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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1356830
異議申立番号 異議2018-700942  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-22 
確定日 2019-10-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6328855号発明「即効型インスリン組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6328855号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10、12-22〕について訂正することを認める。 特許第6328855号の請求項1、3ないし22に係る特許を維持する。 特許第6328855号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6328855号の請求項1?22に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成27年12月9日に特許出願され、平成30年4月27日にその特許権の設定登録がなされ、同年5月23日に特許掲載公報が発行され、その特許について、同年11月22日に、特許異議申立人藤田節(以下、「申立人」という。)により、本件特許の全請求項に対して特許異議の申立てがされ、平成31年3月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和1年6月21日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされたものである。

なお、申立人は、令和1年6月25日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に何ら応答をしていない。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、医薬組成物が「約5mMまでの濃度での塩化マグネシウムをさらに含」むことを特定する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除するとともに、請求項4?6、8、10及び12?19において、請求項2を引用する記載を削除する。

そして、本件訂正請求は、一群の請求項〔1-10、12-22〕について請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の有無
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、訂正前の請求項2の記載に基づいて、「約5mMまでの濃度での塩化マグネシウムをさらに含」むとの記載を追加するものであって、訂正前の請求項1の医薬組成物を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2を削除するとともに、請求項4?6、8、10及び12?19において、請求項2を引用する記載を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?10、12?22〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正後の請求項1?22に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明22」という。)は、令和1年6月21日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?22に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
医薬組成物であって
(a)約100?約200IU/mLの濃度でのインスリンと
(b)約15?約35mMの濃度でのクエン酸塩と、
(c)約0.2?約0.8mMの濃度での亜鉛と、
(d)保存剤とを含み、
約5mMまでの濃度での塩化マグネシウムをさらに含み、
前記組成物がEDTAを含まない、前記医薬組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記インスリンがインスリンリスプロである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記クエン酸塩の濃度が約15?約25mMである、請求項1および3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記保存剤が、フェノール及びメタクレゾール及びそれらの混合物から成る群から選択される、請求項1、3および4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記保存剤がメタクレゾールである、請求項1、3および4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記メタクレゾールの濃度が約2.5?約3.8mg/mLである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
等張化剤をさらに含む、請求項1および3?7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記等張化剤がグリセロールである、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記組成物のpHが約7.0?約7.8である、請求項1および3?9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
医薬組成物であって、
(a)インスリンと
(b)約10?約35mMの濃度でのクエン酸塩と、
(c)約0.2?約2mMの濃度での亜鉛と、
(d)約1?約15mMの濃度でのマグネシウムと、
(e)約10?約60mMの濃度での総塩化物と
(f)約0.001?約0.2%w/vの濃度での界面活性剤と
(g)保存剤とを含み、
前記組成物がEDTAを含まない、前記医薬組成物。
【請求項12】
前記組成物が、同じインスリンを含有するが、クエン酸塩を含有しない組成物よりも少なくとも20%迅速である血中へのインスリンの取り込みを提供する、請求項1および3?11のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記組成物が、2?8℃で少なくとも24ヵ月の保存及び30℃までの温度で28日までの使用中を可能にするほど安定である、請求項1および3?12のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記組成物がどんな血管拡張剤も含まない、請求項1および3?13のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記組成物がどんなオリゴ糖も含まない、請求項1および3?14のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項16】
治療法で使用するための請求項1および3?15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
糖尿病の治療で使用するための請求項1および3?15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
糖尿病の治療のための薬物の製造における、請求項1および3?15のいずれか1項に記載の医薬組成物の使用。
【請求項19】
請求項1および3?15に記載の医薬組成物のいずれか1つを含む製造物品。
【請求項20】
複数回使用のバイアルである請求項19に記載の製造物品。
【請求項21】
再利用できるペン型注入器である請求項19に記載の製造物品。
【請求項22】
連続皮下インスリン注入療法のためのポンプ装置である請求項19に記載の製造物品。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1、3?10、12?22に係る特許に対して、当審が平成31年3月18日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
なお、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第7号証をそれぞれ「甲1」、「甲2」、「甲4」、「甲5」、「甲7」という。

(1)取消理由1
請求項1、3?10、12?14、16?22に係る発明は、甲1に記載された発明並びに甲4及び甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1、3?10、12?14、16?22に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2
請求項1、3?10、12?22に係る発明は、甲2の実施例4に記載された発明並びに甲4、甲5及び甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1、3?10、12?22に係る特許は、取り消されるべきものである。

引用文献一覧
甲第1号証:米国特許出願公開第2013/0231281号明細書(甲1)
甲第2号証:特表2012-519695号公報(甲2)
甲第3号証:特表2002-500196号公報(甲3)
甲第4号証:Humalogの情報、[online]、2012年1月21日[平成30年11月検索]、インターネット:<https://web.archive.org/web/20120121064837/http://www.rxlist.com:80/humalog-drug.htm>(甲4)
甲第5号証:HUMULIN Rの情報、[online]、2011年5月26日[平成30年11月21日検索]、インターネット:<https://web.archive.org/web/20110526002304/http://www.rxlist.com:80/humulin-R-drug.htm>(甲5)
甲第7号証:Drug Metabolism and Disposition,2000,Vol.28,No.2,p.155-160(甲7)

2 当審の判断
(1)取消理由1(甲1に記載された発明を引用発明とする進歩性欠如)
取消理由1は、請求項1、3?10、12?14、16?22を対象とするものである。
ここで、請求項3?10は、独立請求項である請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、請求項12?14、16?22は、独立請求項である請求項1又は11を直接又は間接的に引用するものである。なお、独立請求項11に係る発明については、取消理由1は通知されていない。
本件訂正請求により、取消理由1が通知されていない請求項2の発明特定事項である「約5mMまでの濃度での塩化マグネシウムをさらに含」む点が請求項1に追加された。
したがって、訂正後の請求項1に係る発明及びその従属項に係る請求項3?10、12?14、16?22に対しての取消理由1は理由がないものとなった。
よって、本件発明1、3?10、12?14、16?22に係る特許は、取消理由1によって取り消すべきものではない。

(2)取消理由2(甲2の実施例4に記載された発明を引用発明とする進歩性欠如)
取消理由2は、請求項1、3?10、12?22を対象とするものである。
ここで、請求項3?10は、独立請求項である請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、請求項12?22は、独立請求項である請求項1又は11を直接又は間接的に引用するものである。なお、独立請求項11に係る発明については、取消理由2は通知されていない。
本件訂正請求により、取消理由2が通知されていない請求項2の発明特定事項である「約5mMまでの濃度での塩化マグネシウムをさらに含」む点が請求項1に追加された。
したがって、訂正後の請求項1に係る発明及びその従属項に係る請求項3?10、12?22に対しての取消理由2は理由がないものとなった。
よって、本件発明1、3?10、12?22に係る特許は、取消理由2によって取り消すべきものではない。

第5 申立理由の概要及び提出した証拠
申立人は、以下の甲1?甲9を提出し、訂正前の本件特許に対し、以下の申立理由1?申立理由5を主張している。
甲第1号証:米国特許出願公開第2013/0231281号明細書(甲1)
甲第2号証:特表2012-519695号公報(甲2)
甲第3号証:特表2002-500196号公報(甲3)
甲第4号証:Humalogの情報、[online]、2012年1月21日[平成30年11月検索]、インターネット:<https://web.archive.org/web/20120121064837/http://www.rxlist.com:80/humalog-drug.htm>(甲4)
甲第5号証:HUMULIN Rの情報、[online]、2011年5月26日[平成30年11月21日検索]、インターネット:<https://web.archive.org/web/20110526002304/http://www.rxlist.com:80/humulin-R-drug.htm>(甲5)
甲第6号証:HUMULIN Rの製品添付情報、2018年(甲6)
甲第7号証:Drug Metabolism and Disposition,2000,Vol.28,No.2,p.155-160(甲7)
甲第8号証:国際公開2010/102020号(甲8)
甲第9号証:国際公開99/34821号(甲9)

(1)申立理由1(新規性)
(申立理由1-ア)
請求項1、3?10、12?14、16?22に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反するものであり、本件特許は、同法113条第2号に該当する。
(申立理由1-イ)
請求項1、4?10、12?22に係る発明は、甲2の実施例4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反するものであり、本件特許は、同法113条第2号に該当する。
(申立理由1-ウ)
請求項1?10、12?22に係る発明は、甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反するものであり、本件特許は、同法113条第2号に該当する。

(2)申立理由2(進歩性)
(申立理由2-ア)
請求項15、19?22に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当する。
(申立理由2-イ)
請求項1?10、12?22に係る発明は、甲2の実施例3に記載された発明及び甲4?甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当する。
(申立理由2-ウ)
請求項1?22に係る発明は、甲2の実施例4に記載された発明及び甲5、甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当する。
(申立理由2-エ)
請求項1?22に係る発明は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当する。

(3)申立理由3(サポート要件)
請求項1、3?10、12?22に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。

(4)申立理由4(実施可能要件)
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、請求項1、3?10、12?22に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。

(5)申立理由5(明確性)
請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当する。

第6 甲号証の記載
(1)甲2
甲2には、次の事項が記載されている(下線は当審による。以下、同様。)。
(2-1)
「【0032】
溶解剤
特定の酸又はそれらの塩は、図1に示すように、インスリンの電荷を遮へいし、取込み及び輸送を増大させるのは明らかである。溶解剤として有効であるそれらの酸は、下の実施例で記載するトランスウエルアッセイで測定されるように、塩酸を基準として、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸及びアジピン酸を含む。例えば、活性剤がインスリンである場合、好ましい溶解剤はクエン酸である。塩酸及び水酸化ナトリウムは、pH調整用の好ましい剤である。HClは、製剤のいずれかと組み合わせて用いることができるが、溶解剤ではない。酸の塩は、酢酸ナトリウム、アスコルビン酸塩、クエン酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩及びアジピン酸塩を含む。有機酸の塩は、金属水酸化物、金属酸化物、金属炭酸塩及び金属重炭酸塩、金属アミン、並びに塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム等などのアンモニウム塩基を含むが、これらに限定されない様々な塩基を用いて調製することができる。適切な金属は、一価及び多価金属イオンを含む。例としての金属イオンは、リチウム、ナトリウム及びカリウムなどのI族金属、バリウム、マグネシウム、カルシウム及びストロンチウムなどのII族金属、並びにアルミニウムなどのメタロイドを含む。多価金属イオンは、2つ以上のカルボン酸基と同時に錯体を形成できるので、複数のカルボン酸基を含有する有機酸が望ましい場合がある。」

(2-2)
「【0038】
好ましい実施形態において、水性媒体への速やかな溶解を促進するために、1つ以上の可溶化剤をインスリン薬とともに含める。適切な可溶化剤は、ポリソルベート、グリセリン及びポロキサマー類などの湿潤剤、非イオン性及びイオン性界面活性剤類、食用酸類及び食用塩基類(例えば、重炭酸ナトリウム)並びにアルコール類並びにpH調節用の緩衝塩類を含む。」

(2-3)
「【0048】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照することによりさらに理解される。以下のインスリンを実施例で用いた。
【0049】
HUMULIN(登録商標)(RHI)は、組換えヒトインスリンである。1ミリリットルが100単位のレギュラー組換えヒトインスリン、0.22% m-クレゾール、1.4?1.8% グリセリン、pH7を含有する。これは、いくつかの供給元から商業的に入手可能である。
【0050】
Eli Lilly製のHUMALOG(登録商標)(IL)(インスリンリスプロ注射剤)は、インスリンB鎖の28位と29位のアミノ酸を逆転させるときに生ずるLys(B28)、Pro(B29)ヒトインスリン類似体である組換えヒトインスリン類似体である。IL注射剤の1ミリリットルがインスリンリスプロ100単位、16mg グリセリン、1.88mg リン酸水素二ナトリウム、3.15mg メタクレゾール、亜鉛イオンが0.0197mgとなるように調整された酸化亜鉛の量、微量のフェノール及び注射用水を含有する。インスリンリスプロは、7.0?7.8のpHを有する。pHを調整するために塩酸10%及び/又は水酸化ナトリウム10%を加えることができる。1単位のILは、1単位のレギュラーヒトインスリンと同じグルコース低下作用を有するが、その作用は、より速やかであり、持続時間がより短い。
【0051】
NOVOLOG(登録商標)(IA)は、Novo Nordisk A/Sから入手可能な組換えインスリン類似体である。該類似体は、B28位におけるアミノ酸プロリンのアスパラギン酸による単一置換を含み、組換え酵母により産生される。それは、100単位 インスリンアスパルト/ml、16mg/ml グリセリン、1.50mg フェノール/ml、1.72 メタクレゾール/ml、19.6mg 亜鉛/ml、1.25mg リン酸水素二ナトリウム二水和物/ml、0.58mg 塩化ナトリウム/mlを含み、10%HCl又はNaOHで調整された7.2?7.6のpHを有する滅菌済み水溶液で提供される。
【0052】
VIAJECT(商標)は、クエン酸及びEDTAを用いて製剤化された組換えヒトインスリンである。Viaject 25U/mL(CE25-4)は、25U/mL レギュラー組換えヒトインスリン、1.8mg/mL クエン酸、1.8mg/mL EDTA二ナトリウム、0.82% NaCl(等張性)及び3mg/mL m-クレゾールを含有する。それは、凍結保存されている水溶液として、又は乾燥粉末インスリン及び希釈剤(その少なくとも1つがクエン酸及びEDTAを含有する)からなる2部キットで提供される。再構成混合物及び凍結溶液の両方のpHは、約pH4である。再構成粉末は、実施例において用いたものである。Viaject 100U/mL(CE100-4)は、100U/mL レギュラー組換えヒトインスリン、1.8mg/mL クエン酸、1.8mg/mL EDTA二ナトリウム、22mg/mL グリセリン、3mg/mL m-クレゾールを含有する。これも凍結水溶液として又は乾燥粉末状インスリン及び希釈剤からなる2部キットとして提供される。再構成混合物及び凍結溶液の両方のpHは、約4である。凍結水溶液のみを分析用遠心分離機データ及びマルバーンに用いた。Viaject 100U/mL(CE100-7)は、100U/mL レギュラー組換えヒトインスリン、1.8mg/mL クエン酸、1.8mg/mL EDTA二ナトリウム、22mg/mL グリセリン、3mg/mL m-クレゾールを含有する。これは、4℃で保存することができる約7.4のpHを有する水溶液として提供される。これは、ブタ試験に用いた。酸塩を含むVIAject(CSE100-7)は、両方が水中1.8mg/mLのEDTA及びクエン酸三ナトリウムと、100U/mL インスリン及びグリセリン(22mg/mL)を用いて調製する。最終pHは、水酸化ナトリウムを用いて7.4に調整する。これは、マルバーン情報に関する最終実施例に用いた。」

(2-4)
「【0066】
(実施例4)
ブタにおけるクエン酸をベースとするインスリン製剤中のキレート剤の前臨床評価
材料及び方法
公表された試験、A. Plum、H. Agerso及びL. Andersen、Pharmacokinetics of the rapid-acting insulin analog,insulin aspart,in rats,dogs,and pigs,and pharmacodynamics of insulin aspart in pigs.Drug Metab. Dispos.,28巻(2号)、155?60頁(2000年)と調和して、消失の遅延は注射部位からの吸収がより遅いことを意味するので、消失半減期がインスリンの吸収の有効な決定因子であると決定した。したがって、ミニブタ試験の非コンパートメント解析を行って、PK及びPDパラメーター、特に消失半減期を調査した。
【0067】
糖尿病ブタにインスリンの4つの製剤のうちの1つを皮下注射した。3つの製剤は、キレート剤(EDTA、EGTA又はTSC)を含んでおり、第4の対照は、レギュラーヒトインスリンRHIのみを含み、キレート剤を含んでいなかった。クエン酸(1.8mg/ml)をすべてのキレート剤製剤における酸として用い、NaCl及びm-クレゾールをすべての場合に等張性及び製剤の無菌性のために加えた。キレート剤は、すべて4.84×10^(-3)モルという同じモル濃度であった。
【0068】
ブタには、一夜絶食させ、EDTAを含有する0.125U/kgヒトインスリン(n=3)又はEGTA若しくはTSCを含有する0.08U/kgヒトインスリン(n=2)の用量を皮下投与した。より高用量では極度の血糖の低下のため、用量を低くした。血糖及びインスリンレベルを投薬後8時間までのすべての時点で測定した。
【0069】
薬物動態モデリングは、均一重み付きの非コンパートメントモデルを用いてWin Nonlinを用いて行われた。消失半減期を以下の表1で比較した。
【0070】
表1:キレート剤に応じたブタにおける血糖の比較
【0071】
【表1】

ブタにおけるこのパイロット試験におけるレギュラーヒトインスリンの消失半減期(120分)は、文献にみられるものと一致しており、データをバリデートするためのテストポイントとして用いた。これは静脈投与後よりかなり長いので、注射後の注射部位からの持続的な遅い吸収があることがこれによって確認される。クエン酸製剤中のキレート剤は、このパラメーターの低下を明らかに示しており、これらの3つのキレート剤が、程度は異なるが、レギュラーヒトインスリンの吸収を増大させるのに有効であることが実証されている。」

(2-5)
「【0060】
(実施例3)
キレート剤に応じた、上皮細胞トランスウエルアッセイを用いたインスリンの取込み及び輸送のin vitroでの比較
材料及び方法
口腔上皮細胞を、複数(4?5層)の細胞層が形成されるまでトランスウエルインサートで2週間にわたり増殖させた。適切な溶液をドナーウエルに加え、10、20及び30分後にレシーバーウエルから試料を除去することにより、輸送試験を行った。
【0061】
溶液は、トランスウエル実験の直前に次の方法で調製した:1.8mg/mlのクエン酸を0.85重量/容積%の食塩水に溶解し、次いで、次のキレート剤の1つをこの溶液に、示す濃度で加えた:1.80mg/mlのEDTA、1.84mg/mlのEGTA、0.88mg/mlのDMSA及び1.42mg/mlのTSC。CDTAはその液体形態で用いたため、クエン酸をCDTAに直接加えた。これらの場合のそれぞれにおいて、キレート剤の濃度は、4.84×10^(-3)モルで一定であった。
【0062】
インスリンを次に1mg/mlで加え、必要な場合、pHを3.8に再調整した。pH調整用にHClのみを用いた試料の対照セットを比較のために含めた。0.2mlの各溶液をドナーウエルに加えることにより、トランスウエル実験を行った。
【0063】
レシーバーウエル中のインスリンの量をELISAを用いてアッセイした。
【0064】
結果
30分のインスリンデータのグラフを図5に示す。TSC(クエン酸三ナトリウム)を用いて得られた結果と比較したときを除いて、クエン酸又はグルタミン酸を用いた場合に細胞を経て送達された有意により多くのインスリンが存在した。TSCの場合、pH調整のためにHClを用いた。pHの調整によりクエン酸が発生したが、これにより、これらの結果が説明される。
【0065】
これらの結果により実証されたように、取込み及び輸送の増大は、キレート剤の選択に依存する。」

(2)甲3
甲3には、次の事項が記載されている。
(3-1)
「【請求項1】 グリシルグリシン、クエン酸塩およびTRISからなる群から選択される少なくとも1つの緩衝液およびカルシウムおよびマグネシウムからなる群から選択される金属イオンを含むヒトインスリンまたはそのアナログまたは誘導体からなる水性インスリン組成物であって、緩衝液がTRISである場合、金属イオン濃度が0.0004?0.01Mの範囲内にない、該組成物。」

(3-2)
「【0009】
通常、インスリン組成物は、皮下注射によって投与される。患者にとって重要なことは、インスリン作用の開始時間、作用最高値および作用持続性時間を含むインスリン組成物の作用プロファイル(即ち、注入からの時間の関数としてのグルコース代謝に対するインスリンの作用)である。異なる作用プロファイルを有する多種のインスリン組成物は、患者に必要である。即ち、個々の患者は、同日に、非常に異なる作用プロファイルを有するインスリン組成物を使用することができる。ある時点のある患者に必要とされる作用プロファイルは、幾つかのファクター(例えば、患者が摂取する食事の、1日の時間および量および組成)に依存する。
【0010】
また、カートリッジが空になるまでインスリン組成物を貯蔵する、ペン様の注射装置(例えば、Penfill^(R)カートリッジを備えた装置)を特に多用するため、患者にとって重要なことは、インスリン組成物の化学安定性である。インスリンの貯蔵は、1.5または3.0mlのカートリッジを備えた装置に対して、少なくとも1または2週間またはそれ以上続く可能性がある。貯蔵中、インスリン構造内に共有電子対の化学変化が起こる。これは、例えば、脱アミド化生成物およびより高分子量の成分置換生成物(ダイマー、ポリマー等)潜在的免疫原性かつ活性のより低い分子形成に導く可能性がある。インスリンの化学安定性についての包括的な研究は、Jens Brange [in "Stability of Insulin",Kluwer Academic Publishers,1994]によって示された。
【0011】
インスリンまたはインスリンアナログを含む組成物は、一般的に、さまざまな添加剤、例えばリン酸ナトリウム塩(緩衝液)、Zn^(2+)(安定化剤)、フェノール/m-クレゾール(保存剤および安定化剤)、塩化ナトリウム(調度(tonicity)剤および安定化剤)およびグリセロール/マンニトール(調度剤)を用いて製造される。」

(3-3)
「【0027】
本明細書中、ユニット「U」は、インスリン6nmolを示す。」

(3-4)
「【0029】
本発明は、ヒトインスリンのアナログおよび/または誘導体を含む組成物に関して特に有利である。従って、本発明のインスリン組成物は、1または1以上の速く作用するヒトインスリンアナログ、特にB28位のアミノ酸残基がAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaおよびB29位のアミノ酸残基がLysまたはPro;またはdes(B28-B30)またはdes(B27)またはdes(B30)ヒトインスリンであるアナログ、を含むのが好ましい。該インスリンアナログは、B28位のアミノ酸残基がAspまたはLysであって、B29位のアミノ酸残基がLysまたはProであるヒトインスリンアナログから選択されるのが好ましい。最も好ましいアナログは、AspB28ヒトインスリンおよびLysB28Proヒトインスリンである。」

(3-5)
「【0032】
通常、本発明のインスリン組成物は、約60?3000nmol/ml、好ましくは240?1200nmol/mlのヒトインスリンまたはインスリンアナログまたはインスリン誘導体を含有する。
【0033】
本発明の組成物中に含まれる金属イオンの量は、通常、約0.1?10、より好ましくは0.5?5、例えば、インスリンまたはインスリンアナログまたはインスリン誘導体のヘキサマーあたり約1?4個の金属イオンである。特に良好な結果が、ヘキサマーあたり約2?3個の金属イオンによって得られる。
【0034】
金属イオンは、医薬学的に許容されるものであるべきであり、特にカルシウムおよび/またはマグネシウムである。好ましい金属イオンは、カルシウムであって、Gly-Glyを含有するインスリン組成物の安定性の点で驚くべきかつ有利な結果を提供することが示めされている。しかし、カルシウムに類似した特性(サイズ、原子価)を有する他の医薬的に許容され得る金属イオンも適当であって、特にマグネシウムも適当である。
【0035】
緩衝液、好ましくはGly-Glyの濃度は、通常、約1?20mM、好ましくは約3?15mM、例えば4?10mM、例えば5?7mMの範囲内にある。
【0036】
別の態様において、インスリン組成物は、5?100mM、より好ましくは10?100mM、例えば10?70mMの、PCT/DK997/00268に記載したようなハロゲン化物を含んでよい。」

(3-6)
「【0038】
本発明の特別な態様において、インスリン組成物は、金属イオンおよび緩衝液、例えば上記のようなGly-Gly緩衝液に加えて、60?3000nmol/ml、好ましくは240?1200nmol/mlのヒトインスリンまたはインスリンのアナログまたは誘導体、10?40μgZn/100Uインスリン、好ましくは10?26μgZn/100Uインスリン、および0?5mg/ml、好ましくは0?4mg/mlのフェノール化合物を含有する。
【0039】
フェノール化合物として、0.5?4.0mg/ml、好ましくは0.6?4.0mg/mlのm-クレゾールまたは0.5?4.0mg/ml、好ましくは1.4?4.0mg/mlのフェノール、またはそれらの混合物が、有利に用いられる。」

(3-7)
「【0044】
実施例:1
材料および方法
試験系の組成を以下に示した;使用した緩衝液およびカルシウムイオン濃度は以下の表1に示した。
インスリン("NN304")* 0.6μmol
フェノール 1.50mg
m-クレゾール 1.72mg
マンニトール 35mg
塩化ナトリウム 1.17mg
酢酸亜鉛 13.1μg
(2Zn^(2+)/(NN304)_(6))
塩化カルシウム・2水和物 表1参照
緩衝液の物質 表1参照
NaOH pH調整用
HCl pH調整用
調製用水 1ml
pH=7.5
*NN304は、インスリンアナログのN^(εB29)-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリンである。
【0045】
【表1】
試験系に対する緩衝物質およびCa^(2+)の濃度

・・・
【0064】
実施例2
試験は、"NN304"インスリン(実施例1とは異なる群であるが)を使用し、金属イオンとしてMg^(2+)またはCa^(2+)を添加し、緩衝液としてTRIS(7mM)またはGly-Gly(7mm)を使用する上記と類似の方法で実施した。試験系を上記のように調製し、5℃の温度で全48週間の間貯蔵した。ダイマー形成の量を、0、8、16、24、32および48週間後に測定し、k値(%ダイマー/週間)は回帰直線を使用して測定した。この系を試験し、その結果を以下の表11に示した。
【0065】
【表11】
表11:5℃での異なる系におけるダイマー形成

【0066】
上記の結果は、Gly-Gly系へのMg^(2+)の添加がダイマー形成速度を大きく低下させることを示した。ダイマー形成の低下は、TRIS系へのCa^(2+)またはMg^(2+)の添加によっても見られるが、TRIS系における相対的な低下は、Gly-Gly系に対するよりも小さい。即ち、この実施例は、実施例1における上記結論を支持するものであり、水性インスリン組成物を安定化するために、さらに、緩衝液、例えばGly-Glyと共にカルシウムまたはマグネシウムイオンを使用する有利な効果を支持するものである。


(3)甲4
甲4には、次の事項が記載されている。
(4-1)
「ヒューマログはミリリットルあたり、インスリンリスプロ100単位、16mg グリセリン、1.88mg リン酸水素二ナトリウム、3.15mg メタクレゾール、亜鉛イオンが0.0197mgとなるように調整された酸化亜鉛の量、微量のフェノール及び注射用水を含有する。インスリンリスプロは、7.0?7.8のpHを有する。pHは10%塩酸水溶液及び/又は10%水酸化ナトリウム水溶液を添加して調整された。」

(4)甲5
甲5には、次の事項が記載されている。
(5-1)
「HumulinR(インスリンヒト組換え)U-100は、滅菌された、透明、水性、無色の溶液で、ヒトインスリン(rDNA起源)100単位/mL、グリセリン16mg/mL及びメタクレゾール2.5mg/mL、内因性亜鉛(約0.015mg/100単位)及び注射用水を含む。pHは7.0?7.8である。pHを調整するために製造中に水酸化ナトリウム及び/又は塩酸を添加してもよい。」

(5)甲7
(7-1)(156頁左欄18行?21行)
「実験材料 ブタの皮下注射研究以外のすべての研究ではIA(10U/ml)及びHI(10U/ml)が投与量として用いられた。ブタの皮下注射研究では、ヒトで用いられるのと同様の注射量を得るために、IA及びHIの両者で、100U/mlの処方が用いられた。」

第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 甲1に記載された発明を引用発明とする申立理由1-ア(新規性)及び申立理由2-ア(進歩性)
(1)申立人は、訂正前の請求項1、3?10、12?14、16?22に係る発明は、甲1に記載された発明である旨主張するので検討する。
本件訂正請求により、申立理由1-アが主張されていない請求項2の発明特定事項である「約5mMまでの濃度での塩化マグネシウムをさらに含」む点が請求項1に追加された。
したがって、訂正後の請求項1及び同項を引用する請求項3?10、12?14、16?22に係る発明に対しての申立理由1-アは理由がないものとなった。

(2)申立人は、訂正前の請求項15に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
訂正前の請求項15は、請求項1?14を引用するところ、このうち、独立請求項は1及び11である。
申立人は、請求項11に対しては、申立理由2-アを主張していないので、請求項1を引用する請求項15について、申立理由2-アを検討することとする。
本件訂正請求により、申立理由2-アが主張されていない請求項2の発明特定事項である「約5mMまでの濃度での塩化マグネシウムをさらに含」む点が請求項1に追加された。
したがって、訂正後の請求項1及び同項を引用する請求項3?10、12?14を引用する請求項15に係る発明に対しての申立理由2-アは理由がないものとなった。

なお、甲1に記載された発明を引用発明とする申立理由2-ア(進歩性)のうち、訂正前の請求項19?22に対するものは、上記第4 2(1)において、取消理由1として検討しており、理由のないものと判断している。

2 甲2の実施例4に記載された発明を引用発明とする申立理由1-イ(新規性)及び申立理由2-ウ(進歩性)
(1)申立人は、訂正前の請求項1、4?10、12?22に係る発明は、甲2の実施例4に記載された発明である旨主張するので検討する。
本件訂正請求により、申立理由1-イが主張されていない請求項2の発明特定事項である「約5mMまでの濃度での塩化マグネシウムをさらに含」む点が請求項1に追加された
したがって、訂正後の請求項1及び同項を引用する請求項4?10、12?22に係る発明に対しての申立理由1-イは理由がないものとなった。

(2)申立人は、訂正前の請求項2及び11に係る発明は、甲2の実施例4に記載された発明及び甲5、甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するので検討する。

ア 甲2の実施例4に記載された発明
上記記載事項(2-4)の実施例4において、4つの製剤が調製されており、そのうちの一つに、キレート剤としてTSC、すなわち、クエン酸三ナトリウムを含有する製剤が記載されている。
ここで、実施例4におけるコントロールについてみると、(a)第4の製剤(コントロール)は、レギュラーヒトインスリンRHIのみを含み、キレート剤を含んでいなかったと記載されているところ、段落【0048】に「以下のインスリンを実施例で用いた」と記載され、そのインスリンが示された【0049】において、「HUMULIN(登録商標)(RHI)」と記載されていること、及び(b)実施例4で引用されている「A. Plum、H. Agerso及びL. Andersen、Pharmacokinetics of the rapid-acting insulin analog,insulin aspart,in rats,dogs,and pigs,and pharmacodynamics of insulin aspart in pigs.Drug Metab. Dispos.,28巻(2号)、155?60頁(2000年)」は、甲7のことであるところ、甲7には、「ブタでは、ヒトで用いられるのと同様の注射量を得るために、IA及びHIの両者で、100IU/mLの処方が用いられた。」と記載されていることから(上記記載事項(7-1))、実施例4で用いられた製剤におけるインスリン濃度は、100IU/mLであって、HUMULIN(登録商標)と同じインスリン濃度であることを併せ参酌すれば、コントロールである第4の製剤は、HUMULIN(登録商標)が用いられたものと認められる。
そして、実施例4は、キレート剤の効果を検討することを目的としたものであるから、上記のクエン酸三ナトリウムを含有する製剤も、キレート剤及びクエン酸以外の成分は、HUMULIN(登録商標)と一致すると考えられる。
また、クエン酸の分子量は192.124であることから、クエン酸1.8mg/mLは9.4mMであり、クエン酸三ナトリウムは4.84mMであるから、実施例4のクエン酸三ナトリウムを含有する製剤におけるクエン酸塩の濃度は、14.24mM(9.4+4.84)となる。
さらに、甲5の上記記載事項(5-1)によると、HUMULIN(登録商標)は、亜鉛を約0.015mg/100単位含むものであるところ、亜鉛の原子量が65.38であることから、HUMULIN(登録商標)には亜鉛が0.23mM含まれている。また、上記記載事項(5-1)によると、HUMULIN(登録商標)には、メタクレゾールが2.5mg/mL及びグリセリンが16mg/mL含まれている。
したがって、甲2の実施例4のクエン酸三ナトリウムを含有する製剤には、以下の成分が含まれる。
インスリン 100IU/mL
クエン酸 14.24mM
亜鉛 0.23mM
m-クレゾール 2.5mg/mL
グリセリン 16mg/mL
そして、甲2の実施例4のクエン酸三ナトリウムを含有する製剤は、ブタにおけるインシュリンの吸収を増大させることが記載されていることから(上記記載事項(2-4)の表1)、医薬組成物であるといえる。
以上によれば、甲2の実施例4には、以下の発明が記載されていると認められる。
「インスリン 100IU/mL
クエン酸 14.24mM
亜鉛 0.23mM
m-クレゾール 2.5mg/mL
グリセリン 16mg/mL
を含む医薬組成物。」(以下、「甲2-1発明」という。)

イ 本件発明1
本件訂正請求により、訂正前の請求項2の発明特定事項である「約5mMまでの濃度での塩化マグネシウムをさらに含」む点が請求項1に追加されたので、まず、本件発明1に対する申立理由2-ウについて検討する。

(ア)対比
本件発明1と甲2-1発明を対比する。
甲2-1発明の「インスリン 100IU/mL」は、本件発明1の「(a)約100?約200IU/mLの濃度でのインスリン」に包含される。
また、甲2-1発明の「亜鉛イオン 0.23mM」は、本件発明1の「(c)約0.2?約0.8mMの濃度での亜鉛」に包含される。本件発明1の保存剤については、本件発明1を引用する本件発明6に、「前記保存剤がメタクレゾールである、請求項1?4のいずれかに記載の医薬組成物」と記載されていることからみて、甲2-1発明の「m-クレゾール」は、本件発明1の「保存剤」に該当する。また、甲2-1発明の医薬組成物にはEDTAが含まれていない。
そうすると、両者は、「医薬組成物であって、約100?約200IU/mLの濃度でのインスリンと、約0.2?約0.8mMの濃度での亜鉛と、保存剤とを含み、前記組成物がEDTAを含まない前記医薬組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点2-1
本件発明1では、「クエン酸塩」を「約15?約35mMの濃度」で含むものであるのに対し、甲2-1発明では、「クエン酸」を「14.24mM」の濃度で含む点。
相違点2-2
本件発明1は「約5mMまでの濃度での塩化マグネシウムをさらに含」むものであるのに対し、甲2-1発明では、塩化マグネシウムを含まない点。
相違点2-3
甲2-1発明はグリセリンを16mg/mL含むのに対し、本件発明1はグリセリンを含むことは特定されていない点。

(イ)判断
a 相違点2-2について検討する。
申立人は、甲2の段落【0032】を参酌すれば、甲2-1発明にマグネシウムを添加することは容易になし得たことである旨主張するので検討する。
甲2の段落【0032】の記載は以下のとおりである。
「【0032】
溶解剤
特定の酸又はそれらの塩は、図1に示すように、インスリンの電荷を遮へいし、取込み及び輸送を増大させるのは明らかである。溶解剤として有効であるそれらの酸は、下の実施例で記載するトランスウエルアッセイで測定されるように、塩酸を基準として、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸及びアジピン酸を含む。例えば、活性剤がインスリンである場合、好ましい溶解剤はクエン酸である。塩酸及び水酸化ナトリウムは、pH調整用の好ましい剤である。HClは、製剤のいずれかと組み合わせて用いることができるが、溶解剤ではない。酸の塩は、酢酸ナトリウム、アスコルビン酸塩、クエン酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩及びアジピン酸塩を含む。有機酸の塩は、金属水酸化物、金属酸化物、金属炭酸塩及び金属重炭酸塩、金属アミン、並びに塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム等などのアンモニウム塩基を含むが、これらに限定されない様々な塩基を用いて調製することができる。適切な金属は、一価及び多価金属イオンを含む。例としての金属イオンは、リチウム、ナトリウム及びカリウムなどのI族金属、バリウム、マグネシウム、カルシウム及びストロンチウムなどのII族金属、並びにアルミニウムなどのメタロイドを含む。多価金属イオンは、2つ以上のカルボン酸基と同時に錯体を形成できるので、複数のカルボン酸基を含有する有機酸が望ましい場合がある。」

このように、甲2の段落【0032】の記載は、溶解剤として添加する有機酸の塩に用いられる金属を多数列挙するところ、そのうちの一つとしてマグネシウムを挙げるに過ぎないものであって、塩化マグネシウムを添加することを示唆するものではないから、甲2-1発明において、塩化マグネシウムを添加することの動機付けとなるものではない。
他の証拠についてみると、甲5は、Humulinの組成を示すための証拠であり、甲7は、甲2の実施例4に引用されている論文の実験内容におけるインスリン濃度を示すための証拠であって、いずれの証拠にもインスリン製剤に塩化マグネシウムを添加することを動機付ける記載は見当たらない。

b 効果
本件発明1は、インスリン製剤に特定の濃度のクエン酸塩を含有させることにより、インスリンの血中への迅速な取り込み、作用の発現といった時間作用の改善効果を奏するとともに、さらに、特定濃度の亜鉛、特定濃度のマグネシウム、保存剤といった各成分の組合せを含むことにより、全体として、化学的及び物理的な安定性が維持されるという優れた効果を奏するものと認められ(段落【0203】?【0231】)、この効果は、甲2、甲5、甲7の記載からは当業者が予測できない格別顕著なものと認められる。

c よって、本件発明1は、相違点2-1、相違点2-3を検討するまでもなく、甲2-1発明及び甲5、甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明11
(ア)対比
本件発明11と甲2-1発明を対比する。
甲2-1発明の「亜鉛イオン 0.23mM」は、本件発明11の「(c)約0.2?約2mMの濃度での亜鉛」に包含される。本件発明11の保存剤については、本件発明6に、「前記保存剤がメタクレゾールである、請求項1?4のいずれかに記載の医薬組成物」と記載されていることからみて、甲2-1発明の「m-クレゾール」は、本件発明11の「保存剤」に該当する。また、甲2-1発明の医薬組成物にはEDTAが含まれていない。
そうすると、両者は、「医薬組成物であって、インスリンと、約0.2?約2mMの濃度での亜鉛と、保存剤とを含み、前記組成物がEDTAを含まない前記医薬組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点2-4
本件発明11では、「クエン酸塩」を「約10?約35mMの濃度」で含むものであるのに対し、甲2-1発明では、「クエン酸」を「14.24mM」の濃度で含む点。
相違点2-5
本件発明11は「約1?約15mMの濃度でのマグネシウム」を含むのに対し、甲2-1発明はマグネシウムを含まない点。
相違点2-6
本件発明11は「約10?約60mMの濃度での総塩化物」を含むのに対し、甲2-1発明は塩化物を含まない点。
相違点2-7
本件発明11は「約0.001?約0.2%w/vの濃度での界面活性剤」を含むのに対し、甲2-1発明は界面活性剤を含まない点。
相違点2-8
甲2-1発明はグリセリンを16mg/mL含むのに対し、本件発明11はグリセリンを含むことは特定されていない点。

(イ)判断
a 相違点2-6について
申立人は、甲2-1発明の14.24mMのクエン酸は、約10?約60mMの濃度での総塩化物に該当する旨主張する。
しかし、甲2-1発明における14.24mMのクエン酸のうち、4.84mM分はクエン酸塩として添加されてはいるが、クエン酸三ナトリウムであって、これには塩化物は含まれていないから、当該申立人の主張は採用できない。
他の証拠についてみると、甲5は、Humulinの組成を示すための証拠であり、甲7は、甲2の実施例4に引用されている論文の実験内容におけるインスリン濃度を示すための証拠であり、いずれの証拠にもインスリン製剤に塩化マグネシウムなどの何らかの塩化物の添加を動機付ける記載は見当たらない。
したがって、いずれの証拠を参酌しても、甲2-1発明において、当業者が塩化物を添加することを動機付けられるものではない。

b 相違点2-5について
申立人は、甲2の段落【0032】の記載から、甲2-1発明にマグネシウムを含めることができる旨主張するが、段落【0032】の記載は上記のとおり、溶解剤として添加する有機酸の塩に用いられる金属を多数列挙するところ、そのうちの一つとしてマグネシウムを挙げるに過ぎないものであって、このような記載から、特に有機酸のマグネシウム塩を選択することを当業者に想起させるものではない。仮に、甲2-1発明において、溶解剤として有機酸のマグネシウム塩を選択したとしても、本件発明11は、下記cに説示するとおり、本件発明11の構成を採ることにより、顕著な効果を奏するものである。

c 効果
本件発明11は、インスリン製剤に特定の濃度のクエン酸塩を含有させることにより、インスリンの血中への迅速な取り込み、作用の発現といった時間作用の改善効果を奏するとともに、さらに、特定濃度の亜鉛、特定濃度のマグネシウム、特定濃度の総塩化物、特定濃度の界面活性剤、保存剤といった各成分の組合せを含むことにより、全体として、化学的及び物理的な安定性が維持されるという優れた効果を奏するものと認められ(段落【0211】?【0231】)、この効果は、甲2、甲5、甲7の記載からは当業者が予測できない格別顕著なものと認められる。

d よって、本件発明11は、相違点2-4、相違点2-7及び相違点2-8を検討するまでもなく、甲2の実施例4に記載された発明及び甲5、甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明3?10、12?17
本件発明3?10、12?17は、本件発明1をさらに限定した発明であり、本件発明12?17は、本件発明11をさらに限定した発明であるから、本件発明3?10、12?17は、本件発明1又は11と同様の理由により、甲2の実施例4に記載された発明及び甲5、甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件発明18
本件発明18は、本件発明1、3?15に係る医薬組成物の、「糖尿病の治療のための薬剤の製造における」「使用」に係る発明であり、本件発明1又は11と同様に、甲2の実施例4に記載された発明及び甲5、甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件発明19?22
本件発明19は、本件発明1、3?15に記載の医薬組成物を含む「製造物品」に係る発明であり、本件発明1又は11と同様に、甲2の実施例4に記載された発明及び甲5、甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

キ なお、甲2の実施例4に記載された発明を引用発明とする申立理由2-ウ(進歩性)のうち、訂正前の請求項1、3?10、12?22に対するものは、上記第4 2(2)において、取消理由2として検討しており、理由のないものと判断している。

ク 小括
以上のとおりであるから、申立理由2-ウは理由がない。

3 甲2の実施例3に記載された発明を引用発明とする申立理由2-イ(進歩性)
申立人は、訂正前の請求項1?10、12?22に係る発明は、甲2の実施例3に記載された発明及び甲4?6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するので検討する。

(1)甲2の実施例3に記載された発明
上記記載事項(2-5)の実施例3において、3つの製剤が調製されており、そのうちの一つにキレート剤としてTSC、すなわち、クエン酸三ナトリウムを含有する製剤が記載されているので、この製剤について以下、検討する。
甲2の実施例3には、「溶液は、トランスウエル実験の直前に次の方法で調製した:1.8mg/mlのクエン酸を0.85重量/容積%の食塩水に溶解し、次いで、次のキレート剤の1つをこの溶液に、示す濃度で加えた:・・・1.42mg/mlのTSC。」と記載されている。クエン酸の分子量は、192.124であるから、1.8mg/mlのクエン酸は9.4mMとなる。また、「これらの場合のそれぞれにおいて、キレート剤の濃度は、4.84×10^(-3)モルで一定であった。」と記載されているので、TSCの濃度は、4.84mMである。そうすると、実施例3のクエン酸三ナトリウムを含有する製剤におけるクエン酸塩の濃度は、14.24mM(9.4+4.84)となる。
次に、甲2の実施例3で使用されたインスリンは明示されていないが、段落【0048】に「以下のインスリンを実施例で用いた。」と記載され、Humulin、Humalog及びNovologが列挙されている。上記記載事項(5-1)によれば、Humulinは、亜鉛を100IU/mlインスリンあたり0.015mg/ml、すなわち、0.23mM含有している。Humalogの組成は段落【0050】に記載されており、亜鉛を100IU/mlインスリンあたり0.0197mg/ml、すなわち、0.3mM含有している。Novologの組成は、段落【0051】に記載されており、亜鉛を、100IU/mlインスリンあたり0.3mM含有している。甲2の実施例3では、インスリン1mg/mlが用いられているが、これはおよそ30IU/mlインスリンに相当する。したがって、亜鉛は、どのインスリン製剤を用いた場合でも、約0.1mM含有していることになる。
また、段落【0049】?【0051】によれば、Humulin、Humalog及びNovologは、いずれもm-クレゾール及びグリセリンを含有している。
甲2の実施例3においてキレート剤としてクエン酸三ナトリウムを含有する組成物を用いた場合、インビトロの実験でインスリンが上皮細胞に取り込まれていることが示されているが、当該組成物を動物に投与して、医薬用途に使用できることが明らかであるように記載されていないため、医薬組成物に係る発明を認定することはできない。
そうすると、甲2の実施例3には、以下の発明が記載されていると認められる。
「インスリン 30IU/mL
クエン酸 14.24mM
亜鉛 約0.1mM
m-クレゾール
グリセリン
を含む組成物。」(以下、「甲2-2発明」という。)

(2)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲2-2発明を対比する。
本件発明1の保存剤については、本件発明1を引用する本件発明6に、「前記保存剤がメタクレゾールである、請求項1?4のいずれかに記載の医薬組成物」と記載されていることからみて、甲2-2発明の「m-クレゾール」は、本件発明1の「保存剤」に該当する。また、甲2-2発明の医薬組成物にはEDTAが含まれていない。
そうすると、両者は、「インスリンと、クエン酸と、亜鉛と、保存剤とを含み、前記組成物がEDTAを含まない組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点2-9
インスリンの濃度が、本件発明1では約100?約200IU/mLであるのに対し、甲2-2発明では30IU/mlである点。
相違点2-10
クエン酸の濃度が、本願発明1では約15?約35mMであるのに対し、甲2-2発明では14.24mMである点。
相違点2-11
亜鉛の濃度が、本件発明1では約0.2?約0.8mMであるのに対し、甲2-2発明では約0.1mMである点。
相違点2-12
本件発明1は「約5mMまでの濃度での塩化マグネシウムをさらに含」むものであるのに対し、甲2-1発明では、塩化マグネシウムを含まない点。
相違点2-13
本件発明1は医薬組成物であるのに対し、甲2-2発明は単なる組成物である点。
相違点2-14
甲2-2発明はグリセリン含むのに対し、本件発明1はグリセリンを含むことは特定されていない点。

イ 判断
(ア)相違点2-12について検討する。
申立人は、甲2の段落【0032】を参酌すれば、甲2-2発明にマグネシウムを添加することは容易になし得たことである旨主張するが、上記2(2)イ(イ)aで説示したとおり、甲2の段落【0032】の記載は、溶解剤として添加する有機酸の塩に用いられる金属を多数列挙するところ、そのうちの一つとしてマグネシウムを挙げるに過ぎないものであって、塩化マグネシウムを添加することを示唆するものではないから、甲2-2発明において、塩化マグネシウムを添加することの動機付けとなるものではない。
他の証拠についてみると、甲4は、Humalogの組成を示すための証拠であり、甲5及び甲6は、Humulinの組成を示すための証拠であって、いずれの証拠にもインスリン製剤に塩化マグネシウムを添加することを動機付ける記載は見当たらない。

(イ)効果
本件発明1は、インスリン製剤に特定の濃度のクエン酸塩を含有させることにより、インスリンの血中への迅速な取り込み、作用の発現といった時間作用の改善効果を奏するとともに、さらに、特定濃度の亜鉛、特定濃度のマグネシウム、保存剤といった各成分の組合せを含むことにより、全体として、化学的及び物理的な安定性が維持されるという優れた効果を奏するものと認められ(段落【0203】?【0231】)、この効果は、甲2、甲4?6の記載からは当業者が予測できない格別顕著なものと認められる。

(ウ)よって、本件発明1は、相違点2-9?相違点2-11、相違点2-13及び相違点2-14を検討するまでもなく、甲2の実施例3に記載された発明及び甲4?6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明3?10、12?17
本件発明3?10、12?17は、本件発明1をさらに限定した発明であるから、本件発明3?10、12?17は、本件発明1と同様の理由により、甲2の実施例3に記載された発明及び甲4?6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明18
本件発明18は、本件発明1、3?15に係る医薬組成物の、「糖尿病の治療のための薬剤の製造における」「使用」に係る発明であり、上記(2)で説示したのと同様に、甲2の実施例3に記載された発明及び甲4?6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明19?22
本件発明19は、本件発明1、3?15に記載の医薬組成物を含む「製造物品」に係る発明であり、上記(2)で説示したのと同様に、甲2の実施例3に記載された発明及び甲4?6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)小括
以上のとおりであるから、申立理由2-イは理由がない。

4 甲3に記載された発明を引用発明とする申立理由1-ウ(新規性)及び申立理由2-エ(進歩性)
(1)申立人は、訂正前の請求項1?10、12?22は、甲3に記載された発明である旨主張するので検討する。

ア 甲3に記載された発明
上記記載事項(3-5)の段落【0032】には、「通常、本発明のインスリン組成物は、約60?3000nmol/ml、好ましくは240?1200nmol/mlのヒトインスリンまたはインスリンアナログまたはインスリン誘導体を含有する。」と記載されているところ、上記記載事項(3-3)の段落【0027】には、「本明細書中、ユニット「U」は、インスリン6nmolを示す。」と記載されており、「U」と「IU」は同義であるから、「本発明のインスリン組成物」は、約10?500IU/mlのヒトインスリン、インスリンアナログ又はインスリン誘導体を含有することになる。
緩衝液の濃度は、上記記載事項(3-5)の段落【0035】に記載されるように、通常1?20mMであり、請求項1に記載されるように、緩衝液としてクエン酸塩を選択することができるものである。
また、請求項1には、「カルシウムおよびマグネシウムからなる群から選択される金属イオンを含む」と記載されているところ、金属イオンとしてマグネシウムを選択した場合、その量は、上記記載事項(3-5)の段落【0033】の「本発明の組成物中に含まれる金属イオンの量は、インスリンまたはインスリンアナログまたはインスリン誘導体のヘキサマーあたり、通常、約0.1?10」という記載に基づけば、インスリン100IU/mlあたり、0.01?1mMの金属イオンとなる。
そして、上記記載事項(3-6)の段落【0038】には、「本発明の特別な態様において、インスリン組成物は、金属イオンおよび緩衝液、例えば上記のようなGly-Gly緩衝液に加えて、60?3000nmol/ml、好ましくは240?1200nmol/mlのヒトインスリンまたはインスリンのアナログまたは誘導体、10?40μgZn/100インスリン、好ましくは10?26μgZn/100Uインスリン、および0?5mg/ml、好ましくは0?4mg/mlのフェノール化合物を含有する。」と記載されており、10?40μgZn/100インスリンは、亜鉛の原子量が65.38であることから、0.15?0.615mM/100IUインスリンとなる。
また、上記記載事項(3-6)の段落【0039】には、「フェノール化合物として、0.5?4.0mg/ml、好ましくは0.6?4.0mg/mlのm-クレゾール」と記載されている。

そうすると、甲3には、以下の発明が記載されていると認められる。
「インスリン、インスリンアナログ又はインスリン誘導体 約10?約500IU/mL、
クエン酸塩である緩衝液 1?20mM
亜鉛 0.15?0.615mM/100IUインスリン、すなわち、0.015?3.075mM
m-クレゾール 0.6?4.0mg/ml
マグネシウム0.01?1mM/100IUインスリン、すなわち、0.001?5mM
を含む医薬組成物。」(以下、「甲3発明」という。)

イ 本件発明1
(ア)対比
本件発明1と甲3発明を対比する。
本件発明1の保存剤については、本件発明1を引用する本件発明6に、「前記保存剤がメタクレゾールである、請求項1?4のいずれかに記載の医薬組成物」と記載されていることからみて、甲3発明の「m-クレゾール」は、本件発明1の「保存剤」に相当する。また、甲3発明には、EDTAは含まれていない。
そうすると、両者は、「医薬組成物であって、インスリンと、クエン酸塩と、亜鉛と、保存剤を含み、前記組成物がEDTAを含まない前記医薬組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点3-1
インスリンの濃度が、本件発明1では、約100?約200IU/mLであるのに対し、甲3発明では約10?約500IU/mLである点。
相違点3-2
クエン酸塩の濃度が、本件発明1では約15?約35mMであるのに対し、甲3発明では1?20mMである点。
相違点3-3
亜鉛の濃度が、本件発明1では約0.2?約0.8mMであるのに対し、甲3発明では0.015?3.075mMである点。
相違点3-4
本件発明1は「約5mMまでの濃度での塩化マグネシウムをさらに含」むものであるのに対し、甲3発明では0.001?5mMのマグネシウムを含むものの、塩化マグネシウムであるかは不明である点。

本件発明1と甲3発明は、上記の相違点で相違するものであるから、本件発明1は甲3に記載された発明ということはできない。

ウ 本件発明3?10、12?17
本件発明3?10、12?17は、本件発明1をさらに限定した発明であるから、甲3に記載された発明ということはできない。

エ 本件発明18
本件発明18は、本件発明1、3?15に係る医薬組成物の、「糖尿病の治療のための薬剤の製造における」「使用」に係る発明であるから、甲3に記載された発明ということはできない。

オ 本件発明19?22
本件発明19は、本件発明1、3?15に記載の医薬組成物を含む「製造物品」に係る発明であるから、甲3に記載された発明ということはできない。

カ 小括
以上のとおりであるから、申立理由1-ウは理由がない。

(2)申立人は、訂正前の請求項1?22は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するので検討する。

ア 本件発明1
上記(1)イ(ア)のとおり、本件発明1と甲3発明は、上記相違点3-1?3-4の点で相違する。
甲3には、インスリン製剤において、特定濃度のクエン酸塩、特定濃度の亜鉛、特定濃度のマグネシウム、保存剤を併用することについて記載も示唆もない。
そして、本件発明1は、特定濃度のクエン酸塩を含有させることにより、インスリンの血中への迅速な取り込み、作用の発現といった時間作用の改善効果を奏するとともに、さらに、特定濃度の亜鉛、特定濃度のマグネシウム、保存剤といった各成分の組合せを含むことにより、全体として、化学的及び物理的な安定性が維持されるという当業者が予測できない顕著な効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

イ 本件発明3?10、12?17
本件発明3?10、12?17は、本件発明1をさらに限定した発明であるから、本件発明1と同様の理由により、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

ウ 本件発明11
(ア)対比
本件発明11と甲3発明を対比する。
本件発明11の保存剤については、本件発明6に、「前記保存剤がメタクレゾールである、請求項1?4のいずれかに記載の医薬組成物」と記載されていることからみて、甲3発明の「m-クレゾール」は、本件発明11の「保存剤」に該当する。また、甲3発明にはEDTAは含まれていない。
そうすると、両者は、「医薬組成物であって、インスリンと、クエン酸塩と、亜鉛と、マグネシウムと、保存剤とを含み、前記組成物がEDTAを含まない前記医薬組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点3-5
クエン酸塩の濃度が、本件発明11では約10?約35mMであるのに対し、甲3発明では1?20mMである点。
相違点3-6
亜鉛の濃度が、本件発明11では約0.2?約2mMであるのに対し、甲3発明では0.015?3.075mMである点。
相違点3-7
マグネシウムの濃度が、本件発明11では約1?約15mMであるのに対し、甲3発明では0.001?5mMである点。
相違点3-8
本件発明11は「約10?約60mMの濃度での総塩化物」を含むのに対し、甲3発明は塩化物を含まない点。
相違点3-9
本件発明11は「約0.001?約0.2%w/vの濃度での界面活性剤」を含むのに対し、甲3発明は界面活性剤を含まない点。

(イ)判断
a 相違点3-5?相違点3-9について
甲3には、インスリン製剤において、特定濃度のクエン酸塩、特定濃度の亜鉛、特定濃度のマグネシウム、特定濃度の総塩化物、特定濃度の界面活性剤及び保存剤を併用することについて記載も示唆もない。
そして、本件発明11は、特定濃度のクエン酸塩を含有させることにより、インスリンの血中への迅速な取り込み、作用の発現といった時間作用の改善効果を奏するとともに、さらに、特定濃度の亜鉛、特定濃度のマグネシウム、特定濃度の総塩化物、特定濃度の界面活性剤及び保存剤といった各成分の組合せを含むことにより、全体として、化学的及び物理的な安定性が維持されるという当業者が予測できない顕著な効果を奏するものである。
よって、本件発明11は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

エ 本件発明18
本件発明18は、本件発明1、3?15に係る医薬組成物の、「糖尿病の治療のための薬剤の製造における」「使用」に係る発明であり、上記ア又はウで説示したのと同様に、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

オ 本件発明19?22
本件発明19は、本件発明1、3?15に記載の医薬組成物を含む「製造物品」に係る発明であり、上記ア又はウで説示したのと同様に、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

カ 小括
以上のとおりであるから、申立理由2-エは理由がない。

5 申立理由3(実施可能要件)及び申立理由4(サポート要件)
申立人は、訂正前の請求項1、3?10、12?22に係る発明について、本件発明の効果は、マグネシウムの存在を必須とするものであるから、マグネシウムについて規定のない上記請求項に係る発明は、実施可能要件及びサポート要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、本件訂正請求により、申立理由3及び申立理由4が主張されていない請求項2の発明特定事項である「約5mMまでの濃度での塩化マグネシウムをさらに含」む点が請求項1に追加された。
したがって、訂正後の請求項1及び同項を直接又は間接的に引用する請求項3?10、12?22に係る発明に対しての申立理由3及び申立理由4は理由がないものとなった。

6 申立理由5(明確性)
申立人は、請求項1には、マグネシウムが存在することが記載されていないところ、インスリン製剤である組成物の安定性のためには、マグネシウムの存在が欠かせないものであるから、請求項1に係る発明は明確ではない旨主張する。
しかしながら、本件訂正請求により、「約5mMまでの濃度での塩化マグネシウムをさらに含」む点が請求項1に追加され、申立人が主張する申立理由5の前提が成立しないものとなった。
したがって、訂正後の請求項1に係る発明に対しての申立理由5は理由がない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び3?22に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び3?22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法第114条第4項の規定により、本件請求項1及び3?22に係る特許について、結論のとおり決定する。

本件請求項2に係る特許は、訂正により削除された。これにより、本件特許の請求項2に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬組成物であって
(a)約100?約200IU/mLの濃度でのインスリンと
(b)約15?約35mMの濃度でのクエン酸塩と、
(c)約0.2?約0.8mMの濃度での亜鉛と、
(d)保存剤とを含み、
約5mMまでの濃度での塩化マグネシウムをさらに含み、
前記組成物がEDTAを含まない、前記医薬組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記インスリンがインスリンリスプロである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記クエン酸塩の濃度が約15?約25mMである、請求項1および3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記保存剤が、フェノール及びメタクレゾール及びそれらの混合物から成る群から選択される、請求項1、3および4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記保存剤がメタクレゾールである、請求項1、3および4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記メタクレゾールの濃度が約2.5?約3.8mg/mLである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
等張化剤をさらに含む、請求項1および3?7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記等張化剤がグリセロールである、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記組成物のpHが約7.0?約7.8である、請求項1および3?9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
医薬組成物であって、
(a)インスリンと
(b)約10?約35mMの濃度でのクエン酸塩と、
(c)約0.2?約2mMの濃度での亜鉛と、
(d)約1?約15mMの濃度でのマグネシウムと、
(e)約10?約60mMの濃度での総塩化物と
(f)約0.001?約0.2%w/vの濃度での界面活性剤と
(g)保存剤とを含み、
前記組成物がEDTAを含まない、前記医薬組成物。
【請求項12】
前記組成物が、同じインスリンを含有するが、クエン酸塩を含有しない組成物よりも少なくとも20%迅速である血中へのインスリンの取り込みを提供する、請求項1および3?11のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記組成物が、2?8℃で少なくとも24ヵ月の保存及び30℃までの温度で28日までの使用中を可能にするほど安定である、請求項1および3?12のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記組成物がどんな血管拡張剤も含まない、請求項1および3?13のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記組成物がどんなオリゴ糖も含まない、請求項1および3?14のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項16】
治療法で使用するための請求項1および3?15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
糖尿病の治療で使用するための請求項1および3?15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
糖尿病の治療のための薬物の製造における、請求項1および3?15のいずれか1項に記載の医薬組成物の使用。
【請求項19】
請求項1および3?15に記載の医薬組成物のいずれか1つを含む製造物品。
【請求項20】
複数回使用のバイアルである請求項19に記載の製造物品。
【請求項21】
再利用できるペン型注入器である請求項19に記載の製造物品。
【請求項22】
連続皮下インスリン注入療法のためのポンプ装置である請求項19に記載の製造物品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-25 
出願番号 特願2017-531725(P2017-531725)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 新熊 忠信  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 吉田 知美
冨永 みどり
登録日 2018-04-27 
登録番号 特許第6328855号(P6328855)
権利者 イーライ リリー アンド カンパニー
発明の名称 即効型インスリン組成物  
代理人 大森 規雄  
代理人 箱田 満  
代理人 小林 浩  
代理人 箱田 満  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 日野 真美  
代理人 小林 浩  
代理人 片山 英二  
代理人 片山 英二  
代理人 日野 真美  
代理人 大森 規雄  
代理人 鈴木 康仁  
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