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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C23C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C23C
管理番号 1356852
異議申立番号 異議2019-700155  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-27 
確定日 2019-11-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6383510号発明「FePt-C系スパッタリングターゲット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6383510号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6383510号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)3月2日(優先権主張 平成28年3月7日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成30年8月10日にその特許権の設定登録がされ、平成30年8月29日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、その全請求項に係る特許に対し、平成31年2月27日付けで特許業務法人藤央特許事務所(以下、「申立人」という。)により、甲第1?3号証(以下、それぞれ「甲1」?「甲3」という。)を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、平成31年4月25日付けで取消理由が通知され、特許権者より、令和元年7月3日付けで意見書(以下、「意見書」という。)の提出がされ、令和元年7月10日付けで申立人に対し審尋がされ、申立人より、令和元年8月2日付けで回答書(以下、「回答書」という。)の提出がされたものである。

(証拠方法)
甲1:国際公開2014/175392号
甲2:国際公開2014/132746号
甲3:特開2012-102387号公報


第2 本件特許発明
特許第6383510号の請求項1ないし10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明10」といい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
Fe、PtおよびCを含有するFePt-C系スパッタリングターゲットであって、
Ptを33mol%以上60mol%以下含有して残部が実質的にFeからなるFePt系合金相中に、実質的にCからなるC相が分散した構造を有し、
当該FePt-C系スパッタリングターゲットの厚さ方向の断面を121μm×97μmの範囲の視野について1000倍の倍率で10箇所撮影して得た10個の画像それぞれにおいて、C相の内接円の直径が大きい方から5番目までのその5つの直径の平均値をC相の大きさ指数aとするとともに、直径が大きい方から5番目までのC相の内接円の中心からそのC相の界面までを結ぶ直線の最大長さLを当該内接円の半径Rで除した値L/Rを、直径が大きい方から5番目までのC相それぞれについて求め、求めた5つの値の平均値をC相の非球形指数bとするとき、前記10個の画像それぞれにおいて求めた前記C相の大きさ指数aの平均値が4.0μm以上9.0μm以下であり、かつ、前記10個の画像それぞれにおいて求めた前記C相の非球形指数bの平均値が3.0以上であることを特徴とするFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項2】
Fe、PtおよびCを含有し、さらにFe、Pt以外の1種以上の元素を含有するFePt-C系スパッタリングターゲットであって、
Ptを33mol%以上60mol%未満、Fe、Pt以外の前記1種以上の元素を0mol%よりも多く20mol%以下含有し、かつ、Ptと前記1種以上の元素の合計が60mol%以下であり、残部が実質的にFeからなるFePt系合金相中に、実質的にCからなるC相が分散した構造を有し、
当該FePt-C系スパッタリングターゲットの厚さ方向の断面を121μm×97μmの範囲の視野について1000倍の倍率で10箇所撮影して得た10個の画像それぞれにおいて、C相の内接円の直径が大きい方から5番目までのその5つの直径の平均値をC相の大きさ指数aとするとともに、直径が大きい方から5番目までのC相の内接円の中心からそのC相の界面までを結ぶ直線の最大長さLを当該内接円の半径Rで除した値L/Rを、直径が大きい方から5番目までのC相それぞれについて求め、求めた5つの値の平均値をC相の非球形指数bとするとき、前記10個の画像それぞれにおいて求めた前記C相の大きさ指数aの平均値が4.0μm以上9.0μm以下であり、かつ、前記10個の画像それぞれにおいて求めた前記C相の非球形指数bの平均値が3.0以上であることを特徴とするFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項3】
Fe、Pt以外の前記1種以上の元素は、Cu、Ag、Rh、Au、Mn、Ni、Co、Pd、Cr、V、Bのうちの1種以上であることを特徴とする請求項2に記載のFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記C相に含まれるCのターゲット全体に対する含有割合が10mol%以上60mol%以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項5】
Fe、Pt、Cおよび酸化物を含有するFePt-C系スパッタリングターゲットであって、
Ptを33mol%以上60mol%以下含有して残部が実質的にFeからなるFePt系合金相中に、実質的にCからなるC相および実質的に酸化物からなる酸化物相が分散した構造を有し、
当該FePt-C系スパッタリングターゲットの厚さ方向の断面を121μm×97μmの範囲の視野について1000倍の倍率で10箇所撮影して得た10個の画像それぞれにおいて、C相の内接円の直径が大きい方から5番目までのその5つの直径の平均値をC相の大きさ指数aとするとともに、直径が大きい方から5番目までのC相の内接円の中心からそのC相の界面までを結ぶ直線の最大長さLを当該内接円の半径Rで除した値L/Rを、直径が大きい方から5番目までのC相それぞれについて求め、求めた5つの値の平均値をC相の非球形指数bとするとき、前記10個の画像それぞれにおいて求めた前記C相の大きさ指数aの平均値が4.0μm以上9.0μm以下であり、かつ、前記10個の画像それぞれにおいて求めた前記C相の非球形指数bの平均値が3.0以上であることを特徴とするFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項6】
Fe、Pt、Cおよび酸化物を含有し、さらにFe、Pt以外の1種以上の元素を含有するFePt-C系スパッタリングターゲットであって、
Ptを33mol%以上60mol%未満、Fe、Pt以外の前記1種以上の元素を0mol%よりも多く20mol%以下含有し、かつ、Ptと前記1種以上の元素の合計が60mol%以下であり、残部が実質的にFeからなるFePt系合金相中に、実質的にCからなるC相および実質的に酸化物からなる酸化物相が分散した構造を有し、
当該FePt-C系スパッタリングターゲットの厚さ方向の断面を121μm×97μmの範囲の視野について1000倍の倍率で10箇所撮影して得た10個の画像それぞれにおいて、C相の内接円の直径が大きい方から5番目までのその5つの直径の平均値をC相の大きさ指数aとするとともに、直径が大きい方から5番目までのC相の内接円の中心からそのC相の界面までを結ぶ直線の最大長さLを当該内接円の半径Rで除した値L/Rを、直径が大きい方から5番目までのC相それぞれについて求め、求めた5つの値の平均値をC相の非球形指数bとするとき、前記10個の画像それぞれにおいて求めた前記C相の大きさ指数aの平均値が4.0μm以上9.0μm以下であり、かつ、前記10個の画像それぞれにおいて求めた前記C相の非球形指数bの平均値が3.0以上であることを特徴とするFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項7】
Fe、Pt以外の前記1種以上の元素は、Cu、Ag、Rh、Au、Mn、Ni、Co、Pd、Cr、V、Bのうちの1種以上であることを特徴とする請求項6に記載のFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項8】
前記C相に含まれるCおよび前記酸化物相に含まれる酸化物の合計のターゲット全体に対する含有割合が10mol%以上60mol%以下であって、かつ、前記C相に含まれるCのターゲット全体に対する含有割合が5mol%以上50mol以下、前記酸化物相に含まれる酸化物の合計のターゲット全体に対する含有割合が1mol%以上25mol%以下であることを特徴とする請求項5?7のいずれかに記載のFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項9】
前記酸化物は、SiO_(2)、TiO_(2)、Ti_(2)O_(3)、Ta_(2)O_(5)、Cr_(2)O_(3)、CoO、Co_(3)O_(4)、B_(2)O_(3)、Fe_(2)O_(3)、Fe_(3)O_(4)、CuO、Cu_(2)O、Y_(2)O_(3)、MgO、Al_(2)O_(3)、ZrO_(2)、Nb_(2)O_(5)、MoO_(3)、CeO_(2)、Sm_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)、WO_(2)、WO_(3)、HfO_(2)、NiO_(2)のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項5?8のいずれかに記載のFePt-C系スパッタリングターゲット。
【請求項10】
相対密度が90%以上であることを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載のFePt-C系スパッタリングターゲット。」


第3 取消理由について

1.取消理由の概要
当審の通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

取消理由:本件発明1、4、10は、本件特許に係る国際出願(PCT/JP2017/008344)の国際段階手続における2017年11月1日付け答弁書(以下、「答弁書」という。)の記載からみて、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、本件発明1、4、10に係る特許は取り消すべきものである。

2.取消理由についての判断
(1)甲1の記載事項及び引用発明
甲1には、以下の事項が記載されている。

(ア)「[0009] 本発明は、高価な同時スパッタ装置を用いることなく、熱アシスト磁気記録メディアの磁性薄膜の作製を可能にする、C粒子が分散したFe-Pt系スパッタリングターゲット及びその製造に用いる炭素原料を提供することであり、さらには、スパッタリング時に発生するパーティクル量を低減したスパッタリングターゲットを提供することを課題とする。」

(イ)「[0015] 本発明では、Cの含有量は、スパッタリングターゲット組成中、好ましくは5mol%以上60mol%以下である。C粒子のターゲット組成中における含有量が、5mol%未満であると、良好な磁気特性が得られない場合があり、60mol%を超えると、C粒子を焼結体中に分散させることが難しくなりC粒子同士が凝集して、パーティクルの発生が多くなる場合がある。
[0016] また、本発明では、Ptの含有量は、Fe-Pt合金組成中、好ましくは5mol%以上60mol%以下である。Fe-Pt合金中におけるPtの含有量が、5mol%未満であると、良好な磁気特性が得られない場合があり、60mol%を超えても、同様に良好な磁気特性が得られない場合がある。」

(ウ)「[0023] 本発明のスパッタリングターゲットは、粉末焼結法によって作製する。…(略)…
[0026] 原料として用いるC粉末の粒度分布とターゲット中の炭素粒子の平均粒子面積とは相関関係がある…(略)…
[0028] 次に、上記の粉末を所望の組成となるように秤量し、C粉末を除く原料粉末をボールミル等の公知の手法を用いて粉砕を兼ねて混合する。こうして得られた混合粉末に先に秤量したC粉末を添加した後、分級して粒径の小さい粉末を分離除去する。
次に混合粉末をホットプレスで成型、焼結する。ホットプレス以外にも、プラズマ放電焼結法、熱間静水圧焼結法を使用することもできる。焼結時の温度は、スパッタリングターゲットの組成にもよるが、多くの場合、800?1400℃の温度範囲とする。
[0029] 次に、ホットプレスから取り出した焼結体に等方熱間加圧加工を施す。等方熱間加圧加工は焼結体の密度向上に有効である。等方熱間加圧加工時の保持温度は焼結体の組成にもよるが、多くの場合、800?1400℃の温度範囲である。また、加圧力は100MPa以上に設定する。このようにして得られた焼結体を旋盤で所望の形状に加工することにより、発明のスパッタリングターゲットは作製できる。」

(エ)「[0032](実施例1)
原料粉末として、平均粒径100μmのFe-Pt合金粉末と気流分級法により小径の粒子を分離した表1の粒度分布を備えるC粉末(薄片化黒鉛)を用意した。なお表1に示されるメジアン径、粒度分布等は、粒度分布計(型番:LA-920 HORIBA社製)によって測定した。そして、これらの粉末を以下の組成で、合計重量が2600gとなるように秤量した。
組成式:60(50Fe-50Pt)-40C(mol%)
…(略)…
[0034] 次に、Fe-Pt合金粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量5リットルのボールミルポットに封入し、4時間回転させて粉砕した。そして、ボールミルポットから取り出したFe-Pt合金粉末に上記で秤量したC粉末を混合した。その後、150μm目の篩を5回通して混合した。
[0035] 次に、この混合粉末をカーボン製の型に充填し、ホットプレスした。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度1200℃、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
[0036] 次に、ホットプレスの型から取り出した焼結体に熱間等方加圧加工(HIP)を施した。熱間等方加熱加工の条件は、昇温速度300℃/時間、保持温度1350℃、保持時間2時間とし、昇温開始時からArガスのガス圧を徐々に高めて、1350℃保持中は150MPaで加圧した。保持終了後は炉内でそのまま自然冷却させた。
[0037] 次に、得られた焼結体の端部を切り出し、断面を研磨して、その組織をレーザー顕微鏡で観察した。そしてターゲットのスパッタ面に対する垂直断面及び水平断面上の任意に選んだ3箇所で、550μm×700μmの視野サイズで組織画像を撮影した。その結果を図1(垂直断面)及び図2(水平断面)に示す。そして、撮影した画像を画像処理ソフトで2値化し、C粒子に相当する部分(組織画像の黒っぽいところ)の個数と面積及び周囲長を求めた。
[0038] 表2に示すように、C粒子1個当たりの平均粒子面積は、スパッタ面に対する垂直断面及び水平断面において、それぞれ65.1μm^(2)、90.0μm^(2)であった。また、C粒子1個当たりの粒子の周囲長さの平均値は、スパッタ面に対する垂直断面及び水平断面において、それぞれ38.9μm、31.5μmであった。」

(オ)「[0041](実施例2)
原料粉末として、平均粒径100μmのFe-Pt合金粉末と気流分級法により小径の粒子を分離した表1の粒度分布を備えるC粉末(薄片化黒鉛)を用意した。なお表1に示されるメジアン径、粒度分布等は、実施例1と同様の方法を用いて測定した。そして、これらの粉末を以下の組成で、合計重量が2600gとなるように秤量した。
組成式:60(50Fe-50Pt)-40C(mol%)
[0042] 次に、Fe-Pt合金粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量5リットルのボールミルポットに封入し、4時間回転させて粉砕した。そして、ボールミルポットから取り出したFe-Pt合金粉末に上記で秤量したC粉末を混合した。その後、150μm目の篩を5回通して混合した。
[0043] 次に、この混合粉末をカーボン製の型に充填し、ホットプレスした。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度1200℃、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
[0044] 次に、ホットプレスの型から取り出した焼結体に熱間等方加圧加工(HIP)を施した。熱間等方加熱加工の条件は、昇温速度300℃/時間、保持温度1350℃、保持時間2時間とし、昇温開始時からArガスのガス圧を徐々に高めて、1350℃保持中は150MPaで加圧した。保持終了後は炉内でそのまま自然冷却させた。
[0045] 次に、得られた焼結体の端部を切り出し、断面を研磨して、その組織をレーザー顕微鏡で観察した。そしてターゲットのスパッタ面に対する垂直断面及び水平断面上の任意に選んだ3箇所で、550μm×700μmの視野サイズで組織画像を撮影した。その結果を図3(垂直断面)及び図4(水平断面)に示す。そして、撮影した画像を画像処理ソフトで2値化し、C粒子に相当する部分(組織画像の黒っぽいところ)の個数と面積及び周囲長を求めた。
[0046]
表2に示すように、C粒子1個当たりの平均粒子面積は、スパッタ面に対する垂直断面及び水平断面において、それぞれ102.3μm^(2)、199.5μm^(2)であった。また、C粒子1個当たりの粒子の周囲長さの平均値は、スパッタ面に対する垂直断面及び水平断面において、それぞれ48.0μm、50.7μmであった。」

(カ)「[0048](比較例1)
原料粉末として、平均粒径100μmのFe-Pt合金粉末と表1の粒度分布を備えるC粉末(薄片化黒鉛)を用意した。なお、比較例1では、分級を行わなかった。そして、これらの粉末を以下の組成で、合計重量が2600gとなるように秤量した。
組成式:60(50Fe-50Pt)-40C(mol%)
[0049] 次に、Fe-Pt合金粉末を粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量5リットルのボールミルポットに封入し、4時間回転させて粉砕した。そして、ボールミルポットから取り出したFe-Pt合金粉末に上記で秤量したC粉末を混合した。その後、150μm目の篩を5回通して混合した。
[0050] 次に、この混合粉末をカーボン製の型に充填し、ホットプレスした。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300℃/時間、保持温度1200℃、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
[0051] 次に、ホットプレスの型から取り出した焼結体に熱間等方加圧加工(HIP)を施した。熱間等方加熱加工の条件は、昇温速度300℃/時間、保持温度1350℃、保持時間2時間とし、昇温開始時からArガスのガス圧を徐々に高めて、1350℃保持中は150MPaで加圧した。保持終了後は炉内でそのまま自然冷却させた。
[0052] 次に、得られた焼結体の端部を切り出し、断面を研磨して、その組織をレーザー顕微鏡で観察した。そしてターゲットのスパッタ面に対する垂直断面及び水平断面上の任意に選んだ3箇所で、550μm×700μmの視野サイズで組織画像を撮影した。その結果を図5(垂直断面)及び図6(水平断面)に示す。そして、撮影した画像を画像処理ソフトで2値化し、C粒子に相当する部分(組織画像の黒っぽいところ)の個数と面積及び周囲長を求めた。
[0053] 表2に示すように、C粒子1個当たりの平均粒子面積は、スパッタ面に対する垂直断面及び水平断面において、それぞれ46.3μm^(2)、232.8μm^(2)であった。また、C粒子1個当たりの粒子の周囲長さの平均値は、スパッタ面に対する垂直断面及び水平断面において、それぞれ31.3μm、58.6μmであった。」

(キ)「[0033][表1]




(ク)「[0039][表2]




(ケ)図面の簡単な説明及び図1、図3、図5
「図面の簡単な説明
[0013][図1]実施例1のスパッタリングターゲットのスパッタ面に対して垂直断面の組織画像である。
…(略)…
[図3]実施例2のスパッタリングターゲットのスパッタ面に対して垂直断面の組織画像である。
…(略)…
[図5]比較例1のスパッタリングターゲットのスパッタ面に対して垂直断面の組織画像である。」

「[図1]



「[図3]



「[図5]




上記(ア)、(イ)、(カ)、(ク)より、甲1には比較例1として次の発明が記載されているものと認められる。
「C粒子が分散したFe-Pt系スパッタリングターゲットであって、
FePt系合金相は、Ptを50mol%、Feを50mol%含有してなるものであり、
Cの含有量は、スパッタリングターゲット全体に対し、40mol%であり、
ターゲットのスパッタ面に対する垂直断面上の任意に選んだ3箇所で、550μm×700μmの視野サイズで組織画像を撮影した画像を画像処理ソフトで2値化したときのC粒子に相当する部分(組織画像の黒っぽいところ)について、C粒子1個当たりの平均粒子面積は46.3μm^(2)、C粒子1個当たりの粒子の周囲長さの平均値は31.3μmであるスパッタリングターゲット。」(以下、「引用発明」という。)

また、甲1には、引用発明に加え、上記(ア)、(イ)、(エ)、(ク)より、実施例1に係る発明(以下、「甲1実施例1発明」という。)及び上記(ア)、(イ)、(オ)、(ク)より、実施例2に係る発明(以下、「甲1実施例2発明」という。)が、以下のとおり記載されていると認められる。

甲1実施例1発明:
「C粒子が分散したFe-Pt系スパッタリングターゲットであって、
FePt系合金相は、Ptを50mol%、Feを50mol%含有してなるものであり、
Cの含有量は、スパッタリングターゲット全体に対し、40mol%であり、
ターゲットのスパッタ面に対する垂直断面上の任意に選んだ3箇所で、550μm×700μmの視野サイズで組織画像を撮影した画像を画像処理ソフトで2値化したときのC粒子に相当する部分(組織画像の黒っぽいところ)について、C粒子1個当たりの平均粒子面積は65.1μm^(2)、C粒子1個当たりの粒子の周囲長さの平均値は38.9μmであるスパッタリングターゲット。」

甲1実施例2発明:
「C粒子が分散したFe-Pt系スパッタリングターゲットであって、
FePt系合金相は、Ptを50mol%、Feを50mol%含有してなるものであり、
Cの含有量は、スパッタリングターゲット全体に対し、40mol%であり、
ターゲットのスパッタ面に対する垂直断面上の任意に選んだ3箇所で、550μm×700μmの視野サイズで組織画像を撮影した画像を画像処理ソフトで2値化したときのC粒子に相当する部分(組織画像の黒っぽいところ)について、C粒子1個当たりの平均粒子面積は102.3μm^(2)、C粒子1個当たりの粒子の周囲長さの平均値は48.0μmであるスパッタリングターゲット。」


(2)本件発明1と引用発明との対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明のターゲットのスパッタ面に対する垂直断面は、本件発明1のスパッタリングターゲットの厚さ方向の断面に相当し、引用発明のC粒子に相当する部分は、本件発明1のC相に概ね相当するから、両者は、
「Fe、PtおよびCを含有するFePt-C系スパッタリングターゲットであって、
Ptを33mol%以上60mol%以下含有して残部が実質的にFeからなるFePt系合金相中に、実質的にCからなるC相が分散した構造を有し、
当該FePt-C系スパッタリングターゲットの厚さ方向の断面を撮影した画像におけるC相の大きさに係る数値が特定されたもの」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:
C相について、本件発明1では、「スパッタリングターゲットの厚さ方向の断面を121μm×97μmの範囲の視野について1000倍の倍率で10箇所撮影して得た10個の画像それぞれにおいて、C相の内接円の直径が大きい方から5番目までのその5つの直径の平均値をC相の大きさ指数aとするとともに、直径が大きい方から5番目までのC相の内接円の中心からそのC相の界面までを結ぶ直線の最大長さLを当該内接円の半径Rで除した値L/Rを、直径が大きい方から5番目までのC相それぞれについて求め、求めた5つの値の平均値をC相の非球形指数bとするとき、前記10個の画像それぞれにおいて求めた前記C相の大きさ指数aの平均値が4.0μm以上9.0μm以下であり、かつ、前記10個の画像それぞれにおいて求めた前記C相の非球形指数bの平均値が3.0以上である」のに対し、引用発明では、C相に相当するC粒子に相当する部分が、「ターゲットのスパッタ面に対する垂直断面上の任意に選んだ3箇所で、550μm×700μmの視野サイズで組織画像を撮影した画像を画像処理ソフトで2値化したときの組織画像の黒っぽいところ」であり、「C粒子1個当たりの平均粒子面積は46.3μm^(2)、C粒子1個当たりの粒子の周囲長さの平均値は31.3μmである」点。

(3)相違点1についての判断
相違点1について以下検討する。

ア.意見書で特許権者が主張する引用発明のC相に係る数値
意見書では、甲1の図5(上記(ケ)のものよりも鮮明な対応する特許第5876155号公報に記載の図5)に記載のターゲットの垂直断面の写真に基づき、直径が大きい方から5番目までの5つの内接円を以下の参考図3に示されるように選び実際に測定した数値から引用発明のC相の大きさ指数a及び非球形指数bを求め、引用発明のC相の大きさ指数aは12.1μm、非球形指数bは6.1であるから、本件発明1の「C相の大きさ指数aの平均値が4.0μm以上9.0μm以下」であり、かつ、「C相の非球形指数bの平均値が3.0以上」であるものとは実質的に相違する旨の特許権者による主張がなされている。

イ.回答書で申立人が主張する引用発明のC相に係る数値
回答書では、甲1の図5の写真に基づき、上記ア.に記載した特許権者が選んだものと同じ5つの内接円を以下の図1に実線の円で示されるように選びそれらを実際に測定した数値から引用発明のC相の大きさ指数a及び非球形指数bを求め、引用発明のC相の大きさ指数aは6.14μm、非球形指数bは7.0であるから、本件発明1の「C相の大きさ指数aの平均値が4.0μm以上9.0μm以下」であり、かつ、「C相の非球形指数bの平均値が3.0以上」である本件発明1と一致する旨の申立人による主張がなされている。


ウ.両者の主張についての検討
両者の主張は、引用発明のC相の大きさ指数a及び非球形指数bについて、同じ甲1の図5を対象としているにもかかわらず実際に測定した数値内容に相違がある。
そこでさらに検討するに、特許権者は、本件特許に係る国際出願の答弁書において、甲1実施例1発明および甲1実施例2発明に関し、甲1の図1及び図3に記載のターゲットの垂直断面の写真に基づき、本件発明1で特定するC相の大きさ指数a及び非球形指数bを求め、図1に基づくC相の大きさ指数aは12.4μm、非球形指数bは3.0であり、図3に基づくC相の大きさ指数aは16.0μm、非球形指数bは3.1である旨の主張をしていたものである。そして、意見書では、同じ手順に従って上記した引用発明のC相の大きさ指数aが12.1μm、非球形指数bが6.1という数値が得られたとして、「引用発明は、分級していないために粒径の小さな粒子を多く含み、平均粒子面積は小さくなるが、粒度分布は広く、粒径の大きな粒子も含まれているから、引用発明の平均粒子面積が実施例1発明及び実施例2発明より小さいからといって、大きい方から5番目までのC相の大きさ指数が小さくなるとは限らない。・・・略・・・甲1の図3(実施例2発明)と図5(引用発明)を比較すると、大きい方から5番目までの黒っぽい領域の寸法に大きな差がない」と取消理由通知に対して反論しており、その主張内容は、甲1の上記(オ)?(ケ)に照らして合理的なものであると認められる。
これに対し、申立人による回答書では、甲1実施例1発明および甲1実施例2発明との相対的な関係について言及はないが、引用発明のC相の大きさ指数a及び非球形指数bを求める手順については、「[図1]は【図5】の黒っぽいところの大きい方から5つを抽出し、内接円を書き加え、内接円の中心から界面に向かって伸ばした最大長さの直線を赤で書き加えた図であり、前記の測定結果は、[図1]に基づいて算出したものである。」と記載されており、各C相の内接円の直径と、C相の界面までを結ぶ直線の最大長さLを当該内接円の半径Rで除した値L/Rについて、表1に以下のように具体的に記載されていて、その手順と結果に特に不合理な点は見当たらない。


エ.本件発明のC相に係る数値の測定法との比較と考察
C相に係る数値について、本件発明1では、「スパッタリングターゲットの厚さ方向の断面を121μm×97μmの範囲の視野について1000倍の倍率で10箇所撮影して得た10個の画像それぞれにおいて、C相の内接円の直径が大きい方から5番目までのその5つの直径の平均値をC相の大きさ指数aとするとともに、直径が大きい方から5番目までのC相の内接円の中心からそのC相の界面までを結ぶ直線の最大長さLを当該内接円の半径Rで除した値L/Rを、直径が大きい方から5番目までのC相それぞれについて求め、求めた5つの値の平均値をC相の非球形指数bとする」と定義されていて、さらに本件特許明細書【0013】?【0014】において、実施例1において記載した手順によって得られる10個の2値化処理画像から算出される旨説明され、同じく【0109】?【0126】の実施例で具体的に採用されている測定法では、121μm×97μmの範囲の10枚の走査型電子顕微鏡(SEM)写真中の縮尺目盛りは10μmであってC相の大きさ及び形状の評価を行いやすくするための2値化処理がなされてC相の界面を判別しやすくしており、本件図面の図3に2値化処理画像として「C相の内接円」が示されている。
これに対し、上記ア.、イ.において引用発明についてC相に係る数値の測定に用いた画像は、上記(カ)[0052]記載の比較例1のスパッタリングターゲットに係る図5であって、垂直断面上で「550μm×700μmの視野サイズで組織画像を撮影した」1個の画像だけであり、それ自体2値化処理されたものではなく、その右下の50μmのスケールからしてせいぜい100倍程度の倍率と見積もられるものである。
そうすると、上記ウ.で検討したように一見して不合理な点が見当たらないのに、上記ア.、イ.の測定結果の齟齬が生じたのは、引用発明について上記ア.、イ.で採用された測定法では、画像から内接円の直径を求めるに際してC相の界面が不鮮明となっていて客観的な数値が正確に求まらず、しかも画像10個の平均ではなく1個のみから得たものであった等の理由により、求められたC相に係る数値が安定したものとはならなかったという事情が窺える。

オ.まとめ
以上のように、甲1の図5の組織画像に示された比較例1のスパッタリングターゲットについて、C相に係る大きさ指数aは、上記ア.の主張に係る数値12.1μm、上記イ.の主張に係る数値6.14μmの何れであるとも認定できないから、引用発明について、「C相の大きさ指数aの平均値が4.0μm以上9.0μm以下」である点が、甲1に開示されていると認めることはできない。
よって、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。

(4)本件発明4、10について
本件発明4、10は、何れも本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、引用発明との対比において、少なくとも上記相違点1を有する発明である。
よって、本件発明1と同様に、本件発明4、10も甲1に記載された発明ではない。

(5)まとめ
以上のとおり、取消理由は理由がない。


第4 特許異議申立理由について
1.特許異議申立理由の概要
申立人の主張する特許異議申立理由の概要は以下のとおりである。

(1)申立理由1
本件発明1?9は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

(2)申立理由2
本件発明1、4、10は、甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

(3)申立理由3
本件発明1?10は、甲1?3に記載された発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(4)申立理由4
本件発明を特定する「C相の非球形指数bの平均値が3.0以上」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、非球形指数bの平均値が10以上の実施例が記載されておらず、本件発明1?10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定の要件を満たしていない。

2.当審の判断
(1)申立理由1について
本件発明1、4が甲1に記載された発明ではないことは、上記第3に記載したとおりである。
本件発明2、5、6については、何れも、本件発明1と同じ以下の点の発明特定事項を含むものである。
「スパッタリングターゲットの厚さ方向の断面を121μm×97μmの範囲の視野について1000倍の倍率で10箇所撮影して得た10個の画像それぞれにおいて、C相の内接円の直径が大きい方から5番目までのその5つの直径の平均値をC相の大きさ指数aとするとともに、直径が大きい方から5番目までのC相の内接円の中心からそのC相の界面までを結ぶ直線の最大長さLを当該内接円の半径Rで除した値L/Rを、直径が大きい方から5番目までのC相それぞれについて求め、求めた5つの値の平均値をC相の非球形指数bとするとき、前記10個の画像それぞれにおいて求めた前記C相の大きさ指数aの平均値が4.0μm以上9.0μm以下であり、かつ、前記10個の画像それぞれにおいて求めた前記C相の非球形指数bの平均値が3.0以上である」点。
また、本件発明3、7?9については、何れも本件発明2、5、6の何れかの発明特定事項をすべて含むものであるから、何れも、上記の点の発明特定事項を含むものである。
そして、上記の点が甲1に記載されているとはいえないことは、上記第3で検討したとおりであるから、本件発明2、3、5?9も甲1に記載された発明ではない。
よって、申立理由1は理由がない。

(2)申立理由2について
ア.甲3の記載事項及び甲3に記載された発明
甲3には、以下の事項が記載されている。

(サ)「【請求項1】
FePt合金相中にC相が分散している組織を有した焼結体からなることを特徴とする磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、
FePtの規則相と純C相との二相から成る組織を有していることを特徴とする磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、
前記純C相が、主としてグラファイトで構成されており、X線回折においてFePt規則相のピークおよびグラファイト相のピークのみが観察されることを特徴とする磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット。」

(シ)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、従来、FePt-C膜を得るために、FePtのスパッタリングターゲットとCのスパッタリングターゲットとによるコスパッタを行っているため、二種類のスパッタリングターゲットを用意する必要があると共に、CのスパッタリングターゲットからC粉のパーティクルが発生して異常放電の原因になってしまう不都合があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、スパッタリング時にパーティクルの発生を抑制して異常放電を防止可能であり、安定してFePt-C膜を得ることができる磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供することを目的とする。」

(ス)「【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法の一実施形態を説明する。
【0014】
本実施形態の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットは、FePt合金相中にC(炭素)相が分散している組織を有した焼結体からなる。そして、この焼結体は、FePtの規則相と純C相との二相から成る組織を有している。また、純C相は、主としてグラファイトで構成されている。
このスパッタリングターゲットは、一般式:(Fe_(x)Pt_((100-x)))_(100-y)(C)_(y)、ここで 30≦x≦70、5≦y≦70(単位:at%)で表される組成を有する焼結体からなるターゲットである。すなわち、Cの含有量が、5?70at%に設定される。Feが上記の組成範囲から外れると、高い異方性磁界を持つFePt規則相が磁気記録膜に十分に形成されない可能性がある。また、Cが5at%未満では、磁気記録膜の微細組織化が不十分となるおそれがあり、70at%を超えると、ターゲットの密度が不足してパーティクルが発生しやすくなる可能性がある。
【0015】
この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法は、FePt合金粉と、Pt粉と、アセチレンガスの熱分解により生成されたカーボンブラック粉と、の混合粉末を、真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程を有している。
上記FePt合金粉は、Fe:80?95at%を含有するFePt合金粉であり、平均粒径が10?30μmのものを用いることが好ましい。また上記Pt粉は、平均粒径が1?5μmのものを用い、さらに前記カーボンブラック粉は、平均粒径が0.02?0.10μmのものを用いるとよい。」

(セ)「【実施例】
【0022】
次に、本発明に係る磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットを、上記実施形態に基づき作製した実施例により、実際に評価した結果を図1?図6を参照して説明する。
【0023】
まず、FePt合金アトマイズ粉は、純度3Nの電解鉄と純度3NのPt粉とを原料として、Feの濃度が93at%となるようにガスアトマイズ装置内で溶解し、Arガスにてガスアトマイズし、FePt合金アトマイズ粉を作成し回収する。回収した粉末を篩分し、平均粒径16μmのFePt合金アトマイズ粉を得る。
【0024】
次に、ホットプレスによる焼結方法について述べる。篩分したFePt合金アトマイズ粉とPt粉とカーボンブラック粉であるアセチレンブラック粉とを目標ターゲット組成となるように秤量し、これらをボールミル混合用の容器に混合用の粉砕媒体となる5mmφのジルコニアボール等と共に投入し、容器内をArガスで置換した後蓋を閉め、さらにこの容器を16時間回転させ、原料を混合して混合粉末とする。この混合粉末を黒鉛モールドに充填した状態でホットプレス装置に装入し、到達真空圧力が1×10^(-3)Torr(133×10^(-3)Pa)の真空雰囲気中で加圧力:350kgf/cm^(2)、保持温度:1400℃、保持時間:3時間の条件にて焼結し、本発明ターゲットの焼結体を得た。
【0025】
その後、焼結体を機械加工し、分析用の直径:50mm、厚さ:2mmの試料とスパッタ用の直径:152mm、厚さ:6mmのターゲットとを作成した。さらに、スパッタ用のターゲットをInはんだにて無酸素銅製のバッキングプレートにボンディングし、スパッタリングターゲットとした。
【0026】
このように作製したターゲットの組成は、(Fe_(50)Pt_(50))_(60.5)C_(39.5)であり、Cが30vol.%(体積%)含まれている。
分析用のターゲットの密度をアルキメデス法にて測定した結果、密度比が98.9%であり、高い密度が得られている。また、このターゲットについてPTFを測定した結果、71.4%(7mm厚換算)であり、充分なPTFが得られている。
【0027】
同様に作成した組成が(Fe_(50)Pt_(50))_(49.6)C_(50.4)であり、Cが40vol.%(体積%)含まれているターゲットは、密度比が94.7%であり、高い密度が得られている。また、このターゲットについてPTFを測定した結果、74.8%(7mm厚換算)であり、充分なPTFが得られている。
同様に作成した組成が(Fe_(50)Pt_(50))_(39.6)C_(60.4)であり、Cが50vol.%(体積%)含まれているターゲットは、密度比が93.2%であり、高い密度が得られている。また、このターゲットについてPTFを測定した結果、82.0%(7mm厚換算)であり、充分なPTFが得られている。
・・・
【0033】
このターゲットの組織観察は、断面(被スパッタ面に対し垂直な面)を研磨して鏡面とした後、高分解能のFE-EPMA(フィールドエミッション型電子線プローブマイクロアナライザ、日本電子製JXA-8500F、以下EPMA)にて、二次電子像および反射電子像(COMPO像)、および各元素の組成分布を示す元素分布像を用いて実施した。上記二次電子像およびCOMPO像を図4に、元素分布像を図5および図6に示す。
なお、EPMAによる元素分布像は、本来カラー像であるが、白黒像に変換して記載しているため、濃淡の淡い部分(比較的白い部分)が所定元素の濃度が高い部分となっている。
これらの画像から、FePt合金相中に微細なC相が均一に分散していることがわかる。」

(ソ)「図4の二次電子(SEI)像



上記(サ)?(ス)より、甲3には、スパッタリング時にパーティクルの発生を抑制して異常放電を防止可能であり、安定してFePt-C膜を得ることを課題として、FePt合金相中にC相が分散している組織を有した焼結体からなる磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットに関し、一般式:(Fe_(x)Pt_((100-x)))_(100-y)(C)_(y)、ここで 30≦x≦70、5≦y≦70(単位:at%)で表される組成を有する焼結体からなるスパッタリングターゲットについて記載されており、上記(セ)、(ソ)より、図4の組織を有し、Cが30vol.%(体積%)含まれた実施例のスパッタリングターゲットとして、
「(Fe_(50)Pt_(50))_(60.5)(C)_(39.5)で表される組成を有し、FePt合金相中に微細なC相が均一に分散している組織を有した焼結体からなる磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット」の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

イ.本件発明1と甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、両者は、
「Fe、PtおよびCを含有するFePt-C系スパッタリングターゲットであって、
Ptを33mol%以上60mol%以下含有して残部が実質的にFeからなるFePt系合金相中に、実質的にCからなるC相が分散した構造を有し」たものである点で一致し、以下の点で相違している。

相違点2:
C相について、本件発明1では、「スパッタリングターゲットの厚さ方向の断面を121μm×97μmの範囲の視野について1000倍の倍率で10箇所撮影して得た10個の画像それぞれにおいて、C相の内接円の直径が大きい方から5番目までのその5つの直径の平均値をC相の大きさ指数aとするとともに、直径が大きい方から5番目までのC相の内接円の中心からそのC相の界面までを結ぶ直線の最大長さLを当該内接円の半径Rで除した値L/Rを、直径が大きい方から5番目までのC相それぞれについて求め、求めた5つの値の平均値をC相の非球形指数bとするとき、前記10個の画像それぞれにおいて求めた前記C相の大きさ指数aの平均値が4.0μm以上9.0μm以下であり、かつ、前記10個の画像それぞれにおいて求めた前記C相の非球形指数bの平均値が3.0以上である」のに対し、甲3発明では、ターゲットの厚み方向の二次電子像(図4)からは、C相の大きさ指数a、非球形指数bが不明である点。

ウ.相違点2についての検討
申立人は、本件発明1と甲3発明との対比を製造条件において行い、出発原料、FePtとCとの混合、焼結条件において両者が類似している旨主張しているので、この主張について検討する。
まず、出発原料について、本件発明1及び甲3発明の何れも非球形C粉末を使用していると申立人により整理されているところ、さらに検討する。本件発明1のものは、本件特許明細書の【0089】によれば、「C粒子の平均粒径が8μm以上60μm以下」のものを用い、「得られるターゲット中のC相の大きさおよび形状が適切なものとなり、後述する実施例で実証しているように、スパッタリング時に発生するパーティクル数が少なくなる。」と記載されており、同じく【0181】【表1】によれば、実施例1?4の平均粒径12.17?51.01(μm)のものにおいては、C相の大きさ指数aの平均値が4.0μm以上9.0μm以下であり、かつ、非球形指数bの平均値が3.0以上を満たし、2時間経過時のパーティクル発生数は17?80(個)となっているのに対し、比較例4【0170】?【0179】で平均粒径0.03μmのカーボンブラックを用いた場合には、C相の大きさ指数aの平均値が0.8μmであり、非球形指数bの平均値が3.5であって、2時間経過時のパーティクル発生数は4807(個)となってしまっている。他方、甲3発明の出発原料は、上記(セ)の【0024】に記載されているようにカーボンブラック粉が用いられており、上記(ス)の【0015】には、「0.02?0.10μmのものを用いるとよい」と記載されている。
してみれば、出発原料の観点で、甲3発明は本件発明1の比較例に相当するものとしかいえないので、他の製造条件について検討するまでもなく、本件発明1と甲3発明の製造条件が類似しているとはいえない。
以上のことから、申立人の主張は採用できず、また、他に相違点2を実質的なものではないというべき理由も見当たらない。
よって、本件発明1は甲3に記載された発明ではなく、本件発明4、10も同様に甲3に記載された発明ではないから、申立理由2は理由がない。

(3)申立理由3について
上記第3で検討した相違点1、上記(2)で検討した相違点2に関し、甲1又は甲3には、引用発明又は甲3発明においてこれら相違点を解消するための記載も示唆も見当たらない。また、申立人が周知技術として提示した甲2に記載された事項として、FePt系合金相に含ませることが可能な金属元素が「Cu、Ag、Mn、Ni、Co、Pd、Cr、V、Bのうちの1種以上」として挙げられているが、この周知技術を参酌しても相違点1又は2が解消できるとはいえない。
よって、本件発明1?10は、甲1?3に記載された発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立理由3は理由がない。

(4)申立理由4について
非球形指数bの技術的な意味については、「直径が大きい方から5番目までのC相の内接円の中心からそのC相の界面までを結ぶ直線の最大長さLを当該内接円の半径Rで除した値L/R」の平均値であることからして、本件特許明細書の【0080】に「C相の非球形指数bの平均値が3.0以上であるので、ターゲット中のC相は球形と比べて細長い形状になっており、単位体積当たりの表面積が球形よりも大きくなっている。」と記載されていることからも、C相が球からどれだけ変形して偏平となっているかの目安となるものであって、大まかに、非球形指数bの数値が大きくなるほど細長くなっていくものであるといえる。
本件特許明細書には、非球形指数bの平均値について、実施例1?4において4.5?6.0のものが示されており、【0079】には「なお、通常得られるターゲットにおいては、前記C相の非球形指数bの前記平均値は通常10.0以下であり、15.0以下となる場合がほとんどであり、最大でも20.0である。」と記載されていることから、非球形指数bの平均値が10を超えることは稀であるとはいえるものの、当業者であれば、一般的に技術常識を参酌してC相をより偏平に構成することを試みることはできるといえる。そうすると、非球形指数bを10以上とした実施例がないからといって、10以上とすることができないとまではいえない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明が本件発明1?10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないとまではいえないから、申立理由4は理由がない。

(5)小括
以上のとおりであるから、申立理由1?4は何れも理由がない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由及び特許異議申立理由の何れによっても、本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-10-31 
出願番号 特願2018-504427(P2018-504427)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C23C)
P 1 651・ 113- Y (C23C)
P 1 651・ 121- Y (C23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安齋 美佐子  
特許庁審判長 服部 智
特許庁審判官 宮澤 尚之
菊地 則義
登録日 2018-08-10 
登録番号 特許第6383510号(P6383510)
権利者 田中貴金属工業株式会社
発明の名称 FePt-C系スパッタリングターゲット  
代理人 松山 圭佑  
代理人 高矢 諭  
代理人 藤田 崇  

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