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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12G
管理番号 1356856
異議申立番号 異議2019-700630  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-07 
確定日 2019-11-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6484005号発明「ビール様飲料用風味改善剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6484005号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6484005号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成26年11月11日の出願であって、平成31年2月22日に特許権の設定登録がされ、同年3月13日にその特許公報が発行され、その後、令和1年8月7日に、特許異議申立人 内藤 順子(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
本件特許請求の範囲の記載は以下のとおりであり、請求項1?6に係る特許発明をそれぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明6」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。

【請求項1】
2-アセチル-2-チアゾリンを含むビール様飲料用風味改善剤であって、
風味を改善しようとするビール様飲料が、低カロリービール様アルコール飲料、低糖質ビール様アルコール飲料、糖質ゼロビール様アルコール飲料、低プリン体ビール様アルコール飲料、プリン体ゼロビール様アルコール飲料、又はビール様ノンアルコール飲料である、ビール様飲料用風味改善剤。
【請求項2】
前記風味を改善しようとするビール様飲料に、2-アセチル-2-チアゾリンの濃度が0.5?5.0ppbになる量で含まれる、請求項1に記載のビール様飲料用風味改善剤。
【請求項3】
風味を改善しようとするビール様飲料に対して請求項1に記載のビール様飲料用風味改善剤を添加することによりビールらしい風味を付与又は増強する工程を包含し、前記風味を改善しようとするビール様飲料が、低カロリービール様アルコール飲料、低糖質ビール様アルコール飲料、糖質ゼロビール様アルコール飲料、低プリン体ビール様アルコール飲料、プリン体ゼロビール様アルコール飲料、又はビール様ノンアルコール飲料である、ビール様飲料の製造方法。
【請求項4】
前記ビール様飲料用風味改善剤は、風味を改善しようとするビール様飲料に含まれる2-アセチル-2-チアゾリンの濃度が0.5?5.0ppbになる量で添加される、請求項3に記載のビール様飲料の製造方法。
【請求項5】
低カロリービール様アルコール飲料、低糖質ビール様アルコール飲料、糖質ゼロビール様アルコール飲料、低プリン体ビール様アルコール飲料、プリン体ゼロビール様アルコール飲料、又はビール様ノンアルコール飲料における、2-アセチル-2-チアゾリンのビール様飲料用風味改善剤としての使用。
【請求項6】
前記風味を改善しようとするビール様飲料に含まれる2-アセチル-2-チアゾリンの濃度が0.5?5.0ppbになる量で添加される、請求項5に記載の使用。

第3 特許異議申立人が申し立てた申立理由
特許異議申立人が申し立てた申立理由の概要は以下のとおりである。

理由1 請求項1?6に係る特許は、当該請求項に係る発明が、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

理由2 請求項1?6に係る特許は、2-アセチル-2-チアゾリンの濃度が低くても、高くても評価が低下する傾向があり、あらゆる濃度において、ビール様飲料に対してビールらしさの付与ないし増強効果を奏して本件特許発明の課題が解決できると認識できないから、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


甲第1号証:国際公開第2014/119065号
甲第2号証:国際公開第2014/119064号
甲第3号証:H.-D.Belitz 外2名,Food Chemistry 4th revised and extended Edition,2009年,p.367

特許異議申立人は、参照すべき証拠として、特許権者が提出した平成30年9月27日付け意見書を甲第4号証として提出している。

第4 当審の判断
当審は、請求項1?6に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた申立理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 理由1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)甲号証の記載
(1-1)甲第1号証
本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第1号証には以下の記載がある。
(1a)「[0001] 本発明は、発酵工程を経ずに製造され、プリン体濃度が非常に低いにもかかわらずビールとほぼ同様の香味を有する非発酵ビール様発泡性飲料に関する。」

(1b)「 [0007] 活性炭やゼオライトは多種多様な物質を吸着するため、活性炭処理やゼオライト処理によりプリン体以外の多くの香気成分も除去されてしまい、ビールらしさが損なわれやすいという問題がある。また、吸着剤処理により大きくコストがかかるという問題もある。一方で、特許文献3又は4に記載の方法では、麦芽等のプリン体を多く含む原料の添加量を調整することにより、プリン体含有量が充分に低減されたビール様発泡性飲料を製造できると期待されるものの、麦芽を使用せずにビールらしさを達成することは非常に困難である。また、特許文献5に記載のミルセニルメチルエーテルを添加したとしても、ビール様発泡性飲料に充分なビールらしさを付与することは難しい。
[0008] 本発明は、プリン体濃度が非常に低いにもかかわらず「ビールらしさ」を保持している非発酵ビール様発泡性飲料を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0009] 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、麦芽等のプリン体を比較的多く含む原料の添加量を調整すること、かつ発酵工程を経ずに製造することによって、最終製品中のプリン体濃度が0.2mg/100mL以下という従来になく低い非発酵ビール様発泡性飲料を製造することができること、このように製造された非発酵ビール様発泡性飲料に、特定の16の香気成分を単独で又は組み合わせて添加することにより充分な「ビールらしさ」が付与できることを見出し、本発明を完成させた。」

(1c)「[0010]・・・[4] 前記[1]?[3]のいずれかの非発酵ビール様発泡性飲料としては、3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、2-プロピル-1-ピロリン、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、シス-3-ヘキセノール、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールからなる群より選択される1種以上の化合物を含有することが好ましい。・・・」

(1d)「[0011] 本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、プリン体濃度が0.2mg/100mL以下という非常に低く抑えられているにもかかわらず、充分なビールらしさが保持された、非常に官能性の高いビール様発泡性飲料である。
また、本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法により、本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料を容易に製造することができる。
発明を実施するための形態
[0012] 本発明及び本願明細書においては、「ビールらしさ」とは、製品名称・表示にかかわらず、香味上ビールを想起させる呈味のことを意味する。つまり、ビールらしさを有する発泡性飲料(ビール様発泡性飲料)とは、アルコール含有量、麦芽及びホップの使用の有無、発酵の有無に関わらず、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有する発泡性飲料である。
[0013] また、本発明及び本願明細書における非発酵ビール様発泡性飲料とは、発酵工程を経ずに製造される飲料であって、ビールらしさと炭酸ガスによる発泡性を有する飲料を意味する。非発酵ビール様発泡性飲料は、アルコール飲料であってもよく、アルコール含量が1容量%未満であるいわゆるノンアルコール飲料又はローアルコール飲料であってもよい。具体的には、ビール、発泡酒、ローアルコール発泡性飲料、ノンアルコールビール等が挙げられる。
[0014] 本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、プリン体を含む原料の添加量が調整されており、かつ、プリン体濃度が0.2mg/100mL以下であることを特徴とする。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、プリン体含有量の高い麦芽等の原料の使用量を調整すること、さらに発酵工程を経ずに製造されることによって、活性炭処理やゼオライト処理等のプリン体除去工程を要することなく、プリン体濃度を従来になく低く抑えることができる。本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料のプリン体濃度は、0.2mg/100mL未満が好ましく、0.1mg/100mL以下がより好ましく、0.08mg/100mL未満がさらに好ましい。
・・・
[0016] 麦芽はビールらしさを付与する重要な原料であるが、本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料においては、特定の16の香気成分の少なくとも1種以上が添加されることによってビールらしさが付与される。当該16の香気成分は、麦芽を原料としなくとも、原料由来の香気成分がほとんど含まれていない場合であっても、単独で添加することによってビールらしさを付与できる。
[0017] 当該16の香気成分は、香りのタイプより、穀物様香気成分、ホップ様香気成分、及び含硫香気成分の3種類に分類することができる。穀物様香気成分としては、3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、及び2-プロピル-1-ピロリンの8種類の化合物である。ホップ様香気成分としては、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、及びシス-3-ヘキセノールの5種類の化合物である。含硫香気成分としては、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールの3種類の化合物である。」

(1e)「[0028] 本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料が2-アセチルチアゾールを含有する場合、飲料中の2-アセチルチアゾール含有量は、0.24?30000ppbが好ましく、6?15000ppbがより好ましく、30?3000ppbがさらに好ましい。」

(1f)「[0063] [製造例1(ベース液の調製)]
表2に記載の組成により酸味料、色素、及び起泡剤を含有する調合液を調製した後、これに炭酸ガスを3.0gas volになるように加えることにより、ベース液を調製した。ベース液の原料としては、表2中に示すベーガン通商株式会社製の「50%発酵乳酸BM-G」(製品名)、天野実業株式会社製の「カラメルSP」(製品名)、丸善製薬株式会社製の「キラヤニンC-100」(製品名)、扶桑化学工業株式会社の「クエン酸フソウ(無水)」(製品名)、「ヘルシャスA」(製品名)を用いた。
[0064] [表2]

[0065] 当該ベース液のプリン体含有量を参考例1と同様にして測定したところ、アデニン、グアニン、キサンチン、及びヒポキサンチンのいずれも検出されなかったことから、当該ベース液のプリン体含有量は検出限界値未満(0.08mg/100mL)であるとわかった。さらに、当該ベース液の糖質含量を測定したところ、0.1g/100mLであったことがわかった(共に、財団法人日本食品分析センターにて分析した。)。
[0066][実施例1]
本発明者らは、ビールに含まれる主要香気成分を分析し、特に匂い強度の強い16成分(3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、2-プロピル-1-ピロリン、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、シス-3-ヘキセノール、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオール)を同定した。
各成分を製造例1で製造したベース液に様々な濃度で添加し、ビールらしさについて官能評価を実施した。官能評価は、2名の専門パネルにより、香気成分無添加のベース液の評価を中心値4とした7段階評価(ビールらしさが感じられない場合を1とし、非常に強く感じられた場合を7とする。)にて行った。また、表3?5には、評価に当たり各パネルが述べたコメントも記載した。
[0067]
[表3]
・・・

・・・
[0070] 表3?5に示すように、いずれの成分も、濃度に差はあるが、低濃度で添加した場合には添加の効果が官能上わからず、ベース液と変わらないが、添加濃度を高くするにつれてビールらしさが高くなり、ある濃度でピークに達し、さらに添加濃度が高くなるにつれて特有の香気が強くなりすぎてビールらしさが低下する傾向が観察された。つまり、これらの16成分のうちの少なくとも1種類を適切な濃度で含有させることにより、原料として麦芽やホップを用いていない非発酵発泡性飲料にも充分なビールらしさが付与され、非発酵ビール様発泡性飲料を製造し得ることがわかった。」

(1g)「[0073] [実施例3]
製造例1で製造したベース液に、前記16成分全てを、それぞれ実施例1でビールらしさの評価が高かった濃度で添加したサンプル3-1を調製し、実施例1と同様にしてビールらしさの官能評価を行った。サンプル3-1における各香気成分の濃度は、3-メチル-1-ブタノールが6000ppb、イソバレリン酸が1000ppb、γ-ノナラクトンが120ppb、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノンが80ppb、2-アセチルチアゾールが30ppb、4-ビニルグアイアコールが800ppb、2-アセチル-1-ピロリンが2.4ppb、2-プロピル-1-ピロリンが2.4ppb、ミルセンが40ppb、リナロールが160ppb、β-ダマセノンが1ppb、フェネチルアルコールが5000ppb、シス-3-ヘキセノールが2150ppb、3-メチル-2-ブテン-1-チオールが0.5ppb、メチオノールが600ppb、及び2-メチル-3-フランチオールが0.01ppbであった。評価結果を表7に示す。サンプル3-1では、ビールらしさが非常に強く付与されており、ほぼビールと同様の官能評価が得られた。この結果、原料として麦芽やホップを用いていない非発酵発泡性飲料に前記16成分を全て適切な濃度で含有させることにより、ビールとほぼ同等の香味を有する非発酵ビール様発泡性飲料を製造し得ることがわかった。
[0074][表7]

[0075][実施例4]
実施例3で製造したサンプル3-1にエタノールを様々な濃度で添加したサンプル4-1?4-6を調製し、ビールらしさについて官能評価を実施した。官能評価は、2名の専門パネルにより、サンプル3-1の評価を中心値4とした7段階評価(ビールらしさが感じられない場合を1とし、非常に強く感じられた場合を7とする。)にて行った。評価結果を表8に示す。この結果、サンプル3-1に1?9容量%のエタノールを含有させることにより、さらにビールらしさが強く付与されることがわかった。
[0076]
[表8]


(1h)「請求の範囲
[請求項1] プリン体を含む原料の添加量が調整されており、かつプリン体濃度が0.2mg/100mL以下である、非発酵ビール様発泡性飲料。
・・・
[請求項4] 3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、2-プロピル-1-ピロリン、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、シス-3-ヘキセノール、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールからなる群より選択される1種以上の化合物を含有する、請求項1?3のいずれか一項に記載の非発酵ビール様発泡性飲料。
[請求項5] 穀物様香気成分として、3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、及び2-プロピル-1-ピロリンからなる群より選択される1種以上の化合物を含有し、
ホップ様香気成分として、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、及びシス-3-ヘキセノールからなる群より選択される1種以上の化合物を含有し、
含硫香気成分として、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールからなる群より選択される1種以上の化合物を含有する、請求項1?3のいずれか一項に記載の非発酵ビール様発泡性飲料。
・・・
[請求項16] (a)穀物様香気成分、ホップ様香気成分、含硫香気成分、酸味料、色素、及び、起泡剤を混合して調合液を調製する工程;及び
(b)前記調合液に炭酸ガスを加える工程;
を含み、
前記穀物様香気成分が、3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、及び2-プロピル-1-ピロリンからなる群より選択される1種以上の化合物であり、
前記ホップ様香気成分が、ミルセン、リナロール、β-ダマスセノン、フェネチルアルコール、及びシス-3-ヘキセノールからなる群より選択される1以上の化合物であり、
前記含硫香気成分が、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールからなる群より選択される1以上の化合物である、非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。」

(1-2)甲第2号証
本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第2号証には以下の記載がある。
(2a)「[0001] 本発明は、発酵工程を経ずに製造され、プリン体濃度が非常に低いにもかかわらずビールとほぼ同様の香味を有する非発酵ビール様発泡性飲料に関する。」

(2b)「[0007] 本発明は、プリン体濃度が非常に低いにもかかわらず、「ビールらしさ」、特にビール様の泡持ちや色度を保持している非発酵ビール様発泡性飲料を提供することを目的とする。」

(2c)「[0009]・・・[8] 前記[1]?[7]のいずれかの非発酵ビール様発泡性飲料としては、さらに、3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、2-プロピル-1-ピロリン、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、シス-3-ヘキセノール、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールからなる群より選択される1種以上の化合物を含有することが好ましい。・・・」

(2d)「[0010] 本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、プリン体濃度が0.2mg/100mL以下という非常に低く抑えられているにもかかわらず、充分なビールらしさが保持された、非常に官能性の高いビール様発泡性飲料である。
また、本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法により、本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料を容易に製造することができる。
発明を実施するための形態
[0011] 本発明及び本願明細書においては、「ビールらしさ」とは、製品名称・表示にかかわらず、香味上ビールを想起させる呈味のことを意味する。つまり、ビールらしさを有する発泡性飲料(ビール様発泡性飲料)とは、アルコール含有量、麦芽及びホップの使用の有無、発酵の有無に関わらず、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有する発泡性飲料である。
[0012] また、本発明及び本願明細書における非発酵ビール様発泡性飲料とは、発酵工程を経ずに製造される飲料であって、ビールらしさと炭酸ガスによる発泡性を有する飲料を意味する。非発酵ビール様発泡性飲料は、アルコール飲料であってもよく、アルコール含量が1容量%未満であるいわゆるノンアルコール飲料又はローアルコール飲料であってもよい。具体的には、ビール、発泡酒、ローアルコール発泡性飲料、ノンアルコールビール等が挙げられる。
・・・
[0020] 本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料は、さらに、特定の16の香気成分の少なくとも1種以上を含有することが好ましい。当該16の香気成分は、麦芽を原料としなくとも、原料由来の香気成分がほとんど含まれていない場合であっても、単独で添加することによってビールらしさを付与できる。
[0021] 当該16の香気成分は、香りのタイプより、穀物様香気成分、ホップ様香気成分、及び含硫香気成分の3種類に分類することができる。穀物様香気成分としては、3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、及び2-プロピル-1-ピロリンの8種類の化合物である。ホップ様香気成分としては、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、及びシス-3-ヘキセノールの5種類の化合物である。含硫香気成分としては、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールの3種類の化合物である。麦芽はビールらしさを付与する重要な原料であるが、本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料においては、特定の16の香気成分の少なくとも1種以上が添加されることによってビールらしさが付与される。当該16の香気成分は、麦芽を原料としなくとも、原料由来の香気成分がほとんど含まれていない場合であっても、単独で添加することによってビールらしさを付与できる。」

(2e)「[0032] 本発明に係る非発酵ビール様発泡性飲料が2-アセチルチアゾールを含有する場合、飲料中の2-アセチルチアゾール含有量は、0.24?30000ppbが好ましく、6?15000ppbがより好ましく、30?3000ppbがさらに好ましい。」

(2f)「[0075][実施例4]
表7に記載の組成により、酸味料、色素、及び起泡剤を含有する調合液を調製した後、これに炭酸ガスを3.0gas volになるように加えることにより、サンプル4-1を調製した。サンプル4-1の原料としては、表7中に示すベーガン通商株式会社製の「50%発酵乳酸BM-G」(製品名)、天野実業株式会社製の「カラメルSP」(製品名)、丸善製薬株式会社製の「キラヤニンC-100」(製品名)、扶桑化学工業株式会社の「クエン酸フソウ(無水)」(製品名)、「ヘルシャスA」(製品名)を用いた。
[0076][表7]

・・・
[0078][実施例5]
ビールに含まれる主要香気成分のうちの特に匂い強度の強い16成分(3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、2-プロピル-1-ピロリン、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、シス-3-ヘキセノール、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオール)を実施例4で製造したサンプル4-1に様々な濃度で添加し、ビールらしさについて官能評価を実施した。官能評価は、2名の専門パネルにより、サンプル4-1の評価を中心値4とした7段階評価(ビールらしさが感じられない場合を1とし、非常に強く感じられた場合を7とする。)にて行った。また、表8?10には、評価に当たり各パネルが述べたコメントも記載した。
[0079][表8]
・・・

・・・
[0082] 表8?10に示すように、いずれの成分も、濃度に差はあるが、低濃度で添加した場合には添加の効果が官能上わからず、サンプル4-1と変わらないが、添加濃度を高くするにつれてビールらしさが高くなり、ある濃度でピークに達し、さらに添加濃度が高くなるにつれて特有の香気が強くなりすぎてビールらしさが低下する傾向が観察された。つまり、これらの16成分のうちの少なくとも1種類を適切な濃度で含有させることにより、ビールらしさがより強く付与されることがわかった。」

(2g)「請求の範囲
[請求項1] 起泡剤及び色素を含有し、かつプリン体濃度が0.2mg/100mL以下である、非発酵ビール様発泡性飲料。
・・・
[請求項8] さらに、3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、2-プロピル-1-ピロリン、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、シス-3-ヘキセノール、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールからなる群より選択される1種以上の化合物を含有する、請求項1?7のいずれか一項に記載の非発酵ビール様発泡性飲料。
[請求項9] さらに、穀物様香気成分として、3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、及び2-プロピル-1-ピロリンからなる群より選択される1種以上の化合物を含有し、
ホップ様香気成分として、ミルセン、リナロール、β-ダマセノン、フェネチルアルコール、及びシス-3-ヘキセノールからなる群より選択される1種以上の化合物を含有し、
含硫香気成分として、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、メチオノール、及び2-メチル-3-フランチオールからなる群より選択される1種以上の化合物を含有する、請求項1?7のいずれか一項に記載の非発酵ビール様発泡性飲料。」

(1-3)甲第3号証
本件出願日前に頒布された刊行物であると認められる甲第3号証には以下の記載がある。
訳文にて示す。
(3a)「5.3.1.5 チアゾール類
チアゾールとその誘導体は、コーヒー、ボイルした肉、ボイルしたポテト、加熱したミルク、ビールなどの食品で検出される。
・・・
表5.22 食品中のチアゾール類とチアゾリン類

」(367頁左欄1?4行及び表5.22)

(2)甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証は、「発酵工程を経ずに製造され、プリン体濃度が非常に低いにもかかわらずビールとほぼ同様の香味を有する非発酵ビール様発泡性飲料」に関する文献であって(摘記事項(1a))、摘記(1b)には、麦芽等のプリン体を比較的多く含む原料の添加量を調整すること、かつ発酵工程を経ずに製造することによって、最終製品中のプリン体濃度が従来になく低い非発酵ビール様発泡性飲料を製造し、製造された非発酵ビール様発泡性飲料に、特定の香気成分を単独で又は組み合わせて添加することにより充分な「ビールらしさ」が付与できることを見出したことが記載されている。
そして、摘記(1d)には、非発酵ビール様発泡性飲料とは、ノンアルコール飲料又はローアルコール飲料であって良いことが記載され、上記16の特定の16の香気成分の中には、2-アセチルチアゾールがあることが記載され、2-アセチルチアゾールの場合の好ましい含有量が摘記(1e)に記載されている。
さらに、摘記(1f)には、具体的に、製造例1で、表2の組成のベース液を調製し、実施例1において、表3のとおり、2-アセチルチアゾールの官能評価結果も示され、16の特定成分のうちの少なくとも1種類を適切な濃度で含有させることにより非発酵ビール様発泡性飲料にも充分なビールらしさが付与できたことが記載されている。

したがって、甲第1号証には、「2-アセチルチアゾールを含有するプリン体濃度が非常に低いノンアルコール飲料又はローアルコール飲料を含めた非発酵ビール様発泡性飲料の充分なビールらしさを付与する香気成分」(以下、「引用発明1」という。)が開示されているといえる。

また、甲第1号証には、摘記(1h)の請求項16には、穀物様香気成分として、2-アセチルチアゾールを混合して非発酵ビール様発泡性飲料を製造することが記載され、実施例でも具体的に記載があり、2-アセチルチアゾールは、非発酵ビール様発泡性飲料の充分なビールらしさを付与する香気成分として使用されているのであるから、以下の発明も記載されているといえる。

「2-アセチルチアゾールを含有するプリン体濃度が非常に低いノンアルコール飲料又はローアルコール飲料を含めた非発酵ビール様発泡性飲料の充分なビールらしさを付与する香気成分を混合して非発酵ビール様発泡性飲料を製造する方法」(以下、「引用製造方法発明1」という。)

「2-アセチルチアゾールをプリン体濃度が非常に低いノンアルコール飲料又はローアルコール飲料を含めた非発酵ビール様発泡性飲料の充分なビールらしさを付与する香気成分として使用する方法」(以下、「引用使用方法発明1」という。)

イ 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証は、「発酵工程を経ずに製造され、プリン体濃度が非常に低いにもかかわらずビールとほぼ同様の香味を有する非発酵ビール様発泡性飲料」に関する文献であって(摘記事項(2a))、摘記(2d)には、非発酵ビール様発泡性飲料において、特定の16の香気成分の少なくとも1種以上が添加されることによってビールらしさが付与されることを見出したことが記載されている。
そして、摘記(2d)には、非発酵ビール様発泡性飲料とは、ノンアルコール飲料又はローアルコール飲料であって良いことが記載され、上記16の特定の香気成分の中には、2-アセチルチアゾールがあることが記載され、2-アセチルチアゾールの場合の好ましい含有量が摘記(2e)に記載されている。
さらに、摘記(2f)には、実施例4において、表7の組成の調合液を調製し、実施例5において、表8のとおり、2-アセチルチアゾールの官能評価結果も示され、16の特定成分のうちの少なくとも1種類を適切な濃度で含有させることによりビールらしさが強く付与できたことが記載されている。

したがって、甲第2号証には、「2-アセチルチアゾールを含有するプリン体濃度が非常に低いノンアルコール飲料又はローアルコール飲料を含めた非発酵ビール様発泡性飲料のビールらしさが強く付与される香気成分」(以下、「引用発明2」という。)が開示されているといえる。

また、甲第2号証には、摘記(2f)において、実施例として2-アセチルチアゾールを混合して非発酵ビール様発泡性飲料を製造することが記載され、2-アセチルチアゾールは、非発酵ビール様発泡性飲料のビールらしさが強く付与される香気成分として使用されているのであるから、以下の発明も記載されているといえる。

「2-アセチルチアゾールを含有するプリン体濃度が非常に低いノンアルコール飲料又はローアルコール飲料を含めた非発酵ビール様発泡性飲料のビールらしさが強く付与された香気成分を混合して非発酵ビール様発泡性飲料を製造する方法」(以下、「引用製造方法発明2」という。)

「2-アセチルチアゾールをプリン体濃度が非常に低いノンアルコール飲料又はローアルコール飲料を含めた非発酵ビール様発泡性飲料のビールらしさが強く付与された香気成分として使用する方法」(以下、「引用使用方法発明2」という。)

(3)対比・判断
(3-1)本件特許発明1について
ア-1 引用発明1との対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、
引用発明1の「プリン体濃度が非常に低いノンアルコール飲料又はローアルコール飲料を含めた非発酵ビール様発泡性飲料」は、本件特許発明1の少なくとも「低プリン体ビール様アルコール飲料、又はビール様ノンアルコール飲料である、ビール様飲料」に該当する。
また、引用発明1の「非発酵ビール様発泡性飲料の充分なビールらしさを付与する香気成分」は、ビール様飲料に用いられビールらしさを付与しているのであるから本件特許発明1の「ビール様飲料用風味改善剤」に該当する。

したがって、本件特許発明1と引用発明1とは、「ビール様飲料用風味改善剤であって、
風味を改善しようとするビール様飲料が、低カロリービール様アルコール飲料、低糖質ビール様アルコール飲料、糖質ゼロビール様アルコール飲料、低プリン体ビール様アルコール飲料、プリン体ゼロビール様アルコール飲料、又はビール様ノンアルコール飲料である、ビール様飲料用風味改善剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:について、ビール様飲料用風味改善剤に含有させる成分として、本件特許発明1は、2-アセチル-2-チアゾリンが特定されているのに対して、引用発明1は、2-アセチルチアゾールが特定されている点

イ-1 相違点1の判断
甲第1号証には、非発酵ビール様発泡性飲料の充分なビールらしさを付与する香気成分として、16の香気成分が記載されているものの、2-アセチル-2-チアゾリンは選択肢の記載としても挙げられていない。
一方、甲第3号証には、チアゾール類として、チアゾールとその誘導体は、コーヒー、ボイルした肉、ボイルしたポテト、加熱したミルク、ビールなどの食品で検出されること及び食品中のチアゾール類とチアゾリン類の表5.22において、2-アセチル-チアゾール及び2-アセチル-2-チアゾリンを含めて5つの化合物が示され、両化合物は、ポップコーンの香りがあることが示されている。
しかしながら、甲第1号証には、上述のとおり、特定の16の香気成分を選択したことに特徴がある発明が記載されているのであり、引用発明1におけるアセチルチアゾールは穀物用香気成分として使用されているのに対して、甲第3号証には、2-アセチル-2-チアゾリンはポップコーンの香りがあるとされているのであるから、チアゾールとその誘導体がコーヒー、ボイルした肉、ボイルしたポテト、加熱したミルク、ビールなどの食品で検出されることや、食品中の化合物として同一の表に示されているからといって、引用発明1において、穀物用香気成分としてビール様飲料用風味改善剤の成分として、2-アセチルチアゾールに替えて、甲第1号証において特定の16の香気成分の選択肢にも挙げられていない2-アセチル-2-チアゾリンに着目して選択する動機付けはない。

そして、本件特許発明1は、2-アセチル-2-チアゾリンを含めたビール様飲料用風味改善剤という構成を採用することで、【0033】?【0035】の官能評価結果に基づき、[表1][表2]に示した実施例1,2の結果を得て、ビールらしさ、味の膨らみ、後味の余韻、穀物香の観点から総合的なビールらしさが向上したという顕著な効果を奏している。

したがって、引用発明1において、2-アセチルチアゾールに替えて、2-アセチル-2-チアゾリンを穀物様香気成分として変更することは、当業者といえども、容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

特許異議申立人は、特許異議申立書15頁において、2-アセチル-2-チアゾリンと2-アセチルチアゾールとの比較で、臭気閾値が2-アセチル-2-チアゾリンの方が2-アセチルチアゾールの10分の1であることを指摘し、ビールらしい風味の改善を目的として置き換えることは強く動機付けられる旨主張している。

しかしながら、両者がビールに含まれていることや同じ表に記載されているからといって、引用発明1の成分を変更する動機付けにはならないし、ポップコーンの香りを有している化合物の臭気閾値の差が穀物様香気成分として変更する動機付けになるわけでもないから、特許異議申立人の主張は、上記進歩性の判断の結論に影響するものではない。

ア-2 引用発明2との対比
本件特許発明1と引用発明2とを対比すると、
引用発明2の「プリン体濃度が非常に低いノンアルコール飲料又はローアルコール飲料を含めた非発酵ビール様発泡性飲料」は、本件特許発明1の少なくとも「低プリン体ビール様アルコール飲料、又はビール様ノンアルコール飲料である、ビール様飲料」に該当する。
また、引用発明2の「非発酵ビール様発泡性飲料のビールらしさが強く付与される香気成分」は、ビール様飲料に用いられビールらしさが付与されているのであるから本件特許発明1の「ビール様飲料用風味改善剤」に該当する。

したがって、本件特許発明1と引用発明2とは、「ビール様飲料用風味改善剤であって、
風味を改善しようとするビール様飲料が、低カロリービール様アルコール飲料、低糖質ビール様アルコール飲料、糖質ゼロビール様アルコール飲料、低プリン体ビール様アルコール飲料、プリン体ゼロビール様アルコール飲料、又はビール様ノンアルコール飲料である、ビール様飲料用風味改善剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1’:について、ビール様飲料用風味改善剤に含有させる成分として、本件特許発明1は、2-アセチル-2-チアゾリンが特定されているのに対して、引用発明2は、2-アセチルチアゾールが特定されている点

イ-2 相違点1’の判断
甲第2号証には、非発酵ビール様発泡性飲料のビールらしさが強く付与される香気成分として、16の香気成分が記載されているものの、2-アセチル-2-チアゾリンは選択肢の記載としても挙げられていない。
一方、甲第3号証には、前述のとおり、チアゾール類として、チアゾールとその誘導体は、コーヒー、ボイルした肉、ボイルしたポテト、加熱したミルク、ビールなどの食品で検出されること及び食品中のチアゾール類とチアゾリン類の表5.22において、2-アセチル-チアゾール及び2-アセチル-2-チアゾリンを含めて5つの化合物が示され、両化合物は、ポップコーンの香りがあることが示されている。
しかしながら、甲第2号証には、上述のとおり、特定の16の香気成分を選択したことに特徴がある発明が記載されているのであり、引用発明2におけるアセチルチアゾールは穀物用香気成分として使用されているのに対して、甲第3号証には、2-アセチル-2-チアゾリンはポップコーンの香りがあるとされているのであるから、チアゾールとその誘導体がコーヒー、ボイルした肉、ボイルしたポテト、加熱したミルク、ビールなどの食品で検出されることや、食品中の化合物として同一の表に示されているからといって、引用発明2において、穀物用香気成分として、2-アセチルチアゾールに替えて、甲第2号証において特定の16の香気成分の選択肢にも挙げられていない2-アセチル-2-チアゾリンに着目して選択する動機付けはない。

そして、本件特許発明1は、2-アセチル-2-チアゾリンを含めたビール様飲料用風味改善剤という構成とすることで、【0033】?【0035】の官能評価結果に基づき、[表1][表2]に示した実施例1,2の結果を得て、ビールらしさ、味の膨らみ、後味の余韻、穀物香の観点から総合的なビールらしさが向上したという顕著な効果を奏している。

したがって、引用発明2において、2-アセチルチアゾールに替えて、2-アセチル-2-チアゾリンを穀物用香気成分として変更することも、当業者といえども、容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

ウ 上述のとおり、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明並びに甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3-2)本件特許発明2?6について
ア 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1において、前記第2のとおり、「2-アセチル-2-チアゾリンの濃度が0.5?5.0ppbになる量で含まれる」ことをさらに技術的に限定した発明であり、引用発明1、引用発明2いずれとの対比においても、以下の相違点2を有する。

相違点2:本件特許発明2は、2-アセチル-2-チアゾリンの濃度が0.5?5.0ppbになる量で含まれるのに対して、引用発明1(又は引用発明2)では、2-アセチルチアゾールが含まれる点

甲第1号証(又は甲第2号証)には、摘記(1e)(又は摘記(2e))に2-アセチルチアゾールに関しては、好ましい含有量が記載されているものの、2-アセチル-2-チアゾリンの濃度は記載されていないし、本件特許発明1で検討したのと同様に、引用発明1(又は引用発明2)において、2-アセチルチアゾールに替えて、2-アセチル-2-チアゾリンを穀物用香気成分として変更することは、当業者といえども、容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明並びに甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

イ 本件特許発明3,4について
本件特許発明3,4は、それぞれ本件特許発明1,2をビール様飲料の製造方法の発明として特定したものであり、本件特許発明1,2について検討したのと同様に、引用製造方法発明1(又は引用製造方法発明2)において、2-アセチルチアゾールに替えて、2-アセチル-2-チアゾリンを穀物用香気成分としてとして変更することは、当業者といえども、容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

本件特許発明3,4は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明並びに甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

ウ 本件特許発明5,6について
本件特許発明5,6は、それぞれ本件特許発明1,2をビール様飲料用風味改善剤としての使用方法の発明として特定したものであり、本件特許発明1,2について検討したのと同様に、引用使用方法発明1(又は引用使用方法発明2)において、2-アセチルチアゾールに替えて、2-アセチル-2-チアゾリンを穀物用香気成分として変更することは、当業者といえども、容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

本件特許発明5,6は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明並びに甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(4)小括
以上のとおり、特許異議申立人の特許法第29条第2項(進歩性)の特許異議申立理由には理由がない。

2 理由2について(特許法第36条第6第1号)について
(1)本件特許発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件特許発明の課題について
後記(4)(4-1)の記載及び本件特許明細書全体を参酌して、本件特許発明1?2の課題は、ビール様飲料に、ビール特有の味の膨らみ、後味の余韻及び穀物香を付与することができ、総合的なビールらしさに優れた風味を付与することができる風味改善剤を提供することにあり、本件特許発明3?4の課題は、該風味改善剤を添加するビール様飲料の製造方法の提供にあるものと認められ、本件特許発明5?6の課題は、該ビール様飲料用風味改善剤の使用方法の提供にあるものと認められる。

(3)特許請求の範囲の記載
請求項1には、「ビール様飲料用風味改善剤」として、「2-アセチル-2-チアゾリンを含む」こと、「風味を改善しようとするビール様飲料が、低カロリービール様アルコール飲料、低糖質ビール様アルコール飲料、糖質ゼロビール様アルコール飲料、低プリン体ビール様アルコール飲料、プリン体ゼロビール様アルコール飲料、又はビール様ノンアルコール飲料である」ことを特定した物の発明が記載されている。
また、請求項2には、請求項1において、「風味を改善しようとするビール様飲料に、2-アセチル-2-チアゾリンの濃度が0.5?5.0ppbになる量で含まれる」ことをさらに特定した物の発明が記載されている。
さらに、請求項3には、「ビール様飲料の製造方法」として、請求項1の「ビール様飲料用風味改善剤を添加することによりビールらしい風味を付与又は増強する工程を包含し」こと、請求項1の「風味を改善しようとするビール様飲料」を限定した製造方法の発明が、請求項4には、請求項3において、「風味を改善しようとするビール様飲料に含まれる2-アセチル-2-チアゾリンの濃度が0.5?5.0ppbになる量で添加される」ことをさらに限定した製造方法の発明が記載されている。
そして、請求項5には、「低カロリービール様アルコール飲料、低糖質ビール様アルコール飲料、糖質ゼロビール様アルコール飲料、低プリン体ビール様アルコール飲料、プリン体ゼロビール様アルコール飲料、又はビール様ノンアルコール飲料」に対して「2-アセチル-2-チアゾリン」を「ビール様飲料用風味改善剤として」の「使用」する方法の発明が記載され、請求項6には、請求項5において、「風味を改善しようとするビール様飲料に含まれる2-アセチル-2-チアゾリンの濃度が0.5?5.0ppbになる量で添加される」ことをさらに限定した使用方法の発明が、それぞれ記載されている。

(4)発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、請求項にかかる発明に関する記載として、特許請求の範囲の実質的繰り返し記載を除いて以下の記載がある。

(4-1)本件特許発明の技術分野、背景技術、課題について
「【0001】
本発明は、ビール様飲料の風味を改善するために使用するビール様飲料用風味改善剤に関する。
・・・
【0002】
近年の低価格志向を背景に、麦芽使用比率が低い、または、麦芽を使用しないビール様飲料が数多く市販されている。このように麦芽使用量を低減させたビール様飲料では本格的なビールの風味やコク感が失われてしまうことが多い。
【0003】
また、近年の健康ブームを背景に、低糖質、低カロリー、低アルコール、糖質ゼロ又はノンアルコール等、機能系のビール様飲料が数多く市販されている。例えば、糖質やプリン体の含有量を低減させたビール様アルコール飲料は、その製造工程において活性炭処理等の方法により、糖質やプリン体の除去を行っている。その過程で、ビールらしい風味を維持するために本来必要な成分まで除去されてしまい、風味のバランスが崩れてしまうことがある。
【0004】
また、風味バランスが崩れない場合でも、不要成分を除去する課程でビール様飲料のコク感が低減し、ビールらしい風味が失われてしまうことは多い。
【0005】
ビール様ノンアルコール飲料は一般的にアルコール発酵工程を経ずに製造されるため、ビールらしさを欠き、飲用意向に劣るという問題がある。
・・・
【0011】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、ビール様飲料に、ビールらしい風味を付与することができる、又はそのビールらしい風味を増強することができる添加物を提供することにある。
」(下線は当審にて追加。以下同様。)

(4-2)本件特許発明の効果について
「【0021】
本発明のビール様飲料用風味改善剤を、風味を改善しようとするビール様飲料に添加すると、ビール様飲料のビールらしい風味が生成又は増強される。特に、本発明のビール様
飲料用風味改善剤は、ビールらしい風味が弱いビール様飲料に、ビール特有の味の膨らみ、後味の余韻及び穀物香を付与することができ、総合的なビールらしさに優れたビール様飲料を提供することができる。」

(4-3)風味を改善する対象として好ましいビール様飲料、風味改善剤の添加量の最適範囲、ビール様飲料の製造方法について
「【0022】
本発明の風味改善剤はビール様飲料の風味を改善するために使用される。風味とは香りや味わいをいう。改善とは一般的な消費者の嗜好に合うように改変することをいう。
【0023】
ビール様飲料とは、ビールらしい風味を有する飲料の全てを指していう。例えば、ビール様飲料には、デンプン原料を糖化して糖液を得、これにホップを添加し、酵母で発酵させたアルコール飲料が一例として挙げられる。デンプン原料としては、麦芽、及び大麦、米、とうもろこし等の穀物類、穀物類から分離したデンプンなどが使用される。ビール様飲料の具体例には、ビール、発泡酒、雑酒、リキュール類、スピリッツ類、低アルコール飲料、ノンアルコール飲料などであって、ビールらしい風味を有するものが含まれる。
【0024】
中でも、風味を改善する対象として好ましいビール様飲料は低糖質ビール様アルコール飲料、糖質ゼロビール様アルコール飲料、低プリン体ビール様アルコール飲料、プリン体ゼロビール様アルコール飲料、低カロリービール様アルコール飲料及びカロリーゼロビール様アルコール飲料等のいわゆる機能系のビール様アルコール飲料である。これらは、低糖質化、低カロリー化又は低プリン体化される過程で適切な風味を実現するのに必要な香味物質が除去されてしまい、コク感又はビールらしい風味が減少していることが多いからである。
【0025】
また、ビール様アルコール飲料には、飲用水に、麦汁、麦芽エキス、糖類、香料及びエタノールなどを加えることによりビールらしい風味及び味質に仕上げたものもある。発酵工程を行わないか、発酵工程を行う場合でも、実質的な量のアルコールを生成させない程度に制限したビール様アルコール飲料は、以下、「非発酵ビール様アルコール飲料」という。
【0026】
非発酵ビール様アルコール飲料はデンプン原料を発酵させることなく製造され、発酵感が不足し、アルコールの刺激臭又はアルコール感が強いという問題がある。それゆえ、非発酵ビール様アルコール飲料は風味を改善する対象として好ましい。
【0027】
また、ビール風味炭酸飲料等のビール様ノンアルコール飲料はデンプン原料を発酵させることなく製造され、コク感及びビールらしい風味に乏しく、麦汁臭を呈することが多い。それゆえ、ビール様ノンアルコール飲料も風味を改善する対象として好ましい。
【0028】
本発明のビール様飲料用風味改善剤は2-アセチル-2-チアゾリンを含有する。本発明のビール様飲料用風味改善剤は、風味を改善しようとするビール様飲料に適量添加される。そのことにより、コク感又はビールらしい風味が付与又は増強されたビール様飲料が製造される。
【0029】
風味改善剤の添加量の最適範囲は、風味改善の対象とするビール様飲料の種類又は目標とする呈味レベルによって異なる。一般には、ビール様飲料に含まれる風味改善剤の濃度が0.25?10.0ppb、好ましくは0.5?5.0ppb、より好ましくは1.0?2.5ppbの範囲になるように、適宜調節される。風味改善剤の濃度が0.25ppb未満であると風味改善効果が不十分となり、10.0ppbを超えると香味バランスが崩れ、ビールらしい風味が損なわれる場合がある。
【0030】
風味を改善しようとするビール様飲料に本発明の風味改善剤を添加する場合、そのタイミングに制限はなく、ビール様飲料の製造工程における適当な工程で添加することができる。例えば、発泡酒に添加する場合には、麦汁煮沸後の冷却工程、発酵工程又は熟成工程等任意の工程でよいが、添加する工程が前工程であればあるほど、風味改善剤中の各成分の濃度の消長が考えられるため、後発酵工程の終了後が望ましい。」

(4-4)実施例の官能評価項目、基準、結果について
「 実施例1
風味を改善する対象として新ジャンル発泡性リキュール(「アサヒオフ」(商品名)、アサヒビール社製)を準備した。「アサヒオフ」は糖質含有量が0.4?0.9g/100ml、プリン体含有量が0?0.66mg/100ml、カロリー量が26kcal/100mlである。「アサヒオフ」の糖質含有量、プリン体含有量、カロリー量は通常のビール様飲料より低く、「アサヒオフ」は低糖質低プリン体低カロリービール様アルコール飲料である。・・・
【0033】
風味改善剤として2-アセチル-2-チアゾリンを準備した。2-アセチル-2-チアゾリンを「アサヒオフ」に所定量添加し、ビール様アルコール飲料を製造した。そして、専門評価者によって、製造したビール様アルコール飲料の風味の官能評価を行った。その際、「アサヒオフ」を対照として使用し、評価値は、3名の専門評価者の平均値を採用した。評価項目及び評価基準は次の通りである。官能評価の結果を表1に示す。
【0034】
評価項目

【0035】
評価基準

【0036】
[表1]

【0037】
実施例2
風味を改善する対象としてビール風味炭酸飲料(「アサヒドライゼロ」(商品名)、アサヒビール社製)を準備した。「アサヒドライゼロ」はエネルギー量が0kcal/100ml、糖質含有量が0g/100mlと低く、カロリーゼロ糖質ゼロビール様炭酸飲料である。
【0038】
「アサヒオフ」の代わりに「アサヒドライゼロ」を使用すること以外は実施例1と同様にして、2-アセチル-2-チアゾリンの風味改善機能を試験した。結果を表2に示す。
【0039】
[表2]

【0046】
実施例1?4の結果から、2-アセチル-2-チアゾリンを所定量含有させることにより、ビール様飲料の等の総合的なビールらしさが向上することが理解される。特に、機能系ビール様アルコール飲料及びビール様ノンアルコール飲料については、0.5?5.0ppbの濃度で含有させることにより、総合的なビールらしさ(即ち、ビール特有の味の膨らみ、後味の余韻及び穀物香があること)の顕著な向上が示された。」

(5)判断
ア 発明の詳細な説明には、上記(4)(4-3)のとおり、風味を改善する対象として好ましいビール様飲料が例示され、低糖質化、低カロリー化又は低プリン体化される過程で適切な風味を実現するのに必要な香味物質が除去されてしまい、コク感又はビールらしい風味が減少していることが多いからであることが記載され(【0024】)、 非発酵ビール様アルコール飲料はデンプン原料を発酵させることなく製造され、発酵感が不足し、アルコールの刺激臭又はアルコール感が強いという問題があるので、非発酵ビール様アルコール飲料は風味を改善する対象として好ましいことも記載され(【0026】)、ビール風味炭酸飲料等のビール様ノンアルコール飲料はデンプン原料を発酵させることなく製造され、コク感及びビールらしい風味に乏しく、麦汁臭を呈することが多いので、ビール様ノンアルコール飲料も風味を改善する対象として好ましいことも記載されている【0027】)。
そして、【0028】には、本発明のビール様飲料用風味改善剤は2-アセチル-2-チアゾリンを風味を改善しようとするビール様飲料に適量添加されることにより、コク感又はビールらしい風味が付与又は増強されたビール様飲料が製造されることや、【0029】には、風味改善剤の添加量の最適範囲は、風味改善の対象とするビール様飲料の種類又は目標とする呈味レベルによって異なり、一般には、風味改善効果が不十分さと香味バランスが崩れ、ビールらしい風味が損なわれる場合があることを考慮して上下限が適宜調節され、風味改善剤の濃度が0.25ppb未満であると風味改善効果が不十分となり、10.0ppbを超えると香味バランスが崩れ、ビールらしい風味が損なわれる場合があるとの記載があり、風味改善剤に2-アセチル-2-チアゾリンを一定量添加することの技術的意義が明らかにされている。
そして、実施例1,2において、低糖質低プリン体低カロリービール様アルコール飲料及びカロリーゼロ糖質ゼロビール様炭酸飲料に関して、2-アセチル-2-チアゾリンを0.25?10.0ppbの含有量において、風味改善剤として添加した場合に、添加しない場合に比較してビール様飲料の等の総合的なビールらしさ(ビール特有の味の膨らみ、後味の余韻及び穀物香があること)が向上することが具体的に示されている。

したがって、2-アセチル-2-チアゾリンを一定量添加することの技術的意義や最適範囲に関する記載、2-アセチル-2-チアゾリンを0.25?10.0ppbの含有量において添加した場合の具体的評価結果を考慮すると、当業者であれば、ビール様飲料に、ビール特有の味の膨らみ、後味の余韻及び穀物香を付与することができ、総合的なビールらしさに優れた風味を付与することができる風味改善剤を提供するという本件特許発明1の課題が解決できると認識できる。

イ 特許異議申立人は、特許異議申立書18?19頁において、本件特許発明1において、ビール様飲料用風味改善剤として、2-アセチル-2-チアゾリンの含有量が規定されていないところ、実施例の範囲内でも濃度が高くても低くても評価が低下する傾向にあり、甲第1号証や甲第2号証における別の16の香気成分でも同様の傾向が観察されるので、あらゆる濃度において、ビール様飲料に対してビールらしさを付与ないし増強して課題解決できると認識できない旨主張している。

しかしながら、本件特許発明は、ビール様飲料用風味改善剤として、2-アセチル-2-チアゾリンを用いる点を技術思想とする発明であって、上述のとおり、2-アセチル-2-チアゾリンを一定量添加することの技術的意義や最適範囲に関する記載、2-アセチル-2-チアゾリンを0.25?10.0ppbの含有量において添加した場合の具体的評価結果を考慮するとどの程度の添加量とすべきかは当業者であれば風味改善の対象や目的に応じて設定できるといえ、一定程度のビール様飲料に対するビールらしさの風味改善がなされ課題解決ができると認識するといえる。
したがって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

ウ よって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に裏付けをもって記載されているといえる。

エ また、本件特許発明2?6についても、上記(3)に記載のように、本件特許発明1において、2-アセチル-2-チアゾリンの含有量を0.5?5.0ppbと技術的に限定したもの又はビール様飲料の製造方法並びにビール様飲料用の風味改善剤としての使用方法として特定したものにすぎず、【0028】【0029】【0030】【0036】[表1]【0039】[表2]に技術的限定事項に関する記載があるから、本件特許発明1において検討したのと同様に、本件特許発明2?6についても、発明の詳細な説明に裏付けをもって記載されているといえる。

(6)小括
以上のとおり、特許異議申立人の特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の特許異議申立理由には理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、本件請求項1?6に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた特許異議申立理由によっては、取り消されるべきものとはいえない。
また、他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-11-07 
出願番号 特願2014-229047(P2014-229047)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C12G)
P 1 651・ 537- Y (C12G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鳥居 敬司  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 天野 宏樹
瀬良 聡機
登録日 2019-02-22 
登録番号 特許第6484005号(P6484005)
権利者 アサヒビール株式会社
発明の名称 ビール様飲料用風味改善剤  
代理人 鮫島 睦  
代理人 山田 卓二  
代理人 山尾 憲人  
代理人 佐藤 剛  
代理人 西下 正石  
代理人 西下 正石  

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