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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G08B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G08B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G08B
管理番号 1356820
異議申立番号 異議2018-700559  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-10 
確定日 2019-09-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6258611号発明「警報システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6258611号の明細書,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6258611号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許6258611号の請求項1?4に係る特許についての出願は,平成25年6月21日に出願され,平成29年12月15日にその特許権の設定登録がされ,平成30年1月10日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許について,平成30年7月10日に特許異議申立人 市東 勇より請求項1?4に対して特許異議の申立てがされた。
その後の手続の経緯は,概ね次のとおりである。
平成30年 9月28日付け 取消理由通知
平成30年12月 4日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成31年 2月15日 特許異議申立人による意見書の提出
平成31年 4月22日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和 元年 6月11日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 元年 8月15日 特許異議申立人による意見書の提出

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
令和元年6月11日に提出された訂正請求書に係る訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は,以下のア?エのとおりである。なお,平成30年12月4日に提出された訂正請求書に係る訂正請求(以下「先の訂正請求」という。)は,特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされる。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を,
「監視領域に配置した検出器で異常を検出した場合に,異常検出信号を防災受信盤に送信して異常警報を出力すると共に,前記防災受信盤から,受信した異常に対応した移報信号を出力する防災監視設備と,
前記監視領域に配置され,ネットワークを経由して信号を送受信する複数の情報端末装置と,
前記防災受信盤から移報信号が出力された場合に,当該移報信号に基づく防災情報信号を生成し,当該防災情報信号を,前記ネットワークを経由して前記情報端末装置へ配信して防災情報を表示させるアダプタ装置と,
を備え,
前記防災監視設備は,監視領域に配置した火災感知器で火災を検出した場合に火災検出信号を前記防災受信盤に送信して火災警報を出力すると共に,前記防災受信盤から,火災発生場所を含む移報信号を出力し,
前記アダプタ装置は,前記防災受信盤からの火災発生場所を含む移報信号を受信した場合に,当該移報信号に基づき,火災警報及び火災発生場所を含む火災情報信号を生成して前記ネットワークを経由して前記複数の情報端末装置へ配信し,
前記複数の情報端末装置は,日常的に使用されているパソコンであり,当該日常的に使用されている場所に応じた避難口を示す地図情報を予め記憶し,前記ネットワークを経由して前記アダプタ装置からの火災情報信号を受信した場合に,当該火災情報信号に基づき,火災発生場所を示す火災警報画面及び直近の避難口を示す地図画面として当該地図情報を表示する画面を切り替え可能に表示することを特徴とする警報システム。」
に訂正し,請求項1を引用する請求項3,4も同様に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を,
「監視領域に配置した検出器で異常を検出した場合に,異常検出信号を防災受信盤に送信して異常警報を出力すると共に,前記防災受信盤から,受信した異常に対応した移報信号を出力する防災監視設備と,
前記監視領域に配置され,無線ネットワークを経由して信号を送受信する複数の情報端末装置と,
前記防災受信盤から移報信号が出力された場合に,当該移報信号に基づく防災情報信号を生成し,当該防災情報信号を,前記無線ネットワークを経由して前記情報端末装置へ配信して防災情報を表示させるアダプタ装置と,
を備え,
前記防災監視設備は,監視領域に配置した火災感知器で火災を検出した場合に火災検出信号を前記防災受信盤に送信して火災警報を出力すると共に,前記防災受信盤から,火災発生場所を含む移報信号を出力し,
前記アダプタ装置は,前記防災受信盤からの火災発生場所を含む移報信号を受信した場合に,当該移報信号に基づき,火災警報及び火災発生場所を含む火災情報信号を生成して前記無線ネットワークを経由して前記複数の情報端末装置へ配信し,
前記複数の情報端末装置は,日常的に使用されているタブレットや携帯電話であり,当該日常的に使用されている場所に応じた避難口を示す地図情報を予め記憶し,前記無線ネットワークを経由して前記アダプタ装置からの火災情報信号を受信した場合に,当該火災情報信号に基づき,火災発生場所を示す火災警報画面及び直近の避難口を示す地図画面として当該地図情報を表示する画面を切り替え可能に表示することを特徴とする警報システム。」
に訂正し,請求項2を引用する請求項3,4も同様に訂正する。

ウ 訂正事項3
明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】に記載された,「複数の情報端末装置は,日常的に使用されているパソコンであり,ネットワークを経由してアダプタ装置からの火災情報信号を受信した場合に,当該火災情報信号に基づき,火災発生場所を示す火災警報画面及び直近の避難口を示す地図画面を切り替え可能に表示することを特徴とする。」を,「複数の情報端末装置は,日常的に使用されているパソコンであり,当該日常的に使用されている場所に応じた避難口を示す地図情報を予め記憶し,ネットワークを経由してアダプタ装置からの火災情報信号を受信した場合に,当該火災情報信号に基づき,火災発生場所を示す火災警報画面及び直近の避難口を示す地図画面として当該地図情報を表示する画面を切り替え可能に表示することを特徴とする。」へと訂正する。

エ 訂正事項4
明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】に記載された,「複数の情報端末装置は,日常的に使用されているタブレットや携帯電話であり,無線ネットワークを経由してアダプタ装置からの火災情報信号を受信した場合に,当該火災情報信号に基づき,火災発生場所を示す火災警報画面及び直近の避難口を示す地図画面を切り替え可能に表示することを特徴とする。」を,「複数の情報端末装置は,日常的に使用されているタブレットや携帯電話であり,当該日常的に使用されている場所に応じた避難口を示す地図情報を予め記憶し,無線ネットワークを経由してアダプタ装置からの火災情報信号を受信した場合に,当該火災情報信号に基づき,火災発生場所を示す火災警報画面及び直近の避難口を示す地図画面として当該地図情報を表示する画面を切り替え可能に表示することを特徴とする。」へと訂正する。

本件訂正請求は,一群の請求項〔1?4〕に対して請求されたものである。また,明細書に係る訂正は,一群の請求項〔1?4〕について請求されたものである。

(2)訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
(ア)訂正事項1は,訂正前の請求項1に「当該日常的に使用されている場所に応じた避難口を示す地図情報を予め記憶し,」との記載を追加して,「日常的に使用されているパソコン」である「複数の情報端末装置」について,「当該日常的に使用されている場所に応じた避難口を示す地図情報を予め記憶」するものであるという点で限定し,また,訂正前の請求項1の「地図画面を切り替え可能に表示する」との記載を「地図画面として当該地図情報を表示する画面を切り替え可能に表示する」との記載に変更して,「複数の情報端末装置」が表示する「地図画面」の内容について,「当該地図情報を表示する画面」であるという点で限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的としている。

(イ)明細書の段落【0016】には,「監視領域となるオフィスビルで働いている人が日常的に使用しているパソコン等の情報端末装置」と記載されており,段落【0057】には,「情報端末装置24」が「パソコン」であることが記載されており,段落【0061】には,「情報端末装置24は,その設置場所に応じて避難口を示したフロアマップ情報を予め記憶しており,火災情報信号を受信した場合に,火災警報画面W1に合わせて,その階のフロアマップ画面W2を,火災警報画面W1の下に表示し」と記載されている。ここで,「フロアマップ情報」は地図情報であるといえる。したがって,訂正事項1は,新規事項の追加に該当せず,明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ)訂正事項1が,実質上特許請求の範囲を拡張するものでなく,変更するものでもないことは明らかである。

イ 訂正事項2について
(ア)訂正事項2は,訂正前の請求項2について,「複数の情報端末装置」が「日常的に使用されているタブレットや携帯電話」である点を除き,上記ア(ア)の訂正事項1と同様の記載の追加及び変更を行って,発明特定事項を限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的としている。

(イ)明細書には,上記ア(イ)の記載に加えて,段落【0087】に「上記の実施形態は,情報端末装置としてパソコンを例にとっているが,防災情報を表示可能な機器であれば,タブレットや携帯電話などの適宜の端末機器を含む。」と記載されているから,訂正事項2は,新規事項の追加に該当せず,明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ)訂正事項2が,実質上特許請求の範囲を拡張するものでなく,変更するものでもないことは明らかである。

ウ 訂正事項3,4について
訂正事項3,4は,それぞれ上記ア,イの特許請求の範囲の訂正に伴う明細書の訂正であるから,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(3)訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって,明細書,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正明細書,特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。

3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?4に係る発明(以下,請求項1?4に係る発明を,それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明4」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により,特定されるものである。
(1)本件特許発明1
「監視領域に配置した検出器で異常を検出した場合に,異常検出信号を防災受信盤に送信して異常警報を出力すると共に,前記防災受信盤から,受信した異常に対応した移報信号を出力する防災監視設備と,
前記監視領域に配置され,ネットワークを経由して信号を送受信する複数の情報端末装置と,
前記防災受信盤から移報信号が出力された場合に,当該移報信号に基づく防災情報信号を生成し,当該防災情報信号を,前記ネットワークを経由して前記情報端末装置へ配信して防災情報を表示させるアダプタ装置と,
を備え,
前記防災監視設備は,監視領域に配置した火災感知器で火災を検出した場合に火災検出信号を前記防災受信盤に送信して火災警報を出力すると共に,前記防災受信盤から,火災発生場所を含む移報信号を出力し,
前記アダプタ装置は,前記防災受信盤からの火災発生場所を含む移報信号を受信した場合に,当該移報信号に基づき,火災警報及び火災発生場所を含む火災情報信号を生成して前記ネットワークを経由して前記複数の情報端末装置へ配信し,
前記複数の情報端末装置は,日常的に使用されているパソコンであり,当該日常的に使用されている場所に応じた避難口を示す地図情報を予め記憶し,前記ネットワークを経由して前記アダプタ装置からの火災情報信号を受信した場合に,当該火災情報信号に基づき,火災発生場所を示す火災警報画面及び直近の避難口を示す地図画面として当該地図情報を表示する画面を切り替え可能に表示することを特徴とする警報システム。」

(2)本件特許発明2
「監視領域に配置した検出器で異常を検出した場合に,異常検出信号を防災受信盤に送信して異常警報を出力すると共に,前記防災受信盤から,受信した異常に対応した移報信号を出力する防災監視設備と,
前記監視領域に配置され,無線ネットワークを経由して信号を送受信する複数の情報端末装置と,
前記防災受信盤から移報信号が出力された場合に,当該移報信号に基づく防災情報信号を生成し,当該防災情報信号を,前記無線ネットワークを経由して前記情報端末装置へ配信して防災情報を表示させるアダプタ装置と,
を備え,
前記防災監視設備は,監視領域に配置した火災感知器で火災を検出した場合に火災検出信号を前記防災受信盤に送信して火災警報を出力すると共に,前記防災受信盤から,火災発生場所を含む移報信号を出力し,
前記アダプタ装置は,前記防災受信盤からの火災発生場所を含む移報信号を受信した場合に,当該移報信号に基づき,火災警報及び火災発生場所を含む火災情報信号を生成して前記無線ネットワークを経由して前記複数の情報端末装置へ配信し,
前記複数の情報端末装置は,日常的に使用されているタブレットや携帯電話であり,当該日常的に使用されている場所に応じた避難口を示す地図情報を予め記憶し,前記無線ネットワークを経由して前記アダプタ装置からの火災情報信号を受信した場合に,当該火災情報信号に基づき,火災発生場所を示す火災警報画面及び直近の避難口を示す地図画面として当該地図情報を表示する画面を切り替え可能に表示することを特徴とする警報システム。」

(3)本件特許発明3
「請求項1又は2記載の警報システムに於いて,前記情報端末装置は,マルチウィンドウ形式の表示画面を有し,前記火災情報信号を受信した場合,前記火災警報画面を最前面に表示すると共に,前記地図画面を当該火災警報画面の下に表示し,利用者の所定の操作により当該地図画面を最前面に表示することを特徴とする警報システム。」

(4)本件特許発明4
「請求項1又は2記載の警報システムに於いて,前記情報端末装置は,前記火災警報画面に,エレベータが使用できない旨を表示することを特徴とする警報システム。」

4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
当審が平成31年4月22日付けで特許権者に通知した取消理由は,先の訂正請求による訂正後の請求項2?4に係る特許に対して通知したものであり,その概要は,次のとおりである。
請求項2?4に係る発明は,以下の刊行物1に記載された発明,及び,刊行物2,3,5,7,8のいずれかに示される周知技術に基づいて,当業者が容易に想到することができたものである。よって,請求項2?4に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。
刊行物1:特開2011-242881号公報(異議申立人提出の甲第1号証)
刊行物2:特開2002-183864号公報(異議申立人提出の甲第2号証)
刊行物3:特開平6-111172号公報(異議申立人提出の甲第3号証)
刊行物5:特開平8-305985号公報(異議申立人提出の甲第5号証)
刊行物7:特開2013-73415号公報(異議申立人提出の甲第7号証)
刊行物8:特表2008-526058号公報(異議申立人提出の甲第8号証)

なお,上記取消理由では,以下の刊行物は引用されていない。
刊行物4:特開2004-272398号公報(異議申立人提出の甲第4号証)
刊行物6:特開平6-111172号公報(異議申立人提出の甲第6号証)

(2)刊行物1の記載,甲1発明
ア 刊行物1(特開2011-242881号公報)には,図面とともに,以下の事項が記載されている(下線は当審による。)。
(ア)「【0001】
本発明は,避難誘導方法,及びこの方法に用いる情報処理システムに関し,とくに災害発生時に建物内に居る人を迅速かつ安全に避難させるための技術に関する。」

(イ)「【0023】
以下,本発明の一実施形態につき図面を参照しつつ説明する。
=情報処理システム=
図1は実施形態として説明する情報処理システム1の概略的な構成を示している。情報処理システム1は,火災,ガス漏れ,地震などの災害発生時に被災者の安全地帯への誘導が必要な施設(例えば,ホテル等の宿泊施設,オフィスビル,病院,校舎,ショッピングセンター,デパート,高層マンション,大型客船)に設けられる。以下の説明では,高層階のホテル2を施設の一例として説明する。
【0024】
同図に示すように,情報処理システム1は,ホテル2の所定位置に設けられる,サーバ装置100,サーバ装置100と通信ネットワーク50を介して通信可能に接続される一台以上の基地局200,ホテル2の宿泊客や従業員等(以下,被誘導者3と称する。)によって所持される被誘導者端末300,被誘導者3を救助するレスキュー隊員などの救助者4によって所持される救助者端末400,及びホテル2内の随所に設けられサーバ装置100と通信可能に接続される複数の災害検知センサ500(火災検知センサ,地震計,ガス漏れ検知センサ等)を含む。」

(ウ)「【0026】
通信ネットワーク50は有線通信方式又は無線通信方式で機器間を通信可能に接続する。通信ネットワーク50は,例えば,LAN(Local Area Network),インターネットなどである。」

(エ)「【0030】
図3にサーバ装置100の主な機能を示している。同図に示すように,サーバ装置100は,被誘導者現在位置管理部121,避難誘導情報提供部122,災害情報管理部123,救助者現在位置管理部125,及び救助支援情報提供部126の各機能を備えている。
【0031】
被誘導者現在位置管理部121は,基地局200と通信して被誘導者端末300の現在位置(被誘導者3の現在位置)を取得する。
【0032】
避難誘導情報提供部122は,基地局200を介して被誘導者端末300と通信し,被誘導者端末300に避難経路を案内する情報(以下,避難誘導情報と称する。)を提供する。
【0033】
災害情報管理部123は,火災検知センサ500から送られてくる情報に基づきホテル2内に現在生じている災害に関する情報を後述の災害情報136として管理する。尚,これらの機能の詳細については後述する。」

(オ)「【0041】
図6に被誘導者端末300(救助者端末400も共通)のハードウエア構成を示している。同図に示すように,被誘導者端末300は,CPU311,メモリ312,無線通信インタフェース313,指向性アンテナ314,タッチパネルや操作ボタン等の入力装置315,及び液晶ディスプレイ等の表示装置316を備える。CPU311は,メモリ312に記憶されているプログラムを実行することにより被誘導者端末300が備える各種の機能を実現する。尚,被誘導者端末300(又は救助者端末400)は,携帯電話機等の他の用途に用いられる携帯機器のハードウエアを用いて構成してもよい。また携帯電話機等の無線通信を行うハードウエアを用いる場合には,通話やデータ通信等の他の用途で使用する無線信号の周波数帯と,後述する位置標定に用いる無線信号の周波数帯を分けるようにしてもよい(この場合は夫々の周波数帯の波長に適合するアンテナを用意する必要がある。)
【0042】
図7に被誘導者端末300(救助者端末400も共通)が備える主な機能を示している。同図において,位置標定信号受信部331は,無線通信インタフェース313により基地局200から送信される位置標定信号を受信する。情報送受信部332は,通信ネットワーク50を介してサーバ装置100と通信し,ファームウエア等の被誘導者端末300で実行されるプログラムやデータの更新情報や被誘導者3(又は救助者4)に提示するための情報の受信(ダウンロード),及びサーバ装置100において用いられる各種情報についての被誘導者端末300(又は救助者端末400)からサーバ装置100への送信(アップロード)を行う。」

(カ)「【0073】
図18に災害情報136の一例を示す。災害情報136には,ホテル2にて現在生じている災害に関する情報が格納されている。同図に示すように,災害情報136は,発生時刻1361,種類1362,階数1363,及び座標1364の各項目を有する一つ以上のレコードで構成される。
【0074】
発生時刻1361には,災害が発生した時刻(例えば,災害検知センサ500に基づき災害の発生を検知した時刻)が設定される。種類1362には,その災害の種類(火災,ガス漏れ,地震等)を示す情報が設定される。階数1363には,その災害現場のフロア(階数)が設定される。座標1364には,そのフロアの災害の発生現場の位置を示す座標(例えばフロア毎に設定される平面座標系における座標)が設定される。」

(キ)「【0078】
<避難誘導>
次に情報処理システム1において行われる避難誘導に関する処理について説明する。図20はこの処理(以下,避難誘導処理S2000と称する。)を説明するフローチャートである。同図に示す処理は,例えば,火災報知器の警報やホテル2の館内放送などによりホテル2内で災害が発生したことを知った被誘導者3が,入力装置315に対して所定の操作を行うことにより開始される。尚,災害発生時にサーバ装置100から自動的に被誘導者端末300に災害が発生した事を示す情報を表示して被誘導者3に災害の発生を通知するようにしてもよい。」

(ク)「【0082】
次にサーバ装置100は,避難経路情報135に登録されている避難経路のうち,被誘導者端末300の現在位置(S2014で取得した階数と端末位置情報2111とで特定される位置)に対応する避難経路(以下,避難経路候補と称する。)を抽出する(S2015)。より具体的には,避難経路情報135に登録されている避難経路のうち,適用階数1353と適用範囲1354とで特定される範囲に被誘導者端末300の現在位置を含む避難経路(避難経路ID1351)を抽出する。
【0083】
次にサーバ装置100は,S2015にて抽出した避難経路候補のうち,災害発生現場を通る経路を除外する(S2016)。この処理は,例えば避難経路候補の避難経路1352とチェックポイント情報134とに基づき,各避難経路候補が災害情報136から取得される災害発生現場を通るか否かを判断することにより行う。
【0084】
次にサーバ装置100は,S2016にて除外されずに残った避難経路候補の夫々について,さらに条件を課して最終的に1つの避難経路を決定する(S2017)。」

(ケ)「【0091】
次にサーバ装置100は,S2017にて決定した避難経路を案内する避難誘導情報を生成する(S2019)。ここで生成される避難誘導情報には,例えば,フロアマップ情報133から取得されるマップデータに,S2017にて決定した避難経路を案内するための画面データや,避難経路の周囲に存在する施設(例えば,客室,売店,自動販売機,給湯室,洗面所,エレベータ,階段,非常口,火災報知器など)の種類や位置を示す情報などが含まれる。
【0092】
次にサーバ装置100は,生成した避難誘導情報を,避難誘導情報取得要求2100を送信してきた被誘導者端末300に送信する(S2020)。
【0093】
被誘導者端末300は,サーバ装置100から避難誘導情報を受信すると(S2021),受信した情報に基づく画面や音声案内を被誘導者3に提供する(S2022)。図24に,被誘導者端末300に避難誘導情報が表示されている様子を示す。同図に示すように,表示装置316には,被誘導者3の現在位置3161,施設の位置3163,災害発生場所3164,及び避難経路3165が表示される。」
【0094】
以上によれば,サーバ装置100は,携帯端末(被誘導者端末300)による位置標定によって取得される正確な現在位置を用いて,被誘導者3に正確な避難経路を提供することができる。これによれば,被誘導者3は,正確な避難経路の情報を利用して,安全な場所に効率よく避難することができる。」

(コ)図1

(サ)図20

(シ)図24


イ 上記アから,以下のことがいえる。
火災検知センサ,ガス漏れ検知センサ等の災害検知センサ500は,ホテル2内に設けられる。(段落【0024】)
被誘導者端末300は,携帯電話機を用いて構成され,ホテル2の宿泊客や従業員等によって所持され,無線通信方式等の通信ネットワーク50を介してサーバ装置100と通信し,情報の受信及び送信を行う。(段落【0024】,【0026】,【0041】,【0042】)
被誘導者端末300は複数存在する。(図1)
災害検知センサ500が火災検知センサであれば,当該火災検知センサが火災を検知した場合に情報をサーバ装置100に送る。(段落【0024】,【0030】,【0033】)
サーバ装置100が,災害発生時に被誘導者端末300に災害が発生した事を示す情報を表示して被誘導者3に災害の発生を通知することで,ホテル2内で災害が発生したことを知った被誘導者3が,入力装置315に対して所定の操作を行うことにより,避難誘導に関する処理が開始される。(段落【0078】)
災害の発生の通知(段落【0078】)は,火災検知センサが火災を検知した場合は,火災発生時のものであることが明らかである。
避難誘導に関する処理において,サーバ装置100は,抽出した避難経路候補から災害発生現場を通る経路を除外する際に除外されずに残った避難経路候補の中から,1つの避難経路を決定し,マップデータに当該決定した避難経路を案内するための画面データが含まれる避難誘導情報を生成して,被誘導者端末300は,避難誘導情報に基づいて,災害発生場所3164,及び避難経路3165を表示する。(段落【0078】,【0082】?【0084】,【0091】,【0093】,図20,24)
災害発生場所3164として,火災発生場所が表示される。(図24)

ウ 甲1発明
上記ア,イによれば,刊行物1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ホテル内に設けられた火災検知センサ,ガス漏れ検知センサ等の災害検知センサと,
ホテルの宿泊客や従業員等によって所持され,無線通信方式等の通信ネットワークを介してサーバ装置と通信し,情報の受信及び送信を行う複数の被誘導者端末と,
災害発生時に被誘導者端末に災害が発生した事を示す情報を表示して被誘導者に災害の発生を通知するサーバ装置と,
を備え,
ホテル内に設けられた火災検知センサが火災を検知した場合に情報をサーバ装置に送り,
サーバ装置は,火災発生時に被誘導者端末に災害が発生した事を示す情報を表示して被誘導者に災害の発生を通知し,
複数の被誘導者端末は,携帯電話機を用いて構成され,
複数の被誘導者端末は,サーバ装置が災害発生時に被誘導者端末に災害が発生した事を示す情報を表示して被誘導者に災害の発生を通知することで,ホテル内で災害が発生したことを知った被誘導者が,入力装置に対して所定の操作を行うことにより開始される,避難誘導に関する処理において,サーバ装置が生成する避難誘導情報に基づいて,火災発生場所及び避難経路を表示し,ここで,避難経路は,抽出した避難経路候補から災害発生現場を通る経路を除外する際に除外されずに残った避難経路候補の中から,1つの避難経路を決定したものであり,避難誘導情報には,マップデータに当該決定した避難経路を案内するための画面データが含まれる,情報処理システム。」

(4)本件特許発明2についての対比・判断
ア 本件特許発明2と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「ホテル内」は,監視領域であり,同「火災検知センサ,ガス漏れ検知センサ等の災害検知センサ」は,異常検出信号を送信する検出器であるとともに,防災監視設備を構成しており,同「無線通信方式等の通信ネットワーク」は,「無線通信方式」の場合,無線ネットワークであり,同「被誘導者端末」は情報端末装置であり,同「情報処理システム」は警報システムであるといえる。

(イ)甲1発明の「被誘導者端末」は「ホテルの宿泊客や従業員等によって所持され」るから,監視領域に配置されるものであるといえる。

(ウ)甲1発明の「災害が発生した事を示す情報」は,本件特許発明2の「防災情報」に相当する。

(エ)本件特許明細書の例えば「アダプタ装置30は,防災受信盤10から火災受信に基づく移報信号を受信した場合に,当該移報信号に基づく火災情報信号を生成してLAN回線26を経由して情報端末装置24へ配信して火災情報を表示させる。」(段落【0032】)との記載を参酌すると,本件特許発明2の「アダプタ装置」とは,受信した信号(移報信号)を変換して,他の信号(火災情報信号等)を生成する手段であるものと解される。
一方,甲1発明の「被誘導者端末」は「通信ネットワークを介してサーバ装置と通信」することから,「サーバ装置」は,「被誘導者端末に災害が発生した事を示す情報を表示」するための信号を生成し,当該信号を通信ネットワークを経由して被誘導者端末へ配信することが必要であるところ,上記信号の生成が,「災害検知センサが火災等を検知した場合にサーバ装置に送る情報」に対応する信号をサーバ装置が変換することにより行われることが明らかである。
したがって,甲1発明の「サーバ装置」は,変換前後の各信号の内容は別として,本件特許発明2の「アダプタ装置」に相当し,また,甲1発明の「被誘導者端末に災害が発生した事を示す情報を表示して被誘導者に災害の発生を通知するサーバ装置」と,本件特許発明2の「防災情報信号を生成し,当該防災情報信号を,前記無線ネットワークを経由して前記情報端末装置へ配信して防災情報を表示させるアダプタ装置」とは,「信号を生成し,当該信号を,無線ネットワークを経由して情報端末装置へ配信して防災情報を表示させるアダプタ装置」という点で共通している。

(オ)甲1発明において,「ホテル内に設けられた火災検知センサが火災を検知した場合に情報をサーバ装置に送」ることと,本件特許発明2において,「前記防災監視設備は,監視領域に配置した火災感知器で火災を検出した場合に火災検出信号を前記防災受信盤に送信」することとは,「防災監視設備は,監視領域に配置した火災感知器で火災を検出した場合に火災検出信号を送信」するという点で共通している。

(カ)上記(エ)と同様の理由により,甲1発明において「サーバ装置は,火災発生時に被誘導者端末に災害が発生した事を示す情報を表示して被誘導者に災害の発生を通知」することと,本件特許発明2において,「前記アダプタ装置」が「火災情報信号を生成し,所定のグループを指定して前記無線ネットワークを経由して前記複数の情報端末装置へ配信」することとは,「アダプタ装置は,火災発生時に信号を生成して無線ネットワークを経由して複数の情報端末装置へ配信」するという点で共通している。

(キ)甲1発明の「複数の被誘導者端末」は,「携帯電話機を用いて構成され」るから,本件特許発明2の「日常的に使用されているタブレットや携帯電話」と,「携帯電話」である点で共通している。

(ク)甲1発明の「複数の被誘導者端末」は,「サーバ装置が災害発生時に被誘導者端末に災害が発生した事を示す情報を表示して被誘導者に災害の発生を通知することで,ホテル内で災害が発生したことを知った被誘導者が,入力装置に対して所定の操作を行うことにより開始される,避難誘導に関する処理において,火災発生場所及び避難経路を表示する」から,「災害発生場所及び避難経路」の「表示」と,上記(エ)で検討した「サーバ装置」が生成する信号とは,被誘導者端末が後者の信号を受信した場合に,後者の信号に基づき,前者の表示を行う関係を有しているといえる。
また,甲1発明の「複数の被誘導者端末」における「避難誘導情報」に基づく「火災発生場所及び避難経路」の表示は,「避難誘導情報」に「マップデータに当該決定した避難経路を案内するための画面データが含まれる」から,火災発生場所及び避難口を示す地図画面として地図情報を表示する画面を表示するものである。
したがって,甲1発明において,「複数の被誘導者端末は,サーバ装置が災害発生時に被誘導者端末に災害が発生した事を示す情報を表示して被誘導者に災害の発生を通知することで,ホテル内で災害が発生したことを知った被誘導者が,入力装置に対して所定の操作を行うことにより開始される,避難誘導に関する処理において,サーバ装置が生成する避難誘導情報に基づいて,火災発生場所及び避難経路を表示」することと,本件特許発明2において,「前記複数の情報端末装置」が「当該日常的に使用されている場所に応じた避難口を示す地図情報を予め記憶し,前記無線ネットワークを経由して前記アダプタ装置からの火災情報信号を受信した場合に,当該火災情報信号に基づき,火災発生場所を示す火災警報画面及び直近の避難口を示す地図画面として当該地図情報を表示する画面を切り替え可能に表示する」こととは,「複数の情報端末装置は,無線ネットワークを経由してアダプタ装置からの信号を受信した場合に,当該信号に基づき,火災発生場所及び避難口を示す地図画面として地図情報を表示する画面を表示する」という点で共通している。

イ そうすると,本件特許発明2と甲1発明とは,以下の点で一致し,また,相違する。
(ア)一致点
「監視領域に配置した検出器で異常を検出した場合に,異常検出信号を出力する防災監視設備と,
前記監視領域に配置され,無線ネットワークを経由して信号を送受信する複数の情報端末装置と,
信号を生成し,当該信号を,前記無線ネットワークを経由して前記情報端末装置へ配信して防災情報を表示させるアダプタ装置と,
を備え,
前記防災監視設備は,監視領域に配置した火災感知器で火災を検出した場合に火災検出信号を送信し,
前記アダプタ装置は,信号を生成して前記無線ネットワークを経由して前記複数の情報端末装置へ配信し,
前記複数の情報端末装置は,携帯電話であり,前記無線ネットワークを経由して前記アダプタ装置からの信号を受信した場合に,当該信号に基づき,火災発生場所及び避難口を示す地図画面として地図情報を表示する画面を表示することを特徴とする警報システム。」

(イ)相違点1
「防災監視設備」に関し,本件特許発明2では,検出器の他に「防災受信盤」から構成され,異常検出信号を当該「防災受信盤」に送信して「異常警報を出力する」と共に,「前記防災受信盤から,受信した異常に対応した移報信号を出力する」ものであるのに対し,甲1発明では,単に「災害検知センサ」から構成され,「防災受信盤」は存在せず,異常検出信号の送信先が「防災受信盤」ではない点。
また,それに伴い,「アダプタ装置」が「信号を生成」するのが,本件特許発明2では,「防災受信盤から移報信号が出力された場合に,当該移報信号に基づく」ものであるのに対し,甲1発明では,その特定がない点。

(ウ)相違点2
「アダプタ装置」が「生成」する「信号」の内容が,本件特許発明2では「防災情報信号」であるのに対し,甲1発明では内容が特定されない点。

(エ)相違点3
相違点1に関連して,本件特許発明2では,火災検出信号を「防災受信盤」に送信し,かつ当該「防災受信盤」が「火災警報を出力すると共に」,当該「防災受信盤」から「火災発生場所を含む移報信号を出力」するのに対し,甲1発明では,「防災受信盤」が存在せず,火災検出信号の送信先が「防災受信盤」ではない点。
また,それに伴い,「アダプタ装置」が「信号を生成」するのが,本件特許発明2では,「前記防災受信盤からの火災発生場所を含む移報信号を受信した場合に,当該移報信号に基づ」いているのに対し,甲1発明では,その特定がない点。

(オ)相違点4
相違点2に関連して,「アダプタ装置」が「生成」する「信号」の内容が,本件特許発明2では「火災警報及び火災発生場所を含む火災情報信号」であるのに対し,甲1発明では内容が特定されない点。
また,それに伴い,「複数の情報端末装置」が「表示する」のが,本件特許発明2では,「火災情報信号」を受信した場合であり,当該信号に基づいて「火災発生場所を示す火災警報画面」を表示するのに対し,甲1発明では,受信する信号が特定されず,表示内容も「災害発生場所」であって「火災発生場所を示す火災警報画面」ではない点。

(カ)相違点5
「携帯電話」が,本件特許発明2では「日常的に使用されている」ものであるのに対し,甲1発明ではその特定がない点。

(キ)相違点6
「前記複数の情報端末装置」が,本件特許発明2では,「当該日常的に使用されている場所に応じた避難口を示す地図情報を予め記憶」するとともに,「地図情報を表示する画面」に表示する「避難口」が,本件特許発明2では,「直近の」ものであるのに対し,甲1発明ではそれらの特定がない点。

(ク)相違点7
「火災発生場所」を表示することが,本件特許発明2では,「直近の避難口を示す地図画面として当該地図情報を表示する画面」とは別の,「火災発生場所を示す火災警報画面」において行われるのに対し,甲1発明で「火災発生場所及び避難経路」を表示するものとして行われる点。また,画面表示の態様が,本件特許発明2では「切り替え可能に」であるのに対し,甲1発明ではその特定がない点。

ウ 事案に鑑み,まず相違点6について検討する。
甲1発明において,個々の「被誘導者端末」に表示される「避難経路」は,「抽出した避難経路候補から災害発生現場を通る経路を除外する際に除外されずに残った避難経路候補の中から,1つの避難経路を決定したもの」であるから,「避難経路」は,災害発生現場に対応して変化することが明らかである。
一方,特開平6-111172号公報(刊行物6,異議申立人提出の甲第6号証)には,「表示装置101及び記憶装置107を備える情報出力システム100(段落【0031】)において,表示装置101あるいは情報出力システム100の設置場所が会議室とされ,記憶装置107が,地震時の避難経路の地図とが含まれている避難情報であって,会議室のある建物における位置あるいは環境またその建物の敷地条件等に応じてカスタマイズされた避難情報を記憶し(段落【0038】),表示装置101の信号検出部104が緊急地震速報の信号を検出すると(段落【0032】,【0044】),記憶装置107から地震時の対処方法と地震時の避難経路の地図とが含まれている避難情報を読み出し(段落【0046】),避難情報の映像データを表示装置101へ送信して表示部105にて表示させる(段落【0048】)こと」が記載されていると認められる。
しかしながら,刊行物6の上記記載事項において,情報出力システム100の記憶装置107に記憶される避難経路の地図が,会議室のある建物における「直近の避難口」までの経路であるとしても,仮に甲1発明に当該記載事項を適用した場合,表示される避難経路は,災害発生現場の場所にかかわらず変化することのない,固定的なものとなるところ,刊行物1には,災害発生現場と無関係に「直近の避難口」を固定的に表示する必然性について記載も示唆もないことから,甲1発明に当該記載事項を適用する動機付けはない。
むしろ,甲1発明は,災害発生現場に対応して変化する避難経路を表示することにより,刊行物1の段落【0094】(上記(2)ア(ケ))に記載されているように,「サーバ装置100は,携帯端末(被誘導者端末300)による位置標定によって取得される正確な現在位置を用いて,被誘導者3に正確な避難経路を提供することができる」ものであるから,刊行物6の上記記載事項を適用することには,「正確な避難経路」が提供できなくなる点で阻害要因があるといえる。
また,他に,相違点6に係る構成が当業者が容易に想到し得るとする根拠は見出せない。

エ よって,他の相違点について検討するまでもなく,本件特許発明2は,甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(5)本件特許発明1,3,4についての対比・判断
本件特許発明1は,本件特許発明2において,「無線ネットワーク」を「ネットワーク」で,「タブレットや携帯電話」を「パソコン」で,それぞれ置き換えたものであるから,本件特許発明1を甲1発明と対比した場合の相違点には,相違点6(上記(4)イ(キ))が含まれる。
また,本件特許発明3,4は請求項1又は2を引用している。
そうすると,本件特許発明1,3,4も,本件特許発明2と同様に,甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

5 先の取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立人は,特許異議申立書において,本件特許の明細書及び図面は,当業者が本件特許の請求項1?4に係る発明(当審注:訂正前のもの)を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく,また,本件特許の請求項1?4に係る発明は,本件特許の明細書及び図面に記載された範囲を超える発明であって,特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨,主張する。
上記主張の理由として指摘されている内容は,概ね次のとおりである。
本件特許の明細書には,情報端末装置において直近の避難口を示す地図画面を表示する手法として,情報端末装置の設置場所に応じて避難ロを示したフロアマップ情報を予め情報端末装置に記憶させ,これを用いて直近の避難口を示す方法しか記載されておらず,これは,情報端末装置の設置場所が特定されていない場合には用いることができない手法であって,その場合において,どのようにして直近の避難口を特定し,これを示す地図情報を表示するのかは全く示されていない。しかしながら,本件特許発明1においては,情報端末装置は,「日常的に使用されているパソコン」とされており,また,本件特許発明2においては,情報端末装置は,「日常的に使用されているタブレットや携帯電話」とされているところ,「日常的に使用されているパソコン」が,例えばノートパソコン等,必ずしも設置場所が特定されていないものを含むことは明らかであり,また,「日常的に使用されているタブレットや携帯電話」に至っては,およそ設置場所が特定されていることなど考え難い。

(2)また,特許異議申立人は,令和元年8月15日に提出された意見書(以下,単に「意見書」という。)において,本件特許発明1?4は,明確でなく,発明の詳細な説明に記載されていないから,特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない旨,主張するとともに,本件特許の発明の詳細な説明は,当業者が本件特許発明1?4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨,主張する。
上記主張の理由として指摘されている内容は,概ね次のとおりである。
本件特許発明2における,特定の設置場所が存在せず,その所在が一か所に定まらないタブレットや携帯電話については,これが使用される場所には,極めて多くの場所が含まれるから,どの範囲までが,「日常的に使用されている場所」に該当し,かつ,それぞれの場所において,どのような地図情報が,その「場所に応じた避難口を示す地図情報」に該当するのかは,請求項2の記載のみからでは,当業者にとって不明である。また,本件特許の明細書には,「設置場所」が存在し得ないタブレットや携帯電話について,「日常的に使用されている場所に応じ避難口を示す地図情報」が,いかなる場所に対応した,いかなる地図情報を意味するかについての記載は一切存在しない。したがって,いかなる場所に対応した,いかなる地図情報であれば,本件特許発明2の「日常的に使用されている場所に応じた避難口を示す地図情報」という発明特定事項に含まれるかは,明細書の記載を考慮しても,当業者にとって到底理解できるものではないから,本件特許発明2は明確でない。
発明の詳細な説明には,情報端末装置がタブレットや携帯電話である場合について,「日常的に使用されている場所に応じた避難口を示す地図情報」として,いかなる場所に対応して,それぞれの場所についていかなる情報を記憶することで,本件特許発明2に係る発明を実現し得るかにつき,その一例さえも記載されていない。
この点に鑑みれば,本件特許発明2は,発明の詳細な説明に記載された範囲を超える発明であり,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの,又はその記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものに該当しないから,本件特許発明2は発明の詳細な説明に記載したものではなく,また,タブレットや携帯電話について,これが日常的に使用されている場所として,極めて多くの場所が想定される本件特許発明2について,それぞれの場所に応じて「避難口を示す地図情報」を記憶させ,本件特許発明2の全体を実施するに足る記載が,発明の詳細な説明に存在しないことは明白であり,本件特許発明2に係る発明の全体を実施することに,当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤や創意工夫を強いる事情のある場合に該当することは明らかであるから,発明の詳細な説明の記載は,本件特許発明2につき,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
本件特許発明1についても,少なくとも情報端末装置としてのパソコンがモバイル端末としてのノートパソコンである場合については本件特許発明2と同様に解される以上,「日常的に使用されている場所に応じた避難口を示す地図情報」を予め記憶するという発明特定事項を含む本件特許発明1が,本件特許発明2と同様に,明確でないものとして特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず,発明の詳細な説明に記載したものではないものとして特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず,かつ,本件特許の発明の詳細な説明の記載が本件特許発明1につき当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないものとして特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないことは明らかである。
本件特許の明細書においては,本件特許に係る発明が奏すべき効果として,「……この防災情報表示として火災発生場所や直近の避難口を表示することで,発生した火災の状況を正確に把握でき,防災受信盤と同等な火災情報を情報端末装置の使用者毎に個別に表示し,迅速且つ適切な初期消火や避難行動といった火災対処を可能とする。」という効果が掲げられている(段落【0016】)が,本件特許発明1における情報端末装置としてのパソコンを,特定の設置場所が存在する据え置き型のものに限定的に解したとしても,本件特許発明1によってこのような効果が得られるのは,一部の場合に過ぎないから,どの範囲までが本件特許が奏すべき効果を得られるのかは不明であり,本件特許発明1は,依然として明確でないものとして特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず,発明の詳細な説明に記載したものではないものとして特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず,かつ,本件特許の発明の詳細な説明の記載が本件特許発明1につき当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないものとして特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3)そこで,本件特許発明1?4について,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号,同第2号に規定する要件を満たしているか否か,及び,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているか否か,検討する。
本件特許発明1,2の「複数の情報端末装置」は,いずれも,「前記監視領域に配置され」るものであるから,それらの設置場所である「日常的に使用されている場所」を,「監視領域」におけるいずれかの場所として特定できることは,明らかであり,当該設置場所は「監視領域」内に限られるから,特許異議申立人のいうような「極めて多くの場所」が含まれるものではない。
そして,この点は,「情報端末装置」が,本件特許発明1のように「日常的に使用されているパソコン」であることや,本件特許発明2のように「日常的に使用されているタブレットや携帯電話」であることとは無関係であり,パソコンや携帯電話がともに移動可能であって後者は前者よりも移動性が高いとしても,「監視領域」内のある場所に留まっているものとして,実質的な設置場所を特定できることは明らかであって,移動可能であるという理由で設置場所を特定し得ないとすることはできない。
よって,本件特許発明1,2のそれぞれの「複数の情報端末装置」である「日常的に使用されているパソコン」,「日常的に使用されているタブレットや携帯電話」は,いずれも,「監視領域」において設置場所が特定可能であり,本件特許発明1,2の「当該日常的に使用されている場所に応じた避難口」とは,「パソコン」等の設置場所が特定可能であることを前提に,当該特定される設置場所に対応する避難口を意味していると理解でき,発明の詳細な説明の「情報端末装置24は,その設置場所に応じて避難口を示したフロアマップ情報を予め記憶しており」(段落【0061】)との記載における「その設置場所に応じて避難口を示したフロアマップ情報」についても同様に,当該特定される設置場所に対応する避難口を示した情報であると理解できる。
また,段落【0016】の記載によれば,明細書に記載されている発明の解決しようとする課題には,「発生した火災の状況を正確に把握でき,防災受信盤と同等な火災情報を情報端末装置の使用者毎に個別に表示し」た上で,「迅速且つ適切な初期消火」という「火災対処」を可能とすることが含まれており,本件特許発明1は当該課題を解決できることが明らかである。一方,上記段落に,「初期消火」とは異なる「火災対処」として記載されている「避難行動」については,本件特許発明1において,利用できない「直近の避難口」が表示される場合が想定できるとしても,その場合は,当該避難口を利用しない避難行動が促されるといえる。
したがって,本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載された発明の課題が解決できることを当業者において認識できる範囲を超えるものではない。そして,この点は本件特許発明2についても同様である。
以上によれば,請求項1又は2を引用する本件特許発明3,4も含め,本件特許発明1?4は,明確であるとともに,発明の詳細な説明に記載された発明であるから,特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号,同第2号に規定する要件を満たしている。
また,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件特許発明1?4を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであって,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。
したがって,特許異議申立人の上記(1),(2)の各主張はいずれも理由がない。

6 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書並びに意見書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
警報システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視領域に設置した火災感知器により検出した火災等の異常を防災受信盤で受信して警報する警報システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オフィスビルなどの施設にあっては、火災、ガス漏れなどの異常を検知して防災受信盤から異常発生を示す警報を出力するようにした防災監視設備が設置されている。
【0003】
このような防災監視設備にあっては、例えば火災を検出した火災感知器からの火災検出信号を防災受信盤で受信した場合、防災受信盤で代表火災表示を行うと共に主音響警報を出力し、更に、火災発生階およびその直上階に設置した地区音響装置から地区音響警報を出力して火災発生を報知するようにしている。
【0004】
また施設の規模が大きい場合には、非常放送設備を設置している。非常放送設備は、防災監視設備と連動し、火災が発生した場合に防災受信盤から出力される移報信号に基づき非常放送設備を動作し、建物内の廊下などに設置したスピーカから避難誘導のガイダンスを含む一斉非常放送を流し、速やかな避難を促すようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-037438号公報
【特許文献2】特開2004-310629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかながら、このような従来の防災監視設備にあっては、防災受信盤では火災発生場所を示す地区表示を含む火災に関する詳細な情報が得られるが、オフィスビルなどの監視領域で働いている人は、地区音響装置による火災警報や連動する非常放送設備の一斉非常放送により火災の発生を知ることはできるが、火災発生場所などの詳細な情報を得ることができず、また、場所によっては警報音や放送音が聞こえづらい場合もあり、更に、聴覚障害者には音による火災警報が届かない場合もある。
【0007】
本発明は、オフィスビルなどの監視領域に、ネットワーク通信機能を備えたパソコン等の情報端末装置が存在することに着目し、これら情報端末装置に防災監視設備を連携させることで、火災等の異常事態の発生を迅速且つ広範に周知可能として避難などの適正な対処行動を可能とする警報システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(警報システム)
本発明は、警報システムに於いて、
監視領域に配置した検出器で異常を検出した場合に、異常検出信号を防災受信盤に送信して異常警報を出力すると共に、防災受信盤から、受信した異常に対応した移報信号を出力する防災監視設備と、
監視領域に配置され、ネットワークを経由して信号を送受信する複数の情報端末装置と、
防災受信盤から移報信号が出力された場合に、当該移報信号に基づく防災情報信号を生成し、当該防災情報信号を、ネットワークを経由して情報端末装置へ配信して防災情報を表示させるアダプタ装置と、
を備え、
防災監視設備は、監視領域に配置した火災感知器で火災を検出した場合に火災検出信号を防災受信盤に送信して火災警報を出力すると共に、防災受信盤から、火災発生場所を含む移報信号を出力し、
アダプタ装置は、防災受信盤からの火災発生場所を含む移報信号を受信した場合に、当該移報信号に基づき、火災警報及び火災発生場所を含む火災情報信号を生成してネットワークを経由して複数の情報端末装置へ配信し、
複数の情報端末装置は、日常的に使用されているパソコンであり、当該日常的に使用されている場所に応じた避難口を示す地図情報を予め記憶し、ネットワークを経由してアダプタ装置からの火災情報信号を受信した場合に、当該火災情報信号に基づき、火災発生場所を示す火災警報画面及び直近の避難口を示す地図画面として当該地図情報を表示する画面を切り替え可能に表示することを特徴とする。
【0009】
(警報システム)
本発明は、警報システムに於いて、
監視領域に配置した検出器で異常を検出した場合に、異常検出信号を防災受信盤に送信して異常警報を出力すると共に、防災受信盤から、受信した異常に対応した移報信号を出力する防災監視設備と、
監視領域に配置され、無線ネットワークを経由して信号を送受信する複数の情報端末装置と、
防災受信盤から移報信号が出力された場合に、当該移報信号に基づく防災情報信号を生成し、当該防災情報信号を、無線ネットワークを経由して情報端末装置へ配信して防災情報を表示させるアダプタ装置と、
を備え、
防災監視設備は、監視領域に配置した火災感知器で火災を検出した場合に火災検出信号を防災受信盤に送信して火災警報を出力すると共に、防災受信盤から、火災発生場所を含む移報信号を出力し、
アダプタ装置は、防災受信盤からの火災発生場所を含む移報信号を受信した場合に、当該移報信号に基づき、火災警報及び火災発生場所を含む火災情報信号を生成して無線ネットワークを経由して複数の情報端末装置へ配信し、
複数の情報端末装置は、日常的に使用されているタブレットや携帯電話であり、当該日常的に使用されている場所に応じた避難口を示す地図情報を予め記憶し、無線ネットワークを経由してアダプタ装置からの火災情報信号を受信した場合に、当該火災情報信号に基づき、火災発生場所を示す火災警報画面及び直近の避難口を示す地図画面として当該地図情報を表示する画面を切り替え可能に表示することを特徴とする。
【0010】
情報端末装置は、マルチウィンドウ形式の表示画面を有し、火災情報信号を受信した場合、火災警報画面を最前面に表示すると共に、地図画面を当該火災警報画面の下に表示し、利用者の所定の操作により当該地図画面を最前面に表示する。
【0011】
情報端末装置は、火災警報画面に、エレベータが使用できない旨を表示する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の警報システムによれば、監視領域に配置した検出器で異常、例えば火災を検出した場合に、火災検出信号を防災受信盤に送信して火災警報を出力すると共に防災受信盤から、受信した火災に対応した移報信号をアダプタ装置へ出力し、この移報信号に基づきアダプタ装置で所定の火災情報信号を生成し、これをLANなどのネットワークを経由してネットワーク上の全ての情報端末装置へ配信して火災情報を一斉に表示させるようにしたため、防災監視設備による地区音響警報や非常放送設備との連動による一斉非常放送に加え、例えば監視領域となるオフィスビルで働いている人が日常的に使用しているパソコン等の情報端末装置に、防災受信盤の移報出力に基づきアダプタ装置を経由して送られてきた火災情報信号に基づく火災情報の表示が割込み的に行われ、この防災情報表示として火災発生場所や直近の避難口を表示することで、発生した火災の状況を正確に把握でき、防災受信盤と同等な火災情報を情報端末装置の使用者毎に個別に表示し、迅速且つ適切な初期消火や避難行動といった火災対処を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による警報システムの実施形態を示した説明図
【図2】図1の防災受信盤とアダプタ装置の概略構成を示したブロック図
【図3】情報端末装置の火災警報画面の例を示した説明図
【図4】本発明による警報システムの他の実施形態を示した説明図
【図5】図4の防災受信盤とアダプタ装置の概略構成を示したブロック図
【発明を実施するための形態】
【0018】
[警報システムの構成]
(システム構成の概略)
図1は、本発明による警報システムの実施形態を示した説明図である。図1に示すように、警報システムを設置する建物11は例えば3階建てであり、火災、ガス漏れ等を監視する防災監視設備を設置している。
【0019】
防災監視設備は、1Fの防災センタ等に防災受信盤10を設置し、各階に設置した火災感知器14を、防災受信盤10から各階に引き出した感知器回線12に接続している。
【0020】
火災感知器14は感知区画の煙濃度又は温度を検出し、煙濃度又は温度が所定の閾値を超えた場合に火災と判断し、火災検出信号を防災受信盤10へ出力する。具体的には、火災感知器14は感知器回線12を介して防災受信盤10から直流電源の供給を受けて動作しており、火災を検出すると感知器回線12間を低インピーダンスに短絡して発報電流を流すことで、火災検出信号を防災受信盤10へ送出する。
【0021】
また、建物11の例えば2F,3Fにはガス漏れ検出器16を設置し、防災受信盤10から引き出された信号回線18に接続している。ガス漏れ検出器16は都市ガス等の検知ガスに対し感度をもち、検出濃度が所定の閾値を超えるとガス漏れと判断し、ガス漏れ検出信号を防災受信盤10へ送出する。
【0022】
また、建物11の例えば2F,3Fには非常通報装置20を設置し、防災受信盤10から引き出された信号回線22に接続している。非常通報装置20は非常押し釦を備え、非常事態が発生した場合に利用者が非常押し釦を押圧操作するとスイッチがオンし、非常通報信号を防災受信盤10へ送出する。
【0023】
防災受信盤10は、火災感知器14からの火災検出信号を受信した場合、受信した回線により火災発生地区として例えば火災発生階を認識し、火災代表灯を点灯して主音響警報を出力すると共に、火災発生階を示す地区表示を行い、更に、火災発生階及び直上階に設置している地区音響装置(図示せず)を作動して地区音響警報を出力させる。
【0024】
また、防災受信盤10は、ガス漏れ検出器16からのガス漏れ検出信号を受信した場合、ガス漏れ代表灯を点灯してガス漏れ音響警報を出力する。
【0025】
また、防災受信盤10は、非常通報装置20からの非常通報信号を受信した場合、非常通報代表灯を点灯して非常通報音響警報を出力する。
【0026】
更に、防災受信盤10は、火災検出信号、ガス漏れ検出信号又は非常通報信号を受信した場合、それぞれに対応した移報信号を外部に出力し、外部機器を作動させることを可能としている。
【0027】
方、建物11に企業等が入居している場合、各階に社員が使用するパソコン等の情報端末装置24が配置されており、情報端末装置24はルータ28を備えたLAN回線26に接続され、例えばイーサネット(登録商標)などの所定の通信プロトコルにしたがって例えばパケット形式の信号を送受信可能とし、またルータ28を介して外部のインターネットとの通信接続を可能としている。
【0028】
なお、LAN回線26に対する情報端末装置24の接続は、ルータ28に対し例えば階毎にハブを接続し、このハブに複数の情報端末装置24を接続するが、これは省略して単にLAN回線26との接続で示している。
【0029】
防災監視設備に設けた防災受信盤10とLAN回線26で接続されたネットワーク上の情報端末装置24を連携するため、防災受信盤10とLAN回線26の間にアダプタ装置30を設けている。アダプタ装置30は、防災受信盤10から移報信号が出力された場合に、この移報信号に基づき防災情報信号を生成し、これをLAN回線26を経由して情報端末装置24へ配信して防災情報を表示させる。
【0030】
アダプタ装置30による防災情報の配信は、ブロードキャスト通信又はマルチキャスト通信により行う。ブロードキャスト通信の場合、アダプタ装置30はLAN回線26に接続しているネットワーク上の全ての情報端末装置24へパケット形式の防災情報信号を配信する。
【0031】
マルチキャスト通信の場合、LAN回線26に接続しているネットワーク上の全て又は一部の情報端末装置24で1つのグループを構成し、アダプタ装置30は、防災情報信号をグループを指定したマルチキャスト通信により配信して、グループに属する全ての情報端末装置24で防災情報を一斉に表示させる。
【0032】
具体的には、アダプタ装置30は、防災受信盤10から火災受信に基づく移報信号を受信した場合に、当該移報信号に基づく火災情報信号を生成してLAN回線26を経由して情報端末装置24へ配信して火災情報を表示させる。
【0033】
また、アダプタ装置30は、防災受信盤10からガス漏れ受信に基づく移報信号を受信した場合に、当該移報信号に基づくガス漏れ情報信号を生成してLAN回線26を経由して情報端末装置24へ配信してガス漏れ情報を表示させる。
【0034】
更に、アダプタ装置30は、防災受信盤10から非常通報受信に基づく移報信号を受信した場合に、当該移報信号に基づく非常通報情報信号を生成してLAN回線26を経由して情報端末装置24へ配信して非常通報情報を表示させる。
【0035】
[防災受信盤の構成]
図2は図1の防災受信盤とアダプタ装置の機能構成の概略を示したブロックである。図2に示すように、防災受信盤10は、受信制御部32、火災受信部34、ガス漏れ受信部36、非常通報受信部38、表示部40、音響警報部42、操作部44、移報部46及び電源部48を備える。
【0036】
受信制御部32は、例えばプログラムの実行により実現される機能であり、ハードウェアとしてはCPU、メモリ、各種の入出力ポート等を備えたコンピュータ回路等を使用する。
【0037】
火災受信部34は、感知器回線12を介して接続した火災感知器14(図1参照)で火災を検出した場合に流れる発報電流を検出して火災検出信号を受信制御部32に出力する。
【0038】
ガス漏れ受信部36は、信号回線18を介して接続したガス漏れ検出器16(図1参照)でガス漏れを検出した場合に流れる検出電流を検出してガス漏れ検出信号を受信制御部32に出力する。
【0039】
非常通報受信部38は、信号回線22を介して接続した非常通報装置20(図1参照)の押釦操作によるスイッチオンで流れる検出電流を検出して非常通報検出信号を受信制御部32に出力する。
【0040】
表示部40は、火災代表灯、ガス漏れ代表灯、非常通報代表灯、地区表示灯などを備え、火災、ガス漏れ、非常通報の受信に対応した受信制御部32の指示を受けて対応する代表灯を表示駆動する。
【0041】
音響警報部42は、スピーカとその駆動回路を備え、火災、ガス漏れ、非常通報の受信に対応した受信制御部32の指示を受けて対応する主音響警報音を出力する。また音響警報部42には地区音響制御部が設けられており、火災の受信に対応した受信制御部32の指示を受けて、火災発生階およびその直上階に設置している地区音響装置へ制御信号を出力して地区音響警報を出力させる。
【0042】
操作部44は、受信制御盤10の操作に必要な各種の操作スイッチを備える。
【0043】
移報部46は、火災、ガス漏れ又は非常通報の受信に対応した受信制御部32の指示を受け、火災、ガス漏れ又は非常通報を示す移報信号をアダプタ装置30へ出力する。移報部46から出力する移報信号は、火災、ガス漏れ又は非常通報を示す警報種別情報と、火災、ガス漏れ又は非常通報の発生場所を示す情報を含むようにする。
【0044】
電源部48は、商用交流電源から電力供給を受けて直流電力に変換し、防災受信盤10の各部に直流電力を供給すると共に、感知器回線12を介して火災感知器14へ直流電源を供給している。また、電源部48はバッテリーを用いた予備電源を備え、商用交流電源の停電時には、予備電源に自動的に切り替わって所定時間のあいだ直流電源を供給可能とする。
【0045】
受信制御部32は、火災感知器14からの発報電流に基づく火災受信部34からの火災検出信号の受信を検出した場合、表示部40に指示して火災代表灯を点灯させると共に、音響警報部42に指示して火災を示す主音響警報を出力させ、また地区音響制御信号を火災発生階及びその直上階の地区音響装置に出力して地区音響警報を出力させ、更に移報部46に指示し、火災警報と火災発生場所を示す情報を含む移報信号をアダプタ装置30へ出力させる制御を行う。
【0046】
また、受信制御部32は、ガス漏れ検出器16からの信号に基づきガス漏れ受信部36が出力したガス漏れ検出信号を検出した場合、表示部40に指示してガス漏れ代表灯を点灯させると共に、音響警報部42に指示してガス漏れを示す主音響警報を出力させる制御を行う。
【0047】
また、受信制御部32は、非常通報装置20からの信号に基づき非常通報受信部38が出力した非常通報信号を検出した場合、表示部40に指示して非常通報代表灯を点灯させると共に、音響警報部42に指示して非常通報を示す主音響警報を出力させる制御を行う。
【0048】
[アダプタの構成]
(アダプタの概要)
図2に示すように、アダプタ装置30は、制御部50、移報受信部52、及び有線LAN通信部54を備え、図示しない電源装置或いは防災受信盤10の電源部48から電源供給を受けて動作する。制御部50は、例えばプログラムの実行により実現される機能であり、ハードウェアとしてはCPU、メモリ、各種の入出力ポート等を備えたコンピュータ回路等を使用する。
【0049】
移報受信部52は、移報信号線58を介して防災受信盤10の移報部46と接続され、火災、ガス漏れ又は非常通報に基づく移報信号を受信して制御部50に出力する。防災受信盤10の移報部46とアダプタ装置30の移報受信部52との間の信号の送受信は、例えばRS232などのインタフェースを使用する。
【0050】
有線LAN通信部54は、例えばIEEE802.3に準拠したイーサネット(登録商標)の通信プロトコルに従ってLAN回線26を介して情報端末装置24との間でフレーム形式の信号を送受信する。
【0051】
制御部50は、移報受信部52を介して火災を示す移報信号の受信を検出した場合、この移報信号に基づき、情報端末装置24にアプリケーションプログラムとして設けた警報表示機能の起動コマンド、少なくとも火災警報と火災発生場所を示す火災情報を含むパケット形式の火災情報信号を生成し、有線LAN通信部54に指示して、ブロードキャスト通信又はマルチキャスト通信により、LAN回線26に接続した情報端末装置24へ送信させる制御を行う。
【0052】
ここで、制御部50の指示によるブロードキャスト通信は、情報端末装置24のIPアドレスの内、ネットワークアドレス部はそのままで、ホストアドレス部をオール1にしたブロードキャストアドレスを宛先アドレスに設定して行う。このブロードキャストアドレスを宛先アドレスとしたパケット信号の送信により、ルータ28の手前のLAN回線26に接続している全ての情報端末装置24にパケット信号を一斉に送信することができる。
【0053】
また、制御部50の指示によるマルチキヤスト通信は、特定のノードから特定のグループに属するノードの全てにデータを送る通信であり、LAN回線26に接続した情報端末装置24からルータ28に自己の所属するグループを予め登録してリストを作っておき、アダプタ装置30は情報端末装置24の属するグループを宛先とするパケット信号を1つだけ送信すると、これをルータ28が受信してリストから宛先の情報端末装置24を認識し、宛先の数だけパケット信号をコピーして、それぞれに転送する。
【0054】
このため、マルチキャスト通信とすることで、ルータ28に対し配信先とする情報端末装置24の登録により、LAN回線26に接続している情報端末装置24の全部又は一部に対しパケット信号を送信することができる。なお、マルチキャスト通信はルータ28を超えて他のネットワークへ通信することはできないことから、その場合には、ブロードキャスト通信とすれば良い。
【0055】
また、制御部50は、移報受信部52を介して、例えばガス漏れを示す移報信号の受信を検出した場合、この移報信号に基づき、情報端末装置24にアプリケーションプログラムとして設けた警報表示機能の起動コマンド、少なくともガス漏れ警報とガス漏れ発生場所を示す情報を含むパケット形式のガス漏れ情報信号を生成し、有線LAN通信部54に指示して、ブロードキャスト通信又はマルチキャスト通信により、LAN回線26に接続した情報端末装置24へ送信させる制御を行う。
【0056】
制御部50は、移報受信部52を介して非常通報を示す移報信号の受信を検出した場合、この移報信号に基づき、情報端末装置24にアプリケーションプログラムとして設けた警報表示機能の起動コマンド、少なくとも非常通報警報と非常通報発生場所を示す情報を含むパケット形式の非常通報情報信号を生成し、有線LAN通信部54に指示して、ブロードキャスト通信又はマルチキャスト通信により、LAN回線26に接続した情報端末装置24へ送信させる制御を行う。
【0057】
[情報端末装置]
図1に示した情報端末装置24は、建物11に入居している企業などで働いている人が、その業務に使用しているパソコンであり、防災監視設備と連携するため、警報表示機能を実現するアプリケーションプログラムを予めインストールしている。
【0058】
情報端末装置24は、その使用中に、アダプタ装置30からLAN回線26を介して例えばパケット形式の火災情報信号を受信した場合、火災情報信号に含まれる起動コマンドに基づき警報表示機能を作動し、また火災情報信号に含まれる火災警報と火災発生場所を示す情報に基づき、情報端末装置24の画面上に、火災警報画面を割込み的に表示させる。
【0059】
図3は情報端末装置における火災警報画面の一例を示した説明図である。図3に示すように、情報端末装置24の使用中に、火災情報信号を受信すると、警報表示機能の起動により火災警報画面W1がそのときの作業画面の上に、マルチウィンドウ形式により重ねて表示される。
【0060】
この火災警報画面W1は、「火災警報」の表示に続いて「○○階で火災が発生しました。」とする火災発生場所を表示し、更に、避難誘導のための情報として「落ち着いて避難してください。避難口は○○○となります。エレベータは使えません。」を表示し、利用者に直近の避難口を教えることで、迅速且つ安全な避難行動を可能とする。また、エレベータが使用できないことを表示し、動かないエレベータに人が殺到して混乱することを未然に防止可能とする。
【0061】
また、情報端末装置24は、その設置場所に応じて避難口を示したフロアマップ情報を予め記憶しており、火災情報信号を受信した場合に、火災警報画面W1に合わせて、その階のフロアマップ画面W2を、火災警報画面W1の下に表示し、利用者はフロアマップ画面W2をクリック操作して前面に表示することで、フロアマップ上に表示された避難口の場所を確認して避難行動を起こすことを可能とする。
【0062】
また、情報端末装置24におけるガス漏れ警報画面は、火災警報画面の場合と基本的に同じであり、ガス漏れ警報とその発生場所を示し、更に、必要があれば、避難を促す表示を行う。
【0063】
また、情報端末装置24における非常通報警報画面は、非常通報警報とその発生場所を示す表示を行う。勿論、警報表示画面は、警報の種別に応じた適宜の表示内容とすることができる。
【0064】
[警報システムの他の実施形態]
(警報システムの概要)
図4は、本発明による警報システムの他の実施形態を示した説明図、図5は図4の防災受信盤とアダプタ装置の機能構成の概略を示したブロック図であり、本実施形態は防災監視設備と情報端末装置を無線LANにより連携したことを特徴とする。
【0065】
図4及び図5に示すように、防災監視設備は、防災受信盤10、火災感知器14、ガス漏れ検出器16、非常通報装置20で構成しており、図1の警報システムの場合と同様であることから説明を省略する。
【0066】
一方、建物11の各階に配置した情報端末装置24は、WiFi(R)などの無線LANにより、所定の通信プロトコルにしたがって例えばパケット形式の信号を無線により送受信可能としている。
【0067】
無線LANは例えば各階に無線LAN親機として機能するアクセスポイント62を設置し、イーサネット(登録商標)などの有線LAN回線26で接続している。また、1階のアクセスポイント62はゲートウェイ64の機能を備え、外部のインターネットとの接続を可能とする。
【0068】
情報端末装置24は、無線LAN子機として機能し、アクセスポイント62と通信可能なエリアに配置され、他の端末情報装置のIPアドレスを宛先に指定したパケット形式の信号を1又は複数のアクセスポイント62を経由して、送受信可能としている。
【0069】
防災監視設備に設けた防災受信盤10と無線LANによるネットワークを介して情報端末装置24と連携するため、防災受信盤10にアダプタ装置60を接続している。アダプタ装置60は、無線LAN子機(ステーション)として機能し、防災受信盤10から移報信号が出力された場合に、この移報信号に基づきパケット形式の防災情報信号を生成し、これを無線LANのアクセスポイント62を経由して全ての情報端末装置24へ配信して防災情報を表示させる。
【0070】
無線LAN親機として機能するアクセスポイント62と無線LAN子機(ステーション)として機能する情報端末装置24の間のアクセスポイント制御は次のようになる。
【0071】
情報端末装置24には、同じ階の対応するアクセスポイント62の識別子であるESS-ID(Extended Service Set Identifier)を予め設定登録しておく。これによりアクセスポイント62は設定登録されている識別子ESS-IDの情報端末装置24としか通信しないようにすることができる。
【0072】
アクセスポイント62とそのステーション(無線LAN子機)となる情報端末装置24との間の通信接続を行うアクセスポイント制御は、パッシブスキャン方式とアクティブスキャン方式に大別される。
【0073】
パッシブスキャン方式は、アクセスポイント62が定期的にブロードキャストするビーコンフレームを情報端末装置24で受信し、情報端末装置24は予め設定登録しているアクセスポイントの識別子ESS-IDが、接続しようとしているアクセスポイント62の識別子ESS-IDと同じかどうかを問い合わせるプローブ要求フレームを送信する。
【0074】
アクセスポイント62はプローブ要求フレームにより受信した識別子ESS-IDが自己の識別子ESS-IDと同じであればプローブ応答フレームを返送し、情報端末装置24はこれを受信して、アクセスポイント62の識別子ESS-IDが設定登録している識別子と同じ識別子であることを確認する。
【0075】
続いて情報端末装置24とアクセスポイント62の間で、予め設定した認証方式を使って認証を行い、認証に成功すると、情報端末装置24からアクセスポイント62へ接続要求としてアソシエーション要求フレームを送信し、情報端末装置24アクセスポイント62が許可応答としてアソシエーション応答フレームを返送すると接続が完了し、パケット信号の通信を行う。
【0076】
このパケット通信により情報端末装置24から他の情報端末装置を送信先として送られたパケット信号は、アクセスポイント62を経由するか、更にLAN回線26で接続した他のアクセスポイント62を経由して宛先の情報端末装置へ送られる。
【0077】
アクティブスキャン方式は、情報端末装置24でアクセスポイント62からのビーコンフレームを一定時間にわたり受信できなかった場合に、情報端末装置24が接続を行いたい識別子ESS-IDの情報をプローブ要求フレームにより送信し、アクセスポイント62からプローブ応答フレームが得られれば、パッシブスキャン方式と同様に、認証、アソシエーション要求と応答に移行し、接続を完了し、パケットの通信を行う。
【0078】
(アダプタ装置の構成)
図5に示すように、アダプタ装置60は、制御部70、移報受信部72、及び無線LAN通信部74を備え、図示しない電源装置或いは防災受信盤10の電源部48から電源供給を受けて動作する。制御部70は、例えばプログラムの実行により実現される機能であり、ハードウェアとしてはCPU、メモリ、各種の入出力ポート等を備えたコンピュータ回路等を使用する。
【0079】
移報受信部72は、図2の移報受信部52の場合と同様であり、移報信号線78を介して防災受信盤10の移報部46と接続され、火災、ガス漏れ又は非常通報に基づく移報信号を受信して制御部70に出力する。防災受信盤10の移報部46とアダプタ装置60の移報受信部72との間の信号の送受信は、例えばRS232などのインタフェースを使用する。
【0080】
無線LAN通信部74は、アクセスポイント62との間で所定の無線LAN通信プロトコルに従ってパケット形式の信号を送受信する。この通信プロトコルとしては、例えばIEEE802.11b準拠とする。
【0081】
制御部70は、移報受信部72を介して火災を示す移報信号の受信を検出した場合、この移報信号に基づき、情報端末装置24にアプリケーションプログラムとして設けた警報表示機能の起動コマンド、少なくとも火災警報と火災発生場所を示す火災情報を含むパケット形式の火災情報信号を生成し、無線LAN通信部74に指示して、ブロードキャスト通信又はマルチキャスト通信により、アクセスポイント62を経由して情報端末装置24へ送信させる制御を行う。
【0082】
また、制御部70は、移報受信部72を介して、例えばガス漏れを示す移報信号の受信を検出した場合、この移報信号に基づき、情報端末装置24にアプリケーションプログラムとして設けた警報表示機能の起動コマンド、少なくともガス漏れ警報とガス漏れ発生場所を示す情報を含むパケット形式のガス漏れ情報信号を生成し、無線LAN通信部74に指示して、ブロードキャスト通信又はマルチキャスト通信により、アクセスポイント62を経由して情報端末装置24へ送信させる制御を行う。
【0083】
また、制御部70は、移報受信部72を介して、例えば非常通報を示す移報信号の受信を検出した場合、この移報信号に基づき、情報端末装置24にアプリケーションプログラムとして設けた警報表示機能の起動コマンド、少なくとも非常通報警報と非常通報発生場所を示す情報を含むパケット形式の非常通報情報信号を生成し、無線LAN通信部74に指示して、ブロードキャスト通信又はマルチキャスト通信により、アクセスポイント62を経由して情報端末装置24へ送信させる制御を行う。
【0084】
[本発明の変形例]
上記の実施形態は、防災監視盤にアダプタ装置を接続して、移報信号に基づくパケット形式の防災情報信号を生成して情報端末装置に配信して防災情報を表示させているが、アダプタ装置として、パソコン等の情報端末装置に、アダプタ装置の機能を実現するプログラムをインストールして実現しても良い。
【0085】
また、防災受信盤からの移報信号をサーバに送り、サーバからクライアントに配信して防災情報を表示させるサーバ・クライアント方式としても良い。
【0086】
また、上記の実施形態は、回線単位に火災を検知する所謂P型の防災受信盤を例にとるものであったが、火災感知器にアドレスを割り当て、防災受信盤からのポーリングにより温度や煙濃度などのアナログテータを応答送信して火災を判断する所謂R型の防災受信盤としても良い。
【0087】
また、上記の実施形態は、情報端末装置としてパソコンを例にとっているが、防災情報を表示可能な機器であれば、タブレットや携帯電話などの適宜の端末機器を含む。
【0088】
また、火災、ガス漏れ、非常通報を例にとるものであったが、それ以外の異常の監視についても、同様に適用できる。
【0089】
また、上記の実施形態は、防災受信盤の移報部とアダプタ装置間のインタフェースとしてRS232を例にとっているが、異常を知らせる移報信号として、接点を開閉する接点信号としても良い。
【0090】
また、本発明は上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0091】
10:防災受信盤
12:感知器回線
14:火災感知器
16:ガス漏れ検出器
18,22:信号回線
20:非常通報装置
24:情報端末装置
26:LAN回線
28:ルータ
30,60:アダプタ装置
32:受信制御部
34:火災受信部
36:ガス漏れ受信部
38:非常通報受信部
40:表示部
42:音響警報部
44:操作部
46:移報部
48:電源部
50,70:制御部
52,72:移報受信部
54:有線LAN通信部
62:アクセスポイント
74:無線LAN通信部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視領域に配置した検出器で異常を検出した場合に、異常検出信号を防災受信盤に送信して異常警報を出力すると共に、前記防災受信盤から、受信した異常に対応した移報信号を出力する防災監視設備と、
前記監視領域に配置され、ネットワークを経由して信号を送受信する複数の情報端末装置と、
前記防災受信盤から移報信号が出力された場合に、当該移報信号に基づく防災情報信号を生成し、当該防災情報信号を、前記ネットワークを経由して前記情報端末装置へ配信して防災情報を表示させるアダプタ装置と、
を備え、
前記防災監視設備は、監視領域に配置した火災感知器で火災を検出した場合に火災検出信号を前記防災受信盤に送信して火災警報を出力すると共に、前記防災受信盤から、火災発生場所を含む移報信号を出力し、
前記アダプタ装置は、前記防災受信盤からの火災発生場所を含む移報信号を受信した場合に、当該移報信号に基づき、火災警報及び火災発生場所を含む火災情報信号を生成して前記ネットワークを経由して前記複数の情報端末装置へ配信し、
前記複数の情報端末装置は、日常的に使用されているパソコンであり、当該日常的に使用されている場所に応じた避難口を示す地図情報を予め記憶し、前記ネットワークを経由して前記アダプタ装置からの火災情報信号を受信した場合に、当該火災情報信号に基づき、火災発生場所を示す火災警報画面及び直近の避難口を示す地図画面として当該地図情報を表示する画面を切り替え可能に表示することを特徴とする警報システム。
【請求項2】
監視領域に配置した検出器で異常を検出した場合に、異常検出信号を防災受信盤に送信して異常警報を出力すると共に、前記防災受信盤から、受信した異常に対応した移報信号を出力する防災監視設備と、
前記監視領域に配置され、無線ネットワークを経由して信号を送受信する複数の情報端末装置と、
前記防災受信盤から移報信号が出力された場合に、当該移報信号に基づく防災情報信号を生成し、当該防災情報信号を、前記無線ネットワークを経由して前記情報端末装置へ配信して防災情報を表示させるアダプタ装置と、
を備え、
前記防災監視設備は、監視領域に配置した火災感知器で火災を検出した場合に火災検出信号を前記防災受信盤に送信して火災警報を出力すると共に、前記防災受信盤から、火災発生場所を含む移報信号を出力し、
前記アダプタ装置は、前記防災受信盤からの火災発生場所を含む移報信号を受信した場合に、当該移報信号に基づき、火災警報及び火災発生場所を含む火災情報信号を生成して前記無線ネットワークを経由して前記複数の情報端末装置へ配信し、
前記複数の情報端末装置は、日常的に使用されているタブレットや携帯電話であり、当該日常的に使用されている場所に応じた避難口を示す地図情報を予め記憶し、前記無線ネットワークを経由して前記アダプタ装置からの火災情報信号を受信した場合に、当該火災情報信号に基づき、火災発生場所を示す火災警報画面及び直近の避難口を示す地図画面として当該地図情報を表示する画面を切り替え可能に表示することを特徴とする警報システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の警報システムに於いて、前記情報端末装置は、マルチウィンドウ形式の表示画面を有し、前記火災情報信号を受信した場合、前記火災警報画面を最前面に表示すると共に、前記地図画面を当該火災警報画面の下に表示し、利用者の所定の操作により当該地図画面を最前面に表示することを特徴とする警報システム。
【請求項4】
請求項1又は2記載の警報システムに於いて、前記情報端末装置は、前記火災警報画面に、エレベータが使用できない旨を表示することを特徴とする警報システム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-05 
出願番号 特願2013-130107(P2013-130107)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G08B)
P 1 651・ 537- YAA (G08B)
P 1 651・ 536- YAA (G08B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山田 倍司  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 衣鳩 文彦
富澤 哲生
登録日 2017-12-15 
登録番号 特許第6258611号(P6258611)
権利者 ホーチキ株式会社
発明の名称 警報システム  
代理人 竹内 進  
代理人 竹内 進  

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