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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A01K
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A01K
管理番号 1356684
審判番号 不服2019-1802  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-08 
確定日 2019-11-26 
事件の表示 特願2014-146681「ハンドルキャップ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月 8日出願公開、特開2016- 21884、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年7月17日の出願であって、平成30年4月23日付け(起案日)で拒絶理由通知がされ、平成30年7月9日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成30年11月28日付け(起案日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成31年2月8日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
1 原査定(平成30年11月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1、4及び5に係る発明は、下記引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができず、下記引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、請求項2-5に係る発明は、下記引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献:
1.特開2004-267199号公報
2.特開2012-192846号公報

第3 本願発明
本願請求項1-6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、平成31年2月8日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-6は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
スピニングリールのリール本体に形成されたハンドル軸用貫通孔を塞ぐためのハンドルキャップであって、
前記貫通孔を塞ぐように構成された蓋本体部と、
前記蓋本体部の外周縁部から第1の方向に延びる環状の外壁部と、
前記第1の方向に突出するように前記外壁部の先端部に取り付けられた環状の弾性部材
と、
を備え、
前記ハンドルキャップを前記リール本体に取り付けた状態において、前記外壁部の先端部は前記リール本体部と間隔をあけて配置され、前記弾性部材は前記リール本体と接触する、
ハンドルキャップ

【請求項2】
前記外壁部は、前記外壁部の先端部に形成された溝部を有し、
前記弾性部材は、前記溝部に嵌合する突出部を有する、
請求項1に記載のハンドルキャップ。

【請求項3】
前記溝部及び前記突出部は、環状である、
請求項2に記載のハンドルキャップ。

【請求項4】
前記弾性部材は、前記外壁部の先端部に固定されている、
請求項1から3のいずれかに記載のハンドルキャップ。

【請求項5】
前記外壁部の径方向内側に配置され、前記蓋本体部から延びる内壁部をさらに備え、
前記内壁部は、前記リール本体と螺合するネジ部を有する、
請求項1から4のいずれかに記載のハンドルキャップ。

【請求項6】
前記外壁部の先端部は、鍔部を有さない円筒状である、
請求項1から5のいずれかに記載のハンドルキャップ。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、当審決で付した。以下同じ。)

(1)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、リ-ル本体の巻取り駆動機構に連結されるハンドルの回転操作により、スプ-ルに釣糸を巻回する魚釣用リ-ルの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来例えば、魚釣用スピニングリ-ルでは、リ-ル本体内に、ロ-タを巻取り方向に駆動回転する駆動歯車、ピニオン歯車及びハンドル回転をスプ-ルの前後往復動に変換する往復動機構(オシレ-ト機構)等で構成される巻取り駆動機構が収容されている。
釣人は、使用後又は使用前に、駆動軸受部や歯車噛合部等に注油して長期間の使用や常時良好な性能を維持するメンテナンス作業を行っている。
この場合、リ-ル本体を構成するボディ-から工具等を用いてカバ-部材を取り外して内部の駆動部材を露出させた後、必要な個所に注油を行う方法を従来から一般的に行っている。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
又、外部から注油やグリスアップ等の出来る穴をリ-ル本体に設け、この穴を開閉する栓を設けて注油を行うことも従来から知られている。(例えば、特許文献2参照)
【特許文献1】実開昭63-48467号公報(第3図)
【特許文献2】特開平9-117240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする問題点は、特許文献1の場合は、リ-ル本体を構成するカバ-部材を取り外して内部の駆動部の必要個所に注油を行う方法のため、カバ-部材の着脱作業が煩雑であることや内部の駆動部全体が露出するために異物が混入したり等の問題が生じる。
特許文献2の場合は、リ-ル本体に別部材として開閉用の栓を設ける構成のため、部品点数が多くなって構造が複雑化すると共にコスト高となることである。
【0005】
本発明の目的は前記欠点に鑑み、機能部材で注油孔を閉塞して部品点数を少なく外観が簡素化されてコストの低減が図れる魚釣用リ-ルを提供することである。」

(2)
「【0009】
リ-ル本体1の蓋体2側に装着固定された駆動軸4bを軸方向規制する規制部材からなる機能部材9、9′、9″やカバ-部材からなる機能部材43や、駆動軸4dを軸方向規制する規制部材からなる機能部材9′のネジ部9fに螺合される閉塞キャップ8や、駆動軸4b上のリ-ル本体1のネジ部1hに螺合される閉塞キャップからなる機能部材8′等で注油孔1m、1n、2c、2e、2h、2jを閉塞兼用する構成とすることにより、部品点数少なくリ-ル本体1の外観が簡素化されてコストの低減が図れると共に、露出部が少なくなって損傷や異物付着による不具合も防止できる。
駆動軸4b、4c、4dを軸方向規制する規制部材からなる機能部材9、9′、9″やカバ-部材からなる機能部材43で注油孔1m、1n、2c、2e、2h、2jを閉塞兼用する構成とすることにより、駆動軸上の駆動歯車4の歯部4a及び噛合するピニオン歯車3aの歯面や後側軸受5′等への注油を容易且つ確実に行える。」

(3)
「【0015】
駆動歯車4は歯部4aと歯部4aの一側の軸方向に長い駆動軸4bと段部で小径部4cと歯部4aの他側の軸方向に短い駆動軸4dが形成されている。
歯部4aはリ-ル本体1側に配置されている。
駆動歯車4の駆動軸4dはリ-ル本体1の透孔1fに嵌合された歯車支持用軸受21に、長い駆動軸4b側の小径部4cは蓋体2の透孔2aに嵌合された歯車支持用軸受22で夫々軸承され、駆動軸4b、4c、4dの中心多角形孔4eにハンドル15が固定されたハンドル軸23が左右交換自在に挿入嵌合されて締付けボルト24で取り付けられている。
【0016】
歯車支持用軸受21が嵌合されたリ-ル本体1の透孔1fの外側には3段の筒部1gが形成されて最小径の筒部の外周にネジ部1hが形成されている。
ネジ部1hには閉塞キャップ8が螺合されている。
蓋体2の透孔2aの外側には筒部2bが形成されて筒部2bの外周には駆動軸4bを軸方向規制する規制部材からなる機能部材9が嵌合されて機能部材9は蓋体2にビス25で取り付けられている。
駆動筒軸3の基端のピニオン歯車3aと後側軸受5′の側部の蓋体2に注油孔2cが穿設されている。
【0017】
機能部材9は円板部9aと大径の筒部9bと小径の筒部9cで断面凸字形に形成され、円板部9aにビス25を挿通する孔が穿設されている。
大径の筒部9bの内周内側に凹部9dが、内周に度当り部9eが形成され、小径の筒部9cの外周にネジ部9fが形成されている。
内周先端の凹部9dにOリング26が嵌合されている。
蓋体2の透孔2aに嵌合された歯車支持用軸受22と度当り部9dの間に調整ワッシャ27が挾み込まれている。
歯車支持用軸受21と駆動歯車4の歯部4aとの間の軸方向の短い駆動軸4d外周に調整ワッシャ28が挾み込まれている。」

(4)
「【実施例5】
【0031】
図8は第5実施例で、図8は魚釣用スピニングリ-ルの要部拡大断面平面図である。
【0032】
第5実施例では、閉塞キャップからなる機能部材8′で注油孔1mが閉塞されている。
閉塞キャップからなる機能部材8′には、注油孔1mを閉塞する鍔部8aが形成され、そして鍔部8aの内側周縁部には防水用シ-ル材26が設けられている。
ハンドル15が左右交換された時はハンドルカバ-に形成された鍔部15aで注油孔1mが閉塞されて異物の浸入が防止される。
ハンドル15が左右交換された時閉塞キャップからなる機能部材8′は蓋体2の筒部2bの先端小径筒部2f外周のネジ部2gに螺合される。
他の構成は前記第1・2実施例と略同一である。」

(5)
上記(3)及び(4)の記載を踏まえると、図8からは、透孔1fに、歯車支持用軸受21が嵌合され、リール本体に形成されたハンドル15の軸方向に長い駆動軸4bが軸承される点、機能部材8′は、駆動軸4bと平行な方向に延びる壁部を有する点、壁部先端に、鍔部8aが形成される点、及び、機能部材8′がリ-ル本体1のネジ部1hに螺合されると、透孔1fを塞ぐ部位を有するとともに、機能部材8′の壁部の先端部及び防水用シ-ル材26がリール本体と接触する点が、看て取れる。
また、「機能部材8′の壁部」は、壁状のネジ部1hの外側に位置することが看て取れるから、「機能部材8′の外壁部」ということができる。

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「リ-ル本体の巻取り駆動機構に連結されるハンドルの回転操作により、スプ-ルに釣糸を巻回する魚釣用スピニングリ-ルの、駆動軸4b上のリ-ル本体1のネジ部1hに螺合される閉塞キャップからなる機能部材8′であって、
リ-ル本体1の透孔1fの外側には3段の筒部1gが形成されて最小径の筒部の外周にネジ部1hが形成され、
機能部材8′には、外壁部先端に、注油孔1mを閉塞する鍔部8aが形成され、そして鍔部8aの内側周縁部には防水用シ-ル材26が設けられ、
透孔1fに、歯車支持用軸受21が嵌合され、リール本体に形成されたハンドル15の軸方向に長い駆動軸4bが軸承され、
機能部材8′には、駆動軸4bと平行な方向に延びる外壁部があり、
機能部材8′がリ-ル本体1のネジ部1hに螺合されると、透孔1fを塞ぐ部位を有するとともに、機能部材8′の外壁部の先端部及び防水用シ-ル材26がリール本体と接触する
機能部材8′」

2 引用文献2について
(1)原査定に引用された引用文献2の段落【0032】?【0040】の記載からみて、当該引用文献2には、「カラー26にリング状の樹脂製のリング部材40Aが装着されており、このリング部材40Aが部材22とカラー26との間に挟み込まれ、部材22とカラー26の双方に密着しているので、部材22との界面を封止し」、「リング部材40Aには、径方向に突出する突起27や凹溝28を設け、溝30Aから、軸方向に外れるのを防止するためのはずれ止めを施した」技術的事項が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願請求項1の「前記外壁部の先端部は前記リール本体部と間隔をあけて配置され」における「前記リール本体部」について、請求項1の「スピニングリール」は、「リール本体」と「ハンドルキャップ」とを有するところ、「外壁部の先端部」が配置されるのは「ハンドルキャップ」であるから、それに対して、「間隔をあけて配置され」る対象は「リール本体」であると解される。そうすると、「前記リール本体部」は「前記リール本体」の誤記であると認められる。
これを踏まえて、本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア. 引用発明における「魚釣用スピニングリ-ル」、「リール本体」は、本願発明1における「スピニングリール」、「リール本体」に相当する。

イ. 引用発明における「透孔1f」は、「歯車支持用軸受21が嵌合され」、「リール本体に形成されたハンドル15の軸方向に長い駆動軸4bが軸承される」ことから、本願発明1における「ハンドル軸用貫通孔」に相当する。

ウ. 引用発明における「機能部材8′」は、上記第4.1.(5)によれば、「ハンドル15」の「駆動軸4bが軸承され」る「透孔1fを塞ぐ部位を有する」ことから、本願発明1における「ハンドルキャップ」に相当する。
また、引用発明における「機能部材8′」の「透孔1fを塞ぐ部位」は、本願発明1における「貫通孔を塞ぐように構成された蓋本体部」に相当する。そして、引用発明における「駆動軸4bと平行な方向に延びる外壁部」は、「駆動軸4bと平行な方向」が、「第1の方向」であるといえるから、本願発明1における「第1の方向に延びる外壁部」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
「スピニングリールのリール本体に形成されたハンドル軸用貫通孔を塞ぐためのハンドルキャップであって、
前記貫通孔を塞ぐように構成された蓋本体部と、
前記蓋本体部の外周縁部から第1の方向に延びる外壁部と、
前記外壁部の先端部に設けられた部材
と、
を備え、
前記ハンドルキャップを前記リール本体に取り付けた状態において、前記部材は前記リール本体と接触する、
ハンドルキャップ」

<相違点>
(相違点1)外壁部について、本願発明1は、「環状」であるのに対し、引用発明は、「環状」であるか否か明らかでない点。

(相違点2)本願発明1は、「前記外壁部の先端部に取り付けられた環状の弾性部材」を備えるのに対し、引用発明は、「外壁部の先端部」である「鍔部8aの内側周縁部に」、「防水用シ-ル材26」を設けた構成であるものの、「防水用シ-ル材26」が「弾性部材」であるか否か、「防水用シ-ル材26」が「取り付けられた」ものであるか否かが明らかでない点。

(相違点3)本願発明1は、「外壁部の先端部に取り付けられた部材」が、「第1の方向に突出するように外壁部の先端部に取り付けられた」ものであり、「ハンドルキャップをリール本体に取り付けた状態において、外壁部の先端部はリール本体部と間隔をあけて配置され」るのに対し、引用発明は、外壁部の先端部に設けられた部材が、「第1の方向に突出するように」外壁部の先端部に設けられたものではなく、「ハンドルキャップをリール本体に取り付けた状態において、外壁部の先端部はリール本体部と接触して配置され」る点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点3について検討する。
相違点3に係る本願発明1の「弾性部材」を「第1の方向に突出するように」外壁部の先端部に取り付けられた構成は、上記のとおり、引用発明が備えるものではなく、上記引用文献1及び2の全体をみても記載されていない。
また、引用発明の防水用シ-ル材26は、防水用であるから、その目的を果たすためには、透孔1fを塞ぐ位置に設置できればよく、本願発明1のように傷防止のため外壁部の先端部がリール本体部と間隔をあけて配置するように構成することの動機付けを見出すことができない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された発明ではなく、また、当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 したがって、原査定を維持することはできない。

2 本願発明2-6について
本願発明2-6も、本願発明1の全ての発明特定事項を含むものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明ではなく、また、当業者であっても、引用発明、及び、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。 他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-11-11 
出願番号 特願2014-146681(P2014-146681)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (A01K)
P 1 8・ 121- WY (A01K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 門 良成  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 大塚 裕一
小林 俊久
発明の名称 ハンドルキャップ  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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