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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 一部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1356795
異議申立番号 異議2019-700089  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-07 
確定日 2019-09-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6370419号発明「レーザマーキング可能な樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6370419号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲とおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第6370419号の請求項1-6、8-10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6370419号は、平成29年2月3日(パリ条約の例による優先権主張:平成28年2月5日、台湾)の出願であって、平成30年7月20日にその特許権の設定登録がされ、同年8月8日に特許掲載公報が発行され、その後、平成31年2月7日に、請求項1?6、8?10に係る特許に対して、特許異議申立人 東レ株式会社(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

申立人の証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2000-198903号公報
(以下、「甲1」という。)

異議申立後の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成31年 4月 9日付け 取消理由通知書
令和 1年 7月 9日 意見書、訂正請求書
同年 7月12日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
なお、令和1年7月12日付け通知書に対して、申立人からの意見書の提出はなかった。

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和1年7月9日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである。下線は、訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における「前記樹脂に占める重量百分率が0?45の(メタ)アクリレート系重合体(B)」との記載を、「前記樹脂に占める重量百分率が0超45以下の(メタ)アクリレート系重合体(B)」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2における「前記(メタ)アクリレート系重合体(B)の、前記樹脂に占める重量百分率が0?40であり」との記載を、「前記(メタ)アクリレート系重合体(B)の、前記樹脂に占める重量百分率が0超40以下であり」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6における「(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)と;コア部と、前記コア部を少なくとも部分的に覆うシェル層とを有し、前記コア部は主にブタジエン単量体単位から選択され、前記シェル層は主に(メタ)アクリレート系単量体単位から選択されるコアシェル型重合体(C)と;を備え、前記レーザ光吸収剤はカーボンブラック(D)を備え、前記(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)および前記コアシェル型重合体(C)の両者合計100重量部に基づき、前記カーボンブラック(D)が0.01?0.25重量部であり、」との記載を、「(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)と;(メタ)アクリレート系重合体(B)と;コア部と、前記コア部を少なくとも部分的に覆うシェル層とを有し、前記コア部は主にブタジエン単量体単位から選択され、前記シェル層は主に(メタ)アクリレート系単量体単位から選択されるコアシェル型重合体(C)と;を備え、前記レーザ光吸収剤はカーボンブラック(D)を備え、前記(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)および前記コアシェル型重合体(C)の両者合計100重量部に基づき、前記カーボンブラック(D)が0.01?0.25重量部であり、前記(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)、(メタ)アクリレート系重合体(B)、および前記コアシェル型重合体(C)の三者合計100重量に基づき、前記カーボンブラック(D)が0.01?0.25重量部であり、」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8が引用する請求項を「請求項6または7」から「請求項6」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9が引用する請求項を「請求項6?8のいずれか一項」から「請求項6または8」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10が引用する請求項を「請求項1?9のいずれか一項」から「請求項1?6、8および9のいずれか一項」に訂正する。

本件訂正前の請求項2?5は、本件訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件訂正前の請求項7?9は、本件訂正前の請求項6を直接又は間接的に引用するものであり、本件訂正前の請求項10は、本件訂正前の1?9を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?10は一群の請求項である。よって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1-10〕に対してされたものである。

2 訂正の適否について当審の判断
(1)訂正の目的、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の有無
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1における(メタ)アクリレート系重合体(B)の樹脂に占める重量百分率が「0?45」であったものを、当該範囲に0を含めないものとし、その際「?45」を「45以下」と書き改めたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書には、「本明細書のいくつかの実施例においては、樹脂が(メタ)アクリレート系重合体(B)をさらに備える。」と記載されており(【0016】)、(メタ)アクリレート系重合体(B)を含む例が具体的に記載されている(実施例1?6、10、11、13?15)ことからみれば、訂正事項1は、本件特許明細書又は特許請求の範囲(以下、「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2における(メタ)アクリレート系重合体(B)の樹脂に占める重量百分率が「0?40」であったものを、当該範囲に0を含めないものとし、その際「?40」を「40以下」と書き改めたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記アで述べたものと同様の理由により、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、請求項6において、「樹脂」が、「(メタ)アクリレート系重合体(B)」を備えることを特定するとともに、「カーボンブラック(D)」の含有量が、「(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)、(メタ)アクリレート系重合体(B)、および前記コアシェル型重合体(C)の三者合計100重量に基づき」、「0.01?0.25重量部であ」ることを特定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書等には、「樹脂が」、「(メタ)アクリレート系重合体(B)をさらに備え」、「(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)、(メタ)アクリレート系重合体(B)、および前記コアシェル型重合体(C)の三者合計100重量に基づき、前記カーボンブラック(D)が0.01?0.25重量部であ」る旨記載されていた(【請求項7】)から、訂正事項3は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 訂正事項4について
訂正事項4は、請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4が、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

オ 訂正事項5?7について
訂正事項5?7は、本件訂正前の請求項8、9及び10がいずれも請求項7を引用していたのを、訂正事項4により請求項7が削除されたことに伴ってこれを引用しないこととしたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項5?7が、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(2)独立特許要件について
特許異議の申立ては、本件訂正前の請求項1?6、8?10に対してされているので、本件訂正後の請求項1?6、8?10に係る発明については、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
本件訂正後の請求項7は、訂正事項4により、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正がされたものであり、本件訂正前の請求項7は特許異議の申立てがされていない請求項であるから、本件訂正後の請求項7に係る発明については、訂正を認める要件として上記独立特許要件が課せられるが、訂正事項4により請求項7は削除されたので、独立特許要件について判断する対象の請求項が存在しない。

3 まとめ
上記2のとおり,訂正事項1?7に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであるから、結論のとおり、本件訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)

【請求項1】
樹脂およびレーザ光吸収剤を含有するレーザマーキング可能な樹脂組成物であって、前記樹脂が:
前記樹脂に占める重量百分率(w%)が40?83の(メタ)アクリレート系-スチレン系共重合体(A)と;
前記樹脂に占める重量百分率が0超45以下の(メタ)アクリレート系重合体(B)と;
前記樹脂に占める重量百分率が10?35のコアシェル型重合体(C)と;
を備え、
前記レーザ光吸収剤はカーボンブラック(D)を備え、100重量部の樹脂に対し、前記カーボンブラック(D)の比率が0.01?0.25重量部であり、
前記(メタ)アクリレート系-スチレン系共重合体(A)は、前記(A)に占める重量百分率が40?80の(メタ)アクリレート系単量体単位と、前記(A)に占める重量百分率が20?60のスチレン系単量体単位と、前記(A)に占める重量百分率が0?30の他の共重合可能な単量体単位とを備え;
前記(メタ)アクリレート系重合体(B)は、前記(B)に占める重量百分率が92?99のメタクリル酸エステル系単量体単位と、前記(B)に占める重量百分率が1?8のアクリル酸エステル系単量体単位と、前記(B)に占める重量百分率が0?7のビニル基を含む共重合可能な単量体単位とを備え、かつ、前記(メタ)アクリレート系重合体(B)は70,000?150,000の重量平均分子量を有し;
前記コアシェル型重合体(C)は、コア部と、前記コア部を少なくとも部分的に覆うシェル層とを有し、前記コア部は、ブタジエン単量体単位を含み、前記シェル層は主に(メタ)アクリレート系単量体単位から選択されることを特徴とするレーザマーキング可能な樹脂組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリレート系-スチレン系共重合体(A)の、前記樹脂に占める重量百分率が40?80であり;前記(メタ)アクリレート系重合体(B)の、前記樹脂に占める重量百分率が0超40以下であり;かつ、前記コアシェル型重合体(C)の、前記樹脂に占める重量百分率が10?30であることを特徴とする請求項1に記載のレーザマーキング可能な樹脂組成物。
【請求項3】
前記コアシェル型重合体(C)の前記コア部は、前記コア部が、前記コアシェル型重合体(C)に占める重量百分率が50以上のブタジエン単量体単位からなり、前記コア部が、ポリブタジエン、ポリブタジエン共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン重合体、および上記の任意の組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする請求項1?2のいずれか一項に記載のレーザマーキング可能な樹脂組成物。
【請求項4】
前記コアシェル型重合体(C)の前記シェル層は、前記コアシェル型重合体(C)の前記シェル層に占める重量百分率が60以上の(メタ)アクリレート系単量体単位からなることを特徴とする請求項3に記載のレーザマーキング可能な樹脂組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリレート系単量体単位は、(メタ)アクリル酸メチル単量体単位、(メタ)アクリル酸エチル単量体単位、(メタ)アクリル酸ブチル単量体単位、および上記の任意の組み合わせからなる群から選択され、前記スチレン系単量体単位は、スチレン、α-メチルスチレン、および上記の任意の組み合わせからなる群から選択され、前記他の共重合可能な単量体単位は、アクリロニトリル単量体単位、無水マレイン酸単量体単位、および上記の任意の組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載のレーザマーキング可能な樹脂組成物。
【請求項6】
樹脂およびレーザ光吸収剤を含有するレーザマーキング可能な樹脂組成物であって、前記樹脂が:
(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)と;
(メタ)アクリレート系重合体(B)と;
コア部と、前記コア部を少なくとも部分的に覆うシェル層とを有し、前記コア部は主にブタジエン単量体単位から選択され、前記シェル層は主に(メタ)アクリレート系単量体単位から選択されるコアシェル型重合体(C)と;
を備え、
前記レーザ光吸収剤はカーボンブラック(D)を備え、前記(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)および前記コアシェル型重合体(C)の両者合計100重量部に基づき、前記カーボンブラック(D)が0.01?0.25重量部であり、
前記(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)、(メタ)アクリレート系重合体(B)、および前記コアシェル型重合体(C)の三者合計100重量に基づき、前記カーボンブラック(D)が0.01?0.25重量部であり、
(メタ)アクリレート系単量体単位とスチレン系単量体単位とがそれぞれ前記樹脂に由来し、前記(メタ)アクリレート系単量体単位の、前記スチレン系単量体単位に占める比率が0.85?5であり、かつ、前記ブタジエン系単量体単位の、前記レーザマーキング可能な樹脂組成物に占める重量百分率が12.5?21.5であることを特徴とするレーザマーキング可能な樹脂組成物。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記樹脂中の前記(メタ)アクリレート系単量体単位の、前記スチレン系単量体単位に占める比率が0.9?4.9であることを特徴とする請求項6に記載のレーザマーキング可能な樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂中の前記(メタ)アクリレート系単量体単位の、前記樹脂に占める重量百分率が35?75であり;前記樹脂中の前記スチレン系単量体単位の、前記樹脂に占める重量百分率が10?50であり;かつ、前記樹脂中の前記ブタジエン系単量体単位の、前記樹脂に占める重量百分率が12.5?21.5であることを特徴とする請求項6または8に記載のレーザマーキング可能な樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1?6、8および9のいずれか一項に記載のレーザマーキング可能な樹脂組成物により作製され:
表面と;
マーキングと、
を含み、
前記マーキングはレーザ処理によって前記表面上に形成されることを特徴とする成形品。

第4 平成31年4月9日付けの取消理由通知書(以下、「取消理由通知書」という。」)に記載した取消理由
1 取消理由の概要
取消理由通知書に記載した取消理由は、以下のとおりのものである。
(1)本件訂正前の請求項1?6、8?10に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由1」という)。
(2)本件訂正前の請求項1?6、8?10に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由2」という)。

2 当審の判断
(1)取消理由1について
ア 甲1の【0031】?【0058】の記載(特に、実施例1及び2)から、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。

特に実施例1から、
「ポリブタジエンラテックス50部の存在下、メタクリル酸メチル36部、スチレン12部、アクリロニトリル2部を重合させた、グラフト率45%のゴム含有グラフト共重合体を30部と、メタクリル酸メチル72%、スチレン24%、アクリロニトリル4%を重合した不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体を70部と、カーボンブラック0.2部を含むレーザーマーキング用樹脂組成物。」(以下、「甲1-1発明」という。)

特に実施例2から、
「ポリブタジエンラテックス50部の存在下、メタクリル酸メチル36部、スチレン12部、アクリロニトリル2部を重合させた、グラフト率45%のゴム含有グラフト共重合体を40部と、メタクリル酸メチル60%、スチレン30%、アクリロニトリル10%を重合した不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体を60部と、カーボンブラック0.05部を含むレーザーマーキング用樹脂組成物。」(以下、「甲1-2発明」という。)

イ 対比・判断
甲1-1発明及び甲1-2発明の「部」、「%」は、甲1の特許請求の範囲において、各成分の含有量が「重量%」及び「重量部」で表されている(【請求項1】)ことからみて、それぞれ「重量部」及び「重量%」を意味することは明らかである。
以下、この前提に基づき、検討を行う。

(ア)本件発明1について
取消理由通知書では、本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲1-1発明であるとしている。
そこで、本件発明1と甲1-1発明とを対比する。
本件特許明細書の「ブタジエンのコア部を有するコアシェル型重合体(C)を合成する方法は、軟らかいブタジエンのコア部(弾性体)上に固い重合体をグラフトすることで被覆(シェル)層を形成する」との記載(【0041】)によれば、本件発明1の「コアシェル重合体(C)」は、ポリブタジエンに対するグラフト重合物も包含すると解される。してみると、甲1-1発明の「ポリブタジエンラテックス50部の存在下、メタクリル酸メチル36部、スチレン12部、アクリロニトリル2部を重合させた、グラフト率45%のゴム含有グラフト共重合体」は、本件発明1の「コア部と、前記コア部を少なくとも部分的に覆うシェル層とを有」する「コアシェル型重合体(C))」に相当し、ここで、ポリブタジエンはコア部を形成し、メタクリル酸メチル、スチレン及びアクリロニトリルは、シェル層を形成するものといえる。さらに、上記シェル層を形成する「メタクリル酸メチル」は、本件発明1の「(メタ)アクリレート系単量体」に相当し、当該「メタクリル酸メチル」はシェル中の72%(=[36/(36+12+2)]×100)を占めるから、シェル層を形成する主たる単量体である。
してみると、甲1-1発明の「ポリブタジエンラテックス50部の存在下、メタクリル酸メチル36部、スチレン12部、アクリロニトリル2部を重合させた、グラフト率45%のゴム含有グラフト共重合体」は、本件発明1の「コア部と、前記コア部を少なくとも部分的に覆うシェル層とを有し、前記コア部は、ブタジエン単量体単位を含み、前記シェル層は主に(メタ)アクリレート系単量体単位から選択される」「コアシェル型重合体(C)」に相当する。
甲1-1発明の「メタクリル酸メチル72%、スチレン24%、アクリロニトリル4%を重合した不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体」における「メタクリル酸メチル」、「スチレン」及び「アクリロニトリル」は、それぞれ、本件発明1の「(メタ)アクリレート系単量体」、「スチレン系単量体」及び「他の共重合可能な単量体」に相当し、「72%」、「24%」及び「4%」の重合割合は、それぞれ本件発明1の「40?80」、「20?60」及び「0?30」の範囲に包含される。してみると、甲1-1発明の「メタクリル酸メチル72%、スチレン24%、アクリロニトリル4%を重合した不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体」は、本件発明1の「前記(A)に占める重量百分率が40?80の(メタ)アクリレート系単量体単位と、前記(A)に占める重量百分率が20?60のスチレン系単量体単位と、前記(A)に占める重量百分率が0?30の他の共重合可能な単量体単位とを備え」る「(メタ)アクリレート系スチレン系共重合体(A)」に相当する。
甲1-1発明の「カーボンブラック」は、本件発明1の「カーボンブラック(D)を備え」る「レーザ光吸収剤」に相当する。
甲1-1発明の「レーザーマーキング用樹脂組成物」は、本件発明1の「レーザマーキング可能な樹脂組成物」に相当する。
甲1-1発明の「不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体」及び「ゴム含有グラフト共重合体」はいずれも樹脂であり、樹脂全体に占める、「不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体」及び「ゴム含有グラフト共重合体」の含有割合である「70部」及び「30部」は、それぞれ、本件発明1の「樹脂に占める」「(メタ)アクリレート系-スチレン共重合体(A)」及び「コアシェル型重合体(C)」の「重量百分率」である「40?83」及び「10?35」の範囲に包含される。
甲1-1発明における「不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体」の70部及び「ゴム含有グラフト共重合体」の30部の合計100部に対するカーボンブラックの配合量は0.2部であり、本件発明1の「100重量部の樹脂に対」する「カーボンブラック(D)の比率」である「0.01?0.25」の範囲に包含される。
してみると、本件発明1と甲1-1発明とは、
「樹脂およびレーザ光吸収剤を含有するレーザマーキング可能な樹脂組成物であって、前記樹脂が:
前記樹脂に占める重量百分率(w%)が40?83の(メタ)アクリレート系-スチレン系共重合体(A)と;
前記樹脂に占める重量百分率が10?35のコアシェル型重合体(C)と;
を備え、
前記レーザ光吸収剤はカーボンブラック(D)を備え、100重量部の樹脂に対し、前記カーボンブラック(D)の比率が0.01?0.25重量部であり、
前記(メタ)アクリレート系-スチレン系共重合体(A)は、前記(A)に占める重量百分率が40?80の(メタ)アクリレート系単量体単位と、前記(A)に占める重量百分率が20?60のスチレン系単量体単位と、前記(A)に占める重量百分率が0?30の他の共重合可能な単量体単位とを備え;
前記コアシェル型重合体(C)は、コア部と、前記コア部を少なくとも部分的に覆うシェル層とを有し、前記コア部は、ブタジエン単量体単位を含み、前記シェル層は主に(メタ)アクリレート系単量体単位から選択されるレーザマーキング可能な樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
「樹脂」について、本件発明1は、(A)及び(C)に加え、「樹脂に占める重量百分率が0超45以下の(メタ)アクリレート系重合体(B)」を備え、当該(B)は、「前記(B)に占める重量百分率が92?99のメタクリル酸エステル系単量体単位と、前記(B)に占める重量百分率が1?8のアクリル酸エステル系単量体単位と、前記(B)に占める重量百分率が0?7のビニル基を含む共重合可能な単量体単位とを備え、かつ、前記(メタ)アクリレート系重合体(B)は70,000?150,000の重量平均分子量を有」するのに対して、甲1-1発明には、この点についての特定がない点。

上記相違点について検討する。
甲1-1発明は、「前記(B)に占める重量百分率が92?99のメタクリル酸エステル系単量体単位と、前記(B)に占める重量百分率が1?8のアクリル酸エステル系単量体単位と、前記(B)に占める重量百分率が0?7のビニル基を含む共重合可能な単量体単位とを備え、かつ、前記(メタ)アクリレート系重合体(B)は70,000?150,000の重量平均分子量を有」する、「樹脂に占める重量百分率が0超45以下の(メタ)アクリレート系重合体(B)」を備えるものではないのだから、相違点1は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲1-1発明ではない。

(イ)本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。
そして、上記(ア)で述べたとおり、本件発明1が甲1-1発明ではないのだから、本件発明2?5も、甲1-1発明ではない。

(ウ)本件発明6について
取消理由通知では、本件訂正前の請求項6に係る発明は、甲1-1発明又は甲1-2発明であるとしている。
そこで、以下、本件発明6と、甲1-1発明及び甲1-2発明とを順に対比・検討する。
a 本件発明6と甲1-1発明を対比する。
上記(ア)で述べたものと同様の理由により、甲1-1発明の「ポリブタジエンラテックス50部の存在下、メタクリル酸メチル36部、スチレン12部、アクリロニトリル2部を重合させた、グラフト率45%のゴム含有グラフト共重合体」は、本件発明6の「コア部と、前記コア部を少なくとも部分的に覆うシェル層とを有し、前記コア部は、主にブタジエン単量体単位から選択され、前記シェル層は主に(メタ)アクリレート系単量体単位から選択されるコアシェル型重合体(C)」に相当する。
甲1-1発明の「メタクリル酸メチル72%、スチレン24%、アクリロニトリル4%を重合した不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体」は、本件発明6の「(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン共重合体(A)」に相当する。
甲1-1発明の「カーボンブラック」は、本件発明6の「カーボンブラック(D)を備え」る「レーザ光吸収剤」に相当する。
甲1-1発明の「レーザーマーキング用樹脂組成物」は、本件発明6の「レーザマーキング可能な樹脂組成物」に相当する。
甲1-1発明の「不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体」及び「ゴム含有グラフト共重合体」はいずれも樹脂であり、これら両者合計100部に基づくカーボンブラックの量は0.2部であって、この量は、本件発明6の、(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)およびコアシェル型重合体(C)の両者合計100重量部に基づくカーボンブラック(D)の量である「0.01?0.25部」の範囲に包含される。
甲1-1発明の、ブタジエン系単量体の樹脂組成物に占める重量百分率は、15.0(=[(30×0.5)/(30+70+0.2)]×100)であり、本件発明6の「12.5?21.5」の範囲に包含される。
そうすると、本件発明6と甲1-1発明とは、
「樹脂およびレーザ光吸収剤を含有するレーザマーキング可能な樹脂組成物であって、前記樹脂が:
(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)と;
コア部と、前記コア部を少なくとも部分的に覆うシェル層とを有し、前記コア部は主にブタジエン単量体単位から選択され、前記シェル層は主に(メタ)アクリレート系単量体単位から選択されるコアシェル型重合体(C)と;
を備え、
前記レーザ光吸収剤はカーボンブラック(D)を備え、前記(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)および前記コアシェル型重合体(C)の両者合計100重量部に基づき、前記カーボンブラック(D)が0.01?0.25重量部であり、前記ブタジエン系単量体単位の、前記レーザマーキング可能な樹脂組成物に占める重量百分率が12.5?21.5であるレーザマーキング可能な樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2>
「樹脂」について、本件発明6では、(A)及び(C)に加え、「(メタ)アクリレート系重合体(B)」を備えるのに対して、甲1-1発明には、この点についての特定がない点。

<相違点3>
「カーボンブラック」の量について、本件発明6では、「(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)」及び「コアシェル型重合体(C)」の「両者合計100重量部に基づき」、「0.01?0.25重量部」であるのに加え、「(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)」、「(メタ)アクリレート系重合体(B)」及び「コアシェル型重合体(C)」の「三者合計100重量に基づき」、「0.01?0.25重量部」であるのに対して、甲1-1発明では、ゴム含有グラフト共重合体30部と不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体70部に対して0.2部である点。

<相違点4>
本件発明6では、「(メタ)アクリレート系単量体単位とスチレン系単量体単位とがそれぞれ前記樹脂に由来し、前記(メタ)アクリレート系単量体単位の、前記スチレン系単量体単位に占める比率が0.85?5であり」と特定しており、ここで、「樹脂」は、「(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)」と「(メタ)アクリレート系重合体(B)」と「コアシェル型重合体(C)」を備えるのに対して、甲1-1発明では、樹脂である「ゴム含有グラフト共重合体」及び「不飽和カルボン酸エステル系共重合体」のいずれもメタクリル酸メチル及びスチレン由来の構造単位を有するから、樹脂に由来するメタクリル酸メチル単量体単位、スチレン単量体単位が存在し、メタクリル酸メチル単量体単位のスチレン単量体単位に占める比率は3.0(=[30×(36/100)+70×(72/100)]/[30×(12/100)+70×(24/100)]であるものの、樹脂が(メタ)アクリレート系重合体を備えない点。

上記相違点について検討する。
相違点2について、甲1-1発明は、「(メタ)アクリレート系重合体(B)」を含有するものではないから、相違点2は実質的な相違点である。
よって、相違点3及び4について検討するまでもなく、本件発明6は、甲1-1発明ではない。

b 本件発明6と甲1-2発明とを対比する。
甲1-2発明は、「ポリブタジエンラテックス50部の存在下、メタクリル酸メチル36部、スチレン12部、アクリロニトリル2部を重合させた、グラフト率45%のゴム含有グラフト共重合体」の配合量が40部である点、「不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体」がメタクリル酸メチル60%、スチレン30%、アクリロニトリル10%を重合したものであり、これの配合量が60部である点、及び、カーボンブラックの配合量が「ゴム含有グラフト共重合体」と「不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体」の合計に対して0.05部である点のみで、甲1-1発明と相違するから、本件発明6と甲1-2発明とは、少なくとも、上記aで述べた相違点2と同様の相違点を有する。
そして、甲1-2発明は、「(メタ)アクリレート系重合体(B)」を含有するものではないから、当該相違点は実質的な相違点であり、本件発明6は甲1-2発明ではない。

(エ)本件発明8及び9について
本件発明8及び9は、本件発明6を直接又は間接的に引用するものである。
そして、上記(ウ)で述べたとおり、本件発明6が甲1-1発明又は甲1-2発明ではないのだから、本件発明8及び9も、甲1-1発明又は甲1-2発明ではない。

(オ)本件発明10について
本件発明10は、本件発明1又は6を直接又は間接的に引用するものであり、上記(ア)で述べたとおり本件発明1は甲1-1発明でなく、上記(ウ)で述べたとおり本件発明6は甲1-1発明又は甲1-2発明ではないのだから、本件発明10は、甲1-1発明又は甲1-2発明ではない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1?6、8?10は、甲1-1発明又は甲1-2発明ではなく、取消理由1は理由がない。

(2)取消理由2(進歩性)について
ア 甲1には、請求項1?4から、以下の発明が記載されていると認められる。
「ゴム質重合体(a)20?80重量部に対し、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(b)50?90重量%、芳香族ビニル系単量体(c)10?50重量%およびシアン化ビニル系単量体(d)0?20重量%からなる単量体混合物80?20重量部を配合してなる、ゴム含有グラフト共重合体(I)であって、重量平均粒子径が0.1?0.4μmであるポリブタジエンゴム30?60重量部に対し、メタクリル酸メチル60?80重量%、スチレン20?40重量%およびアクリロニトリル0?10重量%からなる単量体混合物70?40重量部を配合したものであるゴム含有グラフト共重合体(I)10?50重量部、メタクリル酸メチルである不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(b)50?90重量%、芳香族ビニル系単量体(c)10?50重量%およびシアン化ビニル系単量体(d)0?20重量%からなる不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体(II)10?90重量部、および芳香族ビニル系単量体(c)75?35重量%、シアン化ビニル系単量体(d)5?40重量%およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体(e)0?60重量%からなるビニル系共重合体(III)の1種または2種以上の混合物0?50重量部からなる(I)+(II)+(III)=100重量部に対してカーボンブラック(IV)0.001?5重量部を含有してなるレーザーマーキング用樹脂組成物。」(以下、「甲1-4発明」という。)

イ 対比・判断
(ア)本件発明1について
取消理由通知では、本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲1-4発明と甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとしている。
そこで、本件発明1と、甲1-4発明とを対比する。
本件特許明細書の「ブタジエンのコア部を有するコアシェル型重合体(C)を合成する方法は、軟らかいブタジエンのコア部(弾性体)上に固い重合体をグラフトすることで被覆(シェル)層を形成する」との記載(【0041】)によれば、本件発明1の「コアシェル重合体(C)」は、ポリブタジエンに対するグラフト重合物も包含すると解される。
このことから、甲1-4発明の「ゴム質重合体(a)20?80重量部に対し、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(b)50?90重量%、芳香族ビニル系単量体(c)10?50重量%およびシアン化ビニル系単量体(d)0?20重量%からなる単量体混合物80?20重量部を配合してなる、ゴム含有グラフト共重合体(I)であって、重量平均粒子径が0.1?0.4μmであるポリブタジエンゴム30?60重量部に対し、メタクリル酸メチル60?80重量%、スチレン20?40重量%およびアクリロニトリル0?10重量%からなる単量体混合物70?40重量部を配合した」ものである「ゴム含有グラフト共重合体(I)」は、本件発明1の「コア部と、前記コア部を少なくとも部分的に覆うシェル層とを有」する「コアシェル型重合体」に相当し、ここで、ブタジエンはコア部を形成し、メタクリル酸メチル、スチレン、アクリロニトリルは、シェル層を形成するものといえる。そして、「メタクリル酸メチル」は、本件発明1の「(メタ)アクリレート系単量体」に相当し、これはシェル層中の「60?80重量%」を占めるから、シェル層を形成する主たる単量体である。
してみると、甲1-4発明の「ゴム質重合体(a)20?80重量部に対し、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(b)50?90重量%、芳香族ビニル系単量体(c)10?50重量%およびシアン化ビニル系単量体(d)0?20重量%からなる単量体混合物80?20重量部を配合してなる、ゴム含有グラフト共重合体(I)であって、重量平均粒子径が0.1?0.4μmであるポリブタジエンゴム30?60重量部に対し、メタクリル酸メチル60?80重量%、スチレン20?40重量%およびアクリロニトリル0?10重量%からなる単量体混合物70?40重量部を配合した」ものである「ゴム含有グラフト共重合体(I)」は、本件発明1の「コア部と、前記コア部を少なくとも部分的に覆うシェル層とを有し、前記コア部は、ブタジエン単量体単位を含み、前記シェル層は主に(メタ)アクリレート系単量体単位から選択されるコアシェル型重合体(C)」に相当する。
甲1-4発明の「ゴム含有グラフト共重合体(I)」、「不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体(II)」、及び、「ビニル系共重合体(III)」はいずれも樹脂であり、これら樹脂の「(I)+(II)+(III)=100重量部」に占める「ゴム含有グラフト共重合体(I)」の割合は「10?50重量部」であって、この範囲は、本件発明1の、樹脂に占めるコアシェル型重合体(C)の重量百分率である「10?35」の範囲と重複する。
甲1-4発明の「カーボンブラック」は、本件発明1の「カーボンブラック(D)を備え」る「レーザ光吸収剤」に相当し、その配合量である「(I)+(II)+(III)=100重量部に対して」「0.001?5重量部」の範囲は、本件発明1の100重量部の樹脂に対するカーボンブラックの配合量である「0.01?0.25重量部」の範囲と重複する。
甲1-4発明の「レーザーマーキング用樹脂組成物」は、本件発明1の「レーザマーキング可能な樹脂組成物」に相当する。

してみると、本件発明1と甲1-4発明とは、
「樹脂およびレーザ光吸収剤を含有するレーザマーキング可能な樹脂組成物であって、前記樹脂が:
前記樹脂に占める重量百分率が10?35のコアシェル型重合体(C)を備え、
前記レーザ光吸収剤はカーボンブラック(D)を備え、100重量部の樹脂に対し、前記カーボンブラック(D)の比率が0.01?0.25重量部であり、
前記コアシェル型重合体(C)は、コア部と、前記コア部を少なくとも部分的に覆うシェル層とを有し、前記コア部は、ブタジエン単量体単位を含み、前記シェル層は主に(メタ)アクリレート系単量体単位から選択されるレーザマーキング可能な樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点5>
樹脂組成物に含有される樹脂について、本件発明1は「樹脂に占める重量百分率(wt%)が40?83の(メタ)アクリレート系-スチレン系共重合体(A)」を備え、当該「(メタ)アクリレート系-スチレン系共重合体(A)」は、「前記(A)に占める重量百分率が40?80の(メタ)アクリレート系単量体単位と、前記(A)に占める重量百分率が20?60のスチレン系単量体単位と、前記(A)に占める重量百分率が0?30の他の共重合可能な単量体単位とを備え」ているのに対して、甲1-4発明では「メタクリル酸メチルである不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(b)50?90重量%、芳香族ビニル系単量体(c)10?50重量%およびシアン化ビニル系単量体(d)0?20重量%からなる不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体(II)」を10?90重量部含む点。

<相違点6>
樹脂組成物に含有される樹脂について、本件発明1は「樹脂に占める重量百分率が0超45以下の(メタ)アクリレート系重合体(B)」を備え、当該「(メタ)アクリレート系重合体(B)」は、「前記(B)に占める重量百分率が92?99のメタクリル酸エステル系単量体単位と、前記(B)に占める重量百分率が1?8のアクリル酸エステル系単量体単位と、前記(B)に占める重量百分率が0?7のビニル基を含む共重合可能な単量体単位とを備え」、かつ、「70,000?150,000の重量平均分子量を有」するのに対して、甲1-4発明ではこの点についての特定がない点。

上記相違点について検討する。
まず、相違点6について検討する。
甲1のいずれの箇所にも、レーザーマーキング用樹脂組成物に、(メタ)アクリレート系重合体を配合することについては記載も示唆もされておらず、ましてやこれを、樹脂に占める重量百分率「0超45以下」で配合することについても、また、(メタ)アクリレート系重合体として、(メタ)アクリレート系重合体に占める重量百分率がそれぞれ、92?99のメタクリル酸エステル系単量体単位と、1?8のアクリル酸エステル系単量体単位と、0?7のビニル基を含む共重合可能な単量体単位とを備え、70,000?150,000の重量平均分子量を有する(メタ)アクリレート系重合体を使用することについても、記載も示唆もされていない。
よって、相違点6に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。
してみると、相違点5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-4発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものである。
そして、上記(ア)で述べたとおり、本件発明1は甲1-4発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2?5も、甲1-4発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明6について
取消理由通知では、本件訂正前の請求項6に係る発明は、甲1-4発明と甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとしている。
そこで、本件発明6と甲1-4発明とを対比する。
上記(ア)で述べたものと同様の理由により、甲1-4発明の「ゴム質重合体(a)20?80重量部に対し、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(b)50?90重量%、芳香族ビニル系単量体(c)10?50重量%およびシアン化ビニル系単量体(d)0?20重量%からなる単量体混合物80?20重量部を配合してなる、ゴム含有グラフト共重合体(I)であって、重量平均粒子径が0.1?0.4μmであるポリブタジエンゴム30?60重量部に対し、メタクリル酸メチル60?80重量%、スチレン20?40重量%およびアクリロニトリル0?10重量%からなる単量体混合物70?40重量部を配合した」ものである「ゴム含有グラフト共重合体(I)」は、本件発明6の「コア部と、前記コア部を少なくとも部分的に覆うシェル層とを有し、前記コア部は、主にブタジエン単量体単位から選択され、シェル層は主に(メタ)アクリレート系単量体単位から選択されるコアシェル型重合体(C)」に相当する。
甲1-4発明の「カーボンブラック」は、本件発明6の「カーボンブラック(D)を備え」る「レーザ光吸収剤」に相当する。
甲1-4発明の「レーザーマーキング用樹脂組成物」は、本件発明6の「レーザマーキング可能な樹脂組成物」に相当する。

してみると、本件発明6と甲1-4発明とは、
「樹脂およびレーザ光吸収剤を含有するレーザマーキング可能な樹脂組成物であって、前記樹脂が:
コア部と、前記コア部を少なくとも部分的に覆うシェル層とを有し、前記コア部は主にブタジエン単量体単位から選択され、前記シェル層は主に(メタ)アクリレート系単量体単位から選択されるコアシェル型重合体(C);を備え、
前記レーザ光吸収剤はカーボンブラック(D)を備える、
レーザマーキング可能な樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点7>
本件発明6では、樹脂が「(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)」を含むのに対して、甲1-4発明では、「メタクリル酸メチルである不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(b)50?90重量%、芳香族ビニル系単量体(c)10?50重量%およびシアン化ビニル系単量体(d)0?20重量%からなる不飽和カルボン酸アルキルエステル系共重合体(II)」を含有する点。

<相違点8>
本件発明6では、樹脂が、「(メタ)アクリレート系重合体(B)」を備えるのに対して、甲1-4発明ではこの点についての特定がない点。

<相違点9>
カーボンブラックの配合量につき、本件発明6では、「(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)および前記コアシェル型重合体(C)の両者合計100重量部に基づき」、「0.01?0.25重量部」であり、かつ、「(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)、(メタ)アクリレート系重合体(B)、およびコアシェル型重合体(C)の三者合計100重量に基づき」、「0.01?0.25重量部」であるのに対して、甲1-4発明では、「(I)+(II)+(III)=100重量部」に対して、「0.001?5重量部」である点。

<相違点10>
本件発明6では樹脂に由来する「(メタ)アクリレート系単量体単位」と「スチレン系単量体単位」について、(メタ)アクリレート系単量体単位のスチレン系単量体単位に占める比率が0.85?5であり、かつ、「ブタジエン系単量体単位」について、ブタジエン単量体単位の、レーザマーキング可能な樹脂組成物に占める重量百分率が12.5?21.5であるのに対して、甲1-4発明は、この点についての特定がない点。

上記相違点について検討する。
まず相違点8について検討する。
甲1のいずれの箇所にも、レーザーマーキング用樹脂組成物に、(メタ)アクリレート系重合体を配合することについては記載も示唆もされていない。また、甲1-4発明のレーザーマーキング用樹脂組成物に、(メタ)アクリレート系重合体を配合することが容易であるとする格別の証拠もない。
よって、相違点8に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。
してみると、相違点7、9及び10について検討するまでもなく、本件発明6は、甲1-4発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)本件発明8及び9について
本件発明8及び9は、本件発明6を直接又は間接的に引用するものである。
そして上記(ウ)で述べたとおり、本件発明6は甲1-4発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明8及び9も、甲1-4発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(オ)本件発明10について
本件発明10は、本件発明1又は6を直接又は間接的に引用するものである。
そして、上記(ア)及び(ウ)で述べたとおり、本件発明1及び6が、甲1-4発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明10も、甲1-4発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1?6、8?10は、甲1-4発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、取消理由2は理由がない。

第5 特許異議申立書に記載された申立理由について
特許異議申立書に記載された申立理由は、要するに
本件訂正前の請求項1?6及び8?10に係る発明は、いずれも甲1記載の発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、甲1記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、これらの発明に係る特許は、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである、
というものあり、第4で述べた取消理由1及び2と同旨である。
そして、上記第4で述べたものと同様の理由により、上記申立理由は、理由がない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件特許の請求項1?6、8?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?6、8?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂およびレーザ光吸収剤を含有するレーザマーキング可能な樹脂組成物であって、前記樹脂が:
前記樹脂に占める重量百分率(w%)が40?83の(メタ)アクリレート系-スチレン系共重合体(A)と;
前記樹脂に占める重量百分率が0超45以下の(メタ)アクリレート系重合体(B)と;
前記樹脂に占める重量百分率が10?35のコアシェル型重合体(C)と;
を備え、
前記レーザ光吸収剤はカーボンブラック(D)を備え、100重量部の樹脂に対し、前記カーボンブラック(D)の比率が0.01?0.25重量部であり、
前記(メタ)アクリレート系-スチレン系共重合体(A)は、前記(A)に占める重量百分率が40?80の(メタ)アクリレート系単量体単位と、前記(A)に占める重量百分率が20?60のスチレン系単量体単位と、前記(A)に占める重量百分率が0?30の他の共重合可能な単量体単位とを備え;
前記(メタ)アクリレート系重合体(B)は、前記(B)に占める重量百分率が92?99のメタクリル酸エステル系単量体単位と、前記(B)に占める重量百分率が1?8のアクリル酸エステル系単量体単位と、前記(B)に占める重量百分率が0?7のビニル基を含む共重合可能な単量体単位とを備え、かつ、前記(メタ)アクリレート系重合体(B)は70,000?150,000の重量平均分子量を有し;
前記コアシェル型重合体(C)は、コア部と、前記コア部を少なくとも部分的に覆うシェル層とを有し、前記コア部は、ブタジエン単量体単位を含み、前記シェル層は主に(メタ)アクリレート系単量体単位から選択されることを特徴とするレーザマーキング可能な樹脂組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリレート系-スチレン系共重合体(A)の、前記樹脂に占める重量百分率が40?80であり;前記(メタ)アクリレート系重合体(B)の、前記樹脂に占める重量百分率が0超40以下であり;かつ、前記コアシェル型重合体(C)の、前記樹脂に占める重量百分率が10?30であることを特徴とする請求項1に記載のレーザマーキング可能な樹脂組成物。
【請求項3】
前記コアシェル型重合体(C)の前記コア部は、前記コア部が、前記コアシェル型重合体(C)に占める重量百分率が50以上のブタジエン単量体単位からなり、前記コア部が、ポリブタジエン、ポリブタジエン共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン重合体、および上記の任意の組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする請求項1?2のいずれか一項に記載のレーザマーキング可能な樹脂組成物。
【請求項4】
前記コアシェル型重合体(C)の前記シェル層は、前記コアシェル型重合体(C)の前記シェル層に占める重量百分率が60以上の(メタ)アクリレート系単量体単位からなることを特徴とする請求項3に記載のレーザマーキング可能な樹脂組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリレート系単量体単位は、(メタ)アクリル酸メチル単量体単位、(メタ)アクリル酸エチル単量体単位、(メタ)アクリル酸ブチル単量体単位、および上記の任意の組み合わせからなる群から選択され、前記スチレン系単量体単位は、スチレン、α-メチルスチレン、および上記の任意の組み合わせからなる群から選択され、前記他の共重合可能な単量体単位は、アクリロニトリル単量体単位、無水マレイン酸単量体単位、および上記の任意の組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載のレーザマーキング可能な樹脂組成物。
【請求項6】
樹脂およびレーザ光吸収剤を含有するレーザマーキング可能な樹脂組成物であって、前記樹脂が:
(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)と;
(メタ)アクリレート系重合体(B)と;
コア部と、前記コア部を少なくとも部分的に覆うシェル層とを有し、前記コア部は主にブタジエン単量体単位から選択され、前記シェル層は主に(メタ)アクリレート系単量体単位から選択されるコアシェル型重合体(C)と;
を備え、
前記レーザ光吸収剤はカーボンブラック(D)を備え、前記(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)および前記コアシェル型重合体(C)の両者合計100重量部に基づき、前記カーボンブラック(D)が0.01?0.25重量部であり、
前記(メタ)アクリレート系共重合体-スチレン系共重合体(A)、(メタ)アクリレート系重合体(B)、および前記コアシェル型重合体(C)の三者合計100重量に基づき、前記カーボンブラック(D)が0.01?0.25重量部であり、
(メタ)アクリレート系単量体単位とスチレン系単量体単位とがそれぞれ前記樹脂に由来し、前記(メタ)アクリレート系単量体単位の、前記スチレン系単量体単位に占める比率が0.85?5であり、かつ、前記ブタジエン系単量体単位の、前記レーザマーキング可能な樹脂組成物に占める重量百分率が12.5?21.5であることを特徴とするレーザマーキング可能な樹脂組成物。
【請求項7】(削除)
【請求項8】
前記樹脂中の前記(メタ)アクリレート系単量体単位の、前記スチレン系単量体単位に占める比率が0.9?4.9であることを特徴とする請求項6に記載のレーザマーキング可能な樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂中の前記(メタ)アクリレート系単量体単位の、前記樹脂に占める重量百分率が35?75であり;前記樹脂中の前記スチレン系単量体単位の、前記樹脂に占める重量百分率が10?50であり;かつ、前記樹脂中の前記ブタジエン系単量体単位の、前記樹脂に占める重量百分率が12.5?21.5であることを特徴とする請求項6または8に記載のレーザマーキング可能な樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1?6,8および9のいずれか一項に記載のレーザマーキング可能な樹脂組成物により作製され:
表面と;
マーキングと、
を含み、
前記マーキングはレーザ処理によって前記表面上に形成されることを特徴とする成形品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-05 
出願番号 特願2017-18188(P2017-18188)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (C08L)
P 1 652・ 121- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小森 勇  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 佐藤 健史
海老原 えい子
登録日 2018-07-20 
登録番号 特許第6370419号(P6370419)
権利者 奇美實業股▲ふん▼有限公司
発明の名称 レーザマーキング可能な樹脂組成物  
代理人 山田 頼道  
代理人 塩澤 寿夫  
代理人 山田 頼通  
代理人 塩澤 寿夫  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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