ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する C07K 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する C07K 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C07K 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C07K 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C07K |
---|---|
管理番号 | 1357083 |
審判番号 | 訂正2019-390093 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2019-08-05 |
確定日 | 2019-10-18 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5884139号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第5884139号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第5884139号に係る出願は、平成23年10月4日に出願され、その請求項1?12に係る発明について平成28年2月19日に特許権の設定登録がされたものであり、その後、令和1年8月5日に本件訂正審判が請求されたものである。 第2 請求の趣旨及び訂正の内容 本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第5884139号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものであって、その訂正の内容は、下記訂正事項1?12のとおりである。 1.訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「軽鎖CDR1(配列番号54の49?54位で表わされるアミノ酸配列)、軽鎖CDR2(配列番号54の69?84位で表わされるアミノ酸配列)、軽鎖CDR3(配列番号54の117?128位で表わされるアミノ酸配列)、重鎖CDR1(配列番号56の46?55位で表わされるアミノ酸配列)、重鎖CDR2(配列番号56の71?77位で表わされるアミノ酸配列)、及び重鎖CDR3(配列番号56の100?108位で表わされるアミノ酸配列)を含み、」とあるのを、「軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、軽鎖CDR3、重鎖CDR1、重鎖CDR2、及び重鎖CDR3を含み、ここで、軽鎖CDR1?3及び重鎖CDR1?3は、それぞれ配列番号54及び56において、Kabatらの番号付け(Kabat, E. A. ,et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., 1991, Bethesda:US Dept. of Health and Human Services, PHS, NIH.)により規定され、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?10も同様に訂正する)。 2.訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 3.訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 4.訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3のいずれか1項」とあるのを、「請求項1」に訂正する。 5.訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれか1項」とあるのを、「請求項1又は4」に訂正する。 6.訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか1項」とあるのを、「請求項1、4及び5のいずれか1項」に訂正する。 7.訂正事項7 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7のいずれか1項」とあるのを、「請求項1及び4?7のいずれか1項」に訂正する。 8.訂正事項8 特許請求の範囲の請求項9に「請求項1?7のいずれか1項」とあるのを、「請求項1及び4?7のいずれか1項」に訂正する。 9.訂正事項9 特許請求の範囲の請求項10に「請求項1?7のいずれか1項」とあるのを、「請求項1及び4?7のいずれか1項」に訂正する。 10.訂正事項10 明細書段落【0007】に「軽鎖CDR1(配列番号54の49?54位で表わされるアミノ酸配列)、軽鎖CDR2(配列番号54の69?84位で表わされるアミノ酸配列)、軽鎖CDR3(配列番号54の117?128位で表わされるアミノ酸配列)、重鎖CDR1(配列番号56の46?55位で表わされるアミノ酸配列)、重鎖CDR2(配列番号56の71?77位で表わされるアミノ酸配列)、及び重鎖CDR3(配列番号56の100?108位で表わされるアミノ酸配列)から選ばれる少なくとも一つを含む」と記載されているのを、「軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、軽鎖CDR3、重鎖CDR1、重鎖CDR2、及び重鎖CDR3から選ばれる少なくとも一つを含む」に訂正する。 11.訂正事項11 明細書段落【0016】に「相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)として軽鎖CDR1(配列番号54の49?54位で表わされるアミノ酸配列)、軽鎖CDR2(配列番号54の69?84位で表わされるアミノ酸配列)、軽鎖CDR3(配列番号54の117?128位で表わされるアミノ酸配列)、軽鎖CDR1(配列番号56の46?55位で表わされるアミノ酸配列)、重鎖CDR2(配列番号56の71?77位で表わされるアミノ酸配列)、及び重鎖CDR3(配列番号56の100?108位で表わされるアミノ酸配列)から選ばれる少なくとも一つを含む」と記載されているのを、「相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)として軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、軽鎖CDR3、軽鎖CDR1、重鎖CDR2、及び重鎖CDR3から選ばれる少なくとも一つを含む」に訂正する。 12.訂正事項12 明細書段落【0071】に「配列番号54において、Kabatらの番号付け(Kabat,E.A.,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,1991,Bethesda:US Dept.of Health and Human Services,PHS,NIH.)によれば1?18位がリーダー配列、49?54位がCDR1、69?84位がCDR2、117?128位がCDR3に相当する。同様に、配列番号56において、1?22位がリーダー配列、46?55位がCDR1、71?77位がCDR2、100?108位がCDR3に相当する。」と記載されているのを、「配列番号54において、Kabatらの番号付け(Kabat,E.A.,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,1991,Bethesda:US Dept.of Health and Human Services,PHS,NIH.)によりリーダー配列、CDR1、CDR2、CDR3が規定される。同様に、配列番号56において、リーダー配列、CDR1、CDR2、CDR3が規定される。」に訂正する。 第3 当審の判断 事案に鑑み、訂正事項1、同12、同10?11、同2?9の順に判断する。 1.訂正事項1について (1)訂正事項1による請求項1の訂正について ア 訂正の目的 訂正事項1による請求項1の訂正は、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1に記載された「(配列番号54の49?54位で表わされるアミノ酸配列)」、「(配列番号54の69?84位で表わされるアミノ酸配列)」、「(配列番号54の117?128位で表わされるアミノ酸配列)」、「(配列番号56の46?55位で表わされるアミノ酸配列)」、「(配列番号56の71?77位で表わされるアミノ酸配列)」、及び「(配列番号56の100?108位で表わされるアミノ酸配列)」(以下、これら6つの記載をまとめて「かっこ書きのアミノ酸配列」という。)を削除し、かつ、「ここで、軽鎖CDR1?3及び重鎖CDR1?3は、それぞれ配列番号54及び56において、Kabatらの番号付け(Kabat, E. A. ,et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., 1991, Bethesda:US Dept. of Health and Human Services, PHS, NIH.)により規定され、」を挿入するものである。 設定登録時の特許請求の範囲の請求項1に記載される抗体は、その記載から、「アミノ酸配列CRHNYGVGESFT(配列番号:1)を含むエピトープと、アミノ酸配列RNQKGHSGLQPRGFLS(配列番号:28)、アミノ酸配列FFNGTERVRLLERHF(配列番号:8)、及びアミノ酸配列RHNYGAVESFTVQRR(配列番号:15)から選ばれる少なくとも一つを含むエピトープと結合する認識部位を有し、且つ悪性腫瘍に発現しているMHCクラスIIを構成するタンパク質を認識する」という性質を有する抗体であり、かつ、その相補性決定領域である軽鎖CDR1?3及び重鎖CDR1?3(以下、これらをまとめて「CDRs」ともいう。)が、4713mAbの軽鎖可変領域及び重鎖可変領域のアミノ酸配列を示す配列番号54及び56を用いて特定されている。そして、4713mAbは、上述の性質を有する抗体として設定登録時の明細書の発明の詳細な説明に具体的に開示された唯一の抗体であるから、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1に記載される抗体が4713mAbに基づく発明であることは明らかである。 一方、設定登録時の明細書の段落【0071】には、「以上の方法により取得した4713mAb重鎖及び軽鎖の可変領域の遺伝子配列及びアミノ酸配列をそれぞれ図15及び16に示す。軽鎖の可変領域の遺伝子配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号53及び54に示す。重鎖の可変領域の遺伝子配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号55及び56に示す。配列番号54において、Kabatらの番号付け(Kabat, E. A. ,et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., 1991, Bethesda:US Dept. of Health and Human Services, PHS, NIH.)によれば・・・位がCDR1、・・・位がCDR2、・・・位がCDR3に相当する。同様に、配列番号56において、・・・位がCDR1、・・・位がCDR2、・・・位がCDR3に相当する。」と記載されているから、設定登録時の明細書において、4713mAbのCDRsがKabatらの番号付け(Kabat, E. A. ,et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., 1991, Bethesda:US Dept. of Health and Human Services, PHS, NIH.)により規定されたことは明らかであり、そうすると、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1に記載されたCDRsが、4713mAbの軽鎖可変領域及び重鎖可変領域のアミノ酸配列を示す配列番号54及び56においてKabatらの番号付け(Kabat, E. A. ,et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., 1991, Bethesda:US Dept. of Health and Human Services, PHS, NIH.)により規定されたCDRsであることも明らかである。 そして、Kabatらの番号付け(Kabat, E. A. ,et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., 1991, Bethesda:US Dept. of Health and Human Services, PHS, NIH.)により規定された抗体のCDRsの位置を確認する種々の手段が当該技術分野の当業者に知られているところ、例えば、米国の国立生物工学情報センター(NCBI)が提供する、免疫グロブリン(IG)とT細胞受容体(TR)のVドメイン配列の検索ツール「IGBLAST」(https//www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)を用いて取得される、4713mAbのCDRsの位置はそれぞれ、甲第1号証に示されるとおり、軽鎖CDR1?CDR3について配列番号54における46?55位、71?77位、110?118位、重鎖CDR1?CDR3について配列番号56における49?54位、69?84位、117?128位であり、これらの位置がKabatらの番号付けにより規定される4713mAbのCDRsの正しい位置であることが技術的に理解される。 しかしながら、これらの位置は、設定登録時の明細書の段落【0071】に記載され、あるいは、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1の軽鎖CDR1?3及び重鎖CDR1?3のそれぞれの記載の後にかっこ書きで示されている、配列番号54における49?54位、69?84位、117?128位、配列番号56における46?55位、71?77位、110?118位とは異なっており、これらの位置がKabatらの番号付けにより規定される4713mAbのCDRsの位置として誤りであることが技術的に理解される。 そうすると、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1の軽鎖CDR1?3及び重鎖CDR1?3のそれぞれの記載の後のかっこ書きのアミノ酸配列は、配列番号54及び56におけるCDRsの位置として誤った位置に対応するアミノ酸配列を示しているという不合理を生じているから、そのような不合理な記載を訂正し、当該CDRsがそれぞれ、配列番号54及び56においてKabatらの番号付けにより規定される本来の意味のものであるとする訂正事項1の訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 したがって、訂正事項1による請求項1の訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 前記アで述べたとおり、設定登録時の明細書の段落【0071】に記載され、あるいは、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1の軽鎖CDR1?3及び重鎖CDR1?3のそれぞれの記載の後にかっこ書きで示されている、配列番号54及び56におけるCDRsの位置は、Kabatらの番号付けにより規定されるCDRsの位置として技術的にみて誤りであって、その正しい位置は当業者にとって明らかである。 そうすると、前記の誤った記載を訂正し、特許請求の範囲の請求項1に記載されるCDRsがそれぞれ、配列番号54及び56においてKabatらの番号付けにより規定される本来の意味のものであるとする訂正事項1の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるし、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 したがって、訂正事項1による請求項1の訂正は、特許法第126条第5項及び第6項に適合する。 (2)訂正事項1による請求項2?10の訂正について 訂正事項1による訂正後の請求項2?10は、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1を直接又は間接に引用することにより、請求項1中の不合理を生じている記載を含んでいた、設定登録時の特許請求の範囲の請求項2?10について、請求項1と同様に訂正するものであるから、訂正事項1による請求項1の訂正について前記(1)アで述べたのと同様に、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、前記(1)イで述べたのと同様に、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるし、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 したがって、訂正事項1による請求項2?10の訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、同条第5項乃至第6項の規定に適合する。 (3)まとめ 以上のとおり、訂正事項1による請求項1?10の訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、同条第5項乃至第6項の規定に適合する。 2.訂正事項12について 訂正事項12の訂正は、設定登録時の明細書の段落【0071】の4713mAbの重鎖及び軽鎖の可変領域に関する記載である「配列番号54において、Kabatらの番号付け(・・・)によれば1?18位がリーダー配列、49?54位がCDR1、69?84位がCDR2、117?128位がCDR3に相当する。同様に、配列番号56において、1?22位がリーダー配列、46?55位がCDR1、71?77位がCDR2、100?108位がCDR3に相当する。」を、「配列番号54において、Kabatらの番号付け(・・・)によりリーダー配列、CDR1、CDR2、CDR3が規定される。同様に、配列番号56において、リーダー配列、CDR1、CDR2、CDR3が規定される。」に訂正するものである。 そして、前記1(1)アで述べたとおり、設定登録時の明細書の段落【0071】に記載される、配列番号54及び56におけるCDRsの位置は、Kabatらの番号付けにより規定されるCDRsの位置として技術的にみて誤りであって、その正しい位置は当業者にとって明らかである。 そうすると、設定登録時の明細書の段落【0071】の4713mAbの重鎖及び軽鎖の可変領域に関する記載は、配列番号54及び56においてKabatらの番号付けにより規定されるCDRsの位置として誤った位置を記載しているという不合理を生じており、そのような不合理な記載を訂正し、当該CDRsがそれぞれ、配列番号54及び56においてKabatらの番号付けにより規定される本来の意味のものであるとする訂正事項12の訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、上述のとおり、配列番号54及び56においてKabatらの番号付けにより規定されるCDRsの正しい位置は当業者にとって明らかであるから、配列番号54及び56におけるCDRsの位置として誤った記載を訂正し、それらがそれぞれKabatらの番号付けにより規定される本来の意味のものであるとする訂正事項12の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるし、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 よって、訂正事項12の訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、同条第5項乃至第6項の規定に適合する。 3.訂正事項10及び11について 訂正事項10の訂正は、設定登録時の明細書の段落【0007】において、また、訂正事項11の訂正は、設定登録時の明細書の段落【0016】において、軽鎖CDR1?3及び重鎖CDR1?3のそれぞれの記載の後のかっこ書きのアミノ酸配列を削除するものであるところ、当該かっこ書きのアミノ酸は、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1の軽鎖CDR1?3及び重鎖CDR1?3のそれぞれの記載の後のかっこ書きのアミノ酸配列と同じものである。 そして、前記1(1)アで述べたとおり、設定登録時の明細書の段落【0071】に記載され、あるいは、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1の軽鎖CDR1?3及び重鎖CDR1?3のそれぞれの記載の後にかっこ書きで示されている、配列番号54及び56におけるCDRsの位置は、Kabatらの番号付けにより規定されるCDRsの位置として技術的にみて誤りであって、その正しい位置は当業者にとって明らかである。 そうすると、設定登録時の明細書の段落【0007】及び同【0016】に記載されたかっこ書きのアミノ酸配列も、配列番号54及び56においてKabatらの番号付けにより規定されるCDRsの位置として誤った位置を記載しているという不合理を生じているから、そのような不合理な記載を削除することにより当該CDRsがそれぞれ、配列番号54及び56においてKabatらの番号付けにより規定される本来の意味のものであるとするする訂正事項10及び11の訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、上述のとおり、配列番号54及び56においてKabatらの番号付けにより規定されるCDRsの正しい位置は当業者にとって明らかであるから、訂正事項10及び11の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるし、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 よって、訂正事項10及び11の訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、同条第5項乃至第6項の規定に適合する。 4.訂正事項2及び3について 訂正事項2及び3はそれぞれ、訂正前の請求項2及び3を削除するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2及び3はそれぞれ、訂正前の請求項2及び3の記載を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 また、訂正事項2及び3はそれぞれ、訂正前の請求項2及び3を削除するものであって、独立特許要件について判断すべき対象が存在しないから、特許法126条7項に適合するか否かの判断を要しない。 よって、訂正事項2及び3の訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項乃至第6項の規定に適合する。 5.訂正事項4?9について 訂正事項4?9のそれぞれによる請求項4?6、8?10の訂正はいずれも、請求項2及び3を削除する訂正事項2及び3の訂正に伴い、請求項4?6、8?10のそれぞれ、及び、請求項4?6、8?10を直接または間接に引用する請求項における、引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項4?9のそれぞれによる請求項4?6、8?10の訂正はいずれも、請求項2及び3を削除する訂正事項2及び3の訂正に伴い、請求項4?6、8?10のそれぞれ、及び、請求項4?6、8?10を直接または間接に引用する請求項における、引用請求項の一部を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 また、訂正事項4?9のそれぞれによる請求項4?6、8?10の訂正はいずれも、請求項2及び3を削除する訂正事項2及び3の訂正に伴い、請求項4?6、8?10のそれぞれ、及び、請求項4?6、8?10を直接または間接に引用する請求項における、引用請求項の一部を削除するものであるから、特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在せず、本訂正により特許法第36条第4項第1号又は第6項(第4号を除く)に規定する要件を満たさなくなるものでもないから、独立特許要件を満たす。 よって、訂正事項4?9のそれぞれによる請求項4?6、8?10の訂正はいずれも、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項乃至第7項の規定に適合する。 第4 むすび 以上のとおり、訂正事項1?12に係る本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とし、同条第5項乃至第7項の規定に適合する。 よって、結論のとおり、訂正することを認める。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 MHCクラスIIを発現する悪性腫瘍の治療薬 【技術分野】 【0001】 本発明は、クラスII主要組織適合遺伝子複合体(MHCクラスII)を発現する悪性腫瘍、特に悪性リンパ腫に対して特異的に細胞傷害性活性を有する抗体に関する。本発明はさらに、該抗体を含んでなる医薬組成物、悪性リンパ腫の検出薬に関する。 【背景技術】 【0002】 悪性リンパ腫は、リンパ系の組織から発生する腫瘍であり、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分類される。悪性リンパ腫の治療は主に放射線療法と抗がん剤による化学療法が行なわれる。悪性リンパ腫は、全身に発生するため、完治が困難であり、再発することもある。 近年では、抗CD20を標的としたキメラ抗体(Rituximab)が作製され、非ホジキンリンパ腫の一種であるB細胞リンパ腫において有意な抗腫瘍効果を発揮しており、副作用も限定されている(非特許文献1)。しかしながらRituximab単独では効果が低い癌もあり、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン及びプレドニゾロンによる治療との併用療法が採用されているが、さらに有効な治療薬の開発が望まれている(非特許文献2、非特許文献3)。よって、新たな抗原をターゲットとした抗腫瘍抗体が必要とされており、MHCクラスIIに対するモノクローナル抗体には、Rituximabと異なる抗原を認識する抗体として臨床における抗悪性リンパ腫活性が期待される。しかし、これまでも抗MHCクラスIIに対する抗体、例えばHLA-DRに対する抗体は開発されているものの、治療薬として使用されるまでにはいたっていない(特許文献1)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0003】 【特許文献1】WO2003/033538 【非特許文献】 【0004】 【非特許文献1】McLaughlin P.et.al.,J Clin Oncol.(1998),16,2825-2833 【非特許文献2】Coiffier B.et.al.,New England Journal of Medicine(2002),346,235-242 【非特許文献3】がんサポート 2005年10月号 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明の課題は、MHCクラスIIを発現する悪性腫瘍、特に悪性リンパ腫に対して特異的な新たな治療薬を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明者らは、MHCクラスIIを発現する悪性腫瘍、特に悪性リンパ腫に対して特異的に作用する医薬を開発すべく種々検討し、1種の悪性リンパ腫で免疫するのではなく、2種の悪性リンパ腫で免疫した非ヒト動物の抗体産生細胞を用いて融合細胞を作製し、当該融合細胞の中から、さらに別種の悪性リンパ腫と反応し、かつ該悪性リンパ腫に対する傷害活性を有するモノクローナル抗体を産生するクローンを選択した。得られたモノクローナル抗体は、多くの種類の悪性リンパ腫に対して傷害活性を有し、かつ他の細胞に対する傷害活性が弱く、選択的な悪性リンパ腫治療薬として有用であることを見出した。また、本発明者らは悪性リンパ腫の抽出液を用い、得られたモノクローナル抗体が特異的に悪性リンパ腫表面に発現しているMHCクラスIIを構成する分子の一つであるHLA-DRβ鎖と結合していることを見出し、さらに該モノクローナル抗体の可変領域の配列を特定し、該モノクローナル抗体が結合するエピトープを決定し、本発明を完成するに至った。 【0007】 すなわち、本発明は以下を提供するものである。 [1]軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、軽鎖CDR3、重鎖CDR1、重鎖CDR2、及び重鎖CDR3から選ばれる少なくとも一つを含む、悪性腫瘍に発現しているMHCクラスIIを構成するタンパク質を認識する抗体。 [2]軽鎖が、以下の(a)又は(b)である、[1]記載の悪性腫瘍に発現しているMHCクラスIIを構成するタンパク質を認識する抗体。 (a)配列番号54の19?143位で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する軽鎖。 (b)配列番号54の19?143位で表されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加された軽鎖可変領域を有する軽鎖。 [3]重鎖が、以下の(c)又は(d)である[1]又は[2]記載の抗体。 (c)配列番号56の23?132位で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を有する重鎖。 (d)配列番号56の23?132位で表されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加された重鎖可変領域を有する重鎖。 [4]少なくともアミノ酸配列CRHNYGVGESFT(配列番号:1)を含むエピトープと結合する抗原認識部位を有し、且つ悪性腫瘍に発現しているMHCクラスIIを構成するタンパク質を認識することを特徴とする抗体。 [5]抗原認識部位が、更にアミノ酸配列RNQKGHSGLQPRGFLS(配列番号:28)、アミノ酸配列FFNGTERVRLLERHF(配列番号:8)及びアミノ酸配列RHNYGAVESFTVQRR(配列番号:15)から選ばれる少なくとも一つを認識する[4]記載の抗体。 [6]悪性腫瘍に対して特異的に傷害活性を有することを特徴とする[1]?[5]のいずれか記載の抗体。 [7]悪性腫瘍が、悪性リンパ腫である[1]?[6]のいずれか記載の抗体。 [8]MHCクラスIIを構成するタンパク質がHLA-DPβ、HLA-DQβおよびHLA-DRβのうち少なくとも一つである[1]?[6]のいずれか記載の抗体。 [9]MHCクラスIIを構成するタンパク質がHLA-DRβである[8]記載の抗体。 [10][1]?[9]のいずれか記載の抗体を含有する医薬組成物。 [11][1]?[9]のいずれか記載の抗体を有効成分とするMHCクラスIIを発現する悪性腫瘍治療薬。 [12][1]?[9]のいずれか記載の抗体を含有するMHCクラスIIを発現する悪性腫瘍の検出薬。 [13][1]?[9]のいずれか記載の抗体の有効量を投与することを特徴とするMHCクラスIIを発現する悪性腫瘍の治療方法。 [14]悪性リンパ腫細胞に対する傷害活性を有するモノクローナル抗体の作製方法であって、非ヒト動物に2種類の悪性リンパ腫細胞株で交互に少なくとも2回以上免疫する工程、当該免疫した非ヒト動物由来の抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させてハイブリドーマを作製する工程、及び得られたハイブリドーマを培養する工程、を含んでなる悪性リンパ腫細胞に対する傷害活性を有するモノクローナル抗体の作製方法。 [15]ハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体が、前記2種類の悪性リンパ腫細胞株とは異なる悪性リンパ腫と結合することを特徴とする、[13]記載の悪性リンパ腫細胞に対する傷害活性を有するモノクローナル抗体の作製方法。 [16]前記免疫に用いる2種類の悪性リンパ腫細胞株及び前記2種類の悪性リンパ腫細胞株とは相違する悪性リンパ腫細胞株が、同一のHLAを有する悪性リンパ腫細胞株である[15]記載の悪性リンパ腫細胞に対する傷害活性を有するモノクローナル抗体の作製方法。 [17]前記免疫に用いる2種類の悪性リンパ腫細胞株がL428及びKMH-2である[14]?[16]のいずれか記載の悪性リンパ腫細胞に対する傷害活性を有するモノクローナル抗体の作製方法。 [18]前記2種類の悪性リンパ腫細胞株とは相違する悪性リンパ腫細胞株がL540である[15]又は[16]記載の悪性リンパ腫細胞に対する傷害活性を有するモノクローナル抗体の作製方法。 [19]受託番号 FERM BP-11418であるハイブリドーマ。 [20][19]記載のハイブリドーマが産生する抗体。 【発明の効果】 【0008】 本発明の抗体は、悪性リンパ腫に発現するMHCクラスIIを特異的に認識し、かつ悪性リンパ腫に対する傷害活性が強いため、MHCクラスIIを発現する悪性腫瘍、特に悪性リンパ腫の選択的治療薬として有用である。また、本発明の方法を用いれば、悪性リンパ腫特異的な抗原を認識する抗体を効率的に作製することができる。 【図面の簡単な説明】 【0009】 【図1】本発明モノクローナル抗体の悪性リンパ腫に対する作用を示す図である(5分後)。 【図2】本発明モノクローナル抗体の悪性リンパ腫に対する作用を示す図である(15分後)。 【図3】本発明モノクローナル抗体の悪性リンパ腫に対する作用を示す図である(30分後)。 【図4】本発明モノクローナル抗体の悪性リンパ腫に対する作用を示す図である(60分後)。 【図5】本発明モノクローナル抗体のウェスタンブロット結果を示す。 【図6】細胞傷害を確認した各リンフォーマ細胞の本発明抗体の染色性(本発明抗体の細胞表面上の抗原発現量)および細胞傷害感受性をフローサイトメトリーを用いて解析した結果を示す。 【図7】細胞傷害を確認した各リンフォーマ細胞の本発明抗体の染色性(本発明抗体の細胞表面上の抗原発現量)および細胞傷害感受性をフローサイトメトリーを用いて解析した結果を示す。 【図8】ヒト末梢血に対する本発明抗体の作用を示すフローサイトメトリー解析結果を示す。 【図9】本発明抗体のTRAIL Death Receptor DR4、DR5に対する反応性を示す。 【図10】本発明モノクローナル抗体のL428、HANKS及びTL-1に対する結合性を示すフローサイトメトリー解析結果を示す。 【図11】本発明モノクローナル抗体とL428、HANKS及びTL-1の分解物との反応性を示す図である。 【図12】本発明モノクローナル抗体のL428細胞由来の溶出画分に対するPMF解析結果を示す。 【図13】本発明モノクローナル抗体とL428、HANKS及びTL-1の分解物との反応性を示す図である。 【図14】本発明モノクローナル抗体と市販の抗HLA-DR抗体のL428細胞への結合性を示す。 【図15】本発明モノクローナル抗体の重鎖可変領域の遺伝子を示す。 【図16】本発明モノクローナル抗体の軽鎖可変領域の遺伝子を示す。 【発明を実施するための形態】 【0010】 本明細書において、アミノ酸、ペプチド、タンパク質は下記に示すIUPAC-IUB生化学命名委員会(CBN)で採用された略語を用いて表される。また、特に断りがない限り、ペプチド及びタンパク質のアミノ酸残基の配列は、左端から右端に向かってN末端からC末端となるように記載される。 Ala又はA:アラニン Val又はV:バリン Leu又はL:ロイシン Ile又はI:イソロイシン Pro又はP:プロリン Phe又はF:フェニルアラニン Trp又はW:トリプトファン Met又はM:メチオニン Gly又はG:グリシン Ser又はS:セリン Thr又はT:トレオニン Cys又はC:システイン Gln又はQ:グルタミン Asn又はN:アスパラギン Tyr又はY:チロシン Lys又はK:リシン Arg又はR:アルギニン His又はH:ヒスチジン Asp又はD:アスパラギン酸 Glu又はE:グルタミン酸 【0011】 本発明は、悪性リンパ腫に発現するMHCクラスIIを特異的に認識し、かつ悪性リンパ腫に対する傷害活性が強い抗体を提供する。また、悪性リンパ腫特異的な抗原を認識する抗体を効率的に作製する方法を提供する。 【0012】 MHCクラスII抗体 主要組織適合遺伝子複合体(MHC)は細胞表面に存在する細胞膜貫通型糖タンパク分子であり、細胞内のさまざまなタンパク質の断片(ペプチド)を細胞表面に提示する働きをもつ。MHCにはクラスIとクラスIIの2つの種類があり、クラスIは細胞内の内因性抗原を、クラスIIはエンドサイトーシスで細胞内に取り込まれて分解された外来性抗原を結合して提示する。このうちクラスIIは、マクロファージや樹状細胞、活性化T細胞、B細胞などの抗原提示細胞等に発現しており、ヒトではHLA-DR、HLA-DQ、HLA-DPの三種類がある。また、これらは各々α鎖およびβ鎖からなる2つのタンパク質の複合体として機能している。 【0013】 本発明の抗体は、悪性腫瘍に発現しているMHCクラスIIを構成するタンパク質を認識し、悪性腫瘍に対して傷害活性を有するものであれば特に制限はなく、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であっても良い。また、天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、ヒト抗体産生トランスジェニック動物等を用いて製造され得るヒト抗体、Fab発現ライブラリーによって作製された抗体断片、及びこれらの結合性断片が含まれるが、これらに限定されない。 【0014】 本発明の抗体は少なくともHLA-DR52の配列CRHNYGVGESFT(配列番号:1)に結合する能力を有し、この領域内を認識すると考えられる。 【0015】 更に、本発明の抗体はアミノ酸配列RNQKGHSGLQPRGFLS(配列番号:28)、アミノ酸配列FFNGTERVRLLERHF(配列番号:8)、及びアミノ酸配列RHNYGAVESFTVQRR(配列番号:15)から選ばれる少なくとも一つに結合する能力を有する。 【0016】 また、本発明の抗体は、悪性腫瘍に発現しているHLA-DR、HLA-DPまたはHLA-DQを認識し、悪性腫瘍に対して傷害活性を有するものであれば特に制限はない。本発明の抗体は、例えば、相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)として軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、軽鎖CDR3、軽鎖CDR1、重鎖CDR2、及び重鎖CDR3から選ばれる少なくとも一つを含む、悪性リンパ腫に発現するHLA-DRを認識するモノクローナル抗体であってもよい。または、配列番号54の19?143位で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域及び/又は配列番号56の23?132位で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、悪性腫瘍に発現するMHCクラスIIを認識し、悪性腫瘍に対して傷害活性を有する抗体であってもよい。なお、細胞傷害活性には、補体依存性細胞傷害性(CDC)と抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)を含む。 【0017】 また、本発明の抗体は、悪性腫瘍に発現しているMHCクラスIIを認識し、悪性腫瘍に対して傷害活性を有する限り、配列番号54の19?143位で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域及び/又は配列番号56の23?132位で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、悪性腫瘍に発現するMHCクラスIIを認識する抗体であってもよく、そのアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するものであってもよい。ここで、「アミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列」とは、部位特異的突然変異誘発法等の周知の方法により、または天然に生じ得る程度の1又は数個の数のアミノ酸の置換等により改変がなされたことを意味する。アミノ酸の改変の個数は、好ましくは1?50個、より好ましくは1?30個、さらに好ましくは1?10個、さらにより好ましくは1?5個、最も好ましくは1?2個である。また、本発明の抗体は、前記アミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは80%、さらに好ましくは90%、特に好ましくは95%の配列同一性を有する重鎖可変領域又は軽鎖可変領域を含む、悪性腫瘍に対して傷害活性を有する抗体であってもよい。 【0018】 また、本発明の抗体はヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなるヒト化抗体であっても良く、この様な抗体はマウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。このヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体のCDRをヒト抗体のCDRへ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP239400、国際特許出願公開番号WO96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato,K.et al.,Cancer Res,1993,53,851-856.)。 【0019】 また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(WO93/12227,WO92/03918,WO94/02602,WO94/25585,WO96/34096,WO96/33735参照)。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047,WO92/20791,WO93/06213,WO93/11236,WO93/19172,WO95/01438,WO95/15388を参考にすることができる。 【0020】 抗体のクラスは特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。精製の容易性等を考慮すると好ましくはIgGであり、より好ましくはIgG1aである。 【0021】 機能的断片としては、抗体断片(フラグメント)等の低分子化抗体や抗体の修飾物が挙げられる。抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、Diabodyなどを挙げることができる。このような抗体断片を得るには、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい(例えば、Co,M.S.et al.,J.Immunol.(1994)152,2968-2976;Better,M.and Horwitz,A.H.,Methods Enzymol.(1989)178,476-496;Pluckthun,A.and Skerra,A.,Methods Enzymol.(1989)178,497-515;Lamoyi,E.,Methods Enzymol.(1986)121,652-663;Rousseaux,J.et al.,Methods Enzymol.(1986)121,663-669;Bird,R.E.and Walker,B.W.,Trends Biotechnol.(1991)9,132-137参照)。 【0022】 医薬組成物 本発明のMHCクラスIIを発現する悪性腫瘍の治療薬等の医薬組成物は、当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうる担体とともに、混合、溶解、乳化、カプセル封入、凍結乾燥等により、製剤化することができる。 【0023】 治療対象となる疾患は、MHCクラスIIを発現する悪性腫瘍であれば特に限定されないが、例えば悪性リンパ腫が挙げられる。この悪性リンパ腫としては、白血病(慢性リンパ性白血病、急性リンパ性白血病を含む)、リンパ腫(非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、T細胞系リンパ腫、B細胞系リンパ腫、バーキットリンパ腫、悪性リンパ腫、びまん性リンパ腫、濾胞性リンパ腫を含む)等が挙げられるが、これらに限定されない。また、本発明の抗体を適用する際の腫瘍は1種類に限られず、複数種類の腫瘍が併発したものでもよい。 【0024】 経口投与用の好適な製剤は、本発明抗体を、水、生理食塩水のような希釈剤に有効量溶解させた液剤、有効量を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、顆粒剤、散剤又は錠剤、適当な分散媒中に有効量を懸濁させた懸濁液剤、有効量を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。 【0025】 非経口投与用には、本発明抗体を、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、注射用溶液、懸濁液、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、吸入剤、坐剤等の剤形に製剤化することができる。注射用の処方においては、本発明の抗体を水性溶液、好ましくはハンクス溶液、リンゲル溶液、又は生理的食塩緩衝液等の生理学的に適合性の緩衝液中に溶解することができる。さらに、本発明の医薬は、油性又は水性のベヒクル中で、懸濁液、溶液、又は乳濁液等の形状をとることができる。あるいは、本発明抗体を粉体の形態で製造し、使用前に滅菌水等を用いて水溶液又は懸濁液を調製してもよい。吸入による投与用には、本発明抗体を粉末化し、ラクトース又はデンプン等の適当な基剤とともに粉末混合物とすることができる。坐剤処方は、本発明抗体をカカオバター等の慣用の坐剤基剤と混合することにより製造することができる。さらに、本発明の治療剤は、ポリマーマトリクス等に封入して、持続放出用製剤として処方することができる。 【0026】 また、本発明の抗体に、ヨード、イットリウム、インジウム、テクネチウム等の放射性核種[J.W.Goding,Momoclonal Antibodies:principles and practice.,1993 Academic Press]、緑膿菌毒素、ジフテリアトキシン、リシンのような細菌毒素、及びメトトレキセート、マイトマイシン、カリキアマイシンなどの化学療法剤[D.J.King,Applications andEngineering of Monoclonal Antibodies.,1998 T.J.International Ltd.;M.L.Grossbard.,Monoclonal Antibody-BasedTherapy of Cancer.,1998 Marcel Dekker Inc]、さらに、Maytansinoid等のプロドラッグ[Chari et al.,Cancer Res.,1992 Vol.52:127;Liu et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1996 Vol.93:8681]などを結合させることにより悪性リンパ腫に対する治療効果をさらに増強することも可能である。 【0027】 本発明抗体の投与量は、患者の症状、投与経路、体重、年令等によっても異なるが、例えば成人1日あたり1μg?500mgであるのが好ましい。 【0028】 治療方法 本発明の医薬組成物を用いれば、生物学的活性を示す物質により治療され得る悪性リンパ腫を治療することができる。従って、本発明は、本発明抗体の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、悪性リンパ腫の治療方法を提供する。 【0029】 MHCクラスIIを発現する悪性腫瘍の検出薬 本発明によれば、MHCクラスIIを発現する悪性腫瘍の存在を検出するための試薬であって、本発明の抗体を含んでなる試薬が提供される。本発明の抗体は、標識したものであってもよい。この検出薬は抗原抗体反応を検出することによりMHCクラスIIを発現する悪性腫瘍の存在を検出する。従って本発明の検出薬は、所望により、抗原抗体反応を実施するための種々の試薬、例えばELISA法等に用いる2次抗体、発色試薬、緩衝液、説明書、および/または器具などを更に含むことができる。 【0030】 悪性リンパ腫を特異的に認識する抗体の作製方法 本発明のモノクローナル抗体は、非ヒト動物に2種類の悪性リンパ腫細胞株で交互に各2回以上免疫する工程、当該免疫した非ヒト動物由来の抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させてハイブリドーマを作製する工程、得られたハイブリドーマを培養する工程を含む。 【0031】 免疫に用いる2種類の悪性リンパ腫細胞株(以下、免疫細胞株ともいう)は、既知の樹立された悪性リンパ腫細胞株の中から選ばれた2種であればよく、ホジキンリンパ腫細胞株でも非ホジキンリンパ腫細胞株でもよい。例えばKMH-2、L428、L540、RAJI、Daudi、KARPAS-299、C1R及びHTから選ばれる2種が挙げられる。このうち、同一のHLAを有する細胞株から選択するのが好ましい。例えばKMH-2、L428及びL540はHLA-AがいずれもA3であるから、これらの中から2種を選択して使用するのが好ましい。さらに、KMH-2とL428を用いるのが特に好ましい。 【0032】 これらの2種類の免疫細胞株で交互に2回以上免疫する。すなわち、2種類の免疫細胞株で交互に2回以上、合計で4回以上免疫する。より好ましい免疫回数は各2?5回であり、さらに好ましくは各3回以上であり、特に好ましくは各3回である。1回の免疫に用いる免疫細胞株の量は、2×10^(7)?10^(8)個、特に3×10^(7)個が好ましい。 【0033】 免疫の手段としては、皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射、皮内注射、筋肉内注射、足蹠注射などが挙げられるが、腹腔内注射が好ましい。免疫の間隔は、例えば2週間?4週間間隔が好ましい。その後、免疫した動物の血清中の抗原に対する抗体価を測定し、抗体価が十分高くなった動物を抗体産生細胞の供給原として用いる。最終免疫から3?5日後の動物由来の抗体産生細胞を用いるのが好ましい。 【0034】 免疫に用いられる非ヒト動物としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ブタ等が挙げられるが、マウスが特に好ましい。また、抗体産生細胞としては、脾、リンパ節、骨髄等が挙げられるが、脾細胞が好ましい。 【0035】 細胞融合に用いられるミエローマ細胞としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ等の動物由来のものが挙げられるが、マウス由来の株化ミエローマ細胞が好ましい。具体的には、P3×63Ag8U.1(P3-U1)、P3/NSI/1-Ag4-1(NS-1)、Sp2/o-Ag14(SP-2)、P3×63Ag8.653(653)、P3×63Ag8(×63)などが挙げられる。 【0036】 前記の抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、例えば抗体産生細胞とミエローマ細胞とを細胞数で0.5:1?2:1の割合になるように混合し、50w/v%ポリエチレングリコール(分子量1000?4000)を添加して行う。その後、HAT培地を用いた選択により融合細胞を選択する。 【0037】 得られたハイブリドーマから、前記2種の免疫細胞株とは相違する悪性リンパ腫細胞株(以下、選択細胞株ともいう)と反応し、かつ該悪性リンパ腫細胞株傷害活性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択する。選択細胞株は、前記の2種の免疫細胞株とは相違する細胞株であればよく、前述の悪性リンパ腫細胞株から選ぶことができる。選択細胞株は、ホジキンリンパ腫細胞株でも非ホジキンリンパ腫細胞株でもよい。また、前記の免疫用細胞株と同一のHLAを有する細胞株がより好ましく、HLA-AがA3であるのがより好ましい。特にL540が好ましい。 【0038】 本発明ハイブリドーマの選択は、例えば選択細胞株の培養液に、被検ハイブリドーマの上清を添加して、トリパンブルー等の色素を用いるダイエクスクロージョンテストにより、選択細胞株を障害するモノクローナル抗体を産生するクローンを選択する。 【0039】 かくして得られた本発明のハイブリドーマの例としては、4713mAb(FERM BP-11418)が挙げられる。4713mAbは、〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1-1-1つくばセンター中央第6 独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物センターに寄託されている(寄託日:平成22(2010)年9月28日)。 【0040】 本発明のハイブリドーマを培養することにより、悪性リンパ腫治療薬として有用なモノクローナル抗体を得ることができる。大量培養は、大型培養瓶を用いた回転培養、スピナー培養、あるいはホローファイバーシステムを用いた培養で行われる。この大量培養における上清を、ゲルろ過等、当業者に周知の方法を用いて精製することにより、本発明のモノクローナル抗体を得ることができる。また、同系統のマウスの腹腔内で該ハイブリドーマを増殖させることにより、本発明のモノクローナル抗体を大量に含む腹水を得ることができる。また、得られたモノクローナル抗体は、前述の方法によりキメラ抗体、ヒト化抗体とすることができる。 【実施例】 【0041】 実施例1 (1)免疫方法 BALB/c,8週齢のメスマウスに2週間おきに3×10^(7)個ずつの2種類のホジキンリンパ腫細胞を交互に3回ずつ計6回免疫した。アジュバンドは用いず、培養細胞を2回生理食塩水で洗浄して生理食塩水200μLに再懸濁して腹腔に注射した。 2種類のホジキンリンパ腫はL428とKM-H2で、ともにHLA-A3を発現していることから選んだ。 【0042】 (2)細胞融合 最終免疫から3日後に免疫マウスの脾臓細胞10^(8)個とミエローマ細胞P3U110^(8)個とをPEG4000を用いて細胞融合させた。これを96well flatのプレート50枚に蒔いた。 【0043】 (3)スクリーニング方法 HLA-A3を発現しているホジキンリンパ腫L540細胞2×10^(6)個/mL、50μL RPMI(contain 2%FCS)をfisher tubeもしくは別の96well flatのプレートに入れ、これにpositive wellのculture sup.50μLを加え37℃で1時間インキュベーションした。 トライパンブルーを加えdye exclusion testで標的細胞L540細胞を殺す抗体を産生するクローンを調べた。(J.Exp.Med.Vol 181 June 1995 の2008ページに従う) これにより得たクローン(4713mAbと名付けた)を2回リミティング ダイリューションして得たハイブリドーマの培養上清もしくはヌードマウスにつくらせた腹水を以降の実験に用いた。 抗体のサブクラスはマウスIgG1であった。 【0044】 実施例2 (方法)L540に対する細胞傷害活性を調べたのと同様の方法でホジキンリンフォーマであり、かつマウスの免疫に用いたL428およびKM-H2に対する本発明モノクローナル抗体(4713mAb)細胞傷害活性を調べた。2×10^(6)/mLのL428細胞又はKM-H2細胞に3μg/mLとなるよう4713mAbを添加して細胞の形態の経過を顕微鏡で観察する。KM-H2に関しては1時間のインキュベーションでは10%以下の細胞致死率しか得られなかった。しかし細胞死に至る前にしばしば認められる細胞の凝集が認められたため、さらに12時間インキュベーションでの細胞傷害活性を同様の方法で調べた。 【0045】 (結果) 結果を図1?図4に示す。 図1?図4から明らかなように、数分で細胞が凝集し(図1)、15分でトライパンブルーを添加すると凝集した細胞塊の一部の細胞が青色に染まり抗体により殺された細胞が出現し始めたことが観察される(図2)、抗体とのインキュベーションが30分を超えると30%を超える細胞が傷害されてきているのが観察される(図3)、抗体とのインキュベーションが60分でほとんどの細胞が細胞死を経て溶解してしまう。死細胞が主体となる凝集塊が残存して観察されることもある(図4)。 【0046】 実施例3 本発明モノクローナル抗体(4713mAb)のウェスタンブロット結果を図5に示す。 【0047】 実施例4 上記実施例と同様の方法でホジキン以外のリンフォーマ細胞としてバーキットリンフォーマに対する細胞傷害活性を調べた。その結果、ホジキンリンフォーマと同様に調べたバーキットリンフォーマでも1時間で50%をわずかに超えるリンフォーマ細胞が傷害された。 【0048】 実施例5 その他のリンフォーマ細胞に対する細胞傷害活性も同様な方法で調べた。結果を表1に示す。 【0049】 【表1】 ![]() 【0050】 表1から明らかなように、4713mAbは、多種の悪性リンパ腫を障害するが、正常リンパ球は傷害しない。 【0051】 実施例6 細胞傷害を確認した各リンフォーマ細胞に対する本発明抗体の染色性および細胞傷害感受性をフローサイトメトリーで解析した。 細胞浮遊液に本発明抗体を添加して30分後に洗浄後二次抗体としてフルオレセインイソチオシアネート(FITC)を結合したラット抗マウスイムノグロブリンと反応させ染色性を緑線のヒストグラムで示す(図6、7)。慢性骨髄性白血病由来の細胞株であるK562以外では黒い実線で示した基線より大きく右にシフトして、よく染色されていることが判る。つまり、抗体がリンフォーマ細胞表面を認識していることが示されている。またこの時、死細胞にのみ取り込まれるプロピディウムイオダイド(PI)による染色を赤線のヒストグラムで示す。 わずか30分のインキュベーションでかなりの細胞がすでに死んでいることが判る。K562のように緑線のシフトの少ない、つまり抗体があまり結合しない、表面抗原の少ない細胞でも僅かながら死細胞が認められる。 【0052】 実施例7 健常人の末梢血を採取しトリス塩化アンモニウムで赤血球を溶解除去した後、そのままもしくはCon Aで24時間刺激した後に本発明抗体と1時間インキュベーションした。次に第二抗体としてFITCラベルした抗マウスイムノグロブリン抗体で染色した後フローサイトメトリーで解析した。このときPIも添加して死細胞数も解析した。 【0053】 (結果) 本発明モノクローナル抗体は、図8に示すように、健常人の末梢血の一部を染色するが、少なくとも60分間は健常人の末梢血細胞を殺すことはなかった。Concanavalin A(Con A)で12時間活性化しても結果は同じであった。 【0054】 実施例8 本発明抗体のTRAIL Death Receptor DR4、DR5に対する反応性 (方法)ハムスターの細胞であるBHK細胞にDR4 ReceptorやDR5Receptorを遺伝子導入した細胞と本発明抗体を1時間インキュベーションして実験6と同様にフローサイトメトリーで解析した。 【0055】 (結果) 本発明抗体がDeath Receptor(細胞死に導く抗原)として知られているTRAIL(TNF-related apoptosis inducing ligand)Death ReceptorであるDR4 ReceptorやDR5Receptorを標的とする抗体であるかどうかを確認するためにハムスターの細胞であるBHK細胞にDR4 ReceptorやDR5Receptorを遺伝子導入した細胞の本発明抗体による染色性を同様の方法で確かめたところ、既知のDR4 ReceptorやDR5Receptorに対する抗体では染色された(赤線)が、本発明抗体では染色されなかった(図9)。したがって本抗体はDR4やDR5などのTRAIL Death Receptorを標的とした抗体ではないことが確認された。 【0056】 実施例9(4713mAbと悪性リンパ腫細胞株との結合) L428、HANK1、TL1細胞を、フローサイトメーターで解析し、4713mAbの結合を確認した(図10)。 【0057】 実施例10(4713mAbの標的抗原の同定) GEヘルスケア社プロトコールに従い4713mAb(5mg)をHiTrap NHS-Activated HP(1mL容量、GE Healthcare #17-0716-01)に結合させた4713mAbカラムを作製した。L428、HANKS、TL細胞(1×108個)を1% Noindet P-40(和光純薬工業)とタンパク分解酵素阻害剤(ロッシュ社)を含むリン酸緩衝液でけん濁し、4℃で5分間インキュベートした後、卓上遠心機(1500rpm,5分間)で分離した。上澄画分を回収し、リン酸緩衝液で平衡化した4713mAbカラムにアプライした。リン酸緩衝液で洗浄後、0.1%グリシン塩酸水溶液(pH2.7)で溶出し、1M トリス塩酸水溶液(pH9.0)で中和した。 溶出画分を、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、クマーシーブリリアントブルー染色を行った(図11)。回収率の高かったL428細胞由来の溶出画分を、分子量の低い方から番号を付け、9つのバンドのペプチド質量フィンガープリント(PMF)解析を実施した(図12)。その結果を表1(島津テクノリサーチ実施)に示す。次に、溶出画分をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、4713mAbを用いたウエスタンブロット法で解析した。その結果、PMF解析で同定されたMat I-2のバンドであるHLA-DR β-chainに4713mAbが結合することが認められた(図13)。 【0058】 【表2】 ![]() 【0059】 実施例11(HLAクラスII-β鎖のペプチドライブラリーと4713mAbの結合能解析) ソフトウエアMascot(島津テクノリサーチ)による解析の結果、最も相同性が高かったHLA-DR52β-chainのアミノ酸配列を用いて、1アミノ酸移動させた8から12アミノ酸からなるオーバーラップペプチドをC末端からアレイ上で化学合成したペプチドマイクロアレイを作製した(LC Sciences,LLC,Texas,US)。まず非特異的な抗体の結合を防ぐブロッキングとして、アレイを、0.05% Tween-20を含むSuperBlock(pH7.0)(ピアス社)溶液に4℃で1昼夜浸した。次に、0.05% Tween-20と0.05% Triton X-100を含むリン酸緩衝液(pH7.0)の洗浄液で洗浄した後、5μg/mLの4713mAb溶液内で25℃、1時間インキュベートした。洗浄液で20分間洗浄後、10ng/mLのCy5標識したヤギ抗マウスIgG抗体溶液内で25℃、1時間インキュベートした。マイクロアレイスキャナー(PMT700ボルト)の635nmの波長で、Cy5を測定した。C末端にトリプトファン残基を持つペプチド配列に対する非特異的結合が認められたため、それらを削除して特異的結合を示すペプチド配列を解析した。その結果、すべてのHLAクラスII(DR,DP,DQ)のβ-chain分子に保存されている4つのシステイン残基の中で、N末端側から2番目のシステイン残基から12アミノ酸残基からなるペプチド(CRHNYGVGESFT:配列番号1)領域内に、唯一4713mAb特異的な結合シグナルを認めた。WO2003/033538に記載されている抗体が結合するHLA-DRβ-chain上のペプチド配列(WNSQKDILEQKRG:配列番号2)は、N末端から2番目のシステイン残基の6アミノ酸残基前に存在しているが、4713mAbの結合は認められなかった。 【0060】 上記ペプチドマイクロアレイの結果を再確認するため、L428細胞が発現するHLA-DRを解析した。血清対応型タイピングの結果、L428細胞はHLA-DR12のみを発現していることが明らかとなった((株)エスアールエル)。次にHLA-DR12アミノ酸配列からオーバーラップペプチドを合成し、カスタムSPOTsニトロセルロースメンブレンを作製した(シグマアルドリッチ)。メンブレンをメタノールで5分リンスした後、トリスホウ酸緩衝液(TBS)で洗浄し、ブロッキングを2時間室温でインキュベートし行った。次に、ビオチン化4713抗体を最終濃度1μg/mLで添加し、3時間インキュベートした。メンブレンを洗浄後、パーオキシダーゼ(HRP)標識したストレプトアビジン(ダコ社製)をTBSで3000倍希釈した溶液中で2時間インキュベートした。洗浄後、ECLプライムウエスタンブロッティング検出キット(GEヘルスケア社製)と化学発光検出器(LAS-4000)により陽性スポットを検出した(表3)。その結果、最も強く反応したペプチドはDR12-26で、その次に強い反応を示したペプチドはDR12-6とDR12-13であった。DR12-13はペプチドマイクロアレイ解析の結果、唯一特異的な結合能をもったHLA-DR52のペプチド配列、CRHNYGVGESFTと同じ領域のHLA-DR12由来のペプチド配列であることから、再現性がある結合能であることが認められた。また、WO2003/033538に記載されている抗体が結合するHLA-DR12由来のペプチドもDR12-28に配置したが、結合は認められなかった(表3)。一方、HLA-DRの細胞内領域にあるDR12-26ペプチドや、別の細胞外領域にあるDR12-6ペプチドにも強い結合能が認められたから、4713抗体がエピトープ配列以外のペプチドにも結合し得る可能性も示唆された。 【0061】 【表3】 ![]() 【0062】 実施例12(HLA-DRエピトープペプチドライブラリーと4713mAbの結合能解析) WO2003/033538記載の抗体が結合するHLA-DRβ鎖内のエピトープ配列群のペプチドライブラリーを、実施例3と同様にカスタムSPOTsニトロセルロースメンブレン上に作製し、4713抗体との結合能をウエスタンブロッティングで解析した。その結果、ペプチドの#25、#34、#38との結合能が認められた(表4)。また、実施例3で結合能が認められた3つのペプチドDR12-3、DR-13、DR-26への結合能の再現性も認められた。以上の結果は、4713抗体がエピトープ配列以外のペプチド配列にも結合する能力を示唆しているが、結合するペプチド群の1次配列に相同性が認められないことから、ペプチドの立体構造を認識している可能性が考えられる。 【0063】 【表4】 ![]() 【0064】 実施例13(4713mAbと抗HLA-DR抗体のL428細胞への結合能と細胞死誘導能の比較) 4713mAbと同様にHLA-DRに結合することがわかっている市販の抗体(クローン名:LN3)のL428細胞への結合能と細胞死誘導能を比較した。L428細胞への各抗体の結合能は、段階希釈した各抗体溶液とのインキューベーションV、フローサイトメーターにより解析した。両抗体とも濃度依存的な結合能を示すものの、4713mAbの方が、LN3に比べて約10倍低濃度で同様の結合能示すことが認められた(図14と表5)。細胞死誘導は、propidium iodide(PI)の取り込みをフローサイトメーターで解析した。その結果、4713mAbの細胞死誘導能は、細胞表面への結合能にほぼ相関して、LN3よりも約10倍低濃度で活性を示した(表5)。 【0065】 【表5】 ![]() 【0066】 実施例14(4713mAb産生ハイブリドーマからの抗体遺伝子のクローニング) 1.マウス抗体(IgG)配列特異的RT反応 4713mAbを産生するハイブリドーマ(受託番号 FERM BP-11418)から定法に従って調製した全RNAを鋳型として、マウス抗体(IgG)重鎖特異的なプライマー(H-RT1:TCCAKAGTTCCA(配列番号7))を用いてcDNA合成を行った。同様に軽鎖特異的なプライマー(L-RT1:GCTGTCCTGATC(配列番号8))を用いてcDNAを合成した。RT反応は、SMARTer^(TM) RACE cDNA Amplification Kit(Clontech Cat.No.634924)の説明書に従い、以下の条件で行なった。 【0067】 (1)全RNA 0.5μg、H-RT1又はL-RT1(12μM)1μl、dH_(2)O 3.75μlまでを混合し、70℃、3分間、42℃、2分間の反応を行った。 (2)反応液に、SMARTer II A Oligonucleotide(12μM)1μl、DTT(20mM)1μl、dNTP Mix(各10mM)1μl、5×First-Strand Buffer 2μl、RNase Inhibitor(40U/μl)0.25μl、SMARTScribe^(TM) Reverse Transcriptase(100U/μl)1μlを添加し、42℃、90分間、70℃、10分間の反応を行った。 (3)50μl Tricine-EDTAバッファーを添加して反応を停止させ、-20℃にて保存した。 【0068】 2.マウス抗体(IgG)配列特異的RACE PCR反応 SMARTerTM RACE cDNA Amplification Kitを用いて5’RACE PCR解析を行った。 (1)上記1で合成したcDNA(重鎖特異的なプライマーにより合成)を鋳型として、マウス抗体(IgG)重鎖特異的なプライマーをリバースプライマー、キットに含まれるUPM(Universal primer mix)をフォワードプライマーとしてRACE PCR反応を行った。同様にcDNA(軽鎖特異的なプライマーにより合成)を鋳型に、軽鎖特異的なプライマーを用いてRACE PCR反応を行った。PCR酵素にはPrimeSTAR(タカラバイオ株式会社)を使用した。 PCR反応は上記キットに添付されたプロトコルに従って行なった。 (2)想定の大きさのPCR産物が得られたことを、アガロースゲルで電気泳動することにより確認した。PCR産物をH鎖RT-PCR(SYN3460H)、L鎖RT-PCR(SYN3460L)と命名し、ゲル抜き精製後、解析に用いた。 【0069】 3.クローニング及び塩基配列解析 (1)ゲル抜き精製したPCR産物(SYN3460H、SYN3460L)をクローニングプラスミドpMD20-T(タカラバイオ株式会社)にライゲーションした。 (2)常法により形質転換を行い、PCR産物ごとに48クローンを取得した。 (3)取得したクローンに含まれるインサートの配列を定法に従い解析した。シークエンス反応は、BigDye Terminators v3.1 Cycle Sequencing Kit(ABI社)を使用し、同社プロトコルに従ってABI3730 Sequencer(ABI社)により行った。 (4)重鎖、軽鎖、それぞれ48クローンの塩基配列解析結果と、ここからベクター領域及び確度の低い領域を除いた塩基配列を取得した。 【0070】 4.結果評価 次に、3-(4)で得られた塩基配列を用いて以下の解析を行った。 (1)取得配列の分類とコンセンサス配列の取得 重鎖、軽鎖の塩基配列を相同性により分類した。相同性比較はDNA Sequenceアセンブルソフトウエア、SEQUENCHER^(TM)(Gene Codes:Windows(登録商標)版)により行った。この結果、重鎖で2つ、軽鎖で3つのコンティグが得れた(コンティグを構成しない配列も見られた。)。得られたコンティグからコンセンサス配列を取得した。 (2)目的遺伝子の候補配列について コンセンサス配列及び、コンティグを形成しなかった配列から、目的遺伝子の候補と考えられる配列を選別した。ここでは抗体定常域遺伝子のアミノ酸配列上流に、ストップコドンを含まずにメチオニン残基を持つ配列を全て選択した。 (3)アミノ酸配列の推定 候補配列の内、コンティグを形成した配列数及び、取得配列で考えられた遺伝子長から、重鎖、軽鎖それぞれのメジャーコンティグが目的配列の可能性が高いと考えられた。そこで、それぞれのメジャーコンティグのコンセンサス配列にコードされるアミノ酸配列を重鎖及びL鎖のアミノ酸配列とした。 【0071】 以上の方法により取得した4713mAb重鎖及び軽鎖の可変領域の遺伝子配列及びアミノ酸配列をそれぞれ図15及び16に示す。軽鎖の可変領域の遺伝子配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号53及び54に示す。重鎖の可変領域の遺伝子配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号55及び56に示す。配列番号54において、Kabatらの番号付け(Kabat,E.A.,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,1991,Bethesda:US Dept.of Health and Human Services,PHS,NIH.)によりリーダー配列、CDR1、CDR2、CDR3が規定される。同様に、配列番号56において、リーダー配列、CDR1、CDR2、CDR3が規定される。 【配列表】 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、軽鎖CDR3、重鎖CDR1、重鎖CDR2、及び重鎖CDR3を含み、ここで、軽鎖CDR1?3及び重鎖CDR1?3は、それぞれ配列番号54及び56において、Kabatらの番号付け(Kabat,E.A.,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,1991,Bethesda:US Dept.of Health and Human Services,PHS,NIH.)により規定され、 アミノ酸配列CRHNYGVGESFT(配列番号:1)を含むエピトープと、アミノ酸配列RNQKGHSGLQPRGFLS(配列番号:28)、アミノ酸配列FFNGTERVRLLERHF(配列番号:8)、及びアミノ酸配列RHNYGAVESFTVQRR(配列番号:15)から選ばれる少なくとも一つを含むエピトープと結合する認識部位を有し、且つ悪性腫瘍に発現しているMHCクラスIIを構成するタンパク質を認識する抗体。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 悪性腫瘍に対して特異的に傷害活性を有することを特徴とする請求項1記載の抗体。 【請求項5】 MHCクラスIIを発現する悪性腫瘍が、悪性リンパ腫である請求項1又は4記載の抗体。 【請求項6】 MHCクラスIIを構成するタンパク質が、HLA-DPβ、HLA-DQβおよびHLA-DRβのうち少なくとも一つである請求項1、4及び5のいずれか1項記載の抗体。 【請求項7】 MHCクラスIIを構成するタンパク質がHLA-DRβである請求項6記載の抗体。 【請求項8】 請求項1及び4?7のいずれか1項記載の抗体を含有する医薬組成物。 【請求項9】 請求項1及び4?7のいずれか1項記載の抗体を有効成分とするMHCクラスIIを発現する悪性腫瘍治療薬。 【請求項10】 請求項1及び4?7のいずれか1項記載の抗体を含有するMHCクラスIIを発現する悪性腫瘍検出薬。 【請求項11】 受託番号 FERM BP-11418であるハイブリドーマ。 【請求項12】 請求項11記載のハイブリドーマが産生する抗体。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2019-09-24 |
結審通知日 | 2019-09-27 |
審決日 | 2019-10-09 |
出願番号 | 特願2012-537723(P2012-537723) |
審決分類 |
P
1
41・
856-
Y
(C07K)
P 1 41・ 851- Y (C07K) P 1 41・ 854- Y (C07K) P 1 41・ 853- Y (C07K) P 1 41・ 855- Y (C07K) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 北村 悠美子 |
特許庁審判長 |
田村 聖子 |
特許庁審判官 |
長井 啓子 天野 貴子 |
登録日 | 2016-02-19 |
登録番号 | 特許第5884139号(P5884139) |
発明の名称 | MHCクラスIIを発現する悪性腫瘍の治療薬 |
代理人 | 滝澤 敏雄 |
代理人 | 渡辺 光 |
代理人 | 滝澤 敏雄 |
代理人 | 小林 正和 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 小林 正和 |
代理人 | 山崎 一夫 |
代理人 | 小林 正和 |
代理人 | 渡辺 光 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 渡辺 光 |
代理人 | 滝澤 敏雄 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 山崎 一夫 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 山崎 一夫 |