使時間しか得られなかった。」 2 対比・判断 (1)本願発明1について ア 対比 本願発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「(A)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を平均して0.6個以上2個未満有し、23℃における粘度が0.01?0.5Pa・sであるポリオルガノシロキサン」は、本願発明1の「(B)分子内にビニル基を一つ有する直鎖状ポリシロキサン(b1)、及び、分子内にビニル基を二つ以上有する直鎖状ポリシロキサンからなる、ポリオルガノシロキサン樹脂組成物」と、「分子内にアルケニル基を有するポリオルガノシロキサン樹脂」である限りにおいて一致する。 また、引用発明1の「(B)熱伝導性充填剤」、「(C)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を平均して3個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン」、「(E)白金系触媒」はそれぞれ、本願発明1の「(A)熱伝導性充填剤」、「(D)ハイドロジェンポリオルガノシロキサン」、「(E)白金触媒」に相当し、引用発明1の「熱伝導性シリコーン組成物」は、本願発明1の「熱伝導性ポリシロキサン組成物」に相当する。 さらに、引用発明1の「下記一般式(1)(化学構造式の表記は省略)で表されるアルコキシ基含有シリル基を有する環状シロキサンである」、「(D)1分子中にケイ素原子に結合した加水分解性基であるアルコキシ基を1個有し、かつアルケニル基を含有しないポリオルガノシロキサン」は、アルコキシ基含有シリル基を有し、「R^(2)」なる直鎖状シロキサン構造を有することから、本願発明1の「(C)アルコキシシリル基及び直鎖状シロキサン構造を有するシロキサン化合物(但し、前記(B)又は下記(D)に該当する化合物は除かれる)」に相当する。 そして、引用発明1は、「(A)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を平均して0.6個以上2個未満有し、23℃における粘度が0.01?0.5Pa・sであるポリオルガノシロキサン100重量部」に対し、「(B)熱伝導性充填剤200?5000重量部」を含有することから、(B)熱伝導性充填剤100重量部に対し、(A)ポリオルガノシロキサンを2?50重量部含有するものであり、これは、本願発明1の「(B)ポリオルガノシロキサン樹脂の配合量が、熱伝導性充填剤100質量部に対して(B)成分全体で3?30質量部の範囲」と重複一致する。 さらに、引用発明1は、(A)ポリオルガノシロキサン100重量部に対し、「(B)熱伝導性充填剤200?5000重量部」及び「(D)1分子中にケイ素原子に結合した加水分解性基であるアルコキシ基を1個有し、かつアルケニル基を含有しないポリオルガノシロキサン10?80重量部」を含有することから、(B)熱伝導性充填剤100重量部に対し、「(D)1分子中にケイ素原子に結合した加水分解性基であるアルコキシ基を1個有し、かつアルケニル基を含有しないポリオルガノシロキサン」を0.2?40重量部含有するものであり、これは、本願発明1の「(C)シロキサン化合物の配合量が、熱伝導性充填剤100質量部に対して0.01?20質量部の範囲」と、「0.2?20質量部の範囲」において重複一致する。 また、引用発明1の「(A)成分中のアルケニル基1個に対して、本成分中のケイ素原子に結合した水素原子が0.2?2個となる量」における、「(A)成分中のアルケニル基1個に対」する「本成分中のケイ素原子に結合した水素原子」の個数は、本願発明1の「組成物中に含まれる、ケイ素に直接結合した水素とビニル基との物質量の比(H/Vi比)」に相当し、引用発明1の「0.2?2個」は、本願発明1の「0.7?2.0の範囲」と重複一致する。 そうすると、両者は、 「(A)熱伝導性充填剤; (B)分子内にアルケニル基を有するポリオルガノシロキサン樹脂; (C)アルコキシシリル基及び直鎖状シロキサン構造を有するシロキサン化合物(但し、前記(B)又は下記(D)に該当する化合物は除かれる); (D)ハイドロジェンポリオルガノシロキサン;及び (E)白金触媒 を含み、(B)ポリオルガノシロキサン樹脂の配合量が、熱伝導性充填剤100質量部に対して(B)成分全体で3?30質量部の範囲であり、(C)シロキサン化合物の配合量が、熱伝導性充填剤100質量部に対して0.2?20質量部の範囲であり、そして、組成物中に含まれる、ケイ素に直接結合した水素とビニル基との物質量の比(H/Vi比)が0.7?2.0の範囲である、熱伝導性ポリシロキサン組成物。」 の点で一致し、以下の相違点1?4で相違する。 <相違点1> 「分子内にアルケニル基を有するポリオルガノシロキサン樹脂」の「アルケニル基」について、本願発明1は「ビニル基」であるのに対し、引用発明1は、「ビニル基」であることが特定されていない点。 <相違点2> 「分子内にアルケニル基を有するポリオルガノシロキサン樹脂」について、本願発明1は、「直鎖状ポリシロキサン」であるのに対し、引用発明1は、「直鎖状」であることが特定されていない点。 <相違点3> 「分子内にアルケニル基を有するポリオルガノシロキサン樹脂」について、本願発明1は、「分子内にビニル基を一つ有する直鎖状ポリシロキサン(b1)、及び、分子内にビニル基を二つ以上有する直鎖状ポリシロキサンからなる、ポリオルガノシロキサン樹脂組成物」であって、「前記(B)ポリオルガノシロキサン樹脂組成物全体に対する、分子内にビニル基を一つ有する直鎖状ポリシロキサン(b1)の含有量が、80質量%より大き」いことが特定されるのに対し、引用発明1は、「1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を平均して0.6個以上2個未満有」することが特定されるのみで、「分子内にビニル基を一つ有する」ものと「分子内にビニル基を二つ以上有する」ものとの2種のポリシロキサンの組成物であることも、その配合比も、特定されていない点。 <相違点4> 白金触媒の配合量について、本願発明1は、「(B)成分に対し、白金元素として0.1?1000ppmとなる量であ」ることが特定されるのに対し、引用発明1は、「触媒量」であることのみが特定される点。 イ 相違点についての判断 ここではまず、相違点3について検討する。 始めに、相違点3が実質的な相違点であるか否かについて検討する。 本願発明1は、本願明細書の段落【0007】、【0018】等の記載によれば、硬化性官能基を有するポリオルガノシロキサン樹脂を、「分子内にビニル基を一つ有する直鎖状ポリシロキサン(b1)」及び「分子内にビニル基を二つ以上有する直鎖状ポリシロキサン」の組成物とし、該(b1)の含有量を80質量%より大きくすることによって、適切な粘度/硬度及び熱伝導性を達成しつつ、特に硬化速度に優れた熱伝導性ポリシロキサン組成物を提供することを目的とするものである。 一方、引用発明1は、引用文献1の段落【0001】、【0007】、【0013】等の記載によれば、「1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を平均して0.6個以上2個未満有し、23℃における粘度が0.01?0.5Pa・sであるポリオルガノシロキサン」を用いることによって、柔軟性に優れ良好な熱伝導性を有する、ゲル状あるいは表面のみ硬化して内部は未硬化(粘土状)の硬化物を得ることができる熱伝導性シリコーン組成物を提供することを目的とするものである(摘記1(1)イ、ウ)。 そして、引用文献1には、「1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を平均して0.6個以上2個未満有するポリオルガノシロキサンを得る」方法の1つとして、「アルケニル基数が平均で1個以上2個未満のものを得るには、片側末端にアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンと、両末端にアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンとを単に混合してもよい。」と記載されている(段落【0017】?【0018】、摘記1(1)ウ)。このことから、引用文献1には、分子内にアルケニル基を一つ有するポリオルガノシロキサンと、分子内にアルケニル基を二つ有するポリオルガノシロキサンとの組成物を用いることは記載されているものといえる。 しかしながら、引用文献1には、上記組成物において、分子内にアルケニル基を有する一つ有するポリオルガノシロキサンを80質量%より大きくすることは記載されていない。 また、引用文献1の実施例には、「1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を平均して0.6個以上2個未満有するポリオルガノシロキサン」として、(A-1)1分子中に平均して0.5個のビニル基を有するポリジメチルシロキサンと、(A-3)1分子中に平均して2個のビニル基を有するポリジメチルポリシロキサンとの組成物を用いること(実施例1、2)、(A-1)1分子中に平均して0.5個のビニル基を有するポリジメチルシロキサンと(A-4)下記式: 【化9】 で表される、ビニル基(式中、Viで示す。)を有する(合議体注:2個のビニル基を有する)ポリオルガノシロキサンとの組成物を用いること(実施例3)は記載されるものの、分子内にアルケニル基を一つ有するポリオルガノシロキサンと、分子内にアルケニル基を二つ有するポリオルガノシロキサンとの組成物を用いることは記載されていない(摘記1(1)カ)。 そして、アルケニル基を有するポリオルガノシロキサン及びハイドロジェンポリオルガノシロキサンの硬化性組成物において、硬化速度等を向上させるために、分子内にアルケニル基を有する一つ有するポリオルガノシロキサンを80質量%より大きくすることが、本願優先日当時の技術常識であったともいえない。 以上によれば、相違点3は、実質的な相違点である。 次に、相違点3が、当業者が容易になし得たものであるか否かについて検討する。 引用発明1は、ポリオルガノシロキサンが「(A)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を平均して0.6個以上2個未満有」するものであり、上記のとおり、それは、分子内にアルケニル基を一つ有するポリオルガノシロキサンと、分子内にアルケニル基を二つ有するポリオルガノシロキサンとを混合してもよいものであるところ、引用文献1における、「ケイ素原子に結合したアルケニル基」の平均個数は、組成物中の各ポリオルガノシロキサンの分子量及び物質量を考慮して求められるものである。してみると、単に、各ポリオルガノシロキサンの重量比に基いてそれらの配合比を調節することによって、当該アルケニル基の平均個数を調節できるというものではない。 そうすると、引用文献1には、たとえ、分子内にアルケニル基を一つ有するポリオルガノシロキサンと、分子内にアルケニル基を二つ有するポリオルガノシロキサンとを混合することによって、「アルケニル基数が平均で1個以上2個未満のものを得る」ことが記載されているとしても、アルケニル基数を調節するために、分子内にアルケニル基を有する一つ有するポリオルガノシロキサンの配合量を、重量比に基いて特定することが示唆されているともいえないし、ましてや、「80質量%より大きく」することは、記載も示唆もされていない。 また、引用文献2には、ハイドロジェンポリシロキサンとの硬化性組成物において、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたポリジメチルシロキサンと、平均組成式が「(C_(6)H_(5))SiO_(3/2):80mol%、(CH_(2)=CH)SiO_(3/2):20mol%」で示されるシリコーンレジンとの組成物を用いることが記載されている(比較例3、摘記(2)ア)。ここで、「分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたポリジメチルシロキサン」は、「分子内にアルケニル基を二つ有するポリオルガノシロキサン」に該当するものの、該シリコーンレジンは、「(CH_(2)=CH)」なるアルケニル基を一つ以上有するものであるから、「分子内にアルケニル基を一つ有するポリオルガノシロキサン」には該当しない。 してみると、引用文献2には、分子内にアルケニル基を一つ有するポリオルガノシロキサンと、分子内にアルケニル基を二つ有するポリオルガノシロキサンとの組成物を用いることは、記載も示唆もされていない。 以上によれば、引用発明1において、「(A)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を平均して0.6個以上2個未満有」する「ポリオルガノシロキサン」として、分子内にアルケニル基を一つ有するポリオルガノシロキサンと、分子内にアルケニル基を二つ有するポリオルガノシロキサンとの組成物を用い、分子内にアルケニル基を一つ有するポリオルガノシロキサンを80質量%より大きくすることに、何らの動機付けもない。 さらに、本願発明1が奏する効果について以下に検討する。 本願明細書の段落【0010】の記載によれば、本願発明1は、適切な粘度/硬度及び熱伝導性を達成しつつ、特に硬化速度に優れた熱伝導性ポリシロキサン組成物が得られるという効果を奏するものと解される。そして、本願明細書の【表1】の比較例1?3と実施例1?6とを比較すれば、「分子内にビニル基を一つ有する直鎖状ポリシロキサン(b1)」が80質量%以下である場合や、「分子内にビニル基を二つ以上有する直鎖状ポリシロキサン」のみを用いる場合と比較して、本願発明1は、硬化速度が向上していることが読み取れる。 一方、引用文献1には、分子内にアルケニル基を有する一つ有するポリオルガノシロキサンを80質量%より大きくすることにより硬化速度が向上することは、記載されておらず、それが本願優先日当時の技術常識でもないことは、上記したとおりである。 また、引用文献2には、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたポリジメチルシロキサンと、平均組成式が(C_(6)H_(5))SiO_(3/2):80mol%、(CH_(2)=CH)SiO_(3/2):20mol%で示されるシリコーンレジンとの組成物を用いた場合に120℃、20分で硬化したこと(比較例3)、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたポリジメチルシロキサンと、平均組成式が(C_(6)H_(5))SiO_(3/2):70mol%、(C_(3)H_(7))SiO_(3/2):30mol%で示されるシリコーンレジンとの組成物を用いた場合に100℃、5分で硬化したこと(比較例4)が記載されている(摘記(2)ア)。これらを比較すると、分子内にアルケニル基を二つ有するポリオルガノシロキサンに対し、分子内にアルケニル基を一つ以上有するポリオルガノシロキサンを混合して用いた場合と比較して、分子内にアルケニル基を有さないポリオルガノシロキサンを混合して用いた場合に、硬化速度が向上したことが理解できる。しかしながら、分子内にアルケニル基を二つ有するポリオルガノシロキサンに対し、分子内にアルケニル基を一つ有するポリオルガノシロキサンを混合して用いることにより、硬化速度が向上することは、引用文献2には示唆もされていないし、引用文献2の記載から予測できるともいえない。 してみると、適切な粘度/硬度及び熱伝導性を達成しつつ、特に硬化速度に優れた熱伝導性ポリシロキサン組成物が得られるという本願発明1が奏する効果は、引用文献1?2のいずれにも記載も示唆もされておらず、それが当業者が予測し得るものであるとはいえない。 したがって、引用発明1において、「(A)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を平均して0.6個以上2個未満有」する「ポリオルガノシロキサン」として、分子内にアルケニル基を一つ有するポリオルガノシロキサンと、分子内にアルケニル基を二つ有するポリオルガノシロキサンとの組成物を用い、分子内にアルケニル基を一つ有するポリオルガノシロキサンを80質量%より大きくすることが、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本願発明1と引用発明1とは、相違点1?4の点で相違し、少なくとも相違点3は実質的な相違点であるから、本願発明1は、引用文献1に記載された発明ではない。 また、上記イで述べたとおりであるから、相違点1、2、4について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本願発明2?4について 本願発明2?4は、本願発明1を引用するものであるから、上記(1)で述べたのと同様に、引用文献1に記載された発明ではなく、引用文献1に記載された発明及び引用文献1、2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3)まとめ 以上のとおり、本願発明1?4は、いずれも、引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載された発明及び引用文献1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、本願について、理由1及び理由2によって拒絶すべきものとすることはできない。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の拒絶理由を検討しても、本願を拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-11-11 |
出願番号 | 特願2018-529311(P2018-529311) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C08L)
P 1 8・ 113- WY (C08L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 中村 英司 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
井上 猛 武貞 亜弓 |
発明の名称 | 熱伝導性ポリオルガノシロキサン組成物 |
代理人 | 特許業務法人 津国 |