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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B23K
管理番号 1357245
審判番号 不服2019-5599  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-25 
確定日 2019-12-10 
事件の表示 特願2015-49227「レーザー加工装置及びレーザー加工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年6月20日出願公開,特開2016-107334,請求項の数(8)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成27年3月12日の出願(優先権主張 平成26年11月27日)であって,平成30年7月20日付けで拒絶理由通知がされ,平成30年9月20日に意見書が提出され,平成31年2月1日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,平成31年4月25日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成31年2月1日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1,3,4,5,7及び8に係る発明は,以下の引用文献1及び2に基づいて,本願請求項2及び6に係る発明は,以下の引用文献1ないし3に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2012- 24787号公報
引用文献2:特開2009- 34723号公報
引用文献3:特開2014-205168号公報

第3 本願発明
本願請求項1ないし8に係る発明(以下「本願発明1」などという。)は,願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ウェーハの内部に集光点を合わせてレーザー光を照射することにより,前記ウェーハの切断予定ラインに沿って前記ウェーハの内部に改質領域を形成するレーザー加工装置であって,
前記レーザー光を出力するレーザー光源と,
前記レーザー光源から出力された前記レーザー光を変調する空間光変調器と,
前記空間光変調器で変調された前記レーザー光を前記ウェーハの内部に集光する集光レンズと,
前記ウェーハを前記レーザー光に対して相対的に移動させる移動手段と,
前記ウェーハのレーザー光入射面から所定の基準深さまでのウェーハ厚さに応じた分だけ前記レーザー光の収差を補正する収差補正手段と,
前記ウェーハの前記基準深さから前記レーザー光を集光させる位置までのウェーハ厚さに応じた分だけ前記レーザー光の収差が補正されるように,前記空間光変調器を制御する制御部と,
を備えるレーザー加工装置。」

なお,本願発明2ないし8の概要は以下のとおりである。

本願発明2ないし4は,本願発明1を減縮した発明である。

本願発明5ないし8は,それぞれ本願発明1ないし4に対応する方法の発明であり,本願発明1ないし4とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。

第4 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
ア.引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている(なお,下線は,理解を容易にするために当審で付したものである。以下同じ。)。

「【0001】
本発明は,例えば,レーザ光を用いて加工対象物の加工を行うレーザ加工装置及び方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として,ガラス基板などの加工対象物の表面又は内部にレーザ光を集光させ,多光子吸収による化学的又は物理的な改質領域を形成し,該改質領域を利用して加工対象物を切断するレーザカッティング装置などが知られている。このようなレーザ加工装置においては,加工精度の向上のために,種々の工夫が為されている。」
「【0007】
本発明は,例えば上述の問題点に鑑み為されたものであり,加工対象物に対する加工条件を一定として,加工深さの変化に対して対応可能なレーザ加工装置及び方法を提供することを課題とする。」
「【0037】
図1に示されるように,レーザカッティング装置1は,制御装置11と,レーザ光源12と,ダイバージングレンズ13と,Dレンズアクチュエータ13aと,光学系14と,Fレンズアクチュエータ14aと,収差付加部材15と,ステージ16と,ステージアクチュエータ16aとを備える。
【0038】
制御装置11は,レーザ光源12,Dレンズアクチュエータ13a,Fレンズアクチュエータ15a,収差付加部材15及びステージアクチュエータ16aに接続され,各部からの出力を受けると共に,各部の動作を制御する制御信号を供給する。
【0039】
レーザ光源12は,本発明のレーザ光源の一例であって,レーザ発生部,結集素子,位相変調器及び共振器などを備え,レーザ光Lをダイバージングレンズ13方向へ出射する。
・・・・・
【0041】
光学系14は,レーザ光Lを加工対象物2の表面又は内部に集光するための集光レンズを含む構成である。光学系14に入射したレーザ光Lは,収差付加部材15を介して加工対象物2に入射し,集光部Fを形成する。光学系14は,上述した集光レンズの他に,該集光レンズを支持する支持部材と,該支持部材に接続されるFレンズアクチュエータ14aと,レーザ光Lに対して球面収差を付加する部材とを含む。Fレンズアクチュエータ14aは,制御装置11からの制御信号に応じて,ステージ16に載置される加工対象物2に対して相対的に光学系14をZ方向に移動させることで,加工対象物2の表面又は内部に形成されるレーザ光Lの集光部FのZ方向の位置を任意の位置に変更する。
【0042】
光学系14は,レーザ光Lにおける,加工対象物2における最大加工深さTに応じた球面収差を補正する。言い換えれば,光学系14は,レーザ光Lに対して,加工対象物2内部を最大加工深さT通過する際に付加される球面収差(以下,正の球面収差と称して説明する)の絶対値と同一の絶対値を有する逆方向の球面収差(以下,負の球面収差と称して説明する)を付加する。ここに,加工対象物2における最大加工深さTとは,加工対象物2において考えられ得る,レーザ光Lの集光部Fを形成して加工を行う位置の表面からの距離である加工深さWの最大値以上の距離である。例えば,加工対象物2の下面,つまり図1のZ方向下方の表面に対して,加工対象物2を透過して加工を行う場合,最大加工深さTは,Z方向の加工対象物2の厚さ以上の値となる。尚,最大加工深さTは,加工対象物2の厚さより長い距離であってよい。
・・・・・
【0045】
収差付加部材15は,Z方向における上面及び下面の夫々が,平坦且つレーザ光Lの光軸に直行する面に平行に構成され,距離T-Wに相当する光路長を有する部材である。収差付加部材15は,好適には,レーザ光Lが入射する面(例えば,上面)における表面反射及びレーザ光Lが出射する面(例えば,下面)における表面反射が生じ難い素材により構成される。例えば,収差付加部材15は,加工対象物2と同一の屈折率Nを有し,Z方向の厚さがT-Wのガラスになどである。また,上述した要件を満たしていればその他の固体又は液体材料により構成されてもよい。
【0046】
光学系14より出射したレーザ光Lは,収差付加部材15を通過して加工対象物2に入射する。このとき,収差付加部材15内部を通過するレーザ光Lには,加工対象物2内を距離T-W通過する場合と同様の正の球面収差が付加される。
【0047】
加工対象物2は,光学系14によってレーザ光Lが集光される集光部Fが加工対象物2の表面又は内部に位置するように,ステージ16に載置される。
【0048】
ステージアクチュエータ16aは,ステージ16をレーザ光Lの光軸に直行する面内(図1におけるXY面内)及びレーザ光Lの光軸方向(Z方向)において移動させるアクチュエータである。ステージアクチュエータ16aは,制御装置11からの制御信号に応じてステージ16を移動させる。
【0049】
上述した構成によれば,予め光学系14に付加される負の球面収差により,集光レンズ15を通過するレーザ光Lに対して,加工対象物2内部を最大加工深さT分通過する際に付加される収差量に相当する球面収差が補正される。また,レーザ光Lには,収差付加部材15により,加工対象物2に等しい屈折率N及び距離T-Wに基づく正の球面収差が付加される。更に,レーザ光Lは,加工対象物2内を透過して加工深さWの位置に集光部Fを形成するために,加工深さW分の正の球面収差が付加される。従って,レーザ光Lに対して,収差付加部材15及び加工対象物2内において付加される正の球面収差が,予め光学系14により付加される負の球面収差により補正される。このため,加工深さWの位置に形成される集光部Fは,加工対象物2内の加工深さWに応じた球面収差による影響を受けない。これにより,レーザカッティング装置1は,加工深さWに応じてレーザ光Lの加工条件に変化を受けることなく,加工対象物2の任意の加工深さWに集光部Fを形成して加工を行うことが出来る。
【0050】
上述した構成において,制御装置11は,Fレンズアクチュエータ14aより入力される加工深さWに応じて,収差付加部材15の厚さがT-Wとなるよう適宜設定可能であることが好ましい。収差付加部材15は,例えば,比較的小さい厚さを有する複数の板状の部材と,制御装置11からの制御信号に応じて,該複数の板状の部材をレーザ光Lの光路中に挿入又は光路中から除去可能な機構を備えた構成であってよい。制御装置11は,Fレンズアクチュエータ14aより入力される加工深さWに応じて,距離T-Wに相当する厚さの板状の部材を光路中に付加させることで,加工深さWに変化に応じて,自動的に球面収差の補正を行うことが出来る。尚,上述の説明では,球面収差を例としているが,その他の収差についても同様に影響を排除して,レーザ光の加工条件を一定に保つことが出来る。」
「【図1】




イ.引用文献1記載の技術的事項
上記ア.の記載事項からみて,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているということができる。

「ガラス基板などの加工対象物の内部にレーザ光を集光させ,改質領域を形成し,該改質領域を利用して加工対象物を切断するレーザカッティング装置などのレーザ加工装置の加工条件を一定として,加工深さの変化に対して対応可能なレーザ加工装置を提供すること。」(【0001】,【0002】及び【0007】)
「レーザカッティング装置1は,レーザ光源12と,光学系14と,収差付加部材15と,ステージ16と,ステージアクチュエータ16aと,制御装置11を備えること。」(【0037】)
「レーザ光源12は,レーザ光Lを出射すること。」(【0039】)
「光学系14は,レーザ光Lを加工対象物2の内部に集光するための集光レンズを含み,加工対象物2における最大加工深さTに応じた正の球面収差を補正するように,レーザ光Lに対して負の球面収差を付加するものであること。」(【0041】及び【0042】)
「収差付加部材15は,内部を通過するレーザ光Lに,加工対象物2内の距離T-Wに相当する正の球面収差を付加するものであること。」(【0045】及び【0046】)
「ステージ16は,加工対象物2が載置され,ステージアクチュエータ16aは,ステージ16をレーザ光Lの光軸に直行する面内において移動させること。」(【0047】及び【0048】)
「制御装置11は,レーザ光Lの集光部FのZ方向の位置を任意の位置に変更し,収差付加部材15の厚さをT-Wとなるよう適宜設定可能であること。」(【0041】及び【0050】)

ウ.引用発明
上記イ.に示す技術的事項を整理すると,引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ガラス基板などの加工対象物の内部にレーザ光を集光させ,改質領域を形成し,該改質領域を利用して加工対象物を切断するレーザカッティング装置1であって,
レーザ光Lを出射するレーザ光源12と,
レーザ光Lに,加工対象物2内の距離T-Wに相当する正の球面収差を付加する収差付加部材15と,
レーザ光Lを加工対象物2の内部に集光するための集光レンズを含み,加工対象物2における最大加工深さTに応じた正の球面収差を補正するように,レーザ光Lに対して負の球面収差を付加する光学系14と,
加工対象物2を載置するステージ16をレーザ光Lの光軸に直行する面内において移動させるステージアクチュエータ16aと,
収差付加部材15の厚さをT-Wとなるよう適宜設定可能である制御装置11と,
を備えるレーザカッティング装置1。」

2.引用文献2について
ア.引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には,次の事項が記載されている。

「【請求項2】
板状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って,切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工方法であって,
前記改質領域を形成する際には,前記加工対象物の内部に集光される前記レーザ光の収差が所定の収差以下となるように反射型空間光変調器によって前記レーザ光を変調することを特徴とするレーザ加工方法。」
「【0066】
以上のように構成された反射型空間光変調器203では,レーザ光Lは,外部からガラス板218及び透明電極層217を順次透過して液晶層216に入射し,ミラー層215によって反射されて,液晶層216から透明電極層217及びガラス板218を順次透過して外部に出射される。このとき,互いに対向する1対の電極部214a,217a毎に電圧が印加され,その電圧に応じて,液晶層216において互いに対向する1対の電極部214a,217aに挟まれた部分の屈折率が変化している。これにより,レーザ光Lを構成する複数の光線のそれぞれにおいて,各光線の進行方向と直交する所定の方向の成分の位相にずれが生じ,レーザ光Lが整形(位相変調)されることになる。
【0067】
制御部205は,改質領域7を形成する際に,加工対象物1の内部に集光されるレーザ光Lの収差が所定の収差以下となるように(換言すれば,加工対象物1の内部においてレーザ光Lの波面が所定の波面となるように),互いに対向する1対の電極部214a,217a毎に電圧を印加することで,反射型空間光変調器203を制御する。制御部205は,反射型空間光変調器203に入射したレーザ光Lのビームパターン(ビーム波面)を整形(変調)させるための波面整形(収差補正)パターン情報を反射型空間光変調器203に入力する。そして,入力されたパターン情報に基づいた信号により反射型空間光変調器203の一対の電極214a,217a毎に対応する液晶層216の屈折率を変化させることで,反射型空間光変調器203から出射されるレーザ光Lのビームパターン(ビーム波面)を整形(変調)する。なお,反射型空間光変調器203に入力するパターン情報は逐次入力するようにしてもよいし,予め記憶されたパターン情報を選択して入力するようにしてもよい。」

イ.引用文献2記載の技術的事項
上記ア.の記載事項からみて,引用文献2には,次の技術的事項(以下「引用文献2記載の技術的事項」という。)が記載されているということができる。

「加工対象物の内部に集光されるレーザ光の収差が所定の収差以下となるように,レーザ光を位相変調する反射型空間光変調器を制御部で制御すること。」(【請求項2】,【0066】及び【0067】)

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア.引用発明において「ガラス基板などの加工対象物の内部にレーザ光を集光」させることが,本願発明1において「ウェーハの内部に集光点を合わせてレーザー光を照射」することに相当し,以下同様に,「改質領域を形成し,該改質領域を利用して加工対象物を切断する」ことが「前記ウェーハの切断予定ラインに沿って前記ウェーハの内部に改質領域を形成する」ことに,「レーザカッティング装置1」が「レーザー加工装置」に,「レーザ光Lを出射するレーザ光源12」が「前記レーザー光を出力するレーザー光源」に,「加工対象物2を載置するステージ16をレーザ光Lの光軸に直行する面内において移動させるステージアクチュエータ16a」が「前記ウェーハを前記レーザー光に対して相対的に移動させる移動手段」に相当する。

イ.また,収差は,光が一点に集中しないこと,すなわち光の波面の位相がずれており,球面波となっていないことをいい,引用発明の「レーザ光Lに,加工対象物2内の距離T-Wに相当する正の球面収差を付加する収差付加部材15」は,レーザー光の収差が増えるように位相を変更しているから,本願発明1の「前記レーザー光源から出力された前記レーザー光を変調する空間光変調器」と対比すると,「前記レーザー光の位相を変更する手段」という点で一致する。

ウ.また,引用発明において「光学系14」が「レーザ光Lを加工対象物2の内部に集光するための集光レンズを含」むことと,本願発明1において「前記空間光変調器で変調された前記レーザー光を前記ウェーハの内部に集光する集光レンズ」を備えることは,「前記レーザー光を前記ウェーハの内部に集光する集光レンズ」を備える点で一致する。

エ.また,引用発明の「加工対象物2における最大加工深さTに応じた正の球面収差を補正するように,レーザ光Lに対して負の球面収差を付加する光学系14」は,加工対象物2の深さTに応じた分だけレーザ光Lの収差を付加しているから,本願発明1の「前記ウェーハのレーザー光入射面から所定の基準深さまでのウェーハ厚さに応じた分だけ前記レーザー光の収差を補正する収差補正手段」に相当する。

オ.そして,引用発明の「収差付加部材15の厚さをT-Wとなるよう適宜設定可能である制御装置11」と,本願発明1の「前記ウェーハの前記基準深さから前記レーザー光を集光させる位置までのウェーハ厚さに応じた分だけ前記レーザー光の収差が補正されるように,前記空間光変調器を制御する制御部」は,「前記レーザー光の位相を変更する手段を設定可能な制御手段」という点で一致する。

カ.したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

<一致点>
「ウェーハの内部に集光点を合わせてレーザー光を照射することにより,前記ウェーハの切断予定ラインに沿って前記ウェーハの内部に改質領域を形成するレーザー加工装置であって,
前記レーザー光を出力するレーザー光源と,
前記レーザー光の位相を変更する手段と,
前記レーザー光を前記ウェーハの内部に集光する集光レンズと,
前記ウェーハを前記レーザー光に対して相対的に移動させる移動手段と,
前記ウェーハのレーザー光入射面から所定の基準深さまでのウェーハ厚さに応じた分だけ前記レーザー光の収差を補正する収差補正手段と,
前記レーザー光の位相を変更する手段を設定可能な制御手段と,
を備えるレーザー加工装置。」

<相違点1>
本願発明1は「前記レーザー光源から出力された前記レーザー光を変調する空間光変調器」及び「前記ウェーハの前記基準深さから前記レーザー光を集光させる位置までのウェーハ厚さに応じた分だけ前記レーザー光の収差が補正されるように,前記空間光変調器を制御する制御部」を備えているのに対して,引用発明は「レーザ光Lに,加工対象物2内の距離T-Wに相当する正の球面収差を付加する収差付加部材15」及び「収差付加部材15の厚さをT-Wとなるよう適宜設定可能である制御装置11」を備えている点。

<相違点2>
集光レンズが集光するレーザー光が,本願発明1では「前記空間光変調器で変調された前記レーザー光」であるのに対して,引用発明は「前記空間光変調器で変調された前記レーザー光」ではない点。

(2)相違点についての判断
ア.相違点1について
(ア)上記相違点1について検討すると,引用文献2記載の技術的事項に示すように,「加工対象物の内部に集光されるレーザ光の収差が所定の収差以下となるように,レーザ光を位相変調する反射型空間光変調器を制御部で制御すること。」は,本願の出願前に公然知られた事項である。
(イ)そして,引用文献2記載の技術的事項の「反射型空間光変調器」及び「制御部」は,協働することで,「加工対象物の内部に集光されるレーザ光の収差を所定の収差以下とする」機能を奏しているといえる。
(ウ)これに対して,引用発明は,実際の加工深さWよりも深い距離Tに応じた球面収差を補正するように,「光学系14」でレーザ光に過剰な負の収差を付加し,この過剰な負の収差を打ち消して,実際の加工深さWに応じた収差となるように「収差付加部材15」及び「制御装置11」で正の収差を付加している。そうすると,引用発明の「収差付加部材15」,「光学系14」及び「制御装置11」の3つの手段が協働することで,加工対象物2の加工深さWに応じた収差を補正する,すなわち集光されるレーザ光の収差を所定の収差以下とする機能を奏しているといえる。
したがって,引用発明における「収差付加部材15」,「光学系14」及び「制御装置11」と,引用文献2記載の技術的事項における「反射型空間光変調器」及び「制御部」とが,いずれも「加工対象物の内部に集光されるレーザ光の収差を所定の収差以下とする」機能を奏する点で,同等の関係にあるといえる。
(エ)そして,引用発明における「収差付加部材15」,「光学系14」及び「制御装置11」と,引用文献2記載の技術的事項における「反射型空間光変調器」及び「制御部」が同等な関係であることを前提とすれば,仮に,当業者が,引用発明の構成の一部を引用文献2記載の技術的事項を適用して置換するとしても,引用発明の「収差付加部材15」,「光学系14」及び「制御装置11」を,引用文献2記載の技術的事項における「反射型空間光変調器」及び「制御部」に置換することが自然であり,引用発明の「光学系14」を残して,「収差付加部材15」及び「制御装置11」のみを,引用文献2記載の技術的事項の「反射型空間光変調器」及び「制御部」に置換する理由があるとはいえない。
(オ)また,引用発明は,上記(ウ)で説示するとおり,「光学系14」でレーザ光に過剰な負の収差を付加し,この過剰な負の収差を打ち消すように「収差付加部材15」及び「制御装置11」で正の収差を付加するのであるから,引用発明の「収差付加部材15」及び「制御装置11」は,収差を増大させるように機能している。
これに対して,引用文献2記載の技術的事項の「反射型空間光変調器」及び「制御部」が収差を減少させるように機能するものであることは,上記(イ)に説示するとおりであり,引用発明の「収差付加部材15」及び「制御装置11」と,引用文献2記載の技術的事項の「反射型空間光変調器」及び「制御部」は,前者が収差の増大,後者が収差の減少というように,逆方向に収差を変更するよう機能している。
このような機能からみても,当業者が,引用発明の「収差付加部材15」及び「制御装置11」に替えて,逆方向に収差を変更する機能を有する引用文献2記載の技術的事項の「反射型空間光変調器」及び「制御部」をあえて採用する動機があるとはいえない。
(カ)さらに,引用文献3を参照しても,当業者が,引用発明の「収差付加部材15」及び「制御装置11」に替えて引用文献2記載の技術的事項の「反射型空間光変調器」及び「制御部」を採用するとはいえない。

イ.小括
以上のとおりであるから,相違点2について検討するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用文献1ないし3に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2ないし4について
本願発明2ないし4も,本願発明1の「空間光変調器」及び「制御部」を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献1ないし3に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明5ないし8について
本願発明5ないし8は,本願発明1ないし4のレーザー加工装置に対応するレーザー加工方法の発明であり,本願発明1の「空間光変調器」に対応する「変調工程」及び「制御部」に対応する「制御工程」という構成を備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献1ないし3に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明1ないし8は,当業者が,引用発明及び引用文献1ないし3に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-11-27 
出願番号 特願2015-49227(P2015-49227)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B23K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 竹下 和志  
特許庁審判長 見目 省二
特許庁審判官 栗田 雅弘
刈間 宏信
発明の名称 レーザー加工装置及びレーザー加工方法  
代理人 松浦 憲三  
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