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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1356709
審判番号 不服2018-9351  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-06 
確定日 2019-11-06 
事件の表示 特願2015-538433「直接核酸増幅キット、試薬及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月 1日国際公開、WO2014/064169、平成27年11月26日国内公表、特表2015-533507〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成25年10月23日(優先権主張 平成24年10月24日 英国、平成25年3月13日、米国)を国際出願日とする出願であり、平成29年9月11日付けの拒絶理由通知に対して、同年12月8日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年2月14日付けで拒絶査定がなされ、同年7月6日に拒絶査定不服の審判請求がなされたものである。
そして、本願の請求項1?10に係る発明は、平成29年12月8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
核酸増幅方法であって、
i)核酸を含有する溶液を、封鎖剤、ポリメラーゼ及びデオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)を含む凍結乾燥試薬組成物とともにインキュベートする工程と、
ii)核酸を増幅する工程と
を含んでおり、核酸が固相支持体に固定化され、溶解試薬が固体支持体に組み込まれている、方法。」


第2 原査定の理由
平成30年2月14日付け拒絶査定は、この出願の請求項1?5に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記1、4の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

1.特表2012-511317号公報
4.特表2011-526788号公報


第3 当審の判断
1.引用例、引用発明
(1)引用例1
本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2012-511317号公報(以下「引用例1」)には、以下の事項が記載されている。
(1-ア)
「【請求項1】
サンプル中の標的核酸の増幅反応の収量、感度および/または特異性を改善する方法であって、少なくとも1種のシクロデキストリンを含んでなる反応混合物中で増幅反応を行う、方法。
【請求項2】
サンプル中の標的核酸の増幅反応の収量、感度および/または特異性を改善するための請求項1に記載の方法であって、次の工程:
a)標的核酸を含有する、または標的核酸を含有することが疑われるサンプルを、少なくとも1種のシクロデキストリンを含有する増幅反応混合物と接触させる工程;
b)工程a)で得られた反応混合物に対して増幅反応を行う工程
を含んでなる、方法。
【請求項3】
サンプル中の標的核酸の増幅反応の収量、感度および/または特異性を改善するための請求項1に記載の方法であって、次の工程:
a)耐熱性DNAポリメラーゼ、反応バッファー、dNTPおよびプライマーから選択される少なくとも1つの要素をシクロデキストリンと接触させる工程;
b)標的核酸を含有する、または標的核酸を含有することが疑われるサンプルを、工程a)からの少なくとも1つの要素を含有する増幅反応混合物と接触させる工程;
c)工程b)で得られた反応混合物に対して増幅反応を行う工程
を含んでなる、方法。」(特許請求の範囲)

(1-イ)
「【0048】
標的ヌクレオチド配列を含有する、または含有することが疑われる核酸は標識するか、またはビーズもしくは固相表面などの固相支持体と結合させることができる。オリゴヌクレオチドプライマーもまた標識するか、またはビーズを含む種々の支持体と結合させることができる。」

(1-ウ)
「【0103】
本発明はさらに、シクロデキストリンと核酸増幅のための少なくとも1つの試薬を含有する組成物に関する。本発明の組成物は、サンプルの添加時に反応を行う準備ができている増幅反応混合物であり得る。あるいは、本発明による組成物は濃縮保存溶液または酵素を含んでなる場合には濃縮貯蔵溶液の形態であり得る。
【0104】
本発明は、シクロデキストリンと、DNAポリメラーゼ、in vitro DNA合成のための反応バッファー、dNTPおよびプライマーからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含んでなる、DNAポリメラーゼにより触媒されるin vitro DNA合成のための組成物を提供する。
【0105】
本発明はまた、シクロデキストリンと、耐熱性DNAポリメラーゼ、核酸増幅のための反応バッファー、dNTPおよびオリゴヌクレオチドプライマーからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含んでなる、サンプル中の標的核酸を増幅するための組成物を包含する。
【0106】
好ましい態様では、本発明による組成物はシクロデキストリンと耐熱性DNAポリメラーゼを含んでなる。
【0107】
好ましくは、本発明による組成物はシクロデキストリン、耐熱性DNAポリメラーゼおよび貯蔵バッファーを含んでなる。貯蔵バッファーは4℃または-20℃で耐熱性DNAポリメラーゼを貯蔵するのに適合されている。
【0108】
一般的なこととして、核酸増幅の収量、感度および/または特異性を改善するためには、十分な濃度でシクロデキストリンを提供するのが好ましい。本発明はまた、シクロデキストリンと少なくとも1つのdNTPを含んでなる組成物に関する。好ましくは、組成物は、dATP、dTTP、dCTPおよびdGTPの平衡混合物を含んでなる。組成物は例えば、dNTPの平衡プレミックスとシクロデキストリンを含んでなる濃縮保存溶液である。あるいは、組成物はdATP、dCTP、dGTP、dUTPおよびシクロデキストリンを含んでいてもよい。
【0109】
さらに、本発明は、シクロデキストリンと核酸増幅のための反応バッファーを含んでなる組成物に関する。
【0110】
もう1つの態様では、組成物は、シクロデキストリンと少なくとも1つのプライマーを含んでなる。好ましくは、組成物は、シクロデキストリンと、反対側の鎖の、標的核酸の5’および3’末端とハイブリダイズする少なくとも2つのプライマーを含んでなる。
【0111】
好ましい態様では、組成物は、シクロデキストリン、耐熱性DNAポリメラーゼ、dNTPおよび核酸増幅のための反応バッファーを含んでなる。
【0112】
組成物はさらに、標的核酸を含有する、または標的核酸を含有することが疑われるサンプルをさらに含んでいてもよい。
【0113】
組成物では、より具体的には、サンプル、そして増幅反応混合物からなる最終反応混合物では、シクロデキストリンの濃度は好ましくは0.1?50mMの間、より好ましくは0.5?50mMの間である。好ましくは、0.1、0.5、1、2、4、5mM?10、15、20、25、30、40および50mMの間である。
【0114】
組成物では、より具体的には、サンプルと増幅反応混合物を含んでなる最終反応混合物では、耐熱性DNAポリメラーゼの量は好ましくは0.01、0.02、0.03、0.04単位/μl?0.05、0.075、0.1および0.2単位/μlの間である。
【0115】
もう1つの態様では、組成物は、サンプル中の標的核酸配列を増幅するキットの一部である。
【0116】
本発明のもう1つの対象は、同じまたは別の容器に、シクロデキストリンと、DNAポリメラーゼ、in vitro DNA合成のための反応バッファー、dNTPおよびプライマーからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含んでなるキットである。好ましくは、キットは核酸の増幅のためのものである。
【0117】
好ましい態様では、本発明は、同じまたは別の容器に、シクロデキストリンと、耐熱性DNAポリメラーゼ、核酸増幅のための反応バッファー、dNTPおよびオリゴヌクレオチドプライマーからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含んでなるキットに関する。
【0118】
もう1つの好ましい態様では、本発明は、同じ容器に少なくともシクロデキストリンと、耐熱性DNAポリメラーゼ、核酸増幅のための反応バッファー、dNTPおよびオリゴヌクレオチドプライマーからなる群から選択される少なくとも1つの成分とを含んでなる、サンプル中の標的核酸を増幅するためのキットを対象とする。
【0119】
本発明のキットでは、種々の試薬が別の容器で、またはいくつかの成分を含んでなるプレミックスとして提供される。これらの成分は、核酸増幅前に混合および希釈しなければならない濃縮保存溶液として提供してもよい。これらの成分はまた、水または適当なバッファー中に再懸濁させることを意図して、脱水、凍結乾燥または他のいずれかの固体形態で提供してもよい。」

(2)引用例2
本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2011-526788号公報(以下「引用例2」)には、以下の事項が記載されている。
(2-ア)
「【請求項1】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行う方法であって、該方法は:
デオキシリボ核酸を含む粗製サンプルを提供する工程;
該粗製サンプルをNaOHと必要に応じてインキュベートする工程;
該粗製サンプルを直接緩衝剤と混合して、核酸を含む溶液を形成する工程;および
該核酸を含む溶液に対してPCRを行う工程を含み、該直接緩衝剤は、少なくとも0.2%?0.9%のポリソルベート、3%?8%のグリセロール、および1000?3000μg/mlのBSA
を含む、方法。」(特許請求の範囲)

(2-イ)
「【実施例】
【0048】
最初の実施例において、血液をFTA紙(Whatman)にアプライし、そして空気乾燥した。0.5mmのディスクパンチをFTA紙から作成し、そして市販で入手可能なIdentifiler(登録商標) Human Identity Kit(Applied Biosystems)由来のPCRプライマーを含む直接緩衝剤中に置いた。次いでPCRを行った。」

(3)引用発明
上記(1)より、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「サンプル中の標的核酸の増幅反応方法であって、
シクロデキストリン、耐熱性DNAポリメラーゼ、dNTPおよび核酸増幅のための反応バッファーを含む増幅反応成分のプレミックスであって、凍結乾燥した固体形態であるプレミックスを懸濁した反応混合物中で、固相支持体と結合させた標的核酸の増幅反応を行う、方法。」

2.対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「シクロデキストリン」は本願発明の「封鎖剤」に該当するから、引用発明の「シクロデキストリン、耐熱性DNAポリメラーゼ、dNTPおよび核酸増幅のための反応バッファーを含む増幅反応成分のプレミックスであって、凍結乾燥した固体形態であるプレミックス」は本願発明の「封鎖剤、ポリメラーゼ及びデオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)を含む凍結乾燥試薬組成物」に相当し、引用発明の「固相支持体と結合させた標的核酸」は、本願発明の「核酸が固相支持体に固定化され、溶解試薬が固体支持体に組み込まれている」と、「核酸が固相支持体に固定化され」たものである点で一致する。また、引用発明の「サンプル中の標的核酸の増幅反応方法」は、本願発明の「i)核酸・・・を、・・・組成物とともにインキュベートする工程と、ii)核酸を増幅する工程とを含」む「核酸増幅方法」に相当すると認められる。

したがって、両者は、
「核酸増幅方法であって、
i)核酸を、封鎖剤、ポリメラーゼ及びデオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)を含む凍結乾燥試薬組成物とともにインキュベートする工程と、
ii)核酸を増幅する工程と
を含んでおり、核酸が固相支持体に固定化された、方法。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

(相違点1)
固体支持体について、本願発明では「溶解試薬が固体支持体に組み込まれている」ことが特定されているのに対して、引用発明では特定されていない点。
(相違点2)
本願発明では「核酸を含有する溶液を、封鎖剤、ポリメラーゼ及びデオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)を含む凍結乾燥試薬組成物とともにインキュベートする」と特定されており、まず核酸を反応液に添加し、次いで凍結乾燥試薬組成物を添加してインキュベートすることが特定されているのに対して、引用発明では「シクロデキストリン、耐熱性DNAポリメラーゼ、dNTPおよび核酸増幅のための反応バッファーを含む増幅反応成分のプレミックスであって、凍結乾燥した固体形態であるプレミックスを懸濁した反応混合物中で、固相支持体と結合させた標的核酸の増幅反応を行う」ものであり、まず増幅反応成分の凍結乾燥した固体形態のプレミックスを反応液に添加し、次いで固相支持体と結合させた標的核酸を添加して増幅反応を行う点。

3.判断
(相違点1)について
引用例2には、血液をFTA紙にアプライし、乾燥し、FTA紙をパンチしてディスクを作成したあと、ディスクを緩衝液中に入れてPCRを行ったことが記載されており、FTA紙を用いることで血液などの核酸を含む試料からPCRに用いる核酸試料を調製することは、周知技術であると認められ(必要であれば、特表2003-519482号公報【0001】【0002】も参照。)、FTA紙には細胞を溶解するための試薬が担持されていると認められる。
したがって、引用発明の「固相支持体と結合させた標的核酸」として、引用例2に記載されるような周知のFTA紙を用いて調製した核酸試料を採用することは当業者が容易になし得ることであり、その場合、固体支持体は「溶解試薬が固体支持体に組み込まれている」ものとなると認められる。
よって、相違点1は当業者が容易になし得ることである。
(相違点2)について
核酸増幅反応が核酸と増幅反応成分とを含む反応液中で行われることは技術常識であり、その際に核酸や増幅反応成分の反応液への添加順序が増幅反応の成否に影響するとは考えられないから、引用発明において「固相支持体と結合させた標的核酸(以下「標的核酸」と省略する。)」と「凍結乾燥した固体形態であるプレミックス(以下「プレミックス」と省略する。)」とを用いて標的核酸の増幅反応を行う際に、反応液への「標的核酸」と「プレミックス」の添加順序を検討することは当業者が容易に行うことである。例えば、まず「プレミックス」を反応液に添加し、次いで「標的核酸」を添加して増幅反応を行うことに代えて、まず「標的核酸」を反応液に添加し、次いで「プレミックス」を添加して増幅反応を行うこと、すなわち、「核酸を含有する溶液を、封鎖剤、ポリメラーゼ及びデオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)を含む凍結乾燥試薬組成物とともにインキュベートする」ことは、当業者が容易になし得ることである。
したがって、相違点2は当業者が容易になし得ることである。
そして、本願発明において引用例1、4の記載から予測できない効果が奏されたとは認められない。
よって、本願発明は引用例1、4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書において、以下の事項を主張している。
「引用文献1の段落0119には、「本発明のキットでは、種々の試薬が別の容器で、またはいくつかの成分を含んでなるプレミックスとして提供される。これらの成分は、核酸増幅前に混合および希釈しなければならない濃縮保存溶液として提供してもよい。これらの成分はまた、水または適当なバッファー中に再懸濁させることを意図して、脱水、凍結乾燥または他のいずれかの固体形態で提供してもよい。」と記載されている(下線追加)。しかしながら、当該記載は、単に願望的形態を可能性として示唆しているだけである。現実に、「該出願中に、そのような凍結乾燥された、プレミックスされたキットの例、又は実際にそのようなキットを調製することのできた方法の例はない。」(本願段落0007)。すなわち、引用文献1には、「凍結乾燥」と表記されている箇所があるものの、単に「凍結乾燥」の可能性があることからそのように述べたものと解される。」

しかし、本願優先日前において、生化学試薬など各種の試薬を凍結乾燥して保存性を高めようとすることは周知であること(必要であれば、蛋白質 核酸 酵素,1996年,Vol.41,No.6,p810-816の「はじめに」の項を参照。)や、安定化された核酸増幅用組成物の製造のために凍結乾燥が広く行われていたこと(必要であれば、特表平10-503383号公報、特表2008-504046号公報、特表2011-526492号公報、特表2011-522533号公報を参照。)などに照らすと、引用例1(引用文献1)には、凍結乾燥した固体形態であるプレミックスを用いる増幅反応方法の発明が実質的に記載されていると認められる。
したがって、審判請求人の主張は採用することができない。


第4 むすび
以上のとおり、この出願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-06-10 
結審通知日 2019-06-11 
審決日 2019-06-24 
出願番号 特願2015-538433(P2015-538433)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 飯室 里美  
特許庁審判長 大宅 郁治
特許庁審判官 小暮 道明
中島 庸子
発明の名称 直接核酸増幅キット、試薬及び方法  
代理人 小倉 博  
代理人 飯田 雅人  
代理人 荒川 聡志  
代理人 田中 拓人  
代理人 崔 允辰  
代理人 田中 研二  

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