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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する B22D
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する B22D
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する B22D
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する B22D
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する B22D
管理番号 1357088
審判番号 訂正2019-390091  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2019-07-25 
確定日 2019-10-28 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6249099号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6249099号の明細書、特許請求の範囲及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり訂正することを認める。 
理由 1.手続きの経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第6249099号は、平成27年5月26日に出願され、平成29年12月1日に設定登録がされ、平成29年12月20日に特許掲載公報が発行された。令和1年7月25日に本件訂正審判の請求がされ、その後令和1年8月14日付けの訂正拒絶理由通知書に対し、令和1年9月12日付けで手続補正書及び意見書が提出され、審判請求書の「6 請求の理由」が補正されたものである。

2.請求の趣旨
令和1年9月12日付け手続補正書により補正された本件審判の請求の趣旨は、特許第6249099号の明細書、特許請求の範囲及び図面を、本件審判請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり、すなわち、以下の(1)ないし(4)に示す訂正事項のとおり訂正することを求めるものである。(なお、下線部は、訂正の前後での訂正箇所を意味する。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「S:鋳型の振動ストロークS(mm)」と記載されているのを、「S:鋳型の振動ストローク(mm)」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
明細書の段落【0016】に記載の「S:鋳型の振動ストロークS(mm)」を「S:鋳型の振動ストローク(mm)」に訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の段落【0019】に記載の「33.66」を「-33.66°」に訂正する。明細書の段落【0033】に記載の「φ=33.66°」を「φ=-33.66°」に訂正する。明細書の段落【0019】、【0036】及び【0037】のそれぞれに記載の「16.08」を「-16.08°」に、「20.535」を「-20.535°」に、「24.46」を「-24.46°」に訂正する。

(4)訂正事項4
図面の図3を図5に記載されている図に訂正する。また、図面の図5を図3に記載されている図に訂正する。

3.当審の判断
(1)特許法第126条第1項、第5項ないし第7項について
上記の各訂正事項に係る訂正が、特許法第126条第1項、第5項ないし第7項に適合するかどうかについて、以下に検討する。

ア.訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
請求項1に記載された「S:鋳型の振動ストロークS(mm)」のうち、2つめのSは、冒頭のSと重複した記載であるところ、Sは鋳型の振動ストロークを意味する記号であることが明らかであって、それ自体は技術的な意味を成していない。また、請求項1に「t:時間(s)」、「φ:初期位相(°)」等と記載されており、記号が重複する記載とはなっていないことを踏まえると、「S:鋳型の振動ストロークS(mm)」は「S:鋳型の振動ストローク(mm)」の誤記であることは明らかである。請求項1の記載を引用する請求項2においても同様である。
してみると、請求項1、2において「S:鋳型の振動ストロークS(mm)」を「S:鋳型の振動ストローク(mm)」に訂正する訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであるといえる。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は単に「S:鋳型の振動ストロークS(mm)」と記号Sが重複していた誤記を「S:鋳型の振動ストローク(mm)」に訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たす。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は単に「S:鋳型の振動ストロークS(mm)」と記号Sが重複していた誤記を「S:鋳型の振動ストローク(mm)」に訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかであり、特許法第126条第6項に規定する要件を満たす。

(エ)独立特許要件について
訂正事項1に係る訂正は、「S:鋳型の振動ストロークS(mm)」と記号Sが重複していた誤記を「S:鋳型の振動ストローク(mm)」に訂正するものであるところ、訂正後の請求項1及び2に係る特許に対して、特許出願の際独立して特許を受けることができなくなる理由は見当たらない。したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合するものである。

イ.訂正事項2について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2は、誤記の訂正を目的とする訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るべく、明細書の段落【0016】に記載の「S:鋳型の振動ストロークS(mm)」を「S:鋳型の振動ストローク(mm)」に訂正するものである。
よって、訂正事項1と同様に訂正事項2は特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであるといえる。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、誤記の訂正を目的とする訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るべく、明細書の段落【0016】に記載の「S:鋳型の振動ストロークS(mm)」を「S:鋳型の振動ストローク(mm)」に訂正するものであるから、訂正事項1と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たす。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、誤記の訂正を目的とする訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るべく、明細書の段落【0016】に記載の「S:鋳型の振動ストロークS(mm)」を「S:鋳型の振動ストローク(mm)」に訂正するものであるから、訂正事項1と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかであり、特許法第126条第6項に規定する要件を満たす。

(エ)独立特許要件について
訂正事項2は、誤記の訂正を目的とする訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るべく、明細書の段落【0016】に記載の「S:鋳型の振動ストロークS(mm)」を「S:鋳型の振動ストローク(mm)」に訂正するものであるから、訂正事項1と同様に、訂正後の請求項1及び2に係る特許に対して、特許出願の際独立して特許を受けることができなくなる理由は見当たらない。したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合するものである。

ウ.訂正事項3について
(ア)訂正の目的について
明細書の段落【0019】には「b=0.40、φ=33.66」、「b=0.15、φ=16.08」、「b=0.20、φ=20.535」、「b=0.25、φ=24.46」という記載がある。また、段落【0033】には「初期位相φ=33.66°」という記載があり、段落【0036】には下記【表1】があり、段落【0037】には、「(b=0.15、φ=16.08)、(b=0.20、φ=20.535)、(b=0.25、φ=24.46)」という記載がある。

ここで、明細書の段落【0025】に記載されているように、初期位相φは、下記(1)式においてr(0)=0になるよう導入されたものであり、段落【0027】?【0030】によって導出される下記(2)式に「b」の値を代入することにより得られるものである。




そして、上記(2)式にb=0.40、0.15、0.20、0.25の各値を代入すると、φ=±33.66°、±16.08°、±20.535°、±24.46°の各値が得られるが、r(0)=0との条件を満たすのは、φ=+33.66°、+16.08°、+20.535°、+24.46°ではなく、φ=-33.66°、-16.08°、-20.535°、-24.46°である。また、図面の図3?5に図示された波形も、φの値がマイナスであることを示しており、上記の計算による結果と整合する。
また、段落【0033】に「初期位相φ=33.66°」と記載されているように、他のφの値についても「°」の単位が抜けていることは明らかである。
よって、明細書の段落【0019】に記載の「φ=33.66」は「φ=-33.66°」、段落【0033】に記載の「φ=33.66°」は「φ=-33.66°」、段落【0019】、【0036】及び【0037】のそれぞれに記載の「16.08」は「-16.08°」、「20.535」は「-20.535°」、「24.46」は「-24.46°」の誤記であることは明らかである。
してみると、訂正事項3は、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであるといえる。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、上記(ア)に記載の通り、願書に添付した明細書の段落【0027】?【0030】の記載に基づいて導き出される事項であるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものといえ、特許法第126条第5項に規定する要件を満たす。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、上記のとおり単に誤記を訂正するものであり、実質的な内容の変更を伴わないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかである。
したがって、訂正事項3は、特許法第126条第6項に規定する要件を満たす。

(エ)独立特許要件について
訂正事項3に係る訂正は、上記のとおり単に誤記を訂正するものであるところ、訂正後の請求項1及び2に係る特許について、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとする理由を発見しない。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合するものである。

エ.訂正事項4について
(ア)訂正の目的について
図面の図3には「非サイン係数b=0.25」との記載とともにb=0.25のときの振動波形を示す図が図示されており、図5には「非サイン係数b=0.15」との記載とともにb=0.15のときの振動波形を示す図が図示されている。
一方、明細書の段落【0019】には「【図3】本発明において、b=0.15、φ=16.08のときの振動波形を示す図である。」及び「【図5】本発明において、b=0.25、φ=24.46のときの振動波形を示す図である。」との記載があり、段落【0043】には「図3に示す波形(b=0.15)、および図5に示す波形(b=0.25)」との記載があることから、図面の記載と明細書の記載が整合していない。これについて、図3と図5の二次波形の振幅を見てもわかるように図3と図5が入れ替わって記載された誤記であることは明らかである。
よって、訂正事項4は特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであるといえる。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、明細書の段落【0019】、【0043】の記載と整合するように図面の図3と図5とに記載されている図をそれぞれ入れ替える訂正を行うものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たす。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、単に図面の図3と図5とに記載されている図をそれぞれ入れ替えるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当せず、特許法第126条第6項に規定する要件を満たす。

(エ)独立特許要件について
訂正事項4は、明細書の記載と図面の記載との整合を取るための訂正であり、訂正後の請求項1、2に係る特許について、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由はない。したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合するものである。

4.むすび
したがって、本件審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
連続鋳造機の操業方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造に用いる連続鋳造機の操業方法に関し、特に、鋳型に振動を与える連続鋳造機の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造は、溶鋼を、取鍋からタンディッシュを経て鋳型に注入し、鋳型内で凝固シェルを形成した後、未凝固領域を含む鋳片を鋳型の下方へ引き抜くことにより実施している。連続鋳造機の操業、特に、溶鋼を高速で鋳造するに際しては、鋳型の内壁に凝固シェルの一部が焼付きによって拘束され、この拘束部の作用により健全な凝固シェルの形成が阻害されることがある。この場合、種々の製品欠陥が発生するだけでなく、ブレークアウトが発生するおそれがある。
【0003】
従来は、鋳型内の溶鋼へと投入するパウダーを選定することで、この問題に対応していた。溶融したパウダーは、溶鋼の表面に浮いて広がり、鋳型と凝固シェルとの間に供給され、これらの間の摩擦力を低減する潤滑剤として機能する。これにより、鋳型の内壁に対する凝固シェルの焼付きを、ある程度、抑制することができる。
【0004】
しかし、近年、連続鋳造の操業は、多種多様の鋼種を対象とし、様々な鋳造条件で実施される。このため、パウダーの物性を変更して対応することには限界がある。そこで、パウダーの投入とともに、鋳型に振動を与えることが試みられている。鋳型に適切な振動を与えることにより、鋳型内での焼き付きを抑制することができる。
【0005】
特許文献1には、正弦波形から偏倚した偏倚正弦波形を有する振動を、鋳型に、上下方向に与えることが開示されている。特許文献1では、偏倚正弦波形の具体的な形として、下記(X)式が挙げられている。
Z=a_(1)sin2πft+a_(2)sin4πft+a_(3)sin6πft+ … (X)
ここで、Z:鋳型の変位(mm)、a_(1)、a_(2)、a_(3)、…:振幅(mm)、f:鋳型の振動数(サイクル/s)、t:時間(s)である。
【0006】
特許文献1では、振動波形を正弦波とした場合に比して、上記(X)式の波形の振動を、
(i) ネガティブストリップ期間の鋳型の最大下降速度を大きく、
(ii) ポジティブストリップ期間の鋳型の最大上昇速度を小さく、
(iii)ネガティブストリップ期間を短く、そして、
(iv) ポジティブストリップ期間を長く
するように調整する、とされている。
【0007】
ネガティブストリップ期間は、鋳型の下降速度が未凝固鋳片の引抜き速度よりも速い期間であり、ポジティブストリップ期間は、鋳型の速度が未凝固鋳片の引抜き速度よりも遅い期間である。特許文献1によれば、上記(i)?(iv)の要件を満たすようにすることにより、鋳型と凝固シェルとの間への溶融パウダーの流入量を増加させ、ブレークアウトの発生を減少させることができるとされている。
【0008】
しかし、特許文献1の方法では、鋳型の振動において、鋳型の移動が上昇から下降へと急激に変化する。この際、鋳型内のメニスカス近傍に付着した溶融パウダー、および未溶融のパウダーが、溶鋼に巻き込まれる。これにより、使用するパウダーの種類によっては、鋳片の表面品質が悪化したり、操業上のトラブルが生じたりする。
【0009】
なお、従来は、鋳型を振動させるために、電動モータと、偏芯カムと、を備えた振動装置が用いられており、偏芯カムの形状により、所望の振動波形を得ていた。この場合、振動波形を変更するためには、振動波形に対応した偏芯カムを用意する必要があった。近年、鋳型を振動させるために、電気油圧式振動装置が用いられるようになっている。これにより、特許文献1、および下記特許文献2に開示されているような複雑な波形で鋳型を振動させる際、パラメータを変更することが容易になっている。
【0010】
特許文献2には、下記(Y)式で表される波形で、鋳型を上下方向に振動させる連続鋳造機の操業方法が開示されている。
Z=A(sin2πft+bcos4πft+c) …(Y)
ここで、Z:鋳型の変位(mm)、A:鋳型の振動ストロークS(mm)の1/2、b:歪み定数、c:歪み定数、f:鋳型の振動数(Hz/60)、t:時間(s)である。
【0011】
特許文献2によれば、このような振動波形を採用することにより、鋳型の上昇から下降への急激な変化が生じないようにし、溶融パウダー、および未溶融のパウダーが溶鋼へ巻き込まれないようにすることができるとされている。
【0012】
このような振動波形を採用すると、振動の中立位置が、上下いずれかにずれる。この場合、鋳型内での未凝固鋳片の移動経路が鉛直方向に沿う垂直連続鋳造では、振動の対称性は確保される。これに対し、鋳型内での未凝固鋳片の移動経路が湾曲した湾曲連続鋳造では、振動の対称性がなくなるため、鋳型内潤滑不良や、パウダーの溶鋼への巻き込みなどの問題が発生しやすくなる。
【0013】
また、特許文献2の上記振動波形を採用した場合、時間t=0での変位Zは、0ではなく、SC/2となる。この場合、鋳型を振動させる振動装置の運転開始時に、所定の振動波形で鋳型を振動させることができず、鋳型は、たとえば、時間に対してステップ状に変位する。これにより、鋳造開始時に鋳型の下部の開口を塞ぐ(シールする)ダミーバーが、開口を十分にシールできなくなり、鋳型から溶鋼が漏れ出ることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特公平4-79744号公報
【特許文献2】特許第3651447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、上記先行技術の問題、特に湾曲連続鋳造における中立位置がずれることによる潤滑不良およびパウダーの溶鋼への巻き込みを防止することができる、連続鋳造機の操業方法を提供することである。
本発明の他の目的は、鋳造初期のトラブル(シール漏れなど)を防止することができ、振動装置の運転開始時から、所定の振動波形で鋳型を振動させることができる、連続鋳造機の操業方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、下記の連続鋳造機の操業方法を要旨とする。
連続鋳造用の鋳型からの鋳片の引抜きを、前記鋳型を上下方向に振動させつつ行う連続鋳造機の操業方法において、
下記(1)式により表される振動波形を有し、下記(2)式を満たすように、前記鋳型を振動させる工程を含む、連続鋳造機の操業方法。
r(t)=(S/2){sin(ωt+φ)+bcos2(ωt+φ)+b} …(1)
【数1】

ただし、r(t):鋳型の変位(mm)
S:鋳型の振動ストローク(mm)
ω:角速度(=2πf)(rad/s)
f:鋳型の振動数(Hz)
t:時間(s)
φ:初期位相(°)
b:非サイン係数(0<b≦0.25)。
【発明の効果】
【0017】
本発明の操業方法によれば、鋳型は、上記(1)式により表される振動波形で振動させられる。湾曲連続鋳造で、上記(1)式により表される振動波形では、中立位置のずれはない。このため、潤滑不良およびパウダーの溶鋼への巻き込みを防止することができる。
【0018】
また、上記(2)式を満たすことにより、r(0)=0、すなわち、振動装置の運転開始時に、鋳型の変位が0となる。このため、振動装置の運転開始時から、所定の振動波形で鋳型を振動させることができるので、鋳造初期のトラブルを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の操業方法を適用できる連続鋳造機の構成例を示す断面図である。
【図2】b=0.40、φ=-33.66°のときの振動波形(参考例の振動波形)を示す図である。
【図3】本発明において、b=0.15、φ=-16.08°のときの振動波形を示す図である。
【図4】本発明において、b=0.20、φ=-20.535°のときの振動波形を示す図である。
【図5】本発明において、b=0.25、φ=-24.46°のときの振動波形を示す図である。
【図6】振動波形毎の最大摩擦力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の操業方法を適用できる連続鋳造機の構成例を示す断面図である。タンディッシュ1には、図示しない取鍋から供給された溶鋼6が収容される。タンディッシュ1の下方には、筒形で、上下に開口を有する鋳型3が配置されている。溶鋼6は、タンディッシュ1から浸漬ノズル2を経て、鋳型3の上部の開口から、鋳型3内に注入される。
【0021】
鋳型3には、振動装置20が接続されている。振動装置20は、電気油圧方式で、鋳型3に上下方向の振動を与える。振動装置20は、制御部を備えている。制御部には、波形のパラメータを入力可能であり、振動装置20は、入力されたパラメータに基づいて、様々な波形の振動を生じさせることができる。連続鋳造を行っている間、このようにして生成された波形の振動が、鋳型3に与えられる。
【0022】
鋳型3内の溶鋼6には、パウダーが投入される。パウダーは、溶鋼6の熱により溶融し、溶融パウダーとなって、鋳型3内の溶鋼6の表面に広がる。溶鋼6において、鋳型3との接触部または対向部近傍の部分は、冷却され、固化して、筒状の凝固シェル7となる。溶融パウダーは、鋳型3と凝固シェル7との間に供給される。これにより、鋳型3と凝固シェル7との摩擦力が低減される。
【0023】
凝固シェル7の内部は、溶鋼6で満たされている。溶鋼6は、鋳型3を通ることによっては完全には凝固せず、未凝固の部分を含む未凝固鋳片となる。未凝固鋳片は、鋳型3の下方に配置された図示しない二次冷却スプレーノズル群から噴射される冷却水により冷却される。これにより、凝固シェル7が拡大する。
【0024】
未凝固鋳片は、鋳型3の直下に配置されたフットロール4と、フットロール4に対して未凝固鋳片の移動方向下流側(以下、単に、「下流側」という。)に配置された複数のローラーエプロン5によって支持されながら、ローラーエプロン5の下流側に配置されたピンチロール8によって引き抜かれる。そして、未凝固鋳片は、ピンチロール8の下流側に配置された圧下ロール9によって圧下されて、未凝固の部分を実質的に含まない鋳片となる。
【0025】
上述のように、本発明の、連続鋳造機の操業方法では、(1)式により表される振動波形で鋳型を振動させる。従来技術における(X)式の波形が、周期の異なる正弦波のみを組み合わせた合成波形であるのに対して、(1)式の波形は、正弦波と余弦波との合成波形である。また、(1)式は、初期位相φが導入されてr(0)=0とされている点で、(X)式と大きく異なる。
【0026】
(1)式において、φ=0とすると、鋳型の変位r(t)は、ωt=π/2のとき、最大値(S/2)をとり、ωt=-π/2のとき、最小値(-S/2)をとる。また、鋳型の変位r(t)の最大値および最小値は、初期位相φには依存しない。したがって、(1)式により表される振動波形では、中立位置のずれはない。このため、垂直連続鋳造のみならず、湾曲連続鋳造でも、潤滑不良およびパウダーの溶鋼への巻き込みを防止することができる。
【0027】
また、時間t=0で鋳型の変位が0となるためには、下記(3)式を満たす必要がある。下記(3)式は、(1)式に、t=0を代入し、r(0)=0とすることにより得られる。
0=sinφ+bcos2φ+b …(3)
【0028】
三角関数の公式、cos2φ=1-2sin^(2)φを用いると、(3)式は、下記(4)式に書き換えることができる。
2bsin^(2)φ-sinφ-2b=0 (b>0) …(4)
【0029】
|sinφ|≦1であるので、(4)式を、sinφについて解くと、下記(5)式が得られる。
sinφ={1-(1+16b^(2))^(1/2)}/4b …(5)
【0030】
三角関数の公式、tanφ=sinφ/cosφ、およびcosφ=±(1-sin^(2)φ)^(1/2)を用いて、(5)式をφについて解くと、上記(2)式が得られる。
【0031】
すなわち、(2)式を満たすことにより、時間t=0での鋳型の変位r(0)が0となる。このため、鋳型を振動させる振動装置の運転開始時から、所定の振動波形で鋳型を振動させることが可能となり、鋳型の開口を、ダミーバーで良好にシールすることが可能となる。
【0032】
(2)式から、φについて、2つの値が得られる。振動開始時の鋳型の移動方向が上方向であれば、dr(0)/dt>0であるので、cosφ>0となるφを採用すればよい。
【0033】
非サイン係数bは、0<b≦0.25の範囲の値をとる。
bは、bcos2(ωt+φ)の項では、cos2(ωt+φ)の係数であり、sin(ωt+φ)の項に対するbcos2(ωt+φ)の項の大きさを決定する。0.25<bの場合、sin(ωt+φ)の項に対するbcos2(ωt+φ)の項の大きさが大きくなりすぎ、鋳型が最も上昇すべきωt+φ=π(1/2+2n)(nは、0または正の整数)のときに、鋳型が下降してしまうという問題が生じる。このため、b≦0.25とする。参考までに、b=0.4、および、初期位相φ=-33.66°の場合の波形を図2に示す。図2に示したように、0.25<bを満たすb=0.4の場合、鋳型が最も上昇すべきωt+φ=π(1/2+2n)(nは、0または正の整数)のときに、鋳型が下降してしまう。それゆえ、本発明では、b≦0.25とする。
【0034】
一方、bが0であれば、鋳型の変位r(t)の波形は単振動となり、0<bの場合に比して、鋳型と凝固シェルとの間への溶融パウダーの流入量を増加させることができない。それゆえ、本発明では、0<bとする。単振動である場合に比して溶融パウダーの流入量を十分に増加させるために、本発明では、0.15≦bであることが好ましい。
【0035】
表1に、非サイン係数bが、0.15、0.20、0.25である場合に、(2)式から求められる初期位相φの値を示す。非サイン係数bの値に応じて、(2)式を満たす初期位相φの値を採用することにより、r(0)=0とすることができる。
【0036】
【表1】

【0037】
図3?図5に、非サイン係数b、および初期位相φの値として、表1に示す組み合わせ、すなわち、(b=0.15、φ=-16.08°)、(b=0.20、φ=-20.535°)、(b=0.25、φ=-24.46°)を、それぞれ採用したときの、(1)式に基づく波形(時間tと、鋳型の変位r(t)との関係)を示す。
【0038】
図3?図5の各々において、(1)式において、sin(ωt+φ)の部分を一次波形とし、bcos2(ωt+φ)の部分を二次波形とし、r(t)を合成波形として示している。ここで、S=4mm、ω=2πrad/sとした。
【0039】
図3?図5に示す合成波形では、振動波形が正弦波である場合に比して、最大変位(最高点)近傍における移動速度の変化が小さく、最小変位(最低点)近傍における移動速度の変化が大きくなっている。非サイン係数bを大きくするほど、最大変位近傍において、移動速度の変化が小さい期間が長くなる。また、振動波形が正弦波である場合に比して、最小変位近傍と最大変位近傍との間の期間では、鋳型の移動速度(上昇速度、および下降速度)が大きくなっている。
【0040】
鋳型の下降速度が大きいことにより、鋳型と凝固シェルとの間に押し込まれる(ポンピングされる)溶融パウダーの量が多くなる。鋳型の上昇速度が大きいことにより、パウダーが、鋳型の内壁面に、より近い領域にまで至るようにする(パウダーの流路を広げる)ことができる。最大変位近傍で、鋳型の移動速度が小さい期間が長いことにより、パウダーの流路が広がった状態が長く続くようにすることができる。したがって、図3?図5に示す合成波形で、鋳型を上下に振動させることにより、鋳型と凝固シェルとの間の潤滑性を高くすることができる。
【0041】
また、図3?図5に示す合成波形では、いずれも、t=0のときの鋳型の変位は、最大変位(2mm)と最小変位(-2mm)との中間位置、すなわち、中立位置にある。これにより、シール漏れ等の鋳造初期のトラブルを防止することができる。また、中立位置のずれがないことにより、鋳型内潤滑不良、およびパウダーの溶鋼への巻き込みを抑制するという効果を、安定して奏することができる。
【0042】
非サイン係数bが大きいほど、鋳型と凝固シェルとの間の潤滑性を高くすることができる一方、パウダーの物性によっては、溶融パウダーが溶鋼中に巻き込まれやすくなる。これらを考慮して、パウダーの物性に合わせて、非サイン係数bの値として、適当なものを採用するか、非サイン係数bの値に合わせて、適当な物性を有するパウダーを採用することが好ましい。たとえば、非サイン係数bの値が大きい場合、凝固点温度が高く、溶融パウダーの粘度が高いパウダーを採用すると、溶融パウダーの溶鋼中への巻き込みを、効率的に抑えることができる。
【0043】
振動波形の違いによる、パウダーの潤滑性能の違いを調査した。振動波形として、正弦波、図3に示す波形(b=0.15)、および図5に示す波形(b=0.25)をそれぞれ採用した。各波形で、油圧式振動装置を用いて、鋳型を上下方向に振動させながら、連続鋳造を行った。いずれの振動波形で鋳型を振動した場合も、同一特性のパウダー(凝固温度:1154℃、1300℃における溶融パウダーの粘度:0.14Pa・s)を用いた。上記油圧式振動装置により、鋳型振動時の荷重であって、鋳型上昇期の最大荷重(以下、単に、「最大荷重」という。)を測定した。
【0044】
潤滑性能は、最大摩擦力により評価した。最大摩擦力Fは、
F=(L1-L2)/S
で表される。ここで、
L1:鋳造時(鋳型内に溶鋼が存在するとき)の最大荷重
L2:非鋳造時(鋳型内に溶鋼が存在しないとき)の最大荷重
S:鋳型の内面において、溶鋼と接触または対向している部分の面積
である。
【0045】
図6に、振動波形毎の最大摩擦力を示す。振動波形として、正弦波を採用した場合に比して、図3および図5に示す波形を採用した場合の方が、最大摩擦力は小さくなっている。すなわち、正弦波を採用した場合に比して、(1)式の波形(b=0.15、0.25)を採用した場合の方が、鋳型と凝固シェルとの間におけるパウダーの潤滑性能は高くなる。また、b=0.15とした場合より、b=0.25とした場合の方が、潤滑性能は高くなっている。
【符号の説明】
【0046】
3…鋳型
20…振動装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】連続鋳造用の鋳型からの鋳片の引抜きを、前記鋳型を上下方向に振動させつつ行う連続鋳造機の操業方法において、
下記(1)式により表される振動波形を有し、下記(2)式を満たすように、前記鋳型を振動させる工程を含む、連続鋳造機の操業方法。
r(t)=(S/2){sin(ωt+φ)+bcos2(ωt+φ)+b} …(1)
【数1】

ただし、r(t):鋳型の変位(mm)
S:鋳型の振動ストローク(mm)
ω:角速度(=2πf)(rad/s)
f:鋳型の振動数(Hz)
t:時間(s)
φ:初期位相(°)
b:非サイン係数(0<b≦0.25)。
【請求項2】 請求項1の操業方法において、0.15≦bである、連続鋳造機の操業方法。
【図面】






 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-09-30 
結審通知日 2019-10-03 
審決日 2019-10-16 
出願番号 特願2016-529201(P2016-529201)
審決分類 P 1 41・ 852- Y (B22D)
P 1 41・ 855- Y (B22D)
P 1 41・ 841- Y (B22D)
P 1 41・ 854- Y (B22D)
P 1 41・ 856- Y (B22D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 池ノ谷 秀行  
特許庁審判長 見目 省二
特許庁審判官 青木 良憲
栗田 雅弘
登録日 2017-12-01 
登録番号 特許第6249099号(P6249099)
発明の名称 連続鋳造機の操業方法  
代理人 山本 典輝  
代理人 山本 典輝  

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