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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G02B 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 G02B 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857 G02B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G02B |
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管理番号 | 1356842 |
異議申立番号 | 異議2019-700160 |
総通号数 | 240 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-12-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-02-27 |
確定日 | 2019-10-10 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6380624号発明「光学フィルター及び光学フィルターを具備する環境光センサー」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6380624号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-19〕について訂正することを認める。 特許第6380624号の請求項7?請求項19に係る特許を維持する。 特許第6380624号の請求項1?請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続等の経緯 特許第6380624号の請求項1?請求項14に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2017-136264号)は,2016年(平成28年)7月26日(優先権主張 平成27年7月28日)を国際出願日とする出願(特願2017-518176号)の一部を新たな特許出願としたものであって,平成30年8月10日に特許権の設定の登録がされたものである。 本件特許について,平成30年8月29日に特許掲載公報が発行されたところ,発行の日から6月以内である平成31年2月27日に,本件特許に対して,特許異議申立人 松村 朋子(以下「特許異議申立人」という。)から,特許異議の申立てがされた。 その後の手続等の概要は,以下のとおりである。 平成31年 4月24日付け:取消理由通知書 令和元年 7月 4日付け:訂正請求書 (この訂正請求書による訂正の請求を,以下「本件訂正請求」という。) 令和元年 7月 4日付け:意見書(特許権者) 令和元年 8月 8日付け:意見書(特許異議申立人) 第2 本件訂正請求について 1 請求の趣旨 本件訂正請求の趣旨は,特許第6380624号の特許請求の範囲を,本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?19について訂正することを求める,というものである。 2 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は,以下のとおりである(下線は当合議体が付したものであり,訂正箇所を示す。)。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (4) 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (5) 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 (6) 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6を削除する。 (7) 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7に,「 さらに,下記(c)の要件を満たすことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光学フィルター。 (c)波長400?650nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から30度斜め方向から入射する光の透過率の平均値が,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,および垂直方向から60度斜め方向から入射する光の透過率の平均値よりも高い。」と記載されているのを,次のとおり訂正する。 「 電子機器の表面パネルと光電変換素子との間に配置され,近赤外吸収微粒子を含む層を有する基材と該基材の少なくとも一方の面に誘電体多層膜を有し,下記(a),(b),及び(c)の要件を満たすことを特徴とする光学フィルター。 (a)波長400?650nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,垂直方向から30度斜め方向から入射する光,垂直方向から60度斜め方向から入射する光,のいずれにおいても透過率の平均値が45%以上85%未満。 (b)波長800?1200nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,垂直方向から30度斜め方向から入射する光,垂直方向から60度斜め方向から入射する光,のいずれに対しても光学濃度(OD値)の平均値が1.7以上。 (c)波長400?650nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から30度斜め方向から入射する光の透過率の平均値が,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,および垂直方向から60度斜め方向から入射する光の透過率の平均値よりも高い。」 (8) 訂正事項8 特許請求の範囲の請求項8に,「 さらに,下記(d)乃至(f)の要件を満たすことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光学フィルター。 (d)波長430?470nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,垂直方向から30度斜め方向から入射する光,垂直方向から60度斜め方向から入射する光,のいずれにおいても透過率の平均値が45%以上。 (e)波長520?560nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,垂直方向から30度斜め方向から入射する光,垂直方向から60度斜め方向から入射する光,のいずれにおいても透過率の平均値が60%以上。 (f)波長580?620nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,垂直方向から30度斜め方向から入射する光,垂直方向から60度斜め方向から入射する光,のいずれにおいても透過率の平均値が50%以上。」と記載されているのを,「 さらに,下記(d)乃至(f)の要件を満たすことを特徴とする請求項7に記載の光学フィルター。 (d)波長430?470nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,垂直方向から30度斜め方向から入射する光,垂直方向から60度斜め方向から入射する光,のいずれにおいても透過率の平均値が45%以上。 (e)波長520?560nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,垂直方向から30度斜め方向から入射する光,垂直方向から60度斜め方向から入射する光,のいずれにおいても透過率の平均値が60%以上。 (f)波長580?620nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,垂直方向から30度斜め方向から入射する光,垂直方向から60度斜め方向から入射する光,のいずれにおいても透過率の平均値が50%以上。」に訂正する。 (9) 訂正事項9 特許請求の範囲の請求項9に,「 前記基材が透明樹脂の基板もしくはガラス基板による支持体を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光学フィルター。」と記載されているのを,「 前記基材が透明樹脂の基板もしくはガラス基板による支持体を有することを特徴とする請求項7に記載の光学フィルター。」。 (10) 訂正事項10 特許請求の範囲の請求項11に,「 前記透明樹脂が,環状(ポリ)オレフィン系樹脂,芳香族ポリエーテル系樹脂,ポリイミド系樹脂,フルオレンポリカーボネート系樹脂,フルオレンポリエステル系樹脂,ポリカーボネート系樹脂,ポリアミド系樹脂,ポリアリレート系樹脂,ポリサルホン系樹脂,ポリエーテルサルホン系樹脂,ポリパラフェニレン系樹脂,ポリアミドイミド系樹脂,ポリエチレンナフタレート系樹脂,フッ素化芳香族ポリマー系樹脂,(変性)アクリル系樹脂,エポキシ系樹脂,アリルエステル系硬化型樹脂,シルセスキオキサン系紫外線硬化型樹脂,アクリル系紫外線硬化型樹脂およびビニル系紫外線硬化型樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂からなることを特徴とする請求項5,9,又は10に記載の光学フィルター。」と記載されているのを,「 前記透明樹脂が,環状(ポリ)オレフィン系樹脂,芳香族ポリエーテル系樹脂,ポリイミド系樹脂,フルオレンポリカーボネート系樹脂,フルオレンポリエステル系樹脂,ポリカーボネート系樹脂,ポリアミド系樹脂,ポリアリレート系樹脂,ポリサルホン系樹脂,ポリエーテルサルホン系樹脂,ポリパラフェニレン系樹脂,ポリアミドイミド系樹脂,ポリエチレンナフタレート系樹脂,フッ素化芳香族ポリマー系樹脂,(変性)アクリル系樹脂,エポキシ系樹脂,アリルエステル系硬化型樹脂,シルセスキオキサン系紫外線硬化型樹脂,アクリル系紫外線硬化型樹脂およびビニル系紫外線硬化型樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂からなることを特徴とする請求項9,又は10に記載の光学フィルター。」に訂正する。 (11) 訂正事項11 特許請求の範囲の請求項12に,「 環境光センサーに用いられる請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光学フィルター。」と記載されているのを,「 環境光センサーに用いられる請求項7乃至11のいずれか一項に記載の光学フィルター。」に訂正する。 (12) 訂正事項12 特許請求の範囲の請求項13に「 請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光学フィルターを具備する環境光センサー。」と記載されているのを,「 請求項7乃至11のいずれか一項に記載の光学フィルターを具備する環境光センサー。」に訂正する。 (13) 訂正事項13 特許請求の範囲に,次の新たな請求項を設けて,請求項15とする。 「 厚みが210μm以下であることを特徴とする請求項7に記載の光学フィルター。」 (14) 訂正事項14 特許請求の範囲に,次の新たな請求項を設けて,請求項16とする。 「 前記近赤外線吸収微粒子の粒子直径の平均値が1?200nmであることを特徴とする請求項7又は15に記載の光学フィルター。」 (15) 訂正事項15 特許請求の範囲に,次の新たな請求項を設けて,請求項17とする。 「 前記近赤外線吸収微粒子が,下記に定義される,第1の微粒子及び第2の微粒子の少なくとも1種であることを特徴とする請求項7,15,又は16に記載の光学フィルター。 第1の微粒子:一般式A_(1/n)CuPO_(4)(但し,式中,Aは,アルカリ金属,アルカリ土類金属およびNH_(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり,nは,Aがアルカリ金属またはNH_(4)の場合は1であり,Aがアルカリ土類金属の場合は2である。)で表記される酸化物。 第2の微粒子:一般式M_(x)W_(y)O_(z)(但し,Mは,H,アルカリ金属,アルカリ土類金属,希土類元素,Mg,Zr,Cr,Mn,Fe,Ru,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Cu,Ag,Au,Zn,Cd,Al,Ga,In,Tl,Si,Ge,Sn,Pb,Sb,B,F,P,S,Se,Br,Te,Ti,Nb,V,Mo,Ta,Re,Be,Hf,Os,Bi,Iから選ばれる一種又は複数種での元素あり,Wはタングステン,Oは酸素,0.001≦x/y≦1,2.2≦z/y≦3.0)で表記される金属酸化物。」 (16) 訂正事項16 特許請求の範囲に,次の新たな請求項を設けて,請求項18とする。 「 前記近赤外線吸収微粒子を含む層が透明樹脂の層であることを特徴とする請求項7,15乃至17のいずれか一項に記載の光学フィルター。」 (17) 訂正事項17 特許請求の範囲に,次の新たな請求項を設けて,請求項19とする。 「 前記基材の両面に誘電体多層膜が設けられていることを特徴とする請求項7,15乃至18のいずれか一項に記載の光学フィルター。」 (18) 訂正について 本件訂正請求は,一群の請求項である,請求項1?請求項14を対象として請求された。 3 訂正についての判断 (1) 訂正事項1?訂正事項6について 訂正事項1による訂正は,請求項1を削除する訂正である。また,訂正事項2?訂正事項6による訂正も,同様に,それぞれ請求項2?請求項6を削除する訂正である。 そうしてみると,これら訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とする訂正である。また,これら訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内でしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。 (2) 訂正事項7について 訂正事項7による訂正は,請求項1を引用する請求項7の記載を,請求項1を引用しないものとする訂正である。また,訂正事項7による訂正により,請求項7を引用する請求項8?請求項19についても,同様の訂正がされたこととなる。 そうしてみると,この訂正は,特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる事項を目的とする訂正である。また,この訂正が,明細書等に記載した事項の範囲内でしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。 (3) 訂正事項8?訂正事項12について 訂正事項8による訂正は,請求項8が,訂正事項1?訂正事項6による訂正により削除された請求項1?請求項6を引用しているという不明瞭な状態を解消させる訂正である。また,訂正事項8による訂正により,請求項8を引用する請求項12?請求項14についても,同様の訂正がされたこととなる。 訂正事項9?訂正事項12による訂正も,同様に,それぞれ請求項9,請求項11,請求項12及び請求項13が,訂正事項1?訂正事項6による訂正により削除された請求項1?請求項6を引用しているという不明瞭な状態を解消させる訂正である。また,これら訂正により,これら請求項の少なくとも1つを引用する請求項10?請求項14についても,同様の訂正がされたこととなる。 そうしてみると,これら訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項を目的とする訂正である。また,これら訂正が,明細書等に記載した事項の範囲内でしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。 (4) 訂正事項13について 訂正事項13による訂正は,請求項2を引用する請求項7の記載を,請求項2を引用しないものとして,新たな請求項15に記載する(請求項7には記載しない)訂正である(当合議体注:訂正事項7による訂正により,請求項7には,請求項1を引用する請求項7が記載されるため,新たな請求項15が設けられた。)。また,訂正事項13による訂正により,請求項15の記載を引用する請求項16?請求項19についても,同様の訂正がされたことになる。 そうしてみると,この訂正は,特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる事項を目的とする訂正である。また,この訂正が,明細書等に記載した事項の範囲内でしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。 なお,訂正事項7による訂正により,請求項7には,請求項1を引用する請求項7が記載される。したがって,請求項15(請求項1を引用する請求項2を引用する請求項7)は,請求項15に請求項2に記載された発明特定事項を記載し,請求項7を引用することにより,記載することができる(特許権者は,この方法による訂正を請求している。)。 (5) 訂正事項14について 訂正事項14による訂正は,請求項3を引用する請求項7の記載を,請求項3を引用しないものとして,新たな請求項16に記載する(請求項7には記載しない)訂正である。また,訂正事項14による訂正により,請求項16の記載を引用する請求項17?請求項19についても,同様の訂正がされたことになる。 そうしてみると,この訂正は,特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる事項を目的とする訂正である。また,この訂正が,明細書等に記載した事項の範囲内でしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。 なお,請求項1を引用する請求項7,及び請求項2を引用する請求項7は,訂正事項7及び訂正事項13による訂正により,それぞれ請求項7及び請求項15となる。したがって,請求項16(「請求項1又は2」を引用する請求項3を引用する請求項7)は,請求項16に請求項3に記載された発明特定事項を記載し,「請求項7又は15」を引用することにより,記載することができる。 (6) 訂正事項15について 訂正事項15による訂正は,請求項4を引用する請求項7の記載を,請求項4の記載を引用しないものとして,新たな請求項17に記載する(請求項7には記載しない)訂正である。また,訂正事項15による訂正により,請求項17の記載を引用する請求項18及び請求項19についても,同様の訂正がされたことになる。 そうしてみると,この訂正は,特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる事項を目的とする訂正である。また,この訂正が,明細書等に記載した事項の範囲内でしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。 なお,請求項1?請求項3を引用する請求項7は,訂正事項7,訂正事項13及び訂正事項14による訂正により,それぞれ請求項7,請求項15及び請求項16となる。したがって,請求項17(「請求項1乃至3のいずれか一項」を引用する請求項4を引用する請求項7)は,請求項16に請求項4に記載された発明特定事項を記載し,「請求項7,15,又は16」を引用することにより,記載することができる。 (7) 訂正事項16について 訂正事項16による訂正は,請求項5を引用する請求項7の記載を,請求項5の記載を引用しないものとして,新たな請求項18に記載する(請求項7には記載しない)訂正である。また,訂正事項16による訂正により,請求項18の記載を引用する請求項19についても,同様の訂正がされたことになる。 そうしてみると,この訂正は,特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる事項を目的とする訂正である。また,この訂正が,明細書等に記載した事項の範囲内でしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。 なお,請求項1?請求項4を引用する請求項7は,訂正事項7及び訂正事項13?訂正事項15による訂正により,それぞれ請求項7及び請求項15?請求項17となる。したがって,請求項18(「請求項1乃至4のいずれか一項」を引用する請求項5を引用する請求項7)は,請求項16に請求項5に記載された発明特定事項を記載し,「請求項7,15乃至17のいずれか一項」を引用することにより,記載することができる。 (8) 訂正事項17について 訂正事項17による訂正は,請求項6を引用する請求項7の記載を,請求項6の記載を引用しないものとして,新たな請求項19に記載する(請求項7には記載しない)訂正である。 そうしてみると,この訂正は,特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる事項を目的とする訂正である。また,この訂正が,明細書等に記載した事項の範囲内でしたものであること,及び実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。 なお,請求項1?請求項5を引用する請求項7は,訂正事項7及び訂正事項13?訂正事項16による訂正により,それぞれ請求項7及び請求項15?請求項18となる。したがって,請求項19(「請求項1乃至5のいずれか一項」を引用する請求項6を引用する請求項7)は,請求項16に請求項6に記載された発明特定事項を記載し,「請求項7,15乃至18のいずれか一項」を引用することにより,記載することができる。 4 訂正についてのまとめ 本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書1号,3号及び4号に掲げる事項を目的とするものである。また,同訂正は,同条第9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。 よって,結論に記載のとおり,特許第6380624号の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?19について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記「第2」で述べたとおり,本件訂正請求による訂正は認められることとなった。そうしてみると,本件特許の請求項7?請求項19に係る発明(以下,「本件特許発明7」などといい,総称して「本件特許発明」という。)は,訂正後の特許請求の範囲の請求項7?請求項19に記載された事項によって特定されるとおりの,以下のものである。なお,請求項1?請求項6は削除された。 「【請求項7】 電子機器の表面パネルと光電変換素子との間に配置され,近赤外吸収微粒子を含む層を有する基材と該基材の少なくとも一方の面に誘電体多層膜を有し,下記(a),(b),及び(c)の要件を満たすことを特徴とする光学フィルター。 (a)波長400?650nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,垂直方向から30度斜め方向から入射する光,垂直方向から60度斜め方向から入射する光,のいずれにおいても透過率の平均値が45%以上85%未満。 (b)波長800?1200nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,垂直方向から30度斜め方向から入射する光,垂直方向から60度斜め方向から入射する光,のいずれに対しても光学濃度(OD値)の平均値が1.7以上。 (c)波長400?650nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から30度斜め方向から入射する光の透過率の平均値が,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,および垂直方向から60度斜め方向から入射する光の透過率の平均値よりも高い。 【請求項8】 さらに,下記(d)乃至(f)の要件を満たすことを特徴とする請求項7に記載の光学フィルター。 (d)波長430?470nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,垂直方向から30度斜め方向から入射する光,垂直方向から60度斜め方向から入射する光,のいずれにおいても透過率の平均値が45%以上。 (e)波長520?560nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,垂直方向から30度斜め方向から入射する光,垂直方向から60度斜め方向から入射する光,のいずれにおいても透過率の平均値が60%以上。 (f)波長580?620nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,垂直方向から30度斜め方向から入射する光,垂直方向から60度斜め方向から入射する光,のいずれにおいても透過率の平均値が50%以上。 【請求項9】 前記基材が透明樹脂の基板もしくはガラス基板による支持体を有することを特徴とする請求項7に記載の光学フィルター。 【請求項10】 前記透明樹脂の基板は,近赤外吸収色素を含有することを特徴とする請求項9に記載の光学フィルター。 【請求項11】 前記透明樹脂が,環状(ポリ)オレフィン系樹脂,芳香族ポリエーテル系樹脂,ポリイミド系樹脂,フルオレンポリカーボネート系樹脂,フルオレンポリエステル系樹脂,ポリカーボネート系樹脂,ポリアミド系樹脂,ポリアリレート系樹脂,ポリサルホン系樹脂,ポリエーテルサルホン系樹脂,ポリパラフェニレン系樹脂,ポリアミドイミド系樹脂,ポリエチレンナフタレート系樹脂,フッ素化芳香族ポリマー系樹脂,(変性)アクリル系樹脂,エポキシ系樹脂,アリルエステル系硬化型樹脂,シルセスキオキサン系紫外線硬化型樹脂,アクリル系紫外線硬化型樹脂およびビニル系紫外線硬化型樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂からなることを特徴とする請求項9,又は10に記載の光学フィルター。 【請求項12】 環境光センサーに用いられる請求項7乃至11のいずれか一項に記載の光学フィルター。 【請求項13】 請求項7乃至11のいずれか一項に記載の光学フィルターを具備する環境光センサー。 【請求項14】 請求項13に記載の環境光センサーを有する電子機器。 【請求項15】 厚みが210μm以下であることを特徴とする請求項7に記載の光学フィルター。 【請求項16】 前記近赤外線吸収微粒子の粒子直径の平均値が1?200nmであることを特徴とする請求項7又は15に記載の光学フィルター。 【請求項17】 前記近赤外線吸収微粒子が,下記に定義される,第1の微粒子及び第2の微粒子の少なくとも1種であることを特徴とする請求項7,15,又は16に記載の光学フィルター。 第1の微粒子:一般式A_(1/n)CuPO_(4)(但し,式中,Aは,アルカリ金属,アルカリ土類金属およびNH_(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり,nは,Aがアルカリ金属またはNH_(4)の場合は1であり,Aがアルカリ土類金属の場合は2である。)で表記される酸化物。 第2の微粒子:一般式M_(x)W_(y)O_(z)(但し,Mは,H,アルカリ金属,アルカリ土類金属,希土類元素,Mg,Zr,Cr,Mn,Fe,Ru,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Cu,Ag,Au,Zn,Cd,Al,Ga,In,Tl,Si,Ge,Sn,Pb,Sb,B,F,P,S,Se,Br,Te,Ti,Nb,V,Mo,Ta,Re,Be,Hf,Os,Bi,Iから選ばれる一種又は複数種での元素あり,Wはタングステン,Oは酸素,0.001≦x/y≦1,2.2≦z/y≦3.0)で表記される金属酸化物。 【請求項18】 前記近赤外線吸収微粒子を含む層が透明樹脂の層であることを特徴とする請求項7,15乃至17のいずれか一項に記載の光学フィルター。 【請求項19】 前記基材の両面に誘電体多層膜が設けられていることを特徴とする請求項7,15乃至18のいずれか一項に記載の光学フィルター。」 第4 取消しの理由及び証拠 1 取消しの理由 訂正前の各請求項に係る特許に対して,当合議体が平成31年4月24日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由の概要は,下記のとおりである。 記 (新規性,進歩性)本件特許の請求項1,請求項3?請求項6,請求項8及び請求項9に係る発明は,その優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。また,本件特許の請求項1?請求項6,請求項8及び請求項9に係る発明は,本件優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 甲1:国際公開第2014/168189号 甲3:住友金属鉱山株式会社(作成者),「製品安全データシート」,[online],平成26年10月23日改訂,インターネット (当合議体注:甲1は主引用例であり,甲3は,技術常識を示す文献である。) 2 証拠について 前記1に記載した証拠に加えて,特許異議申立人からは,以下の証拠が提出されている。 甲2:住友金属鉱山株式会社(作成者),「光学特性データシート」,[online],平成27年2月13日(PDFファイルの作成日),インターネット 甲4:特開2012-103340号公報 甲5:特開2011-133532号公報 甲6:国際公開第2012/169447号 第5 取消しの理由 1 甲1等の記載及び甲1発明 (1) 甲1の記載 甲1は,本件優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「技術分野 [0001] 本発明は,赤外線遮蔽フィルタに関する。 背景技術 [0002] デジタルスチルカメラ等の撮像装置では,CCD(Charge Coupled Device)やCMOSイメージセンサ(Complementary Metal Oxide Semiconductor Image Sensor)等の固体撮像素子を用いて被写体を撮像する。 …(省略)… 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0008] 本発明は,可視光に対する高い透過率を維持しながら,1200nm以上の長波長域の赤外光も十分に効果的に遮蔽することができ,また,基板の反り等の課題を生じることもない赤外線遮蔽フィルタの提供を目的とする。 課題を解決するための手段 [0009] 本発明の一態様に係る赤外線遮蔽フィルタは,透明基板と,該透明基板の少なくとも一方の主面側に1以上の赤外線吸収層を有し,前記赤外線吸収層は,透明樹脂中に有機色素もしくは無機粒子を含む層または無機粒子からなる層であり,前記透明基板と前記1以上の赤外線吸収層との積層体について測定される波長1200nmにおける透過率が10%以下であることを特徴とする。」 イ 「発明を実施するための形態 [0012] 以下,本発明の実施の形態について説明する。 …(省略)… [0013] 図1に示すように,本実施形態の赤外線遮蔽フィルタ(以下,本フィルタという)100は,透明基板10と,透明基板10の少なくとも一方の主面側に形成された赤外線吸収層20とを具える。 …(省略)… [0091] 本フィルタは,デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ,監視カメラ,車載用カメラ,ウェブカメラ等の撮像装置や自動露出計等のNIRフィルタ,PDP用のNIRフィルタ等として使用できる。本フィルタは,特に上記撮像装置において好適に用いられ,例えば,撮像レンズと固体撮像素子との間,撮像レンズとカメラの窓材との間,またはその両方に配置できる。また,前述のとおり,本フィルタは,撮像レンズ,カメラの窓材等を透明基板10として,その一方の主面側に赤外線吸収層を有してもよい。 [0092] さらに,本フィルタは,上記撮像装置の固体撮像素子,自動露出計の受光素子,撮像レンズ,PDP等に粘着剤層を介して直接貼着して使用することもできる。同様に,車両(自動車等)のガラス窓やランプにも粘着剤層を介して直接貼着して使用できる。」 ウ 「実施例 [0094] 次に,本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが,本発明はこれらの実施例に限定されて解釈されない。例1-8,例10-15は本発明の実施例であり,例9,16,17は比較例である。 [0095](例1) ポリエステル樹脂(東洋紡績(株)製 商品名:VYRON103,ポリエステル(A)と表記)0.75g,およびジイモニウム系化合物(日本化薬(株)製 商品名IRG-069;ジクロロメタン溶媒中におけるλ_(max)1108nm,モル吸光係数ε1.05×10^(5);ジイモニウム(A)と表記)0.0145gを,シクロヘキサノン4.25gに溶解して塗工液(1)を調製した。 この塗工液(1)をガラス基板の一方の主面側に,スピンコート法により塗布し,150℃で30分間加熱して,赤外線吸収層を形成し,赤外線遮蔽フィルタを得た。 ガラス基板として,厚さ0.3mmの,銅含有弗燐酸塩ガラス(AGCテクノグラス(株)製,商品名:NF-50;銅含有ガラスと表記)からなる基板を用いた。 赤外線吸収層の平均膜厚は,5.0μmであった。 …(省略)… [0098](例4) ポリエステル(A)0.75g,タングステン酸セシウム(CWO,住友金属鉱山社製 商品名:YMF-02A,平均一次粒子径13nm)0.075g,3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製,商品名:KBM-503)0.025g,およびシクロヘキサン4.25gを混合して混合液を得た。この混合液100質量部に直径0.5mmのジルコニアボール40質量部を添加し,ボールミルにて2時間湿式粉砕を行った。その後,ジルコニアボールを除去して,塗工液(4)を得た。 この塗工液(4)をガラス基板の一方の主面側に,スピンコート法により塗布し,150℃で30分間加熱して,赤外線吸収層を形成し,赤外線遮蔽フィルタを得た。 ガラス基板には,例1と同様のものを用いた。 赤外線吸収層の平均膜厚は,11μmであった。 …(省略)… [0104](例10) 例1と同様に作製した赤外線遮蔽フィルタの両主面(ガラス基板の赤外線吸収層が形成されていない面と赤外線吸収層上)にそれぞれ,スパッタリング法により,シリカ(SiO_(2);屈折率1.45(波長550nm))層とチタニア(TiO_(2);屈折率2.32(波長550nm))層とを交互に積層して,表1に示すような構成からなる誘電体多層膜(34層)を形成した。これにより誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタを得た。 [0105]表1 [0106](例11) 例4と同様に作製した赤外線遮蔽フィルタの両主面にそれぞれ,例10と同様にして誘電体多層膜(34層)を形成し,誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタを得た。 …(省略)… [0113] 例1?17で得られた赤外線遮蔽フィルタについて,以下に示す方法で,分光特性(光透過率)および耐候性の評価を行った。結果を,表2および表3に示す。なお,表2は,例1?17の赤外線遮蔽フィルタにおけるガラス基板と赤外線吸収層との積層体(例9,16,17はガラス基板のみ)の分光特性,および耐候性の評価結果を示し,表3は,例10?17の赤外線遮蔽フィルタ全体の分光特性の評価結果を示す。 [0114][光透過率] 400?630mmの波長域における平均の光透過率,さらに750nm,1000nm及び1200nmの各波長の光透過率を,分光光度計((株)日立製作所製 日立分光光度計U-4100)を用いて測定した。 測定は,測定面に対して垂直な方向から入射した光(入射角0°)と,測定面に対して垂直な方向から26°傾けた方向から入射した光(入射角26°)について行った。 [0115][耐候性] 150℃に24時間,暴露前後のヘイズ値を,ヘイズメーター(BYK Gardner社製 haze-gard plus)を用いて測定し,その変化量を次式より算出した。 ヘイズ値変化量 = H_(1)-H_(0) (但し,H_(1)は暴露後のへイズ値,H_(0)は暴露前のへイズ値である。) [0116]表2 [0117]表3 [0118] 表2,3から明らかなように,透明基板と該透明基板の少なくとも一方の主面側に赤外線吸収化合物を含有する1以上の赤外線吸収層を有し,透明基板と1以上の赤外線吸収層との積層体の波長1200nmにおける透過率が10%以下である例1?8,10?15の各赤外線遮蔽フィルタは,可視光に対する高い透過率を維持しながら,1200nm以上の長波長域の赤外光も十分に効果的に遮蔽できる。このため,この光学フィルタを使用した固体撮像素子は赤外光を遮蔽することで分光感度を人の通常の視感度に補正することが可能となり,良好な色再現性を得ることができる。 産業上の利用可能性 [0119] 本発明の赤外線遮蔽フィルタは,可視波長域の光に対し高い光透過率を有し,かつ1200nm以上の長波長域の赤外光に対しても優れた遮蔽効果を有しており,近年の厳しい要求に応え得る赤外線遮蔽フィルタとして有用である。」 エ 図1 (2) 甲1発明 甲1の[0095],[0098],[0104]?[0106]及び[0113]?[0117]の記載からは,例11の「誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタ」として,次の発明を理解することができる(以下「甲1発明」という。)。なお,「誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタ」と「赤外線遮蔽フィルタ」の混同を回避するため,後者を「赤外線遮蔽フィルタ基板」という。 「 赤外線遮蔽フィルタ基板の両主面に誘電体多層膜(34層)を形成して得た,誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタであって, ここで, 赤外線遮蔽フィルタ基板は,ポリエステル0.75g,タングステン酸セシウム(住友金属鉱山社製 商品名:YMF-02A)0.075g,3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.025g,及びシクロヘキサン4.25gを混合,粉砕して得た塗工液を,ガラス基板の一方の主面側に塗布,加熱して赤外線吸収層を形成したものであり, ガラス基板は,厚さ0.3mmの,銅含有弗燐酸塩ガラスからなり, 誘電体多層膜は,以下の表1に示す構成からなり, 赤外線遮蔽フィルタ基板の分光特性は以下の表2に示すものであり, 誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタの分光特性は以下の表3に示すものである, 誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタ。 表1: 表2: 表3: 」 (3) 甲2の記載 甲2は,本件優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であるところ,そこには,以下の記載がある。 ア 第1葉上部 イ 第2葉上部 (4) 甲5の記載 甲5は,本件優先日前に頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,近赤外線遮断効果を有するフィルム状または薄板状の光学部材,および光学フィルタに関する。」 イ 「【0110】 [光学部材の製造] (実施例1) 製造例1で得られた近赤外線吸収粒子と,メタクリル樹脂(ADELL社製,商品名 HV153;屈折率1.63)とを,固形分が近赤外線吸収粒子37質量%およびメタクリル樹脂63質量%となるような割合で混合した後,この混合液に直径0.5mmのジルコニアビーズを加え,ボールミルを用いて粉砕し,分散液を得た。得られた分散液を,表面にフッ素系離型材(旭硝子社製,商品名 サイトップ)による離型処理を施した厚さ1.3mmのガラス板(ソーダガラス)上にスピンコータ(ミカサ社製 スピンコータMS-A200)を用いて塗布し,120℃で1分間加熱乾燥させた後,ガラス板から剥離して,厚さ100μmのフィルム状光学部材を作製した。この光学部材の透過率を測定した。結果を表1および図2(透過スペクトル)に示す。」 ウ 図2 2 対比及び判断 (1) 対比 本件特許発明7と甲1発明を対比する。 ア 基材 甲1発明の「誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタ」は,「赤外線遮蔽フィルタ基板の両主面に誘電体多層膜(34層)を形成して得た」ものである。また,甲1発明の「赤外線遮蔽フィルタ基板」は,「ポリエステル0.75g,タングステン酸セシウム(住友金属鉱山社製 商品名:YMF-02A)0.075g,3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.025g,及びシクロヘキサン4.25gを混合,粉砕して得た塗工液を,ガラス基板の一方の主面側に塗布,加熱して赤外線吸収層を形成したもの」である。 ここで,「タングステン酸セシウム(住友金属鉱山社製 商品名:YMF-02A)」が「近赤外吸収微粒子」といえることは,上記の塗工液の製造工程及び物質名からみて,明らかである(上記の商品名及び甲2の記載からも,確認される事項である。)。 また,甲1発明の「赤外線吸収層」は,上記の製造工程からみて,近赤外吸収微粒子を含む層である。そして,甲1発明の「赤外線遮蔽フィルタ基板」は,近赤外吸収微粒子を含む層を有するものである。加えて,甲1発明の「誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタ」の上記の構成からみて,甲1発明の「赤外線遮蔽フィルタ基板」は,「誘電体多層膜」との関係においては,基材として機能している。 そうしてみると,甲1発明の「赤外線遮蔽フィルタ基板」は,本件特許発明7の,「近赤外吸収微粒子を含む層を有する」という要件を満たす「基材」に相当する。 イ 光学フィルター 甲1発明の「誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタ」は,「赤外線遮蔽フィルタ基板の両主面に誘電体多層膜(34層)を形成して得た」ものである。また,甲1発明の「赤外線遮蔽フィルタ基板」は,「塗工液を,ガラス基板の一方の主面側に塗布,加熱して赤外線吸収層を形成したもの」であるところ,「ガラス基板は,厚さ0.3mmの,銅含有弗燐酸塩ガラス」である。 上記構成からみて,甲1発明の「誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタ」は,「赤外線遮蔽フィルタ基板」の両面に誘電体多層膜を有するものである。また,上記構成から理解される形状(「厚さ0.3mmの,銅含有弗燐酸塩ガラス」を「ガラス基板」とし,この上に,「赤外線吸収層」及び「誘電体多層膜」を形成してなる形状)からみて,甲1発明の「誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタ」は,「電子機器の表面パネルと光電変換素子との間に配置」することができるものである。 そうしてみると,甲1発明の「誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタ」は,本件特許発明7の「光学フィルター」に相当する。また,上記アで述べた事項を勘案すると,甲1発明の「誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタ」は,本件特許発明7における「電子機器の表面パネルと光電変換素子との間に配置され,近赤外吸収微粒子を含む層を有する基材と該基材の少なくとも一方の面に誘電体多層膜を有し」という要件を満たす。 (2) 一致点及び相違点 ア 一致点 本件特許発明7と甲1発明は,次の構成で一致する。 「 電子機器の表面パネルと光電変換素子との間に配置され,近赤外吸収微粒子を含む層を有する基材と該基材の少なくとも一方の面に誘電体多層膜を有する光学フィルター。」 イ 相違点 本件特許発明7と甲1発明は,次の点で相違する。 (相違点1) 本件特許発明7は,「下記(a),(b),及び(c)の要件を満たす」のに対して,甲1発明は,これら要件を満たすとはいえない点。 (当合議体注:「下記(a),(b),及び(c)の要件」は,次の要件である。以下,それぞれ「要件(a)」,「要件(b)」,「要件(c)」として,区別していう場合がある。) (a)波長400?650nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,垂直方向から30度斜め方向から入射する光,垂直方向から60度斜め方向から入射する光,のいずれにおいても透過率の平均値が45%以上85%未満。 (b)波長800?1200nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,垂直方向から30度斜め方向から入射する光,垂直方向から60度斜め方向から入射する光,のいずれに対しても光学濃度(OD値)の平均値が1.7以上。 (c)波長400?650nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から30度斜め方向から入射する光の透過率の平均値が,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光,および垂直方向から60度斜め方向から入射する光の透過率の平均値よりも高い。 (3) 判断 ア 29条1項3号について 本件特許発明7と甲1発明は,相違点1において相違する。 したがって,本件特許発明7は,甲1に記載された発明であるということができない。 イ 29条2項について 以下,「光学フィルターに対し垂直方向から入射する光の透過率の平均値」,「光学フィルターに対し垂直方向から26度斜め方向から入射する光の透過率の平均値」,「光学フィルターに対し垂直方向から30度斜め方向から入射する光の透過率の平均値」及び「光学フィルターに対し垂直方向から60度斜め方向から入射する光の透過率の平均値」のことを,それぞれ「垂直透過率平均値」,「26度透過率平均値」,「30度透過率平均値」及び「60度透過率平均値」という。 甲1の表2及び表3([0116]及び[0117])には,それぞれ,甲1発明の「赤外線遮蔽フィルタ基板」及び「誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタ」における,垂直透過率平均値及び26度透過率平均値の値が示されている。 しかしながら,甲1の表2及び表3には,60度透過率平均値の値は記載されていない。また,甲1には,垂直透過率平均値及び26度透過率平均値に加えて,60度透過率平均値を測定すべきことについて,記載も示唆もない。 甲1には,要件(a)?要件(c)に関する技術的思想は開示されておらず,その必要性を示唆するような,課題に関する記載もない。甲2?甲6においても,要件(a)?要件(c)に関する技術的思想は開示されておらず,その必要性を示唆するような,課題に関する記載もない。また,このような技術的思想や課題が,本件優先日前の当業者において自明であったということもできない。 そうしてみると,甲1発明において,相違点1に係る本件発明の構成を採用することに,動機付けがあるとはいえない。 甲1の[0091]及び[0092]には,それぞれ「本フィルタは,デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ,監視カメラ,車載用カメラ,ウェブカメラ等の撮像装置や自動露出計等のNIRフィルタ,PDP用のNIRフィルタ等として使用できる。」及び「本フィルタは,上記撮像装置の固体撮像素子,自動露出計の受光素子,撮像レンズ,PDP等に粘着剤層を介して直接貼着して使用することもできる。同様に,車両(自動車等)のガラス窓やランプにも粘着剤層を介して直接貼着して使用できる。」と記載されている。 ここで,甲1の[0091]及び[0092]に記載された用途に用いられる誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタが,正面方向(光学フィルターに対し垂直方向)の光を最も良く透過するように,又は正面方向から所定角度範囲内の光を均等に透過するように設計されることは技術常識である。 したがって,甲1の表2及び表3に記載された,垂直透過率平均値及び26度透過率平均値に関する記載,並びに,甲1発明の内容に接した当業者ならば,甲1発明を,正面方向から所定角度範囲内の光を均等に透過するように設計されたものと理解する。また,仮に,当業者が甲1発明の透過特性を設計変更するとしても,正面方向の光を最も良く透過するように設計変更するにとどまるといえる。 以上勘案すると,当業者が,甲1発明の「誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタ」を,「波長400?650nmの範囲において…光学フィルターに対し垂直方向から30度斜め方向から入射する光の透過率の平均値が,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光…の透過率の平均値よりも高い」ように設計変更すること(要件(c)を満たすように設計すること)には,阻害要因があるといえる。 したがって,本件特許発明7は,甲1に記載された発明(及び甲2?甲6に記載された事項)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 (4) 本件特許発明8?本件特許発明19について 本件特許発明8?本件特許発明19は,本件特許発明7に対して,さらに他の発明特定事項を付加してなるものであり,いずれも,相違点1に係る本件特許発明7の構成を具備する。 そうしてみると,本件特許発明8?本件特許発明19も,甲1に記載された発明ということができず,また,甲1に記載された発明(及び甲2?甲6に記載された事項)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたということもできない。 (5) 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は,令和元年8月8日付け意見書において,甲1発明の「誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタ」において,26度透過率平均値が垂直透過率平均値よりも高いことを根拠として,甲1発明は,相違点1に係る要件(c)を満たすと主張する(4?7頁)。 確かに,甲1発明の「誘電体多層膜を有する赤外線遮蔽フィルタ」において,26度透過率平均値は78.3%,垂直透過率平均値は78.1%であるから,前者の方が0.2%大きい(以下「0.2%の差」という。)。 しかしながら,要件(c)は,「波長400?650nmの範囲において,光学フィルターに対し垂直方向から30度斜め方向から入射する光の透過率の平均値が,光学フィルターに対し垂直方向から入射する光…の透過率の平均値よりも高い」というものであるから,甲1発明のものとは,波長範囲(400?630)及び入射する光の角度(26度)が相違する。また,上記0.2%の差は,誘電体多層膜の透過波長領域におけるリップルの違い等によって現れた微差と考えられるから,波長範囲及び入射する光の角度が相違した場合においても,上記0.2%の差を根拠として,甲1発明が要件(c)を満たすとすることには無理がある。 第6 取消しの理由において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は,特許異議申立書において,甲1発明の誘電体多層膜をBK7上に形成した場合の透過率特性のシミュレーション結果(36頁)及び甲1発明の赤外線遮蔽フィルタ基板を甲5の実施例1の光学部材に置き換えた場合の透過率特性のシミュレーション結果(40頁)を示し,さらに,前記0.2%の差を指摘して,本件特許発明7は,甲1発明,並びに,甲1及び甲5に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。 ここで,甲1発明の誘電体多層膜をBK7上に形成した場合のシミュレーション結果は,次のグラフAのとおりである。 グラフA: また,甲1発明の赤外線遮蔽フィルタ基板を甲5の実施例1の光学部材に置き換えた場合の透過率特性のシミュレーション結果は,次のグラフBのとおりである。 グラフB: 上記グラフから看取されるとおり,あるいは,特許異議申立人が特許異議申立書46頁において主張するとおり,甲1発明の赤外線遮蔽フィルタ基板を甲5の実施例1の光学部材に置き換えたフィルタは,本件特許発明7の要件(c)を満たさない。すなわち,30度透過率平均値は72.24%,垂直透過率平均値は76.16%である。 この点に関して,特許異議申立人は,上記0.2%の差を根拠として,甲1発明の赤外線遮蔽フィルタ基板を甲5の実施例1の光学部材に置き換えたフィルタの透過率を,要件(c)を満たすようにすることは,設計変更の範囲内にすぎないと主張する。 しかしながら,このような容易推考は,いわゆる容易の容易であるから,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 また,上記0.2%の差は,正面方向から所定角度範囲内の光を均等に透過するように光学フィルタを設計した結果と理解するのが自然である。 したがって,当業者が甲1発明の赤外線遮蔽フィルタ基板を甲5の実施例1の光学部材に置き換えた上で,さらに,正面方向から所定角度範囲内の光を均等に透過するように光学フィルタを設計し直した場合を想定しても,要件(c)を満たす本件特許発明7の構成に到るとはいえない。 したがって,本件特許発明7は,甲1に記載された発明,並びに,甲1及び甲5に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 本件特許発明8?本件特許発明19についても,同様である。 第7 むすび 以上のとおりであるから,取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立の理由によっては,請求項7?請求項19に係る特許を取り消すことができない。 また,他にこれら特許を取り消すべき理由を発見しない。 本件訂正請求により,請求項1?請求項6は削除されたため,これら請求項に係る特許に対する特許異議の申立ての対象は存在しないこととなった。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】(削除) 【請求項2】(削除) 【請求項3】(削除) 【請求項4】(削除) 【請求項5】(削除) 【請求項6】(削除) 【請求項7】 電子機器の表面パネルと光電変換素子との間に配置され、近赤外吸収微粒子を含む層を有する基材と該基材の少なくとも一方の面に誘電体多層膜を有し、下記(a)、(b)、及び(c)の要件を満たすことを特徴とする光学フィルター。 (a)波長400?650nmの範囲において、光学フィルターに対し垂直方向から入射する光、垂直方向から30度斜め方向から入射する光、垂直方向から60度斜め方向から入射する光、のいずれにおいても透過率の平均値が45%以上85%未満。 (b)波長800?1200nmの範囲において、光学フィルターに対し垂直方向から入射する光、垂直方向から30度斜め方向から入射する光、垂直方向から60度斜め方向から入射する光、のいずれに対しても光学濃度(OD値)の平均値が1.7以上。 (c)波長400?650nmの範囲において、光学フィルターに対し垂直方向から30度斜め方向から入射する光の透過率の平均値が、光学フィルターに対し垂直方向から入射する光、および垂直方向から60度斜め方向から入射する光の透過率の平均値よりも高い。 【請求項8】 さらに、下記(d)乃至(f)の要件を満たすことを特徴とする請求項7に記載の光学フィルター。 (d)波長430?470nmの範囲において、光学フィルターに対し垂直方向から入射する光、垂直方向から30度斜め方向から入射する光、垂直方向から60度斜め方向から入射する光、のいずれにおいても透過率の平均値が45%以上。 (e)波長520?560nmの範囲において、光学フィルターに対し垂直方向から入射する光、垂直方向から30度斜め方向から入射する光、垂直方向から60度斜め方向から入射する光、のいずれにおいても透過率の平均値が60%以上。 (f)波長580?620nmの範囲において、光学フィルターに対し垂直方向から入射する光、垂直方向から30度斜め方向から入射する光、垂直方向から60度斜め方向から入射する光、のいずれにおいても透過率の平均値が50%以上。 【請求項9】 前記基材が透明樹脂の基板もしくはガラス基板による支持体を有することを特徴とする請求項7に記載の光学フィルター。 【請求項10】 前記透明樹脂の基板は、近赤外吸収色素を含有することを特徴とする請求項9に記載の光学フィルター。 【請求項11】 前記透明樹脂が、環状(ポリ)オレフィン系樹脂、芳香族ポリエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、フルオレンポリカーボネート系樹脂、フルオレンポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリパラフェニレン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、フッ素化芳香族ポリマー系樹脂、(変性)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、アリルエステル系硬化型樹脂、シルセスキオキサン系紫外線硬化型樹脂、アクリル系紫外線硬化型樹脂およびビニル系紫外線硬化型樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂からなることを特徴とする請求項9、又は10に記載の光 学フィルター。 【請求項12】 環境光センサーに用いられる請求項7乃至11のいずれか一項に記載の光学フィルター。 【請求項13】 請求項7乃至11のいずれか一項に記載の光学フィルターを具備する環境光センサー。 【請求項14】 請求項13に記載の環境光センサーを有する電子機器。 【請求項15】 厚みが210μm以下であることを特徴とする請求項7に記載の光学フィルター。 【請求項16】 前記近赤外線吸収微粒子の粒子直径の平均値が1?200nmであることを特徴とする請求項7又は15に記載の光学フィルター。 【請求項17】 前記近赤外線吸収微粒子が、下記に定義される、第1の微粒子及び第2の微粒子の少なくとも1種であることを特徴とする請求項7、15、又は16に記載の光学フィルター。 第1の微粒子:一般式A_(1/n)CuPO_(4)(但し、式中、Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびNH_(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、nは、Aがアルカリ金属またはNH_(4)の場合は1であり、Aがアルカリ土類金属の場合は2である。)で表記される酸化物。 第2の微粒子:一般式M_(x)W_(y)O_(z)(但し、Mは、H、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iから選ばれる一種又は複数種での元素あり、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される金属酸化物。 【請求項18】 前記近赤外線吸収微粒子を含む層が透明樹脂の層であることを特徴とする請求項7、15乃至17のいずれか一項に記載の光学フィルター。 【請求項19】 前記基材の両面に誘電体多層膜が設けられていることを特徴とする請求項7、15乃至18のいずれか一項に記載の光学フィルター。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-09-30 |
出願番号 | 特願2017-136264(P2017-136264) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(G02B)
P 1 651・ 857- YAA (G02B) P 1 651・ 851- YAA (G02B) P 1 651・ 121- YAA (G02B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 辻本 寛司 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 樋口 信宏 |
登録日 | 2018-08-10 |
登録番号 | 特許第6380624号(P6380624) |
権利者 | JSR株式会社 |
発明の名称 | 光学フィルター及び光学フィルターを具備する環境光センサー |
代理人 | 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ |
代理人 | 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ |