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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C08F
管理番号 1356851
異議申立番号 異議2019-700598  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-30 
確定日 2019-11-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6460884号発明「中空樹脂粒子の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6460884号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6460884号に係る出願(特願2015-72477号、以下「本願」という。)は、平成27年3月31日に出願人積水化成品工業株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、平成31年1月11日に特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、特許掲載公報が平成31年1月30日に発行されたものである。

2.本件特許異議の申立ての趣旨
本件特許につき令和元年7月30日に特許異議申立人瀧瀬洋輔(以下「申立人」という。)により、「特許第6460884号の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。
(よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項5に記載された発明についての特許は、本件特許異議の申立ての審理の対象外である。)

第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項
本件特許の特許請求の範囲には、以下のとおりの請求項1ないし5が記載されている。
「【請求項1】
シェルに囲われた1つの中空を持つ中空樹脂粒子であって、前記中空樹脂粒子が、350℃以上の熱分解開始温度を有し、前記シェルが、10?50nmの範囲内の直径の微細貫通孔を有し、かつ前記中空樹脂粒子の平均一次粒子径に対して、0.03?0.25の比の厚さを有する中空樹脂粒子の製造方法であって、
前記多官能性モノマーと、任意に単官能性モノマーと、非反応性溶媒とを含む混合溶液を水溶液に分散し、次いで前記多官能性モノマーと単官能性モノマーとを重合させ、
前記非反応性溶媒を除去することにより中空樹脂粒子を得る方法であり、
前記非反応性溶媒は、100gの水に溶解する量が0.1g以下である疎水性溶媒であり、
前記非反応性溶媒の使用量が、前記多官能性モノマーと単官能性モノマーとの混合物1重量部に対して、0.5?5重量部の範囲である
ことを特徴とする中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項2】
前記中空樹脂粒子が、0.05?10μmの平均一次粒子径を有する請求項1に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
前記シェルが、2?20個のエチレン性不飽和基を有し、かつ30?100g/molの官能基当量の多官能性モノマーに由来する請求項1又は2に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
前記多官能性モノマーが、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートから選択される請求項3に記載の中空樹脂粒子の製造方法。
【請求項5】
前記重合が、ラジカル発生剤としての水溶性の重合開始剤の存在下で行われる請求項1?4のいずれか1つに記載の中空樹脂粒子の製造方法。」
(以下、上記請求項1に記載された事項で特定される発明を「本件発明」という。)

第3 申立人が主張する取消理由
申立人は、同人が提出した本件異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第4号証を提示し、申立書における申立人の取消理由に係る主張を当審で整理すると、概略、以下の取消理由が存するとしているものと認められる。

取消理由:本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、いずれも、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明並びに更に甲第3号証又は甲第4号証に記載された事項を組み合わせることによって、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2010-149024号公報
甲第2号証:特開2002-080503号公報
甲第3号証:特開2007-063405号公報
甲第4号証:特開2010-185064号公報
(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲4」と略していう。)

第4 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由については理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許はいずれも維持すべきもの、
と判断する。以下、詳述する。

1.各甲号証の記載事項及び記載された発明
上記取消理由は、本件特許が特許法第29条に違反してされたものであることに基づくものであるから、当該理由につき検討するにあたり、申立人が提示した甲1ないし甲4に記載された事項の摘示及び当該事項に基づく甲1又は甲2に係る引用発明の認定を行う。(なお、下線は、原文に存するものを除き、当審が付したものである。)

(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明

ア.甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。

(a1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
単孔構造を有するシェルに、コア剤が内包されたマイクロカプセルを製造する方法であって、
非重合性物質を内包するモノマー溶液からなる液滴が分散した乳化液を調製する工程及び前記モノマー溶液中のモノマーを重合させる工程を有し、
前記モノマー溶液は、全モノマー成分に対して、三官能以上の架橋性モノマーを55?90重量%含有する
ことを特徴とするマイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のマイクロカプセルの製造方法により製造されたことを特徴とするマイクロカプセル。
【請求項3】
平均粒子径が1?20μm、アスペクト比が1?1.1、かつ、30?200℃の所定の温度にて10分間加熱した後の平均粒子径の変化率が100±5%以内であることを特徴とする請求項2記載のマイクロカプセル。
【請求項4】
コア剤を50重量%以上含有することを特徴とする請求項2又は3記載のマイクロカプセル。
【請求項5】
23℃における10%K値が1?1000N/mm^(2)であることを特徴とする請求項2、3又は4記載のマイクロカプセル。
・・(後略)」

(a2)
「【0001】
本発明は、溶媒中での分散性に優れるとともに、優れた弾力性を有するマイクロカプセルの製造方法に関する。また、本発明は、該マイクロカプセルの製造方法によって製造されるマイクロカプセル、塗膜形成用樹脂組成物、塗膜、光学シート及び表皮材に関する。」

(a3)
「【背景技術】
・・(中略)・・
【0004】
また、シート状成形体等の基材に更に多孔質性の塗膜を形成する場合や、壁紙等のシート状成形体同士を貼り合わせる場合にも、中空粒子が用いられている。具体的には、水系媒体中に液体含浸性のない中空粒子を分散させたスラリーを調製した後、該スラリーを基材に塗工し、水系媒体を乾燥させる方法が知られており、このような方法を用いた場合、基材に断熱性やクッション性等の性能を付与することが可能となる。
【0005】
しかしながら、このような方法では、塗工時に中空粒子がスラリー中で浮遊することによって、中空粒子の分散性が損なわれることから、得られる塗膜に空孔の多い部分や少ない部分が形成され、塗膜の空孔が不均一になるという問題があった。
【0006】
これに対して、スラリー中での粒子の分散性を維持するため、加熱膨張前の発泡樹脂粒子を分散させたスラリーを塗工後に、乾燥、加熱発泡させて多孔質性の塗膜を形成させる方法も提案されているが、粒子の発泡により塗膜の表面平滑性が悪化し、意匠性の悪いシートしか得られないという問題があった。
【0007】
更に、中空粒子の代りに、乾燥工程において除去することが可能な液体を内包させた液体内包型マイクロカプセルを用いる方法が検討されている。
しかしながら、例えば特許文献3に記載の蓄熱粒子を用いた場合、乾燥工程において完全に内包液体を除去することができないなど、従来の液体内包型マイクロカプセルを用いた場合、スラリー中での分散性、乾燥工程後に得られる塗膜の空孔状態、及び、表面の平滑性の何れかが不充分であり、上述した各種の用途に、好適に使用できないものであった。
【0008】
また、特許文献4には、シェルが架橋性モノマーの重合体からなる中空高分子微粒子が記載されている。しかしながら、このような中空高分子微粒子は、空隙率は大きいものの、シェルの架橋度が高すぎるために剛性が高くなりすぎ、つぶれや変形が生じやすいものとなっていた。従って、得られた中空高分子微粒子を用いて各種成形体や塗膜等を製造する場合、所望の剛性改善効果、柔軟性等を充分に実現するには至っていなかった。
・・(中略)・・
【特許文献3】特開平5-237368号公報
【特許文献4】特許第3600845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の現状に鑑み、溶媒中での分散性に優れるとともに、優れた弾力性を有するマイクロカプセルの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、該マイクロカプセルの製造方法によって製造されるマイクロカプセル、塗膜形成用樹脂組成物、塗膜、光学シート及び表皮材を提供することを目的とする。」

(a4)
「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、単孔構造を有するシェルに、コア剤が内包されたマイクロカプセルを製造する方法であって、非重合性物質を内包するモノマー溶液からなる液滴が分散した乳化液を調製する工程及び前記モノマー溶液中のモノマーを重合させる工程を有し、前記モノマー溶液は、全モノマー成分に対して、三官能以上の架橋性モノマーを55?90重量%含有するマイクロカプセルの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明のマイクロカプセルの製造方法では、まず、非重合性物質を内包するモノマー溶液からなる液滴が分散した乳化液を調製する工程を行う。
上記非重合性物質を内包するモノマー溶液からなる液滴が分散した乳化液を調製する方法としては、例えば、上記非重合性物質を上記モノマー溶液中に添加して攪拌することにより、上記モノマー溶液中に上記非重合性物質からなる液滴が分散した一次乳化液を調製し、次いで、得られた一次乳化液を、上記モノマー溶液と不溶な溶液中に添加して攪拌することにより、上記モノマー溶液と不溶な溶液中に、上記非重合性物質を内包するモノマー溶液からなる液滴が分散した二次乳化液(いわゆる、W/O/W型エマルジョン)を調製する方法が挙げられる。
【0012】
上記モノマー溶液は、全モノマー成分に対して、三官能以上の架橋性モノマーを55?90重量%含有する。上記三官能以上の架橋性モノマーを55?90重量%含有することにより、適度に架橋されたシェルを形成することができ、その結果、優れた弾力性を有するマイクロカプセルを製造することができる。
上記三官能以上の架橋性モノマーの添加量が全モノマー成分に対して55重量%未満であると、得られるマイクロカプセルのシェルの架橋が不充分となり、強度が不充分となるため、単孔構造のシェルを有するマイクロカプセルを作製できない。また、加熱等を行った場合に、つぶれやへたりが生じたり、揮発したコア剤により粒子が熱膨張を起こしてしまう。上記三官能以上の架橋性モノマーの添加量が全モノマー成分に対して90重量%を超えると、シェルの架橋が進みすぎ、得られるマイクロカプセルの弾力性が損なわれ、つぶれやすくなる。
上記三官能以上の架橋性モノマーの添加量は、全モノマー成分に対して、好ましい下限は60重量%、好ましい上限は88重量%である。
【0013】
上記三官能以上の架橋性モノマーとしては、例えば、三つ以上の重合性不飽和結合を有する架橋性モノマーが挙げられる。上記三つ以上の重合性不飽和結合を有する架橋性モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート及びその誘導体、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。
これら三官能以上の架橋性モノマーは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
上記モノマー溶液は、上記三官能以上の架橋性モノマーのほか、単官能性モノマー、二官能性モノマー等の重合性モノマーを含有することが好ましい。
【0015】
上記単官能性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸及びマレイン酸等の重合性不飽和結合を有するカルボン酸、カルボン酸エステル及びカルボン酸塩や、2-(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2-(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸及びスチレンスルホン酸等の重合性不飽和結合を有するスルホン酸、スルホン酸エステル及びスルホン酸塩や、(メタ)アクリルアミド、N-置換(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、ポリオキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N-ビニルピロリドン等が挙げられる。これら単官能性モノマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用しても良い。
【0016】
上記二官能性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート及びその異性体、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0017】
上記非重合性物質としては、上記三官能以上の架橋性モノマーと上記重合性モノマーとの反応温度において液状であり、重合反応によって重合せず、かつ、加熱等により容易に蒸散させることができるものであれば特に限定されず、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、水、ジクロロメタン、クロロホルム、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール、n-ペンタノール、イソペンチルアルコール、ネオペンチルアルコール、オクタノール、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ニトロメタン、ニトロエタン、アセトニトリル、アニリン、2-ピロリドン、水等が挙げられる。
【0018】
上記非重合性物質の添加量は、上記モノマー溶液100重量部に対して好ましい下限が100重量部、好ましい上限が1900重量部である。上記非重合性物質の添加量が100重量部未満であると、得られるマイクロカプセルのシェルが厚くなり、得られるマイクロカプセルの空隙率が低下することがある。上記非重合性物質の添加量が1900重量部を超えると、マイクロカプセルの形状が維持できなかったり、弾力性又は強度を確保できなかったりすることがある。」

(a5)
「【0022】
上記非重合性物質を内包するモノマー溶液からなる液滴が分散した乳化液を調製する工程においては、上記モノマー溶液中のモノマーが油滴以外の場所で重合することによる新粒子の発生を抑制するために、上記モノマー溶液や上記モノマー溶液と不溶な溶液に無機塩や水溶性重合禁止剤を添加してもよい。
・・(中略)・・
【0023】
上記非重合性物質を内包するモノマー溶液からなる液滴が分散した乳化液を調製する工程において、攪拌する方法としては特に限定されず、例えば、ホモミキサー、バイオミキサー、オムニミキサー、超音波ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー等を用いる従来公知の方法が挙げられる。
【0024】
本発明のマイクロカプセルの製造方法では、次いで、上記モノマー溶液中のモノマーを重合させる工程を行う。これにより、マイクロカプセルのシェルの部分が形成される。
上記モノマー溶液中のモノマーを重合させる方法としては特に限定されず、上記三官能以上の架橋性モノマーや、上記重合性モノマーの種類により適宜最適な方法を選択すればよいが、通常は加熱することが好ましい。
【0025】
本発明のマイクロカプセルの製造方法では、上記モノマー溶液中のモノマーを重合させる工程を行うことにより、単孔構造を有するシェルに、コア剤として上記非重合性物質が内包されたマイクロカプセルが、上記モノマー溶液と不溶な溶液中に分散したスラリーが得られるが、その後、上記モノマー溶液と不溶な溶液を除去する工程を行ってもよい。
上記モノマー溶液と不溶な溶液を除去する方法としては特に限定されず、例えば、加熱によって乾燥する方法、系全体を減圧する方法等が挙げられる。
【0026】
このような本発明のマイクロカプセルの製造方法によると、単孔構造を有するシェルに、コア剤が内包されたマイクロカプセルを製造することができる。このようなマイクロカプセルもまた本発明の1つである。
【0027】
本発明のマイクロカプセルは、コア剤を有する。
本発明のマイクロカプセルは、上記コア剤を有することから、中空粒子と比較して溶媒及び組成物中での分散性に優れる。従って、例えば、本発明のマイクロカプセルを含有する塗膜形成用樹脂組成物を基材に塗工した後、乾燥工程により上記コア剤を除去させることによって、均一な空孔を有する所望の塗膜を形成することができる。ただし、本発明のマイクロカプセルに内包されたコア剤を加熱等により蒸散させた後、得られた乾燥マイクロカプセルを含有する塗膜形成用樹脂組成物を基材に塗工して、塗膜を形成してもよい。
上記コア剤としては、加熱等により容易に蒸散させることができるものであれば特に限定されず、例えば、上述した上記非重合性物質と同様のものを用いることができる。
【0028】
上記コア剤は、沸点の好ましい下限が30℃、好ましい上限が200℃である。沸点が30℃未満であると、常温においてコア剤の沸騰が起こり、極めてハンドリング性の悪いものとなることがある。沸点が200℃を超えると、例えば、本発明のマイクロカプセルを用いて塗膜を形成する場合、沸点が高すぎるために乾燥工程でコア剤が完全に除去されず、空孔の形成が不充分となることがある。上記コア剤の沸点のより好ましい下限は50℃、より好ましい上限は160℃である。
なお、本明細書において、沸点とは1atmでの沸点のことをいう。
【0029】
本発明のマイクロカプセルにおける上記コア剤の含有量の好ましい下限は50重量%である。上記コア剤の含有量が50重量%未満であると、例えば、本発明のマイクロカプセルを塗膜形成用樹脂組成物に含有した場合に、マイクロカプセルが浮遊して、マイクロカプセルの分散性が著しく損なわれることがある。上記コア剤の含有量の好ましい上限は95重量%である。
【0030】
本発明のマイクロカプセルを構成するシェルは、単孔構造を有する。
上記単孔構造を有することにより、上記シェルの内部に形成された空隙は密閉性に優れたものとなり、各種用途に本発明のマイクロカプセルを用いる場合に、空隙内にバインダー成分や他の成分が侵入して、空孔の割合が低下するといった不具合を防止することができる。
なお、本明細書において、「単孔構造」とは、多孔質状等のように複数の空隙を有する場合は含まず、ただ1つの閉じた空隙を有する構造のことをいう。
【0031】
上記シェルの材質としては、全モノマー成分に対して、上記三官能以上の架橋性モノマーを55?90重量%含有するモノマー溶液中のモノマーを重合して得られるポリマーであって、単孔構造とすることができ、かつ、後述する範囲内の平均粒子径、アスペクト比等を実現可能であれば特に限定されない。上記シェルの材質が、全モノマー成分に対して、上記三官能以上の架橋性モノマーを55?90重量%含有するモノマー溶液中のモノマーを重合して得られるポリマーであって、適度に架橋されていることによって、本発明のマイクロカプセルは優れた弾力性を有する。
上記シェルの材質としては、例えば、上記三官能以上の架橋性モノマーに由来するセグメントと上記重合性モノマーに由来するセグメントとを有する共重合体等が挙げられる。」

(a6)
「【0032】
本発明のマイクロカプセルの平均粒子径の好ましい下限は1μm、好ましい上限は20μmである。平均粒子径が1μm未満であると、本発明のマイクロカプセル同士の凝集が発生して取扱い性に劣ることがある。平均粒子径が20μmを超えると、例えば、本発明のマイクロカプセルを用いて塗膜を形成する場合、得られる塗膜の平滑性が低下することがある。本発明のマイクロカプセルは、平均粒子径のより好ましい下限が1.5μm、より好ましい上限が10μmである。
【0033】
本発明のマイクロカプセルは、アスペクト比(短径の長さに対する長径の長さの比)の好ましい下限が1、好ましい上限が1.1である。アスペクト比が上記範囲外であると、例えば、本発明のマイクロカプセルを用いて塗膜を形成する場合、塗膜を形成する過程においてマイクロカプセルにつぶれやへたりが生じたり、得られる塗膜の平滑性が低下したりすることがある。本発明のマイクロカプセルのアスペクト比のより好ましい下限は1.00、より好ましい上限は1.05である。
なお、上記アスペクト比は、長径の長さを短径の長さで割った値であり、その値が1に近いほど、形状は真球に近くなる。」

(a7)
「【0037】
本発明のマイクロカプセルは、空隙率の好ましい下限が50体積%、好ましい上限が95体積%である。上記空隙率が50体積%未満であると、得られるマイクロカプセルを用いてなる成形体等に軽量化、造孔化、断熱性付与、遮音性付与、クッション性等を充分に付与できないことがある。上記空隙率が95体積%を超えると、マイクロカプセルの形状が維持できなかったり、強度を確保できなかったりすることがある。
なお、本明細書において、空隙率とは、マイクロカプセルの全体積に占める、コア剤を除いた空隙部分の体積比のことをいい、例えば、透過型電子顕微鏡で撮影した写真をもとに、平均粒子径(外径)及び平均内孔径を測定し、空隙部分の体積とマイクロカプセルの体積との比を算出することにより測定することができる。」

(a8)
「【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、溶媒中での分散性に優れるとともに、優れた弾力性を有するマイクロカプセルの製造方法を提供できる。また、該マイクロカプセルの製造方法によって製造されるマイクロカプセル、塗膜形成用樹脂組成物、塗膜、光学シート及び表皮材を提供できる。」

(a9)
「【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
・・(中略)・・
【0057】
(実施例2)
(1)マイクロカプセルの調製
三官能以上の架橋性モノマーとしてペンタエリスリトールテトラアクリレート40重量部及びトリメチロールプロパントリアクリレート30重量部と、重合性モノマーとしてポリエチレングリコールジメタクリレート(ポリオキシエチレンユニット数=1、日油社製「ブレンマーPDE-50R」)30重量部と、非重合性物質として酢酸エチル50重量部及びシクロヘキサン350重量部と、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.3重量部とを混合、攪拌し、酢酸エチル-シクロヘキサン分散型の一次乳化液を調製した。
【0058】
その後、得られた一次乳化液を、分散剤としてのポリビニルアルコール(PVA)を1重量%、水溶性重合禁止剤としての亜硝酸ナトリウムを0.02重量%含有するイオン交換水溶液370重量部に加え、攪拌分散装置を用いて攪拌することにより、水媒体中に酢酸エチル-シクロヘキサンを内包する油滴が分散された複合エマルジョンからなる二次乳化液を得た。
【0059】
攪拌機、ジャケット、還流冷却機及び温度計を備えた20L容の重合器を用い、重合器内を減圧して容器内の脱酸素を行った後、窒素置換して重合器内部を窒素雰囲気とした。その後、二次乳化液を一括投入し、重合器を60℃まで昇温して重合を開始させた。4時間重合させた後、重合器を室温まで冷却して、溶剤内包マイクロカプセルを含有するスラリーを得た。得られたスラリーの溶媒を、遠心分離機を用いてイソプロパノール(IPA)に置換し、溶剤内包マイクロカプセルのイソプロパノール(IPA)分散スラリーを得た。
【0060】
(2)塗工サンプルの作製
得られた溶剤内包マイクロカプセル含有スラリー200重量部(マイクロカプセル57重量部、固形分12重量部)と、アクリル系樹脂を10重量%含有するトルエン溶液500重量部とを混合することにより塗膜形成用樹脂組成物を得た。得られた塗膜形成用樹脂組成物を、基材としてのPETシート上にグラビアコートを用いて15μm(固形分)の厚さに塗工した後、熱風ドライヤーにて120℃、1分間加熱乾燥を行うことにより、塗膜を形成した。
【0061】
(実施例3)
(1)マイクロカプセルの調製
三官能以上の架橋性モノマーとしてトリメチロールプロパントリアクリレート60重量部と、重合性モノマーとしてアクリロニトリル40重量部と、非重合性物質として酢酸エチル40重量部及びヘプタン120重量部と、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.3重量部とを混合、攪拌し、酢酸エチル-ヘプタン分散型の一次乳化液を調製した。
【0062】
その後、得られた一次乳化液を、分散剤としてのポリビニルアルコール(PVA)を1重量%、水溶性重合禁止剤としての亜硝酸ナトリウムを0.02重量%含有するイオン交換水溶液300重量部に加え、攪拌分散装置を用いて攪拌することにより、水媒体中に酢酸エチル-ヘプタンを内包する油滴が分散された複合エマルジョンからなる二次乳化液を得た。
【0063】
攪拌機、ジャケット、還流冷却機及び温度計を備えた20L容の重合器を用い、重合器内を減圧して容器内の脱酸素を行った後、窒素置換して重合器内部を窒素雰囲気とした。その後、二次乳化液を一括投入し、重合器を60℃まで昇温して重合を開始させた。4時間重合した後、重合器を室温まで冷却して、溶剤内包マイクロカプセルを含有するスラリーを得た。得られた溶剤内包マイクロカプセルを含有するスラリーを、噴霧乾燥機を用いて乾燥することにより、粉体状の乾燥マイクロカプセルを得た。
【0064】
(2)塗工サンプルの作製
得られた乾燥マイクロカプセル100重量部と、アクリル系樹脂を10重量%含有するトルエン溶液500重量部とを混合することにより塗膜形成用樹脂組成物を得た。得られた塗膜形成用樹脂組成物を、基材としてのPETシート上にグラビアコートを用いて15μm(固形分)の厚さに塗工した後、熱風ドライヤーにて120℃、1分間加熱乾燥を行うことにより、塗膜を形成した。
・・(中略)・・
【0069】
(比較例1)
(1)マイクロカプセルの調製
三官能以上の架橋性モノマーとしてトリメチロールプロパントリアクリレート10重量部、重合性モノマーとしてポリプロピレングリコールジメタクリレート(ポリオキシプロピレンユニット数=約7、日油社製「ブレンマーPDP-400」)60重量部及びメタクリル酸メチル30重量部と、非重合性物質としてヘプタン100重量部と、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.3重量部とを混合、攪拌し、ヘプタン分散型の一次乳化液を調製した。
【0070】
その後、得られた一次乳化液を、分散剤としてのポリビニルアルコール(PVA)を1重量%、水溶性重合禁止剤としての亜硝酸ナトリウムを0.02重量%含有するイオン交換水溶液400重量部に加え、攪拌分散装置を用いて攪拌することにより、水媒体中にヘプタンを内包する油滴が分散された複合エマルジョンからなる二次乳化液を得た。
【0071】
攪拌機、ジャケット、還流冷却機及び温度計を備えた20L容の重合器を用い、重合器内を減圧して容器内の脱酸素を行った後、窒素置換して重合器内部を窒素雰囲気とした。その後、二次乳化液を一括投入し、重合器を60℃まで昇温して重合を開始させた。8時間重合した後、重合器を室温まで冷却して、溶剤内包マイクロカプセルを含有するスラリーを得た。得られたスラリーの溶媒を、遠心分離機を用いてイソプロパノール(IPA)に置換し、溶剤内包マイクロカプセルのイソプロパノール(IPA)分散スラリーを得た。
【0072】
(2)塗工サンプルの作製
得られた溶剤内包マイクロカプセル含有スラリー300重量部(マイクロカプセル129重量部、固形分58重量部)と、アクリル系樹脂を10重量%含有するトルエン溶液500重量部とを混合することにより塗膜形成用樹脂組成物を得た。得られた塗膜形成用樹脂組成物を、基材としてのPETシート上にグラビアコートを用いて15μm(固形分)の厚さに塗工した後、熱風ドライヤーにて120℃、1分間加熱乾燥を行うことにより、塗膜を形成した。
【0073】
(比較例2)
(1)マイクロカプセルの調製
三官能以上の架橋性モノマーとしてペンタエリスリトールテトラアクリレート25重量部及びトリメチロールプロパントリアクリレート25重量部と、重合性モノマーとしてアクリロニトリル10重量部、メタクリロニトリル10重量部、メタクリル酸メチル20重量部及びポリエチレングリコールジメタクリレート(ポリオキシエチレンユニット数=1、日油社製「ブレンマーPDE-50R」)10重量部と、非重合性物質としてシクロヘキサン110重量部と、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.3重量部とを混合、攪拌し、シクロヘキサン分散型の一次乳化液を調製した。
【0074】
その後、得られた一次乳化液を、分散剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2重量%を含有するイオン交換水溶液1133重量部に加え、超音波ホモジナイザーを用いて攪拌することにより、水媒体中にシクロヘキサンを内包する油滴が分散された複合エマルジョンからなる二次乳化液を得た。
【0075】
攪拌機、ジャケット、還流冷却機及び温度計を備えた20L容の重合器を用い、重合器内を減圧して容器内の脱酸素を行った後、窒素置換して重合器内部を窒素雰囲気とした。その後、二次乳化液を一括投入し、重合器を60℃まで昇温して重合を開始させた。8時間重合した後、重合器を室温まで冷却して、溶剤内包マイクロカプセルを含有するスラリーを得た。得られたスラリーの溶媒を、遠心分離機を用いてイソプロパノール(IPA)に置換し、溶剤内包マイクロカプセルのイソプロパノール(IPA)分散スラリーを得た。
【0076】
(2)塗工サンプルの作製
得られた溶剤内包マイクロカプセル含有スラリー400重量部(マイクロカプセル138重量部、固形分66重量部)と、アクリル系樹脂を10重量%含有するトルエン溶液500重量部とを混合することにより塗膜形成用樹脂組成物を得た。得られた塗膜形成用樹脂組成物を、基材としてのPETシート上にグラビアコートを用いて15μm(固形分)の厚さに塗工した後、熱風ドライヤーにて120℃、1分間加熱乾燥を行うことにより、塗膜を形成した。
【0077】
(比較例3)
(1)マイクロカプセルの調製
三官能以上の架橋性モノマーとしてペンタエリスリトールテトラアクリレート25重量部及びトリメチロールプロパントリアクリレート25重量部と、重合性モノマーとしてアクリロニトリル10重量部、メタクリロニトリル10重量部、メタクリル酸メチル20重量部及びポリエチレングリコールジメタクリレート(ポリオキシエチレンユニット数=1、日油社製「ブレンマーPDE-50R」)10重量部と、非重合性物質としてシクロヘキサン110重量部と、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.3重量部とを混合、攪拌し、シクロヘキサン分散型の一次乳化液を調製した。
【0078】
その後、得られた一次乳化液を、分散剤としてのポリビニルアルコール(PVA)を1重量%、水溶性重合禁止剤としての亜硝酸ナトリウムを0.02重量%含有するイオン交換水溶液455重量部に加え、攪拌分散装置を用いて攪拌することにより、水媒体中にシクロヘキサンを内包する油滴が分散された複合エマルジョンからなる二次乳化液を得た。
【0079】
攪拌機、ジャケット、還流冷却機及び温度計を備えた20L容の重合器を用い、重合器内を減圧して容器内の脱酸素を行った後、窒素置換して重合器内部を窒素雰囲気とした。その後、二次乳化液を一括投入し、重合器を60℃まで昇温して重合を開始させた。8時間重合した後、重合器を室温まで冷却して、溶剤内包マイクロカプセルを含有するスラリーを得た。得られた溶剤内包マイクロカプセルを含有するスラリーを、噴霧乾燥機を用いて乾燥することにより、粉体状の乾燥マイクロカプセルを得た。
【0080】
(2)塗工サンプルの作製
得られた乾燥マイクロカプセル129重量部と、アクリル系樹脂を10重量%含有するトルエン溶液500重量部とを混合することにより塗膜形成用樹脂組成物を得た。得られた塗膜形成用樹脂組成物を、基材としてのPETシート上にグラビアコートを用いて15μm(固形分)の厚さに塗工した後、熱風ドライヤーにて120℃、1分間加熱乾燥を行うことにより、塗膜を形成した。
・・(中略)・・
【0085】
(比較例5)
(1)マイクロカプセルの調製
三官能以上の架橋性モノマーとしてトリメチロールプロパントリアクリレート0.003重量部と、重合性モノマーとしてアクリロニトリル90重量部及びメタクリロニトリル10重量部と、非重合性物質としてノルマルヘキサン200重量部と、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.3重量部とを混合、攪拌し、ノルマルヘキサン分散型の一次乳化液を調製した。
【0086】
その後、得られた一次乳化液を、分散剤としてのポリビニルアルコール(PVA)を1重量%、水溶性重合禁止剤としての亜硝酸ナトリウムを0.02重量%含有するイオン交換水溶液455重量部に加え、攪拌分散装置を用いて攪拌することにより、水媒体中にノルマルヘキサンを内包する油滴が分散された複合エマルジョンからなる二次乳化液を得た。
【0087】
攪拌機、ジャケット、還流冷却機及び温度計を備えた20L容の重合器を用い、重合器内を減圧して容器内の脱酸素を行った後、窒素置換して重合器内部を窒素雰囲気とした。その後、二次乳化液を一括投入し、重合器を60℃まで昇温して重合を開始させた。8時間重合した後、重合器を室温まで冷却して、溶剤内包マイクロカプセルを含有するスラリーを得た。得られたスラリーの溶媒を、遠心分離機を用いてイソプロパノール(IPA)に置換し、溶剤内包マイクロカプセルのイソプロパノール(IPA)分散スラリーを得た。
【0088】
(2)塗工サンプルの作製
得られた溶剤内包マイクロカプセル含有スラリー200重量部(マイクロカプセル150重量部、固形分68重量部)と、アクリル系樹脂を10重量%含有するトルエン溶液500重量部とを混合することにより塗膜形成用樹脂組成物を得た。得られたマイクロカプセル組成物を、基材としてのPETシート上にグラビアコートを用いて15μm(固形分)の厚さに塗工した後、熱風ドライヤーにて120℃、1分間加熱乾燥を行うことにより、塗膜を形成した。
【0089】
(比較例6)
(1)マイクロカプセルの調製
三官能以上の架橋性モノマーとしてペンタエリスリトールテトラアクリレート20重量部及びトリメチロールプロパントリアクリレート10重量部と、重合性モノマーとしてメタクリル酸メチル60重量部及びポリプロピレングリコールジメタクリレート(ポリオキシプロピレンユニット数=約7、日油社製「ブレンマーPDP-400」)10重量部と、非重合性物質としてシクロヘキサン400重量部と、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.3重量部とを混合、攪拌し、シクロヘキサン分散型の一次乳化液を調製した。
【0090】
その後、得られた一次乳化液を、分散剤としてのポリビニルアルコール(PVA)を1重量%、水溶性重合禁止剤としての亜硝酸ナトリウムを0.02重量%含有するイオン交換水溶液455重量部に加え、攪拌分散装置を用いて攪拌することにより、水媒体中にシクロヘキサンを内包する油滴が分散された複合エマルジョンからなる二次乳化液を得た。
【0091】
攪拌機、ジャケット、還流冷却機及び温度計を備えた20L容の重合器を用い、重合器内を減圧して容器内の脱酸素を行った後、窒素置換して重合器内部を窒素雰囲気とした。その後、二次乳化液を一括投入し、重合器を60℃まで昇温して重合を開始させた。8時間重合した後、重合器を室温まで冷却して、溶剤内包マイクロカプセルを含有するスラリーを得た。得られた溶剤内包マイクロカプセルを含有するスラリーを、噴霧乾燥機を用いて乾燥することにより、粉体状の乾燥マイクロカプセルを得た。
【0092】
(2)塗工サンプルの作製
得られた乾燥マイクロカプセル67重量部と、アクリル系樹脂を10重量%含有するトルエン溶液500重量部とを混合することにより塗膜形成用樹脂組成物を得た。得られた塗膜形成用樹脂組成物を、基材としてのPETシート上にグラビアコートを用いて15μm(固形分)の厚さに塗工した後、熱風ドライヤーにて120℃、1分間加熱乾燥を行うことにより、塗膜を形成した。
・・(中略)・・
【0097】
(評価)
(1)内孔構造状態の観察
各実施例及び比較例で得られたマイクロカプセルのコア剤を除去した後、エポキシ樹脂に包埋して切削し、その断面を走査型電子顕微鏡により観察した。
・・(中略)・・
【0100】
(4)空隙率
各実施例及び比較例のマイクロカプセルを透過型電子顕微鏡で写真撮影し、得られた写真から350個分の写真を無作為に抽出し、粒子内孔径を測定し、その数平均を求めた。
そして、得られたマイクロカプセルを真球と仮定して、平均粒子径(外径)及び平均内孔径からそれぞれ体積を求めた後、{(空孔の体積/マイクロカプセルの体積)×100}を算出することにより、空隙率を求めた。
・・(中略)・・
【0105】
【表1】




イ.甲1に記載された発明
甲1には、上記(a1)ないし(a9)の記載事項(特に、摘示(a1)、摘示(a4)、摘示(a7)及び摘示(a9)の下線部の記載事項)からみて、
「平均粒子径が1?20μm、アスペクト比が1?1.1である単孔構造を有するシェルに、重合反応によって重合せず、かつ、加熱等により容易に蒸散させることができる非重合性物質であるコア剤が50重量%以上内包された空隙率50?95体積%であるマイクロカプセルを製造する方法であって、
非重合性物質を内包するモノマー溶液からなる液滴が分散した乳化液を調製する工程及び前記モノマー溶液中のモノマーを重合させる工程を有し、前記モノマー溶液は、全モノマー成分に対して、三官能以上の架橋性モノマーを55?90重量%含有することを特徴とするマイクロカプセルの製造方法。」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明

ア.甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

(b1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 シェル及び中空部からなる中空高分子微粒子であって、シェルが少なくとも1種の架橋性モノマーの重合体もしくは共重合体、又は、少なくとも1種の架橋性モノマーと少なくとも1種の単官能性モノマーとの共重合体からなる単層構造を有することを特徴とする中空高分子微粒子。
【請求項2】 分散安定剤(A)の水溶液中で、(i)少なくとも1種の架橋性モノマー(B)、又は、少なくとも1種の架橋性モノマー(B)と少なくとも1種の単官能性モノマー(B)との混合物、(ii)開始剤(C)及び(iii)少なくとも1種の架橋性モノマー(B)から得られる重合体もしくは共重合体又は少なくとも1種の架橋性モノマー(B)と少なくとも1種の単官能性モノマー(B)との共重合体に対して相溶性の低い水難溶性の溶媒(D)からなる混合物を分散させ、懸濁重合を行うことを特徴とする請求項1に記載の中空高分子微粒子の製造方法。」

(b2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、中空高分子微粒子、より詳しくは、シェルが架橋され、空隙率が大きい中空高分子微粒子、及びその製法に関するものである。」

(b3)
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記特開平6-248012号に記載の方法では、上記のように、中心層重合体を形成する工程、中間層重合体を形成する工程、表面層重合体を形成する工程の少なくとも3工程を要して少なくとも3層構造の重合体粒子を含有するラテックスを調製し、更に該ラテックスを、塩基処理する工程及び酸処理する工程を行うという煩雑で多数の工程を必要とする点において、尚改良の余地が大きい。また、この方法により製造される微粒子は、該公報の実施例では殻厚30?45nmの3層構造の殻を有する中空粒子を得ているが、元来、少なくとも3層以上の積層構造を有する重合体粒子をまず調製しなければならないという問題点がある。
【0009】一方、上記特開平8-20604号に記載の方法においても、前記親水性有機溶媒(f)に前記(a)?(e)を分散させて分散系を調製する工程、動的膨潤法による種重合体粒子(b)を膨潤させる工程、及び引き続くシード重合工程の3工程を必要とし、しかも、前記種重合体粒子(b)をはじめとする各種の原料や溶媒を必要とする点で尚改良の余地がある。
【0010】特に、種重合体粒子(b)の使用は必須であり、例えば、コロイド・アンド・ポリマー・サイエンス(Colloid & Polymer Science)第276巻第7号(1998)第638?642頁の例えば第638頁のアブストラクト欄には、上記動的膨潤法を用いる場合、種重合体(b)(ポリスチレン)が存在しないと、中空高分子微粒子が製造できない旨記載されている。
【0011】また、上記特開平8-20604号の方法により得られる中空高分子微粒子は、そのシェルが、上記単量体(a)の重合皮膜と該皮膜の内側に形成された種重合体(b)由来の皮膜との2層構造となっているので、合成行程も煩雑である。特に、合成は、種重合体の合成を予め行った後、モノマーと混合した後分散させ、重合を行うという段階を経なければならない。
【0012】また、中空高分子微粒子は、空隙率が高いことが望まれる場合がある。
【0013】従って、本発明の目的は、シェルが単層構造であって、空隙率の大きい中空高分子微粒子を提供することにある。
【0014】また、本発明の他の目的は、かかる中空高分子微粒子を、短い工程で且つ簡便な方法により製造し得る方法を提供することにある。」

(b4)
「【0017】本発明は、これら知見に基づき、更に検討を加えて完成されたものであって、次の発明を提供するものである。
【0018】項1 シェル及び中空部からなる中空高分子微粒子であって、シェルが少なくとも1種の架橋性モノマーの重合体若しくは共重合体、又は、少なくとも1種の架橋性モノマーと少なくとも1種の単官能性モノマーとの共重合体からなる単層構造を有することを特徴とする中空高分子微粒子。
【0019】項2 シェルの厚さが0.01?4μm、空隙率が50?80%であり、平均粒子径が0.1?30μmである上記項1に記載の中空高分子微粒子。
【0020】項3 シェルが、少なくとも1種の架橋性モノマー10?100重量%と単官能性モノマー90?0重量%との重合体又は共重合体からなる上記項1又は2に記載の中空高分子微粒子。
【0021】項4 シェルが、少なくとも1種の架橋性モノマーの重合体若しくは共重合体からなる上記項1?3のいずれかに記載の中空高分子微粒子。
【0022】項5 架橋性モノマーが、重合性2重結合を2個以上有する多官能性モノマーの少なくとも1種(特に、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート及びテトラエチレングリコールジメタクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種)であり、単官能性モノマーが、モノビニル芳香族単量体、アクリル系単量体、ビニルエステル系単量体、ビニルエーテル系単量体、モノオレフィン系単量体、ハロゲン化オレフィン系単量体及びジオレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記項1?3のいずれかに記載の中空高分子微粒子。
【0023】項6 分散安定剤(A)の水溶液中で、(i)少なくとも1種の架橋性モノマー(B)、又は、少なくとも1種の架橋性モノマー(B)と少なくとも1種の単官能性モノマー(B)との混合物、(ii)開始剤(C)及び(iii)少なくとも1種の架橋性モノマー(B)の重合体若しくは共重合体、又は、少なくとも1種の架橋性モノマー(B)と少なくとも1種の単官能性モノマー(B)との共重合体に対して相溶性の低い水難溶性の溶媒(D)からなる混合物を分散させ、懸濁重合を行うことを特徴とする上記項1に記載の中空高分子微粒子の製造方法。
【0024】項7 溶媒(D)が、少なくとも1種の架橋性モノマー(B)の重合体若しくは共重合体又は少なくとも1種の架橋性モノマー(B)と少なくとも1種の単官能性モノマー(B)との共重合体に対して相溶性が低い性質を有し、かつ、溶媒(D)と水間の界面張力(γ^(X))と、架橋性モノマー(B)を溶媒(D)に溶解してなる溶液又は架橋性モノマー(B)と単官能性モノマー(B)との混合物を溶媒(D)に溶解してなる溶液を懸濁重合に供して得られるポリマー吸着表面と水間の界面張力(γ^(P))(mN/m)との関係において、γ^(X)≧γ^(P)のような条件が成立する溶媒である上記項6に記載の製造方法。
【0025】項8 分散安定剤(A)が、高分子分散安定剤(特に、ポリビニルアルコール)であり、架橋性モノマー(B)が、重合性2重結合を2個以上有する多官能性モノマーの少なくとも1種(特に、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート及びテトラエチレングリコールジメタクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種)であり、単官能性モノマー(B)が、モノビニル芳香族単量体、アクリル系単量体、ビニルエステル系単量体、ビニルエーテル系単量体、モノオレフィン系単量体、ハロゲン化オレフィン系単量体及びジオレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、開始剤(C)が、単量体に可溶なものであって、アゾビスイソブチロニトリル、クメンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等から選ばれる少なくとも1種の開始剤であるか、または、光重合開始剤であり、溶媒(D)が、炭素数8?18(特に12?18)の飽和炭化水素であることを特徴とする上記項6又は7に記載の製造方法。」

(b5)
「【0031】架橋性モノマー(B)及び単官能性モノマー(B)
架橋性モノマー(B)としては、重合性反応基、特に重合性2重結合を2個以上(特に、2?4個)有する多官能性モノマーが例示でき、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレートが挙げられる。これらは単独であるいは2種以上を混合して使用できる。
【0032】また、架橋性モノマー(B)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、重合性反応基を1個有する単官能性モノマー(B)と併用してもよい。かかる単官能性モノマー(B)としては、例えば、モノビニル芳香族単量体、アクリル系単量体、ビニルエステル系単量体、ビニルエーテル系単量体、モノオレフィン系単量体、ハロゲン化オレフィン系単量体、ジオレフィン等が挙げられる。これらは単独であるいは2種以上を混合して使用できる。」

(b6)
「【0058】溶媒(D)
本発明で使用する溶媒(D)は、上記架橋性モノマー(B)又は架橋性モノマー(B)と単官能性モノマー(B)との混合物、及び重合開始剤(C)を溶解するが、少なくとも1種の架橋性モノマー(B)から得られる重合体若しくは共重合体又は少なくとも1種の架橋性モノマー(B)と少なくとも1種の単官能性モノマー(B)との共重合体に対する相溶性が低く、これら重合体又は共重合体の相分離を促進し、且つ、架橋性モノマー(B)の重合被膜又は架橋性モノマー(B)と単官能性モノマー(B)との混合物の重合皮膜の形成を妨げないものであれば、各種の有機溶媒が使用できる。
【0059】上記溶媒(D)としては、例えば、炭素数8?18、特に炭素数12?18の飽和炭化水素類等が例示できる。特に好ましい溶媒(D)としては、ヘキサデカンが挙げられる。
【0060】本発明では、上記溶媒(D)としては、上記炭化水素類に限定されず、少なくとも1種の架橋性モノマー(B)の重合体若しくは共重合体又は少なくとも1種の架橋性モノマー(B)と少なくとも1種の単官能性モノマー(B)との共重合体に対して相溶性が低い性質を有し、かつ、溶媒(D)と水間の界面張力(γ^(X))と、本発明製造方法の条件下で架橋性モノマー(B)を溶媒(D)に溶解してなる溶液又は架橋性モノマー(B)と単官能性モノマー(B)との混合物を溶媒(D)に溶解してなる溶液を懸濁重合に供して得られるポリマー吸着表面と水間の界面張力(γ^(P))(mN/m)との関係において、γ^(X)≧γ^(P)のような条件が成立する溶媒が広く使用できる。
【0061】上記溶媒(D)の使用量は、広い範囲から適宜選択できるが、一般には、モノマー(即ち、架橋性モノマー(B)、又は架橋性モノマー(B)と単官能性モノマー(B)との混合物)1重量部に対して、1?5重量部、特に1?2重量部とするのが好ましい。」

(b7)
「【0070】懸濁重合
こうして得られた架橋性モノマー(B)(又は架橋性モノマー(B)と前記単官能性モノマー(B)との混合物)、開始剤(C)及び前記溶媒(D)の均一混合物が分散された分散安定剤(A)の水溶液を、懸濁重合に供するには、該水溶液を撹拌しながら加熱すればよい。
【0071】加熱温度としては、架橋性モノマー(B)(又は架橋性モノマー(B)と前記単官能性モノマー(B)との混合物)、開始剤(C)及び前記溶媒(D)の均一混合物の液滴中で、架橋性モノマー(B)(又は架橋性モノマー(B)と前記単官能性モノマー(B)との混合物)が開始剤(C)により重合開始されるに足りる温度であれば特に限定されないが、一般には、30?90℃、特に50?70℃が好ましい。
・・(中略)・・
【0074】こうして懸濁重合を行うことにより、架橋性モノマー(B)(又は架橋性モノマー(B)と前記単官能性モノマー(B)との混合物)、開始剤(C)及び前記溶媒(D)の均一混合物の液滴中で、架橋性モノマー(B)(又は架橋性モノマー(B)と前記単官能性モノマー(B)との混合物)が重合する。得られた架橋性モノマー(B)(又は架橋性モノマー(B)と前記単官能性モノマー(B)との混合物)の重合体は、溶媒(D)の存在により、相分離が促進され、その結果、単層構造のシェル、即ち、架橋性モノマー(B)の重合体(又は架橋性モノマー(B)と前記単官能性モノマー(B)との共重合体)のみからなるシェルが形成される。一方、コア部には、溶媒(D)が内包された状態となる。
【0075】このようにして得られた中空高分子微粒子は、分散液(サスペンジョン)のままで使用してもよく、また、濾過し必要に応じて水洗した後、粉体の形態で、各種用途に供することができる。さらに、サスペンジョンや粉体の形態の中空重合体粒子を、温度20?300℃、圧力1?100000Pa程度の条件下で乾燥する方法、自然蒸発、減圧処理等により、中空部に存在する溶媒(D)を除去した形態で各種用途に供することもできる。
【0076】なお、本発明において、中空高分子微粒子の中空とは、中空部に空気が存在する場合だけでなく、上記溶媒(D)等が中空部に存在している場合も含む趣旨である。これは、中空部に溶媒等が存在しても、ポリマーピグメントとしての隠蔽性付与効果や光沢性付与効果を有するからである。」

(b8)
「【0077】本発明の中空高分子微粒子
本発明の方法により得られる中空高分子微粒子は、既述のように、そのシェルが、実質上架橋性モノマー(B)の重合体(又は架橋性モノマー(B)と前記単官能性モノマー(B)との共重合体)からなる単層構造であり、この点において、前記従来法により得られる3層構造又は2層構造の中空高分子微粒子とは大きく異なっている。
【0078】シェルを構成するポリマーは、上記少なくとも1種の架橋性モノマー(B)10?100重量%、特に30?100重量%及び上記少なくとも1種の単官能性モノマー(B)90?0重量%、特に70?0重量%からなる重合体又は共重合体であるのが好ましい。また、シェルを構成するポリマーは、上記少なくとも1種の架橋性モノマー(B)の重合体若しくは共重合体であってもよい。
【0079】本発明では、架橋性モノマー(B)の使用量等にもよるが、一般にシェルが強固で、空隙率が大きいという特徴を有する。典型的には、本発明の中空高分子微粒子のシェルの厚さは、0.01?4μm、特に0.05?1μmである。また、空隙率は、50?80%、特に60?70%である。
【0080】ここで、本明細書において、「空隙率」は、下記の式に従い算出されるものである。
【0081】空隙率(%)=(r_(h)/r_(p))^(3)×100
(式中、r_(h)は、中空粒子の半径(シェルの外径の1/2)であり、r_(p)は、中空部分の半径(シェルの内径の1/2)である。)
また、本発明の中空高分子微粒子の粒子径は、前記液滴の大きさを変化させることにより調節することが出来るが、一般には、本発明の中空高分子微粒子の平均粒子径は、0.1?30μm、特に0.5?10μmの範囲にあるのが好ましい。この場合の中空高分子微粒子の粒子径は、電子顕微鏡あるいは光学顕微鏡により測定した場合の粒子径である。
【0082】また、既述のように、前記懸濁重合の前に粒子径の揃った単分散の液滴を調整すると、得られる本発明の中空高分子微粒子も粒子径の揃った単分散となる。
【0083】
【発明の効果】本発明の中空高分子微粒子は、有機白色顔料として、或いは紙の塗工剤中に添加するポリマーピグメントとして、或いはマイクロカプセル担体として使用できる。
【0084】特に、本発明の中空高分子微粒子は、粒径が大きくかつ空隙率が大きいため、その中空部に多くの空気を含有することができ、この結果、断熱性や遮音性等の特性を付与することも可能となる。
【0085】さらに、本発明により得られる中空重合体粒子は、空隙率が大きくその皮膜が薄いため、低分子量物質を粒子内部から外部へ拡散させる機能も有する。したがって、この発明により得られる中空重合体粒子は、ドラッグデリバリーシステムや、香料等を封入したマイクロカプセルとして使用することも可能である。
【0086】また、本発明の製法は、アルカリ処理等を必要としないため、得られる中空重合体粒子は、耐アルカリ性等の特性も優れている。
【0087】更に、本発明の中空重合体粒子の製法は、特殊な設備や装置を必要とせず、低コストで簡単に行うことができ、高性能の中空高分子粒子を簡便に提供することが可能となる。」

(b9)
「【0088】
【実施例】つぎに、実施例及び比較例を掲げて本発明をより詳しく説明する。これら実施例は本発明の理解を容易にするためのものであって、本発明を限定するものではなく、種々の変更が可能である。
【0089】実施例1
(a)分散安定剤(A)としてポリビニルアルコール(重合度1700,ケン化度88%)50mgを水に溶解させて得た水溶液15gに、架橋性モノマー(B)としてジビニルベンゼン250mg、開始剤(C)として過酸化ベンゾイル5mg、溶媒(D)としてヘキサデカン250mgを均一混合してなる溶液を懸濁させた。
【0090】懸濁の方法は、装置としてホモジナイザーを用い、攪拌速度1000rpm、室温下の条件下で行った。得られた懸濁液の液滴は、平均粒子径が10μm程度のものであった。
【0091】(b)次いで、懸濁液を窒素ガス雰囲気下で、撹拌しながら70℃で加熱し、24時間懸濁重合させた。
【0092】得られた分散液を顕微鏡観察したところ、平均粒子径約10μmの真球状の中空高分子微粒子が得られていた。コア部には、ヘキサデカンが内包されていた。シェルの厚さは、約1μmであり、空隙率は約60%であった。こうして得られた中空高分子微粒子の顕微鏡写真を図1に示す。
【0093】(c)上記で得られた分散液を濾紙を用いて濾過し、中空高分子微粒子を単離し、温度約70℃、圧力約100000Pa(大気圧下)の条件下で乾燥することにより、コア部のヘキサデカンが蒸発し、内部に空気を内包した中空の高分子微粒子が得られた。
【0094】得られた中空高分子微粒子を顕微鏡観察したところ、平均粒子径約10μmの真球状の中空高分子微粒子が得られていた。コア部には、空気が内包されていた。シェルの厚さは、約1μmであった。空隙率は、約60%であった。
【0095】実施例2
(a)分散安定剤(A)としてポリビニルアルコール(重合度1700,ケン化度88%)50mgを水に溶解させて得た水溶液15gに、架橋性モノマー(B)と単官能性モノマー(B)との混合物として、ジビニルビフェニル51.7重量%、エチルビニルビフェニル23.6重量%、メチルビニルビフェニル6.2重量%、ビニルビフェニル5.8重量%及びその他非重合性成分(ジエチルビフェニル、エチルビフェニル等)12.7重量%からなる混合物250mg、開始剤(C)として過酸化ベンゾイル5mg、溶媒(D)としてヘキサデカン250mgを均一混合してなる溶液を懸濁させた。
【0096】懸濁の方法は、装置としてホモジナイザーを用い、攪拌速度1000rpm、室温下の条件下で行った。得られた懸濁液の液滴は、平均粒子径が10μm程度のものであった。
【0097】(b)次いで、懸濁液を窒素ガス雰囲気下で、撹拌しながら70℃で加熱し、24時間懸濁重合させた。
【0098】得られた分散液を顕微鏡観察したところ、平均粒子径約10μmの真球状の中空高分子微粒子が得られていた。コア部には、ヘキサデカンが内包されていた。シェルの厚さは、約1μmであり、空隙率は約60%であった。こうして得られた中空高分子微粒子の顕微鏡写真を図2に示す。
【0099】(c)上記で得られた分散液を濾紙を用いて濾過し、中空高分子微粒子を単離し、温度約70℃、圧力約100000Pa(大気圧下)の条件下で乾燥することにより、コア部のヘキサデカンが蒸発し、内部に空気を内包した中空の高分子微粒子が得られた。
【0100】得られた中空高分子微粒子を顕微鏡観察したところ、平均粒子径約10μmの真球状の中空高分子微粒子が得られていた。コア部には、空気が内包されていた。シェルの厚さは、約1μmであった。空隙率は、約60%であった。」

イ.甲2に記載された発明
甲2には、上記記載事項(特に摘示(b1)、摘示(b4)、摘示(b6)及び摘示(b7)の各下線部)からみて、
「分散安定剤(A)の水溶液中で、
(i)少なくとも1種の架橋性モノマー(B)、又は、少なくとも1種の架橋性モノマー(B)と少なくとも1種の単官能性モノマー(B)との混合物、
(ii)開始剤(C)及び
(iii)上記モノマー(混合物)1重量部に対して1?5重量部の上記モノマー(混合物)から得られる(共)重合体に対して相溶性の低い水難溶性の溶媒(D)
からなる混合物を分散させ、懸濁重合を行い、
生成した高分子微粒子から溶媒(D)を除去することを特徴とするシェルの厚さが0.01?4μm、空隙率が50?80%であり、平均粒子径が0.1?30μmである中空高分子微粒子の製造方法。」
に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

(3)甲3及び甲4の記載事項

ア.甲3の記載事項
甲3には、アクリル系成分を含む保護外壁形成材料、揮発性溶媒及び内包物を含むカプセル原料からマイクロカプセルを製造する方法であって、
前記カプセル原料を乳化させて乳化粒子を形成する工程、
前記乳化粒子のアクリル系成分を含む保護外壁形成材料を重合して超音波により破壊可能な保護外壁を有する粒子を形成する工程、及び
前記粒子を加熱して粒子内の揮発性溶媒を揮発させ、中空のマイクロカプセルを形成する工程を具備することを特徴とする気泡率50%以上のマイクロカプセルの製造方法が記載されており(【請求項8】及び【請求項11】)、上記揮発性溶媒として、トルエン等の溶媒を使用することも記載されている(【0031】)。

イ.甲4の記載事項
甲4には、非架橋ポリマーを含有する種粒子を、水を含有する分散媒中に分散させた種粒子分散液と、ラジカル重合性モノマーと、油溶性溶剤と、油溶性重合開始剤とを混合し、前記種粒子に前記ラジカル重合性モノマー、前記油溶性溶剤及び前記油溶性重合開始剤を吸収させて膨潤粒子液滴の分散液を調製する工程と、
前記膨潤粒子液滴中の上記ラジカル重合性モノマーを重合させる工程
とを有する平均外径0.1から100μmの単孔中空ポリマー微粒子の製造方法であって、
前記ラジカル重合性モノマーを重合して得られるポリマーのSP値(SPp)と前記油溶性溶剤のSP値(SPs)との関係が下記式(1)を満たすことを特徴とする単孔中空ポリマー微粒子の製造方法。
2.1≦SPp-SPs≦7.0 (1)
が記載されており(【請求項1】及び【0050】)、上記油溶性溶剤として、脂肪族炭化水素などがラジカル重合性モノマー100重量部に対して10?1000重量部の割合で使用されることも記載されている(【0034】?【0036】)。

2.本件発明についての対比・検討

(1)甲1発明に基づく検討

ア.対比
本件発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「非重合性物質を内包するモノマー溶液」及び「モノマー溶液は、全モノマー成分に対して、三官能以上の架橋性モノマーを55?90重量%含有する」は、当該「モノマー溶液」が、「非重合性物質」並びに「三官能以上の架橋性モノマー」及び他のモノマーを含有していることを意味するから、本件発明における「前記多官能性モノマーと、任意に単官能性モノマーと、非反応性溶媒とを含む混合溶液」に相当し、また、甲1発明における「非重合性物質を内包するモノマー溶液からなる液滴が分散した乳化液を調製する工程」及び「前記モノマー溶液中のモノマーを重合させる工程」は、それぞれ、本件発明における「混合溶液を水溶液に分散し」及び「前記多官能性モノマーと単官能性モノマーとを重合させ」に相当する。
また、甲1発明における「単孔構造を有するシェルに、・・非重合性物質であるコア剤が・・内包された・・マイクロカプセル」は、上記コア剤が、単孔構造を有する、すなわち、1つの中空部を有するシェルに内包されてマイクロカプセルを構成しているのであるから、本件発明における「シェルに囲われた1つの中空を持つ中空樹脂粒子」に相当し、甲1発明における「マイクロカプセルの製造方法」は、当該「マイクロカプセル」がシェルで囲まれた中空部を有する樹脂粒子である点で、本件発明における「中空樹脂粒子の製造方法」に相当する。
さらに、甲1発明における「非重合性物質であるコア剤が50重量%以上内包された」は、甲1発明の製造方法による全ての「マイクロカプセル」がそれぞれコア部とシェル部とのみからなるものであり、重合中の分散された前記モノマー溶液粒子中において非重合性物質であるコア剤が平均として50重量%以上含有されていない場合に、重合後のマイクロカプセル中に当該コア剤が50重量%以上内包されるものでないことが当業者に自明であるから、本件発明における「前記非反応性溶媒の使用量が、前記多官能性モノマーと単官能性モノマーとの混合物1重量部に対して、0.5?5重量部の範囲である」との間において「1重量部に対して、1?5重量部」の範囲で重複する。
そして、甲1発明における「空隙率50?95体積%であるマイクロカプセル」は、甲1における空隙率の算出式(摘示(a9)【0100】)に照らすと、本件発明における「シェルが、・・前記中空樹脂粒子の平均一次粒子径に対して、0.03?0.25の比の厚さを有する」との間で、「0.03?0.1」の範囲で重複する。
してみると、本件発明と甲1発明とは、
「シェルに囲われた1つの中空を持つ中空樹脂粒子であって、前記シェルが、前記中空樹脂粒子の平均一次粒子径に対して、0.03?0.1の比の厚さを有する中空樹脂粒子の製造方法であって、
前記多官能性モノマーと、任意に単官能性モノマーと、非反応性溶媒とを含む混合溶液を水溶液に分散し、次いで前記多官能性モノマーと単官能性モノマーとを重合させることにより中空樹脂粒子を得る方法であり、
前記非反応性溶媒の使用量が、前記多官能性モノマーと単官能性モノマーとの混合物1重量部に対して、1?5重量部の範囲である中空樹脂粒子の製造方法。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

相違点1:本件発明では「中空樹脂粒子が、350℃以上の熱分解開始温度を有し」ているのに対して、甲1発明では「マイクロカプセル」の熱分解開始温度につき特定されていない点
相違点2:本件発明では「シェルが・・10?50nmの範囲内の直径の微細貫通孔を有し」ているのに対して、甲1発明では「シェル」の微細貫通孔の有無及びその直径につき特定されていない点
相違点3:本件発明では「非反応性溶媒は、100gの水に溶解する量が0.1g以下である疎水性溶媒であ」るのに対して、甲1発明では「重合反応によって重合せず、かつ、加熱等により容易に蒸散させることができる非重合性物質であるコア剤」である点
相違点4:本件発明では「前記非反応性溶媒を除去する」のに対して、甲1発明では、「非重合性物質であるコア剤」の除去につき特定されていない点

イ.相違点に係る検討
事案に鑑み、上記相違点2につき検討すると、甲1には「本発明のマイクロカプセルを構成するシェルは、単孔構造を有する。上記単孔構造を有することにより、上記シェルの内部に形成された空隙は密閉性に優れたものとなり、各種用途に本発明のマイクロカプセルを用いる場合に、空隙内にバインダー成分や他の成分が侵入して、空孔の割合が低下するといった不具合を防止することができる。」(摘示(a5)【0030】)と記載されているとおり、甲1発明の方法によるマイクロカプセルは、密閉性に優れた緻密なシェルを有し、外部から成分が空隙内に(高速で)侵入できる例えば10nm以上の直径の貫通孔が存するものとは認められないから、別異の構造の中空樹脂粒子が生成する点において、上記相違点2は実質的な相違点である。
そして、甲2ないし甲4の各記載を検討しても、密閉性に優れた緻密なシェルを有するマイクロカプセルの製造に係る甲1発明において、生成するマイクロカプセルのシェルにつき貫通孔を生じさせるべき技術事項が開示されているものでもないから、甲1発明において、甲2ないし甲4に開示された事項を組み合わせて、上記相違点2に係る事項につき、当業者が適宜なし得ることということもできない。
なお、申立人は、本件特許異議申立書(第27頁ないし第28頁)において、本件特許に係る明細書の一部の記載に基づき、当該記載された技術事項を具備する「甲1発明は、本件特許発明1において10?50nmの範囲内の直径の微細貫通孔を有するシェルとする手段を備えている」ことにより、「甲1発明における乾燥マイクロカプセルのシェルは、10?50nmの範囲内の直径の微細貫通孔を有する」と結論づけている。
しかるに、甲1には、上記のとおり、甲1発明の方法によるマイクロカプセルは、密閉性に優れたものとなることが開示されているのであるから、甲1発明につき別途論証する場合を除き、当該技術事項を具備することによって上記微細貫通孔が生成するという技術常識が存するものではなく、直径10nm以上の微細貫通孔を生じるものとはいえないから、上記結論に至ることはできないものである。
してみると、申立人の上記主張は、当を得ないものであり、採用することができない。
以上のとおり、上記相違点2については、実質的な相違点であり、甲1発明について、たとえ、他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得ることということもできない。

ウ.小括
したがって、上記の他の相違点につき検討するまでもなく、本件発明は、甲1発明、すなわち、甲1に記載された発明であるということはできず、甲1に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)甲2発明に基づく検討

ア.対比
本件発明と甲2発明とを対比すると、甲2発明における
「(i)少なくとも1種の架橋性モノマー(B)、又は、少なくとも1種の架橋性モノマー(B)と少なくとも1種の単官能性モノマー(B)との混合物、
・・及び
(iii)・・水難溶性の溶媒(D)からなる混合物」
は、当該「溶媒(D)」が後に除去される非重合性のものであることが明らかであるから、本件発明における「前記多官能性モノマーと、任意に単官能性モノマーと、非反応性溶媒とを含む混合溶液」に相当し、また、甲2発明における「分散安定剤(A)の水溶液中で、(i)・・、(ii)開始剤(C)及び(iii)・・水難溶性の溶媒(D)からなる混合物を分散させ、」、「懸濁重合を行い、」及び「生成した高分子微粒子から溶媒(D)を除去する」は、それぞれ、本件発明における「混合溶液を水溶液に分散し」、「前記多官能性モノマーと単官能性モノマーとを重合させ」及び「前記非反応性溶媒を除去する」に相当する。
また、甲2発明における「シェルの厚さが・・、空隙率が・・であり、平均粒子径が・・である中空高分子微粒子」は、上記「シェル」により囲われた中空部を有する中空高分子粒子であるから、本件発明における「シェルに囲われた1つの中空を持つ中空樹脂粒子」に相当し、甲2発明における「中空高分子粒子の製造方法」は、本件発明における「中空樹脂粒子の製造方法」に相当する。
さらに、甲2発明における「上記モノマー(混合物)1重量部に対して1?5重量部の・・水難溶性の溶媒(D)」は、本件発明における「前記非反応性溶媒の使用量が、前記多官能性モノマーと単官能性モノマーとの混合物1重量部に対して、0.5?5重量部の範囲である」との間において「1重量部に対して、1?5重量部」の範囲で重複する。
そして、甲2発明における「シェルの厚さが0.01?4μm、空隙率が50?80%であり、平均粒子径が0.1?30μmである中空高分子微粒子」は、甲2における空隙率の算出式(摘示(b8)【0081】)に照らすと、本件発明における「シェルが、・・前記中空樹脂粒子の平均一次粒子径に対して、0.03?0.25の比の厚さを有する」との間で、「0.04?0.1」の範囲で重複する。
してみると、本件発明と甲2発明とは、
「シェルに囲われた1つの中空を持つ中空樹脂粒子であって、前記シェルが、前記中空樹脂粒子の平均一次粒子径に対して、0.04?0.1の比の厚さを有する中空樹脂粒子の製造方法であって、
前記多官能性モノマーと、任意に単官能性モノマーと、非反応性溶媒とを含む混合溶液を水溶液に分散し、次いで前記多官能性モノマーと単官能性モノマーとを重合させ、
前記非反応性溶媒を除去することにより中空樹脂粒子を得る方法であり、
前記非反応性溶媒の使用量が、前記多官能性モノマーと単官能性モノマーとの混合物1重量部に対して、1?5重量部の範囲である
ことを特徴とする中空樹脂粒子の製造方法。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

相違点1’:本件発明では「中空樹脂粒子が、350℃以上の熱分解開始温度を有し」ているのに対して、甲2発明では「中空高分子粒子」の熱分解開始温度につき特定されていない点
相違点2’:本件発明では「シェルが・・10?50nmの範囲内の直径の微細貫通孔を有し」ているのに対して、甲2発明では「シェル」の微細貫通孔の有無及びその直径につき特定されていない点
相違点3’:本件発明では「非反応性溶媒は、100gの水に溶解する量が0.1g以下である疎水性溶媒であ」るのに対して、甲2発明では「上記モノマー(混合物)から得られる(共)重合体に対して相溶性の低い水難溶性の溶媒(D)」である点

イ.相違点に係る検討
事案に鑑み、上記相違点2’につき検討すると、甲2には「特に、本発明の中空高分子微粒子は、粒径が大きくかつ空隙率が大きいため、その中空部に多くの空気を含有することができ、この結果、断熱性や遮音性等の特性を付与することも可能となる。」「さらに、本発明により得られる中空重合体粒子は、空隙率が大きくその皮膜が薄いため、低分子量物質を粒子内部から外部へ拡散させる機能も有する。したがって、この発明により得られる中空重合体粒子は、ドラッグデリバリーシステムや、香料等を封入したマイクロカプセルとして使用することも可能である。」(摘示(b8)【0084】?【0085】)と記載されているところ、仮に、甲2発明の方法による中空高分子粒子がシェルに貫通孔を有するのであれば、皮膜(シェル)の厚さの大小にかかわらず、低分子量物質を粒子内部から外部へ拡散させる機能を有するものと認められるから、「空隙率が大きくその皮膜が薄いため」に当該拡散機能を有するとされている甲2発明による「中空高分子粒子」は、シェルに貫通孔を有しないものと理解するのが自然である。
してみると、本件発明と甲2発明との間で、別異の構造の中空樹脂粒子が生成する点において、上記相違点2’は実質的な相違点である。
そして、甲1、甲3及び甲4の各記載を検討しても、シェルに貫通孔を有しない中空高分子粒子の製造に係る甲2発明において、生成するマイクロカプセルのシェルにつき貫通孔を生じさせるべき技術事項が開示されているものでもないから、甲2発明において、甲1、甲3又は甲4に開示された事項を組み合わせて、上記相違点2’に係る事項につき、当業者が適宜なし得ることということもできない。
以上のとおり、上記相違点2’については、実質的な相違点であり、甲2発明について、たとえ、他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得ることということもできない。

ウ.小括
したがって、上記の他の相違点につき検討するまでもなく、本件発明は、甲2発明、すなわち、甲2に記載された発明であるということはできず、甲2に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3)請求項1に係る発明についての検討のまとめ
以上のとおり、本件発明、すなわち、本件の請求項1に係る発明につき、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明であるということはできず、また、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明に基づいて、他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

3.他の請求項に係る発明について
本件特許の請求項2ないし4に係る発明は、いずれも請求項1に係る本件発明を引用しているものであるところ、上記2.でそれぞれ説示したとおりの理由により、本件発明は、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明であるということはできず、また、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明に基づいて、他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、本件特許の請求項2ないし4に係る発明についても、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明であるということはできず、また、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明に基づいて、他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

4.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、いずれも、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明であるということはできず、また、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明に基づいて、他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない甲1ないし甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。
よって、本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものということはできないから、上記取消理由は理由がなく、本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許は、取り消すことができない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許に係る異議の申立てにおいて特許異議申立人が主張する取消理由は理由がなく、本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件の請求項1ないし4に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-10-30 
出願番号 特願2015-72477(P2015-72477)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡辺 陽子  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 大▲わき▼ 弘子
橋本 栄和
登録日 2019-01-11 
登録番号 特許第6460884号(P6460884)
権利者 積水化成品工業株式会社
発明の名称 中空樹脂粒子の製造方法  
代理人 野河 信太郎  
代理人 金子 裕輔  
代理人 稲本 潔  
代理人 甲斐 伸二  

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