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審決分類 審判 全部申し立て 特39条先願  B22F
審判 全部申し立て 特29条の2  B22F
管理番号 1356805
異議申立番号 異議2018-701037  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-20 
確定日 2019-09-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6346983号発明「銅合金粉末、積層造形物の熱処理方法、銅合金造形物の製造方法および銅合金造形物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6346983号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、4?6〕、3、7について訂正することを認める。 特許第6346983号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6346983号の請求項1ないし7に係る特許(以下、「本件特許」ということがある。)についての出願は、平成29年9月4日に特許出願され、平成30年6月1日に特許権の設定登録がされ、同年6月20日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月20日付けで特許異議申立人 奥村一正(以下、「申立人」という。)により請求項1ないし7に係る特許に対して特許異議の申立てがされたので、平成31年3月1日に取消理由が通知され、同年4月11日に訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされると共に意見書が提出され、これに対して令和1年6月13日付けで申立人より意見書が提出されたものである。

第2 訂正請求について
1.訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「Cr:1.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%、残部がCuおよび不可避的不純物からなる」と記載されているのを、
「Cr:1.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなる」
と訂正する。
(請求項1を引用する請求項2、4及び6も同様に訂正する。)
ただし、下線部は訂正箇所であり、以下同じ。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3において、
「前記銅合金は、Cr:0.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%、Crの含有量がZrの含有量より多く、残部がCuおよび不可避的不純物からなり」と記載されているのを、
「前記銅合金は、Cr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなり」
と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5において、
「Cr:0.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%、Crの含有量がZrの含有量より多く、残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金粉末の薄層を形成する第1工程と」と記載されているのを、
「Cr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金粉末の薄層を形成する第1工程と」
と訂正する。
(請求項5を引用する請求項6も同様に訂正する。)

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7において、
「前記銅合金はCr:0.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%、残部がCuおよび不可避的不純物からなり」と記載されているのを、
「前記銅合金はCr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなり」
と訂正する。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1
ア 訂正前の請求項1は「Cr:1.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%、残部がCuおよび不可避的不純物からなる」と記載され、訂正前の請求項1に係る「銅合金粉末」の発明は、その組成として「Zr」を含まない発明と、「Zr」を含む発明との両者を含むものであった。
訂正後の請求項1は、訂正前の請求項1を「Cr:1.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなる」と訂正することで、訂正後の請求項1に係る「銅合金粉末」の発明は、「Zr」を含まない発明を除外し、「Zr」を含む発明であるとする、いわゆる「除くクレーム」としたものといえる。
したがって、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ また、訂正事項1は、上記「ア」で検討したように、請求項1に係る「銅合金粉末」の発明を減縮するものであるから、訂正後の請求項1に係る発明は、訂正前の請求項1に係る発明に含まれ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

ウ さらに、訂正後の請求項1において「(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」とする訂正は、訂正前の請求項1が「Zr」を含まない発明と「Zr」を含む発明との両者を含むものであったので、「Zr」を含まない発明を除いて、「Zr」を含む発明とするものである。
したがって、訂正事項1は、新たな技術的事項を導入するものでない。

エ 訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2、4及び6についても同様である。

オ 以上から、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する事項を目的とし、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2
ア 訂正前の請求項3は「Cr:0.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%、Crの含有量がZrの含有量より多く、残部がCuおよび不可避的不純物からなり」と記載され、訂正前の請求項3に係る「銅合金からなる積層造形物の熱処理方法」の発明は、積層造形物を構成する銅合金の組成として「Zr」を含まない発明と、「Zr」を含む発明との両者を含むものであった。
訂正後の請求項3は、訂正前の請求項3を「Cr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなり」と訂正することで、Crの含有量の範囲をより狭めて銅合金の組成範囲を限定し、さらに、訂正後の請求項3に係る「銅合金からなる積層造形物の熱処理方法」の発明は、「Zr」を含まない発明を除外し、「Zr」を含む発明であるとする、いわゆる「除くクレーム」としたものといえる。
そして、訂正前の「Crの含有量がZrの含有量より多く」が訂正後に削除されているのは、訂正後において、Crの含有量が最小で0.50質量%であるのに対して、Zrの含有量が最大でも0.2質量%だから、「Crの含有量がZrの含有量より多く」なるのが明らかなためである。
したがって、訂正事項2は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ また、訂正事項2は、上記「ア」で検討したように、請求項3に係る「銅合金からなる積層造形物の熱処理方法」の発明を減縮するものであるから、訂正後の請求項3に係る発明は、訂正前の請求項3に係る発明に含まれ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

ウ さらに、本件明細書【0021】には「Cr含有量は、好ましくは0.50質量%以上、より好ましくは1.00質量%以上、特に好ましくは1.10質量%以上である。」「Cr含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは7.5質量%以下、特に好ましくは5.0質量%以下である。」と記載されており、訂正後の請求項3において「Cr:0.50?5.0質量%」とする訂正は明細書に記載された事項に基づくものである。
また、訂正後の請求項3において「(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」とする訂正は、訂正前の請求項3が「Zr」を含まない発明と「Zr」を含む発明との両者を含むものであったので、「Zr」を含まない発明を除いて、「Zr」を含む発明とするものである。
したがって、訂正事項2は、新たな技術的事項を導入するものでない。

エ 以上から、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する事項を目的とし、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3
ア 訂正前の請求項5は「Cr:0.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%、Crの含有量がZrの含有量より多く、残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金粉末の薄層を形成する第1工程と」との記載により銅合金粉末の組成を特定している。
これに対して訂正後の請求項5は「Cr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金粉末の薄層を形成する第1工程と」との記載により、第1工程で使用する銅合金粉末の組成範囲をより狭い範囲に限定するものである。
なお、訂正前の「Crの含有量がZrの含有量より多く」が訂正後に削除されているのは、訂正後において、Crの含有量が最小で0.50質量%であるのに対して、Zrの含有量が最大でも0.2質量%だから、「Crの含有量がZrの含有量より多く」なるのが明らかなためである。
したがって、訂正事項3は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 上記アから明らかなように、訂正事項3は、請求項5に係る発明の銅合金粉末の組成を減縮するものであり、訂正後の請求項5に係る発明は訂正前の請求項5に係る発明に含まれ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

ウ 本件明細書の【0021】には「Cr含有量は、好ましくは0.50質量%以上、より好ましくは1.00質量%以上、特に好ましくは1.10質量%以上である。」、「Cr含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは7.5質量%以下、特に好ましくは5.0質量%以下である。」と記載されており、訂正後の請求項5において「Cr:0.50?5.0質量%」とする訂正は明細書に記載した事項に基づくものである。
また、訂正後の請求項5において「(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」とする訂正は、訂正前の請求項5が「Zr」を含まない発明と「Zr」を含む発明との両者を含むものであったので、「Zr」を含まない発明を除いて、「Zr」を含む発明とするものである。
したがって、訂正事項3は、新たな技術的事項を導入するものでない。

エ 請求項5を引用する請求項6についても同様である。

オ 以上から、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する事項を目的とし、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4
ア 訂正前の請求項7は「Cr:0.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%、残部がCuおよび不可避的不純物からなり」と記載され、訂正前の請求項7に係る「銅合金造形物」の発明は、その組成として「Zr」を含まない発明と、「Zr」を含む発明との両者を含むものであった。
訂正後の請求項7は、訂正前の請求項7を「Cr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなり」と訂正することで、Crの含有量の範囲をより狭めて銅合金の組成範囲を限定し、さらに、訂正後の請求項7に係る「銅合金造形物」の発明は、「Zr」を含まない発明を除外し、「Zr」を含む発明であるとする、いわゆる「除くクレーム」としたものといえる。
したがって、訂正事項4は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項4は、上記「ア」で検討したように、請求項7に係る「銅合金造形物」の発明を減縮するものであるから、訂正後の請求項7に係る発明は、訂正前の請求項7に係る発明に含まれ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

ウ 本件明細書の【0021】には「Cr含有量は、好ましくは0.50質量%以上、より好ましくは1.00質量%以上、特に好ましくは1.10質量%以上である。」、「Cr含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは7.5質量%以下、特に好ましくは5.0質量%以下である。」と記載されており、訂正後の請求項7において「Cr:0.50?5.0質量%」とする訂正は明細書に記載した事項に基づくものである。
また、訂正後の請求項7において「(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」とする訂正は、訂正前の請求項7が「Zr」を含まない発明と「Zr」を含む発明との両者を含むものであったので、「Zr」を含まない発明を除いて、「Zr」を含む発明とするものである。
したがって、訂正事項4は、新たな技術的事項を導入するものでない。

エ 以上から、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する事項を目的とし、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものである。

(5)一群の請求項についての説明
訂正前の請求項1、2、4?6について、訂正前の請求項2、4、6は、それぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるとともに、訂正前の請求項6は訂正前の請求項5を引用するものであって、請求項5の訂正に連動して訂正されるものであり、また、請求項3、請求項7はそれらを引用する請求項が存在しない。
したがって、本件訂正前の請求項1、2、4?6は、一群の請求項である。
そして本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1、2、4?6〕、3、7をそれぞれ訂正単位とする訂正の請求をするものである。

(6)独立特許要件について
本件特許異議申立事件においては、全ての請求項に特許異議の申立てがされているから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3.訂正請求についての結言
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項で準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するので、訂正後の〔1、2、4?6〕、3、7について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?7に係る発明(以下、項番毎に「本件発明1」のように記し、総称して「本件発明」と記す。)は、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
付加製造用の銅合金粉末であって、
Cr:1.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなる、
銅合金粉末。
【請求項2】
請求項1に記載された銅合金粉末を用いて付加製造された積層造形物の熱処理方法であって、
前記積層造形物を300?800℃で保持する、
積層造形物の熱処理方法。
【請求項3】
銅合金からなる積層造形物の熱処理方法であって、
前記銅合金は、Cr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、
前記積層造形物を410?800℃で保持する工程を有する、
積層造形物の熱処理方法。
【請求項4】
請求項1に記載された銅合金粉末の薄層を形成する第1工程と、前記薄層の所定位置に電磁波ビームを照射して前記銅合金粉末を溶融・凝固させる第2工程とを順次繰り返して積層造形物を作製する造形工程と、
前記積層造形物を300?800℃で保持する熱処理工程とを有する、
銅合金造形物の製造方法。
【請求項5】
Cr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金粉末の薄層を形成する第1工程と、前記薄層の所定位置に電磁波ビームを照射して前記銅合金粉末を溶解・凝固させる第2工程とを順次繰り返して積層造形物を作製する造形工程と、
前記積層造形物を410?800℃で保持する熱処理工程とを有する、
銅合金造形物の製造方法。
【請求項6】
前記電磁波ビームがレーザー光である、
請求項4または5に記載の銅合金造形物の製造方法。
【請求項7】
銅合金の積層構造を有する造形物であって、
前記銅合金はCr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、
室温における電気伝導率が65%IACS以上であるか、または
0.2%耐力が150MPa以上で引張強さが300MPa以上である、
銅合金造形物。」

第4 特許異議申立の概要
申立人は、証拠方法として後記する甲第1号証の1ないし甲第1号証の3を提出し、以下の理由により、請求項1ないし7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1.申立理由1
本件発明1?7は、同発明に係る出願の出願日前の優先日を有する甲第1号証の1の出願に係る発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないので、本件発明1?7に係る特許は取り消されるべきである。

2.申立理由2
本件発明1?7は、本件特許出願の日前の甲第1号証の3の出願であって、特許法第41条第3項の規定によって本件特許出願後に特許公報の発行若しくは出願公開がされたとみなされた願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件出願の発明者が甲第1号証の3の出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本件出願の出願人が甲第1号証の3の出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、本件発明1?7に係る特許は取り消されるべきである。
ここで、甲第1号証の3の出願については特許法第42条第1項によりみなし取り下げになっているところ、同法第41条第3項により、甲第1号証の3と甲第1号証の1の双方に記載された発明(以下、「双方記載発明」という。)については、甲第1号証の1の出願についての特許公報(甲第1号証の1である特許第6389557号公報)が発行された時に、甲第1号証の3の出願について出願公開されたものとみなされる。

<証拠方法>
○甲第1号証の1:特許第6389557号公報
(特願2017-193374号)
(出願日:平成29年10月3日)
(特許公報発行日:平成30年9月12日)
○甲第1号証の2:特願2016-208895号の特許願、明細書、
特許請求の範囲、要約書及び図面
(甲第1号証の1の優先権主張の基礎出願その1)
(優先日:平成28年10月25日)
○甲第1号証の3:特願2017-111709号の特許願、明細書、
特許請求の範囲、要約書及び図面
(甲第1号証の1の優先権主張の基礎出願その2)
(優先日:平成29年6月6日)

第5 取消理由
取消理由は上記申立理由1及び2を採用して通知したものである。
以下では、本件訂正請求により訂正された本件発明1?7について、申立理由1及び2が成立するか否かについて検討する。

I.甲各号証の記載
I-1.甲第1号証の1
甲第1号証の1には次の記載がある。
【請求項1】
レーザ、電子ビーム、およびプラズマからなる群より選択されるいずれかの手段により積層造形物を製造する際に使用される積層造形用の銅合金粉末であって、
1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および
残部の銅
を含有する
銅合金粉末。
【請求項2】
1.05質量%より多く2.80質量%以下のクロムを含有する、
請求項1に記載の銅合金粉末。
【請求項3】
1.00質量%より多く2.00質量%以下のクロムを含有する、
請求項1に記載の銅合金粉末。
【請求項4】
1.05質量%より多く2.00質量%以下のクロムを含有する、
請求項3に記載の銅合金粉末。
【請求項5】
請求項1?請求項4のいずれか1項に記載の前記銅合金粉末を準備する第1工程、および
前記銅合金粉末により積層造形物を製造する第2工程
を含み、
前記積層造形物は、
前記銅合金粉末を含む粉末層を形成すること、および
前記粉末層において所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成すること
が順次繰り返され、前記造形層が積層されることにより製造される、
積層造形物の製造方法。
【請求項6】
前記積層造形物を熱処理する第3工程
をさらに含む、
請求項5に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程では、前記積層造形物が300℃以上の温度で熱処理される、請求項6に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項8】
前記第3工程では、前記積層造形物が400℃以上の温度で熱処理される、請求項6または請求項7に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項9】
前記第3工程では、前記積層造形物が700℃以下の温度で熱処理される、請求項6?請求項8のいずれか1項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項10】
前記第3工程では、前記積層造形物が600℃以下の温度で熱処理される、請求項6?請求項9のいずれか1項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項11】
銅合金により構成されている積層造形物であって、
1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有し、
前記銅合金の理論密度に対して96%以上100%以下の相対密度を有し、かつ
10%IACS以上の導電率を有する、
積層造形物。
【請求項12】
1.05質量%より多く2.80質量%以下のクロムを含有する、
請求項11に記載の積層造形物。
【請求項13】
1.00質量%より多く2.00質量%以下のクロムを含有する、
請求項11に記載の積層造形物。
【請求項14】
1.05質量%より多く2.00質量%以下のクロムを含有する、
請求項13に記載の積層造形物。
【請求項15】
30%IACS以上の導電率を有する、
請求項11?請求項14のいずれか1項に記載の積層造形物。
【請求項16】
50%IACS以上の導電率を有する、
請求項11?請求項15のいずれか1項に記載の積層造形物。
【請求項17】
70%IACS以上の導電率を有する、
請求項11?請求項16のいずれか1項に記載の積層造形物。
【0022】
本実施形態では、特定組成の銅合金粉末が使用される。すなわち銅合金粉末は、1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム(Cr)、および残部の銅(Cu)を含有する銅合金の粉末である。残部には、Cuの他、不純物元素が含有されていてもよい。不純物元素は、たとえば、銅合金粉末の製造時に意図的に添加された元素(以下「添加元素」と記される)であってもよい。すなわち、残部はCuおよび添加元素を含んでもよい。添加元素としては、たとえば、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、銀(Ag)、ベリリウム(Be)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、テルル(Te)等が挙げられる。不純物元素は、たとえば、銅合金粉末の製造時に不可避的に混入した元素(以下「不可避不純物元素」と記される)であってもよい。すなわち、残部はCuおよび不可避不純物元素を含んでもよい。不可避不純物元素としては、たとえば、酸素(O)、リン(P)、鉄(Fe)等が挙げられる。残部は、Cu、添加元素および不可避不純物元素を含んでもよい。銅合金粉末は、たとえば、合計で0.30質量%未満の添加元素および不可避不純物元素を含有してもよい。たとえば、銅合金粉末の酸素含有量は「JIS H 1067:銅中の酸素定量方法」に準拠した方法により測定され得る。

I-2.甲第1号証の2
甲第1号証の2には次の記載がある。
【請求項1】
積層造形用の銅合金粉末であって、
1.00質量%より多く2.00質量%以下のクロム、および
残部の銅を含有する
銅合金粉末。
【請求項2】
請求項1に記載の前記銅合金粉末を準備する第1工程、および
前記銅合金粉末により積層造形物を製造する第2工程
を含み、
前記積層造形物は、
前記銅合金粉末を含む粉末層を形成すること、および
前記粉末層において所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成すること
が順次繰り返され、前記造形層が積層されることにより製造される、
積層造形物の製造方法。
【請求項3】
前記積層造形物を熱処理する第3工程
をさらに含む、
請求項2に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項4】
前記第3工程では、前記積層造形物が300℃以上の温度で熱処理される、
請求項3に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項5】
前記第3工程では、前記積層造形物が400℃以上の温度で熱処理される、
請求項3または請求項4に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項6】
前記第3工程では、前記積層造形物が700℃以下の温度で熱処理される、
請求項3?請求項5のいずれか1項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程では、前記積層造形物が600℃以下の温度で熱処理される、
請求項3?請求項6のいずれか1項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項8】
銅合金により構成されている積層造形物であって、
1.00質量%より多く2.00質量%以下のクロム、および残部の銅を含有し、
前記銅合金の理論密度に対して96%以上100%以下の相対密度を有し、かつ
10%IACS以上の導電率を有する、
積層造形物。
【請求項9】
30%IACS以上の導電率を有する、
請求項8に記載の積層造形物。
【請求項10】
50%IACS以上の導電率を有する、
請求項8または請求項9に記載の積層造形物。
【請求項11】
70%IACS以上の導電率を有する、
請求項8?請求項10のいずれか1項に記載の積層造形物。

I-3.甲第1号証の3
甲第1号証の3には次の記載がある。
【請求項1】
積層造形用の銅合金粉末であって、
1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および
残部の銅を含有する
銅合金粉末。
【請求項2】
1.05質量%より多く2.80質量%以下のクロムを含有する、
請求項1に記載の銅合金粉末。
【請求項3】
1.00質量%より多く2.00質量%以下のクロムを含有する、
請求項1に記載の銅合金粉末。
【請求項4】
1.05質量%より多く2.00質量%以下のクロムを含有する、
請求項3に記載の銅合金粉末。
【請求項5】
請求項1?請求項4のいずれか1項に記載の前記銅合金粉末を準備する第1工程、および
前記銅合金粉末により積層造形物を製造する第2工程
を含み、
前記積層造形物は、
前記銅合金粉末を含む粉末層を形成すること、および
前記粉末層において所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成すること
が順次繰り返され、前記造形層が積層されることにより製造される、
積層造形物の製造方法。
【請求項6】
前記積層造形物を熱処理する第3工程
をさらに含む、
請求項5に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程では、前記積層造形物が300℃以上の温度で熱処理される、
請求項6に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項8】
前記第3工程では、前記積層造形物が400℃以上の温度で熱処理される、
請求項6または請求項7に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項9】
前記第3工程では、前記積層造形物が700℃以下の温度で熱処理される、
請求項6?請求項8のいずれか1項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項10】
前記第3工程では、前記積層造形物が600℃以下の温度で熱処理される、
請求項6?請求項9のいずれか1項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項11】
銅合金により構成されている積層造形物であって、
1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有し、
前記銅合金の理論密度に対して96%以上100%以下の相対密度を有し、かつ
10%IACS以上の導電率を有する、
積層造形物。
【請求項12】
1.05質量%より多く2.80質量%以下のクロムを含有する、
請求項11に記載の積層造形物。
【請求項13】
1.00質量%より多く2.00質量%以下のクロムを含有する、
請求項11に記載の積層造形物。
【請求項14】
1.05質量%より多く2.00質量%以下のクロムを含有する、
請求項13に記載の積層造形物。
【請求項15】
30%IACS以上の導電率を有する、
請求項11?請求項14のいずれか1項に記載の積層造形物。
【請求項16】
50%IACS以上の導電率を有する、
請求項11?請求項15のいずれか1項に記載の積層造形物。
【請求項17】
70%IACS以上の導電率を有する、
請求項11?請求項16のいずれか1項に記載の積層造形物。
【0022】
本実施形態では、特定組成の銅合金粉末が使用される。すなわち銅合金粉末は、1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム(Cr)、および残部の銅(Cu)を含有する銅合金の粉末である。残部には、Cuの他、不純物元素が含有されていてもよい。不純物元素は、たとえば、銅合金粉末の製造時に意図的に添加された元素(以下「添加元素」と記される)であってもよい。すなわち、残部はCuおよび添加元素を含んでもよい。添加元素としては、たとえば、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、銀(Ag)、ベリリウム(Be)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、テルル(Te)等が挙げられる。不純物元素は、たとえば、銅合金粉末の製造時に不可避的に混入した元素(以下「不可避不純物元素」と記される)であってもよい。すなわち、残部はCuおよび不可避不純物元素を含んでもよい。不可避不純物元素としては、たとえば、酸素(O)、リン(P)、鉄(Fe)等が挙げられる。残部は、Cu、添加元素および不可避不純物元素を含んでもよい。銅合金粉末は、たとえば、合計で0.30質量%未満の添加元素および不可避不純物元素を含有してもよい。たとえば、銅合金粉末の酸素含有量は「JIS H 1067:銅中の酸素定量方法」に準拠した方法により測定され得る。

II.申立理由1(特許法第39条第1項)について
II-1.甲第1号証の1の特許に係る出願(以下、「甲第1号証の1出願」という。)の国内優先権の享受について
i)本件特許に係る出願(以下、「本件出願」という。)の出願日は平成29年9月4日であるところ、甲第1号証の1は、甲第1号証の3(出願日 平成29年6月6日)を国内優先権主張の基礎出願としている。
したがって、甲第1号証の1の各請求項に記載の発明が、甲第1号証の3に記載された発明であれば、甲第1号証の1は甲第1号証の3に基づく国内優先権を享受できるから、甲第1号証の1は、本件出願の各請求項に記載の発明について、特許法第39条第1項を適用できる先願といえるので、以下で検討する。

ii)甲第1号証の1の【請求項1】は、
「レーザ、電子ビーム、およびプラズマからなる群より選択されるいずれかの手段により積層造形物を製造する際に使用される積層造形用の銅合金粉末であって、1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する銅合金粉末。」であるのに対して、
甲第1号証の3の【請求項1】は、
「積層造形用の銅合金粉末であって、1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する銅合金粉末。」であり、
「レーザ、電子ビーム、およびプラズマからなる群より選択されるいずれかの手段により積層造形物を製造する際に使用される」点については、甲第1号証の3の特許請求の範囲には記載がない。
しかし、甲第1号証の3の【0029】には「ここでは、レーザにより銅合金粉末を固化させる態様が説明される。ただしレーザはあくまで一例であり、銅合金粉末が固化する限りは、固化手段はレーザに限定されるべきではない。たとえば、電子ビーム、プラズマ等が使用されてもよい。」と記載されているので、上記「レーザ、電子ビーム、およびプラズマからなる群より選択されるいずれかの手段により積層造形物を製造する際に使用される」「積層構造用の銅合金」について、甲第1号証の3に記載されていたとみることができる。
すると、甲第1号証の1の【請求項1】に係る発明は、甲第1号証の3の【請求項1】及び【0029】に記載されていたということができる。

iii)上記甲第1号証の1の【請求項2】?【請求項17】の記載は、それぞれ甲第1号証の3の【請求項2】?【請求項17】の記載と同一である。
また、甲第1号証の1の【請求項2】?【請求項10】は【請求項1】を直接又は間接的に引用し、【請求項11】は独立項で、【請求項12】?【請求項17】は【請求項11】を直接又は間接的に引用している。
さらに、甲第1号証の3の【請求項2】?【請求項10】は【請求項1】を直接又は間接的に引用し、【請求項11】は独立項で、【請求項12】?【請求項17】は【請求項11】を直接又は間接的に引用している。
したがって、甲第1号証の1の【請求項1】?【請求項17】に記載の発明は、甲第1号証の3に記載された発明である。

iv)以上から、甲第1号証の1の【請求項1】?【請求項17】に係る全ての発明は、それぞれ甲第1号証の3に基づく国内優先権を享受でき、特許法第39条第1項の適用のための形式的要件を満足するものといえる。
そこで、以下に同実質的要件を検討する。

II-2.本件発明1と甲第1号証の1に記載の発明との対比及び判断
(1)本件発明1と、甲第1号証の1の請求項1に記載の発明
i)甲第1号証の1の請求項1に記載の発明を、以下、「先願発明1」という。
ii)本件発明1は、「付加製造用の銅合金粉末であって、Cr:1.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなる、銅合金粉末。」であるのに対して、
先願発明1は、「レーザ、電子ビーム、およびプラズマからなる群より選択されるいずれかの手段により積層造形物を製造する際に使用される積層造形用の銅合金粉末であって、1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する銅合金粉末。」である。
iii)本件明細書【0061】には「例えば、上記実施形態と実施例では付加製造時の熱源がレーザー光であったが、熱源として電子ビームを用いてもよい。」と記載されているので、本件発明1における「付加製造」には、その熱源として「レーザー光」及び「電子ビーム」を用いるものが含まれると解されるところ、本件発明1の「付加製造」は、先願発明1の「レーザ、電子ビーム、およびプラズマからなる群より選択されるいずれかの手段」の内の「レーザ、電子ビームからなる群より選択されるいずれかの手段」である「熱源」を用いた「付加製造」に該当するものである。
iv)先願発明1は「不可避不純物元素」(甲第1号証の1【0022】)を含んでもよいものであり、これは本件発明1の「不可避的不純物」に相当することは明らかである。
また、先願発明1の「積層造形物の製造」は、本件発明1の「付加製造」に相当することも明らかである。
v)しかしながら、本件発明1は、「Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」を含むものであり、「Zr」を必須成分として含む発明であるのに対して、「Zr」は任意成分として含有可能であるが(【0022】参照)必須成分としては含まない先願発明1と同一とはいえず、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(2)本件発明2と、甲第1号証の1の請求項8,6,5,1を順に引用する請求項9に記載の発明との対比及び判断
i)本件発明2を独立形式で記載すれば次のようになる。
<本件発明2>
「付加製造用の銅合金粉末であって、Cr:1.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金粉末を用いて付加製造された積層造形物の熱処理方法であって、前記積層造形物を300?800℃で保持する、積層造形物の熱処理方法。」
ii)甲第1号証の1の請求項8,6,5,1を順に引用する請求項9に記載の発明を、以下「先願発明2」といい、同発明を独立形式で記載して整理すると以下のようになる。
<先願発明2>
「レーザ、電子ビーム、およびプラズマからなる群より選択されるいずれかの手段により積層造形物を製造する際に使用される積層造形用の銅合金粉末であって、1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する銅合金粉末を準備する第1工程、前記銅合金粉末により積層造形物を製造する第2工程、および前記積層造形物を熱処理する第3工程を含み、
第2工程では、前記積層造形物は、
前記銅合金粉末を含む粉末層を形成すること、および
前記粉末層において所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成すること
が順次繰り返され、前記造形層が積層されることにより製造され、
第3工程では、前記積層造形物が400℃以上700℃以下の温度で熱処理される、
ことにより製造される、積層造形物の製造方法。」
iii)先願発明2の「銅合金粉末により積層造形物を製造する第2工程」は「前記積層造形物」を「前記銅合金粉末を含む粉末層を形成すること、および前記粉末層において所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成することが順次繰り返され、前記造形層が積層されることにより製造」される工程であり、これは本件発明2の上記「銅合金粉末」を用いて「積層造形物」を「付加製造」することに相当するものである。
iv)先願発明2の「前記積層造形物を熱処理する第3工程」は「前記積層造形物が400℃以上700℃以下の温度で熱処理される」ものであり、これは本件発明2の「前記積層造形物を300?800℃で保持」することに相当する。
v)本件発明2の「積層造形物の熱処理方法」は、結局のところ、最終的な「積層造形物」を与えるものだから、「積層造形物の製造方法」といえるものであり、先願発明2の「積層造形物の製造方法」は、本件発明2の「積層造形物の熱処理方法」に相当する。
vi)しかしながら、上記(1)より、「銅合金粉末」について、先願発明2の「レーザ、電子ビーム、およびプラズマからなる群より選択されるいずれかの手段により積層造形物を製造する際に使用される積層造形用」「であって、1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する」ことと、本件発明2の「付加製造用」「であって、Cr:1.1?20質量%」及び「残部がCuおよび不可避的不純物からなる」ことが、「Cr:1.1?2.80質量%、残部Cuおよび不可避的不純物からなる」点で共通するとしても、本件発明2の「銅合金粉末」は「Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」を含むものであるから、「Zr」を必須成分として含む発明であるので、「Zr」を必須成分として含まない先願発明2と同一とはいえず、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(3)本件発明3と、甲第1号証の1の先願発明2との対比及び判断
i)本件発明3は、「銅合金からなる積層造形物の熱処理方法であって、前記銅合金は、Cr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、前記積層造形物を410?800℃で保持する工程を有する、積層造形物の熱処理方法。」である。
ii)先願発明2の「前記銅合金粉末により積層造形物を製造する第2工程」及び「前記積層造形物を熱処理する第3工程」であって、「第2工程では、前記積層造形物は、前記銅合金粉末を含む粉末層を形成すること、および前記粉末層において所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成することが順次繰り返され、前記造形層が積層されることにより製造」され、「第3工程」では「前記積層造形物が400℃以上700℃以下の温度で熱処理される」ことは、熱処理温度が410℃以上700℃以下の範囲において、本件発明3の「銅合金からなる積層造形物の熱処理方法」であって、積層造形により形成された「積層造形物」に対して「前記積層造形物を410℃以上800℃以下の温度で保持する」ことに相当する。
iii)本件発明3の「積層造形物の熱処理方法」は、結局のところ、最終的な「積層造形物」を与えるものだから、「積層造形物の製造方法」といえるものであり、先願発明2の「積層造形物の製造方法」は、本件発明3の「積層造形物の熱処理方法」に相当する。
iv)しかしながら、上記(1)より、「銅合金粉末」もしくは「銅合金」について、先願発明2の「1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する」ことが、本件発明3の「Cr:0.50?5.0質量%」及び「残部がCuおよび不可避的不純物からな」ることに相当するとしても、本件発明3の「銅合金」は、「Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」を含むものであるから、「Zr」を必須成分として含む発明であるので、「Zr」を必須成分として含まない先願発明2と同一とはいえず、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(4)本件発明4と、甲第1号証の1の先願発明2との対比及び判断
i)本件発明4を独立形式で記載すれば次のようになる。
<本件発明4>
「付加製造用の銅合金粉末であって、Cr:1.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金粉末の薄層を形成する第1工程と、前記薄層の所定位置に電磁波ビームを照射して前記銅合金粉末を溶融・凝固させる第2工程とを順次繰り返して積層造形物を作製する造形工程と、前記積層造形物を300?800℃で保持する熱処理工程とを有する、銅合金造形物の製造方法。」
ii)先願発明2において「銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成する」ことは、具体的には、「レーザ、電子ビーム、およびプラズマからなる群より選択されるいずれかの手段により積層造形物を製造する」ことを意味しており、それらの手段のうち「レーザ」は本件発明4の「電磁波ビーム」に相当する。
iii)すると、先願発明2の「銅合金粉末により積層造形物を製造する第2工程」であって「前記積層造形物は、前記銅合金粉末を含む粉末層を形成すること、および前記粉末層において所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成することが順次繰り返され、前記造形層が積層されることにより製造され」ることは、本件発明4の「銅合金粉末の薄層を形成する第1工程と、前記薄層の所定位置に電磁波ビームを照射して前記銅合金粉末を溶融・凝固させる第2工程とを順次繰り返して積層造形物を作製する造形工程」に相当する。
iv)先願発明2の「積層造形物を熱処理する第3工程」であって「積層造形物が400℃以上700℃以下の温度で熱処理される」ことは、本件発明4の「積層造形物を300?800℃で保持する熱処理工程」に相当する。
v)しかしながら、上記(1)より、「銅合金粉末」について、先願発明2の「レーザ、電子ビーム、およびプラズマからなる群より選択されるいずれかの手段により積層造形物を製造する際に使用される積層造形用」「であって、1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する」ことと、本件発明4の「付加製造用」「であって、Cr:1.1?20質量%」及び「残部がCuおよび不可避的不純物からなる」ことが、「付加製造用」であって「Cr:1.1?2.80質量%、残部Cuおよび不可避的不純物からなる」点で共通するとしても、本件発明4の「銅合金粉末」は、「Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」を含むものであるから、「Zr」を必須成分として含む発明であるので、「Zr」を必須成分として含まない先願発明2と同一とはいえず、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(5)本件発明5と、甲第1号証の1の先願発明2との対比及び判断
i)本件発明5は「Cr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金粉末の薄層を形成する第1工程と、前記薄層の所定位置に電磁波ビームを照射して前記銅合金粉末を溶解・凝固させる第2工程とを順次繰り返して積層造形物を作製する造形工程と、前記積層造形物を410?800℃で保持する熱処理工程とを有する、銅合金造形物の製造方法。」である。
ii)先願発明2において「銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成する」ことは、具体的には、「レーザ、電子ビーム、およびプラズマからなる群より選択されるいずれかの手段により積層造形物を製造する」ことを意味しており、それらの手段のうち「レーザ」は「電磁波ビーム」に相当する。
iii)すると、先願発明2の「銅合金粉末により積層造形物を製造する第2工程」であって「前記積層造形物は、前記銅合金粉末を含む粉末層を形成すること、および前記粉末層において所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成することが順次繰り返され、前記造形層が積層されることにより製造され」ることは、本件発明5の「銅合金粉末の薄層を形成する第1工程と、前記薄層の所定位置に電磁波ビームを照射して前記銅合金粉末を溶解・凝固させる第2工程とを順次繰り返して積層造形物を作製する造形工程」に相当する。
iv)先願発明2の「積層造形物を熱処理する第3工程」であって「積層造形物が400℃以上700℃以下の温度で熱処理される」ことは、熱処理温度が410℃以上700℃以下の範囲において、本件発明5の「積層造形物を410?800℃で保持する熱処理工程」に相当する。
v)しかしながら、上記(1)より、「銅合金粉末」について、先願発明2の「1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する」ことが、本件発明5の「Cr:0.50?5.0質量%」及び「残部がCuおよび不可避的不純物からなる」ことに相当するとしても、本件発明5の「銅合金粉末」は、「Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」を含むものであるから、「Zr」を必須成分として含む発明であるので、「Zr」を必須成分として含まない先願発明2と同一とはいえず、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(6)本件発明6と、甲第1号証の1の先願発明2との対比及び判断
本件発明6は、本件発明4または5において、「電磁波ビームがレーザー光である」ことを特定するものであるところ、先願発明2において「銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成する」ことは、「レーザ、電子ビーム、およびプラズマからなる群より選択されるいずれかの手段により積層造形物を製造する」ことにあたり、「電磁波ビーム」の照射として「レーザ」を選択できるものといえる。
しかしながら、本件発明1を引用する本件発明4をさらに引用する本件発明6も、本件発明5を引用する本件発明6も、「Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」を含むものであるから、「Zr」を必須成分として含む発明であるので、「Zr」を必須成分として含まない先願発明2と同一とはいえず、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(7)本件発明7と、甲第1号証の1の請求項11を引用する請求項17に記載の発明との対比及び判断
i)本件発明7は次のものである。
<本件発明7>
「銅合金の積層構造を有する造形物であって、前記銅合金はCr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、室温における電気伝導率が65%IACS以上であるか、または0.2%耐力が150MPa以上で引張強さが300MPa以上である、銅合金造形物。」
ii)甲第1号証の1の請求項11を引用する請求項17に記載の発明(以下、「先願発明17」という。)を独立形式で記載すると次のものになる。
<先願発明17>
「銅合金により構成されている積層造形物であって、
1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有し、
前記銅合金の理論密度に対して96%以上100%以下の相対密度を有し、かつ
70%IACS以上の導電率を有する、
積層造形物。」
iii)先願発明17には明示的には示されていないが、甲第1号証の1【0022】の記載を参照すると「不可避不純物元素」を含んでいてもよいものであり、これは本件発明7の「不可避的不純物」に相当することは明らかである。
iv)先願発明17の「1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有」する「銅合金により構成されている積層造形物」は、本件発明7の「Cr:0.1?20質量%」及び「残部がCuおよび不可避的不純物からな」る「銅合金の積層構造を有する造形物」に相当する。
v)物性として、先願発明17は「銅合金の理論密度に対して96%以上100%以下の相対密度を有し、かつ70%IACS以上の導電率を有する」ものであり、本件発明7は「室温における電気伝導率が65%IACS以上であるか、または0.2%耐力が150MPa以上で引張強さが300MPa以上である」点で相違しているが、電気伝導率に注目すると、本件発明7は先願発明17よりも広くなっており、上記相違点は上位概念として表現したことによる差違であるといえるから、本件発明7は先願発明17の物性を包含するものである。
vi)しかしながら、本件発明7の「銅合金」は、「Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」を含むものであるから、「Zr」を必須成分として含む発明であるので、「Zr」を必須成分として含まない先願発明17と同一とはいえず、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

III.申立理由2(特許法第29条の2)について
III-1.特許法第29条の2の形式的要件について
i)特許法第29条の2の形式的要件の一つとして、特許法第29条の2の「先の出願」としての甲第1号証の3に記載された発明が甲第1号証の1の特許公報発行により公開されているとみなされるためには、甲第1号証の3に記載された発明が甲第1号証の1に記載されていることがいえればよい。
ii)そこで、まず、甲第1号証の1、甲第1号証の3のそれぞれに記載された発明の関係を検討する。
甲各号証の明細書の記載から、それらは、「銅合金粉末、積層造形物の熱処理方法、銅合金造形物の製造方法及び銅合金造形物」に関するものである点で一致する。
そして、銅合金のCr含有量と、実験された銅合金粉末について、
甲第1号証の3は、1.00?2.80質量%、粉末A1?A6であり、
甲第1号証の1は、1.00?2.80質量%、粉末A1?A7であることが記載され、その余の点で両甲号証の記載は一致する。
そして、発明は明細書の記載から把握される以上、記載が一致ないし包含する関係にあるから、甲第1号証の3に記載の発明は、甲第1号証の1に記載されているといえる。
したがって、特許法第29条の2の「先の出願」としての甲第1号証の3に記載された発明が甲第1号証の1の特許公報発行により公開されているといえる。
なお、甲第1号証の2に記載の発明は、銅合金のCr含有量で甲第1号証の1に記載の発明と一致まではしないから、特許法第29条の2の「先の出願」としての甲第1号証の3を用いるものである。
iii)そして、本件出願の発明者が甲第1号証の3の出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本件出願の出願人が甲第1号証の3の出願の出願人と同一でもない。
よって、特許法第29条の2の適用のための形式的要件は満たされている。
そこで、以下に同実質的要件を検討する。

III-2.特許法第29条の2の実質的要件について
(1)本件発明1と甲第1号証の3に記載の発明との対比及び判断
i)甲第1号証の3の特許請求の範囲、発明の詳細な説明、及び図面(以下、単に「明細書」と記すことがある。)の記載から、本件発明1と対比するのに適する発明として、甲第1号証の3の請求項1に記載の発明を認定し、以下、これを「拡大先願発明1」という。
ii)本件発明1は、「付加製造用の銅合金粉末であって、Cr:1.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなる、銅合金粉末。」であるのに対して、
拡大先願発明1は、「積層造形用の銅合金粉末であって、1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する銅合金粉末。」である。
iii)拡大先願発明1は「不可避不純物元素」(甲第1号証の3【0022】)を含んでいてもよいものであり、これは本件発明1の「不可避的不純物」にあたることは明らかである。
また、拡大先願発明1の「積層造形」は、本件発明1の「付加製造」にあたることも明らかである。
iv)しかしながら、本件発明1は、「Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」を含むものであり、「Zr」を必須成分として含む発明であるのに対して、「Zr」は任意成分として含有可能であるが(【0022】参照)、必須成分として含まない拡大先願発明1と同一とはいえず、また、「Zr」を必須成分として含ませることが、課題解決のための具体化手段における構成上の微差にすぎないとまではいえない。
よって、本件発明1は、甲第1号証の3の明細書に記載されているとはいえないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえない。
ここで、甲第1号証の3の【0022】には、拡大先願発明1の「銅合金粉末」は「Zr」を含み得る旨記載があるが、この点については「IV.申立人の主張について」で後記し、本件発明2?7についても同様である。

(2)本件発明2と、甲第1号証の3に記載の発明との対比及び判断
i)本件発明2を独立形式で記載すれば次のようになる。
<本件発明2>
「付加製造用の銅合金粉末であって、Cr:1.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金粉末を用いて付加製造された積層造形物の熱処理方法であって、前記積層造形物を300?800℃で保持する、積層造形物の熱処理方法。」
ii)甲第1号証の3の特許請求の範囲の記載、発明の詳細な説明の記載、及び図面の開示から、本件発明2と対比するのに適する発明として、甲第1号証の3の請求項8,6,5,1を順に引用する請求項9に記載の発明を、以下「拡大先願発明2」といい、同発明を独立形式で記載して整理すると以下のようになる。
<拡大先願発明2>
「積層造形物を製造する際に使用される積層造形用の銅合金粉末であって、1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する銅合金粉末を準備する第1工程、前記銅合金粉末により積層造形物を製造する第2工程、および前記積層造形物を熱処理する第3工程を含み、
第2工程では、前記積層造形物は、
前記銅合金粉末を含む粉末層を形成すること、および
前記粉末層において所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成すること
が順次繰り返され、前記造形層が積層されることにより製造され、
第3工程では、前記積層造形物が400℃以上700℃以下の温度で熱処理される、
ことにより製造される、積層造形物の製造方法。」
iii)拡大先願発明2の「銅合金粉末により積層造形物を製造する第2工程」は「前記積層造形物」を「前記銅合金粉末を含む粉末層を形成すること、および前記粉末層において所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成することが順次繰り返され、前記造形層が積層されることにより製造」される工程であり、これは本件発明2の上記「銅合金粉末」を用いて「積層造形物」を「付加製造」することに相当するものである。
iv)拡大先願発明2の「前記積層造形物を熱処理する第3工程」は「前記積層造形物が400℃以上700℃以下の温度で熱処理される」ものであり、これは本件発明2の「前記積層造形物を300?800℃で保持」することに相当する。
v)本件発明2の「積層造形物の熱処理方法」は、結局のところ、最終的な「積層造形物」を与えるものだから、「積層造形物の製造方法」といえるものであり、拡大先願発明2の「積層造形物の製造方法」は、本件発明2の「積層造形物の熱処理方法」に相当する。
vi)しかしながら、拡大先願発明2の「銅合金粉末」について、「積層造形物を製造する際に使用される積層造形用」「であって、1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する」ことと、本件発明2の「付加製造用」「であって、Cr:1.1?20質量%」及び「残部がCuおよび不可避的不純物からなる」ことが、「Cr:1.1?2.80質量%、残部Cuおよび不可避的不純物からなる」点で共通するとしても、本件発明2の「銅合金粉末」は「Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」を含むものであるから、「Zr」を必須成分として含む発明であるので、「Zr」を必須成分として含まない拡大先願発明2と同一とはいえず、また、「Zr」を必須成分として含ませることが、課題解決のための具体化手段における構成上の微差にすぎないとまではいえない。
よって、本件発明2は、甲第1号証の3の明細書に記載されているとはいえないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(3)本件発明3と、甲第1号証の3の拡大先願発明2との対比及び判断
i)本件発明3は、「銅合金からなる積層造形物の熱処理方法であって、前記銅合金は、Cr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、前記積層造形物を410?800℃で保持する工程を有する、
積層造形物の熱処理方法。」である。
ii)拡大先願発明2の「前記銅合金粉末により積層造形物を製造する第2工程」及び「前記積層造形物を熱処理する第3工程」であって、「第2工程では、前記積層造形物は、前記銅合金粉末を含む粉末層を形成すること、および前記粉末層において所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成することが順次繰り返され、前記造形層が積層されることにより製造」され、「第3工程」では「前記積層造形物が400℃以上700℃以下の温度で熱処理される」ことは、熱処理温度が410℃以上700℃以下の範囲において、本件発明3の「銅合金からなる積層造形物の熱処理方法」であって、積層造形により形成された「積層造形物」に対して「前記積層造形物を410℃以上800℃以下の温度で保持する」ことに相当する。
iii)本件発明3の「積層造形物の熱処理方法」は、結局のところ、最終的な「積層造形物」を与えるものだから、「積層造形物の製造方法」といえるものであり、拡大先願発明2の「積層造形物の製造方法」は、本件発明3の「積層造形物の熱処理方法」に相当する。
iv)しかしながら、「銅合金粉末」もしくは「銅合金」について、拡大先願発明2の「1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する」ことは、本件発明3の「Cr:0.50?5.0質量%」及び「残部がCuおよび不可避的不純物からな」ることに相当するとしても、本件発明3の「銅合金」は、「Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」を含むものであるから、「Zr」を必須成分として含む発明であるので、「Zr」を必須成分として含まない拡大先願発明2と同一とはいえず、また、「Zr」を必須成分として含ませることが、課題解決のための具体化手段における構成上の微差にすぎないとまではいえない。
よって、本件発明3は、甲第1号証の3の明細書に記載されているとはいえないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(4)本件発明4と、甲第1号証の3の拡大先願発明2との対比及び判断
i)本件発明4を独立形式で記載すれば次のようになる。
<本件発明4>
「付加製造用の銅合金粉末であって、Cr:1.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金粉末の薄層を形成する第1工程と、前記薄層の所定位置に電磁波ビームを照射して前記銅合金粉末を溶融・凝固させる第2工程とを順次繰り返して積層造形物を作製する造形工程と、前記積層造形物を300?800℃で保持する熱処理工程とを有する、銅合金造形物の製造方法。」
ii)拡大先願発明2において「銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成する」ことは、甲第1号証の3【0029】に「ここでは、レーザにより銅合金粉末を固化させる態様が説明される。ただしレーザはあくまで一例であり、銅合金粉末が固化する限りは、固化手段はレーザに限定されるべきではない。たとえば、電子ビーム、プラズマ等が使用されてもよい。」と記載されていることを参照すると、「レーザー、電子ビーム、プラズマ」の手段によりなされるものといえるから、これらの手段のうち「レーザ」は「電磁波ビーム」に相当する。
iii)すると、拡大先願発明2の「銅合金粉末により積層造形物を製造する第2工程」であって「前記積層造形物は、前記銅合金粉末を含む粉末層を形成すること、および前記粉末層において所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成することが順次繰り返され、前記造形層が積層されることにより製造され」ることは、本件発明4の「銅合金粉末の薄層を形成する第1工程と、前記薄層の所定位置に電磁波ビームを照射して前記銅合金粉末を溶融・凝固させる第2工程とを順次繰り返して積層造形物を作製する造形工程」に相当する。
iv)拡大先願発明2の「積層造形物を熱処理する第3工程」であって「積層造形物が400℃以上700℃以下の温度で熱処理される」ことは、本件発明4の「積層造形物を300?800℃で保持する熱処理工程」に相当する。
v)しかしながら、「銅合金粉末」について、拡大先願発明2の「積層造形物を製造する際に使用される積層造形用」「であって、1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する」ことと、本件発明4の「付加製造用」「であって、Cr:1.1?20質量%」及び「残部がCuおよび不可避的不純物からなる」ことが、「付加製造用」であって「Cr:1.1?2.80質量%、残部Cuおよび不可避的不純物からなる」点で共通するとしても、本件発明4の「銅合金粉末」は、「Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」を含むものであるから、「Zr」を必須成分として含む発明であるので、「Zr」を必須成分として含まない拡大先願発明2と同一とはいえず、また、「Zr」を必須成分として含ませることが、課題解決のための具体化手段における構成上の微差にすぎないとまではいえない。
よって、本件発明4は、甲第1号証の3の明細書に記載されているとはいえないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(5)本件発明5と、甲第1号証の3の拡大先願発明2との対比及び判断
i)本件発明5は「Cr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金粉末の薄層を形成する第1工程と、前記薄層の所定位置に電磁波ビームを照射して前記銅合金粉末を溶解・凝固させる第2工程とを順次繰り返して積層造形物を作製する造形工程と、前記積層造形物を410?800℃で保持する熱処理工程とを有する、銅合金造形物の製造方法。」である。
ii)拡大先願発明2において「銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成する」ことは、甲第1号証の3【0029】に「ここでは、レーザにより銅合金粉末を固化させる態様が説明される。ただしレーザはあくまで一例であり、銅合金粉末が固化する限りは、固化手段はレーザに限定されるべきではない。たとえば、電子ビーム、プラズマ等が使用されてもよい。」と記載されていることを参照すると、「レーザー、電子ビーム、プラズマ」の手段によりなされるものといえるから、これらの手段のうち「レーザ」は「電磁波ビーム」に相当する。
iii)すると、拡大先願発明2の「銅合金粉末により積層造形物を製造する第2工程」であって「前記積層造形物は、前記銅合金粉末を含む粉末層を形成すること、および前記粉末層において所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成することが順次繰り返され、前記造形層が積層されることにより製造され」ることは、本件発明5の「銅合金粉末の薄層を形成する第1工程と、前記薄層の所定位置に電磁波ビームを照射して前記銅合金粉末を溶解・凝固させる第2工程とを順次繰り返して積層造形物を作製する造形工程」に相当する。
iv)拡大先願発明2の「積層造形物を熱処理する第3工程」であって「積層造形物が400℃以上700℃以下の温度で熱処理される」ことは、熱処理温度が410℃以上700℃以下の範囲において、本件発明5の「積層造形物を410?800℃で保持する熱処理工程」に相当する。
v)しかしながら、「銅合金粉末」について、拡大先願発明2の「1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する」ことが、本件発明5の「Cr:0.50?5.0質量%」及び「残部がCuおよび不可避的不純物からなる」ことに相当するとしても、本件発明5の「銅合金粉末」は、「Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」を含むものであるから、「Zr」を必須成分として含む発明であるので、「Zr」を必須成分として含まない拡大先願発明2と同一とはいえず、また、「Zr」を必須成分として含ませることが、課題解決のための具体化手段における構成上の微差にすぎないとまではいえない。
よって、本件発明5は、甲第1号証の3の明細書に記載されているとはいえないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(6)本件発明6と、甲第1号証の3の拡大先願発明2との対比及び判断
本件発明6は、本件発明4または5において、「電磁波ビームがレーザー光である」ことを特定するものであるところ、拡大先願発明2において「銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成する」ことは、甲第1号証の3【0029】の記載から「レーザ、電子ビーム」でなされるから、「電磁波ビーム」の照射として「レーザ」を選択できるものといえる。
しかしながら、本件発明1を引用する本件発明4をさらに引用する本件発明6も、本件発明5を引用する本件発明6も、「Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」を含むものであるから、「Zr」を必須成分として含む発明であるので、「Zr」を必須成分として含まない拡大先願発明2と同一とはいえず、また、「Zr」を必須成分として含ませることが、課題解決のための具体化手段における構成上の微差にすぎないとまではいえない。
よって、本件発明1は、甲第1号証の3の明細書に記載されているとはいえないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(7)本件発明7と甲第1号証の3に記載の発明との対比及び判断
i)本件発明7は次のものである。
<本件発明7>
「銅合金の積層構造を有する造形物であって、前記銅合金はCr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、室温における電気伝導率が65%IACS以上であるか、または0.2%耐力が150MPa以上で引張強さが300MPa以上である、銅合金造形物。」
ii)甲第1号証の3の明細書の記載から、本件発明7と対比するのに適する発明として、甲第1号証の3の請求項11を引用する請求項17に記載の発明(以下、「拡大先願発明17」という。)を認定して、独立形式で記載すると次のものになる。
<拡大先願発明17>
「銅合金により構成されている積層造形物であって、
1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有し、
前記銅合金の理論密度に対して96%以上100%以下の相対密度を有し、かつ
70%IACS以上の導電率を有する、
積層造形物。」
iii)拡大先願発明17には明示的には示されていないが、甲第1号証の3【0022】の記載を参照すると「不可避不純物元素」を含んでもよいものであり、これは本件発明7の「不可避的不純物」に相当することは明らかである。
iv)拡大先願発明17の「1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム、および残部の銅を含有」する「銅合金により構成されている積層造形物」は、本件発明7の「Cr:0.1?20質量%」及び「残部がCuおよび不可避的不純物からな」る「銅合金の積層構造を有する造形物」に相当する。
v)物性として、拡大先願発明17は「銅合金の理論密度に対して96%以上100%以下の相対密度を有し、かつ70%IACS以上の導電率を有する」ものであり、本件発明7は「室温における電気伝導率が65%IACS以上であるか、または0.2%耐力が150MPa以上で引張強さが300MPa以上である」点で相違しているが、電気伝導率に注目すると、本件発明7は拡大先願発明17よりも広くなっており、上記相違点は上位概念として表現したことによる差違であるといえるから、本件発明7は拡大先願発明17の物性を包含するものである。
vi)しかしながら、本件発明7の「銅合金」は、「Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」を含むものであるから、「Zr」を必須成分として含む発明であるので、「Zr」を必須成分として含まない拡大先願発明17と同一とはいえず、また、「Zr」を必須成分として含ませることが、課題解決のための具体化手段における構成上の微差にすぎないとまではいえない。
よって、本件発明7は、甲第1号証の3の明細書に記載されているとはいえないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえない。

なお、甲第1号証の3の明細書全体をみても、同明細書に記載された「銅合金」が、「Zr」を「0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」の範囲で含むことは記載も示唆もされていない。

IV.申立人の主張について
(1)申立人の主張
申立人は、令和1年6月13日付け意見書で概ね以下の二点を主張している。
A.特許法第29条の2について
甲第1号証の1には以下の記載がある。
「本実施形態では、特定組成の銅合金粉末が使用される。すなわち銅合金粉末は、1.00質量%より多く2.80質量%以下のクロム(Cr)、および残部の銅(Cu)を含有する銅合金の粉末である。残部には、Cuの他、不純物元素が含有されていてもよい。不純物元素は、たとえば、銅合金粉末の製造時に意図的に添加された元素(以下「添加元素」と記される)であってもよい。すなわち、残部はCuおよび添加元素を含んでもよい。添加元素としては、たとえば、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、銀(Ag)、ベリリウム(Be)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、テルル(Te)等が挙げられる。不純物元素は、たとえば、銅合金粉末の製造時に不可避的に混入した元素(以下「不可避不純物元素」と記される)であってもよい。すなわち、残部はCuおよび不可避不純物元素を含んでもよい。不可避不純物元素としては、たとえば、酸素(O)、リン(P)、鉄(Fe)等が挙げられる。残部は、Cu、添加元素および不可避不純物元素を含んでもよい。銅合金粉末は、たとえば、合計で0.30質量%未満の添加元素および不可避不純物元素を含有してもよい。たとえば、銅合金粉末の酸素含有量は「JIS H 1067:銅中の酸素定量方法」に準拠した方法により測定され得る。」(【0022】)
上記記載によれば、甲第1号証の1に記載の「銅合金粉末」は「ジルコニウム(Zr)」を他の「添加元素および不可避不純物元素」と共に「合計で0.30質量%未満」で含むことができるのだから、本件訂正請求により訂正された本件発明1,3,5,7は、依然として甲第1号証の1に記載された発明と同一発明であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件発明1に直接又は間接的に従属する本件発明2,4,6についても同様である。

B.特許法第36条第6項第1号について
本件発明1,3,5,7について、「Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」の実施例は【表1】(【0033】)の「Cu0.6Cr」(Cr:0.59質量%、Zr:0.17質量%)、
「Cu1.4Cr」(Cr:1.41質量%、Zr:0.074質量%)の二例にすぎない。
換言すれば、1.41%を超えてCrを含み、かつZrを含むCu-Cr合金粉末(銅合金造形物)は、実施例において開示がなく、技術常識に照らしても、その範囲において本件発明1,3,5,7が所期の効果を奏し得るのか不明であり、本件発明1,3,5,7の範囲にまで拡張ないし一般化できるとはいえず、本件発明1に直接又は間接的に従属する本件発明2,4,6についても同様である。
したがって、本件発明1?7は特許法第36条第6項第1号の規定に適合せず、特許を受けることができないものである。

(2)審判合議体の判断
A.について
申立人の上記Aの主張は、本件発明と甲第1号証の1の記載とを対比して発明の異同を論じるものであるが、本来、本件発明と対比すべきは、甲第1号証の3の記載であるから、以下、甲第1号証の3の記載に基づいて判断する。
甲第1号証の3の【0022】には、たしかに甲第1号証の3に記載の「銅合金粉末」において、「ジルコニウム(Zr)」を他の「添加元素および不可避不純物元素」と共に「合計で0.30質量%未満」で含有してもよいことが記載されている。
しかしながら、「銅合金粉末」について、「ジルコニウム(Zr)」を添加する理由については記載がなく、「ジルコニウム(Zr)」を添加した場合の実施例についても記載が無く、「合計で0.30質量%未満」なる範囲の中で「ジルコニウム(Zr)」をどの程度含ませるかについても記載が無い。
すると、本件各発明と甲第1号証の3に記載の各発明とは、「銅合金粉末」に包含させる「Zr」の含有量について「0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」とする点で相違するものである。
そして、甲第1号証の3に記載の「銅合金粉末」において、「ジルコニウム(Zr)」を包含させるにあたり、その包含させる量を「0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」とすることの動機付けがなく、また、当該量とすることが技術常識であるということもできない。
以上から、甲第1号証の3に記載の「銅合金粉末」において、「ジルコニウム(Zr)」を包含させるにあたり、その包含させる量を「0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)」とすることは、課題解決のための具体化手段における構成上の微差にすぎないとまではいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

B.について
ア まず、Bについての申立人の主張は、本件訂正請求とは無関係に、特許異議申立の際に主張できたことだから、訂正の請求に付随して生じた事項とは認められない。
したがって、Bについては、特許異議申立書の要旨を変更するものであるから、新たな取消理由として採用されない。
また、採用したとしても、以下に述べるように、申立人の主張は採用できない。

イ 本件明細書には次の記載がある。
(ア)「Crは付加製造過程おける合金融液の凝固時、または後の熱処理工程で析出し、析出硬化によってCu合金の強度を向上させる。Crが析出するためには、Cr含有量は、室温または後の熱処理温度におけるCuへの飽和固溶量より多い必要があり、具体的には0.1質量%以上である。Cr含有量は、好ましくは0.50質量%以上、より好ましくは1.00質量%以上、特に好ましくは1.10質量%以上である。Cr含有量が多いほど熱伝導率が低くなり、付加製造時の造形が容易になるからである。また、Cr含有量は好ましくは20質量%以下である。Cr含有量が多すぎると、熱処理時に析出相が粗大化しやすく、機械特性を損なうからである。一方、電気伝導率に関しては、Cr含有量が小さいほど好ましい。この点からは、Cr含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは7.5質量%以下、特に好ましくは5.0質量%以下である。」(【0021】)
(イ)「Zrは微量の添加によりCu合金の中間温度脆性が改善させることが知られており、また、熱伝導率を下げる酸素(O)等の不純物と化合物を形成して不純物の影響を抑える目的で使用されることがある。ただし、Zr含有量は質量%基準でCr含有量より小さいことを要する。Crの析出過程に影響を及ぼさないためである。また、Zr含有量は0.20質量%以下である。Zr含有量が0.20質量%以上であると、Cr_(2)Zr等の金属間化合物の粗大な析出物を形成しやすく、機械特性を損なうからである。」(【0022】)

ウ 上記記載イ(ア)によれば、本件発明の「銅合金」に含まれるCr量について、「付加製造過程おける合金融液の凝固時、または後の熱処理工程で析出し、析出硬化によってCu合金の強度を向上させる」ために「Crが析出する」ようにするには「Cr含有量は、室温または後の熱処理温度におけるCuへの飽和固溶量より多い必要があり、具体的には0.1質量%以上」であることを要し、「熱処理時に析出相が粗大化しやすく、機械特性を損な」わず、また「電気伝導率」を小さくするために、「Cr含有量は、好ましくは20質量%以下」であることを要するといえる。

エ また、上記記載イ(イ)によれば、本件発明の「銅合金」に含まれるZr量について、「Cu合金の中間温度脆性」を「改善」し、「不純物と化合物を形成して不純物の影響を抑える」ために「Zr」は包含されることが必要で、「Cr_(2)Zr等の金属間化合物の粗大な析出物を形成」して「機械特性を損な」わないために「0.20質量%」以下であることを要するといえ、さらに、「Crの析出過程に影響を及ぼさないため」に「Zr含有量は質量%基準でCr含有量より小さい」ことを要するといえる。

オ これらの記載は、CrとZrは、上記範囲にあれば「付加製造による従来のものより高い機械強度および/または電気伝導性・熱伝導性を有する銅合金造形物を提供」(【0008】)するという課題を解決できることの作用機序を示すものであり、十分な実施例が記載されていなくても、上記の作用機序を勘案すれば、「1.41%を超えてCrを含み、かつZrを含むCu-Cr合金粉末(銅合金造形物)」は、実施例において開示がなくても、その範囲において所期の効果を奏し得るものといえる。
したがって、申立人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、異議申立理由(当審の取消理由)によっては、本件請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加製造用の銅合金粉末であって、
Cr:1.1?20質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなる、
銅合金粉末。
【請求項2】
請求項1に記載された銅合金粉末を用いて付加製造された積層造形物の熱処理方法であって、
前記積層造形物を300?800℃で保持する、
積層造形物の熱処理方法。
【請求項3】
銅合金からなる積層造形物の熱処理方法であって、
前記銅合金は、Cr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、
前記積層造形物を410?800℃で保持する工程を有する、
積層造形物の熱処理方法。
【請求項4】
請求項1に記載された銅合金粉末の薄層を形成する第1工程と、前記薄層の所定位置に電磁波ビームを照射して前記銅合金粉末を溶融・凝固させる第2工程とを順次繰り返して積層造形物を作製する造形工程と、
前記積層造形物を300?800℃で保持する熱処理工程とを有する、
銅合金造形物の製造方法。
【請求項5】
Cr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなる銅合金粉末の薄層を形成する第1工程と、前記薄層の所定位置に電磁波ビームを照射して前記銅合金粉末を溶解・凝固させる第2工程とを順次繰り返して積層造形物を作製する造形工程と、
前記積層造形物を410?800℃で保持する熱処理工程とを有する、
銅合金造形物の製造方法。
【請求項6】
前記電磁波ビームがレーザー光である、
請求項4または5に記載の銅合金造形物の製造方法。
【請求項7】
銅合金の積層構造を有する造形物であって、
前記銅合金はCr:0.50?5.0質量%、Zr:0?0.2質量%(ただし、Zrが0質量%である場合を除く)、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、
室温における電気伝導率が65%IACS以上であるか、または
0.2%耐力が150MPa以上で引張強さが300MPa以上である、
銅合金造形物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-04 
出願番号 特願2017-169472(P2017-169472)
審決分類 P 1 651・ 4- YAA (B22F)
P 1 651・ 16- YAA (B22F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 國方 康伸  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 池渕 立
中澤 登
登録日 2018-06-01 
登録番号 特許第6346983号(P6346983)
権利者 株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ
発明の名称 銅合金粉末、積層造形物の熱処理方法、銅合金造形物の製造方法および銅合金造形物  
代理人 河原 哲郎  
代理人 河原 哲郎  
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