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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 取り消して特許、登録 H04N
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04N
管理番号 1357185
審判番号 不服2018-9708  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-13 
確定日 2019-12-03 
事件の表示 特願2015-531513「一連の画像における輝度変動を補償する方法と装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月27日国際公開、WO2014/044504、平成27年11月 5日国内公表、特表2015-532061、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)8月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年9月19日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成29年7月24日付けで拒絶理由が通知され、平成30年1月26日付けで手続補正がされ、平成30年2月13日付けで拒絶査定がされ、これを不服として平成30年7月13日に本件審判請求がされ、同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
平成30年2月13日付け拒絶査定(以下、「原査定」という)の概要は次のとおりである。

この出願の請求項1-12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特表2008-514122号公報
引用文献2.Ulrich Fecker et al., Histogram-Based Prefiltering for Luminance and Chrominance Compensation of Multiview Video, IEEE Transactions on Circuits and Systems for Video Technology, 10 September 2008, vol.18, No.9, pp.1258-1267

第3 平成30年7月13日付け手続補正について
1.補正の内容
平成30年7月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであり、補正前の請求項1、7を、その発明特定事項である「マッピング関数」に、「前記マッピング関数は、前記参照画像の少なくとも一つの画素の大きさを、該現在の画像の画素の大きさによって置き換える」との限定を付加して補正後の請求項1、7とするものである。

2.補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1、7に係る発明および補正前の請求項1、7を引用する請求項2-6、8-12に係る発明の発明特定事項を限定したものであり、その補正前の請求項1-12に記載された発明とその補正後の請求項1-12に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件補正により付加された「前記マッピング関数は、前記参照画像の少なくとも一つの画素の大きさを、該現在の画像の画素の大きさによって置き換える」との事項は、当初明細書の段落【0035】、【0036】に記載されているから、本件補正は、当初明細書に記載された事項の範囲内においてしたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
さらに、本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものである。
そして、補正後の請求項1-12に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすものである。

第4 原査定についての検討
1.本願発明
本願の請求項1-12に係る発明(以下、「本願発明1」-「本願発明12」という)は、平成30年7月13日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、本願発明1の各構成の符号は当審において付与したものであり、以下、構成A?構成Cと称する。

【請求項1】
(A)一連の画像における輝度変動を補償する方法であって、
(B)現在の画像の各々の現在のブロックに対して、該現在の画像の前記ブロックの画素値と前記一連の画像のうちの参照画像のブロックの画素値との間のマッピング関数を、該現在の画像の前記ブロックの因果的近傍に亘る画素の大きさの分布と該参照画像の該ブロックの因果的近傍に亘る画素の大きさの分布とのマッチングによって、決定し、
(C)前記マッピング関数は、前記参照画像の少なくとも一つの画素の大きさを、該現在の画像の画素の大きさによって置き換える、
(A)前記方法。
【請求項2】
前記分布が累積ヒストグラムである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記現在の画像と前記参照画像が前記一連の画像のうちの同一画像である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記現在の画像と前記参照画像が前記一連の画像のうちの個別の画像である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
ブロックに関する前記マッピングの結果がルック・アップ・テーブルに記憶される、請求項1から4のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
参照画像のブロックから予測ブロックを算出する一連の画像の符号化方法であって、該予測ブロックが、請求項1から5のうちのいずれか一項に適合する輝度変動補償方法に従って修正される該参照画像のブロックから算出される、前記方法。
【請求項7】
一連の画像における輝度変動を補償する装置であって、現在の画像のブロックの画素値と該一連の画像のうちの参照画像のブロックの画素値との間のマッピング関数を、該現在の画像の該ブロックの因果的近傍に亘る画素の大きさの分布と前記参照画像の前記ブロックの因果的近傍に亘る画素の大きさの分布とのマッチングによって決定するように構成されたプロセッサーを備え、前記マッピング関数は、前記参照画像の少なくとも一つの画素の大きさを、該現在の画像の画素の大きさによって置き換える、前記装置。
【請求項8】
一連の画像のうちの現在の画像のブロックの画素値と参照画像のブロックの画素値との間におけるマッピングについての情報であって、該現在の画像の前記ブロックの因果的近傍に亘って算出される一方と参照画像の前記ブロックの因果的近傍に亘る他方との2つの画素の大きさの分布のマッチングによって取得される該情報を含む信号を送信するように構成されたプロセッサーをさらに備える請求項7に記載の装置。
【請求項9】
一連の画像を符号化するデバイスであって、請求項7または8に適合する装置を備える、前記デバイス。
【請求項10】
参照画像のブロックから予測ブロックを算出する一連の画像の復号方法であって、該予測ブロックが、請求項1から5のうちのいずれか一項に適合する輝度変動補償方法に従って修正される該参照画像のブロックから算出される、前記方法。
【請求項11】
一連の画像のうちの現在の画像のブロックの画素値と参照画像のブロックの画素値との間におけるマッピングについての情報であって、該現在の画像の前記ブロックの因果的近傍に亘って算出される一方と参照画像の前記ブロックの因果的近傍に亘る他方との2つの画素の変動の分布のマッチングによって取得される該情報を含む信号を受信するように構成されたプロセッサーをさらに備える請求項7に記載の装置。
【請求項12】
一連の画像を復号するデバイスであって、請求項7または11に適合する装置を備える、前記デバイス。

2.引用文献、引用発明
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は、当審により付与したものである。

「【0002】
本発明は一般にビデオ・コーダ(符号化器)およびデコーダ(復号化器)に関し、より詳細には、局在的な輝度変動を利用した重み付き予測ビデオ符号化および復号のための方法および装置に関する。」

「【0013】
ピクチャ全体にわたり一様に当てはまる大域的な輝度変動の場合は、同じ参照ピクチャから予測されるピクチャ中の全てのマクロブロックを効率的に符号化するには、単一の重み係数およびオフセットで十分である。しかし、例えば照明方法の変化やカメラ・フラッシュで、一様に当てはまらない輝度変動の場合は、参照ピクチャの並べ替えを用いて、特定の参照ピクチャ・ストアに複数の参照ピクチャ・インデックスを関連付けることができる。これにより、同じピクチャ中の異なるマクロブロックは、同じ参照ピクチャから予測されるときでも、異なる重み係数を使用することができる。しかし、H.264で使用できる参照ピクチャの数は、現レベルおよびプロファイルによって制限されるか、或いは動き推定の複雑さによって制約される。このことは、局在的な輝度変動中のWPの効率をかなり制限する可能性がある。
【0014】
従って、少なくとも上に識別した従来技術の欠陥を解決する、重み付き予測ビデオ符号化のための方法および装置を有することが、望ましく非常に有利である。
【発明の開示】
【0015】
(発明の概要)
従来技術のこれらおよび他の欠点および不都合は、局在的な輝度変動を利用した重み付き予測ビデオ符号化および復号のための方法および装置を対象とする本発明によって対処される。
【0016】
本発明の一態様によれば、ピクチャのビデオ・データを符号化するためのビデオ・エンコーダが提供される。ビデオ・データは、局在的な輝度変動を有する。このビデオ・エンコーダは、局在化された重み関数を使用して局在的な輝度変動に対する重みを決定し、ビデオ・データをインター符号化するための、エンコーダを備えている。局在化された重み関数の重みは、明示的符号化なしで導出される。
【0017】
本発明の別の態様によれば、ピクチャのビデオ・データを符号化するための方法が提供される。ビデオ・データは、局在的な輝度変動を有する。この方法は、局在化された重み関数を使用して局在的な輝度変動に対する重みを決定し、ビデオ・データをインター符号化するステップを含んでいる。局在化された重み関数の重みは、明示的符号化なしで導出される。
【0018】
本発明の更に別の態様によれば、ピクチャのビデオ・データを復号するためのビデオ・デコーダが提供される。ビデオ・データは、局在的な輝度変動を有する。このビデオ・デコーダは、局在化された重み関数を使用して局在的な輝度変動に対する重みを決定し、ビデオ・データを復号するための、デコーダを備えている。局在化された重み関数の重みは、明示的符号化なしで導出される。
【0019】
本発明の更に別の態様によれば、ピクチャのビデオ・データを復号するための方法が提供される。ビデオ・データは、局在的な輝度変動を有する。この方法は、局在化された重み関数を使用して局在的な輝度変動に対する重みを決定し、ビデオ・データを復号するステップを含んでいる。局在化された重み関数の重みは、明示的符号化なしで導出される。」

「【0034】
図1に目を向けると、動き推定および補償プロセスが、参照番号100で一般に示されている。動き推定および補償プロセス100は、現ピクチャCおよび参照ピクチャRに関連する。
【0035】
ブロックEが与えられた場合に、そのピクセルc[x,y]=C[x_(0)+x,y_(0)+y]として表し、[x_(0),y_(0)]は現ピクチャC中のブロックEの左上ピクセル位置であり(x=0...N-1、y=0...M-1)、NはEの幅であり、MはEの高さである。更に、Eの以前に符号化され再構成された近隣サンプルをp[x,y]として表し、その左の近隣サンプル(利用可能なら)をp[-1,y]=C[x_(0)-1,y_(0)+y]として表し(y=0...M-1)、上の近隣サンプル(利用可能なら)をp[x,-1]=C[x_(0)+x,y_(0)-1]として表し(x=0...N-1)、左上の近隣サンプル(利用可能なら)をp[-1,1]=C[x_(0)-1,y_(0)-1]として表す。更に、参照ピクチャR中の、p[x,y]に対応する動き予測されたピクセルをq[x,y]=R[x_(0)+x+mvx,y_(0)+y+mvy]として表し、[mvx,mvy]はブロックの動きベクトルである。この場合、重み関数Wは、p=W(F(q))を満たす対応する近隣ピクセルp[x,y]およびq[x,y]から推定する/当てはめることができ、Fはフィルタである。従って、r[x,y]=W(G(R[x_(0)+x+mvx,y_(0)+y+mvy]))であり、r[x,y]は参照ピクチャR中の動き予測されたブロックEのピクセルであり、Gはフィルタである。
【0036】
より単純な一実施例では、動きベクトルを適用することなしに、q[x,y]は参照ピクチャR中の同じ場所に位置するピクセルであり、q[x,y]=R[x_(0)+x,y_(0)+y]である。この場合、重み関数Wは、対応する近隣ピクセルp[x,y]=W(F(R[x_(0)+x,y_(0)+y]))から推定する/当てはめることができる。
【0037】
従って、本発明を使用してピクチャを復号するには、デコーダは、重み関数Wと、利用可能な情報並びにフィルタFおよびGを使用したWの係数の導出(当てはめ方法)とを知るだけでよい。
【0038】
図2Aに移ると、重み付き予測を使用してビデオ・データを符号化するためのエンコーダが、参照番号200で一般に示されている。エンコーダ200への入力は、加算接合部202(加算接合部の目的は、エンコーダにおける入力と予測との差分を定めることであり、この差分が、次いでエンコーダ中で符号化される)の非反転入力と、且つ動き推定部204の第1の入力と、信号通信で接続される。加算接合部202の出力は、変換部206の入力と信号通信で接続される。変換部206の出力は、量子化器208の入力と信号通信で接続される。量子化器208の出力は、可変長コーダ(「VLC」)210の入力と、且つ逆量子化器212の入力と、信号通信で接続される。VLC210の出力は、エンコーダ200の外部出力として利用可能である。
【0039】
逆量子化器212の出力は、逆変換部214の入力と信号通信で接続される。逆変換部214の出力は、参照ピクチャ・ストア216の入力と信号通信で接続される。参照ピクチャ・ストア216の第1の出力は、重み関数推定部218の入力と信号通信で接続される。参照ピクチャ・ストア216の第2の出力は、動き推定部204の第2の入力と信号通信で接続される。参照ピクチャ・ストア216の第3の出力は、動き補償部220の第1の入力と信号通信で接続される。重み関数推定部218の出力は、動き推定部204の第3の入力と、且つ重み関数モジュール222の第1の入力と、信号通信で接続される。動き推定部204の出力は、動き補償部220の第2の入力と信号通信で接続される。動き補償部220の出力は、重み関数モジュール222の第2の入力と信号通信で接続される。重み関数モジュール222の出力は、加算接合部202の反転入力と信号通信で接続される。
【0040】
図2Bに移ると、重み付き予測を使用してビデオ・データを符号化する方法が、参照番号250で一般に示されている。
【0041】
開始ブロック252で、制御を入力ブロック254に渡す。入力ブロック254で、未圧縮画像ブロックを受け取り、制御を機能ブロック256に渡す。機能ブロック256で、参照ピクチャに対する重み関数を推定し、制御を機能ブロック258に渡す。機能ブロック258で、局在化された重み関数を使用して、画像ブロックと参照ピクチャとの差分によって動きベクトルを計算し、制御を機能ブロック260に渡す。機能ブロック260で、計算された動きベクトルを使用して参照ピクチャに対する動き補償を実施して、重み付けされた動き補償済み参照画像ブロックを形成し、制御を機能ブロック264に渡す。機能ブロック264で、未圧縮画像ブロックから、重み付けされた動き補償済み参照画像ブロックを引き、制御を機能ブロック266に渡す。機能ブロック266で、未圧縮画像ブロックと重み付けされた動き補償済み参照ブロックとの差分を、参照ピクチャ・インデックスで符号化し、制御を終了ブロック268に渡す。
【0042】
図3Aに移ると、重み付き予測を使用してビデオ・データを復号するためのデコーダが、参照番号300で一般に示されている。」

「【0049】
ここで、本発明の説明に役立つ実施例に関連する考察について述べる。この記述では、重み関数W、フィルタFおよびG、近隣サンプル、シンタックス変更、および色成分の一般化の考察について述べる。
【0050】
まず、重み関数Wについて述べる。デコーダとエンコーダでは、同じW関数と、Wを対応する近隣ピクセルp[x,y]およびq「x,y」から導出する/当てはめるための同じ方法とを使用すべきである。Wおよび対応する導出/当てはめ方法は、自由に選択することができる。単純にするために、多項式関数y=a_(0)+a_(1)x+a_(2)x^(2)...+a_(n)x^(n)(n=-1,0,1...(注:n=-1は上記方法が使用されないことを意味する))および多項式最小二乗当てはめを使用して、多項式係数を導出することを提案する。多項式の次数nは、ヘッダ中で指定することができる。n=1であれば、H.264における重み付き予測関数と同じである。
【0051】
次に、フィルタFおよびGについて述べる。フィルタFおよびGは、同じまたは異なるフィルタとすることができる。単純にするために、FもGも両方とも識別フィルタであることを提案する。本発明は、どんな特定のタイプのフィルタにも限定されず、従って、本発明の範囲を維持しながら他のフィルタを利用してもよい。例えば、本発明の原理により、メジアン・フィルタや任意の種類の雑音除去フィルタを利用することができる。
【0052】
次に、近隣サンプルについて述べる。上記のデコーダ仕様では、1つの近隣ピクセル層だけが使用される。しかし、これを複数の層に一般化できることを理解されたい。近隣サンプルは、適応的に選択することができる。例えば、左、上、左上のサンプル全てを選択することもでき、或いは近隣ブロックの動きベクトルに基づいてこれらを適応的に選択することもできる。」

(2)引用発明
引用文献1の上記記載(特に、下線部)及び図1、図2A、図2Bの記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。なお、( )内は明細書の関連する箇所の段落、図面を示す。また、引用発明の各構成については、(a)?(e)の符号を付し、以下、構成a?構成eと称する。

[引用発明]
(a)ピクチャのビデオデータを符号化するための方法であって、ビデオ・データは、局在的な輝度変動を有し、この方法は、局在化された重み関数を使用して局在的な輝度変動に対する重みを決定し、ビデオ・データをインター符号化するステップを含み、(【0017】)
(b)動き推定および補償プロセス100は、現ピクチャCおよび参照ピクチャRに関連し、ブロックEが与えられた場合に、そのピクセルc[x,y]=C[x_(0)+x,y_(0)+y]として表し、[x_(0),y_(0)]は現ピクチャC中のブロックEの左上ピクセル位置であり(x=0...N-1、y=0...M-1)、NはEの幅であり、MはEの高さであり、更に、Eの以前に符号化され再構成された近隣サンプルをp[x,y]として表し、その左の近隣サンプル(利用可能なら)をp[-1,y]=C[x_(0)-1,y_(0)+y]として表し(y=0...M-1)、上の近隣サンプル(利用可能なら)をp[x,-1]=C[x_(0)+x,y_(0)-1]として表し(x=0...N-1)、左上の近隣サンプル(利用可能なら)をp[-1,1]=C[x_(0)-1,y_(0)-1]として表し、更に、参照ピクチャR中の、p[x,y]に対応する動き予測されたピクセルをq[x,y]=R[x_(0)+x+mvx,y_(0)+y+mvy]として表し、[mvx,mvy]はブロックの動きベクトルであり、この場合、重み関数Wは、p=W(F(q))を満たす対応する近隣ピクセルp[x,y]およびq[x,y]から推定する/当てはめることができ、Fはフィルタであり、従って、r[x,y]=W(G(R[x_(0)+x+mvx,y_(0)+y+mvy]))であり、r[x,y]は参照ピクチャR中の動き予測されたブロックEのピクセルであり、Gはフィルタであり、(【図1】、【0034】、【0035】)
(c)重み関数Wについて述べると、Wおよび対応する導出/当てはめ方法は、自由に選択することができ、単純にするために、多項式関数y=a_(0)+a_(1)x+a_(2)x^(2)...+a_(n)x^(n)(n=-1,0,1...(注:n=-1は上記方法が使用されないことを意味する))および多項式最小二乗当てはめを使用して、多項式係数を導出し、(【0050】)
(d)フィルタFおよびGについて述べると、フィルタFおよびGは、同じまたは異なるフィルタとすることができ、単純にするために、FもGも両方とも識別フィルタであり、どんな特定のタイプのフィルタにも限定されず、従って、他のフィルタを利用してもよく、例えば、メジアン・フィルタや任意の種類の雑音除去フィルタを利用することができ、(【0051】)
(e)近隣サンプルについて述べると、これを複数の層に一般化でき、近隣サンプルは、適応的に選択することができ、例えば、左、上、左上のサンプル全てを選択することもできる、(【0052】)
方法。

(3)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審により付与したものである。

a.「Histogram-Based Prefiltering for Luminance and Chrominance Compensation of Multivew Video」(第1258頁表題)
(訳)「ヒストグラムに基づいたマルチビュービデオのルミナンス及びクロミナンス補償のためのプレフィルタリング」

b.「II. HISTOGRAM MATCHING ALGORITHM
A. Description of the Algorithm
The basic histogram matching algorithm can be used to adapt a distorted image to a reference image.The calculations are conducted in the YCbCr color space. Here, an example is shown for the luminance compornent Y, but the algoithm can be applied for both chrominance compornents Cb and Cr in an analogous manner.
The amplitude of the luminance signal of the reference image is denoted by y_(R)[m,n]. As a first step, the histogram of the reference image is calculated as follows:」(第1259頁左欄下から8行-右欄第3行)
(訳)「II.ヒストグラムマッチングアルゴリズム
A.アルゴリズムの詳細
基本的なヒストグラムマッチングアルゴリズムは、変動画像を参照画像に適合させるために用いられる。諸計算は、YCbCr色空間で処理される。ここで、輝度成分Yに対する一例が示されるが、このアルゴリズムは、クロミナンス成分CbとCrの両方に同様に適用することができる。
参照画像の輝度信号の大きさは、y_(R)[m,n]で定義される。最初のステップとして、参照画像のヒストグラムは、以下のように計算される。」

c.「

」(第1259頁右欄第4行-第5行)

d.「Here, w denotes the width and h denotes the hight of the image. Next, the cumulative histogram c_(R)[v] of the refernce image is created」(第1259頁右欄第6行-第8行)
(訳)「ここで、wは画像の幅、hは画像の高さである。次に、参照画像の累積ヒストグラムc_(R)[v]が得られる。」

e.「

」(第1259頁右欄第9行)

f.「The histogram h_(D)[v] and the cumulative histogram c_(D)[v] of the distorted image are calculated in the same manner. An example for a refernce image and a distorted image togather with their histograms and cumulative hisatograms is shown in Fig.1. The distortion that was used on the distorted image included a gamma correction and a decrease in brightness. Therefore, its histogram is shrinked and shifted to the left.
Based on the cumulative histograms c_(R)[v] and c_(D)[v], a mapping function M is derived. The mapping is found by matching the number of occurrences in the distorted image to the number of occurrences in the refernce image」(第1259頁右欄第10行-第20行)
(訳)「同様にして、変動画像のヒストグラムh_(D)[v]と累積ヒストグラムc_(D)[v]が計算される。参照画像と変動画像の一例が、それらのヒストグラムと累積ヒストグラムとともに図1に示される。変動画像に用いられた変動は、ガンマ補正や明るさの減少を含む。したがって、そのヒストグラムは縮小され、左にシフトされている。
累積ヒストグラムc_(R)[v]、c_(D)[v]に基づいて、マッピング関数Mが導かれる。このマッピングは、参照画像の複数の値と変動画像の複数の値とのマッチングにより求められる。」

g.「

」(第1259頁右欄第21行)

h.「This process is illustraed in Fig.2. The mapping is then applied to the distorted image y_(D)[m,n], resulting in the corrected image y_(C)[m,n]」(第1259頁右欄22行-第24行)
(訳)「このプロセスは図2に表されている。そして、このマッピングは変動画像y_(D)[m,n]に適用され、その結果、修正画像y_(C)[m,n]が得られる。」

i.「

」(第1260頁Fig.1)
(訳)「図1.参照画像(“ボールルーム”のシーケンス)と変動画像の輝度成分のヒストグラムの例。(a)参照画像。(b)参照画像のヒストグラム。(c)参照画像の累積ヒストグラム。(d)変動画像。(e)変動画像のヒストグラム。(f)変動画像の累積ヒストグラム。」

j.「

」(第1259頁右欄第25行)

k.「C. Application to Multiview Sequences
The described algorithm can be applied to multiview sequences in the following way. One camera view, which is close to the center of the camera setup, is chosen as the reference view. All other camera views are corrected so that their histograms fit the histogram of the chosen reference view. This is done frame by frame for the whole sequence, which means that each time step is corrected individually.」(第1260頁右欄第10行-第1261頁左欄第4行)
(訳)「C.マルチビューシーケンスへの適用
上述したアルゴリズムは、マルチビューシーケンスへ以下のように適用できる。カメラ構成のセンターに近い1つのカメラビューがリファレンスピクチャーとして選択される。その他の全てのカメラビューが、それらのヒストグラムが選択されたリファレンスビューのヒストグラムにフィットするように修正される。これはシーケンス全体に対してフレーム毎に実行され、このことは、それぞれのタイムステップで独立に修正されることを意味する。」

(4)引用文献2に記載された技術について
a.図1(Fig.1)について
引用文献2の図1(a)(d)には、それぞれ、参照画像、変動画像が記載されており、これらの画像が、カメラにより撮像した1枚の画像であることは明らかである。

b.引用文献2に記載された技術
引用文献2の上記記載(特に、上記「(3)a、d、f、h、k」の下線部)、及び、上記「(4)a」によれば、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2に記載された技術」という)が記載されていると認められる。

ヒストグラムに基づいたマルチビュービデオのルミナンス及びクロミナンス補償のためのプレフィルタリングであって、
ヒストグラムマッチングアルゴリズムは、変動画像を参照画像に適合させるために用いられ、
参照画像の累積ヒストグラムc_(R)[v]、変動画像の累積ヒストグラムc_(D)[v]が計算され、累積ヒストグラムc_(R)[v]、c_(D)[v]に基づいて、マッピング関数Mが導かれ、このマッピングは、参照画像の複数の値と変動画像の複数の値とのマッチングにより求められ、そして、このマッピングは変動画像y_(D)[m,n]に適用され、その結果、修正画像y_(C)[m,n]が得られ、参照画像と変動画像は、それぞれ、カメラにより撮影した1枚の画像であり、
上述したアルゴリズムは、マルチビューシーケンスへ以下のように適用でき、カメラ構成のセンターに近い1つのカメラビューがリファレンスピクチャーとして選択され、その他の全てのカメラビューが、それらのヒストグラムが選択されたリファレンスビューのヒストグラムにフィットするように修正され、これはシーケンス全体に対してフレーム毎に実行され、このことは、それぞれのタイムステップで独立に修正されることを意味する、技術。

3.対比・判断
(1)本願発明1
ア.本願発明1の構成Aについて
引用発明の構成a、構成bによれば、引用発明は、局在的な輝度変動を有するビデオ・データを、現ピクチャCおよび参照ピクチャRに関連する動き推定および補償プロセス100により、局在化された重み関数Wを使用して局在的な輝度変動に対する重みを決定し、ビデオ・データを符号化するための方法、すなわち、ビデオ・データの符号化の際に、重み関数Wを使用してビデオ・データの輝度変動を補償するものであるから、「一連の画像における輝度変動を補償する方法」といえるものである。
よって、本願発明1と引用発明とは、構成Aの点で一致する。

イ.本願発明1の構成Bについて
引用発明の構成b、構成cの重み関数Wは、現ピクチャC中のブロックEの以前に符号化され再構成された近隣サンプルp[x,y]と、参照ピクチャR中の、p[x,y]に対応する動き予測されたピクセルq[x,y]とから、p=W(F(q))を満たすように推定/当てはめをした関数である。
ここで、重み関数Wがp=W(F(q))を満たすように推定/当てはめをすることは、p=W(F(q))を満たす重み関数Wを決定することといえる。
また、重み関数Wは、p=W(F(q))を満たすように、参照ピクチャR中のqの値を、現ピクチャC中のpの値にマッピングするから、「マッピング関数」といえる。
したがって、引用発明の構成b、構成cの重み関数Wは、本願発明1の構成Bの「該現在の画像の前記ブロックの画素値と前記一連の画像のうちの参照画像のブロックの画素値との間のマッピング関数」に相当するものであり、本願発明1と引用発明とは、構成Bのうち「現在の画像の各々の現在のブロックに対して、該現在の画像の前記ブロックの画素値と前記一連の画像のうちの参照画像のブロックの画素値との間のマッピング関数を決定」する点では共通するものであるといえる。
しかしながら、本願発明1は、「マッピング関数を、該現在の画像の前記ブロックの因果的近傍に亘る画素の大きさの分布と該参照画像の該ブロックの因果的近傍に亘る画素の大きさの分布とのマッチングによって、決定」するものであるのに対し、引用発明は、重み関数W(マッピング関数)の決定の方法についてそのような特定はされていない点で、両者は相違する。

ウ.本願発明1の構成Cについて
引用発明の構成b、構成cの重み関数Wは、上述したように、p=W(F(q))を満たすように、参照ピクチャR中のqの値を、現ピクチャC中のpの値にマッピングするものであり、該「参照ピクチャR中のqの値」、「現ピクチャC中のpの値」は、それぞれ、本願発明1の「参照画像の少なくとも一つの画素の大きさ」、「現在の画像の画素の大きさ」に相当するものであるから、引用発明の構成b、構成cの重み関数Wは、参照画像の少なくとも一つの画素の大きさを、現在の画像の画素の大きさに置き換えるものである。
よって、本願発明1と引用発明とは、「前記マッピング関数は、前記参照画像の少なくとも一つの画素の大きさを、該現在の画像の画素の大きさによって置き換える」点で一致する。

エ.一致点、相違点
以上をまとめると、本願発明1と引用発明の一致点、相違点は次のとおりである。

[一致点]
(A)一連の画像における輝度変動を補償する方法であって、
(B)現在の画像の各々の現在のブロックに対して、該現在の画像の前記ブロックの画素値と前記一連の画像のうちの参照画像のブロックの画素値との間のマッピング関数を決定し、
(C)前記マッピング関数は、前記参照画像の少なくとも一つの画素の大きさを、該現在の画像の画素の大きさによって置き換える、
(A)前記方法。

[相違点]
本願発明1は、「現在の画像の各々の現在のブロックに対して、該現在の画像の前記ブロックの画素値と前記一連の画像のうちの参照画像のブロックの画素値との間のマッピング関数を、該現在の画像の前記ブロックの因果的近傍に亘る画素の大きさの分布と該参照画像の該ブロックの因果的近傍に亘る画素の大きさの分布とのマッチングによって、決定」するものであるのに対し、引用発明は、重み関数W(マッピング関数)の決定の方法についてそのような特定はされていない点。

オ.判断
上記相違点について検討する。
そこで、引用発明において、引用文献2に記載された技術を適用して本願発明1の構成に至ることが当業者に容易に想到し得るか否かについて以下に検討する。

引用発明は、重み関数W(マッピング関数)の決定の方法について、構成aの「ビデオデータをインター符号化する」ときに、構成bの「現ピクチャCおよび参照ピクチャRに関連し、ブロックEが与えられた場合に」、「p=W(F(q))を満たす対応する近隣ピクセルp[x,y]およびq[x,y]から推定する/当てはめる」ものであり、「Wおよび対応する導出/当てはめ方法は、自由に選択することができ」るものである。
これに対して、引用文献2に記載された技術は、「参照画像の累積ヒストグラムc_(R)[v]、変動画像の累積ヒストグラムc_(D)[v]が計算され、累積ヒストグラムc_(R)[v]、c_(D)[v]に基づいて、マッピング関数Mが導かれ」、「参照画像と変動画像は、それぞれ、カメラにより撮影した1枚の画像」であり、「上述したアルゴリズムは、マルチビューシーケンスへ以下のように適用でき、カメラ構成のセンターに近い1つのカメラビューがリファレンスピクチャーとして選択され、その他の全てのカメラビューが、それらのヒストグラムが選択されたリファレンスビューのヒストグラムにフィットするように修正され、これはシーケンス全体に対してフレーム毎に実行され、このことは、それぞれのタイムステップで独立に修正されることを意味する」ものである。
すなわち、重み関数W(マッピング関数)について、引用発明は、ビデオデータをインター符号化するときの、現ピクチャおよび参照ピクチャ中のブロックの近隣ピクセルを用いて計算されるものであるのに対し、引用文献2に記載された技術は、それぞれ、カメラにより撮影した1枚の画像である、マルチビューのうちセンターに近い1つの参照画像とその他の変動画像を用いて計算されるものである。
したがって、仮に、引用発明において、引用文献2に記載された技術を適用したとすると、適用した結果のマッピング関数Mは、引用発明の(1枚の画像である)「現ピクチャ」及び「参照ピクチャ」の累積ヒストグラムを計算する構成となり、「現ピクチャ」及び「参照ピクチャ」中のブロックの「近隣ピクセルp[x,y]およびq[x,y]」の累積ヒストグラムを計算する構成とはならない。さらに、ビデオデータをインター符号化するときの、現ピクチャおよび参照ピクチャ中のブロックの近接ピクセルに対して重み関数を計算するものである引用発明において、引用文献2に記載された、マルチビューのうちセンターに近い1つの参照画像とその他の変動画像を用いてマッピング関数を計算する技術を適用する動機はない。

したがって、引用発明において、引用文献2に記載された技術を適用して、本願発明1の「マッピング関数を、該現在の画像の前記ブロックの因果的近傍に亘る画素の大きさの分布と該参照画像の該ブロックの因果的近傍に亘る画素の大きさの分布とのマッチングによって、決定」するとの構成に至ることが当業者に容易に想到し得るとはいえない。

よって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(2)本願発明2-12について
本願発明2-6は、本願発明1の発明特定事項を全て含んでいる。
本願発明7は、方法の発明である本願発明1の発明のカテゴリーを単に装置としたものであるから、本願発明1と同様の発明特定事項を全て含んでいる。
本願発明8-12は、本願発明7の発明特定事項を全て含んでおり、したがって、本願発明1と同様の発明特定事項を全て含んでいる。

よって、本願発明2-12は、本願発明1と同様の理由により、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-11-21 
出願番号 特願2015-531513(P2015-531513)
審決分類 P 1 8・ 57- WY (H04N)
P 1 8・ 121- WY (H04N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 片岡 利延坂東 大五郎  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 川崎 優
千葉 輝久
発明の名称 一連の画像における輝度変動を補償する方法と装置  
代理人 江口 昭彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 阿部 豊隆  

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