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審決分類 |
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 H04N |
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管理番号 | 1357133 |
審判番号 | 不服2018-8934 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-06-28 |
確定日 | 2019-11-14 |
事件の表示 | 特願2017- 7298号「画像復号装置、画像復号方法、画像符号化装置、画像符号化方法及び符号化データ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月25日出願公開、特開2017- 92980号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2013年(平成25年)1月9日(優先権主張日 平成24年1月19日)を出願日とする特願2013-549653号の一部を平成26年5月22日に出願した特願2014-106163号の一部を平成27年9月24日に出願した特願2015-186880号の一部を平成29年1月19日に出願したものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成29年 9月19日付け:拒絶理由通知 平成29年11月24日 :意見書提出および手続補正 平成29年12月13日付け:拒絶理由通知 平成30年 3月 8日 :意見書提出 平成30年 3月27日付け:拒絶査定 平成30年 6月28日 :拒絶査定不服審判請求 第2 原査定の理由 原査定の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。 「1.(新規事項)平成29年11月24日付け手続補正書でした補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 記 出願人は、「複数種類のフィルタ処理であるデブロッキングフィルタ処理と画素適応オフセット処理との可否情報」(請求項1-2)の下線を追加する補正を行ったが、当初明細書、特許請求の範囲又は図面には、画素適応オフセット処理を行うかの選択情報(可否情報)は記載されているものの、デブロッキングフィルタ処理を行うかの可否情報の記載はなく、また、当初明細書、特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項からみて、デブロッキングフィルタ処理を行うかの可否情報が記載されているのと同然であると理解できることが明らかでもない。 したがって、「複数種類のフィルタ処理であるデブロッキングフィルタ処理と画素適応オフセット処理との可否情報」のデブロッキングフィルタ処理を行うかの可否情報を追加する点は、当初明細書、特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、当初明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでない。 また、請求項3-5にも、同趣旨の記載があり、当初明細書、特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、当初明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでない。」 第3 本件補正 平成29年11月24日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1ないし5を、本件補正による特許請求の範囲の請求項1ないし5に補正するものであり、本件補正は、請求項3に係る次の補正事項を含むものである(下線は補正箇所を示す。)。 なお、本件補正後の請求項3に係る発明の各構成の符号(A)?(E)は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成(A)?構成(E)と称する。 (補正前の請求項3) 「【請求項3】 ピクチャに対する最大サイズの符号化ブロックを決定する符号化パラメータ決定手段と、 上記ピクチャを上記最大サイズの符号化ブロックに分割するとともに、上記符号化ブロックを分割するブロック分割手段と、 上記最大サイズの符号化ブロックから分割された符号化ブロックのうちフィルタ処理をしない符号化ブロックを除いた上記最大サイズの符号化ブロックに対してフィルタ処理を行うフィルタリング手段と、 上記最大サイズの符号化ブロックに対する上記フィルタ処理のフィルタパラメータに関する情報と、 上記最大サイズの符号化ブロックから分割された符号化ブロックに対する上記フィルタ処理の可否情報と、 を符号化する符号化手段と、 を備えたことを特徴とする画像符号化装置。」 (補正後の請求項3) 「【請求項3】 (A) ピクチャに対する最大サイズの符号化ブロックを決定する符号化制御手段と、 (B) 上記ピクチャを上記最大サイズの符号化ブロックに分割するとともに、上記符号化ブロックを分割するブロック分割手段と、 (C) 上記最大サイズの符号化ブロックから分割された符号化ブロックのうち複数種類のフィルタ処理であるデブロッキングフィルタ処理と画素適応オフセット処理とをしない符号化ブロックを除いた上記最大サイズの符号化ブロックに対して上記複数種類のフィルタ処理を行うフィルタリング手段と、 (D1) 上記複数種類のフィルタ処理のフィルタパラメータに関する情報と、 (D2) 上記最大サイズの符号化ブロックから分割された符号化ブロックに対する上記複数種類のフィルタ処理の可否情報と、 (D3) を符号化する符号化手段と、 (E) を備えたことを特徴とする画像符号化装置。」 第4 本件補正に対する当審の判断 本件補正により、補正後の請求項3は、 構成(C)のフィルタリング手段が行うフィルタ処理について、「複数種類のフィルタ処理」とし、かつ、当該複数種類のフィルタ処理を「デブロッキングフィルタ処理と画素適応オフセット処理」とする事項(以下、「発明特定事項A」という)、「最大サイズの符号化ブロックから分割された符号化ブロックのうち複数種類のフィルタ処理であるデブロッキングフィルタ処理と画素適応オフセット処理とをしない符号化ブロック」があること(以下、「発明特定事項B」という)、「複数種類のフィルタ処理であるデブロッキングフィルタ処理と画素適応オフセット処理とをしない符号化ブロックを除いた最大サイズの符号化ブロックに対して上記複数種類のフィルタ処理を行う」こと(以下、「発明特定事項C」という)を含むものである。 また、本件補正は、構成(D3)の符号化手段が符号化する構成(D2)のフィルタ処理の可否情報について、「最大サイズの符号化ブロックから分割された符号株ロックに対する上記複数種類のフィルタ処理の可否情報」とする事項、すなわち、「最大サイズの符号化ブロックから分割された符号化ブロックに対するデブロッキングフィルタ処理と画素適応オフセット処理のフィルタ処理の可否情報」とする事項(以下、「発明特定事項D」という)を含むものである。 そこで、発明特定事項A?Dが本願出願当初の明細書若しくは図面(以下、「当初明細書等」という)に記載された事項の範囲内であるかどうかについて、以下に検討する。 1 当初明細書等に記載された事項 当初明細書等には、動画像符号化装置のフィルタリング手段を構成する「ループフィルタ部11」の構成及び処理内容、並びに、符号化手段を構成する「可変長符号化部13」の構成及び処理内容について、以下の記載がある。(下線は、強調のため当審で付したものである。) ア ループフィルタ部11の構成について 「【0027】 ループフィルタ部11は加算部9により算出された局所復号画像に対して、所定のフィルタ処理を実施して、フィルタ処理後の局所復号画像を出力する処理を実施する。 具体的には、直交変換ブロックの境界や予測ブロックの境界に発生する歪みを低減するフィルタ(デブロッキングフィルタ)処理、画素単位に適応的にオフセットを加算する(画素適応オフセット)処理、ウィーナフィルタ等の線形フィルタを適応的に切り替えてフィルタ処理する適応フィルタ処理などを行う。 ただし、ループフィルタ部11は、上記のデブロッキングフィルタ処理、画素適応オフセット処理、適応フィルタ処理の中の1つの処理を行うように構成してもよいし、図10に示すように、2つ以上のフィルタ処理を行うように構成してもよい。 (中略) 【0029】 また、適応フィルタ処理は、図11に示すように、最大符号化ブロック単位にフィルタ処理を行わない場合も含めてクラス分類(グループ分類)を行い(図11の例では、クラス番号0が“フィルタ処理なし”を示している)、各クラス(グループ)に属する領域(局所復号画像)毎に、重畳されている歪みを補償するフィルタを設計し、そのフィルタを用いて、当該局所復号画像のフィルタ処理を実施する。 そして、上記のクラス(グループ)の数(フィルタ数)、各クラス(グループ)に属する局所復号画像のフィルタ、最大符号化ブロック単位のクラス(グループ)の識別情報であるクラス番号(フィルタ番号)をフィルタパラメータの一部として可変長符号化部13に出力する。 なお、画素適応オフセット処理及び適応フィルタ処理を行う場合には、映像信号をループフィルタ部11で参照する必要があるため、映像信号がループフィルタ部11に入力されるように図1の動画像符号化装置を変更する必要がある。 【0030】 また、画素適応オフセット処理と適応フィルタ処理を共に用いる手法として、図10に示す形ではなく、最大符号化ブロック単位に画素適応オフセット処理と適応フィルタ処理の何れか一方を最適選択するようにしてもよい。このようにすることで最大符号化ブロック毎のフィルタ処理の演算量を抑えつつ高精度なフィルタ処理が実現できる。ただし、このように構成した場合は、最大符号化ブロック単位の画素適応オフセット処理を行うか適応フィルタ処理を行うかの選択情報をフィルタパラメータの一部として可変長符号化部13に出力する。」 図10には以下の図がある。 「 ![]() 」 イ ループフィルタ部11の処理内容について 「【0078】 次に、ループフィルタ部11の処理内容を詳細に説明する。 ループフィルタ部11は、加算部9により算出された局所復号画像に対して、所定のフィルタ処理を実施して、フィルタ処理後の局所復号画像を出力する処理を実施する。 具体的には、直交変換ブロックの境界や予測ブロックの境界に発生する歪みを低減するフィルタ(デブロッキングフィルタ)処理、画素単位に適応的にオフセットを加算する(画素適応オフセット)処理、ウィーナフィルタ等の線形フィルタを適応的に切り替えてフィルタ処理する適応フィルタ処理などを行う。 ただし、ループフィルタ部11は、上記のデブロッキングフィルタ処理、画素適応オフセット処理、適応フィルタ処理の中の1つの処理を行うように構成してもよいし、図10に示すように、2つ以上のフィルタ処理を行うように構成してもよい。 一般に、使用するフィルタ処理の種類が多いほど、画像品質は向上するが、一方で処理負荷は高くなる。即ち、画像品質と処理負荷はトレードオフの関係にあるため、動画像符号化装置が許容する処理負荷にしたがって構成を決めればよい。」、 ウ 画素適応オフセット処理について 「【0028】 ここで、画素適応オフセット処理は、最初に、最大符号化ブロック単位に、オフセット処理を行わない場合もクラス分類手法の一つとして定義して、予め用意している複数のクラス分類手法の中から、1つのクラス分類手法を選択する。 次に、選択したクラス分類手法によってブロック内の各画素をクラス分類し、クラス毎に符号化対象画像と局所復号画像との間の輝度値の二乗誤差和が最小となるオフセット値を算出する。 最後に、局所復号画像の輝度値に対して、そのオフセット値を加算する処理を行うことで局所復号画像の画像品質を改善する。 したがって、画素適応オフセット処理は、最大符号化ブロック単位のクラス分類手法を示すインデックス、最大符号化ブロック単位の各クラスのオフセット値をフィルタパラメータの一部として可変長符号化部13に出力する。」 「【0079】 ここで、画素適応オフセット処理は、最初に、最大符号化ブロック単位に所定の手法で、ブロック内の各画素をクラス分類し、クラス毎に符号化対象画像と局所復号画像との間の輝度値の二乗誤差和が最小となるオフセット値を算出する。 そして、各クラスのオフセット値を当該クラスに属する画素(局所復号画像の画素)の輝度値に加算する処理を行うことで局所復号画像の画像品質を改善する。 【0080】 クラス分類を行う所定の手法としては、局所復号画像の輝度値の大きさで分類する手法や、図20に示すようなエッジの方向毎に、各画素の周囲の状況(エッジ部か否か等)に応じて分類する手法があり、これらの手法は、予め画像符号化装置及び画像復号装置共通で用意されており、オフセット処理を行わない場合もクラス分類手法の一つとして定義して、符号化側では、これらの手法の中で、どの手法を用いて、クラス分類を行うかを上記ブロック単位に選択する。 また、ピクチャ全体で画素適応オフセット処理を行わない場合と、上記で決定した画素適応オフセット処理を行う場合を比較して、どちらが良いか選択する。 したがって、画素適応オフセット処理は、ピクチャレベルの画素適応オフセット処理の有無情報と、この有無情報が“有り”を示す場合は、最大符号化ブロック単位のクラス分類手法を示すインデックス、最大符号化ブロック単位の各クラスのオフセット値をフィルタパラメータの一部として可変長符号化部13に出力する。」 エ 適応フィルタ処理について 「【0029】 また、適応フィルタ処理は、図11に示すように、最大符号化ブロック単位にフィルタ処理を行わない場合も含めてクラス分類(グループ分類)を行い(図11の例では、クラス番号0が“フィルタ処理なし”を示している)、各クラス(グループ)に属する領域(局所復号画像)毎に、重畳されている歪みを補償するフィルタを設計し、そのフィルタを用いて、当該局所復号画像のフィルタ処理を実施する。 そして、上記のクラス(グループ)の数(フィルタ数)、各クラス(グループ)に属する局所復号画像のフィルタ、最大符号化ブロック単位のクラス(グループ)の識別情報であるクラス番号(フィルタ番号)をフィルタパラメータの一部として可変長符号化部13に出力する。 なお、画素適応オフセット処理及び適応フィルタ処理を行う場合には、映像信号をループフィルタ部11で参照する必要があるため、映像信号がループフィルタ部11に入力されるように図1の動画像符号化装置を変更する必要がある。」 「【0081】 次に、適応フィルタ処理を具体的に説明する。 図13は適応フィルタ処理の一例を示すフローチャートである。 図13の例では、最大符号化ブロック単位の適応フィルタ処理を実施するために、ステップST102?ST106のフィルタ選択及びフィルタ処理を各最大符号化ブロックに対して実行する(ステップST101)。 (中略) 【0087】 以上の処理を全ての最大符号化ブロックに対して実施し、最後にピクチャ全体で適応フィルタ処理を行わない場合と、上記で決定した最大符号化ブロック単位の適応フィルタ処理を行う場合とを比較し、最適な方を選択する。 したがって、適応フィルタ処理は、ピクチャレベルの適応フィルタ処理の有無情報と、この有無情報が“有り”を示す場合は、クラス数、“フィルタ処理なし”を含む最大符号化ブロック単位のクラス番号、各クラスのフィルタ係数をフィルタパラメータの一部として可変長符号化部13に出力する。 【0088】 なお、適応フィルタ処理の例としては、図13以外にも図14に示す例などが考えられる。 図14の例においても、各最大符号化ブロックでのフィルタ処理の選択手法が異なるだけで、図11に示すように、最大符号化ブロック単位の使用するフィルタを表すクラス番号と、各クラス番号に対応するフィルタを可変長符号化部13に出力するフィルタパラメータとする点は同じである。 (中略) 【0090】 また、上記例では、最大符号化ブロック単位に最適なフィルタ処理を決定しているが、最大符号化ブロックよりも小さい領域単位で考えると、フィルタ処理によって符号化対象画像と局所復号画像との間の輝度値の二乗誤差和が増加してしまう場合が存在する可能性がある。 したがって、図15に示すように、最大符号化ブロックを分割した符号化ブロック単位にフィルタ処理を実施するか否かを選択するようにしてもよい。 このようにすることで、符号化対象画像と局所復号画像との間の輝度値の二乗誤差が増加してしまう画素数を減らすことができるため、高精度なフィルタ処理を実現することができる。本処理を行う場合には、符号化ブロック単位のフィルタ処理の有無情報もフィルタパラメータとして符号化する必要がある。 なお、本符号化ブロック単位のフィルタのオン・オフ処理は、画素適応オフセット処理に導入しても、適応フィルタ処理に導入した場合と同様の効果が得られる。」 オ 画素適応オフセット処理と適応フィルタ処理を共に用いることについて 「【0092】 また、画素適応オフセット処理と適応フィルタ処理を共に用いる手法として、図10に示す形ではなく、最大符号化ブロック単位に画素適応オフセット処理と適応フィルタ処理の何れか一方を最適選択するようにしてもよい。このようにすることで最大符号化ブロック毎のフィルタ処理の演算量を抑えつつ高精度なフィルタ処理が実現できる。ただし、このように構成した場合は、最大符号化ブロック単位の画素適応オフセット処理を行うか適応フィルタ処理を行うかの選択情報をフィルタパラメータの一部として可変長符号化部13に出力して符号化する。 【0093】 また、上記例では最大符号化ブロック単位に画素適応オフセット処理のクラス分類手法選択、適応フィルタ処理のクラス選択を行うものについて説明したが、任意のブロックサイズ単位で行えるようにしてもよい。このようにすることで、絵柄が複雑でない画像では最大符号化ブロックよりも大きいブロックサイズで行うことで画質改善性能をあまり低下させることなく符号化すべきブロック単位の選択情報を削減することができる。一方、絵柄が複雑な画像では最大符号化ブロックよりも小さいブロックサイズで行うことで符号化すべきブロック単位の選択情報は増加するものの、複雑な絵柄の変化に追随した処理が可能となるため大きな画質改善効果が得られる。なお、上記のように任意のブロックサイズ単位に画素適応オフセット処理のクラス分類手法選択、適応フィルタ処理のクラス選択を行うようにする場合、上記ブロックサイズをフィルタパラメータの一部として可変長符号化部13に出力して符号化する。」 カ 可変長符号化部13の構成及び処理内容について 「【0031】 動き補償予測フレームメモリ12はループフィルタ部11のフィルタ処理後の局所復号画像を格納する記録媒体である。 可変長符号化部13は変換・量子化部7から出力された圧縮データと、符号化制御部2の出力信号(最大符号化ブロック内のブロック分割情報、符号化モード、予測差分符号化パラメータ、イントラ予測パラメータ又はインター予測パラメータ)と、動き補償予測部5から出力された動きベクトル(符号化モードがインター符号化モードである場合)と、ループフィルタ部11から出力されたフィルタパラメータとを可変長符号化してビットストリームを生成する処理を実施する。なお、可変長符号化部13は可変長符号化手段を構成している。」 「【0094】 次に、フィルタパラメータの可変長符号化処理の詳細について説明する。 可変長符号化部13では、ループフィルタ部11から出力されたフィルタパラメータを可変長符号化する。 フィルタパラメータとしては、画素適応オフセット処理に必要なパラメータとして、ピクチャレベルの画素適応オフセット処理の有無情報と、その有無情報が“処理有り”の場合は、最大符号化ブロック単位のクラス分類手法を示すインデックスと、最大符号化ブロック単位の各クラスのオフセット値とがある。 また、適応フィルタ処理に必要なパラメータとして、ピクチャレベルの適応フィルタ処理の有無情報と、その有無情報が“処理有り”の場合は、クラス数、最大符号化ブロック単位の使用するフィルタを示すクラス番号と、各クラス番号に対応するフィルタ係数がある。」 2 発明特定事項Aに関する検討 上記1のアのとおり、具体的には、当初明細書等には、【0027】に次の事項が記載されている。 (ア) ループフィルタ部11は、所定のフィルタ処理を実施すること。 (イ) ループフィルタ部11は、デブロッキングフィルタ処理、画素適応オフセット処理、適応フィルタ処理などを行うこと。 (ウ) ループフィルタ部11は、(イ)のフィルタ処理の1つのフィルタ処理を行うように構成してもよいこと。 (エ) ループフィルタ部11は、図10に示すように、2つ以上のフィルタ処理を行うように構成してもよいこと。そして、図10には、デブロッキングフィルタ処理、画素適応オフセット処理、及び適応フィルタ処理が矢印で結ばれて、ループフィルタ部11内に描かれていることが見てとれる。 上記1のアのとおり、当初明細書等には、【0030】に次の事項が記載されている。 (オ) 画素適応オフセット処理と適応フィルタ処理を共に用いる手法として、最大符号化ブロック単位に画素適応オフセット処理と適応フィルタ処理の何れか一方を最適選択するようにしてもよいこと。 また、上記1のイ、オのとおり、当初明細書等には、【0078】、【0092】に、上記(ア)?(エ)と同様の事項が記載されている。 さらに、上記1のアのとおり、当初明細書等には、【0029】に次の事項が記載されている。 (カ) 画素適応オフセット処理及び適応フィルタ処理を行う場合には、映像信号をループフィルタ部11で参照する必要があるため、映像信号がループフィルタ部11に入力されるように動画像符号化装置を変更する必要があること。 上記(エ)によれば、ループフィルタ部11が行うフィルタ処理について、2つ以上の処理とすること、即ち「複数のフィルタ処理」とすることは記載されているといえる。 上記(オ)及び(カ)によれば、ループフィルタ部11が行う複数種類のフィルタ処理について、デブロッキングフィルタ処理及び画素適応オフセット処理を行うこと、は記載されているといえる。 そうすると、発明特定事項Aについては、当初明細書等に記載されているということができる。 3 発明特定事項B、Cに関する検討 上記1のウのとおり、当初明細書等には、【0080】に次の事項が記載されている。 (ア) 画素適応オフセット処理は、ピクチャレベルの画素適応オフセット処理の有無情報と、この有無情報が“有り”を示す場合は、最大符号化ブロック単位のクラス分類手法を示すインデックス、最大符号化ブロック単位の各クラスのオフセット値をフィルタパラメータの一部として可変長符号化部13に出力すること。 上記1のエのとおり、当初明細書等には、【0029】に次の事項が記載されている。 (イ) 適応フィルタ処理は、最大符号化ブロック単位にクラス分類(グループ分類)を行い、各クラス(グループ)に属する領域(局所復号画像)毎に、フィルタを設計し、そのフィルタを用いて、当該局所復号画像のフィルタ処理を実施し、クラス(グループ)の数、各クラス(グループ)に属する局所復号画像のフィルタ、クラス番号(フィルタ番号)をフィルタパラメータの一部として可変長符号化部13に出力すること。 上記1のエのとおり、当初明細書等には、【0081】?【0088】の記載を前提とした【0090】に次の事項が記載されている。 (ウ) 適応フィルタ処理について、最大符号化ブロックを分割した符号化ブロック単位にフィルタ処理を実施するか否かを選択するようにしてもよいこと。 (エ) 適応フィルタ処理についての本符号化ブロック単位のフィルタのオン・オフ処理は、画素適応オフセット処理に導入しても、適応フィルタ処理に導入した場合と同様の効果が得られること。 上記(ア)、(イ)から、画素適応オフセット処理と適応フィルタ処理について、最大符号化ブロック単位にフィルタ処理を実施すること、 上記(ウ)、(エ)から、画素適応オフセット処理と適応フィルタ処理について、最大符号化ブロックを分割した符号化ブロック単位にフィルタ処理を実施するか否かを選択するようにしてもよいこと、 は記載されているといえる。 しかしながら、「最大符号化ブロックから分割された符号化ブロックに対してデブロッキングフィルタ処理をしない」こと、及び「最大符号化ブロック単位でデブロッキングフィルタ処理をする」こと、については、記載も示唆もない。 そうすると、発明特定事項B、Cについては、当初明細書等には記載も示唆もないといえる。 したがって、発明特定事項B、Cに関して、当初明細書等には記載も示唆もなく、当初明細書等の記載から自明に導き出せる事項であるともいえず、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。 4 発明特定事項Dに関する検討 上記1のウのとおり、当初明細書等には、【0080】に次の事項が記載されている。 (ア) 画素適応オフセット処理は、ピクチャレベルの画素適応オフセット処理の有無情報と、この有無情報が“有り”を示す場合は、最大符号化ブロック単位のクラス分類手法を示すインデックス、最大符号化ブロック単位の各クラスのオフセット値をフィルタパラメータの一部として可変長符号化部13に出力すること。 上記1のエのとおり、当初明細書等には、【0087】に次の事項が記載されている。 (イ) 適応フィルタ処理は、ピクチャレベルの適応フィルタ処理の有無情報と、この有無情報が“有り”を示す場合は、クラス数、“フィルタ処理なし”を含む最大符号化ブロック単位のクラス番号、各クラスのフィルタ係数をフィルタパラメータの一部として可変長符号化部13に出力すること。 さらに、上記1のエ、オのとおり、当初明細書等には、【0081】?【0088】の記載を前提とした【0090】、【0092】に次の事項が記載されている。 (ウ) 適応フィルタ処理について、最大符号化ブロックを分割した符号化ブロック単位にフィルタ処理を実施するか否かを選択するようにしてもよく、本処理を行う場合には、符号化ブロック単位のフィルタ処理の有無情報も符号化する必要があること。 (エ) 符号化ブロック単位のフィルタのオン・オフ処理は画素適応オフセット処理に導入しても適応フィルタ処理について導入した場合と同様の効果が得られること。 (オ) 最大符号化ブロック単位の画素適応オフセット処理を行うか適応フィルタ処理を行うかの選択情報をフィルタパラメータの一部として可変長符号化部13に出力して符号化すること。 また、上記1のカのとおり、当初明細書等の【0094】には、次の事項が記載されている。 (カ) 可変長符号化部13では、ループフィルタ部11から出力されたフィルタパラメータを可変長符号化すること。 上記(ウ)、(オ)及び(カ)から、画素適応オフセット処理と適応フィルタ処理について、最大符号化ブロックを分割した符号化ブロック単位にフィルタ処理の有無情報を符号化することは記載されているといえる。 よって、当初明細書等には、画素適応オフセット処理と適応フィルタ処理の複数種類のフィルタ処理の可否情報を、符号化手段が符号化するフィルタ処理の可否情報とすることが記載されているといえる。 しかしながら、上記(ア)?(カ)からは、複数種類のフィルタ処理であるデブロッキングフィルタ処理と画素適応オフセット処理との可否情報を、符号化手段が符号化するフィルタ処理の可否情報とすることは、記載も示唆もない。 さらに、複数種類のフィルタ処理であるデブロッキングフィルタ処理と画素適応オフセット処理との可否情報が、最大サイズの符号化ブロックから分割された符号化ブロックに対する情報であることについても、記載も示唆もない。 そうすると、発明特定事項Dは、当初明細書等には記載も示唆もないといえる。 したがって、発明特定事項Dは、当初明細書等の記載から自明に導き出せる事項であるともいえず、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。 5 まとめ 以上の通りであるから,発明特定事項A?Dを具備するようにする補正を含む本件補正は,本願出願時の明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 6 請求人の主張について 請求人は、平成30年6月8日付け審判請求書の「3.本願発明が特許査定されるべき理由」の「3.1. 理由1(補正要件違反:新規事項の追加)および理由2(サポート要件違反)に関して」において、以下のとおり主張している。 「平成29年11月24日付け提出の手続補正書による補正後の「最大サイズの符号化ブロックから分割された符号化ブロックに対する複数種類のフィルタ処理であるデブロッキングフィルタ処理と画素適応オフセット処理との可否情報」(請求項1-2)、「最大サイズの符号化ブロックから分割された符号化ブロックのうち複数種類のフィルタ処理であるデブロッキングフィルタ処理と画素適応オフセット処理とをしない符号化ブロックを除いた上記最大サイズの符号化ブロックに対して上記複数種類のフィルタ処理を行う」旨の記載(請求項3-5)、「最大サイズの符号化ブロックから分割された符号化ブロックに対する上記複数種類のフィルタ処理の可否情報」といった記載(請求項3-5)に関し、これは、「最大符号化ブロックを分割した」「符号化ブロック単位のフィルタのオン・オフ処理」(段落[0090])に関する技術的事項について、ループフィルタ部がデブロッキングフィルタ処理と画素適応オフセット処理といった複数種類のフィルタ処理実施する場合のフィルタ処理のオンオフを示す可否情報であることを示しています。 これに関し、出願当初明細書には、符号化側において、「ループフィルタ部11は、上記のデブロッキングフィルタ処理、画素適応オフセット処理、適応フィルタ処理の中の」「2つ以上のフィルタ処理を行う」(段落[0078])と記載される通り、ループフィルタ部11がデブロッキングフィルタ処理と画素適応オフセット処理といった複数種類のフィルタ処理を実施する構成が示されております。 続いて、最大符号化ブロック単位に最適なフィルタ処理を決定する構成の一例として適応フィルタの例(段落[0080]から段落[0089])を示しつつ、「最大符号化ブロック単位に最適なフィルタ処理を決定している」場合には「最大符号化ブロックよりも小さい領域単位で考えると、フィルタ処理によって符号化対象画像と局所復号画像との間の輝度値の二乗誤差和が増加してしまう場合が存在する可能性がある。」(段落[0090])という課題があることを示し、この課題を解決するために「図15に示すように、最大符号化ブロックを分割した符号化ブロック単位にフィルタ処理を実施するか否かを選択する」(段落[0090])こと、および、「本処理を行う場合には、符号化ブロック単位のフィルタ処理の有無情報もフィルタパラメータとして符号化する」(段落[0090])こと、といった手段が示され、これにより、「符号化対象画像と局所復号画像との間の輝度値の二乗誤差が増加してしまう画素数を減らすことができるため、高精度なフィルタ処理を実現することができる」(段落[0090])といった効果を奏することが示されています。このような「符号化ブロック単位のフィルタのオン・オフ処理は、画素適応オフセット処理に導入しても、適応フィルタ処理に導入した場合と同様の効果が得られる」(段落[0090])との記載からも明らかなように、画素適応オフセット処理とデブロッキングフィルタ処理のフィルタのオン・オフ処理に導入しても、適応フィルタ処理に導入した場合と同様の効果が得られます。 そして、復号側においては、「ループフィルタ部38は、上記のデブロッキングフィルタ処理、画素適応オフセット処理、適応フィルタ処理の中の1つの処理を行うように構成してもよいし、図12に示すように、2つ以上のフィルタ処理を行うように構成してもよいが、動画像符号化装置のループフィルタ部11で行われるフィルタ処理と同じフィルタ処理を行うように構成しなくてはならない。」(段落[0111])と記載され、符号化側と同じ技術思想で構成される発明が示されています。 してみると、本願の各請求項に記載のフィルタ処理の可否情報および可否情報を用いたフィルタ処理に関する上記発明特定事項は、当初明細書、特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、記載されているに等しい事項を特定する補正であって、新たな技術的事項を導入する補正ではなく、当初明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした補正であると思料いたします。 よって、理由1には該当しないものと思料いたします。 (中略) なお、これに対し、拒絶査定謄本においては、「段落[0080]から段落[0090]に開示されているのは、画素適応オフセット処理に適応フィルタ処理のオン・オフ処理を導入することであり、デブロッキングフィルタ処理のフィルタのオン・オフ処理に導入については一切記載されていない。そして、適応フィルタ処理とデブロッキングフィルタ処理は全く異なる技術であるから、段落[0078]の記載があるとしても、適応フィルタ処理に代えてデブロッキングフィルタ処理に導入することは、当初明細書、特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。」と具体的に記載されております。 しかしながら、これに対し、本願の当初明細書の段落[0090]の全体の記載からみれば、本願の出願当初明細書等の段落[0090]等に開示されているのは、フィルタ処理を決定する単位を最大符号化ブロック単位としている場合における「最大符号化ブロックよりも小さい領域単位で考えると、フィルタ処理によって符号化対象画像と局所復号画像との間の輝度値の二乗誤差和が増加してしまう」といった、フィルタ処理を決定する単位に関する問題点を解決することを課題とし、この課題を解決するために最大符号化ブロックを分割したブロック単位でフィルタ処理の可否を決めるといった技術思想であり、この技術思想がフィルタ処理の種類によって限定されることではないことは明らかであるため、段落[0078]に示すデブロッキングフィルタ処理と画素適応オフセット処理とを行うフィルタ処理において、「最大サイズの符号化ブロックから分割された符号化ブロックに対する複数種類のフィルタ処理であるデブロッキングフィルタ処理と画素適応オフセット処理との可否情報」を用いた処理を行う発明は、本願に係る拒絶理由通知書および拒絶査定謄本における指摘によらず、当初明細書、特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であって、新たな技術的事項を導入するものではありません。」 上記主張は、当初明細書等の段落【0078】、【0080】?【0090】、【0111】の記載を基にしているものの、上記箇所、特に【0090】に記載されているのは、「本符号化ブロック単位のフィルタのオン・オフ処理は、画素適応オフセット処理に導入しても、適応フィルタ処理に導入した場合と同様の効果が得られる」という事項である。 この事項から、当初明細書等には、画素適応オフセット処理と適応フィルタ処理については最大サイズの符号化ブロックについてフィルタ処理を行うこと、最大サイズの符号化ブロックから分割された符号化ブロックのうち、画素適応オフセット処理と適応フィルタ処理についてはフィルタのオン・オフを設定すること、がそれぞれ記載されているとはいえる。 しかしながら、当初明細書等には、デブロッキングフィルタ処理を行うかどうかを決定する単位について何ら記載がなく、「最大サイズの符号化ブロックから分割された符号化ブロックに対して画素適応オフセット処理とデブロッキングフィルタ処理のフィルタのオン・オフ処理を導入する」ことについても何ら記載がない。 さらに、デブロッキングフィルタ処理は、当初明細書等の段落【0078】に記載されるように、「直交変換ブロックの境界や予測ブロックの境界に発生する歪みを軽減するフィルタ」であるから、最大サイズの符号化ブロックに対してデブロッキングフィルタ処理を行っても、最大サイズの符号化ブロックの内部に存在する直交変換ブロックの境界や予測ブロックの境界に発生する歪みを軽減することに寄与しない、すなわち、本来の課題解決に寄与しない、と考えられる。 そうすると、デブロッキングフィルタ処理を最大サイズの符号化ブロックに対して行うことについての明示的な記載がない当初明細書等からは、本来の課題解決に寄与しないと考えられる当該処理を行うことは自明に導き出せるとはいえない。 これらから、最大サイズの符号化ブロックから分割された符号化ブロックに対して画素適応オフセット処理とデブロッキングフィルタ処理のフィルタのオン・オフ処理を導入することも、デブロッキングフィルタ処理とをしない符号化ブロックを除いた最大サイズの符号化ブロックに対してデブロッキングフィルタ処理を行うことも、当初明細書等の記載がなく、かつ当初明細書等の記載から自明に導き出せるとはいえない。 結局、上記2?4において検討したとおり、発明特定事項A?Dについて、当初明細書等には記載も示唆もなく、明細書等の記載から自明に導き出せる事項であるともいえない。 以上のとおり、審判請求人の主張は採用できない。 第5 むすび 以上のとおり、平成29年11月24日付けでした手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとの理由は解消していない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-09-13 |
結審通知日 | 2019-09-17 |
審決日 | 2019-09-30 |
出願番号 | 特願2017-7298(P2017-7298) |
審決分類 |
P
1
8・
55-
Z
(H04N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岩井 健二 |
特許庁審判長 |
清水 正一 |
特許庁審判官 |
川崎 優 鳥居 稔 |
発明の名称 | 画像復号装置、画像復号方法、画像符号化装置、画像符号化方法及び符号化データ |
代理人 | 中島 成 |
代理人 | 濱田 初音 |
代理人 | 田澤 英昭 |
代理人 | 坂元 辰哉 |
代理人 | 井上 和真 |
代理人 | 辻岡 将昭 |