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審決分類 |
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する F16C 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16C 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する F16C 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する F16C 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する F16C |
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管理番号 | 1357090 |
審判番号 | 訂正2019-390101 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2019-08-27 |
確定日 | 2019-10-25 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5531966号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第5531966号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件訂正審判の請求に係る特許第5531966号(以下「本件特許」という。)は、2009年12月10日(優先権主張2008年12月10日 日本国(JP)、2008年12月10日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、平成26年5月9日に特許権の設定登録がされ、令和1年8月27日に本件訂正審判請求がされた。 第2 請求の趣旨及び訂正の内容 本件訂正審判の請求の趣旨は、審判請求書の請求の趣旨に記載されるとおり、特許第5531966号の明細書を、本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものであって、その内容は次のとおりである。(審決注:下線部分が訂正箇所である。) 1 訂正事項1 明細書の段落【0053】の「潤滑剤導入側よりも潤滑剤排出側の方が大きしても」との記載を「潤滑剤導入側よりも潤滑剤排出側の方が大きくなるようにしても」に訂正し、 同【0081】の「潤滑剤導入側よりも潤滑剤排出側の方が大きくしても」との記載を「潤滑剤導入側よりも潤滑剤排出側の方が大きくなるようにしても」に訂正する。 2 訂正事項2 明細書の段落【0132】、【0133】、【0137】、及び【0139】(2箇所)の「潤滑剤ガイド15」との記載を「潤滑剤ガイド5」に訂正する。 3 訂正事項3 明細書の段落【0141】の「本発明の実施例及びその変形例にについて説明したが、」との記載を「本発明の実施例及びその変形例について説明したが、」に訂正する。 4 訂正事項4 明細書の【発明の名称】の「玉軸受及びハイブリッド車用変速機」との記載を「玉軸受」に訂正する。 5 訂正事項5 明細書の段落【0001】の「本発明は、玉軸受及びハイブリッド車用変速機に関する。」との記載を「本発明は、玉軸受に関する。」に訂正する。 6 訂正事項6 明細書の段落【0025】の「図1は、本発明の第1実施例に係る玉軸受の部分縦断面図である。」との記載を「図1は、第1参考例に係る玉軸受の部分縦断面図である。」に訂正し、 同【0026】の「第1実施例」との記載を「第1参考例」に訂正し、 同【0050】の「第1実施例」との記載を「第1参考例」に訂正し、 同【0052】の「第1実施例」との記載を「第1参考例」に訂正し、 同【0053】の「第1実施例」との記載を「第1参考例」に訂正し、 同【0055】の「第1実施例と同じ又は同様の部分には第1実施例と同じ符号を付してある。また、第1実施例と同様の構成に関する詳細な説明は省略する。」との記載を「第1参考例と同じ又は同様の部分には第1参考例と同じ符号を付してある。また、第1参考例と同様の構成に関する詳細な説明は省略する。」に訂正し、 同【0070】の「第1実施例」との記載を「第1参考例」に訂正し、 同【0072】の「第1実施例」との記載を「第1参考例」に訂正し、 同【0073】の「第1実施例」との記載を「第1参考例」に訂正し、 同【0074】の「また、第1実施例と同様に、」との記載を「また、第1参考例と同様に、」に訂正し、 同【0074】の「したがって、第1実施例と同様に、」との記載を「したがって、第1参考例と同様に、」に訂正し、 同【0077】の「第1実施例」との記載を「第1参考例」に訂正し、 同【0078】の「第1実施例」との記載を「第1参考例」に訂正し、 同【0080】の「第1実施例」との記載を「第1参考例」に訂正し、 同【0083】の「第1実施例」との記載を「第1参考例」に訂正し、 同【0096】(2箇所)の「第1実施例」との記載を「第1参考例」に訂正する。 また、明細書の段落【0023】の【図1】の「本発明の第1実施例に係る玉軸受の部分断面図である。」との記載を「第1参考例に係る玉軸受の部分断面図である。」に訂正し、 同【図10】の「第1実施例の第1変形例に係る玉軸受の部分断面図である。」との記載を「第1参考例の第1変形例に係る玉軸受の部分断面図である。」に訂正し、 同【図11】の「第1実施例の第2変形例に係る玉軸受の部分断面図である。」との記載を「第1参考例の第2変形例に係る玉軸受の部分断面図である。」に訂正し、 同【図12】の「第1実施例の第3変形例に係る玉軸受の部分断面図である。」との記載を「第1参考例の第3変形例に係る玉軸受の部分断面図である。」に訂正する。 7 訂正事項7 明細書の段落【0097】の「図31は、本発明の第3実施例に係る玉軸受を示す。」との記載を「図31は、第3参考例に係る玉軸受を示す。」に訂正し、 同【0107】の「第3実施例」との記載を「第3参考例」に訂正し、 同【0111】の「第3実施例」との記載を「第3参考例」に訂正し、 同【0121】の「第3実施例の第1変形例」との記載を「第3参考例の第1変形例」に訂正し、 同【0121】の「第3実施例のものと同様」との記載を「第3参考例のものと同様」に訂正し、 同【0122】(2箇所)の「第3実施例」との記載を「第3参考例」に訂正し、 同【0128】の「第3実施例の第7乃至第10変形例」との記載を「第3参考例の第7乃至第10変形例」に訂正し、 同【0128】の「例えば、第3実施例では」との記載を「例えば、第3参考例では」に訂正し、 同【0130】の「第3実施例」との記載を「第3参考例」に訂正する。 また、明細書の段落【0023】の【図31】の「本発明の第3実施例に係る玉軸受の断面図である。」との記載を「第3参考例に係る玉軸受の断面図である。」に訂正し、 同【図35】の「本発明の第3実施例の第1変形例の玉軸受の要部断面図である。」との記載を「第3参考例の第1変形例の玉軸受の要部断面図である。」に訂正し、 同【図36A】の「第3実施例の第2変形例に係る玉軸受の断面図である。」との記載を「第3参考例の第2変形例に係る玉軸受の断面図である。」に訂正し、 同【図36B】の「第3実施例の第3変形例に係る玉軸受の断面図である。」との記載を「第3参考例の第3変形例に係る玉軸受の断面図である。」に訂正し、 同【図36C】の「第3実施例の第4変形例に係る玉軸受の断面図である。」との記載を「第3参考例の第4変形例に係る玉軸受の断面図である。」に訂正し、 同【図36D】の「第3実施例の第5変形例に係る玉軸受の断面図である。」との記載を「第3参考例の第5変形例に係る玉軸受の断面図である。」に訂正し、 同【図36E】の「第3実施例の第6変形例に係る玉軸受の断面図である。」との記載を「第3参考例の第6変形例に係る玉軸受の断面図である。」に訂正し、 同【図37A】の「第3実施例の第7に係る玉軸受の断面図である。」との記載を「第3参考例の第7に係る玉軸受の断面図である。」に訂正し、 同【図37B】の「第3実施例の第8変形例に係る玉軸受の断面図である。」との記載を「第3参考例の第8変形例に係る玉軸受の断面図である。」に訂正し、 同【図37C】の「第3実施例の第9変形例に係る玉軸受の断面図である。」との記載を「第3参考例の第9変形例に係る玉軸受の断面図である。」に訂正し、 同【図37D】の「第3実施例の第10変形例に係る玉軸受の断面図である。」との記載を「第3参考例の第10変形例に係る玉軸受の断面図である。」に訂正する。 第3 当審の判断 1 訂正事項1について (1)訂正の目的について 訂正前明細書段落【0053】には「内輪1の肩の部分における外径を、潤滑剤導入側よりも潤滑剤排出側の方が大きしても、上記と同様の効果が得られる」と記載され、同様に訂正前明細書段落【0081】には「潤滑剤導入側よりも潤滑剤排出側の方が大きくしても」と記載されている。 しかし、これらは日本語として不明瞭な記載であって、「・・・よりも・・・の方が大きしても」あるいは「・・・よりも・・・の方が大きくしても」は、訂正前明細書段落【0053】及び【0081】の末行に記載されているように「・・・よりも・・・の方が大きくなるようにしても」が本来の意味であると文脈から理解できる。 訂正事項1は、段落【0053】及び【0081】の上記記載を、明瞭な記載とするために、それぞれ「潤滑剤導入側よりも潤滑剤排出側の方が大きくなるようにしても」に訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。 (2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて 訂正事項1は、明瞭でない記載を本来の意味に訂正するにすぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第126条第5項の規定に適合する。 (3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて 訂正事項1は、明細書の明瞭でない記載を本来の意味に訂正するにすぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないから、特許法第126条第6項の規定に適合する。 2 訂正事項2について (1)訂正の目的について 訂正前明細書段落【0132】、【0133】、【0137】及び【0139】には、試験1又は2に用いた玉軸受の「潤滑剤ガイド」の符号として「15」が用いられている。 しかし、明細書段落【0132】には「次に、図38に示す玉軸受を用いて保持器半径方向ガタ測定試験の例について述べる。」と記載され、図38には潤滑剤ガイドの符号として「5」が用いられていることから、試験1及び2に用いた玉軸受の潤滑剤ガイドの符号「15」が「5」の誤記であることは明白である。 訂正事項2は、明らかな誤記を本来の意味に訂正するものであり、特許法第126条第1項ただし書き第2号に規定する「誤記の訂正」を目的とする。 (2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて 訂正事項2は、明白な誤記を本来の意味に訂正するにすぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第126条第5項の規定に適合する。 (3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて 訂正事項2は、明細書の明白な誤記を本来の意味に訂正するにすぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないから、特許法第126条第6項の規定に適合する。 (4)独立特許要件について 訂正事項2は、明細書の明白な誤記を本来の意味に訂正するにすぎず、独立特許要件を満たさなくなるような事情は存在しないから、特許法第126条第7項の規定に適合する。 3 訂正事項3について (1)訂正の目的について 訂正前明細書段落【0141】には「本発明の実施例及びその変形例にについて説明したが、」と記載されているが、日本語として意味をなしておらず、「本発明の実施例及びその変形例について説明したが、」の誤記であることは明白である。 訂正事項3は、明らかな誤記を本来の意味に訂正するものであり、特許法第126条第1項ただし書き第2号に規定する「誤記の訂正」を目的とする。 (2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて 訂正事項3は、明白な誤記を本来の意味に訂正するにすぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第126条第5項の規定に適合する。 (3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて 訂正事項3は、明細書の明白な誤記を本来の意味に訂正するにすぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないから、特許法第126条第6項の規定に適合する。 (4)独立特許要件について 訂正事項3は、明細書の明白な誤記を本来の意味に訂正するにすぎず、独立特許要件を満たさなくなるような事情は存在しないから、特許法第126条第7項の規定に適合する。 4 訂正事項4について (1)訂正の目的について 訂正前明細書の【発明の名称】には「玉軸受及びハイブリッド車用変速機」と記載されているが、訂正前特許請求の範囲の請求項1?3には「玉軸受」が記載されているのみで、「ハイブリッド車用変速機」は記載されておらず、発明の名称と特許請求の範囲の記載とが一致していないため、不明瞭である。 訂正事項4は、発明の名称を特許請求の範囲の記載に整合させるものであり、特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。 (2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて 訂正事項4は、発明の名称を特許請求の範囲の記載に整合させる訂正にすぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第126条第5項の規定に適合する。 (3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて 訂正事項4は、発明の名称を特許請求の範囲の記載に整合させる訂正にすぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないから、特許法第126条第6項の規定に適合する。 5 訂正事項5について (1)訂正の目的について 訂正前明細書の段落【0001】には「本発明は、玉軸受及びハイブリッド車用変速機に関する」と記載されているが、訂正前特許請求の範囲の請求項1?3には「玉軸受」が記載されているのみで、「ハイブリッド車用変速機」は記載されておらず、明細書の記載と特許請求の範囲の記載とが一致していないため、不明瞭である。 訂正事項5は、明瞭でない記載を特許請求の範囲の記載に整合させるものであり、特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。 (2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて 訂正事項5は、明細書の記載を特許請求の範囲の記載に整合させる訂正にすぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第126条第5項の規定に適合する。 (3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて 訂正事項5は、明細書の記載を特許請求の範囲の記載に整合させる訂正にすぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないから、特許法第126条第6項に規定する要件を満たす。 6 訂正事項6について (1)訂正の目的について 訂正前明細書の段落【0025】?【0054】、及び【図1】?【図12】には、【実施例1】として「第1実施例」が記載されている。 しかし、「第1実施例」は、請求項1に係る発明の発明特定事項である「前記保持器の重心の軸方向位置と前記ポケットのそれぞれの球状もしくは円筒状の内面の曲率中心との間の軸方向距離は、前記内面の曲率半径の0.65倍以上1.1倍以下であり」及び「前記内輪の軌道面及び前記外輪の軌道面は、内輪と外輪の軸方向幅の中央位置から軸方向の一方側にオフセットされた位置に配置される」を充足せず、 請求項2に係る発明の発明特定事項である「前記ポケットのそれぞれは、前記内面の縁部を面取りして形成した面取り部を備え」及び「前記面取り部の径方向長さが、前記内面の曲率半径の2.5%以上である」を充足せず、 請求項3に係る発明の発明特定事項である「前記ポケットのそれぞれに関して、ポケットによって保持される転動体とポケットの内面とが径方向最内方側で接触する接触点と前記転動体の中心とを結ぶ直線と、径方向に直交して前記転動体の中心を通る直線とがなす角度は、30° 以上である」を充足していない。 すなわち、発明特定事項を充足しない態様が「第1実施例」と記載されていることになり、明細書の記載と特許請求の範囲の記載とが一致せず、不明瞭となる。 訂正事項6は、明細書の「第1実施例」との記載を「第1参考例」に訂正することにより、明瞭でない記載を特許請求の範囲の記載に整合させるものであり、特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。 (2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて 訂正事項6は、明細書の記載を特許請求の範囲の記載に整合させる訂正にすぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第126条第5項の規定に適合する。 (3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて 訂正事項6は、明細書の記載を特許請求の範囲の記載に整合させる訂正にすぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないから、特許法第126条第6項の規定に適合する。 7 訂正事項7 (1)訂正の目的について 訂正前明細書の段落【0097】?【0140】、及び【図31】?【図41】には、【実施例3】として「第3実施例」が記載されている。 しかし、上記「第3実施例」についての記載には、請求項1に係る発明の発明特定事項である「前記保持器の重心の軸方向位置と前記ポケットのそれぞれの球状もしくは円筒状の内面の曲率中心との間の軸方向距離は、前記内面の曲率半径の0.65倍以上1.1倍以下であり」を充足することが明記されておらず、 請求項2に係る発明の発明特定事項である「前記面取り部の径方向長さが、前記内面の曲率半径の2.5%以上である」を充足することが明記されておらず、 請求項3に係る発明の発明特定事項である「前記ポケットのそれぞれに関して、ポケットによって保持される転動体とポケットの内面とが径方向最内方側で接触する接触点と前記転動体の中心とを結ぶ直線と、径方向に直交して前記転動体の中心を通る直線とがなす角度は、30° 以上である」を充足することが明記されていない。 すなわち、発明特定事項を充足しない態様が「第3実施例」と記載されていることになり、明細書の記載と特許請求の範囲の記載とが一致せず、不明瞭となる。 訂正事項7は、明細書の「第3実施例」との記載を「第3参考例」に訂正することにより、明瞭でない記載を特許請求の範囲の記載に整合させるものであり、特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。 (2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて 訂正事項7は、明細書の記載を特許請求の範囲の記載に整合させる訂正にすぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第126条第5項の規定に適合する。 (3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて 訂正事項7は、明細書の記載を特許請求の範囲の記載に整合させる訂正にすぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないから、特許法第126条第6項の規定に適合する。 第4 まとめ 以上のとおり、本件訂正審判に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号及び第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項から第7項までの規定に適合する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 玉軸受 【技術分野】 【0001】 本発明は、玉軸受に関する。 【背景技術】 【0002】 図42は、各種回転部分を支持するために広く使用されている第lの従来例に係る玉軸受を示している。この玉軸受は、外周面に内輪軌道101を有する内輪102と、内周面に外輪軌道103を有する外輪104と、が同心に配され、内輪軌道101と外輪軌道103との間に複数の玉105が転動自在に配された構造を有している。 【0003】 複数の玉105は、図43,44に示すような保持器107に転動自在に保持されている。保持器107は、冠型保持器と呼ばれるもので、合成樹脂を射出成形することにより一体に形成されている。保持器107は、円環状のベース部108と、ベース部108の軸方向一端面に設けられた複数のポケット109と、を備えている。各ポケット109は、ベース部108の軸方向一端面に設けられた凹部110と、凹部110の縁に互いに間隔をあけ対向して配置された1対の弾性片111とから形成されている。この1対の弾性片111の互いに対向する面と凹部110の内面とは、連続して1つの球状凹面又は円筒面を形成している。 【0004】 保持器107は、弾性片111の間隔を弾性的に押し広げつつ、1対の弾性片111の間に玉105を押し込むことにより、各ポケット109内に玉105を転動自在に保持する。 【0005】 保持器107は、例えば、ナイロン46、ナイロン66、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリ四弗化エチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の合成樹脂により形成されている。また、これらの合成樹脂中にガラス繊維(GF)、炭素繊維(CF)等の補強材を10?40質量%程度含有させることにより、高温下での靱性及び機械的強度を高められることが知られている。 【0006】 このような玉軸受は、高温,高速等の過酷な条件下で使用される場合が多くなっている。例えば、ハイブリッド車用の駆動モータやオルタネータの回転支持部分に組み込まれる玉軸受の場合は、高温(100℃以上)且つ高速(回転速度10000min^(-1)以上又はdmn60万以上)で使用される場合が多い。なお、dmnのdmは軸受ピッチ円径(単位はmm)であり、nは軸受の回転速度(単位はmin^(-1))である。このような使用条件下においては、玉軸受内の保持器107は、内輪102の外周面と外輪104の内周面との間に存在する潤滑油やグリースと共に高速で回転する。そして高速回転時の保持器107には、遠心力に基づく径方向外方に向く力、玉105の公転に基づく拘束力(回転方向の力)、潤滑油やグリースの攪拌抵抗等が組み合わされた複雑な力が加わる。 【0007】 このような複雑な力によって保持器107は不規則な運動を繰り返し、衝撃を伴なう複雑な外部応力を受ける。よって、上記のような高速の使用条件下で長時間運転を継続すると、遠心力の作用により弾性変形又は塑性変形する。高温になると、これらの変形は促進されやすい。その結果、各ポケット109の内面と各玉105の転動面との間の隙間のバラツキが大きくなる。さらには、各ポケット109の内面が、玉105の転動面から受ける力も加わって摩耗する。そして、この隙間が大きくなると、次のような問題を生じる。 【0008】 第一に、玉軸受の回転に伴って保持器107が細かく振動し、各ポケット109の摩耗を更に促進するだけでなく、有害な振動や騒音を発生する。第二に、玉105による保持器107の拘束が解かれる結果、保持器107が部分的に又は全体的に変位したり、偏心したりして、保持器107の一部が内輪102、もしくは外輪104と擦れ合う。 【0009】 例えば、ポケット109の弾性片111が、遠心力に基づいて径方向外方に変位し(図45を参照)、各弾性片111の外周面と外輪104の内周面とが擦れ合う。このような擦れ合いが生じると、軸受の引きずりトルクが上昇したり保持器107が破断したりするおそれがある。また、摩耗がさらに進行すると、保持器107が軸受から外れて軸受が分解し、軸受ユニットに重大な損傷が発生するおそれがある。 【0010】 このような問題を解決するため、金属製の補強部材を備えた樹脂製保持器が提案されている(例えば、日本国特開平8-145061号公報及び日本国特開平9-79265号公報参照)。金属製の補強部材により保持器の剛性が高められるので、高温,高速条件下で使用されても前述のような変形が生じにくくなっている。 【0011】 しかしながら、樹脂製保持器に金属製の補強部材を設けるため、玉軸受の製造コストアップの要因になる。 【0012】 第2従来例の玉軸受は、図46に示すように、外周面に内輪軌道面201a(軌道溝)を有する内輪201と、内周面に外輪軌道面202a(軌道溝)を有する外輪202と、内輪軌道面201aと外輪軌道面202aとの間に転動自在に配置された複数の玉203と、円環状のベース部204a及びベース部204aの片方の軸方向端面に突設され、先端に爪部を備えた柱部204bを有し、該柱部204b間に形成された球面ポケット204cに玉203を収容する樹脂製の冠型保持器204と、を有する。玉203は、冠型保持器204によって円周方向に所定の間隔で保持され、保持器204と共に公転する。 【0013】 このような玉軸受は、例えば、自動車の変速機等の回転部に使用される場合、ポンプ等で潤滑油を供給する強制潤滑方式で使用されることが多く、潤滑油は軸受の内部を軸方向に貫通して流れ、変速機ユニット内を循環及び潤滑している。 【0014】 この玉軸受を高速回転させると、遠心力により、図47A及び47Bに示すように、冠型保持器204のベース部204aを捩れ軸として、柱部204bが外径側に開く。その結果、冠型保持器204の球面ポケット204cの内径側と玉203との接触面圧が増大し、ポケット204cの内径側部分204pが摩耗し、発熱が大きくなる。 【0015】 ポケット204cの内径側部分204pの摩耗が進行すると、冠型保持器204の振れ回りが大きくなり、冠型保持器204が振動する。さらには、図48に示すように、冠型保持器204の外径側と外輪202の内周面とが接触して、柱部204bが摩耗し、最悪の場合は保持器204が破損する場合もある。 【0016】 一方、図49A及び49Bに示すように、冠型保持器204の球面ポケット204cの中心Ocを冠型保持器204の径方向幅の中心T1よりも外径側に配置、つまり、冠型保持器204の径方向の全幅寸法をQとした場合に、球面ポケット204cの中心Ocより外側の幅Q2よりも内側の幅Q1を大きくして、内径側の玉抱え込み量を大きく確保することで、冠型保持器204の外径側への捩れ変形を抑制することが提案されている(例えば、日本国実開平5-34317号公報参照)。 【0017】 しかしながら、図49A及び49Bに示した玉軸受において、軸受を高速回転させたときには、球面ポケット204cの内径側が遠心力によって潤滑油不足になることで摩耗し、最終的には捩れ変形を抑えられなくなり、上記した振れ回りによる問題が発生する虞がある。 【0018】 また、冠型保持器204の内周部に潤滑油を供給するため、内輪201側に直接潤滑油ノズルを近づけて配置することが考えられる。しかしながら、この場合、潤滑ノズルが別途必要であり、潤滑ノズルを設置するスペースも必要となる。 【発明の概要】 【0019】 本発明は、前述の問題の一以上に対応することを目的とする。 【0020】 本発明の一態様によれば、玉軸受は、軌道面を有する内輪と、軌道面を有する外輪と、内輪の軌道面及び外輪の軌道面の間に転動自在に配された複数の転動体と、内輪及び外輪の間で複数の転動体を保持する樹脂製の保持器と、を備える。保持器は、環状ベース部と、環状ベース部の軸方向一端面に形成された複数のポケットと、を備え、複数のポケットが前記複数の転動体を保持する冠型保持器である。保持器の重心の軸方向位置とポケットのそれぞれの球状もしくは円筒状の内面の曲率中心との間の軸方向距離は、内面の曲率半径の0.6倍以上である。 【0021】 本発明の別の態様によれば、ハイブリッド車用変速機は、上記玉軸受を備える。 【0022】 本発明の他の態様、及び効果は、以下の記載、図面、並びに請求項より明らかとなる。 【図面の簡単な説明】 【0023】 【図1】第1参考例に係る玉軸受の部分断面図である。 【図2】図1の玉軸受の保持器の斜視図である。 【図3】図2の保持器の部分断面図である。 【図4】保持器の径方向厚さの中央位置を示す玉軸受の部分断面図である。 【図5】保持器の重心の軸方向位置と保持器に作用するモーメントとの関係を示すグラフである。 【図6】玉軸受の内輪と保持器との径方向隙間の例を示す説明図である。 【図7】玉軸受の内輪と保持器との径方向隙間の他の例を示す説明図である。 【図8】玉軸受の軸方向端部と保持器との軸方向距離の例を示す説明図である。 【図9】玉軸受の軸方向端部と保持器との軸方向距離の他の例を示す説明図である。 【図10】第1参考例の第1変形例に係る玉軸受の部分断面図である。 【図11】第1参考例の第2変形例に係る玉軸受の部分断面図である。 【図12】第1参考例の第3変形例に係る玉軸受の部分断面図である。 【図13】本発明の第2実施例に係る玉軸受の部分断面図である。 【図14】図13の玉軸受の保持器の斜視図である。 【図15】図14の保持器の部分断面図である。 【図16】保持器の径方向厚さの中央位置の例を示す第2実施例の玉軸受の部分断面図である。 【図17】第2実施例の玉軸受の内輪と保持器との径方向隙間の例を示す説明図である。 【図18】第2実施例の玉軸受の内輪と保持器との径方向隙間の例の例を示す説明図である。 【図19】第2実施例の玉軸受の軸方向端部と保持器との軸方向距離の例を示す説明図である。 【図20】第2実施例の玉軸受の軸方向端部と保持器との軸方向距離の他の例を示す説明図である。 【図21】第2実施例の第1変形例に係る玉軸受の部分断面図である。 【図22】第2実施例の第2変形例に係る玉軸受の部分断面図である。 【図23】第2実施例の第3変形例に係る玉軸受の部分断面図である。 【図24】保持器のポケットの径方向内側縁部が面取りされている構成の説明図である。 【図25】保持器のポケットの径方向内側縁部が面取りされていない構成の説明図である。 【図26】保持器の径方向厚さの中央位置が玉の中心と一致する構成の説明図である。 【図27】面取り量と破片の脱落しやすさとの関係を示すグラフである。 【図28】玉とポケットの径方向最内方接触点と玉の中心とを結ぶ直線と、玉の中心を通って径方向と直交する直線と、がなす角度θを示す説明図である。 【図29】図24に示される構成において、玉とポケットの径方向最内方接触点と玉の中心とを結ぶ直線と、玉の中心を通って径方向と直交する直線と、がなす角度θを示す説明図である。 【図30】角度θと保持器の径方向の移動量との関係を示すグラフである。 【図31】第3参考例に係る玉軸受の断面図である。 【図32】冠型保持器の構成例を示す斜視図である。 【図33A】保持器の径方向幅の中心位置が玉の中心より内径側に偏っている構成を示す図である。 【図33B】保持器の径方向幅の中心位置が玉の中心と一致する構成を示す図である。 【図34A】保持器の球面ポケットの内周部のエッジに曲面を付けた構成を示す図である。 【図34B】保持器の球面ポケットの内周部のエッジを面取りした構成を示す図である。 【図34C】保持器の球面ポケットの内周部のエッジを面取りした他の構成を示す図である。 【図35】第3参考例の第1変形例の玉軸受の要部断面図である。 【図36A】第3参考例の第2変形例に係る玉軸受の断面図である。 【図36B】第3参考例の第3変形例に係る玉軸受の断面図である。 【図36C】第3参考例の第4変形例に係る玉軸受の断面図である。 【図36D】第3参考例の第5変形例に係る玉軸受の断面図である。 【図36E】第3参考例の第6変形例に係る玉軸受の断面図である。 【図37A】第3参考例の第7に係る玉軸受の断面図である。 【図37B】第3参考例の第8変形例に係る玉軸受の断面図である。 【図37C】第3参考例の第9変形例に係る玉軸受の断面図である。 【図37D】第3参考例の第10変形例に係る玉軸受の断面図である。 【図38】試験1及び試験2に使用される玉軸受の断面図である。 【図39】試験1の結果を示すグラフである。 【図40】試験2の結果を示すグラフである。 【図41】試験3の結果を示すグラフである。 【図42】第1の従来例に係る玉軸受の部分断面図である。 【図43】図42の玉軸受の保持器の斜視図である。 【図44】図43の保持器の部分平面図である。 【図45】弾性片が径方向外方に変形した保持器の側面図である。 【図46】第2従来例に係る玉軸受の部分断面図である。 【図47A】第2従来例の保持器の軸方向断面図である。 【図47B】第2従来例の保持器の円周方向断面図である。 【図48】第2従来例の保持器が摩耗した場合の問題点を説明するための図である。 【図49A】第2従来例の保持器の部分断面図である。 【図49B】第2従来例の保持器の部分側面図である。 【発明を実施するための形態】 【0024】 以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。 【実施例1】 【0025】 図1は、第1参考例に係る玉軸受の部分縦断面図である。図2は、図1の玉軸受の保持器の斜視図であり、図3は、図2の保持器の部分断面図である。 【0026】 図1に示されるように、第1参考例の玉軸受は、内輪1と、外輪2と、内輪1及び外輪2の間に転動自在に配された複数の玉3(転動体)と、内輪1及び外輪2の間で複数の玉3を保持する樹脂製の保持器4と、を備えている。内輪1と外輪2との間で玉3が配された軸受空間には、図示しない潤滑剤(例えば潤滑油やグリース)が初期潤滑用に充填されるか、もしくは潤滑剤が供給される。潤滑剤により、内輪1及び外輪2の軌道面と玉3との接触面が潤滑される。潤滑剤としては、潤滑油の一つであるATFが通常用いられる。 【0027】 内輪1及び外輪2の素材は特に限定されるものではないが、SUJ2等の軸受鋼が好ましく、特に浸炭処理又は浸炭窒化処理を施した軸受鋼がより好ましい。中炭素鋼にケイ素,マンガン,クロム,モリブデン等の合金元素を添加した合金鋼に、浸炭処理又は浸炭窒化処理を施した素材を使用することもできる。特に、軸受が高速且つ高温条件下で使用される場合には、合金鋼の中でもケイ素の添加量を多くした合金鋼に浸炭処理又は浸炭窒化処理を施した素材が好ましい。 【0028】 玉3の素材も特に限定されるものではなく、例えば、内輪1及び外輪2と同様の軸受鋼や合金鋼、あるいはセラミックを好適に使用することができる。 【0029】 次に、保持器4の構造について、図2及び3を参照しながら説明する。保持器4は、樹脂材料を射出成形することにより一体に形成された冠型保持器である。保持器4は、円環状のベース部10と、ベース部10の軸方向一端面に設けられ、玉3を転動自在に保持する複数のポケット11を備えている。各ポケット11は、ベース部10の軸方向一端面に設けられた凹部11aと、凹部11aの縁に互いに間隔をあけ対向して配置された1対の弾性片11bとから形成されている。この1対の弾性片11bの互いに対向する面と凹部11aの内面とは、連続して1つの球状凹面もしくは円筒面を形成している。 【0030】 保持器4を構成する樹脂材料の種類は、保持器に必要な強度,耐熱性等の特性を有しているならば特に限定されるものではないが、ナイロン46、ナイロン66、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリ四弗化エチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の合成樹脂が好ましい。樹脂中にガラス繊維(GF)、炭素繊維(CF)等の補強材を10?40質量%程度含有させた樹脂組成物は、高温下での靱性及び機械的強度が高いことから特に好ましい。 【0031】 保持器4の重心Gの軸方向位置とポケット11の球状もしくは円筒状の内面の曲率中心O11との間の軸方向距離Aは、ポケット11の内面の曲率半径rの0.6倍以上0.9倍以下とされている。この構成であれば、玉軸受が高温(100℃以上)且つ高速(回転速度10000min^(-1)以上、dmn60万以上若しくはdmn100万以上)で使用されても、保持器4に変形が生じにくい。よって、保持器4を有する玉軸受は高温,高速条件下で好適に使用可能であり、例えばハイブリッド車用の駆動モータやジェネレータ(例えばオルタネータ)の回転軸を支承する軸受として好適である。また、保持器4が金属製の補強部材を備えていないので、玉軸受を安価に製造することができる。 【0032】 保持器4の重心Gの軸方向位置とポケット11の内面の曲率中心O11との間の軸方向距離Aの範囲について、図3を参照しながらさらに詳細に説明する。玉軸受が高温,高速条件下で使用されて保持器4に大きな遠心力が作用すると、ポケット11の弾性片11bが径方向外方に変形する。これは、弾性片11bが片持ち構造であるために、遠心力が保持器4の剛性中心Sを支点として保持器4の重心Gの軸方向位置にモーメントとして作用するからである。剛性中心Sは、ベース部10の軸方向他端面(ベース部10の軸方向両端面のうちポケット11が形成されていない方の端面)とポケット11の底部とのほぼ中間位置にある。 【0033】 したがって、保持器4の重心Gの軸方向位置が剛性中心Sの近傍に位置するようにすれば、大きな遠心力が保持器4に作用しても前記モーメントが小さくなるため、ポケット11の弾性片11bが径方向外方に変形してベース部10が捩り変形することを抑制することができる。すなわち、図45に示すような大きな変形が保持器に生じることを抑制することができる。 【0034】 保持器4の重心Gの軸方向位置とポケット11の内面の曲率中心O11との間の軸方向距離Aを、ポケット11の内面の曲率半径rの0.6倍以上0.9倍以下とすれば、保持器4の重心Gの軸方向位置と剛性中心Sとが近い位置となるため、遠心力が保持器4に作用しても弾性片11bの径方向外方への変形が抑制される。ベース部10の軸方向他端面とポケット11の底部との間の長さ、すなわちベース部10の厚さBを大きくしていくと、保持器4の重心Gの軸方向位置はベース部10の軸方向他端面の方向へ移動し、前記軸方向距離Aは大きくなる。すなわち、保持器4の重心Gの軸方向位置が剛性中心Sに近づく。 【0035】 前記軸方向距離Aが曲率半径rの0.6倍未満であると、保持器4の重心Gの軸方向位置に作用するモーメントが大きくなり、保持器4に変形が生じるおそれがある。一方、前記軸方向距離Aが曲率半径rの0.9倍超過であると、保持器4の幅(軸方向長さ)が大きくなって、玉軸受がシール部材を有する場合には保持器4とシール部材とが接触するおそれがある。また、玉軸受がシール部材を有していない場合でも、保持器4が玉軸受の側面から外側に突出するおそれがある。このような不都合がより生じにくくするためには、前記軸方向距離Aを曲率半径rの0.65倍以上0.85倍以下とすることが好ましく、0.75倍以上0.85倍以下とすることがより好ましい。 【0036】 さらに、保持器4は、図4に示すように、その径方向厚さの中央位置が玉3の中心よりも径方向内方に位置するような構造となっている。このような構造を有することによって保持器4の剛性が向上するため、遠心力による保持器4の変形が抑制される。 【0037】 玉軸受を回転させた際に保持器に作用する遠心力に基づくモーメントの大きさを、計算した。結果を図5に示す。このグラフの縦軸は、保持器に作用するモーメントの大きさであり、横軸は、保持器の重心の軸方向位置とポケットの内面の曲率中心との間の軸方向距離の、ポケットの内面の曲率半径に対する割合である(グラフには、保持器の重心の軸方向位置と記してある)。このグラフから、前記軸方向距離Aは、ポケットの内面の曲率半径の0.6倍以上であることが好ましく、0.65倍以上であることがより好ましいく、最も好ましくは0.75倍以上である。特に、dmn113万、170万とdmnが大きくなるほどモーメント抑制効果は顕著である。 【0038】 上述したように、保持器4は、その径方向厚さの中央位置が玉3の中心よりも径方向内方に位置するような構造となっている。そして、保持器4の径方向厚さの中央位置の直径が小さいほど、遠心力による保持器4の変形が生じにくい。 【0039】 ただし、保持器4の径方向厚さの中央位置の直径が小さすぎると、以下のような問題が発生するおそれが出てくる。 【0040】 ハイブリッド車用の駆動モータやジェネレータ(例えばオルタネータ)の回転軸を支承する玉軸受は、寒冷地で使用される場合には、軸受の温度が-40℃程度の低温になることもある。樹脂製の保持器4は、金属製の内輪1よりも低温化により収縮しやすいので、保持器4の内径と内輪1の外径との差(以下、径方向隙間)がゼロとなり、軸受がロックして回転しなくなるおそれがある。 【0041】 したがって、軸受が常温から-40℃に温度変化して保持器4及び内輪1が収縮しても、径方向隙間がゼロとならないように、常温時の径方向隙間の大きさを設定することが好ましい。すなわち、常温時の径方向隙間は、保持器4が常温から-40℃に温度変化して収縮した場合の保持器4の内径の収縮量よりも大きいことが好ましい。 【0042】 保持器4の内径の収縮量は、保持器4の内径と、保持器4の素材の線膨張係数と、温度変化量との積により求めることができる。温度変化量は、例えば、常温と-40℃との差であり、常温が20℃である場合、温度変化量は60℃となる。 【0043】 また、保持器4のポケット11の内面の曲率半径rは、玉3の半径よりも僅かに大きいため、保持器4は径方向にガタつくことがある。このガタツキ量が大き過ぎると、保持器4の内周面と内輪1の外周面とが接触し、軸受のトルクが増大するおそれがある。 【0044】 したがって、保持器4が径方向にガタついても保持器4の内周面と内輪1の外周面とが接触しないように、前記径方向隙間は、保持器4の径方向のガタツキ量よりも大きくすることが好ましい。保持器の径方向のガタツキ量とは、保持器が径方向の一方向に移動することができる最大距離と、保持器が該一方向と180°反対方向へ移動することができる最大距離との和を意味する。 【0045】 また、ハイブリッド車用の駆動モータやジェネレータ(例えばオルタネータ)の回転軸を支承する玉軸受は、潤滑油により潤滑されることが多い。玉軸受が高速回転する場合には、軸受の軸方向端部の開口から軸受内部に導入された潤滑油が、遠心力により径方向外方に流れるため、保持器4の内周面と内輪1の外周面との間に潤滑油が入り込みにくく、潤滑が不十分となりやすい(図7参照)。その結果、保持器4に摩耗,焼付き,スキッディングが発生するおそれがある。 【0046】 したがって、前記径方向隙間を、玉3の直径の0.15倍以上とすることが好ましく、0.2倍以上に設定することがより好ましい。そうすれば、図6に示されるように、保持器4の内周面と内輪1の外周面との間に潤滑油が入り込みやすく、潤滑が不十分となりにくい。これらを総合的に考えると、20℃において、前記径方向隙間を、内輪1の外径寸法の2%以上10%以下としておくのが好ましく、より好ましくは2%以上7%以下とする。 【0047】 なお、軸受の軸方向端部としては、保持器4のベース部10のポケット11が形成されている側の軸方向端面が向いている側の端部と、保持器4のベース部10のポケット11が形成されていない側の軸方向端面が向いている側の端部とがある。図6及び7においては、後者の端部の開口から潤滑油が軸受内部に導入される例が示されているが、反対側の端部の開口、すなわち前者の端部の開口から潤滑油が軸受内部に導入される場合も、上記と同様の効果が奏される。 【0048】 上述のように前記径方向隙間を十分に確保しても、図9に示されるような構造であると、大部分の潤滑油が保持器4の内周面と内輪1の外周面との間の隙間に辿り着く前に遠心力により径方向外方に流れるため、潤滑が不十分となるおそれがある。すなわち、図9に示されるように、軸受の軸方向端部と、保持器4のベース部10のポケット11が形成されていない側の軸方向端面との間に形成される空間の軸方向長さLが大きいと、潤滑が不十分となるおそれがある。 【0049】 したがって、保持器4のベース部10のポケット11が形成されていない側の軸方向端面を、軸受の軸方向端部に近接させることが好ましい。具体的には、前記軸方向長さLを玉3の直径の0.15倍以下とすれば、図8に示すように、保持器4の内周面と内輪1の外周面との間に潤滑油が入り込みやすく、潤滑が良好となる。より具体的には、前記軸方向長さLは、5mm以下が好ましく、より好ましくは2mm以下である。ただし、内輪1もしくは外輪2の端面から保持器4が突出しないようにすることが好ましい。そのため、保持器4のポケット11と玉3との間の隙間による動き量を含めて、前記軸方向長さLを0.1mm以上2mm以下とすることが最も好ましい。 【0050】 図10は、第1参考例の第1変形例を示す。図10に示されるように、上述のような潤滑不十分の問題に対応するために、軸受の軸方向端部の近傍に、該軸方向端部の開口から軸受内部に潤滑剤を導く潤滑剤ガイド25を設けてもよい。そうすれば、保持器4の内周面と内輪1の外周面との間に潤滑油が入り込みやすく、潤滑が不十分となりにくい。図10の例であれば、板状の潤滑剤ガイド25が軸受の軸方向端面に取り付けられており、軸心給油で供給された潤滑油が潤滑剤ガイド25で軸受内部に向かう方向に反射されて、軸受の軸方向端部の開口から軸受内部に導入される。 【0051】 なお、潤滑剤ガイド25と同様の構造の部材を、潤滑剤ガイド25を設けた側とは反対側の軸方向端部(すなわち、潤滑剤が軸受内部から流出する側の端部)の近傍に設けてもよい。このように上記部材を軸方向両端部に設けても、同様の効果が得られる。また、この潤滑剤ガイド25は、一般的なシールド板やシールなどにより構成することもできる。この場合は、シールド板やシールの内周面と内輪1の外周面との間の隙間から、潤滑剤が導入されやすい。シールやシールド板等のシール部材は、軸方向両側に備えられていてもよいし、軸方向片側のみに備えられていてもよい。 【0052】 図11は、第1参考例の第2変形例を示す。図11に示される玉軸受において、潤滑剤は、軸受の軸方向一端部(保持器4のベース部10のポケット11が形成されていない側の軸方向端面が向いている側の端部)の開口から軸受内部に導入され、軸方向他端部(保持器4のベース部10のポケット11が形成されている側の軸方向端面が向いている側の端部)の開口から外部へ排出される。外輪2の肩の部分における外径は、潤滑剤導入側よりも潤滑剤排出側の方が大きい。この構成によれば、軸受の潤滑剤導入側の軸方向端部の開口から軸受内部に潤滑剤が引き込まれやすくなるので、軸受内部を通過する潤滑剤の量が増加する。 【0053】 なお、図12に示される第1参考例の第3変形例のように、内輪1の肩の部分における外径を、潤滑剤導入側よりも潤滑剤排出側の方が大きくなるようにしても、上記と同様の効果が得られる。また、内輪1と外輪2の両方について、肩の部分における外径を、潤滑剤導入側よりも潤滑剤排出側の方が大きくなるように設定してもよい。 【0054】 さらに、図11及び12においては、保持器4のベース部10のポケット11が形成されていない側の軸方向端面が向いている側の端部の開口から軸受内部に潤滑剤が導入される例が示されているが、反対側の端部の開口、すなわち、保持器4のベース部10のポケット11が形成されている側の軸方向端面が向いている側の端部の開口から軸受内部に潤滑剤が導入される場合も、上記と同様の効果が奏される。 【実施例2】 【0055】 図13は、本発明の第2実施例に係る玉軸受の部分縦断面図である。図14は、図13の玉軸受の保持器の斜視図であり、図15は、図14の保持器の部分断面図である。第2実施例の説明において、第1参考例と同じ又は同様の部分には第1参考例と同じ符号を付してある。また、第1参考例と同様の構成に関する詳細な説明は省略する。 【0056】 図13の玉軸受は、内輪21と、外輪22と、内輪21及び外輪22の間に転動自在に配された複数の玉3(転動体)と、内輪21及び外輪22の間で複数の玉3を保持する樹脂製の保持器24と、を備えている。内輪21の軌道面21a(軌道溝)及び外輪22の軌道面22a(軌道溝)は、内輪21と外輪22の軸方向幅中央位置から軸方向の一方側(図13においては右側)にオフセットされた位置に配置されている。なお、オフセット量は、特に限定されるものではない。ただし、玉軸受の軸方向隙間を含めても、内輪1と外輪22の少なくとも一方の軸方向端面から玉3が突出しないことが好ましい。 【0057】 内輪21と外輪22との間で玉3が配された軸受空間には、図示しない潤滑剤(例えば潤滑油やグリース)が充填されるか、もしくは潤滑剤が供給される。この潤滑剤により、内輪21及び外輪22の軌道面と玉3との接触面が潤滑されている。玉軸受は、シールやシールド等のシール部材を備えていてもよい。シール部材は、軸方向両側に備えられていてもよいが、軸方向片側のみに備えられていてもよい。 【0058】 内輪21及び外輪22の素材は特に限定されるものではないが、SUJ2等の軸受鋼が好ましく、特に浸炭処理又は浸炭窒化処理を施した軸受鋼がより好ましい。また、中炭素鋼にケイ素,マンガン,クロム,モリブデン等の合金元素を必要に応じて添加した合金鋼に、浸炭処理又は浸炭窒化処理を施した素材を使用することもできる。特に、軸受が高速且つ高温条件下で使用される場合には、上記合金鋼の中でもケイ素の添加量を多くした合金鋼に浸炭処理又は浸炭窒化処理を施した素材が好ましい。 【0059】 また、玉3の素材も特に限定されるものではなく、軸受鋼やセラミックを好適に使用することができる。 【0060】 次に、保持器24の構造について、図14及び15を参照しながら説明する。保持器24は、樹脂材料を射出成形することにより一体に形成された冠型保持器である。保持器24は、円環状のベース部20と、ベース部20の軸方向一端面に設けられ、玉3を転動自在に保持する複数のポケット11を備えている。 【0061】 各ポケット11は、ベース部20の軸方向一端面に設けられた凹部11aと、凹部11aの縁に互いに間隔をあけ対向して配置された1対の弾性片11bとから形成されている。1対の弾性片11bの互いに対向する面と凹部11aの内面とは、連続して1つの球状凹面もしくは円筒面を形成している。 【0062】 保持器24は、軌道面21a,22aがオフセットされた側(以下、オフセット側)、すなわち、図13の右側にポケット11を向け、オフセット側とは反対側(以下、反オフセット側)にベース部20を向けて配されている。 【0063】 軌道面21a,22aが内輪21と外輪22の軸方向幅の中央位置から軸方向の一方側にオフセットされた位置に配置されているので、軸受内部の反オフセット側(図13においては左側)にはオフセット側と比べて大きな空間が形成されている。そのため、玉軸受がシール部材を有する場合には、保持器24のベース部20がシール部材に接触しにくい。また、保持器24のベース部20が軸受の軸方向端部の開口から外部に突出しにくい。さらに、軌道面21a,22aが内輪21と外輪22の軸方向幅の中央位置に配置されている場合と比べて、保持器24のベース部20を軸方向に長い形状(図13を参照)とすることが可能である。そのような形状とすれば、保持器24の剛性が高められ変形が生じにくくなる。 【0064】 保持器24を構成する樹脂材料の種類は、保持器に必要な強度,耐熱性等の特性を有しているならば特に限定されるものではないが、ナイロン46、ナイロン66、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリ四弗化エチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の合成樹脂が好ましい。そして、樹脂中にガラス繊維(GF)、炭素繊維(CF)等の補強材を10?40質量%程度含有させた樹脂組成物は、高温下での靱性及び機械的強度が高いことから特に好ましい。 【0065】 保持器24の重心Gの軸方向位置とポケット11の球状もしくは円筒状の内面の曲率中心O11との間の軸方向距離Aは、ポケット11の内面の曲率半径rの0.6倍以上1.2倍以下とされている。この構成であれば、玉軸受が高温(100℃以上)且つ高速(回転速度10000min^(-1)以上、dmn60万以上若しくはdmn100万以上)で使用されても、保持器24に変形が生じにくい。特に、dmn110万以上の高速条件、さらにはdmn150万以上の超高速条件では顕著な効果を得ることができる。よって、この玉軸受は高温,高速条件下で好適に使用可能であり、例えばハイブリッド車用の駆動モータやジェネレータ(例えばオルタネータ)の回転軸を支承する軸受として好適である。また、保持器24が金属製の補強部材を備えていないので、この玉軸受は安価に製造することができる。 【0066】 保持器24の重心Gの軸方向位置とポケット11の内面の曲率中心O11との間の軸方向距離Aの範囲について、図15を参照しながらさらに詳細に説明する。玉軸受が高温,高速条件下で使用されて保持器24に大きな遠心力が作用すると、ポケット11の弾性片11bが径方向外方に変形する。これは、弾性片11bが片持ち構造であるために、遠心力が保持器24の剛性中心Sを支点として保持器24の重心Gの軸方向位置にモーメントとして作用するからである。剛性中心Sは、ベース部20の軸方向他端面(ベース部20の軸方向両端面のうちポケット11が形成されていない方の端面)とポケット11の底部とのほぼ中間位置にある。 【0067】 したがって、保持器24の重心Gの軸方向位置が剛性中心Sの近傍に位置するようにすれば、大きな遠心力が保持器24に作用しても前記モーメントが小さくなるため、ポケット11の弾性片11bが径方向外方に変形してベース部20が捩り変形することを抑制することができる。すなわち、図45に示すような大きな変形が保持器に生じることを抑制することができる。 【0068】 保持器24の重心Gの軸方向位置とポケット11の内面の曲率中心O11との間の軸方向距離Aを、ポケット11の内面の曲率半径rの0.6倍以上1.2倍以下とすれば、保持器24の重心Gの軸方向位置と剛性中心Sとが近い位置となるため、遠心力が保持器24に作用しても弾性片11bの径方向外方への変形が抑制される。ベース部20の軸方向他端面とポケット11の底部との間の長さ、すなわちベース部20の厚さBを大きくしていくと、保持器24の重心Gの軸方向位置はベース部20の軸方向他端面の方向へ移動し、前記軸方向距離Aは大きくなる。すなわち、保持器24の重心Gの軸方向位置が剛性中心Sに近づく。また、軌道面21a,22aがオフセットされているため、前記軸方向距離Aを大きくとることが可能となっている。 【0069】 前記軸方向距離Aが曲率半径rの0.6倍未満であると、保持器24の重心Gの軸方向位置に作用するモーメントが大きくなり、保持器24に変形が生じるおそれがある。一方、前記軸方向距離Aが曲率半径rの1.2倍超過であると、保持器24の幅(軸方向長さ)が大きくなって、玉軸受がシール部材を有する場合には保持器24とシール部材とが接触するおそれがある。また、玉軸受がシール部材を有していない場合でも、保持器24が玉軸受の側面から外側に突出するおそれがある。このような不都合がより生じにくくするためには、前記軸方向距離Aを曲率半径rの0.65倍以上1.1倍以下とすることが好ましく、0.75倍以上1.1倍以下がより好ましく、0.85倍以上1.1倍以下がさらに好ましく、dmn100万を超える使用条件では、0.9倍以上1.1倍以下とするのが最も好ましい。 【0070】 第2実施例の玉軸受を回転させた際に保持器に作用する遠心力に基づくモーメントの大きさを計算した結果は、第1参考例における計算結果を示す図5のグラフと同様である。すなわち、図5のグラフに示されるように、前記軸方向距離Aは、ポケットの内面の曲率半径の0.6倍以上であることが好ましく、0.65倍以上であることがより好ましい。特に、dmn113万、170万とdmnが大きくなるほど、モーメント抑制効果は顕著である。 【0071】 図16に示されるように、保持器24は、その径方向厚さの中央位置が玉3の中心よりも径方向内方に位置するような構造としてもよい。このような構造を有することによって保持器24の剛性が向上するため、遠心力による保持器24の変形が抑制される。 【0072】 また、第1参考例と同様に、常温時の保持器24の内径と内輪21の外径との差(以下、径方向隙間)を、保持器24が常温から-40℃に温度変化して収縮した場合の保持器24の内径の収縮量よりも大きくしてもよい。この構成によれば、軸受が常温から-40℃に温度変化して保持器24及び内輪21が収縮しても、前記径方向隙間がゼロとならず、軸受がロックして回転しなくなることを防止できる。 【0073】 また、第1参考例と同様に、前記径方向隙間を、保持器24の径方向のガタツキ量よりも大きくしてもよい。この構成により、保持器24が径方向にガタついても保持器24の内周面と内輪21の外周面との接触を防止することできる。 【0074】 また、第1参考例と同様に、前記径方向隙間を、玉3の直径の0.15倍以上としてもよく、0.2倍以上とすることがより好ましい。そうすれば、保持器24の内周面と内輪21の外周面との間に潤滑油が入り込みやすく、潤滑が不十分となりにくい(図17及び18参照)。したがって、第1参考例と同様に、20℃において、前記径方向隙間を、内輪1の外径寸法の2%以上10%以下としておくのが好ましく、より好ましくは2%以上7%以下とする。 【0075】 なお、軸受の軸方向端部としては、保持器24のベース部20のポケット11が形成されている側の軸方向端面が向いている側の端部と、保持器24のベース部20のポケット11が形成されていない側の軸方向端面が向いている側の端部とがある。図17,18においては、後者の端部の開口から潤滑油が軸受内部に導入される例が示されているが、反対側の端部の開口、すなわち前者の端部の開口から潤滑油が軸受内部に導入される場合も、上記と同様の効果が奏される。 【0076】 上述のように前記径方向隙間を十分に確保しても、図20のような構造であると、大部分の潤滑油が保持器24の内周面と内輪21の外周面との間の隙間に辿り着く前に遠心力により径方向外方に流れるため、潤滑が不十分となるおそれがある。すなわち、図20のように、軸受の軸方向端部と、保持器24のベース部20のポケット11が形成されていない側の軸方向端面との間に形成される空間の軸方向長さLが大きいと、潤滑が不十分となるおそれがある。 【0077】 したがって、保持器24のベース部20のポケット11が形成されていない側の軸方向端面を、軸受の軸方向端部に近接させることが好ましい。具体的には、第1参考例と同様に、前記軸方向長さLを玉3の直径の0.15倍以下とすれば、図19に示すように、保持器24の内周面と内輪21の外周面との間の隙間に潤滑油が入り込みやすく、潤滑が良好となる。より具体的には、前記軸方向長さLは、5mm以下が好ましく、より好ましくは2mm以下である。ただし、内輪1もしくは外輪2の端面から保持器4が突出しないようにすることが好ましい。そのため、保持器4のポケット11と玉3との間の隙間による動き量を含めて、前記軸方向長さLを0.1mm以上2mm以下とすることが最も好ましい。 【0078】 図21は、第2実施例の第1変形例を示す。第2実施例の第1変形例によれば、第1参考例の第1変形例と同様に、軸受の軸方向端部の近傍に、該軸方向端部の開口から軸受内部に潤滑剤を導く潤滑剤ガイド25を設けられている。したがって、保持器24の内周面と内輪21の外周面との間に潤滑油が入り込みやすく、潤滑が不十分となりにくい。図21の例であれば、板状の潤滑剤ガイド25が軸受の軸方向端面に取り付けられており、軸心給油で供給された潤滑油が潤滑剤ガイド25で軸受内部に向かう方向に反射されて、軸受の軸方向端部の開口から軸受内部に導入される。 【0079】 なお、潤滑剤ガイド25と同様の構造の部材を、潤滑剤ガイド25を設けた側とは反対側の軸方向端部(すなわち、潤滑剤が軸受内部から流出する側の端部)の近傍に設けてもよい。このように上記部材を軸方向両端部に設けても、同様の効果が得られる。また、この潤滑剤ガイド25は、一般的なシールド板やシールなどにより構成することもできる。この場合は、シールド板やシールの内周面と内輪21の外周面との間の隙間から、潤滑剤が導入されやすい。シールやシールド板等のシール部材は、軸方向両側に備えられていてもよいし、軸方向片側のみに備えられていてもよい。 【0080】 図22は、第2実施例の第2変形例を示す。図22に示される玉軸受において、潤滑剤は、軸受の軸方向一端部(保持器24のベース部20のポケット11が形成されていない側の軸方向端面が向いている側の端部)の開口から軸受内部に導入され、軸方向他端部(保持器24のベース部20のポケット11が形成されている側の軸方向端面が向いている側の端部)の開口から外部へ排出される。第2実施例の第2変形例によれば、第1参考例の第2変形例と同様に、外輪22の肩の部分における外径は、潤滑剤導入側よりも潤滑剤排出側の方が大きい。したがって、軸受の潤滑剤導入側の軸方向端部の開口から軸受内部に潤滑剤が引き込まれやすくなり、軸受内部を通過する潤滑剤の量が増加する。 【0081】 なお、図23に示される第2実施例の第3変形例のように、内輪21の肩の部分における外径を、潤滑剤導入側よりも潤滑剤排出側の方が大きくなるようにしても、上記と同様の効果が得られる。また、内輪21と外輪22の両方について、肩の部分における外径を、潤滑剤導入側よりも潤滑剤排出側の方が大きくなるように設定してもよい。 【0082】 さらに、図22及び23においては、軸受の軸方向両端部のうち、保持器24のベース部20のポケット11が形成されていない側の軸方向端面が向いている側の端部の開口から軸受内部に潤滑剤が導入される例が示されているが、反対側の端部の開口、すなわち、保持器24のベース部20のポケット11が形成されている側の軸方向端面が向いている側の端部の開口から軸受内部に潤滑剤が導入される場合も、上記と同様の効果が奏される。 【0083】 上記第1参考例及び第2実施例のように、保持器4,24の径方向厚さの中央位置が玉3の中心よりも径方向内方に位置させた場合、図25に示すように、ポケット11の内面の縁部(特に径方向内方側の縁部)は先鋭な形状(シャープエッジ)となり、ここに玉3が衝突するとシャープエッジ部が損傷して破片が脱落するおそれがある。 【0084】 脱落した破片が内輪1,21と玉3との間、及び/或いは、外輪2,22と玉3との間に挟み込まれると、内輪1,21及び/或いは外輪2,22、及び玉3に圧痕が生じ、軸受の寿命が短くなる。また、脱落する破片の量が多いと、ポケット11の内面と玉3との間の隙間が大きくなり、軸受に有害な振動や騒音が発生するおそれがある。 【0085】 このような問題に対応するために、図24に示すように、ポケット11の内面の縁部(特に径方向内方側の縁部)を面取りして、ほぼ平坦な面取り部11cを形成することが好ましい。面取りを施してあれば、シャープエッジ部がないので、破片が脱落するおそれがほとんどない。また、面取り部11cを形成することにより、保持器4のポケット11内に潤滑油が取り込まれやすくなる。よって、特に潤滑油で潤滑される軸受においては、面取り部11cの形成により軸受の潤滑性能が向上するという効果が奏される。 【0086】 なお、保持器の構造が、その径方向厚さの中央位置が玉の中心と一致するような構造(図26参照)である場合は、上記のように面取りを施すと、保持器の径方向の移動量が増加して、軸受に有害な振動や騒音が発生しやすくなる。 【0087】 ここで、シャープエッジ部の損傷による破片の脱落しやすさについて評価した結果を説明する。 【0088】 保持器の径方向厚さの中央位置が玉の中心よりも径方向内方に位置した軸受について、面取り量を種々変更し、回転による破片の脱落しやすさを調査した。すなわち、保持器の径方向厚さの中央位置と玉の中心との間の径方向距離をポケットの内面の曲率半径で除した値(以下、保持器の中心位置のズレ量)が0%、4.3%、及び12.9%である軸受について、回転による破片の脱落しやすさを調査した。結果を図27に示す。 【0089】 なお、面取り量とは、面取り部11cの径方向長さMをポケット11の内面の曲率半径で除した値(単位は%)である(図24参照)。また、破片の脱落しやすさとは、玉との接触によりポケットの内面の縁部に作用する応力値であり、保持器の中心位置のズレ量0%、面取り量0%の軸受の応力値を1とした場合の相対値で示してある。 【0090】 図27のグラフから、保持器の中心位置のズレ量が大きいほど、破片が脱落しにくいことが分かる。また、少しでも面取りがあれば破片の脱落防止に効果があり、面取り量が2.5%以上であれば、十分に破片が脱落しにくいことが分かる。ただし、面取り量が5%を超えるとかえって破片が脱落しやすくなる場合もある。したがって、面取り量は、0.5%以上5%以下とするのが好ましく、2.5%以上4.5%以下とするのがより好ましい。 【0091】 保持器4,24の径方向厚さが薄いなどの理由により保持器4,24の内径が大きすぎると、保持器4,24の径方向の移動量(ガタツキ量)が増加して、軸受に有害な振動や騒音が発生しやすくなる。よって、保持器4の内径を好適な値に設定することが好ましい。 【0092】 そこで、玉3とポケット11の内面との接触点のうち径方向最内方側の接触点Pと、玉3の中心とを結ぶ仮想直線L1を引く。そして、この仮想直線L1と、径方向に直交する方向に延び玉3の中心を通る直線L2とがなす角度θをもって、保持器4の内径を規定する。このとき、保持器4の径方向の移動量を小さくするためには、角度θは25°以上とすることが好ましく、30°以上とすることがより好ましい。 【0093】 なお、ポケット11の内面の縁部に面取りが施されている場合には、図29に示すように、面取り部11cの径方向最外方部が玉3と接触するので、該部分と玉3の中心とを結んで仮想直線L1を引く。また、その他の手段により、ポケット11の内面の縁部の径方向内方側で保持器4の径方向位置を位置決めしている場合には、保持器4を径方向内方に移動させた際に最初に玉3に接触する部分と玉3の中心とを結んで仮想直線L1を引く。 【0094】 ここで、角度θと保持器の径方向の移動量との関係を評価した結果について説明する。ポケットの内面の曲率半径と玉の半径との比(ポケット曲率半径/玉半径)及び前記角度θが種々異なる軸受を用意して、回転時の保持器の径方向の移動量を調査した。ポケット曲率半径/玉半径は、101%、103%、106%の3種類とした。結果を図30に示す。なお、保持器の径方向の移動量は、玉の直径に対する比(保持器の移動量/玉直径(単位は%))で示した。 【0095】 図30のグラフから、角度θが25°以上であると保持器の径方向の移動量が小さく、30°以上であると保持器の径方向の移動量がより小さいことが分かる。しかしながら、角度θを大きくとりすぎると、保持器が内輪外周と接触しやすくなる。したがって、角度θは50°以下、より好ましくは40°以下とする。さらに具体的には、角度θを前記範囲とし、且つ、前述の通り、保持器内径と内輪外径の隙間が、内輪外径の2%以上10%以下となっていることが好ましく、より好ましくは2%以上7%以下である。 【0096】 上述の第1参考例及び第2実施例の玉軸受は、ハイブリッド車用の駆動モータやジェネレータ(例えばオルタネータ)の回転軸を支承する玉軸受として好適である。よって、第1参考例及び第2実施例の玉軸受を組み込んだハイブリッド車用変速機は、高温,高速条件でも好適に使用可能である。 【実施例3】 【0097】 図31は、第3参考例に係る玉軸受を示す。図31に示されるように、この玉軸受は、外周面に軌道面1a(軌道溝)を有する内輪31と、内周面に軌道面2a(軌道溝)を有する外輪32と、内輪31の軌道面1aと外輪32の軌道面2aとの間に転動自在に配置された複数の玉(鋼球)3と、玉3を円周方向に所定の間隔で保持する樹脂製の冠型保持器34と、内輪31と外輪32の軸方向の一方の端面側に設けられた薄板よりなる環状の潤滑剤ガイド5と、を備えている。 【0098】 冠型保持器34は、図32に示すように、円環状のベース部4aと、ベース部4aの片方の軸方向端面に突設されて一定間隔で並ぶ複数の柱部4bと、隣接する柱部4b間に確保された球面状内側面を有する球面ポケット4cと、を備える。冠型保持器34は、玉3を各球面ポケット4cに収容することで、玉3を円周方向に所定の間隔で保持している。 【0099】 冠型保持器34を構成する樹脂の例としては、46ナイロンや66ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェレンサルサイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルニトリル(PEN)などが挙げられる。また、上記した樹脂に10?40wt%の繊維状充填材(例えば、ガラス繊維や炭素繊維など)を適宜添加することにより、冠型保持器34の剛性および寸法精度を向上させることができる。 【0100】 冠型保持器34は、好ましくは多点ゲートの射出成形で製作する。そうすれば、冠型保持器34の寸法精度を、1点ゲートのものに比べて向上させることができる。また、多点ゲートで製作することで、ウェルド部を保持器の最弱部位であるポケット底からずらすことができるので、ウェルド部による強度低下を防止できる。 【0101】 この玉軸受は、軸受内部を潤滑するための潤滑油が、玉3に対して軸方向一方側S1から供給され、玉3に対して軸方向他方側S2から排出されるような環境下で使用される。冠型保持器34は、ベース部4aを軸方向一方側である潤滑油の供給側S1に向けるように配置されており、供給された潤滑油をベース部4aの内周面に沿って、玉3と保持器34の摺動部に導く。 【0102】 外輪32の潤滑油の供給側S1には、潤滑剤ガイド5が加締め固定されている。潤滑剤ガイド5は、外輪32の外輪軌道面2aの側方の肩部に形成された係合溝2bに外周端5aを係合させることにより外輪32に固定されており、潤滑剤ガイド部5bを内輪31の内輪軌道面1aの側方の肩部1bに向けて延ばしている。潤滑剤ガイド5の内周部5cと内輪31の肩部1bの外周部との間に、潤滑油が供給される環状の開口部51が形成される。 【0103】 この場合、潤滑剤ガイド5の内周部5cと対向する内輪31の肩部1bにはテーパ状の切欠き1cが設けられており、テーパ状の切欠き1cの外周面と潤滑剤ガイド5の内周部5cとの間に、潤滑油の供給される環状の開口部51が形成される。このテーパ状の切欠き1cは、潤滑油の流入性向上のために、冠型保持器34の球面ポケットの底よりも軸方向内側まで延びている。 【0104】 図33Aに示されるように、冠型保持器34の径方向幅の中央位置4hは、玉3の抱きかかえ量を増やすため、玉3の中心O3よりも軸受の内径側に偏っている。このように、保持器34の径方向幅の中心が玉3の中心と一致する場合(図33B参照)と比較して、冠型保持器34を内径側に偏在させて、玉3の抱きかかえ量を大きくすると、冠型保持器34が遠心力によって外側に広がるときに、保持器34の内周部のエッジ4eと玉3との径方向隙間e2を、図33Bの隙間e1より小さくできる。従って、外径側への保持器34の変形を小さく抑えることができ、その結果、図33Bのように抱え込み量が小さい場合よりも、捩れ変形を抑制でき、保持器34の外輪32との接触を防止できる。 【0105】 また、内輪31の外径面と保持器34の内周部との距離が小さくなることにより、内輪31の外径面が保持器34の回転のガイド作用をなし、保持器34の半径方向のガタを抑制して、保持器34の振れ回りを防止する効果を期待できる。なお、通常回転時には、保持器34は玉案内され、保持器34と内輪31は接触しないため、軸受トルクが増加することがない。また、保持器34に衝撃力などの突発的な力が加わった場合には、保持器34と内輪31が接触する可能性があるが、その場合でも、保持器34が外輪32と接触する場合に比べて、軸受トルクの増加が少なくてすむ。なお、特に衝撃力が作用する条件下で使用される場合には、保持器34の案内を玉案内から内輪案内に変更してもかまわない。 【0106】 さらに、図34Aに示されるように、球面ポケット4cの内周部のエッジ4eには曲面が付けられている。上記したように、保持器34の内径が小さくなると、図34Aの仮想線のように、球面ポケット4cの内周部のエッジ4eが鋭角的になり、この部分が摩耗しやすくなる。そこで、断面曲面状のエッジ4eとすることで、摩耗を防止することができる。なお、図34Bや図34Cに示すように、エッジ4eには、面取りが施されてもよく、また、これらの場合、玉3が保持器34に接触しやすい球面ポケット4cの底や爪先端にのみ、部分的に曲面や面取りを設けてもよい。また、図34Cに示す円筒形状の面取りの場合には、図34Aや図34Bに示すような曲面や面取りに比べ、射出成形用の金型の製作が容易であり、コストが抑えられるためより好ましい。 【0107】 また、図31に示されるように、第3参考例の玉軸受では、玉3の中心O3が、内輪31と外輪32の軸方向幅の中心位置Cよりも、潤滑油の排出側S2に適当な寸法Fだけオフセットされている。このように玉3の位置を潤滑油の排出側S2にオフセットした場合、潤滑油の供給側S1に配設した潤滑剤ガイド5と玉3の間の軸方向距離が開く。従って、その分だけ、冠型保持器34の球面ポケット4cの底厚J(ベース部4aの肉厚)を大きく確保することができる。このように、保持器34の球面ポケット4cの底厚Jを増やすと、それだけ冠型保持器34の剛性アップを図ることができ、遠心力による捩れ変形を抑制する効果が高まる。 【0108】 また、潤滑剤ガイド5の内周部には、軸受内部側に折り曲げられた折り曲げ壁5dが設けられている。このように軸受内部側に延びる折り曲げ壁5dを設けると、環状の開口部51から流入した潤滑油が、遠心力により直ぐに外径側に向かわずに、折り曲げ壁5dに誘導されて、冠型保持器34の内周部に向かうようになり、潤滑の必要な部位に積極的に潤滑油を流れ込ませることができる。 【0109】 また、潤滑剤ガイド5の内周部5cの内径Dsは、玉3の公転直径PCD以下、より好ましくは、冠型保持器34の内径Dh以下としている。 【0110】 また、環状の開口部51を形成している内輪31の外周部と潤滑剤ガイド5の内周部5cとの最短距離yは、玉3の直径Dwの9%以上、より好ましくは11%以上に設定されている。この場合、最短距離yは、潤滑剤ガイド5の内径をDs、内輪31の肩部1bの外径をD1とした場合、 y=(Ds-D1)/2 となる。 【0111】 第3参考例の玉軸受によれば、外輪32に固定された潤滑剤ガイド5の内周部5cと内輪31の外周部との間の軸方向供給側に、環状の開口部51が形成されているので、その環状の開口部51から軸受内部に潤滑油を導入することができる。そして、軸受内部に入り込んだ潤滑油は、冠型保持器34の内径側に流入した後に、遠心力によって、玉3と保持器34の摺動部に流れ込み、さらに遠心力によって流速を増した状態で、開放された内外輪1、2間の軸方向排出側の環状の開口部から軸受外部に排出される。なお、図31中の矢印は潤滑油の流れを示している。 【0112】 このように、軸受内部に供給された潤滑油が、遠心力によって、冠型保持器34の内径側から玉3と保持器34の摺動部に流れ込むため、潤滑ノズル等の余分なスペースやコストのかかる装置を使用せずに、高速回転時に発生しやすい玉3との摺動による保持器34の摩耗を抑制することができる。その結果、冠型保持器34の振れ回りを防止することができ、軸受の長寿命化を図ることができる。また、遠心力によって流速を増した状態で潤滑油を軸受外部に排出することができるので、潤滑油の入れ替わりを効果的に行うことができ、軸受の温度上昇およびトルク増加を防止することができる。 【0113】 また、樹脂製の冠型保持器34は射出成形が可能であるため、大量生産ができ、コストを抑制しながら、潤滑状態の改善を図ることができる。また、玉案内である冠型保持器34は、低トルク化に寄与することができる。 【0114】 また、潤滑剤ガイド5の内径Dsを、冠型保持器34の内径Dh以下とすることで、環状の開口部51から軸受内部に入り込んだ潤滑油が、冠型保持器34の内径側により確実に流入することができる。また、軸受内に過剰な潤滑材が入ることも防止できる。 【0115】 また、冠型保持器34の径方向幅の中央位置4hを、玉3の中心O3よりも軸受の内径側に偏らせているので、冠型保持器34による玉3の抱え込み量を増やすことができ、冠型保持器34の捩れ変形を抑制することができる。 【0116】 また、玉3の中心O3を潤滑油の排出側S2にオフセットしているので、潤滑油の供給側S1に配置した潤滑剤ガイド5と玉3との間の距離を大きくとることができる。したがって、玉3と潤滑剤ガイド5との間隔が開くことにより、潤滑油の供給側S1を向いた冠型保持器34のベース部4aの軸方向の厚さ、つまり、球面ポケット4cの底厚Jを大きくすることができる。その結果、冠型保持器34の剛性向上させることができ、冠型保持器34の振れ回り変形を抑制することができる。 【0117】 また、潤滑剤ガイド5が配設された側の内輪31の肩部1bに、テーパ状の切欠き1cを設けているので、潤滑油の流入する環状の開口部51を大きめに確保しつつ、潤滑剤ガイド5の内径Dsを小さくすることができる。その結果、冠型保持器34の内径側に潤滑油を確実に導入することができ、球面ポケット4cと玉3との摺動部へ潤滑油を導きやすくなる。 【0118】 また、潤滑剤ガイド5の内周部5cに軸受内部側に延びる折り曲げ壁5dを設けているので、潤滑剤ガイド5の内周部5cと内輪31の外周部との間に確保された環状の開口部51から流入する潤滑油を、遠心力に負けずに、冠型保持器34の内周部の方向に積極的に導くことができる。 【0119】 また、冠型保持器34の球面ポケット4cの内周部のエッジ4eに面取りまたは曲面が形成されるので、エッジ4eが玉3に接触した場合にも、保持器34側の応力集中を緩和することができ、保持器34の摩耗を減らすことができる。特に、冠型保持器34の内径が小さくなった場合、エッジ4eがシャープになるが、そのエッジ4eに面取りまたは曲面を形成することにより、摩耗の軽減を図ることができる。 【0120】 また、潤滑剤ガイド5の内径Dsを玉3の公転直径PCD以下、より好ましくは、冠型保持器の内径以下としているので、潤滑剤ガイド5により潤滑油を必要箇所に送り込む性能を向上させることができ、軸受の潤滑状態をよくすることができる。特に、内輪31の外周部と潤滑剤ガイド5の内周部5cとの最短距離yを玉3の直径Dwの9%以上とした場合は、冠型保持器34の振れ回り低減を図ることができる。さらに、内輪31の外周部と潤滑剤ガイド5の内周部5cとの最短距離yを玉3の直径Dwの11%以上とした場合は、より確実に冠型保持器34の振れ回りを低減することができる。 【0121】 図35は、第3参考例の第1変形例に係る玉軸受を示す。この玉軸受では、外輪32の内周部より内径側の潤滑剤ガイド5の外周近傍に、潤滑油の通過を許容する通孔5eが設けられている。このように構成することで、潤滑剤ガイド5の外周近傍に設けた通孔5eを通して潤滑油が自由に逃げることができるので、軸受内部外周側の軸受内部の領域Rにおいて、潤滑油の交換効率を上げることができ、その部分の発熱防止を図ることができる。その他の構成及び効果は、第3参考例のものと同様である。 【0122】 図36A乃至36Eは、第3参考例の第2乃至第6変形例に係る玉軸受を示す。なお、これら変形例の構成は、以下に説明する部分を除いて、第3参考例と同様の構成及び効果を有する。 【0123】 図36Aの第2変形例に係る玉軸受は、内輪31の肩部1bに、テーパ状の切欠き1cの代わりに、段差状の切欠き1dを設けている。 【0124】 図36Bの第3変形例に係る玉軸受は、内輪31の肩部1bに、テーパ状の切欠き1cの代わりに、段差状の切欠き1dを設けている。さらに、折り曲げ壁5dは、冠型保持器34のベース部4aの内周側に入る位置まで延びている。 【0125】 図36Cの第4変形例に係る玉軸受は、内輪31の肩部1bに、テーパ状の切欠き1cの代わりに、段差状の切欠き1dを設けている。ただし、潤滑剤ガイド5は、折り曲げ壁5dを有していない。この場合、折り曲げ壁5dがないので、環状の開口部51から流入した潤滑油が、遠心力によって外径方向に行きがちである。しかしながら、環状の開口部51から軸受内部に流入する時点で、潤滑油には運動エネルギーが付与されているので、十分に冠型保持器34の内周部に潤滑油を導くことができる。 【0126】 図36Dの第5変形例に係る玉軸受は、内輪31の肩部1bに切欠きが無い構成であり、冠型保持器34の内周部と内輪31の外径面が接近する。また、潤滑剤ガイド5は折り曲げ壁5dを有さない。 【0127】 図36Eの第6変形例に係る玉軸受は、内輪31の肩部1bに切欠き1dが無い構成である。また、冠型保持器34は、保持器34の径方向幅の中心が玉3の中心と一致するものが使用され、冠型保持器34の内周部と内輪31の外径面との接触を抑制している。また、この保持器34を使用することで、潤滑剤ガイド5の内径は、保持器34の内径より小さくなり、保持器34の内周側と内輪31との間に潤滑油が通りやすくなる。 【0128】 図37A乃至37Dは、第3参考例の第7乃至第10変形例に係る玉軸受を示す。例えば、第3参考例では、外輪32の肩部に直接、潤滑剤ガイド5が取り付けられているが、図37A及び37Bに示す第7及び第8変形例のように、外輪32の外側面に側板35、45を配設して、その側板35に設けた環状凸部35aや側板45そのものを潤滑剤ガイドとして用いてもよい。また、図37C及び37Dに示す第9及び第10変形例のように、外輪32を固定するハウジング50、60に内向きフランジ部55、65を設け、そのフランジ部55に設けた環状凸部35aやフランジ部65そのものを潤滑剤ガイドとして用いてもよい。 【0129】 このように構成することで、部品点数を削減することができ、また、潤滑剤ガイドの外周端を外輪の係合溝に加締める工程も省略でき、コストが削減できる。また、これら第7乃至第10変形例では、外輪32に潤滑剤ガイドが固定される構成と比べて、内輪31と外輪32との間の軸方向一方側にスペースを設けやすく、保持器34のベース部4aを厚くすることができる。 【0130】 さらに、第3参考例では、潤滑剤ガイドとして、内輪31の肩部1bの外周面と非接触なシールド板が使用されているが、接触シールを使用する場合には、潤滑剤ガイドの内周部側に供給孔が設けられてもよい。 【0131】 また、使用される保持器としては、波型プレス保持器や2つの部材を係合してなる組み合わせ型の保持器など、他の保持器にも適用できる。 【0132】 次に、図38に示す玉軸受を用いて、保持器半径方向ガタ測定試験の例について述べる。なお、この玉軸受は、図36Cに示す第4変形例に係るものと略同様の構成であり、試験1では、内輪31の肩部1bの端部外径D1を変化させ、試験2では、潤滑剤ガイド5の内径Dsを変化させている。 【0133】 <試験1> 本試験1では、潤滑剤ガイド5の内径Dsを51.8mmに固定し、内輪31の肩部1bの端部外径D1を変化させることにより、y/Dw(隙間/玉径)を変化させ、摩耗量の指針として、新品と比べた保持器半径方向ガタ増加量を調査した。なお、軸受構成及び試験条件は、以下の通りである。 【0134】 <軸受構成> ・ 軸受形式:6909(PCD=56.5mm) ・ 玉径:6.7mm ・ 保持器:球面ポケットを有する冠型保持器 ・ 保持器材料:ガラス繊維25%強化46ナイロン ・ 保持器ベース部と潤滑剤ガイドの潤滑剤ガイド部間の距離Db:1mm ・ 保持器内径Dh:51.8mm <試験条件> ・回転数:30000rpm ・給油温度:120℃ ・潤滑方法VG24の鉱油を強制潤滑給油(0.1L/min) ・荷重:2500N ・試験時間:20Hr 【0135】 結果は、表1及び図39の通りであった。 【表1】 【0136】 図39に示した摩耗試験結果により、y/Dwが9%以上となると、玉軸受の振れ回り開始時間の向上がほぼ飽和し、y/Dwが11%以上となると、振れ回り開始時間の向上が完全に飽和することが分かる。これより、y/Dwは9%以上、好ましくは11%以上であると、振れ回り低減に対して大きな効果が得られることが検証された。また、y/Dwが3%以下だと、環状の開口部51が狭すぎて、潤滑油が十分に供給できずに軸受が焼きついた。 【0137】 <試験2> 本試験2では、図38に示すような玉軸受において、内輪31の外径D1を48.4mmに固定し、潤滑剤ガイド5の内径Dsを変化させ、摩耗量の指針として、新品と比べた保持器半径方向ガタ増加量を調査した。但し、y/Dwは、常に試験1において飽和領域となる11%以上に設定している。なお、軸受構成及び試験条件は試験1と同様である。 【0138】 結果は、表2及び図40の通りであった。 【表2】 【0139】 図40に示した摩耗試験結果により、潤滑剤ガイドの内径を軸受PCD以下にし始めた辺りから摩耗量が減少していることが分かる。これは保持器34の間に潤滑油が流入し難くなり、潤滑油の多くが保持器34の内径に流れ始めるからであると考えることができる。この効果は、潤滑剤ガイド5の内径Dsを保持器34の内径Dh以下にするとほぼ飽和している。これらのことより、潤滑剤ガイド5の内径Dsは、軸受PCD以下、好ましくは保持器34の内径Dh以下にすべきであることが分かる。 【0140】 <試験3> 次に、試験1に使用した軸受の中で最もガタが少なかった内輪外径49.8mm、開口量1.0mm、y/Dw15%の軸受の寸法のうち、内輪及び外輪の軌道面の溝の曲率半径Rのみを変化させ、発熱量を比較した。試験条件は試験1と同様であり、20時間後の外輪温度での比較である。図41に、試験3の結果を示す。図41のグラフにおいて、横軸は、Ri=内輪の軌道面の溝の曲率半径R/玉径であり、縦軸は、Re=外輪の軌道面の溝の曲率半径R/玉径=0.52、及びRi=0.52のときの発熱量を1.0とした場合の発熱量の比である。図41に示した試験結果より、外輪の軌道面の溝の曲率半径Rにかかわらず、内輪の軌道面の溝の曲率半径Rが玉径の53%以上(Ri≧0.53)であれば、発熱が少なく良好である。 【0141】 以上、本発明の実施例及びその変形例について説明したが、本発明は上述した実施例及びその変形例に限定されず、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることは当業者にとって明らかである。例えば、上述した実施例及びその変形例の各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所等は、適宜変更または修正可能である。 【0142】 また、上述した実施例及びその変形例の特徴は、組み合わされてもよい。 【0143】 また、上述した実施例及びその変形例では、玉軸受として深溝玉軸受を例示して説明したが、本発明は、他の種類の様々な玉軸受(例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受)に対して適用することができる。 【産業上の利用可能性】 【0144】 本発明は、高温及び高速条件でも好適に使用可能な玉軸受、及びハイブリッド車用変速機を提供する。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2019-09-26 |
結審通知日 | 2019-10-01 |
審決日 | 2019-10-15 |
出願番号 | 特願2010-542129(P2010-542129) |
審決分類 |
P
1
41・
854-
Y
(F16C)
P 1 41・ 852- Y (F16C) P 1 41・ 856- Y (F16C) P 1 41・ 853- Y (F16C) P 1 41・ 855- Y (F16C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 上谷 公治 |
特許庁審判長 |
大町 真義 |
特許庁審判官 |
内田 博之 小関 峰夫 |
登録日 | 2014-05-09 |
登録番号 | 特許第5531966号(P5531966) |
発明の名称 | 玉軸受 |
代理人 | 松山 美奈子 |
代理人 | 松山 美奈子 |