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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1357132
審判番号 不服2018-8598  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-22 
確定日 2019-11-14 
事件の表示 特願2015-513785「針状体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月30日国際公開、WO2014/175310〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は,2014年4月23日(優先権主張2013年(平成25年)4月26日)を国際出願日とする出願であって,平成29年10月2日付けの拒絶の理由の通知に対し,平成29年11月24日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,平成30年3月22日付けで拒絶査定がなされ,これに対して平成30年6月22日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成30年6月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年6月22日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。)
「支持基板と,該支持基板の一方の面に針状の突起部を備える針状体の製造方法であって,
前記突起部に対応した凹部を備える凹版を真空チャンバ内に設置し,0.05MPa以下の圧力環境下とする工程と,
前記真空チャンバ内で前記凹版に対し,針状体形成材料を溶媒に溶解または分散させた針状体形成液を0.05MPa以下の圧力環境下で供給する供給工程と,
前記真空チャンバ内の凹版に供給された針状体形成液を0.05MPaより高い圧力環境下に変化させる圧力変化工程と,
前記凹版に供給された針状体形成液を乾燥し針状体とする乾燥工程と,
前記凹版から針状体を剥離する剥離工程とを備え,かつ,
前記圧力変化工程における圧力変化量が0.05MPa以上0.10MPa以下の範囲内であることを特徴とする針状体の製造方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成29年11月24日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「支持基板と,該支持基板の一方の面に針状の突起部を備える針状体の製造方法であって,
前記突起部に対応した凹部を備える凹版に対し,針状体形成材料を溶媒に溶解または分散させた針状体形成液を0.05MPa以下の圧力環境下で供給する供給工程と,
前記凹版に供給された針状体形成液を0.05MPaより高い圧力環境下に変化させる圧力変化工程と,
前記凹版に供給された針状体形成液を乾燥し針状体とする乾燥工程と,
前記凹版から針状体を剥離する剥離工程とを備え,かつ,
前記圧力変化工程における圧力変化量が0.05MPa以上0.10MPa以下の範囲内であることを特徴とする針状体の製造方法。」

2 本件補正の適否
本件補正は,補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「供給工程」に関し,「真空チャンバ内」で行うものと特定し,同じく「圧力変化工程」に関し,「真空チャンバ内の」凹版に供給された針状体形成液に対して行うものと特定するものであり,また,併せて発明の明確化を図るため,突起部に対応した凹部を備える凹版を「真空チャンバ内に設置し,0.05MPa以下の圧力環境下とする工程」を追加したものであるから,特許請求の範囲の減縮(特許法第17条の2第5項第2号)を目的とするものに該当し,また,本件補正は,同条第3項及び第4項の規定に違反するものではない。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち同条第6項において準用する同法第126条第7項に規定される特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件に適合するものであるかについて検討する。

(1)補正発明
補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載及び引用発明
(2-1)引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された,本件優先日前に頒布された特開2009-233170号公報(平成21年10月15日公開。以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

A「【0001】
本発明は,高アスペクト比の構造体が表面に形成された高アスペクト比構造シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,マイクロニードルなどの高アスペクト比の構造体が表面に形成された機能性膜は,様々な分野で応用されている。
【0003】
例えば,医療技術分野では,薬剤を含む高アスペクト比構造の機能性膜を用いることで,患者の皮膚表面又は皮膚角質層を介して,薬剤を患者に効率的に投与する経皮吸収システムが注目を集めている。このような経皮吸収システム用の機能性膜は,一般に,経皮吸収シートと称される。」

B「【0016】
本発明は,このような事情に鑑みてなされたもので,プルランを用いて,先端が鋭く尖った高アスペクト比の構造体を有するシートを容易に製造する方法に関する。」

C「【0017】
請求項1に記載の発明は,プルランと界面活性剤とを含むポリマー溶解液を,高アスペクト比構造の凹部が形成されたモールドに付与する付与工程と,前記凹部の反転形状である凸部を有するポリマーシートが形成されるように,前記ポリマー溶解液を乾燥固化する乾燥固化工程と,前記乾燥固化工程で形成された前記ポリマーシートを前記モールドから剥離する剥離工程とを含むことを特徴とする高アスペクト比構造シートの製造方法に関する。」

D「【0033】
まず,図1(a)に示すように,針状凹部12を有するモールド10を準備する。針状凹部12は,モールド10の平坦面16に比べてくぼんだ領域であり,最深部14に向かって徐々に幅が狭くなる構造を有する。針状凹部12の形状は,所望の形状のマイクロニードルが得られるように,ポリマー溶解液20の乾燥収縮の影響を考慮して決定することが好ましい。」

E「【0035】
次に,図1(b)に示すように,モールド10にポリマー溶解液20を付与する。」

F「【0043】
次に,図1(c)に示すように,モールド10に付与されたポリマー溶解液20を乾燥固化する。ポリマー溶解液20を乾燥固化する方法として,ポリマー溶解液20を自然乾燥する方法に加えて,加熱,送風,減圧などにより,ポリマー溶解液20の溶媒を強制的に揮発させる方法が挙げられる。
【0044】
この後,モールド10から剥離することで,図1(d)に示すような,マイクロニードル24を有するポリマーシート22が得られる。」

G「【0047】
図2は本実施形態に係る方法により製造されるポリマーシートの構造例を示す断面図である。
【0048】
マイクロニードル24の形状は,例えば,円錐または角錐などの錐形状であってもよい。マイクロニードル24は,より効率的な薬剤投与を可能にする観点から,先端が鋭く尖った高アスペクト比の構造体であることが好ましい。例えば,マイクロニードル24の幅(直径)は10?500μmであることが好ましく,マイクロニードル24の先端の曲率半径は5μm以下であることが好ましい。マイクロニードル24の高さは10?1000μmであることが好ましく,100?1000μmであることがさらに好ましい。また,
マイクロニードル24のアスペクト比は,1以上であることが好ましく,2以上であることがさらに好ましい。ここで,マイクロニードル24の高さは基底部26の表面からの突起長さHを意味し,マイクロニードル24のアスペクト比Aは,マイクロニードル24の高さ(突起長さ)Hと幅(直径)Dを用いて,A=H/Dにより定義される。」

H「【0056】
例えば,上述の実施形態では,モールド10にポリマー溶解液20を付与した後,続けて,ポリマー溶解液20を乾燥固化する例について説明したが,ポリマー溶解液20を乾燥固化する前に,ポリマー溶解液20の針状凹部12への充填を促進してもよい。ポリマー溶解液20の針状凹部12への充填を促進する方法として,ポリマー溶解液20をモールド10に注型した後にポリマー溶解液20を加圧する方法や,ポリマー溶解液20を減圧下でモールド10に注型した後に大気圧に戻す方法などが挙げられる。」

I「【0070】
<ポリマー溶解液の加圧充填>
ポリマー溶解液の溶媒である水の揮発を防止するため,耐圧容器内の底部に,高さ40mmまで温水を溜めた。ポリマー溶解液を注型したモールドを,耐圧容器内のステージ上に載置して,フランジと蓋の間にO-リングを挟み,耐圧容器をボルトで密封した。加熱ジャケットにより耐圧容器の内部を40℃まで加熱した後,コンプレッサーから耐圧容器内に圧縮空気を注入した。これにより,耐圧容器内の圧力を,0.5MPaで,5分間保持した。」

(イ)上記記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1に記載された技術は,基底部26と,基底部26の表面にマイクロニードル24を備えるポリマーシート22の製造方法に関するものである(【0017】,【0044】,【0048】)。
b マイクロニードルが得られるような針状凹部12を有するモールド10を準備する(【0033】)。
c モールド10に対し,プルランと界面活性剤とを含むポリマー溶解液20を減圧下で注型する(【0017】,【0056】)。
d 減圧下でモールド10に注型されたポリマー溶解液20を大気圧に戻す(【0056】)。
e モールド10に注型されたポリマー溶解液20を乾燥固化する(【0043】,【0056】)。
f モールド10からポリマーシート22を剥離する(【0044】)。

(ウ)上記(ア),(イ)から,引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「基底部26と,基底部26の表面にマイクロニードル24を備えるポリマーシート22の製造方法であって,
前記マイクロニードルが得られるような針状凹部12を有するモールド10を準備し,
前記モールド10に対し,プルランと界面活性剤とを含むポリマー溶解液20を減圧下で注型し,
前記減圧下でモールド10に注型されたポリマー溶解液20を大気圧に戻し,
前記モールド10に注型されたポリマー溶解液20を乾燥固化し,
前記モールド10からポリマーシート22を剥離するポリマーシート22の製造方法。」

(2-2)引用文献2
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された,本件優先日前に頒布された特開2010-94414号公報(平成22年4月30日公開。以下,「引用文献2」という。)には,以下の事項が記載されている。

A「【技術分野】
【0001】
本発明は,マイクロニードル貼付剤とその製造方法および製造装置に関するものであり,特に皮膚表層において簡便に,安全かつ効率的に医薬品および化粧品などに用いられる機能性物質などを注入することが可能な,マイクロニードル貼付剤とその製造方法および製造装置に関するものである。」

B「【0043】
次に,図2に示すステップ103(S103)の水溶性高分子物質と目的とする機能性物質を溶解した水溶液の充填工程を行う。具体的には図3(c)に示すように,ここでは成形型3に水溶性高分子物質と目的とする機能性物質を溶解した水溶液を滴下してドクターブレードを用いて充填する。他にディスペンサーによる充填,スキージによる印刷法を適用することが可能である。
【0044】
前記充填する工程において,380Torr?76Torrの減圧状態で行なうことにより気泡の除去およびニードルの先端部まで十分充填することができるので欠陥のないマイクロニードルシートを製造することができる。
【0045】
次に,図2に示すステップ104(S104)の支持体シート5の載置と乾燥工程を行う。具体的には図3(d)に示すように,乾燥することにより水溶性高分子物質と目的とする機能性物質を溶解した水溶液は凝固し支持体シート5と接着してマイクロニードル凝固体4となる。成形型3,マイクロニードル凝固体4,支持体シート5は一体に結合構成され,マイクロニードル貼付剤1が完成する。
【0046】
次に,マイクロニードル先端部に目的とする機能性物質を偏在させる工程について説明する。
【0047】
次に,図2に示すステップ103a(S103a)の第1の充填工程を行う。この工程では水溶性高分子物質と目的とする機能性物質を溶解した水溶液をニードルの先端部に充填する。この工程ではディスペンサーによる定量充填が望ましい。充填後ステップ104a(S104a)で乾燥する。
【0048】
次に,図2に示すステップ103b(S103b)の第2の充填工程を行う。この工程では水溶性高分子物質の水溶液をニードルに基部に充填する。この充填工程ではドクターブレード,ディスペンサー,スキージによる印刷法の適用が可能である。
【0049】
次に,図2に示すステップ104(S104)の支持体シート5の載置と乾燥工程を行う。具体的には図3(e)に示すように,乾燥することにより水溶性高分子物質と目的とする機能性物質を溶解した水溶液はマイクロニードル凝固体4となり支持体シート5と接着する。成形型3,マイクロニードル凝固体4,支持体シート5は一体に結合構成され,マイクロニードルの先端部に機能性物質が偏在した2層構造のマイクロニードル貼付剤13が完成する。
【0050】
図4(a)に示すように,先端部が円錐形状または角錐形状のマイクロニードルを有するマイクロニードルシート貼付剤の製造装置図において,マイクロニードルの原型を転写したキャビティを有する成形型3に水溶性高分子物質および目的とする機能性物質を溶解した水溶液の充填が充填部6で行われる。水溶液の充填面に支持体シート5を載置し充填した水溶液の乾燥は,載置部7および乾燥部8で行われる。このようにして,成形型3とマイクロニードルシート凝固体4および凝固体に接着した支持体シート5との一体物であるマイクロニードルシート貼付剤1製造することができる製造装置である。
【0051】
図4(b)に示すように2層構造のマイクロニードルシート貼付剤13の製造装置は,第1の充填部9と乾燥部8と第2の充填部10を設けることにより,先端部に機能性物質が偏在した2層構造のマイクロニードル貼付剤13を製造することができるでものである。
【0052】
前記充填部6を気密性の容器11で囲い,エア吸引部12に接続して容器内を減圧することで欠陥のないマイクロニードルシート貼付剤を製造することができる製造装置である。」

C 「図4


D 図4において,「乾燥部8」が,減圧が行われる気密性の容器11の外にあることが看て取れる。そして,前記「乾燥部8」で行われる乾燥が,減圧下,または,加圧下で行われることの記載はないことから,当該「乾燥部8」で行われる乾燥は,大気圧下で行われるものと理解できる。

E 図4(b)において,第1の充填部で充填した機能性物質を溶解した水溶液は,充填後乾燥部8におかれて,乾燥されることが看て取れる。

F 上記BないしEより,機能性物質を溶解した水溶液は,380Torr?76Torrの減圧状態で成形型3に充填された後,大気圧下におかれることが記載されていると理解できる。

(イ)上記記載,及び,認定事項から,引用文献2には,次の技術が記載されていると認められる。
「気密性の容器11内で成形型3に対し,機能性物質を溶解した水溶液を380Torr?76Torrの減圧状態で充填し,
前記気密性の容器11内の成形型3に充填された水溶液を大気圧下におく,マイクロニードルシート凝固体4の製造方法。」

(3)引用発明との対比
補正発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「基底部26」は,その用語の意味,機能又は構成等からみて,補正発明の「支持基板」に相当し,以下同様に,「表面」は「一方の面」に,「マイクロニードル24」は「針状の突起部」に,「ポリマーシート22」は「針状体」に,「マイクロニードルが得られるような針状凹部12」は「突起部に対応した凹部」に,「有する」という態様は「備える」という態様に,「モールド10」は「凹版」に,「プルランと界面活性剤とを含むポリマー溶解液20」は「針状体形成材料を溶媒に溶解または分散させた針状体形成液」に,「ポリマー溶解液20」は「針状体形成液」に,「注型」は「供給」に,「乾燥固化し」という態様は「乾燥し」という態様に,「モールド10に注型されたポリマー溶解液20を乾燥固化し」という工程は「凹版に供給された針状体形成液を乾燥し針状体とする乾燥工程」に,「モールド10からポリマーシート22を剥離する」という工程は「凹版から針状体を剥離する剥離工程」に,それぞれ相当する。
そして,引用発明の「マイクロニードルが得られるような針状凹部12を有するモールド10を準備し」という工程と補正発明の「突起部に対応した凹部を備える凹版を真空チャンバ内に設置し,0.05MPa以下の圧力環境下とする工程」とは,「突起部に対応した凹部を備える凹版を設置する工程」という点で共通し,以下同様に,「モールド10に対し,プルランと界面活性剤とを含むポリマー溶解液20を減圧下で注型し」という工程と「真空チャンバ内で凹版に対し,針状体形成材料を溶媒に溶解または分散させた針状体形成液を0.05MPa以下の圧力環境下で供給する供給工程」とは,「凹版に対し,針状体形成材料を溶媒に溶解または分散させた針状体形成液を減圧環境下で供給する工程」という点で,「減圧下でモールド10に注型されたポリマー溶解液20を大気圧に戻し」という工程と「真空チャンバ内の凹版に供給された針状体形成液を0.05MPaより高い圧力環境下に変化させる圧力変化工程」とは,「凹版に供給された針状体形成液を減圧環境下より高く,かつ,0.05MPaより高い圧力環境下に変化させる圧力の変化工程」という点で,それぞれ共通する。

してみると,補正発明と引用発明とは,以下の点において一致する。
「支持基板と,該支持基板の一方の面に針状の突起部を備える針状体の製造方法であって,
前記突起部に対応した凹部を備える凹版を設置する工程と,
前記凹版に対し,針状体形成材料を溶媒に溶解または分散させた針状体形成液を減圧環境下で供給する工程と,
凹版に供給された針状体形成液を減圧環境下より高く,かつ,0.05MPaより高い圧力環境下に変化させる圧力の変化工程と,
前記凹版に供給された針状体形成液を乾燥し針状体とする乾燥工程と,
前記凹版から針状体を剥離する剥離工程とを備える針状体の製造方法。」

そして,補正発明と引用発明とは,以下の点において相違する。
[相違点1]
凹版を設置する工程に関し,補正発明は,凹版を真空チャンバ内に設置し,0.05MPa以下の圧力環境下とする工程であるのに対し,引用発明は,モールド10を真空チャンバ内に設置しているのか明かでなく,また,凹版を設置した後真空チャンバ内を0.05MPa以下の圧力環境下としているか不明な点。
[相違点2]
針状体形成液を供給する工程に関し,補正発明は,真空チャンバ内で0.05MPa以下の圧力環境下で行う供給工程であるのに対し,引用発明は,真空チャンバ内で行っているか明かでなく,また,0.05MPa以下の圧力環境下としているか不明な点。
[相違点3]
凹版に供給された針状体形成液に対する圧力の変化工程に関し,補正発明は,真空チャンバ内の凹版に供給された針状体形成液に対する圧力変化工程であり,また,圧力変化量が0.05MPa以上0.10MPa以下の範囲内であるのに対し,引用発明は,真空チャンバ内で注型されたポリマー溶解液20に対する圧力環境を変化させているのか明かでなく,また,圧力変化量が0.05MPa以上0.10MPa以下の範囲内であるのか不明な点。

(4)判断
上記相違点について,以下検討する。
ア 相違点1について
引用発明も,モールド10に対しポリマー溶解液20を減圧下で注型している。そして,減圧状態は,開放空間で形成できるものではなく,一般的には真空チャンバのような閉鎖空間内に形成することが技術常識である。また,引用文献1の[0070]には,加圧状態ではあるものの,耐圧容器内に非大気圧状態を形成することも記載されていることを踏まえれば,引用文献1に接した当業者であれば減圧状態を形成する際にも耐圧容器を用いているであろうことは十分に理解できる。そして,耐圧容器内で注型を行うためには,耐圧容器内にモールド10を設置する必要があることは自明である。そうすると,引用発明についてモールド10を耐圧容器内に設置する構成とすることは,当業者が実施に際して,当然に採用し得る設計的事項である。
次に,耐圧容器内を減圧する時期について検討する。
モールド10を真空チャンバ内に設置する前に減圧を行うと,モールド10を真空チャンバ内に設置する際に,真空チャンバが開放され,真空チャンバ内の圧力が上昇し,効率が悪いことからみて,モールド10を真空チャンバ内に設置した後に減圧することは技術常識といえる。このことは,引用文献1の[0070]に,加圧状態ではあるものの,物品を耐圧容器内に設置した後に耐圧容器内の圧力を変化させている記載があることからも理解できる。以上を鑑みれば,引用発明について,モールド10を耐圧容器内に設置した後に減圧下とすることは,当業者が適宜採用し得る設計的事項である。
さらに,圧力環境における圧力値について検討する。
引用文献2には,型に注型するマイクロニードルの製造方法において先端まで十分に充填させるために,上記のとおり,気密性の容器11内で成形型3に対し,機能性物質を溶解した水溶液を380Torr(約0.05MPa)?76Torr(約0.01MPa)の減圧状態で充填し,前記気密性の容器11内の成形型3に充填された水溶液を大気圧下におく,マイクロニードルシート凝固体4の製造方法の技術が記載されている。
引用発明は,型に注型するマイクロニードルの製造方法において先端まで十分に充填させるという課題を有し,当該課題を解決するために減圧下で注型した後大気圧下に圧力変化させるものであるところ,同様の課題について同様の解決手段を提示している引用文献2記載の技術の具体的な減圧の程度,すなわち,水溶液充填時の圧力である約0.05MPa?約0.01MPaを参考にして,耐圧容器内の圧力環境を約0.05MPa以下とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。

よって,引用発明に引用文献2記載の技術を適用して,上記相違点1に係る補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。

イ 相違点2
上記アに記載のとおり,引用発明について,ポリマー溶解液20の注型を耐圧容器内で行うことは設計的事項である。
同様に,上記アに記載のとおり,引用発明に引用文献2記載の技術を適用して,ポリマー溶解液20の注型を約0.05MPa以下の圧力環境下で行うことは,当業者が容易に想到し得ることである。
よって,引用発明に引用文献2記載の技術を適用して,上記相違点2に係る補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。

ウ 相違点3
引用発明は,「減圧下でモールド10に注型されたポリマー溶解液20を大気圧に戻し」ている。
そして,上記アに記載のとおり,引用発明についてポリマー溶解液20の注型を耐圧容器内で行うことは設計的事項であり,具体的な減圧の程度として引用文献2記載の技術を参考とすれば,大気圧(約0.1MPa)との差分である圧力変化量を0.05MPa以上0.10MPa以下の範囲内とすることに何ら困難性は認められない。
よって,引用発明に引用文献2記載の技術を適用して,上記相違点3に係る補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。

そして,補正発明の奏する効果についてみても,引用発明及び引用文献2記載の技術から当業者が予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって,補正発明は,引用発明及び引用文献2記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についての結び
以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反している。よって,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,本件補正は却下すべきものである。
よって,上記[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし9に係る発明は,平成29年11月24日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち請求項1に係る発明に対する理由は,本願の優先日前に頒布された上記引用文献1に記載された発明及び上記引用文献2に記載された技術に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及び2の記載事項並びに引用発明は,上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,前記第2[理由]2で検討した補正発明から,凹版を「真空チャンバ内に設置し,0.05MPa以下の圧力環境下とする工程と,」という限定事項,供給工程を「真空チャンバ内で前記凹版」に対し供給するという限定事項,及び,圧力変化工程を「真空チャンバ内の」凹版に供給された針状体形成液に対して施すという限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する補正発明が,前記第2[理由]2(3),(4)に記載したとおり,引用発明及び引用文献2記載の技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び引用文献2記載の技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-11 
結審通知日 2019-09-17 
審決日 2019-10-01 
出願番号 特願2015-513785(P2015-513785)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61M)
P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 落合 弘之小原 一郎  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 倉橋 紀夫
莊司 英史
発明の名称 針状体の製造方法  

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