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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
管理番号 1356815
異議申立番号 異議2018-700649  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-06 
確定日 2019-09-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6278148号発明「フライアッシュ、セメント組成物及びフライアッシュの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6278148号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕〔7、8〕について訂正することを認める。 特許第6278148号の請求項1、3?8に係る特許を維持する。 特許第6278148号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第6278148号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成29年7月21日(優先権主張 平成29年1月17日)を出願日とするものであって、平成30年1月26日にその特許権の設定登録がされ、平成30年2月14日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、その特許について、平成30年8月6日付けで特許異議申立人林愛子(以下、「申立人」という。)により、甲第1号証?甲第9号証を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、平成30年10月18日付けで取消理由が通知され、平成30年12月25日付けで特許権者より、意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、平成31年2月6日付けで申立人より、参考資料1?4を証拠方法とする意見書の提出がされ、平成31年3月12日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、令和元年5月13日付けで特許権者より、意見書の提出がされ、令和元年5月21日付けで申立人に対し審尋がされ、令和元年6月20日付けで申立人より、回答書の提出がされたものである。

(証拠方法)
甲第1号証:李昇憲 他 「電気集じん機により段別採取したフライアッシュの特性と脱炭素処理によるフライアッシュの改質」 材料 Vol.48 No.8 1999 Aug 837-842頁

甲第2号証:山本武志 他 「フライアッシュのポゾラン反応に伴う組織緻密化と強度発現メカニズムの実験的考察」 土木学会論文集E Vol.63 No.1 2007 1 52-65頁

甲第3号証:李昇憲 他 「電気集じん装置から採取した石炭灰の特性」 コンクリート工学年次論文報告集 Vol.18 No.1 1996 327-332頁

甲第4号証:森滋勝 他 「石炭フライアッシュの改質プロセスの開発」 化学工学論文集 第20巻第4号 1994 463-467頁

甲第5号証:齊藤美来 他 「粗粒フライアッシュを用いた高強度セメントの流動性と水熱反応」 Cement Science and Concrete Technology Vol.66 2012 9-14頁

甲第6号証:安部英一 他 「石炭灰中の未燃炭分低減のための2,3の検討」 粉体工学会誌 Vol.24 No.10 1987 640-646頁

甲第7号証:吉田英人 他 「変形翼型ルーバ分級機による石炭灰の分級及びその未燃分低減法」 粉体工学会誌 Vol.36 No.6 1999 454-461頁

甲第8号証:特開2010-30885号公報

甲第9号証:特開2001-354458号公報

参考資料1:楠貞則 他 「フライアッシュコンクリートの簡易品質評価手法に関する研究」 土木学会論文集E Vol.65 No.1 2009.3 93-102頁

参考資料2:田中雅章 他 「加圧流動床灰混入コンクリートの水和反応に関する検討」 コンクリート工学年次論文集 Vol.27 No.1 2005 211-216頁

参考資料3:砂川勇二 「実施工におけるフライアッシュコンクリートの品質について」 平成23年度沖縄ブロック国土交通研究会 2011年7月15日発表 演題11

参考資料4:特開2018-27867号公報


第2 申立理由の概要

申立人は、訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり(以下、「申立理由1」という。)、また、甲第2、3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり(以下、「申立理由2」という。)、訂正前の請求項7、8に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4?9号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(以下、「申立理由3」という。)から、訂正前の請求項1?8に係る特許は取り消されるべきである旨主張している。


第3 訂正請求について

1.訂正請求の趣旨
本件訂正請求は、訂正事項1?6に基づき、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求めるものである。

2.訂正の適否
(1)訂正の内容について
以下の訂正事項1?6のとおりである(下線部は訂正箇所)。

訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における
「1.45質量%以下であることを特徴するフライアッシュ。」
との記載を、
「1.45質量%以下であり、強熱減量が2.2質量%以上6.0質量%以下であることを特徴するフライアッシュ。」
と訂正する。

訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3における
「請求項1又は2に記載のフライアッシュ。」
との記載を、
「請求項1に記載のフライアッシュ。」
と訂正する。

訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4における
「請求項1?3のいずれか1項記載のフライアッシュ。」
との記載を、
「請求項1又は3に記載のフライアッシュ。」
と訂正する。

訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5における
「請求項1?4のいずれか1項に記載のフライアッシュと、」
との記載を、
「請求項1、3?4のいずれか1項に記載のフライアッシュと、」
と訂正する。

訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7における
「1.45質量%以下である、フライアッシュの製造方法。」
との記載を、
「1.45質量%以下であり、強熱減量が2.2質量%以上6.0質量%以下である、フライアッシュの製造方法。」
と訂正する。

(2)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前のフライアッシュの発明について、強熱減量の数値範囲を発明特定事項として追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
訂正事項2は、請求項を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
訂正事項3?5は、選択的引用請求項の一部を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正である。
訂正事項6は、訂正前のフライアッシュの製造方法の発明について、製造されるフライアッシュの強熱減量の数値範囲を発明特定事項として追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
以上のことから、訂正事項1?6に係る訂正の目的は適法である。

(3)新規事項追加の有無について
訂正事項1、6は、本件明細書【0028】の「フライアッシュは、強熱減量が6.0質量%以下であることが好ましい。」との記載、同じく【0065】【表1】実施例5における強熱減量が2.2質量%である記載に基づくものであるから、新たな技術的事項を導入するものではない。
訂正事項2は請求項を削除、訂正事項3?5は選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、いずれも明らかに新たな技術的事項を導入するものではない。
以上、訂正事項1?6は、いずれも新規事項の追加に該当しない。

(4)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1?6は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)一群の請求項について
訂正事項1?5に係る訂正前の請求項1?6については、請求項2?6がそれぞれ先行する請求項のいずれかを引用するものであったことから一群の請求項を構成していたものである。
訂正事項6に係る訂正前の請求項7、8については、請求項8が請求項7を引用するものであったことから、一群の請求項を構成していたものである。

(6)独立特許要件について
本件異議申立ては全ての請求項が対象となっており、異議申立てがされていない請求項についての訂正事項はないから、独立特許要件の検討は要しない。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕〔7、8〕について訂正を認める。


第4 訂正後の特許請求の範囲
訂正後の請求項1?8は、以下のとおりである。
以下、訂正後の請求項1?8に係る発明を、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明8」という(なお、請求項2は訂正により削除されているので、以下検討の対象としない)。

「 【請求項1】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した粒径45μm以上の粒子の含有量が38体積%未満であり、前記測定法で測定した粒径5μm未満の粒子の含有量が12体積%以下であり、ヘマタイトが0.30質量%以上0.75質量%以下、マグネタイトが0.20質量%以上1.25質量%以下、かつ、結晶相中の鉄(Fe)が0.21質量%以上1.45質量%以下であり、強熱減量が2.2質量%以上6.0質量%以下であることを特徴するフライアッシュ。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
化学成分としてのFe_(2)O_(3)が7.1質量%以下である、請求項1に記載のフライアッシュ。
【請求項4】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布における累積頻度50%の平均粒径(D50)が15.0?30.0μmであり、前記平均粒径(D50)に対する前記測定法による体積基準粒度分布における累積頻度30%の粒径(D30)の粒径比(D30/D50)が0.50以上であり、前記平均粒径D50に対する前記測定法による体積基準粒度分布における累積頻度70%の粒径(D70)の粒径比(D70/D50)が1.85以下である、請求項1又は3に記載のフライアッシュ。
【請求項5】
請求項1、3?4のいずれか1項に記載のフライアッシュと、セメントとを含むセメント組成物。
【請求項6】
セメント組成物全量に対して、前記フライアッシュの含有量が1質量%を超え35質量%以下である、請求項5に記載のセメント組成物。
【請求項7】
フライアッシュ全体100体積%中のレーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した粒径45μm以上の粒子の含有量が38体積%未満となるように、原料のフライアッシュから粒径45μm以上の粒子の少なくとも一部を取り除く工程と、フライアッシュ全体100体積%中の前記測定法で測定した粒径5μm未満の粒子の含有量が12体積%以下となるように、原料のフライアッシュから粒径5μm未満の粒子の少なくとも一部を取り除く工程を含み、得られるフライアッシュは、ヘマタイトが0.30質量%以上0.75質量%以下、マグネタイトが0.20質量%以上1.25質量%以下、かつ、結晶相中の鉄(Fe)が0.21質量%以上1.45質量%以下であり、強熱減量が2.2質量%以上6.0質量%以下である、フライアッシュの製造方法。
【請求項8】
得られるフライアッシュの化学成分としてのFe_(2)O_(3)の含有量が7.1質量%以下である、請求項7に記載のフライアッシュの製造方法。」


第5 取消理由通知書に記載した取消理由について

1.平成31年3月12日付け取消理由通知(決定の予告)について
当審において、訂正後の請求項1、3?8に係る特許に対して、平成31年3月12日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
「(進歩性)本件特許の請求項1、3?8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであって、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。」

2.平成30年10月18日付け取消理由通知について
当審において、訂正前の請求項1?8に係る特許に対して、平成30年10月18日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
「(新規性)本件特許の請求項1?6に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものであって、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(進歩性)本件特許の請求項1?8に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明並びに甲第4?9号証に記載された技術事項もしくは技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであって、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。」

3.甲各号証等の記載事項及び引用発明について

(1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、電気集じん機により段別採取した各種のフライアッシュについての発明が記載されている。
特に、839頁のFig.1.には、838頁の「2 実験」において試料として用いられたA-1?B-3の9種類のフライアッシュについての粒度分布が記載されており、測定装置(日機装、Microtrack)からみてレーザー回折・散乱式によるものであって、縦軸として体積基準の累積頻度が%で示されているものと認められる。
このうち、A’-1のフライアッシュに着目して839頁のTable I.、Fig.1.を詳細にみてみると、Table I.により平均粒径(D50)は22.85μmであり、Fig.1.においては図中の右側に3種のフライアッシュの粒度分布が重なるように示されているところ、これらの内の1種のフライアッシュがA’-1に相当することが把握でき(残りの2種はA-1、B-1)、さらに、A’-1はD70が42μm程度であると図から読み取れるから、このフライアッシュの45μm以上の粒子が30体積%を下回ることは明らかである。また、A’-1のフライアッシュの5μmまでの粒子の累積頻度は、10体積%を下回っているものと図から読み取ることができる。
次に、A’-1のフライアッシュの成分に着目して840頁のTable III.をみてみると、ヘマタイトは0.4質量%、マグネタイトは0.5質量%となる。そうすると、結晶相中の鉄(Fe)は、0.64質量%となる。
さらに、839頁Table II.には、強熱減量に相当するIg.lossについて、2.1質量%と記載されている。
以上のことから、甲第1号証には、A’-1のフライアッシュとして、
「レーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した粒径45μm以上の粒子の含有量が30体積%未満であり、前記測定法で測定した粒径5μm未満の粒子の含有量が10体積%以下であり、ヘマタイトが0.4質量%、マグネタイトが0.5質量%、かつ、結晶相中の鉄(Fe)が0.64質量%であり、強熱減量が2.1質量%である、フライアッシュ」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
また、甲1発明に係るフライアッシュの製造方法の発明(以下、「甲1’発明」という。)も記載されていると認められる。

(2)甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、54頁「(2)使用材料」の記載からみて、セメントに混合するための原粉及び分級された後の各種のフライアッシュについての発明が記載されている。
特に、54頁の図-2?図-4には、レーザー回折・散乱法による粒度分布が記載されており、縦軸として体積基準の累積頻度が%で示されているものと認められる。
各種フライアッシュの内、原粉試料のWR(原)に着目して図-2を詳細にみてみると、特許異議申立人が甲第2号証と共に示した図-2の対数目盛付き拡大図も参酌してD70で40μm程度、平均粒径(D50)が23?24μm程度、D30は12?13μm程度であると読み取れる。そうすると、このフライアッシュの45μm以上の粒子が30体積%を下回ることは明らかである。また、WR(原)の5μmまでの粒子の累積頻度は、同じ拡大図から10体積%程度と読み取れる。
また、WR(原)のフライアッシュに関し、甲第2号証の53頁表-1には、強熱減量は1.2(質量%)、Fe_(2)O_(3)について化学組成(%)が4.77と記載されている。
次に、WR(原)のフライアッシュの成分に着目して61頁の表3をみてみると、ヘマタイトは定量できない程度の検出強度、マグネタイトは0.8質量%となっており、マグネタイトに基づく結晶相中の鉄(Fe)は、0.58質量%となる。ここで、ヘマタイトの量について、「定量できない程度の検出強度」であることは、例えば、甲第1号証の840頁TableIII.において、フライアッシュ中のヘマタイトの量について、0.4質量%を検出できていることから、定量できないのはそれ以下の量であると推測され、本件明細書【0033】によれば、ヘマタイトの量は生成条件によって異なるものの、通常0.30質量%以上であるとされていることからすると、概ね0.3?0.4質量%程度であると見積もるのが妥当である。そうすると、このヘマタイトに基づく結晶相中の鉄(Fe)は、0.21?0.28質量%となるから、マグネタイトに基づく結晶相中の鉄(Fe)0.58質量%と合わせると、「0.79質量%?0.86質量%」となる。
以上のことから、WR(原)のフライアッシュに係る発明として、甲第2号証には
「レーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した体積基準粒度分布において、累積頻度D70が40μm程度、平均粒径(D50)が23?24μm程度、D30が12?13μm程度であって、前記測定法で測定した粒径45μm以上の粒子の含有量が30体積%未満であり、前記測定法で測定した粒径5μm未満の粒子の含有量が10体積%程度であり、強熱減量は1.2質量%であり、化学成分としてのFe_(2)O_(3)が4.77質量%、ヘマタイトが0.3?0.4質量%程度、マグネタイトが0.8質量%、かつ、結晶相中の鉄(Fe)が0.79質量%?0.86質量%程度であるフライアッシュ。」
の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
また、甲2発明に係るフライアッシュの製造方法の発明(以下、「甲2’発明」という。)も記載されていると認められる。

(3)甲第4?9号証の記載事項について
甲第4号証には、「特に、フライアッシュ中の106μm以上の粗粉には高い濃度の未燃炭素分が含まれている。」(463頁右欄 1・1プロセスの原理 4?6行)ことが記載され、さらに、「本実験により、第1段では100μm以上の粗粒をカットすれば良いことが明らかになったので、流動層より簡便な市販の風力分級装置を用いて粗粒をカットしたフライアッシュを第2段へ供給した」(464頁左欄下から2行?同右欄2行)と記載されている。
甲第5号証には、「粗粒FA中には数μm程度の粒子が融着して出来たと思われる、形状の悪い粒子が存在していることが確認できる。・・・形状の悪い粒子はペースト中で粒子同士の摩擦を増加させるため、ペーストの流動性が低下すると考えられる。」(11頁左欄13?19行)と記載されている。
甲第6号証には、「石炭灰粒子は粒度が大きいほど低密度分を多く含む。また粒径44μm以下では粒子は球状のものがほとんどで、それより粒径が大きくなると不定形でしかも不透明な粒子が見られるようになる。これらの低密度分や不規則形状粒子は未燃炭素分を多く含む。したがって、目標とする低Ig.lossの細粒が得られると予想される分離粒径において石炭灰を分級して細粒を回収し、ついで粗粒分を粒子形状別に分離することにより不規則形状粒子を除けば石炭灰中の未燃炭素分を全体として低減できる」(641頁左欄6?15行)と記載されている。また、「理想的に分級が行われれば分離粒径が小さくなるにつれて細粒のIg.lossは低下し、40μm程度ではIg.lossは目標値の3.5%を優に満足するはずである。ところが、風力分級の場合、いずれの分級機についても細粒のIg.lossは理想的分級の場合のそれ程小さくならず、分離粒径が20μm以下では逆にIg.lossが増加する傾向に転ずる。そして8μm以下では粗粒のIg.lossよりも大きくなる。この理由は同図中において粗粒のIg.lossが細粒の場合とは逆に理想的分級の場合に比べて小さい値をもつことから、先にFig.2に関する考察で述べたように未燃炭素分の多い粗粒子が粉砕され、生じた微粉が細粒側に回収されるためと考えられる。」(643頁左欄15行?同右欄5行)と記載されている。
甲第7号証には、セメントに混入する「フライアッシュの付加価値を高める一手段として、未燃炭素分除去を目的とした場合には分級操作が有効になる。」(454頁左欄下から3?最下行)、「原料フライアッシュ中には未燃分を平均3.0wt%含み、その割合は粗粒子ほど多くなる。よって未燃分を多く含む粗粉をルーパで分級すると、細粉中の未燃分が低減することが期待される。」(459頁左欄下から3行?同右欄1行)、「フライアッシュの未燃分は、超微粒子側と約30μm以上の大粒子側に存在する二つのピークを示す・・・大粒子内部に含有された微粒子で未燃分を多く含んだ1?2μm程度の粒子が多く存在する。・・・大粒子を構成する薄い外層が破れ内部の小粒子が飛散し細粉側で捕集される」(459頁右欄12?21行)と記載されている。
甲第8号証には、石炭灰の未燃炭素分の低減について記載されている。
甲第9号証には、フライアッシュ(FA)の品質規格に関し、品質規格の粉末度として45μmふるい残分が規定されていることが記載されており(【0004】【表1】)、また、I種FAは、高度分級機で超微粉のFAを回収したものであるが、分級の過程でFAに含まれる見かけ比重の小さい未燃カーボンが微粒子分側に移行して強熱減量が高くなっている旨記載されている(【0005】)。

4.当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明との対比・判断
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、
「レーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した粒径45μm以上の粒子の含有量が38体積%未満であり、前記測定法で測定した粒径5μm未満の粒子の含有量が12体積%以下であり、ヘマタイトが0.30質量%以上0.75質量%以下、マグネタイトが0.20質量%以上1.25質量%以下、かつ、結晶相中の鉄(Fe)が0.21質量%以上1.45質量%以下である、フライアッシュ」の点で一致し、
本件特許発明1では、フライアッシュの強熱減量が2.2質量%以上6.0質量%以下であるのに対し、甲1発明では、フライアッシュの強熱減量が2.1質量%である点で、相違する(以下、「相違点1」という。)

相違点1について検討するに、甲第1号証には、
「実験に用いたフライアッシュは、同一石炭火力発電所において排出されたもので、発電負荷および使用炭種を変化させ、・・・Aシリーズはボイラーの負荷が600MW(通常運転)で運転されている昼間時に生成したフライアッシュであり、A’シリーズはAシリーズと同じ石炭を用いボイラーの負荷が300MWで運転される夜間時に、採取したものである。BシリーズはAシリーズと同様にボイラーの負荷が600MW(通常運転)で、異なる石炭を用いて発電した際に採取したフライアッシュである。」(838頁左欄11-20行)
と記載され、特に未燃カーボン量と強熱減量について、
「定常負荷(A,Bシリーズ)の運転時が300MW負荷(A’シリーズ)よりも未燃カーボン量は低い値を示し、完全燃焼させる最適な運転条件があることを示している。未燃カーボン量が一番大きいA’-1とA’-2の強熱減量も大きな値を示したが、今回のように全般的に未燃カーボン量や強熱減量が低い場合には、両者の間の相関関係は必ずしも明確ではなかった。」(839頁右欄23-29行)、
等と記載されているが、フライアッシュの強熱減量を2.1質量%よりも大きく2.2質量%以上とすることについては記載も示唆もない。
石炭火力発電所からのフライアッシュとして、強熱減量が2.2質量%以上となるものは、一般的には申立人の提出した参考資料1?4からも把握できるように普通に存在するといえるし、その数値が変動しうるものであることも技術常識である。しかし、甲1発明のフライアッシュは、上記のとおり同一石炭火力発電所において排出されたものであって、その中で強熱減量が2.1質量%と相対的に大きいA’シリーズのものは発電負荷が300MWで運転される夜間時に排出されたものであり、ボイラーの負荷が600MW(通常運転)で運転されている昼間時に生成したフライアッシュの強熱減量は、より燃焼されてそれよりも小さな値になっていると理解されるものである。そうすると、甲1発明においてフライアッシュの強熱減量を2.1質量%よりも大きくするためには、ボイラーの負荷を夜間時の300MWよりもさらに低負荷にすることが考えられるものの、そのようにする動機付けは見当たらない。
甲第4?9号証には、技術常識を考慮しても、甲1発明においてフライアッシュの強熱減量を2.1質量%よりも大きくするための動機付けとなる記載は見当たらない。
以上のことから、甲1発明において、上記相違点1を解消することは、当業者であっても容易なことではない。

よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明並びに甲第1、4?9号証に記載された技術事項もしくは技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 本件特許発明1と甲2発明との対比・判断
本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、両者は、
「レーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した粒径45μm以上の粒子の含有量が30体積%未満であり、前記測定法で測定した粒径5μm未満の粒子の含有量が10体積%程度であり、ヘマタイトが0.3?0.4質量%程度、マグネタイトが0.8質量%、かつ、結晶相中の鉄(Fe)が0.79質量%?0.86質量%程度であるフライアッシュ」の点で一致し、
本件特許発明1では、フライアッシュの強熱減量が2.2質量%以上6.0質量%以下であるのに対し、甲2発明では、フライアッシュの強熱減量が1.2質量%である点で、相違する(以下、「相違点2」という。)

相違点2について検討するに、甲第2号証には、甲2発明に係るWR(原)のフライアッシュを分級したWR(細)とWR(粗)の強熱減量がそれぞれ2.0質量%、0.9質量%であること等は記載されているが、甲2発明に係るフライアッシュの強熱減量を2.2質量%以上とすることについては記載も示唆もない。
甲第4?9号証には、技術常識を考慮しても、甲2発明においてフライアッシュの強熱減量を1.2質量%よりも大きく2.2質量%以上とするための動機付けとなる記載は見当たらない。

よって、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明ではなく、甲第2号証に記載された発明並びに甲第2、4?9号証に記載された技術事項もしくは技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)本件特許発明3?6について
本件特許発明3?6については、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、上記(1)で検討したと同様に、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明ではなく、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明並びに甲第1、2、4?9号証に記載された技術事項もしくは技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件特許発明7について
ア 本件特許発明7と甲1’発明との対比・判断
本件特許発明7と甲1’発明とを対比すると、両者は、少なくとも、
本件特許発明7では、製造されるフライアッシュの強熱減量が2.2質量%以上6.0質量%以下であるのに対し、甲1’発明では、製造されるフライアッシュの強熱減量が2.1質量%である点で、相違する(以下、「相違点1’」という。)

相違点1’については、本件特許発明1について検討した相違点1と同様であり、甲第1、4?9号証に記載された技術事項及び技術常識を考慮しても、甲1’発明においてその解消をすることは当業者であっても容易なことではない。

よって、本件特許発明7は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第1、4?9号証に記載された技術事項もしくは技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明7と甲2’発明との対比・判断
本件特許発明7と甲2’発明とを対比すると、両者は、少なくとも、
本件特許発明7では、製造されるフライアッシュの強熱減量が2.2質量%以上6.0質量%以下であるのに対し、甲2’発明では、製造されるフライアッシュの強熱減量が1.2質量%である点で、相違する(以下、「相違点2’」という。)

相違点2’については、本件特許発明1について検討した相違点2と同様であり、甲第2、4?9号証に記載された技術事項及び技術常識を考慮しても、甲2’発明においてその解消をすることは当業者であっても容易なことではない。

よって、本件特許発明7は、甲第2号証に記載された発明並びに甲第2、4?9号証に記載された技術事項もしくは技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件特許発明8について
本件特許発明8については、本件特許発明7の発明特定事項をすべて含むものであるから、上記(3)で検討したと同様に、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明並びに甲第1、2、4?9号証に記載された技術事項もしくは技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)小括
以上のとおり、何れの取消理由も理由がない。


第6 特許異議申立理由について
1.申立理由1について
上記第5の2.の新規性の取消理由と同趣旨であり、上記で検討したとおりであるから、理由はない。

2.申立理由2について
甲第2号証に記載された発明との対比については、上記第5の4.で検討したとおりである。そして、甲第3号証には甲2発明においてフライアッシュの強熱減量を1.2質量%よりも大きく2.2質量%以上とするための動機付けとなる記載は見当たらない。よって、理由はない。

3.申立理由3について
甲第3号証には、甲第1号証に記載された発明と同様の、製造されるフライアッシュの強熱減量が2.1質量%である発明が記載されているに留まり、上記第5の4.(3)(4)で検討したと同様であるから、理由はない。


第7 むすび

以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3?8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、3?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2は訂正により削除され、同請求項に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した粒径45μm以上の粒子の含有量が38体積%未満であり、前記測定法で測定した粒径5μm未満の粒子の含有量が12体積%以下であり、ヘマタイトが0.30質量%以上0.75質量%以下、マグネタイトが0.20質量%以上1.25質量%以下、かつ、結晶相中の鉄(Fe)が0.21質量%以上1.45質量%以下であり、強熱減量が2.2質量%以上6.0質量%以下であることを特徴するフライアッシュ。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
化学成分としてのFe_(2)O_(3)が7.1質量%以下である、請求項1に記載のフライアッシュ。
【請求項4】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積基準粒度分布における累積頻度50%の平均粒径(D50)が15.0?30.0μmであり、前記平均粒径(D50)に対する前記測定法による体積基準粒度分布における累積頻度30%の粒径(D30)の粒径比(D30/D50)が0.50以上であり、前記平均粒径D50に対する前記測定法による体積基準粒度分布における累積頻度70%の粒径(D70)の粒径比(D70/D50)が1.85以下である、請求項1又は3に記載のフライアッシュ。
【請求項5】
請求項1、3?4のいずれか1項に記載のフライアッシュと、セメントとを含むセメント組成物。
【請求項6】
セメント組成物全量に対して、前記フライアッシュの含有量が1質量%を超え35質量%以下である、請求項5に記載のセメント組成物。
【請求項7】
フライアッシュ全体100体積%中のレーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した粒径45μm以上の粒子の含有量が38体積%未満となるように、原料のフライアッシュから粒径45μm以上の粒子の少なくとも一部を取り除く工程と、フライアッシュ全体100体積%中の前記測定法で測定した粒径5μm未満の粒子の含有量が12体積%以下となるように、原料のフライアッシュから粒径5μm未満の粒子の少なくとも一部を取り除く工程を含み、得られるフライアッシュは、ヘマタイトが0.30質量%以上0.75質量%以下、マグネタイトが0.20質量%以上1.25質量%以下、かつ、結晶相中の鉄(Fe)が0.21質量%以上1.45質量%以下であり、強熱減量が2.2質量%以上6.0質量%以下である、フライアッシュの製造方法。
【請求項8】
得られるフライアッシュの化学成分としてのFe_(2)O_(3)の含有量が7.1質量%以下である、請求項7に記載のフライアッシュの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-13 
出願番号 特願2017-142308(P2017-142308)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C04B)
P 1 651・ 851- YAA (C04B)
P 1 651・ 113- YAA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 原 和秀  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 菊地 則義
金 公彦
登録日 2018-01-26 
登録番号 特許第6278148号(P6278148)
権利者 住友大阪セメント株式会社
発明の名称 フライアッシュ、セメント組成物及びフライアッシュの製造方法  
代理人 大谷 保  
代理人 大谷 保  

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