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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60R
管理番号 1357272
審判番号 不服2019-178  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-09 
確定日 2019-12-10 
事件の表示 特願2015-165393号「車両用オーナメント」拒絶査定不服審判事件〔平成29年3月2日出願公開、特開2017-43145号、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年8月25日の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成29年 9月 8日付け:拒絶理由通知書
平成29年11月17日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 2月 9日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
平成30年 6月21日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 9月28日付け:平成30年6月21日の手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定(原査定)
平成31年 1月 9日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 1年 5月10日付け:拒絶理由通知書(当該拒絶理由通知書による拒絶理由を以下「当審拒絶理由1」という。)
令和 1年 7月10日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年 7月30日付け:拒絶理由通知書(当該拒絶理由通知書による拒絶理由を以下「当審拒絶理由2」という。)
令和 1年10月 7日 :意見書、手続補正書の提出


第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

[理由1]
本願の請求項1?6に係る発明は、以下の引用文献A?Bに基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2010-66152号公報
B.特開2010-30215号公報

[理由2]
平成29年11月17日付け手続補正書でした補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


請求項5や段落[0012]には、「前記光沢膜は、前記膜状体の裏側面に形成されることで、前記膜状体の表側面から見たときに金属色を示すためのものであり」という記載があり、この記載から、光沢膜は金属色を示すことが把握できる。
しかしながら、出願当初の明細書等を参照しても、光沢膜自身が金属色を呈することは記載されているとはいえない。
よって、この補正は願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえない。


第3 当審拒絶理由1の概要
当審拒絶理由1の概要は次のとおりである。

[理由1]
本願の請求項1?5に係る発明は、以下の引用文献1?4に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2010-50598号公報 (当審において新たに引用した文献)
2.特開2010-66152号公報 (原査定の引用文献A)
3.特開2014-94473号公報 (当審において新たに引用した文献)
4.特開2008-132773号公報(当審において新たに引用した文献)


第4 当審拒絶理由2の概要
当審拒絶理由2の概要は次のとおりである。

[理由1]
本願の請求項1?5に係る発明は、以下の引用文献1?4に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2010-50598号公報 (当審拒絶理由1における引用文献1)
2.特開2010-66152号公報 (当審拒絶理由1における引用文献2、原査定の引用文献A)
3.特開2014-94473号公報 (当審拒絶理由1における引用文献3)
4.特開2008-132773号公報 (当審拒絶理由1における引用文献4)
5.特開2010-216924号公報 (当審において新たに引用した文献)


第5 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、令和1年10月7日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる(以下、「本願発明1?5」という。)。なお、下線部は補正箇所を示す。

「【請求項1】
電波透過性を有し且つ金属成分を含まない半透明のフィルムと、
前記フィルムの裏側面に形成されたグレーの印刷膜又は塗装膜と、
前記フィルムの表側面に所定の模様を描くように部分的に形成された光遮断膜と、
光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材と、
を備え、
前記フィルムは、数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みで積層されてなるフィルムであり、
前記表面部材及び前記フィルムの積層方向において、前記所定の模様が描かれている位置は、前記表面部材と、前記フィルムと、前記グレーの印刷膜又は塗装膜とが順に積層されており、
前記表面部材及び前記フィルムの積層方向において、前記所定の模様が描かれている位置以外の位置は、前記表面部材と、前記光遮断膜と、前記フィルムと、前記グレーの印刷膜又は塗装膜とが順に積層されており、
前記フィルムは、前記所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備え、
前記グレーの印刷膜又は塗装膜は、前記フィルムの表側面から入射して裏側面まで透過した光を表側面に反射させ、
前記フィルムは、前記グレーの印刷膜又は塗装膜が前記透過した光を表側面に反射させることにより、該グレーの印刷膜又は塗装膜が形成されていない場合に比べてより鮮やかな金属調光沢を呈する、車両用オーナメント。
【請求項2】
前記光遮断膜が形成された部分とそうでない部分とで明度および/または彩度が異なる、請求項1に記載の車両用オーナメント。
【請求項3】
前記光遮断膜が印刷膜または塗膜である、請求項1または請求項2に記載の車両用オーナメント。
【請求項4】
前記フィルムは、表側面から見たときに前記光遮断膜が形成されていない部分のみが金属色を示すためのものであり、
前記グレーの印刷膜又は塗装膜の明度によって、その明度に応じた前記金属色を有する、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の車両用オーナメント。
【請求項5】
前記車両用オーナメントの少なくとも一部は車載レーダー装置の送受信電波領域内に配置される部材である、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の車両用オーナメント。」


第6 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
引用文献1には、図面ととも次の事項が記載されている。

(1-1)「【0001】
本発明は、通信機器、電磁波式レーダー等電磁波を利用する機器の外装等の部材に用いることができる金属光沢を有しながらも、電磁波の透過性に優れた電磁波透過性部材に使用される金属光沢調装飾フィルムに関するものである。
・・・
【0007】
本発明は、通信機器、電磁波式レーダー等電磁波を利用する機器の外装等の部材に用いることができ、金属光沢の意匠を有しながら、電磁波の透過性に優れる電磁波透過性部材に使用される電磁波透過性金属光沢調装飾フィルムを提供するとことを課題とする。
・・・
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の詳細を説明する。
・・・
【0012】
本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、図1に示すように、熱可塑性樹脂Aからなる層(A層)1と熱可塑性樹脂Bからなる層(B層)2を交互にそれぞれ30層以上積層した構造を含んでなる。
・・・
【0020】
本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムにおいて、A層とB層を交互に積層した構造を含むとは、A層とB層を厚み方向に交互に積層した構造を有している部分が存在することで定義される
また、本発明ではA層とB層が厚み方向に交互にそれぞれ30層以上積層された構造が望ましい。より好ましくは、200層以上である。さらに、好ましくはA層とB層の総積層数が600層以上である。A層とB層が厚み方向に交互にそれぞれ30層以上積層した構造でないと、十分な反射率が得られなくなり、輝度の高い金属調の外観とはならない。
また、A層とB層が厚み方向に交互にそれぞれ200層以上含まれていると、波長帯域400?1000nmの相対反射率を40%以上とすることが容易となる。また、A層とB層の総積層数が600層以上であると、波長帯域400?1000nmの相対反射率を60%以上とすることが容易となり、非常に輝度の高い金属調の外観を有することが容易となる。また、積層数の上限値としては特に限定するものではないが、装置の大型化や層数が多くなりすぎることによる積層精度の低下に伴う波長選択性の低下を考慮すると、1500層以下であることが好ましい。
・・・
【0023】
本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、150℃における引張試験において、フィルム長手方向、および幅方向の100%伸度時の引張応力がそれぞれ、3MPa以上90MPa以下であることが望ましい。このような場合、成形性に優れたものとなり、真空成形、真空圧空成形、プラグアシスト真空圧空成形、インモールド成形、インサート成形、冷間成形、プレス成形、絞り成形などの各種成形において、任意の形状に成形することが容易となる。より好ましくは、150℃における引張試験において、フィルム長手方向、および幅方向の100%伸度時の引張応力がそれぞれ、3MPa以上50MPa以下である。このような場合、より高い絞り比でも成形可能となる。150℃における引張試験において、フィルム長手方向、および幅方向の100%伸度時の引張応力がそれぞれ、3MPa以上90MPa以下とするためには、熱可塑性樹脂Aが結晶性樹脂であり、熱可塑性樹脂Bがシクロヘキサンジメタノール単位、スピログリコール単位、ネオペンチルグリコール単位などの嵩高い基を有する非晶性樹脂であることが好ましい。このような場合、二軸延伸後においても熱可塑性樹脂Bはほとんど配向および結晶化していないため、引張応力が低くなるものである。また、各樹脂の融点以上でA層とB層からなる積層体を形成し冷却固化せしめるまでの時間が3分以上であることも好ましい。これは、A層とB層の界面に形成される混在層が厚くなるために、引張応力が低くなったものと推察している。さらに、層厚みが20nm以下の層が含まれているのも好ましい。層厚みが20nm以下になると、延伸してもさらに配向や結晶化が進みにくくなるために、引張応力も低下するものである。
【0024】
また、本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、層対厚み10nm以上220nm未満の層の数が層対厚み220nm以上320nm以下の層の数より多い。このようにすることにより、ほとんど色づきのない金属調とすることが可能となる。ここで、層対厚みとは、隣接するA層とB層のそれぞれの層厚みを足した厚みである。また、層対厚みは、A層のみについて一方の表面から数えたm番目のA層と、B層のみについて同表面から数えたm番目のB層の層厚みを足したものである。ここでmは整数を表している。例えば、一方の表面から反対側の表面にA1層/B1層/A2層/B2層/A3層/B3層・・・・の順番で並んでいた際、A1層とB1層が1番目の層対であり、A2層とB2層が2番目の層対であり、A3層とB3層が3番目の層対となる。層対厚み10nm以上220nm未満の層の数が、層厚み220nm以上320nm以下の層の数と同数または少ないと、波長帯域400?1100nmの反射帯域において低波長側ほど反射率が低下するため、赤味をおびた外観となるので好ましくない。これは、低波長側の反射を起こす層対の密度が薄くなるために起こるものである。従って、積層フィルムを構成する層の層対厚みの序列としては、単調に等差数列的に層対厚みが増加もしくは減少するのではなく、上記条件を満たしながら等比数列的に層対厚みが増加もしくは減少することが好ましい。より好ましくは、層対厚み120nm以上220nm未満の層の数が、層対厚み220nm以上320nm以下の層の数の1.05倍以上2.5倍以下であることが好ましい。この場合、まったく色づきのない金属調とすることが可能である。
・・・
【0027】
本発明に係る電磁波発信器から発信される又は電磁波受信器に受信される電磁波の経路上に使用される電磁波透過性部材としては、上記電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムを含む成形体であることが望ましい。本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム以外に、ハードコート層、エンボス層、耐候層(UVカット層)、着色層、接着層、基材樹脂層などのいずれかを含んでなることも好ましい。このような成形体は、すべての層を樹脂などの有機物や酸化ケイ素など電磁波を吸収しない無機化合物で構成することが可能であり、金属や重金属などを含まないため、環境負荷が小さく、リサイクル性にも優れ、電磁波障害を起こさないものである。既存の技術では、アルミなどの金属薄膜層の蒸着等が行なわれているが、電磁波の送受信を必要とする電磁波発信器又は電磁波受信器の電磁波経路上にこれら既存の技術を活用した外装部材を使用すると、意匠性は向上するかも知れないが、本来必要な発信器や受信器の送受信機能を損なう可能性がある。そこで、本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、自動車のミリ波レーダーの機能を損なわないという観点から、76GHzにおける電磁波の減衰率が2.0dB以下であることが望ましい。より好ましくは、76GHzにおける電磁波の減衰率が1.0dB以下である。このような場合、本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムを用いても本来の機能を損なうことのない自動車のミリ波レーダーの電磁波経路上に使用される電磁波透過性部材となることが可能である。このとき、電磁波透過性部材と電磁波送信器あるいは電磁波受信器との距離は10m以内であることが好ましい。
【0028】
本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、その片面または両面に表面に着色層が形成されたものであることが好ましい。本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、可視光線の一部は透過する設計とできるので、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能となる。着色層を設けるには印刷によることが好ましい。」

(1-2)「【0058】
(実施例1)
・・・
【0061】
3.フィルムの作製
次に、本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムを構成する2種類の熱可塑性樹脂として、合成したポリエステル1とポリエステル2を準備した。ポリエステル191.46wt%に、平均2次粒径が1μmの凝集シリカ粒子を0.04wt%、マロン酸エステル系の紫外線吸収剤(クラリアント・ジャパン社製 ”サンデュボアB-CAP”)を8.5wt%混合し、これを熱可塑性樹脂Aとした。次にポリエステル2を熱可塑性樹脂Bとした。これら熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bは、それぞれ乾燥した後、別々の押出機に供給した。
・・・
【0064】
この一軸延伸フィルムをテンターに導き、100℃の熱風で予熱後、110℃の温度で横方向に3.3倍延伸した。延伸したフィルムは、そのまま、テンター内で240℃の熱風にて熱処理を行い、続いて同温度にて幅方向に8%の弛緩処理を施し、その後、室温まで徐冷後、巻き取った。得られたフィルムの厚みは、100μmであり、厚みむらは4.0%であった。ここで得られた電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムを3とする。得られた結果を表1のフィルム特性に示す。
【0065】
4.後加工、成形
次に上記3項の方法で得たフィルムを用いて自動車のミリ波レーダーの電磁波経路上に使用される自動車用エンブレム(電磁波透過性部材)を作製した。フィルムの両面に透明の印刷層を印刷した。このとき、金属光沢調に見せない部分は光を透過しない黒インキを使用した印刷層をさらに設けた。この印刷層を施したフィルムを、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)と一体成形し、続いてアクリロニトル・エチレン・スチレン(AES)と一体成形し、印刷層を施したフィルムが積層された自動車用エンブレムを得た。自動車用エンブレムの断面の一部を図2に示す。得られた結果を表1に示す。
・・・
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明のフィルムの積層構造の一部を示す模式図
【図2】自動車用エンブレムの断面構造の一部を示す模式図」

(1-3)引用文献1には、以下の表及び図が示されている。


引用文献1には、「自動車用エンブレム」に関する技術について開示されているところ、上記摘記事項から次のことが認定できる。

(2-1)上記摘記(1-2)によれば、【図2】は、「自動車用エンブレムの断面構造の一部を示す模式図」(【0074】)であるところ、「3」は、「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」であり(【0064】)、「黒色インキ層」は、【0065】に記載されている「黒インキを使用した印刷層」に対応し、「4」は同じく【0065】に記載されている「透明の印刷層」に対応している。

(2-2)上記(2-1)及び【0065】の記載内容を踏まえると、
ポリメチルメタクリレート層、黒色インキ層、透明の印刷層、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム、アクリロニトリル・エチレン・スチレン層を備え、自動車のミリ波レーダーの電磁波経路上に使用される自動車用エンブレムであって、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムの両面に透明の透明の印刷層を印刷し、金属光沢調に見せない部分は光を透過しない黒色インキ層の印刷層をさらに設けたフィルムを、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)と一体成形し、続いてアクリロニトル・エチレン・スチレン(AES)と一体成形して得ること。

また、当該「黒色インキ層」は「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」の「ポリメチルメタクリレ-ト層」側の面に部分的に形成されており、「ポリメチルメタクリレ-ト層」及び「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」の積層方向において、「金属光沢調に見せない部分」以外の部分には、「ポリメチルメタクリレ-ト層」と、「透明の印刷層」と、「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」と、「透明の印刷層」と、が順に積層されており、「金属光沢調に見せない部分」は、「ポリメチルメタクリレ-ト層」と、「黒色インキ層」と、「透明の印刷層」と、「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」と、「透明の印刷層」と、が順に積層されていること。

(2-3)【0027】の記載内容によれば、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは電磁波を吸収しない無機化合物で構成することが可能であり、金属や重金属などを含まないこと。

(2-4)【0028】の記載内容によれば、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、その片面の表面に着色層が形成されたものであることが好ましく、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、可視光線の一部は透過する設計とできるので、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能となるものであり、着色層を設けるには印刷によることが好ましいこと。

(2-5)【0012】の記載内容によれば、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、図1に示すように、熱可塑性樹脂Aからなる層(A層)1と熱可塑性樹脂Bからなる層(B層)2を交互にそれぞれ30層以上積層した構造を含んでなること。また、【0020】の記載内容によれば、A層とB層が厚み方向に交互にそれぞれ30層以上積層された構造が望ましく、より好ましくは、200層以上であり、さらに、好ましくはA層とB層の総積層数が600層以上であること、及び、積層数の上限値としては、1500層以下であることが好ましいこと。さらに、【0024】の記載内容によれば、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、層対厚み10nm以上220nm未満の層の数が層対厚み220nm以上320nm以下の層の数より多く、このようにすることにより、ほとんど色づきのない金属調とすることが可能となり、ここで、層対厚みとは、隣接するA層とB層のそれぞれの層厚みを足した厚みであること。

(3)以上によれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「ポリメチルメタクリレート層、黒色インキ層、透明の印刷層、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム、アクリロニトリル・エチレン・スチレン層を備え、自動車のミリ波レーダーの電磁波経路上に使用される自動車用エンブレムであって、
電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムの両面に透明の透明の印刷層を印刷し、金属光沢調に見せない部分は光を透過しない黒色インキ層の印刷層をさらに設けたフィルムを、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)と一体成形し、続いてアクリロニトル・エチレン・スチレン(AES)と一体成形して得るものであり、

電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、
電磁波を吸収しない無機化合物で構成され、金属や重金属などを含まず、
その片面の表面に着色層が形成され、
可視光線の一部は透過する設計とし、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能であり、着色層を設けるには印刷によるものであり、
熱可塑性樹脂Aからなる層(A層)1と熱可塑性樹脂Bからなる層(B層)2を交互にそれぞれ30層以上積層した構造を含んでなり、A層とB層が厚み方向に交互にそれぞれ200層以上又は600層以上積層された構造が望ましく、積層数の上限値としては、1500層以下であって、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、層対厚み10nm以上220nm未満の層の数が層対厚み220nm以上320nm以下の層の数より多いものであり、

ポリメチルメタクリレ-ト層及び電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムの積層方向において、金属光沢調に見せない部分以外の部分には、ポリメチルメタクリレ-ト層と、透明の印刷層と、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムと、透明の印刷層と、が順に積層されており、

ポリメチルメタクリレ-ト層及び電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムの積層方向において、金属光沢調に見せない部分は、ポリメチルメタクリレ-ト層と、黒色インキ層と、透明の印刷層と、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムと、透明の印刷層と、が順に積層される、

自動車用エンブレム。」

2 引用文献2(引用文献A)について
引用文献2(引用文献A)には、次の記載がある。
(1-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されて前記車両周囲の障害物を検知するレーダの検知側に配置され、透明部材を備えると共に、前記透明部材の前記レーダに対向する対向面に金属塗装層が形成されたレドームであって、
前記金属塗装層には、複数の箔状金属片が前記透明部材の前記対向面と各々略平行する姿勢で埋没していることを特徴とするレドーム。」

(1-2)
「【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、製造に大規模又は特別な設備を必要とせず、製造過程における歩留まりを向上させ、レーダによる検知を妨げることなくメッキや金属蒸着等と実質的に同等な鏡面状の金属光輝面を有するレドームを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明のレドームは、車両に搭載されて車両周囲の障害物を検知するレーダの検知側に配置され、透明部材を備えると共に、透明部材のレーダに対向する対向面に金属塗装層が形成されたレドームであって、金属塗装層には、複数の箔状金属片が透明部材の上記対向面と各々略平行する姿勢で埋没しているという構成を採用する。
【0010】
このような構成を採用する本発明では、まず、透明部材のレーダに対向する面に複数の箔状金属片と透明樹脂とを含有する塗料を塗布する。次に、上記塗料を乾燥させつつ箔状金属片を透明部材の上記面と各々略平行する姿勢に配向させる。
【0011】
したがって、本発明では、通常の塗装工程を用いて金属塗装層を形成することができる。また、本発明では、塗膜の透明樹脂内に複数の箔状金属片が透明部材の上記面と各々略平行する姿勢で埋没しているため、上記塗膜の厚みを、従来のメタリック塗装による塗膜に比べて薄くすることができ、レーダによる検知を妨げない程度の厚みに限定することができる。また、本発明では、透明部材の外部から入射する光が箔状金属片によって略同一方向で反射する。
・・・
【0021】
まず、レドーム10が設けられているラジエータグリル1の構成を、図1を参照して説明する。
図1に示すように、ラジエータグリル1は、車両の前面に設けられる車両構成体であり、複数の水平方向に延びる部材及び複数の垂直方向に延びる部材が一体となって構成されている。また、ラジエータグリル1は、その前面中央部にレドーム10を備えている。なお、レドーム10の背面側にはレーダ20(図3参照)が設置されている。
【0022】
本実施形態におけるレーダ20は、車両に搭載され電波を用いて車両周囲の障害物を検知するものであり、より具体的には、車両と車両前方の障害物との距離や相対速度等を計測するものである。
また、レーダ20は、車間距離検知用レーダの適用周波数である76GHz?77GHzの電波(ミリ波)を出射する発信部と、障害物からの反射電波を受信する受信部とを有している。
なお、レーダ20が出射した電波がレドーム10を透過すると電波の減衰が生じるが、レーダ20が安定して動作し車両と障害物との距離等を正しく計測するために、上記減衰はできるだけ低く抑える必要がある。
【0023】
次に、レドーム10の構成を、図2ないし図4を参照して説明する。
図2に示すように、レドーム10は、前面側から見た場合に金属鏡面状を呈する金属部10Aと、黒色を呈する黒色部10Bとを有している。
図3に示すように、レドーム10は、前面側から背面側に向かって、透明(着色透明を含む)部材11、第1着色層12、金属塗装層13、第2着色層14、接着剤層15及びベース部材16が順次配置され一体的に設けられた構成となっている。
【0024】
透明部材11は、前面側から見て略矩形を呈する板状部材であり、その背面側の金属部10Aに対応する部分には凹部11Aが形成されている。この凹部11Aは、前面から見た場合に金属部10Aを立体的に視認させるためのものである。金属部10Aに立体感を付与する必要がない場合には、凹部11Aを形成する必要はない。また、透明部材11は、例えばポリカーボネート等の透明合成樹脂で形成され、その部材厚みは3mm?10mmである。
透明部材11の前面側及び背面側の表面は共に平滑面となるように成形され、凹部11Aの背面側表面である凹部表面(対向面)11B(図4参照)は、特に平滑面となるように成形されている。また、透明部材11の前面側の表面には擦過等に対する耐久性を向上させ傷等の発生を防止するいわゆるハードコート処理がなされている。
【0025】
透明部材11の背面側における凹部11A以外の部分には、第1着色層12が黒色の合成樹脂塗料を塗布することにより形成されている。なお、第1着色層12は黒色以外の色であってもよい。
【0026】
金属塗装層13は、凹部表面11Bに厚み0.2μm以下で形成されており、いわゆるバインダーと称される透明(着色透明を含む)樹脂分13S内に複数の箔状金属片Mが埋没した構成となっている。但し、本実施形態では第1着色層12の背面側表面にも金属塗装層13が形成されており、このような構成であってもよい。
なお、金属塗装層13は、複数の箔状金属片Mと透明樹脂分13Sとを含有する塗料13L(図6(c)参照)の塗膜を乾燥させることで形成される。透明樹脂分13Sとしては、例えばPVC(ポリ塩化ビニル)が使用される。
・・・
【0028】
第2着色層14は、金属部10Aにおける色調の調整及び金属塗装層13の保護のために用いられる塗装層であり、金属塗装層13の背面側表面に灰黒色の合成樹脂塗料を塗布して形成され、その厚みは20μm?30μmである。なお、第2着色層14は、灰黒色以外の色であってもよい。
・・・
【0030】
ベース部材16は、例えばABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)、AES(アクリロニトリル・エチレン・スチレン共重合合成樹脂)等の合成樹脂からなり、その部材厚みは3mm?10mmである。また、ベース部材16は、金型装置内に第1着色層12から接着剤層15までが形成された透明部材11をインサートし射出成形等を用いて接着剤層15の背面側表面に形成される。さらに、ベース部材16は、レドーム10をラジエータグリル1に取り付けるための取付片16Aを有しており、取付片16Aはレドーム10の背面側から紙面上下方向に突出した形状となっている。
・・・
【0043】
ここで、レドーム10に形成された金属塗装層13に求められる電波の減衰の許容値は、レーダ20の性能等により変動する。すなわち、金属塗装層13を透過した電波の減衰が大きいとしても、レーダ20から出射される電波の出力を増加させれば、必要な範囲において障害物を検知することは可能である。しかし、出力の増加にはレーダ20の外形の増大や消費電力の増加等を伴うため、特に設置スペースや消費電力に制限のある車載レーダ等については出力の増加は容易ではない。そして、車載レーダ用レドーム10に形成された金属塗装層13に求められる電波の減衰の最大許容値は、3.0dBである。
この許容値に合致する金属塗装層13の厚みを図7を用いて検討すると、金属塗装層13の厚みを凡そ0.13μm以下とすると車載レーダ用レドーム10には十分使用できることが判明した。
・・・
【0049】
また、上記実施形態では、灰黒色の塗料を金属塗装層13の背面側表面に塗布することで第2着色層14を形成しているが、異なる色の塗料を複数回塗布することで第2着色層14を形成してもよい。例えば灰黒色の塗料を塗布した後に黒色の塗料を塗布してもよい。黒色の塗料を塗布することで、金属部10Aの色調をより鮮明にすることができる。
また、金属塗装層13の背面側に別途成形した有色のベース部材16を貼付し、レドーム10を製造する場合は、第2着色層14は形成せずともよい。
【0050】
また、上記実施形態では、透明部材11の前面側及び背面側には共に平滑面が形成されているが、上記平滑面を透明塗装層により形成してもよい。
【0051】
また、第2着色層14として灰黒色及び黒色以外の色を使用してもよい。前述の通り、金属部10Aの表面側から入射した光は箔状金属片M及び第2着色層14にて反射するが、第2着色層14の色を変更することで金属部10Aの色調を変化させることができる。」

(2)引用文献2(引用文献A)の上記摘記事項から次のことが認定できる。
【0043】の「ここで、レドーム10に形成された金属塗装層13に求められる電波の減衰の許容値は、レーダ20の性能等により変動する。・・・(中略)・・・金属塗装層13の厚みを凡そ0.13μm以下とすると車載レーダ用レドーム10には十分使用できることが判明した。」との記載から、「厚みを凡そ0.13μm以下と」した「金属塗装層13」が電波透過性を有すること。

(3)以上から、引用文献2には以下の技術的事項が記載され(以下「引用文献2に記載の技術的事項」ということもある。)、引用文献Aには以下の発明が記載されている(以下「引用発明A」ということもある。)。

「前面側から背面側に向かって、透明部材11、第1着色層12、金属塗装層13、第2着色層14、接着剤層15及びベース部材16が順次配置され一体的に設けられた構成となっており、
ベース部材16は、金型装置内に第1着色層12から接着剤層15までが形成された透明部材11をインサートし射出成形等を用いて接着剤層15の背面側表面に形成され、
前面側から見た場合に金属鏡面状を呈する金属部10Aと、黒色を呈する黒色部10Bとを有し、
透明部材11は、前面側から見て略矩形を呈する板状部材であり、その背面側の金属部10Aに対応する部分には凹部11Aが形成され、
透明部材11の背面側における凹部11A以外の部分には、第1着色層12が黒色の合成樹脂塗料を塗布することにより形成され、
金属塗装層13は、凹部11Aの背面側表面である凹部表面11Bに厚み0.2μm以下で形成されており、いわゆるバインダーと称される透明樹脂分13S内に複数の箔状金属片Mが埋没した構成となっており、第1着色層12の背面側表面にも金属塗装層13が形成されており、
第2着色層14は、金属部10Aにおける色調の調整及び金属塗装層13の保護のために用いられる塗装層であり、金属塗装層13の背面側表面に灰黒色の合成樹脂塗料を塗布して形成され、
金属部10Aの表面側から入射した光は箔状金属片M及び第2着色層14にて反射するが、第2着色層14の色を変更することで金属部10Aの色調を変化させることができ、
金属塗装層13は電波透過性を有し、
背面側にはレーダ20が設置されているレドーム10。」


3 引用文献3について
引用文献3には、次の記載がある。
「【0058】
本発明の積層体に用いられる反射防止層は、反射防止層表面でのL^(*)a^(*)b^(*)表示系における明度L^(*)が40以下であり、好ましくは38.5以下、より好ましくは37.5以下である。明度L^(*)が40を超えると、高分子色素の薄い高分子色素の膜を透過した光が反射し、膜での反射光と混ざり合うことで金属光沢調が発現しにくくなる。反射防止層に用いられる材料としては特に限定されず、例えば、樹脂、紙、木材、金属等が好適に用いられる。
・・・
【0064】
本発明の構造体は、基体上に本発明の積層体を具備したものである。本発明の構造体をなす基体は、例えば、各種工業材料、特に、自動車、通信機器(携帯電話、PDA、リモコン、携帯情報端末、電子辞書、電子手帳等)、家電機器、建築部材等があげられるが、電磁波の透過性や金属調光沢を具備することが要求されるものにも用いることができる。
【0065】
本発明の積層体に用いられる高分子色素は、金属を含まないために、従来の、電磁波の透過性や製造過程における環境負荷等の課題を解決することができる。従って、本発明の積層体により、電磁波の透過性が必要とされる基体にも金属調光沢を付与することができ、高級感を高めることで、デザイン性や装飾性を著しく向上することができる。
・・・
【0082】
実施例1?3
2mL容の試験管に、表1に示す高分子色素3mg及びクロロホルム0.448g(0.3mL)を仕込み、溶解させ、均一な溶液を得た。
【0083】
次に、撥水PP(ポリプロピレン)加工を施した灰色上質紙A(L^(*)値 27.31、a^(*)値 0.29、b^(*)値 -0.24、光透過率 1.83%、膜厚 100μm)をガラス板(100mm×100mm、膜厚 200μm)上に貼り付けて、反射防止層を作製した。
【0084】
灰色上質紙の表面にマスキングテープを用いて長方形(10mm×50mm)のパターンを形成し、高分子色素のクロロホルム溶液を流し込み、25℃で、240分間乾燥させることで、高分子色素膜を含む金属光沢調積層体を作製した。」

4 引用文献4について
引用文献4には、次の記載がある。
「【0020】
また、本発明の別の態様による画像形成物は、被転写体上に、昇華型および/または溶融型の熱転写画像が形成された画像形成物であって、
カラー画像、黒色画像、白色画像、およびグレー画像よりなる群から選択される少なくとも1種が形成された画像領域と、その画像領域全体が覆われるように金属光沢画像が形成された画像領域とが、この順で被転写体上に形成されたものであり、
画像形成物表面の、カラー画像、黒色画像、白色画像、およびグレー画像よりなる群から選択される少なくとも1種が形成された画像領域と、それ以外の画像領域との光の反射率が、国際照明委員会(CIE)のL^(*)a^(*)b^(*)表色系におけるL^(*)値の差として、0?20である、ことを特徴とするものである。
・・・
【0071】
(黒色インキ層)
黒色インキ層としては、溶融熱転写記録における公知の熱転写層や、昇華熱転写記録における公知の染料層を、使用することができ、特に限定されるものではない。なお、黒色インキ層を構成する着色剤の含有比率を低下させたり、黒色インキ層の塗布量を少なくしたり、黒色顔料(カーボンブラック)と白色顔料を混ぜて任意のグレー色調に調整して、グレーインキ層を用意して、本発明に利用することが可能である。図6および7に示すように、グレーインキ層を金属光沢層と組み合わせて使用して、金属光沢層の透過率とグレーインキ層の透過率の差を利用した、意匠性の高い画像形成物を形成することもできる。この画像形成物は、光透過量を調整した製品となり、例えば、スモークガラス(スモークフィルム)のような自動車リアウィンドウや、窓ガラスのような用途に使用することができる。
・・・
【0113】
実施例A2
得られたグレーインキリボンを用いて、1回目の熱転写により、PCフィルムの一部分に、星模様のグレー画像を形成した。次いで、得られたメタリックリボンを用いて2回目の熱転写を行い、星模様を覆うように、PCフィルム全面に金属光沢画像を形成した。
・・・
【0125】
また、星印模様の画像を形成した実施例2?5の画像形成物は、いずれも、星印模様がはっきりと認識できるとともに、金属光沢感に優れるものであった。特に、反射光により画像を観察した場合であっても、星印模様がはっきりと認識できるとともに、金属光沢感に優れるものであった。」

5 引用文献5について
(1)引用文献5には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ異なる周波数帯域の光を不透過とするポリエチレン系樹脂の膜層を積層することで、光を全反射する全反射シートの少なくとも一方の面に図柄を印刷した印刷層が設けられた基材を、所定の金型にセットして、当該基材の表裏面に合成樹脂を注入することで成形された装飾部材であって、
前記基材の表裏面に接着層を設け、前記合成樹脂注入時に溶解し、前記基材と合成樹脂とを密着させることを特徴とする装飾部材。」

「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全反射シートが用いられた装飾部材、この装飾部材と距離検出用レーダで構成されたレーダユニット、並びに装飾部材製造方法に関する。
・・・
【0008】
より具体的には、特許文献1のフィルムは、少なくとも2種類以上の可塑性樹脂層が厚み方向に交互に30層以上積層された積層フィルムであって、波長400nm?1000nmにおける反射率が30%以上、150℃における引張試験においてフィルム長手方向および幅方向の100%伸度時の引張応力が3MPa以上90MPa以下、層対厚み10nm以上220nm未満の層の数が層対厚み220nm以上320nm以下の層の数より多く、積層フィルム中にマロン酸エステル系化合物又は蓚酸アニリド系化合物から選ばれた紫外線吸収剤を少なくとも1種類以上含有する。
・・・
【0012】
しかしながら、特許文献1のフィルムは、金属調の外観を持ち、かつ電磁波を透過するが、例えば、車両のエンブレム等の装飾部材として、一部に印刷を施したり、周囲をインジェクション成形等によって合成樹脂で覆った成形品を生成する場合に、注入される合成樹脂とフィルムとの間の密着性に欠け、意匠性が損なわれる。
・・・
【0014】
本発明は上記事実を考慮し、金属調の外観を持ちつつ、例えばミリ波等、特定の周波数の電磁波の通過を抑制することがなく、かつ意匠性に優れた成形品を構成することができる装飾部材、レーダユニット、装飾部材製造方法を得ることが目的である。」

「【0029】
装飾部材10は、大きく分けて、3層構造となっており、その表面側が透明の合成樹脂材(以下、「表面材12」という)で形成され、裏面側が非透明(例えば、黒色でAESやABS等)の合成樹脂材(以下、「裏面材14」という)で形成されている。
・・・
【0031】
基材16は、図2(A)に示される如く、素材として全反射シート22が適用され、その表面(表面材12と対向する面)には、印刷層24が施されている。
【0032】
全反射シート22は、それぞれ異なる周波数帯域の光を不透過とするポリエチレン系樹脂の膜層を積層することで生成されており、光を全反射する、すなわち、鏡面を形成する。鏡面は、研磨された金属面と同様であり、このため、全反射シートは、金属調を持っている。「金属調」ということは、言い換えれば、全く金属を用いずに、金属であるかのような仕上げとなっており、例えば、電磁波の通過を抑制するようなことがない。
【0033】
図3は、全反射シート22の特性を示したものであり、例えば、図3(A)?(C)に示す波長-反射率特性を持つ膜層を積層すると、図4の矢印Aで示されるように、約70?80%の反射率を持ったシートが形成できる。
【0034】
さらに、積層を重ねて17層とすると、図4の矢印Bで示されるように、約90%の反射率を持ったシートが形成できる。
【0035】
本実施の形態では、鏡面仕上げであることが要求されるため、図4の矢印Cで示されるように、膜層を400層又は800層とし、反射率をほぼ100%とした。
【0036】
図2(A)に示される基材16は、図2(B)に示される如く、立体的に加工された状態で、前記表面材12と裏面材14とに挟みこまれており、基材16の凸部が金属調とされ、凹部に印刷層24の黒色領域が位置する。
・・・
【0042】
(装飾部材10の製造方法)
・・・
【0043】
次に、図5(B)に示される如く、この反射シート22を装飾部材10の基材16の外形にカットすると共に、印刷層24を施す。ここでは、反射シート22を楕円形にカットして、2つの島状の領域(対称形)に黒色となった印刷層24を施す。なお、黒色ではない印刷層24は透明であり、反射シート22の表面がむき出しであるため、鏡面となる。
【0044】
なお、印刷層24の印刷パターンは、適用さえる意匠に基づくものであり、上記のような島状の2つの領域(対称形)に限定されるものではない。例えば、楕円の周縁と、意匠対象を強調する頭文字(アルファベット等)を象った部分を鏡面とし、それ以外を背景色(黒色等)としてもよい。
・・・
【0047】
このようにして形成した基材16は、図5(D)に示される如く、表材成形用の金型26にセットする。
【0048】
このとき、下型26Lには、凹凸が形成され、基材16はこの凹凸に応じて立体的に屈曲変形される。屈曲変形した基材16は、凸部が鏡面仕上げとなり、凹部が印刷層24の黒色領域となる。
【0049】
この基材16がセットされた下型26Lに対して、上型26Uをセットする。このとき、基材16の表面側の接着層18と上型26Uの天井面との間に空間が生じており、注入口28から表面材12となる透明の合成樹脂を注入する。
・・・
【0052】
表面材12が固化すると、次に、図5(E)に示される如く、裏面成形用の金型30にセットする。
・・・
【0054】
この基材16と表面材12のアッセンブリがセットされた下型30Lに対して、上型30Uをセットする。このとき、基材16の裏面(ここでは、上面)側の接着層20と上型30Uの天井面との間に空間が生じており、注入口32から裏面材14となる黒色の合成樹脂を注入する。
【0055】
裏材16が固化すると、図5(F)に示される如く、装飾部材10が完成する。
【0056】
この装飾部材10では、視覚的(意匠的)に金属調の見栄えが必要な部材であり、かつ電磁波を通過させる必要がある。
【0057】
そこで、金属調を出すために基材16をポリカーボネイト製等、合成樹脂製の全反射シート22で形成し、金属調をだしたため、電子の移動が制限されるような金属を用いることがなく、ミリ波の電磁波を確実に通過させることができる。
・・・
【0061】
図6至図8には、本発明の装飾部材10を車両50のオーナメント10Aとして適用した実施例が示されている。」

(2)上記記載から、次の事項が認定できる。
ア 【0061】の「装飾部材10を車両50のオーナメント10Aとして適用した」との記載、【0056】及び【0057】の「この装飾部材では、・・・金属調を出すために基材16をポリカーボネイト製等、合成樹脂製の全反射シート22で形成し、金属調をだしたため、電子の移動が制限されるような金属を用いることがなく、ミリ波の電磁波を確実に通過させることができる」との記載から、以下の事項が認定できる。

「 車両50のオーナメント10Aとして適用するものである装飾部材10は、
ミリ波の電磁波を通過させることができ、金属を用いることがない合成樹脂製の全反射シート22で形成した基材16を備えること。」

イ 【0031】の「基材16は、・・・素材として全反射シート22が適用され、その表面(表面材12と対向する面)には、印刷層24が施され」との記載、【0043】の「反射シート22を装飾部材10の基材16の外形にカットすると共に、・・・2つの島状の領域(対称形)に黒色となった印刷層24を施す。」との記載、【0044】の「なお、印刷層24の印刷パターンは、適用さえる意匠に基づくものであり、」との記載から、「黒色となった印刷層24」は、「基材16」に適用される「全反射シート22の表面」に形成されるものであって、また、「意匠に基づく」「印刷パターン」であり、「2つの島状の領域」に「施した」ものであるといえる。
そして、上記アを踏まえると「基材16」は「装飾部材10」に備えられるものであるから、上記アの「装飾部材10」について、以下の事項が認定できる。

「装飾部材10は、基材16に適用される全反射シート22の表面に意匠に基づく印刷パターンであって2つの島状の領域に施した黒色となった印刷層24を備えること。」

ウ 上記イの「装飾部材10」は、【0029】の「装飾部材10は、・・・その表面側が透明の合成樹脂材(以下、「表面材12」という)で形成され、」との記載から、次のことが認定できる。
「装飾部材10は、透明である表面材12を備えること。」

エ 上記アの「装飾部材10」の備える「基材16」に関し、【0036】の記載から、以下の事項が認定できる。

「基材16は、立体的に加工された状態で、表面材12と裏面材14とに挟みこまれていること。」

「基材16の凸部が金属調とされ、凹部に印刷層24の黒色領域が位置すること。」

オ 上記エの「表面材12」に関し、【0047】の「基材は、・・・表材成形用の金型26にセットする。」との記載、【0049】の「この基材16がセットされた下型26Lに対して、上型26Uをセットする。このとき、基材16の表面側の接着層18と上型26Uの天井面との間に空間が生じており、注入口28から表面材12となる透明の合成樹脂を注入する。」との記載、【0050】の「表面材12が固化すると、・・・裏面成形用の金型30にセットする」との記載、【0054】の「この基材16と表面材12のアッセンブリがセットされた下型30Lに対して、上型30Uをセットする。このとき、基材16の裏面(ここでは、上面)側の接着層20と上型30Uの天井面との間に空間が生じており、注入口32から裏面材14となる黒色の合成樹脂を注入する。」との記載、【0054】の「この基材16と表面材12のアッセンブリがセットされた下型30Lに対して、上型30Uをセットする。このとき、基材16の裏面(ここでは、上面)側の接着層20と上型30Uの天井面との間に空間が生じており、注入口32から裏面材14となる黒色の合成樹脂を注入する。」との記載、【0055】の「裏材16が固化すると、・・・装飾部材10が完成する。」との記載から、以下の事項が認定できる。

「基材16が金型26にセットされ、表面材12となる透明の合成樹脂を注入し表面材12が固化すると、この基材16と表面材12のアッセンブリを金型30にセットし、裏面材14となる黒色の合成樹脂を注入して、裏材16が固化すると装飾部材10が完成すること。」

6 引用文献Bについて
(1)引用文献Bには、次の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、意匠性に優れかつ容易に製造できる装飾部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
・・・
【0041】
実施例1の装飾部材は、透明層1と、第1加飾層2と、第2加飾層3と、基材層4とを持つ。
【0042】
透明層1は、透明樹脂材料の一種であるポリカーボネートを材料としてなる。透明層1の後面は凹凸形状をなす。詳しくは、透明層1の後面における径方向外側部分には、略リング状の外側凹部10が形成されている。外側凹部10の径方向内側部分には、略T字状の内側凹部11が形成されている。外側凹部10および内側凹部11は透明層1の前面側に向けて陥没する凹部状をなす。透明層1の後面における外側凹部10の径方向外側部分には外側凸部12が形成され、外側凹部10と内側凹部11との間の領域には内側凸部13が形成されている。外側凸部12および内側凸部13は透明層1の後面側に向けて隆起する凸部状をなす。実施例1の装飾部材における凹部と凸部との凹凸差は2.0?2.5mmである。
【0043】
第1加飾層2は、ポリカーボネートとカーボンブラックとの混合物からなる有色樹脂材料を材料としてなる。第1加飾層2は透明層1の後面に直接形成されている。詳しくは、第1加飾層2は、2色成形法によって外側凸部12と内側凸部13とに直接形成されている。図4に示すように、外側凸部12に形成されている第1加飾層2を外側第1加飾層20と呼び、内側凸部13に形成されている第1加飾層2を内側第1加飾層21と呼ぶ。外側第1加飾層20および内側第1加飾層21は、それぞれ、複数の溝部を持つ。各溝部は、第1加飾層2の後面の一部からなり、透明層1側に向けて陥没し、上下方向に延びる。外側第1加飾層20の溝部を外側溝部26と呼び、内側第1加飾層21の溝部を内側溝部27と呼ぶ。
・・・
【0046】
図5?図8に示すように、第2加飾層3はフィルム体からなり、樹脂フィルム層30と金属蒸着層31とを持つ。樹脂フィルム層30は、PMMAを材料としてなる。金属蒸着層31は、インジウムを材料とし、樹脂フィルム層30に蒸着形成されてなる。第1加飾層2および透明層1に積層する前の第2加飾層3において、金属蒸着層31の厚さは、60nmであり、樹脂フィルム層30の厚さは125μmである。第2加飾層3は、金属蒸着層31を透明層1側に向けて、第1加飾層2および透明層1の後面全面に積層されている。
【0047】
基材層4は、AES樹脂を材料としてなり、第2加飾層3の後面側に射出成形されている。図2?図3に示すように、基材層4は外側凹部10の内側および内側凹部11の内側に入り込んでいる。さらに、基材層4は、外側溝部26および内側溝部27の内側にも入り込んでいる。したがって、基材層4の前面は前層5の後面と略相補的な凹凸形状をなす。
・・・
【0055】
実施例1の装飾部材は、第2加飾層3に由来する意匠(凸状をなす金属色の意匠)と、第1加飾層2に由来する意匠(凹状をなす黒色の意匠)とを立体的に表示する。
・・・
【0071】
(実施例3)
実施例3の装飾部材は、第2加飾層の材料以外は実施例1の装飾部材と同じものである。実施例3の装飾部材は、本発明の装飾部材を自動車用の電波透過カバーに適用した例である。実施例3の製造方法は、上記(3)?(5)を備える。実施例3の装飾部材は、本発明の製造方法で製造した装飾部材である。実施例3の装飾部材は、上記(7)?(8)を備える。実施例3の装飾部材における第2加飾層を模式的に表す説明図を図11に示す。
【0072】
実施例3においては、第2加飾層3として東レ株式会社製のPICASUS(商標)を用いた。この第2加飾層3は、多層構造をなし、金属および顔料を含まない。詳しくは、図12に示すように、第2加飾層3は50?100μm程度の樹脂層35が100層以上積層されてなる。この第2加飾層3における隣接する樹脂層35同士の光屈折率は異なる
。このため、この第2加飾層3は構造発色して金属調の光沢を表示する。したがって、実施例3の装飾部材は、第2加飾層3によって金属色を呈する意匠を表示するにもかかわらず、金属を含まない。このため実施例3の装飾部材は、電波透過性に優れ、電波透過カバーとして好適である。
【0073】
なお、実施例3の製造方法は実施例1の製造方法と同様に意匠性に優れる装飾部材を容易に製造でき、実施例3の装飾部材実施例1の装飾部材と同様に意匠性に優れかつ安価に製造されてなる。」

(2)上記摘記における【0071】の「実施例3の装飾部材は、第2加飾層の材料以外は実施例1の装飾部材と同じものである」との記載、【0072】の「実施例3においては、第2加飾層3として東レ株式会社製のPICASUS(商標)を用いた」、「第2加飾層3は50?100μm程度の樹脂層35が100層以上積層されてなる」、「実施例3の装飾部材は、第2加飾層3によって金属色を呈する意匠を表示するにもかかわらず、金属を含まない」、及び、「実施例3の装飾部材は、電波透過性に優れ」との記載、【0041】の「実施例1の装飾部材は、透明層1と、第1加飾層2と、第2加飾層3と、基材層4とを持つ」との記載、【0042】の「透明層1は、透明樹脂材料の一種であるポリカーボネートを材料としてなる。透明層1の後面は凹凸形状をなす」、「外側凹部10および内側凹部11は透明層1の前面側に向けて陥没する凹部状をなす」、及び、「外側凸部12および内側凸部13は透明層1の後面側に向けて隆起する凸部状をなす」との記載、段落【0043】の「第1加飾層2は、ポリカーボネートとカーボンブラックとの混合物からなる有色樹脂材料を材料としてなる」、「第1加飾層2は、2色成形法によって外側凸部12と内側凸部13とに直接形成されている」との記載、【0046】の「第2加飾層3は、・・・(中略)・・・第1加飾層2および透明層1の後面全面に積層されている」との記載、【0055】の「実施例1の装飾部材は、第2加飾層3に由来する意匠(凸状をなす金属色の意匠)と、第1加飾層2に由来する意匠(凹状をなす黒色の意匠)とを立体的に表示する」との記載から、次の事項が認定できる。

「透明層1と、第1加飾層2と、第2加飾層3と、基材層4とを持つ装飾部材で、電波透過性に優れたものであって、
透明層1は、透明樹脂材料の一種であるポリカーボネートを材料としてなり、透明層1の後面は凹凸形状をなし、外側凹部10および内側凹部11は透明層1の前面側に向けて陥没する凹部状をなし、外側凸部12および内側凸部13は透明層1の後面側に向けて隆起する凸部状をなすものであり、
第1加飾層2は、ポリカーボネートとカーボンブラックとの混合物からなる有色樹脂材料を材料としてなり、2色成形法によって外側凸部12と内側凸部13とに直接形成され、
第2加飾層3は、東レ株式会社製のPICASUS(商標)を用い、50?100μm程度の樹脂層35が100層以上積層されてなり、金属色を呈する意匠を表示するにもかかわらず、金属を含まないものであって、第1加飾層2および透明層1の後面全面に積層されており、
第2加飾層3に由来する意匠(凸状をなす金属色の意匠)と、第1加飾層2に由来する意匠(凹状をなす黒色の意匠)とを立体的に表示する、装飾部材。」


第7 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」は、「電磁波を吸収しない無機化合物で構成され、金属や重金属などを含ま」ないものであり、また、「可視光線の一部は透過する設計とし」たものであるから、半透明であるといえる。
そうすると、引用発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」は、本願発明1の「電波透過性を有し且つ金属成分を含まない半透明のフィルム」に相当する。

イ 引用発明において「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、その片面に表面に着色層が形成され、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、可視光線の一部は透過する設計とし、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能であり、着色層を設けるには印刷によるものであ」ることが特定された「着色層」と、本願発明1の「前記フィルムの裏側面に形成されたグレーの印刷膜又は塗装膜」とは、「前記フィルムの片面に形成された着色のある印刷膜又は塗装膜」の限度で共通する。

ウ 「自動車用エンブレム」では、「アクリロニトル・エチレン・スチレン層」が、車体側のベース部を、「ポリメチルメタクリレート層」などの透明なアクリル系の樹脂が車外側の外装部などの表面部材を構成することが、技術常識である(特開2014-69634号公報の段落【0046】、【0058】、【0067】及び図1?3、5、ベース部6、透明部材2等を参照。)から、「自動車用エンブレム」の「アクリロニトル・エチレン・スチレン層」側面は、「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」の裏側面であり、「ポリメチルメタクリレ-ト層」側面は、「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」の表側面であるといえる。

エ 引用発明の「黒色インキ層」は、「金属光沢調に見せない部分」で「光を透過しない」機能を備えたものであるから、本願発明1の「光遮断膜」に相当する。
また、引用発明の「黒色インキ層」は、「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」の「ポリメチルメタクリレ-ト層」側の面に部分的に形成されたものであり、上記ウの事項をも踏まえると、「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」の表側面に形成されているといえる。
加えて、引用発明が「自動車用エンブレム」に関するものであるところ、「金属光沢調に見せない部分」である「黒色インキ層」と、それ以外の金属光沢調部分とのそれぞれが所定の模様を描くことは技術上明らかである。
そうすると、引用発明の「黒色インキ層」は、本願発明1の「前記フィルムの表側面に所定の模様を描くように部分的に形成された光遮断膜」に相当する。

オ 上記イで述べたように「ポリメチルメタクリレ-ト層」は光透過性であることは技術常識であるから、引用発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムの両面に透明の透明の印刷層を印刷し、金属光沢調に見せない部分は光を透過しない黒色インキ層の印刷層をさらに設けたフィルム」と「一体成形」される「ポリメチルメタクリレ-ト層」は、本願発明1の「光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材」に相当する。

カ 引用発明の「自動車用エンブレム」は、本願発明1の「車両用オーナメント」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明とは、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

<一致点1>
「電波透過性を有し且つ金属成分を含まない半透明のフィルムと、
前記フィルムの片面に形成された着色のある印刷膜又は塗装膜と、
前記フィルムの表側面に所定の模様を描くように部分的に形成された光遮断膜と、
光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材と、
を備える、車両用オーナメント。」

<相違点1>
「着色のある膜又は塗装膜」に関して、
本願発明1は、着色が「グレー」であるのに対し、
引用発明は、具体的な着色の色が特定されていない点。

<相違点2>
「電波透過性を有し且つ金属成分を含まない半透明のフィルム」に関し、
本願発明1は、「数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みで積層されてなる」のに対し、
引用発明は、「熱可塑性樹脂Aからなる層(A層)1と熱可塑性樹脂Bからなる層(B層)2を交互にそれぞれ30層以上積層した構造を含んでなり、A層とB層が厚み方向に交互にそれぞれ200層以上又は600層以上積層された構造が望ましく、積層数の上限値としては、1500層以下であって、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、層対厚み10nm以上220nm未満の層の数が層対厚み220nm以上320nm以下の層の数より多いものであ」る点。

<相違点3>
本願発明1が、「印刷膜又は塗装膜」がフィルムの「裏側面」に形成されたものであり、「前記表面部材及び前記フィルムの積層方向において、前記所定の模様が描かれている位置は、前記表面部材と、前記フィルムと、前記グレーの印刷膜又は塗装膜とが順に積層されており、前記表面部材及び前記フィルムの積層方向において、前記所定の模様が描かれている位置以外の位置は、前記表面部材と、前記光遮断膜と、前記フィルムと、前記グレーの印刷膜又は塗装膜とが順に積層されて」いるのに対して、
引用発明は、「着色層」が電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムの「片面の表面」に形成されたものであり、「ポリメチルメタクリレ-ト層及び電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムの積層方向において、金属光沢調に見せない部分以外の部分には、ポリメチルメタクリレ-ト層と、透明の印刷層と、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムと、透明の印刷層と、が順に積層されており、ポリメチルメタクリレ-ト層及び電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムの積層方向において、金属光沢調に見せない部分は、ポリメチルメタクリレ-ト層と、黒色インキ層と、透明の印刷層と、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムと、透明の印刷層と、が順に積層され」たものである点。

<相違点4>
「前記フィルム」に関し、
本願発明1は、「前記所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備える」のに対し(ただし、「前記所定の模様」は、「前記フィルムの表側面に」「部分的に形成された光遮断膜」の描く「所定の模様」である。)、
引用発明は、エンボス模様を備えていない点。

<相違点5>
本願発明1は、
「前記グレーの印刷膜又は塗装膜は、前記フィルムの表側面から入射して裏側面まで透過した光を表側面に反射させ、前記フィルムは、前記グレーの印刷膜又は塗装膜が前記透過した光を表側面に反射させることにより、該グレーの印刷膜又は塗装膜が形成されていない場合に比べてより鮮やかな金属調光沢を呈する」
ものであるのに対して、引用発明は、
「磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」が、「可視光線の一部は透過する設計とし、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能であり、着色層を設けるには印刷によるものであ」る点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点4について検討する。

ア 本願発明1の技術的意義について
(ア)本願発明1は、令和1年10月7日付け手続補正書による補正後の本願明細書(以下単に「本願明細書」という。)の段落【0006】に記載される、「インジウムは高価なレアメタルであることから、オーナメントにインジウムを使用することはオーナメントのコスト高の要因とな」り、「インジウムは銀白色の金属調光沢を呈するが、色調を明るめまたは暗めにするといった調整が困難である」ため、「インジウムを使用したオーナメントは、色調が単調で所望の意匠性を実現することが困難である」との問題に鑑み、本願明細書の段落【0007】に記載される「自動車のオーナメントに好適な車両用部材を提供すること」を課題とするものである。

(イ)また、本願発明1の構成に関連する実施形態として、本願明細書には以下の記載がある。
「【0027】
膜状体12の裏側面に光沢膜122を形成してもよい。光沢膜122の厚みは任意である。光沢膜122の明度は0%よりも大きく100%よりも小さければよい。すなわち、光沢膜122は光沢グレーであればよく、必要に応じて色彩や模様を付ければよい。膜状体12の裏側面に光沢膜122を形成することにより、膜状体12の表側面から入射して裏側面まで透過した光が表側面に反射して、膜状体12のうち光沢膜122が形成された部分はより鮮やかな金属調光沢を帯びるようになる。
・・・
【0031】
光遮断膜123で描かれる模様に合わせて、膜状体12の表側面にエンボス(浮き出し)模様124を形成してもよい。これにより、光遮断膜123で描かれた模様を立体的に表して意匠性をさらに高めることができる。」

(ウ)上記(イ)に示す本願明細書の記載の「膜状体12」は本願発明1の「フィルム」の実施の態様、「光沢グレーであればよ」い「光沢膜122」は「グレーの印刷膜又は塗装膜」の実施の態様、「光遮断膜123」は「光遮断膜」の実施の態様、「エンボス(浮き出し)模様124」は「エンボス模様」の実施の態様としてそれぞれ構成されたものと理解することができる。

(エ)上記(ウ)を踏まえると、上記(イ)に示す本願明細書の記載から、本願発明1は、
「 電波透過性を有し且つ金属成分を含まない半透明のフィルムと、
前記フィルムの裏側面に形成されたグレーの印刷膜又は塗装膜と、
前記フィルムの表側面に所定の模様を描くように部分的に形成された光遮断膜と、
光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材と、
を備え、
前記フィルムは、数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みで積層されてなるフィルムであり、
前記表面部材及び前記フィルムの積層方向において、前記所定の模様が描かれている位置は、前記表面部材と、前記フィルムと、前記グレーの印刷膜又は塗装膜とが順に積層されており、
前記表面部材及び前記フィルムの積層方向において、前記所定の模様が描かれている位置以外の位置は、前記表面部材と、前記光遮断膜と、前記フィルムと、前記グレーの印刷膜又は塗装膜とが順に積層されており、
前記フィルムは、前記所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備え、
前記グレーの印刷膜又は塗装膜は、前記フィルムの表側面から入射して裏側面まで透過した光を表側面に反射させ、
前記フィルムは、前記グレーの印刷膜又は塗装膜が前記透過した光を表側面に反射させることにより、該グレーの印刷膜又は塗装膜が形成されていない場合に比べてより鮮やかな金属調光沢を呈する」との構成によって、「所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備え」た「フィルム」、「グレーの印刷膜又は塗装膜」、「光遮断膜」、「表面部材」の相互作用により、「光遮断膜(光遮断膜123)で描かれた模様を立体的に表して意匠性をさらに高め」、「フィルム(膜状体12)の表側面から入射して裏側面まで透過した光が表側面に反射して、フィルム(膜状体12)のうちグレーの印刷膜又は塗装膜(光沢膜122)が形成された部分はより鮮やかな金属調光沢を帯びるよう構成することで、意匠性をさらに高める」との作用効果(以下「作用効果A」ということもある。)を奏するものといえる。

イ 各引用文献について
イ-1 引用文献1について
(ア)引用文献1【0023】には「本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、150℃における引張試験において、フィルム長手方向、および幅方向の100%伸度時の引張応力がそれぞれ、3MPa以上90MPa以下であることが望ましい。このような場合、成形性に優れたものとなり、真空成形、真空圧空成形、プラグアシスト真空圧空成形、インモールド成形、インサート成形、冷間成形、プレス成形、絞り成形などの各種成形において、任意の形状に成形することが容易となる。・・・」と記載されており、引用発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」について、成形性に優れることが示されているとまではいえる。
しかしながら、引用文献1には、「所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備え」るよう「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」を構成することで、引用発明に上記相違点4に係る本願発明1の構成を具備させる点は記載されていない。

イ-2 引用文献2について
(ア)引用文献2に記載の技術的事項について
引用文献2に記載の技術的事項は上記「第6 2(3)」に示すとおりのものである。

(イ)本願発明1と引用文献2に記載の技術的事項との相当関係について
[上記相違点4に係る本願発明1の構成に関連した構成について]
(イ-1)引用文献2に記載の技術的事項における「前面側から背面側に向かって」、「順次配置され」る「金属塗装層13」と「第2着色層14」とは「金属部10Aの表面側から入射した光は箔状金属片M及び第2着色層14にて反射する」ものであるところ、当該「金属塗装膜13」は少なくとも部分的に透き通ったものといえるから、「半透明」といえる。
そうすると、引用文献2に記載の「電波透過性を有」する「金属塗装膜13」と、本願発明1の「電波透過性を有し且つ金属成分を含まない半透明のフィルム」とは、「電波透過性を有するフィルム」である点で共通する。

(イ-2)引用文献2に記載の技術的事項における「第1着色層12」は「黒色の合成樹脂塗料を塗布することにより形成され」るものであるから光を遮断する膜といえる。
また、当該「第1着色層12」は「レドーム10」における「前面側から見て略矩形を呈する板状部材であり、その背面側の金属部10Aに対応する部分には凹部11Aが形成され」た「透明部材11」の「背面側における凹部11A以外の部分に」「形成され」るものであって、「第1着色層12の背面側表面にも金属塗装層13が形成されて」いることから、「金属塗装層13」の前面に部分的に形成されるものであり、部分的に形成されるものであるから所定の模様を描くものといえる。
そして、引用文献2に記載の技術的事項の「前面」は本願発明1の「表側面」に相当するから、上記(イ-1)の対比も踏まえると、引用文献2に記載の技術的事項の「第1着色層12」は、本願発明1の「前記フィルムの表側面に所定の模様を描くように部分的に形成された光遮断膜」に相当する。

(イ-3)引用文献2に記載の技術的事項における「透明部材11」は、透明であるから光透過性を有するといえる。
また、当該「透明部材11」は、「前面側から見て略矩形を呈する板状部材であり、その背面側の金属部10Aに対応する部分には凹部11Aが形成され」、「凹部11Aの背面側表面である凹部表面11Bに」「金属塗装層13」が形成されるものであるから、「金属塗装層13」の前面を被覆するものといえる。
さらに、当該「透明部材11」は、「前面側から背面側に向かって、透明部材11、第1着色層12、金属塗装層13、第2着色層14、接着剤層15及びベース部材16が順次配置され一体的に設けられた構成となっており、ベース部材16は、金型装置内に第1着色層12から接着剤層15までが形成された透明部材11をインサートし射出成形等を用いて接着剤層15の背面側表面に形成され」るものであるから、「金属塗装層13」と一体成形されたものといえる。
そして、上記(イ-1)の対比も踏まえると、当該「透明部材11」は本願発明1の「前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材」に相当する。

(イ-4)上記(イ-2)にも示すとおり、引用文献2に記載の技術的事項において、所定の模様を描く「金属塗装層13」の前面に部分的に形成され所定の模様を描く「第1着色層12」は「透明部材11」の「背面側における凹部11A以外の部分に」「形成され」、「第1着色層12の背面側表面にも金属塗装層13が形成される」ものである。
また、上記(イ-3)にも示すとおり、引用文献2に記載の技術的事項において、「透明部材11」には「その背面側の金属部10Aに対応する部分には凹部11Aが形成され」、「凹部11Aの背面側表面である凹部表面11Bに」「金属塗装層13」が形成される。
そして、「金属塗装層13」において、「透明部材11」の「凹部11Aの背面側表面である凹部表面11Bに」対応する部位は、「透明部材11」の「背面側における凹部11A以外の部分に」「形成され」た部位よりも突出することとなる。
そうすると、当該「金属塗装層13」は、所定の模様を描く「第1着色層12」に合わせて突出したものといえるから、本願発明1の「前記所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備える」ことに相当する構成を備えたものといえる。

(イ-5)上記(イ-1)?(イ-4)における対比を踏まえると、上記引用文献2に記載の技術的事項の「背面側にはレーダ20が設置されているレドーム10」は、本願発明1における「電波透過性を有するフィルムと、前記フィルムの表側面に所定の模様を描くように部分的に形成された光遮断膜と、光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材と、を備える」ことに相当する構成を具備し、さらに、上記相違点4に係る本願発明1の「前記フィルムは、前記所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備える」ことに相当する構成を備えたものといえる。

(ウ)引用発明に引用文献2に記載の技術的事項を適用することの容易想到性について
a 課題及び構造上の共通点について
(a)課題の共通点について
上記「第6 2(1-2)」に示した引用文献2【0008】に記載される「製造に大規模又は特別な設備を必要とせず、製造過程における歩留まりを向上させ、レーダによる検知を妨げることなくメッキや金属蒸着等と実質的に同等な鏡面状の金属光輝面を有するレドームを提案すること」なる課題と、上記「第6 1(1-1)」に示した引用文献1【0007】に記載される「通信機器、電磁波式レーダー等電磁波を利用する機器の外装等の部材に用いることができ、金属光沢の意匠を有しながら、電磁波の透過性に優れる電磁波透過性部材に使用される電磁波透過性金属光沢調装飾フィルムを提供するとこと」なる課題とは、レーダー等の機器に用いる、金属光沢の意匠を有しながら、電磁波の透過性に優れる電磁波透過性部材に使用される部材を提供する点で共通している。

(b)構造上の共通点について
引用発明と引用文献2に記載の技術的事項とは、「電波透過性を有するフィルムと、前記フィルムの表側面に所定の模様を描くように部分的に形成された光遮断膜と、光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材と、を備える」限度では、構成上共通点を有するものである。

b 動機付け及び阻害要因
(a)本願発明1の「フィルム」に相当する構成に関する引用発明と引用文献2に記載の技術的事項との差異について
引用発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」は「金属成分を含まない」ものであって「数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みで積層されてなる」ものであり、具体的な実施例として上記「第6 1(1-2)」の引用文献1【0064】には、「得られたフィルムの厚みは、100μmであり」と記載されている。
一方、引用文献2に記載の技術的事項の「金属塗装層13」は「凹部表面11Bに厚み0.2μm以下で形成されており、いわゆるバインダーと称される透明樹脂分13S内に複数の箔状金属片Mが埋没した構成」である。
そうすると、両者は、金属成分の有無を含めた構造、及び、厚みのオーダーにおいて相違するものである。

(b)引用発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」と引用文献2に記載の技術的事項の「金属塗装層13」との光の反射態様の共通点について
また、引用発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」は「可視光線の一部は透過する設計とし、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能であ」るものである。
一方、引用文献2に記載の技術的事項の「金属塗装層13」は「箔状金属片M」を備えるものであって、上記「第6 2(1-2)」に示す引用文献2【0011】には「透明部材の外部から入射する光が箔状金属片によって略同一方向で反射する」と記載されるものである。
そうすると、フィルムの持つ光の反射態様が「可視光線の一部は透過する設計」とすることと、「透明部材の外部から入射する光が箔状金属片によって略同一方向で反射する」こととの間において光の反射態様が必ずしも共通するともいえないから、引用発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」と引用文献2に記載の技術的事項の「金属塗装層13」とに、それぞれ凹凸を施した際の光の反射態様についても必ずしも共通するとはいえない。
そして、上記「a(a)」に示すように、引用発明は「金属光沢の意匠を有」することを課題に含むものであるから、「意匠性に優れた成形品を構成する」との課題を内在するものといえるところ、フィルムの光の反射態様に相違を生じることは、意匠の見え方、すなわち意匠性に影響を与えることといえる。

(c)そうすると、「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」は「可視光線の一部は透過する設計とし、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能であ」る引用発明において、構造及び厚みのオーダーにおいて相違し、光の反射態様が共通しているとはいえない、引用文献2に記載された技術的事項の「金属塗装層13」を参考に、上記相違点4に係る本願発明1の構成を具備させることには、動機がなく、阻害要因があるともいえる。

(d)さらに、上記「第6 2(1-1)」に示す引用文献2【請求項1】には構成として「前記金属塗装層には、複数の箔状金属片が前記透明部材の前記対向面と各々略平行する姿勢で埋没していること」が特定されるように、引用文献2に記載の技術的事項において、「箔状金属片」は必須の構成といえる。
そうすると、引用発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」を、引用文献2に記載の技術的事項から、必須の構成である「箔状金属片」の構成を欠落させた上で「金属塗装膜13」を所定の模様を描く「第1着色層12」に合わせて突出させる構成を参考として、「黒色インキ層」の描く「所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備える」よう構成することで、上記相違点4に係る本願発明1の構成を具備させることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

イ-3 引用文献3?4について
上記相違点4に係る本願発明1の「前記フィルム」に関し、「前記所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備える」ことは、上記引用文献3?4には記載されていない。
したがって、引用発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」を、上記引用文献3?4に記載の技術的事項を参考として、「黒色インキ層」の描く「所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備える」よう構成することで、上記相違点4に係る本願発明1の構成を具備させることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

イ-4 引用文献5について
(ア)引用文献5に記載の技術的事項について
上記「第6 5(2)」に示すように、引用文献5には、以下の技術が記載されている(以下「引用文献5に記載の技術的事項」ともいう。)。

「 車両50のオーナメント10Aとして適用するものである装飾部材10は、
ミリ波の電磁波を通過させることができ、金属を用いることがない合成樹脂製の全反射シート22で形成した基材16と、
基材16に適用される全反射シート22の表面に意匠に基づく印刷パターンであって2つの島状の領域に施した黒色となった印刷層24と、
透明である表面材12と、を備え、
基材16は、立体的に加工された状態で、表面材12と裏面材14とに挟みこまれており、
基材16が金型26にセットされ、表面材12となる透明の合成樹脂を注入し表面材12が固化すると、この基材16と表面材12のアッセンブリを金型30にセットし、裏面材14となる黒色の合成樹脂を注入して、裏材16が固化すると装飾部材10が完成するものであって、
基材16の凸部が金属調とされ、凹部に印刷層24の黒色領域が位置する技術。」

(イ)本願発明1と引用文献5に記載の技術的事項との相当関係について
(イ-1)引用文献5に記載の技術的事項の「車両50のオーナメント10Aとして適用するものである装飾部材10」は、本願発明1の「車両用オーナメント」に相当する。

(イ-2)引用文献5に記載の技術的事項の「ミリ波の電磁波を通過させることができ」ることは、本願発明1の「電波透過性を有し」ていることに相当し、「金属を用いることがない」ことは「金属成分を含まない」ことに相当し、引用文献5の「ミリ波の電磁波を通過させることができ、金属を用いることがない合成樹脂製の全反射シート22で形成した基材16」と、本願発明1の「電波透過性を有し且つ金属成分を含まない半透明のフィルム」とは、「電波透過性を有し且つ金属成分を含まないフィルム」の限度で共通する。

(イ-3)上記(イ-2)における検討も踏まえると、引用文献5に記載の技術的事項の「基材16に適用される全反射シート22の表面」は、本願発明1の「前記フィルムの表側面」に相当し、以下同様に、「意匠に基づく印刷パターンで」あることは、「所定の模様を描くように」「形成され」ることに相当し、「全反射シート22」に「2つの島状の領域に施」すことは、「基材16」に「部分的に形成され」たことに相当するから、引用文献5に記載の技術的事項の「黒色となった印刷層24」は、本願発明1の「前記フィルムの表側面に所定の模様を描くように部分的に形成された光遮断膜」に相当する。
また、引用文献5に記載の「印刷層24の黒色領域」も、「黒色となった印刷層24」と同様の事項を示すものであるから、本願発明1の「前記フィルムの表側面に所定の模様を描くように部分的に形成された光遮断膜」に相当する。

(イ-4)引用文献5に記載の技術的事項の「表面材12」は、「透明であ」るから光透過性を有するということができる。また、当該「表面材12」は、「裏面材14」とで「基材16」を「挟みこ」んで「立体的に加工」されるものであり、引用文献5に記載の技術的事項における「基材16が金型26にセットされ、表面材12となる透明の合成樹脂を注入し表面材12が固化すると、この基材16と表面材12のアッセンブリを金型30にセットし、裏面材14となる黒色の合成樹脂を注入して、裏材16が固化すると装飾部材10が完成する」ことを踏まえると、当該「表面材12」は、「基材16」の表側面を被覆するように「基材16」と一体成形されているといえる。
そうすると、引用文献5に記載の技術的事項の「表面材12」は、本願発明1の「光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材」に相当する。

(イ-5)引用文献5に記載の技術的事項の「基材16の凸部」及び「凹部」は本願発明1の「エンボス模様」に相当し、当該「基材16の凸部」及び「凹部」は、「凹部に印刷層24の黒色領域が位置する」ものであることを踏まえると、「印刷層24の黒色領域」の「意匠に基づく」「印刷パターン」に合わせて形成されているといえる。
そして、上記(イ-2)及び(イ-3)における検討を踏まえると、引用文献5に記載の技術的事項の「基材16の凸部が金属調とされ、凹部に印刷層24の黒色領域が位置する」ことは、本願発明1の「前記フィルムは、前記所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備える」ことに相当する。

(イ-6)上記(イ-1)?(イ-5)における対比を踏まえると、上記引用文献5に記載の技術的事項は、本願発明1における「電波透過性を有し且つ金属成分を含まないフィルムと、前記フィルムの表側面に所定の模様を描くように部分的に形成された光遮断膜と、光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材と、を備える、車両用オーナメント」に相当する構成を具備し、さらに、上記相違点4に係る本願発明1の「前記所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備える」ことに相当する構成を備えたものといえる。

(ウ)引用発明に引用文献5に記載の技術的事項を適用することの容易想到性について
a 課題及び構造上の共通点について
(a)課題の共通点について
上記「第6 5(1)」に示した引用文献5【0014】に記載される「金属調の外観を持ちつつ、例えばミリ波等、特定の周波数の電磁波の通過を抑制することがなく、かつ意匠性に優れた成形品を構成することができる装飾部材、レーダユニット、装飾部材製造方法を得ること」なる課題と、引用文献1【0007】に記載される「通信機器、電磁波式レーダー等電磁波を利用する機器の外装等の部材に用いることができ、金属光沢の意匠を有しながら、電磁波の透過性に優れる電磁波透過性部材に使用される電磁波透過性金属光沢調装飾フィルムを提供するとこと」なる課題とは、レーダー等の機器に用いる、金属光沢の意匠を有しながら、電磁波の透過性に優れる電磁波透過性部材に使用される部材を提供する点で共通している。
さらに、引用文献1【0007】に記載される課題には「金属光沢の意匠を有」することが含まれており、引用文献1【0065】に「この印刷層を施したフィルムを、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)と一体成形し、続いてアクリロニトル・エチレン・スチレン(AES)と一体成形し、印刷層を施したフィルムが積層された自動車用エンブレムを得た」と成形方法が記載されるように、引用発明の「自動車用エンブレム」は「成形品」であって、金属光沢の意匠が意匠性に優れることは技術的に明らかであるところ、「金属光沢の意匠を有」する「成形品」を構成する引用発明は、引用文献5【0014】に記載される「意匠性に優れた成形品を構成する」との課題を内在するといえる。

(b)構造上の共通点について
引用発明と引用文献5に記載の技術的事項とは、「電波透過性を有し且つ金属成分を含まないフィルムと、前記フィルムの表側面に所定の模様を描くように部分的に形成された光遮断膜と、光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材と、を備える、車両用オーナメント」である限度では、構成上共通点を有するものである。

b 動機付け及び阻害要因
(a)しかしながら、引用発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」は「可視光線の一部は透過する設計とし、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能であ」るものである一方、引用文献5に記載の技術的事項は「全反射シート22」を備えるものであって、当該「全反射シート22」は、上記「第6 5(1)」に示す引用文献5の段落【0032】の「全反射シート22は、・・・光を全反射する、すなわち、鏡面を形成する」との記載、段落【0035】の「本実施の形態では、鏡面仕上げであることが要求されるため、・・・反射率をほぼ100%とした」との記載に示されるように、「光を全反射する」ものであるから、両者は、「可視光線の一部は透過する設計」としたものであるか「光を全反射する」ものであって可視光線を透過しないものであるかの点で機能上異なり、当該機能を実現するための層構造も異なるものといえる。
また、フィルムの持つ光の反射態様が「可視光線の一部は透過する設計」か「光を全反射する」かに応じて、当該フィルムに凹凸を施した際の光の反射態様に差異を生じることは技術的に明らかである。
そして、上記「a(a)」に示すように、引用発明は「金属光沢の意匠を有」することを課題に含み、「意匠性に優れた成形品を構成する」との課題を内在するものといえるところ、フィルムの光の反射態様に差異を生じることは、意匠の見え方、すなわち意匠性に影響を与えることといえる。
そうすると、「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」は「可視光線の一部は透過する設計とし、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能であ」る引用発明において、光の反射態様に差異を生じる「光を全反射する」ものである「全反射シート22」に「基材16の凸部」及び「凹部」を設けた引用文献5に記載の技術的事項を参考とすることには、動機がなく、阻害要因があるともいえる。

(b)さらに、上記「第6 5(1)」に示す引用文献5の【請求項1】には構成として「光を全反射する全反射シート」が特定され、段落【0001】に「本発明は、全反射シートが用いられた装飾部材・・・に関する」と記載されるように、引用文献5に記載の技術的事項において、「全反射シート」は必須の構成といえる。
そうすると、引用発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」を、引用文献5に記載の技術的事項から、必須の構成である「全反射シート」の構成を欠落させた上で「基材16の凸部」及び「凹部」の構成を参考として、「黒色インキ層」の描く「所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備える」よう構成することで、上記相違点4に係る本願発明1の構成を具備させることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

イ-5 以上のとおり、相違点4に係る本願発明1の構成は、引用文献3-4には記載されておらず、本願出願前において周知技術であるともいえない。そして、当該相違点4に係る本願発明1の構成は、引用文献2,5に技術的事項から当業者が容易に想到し得ることともいえない。

ウ 本願発明1の作用効果Aの示唆について
本願発明1の構成を具備させ、「所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備え」た「フィルム」、「グレーの印刷膜又は塗装膜」、「光遮断膜」、「表面部材」の相互作用により、本願発明1と同様の作用効果Aを奏させることについては、引用文献1?5のいずれにも記載されていない。

エ 小結
以上のとおりであるから、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2-5に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2?5について
本願発明2?5も、本願発明1の「車両用オーナメント」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


第8 原査定及び当審拒絶理由1についての判断
1 原査定について
(1)原査定の[理由1]について
ア 引用文献の記載事項、引用発明等
(ア)引用文献Aについて
原査定における引用文献A(当審拒絶理由1及び2における引用文献2)に記載される発明(引用発明A)は上記「第6 2(3)」に示すとおりのものであり、引用発明Aの構成は引用文献2に記載の技術的事項と同一である。

(イ)引用文献Bについて
上記「第6 6(2)」に示すように、原査定において引用した引用文献Bには、以下の技術が記載されている(以下「引用文献Bに記載の技術的事項」ともいう。)。

「透明層1と、第1加飾層2と、第2加飾層3と、基材層4とを持つ装飾部材で、電波透過性に優れたものであって、
透明層1は、透明樹脂材料の一種であるポリカーボネートを材料としてなり、透明層1の後面は凹凸形状をなし、外側凹部10および内側凹部11は透明層1の前面側に向けて陥没する凹部状をなし、外側凸部12および内側凸部13は透明層1の後面側に向けて隆起する凸部状をなすものであり、
第1加飾層2は、ポリカーボネートとカーボンブラックとの混合物からなる有色樹脂材料を材料としてなり、2色成形法によって外側凸部12と内側凸部13とに直接形成され、
第2加飾層3は、東レ株式会社製のPICASUS(商標)を用い、50?100μm程度の樹脂層35が100層以上積層されてなり、金属色を呈する意匠を表示するにもかかわらず、金属を含まないものであって、第1加飾層2および透明層1の後面全面に積層されており、
第2加飾層3に由来する意匠(凸状をなす金属色の意匠)と、第1加飾層2に由来する意匠(凹状をなす黒色の意匠)とを立体的に表示する、装飾部材。」

イ 対比・判断
(ア)本願発明1について
[対比]
a 上記「第7 1(2)イ-2(イ-5)」に引用文献2について示したのと同様に、引用発明Aの「背面側にはレーダ20が設置されているレドーム10」は、本願発明1における「電波透過性を有するフィルムと、前記フィルムの表側面に所定の模様を描くように部分的に形成された光遮断膜と、光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材と、を備える」ことに相当する構成を具備し、さらに、本願発明1の「前記フィルムは、前記所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備える」ことに相当する構成を備えたものといえる。

b さらに、引用発明Aの「金属部10Aにおける色調の調整及び金属塗装層13の保護のために用いられる塗装層であり、金属塗装層13の背面側表面に灰黒色の合成樹脂塗料を塗布して形成され」る「第2着色層14」は、本願発明1の「前記フィルムの裏側面に形成されたグレーの印刷膜又は塗装膜」に相当する。

c 一方、本願発明1と引用発明Aとは、少なくとも、「フィルム」に関し、本願発明1は「金属成分を含まない」ものであって、「数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みで積層されてなる」のに対して、引用発明Aの「金属塗装層13」は「凹部表面11Bに厚み0.2μm以下で形成されており、いわゆるバインダーと称される透明樹脂分13S内に複数の箔状金属片Mが埋没した構成」である点で相違する(以下「相違点A」という。)。

[判断]
相違点Aについて検討する。
a 引用発明Aについて
上記「第7 1(2)イ-2(ウ)b(d)」に引用文献2に記載の技術的事項について示したように、引用発明Aにおいて「箔状金属片Mが埋没した」「金属塗装層13」は必須の構成といえる。
そうすると、引用発明Aに必須の「箔状金属片Mが埋没した」「金属塗装層13」を削除し、金属成分を含まないフィルムを設け上記相違点Aに係る本願発明1の構成を具備させることには動機付けがなく、阻害要因があるといえる。

b 引用文献Bに記載の技術的事項について
(a)本願発明1と引用文献Bに記載の技術的事項との相当関係について
(a-1)引用文献Bに記載の技術的事項の「装飾部材」が「電波透過性に優れたもの」であることは、第2加飾層についても電波透過性に優れたものということができ、「金属を含まないものであ」ることは「金属成分を含まない」ことに相当する。
また、引用文献Bの「第2加飾層3」に用いられる「東レ株式会社製のPICASUS(商標)」は、本願明細書【0037】に「・・・膜状体12の元となるフィルム(例えば、東レ株式会社製のP!CASUS)を適当な大きさにカットする」と記載されるように本願発明1のフィルムの実施例に対応する「膜状体12」の材料と同様であるところ、本願発明1と同様に半透明であり、数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みで積層されてなるものといえる。
そうすると、引用文献Bの「東レ株式会社製のPICASUS(商標)を用い」、「金属を含まないものであ」る「第2加飾層3」は、本願発明1の「電波透過性を有し且つ金属成分を含まない半透明のフィルム」であって、「前記フィルムは、数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みで積層されてなるフィルム」に相当する。

(a-2)引用文献Bに記載の技術的事項の「第2加飾層3」は、「第1加飾層2および透明層1の後面全面に積層されて」いる。そうすると、引用文献Bに記載の技術的事項の「第1加飾層2」は、「第2加飾層3」の前面に積層されているといえる。ここで、上記(a-1)における対比も踏まえると、当該「第2加飾層3の前面」は本願発明1の「フィルムの表側面」に相当する。
また、当該「第1加飾層2」は、「積層され」たものであり、「ポリカーボネートとカーボンブラックとの混合物からなる有色樹脂材料を材料としてなり」、「第1加飾層2に由来する意匠」として「凹状をなす黒色の意匠」を「立体的に表示する」ものであるから、光を遮断する膜といえる。
さらに、引用文献Bに記載の技術的事項の「装飾部材」の持つ「透明層1の後面は凹凸形状をなし、外側凹部10および内側凹部11は透明層1の前面側に向けて陥没する凹部状をなし、外側凸部12および内側凸部13は透明層1の後面側に向けて隆起する凸部状をなすものであ」るところ、上記「第1加飾層2」は、「透明層1の後面」の特定の模様を描く装飾部材の一部分といえる「外側凸部12と内側凸部13とに直接形成され」るものであるから、所定の模様を描くように部分的に形成されたものといえる。
そうすると、「引用文献Bに記載の技術的事項の「第1加飾層2および透明層1の後面全面に積層され」、「ポリカーボネートとカーボンブラックとの混合物からなる有色樹脂材料を材料としてなり」、「外側凸部12と内側凸部13とに直接形成され」、「第1加飾層2に由来する意匠」として「凹状をなす黒色の意匠」を「立体的に表示する」ものである「第2加飾層3」は、本願発明1の「前記フィルムの表側面に所定の模様を描くように部分的に形成された光遮断膜」に相当する。

(a-3)引用文献Bに記載の技術的事項の「透明層1」は、「透明であ」るから光透過性を有するということができる。
また、引用文献Bに記載の技術的事項の「第1加飾層2」は「2色成形法によって」「透明層1」の後面のなす「外側凸部12と内側凸部13とに直接形成され」るものであり、引用文献Bに記載の技術的事項の「第2加飾層3」は、「第1加飾層2および透明層1の後面全面に積層されて」いることを踏まえると、上記「透明層1」は「第2加飾層3」の前面を被覆するように「第2加飾層3」と一体成形されたものといえる。
そして上記(a-1)及び(a-2)における対比を踏まえると、引用文献Bに記載の技術的事項の「透明層1」は、本願発明1の「光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材」に相当する。

(a-4)引用文献Bに記載の技術的事項の「第2加飾層3」は、「第2加飾層3に由来する意匠(凸状をなす金属色の意匠)」と「第1加飾層2に由来する意匠(凹状をなす黒色の意匠)」の「後面」「に積層され」た部位を含むものであるから、エンボス模様を備えたものということができる。
また、当該「第2加飾層3に由来する意匠(凸状をなす金属色の意匠)」は、所定の模様を描く「第1加飾層2に由来する意匠(凹状をなす黒色の意匠)」(所定の模様を描く点については上記(aー2)を参照)に合わせて形成されているといえる。
そして上記(a-1)及び(a-2)における対比を踏まえると、引用文献Bに記載の技術的事項の「第2加飾層3」が、「第2加飾層3に由来する意匠(凸状をなす金属色の意匠)」と「第1加飾層2に由来する意匠(凹状をなす黒色の意匠)」の「後面」「に積層され」た部位を含むことは、本願発明1の「前記フィルムは、前記所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備える」ことに相当する。

(a-5)上記(a-1)?(a-4)における対比を踏まえると、上記引用文献Bに記載の技術的事項は、本願発明1における「電波透過性を有し且つ金属成分を含まないフィルムと、前記フィルムの表側面に所定の模様を描くように部分的に形成された光遮断膜と、光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材と、を備え、前記フィルムは、数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みで積層されてなるフィルムであ」ることに相当する構成を具備し、さらに、「前記フィルムは、前記所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備える」ことに相当する構成を備えたものといえる。

(a-6)一方、引用文献Bに記載の技術的事項は、本願発明1の「グレーの印刷膜又は塗装膜」に相当する構成を備えたものではない。

(b)動機付け及び阻害要因について
引用発明Aの「金属塗装層13」は「金属部10Aにおける色調の調整」「に用いられる塗装層である「第2着色層14」と用いられる一方で、引用文献Bに記載の技術的事項には「第2加飾層3」を色調を調整する層と用いることの特定はないから、両者は、光の反射に関する機能上異なり、当該機能を実現するための層構造も異なるものといえる。
そして、上記「第6 2(1-2)」の【0008】に示すように、引用発明Aは「メッキや金属蒸着等と実質的に同等な鏡面状の金属光輝面を有するレドームを提案する」との課題を解決するものであるところ、フィルムの光の反射態様に差異を生じることは、鏡面状の金属光輝面の形成に影響を与えることといえる。
そうすると、引用発明Aにおいて、光の反射態様に差異を生じる引用文献Bに記載の技術的事項を参考としてフィルムを上記相違点Aに係る本願発明1の構成とすることには、動機がなく、阻害要因があるともいえる。

c そして、本願発明1の構成を具備させ、「所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備え」た「フィルム」、「グレーの印刷膜又は塗装膜」、「光遮断膜」、「表面部材」の相互作用により、本願発明1と同様の作用効果Aを奏させることについても、引用文献A,Bのいずれにもに記載されていない。

d 小結
したがって、本願発明1は、当業者であっても、原査定における引用発明A及び引用文献Bに記載の技術的事項に基いて容易に発明できたものではない。

(イ)本願発明2?5について
本願発明2?5も、本願発明1の「車両用オーナメント」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、原査定における引用発明A及び引用文献Bに記載の技術的事項に基いて容易に発明できたものではない。

(2)原査定の[理由2]について
平成29年11月17日付け手続補正書でした補正(以下「補正A」という。)により追加された「前記光沢膜は、前記膜状体の裏側面に形成されることで、前記膜状体の表側面から見たときに金属色を示すためのものであり」との記載(以下「記載A」という。)は、平成31年1月9日付け手続補正後の請求項4及び明細書段落【0011】において、「前記フィルムは、前記グレーの印刷膜又は塗装膜が該フィルムの裏側面に形成されることで、該フィルムの表側面から見たときに前記光遮断膜が形成されていない部分のみが金属色を示すためのものであり」と補正された。
また、その後にされた令和1年10月7日付け手続補正後の特許請求の範囲及び明細書においても当該記載Aは存在しない。
したがって、当該記載Aを追加した補正Aについての拒絶理由は妥当しない。

(3)上記(1)?(2)から、原査定を維持することはできない。

2 当審拒絶理由1について
上記「第6」及び「第7」に示すように、本願発明1と当審拒絶理由1における上記引用文献1に記載された発明(引用発明)において、上記相違点4に係る本願発明1の「前記フィルム」が「前記所定の模様に合わせて形成されたエンボス模様を備える」ことは、当審拒絶理由1における引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。
そして、本願発明2?5も、本願発明1の「車両用オーナメント」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明2?5は、当業者であっても、当審拒絶理由1における引用文献1?4に基づいて容易に発明できたものではない。


第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-11-25 
出願番号 特願2015-165393(P2015-165393)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高島 壮基  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 氏原 康宏
岡▲さき▼ 潤
発明の名称 車両用オーナメント  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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