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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F25B
審判 全部申し立て 2項進歩性  F25B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F25B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F25B
管理番号 1356827
異議申立番号 異議2018-700970  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-30 
確定日 2019-10-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6334505号発明「遠心圧縮機を有する蒸気圧縮回路によって流体または物体を冷却または加熱するための方法および設備」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6334505号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕、〔5?8〕、〔9?12〕について訂正することを認める。 特許第6334505号の請求項9、10に係る特許を維持する。 特許第6334505号の請求項1?8、11、12に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6334505号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成23年2月28日(優先権主張平成22年3月2日)に出願した特願2012-555468号の一部を平成27年12月18日に新たな特許出願としたものであって、平成30年5月11日にその特許権の設定登録がされ、平成30年5月30日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年11月30日に特許異議申立人ダイキン工業株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、平成31年2月4日に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和元年5月7日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、令和元年6月25日に意見書を提出した。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。なお、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?4〕、〔5?8〕、〔9?12〕ごとに請求されたものである。
ア 一群の請求項〔1?4〕に係る訂正
請求項1?4をそれぞれ削除する。

イ 一群の請求項〔5?8〕に係る訂正
請求項5?8をそれぞれ削除する。

ウ 一群の請求項〔9?12〕に係る訂正
(ア)請求項9に
「(1)2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1,1,2-テトラフルオロエタン」とあるのを
「(1)5?15重量%(ただし、15重量%は含まない)の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、85?95重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン」と訂正し、
「(5)2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1-ジフルオロエタン」とあるのを
「(5)30?85重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、5?50重量%(ただし、50重量%は含まない)の1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?15重量%の1,1-ジフルオロエタン」と訂正し、
「(7)2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1,1,2-テトラフルオロエタンと、3,3,3-トリフルオロプロペン」とあるのを
「(7)10?60重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、5?50重量%(ただし、50重量%は含まない)の1,1,1,2-テトラフルオロエタンと、20?60重量%の3,3,3-トリフルオロプロペン」と訂正し、
「下記(1)と(2)を特徴とする変換プロセス」とあるのを
「下記(1)?(3)を特徴とする変換プロセス」と訂正し、
「(2)遠心圧縮機の圧縮比が、蒸気圧縮回路中の熱伝達流体を1,1,1,2-テトラフルオロエタンで置換したときの同じ運転条件下での遠心圧縮機の圧縮比以下である。」とあるのを
「(2)遠心圧縮機の圧縮比が、蒸気圧縮回路中の熱伝達流体を1,1,1,2-テトラフルオロエタンで置換したときの同じ運転条件下での遠心圧縮機の圧縮比以下であり、
(3)遠心圧縮機が回転速度順応手段を備え、さらに、同じ運転条件下で、最終蒸気圧縮回路中の遠心圧縮機の回転速度値が、初期蒸気圧縮回路中の遠心圧縮機の回転速度以下である。」と訂正する。
(イ)請求項11、12をそれぞれ削除する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
請求項1?8、11、12に係る訂正は、これらの請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項9に係る訂正は、(1)、(5)、(7)に記載されていた物質について、それぞれ含有量の範囲を付加して限定するとともに、変換プロセスについて、(3)として新たに条件を付加して限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、含有量の範囲については、本件特許明細書に、
「【0026】
この本発明の特定実施例での熱伝達流体は下記を含む:
(1)2%?30%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、70%?98%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン、好ましくは5%?15%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、85%?95%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン、または、
・・・
(10)20%?85%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、5%?60%の1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10%?20%の1,1-ジフルオロエタン、好ましくは30%?85%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、5%?50%の1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10%?15%の1,1-ジフルオロエタン、または、
・・・
(14)10%?85%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、5%?60%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンと、10%?70%の3,3,3-トリフルオロプロペン、好ましくは10%?60%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、5%?50%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンと、20%?60%の3,3,3-トリフルオロプロペン、または、
・・・」
と記載され、(3)の条件については、訂正前の特許請求の範囲に、
「【請求項11】
遠心圧縮機が回転速度順応手段を備え、さらに、同じ運転条件下で、最終蒸気圧縮回路中の遠心圧縮機の回転速度値が、初期蒸気圧縮回路中の遠心圧縮機の回転速度以下である請求項9または10に記載のプロセス。」
と記載されていることから、上記訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕、〔5?8〕、〔9?12〕について訂正することを認める。

3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項9及び10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明9」及び「本件発明10」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項9及び10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項9】
熱伝達流体として1,1,1,2-テトラフルオロエタンを収容し且つ遠心圧縮機を有する初期蒸気圧縮回路を用意し、上記1,1,1,2-テトラフルオロエタンを代替熱伝達流体に代えて最終蒸気圧縮回路とする、蒸気圧縮回路の変換プロセスであって、
上記代替熱伝達流体が下記(1)?(9)のいずれかの混合物であり:
(1)5?15重量%(ただし、15重量%は含まない)の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、85?95重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン、または
(2)2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1-ジフルオロエタン、または
(3)2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、3,3,3-トリフルオロプロペン、または
(4)1,1,1,2-テトラフルオロエタンと、3,3,3-トリフルオロプロペン、または
(5)30?85重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、5?50重量%(ただし、50重量%は含まない)の1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?15重量%の1,1-ジフルオロエタン、または
(6)2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1,1,2-テトラフルオロエタンと、1,1-ジフルオロエタン、または
(7)10?60重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、5?50重量%(ただし、50重量%は含まない)の1,1,1,2-テトラフルオロエタンと、20?60重量%の3,3,3-トリフルオロプロペン、または
(8)2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1-ジフルオロエタンと、3,3,3-トリフルオロプロペン、または
(9)1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1,1,2-テトラフルオロエタンと、1,1-ジフルオロエタン、
さらに、下記(1)?(3)を特徴とする変換プロセス:
(1)蒸気圧縮回路中の熱伝達流体を1,1,1,2-テトラフルオロエタンで置換したときに、同じ運転条件下で、遠心圧縮機が有するマッハ数に対する遠心圧縮機のマッハ数の比が0.97以上かつ1.03以下であり、
(2)遠心圧縮機の圧縮比が、蒸気圧縮回路中の熱伝達流体を1,1,1,2-テトラフルオロエタンで置換したときの同じ運転条件下での遠心圧縮機の圧縮比以下であり、
(3)遠心圧縮機が回転速度順応手段を備え、さらに、同じ運転条件下で、最終蒸気圧縮回路中の遠心圧縮機の回転速度値が、初期蒸気圧縮回路中の遠心圧縮機の回転速度以下である。

【請求項10】
初期蒸気圧縮回路が蒸発器と凝縮器とを有し、さらに、同じ運転条件下で、最終蒸気圧縮回路中の凝縮器での圧力と蒸発器での圧力との間の差が、初期の蒸気圧縮回路中の凝縮器の圧力と蒸発器の圧力との間の差以下である請求項9に記載のプロセス。

4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1?12に係る特許に対して、当審が平成31年2月4日に特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである(甲号証については<甲号証一覧>参照。なお、甲第1号証を甲1のように略記する。)。
なお、当該取消理由は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由を全て含んでいる。

ア 請求項1、5、9に係る発明は、甲1又は甲5に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。

イ 請求項1?12に係る発明は、甲1?甲5のいずれかに記載された発明及び甲9に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

ウ 発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法36条4項1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
(ア)請求項1?12について
請求項1に「(1)蒸気圧縮回路中で熱伝達流体を1,1,1,2-テトラフルオロエタンに代えたときの同じ運転条件下での遠心圧縮機が有するマッハ数に対する遠心圧縮機のマッハ数の比が0.97以上かつ1.03以下であり」、「(2)遠心圧縮機の圧縮比が、蒸気圧縮回路中で熱伝達流体を1,1,1,2-テトラフルオロエタンに代えたときの同じ運転条件下での遠心圧縮機の圧縮比以下である。」と特定され、請求項5、9にも同様の事項が特定されているが、当該特定事項が具体的に何を意味するのか、蒸気圧縮回路の運転条件等に関して、当業者が理解できる程度に、本件特許明細書に十分に記載がなされていない。
(イ)請求項2?4、6?8、10?12について
請求項2に「凝縮器の圧力と蒸発器の圧力との差が、蒸気圧縮回路中で熱伝達流体を1,1,1,2-テトラフルオロエタンに代えたときに得られる、同じ運転条件下での、凝縮器の圧力と蒸発器の圧力との差以下である」と特定され、請求項6、10にも同様の事項が特定されているが、どのような組成比であっても、当該特定事項を満たすとはいえず、当該特定事項を満たすための条件に関して、本件特許明細書には、当業者が実施可能な程度の十分な記載がない。
(ウ)本件発明3、7、11について
請求項3に「遠心圧縮機の回転速度が、蒸気圧縮回路中で熱伝達流体を1,1,1,2-テトラフルオロエタンに代えたときに得られる、同じ運転条件下で、遠心圧縮機が有する回転速度以下である」と特定され、請求項7、11にも同様の事項が特定されているが、どのような組成比であっても、当該構成を満たすものとは認められない。

<甲号証一覧>
甲1:特表2007-538115号公報
甲2:国際公開第2010/022018号
甲3:国際公開第2010/002020号
甲4:特表2008-531836号公報
甲5:特表2008-544072号公報
甲6:日本熱物性学会編、“新編熱物性ハンドブック”、株式会社養賢堂、2008年3月25日、1版、p.645-646
甲7:Yukihiro Higashi、“THERMOPHYSICAL PROPERTIES OF HFO-1234yf AND HFO-1234ze(E)”、2010 International Symposium on Next-generation Air Conditioning and Refrigeration Technology 予稿集 プログラムK05、2010年2月17-19日、p.1-8
甲8:Yasufu Yamada et al.、“Environmentally friendly non-flammable refrigerants”、2010 International Symposium on Next-generation Air Conditioning and Refrigeration Technology 予稿集 プログラムGS07、2010年2月17-19日、p.1-7
甲9:青井辰史、外2、“遠心圧縮機駆動用大型可変速モータドライブシステムの信頼性検証”、三菱重工技報、2004年、Vol.41、No.3、p.150-153

(2)甲号証の記載
ア 甲1には、以下の事項が記載されている。(「・・・」は記載の省略を意味し、下線は当審による。以下同じ。)
「【請求項1】
有効量のトランス-1,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(transHFO-1234ze)、ならびに1,1-ジフルオロエタン(“HFC-152a”)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(“HFC-227ea”)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(“HFC-134a)、1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン(”HFC-125“)およびこれらの2以上の組み合わせからなる群より選択される化合物を含む、共沸混合物様組成物。
・・・
【請求項42】
冷媒システム内に含まれる現存する泡を置換する方法であって、該現存冷媒の少なくとも一部を該システムから除去し、該システム内に請求項1記載の組成物を含む冷媒組成物を導入することによって該現存冷媒の少なくとも一部を置換することを含む、該方法。
【請求項43】
該現存冷媒が、HFC-134a、R-12,R-500、HFC-152aおよびHFC-22ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項42記載の方法。」
「【0047】
このように、本方法、システムおよび組成物は、自動車用空調システムおよび装置、商業用冷凍システムおよび装置、(遠心圧縮機を用いるシステムを含む)チラー、住宅用冷蔵庫および冷凍庫、一般空調システムならびにヒートポンプ等に関連した使用に適している。」

以上によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「遠心圧縮機を用いる冷媒システムから現存冷媒を除去し、該システム内に冷媒組成物を導入することによって該現存冷媒の少なくとも一部を置換する方法であって、該現存冷媒が、HFC-134aより選択され、
上記冷媒組成物が、
有効量のtransHFO-1234ze、ならびにHFC-152a、HFC-227ea、HFC-134a、HFC-125およびこれらの2以上の組み合わせからなる群より選択される化合物を含む、共沸混合物様組成物
を含む冷媒組成物である、方法。」

イ 甲2には、以下の事項が記載されている(当審訳のみ示す。)。
「本発明は、1,1,1,2-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)と1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)の共沸混合物様組成物、ならびに冷媒組成物、冷却システム、発泡剤組成物およびエアゾール噴射剤における使用を含む、前記共沸混合物様組成物の使用を提供する。」(3ページ22?26行)
「一実施形態では、HFO-1234yfは、共沸混合物様組成物中に、約40から100重量%未満、好ましくは、約50から90重量%未満、およびより好ましくは、約55から約80重量%の量で存在する。一実施形態では、HFC-134aは、共沸混合物様組成物中に、ゼロを超えて約60重量%まで、好ましくは、約10から約50重量%、およびより好ましくは、約20から約45重量%の量で存在する。」(5ページ26行?6ページ3行)
以上によれば、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「冷却システムにおける、1,1,1,2-テトラフルオロプロペンと1,1,1,2-テトラフルオロエタンの共沸混合物様組成物の使用。」

ウ 甲3には、以下の事項が記載されている(当審訳のみ示す。)。
「本発明の冷媒組成物を、圧縮機を介して循環させることで冷凍サイクルを構成することができる。また、圧縮機を介して該冷媒組成物を循環させる冷凍サイクルを構成する装置とすることもできる。」(5ページ11?16行)
「1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC134a)を36?50質量%及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)を50?64質量%含む冷媒組成物。」(請求項1)

以上によれば、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「1,1,1,2-テトラフルオロエタンを36?50質量%及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを50?64質量%含む冷媒組成物を、圧縮機を介して循環させることで冷凍サイクルを構成する方法。」

エ 甲4には、以下の事項が記載されている。
「【請求項2】
HFC-1234zeと
HFC-1234yf、HFC-1234ye、HFC-1243zf、HFC-32、HFC-125、HFC-134、HFC-134a、HFC-143a、HFC-152a、・・・からなる群から選択された少なくとも1つの化合物とを含むことを特徴とする組成物。
【請求項3】
HFC-1234yfと
HFC-1234ye、HFC-1243zf、HFC-32、HFC-125、HFC-134、HFC-134a、HFC-143a、HFC-152a、・・・からなる群から選択された少なくとも1つの化合物とを含むことを特徴とする組成物。」
70.4重量%のHFC-1234yfと29.6重量%のHFC-134aからなる組成物(【0040】【表8】の3行目)
91.0重量%のHFC-1234yfと9.0重量%のHFC-152aからなる組成物(同4行目)
25.1重量%のHFC-1243zfと74.9重量%のHFC-134aからなる組成物(同31行目)
14.4重量%のトランス-HFC-1234zeと34.7重量%のHFC-134aと51.0重量%のHFC-152aとからなる組成物(【0043】【表10】の18行目)
「【0128】
本発明はさらに、冷凍、エアコン、またはヒートポンプ装置での高GWP冷媒を置換える方法であって、前記高GWP冷媒がR134a、R22、R245fa、R114、R236fa、R124、R410A、R407C、R417A、R422A、R507A、およびR404Aからなる群から選択され、前記高GWP冷媒を使用する、使用したまたは使用するようデザインされている前記冷凍、エアコン、またはヒートポンプ装置に本発明の組成物を提供する工程を含む方法に関する。
【0129】
蒸気-圧縮冷凍、エアコン、またはヒートポンプシステムには、エバポレーター、圧縮機、凝縮器、および膨張デバイスが含まれる。」

以上によれば、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「R134a冷媒を使用し且つ圧縮機が含まれる冷凍、エアコン、またはヒートポンプ装置でのR134a冷媒を置換える方法であって、以下のいずれかの組成物を提供する工程を含む方法。
(1)70.4重量%のHFC-1234yfと29.6重量%のHFC-134aからなる組成物
(2)91.0重量%のHFC-1234yfと9.0重量%のHFC-152aからなる組成物
(3)HFC-1234yfとHFC-1243zfを含む組成物
(4)25.1重量%のHFC-1243zfと74.9重量%のHFC-134aからなる組成物
(5)HFC-1234zeとHFC-1234yf、HFC-152aとを含む組成物
(6)HFC-1234yfとHFC-134a、HFC-152aとを含む組成物
(7)HFC-1234yfとHFC-1243zf、HFC-134aとを含む組成物
(8)HFC-1234yfとHFC-1243zf、HFC-152aとを含む組成物
(9)14.4重量%のトランス-HFC-1234zeと34.7重量%のHFC-134aと51.0重量%のHFC-152aとからなる組成物」

オ 甲5には、以下の事項が記載されている。
「【請求項17】
熱伝達装置中に含まれる既存の熱伝達流体の交換方法であって、
HFC、HCFC、CFCおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される前記既存の熱伝達流体の少なくとも一部を前記装置から除去すること;および
式I:
・・・の少なくとも1種のフルオロアルケンを含む熱伝達組成物を前記装置中に導入することによって前記既存の熱伝達流体の少なくとも一部を交換すること;
を含む方法。」
「【請求項20】
前記既存の熱伝達組成物がHFC-134aを含む請求項17に記載の方法。」
「【請求項36】
前記既存の熱伝達装置が、少なくとも1個の遠心圧縮機を備えるチラー装置である請求項17に記載の方法。」
「【0037】
・・・ある種の好ましい実施形態において、本組成物は、式Iの化合物(特にHFO-1234zeおよび/またはHFO-1234yfを含む)に加えて、以下の1種以上を含む:
トリクロロフルオロメタン(CFC-11)
ジクロロジフルオロメタン(CFC-12)
ジフルオロメタン(HFC-32)
ペンタフルオロエタン(HFC-125)
1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)
1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)
ジフルオロエタン(HFC-152a)

以上によれば、甲5には、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
「遠心圧縮機を備える熱伝達装置中に含まれる、HFC-134aを含む既存の熱伝達流体の交換方法であって、
HFO-1234zeおよび/またはHFO-1234yfを含む化合物に加えて、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、ジフルオロエタンの1種以上を含む組成物
を前記装置中に導入することによって前記既存の熱伝達流体の少なくとも一部を交換すること;
を含む方法。」

カ 甲6には、状態方程式としてSRK式が記載され、甲7には、HFO-1234yf及びHFO-1234zeの臨界パラメーターが記載され、甲8には、HFO-1234yf及びHFO-134a混合系の蒸気圧が記載されている。

キ 甲9には、遠心圧縮機駆動用の可変速モータドライブシステムが記載されている。

(3)特許法29条1項3号及び同条2項についての判断
ア 甲1発明に基づく新規性進歩性
(ア)本件発明9と甲1発明との対比
甲1発明の「遠心圧縮機を用いる冷媒システム」は、本件発明9の「遠心圧縮機を有する」「蒸気圧縮回路」に相当する。
甲1発明の「HFC-134a」は、本件発明9の「1,1,1,2-テトラフルオロエタン」に相当し、以下同様に、「transHFO-1234ze」は「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」に、「HFC-152a」は「1,1-ジフルオロエタン」に相当する。
甲1発明の「遠心圧縮機を用いる冷媒システムから現存冷媒を除去し、該システム内に冷媒組成物を導入することによって該現存冷媒の少なくとも一部を置換する方法」は、「該現存冷媒が、HFC-134aより選択され」ることを踏まえると、本件発明9の「熱伝達流体として1,1,1,2-テトラフルオロエタンを収容し且つ遠心圧縮機を有する初期蒸気圧縮回路を用意し、上記1,1,1,2-テトラフルオロエタンを代替熱伝達流体に代えて最終蒸気圧縮回路とする、蒸気圧縮回路の変換プロセス」に相当する。
よって、本件発明9と甲1発明の一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「熱伝達流体として1,1,1,2-テトラフルオロエタンを収容し且つ遠心圧縮機を有する初期蒸気圧縮回路を用意し、上記1,1,1,2-テトラフルオロエタンを代替熱伝達流体に代えて最終蒸気圧縮回路とする、蒸気圧縮回路の変換プロセス。」
[相違点1]
「代替熱伝達流体」について、本件発明9は、「上記代替熱伝達流体が下記(1)?(9)のいずれかの混合物であり」(当審注:(1)?(9)については記載を省略する。)と特定しているのに対し、甲1発明の「冷媒組成物」は、「有効量のtransHFO-1234ze、ならびにHFC-152a、HFC-227ea、HFC-134a、HFC-125およびこれらの2以上の組み合わせからなる群より選択される化合物を含む、共沸混合物様組成物」である点。
[相違点2]
本件発明9は、変換プロセスについて、
「下記(1)?(3)を特徴とする変換プロセス:
(1)蒸気圧縮回路中の熱伝達流体を1,1,1,2-テトラフルオロエタンで置換したときに、同じ運転条件下で、遠心圧縮機が有するマッハ数に対する遠心圧縮機のマッハ数の比が0.97以上かつ1.03以下であり、
(2)遠心圧縮機の圧縮比が、蒸気圧縮回路中の熱伝達流体を1,1,1,2-テトラフルオロエタンで置換したときの同じ運転条件下での遠心圧縮機の圧縮比以下であり、
(3)遠心圧縮機が回転速度順応手段を備え、さらに、同じ運転条件下で、最終蒸気圧縮回路中の遠心圧縮機の回転速度値が、初期蒸気圧縮回路中の遠心圧縮機の回転速度以下である。」
と特定しているのに対し、甲1発明は、このような特定をしていない点。

(イ)相違点1について
甲1発明の「有効量のtransHFO-1234ze、ならびにHFC-152a、HFC-227ea、HFC-134a、HFC-125およびこれらの2以上の組み合わせからなる群より選択される化合物を含む、共沸混合物様組成物」は、transHFO-1234zeの他に含まれる化合物について、HFC-152aとHFC-134aを選択肢に含んでいるから、当該選択肢を選んだ場合には、本件発明9の(9)の混合物となる。
しかしながら、甲1には、多数の選択肢から、特に上記の選択肢を選ぶことの利点が記載されているわけではなく、また、具体的に上記選択肢を選んだ例が記載されているわけでもない。そして、本件発明9は、相違点1に係る構成と相違点2に係る構成があいまって、「遠心圧縮機を有する蒸気圧縮システムで、HFC-134aより低いGWPを有し、しかも、HFC-134aに対して遠心圧縮機の運転性能を維持、さらには改善させる」(本件特許明細書【0014】)という課題を解決したものであるから、甲1発明において、上記選択肢を選ぶことが単なる設計事項であるとはいえない。
そうすると、相違点1は実質的な相違点であるとともに、甲1発明において、相違点1に係る本件発明9の特定事項を採用することを当業者が容易に想到し得たということはできない。

(ウ)相違点2について
蒸気圧縮回路中の熱伝達流体を置換するに際し、同じ運転条件下における遠心圧縮機のマッハ数、遠心圧縮機の圧縮比、遠心圧縮機の回転速度値に着目することは、甲1?甲9のいずれにも記載がなく、示唆もない。また、本件発明9は、代替熱伝達流体の組成に係る(1)?(9)に記載された特定事項に加えて、更に、相違点2に係る事項、すなわち、変換プロセスに係る(1)?(3)に記載された事項を備えることが特定されたものであるところ、組成に係る(1)?(9)に記載された特定事項を備えれば、必然的に変換プロセスに係る(1)?(3)に記載された特定事項が得られるという関係にあるとも認められない。
この点に関し、申立人は、変換プロセスに係る(1)及び(2)の構成は、それ以外の構成を採用することにより必然的に得られる効果であり、発明の特定に寄与していない旨を主張し、HFC-134aとHFO-1234yfの混合物について甲6?甲8を参照して計算すると、混合比の全域において、上記変換プロセスに係る(1)及び(2)の構成を充足することが確認された旨主張する(特許異議申立書41?42ページ)。
しかし、上記申立人の計算は、本件発明9の組成に係る(1)?(9)の全ての混合物について確認したものではないし、本件発明9の変換プロセスに係る(3)の特定事項が必然的に得られることを確認したものでもない。また、甲1発明の選択肢に含まれる混合物について、本件発明9の変換プロセスに係る(1)?(3)の特定事項が満たされることを確認したものでもない。そうすると、上記申立人の主張を参酌しても、甲1発明が相違点2に係る本件発明9の特定事項を備えているとはいえない。
よって、相違点2は実質的な相違点であるとともに、甲1発明及び甲1?甲9に記載された技術事項に基いて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(エ)小括
したがって、本件発明9は甲1発明ではなく、甲1発明及び甲1?甲9に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、本件発明10は、本件発明9をさらに技術的に限定したものであるから、同様に、甲1発明ではなく、甲1発明及び甲1?甲9に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 甲2発明?甲5発明に基づく新規性進歩性
甲2発明?甲5発明と本件発明9を対比する。
甲2発明の「1,1,1,2-テトラフルオロプロペンと1,1,1,2-テトラフルオロエタンの共沸混合物様組成物」は、各含有量は別として、本件発明9の(1)の混合物と共通する。
甲3発明の「1,1,1,2-テトラフルオロエタンを36?50質量%及び2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを50?64質量%含む冷媒組成物」は、各含有量は別として、本件発明9の(1)の混合物と共通する。
甲4発明の「(1)70.4重量%のHFC-1234yfと29.6重量%のHFC-134aからなる組成物」、「(5)HFC-1234zeとHFC-1234yf、HFC-152aとを含む組成物」、「(7)HFC-1234yfとHFC-1243zf、HFC-134aとを含む組成物」は、各含有量は別として、それぞれ、本件発明9の(1)、(5)、(7)の混合物と共通する。
甲4発明の「(2)91.0重量%のHFC-1234yfと9.0重量%のHFC-152aからなる組成物」、「(3)HFC-1234yfとHFC-1243zfを含む組成物」、「(4)25.1重量%のHFC-1243zfと74.9重量%のHFC-134aからなる組成物」、「(6)HFC-1234yfとHFC-134a、HFC-152aとを含む組成物」、「(8)HFC-1234yfとHFC-1243zf、HFC-152aとを含む組成物」、「(9)14.4重量%のトランス-HFC-1234zeと34.7重量%のHFC-134aと51.0重量%のHFC-152aとからなる組成物」は、それぞれ、本件発明9の(2)、(3)、(4)、(6)、(8)、(9)の混合物に相当する。
甲5発明の「HFO-1234zeおよび/またはHFO-1234yfを含む化合物に加えて、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、ジフルオロエタンの1種以上を含む組成物」の選択肢に含まれる組成物は、本件発明9の(2)、(6)、(9)の混合物に相当し、また、各含有量は別として、本件発明9の(1)、(5)の混合物と共通する。
以上のとおり、甲2発明?甲5発明に係る組成物は、本件発明9の代替熱伝達流体の組成に係る(1)?(9)に記載された特定事項と部分的に一致するところがある。
しかしながら、甲2発明?甲5発明は、いずれも、本件発明9の変換プロセスに係る、
「下記(1)?(3)を特徴とする変換プロセス:
(1)蒸気圧縮回路中の熱伝達流体を1,1,1,2-テトラフルオロエタンで置換したときに、同じ運転条件下で、遠心圧縮機が有するマッハ数に対する遠心圧縮機のマッハ数の比が0.97以上かつ1.03以下であり、
(2)遠心圧縮機の圧縮比が、蒸気圧縮回路中の熱伝達流体を1,1,1,2-テトラフルオロエタンで置換したときの同じ運転条件下での遠心圧縮機の圧縮比以下であり、
(3)遠心圧縮機が回転速度順応手段を備え、さらに、同じ運転条件下で、最終蒸気圧縮回路中の遠心圧縮機の回転速度値が、初期蒸気圧縮回路中の遠心圧縮機の回転速度以下である。」
との特定事項に相当する事項を備えていない。
そうすると、本件発明9と甲2発明?甲5発明とは、少なくとも上記相違点2と同じ点で相違する。
そして、該相違点についての判断は、上記相違点2についての判断と同様である。
したがって、本件発明9、10は甲2発明?甲5発明のいずれでもなく、甲2発明?甲5発明のいずれか及び甲1?甲9に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明9、10は、甲1発明?甲5発明のいずれでもないから、特許法29条1項3号に該当せず、甲1発明?甲5発明のいずれか及び甲1?甲9に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(4)特許法36条4項1号及び同条6項1号についての判断
ア 請求項9には、「下記(1)?(3)を特徴とする変換プロセス」として、以下の記載がある。
「(1)蒸気圧縮回路中の熱伝達流体を1,1,1,2-テトラフルオロエタンで置換したときに、同じ運転条件下で、遠心圧縮機が有するマッハ数に対する遠心圧縮機のマッハ数の比が0.97以上かつ1.03以下であり、
(2)遠心圧縮機の圧縮比が、蒸気圧縮回路中の熱伝達流体を1,1,1,2-テトラフルオロエタンで置換したときの同じ運転条件下での遠心圧縮機の圧縮比以下であり、
(3)遠心圧縮機が回転速度順応手段を備え、さらに、同じ運転条件下で、最終蒸気圧縮回路中の遠心圧縮機の回転速度値が、初期蒸気圧縮回路中の遠心圧縮機の回転速度以下である」
上記記載は、請求項9の記載全体からみて、代替熱伝達流体の組成に係る(1)?(9)に記載された特定事項に加えて、更に、蒸気圧縮回路における遠心圧縮機のマッハ数、圧縮比、回転速度値の観点から、本件発明9に係る変換プロセスを特定する意義を有すると理解できる。
また、「同じ運転条件下」については、本件特許明細書に「上記の各クライテリアでは使用する熱伝達流体と純粋なHFC-134aとの比較を同じ運転条件下で行う。これは蒸気圧縮回路が正確に同じで、遠心圧縮機の構造が正確に同じもので、さらに、蒸発器での温度と凝縮器での温度が両方のケースで同一であるということを意味する。例えば、4℃の温度の蒸発器と37℃の温度の凝縮器で比較できる。」(【0069】)と記載されているから、蒸気圧縮回路、遠心圧縮機の構造、蒸発器での温度と凝縮器での温度が、それぞれ同じである初期蒸気圧縮回路と最終蒸気圧縮回路について、遠心圧縮機のマッハ数、圧縮比、回転速度値を評価するものと理解できる。
そして、上記(1)?(3)を満たす変換プロセスについては、本件特許明細書に数多くの具体例が示されているから、当業者が実施可能な程度に十分な開示がなされている。
したがって、上記特定事項について、当業者が理解できる程度に、本件特許明細書に十分に記載がなされていないということはできない。

イ 請求項10には、「同じ運転条件下で、最終蒸気圧縮回路中の凝縮器での圧力と蒸発器での圧力との間の差が、初期の蒸気圧縮回路中の凝縮器の圧力と蒸発器の圧力との間の差以下である」との記載がある。
上記記載は、請求項9に特定された事項に加えて、更に、凝縮器での圧力と蒸発器での圧力との間の差について、限定して特定するものである。
そして、請求項9に特定された事項に加えて、上記請求項10に係る特定事項を満たす変換プロセスについて、本件特許明細書に数多くの具体例が示されているから、当業者が実施可能な程度に十分な開示がなされている。
したがって、上記特定事項について、当業者が理解できる程度に、本件特許明細書に十分に記載がなされていないということはできない。

ウ 申立人は、本件特許明細書に記載された「凝縮器での圧力と蒸発器での圧力との間の差が、熱伝達流体が純粋なHFC-134aで形成される場合と比較して下がる」という効果(【0035】)が、請求項9で特定される(1)の混合物についての「(1)5?15重量%(ただし、15重量%は含まない)の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、85?95重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン」の全域にわたって得られないことから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明9、10を当業者が実施できる程度の記載がない旨を主張する(令和1年6月25日付け意見書4ページ)。
しかし、上記効果は、上記イで述べた本件発明10の特定事項に対応するところ、当該効果を奏する変換プロセスについて、本件特許明細書に数多くの具体例が示されていて、当業者が実施可能な程度に十分な開示がなされていることは、上記イで述べたとおりである。
また、請求項9は、「上記代替熱伝達流体が下記(1)?(9)のいずれかの混合物であり」と特定しているのであって、(1)の混合物に限定しているわけではないから、仮に(1)の混合物によって上記効果を奏し得ないとしても、本件発明9、10の実施ができないことにはならない。
よって、上記申立人の主張は採用できない。

エ 以上のとおり、取消理由通知及び申立人が指摘する発明特定事項について、当業者が理解できる程度に、本件特許明細書に十分に記載がなされていないということはできない。
そして、本件特許明細書の記載を参酌すれば、本件発明が解決しようとする課題は「遠心圧縮機を有する蒸気圧縮システムで、HFC-134aより低いGWPを有し、しかも、HFC-134aに対して遠心圧縮機の運転性能を維持、さらには改善させる」ことと認められ(【0014】)、そのための2つのクライテリア(判定基準)として、「マッハ数」と「圧縮比」を選択した点に意義を有するものと認められる(【0063】?【0068】)。本件発明9、10は、上記「マッハ数」と「圧縮比」の条件を特定したものであって、本件特許明細書において、数多くの具体例で、上記「マッハ数」と「圧縮比」の条件を満たすことが確認されている。
したがって、「マッハ数」と「圧縮比」の条件が特定された本件発明9、10は、発明の詳細な説明において上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではないから、発明の詳細な説明に記載したものであるといえるとともに、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明9、10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。
よって、発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしており、特許請求の範囲の記載は同条6項1号に規定する要件を満たしている。

オ なお、申立人は、本件発明9の(1)の混合物に関して、「(ただし、15重量%は含まない)」と規定していることから、1,1,1,2-テトラフルオロエタンが85重量%含まれる場合の構成が不明確である旨を新たに主張している(令和1年6月25日付け意見書5?6ページ)。
しかし、本件発明9の(1)の混合物については、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」が15重量%含まれる場合が除かれることにより、「1,1,1,2-テトラフルオロエタン」が85重量%含まれる場合も実質的に除かれているだけのことであり、何ら不明確なところはない。よって、上記申立人の主張は採用できない。

5 本件特許の請求項1?8、11、12についての特許異議の申立てについて
前記2のとおり、本件訂正が認められるので、本件特許の請求項1?8、11、12についての特許異議の申立ては、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
よって、本件特許の請求項1?8、11、12についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により、却下すべきものである。

6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件特許の請求項9及び10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項9及び10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項1?8、11、12についての特許異議の申立ては、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
熱伝達流体として1,1,1,2-テトラフルオロエタンを収容し且つ遠心圧縮機を有する初期蒸気圧縮回路を用意し、上記1,1,1,2-テトラフルオロエタンを代替熱伝達流体に代えて最終蒸気圧縮回路とする、蒸気圧縮回路の変換プロセスであって、
上記代替熱伝達流体が下記(1)?(9)のいずれかの混合物であり:
(1)5?15重量%(ただし、15重量%は含まない)の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、85?95重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン、または
(2)2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1-ジフルオロエタン、または
(3)2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、3,3,3-トリフルオロプロペン、または
(4)1,1,1,2-テトラフルオロエタンと、3,3,3-トリフルオロプロペン、または
(5)30?85重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、5?50重量%(ただし、50重量%は含まない)の1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?15重量%の1,1-ジフルオロエタン、または
(6)2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1,1,2-テトラフルオロエタンと、1,1-ジフルオロエタン、または
(7)10?60重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、5?50重量%(ただし、50重量%は含まない)の1,1,1,2-テトラフルオロエタンと、20?60重量%の3,3,3-トリフルオロプロペン、または
(8)2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1-ジフルオロエタンと、3,3,3-トリフルオロプロペン、または
(9)1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、1,1,1,2-テトラフルオロエタンと、1,1-ジフルオロエタン、
さらに、下記(1)?(3)を特徴とする変換プロセス:
(1)蒸気圧縮回路中の熱伝達流体を1,1,1,2-テトラフルオロエタンで置換したときに、同じ運転条件下で、遠心圧縮機が有するマッハ数に対する遠心圧縮機のマッハ数の比が0.97以上かつ1.03以下であり、
(2)遠心圧縮機の圧縮比が、蒸気圧縮回路中の熱伝達流体を1,1,1,2-テトラフルオロエタンで置換したときの同じ運転条件下での遠心圧縮機の圧縮比以下であり、
(3)遠心圧縮機が回転速度順応手段を備え、さらに、同じ運転条件下で、最終蒸気圧縮回路中の遠心圧縮機の回転速度値が、初期蒸気圧縮回路中の遠心圧縮機の回転速度以下である。
【請求項10】
初期蒸気圧縮回路が蒸発器と凝縮器とを有し、さらに、同じ運転条件下で、最終蒸気圧縮回路中の凝縮器での圧力と蒸発器での圧力との間の差が、初期の蒸気圧縮回路中の凝縮器の圧力と蒸発器の圧力との間の差以下である請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-27 
出願番号 特願2015-246978(P2015-246978)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (F25B)
P 1 651・ 537- YAA (F25B)
P 1 651・ 113- YAA (F25B)
P 1 651・ 121- YAA (F25B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 河内 誠  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 大屋 静男
紀本 孝
登録日 2018-05-11 
登録番号 特許第6334505号(P6334505)
権利者 アルケマ フランス
発明の名称 遠心圧縮機を有する蒸気圧縮回路によって流体または物体を冷却または加熱するための方法および設備  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 越場 隆  
代理人 越場 洋  
代理人 越場 隆  
代理人 越場 洋  

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