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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1357160
審判番号 不服2018-13527  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-10 
確定日 2019-12-03 
事件の表示 特願2017-181614「Endo180産生促進剤」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月11日出願公開、特開2019- 55924、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年9月21日の出願であって、平成30年4月20日付けで拒絶理由通知がされ、同年6月28日付けで手続補正書及び意見書が提出され、同年7月6日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年10月10日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同年11月16日付けで審判請求書についての手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願の請求項1に係る発明は、以下の引用文献1又は引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
<引用文献>
1.特開2002-370962号公報
2.特開2001-97873号公報

第3 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成30年6月28日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
藤茶からの抽出物を有効成分とすることを特徴とするEndo180産生促進剤。」

第4 引用文献1に基づく新規性の判断について
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、以下の記載がある。(下線は、合議体が付した。以下、この審決中において同様である。)
「【請求項3】 藤茶抽出物を有効成分として含有することを特徴とするコラゲナーゼ阻害剤。」

「【請求項7】 請求項2記載のエラスターゼ阻害剤および/または請求項3記載のコラゲナーゼ阻害剤を配合したことを特徴とする皮膚老化防止・改善用化粧料。」

「【0007】このように、皮膚の老化に伴う変化、即ち、シワ、タルミ、くすみ、きめの消失、弾力性の低下等には、コラーゲン、エラスチン等の真皮細胞外マトリックス成分の減少、変性が関与している。
【0008】近年、これらの変化を誘導する因子として、特にマトリックス系プロテアーゼの関与が指摘されている。マトリックス系プロテアーゼの中でも、コラゲナーゼ、即ちMMP-1(マトリックスメタロプロテアーゼ)は、皮膚の真皮細胞外マトリックスの主な構成成分であるタイプI,IIIコラーゲンを分解する酵素として知られるが、その発現は紫外線の照射により大きく増加し、紫外線によるコラーゲンの減少・変性の一因となり、皮膚のシワの形成等の大きな要因となることが考えられる。従って、コラーゲン産生の促進や、コラゲナーゼ活性の阻害は、皮膚の老化を防止・改善する上で重要である。」

「【0030】本発明のコラゲナーゼ阻害剤は、コラゲナーゼの活性を阻害することができる。本発明のコラゲナーゼ阻害剤によれば、コラゲナーゼ阻害作用を通じてコラゲナーゼによるコラーゲンの減少、変性等を抑制し、コラーゲンの減少、変性等によって生じる皮膚の老化を防止及び/又は改善することができる。」

「【0055】
【実施例】以下に実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
〔製造例1〕藤茶枝葉部各500gを水、50%エタノール、エタノールそれぞれ5リットルで80℃にて4時間抽出した。その後、ろ過して得られた抽出液を減圧下に濃縮して、藤茶枝葉部からの抽出物をそれぞれ97g、130g、79gを得た。」

「【0071】〔試験例3〕コラゲナーゼ阻害試験
製造例1の藤茶抽出物20mgを0.1mol/Lトリス塩酸緩衝液(20mmol/L塩化カルシウムおよび5%DMSO含有)(pH7.1)5mlに溶解して得た試料溶液50μL、コラゲナーゼ溶液50μLおよび基質溶液400μLを混合し、37℃で30分間インキュベーションした。次いで25mmol/Lクエン酸溶液1mLで反応を停止し、酢酸エチル5mLで抽出した。得られた抽出液について、波長320nmの吸光度(対照液:酢酸エチル)を測定した(以下、この吸光度を「酵素溶液添加・試料溶液添加時の吸光度」という)。なお、コラゲナーゼ溶液としては、シグマ社のコラゲナーゼTypeIV5mgを上記トリス塩酸緩衝液1mLに溶解し、50倍に希釈したものを使用した。また、基質溶液としては、上記トリス塩酸緩衝液にBACHEM Fenichemikalien AG社Pz-ペプチドを濃度が0.5mol/Lになるように溶解して使用した。
【0072】同様の酵素反応と吸光度測定を、試料溶液の代わりに試料溶液と等量のトリス塩酸緩衝液を添加して行なった(以下、この吸光度を「酵素溶液添加・試料溶液無添加時の吸光度」という)。また、同様の酵素反応と吸光度測定を、コラゲナーゼ溶液の代わりにトリス塩酸緩衝液を添加して行なった(以下、この吸光度を「酵素溶液無添加・試料溶液添加時の吸光度」という)。さらに、同様の酵素反応と吸光度測定を、試料溶液の代わりに試料溶液と等量の溶媒のみを添加するとともに、コラゲナーゼ溶液の代わりにトリス塩酸緩衝液を添加して行なった(以下、この吸光度を「酵素溶液無添加・試料溶液無添加時の吸光度」という)。次式によりコラゲナーゼ活性阻害率(%)を求めた。
【0073】
【式3】コラゲナーゼ活性阻害率(%)={1-(A-B)/(C-D)}×100
【0074】なお、式3中、Aは「酵素溶液添加・試料溶液添加時の吸光度」、Bは「酵素溶液無添加・試料溶液添加時の吸光度」、Cは「酵素溶液添加・試料溶液無添加時の吸光度」、Dは「酵素溶液無添加・試料溶液無添加時の吸光度」を表す。
【0075】試料濃度を段階的に減少させてコラゲナーゼ活性阻害率の測定を行い、コラゲナーゼの活性を50%阻害する試料濃度IC_(50)(ppm;μg/mL)を内挿法により求めた。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】

【0077】表3に示す結果より、藤茶枝葉部からの抽出物がコラゲナーゼ阻害活性を有することが確認された。特に、藤茶枝葉部からの50%エタノール抽出物が優れたエラスターゼ(合議体注;この「エラスターゼ」は、「コラゲナーゼ」の誤記と認める。)阻害活性を有することが確認された。」
2.引用発明
上記1.の引用文献1の記載、特に、【0030】の「コラゲナーゼ阻害作用を通じてコラゲナーゼによるコラーゲンの減少、変性等を抑制し、コラーゲンの減少、変性等によって生じる皮膚の老化を防止及び/又は改善することができる」との記載、及び、藤茶抽出物についてのコラゲナーゼ阻害試験の結果(【0071】?【0077】の試験例3、特に、【0076】の表3)の記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「藤茶抽出物を有効成分とする、コラゲナーゼ阻害作用を通じてコラーゲンの減少、変性によって生じる皮膚の老化を防止及び/又は改善するための剤。」

3.対比・判断
本願発明と引用発明1とを対比すると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
藤茶からの抽出物を有効成分とする剤。
<相違点1>
本願発明の剤は、「Endo180産生促進剤」であるのに対し、引用発明1は、「コラゲナーゼ阻害作用を通じてコラーゲンの減少、変性によって生じる皮膚の老化を防止及び/又は改善するための剤」である点。

上記相違点1について検討する。
まず、引用文献1には、Endo180産生促進作用やEndo180産生促進剤についての記載はなく、引用文献1の記載からは、本願発明の「Endo180産生促進剤」という用途を導き出すことはできない。
次に、本願の出願時の技術常識を考慮して、「Endo180産生促進剤」という用途が、引用発明1の「コラゲナーゼ阻害作用」あるいは「コラゲナーゼ阻害作用を通じてコラーゲンの減少、変性によって生じる皮膚の老化を防止及び/又は改善するための剤」という用途から導き出せるかについて検討する。

引用文献1の【0006】?【0008】にも記載のとおり、本願の出願時、コラーゲンが皮膚の線維芽細胞により合成される真皮の構成成分であり、皮膚の弾力性の保持に役立つこと、シワ等の皮膚の老化にコラーゲンの減少・変性が関与していること、「コラゲナーゼ」はコラーゲンを分解する酵素であり、紫外線の照射により増加し、紫外線によるコラーゲンの減少・変性の一因となり、皮膚のシワの形成等の皮膚老化の大きな要因となることが一般に知られていた。また、「Endo180」は皮膚の線維芽細胞に発現するコラーゲンレセプターであり、紫外線への暴露によって誘導されたコラゲナーゼの作用によって生じた断片化コラーゲンの細胞内への取り込みに関与しており、紫外線への曝露によって光老化した皮膚では、線維芽細胞におけるEndo180発現が低下し、断片化コラーゲンの取り込みが抑えられ、正常なコラーゲン線維構造の再生も阻害されるところ、Endo180の産生を促進することで断片化コラーゲンの取り込みを促進し、正常なコラーゲン線維構造の再生を促すこと、Endo180の産生促進により、シワの形成等の皮膚の光老化を抑制することが期待されていることは当業者に広く知られている事項であった(例えば、特開2017-128538号公報(平成29年7月27日公開)の【0002】?【0009】(原査定の拒絶理由通知において指摘された引用文献A)、富士フイルム研究報告 第62号(平成29年3月27日発行)の71?75頁、J.Dermatol.Sci.,2013年,vol.70,42?48頁(本願明細書に記載の非特許文献2)、特に、要約、46頁左欄2段落?47頁右欄1段落、国際公開第2013/189703号、特に、図1?4、4?6頁の図1?4の説明、7頁の3段落)。
つまり、本願の出願時、「コラゲナーゼ阻害作用」と「Endo180産生促進作用」とは、異なった作用であることが知られていたのであり、「コラゲナーゼ阻害作用」が奏されれば、「Endo180産生促進作用」も奏されるといった技術常識が存在したとは認められないし、また、「コラゲナーゼ阻害作用を通じてコラーゲンの減少、変性によって生じる皮膚の老化を防止及び/又は改善するための剤」であれば、「Endo180産生促進剤」として機能するとの技術常識が存在したとも認められない。
そうすると、本願の出願時の技術常識を考慮しても、本願発明の「Endo180産生促進剤」という用途を引用発明1から導き出すことはできないから、上記相違点は実質的な相違点であり、本願発明について、引用文献1に記載されているに等しい発明であるとはいえない。

よって、本願発明について、引用発明1、つまり、引用文献1に記載された発明であるということはできない。

なお、拒絶査定においては、「本願明細書([0002],[0006],[0042]参照)に記載されているように、Endo180産生促進剤の用いられる用途は紫外線による光老化皮膚やこれによるシワ等の形成を抑えることであるので、請求項1の藤茶抽出物をEndo180産生促進剤とする発明と、引用文献1,2の藤茶抽出物のコラゲナーゼ阻害や活性酸素消去作用により紫外線によるシワ等の予防又は改善する発明は、使用される用途において区別できない発明である。」、「本願明細書([0042])には、『エンドサイトーシスによる断片化コラーゲンの取り込みを促進して正常なコラーゲン線維構造の再生を促し、シワの形成等といった皮膚の光老化症状を予防、治療または改善することができる。』と記載されているように『シワの形成等といった皮膚の光老化症状を予防、治療または改善すること」が本願発明の用途であって、『エンドサイトーシスによる断片化コラーゲンの取り込みを促進して正常なコラーゲン線維構造の再生を促し』の部分は、前記予防、治療または改善することの作用機序を表現しているに過ぎない。」と指摘されているので、念のため検討する。
上述のとおり、本願の出願時の技術常識を考慮しても、本願発明の「Endo180産生促進剤」という用途を引用発明1から導き出すことはできないのであり、本願発明の「Endo180産生促進剤」と引用発明1の「コラゲナーゼ阻害作用を通じてコラーゲンの減少、変性によって生じる皮膚の老化を防止及び/又は改善するための剤」とは、用途が異なるものである。
そうすると、本願発明の「Endo180産生促進剤」がシワ等の皮膚の光老化症状の予防、治療または改善効果が期待できるものであり、光により影響を受ける皮膚に適用する場合に、引用発明1の「コラゲナーゼ阻害作用を通じてコラーゲンの減少、変性によって生じる皮膚の老化を防止及び/又は改善するための剤」と、藤茶からの抽出物を適用する対象部位や適用により期待される効果の点で重複することがあるとしても、そのことをもって、本願発明について、引用文献1に記載された発明であるとすることはできない。

第5 引用文献2に基づく新規性の判断について
1.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、以下の記載がある。
「【請求項1】 活性酸素消去作用を有する藤茶枝葉部抽出物を有効成分として含有することを特徴とする活性酸素消去剤。
・・・
【請求項3】 活性酸素消去作用を有する藤茶枝葉部抽出物を配合してなる皮膚化粧料。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、日焼けなどの外的刺激による皮膚の荒れ、シワ、タルミ、くすみ、色素の異常沈着、アレルギー等の予防または改善に有効な皮膚化粧料および浴用剤、ならびに、皮膚化粧料構成成分として好適な活性酸素消去剤および血小板凝集抑制剤に関するものである。」

「【0012】活性酸素消去作用や血小板凝集抑制作用を有する籐茶枝葉部抽出物は、皮膚の好ましくない変化を防ぐための皮膚化粧料や浴用剤の構成成分として有用なものである。すなわち、皮膚は紫外線等の環境因子の刺激を直接受けるため活性酸素が発生しやすい器官であるから、何らかの理由により生体の活性酸素消去作用が十分に働かないと・・・スーパーオキサイドアニオン(O_(2)^(-))、過酸化水素(H_(2)O_(2))、ヒドロキシラジカル(HO・)、一重項酸素(^(1)O_(2))等、活性酸素種の濃度が上昇し、それが原因でメラニンが異常生成してシミが生じたり、シワ、タルミ、肌荒れ等を生じたりする。・・・
【0013】これら皮膚に現れる老化現象や障害は、日常的に使われる皮膚化粧料や浴用剤に活性酸素消去作用および血小板凝集抑制作用を有する籐茶枝葉部抽出物を配合しておくことにより効果的に予防され、あるいは改善されるのである。」

また、【0021】?【0026】には、種々の抽出溶媒を用いた藤茶枝葉部からの抽出例が記載されており、そのうち、抽出例1?3として以下の記載がある。
「【0021】
【実施例】抽出例1
乾燥した藤茶枝葉部の粗砕物500gを水5リットルに投入し、還流加熱下に4時間抽出した。その後、濾過して得られた抽出液を減圧下に濃縮してペースト状物を得、それを凍結乾燥して、粉末状抽出物97gを得た。
【0022】抽出例2
乾燥した藤茶枝葉部の粗砕物500gを50容量%含水エタノール5リットルに投入し、還流加熱下に4時間抽出した。その後、濾過して得られた抽出液を減圧下に濃縮してペースト状物を得、それを凍結乾燥して、粉末状抽出物130gを得た。
【0023】抽出例3
乾燥した藤茶枝葉部の粗砕物500gをエタノール5リットルに投入し、還流加熱下に4時間抽出した。その後、濾過して得られた抽出液を減圧下に濃縮してペースト状物を得、それを凍結乾燥して、粉末状抽出物79gを得た。」

そして、【0027】?【0037】には、試験例1として、水抽出例1?3の藤茶枝葉部抽出物及び対照例としてのアンペロプシン(合議体注:これは、【0011】に記載のとおり、一般に活性酸素消去作用があることが知られているフラボノイドに属する化合物である。)についての、スーパーオキサイド消去作用、過酸化水素消去作用、及びDPPH(ジフェニルピクリルヒドロラジカル)によるラジカル消去作用の試験方法、並びに、その結果が記載され、特に、【0037】には、【表1】として、以下の記載がある。
「【0037】
【表1】



さらに、【0042】?【0053】には、実施例1として、抽出例2で得られた藤茶枝葉部抽出物を配合した乳液(皮膚化粧料)と藤茶枝葉部抽出物を配合しないほかは同じ原料から同様にして製造された比較例乳液を18?40歳の女性であって、後述の判定1の評価基準で評価1または2に当たる肌荒れと判定された者20名を被験者として塗布試験を行った結果が記載されており、特に、【0044】?【0047】には、荒れ肌改善効果(判定1)の試験とその結果が、また、【0052】?【0053】には、官能評価(判定3)の試験とその結果について以下のとおり記載されている。

「【0044】〔判定1・荒れ肌改善効果〕塗布試験終了後、シルフロ(FLEXICL DEVELOPMENTS LTD製)によるレプリカ法を用いて顔の肌のレプリカをとり、50倍のマイクロスコープで皮紋の状態および角質剥離状態を観察し、下記評価基準で肌の状態を判定した。
【0045】
評点 評価
1 角層の剥離が非常に多い。皮溝・皮丘が消失している。(肌荒れ状態)
2 角層の剥離が多い。皮溝・皮丘が明瞭でない。(肌荒れ状態)
3 角層が若干剥離している。皮溝・皮丘は認められるが平坦。(普通肌)
4 角層の剥離が僅かに認められる。皮溝・皮丘が鮮明。(比較的美しい肌)
5 角層の剥離が殆ど無い。皮溝・皮丘が鮮明で整っている。(美しい肌)
【0046】結果は表3に示したとおりで、実施例乳液を塗布した部分は比較例乳液を塗布した部分に比べて顕著に肌荒れが改善されていた。
【0047】
【表3】


・・・
【0052】〔判定3・官能評価〕使用感と肌への効果について、実施例品と比較例品を比較した場合の優劣を被験者全員に質問した。回答の集計結果は表5のとおりで、官能評価によっても前記機器による評価結果と合致する効果と優れた使用感が確認された。
【0053】
【表5】



2.引用発明
引用文献2の上記1.の記載、特に、請求項1及び3、【0037】の【表1】、並びに、【0053】の【表5】のシワの改善の評価項目の欄の記載から、藤茶枝葉部抽出物は活性酸素消去作用を有しており、乳液(皮膚化粧料)の成分として配合される、シワの改善に有用な成分(つまり、有効成分)であることが理解できるから、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「活性酸素消去作用を有する藤茶枝葉部抽出物を有効成分として配合してなるシワ改善のための皮膚化粧料。」

3.対比・判断
本願発明と引用発明2とを対比すると、引用発明2における「活性酸素消去作用を有する藤茶枝葉部抽出物」は本願発明の「藤茶からの抽出物」に相当するから、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
藤茶からの抽出物である有効成分。
<相違点2>
藤茶からの抽出物である有効成分が、本願発明では、「Endo180産生促進剤」という用途に用いられるのに対し、引用発明2では、「シワ改善のための皮膚化粧料」の「配合(有効成分)」という用途に用いられる点。

上記相違点2について検討する。
まず、引用文献2には、Endo180産生促進作用やEndo180産生促進剤についての記載はなく、引用文献2の記載からは、本願発明の「Endo180産生促進剤」という用途を導き出すことはできない。
次に、本願の出願時の技術常識を考慮して、「Endo180産生促進剤」という用途が、引用発明2の「活性酸素消去作用」あるいは「シワ改善のための皮膚化粧料」の「配合(有効成分)」という用途から導き出せるかについて検討すると、まず、本願の出願時、「活性酸素消去作用」が奏されれば、「Endo180産生促進作用」も奏されるといった技術常識が存在したとは認められない。
また、上記第4の3.で説示した技術常識に示されるように、シワにコラーゲンの減少・変性が関与していることが一般に知られており、また、「Endo180」は光老化により断片化したコラーゲンの細胞内への取り込みやコラーゲンの再生に関与しており、Endo180の産生を促進することでシワの改善が期待できることは本願の出願前から当業者に知られていたものの、シワを改善する機能を有する成分であれば、「Endo180産生促進剤」として機能することが、本願の出願時の技術常識であったとは認められない。
そうすると、本願の出願時の技術常識を考慮しても、本願発明の「Endo180産生促進剤」という用途を引用発明2から導き出すことはできないから、上記相違点2は実質的な相違点であり、本願発明について、引用文献2に記載されているに等しい発明であるとはいえない。

よって、本願発明について、引用発明2、つまり、引用文献2に記載された発明であるということはできない。

なお、拒絶査定における指摘に関しては、上記第4の3.のなお書きにおいて指摘したとおり、本願発明は、「Endo180産生促進剤」の発明であって、本願発明において「藤茶からの抽出物」は、あくまで「Endo180産生促進」の目的のために用いられるものである。そして、本願発明の「Endo180産生促進剤」が、シワの改善のための皮膚化粧料の有効成分として配合可能であるとしても、本願発明は、「Endo180産生促進剤」の発明であって、「シワの改善のための皮膚化粧料」の発明ではない。また、本願発明の「Endo180産生促進剤」が、「シワの改善のための皮膚化粧料」の配合成分として具体的に適用される際に、その使用形態において引用発明2の「シワ改善のための皮膚化粧料」と区別することができないことがあるとしても、そのことをもって、本願発明について、引用文献2に記載された発明であるとすることはできない。

第6 原査定のなお書きで指摘されている引用文献3?5について
原査定においては、なお書きで、本願発明が、中国特許出願公開第1104854号明細書(引用文献3)、特開2002-173424号公報(引用文献4)あるいは特開2014-152175号公報(引用文献5)に記載された発明である旨の指摘がされているので、念のため検討する。

引用文献3の明細書の3頁3?7行には、茅岩莓(本願発明の「藤茶」に相当する。)は、抗炎症試験で明らかな抗炎症作用を有し、関節炎、リウマチに対して明らかな予防作用を有する旨が記載されているし、引用文献4には、フラバノン誘導体およびフラボノリグナン類を有効成分として含有する、慢性関節リウマチ等のマトリックスメタロプロテアーゼ活性の上昇に起因する疾患の治療剤および/または予防剤であるマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤が記載され(請求項1、5、6)、フラバノン誘導体またはフラボノリグナン類を有効成分として含有する植物として、藤茶が挙げられることが記載されている。さらに、引用文献5には、ミリセチンが、コラゲナーゼ活性を有するカテプシンK(【0002】)の上昇を抑制し、カテプシンKの上昇に起因するコラーゲン分解を抑制する作用を有すること(【0104】?【0114】、【0137】、特に、【0109】、【0110】、【0114】及び【0137】)、並びに、マウス関節炎に対する治療効果を有すること(【0130】?【0137】)が記載され、ミリセチンが藤茶から抽出できることも記載されている(【0028】)。

しかしながら、引用文献3?5のいずれにも、藤茶からの抽出物がEndo180産生促進作用を有し、「Endo180産生促進剤」という用途に使用できることについての記載や示唆はないし、本願の出願時の技術常識を考慮して、引用文献3に記載の「抗炎症作用」や、「関節炎、リウマチに対する予防作用」、引用文献4に記載の「マトリックスメタロプロテアーゼ阻害作用」、引用文献5に記載の「カテプシンKの上昇抑制作用」や「コラーゲン分解の抑制作用」、「関節炎に対する治療効果」から、「Endo180産生促進」作用を導き出すことができるともいえない。
よって、本願発明について、引用文献3?5に記載された発明であるということはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明について、引用文献1に記載の発明であるということはできないし、また、引用文献2に記載の発明であるということもできない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-11-18 
出願番号 特願2017-181614(P2017-181614)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鶴見 秀紀  
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 渡邊 吉喜
渕野 留香
発明の名称 Endo180産生促進剤  
代理人 村雨 圭介  
代理人 早川 裕司  
代理人 田岡 洋  

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