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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
管理番号 1356837
異議申立番号 異議2019-700087  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-07 
確定日 2019-10-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6369641号発明「エポキシ変性ビニル系共重合体、それを含む熱可塑性樹脂組成物およびその成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6369641号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6369641号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6369641号の請求項1?7に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)8月25日(優先権主張 2016年9月1日)を国際出願日とする出願であって、平成30年7月20日にその特許権の設定登録がされ、同年8月8日に特許公報が発行されたものである。
その後、平成31年2月7日に、本件特許の請求項1?7に係る特許に対して、特許異議申立人である東レ株式会社(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
平成31年 4月22日付け:取消理由通知書
令和 1年 6月14日 :意見書、訂正請求書(特許権者)
同年 6月25日 :訂正の請求があった旨の通知書
同年 7月26日 :意見書(申立人)

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和1年6月14日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?7について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「グリシジルメタクリレート0.1?95質量部と、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体から選ばれる1種以上のビニル単量体5?99.9質量部とからなる共重合体」及び「エポキシ当量が150?143,000g/eq.である」を、「グリシジルメタクリレート8.5?95質量部と、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体から選ばれる1種以上のビニル単量体5?91.5質量部とからなる共重合体」及び「エポキシ当量が1,783?143,000g/eq.である」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の「芳香族ビニル単量体を4.1?99質量部、シアン化ビニル単量体を0.9?95.8質量部」を、「芳香族ビニル単量体を4.1?68.6質量部、シアン化ビニル単量体を0.9?22.9質量部とする」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を、「請求項4において、熱可塑性樹脂(C)が熱可塑性ポリエステル樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂組成物。」から、「グリシジルメタクリレート0.1?95質量部と、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体から選ばれる1種以上のビニル単量体5?99.9質量部とからなる共重合体(ただし、グリシジルメタクリレートと、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体との合計で100質量部)であって、その共重合体の重量平均分子量Mwが50,000?300,000で、分子量分布Mw/Mnが1.9?2.4であり、エポキシ当量が150?143,000g/eq.であるエポキシ変性ビニル系共重合体(A)と、熱可塑性樹脂(C)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、熱可塑性樹脂(C)が熱可塑性ポリエステル樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂組成物。」に訂正する

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、本件明細書の【0074】、【0077】、【0078】及び表1を基に、グリシジルメタクリレート及びビニル単量体の含有量並びにエポキシ当量の範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり(特許法第120条の5第2項ただし書1号)、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない(同法第126条第5項及び第6項)。

(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、本件明細書の【0074】、【0077】、【0078】及び表1を基に、芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体の含有量を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり(特許法第120条の5第2項ただし書1号)、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない(同法第126条第5項及び第6項)。

(3)訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項1を引用する請求項4を更に引用する請求項5を、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項にする訂正であって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり(特許法第120条の5第2項ただし書4号)本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない(同法第126条第5項及び第6項)。

そして、訂正前の請求項2?7は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項1?7は一群の請求項である。
そうすると、本件訂正は、一群の請求項について請求がされたものである。

3 まとめ
上記2のとおり、訂正事項1?3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書1号又は4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第4項に適合するとともに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであるから、結論のとおり、本件訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?7に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

「【請求項1】
グリシジルメタクリレート8.5?95質量部と、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体から選ばれる1種以上のビニル単量体5?91.5質量部とからなる共重合体(ただし、グリシジルメタクリレートと、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体との合計で100質量部)であって、その共重合体の重量平均分子量Mwが50,000?300,000で、分子量分布Mw/Mnが1.9?2.4であり、エポキシ当量が1,783?143,000g/eq.であるエポキシ変性ビニル系共重合体(A)。
【請求項2】
請求項1において、芳香族ビニル単量体を4.1?68.6質量部、シアン化ビニル単量体を0.9?22.9質量部とするエポキシ変性ビニル系共重合体(A)。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記エポキシ変性ビニル系共重合体(A)は、示差走査熱量測定(DSC)を使用して、測定条件として、昇温速度10℃/分、Air50ml/分の雰囲気下において、測定温度90℃?120℃の間に吸熱挙動、測定温度260℃?300℃の間に発熱挙動を示すことを観測することができるエポキシ変性ビニル系共重合体(A)。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のエポキシ変性ビニル系共重合体(A)と熱可塑性樹脂(C)とを含む熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
グリシジルメタクリレート0.1?95質量部と、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体から選ばれる1種以上のビニル単量体5?99.9質量部とからなる共重合体(ただし、グリシジルメタクリレートと、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体との合計で100質量部)であって、その共重合体の重量平均分子量Mwが50,000?300,000で、分子量分布Mw/Mnが1.9?2.4であり、エポキシ当量が150?143,000g/eq.であるエポキシ変性ビニル系共重合体(A)と、熱可塑性樹脂(C)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、熱可塑性樹脂(C)が熱可塑性ポリエステル樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
エポキシ変性ビニル系共重合体(A)を、熱可塑性樹脂(C)100質量部に対して0.1?15質量部含む、請求項4又は5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。」

第4 特許異議の申立て及び取消理由通知の概要
1 申立書に記載した特許異議申立ての申立理由
訂正前の本件発明1?7は、下記のとおりの取消理由があるから、本件特許の請求項1?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。証拠方法として、下記の甲第1号証?甲第3号証(以下、それぞれ「甲1」等という。)を提出する。

(1)申立理由1-1(新規性):訂正前の本件発明1?4、6?7は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)申立理由1-2(新規性):訂正前の本件発明1?7は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(3)申立理由2(進歩性):訂正前の本件発明5は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

甲1:特開平6-299020号公報
甲2:特開平1-163243号公報
甲3:東レ株式会社の佐藤大輔が、甲1に記載のスチレン・アクリロニトリル・グリシジルメタクリレート共重合体(樹脂A)について、重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布、エポキシ当量、及び示差走査熱量測定による吸熱挙動・発熱挙動を確認して作成した実験証明書

2 取消理由通知書に記載した取消理由
理由1.(新規性)訂正前の請求項1?4、6及び7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。(申立理由1-1に該当)

第5 当審の判断
以下に述べるように、取消理由通知書に記載した取消理由1、並びに、特許異議申立書に記載した申立理由1-1、申立理由1-2、及び申立理由2によっては、本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。

1 取消理由通知書に記載した取消理由について
(1)甲1を主引用文献とする理由1(新規性)について
ア 甲1に記載された事項及び甲1発明
甲1には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 (A)プロピレン系樹脂に、α,β-不飽和カルボン酸を付加反応させて得られる、カルボキシル基含有プロピレン系樹脂40?95重量%
(B)(a)エポキシ基を有するピニル単量体 0.5?8重量%、(b)芳香族ビニル単量体 52?89.5重量%、(c)シアノ化ビニル単量体 10?40重量%および(d)その他のビニル単量体 0?40重量%との共重合体であって、この共重合体が次の混合溶媒分別により得られる各画分が次の割合であるもの
(画分○1(合議体注:○1は丸付き数字を表す。以下、同様。))ジメチルアセトアミド10容量部、トルエン9容量部および1-プロパノール21容量部の混合溶媒の不溶分であるもの 0?15重量%
(画分○2)ジメチルアセトアミド10容量部、トルエン9容量部および1-プロパノール21容量部の混合溶媒には可溶であって、ジメチルアセトアミド5容量部、トルエン6容量部および1-プロパノール14容量部の混合溶媒は不溶であるもの 50?100重量%
(画分○3)ジメチルアセトアミド5容量部、トルエン6容量部および1-プロパノール14容量部の混合溶媒に可溶であるもの 0?45重量%
上記(A)成分と(B)成分を上記割合で含有する熱可塑性樹脂組成物。」
(イ)「【0008】
【作用】(A)成分のプロピレン系重合体のカルボキシル基(酸無水物基も含む)と、(B)成分の特定の構造を有するビニル系重合体のエポキシ基とが溶融混練されることにより反応し、両ポリマー間の相溶性を向上させる。このとき、(B)成分が比較的高分子量(100,000?250,000)物であって、かつ、エポキシ基が共重合体の分子全体に均一に分布した構造のもの(画分○2)を多く含むので、両ポリマー間の反応は樹脂組成物全体に均一におこり、相溶性の向上効果がより大きくなり、耐衝撃性、引張強度、剛性等の機械的強度、寸法精度、耐熱性が優れた成形品を与える。」

(ウ)「【0038】共重合体(B)を構成するのに用いられるエポキシ含有ビニル単量体は0.5重量%?8重量%、好ましくは1?7重量%、さらに好ましくは2?7重量%である。エポキシ基の共重合割合が多いと、画分○1の高エポキシ含量共重合体が多く形成され、衝撃強度の改良効果を阻害する。また、エポキシ基含有量が少ないと(A)成分と(B)成分の相溶性が低く、衝撃改良効果が小さい。
【0039】シアン化ビニル単量体の使用量は、10?40重量%、好ましくは20?35重量%である。シアン化ビニル単量体の含量が少ないと、得られる成形体の耐熱剛性が低下する。シアン化ビニル単量体の含量が多い場合は、共重合体を製造する上で困難を生じるとともに、得られる成形体の耐熱性は向上するが成形体に着色を生じ、また、脆い成形体となる。」

(エ)「【0043】組成物の調製
樹脂組成物を得るための溶融混練の方法としては、熱可塑性樹脂について一般に実用されている混練方法が適用できる。例えば、粉状または、粉状の各成分を、必要であれば、付加的成分の項に記載の添加物と共に、ヘンシェルミキサー、リボンブリンダー、V型ブレンダー等により均一に混合した後、一軸または多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー等で混練することができる。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、中空成形、押出成形、プレス成形等の成形法により種々の成形品に賦型される。」

(オ)「【0044】
【実施例】
(製造例-1)スチレン・アクリロニトリル・グリシジルメタクリレート共重合体の合成
十分に窒素ガス置換した内容量が500ミリリットルの丸底フラスコ内に、スチレン70.0g、アクリロニトリル25.0g、2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)0.6gおよびキシレン100ミリリットルを入れ、窒素気流下で撹拌し、2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)が完全に溶解したのを確認した後、60℃に昇温し、重合を開始すると同時にグリシジルメタクリレート(GMA)5gをキシレン20ミリリットルに溶解した溶液を6.25ミリリットル/時間で4時間滴下した。その後、更に同温度で1時間重合を行った(GMAの添加時間は全重合時間の80%を占める)。
【0045】重合後、室温まで降温した後、クロロホルム200ミリリットルをフラスコ内に入れ、ポリマーを完全に溶解した後、メタノール2リットル中へ注ぎ、ポリマーを沈殿させ、ついで、濾過、乾燥してポリマー92.5gを回収した(転化率は92.5%)。赤外線分光分析およびプロトン核磁気共鳴スペクトル分析によりポリマーの組成はスチレン成分に基づくものが72.6重量%、アクリロニトリル成分に基づくものが22.2重量%、グリシジルメタクリレート成分に基づくものが5.2重量%であり、ゲル浸透クロマトグラフィー測定よりポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が73,000、重量平均分子量(Mw)が168,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.3であった。(樹脂A)
【0046】また、このポリマーの混合溶媒分別を以下の方法で行った。まず、ポリマーをジメチルアセトアミドに溶解し、この溶液にトルエン3容量部と1-プロパノール7容量部よりなる混合溶媒を滴下し、ジメチルアセトアミド10容量部、トルエン9容量部、1-プロパノール21容量部の溶媒組成にて析出したポリマーを遠心分離法により沈澱させ分取した。(画分○1) 更に、上澄み液にトルエン3容量部と1-プロパノール7容量部よりなる混合溶媒を滴下し、ジメチルアセトアミド5容量部、トルエン6容量部、1-プロパノール14容量部の溶媒組成にて析出したポリマーを遠心分離法により沈澱させ分取した。(画分○2) 残った上澄み液を濃縮、乾固した。(画分○3) それぞれの画分について、重量を測定し、赤外線分光分析およびプロトン核磁気共鳴スペクトル分析により組成を求め、ゲル浸透クロマトグラフィー測定によりポリスチレン換算の分子量を求めた。このポリマーの溶媒分別の結果を表1に示す。」

(カ)「【0053】(製造例-5)無水マレイン酸含有ポリプロピレン
三菱油化社製プロピレンホモポリマー“MA8”(商品名)250gと、無水マレイン酸50gとをあらかじめ窒素置換をした10リットルの攪拌機付きガラス製フラスコ内に投入し、クロルベンゼン5リットルを加え、110℃に加熱、撹拌して溶解した。
【0054】この溶液にクロルベンゼン500ミリリットルに溶解したベンゾイルパーオキサイド25gを2時間かけて滴下し、滴下終了後、更に110℃で3時間反応を行った。得られた反応物を15リットルのアセトン中に注ぎ、生成物を析出させて濾別、洗浄する操作を3回実施した後、次いで、減圧乾燥して無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレンを得た。このものの無水マレイン酸に基づく構成単位の含量は、赤外線分光分析により0.98重量%であった。またMRFは5.7g/10分であった。(樹脂E)」
(キ)「【0057】実施例1?6および比較例1?8
製造例1?6で得た樹脂A?F、日本ジー・イー・プラスチック社製ポリブタジエン“ブレンディックス336”(商品名)、三菱油化社製プロピレンホモポリマー“MA8”(商品名)、三菱化成社製ABS“タフレックス410”(商品名)および日本油脂社製スチレン・アクリロニトリル・グリシジルメタクリレート共重合体“ブレンマー CP-510SA”および“ブレンマー CP-20SA”(いずれも商品名)を表2に示す組成で混合し、内容積60ミリリットルの東洋精機社製のプラストミルで230℃、6分間、回転数180rpmで溶融混練した。
【0058】混練終了後試料を粉砕機で粉砕して粒状とした。粒状の試料をカスタム・サイエンティフィック(Custom Scientific)社製CS-183MMXミニマックス射出成形機を用いて、温度230℃で物性評価用の試験片を成形し、下記の物性評価を行った。
(1)貯蔵弾性率
長さ47mm、幅5.3mm、厚さ2.0mmの試験片を射出成形し、レオメトリックス社製、固体アナライザーRSA2型を用いて、周波数1ヘルツ30℃における貯蔵弾性率(E′)を求めた。
【0059】(2)アイゾット衝撃強度
長さ31.5mm、幅6.2mm、厚さ3.2mmの試験片を射出成形し、カスタム・サイエンティフィック社製ミニマックスアイゾット衝撃試験機CS-138TI型を用いて、ノッチ無しアイゾット衝撃強度JIS K7110-1984に準じて測定した。結果を表2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【効果】耐熱性、剛性、衝撃強度に優れた成形体を与える。 」

甲1には、摘記(1)ア(オ)によると、樹脂Aとして以下の発明が記載されていると認められる。
「ポリマーの組成は、スチレン成分に基づくものが72.6重量%、アクリロニトリル成分に基づくものが22.2重量%、グリシジルメタクリレート成分に基づくものが5.2重量%であり、ゲル浸透クロマトグラフィー測定よりポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が73,000、重量平均分子量(Mw)が168,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.3であるスチレン・アクリロニトリル・グリシジルメタクリレート共重合体」(以下、「甲1発明1」という。)

また、甲1の摘記(1)ア(キ)の実施例5は、摘記(1)ア(ア)の熱可塑性樹脂組成物の具体例であると解されるから、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「三菱油化社製プロピレンホモポリマー“MA8”(商品名)250gと、無水マレイン酸50gとをあらかじめ窒素置換をした10リットルの攪拌機付きガラス製フラスコ内に投入し、クロルベンゼン5リットルを加え、110℃に加熱、撹拌して溶解した溶液に、クロルベンゼン500ミリリットルに溶解したベンゾイルパーオキサイド25gを2時間かけて滴下し、滴下終了後、更に110℃で3時間反応を行って、得られた反応物を15リットルのアセトン中に注ぎ、生成物を析出させて濾別、洗浄する操作を3回実施した後、次いで、減圧乾燥して得た無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン90重量%と、甲1発明1であるスチレン・アクリロニトリル・グリシジルメタクリレート共重合体10重量%を混合し、内容積60ミリリットルの東洋精機社製のプラストミルで230℃、6分間、回転数180rpmで溶融混練した熱可塑性樹脂組成物」(以下、「甲1発明2」という。)

「甲1発明2の熱可塑性樹脂組成物を、粉砕機で粉砕した粒状の試料をカスタム・サイエンティフィック(Custom Scientific)社製CS-183MMXミニマックス射出成形機を用いて成形した、温度230℃で物性評価用の試験片」(以下、「甲1発明3」という。)

イ 甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
(ア)「








ウ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
本件発明1の「芳香族ビニル単量体」及び「シアン化ビニル単量体」は、本件明細書の「芳香族ビニル単量体としては、・・・スチレン・・・が好ましい。」(本件明細書の段落【0022】)及び「シアン化ビニル単量体としては、・・・アクリロニトリルが好ましい。」(同じく段落【0023】)ことから、甲1発明1の「スチレン成分に基づくもの」及び「アクリロニトリル成分に基づくもの」はそれぞれ、本件発明1の「芳香族ビニル単量体」及び「シアン化ビニル単量体」に相当する。また、甲1発明1の「グリシジルメタクリレート成分に基づくもの」は、本件発明1の「グリシジルメタクリレート」に相当する。そして、甲1発明1の「スチレン・アクリロニトリル・グリシジルメタクリレート共重合体」は、本件発明1の「エポキシ変性ビニル系共重合体(A)」及び「共重合体(ただし、グリシジルメタクリレートと、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体との合計で100質量部)」に相当する。
また、本件発明1における重量平均分子量及び分子量分布はポリスチレン換算で測定されたものであり(本件明細書の段落【0064】)、甲1発明1も「ゲル浸透クロマトグラフィー測定よりポリスチレン換算」で測定したものであるから、甲1発明1における「重量平均分子量(Mw)が168,000」及び「分子量分布(Mw/Mn)は2.3」は、それぞれ本件発明1の「重量平均分子量Mwが50,000?300,000」及び「分子量分布Mw/Mnが1.9?2.4」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、「グリシジルメタクリレートと、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体から選ばれる1種以上のビニル単量体とからなる共重合体(ただし、グリシジルメタクリレートと、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体との合計で100質量部)であって、その共重合体の重量平均分子量Mwが50,000?300,000で、分子量分布Mw/Mnが1.9?2.4であるエポキシ変性ビニル系共重合体(A)。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:本件発明1は、「グリシジルメタクリレート8.5?95質量部と、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体から選ばれる1種以上のビニル単量体5?91.5質量部とからなる共重合体」であるのに対して、甲1発明1は、「スチレン成分に基づくものが72.6重量%、アクリロニトリル成分に基づくものが22.2重量%、グリシジルメタクリレート成分に基づくものが5.2重量%」である点。
相違点2:本件発明1は、「エポキシ当量が1,783?143,000g/eq.である」のに対して、甲1発明1は、エポキシ当量が不明である点。

(イ)相違点の判断
まず、相違点1について検討すると、甲1発明1は、「グリシジルメタクリレート成分に基づくものが5.2重量%」と「スチレン成分に基づくものが72.6重量%、アクリロニトリル成分に基づくものが22.2重量%」を合計した94.8重量%とからなる共重合体であり、本件発明1の各ビニル単量体の含有範囲を明らかに外れるものであって、相違点1は実質的な相違点である。
そうすると、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。

エ 本件発明2?4、並びに本件発明4を引用する本件発明6及び7について
本件発明2?4、並びに、本件発明4を引用する本件発明6及び7は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1について述べた理由と同じ理由により、甲1に記載された発明であるとはいえない。

オ 小括
したがって、本件発明1?4、並びに本件発明4を引用する本件発明6及び7は、甲1に記載された発明であるとはいえないから、取消理由通知書に記載した理由1によって、請求項1?4、6及び7に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由について
(1)甲2に基づく申立理由1-2(本件発明1?7)について
ア 甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
(ア)「特許請求の範囲
ABS樹脂(A)1?98重量部と芳香族ポリエステル樹脂(B)98?1重量部と芳香族ビニル、シアン化ビニルおよびエポキシ基を有するビニル系単量体を共重合してなる変性ビニル系重合体(C)1?70重量部とからなり、かつ、(A)、(B)および(C)の合計量が100重量部である熱可塑性樹脂組成物。」

(イ)「本発明で用いる変性ビニル系重合体(C)(以下共重合体(C)と称する)とは芳香族ビニル(イ)とシアン化ビニル(ロ)とエポキシ基を有するビニル系単量体(ハ)からなる単量体混合物を共重合してなる共重合体である。
芳香族ビニル(イ)として、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレンなどを挙げることができる。なかでもスチレン、α-メチルスチレンが好ましい。シアン化ビニル(ロ)としてアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。なかでもアクリロニトリルが好ましい。エポキシ基を有するビニル系単量体(ハ)とは1分子中にラジカル重合可能なビニル基とエポキシ基の両者を共有する化合物であり、具体例としてはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどの不飽和有機酸のグリシジルエステル類、アリルグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類および2-メチルグリシジルメタクリレートなどの上記の誘導体類が挙げられ、なかでもアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルが好ましく使用できる。また、これらは単独ないし2種以上を組合せて使用することもできる。
上記共重合成分から構成される共重合体(C)においてエポキシ基を有するビニル系単量体が占める共重合量は、好ましくは0.001?14重量%、より好ましくは0.01?5重量%の範囲である。共重合量が0.001重量%未満の場合には組成物の衝撃強度が低く、また、14重量%を越える場合には共重合体がゲル化しやすく、表面状態の良好な成形品が得られない。
共重合体(C)の製造方法に関しては、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、塊状-懸濁重合、懸濁重合、乳化重合など通常公知の方法が用いられる。(イ)、(ロ)、(ハ)の仕込み方法に関しても特に制限はなく、初期に一括仕込みをしてもよく、また共重合体の組成分布の生成を防止するために仕込み単量体の一部または全部を連続仕込みまたは分割仕込みしながら重合してもよい。
また、(イ)、(ロ)、(ハ)の単量体100重量部に対して共重合可能な他の単量体0?70重量部を共重合することも可能である。
共重合可能な他の単量体として、アクリル酸、メタクリル酸などのα、β-不飽和カルボン酸類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸-t-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルなどのα、β-不飽和カルボン酸エステル類、無水マレイン酸、無水イタコン酸などのα、β-不飽和ジカルボン酸無水物類、N-フェニルマレイミド、N-メチルマレイミド、N-t-ブチルマレイミドなどのα、β-不飽和ジカルボン酸のイミド化合物類などが挙げられる。」(4頁左上欄7行?左下欄19行)

(ウ)「なお、以下の部数および%はそれぞれ重量部および重量%を表わす。」(5頁左下欄16?17行)

(エ)「参考例1
次の処方により、ABS樹脂A-1?A-3およびグラフト共重合体A-4を製造した。
A-1:ポリブタジエンラテックス(ゴム粒子径0.25μ、ゲル含率80%)60部(固形分換算〉の存在下でスチレン70%、アクリロニトリル30%からなる単量体混合物40部を乳化重合した。
得られたグラフト共重合体は硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和、洗浄、ろ過、乾燥してパウダー状のグラフト共重合体(A-1)を調製した。
A-2:A-1で使用したポリブタジエンラテックス40部(固形分換算)の存在下でメタクリル酸メチル15%、スチレン65%、アクリロニトリル20%からなる単量体混合物60部を乳化重合した後、A-1と同様にしてパウダー状のグラフト共重合体(A-2)を調製した。
・・・
参考例2
次の処方により変性ビニル系共重合体C-1?C-4およびビニル系共重合体C-5を調製した。
C-1:スチレン75部、アクリロニトリル24部、メタクリル酸グリシジル1部を懸濁重合して、ビーズ状の変性ビニル系共重合体(C-1)を調製した。」(5頁左下欄18行?6頁左上欄9行)

(オ)
「実施例1?7
参考例1で製造したA-1?A-3と参考例2で製造したC-1?C-3およびポリエステルとしてPBT-1200L(東レ(株)製ポリブチレンテレフタレート)をそれぞれ表1の配合割合でヘンシェルミキサーで混合し、次に40mmφ押出機により、押出温度250℃で押出し、それぞれペレット化した後、各ペレットについて成形温度250℃、金型温度60℃の条件で射出成形に供し、各試験片を作製し、それについて物性の評価を行なった。これらの結果を表-1に示す。
・・・

」(第6頁右上欄4行?第7頁上段)

(カ)「<発明の効果>
本発明の熱可塑性樹脂組成物はABS樹脂(A)、ポリエステル(B)およびエポキシ基を有する特定の変性ビニル系共重合体(C)を特定の割合で配合しているが、特にエポキシ基の存在のため(A)および(B)の相溶性が極めて良好である。更に本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ABS樹脂と同等の耐撃性、成形加工性と芳香族ポリエステルの耐熱性、耐薬品性および金型転写性を併せ持つ上、そのもの自体が高光沢であるため、低光沢から高光沢まで所望の外観を有する成形品を得ることができる。
また本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ABS樹脂と同等の成形加工性、耐衝撃性とポリエステルの耐熱性、耐薬品性を併せ持つため、それらの性質を活かした種々の成形品に用いることができる。」(第8頁左下欄11行?右下欄6行)

甲2の摘記(ウ)及び(エ)には、参考例2の変性ビニル系共重合体(C-1)に着目すると、次の発明が記載されている。
「スチレン75重量部、アクリロニトリル24重量部、メタクリル酸グリシジル1重量部を懸濁重合して調製したビーズ状の変性ビニル系共重合体(C-1)」(以下、「甲2発明1」という。)

また、甲2の摘記(エ)及び(オ)には、実施例6に着目すると、次の発明が記載されている。
「ABS樹脂(A-1)5重量部と、芳香族ポリエステル樹脂(PBT-1200L(東レ(株)製ポリブチレンテレフタレート)90重量部と、甲2発明Aの変性ビニル系共重合体(C-1)5重量部とからなる熱可塑性樹脂組成物」(以下、「甲2発明2」という。)

イ 本件発明1について
本件発明1と甲2発明1とを対比する。
甲2発明1の「スチレン」、「アクリロニトリル」及び「メタクリル酸グリシジル」は、それぞれ本件発明1の「芳香族ビニル単量体」、「シアン化ビニル単量体」及び「グリシジルメタクリレート」に相当する。また、甲2発明1の「ビーズ状の変性ビニル系共重合体(C-1)」は、エポキシ基を有するメタクリル酸グリシジルをモノマー単位に含有するから、本件発明1の「エポキシ変性ビニル系共重合体(A)」に相当する。そして、甲2発明1において、スチレン75重量部、アクリロニトリル24重量部、メタクリル酸グリシジル1重量部の合計は100重量部になるから、本件発明1の「(ただし、グリシジルメタクリレートと、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体との合計で100質量部)」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲2発明1とは、「グリシジルメタクリレートと、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体から選ばれる1種以上のビニル単量体とからなるエポキシ変性ビニル系共重合体(ただし、グリシジルメタクリレートと、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体との合計で100質量部)であるエポキシ変性ビニル系共重合体(A)」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点3:本件発明1は、「グリシジルメタクリレート8.5?95質量部と、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体から選ばれる1種以上のビニル単量体5?91.5質量部とからなる」であるのに対して、甲2発明1は、「スチレン75重量部、アクリロニトリル24重量部、メタクリル酸グリシジル1重量部」からなるものである点。
相違点4:本件発明1は、「重量平均分子量Mwが50,000?300,000で、分子量分布Mw/Mnが1.9?2.4であり、エポキシ当量が1,783?143,000g/eq.である」のに対して、甲2発明1は、重量平均分子量、分子量分布及びエポキシ当量が不明である点。

まず、上記相違点4について検討する。
甲2には、変性ビニル系共重合体(C-1)の重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mn及びエポキシ当量は記載されていないし、甲2発明1が本件発明1の「重量平均分子量Mwが50,000?300,000で、分子量分布Mw/Mnが1.9?2.4であり、エポキシ当量が1,783?143,000g/eq.である」ことを満たすことを示す本件優先日時点の技術常識もない。また、甲2には、変性ビニル系共重合体(C-1)を調製するための重合条件についても、懸濁重合であること以外は何ら具体的に記載されていない。
そして、共重合体の調製において、モノマーの組み合わせが同じであっても、モノマーの配合割合や各種重合条件(温度、圧力、時間、雰囲気、混合、触媒等)などによって、得られる共重合体の分子構造や分子量が異なることは、当該技術分野における本件優先日時点の技術常識である。
また、本件発明1のような重量平均分子量、分子量分布及びエポキシ当量の値を有するための重合条件が、本件優先日時点の技術常識であるともいえない。
これらのことから、甲2発明1の変性ビニル系共重合体(C-1)は、本件発明1の「重量平均分子量Mwが50,000?300,000で、分子量分布Mw/Mnが1.9?2.4であり、エポキシ当量が1,783?143,000g/eq.である」とはいえず、相違点4は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、相違点3について検討するまでもなく、甲2に記載された発明であるとはいえない。

ウ 本件発明1を引用する本件発明2?4、6及び7について
本件発明2?4、6及び7は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記イにおいて本件発明1について述べた理由と同じ理由により、甲2に記載された発明であるとはいえない。

エ 本件発明5、並びにこれを引用する本件発明6及び7について
本件発明5と甲2発明2とを対比する。
甲2発明2の「メタクリル酸グリシジル」、「スチレン」及び「アクリロニトリル」はそれぞれ、本件発明5の「グリシジルメタクリレート」、「芳香族ビニル単量体」及び「シアン化ビニル単量体」に相当する。また、甲2発明2の「芳香族ポリエステル樹脂」は、本件発明5の「熱可塑性樹脂(C)」に相当する。
そして、甲2発明2の変性ビニル系共重合体は、甲2発明1の「スチレン75重量部、アクリロニトリル24重量部、メタクリル酸グリシジル1重量部」を懸濁重合して調製したものであり、これらの合計は100重量部になるから、本件発明5の「グリシジルメタクリレート0.1?95質量部」及び「芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体から選ばれる1種以上のビニル単量体5?99.9質量部」を満たし、甲2発明2の「甲2発明1の変性ビニル系共重合体(C-1)」は、本件発明5の「エポキシ変性ビニル系共重合体(A)」及び「共重合体(ただし、グリシジルメタクリレートと、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体との合計で100質量部)」に相当する。 更に、甲2発明2の「芳香族ポリエステル樹脂」は、本件発明5の「熱可塑性ポリエステル樹脂(B)」に相当する。

そうすると、本件発明5と甲2発明2とは、「グリシジルメタクリレート0.1?95質量部と、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体から選ばれる1種以上のビニル単量体5?99.9質量部とからなる共重合体(ただし、グリシジルメタクリレートと、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体との合計で100質量部)であるエポキシ変性ビニル系共重合体(A)と、熱可塑性樹脂(C)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、熱可塑性樹脂(C)が熱可塑性ポリエステル樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂組成物。
。」の点で一致し、次の相違点5で相違する。

相違点5:本件発明5は、「重量平均分子量Mwが50,000?300,000で、分子量分布Mw/Mnが1.9?2.4であり、エポキシ当量が150?143,000g/eq.である」のに対して、甲2発明2は、「甲2発明1の変性ビニル系共重合体(C-1)」の重量平均分子量、分子量分布及びエポキシ当量が不明である点。

そして、相違点5は、エポキシ当量の下限値が150g/eq.であること以外は上記相違点4と同内容であり、上記イで述べたように実質的な相違点であって、本件発明5は、甲2に記載された発明であるとはいえない。

(2)甲2に基づく申立理由2(本件発明5)について
上記(1)エで述べたように、本件発明5と甲2発明2とは相違点5で相違する。そして、甲2には、「甲2発明1の変性ビニル系共重合体(C-1)」の重量平均分子量、分子量分布及びエポキシ当量について、好ましい数値範囲など、「甲2発明1の変性ビニル系共重合体(C-1)」を、本件発明5の「重量平均分子量Mwが50,000?300,000で、分子量分布Mw/Mnが1.9?2.4であり、エポキシ当量が150?143,000g/eq.である」ものにすることが動機付けられる事項は記載されてない。
そうすると、甲2発明2において、「重量平均分子量Mwが50,000?300,000で、分子量分布Mw/Mnが1.9?2.4であり、エポキシ当量が150?143,000g/eq.である」とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
そして、本件発明5は、所定の物性を有する「エポキシ変性ビニル系共重合体」の添加により、「熱可塑性ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂の流動性を大きく損なうことなく、耐熱性および耐加水分解性を向上させることができ、更には引張強度や耐衝撃性等の機械強度の向上効果をも得ることができる。従って、押出成形やブロー成形等において安定した加工を可能とし、さらには射出成形時のバリ抑制の効果も期待できる上に、成形品の品質を高めることができる。」(本件明細書の段落【0017】)という優れた効果を奏するものであり、実施例1?22により具体的に確認することができる。
一方、甲2には、成分組成が「甲2発明1の変性ビニル系共重合体(C-1)」を用いることにより、ABS樹脂と同等の耐熱性及び成形加工性と、芳香族ポリエステルの耐熱性、耐薬品性及び金型転写性を併せ持ち、高光沢であることが記載されているのみであり(摘記(1)ア(オ)及び(カ))、本件発明5の上記効果は、甲2に記載された事項から予測し得たものであるとはいえない。
したがって、本件発明5は、甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)申立人が提出した意見書の検討
申立人は、意見書と共に、申立書になかった甲第4号証(以下、「甲4」という。)を新たに提出し、該意見書において、申立理由1-2(本件発明5に対する甲2に基づく新規性)を改めて説明しているので一応検討する。
甲4:東レ株式会社佐藤大輔が、甲2の参考例2に記載の変性ビニル系共重合体(C-1)について、重量平均分子量、分子量分布、エポキシ当量、及び示差走査熱量測定による吸熱挙動・発熱挙動を確認して報告した実験証明書
まず、上記(1)エで述べたように、甲2には、甲2発明2が、本件発明5の「重量平均分子量Mwが50,000?300,000で、分子量分布Mw/Mnが1.9?2.4であり、エポキシ当量が150?143,000g/eq.である」ことについて記載されておらず、本件発明5と甲2発明2とは相違点5で相違する。
そして、甲4では、甲2発明2における「甲2発明1の変性ビニル系共重合体(C-1)」を、本件明細書の段落【0073】に記載された懸濁重合条件で重合し、得られた共重合体(サンプルE)の重量平均分子量、分子量分布、エポキシ当量、及び示差走査熱量測定による吸熱挙動・発熱挙動を確認している。
しかしながら、甲2には、「甲2発明1の変性ビニル系共重合体(C-1)」を、本件明細書の段落【0073】に記載された懸濁重合条件で重合したことは記載されていないし、上記懸濁重合条件を採用することに何ら合理性はない。また、甲2発明2の「ABS樹脂(A-1)」及び同じく甲2に記載されたABS樹脂(A-2)についても、甲2にはその具体的な乳化重合条件が記載されておらず(摘記2(1)ア(エ))、甲4にもどのような乳化重合条件で調製したのかが説明されていないから、甲4で調製されたABS樹脂が、甲2に記載されたABS樹脂(A-1)及び(A-2)と同等のものであることは確認できない。
そうすると、甲4において調製したサンプルEやABS樹脂を用いた組成物の各種特性が、甲2に記載された実施例3及び実施例6と同等なものになるとしても、甲2発明2における「甲2発明1の変性ビニル系共重合体(C-1)」が、本件発明5の「重量平均分子量Mwが50,000?300,000で、分子量分布Mw/Mnが1.9?2.4であり、エポキシ当量が150?143,000g/eq.である」とはいえない。
したがって、意見書における申立人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
他に本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシジルメタクリレート8.5?95質量部と、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体から選ばれる1種以上のビニル単量体5?91.5質量部とからなる共重合体(ただし、グリシジルメタクリレートと、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体との合計で100質量部)であって、その共重合体の重量平均分子量Mwが50,000?300,000で、分子量分布Mw/Mnが1.9?2.4であり、エポキシ当量が1,783?143,000g/eq.であるエポキシ変性ビニル系共重合体(A)。
【請求項2】
請求項1において、芳香族ビニル単量体を4.1?68.6質量部、シアン化ビニル単量体を0.9?22.9質量部とするエポキシ変性ビニル系共重合体(A)。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記エポキシ変性ビニル系共重合体(A)は、示差走査熱量測定(DSC)を使用して、測定条件として、昇温速度10℃/分、Air50ml/分の雰囲気下において、測定温度90℃?120℃の間に吸熱挙動、測定温度260℃?300℃の間に発熱挙動を示すことを観測することができるエポキシ変性ビニル系共重合体(A)。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のエポキシ変性ビニル系共重合体(A)と熱可塑性樹脂(C)とを含む熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
グリシジルメタクリレート0.1?95質量部と、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体から選ばれる1種以上のビニル単量体5?99.9質量部とからなる共重合体(ただし、グリシジルメタクリレートと、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体との合計で100質量部)であって、その共重合体の重量平均分子量Mwが50,000?300,000で、分子量分布Mw/Mnが1.9?2.4であり、エポキシ当量が150?143,000g/eq.であるエポキシ変性ビニル系共重合体(A)と、熱可塑性樹脂(C)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、熱可塑性樹脂(C)が熱可塑性ポリエステル樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
エポキシ変性ビニル系共重合体(A)を、熱可塑性樹脂(C)100質量部に対して0.1?15質量部含む、請求項4又は5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-30 
出願番号 特願2017-549095(P2017-549095)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C08F)
P 1 651・ 121- YAA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 横山 法緒  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 近野 光知
橋本 栄和
登録日 2018-07-20 
登録番号 特許第6369641号(P6369641)
権利者 テクノUMG株式会社
発明の名称 エポキシ変性ビニル系共重合体、それを含む熱可塑性樹脂組成物およびその成形品  
代理人 細田 浩一  
代理人 重野 剛  
代理人 伴 俊光  
代理人 重野 剛  
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