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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01C
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01C
管理番号 1357320
審判番号 不服2018-17403  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-27 
確定日 2019-11-22 
事件の表示 特願2015- 72214「チップ抵抗器」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月10日出願公開、特開2016-192509〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月31日に出願したものであって、平成30年6月8日付け拒絶理由通知に対して同年9月4日付けで手続補正がなされたが、同年9月28日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年12月27日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされ、平成31年2月25日付け最後の拒絶理由通知に対して同年3月19日付けで手続補正がなされたものである。そして、当審において令和1年8月22日に面接を行った。

第2 平成31年3月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成31年3月19日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正2
平成31年3月19日付けの手続補正(以下「本件補正2」という。)は、特許請求の範囲及び明細書についてするもので、特許請求の範囲については、
本件補正2前に、
「 【請求項1】
直方体形状の絶縁基板と、この絶縁基板の表面における長手方向両端部に設けられた一対の表電極と、これら両表電極間に設けられた抵抗体と、この抵抗体と前記両表電極の全面を覆う絶縁性の保護層と、前記絶縁基板の長手方向両端面に設けられた一対の端子電極とを備えているチップ抵抗器であって、前記表電極が前記絶縁基板の短辺側と長辺側における前記絶縁基板と前記保護層との間から各端面にそれぞれ露出していると共に、前記端子電極が前記絶縁基板の短手方向両端面まで回り込んで前記表電極の露出部に接続していることを特徴とするチップ抵抗器。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記表電極が部分的に厚く形成された膜厚部を有しており、この膜厚部の端面に前記端子電極が接続されていることを特徴とするチップ抵抗器。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記表電極の一部のみを積層構造となし、この積層部分の前記表電極が前記膜厚部となっていることを特徴とするチップ抵抗器。
【請求項4】
請求項2の記載において、前記絶縁基板の表面に長手方向端面と短手方向端面の少なくとも一方に繋がる凹部が形成されており、この凹部内に形成された部分の前記表電極が前記膜厚部となっていることを特徴とするチップ抵抗器。」とあったところを、

本件補正2により、
「 【請求項1】
直方体形状の絶縁基板と、この絶縁基板の表面における長手方向両端部に設けられた一対の表電極と、これら両表電極間に設けられた抵抗体と、この抵抗体と前記両表電極の全面を覆う絶縁性の保護層と、前記絶縁基板の長手方向両端面に設けられた一対の端子電極と、前記端子電極を覆うメッキ層とを備えているチップ抵抗器であって、前記表電極が前記絶縁基板の短辺側と長辺側における前記絶縁基板と前記保護層との間から各端面にそれぞれ露出していると共に、前記端子電極が前記絶縁基板の短手方向両端面まで回り込んで前記表電極の露出部に接続していることを特徴とするチップ抵抗器。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記表電極が部分的に厚く形成された膜厚部を有しており、この膜厚部の端面に前記端子電極が接続されていることを特徴とするチップ抵抗器。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記表電極の一部のみを積層構造となし、この積層部分の前記表電極が前記膜厚部となっていることを特徴とするチップ抵抗器。
【請求項4】
請求項2の記載において、前記絶縁基板の表面に長手方向端面と短手方向端面の少なくとも一方に繋がる凹部が形成されており、この凹部内に形成された部分の前記表電極が前記膜厚部となっていることを特徴とするチップ抵抗器。」とするものである。なお、下線は補正箇所を示す。

2.補正の目的要件について
本件補正2は、本件補正2前の請求項1に対して「前記端子電極を覆うメッキ層」という事項を付加するものである。
しかしながら、「端子電極を覆うメッキ層」は、本件補正2前の請求項1に記載されていた発明特定事項でない構成と認められるから、本件補正2は請求項に記載した発明特定事項の限定に該当せず、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものに該当するとはいえない。また、同項第1号に掲げる請求項の削除、同項第3号に掲げる誤記の訂正及び同項第4号に掲げる拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことも明らかである。

よって、本件補正2は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.独立特許要件の予備的見解
仮に、本件補正2が特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものに該当すると認められるとして、本件補正2の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明2」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下検討する。

(1)引用文献
ア.特開2005-268302号公報
平成31年2月25日付け最後の拒絶の理由及び原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-268302号公報(以下「引用文献1」という。)には、「チップ抵抗器およびその製造方法」に関して、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(ア)「【0007】
上述した目的を達成するために、本発明によるチップ抵抗器では、絶縁性基板の片面側に、該絶縁性基板の長手方向両端部に位置する一対の電極と、両端が前記両電極に接続された抵抗体と、少なくとも前記両電極を覆う樹脂層とを備えることとした。」

(イ)「【0018】
発明の実施の形態について図面を参照して説明すると、図1は本発明の実施形態例に係るチップ抵抗器の断面図、図2は該チップ抵抗器の製造工程を示す断面図、図3は該チップ抵抗器の製造工程を示す平面図である。
【0019】
図1に示すチップ抵抗器11は、アルミナ(Al2O3)を主成分とする絶縁性基板12の表面側に、酸化ルテニウム等からなる抵抗体13と、この抵抗体13の両端部に重なり合う一対の表面電極14と、抵抗体13を覆うガラスコート層15と、エポキシ系樹脂等からなりガラスコート層15および表面電極14を覆う樹脂層16とが形成されている。また、絶縁性基板12の裏面側には表面電極14と対応する両端部に一対の裏面電極17が形成されている。さらに、絶縁性基板12の長手方向両端面にはそれぞれ表面電極14と裏面電極17とを橋絡する端面電極18が形成されており、この端面電極18は樹脂層16上に回り込んでいるためL字形の電極となっている。表面電極14と裏面電極17はAgまたはAg-Pdを主成分とするペーストをスクリーン印刷等を用いて形成したものであり、端面電極18はニッケルクロム(Ni/Cr)をスパッタリングによって形成したものである。表面電極14と裏面電極17および端面電極18はチップ抵抗器11の下地電極層19を構成しており、後述する製造工程の最終段階で下地電極層19をめっき処理することにより、ニッケル(Ni)メッキ層20と半田(Sn/Pb)めっき層21という二層構造のめっき層22によって該下地電極層19は被覆される。なお、該めっき層22(20,21)は電極くわれの防止や半田付けの信頼性向上を図るためのものであり、半田めっき層の代わりに錫(Sn)めっき層を用いることも可能である。
・・・(中略)・・・
【0021】
まず、図2(a)と図3(a)に示すように、多数個取り用の大判基板12Aを準備する。この大判基板12Aはチップ抵抗器11の絶縁性基板12となるものであり、図2と図3では1個または複数個のチップ領域のみを示してあるが、実際には1つの大判基板12Aから多数のチップ抵抗器11が一括して得られるようになっている。
・・・(中略)・・・
【0025】
しかる後、図2(e)と図3(e)に示すように、大判基板12Aの表面側の全面にエポキシ等の樹脂ペーストを塗布して200°C程度の温度で加温硬化することにより、多数の表面電極14およびガラスコート層15をすべて被覆する樹脂層16を形成する(樹脂層形成工程)。このとき、樹脂層16は表面電極14上の厚みが5?15μmとなるように形成しておくことが好ましい。なお、この樹脂層16は、各抵抗体13を保護するオーバーコート層として機能すると共に、後述するダイシング時に各表面電極14の切断箇所に不所望な跳ね上がり部が生じないように保護する機能を果たす。」

(ウ)「【0027】
次いで、図2(g)と図3(g)に示すように、ダイシングによって大判基板12Aに互いに平行な複数本の一次スリット26を形成し、これら一次スリット26によって表面電極14と裏面電極17を図3(b)のY方向に沿って2分割する(一次スリット形成工程)。このとき、表面電極14は樹脂層16に覆われて金属露出部分とはなっていないため、ブレード(ダイサー)により切断されても切断箇所に不所望な跳ね返り部が生じる虞はない。なお、一次スリット26の両端は大判基板12Aの周縁部まで達しておらず、一次スリット26の両端と大判基板12Aの周縁部との間にスリットのない繋ぎ部27が確保されているため、隣接する一対の一次スリット26で挟まれた短冊状部分28は繋ぎ部27を介して大判基板12Aに保持されている。ただし、この短冊状部分28は下部保護層24の粘着力によって支持台25上に固定されているため、一次スリット26の一端または両端を大判基板12Aの周縁部まで延ばしてもよい。
【0028】
次いで、図2(h)に示すように、一次スリット26の内側面にニッケルクロム(Ni/Cr)をスパッタすることにより、一次スリット26内に露出する表面電極14と裏面電極17の端面どうしを橋絡し、かつ樹脂層16上へと回り込む端面電極18を形成する(端面電極形成工程)。かかる端面電極18の形成時に、表面電極14と裏面電極17はそれぞれ樹脂層16と下部保護層24によって覆われているため、端面電極18が大判基板12Aの表裏両面において表面電極14や裏面電極17と重なり合うことはなく、それゆえ表面電極14と裏面電極17のスクリーン印刷での寸法精度が維持されたまま端面電極18を高精度に形成することができる。
【0029】
次いで、図3(h)に示すように、ダイシングによって大判基板12Aに各一次スリット26と直交する方向に延びる互いに平行な複数本の二次スリット29を形成し、大判基板12Aを一次スリット26と二次スリット29で囲まれた多数のチップ単体30に細分割する(二次スリット形成工程)。
【0030】
しかる後、上部保護層23と下部保護層24を洗浄して除去することにより、大判基板12Aに設けられた各チップ単体30を支持台25から剥離し(部品分離工程)、最後に、各チップ単体30の下地電極層19に電解めっきを施してニッケル(Ni)メッキ層20と半田(Sn/Pb)めっき層21を形成することにより、図1に示すようなチップ抵抗器11が多数個取りされる。
・・・(中略)・・・
【0034】
【図1】本発明の実施形態例に係るチップ抵抗器の断面図である。
【図2】該チップ抵抗器の製造工程を示す断面図である。
【図3】該チップ抵抗器の製造工程を示す平面図である。
【図4】従来例に係るチップ抵抗器の断面図である。
【符号の説明】」

(エ)断面図を示す図1及び平面図を示す図3(h)によると、絶縁性基板12は、直方体形状であると認められる。また一対の表面電極14が、絶縁性基板12の長手方向両端部に位置しているものである。そして絶縁性基板12には、一対の端面電極18が形成されるものである。

(オ)断面図を示す図1及び図2(g)並びに平面図を示す図3(b)、(c)及び(h)によると、一対の表面電極14は、一次スリット26の形成により、X方向(絶縁性基板12の短辺側)における絶縁性基板12と樹脂層16との間から各端面にそれぞれ露出しているものである。

・上記(ア)及び(エ)によれば、一対の表面電極14は、絶縁性基板12の長手方向両端部に位置するものである。
・上記(イ)によれば、チップ抵抗器11は、絶縁性基板12の表面側に、抵抗体13と、前記抵抗体13の両端部に重なり合う一対の表面電極14と、前記抵抗体13を覆うガラスコート層15と、前記ガラスコート層15及び前記表面電極14をすべて被覆するエポキシ系樹脂等からなる樹脂層16とが形成されるものである。また絶縁性基板12の裏面側には、一対の裏面電極17が形成されるものである。そして絶縁性基板12の長手方向両端面には、端面電極18が形成されるものである。さらに表面電極14、裏面電極17及び端面電極18は、下地電極層19を構成し、めっき層22(20、21)によって前記下地電極層19が被覆されるものである。
・上記(イ)及び(ウ)によれば、チップ抵抗器11の製造工程は、ダイシングによって絶縁性基板12となる大判基板12Aに一次スリット26を形成し、前記一次スリット26内に表面電極14を露出し、ダイシングによって前記大判基板12Aに二次スリット29を形成し、多数のチップ単体30に細分割し、前記チップ単体30の下地電極層19にめっき層22(20、21)を形成する工程を含むものである。
・上記(エ)によれば、絶縁性基板12は、直方体形状である。また絶縁性基板12には、一対の端面電極18が形成されるものである。
・上記(オ)によれば、一対の表面電極14は、絶縁性基板12の短辺側における絶縁性基板12と樹脂層16との間から各端面にそれぞれ露出しているものである。

上記摘示事項および図面を総合勘案すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「絶縁性基板12の表面側に、抵抗体13と、前記抵抗体13の両端部に重なり合う一対の表面電極14と、前記抵抗体13を覆うガラスコート層15と、前記ガラスコート層15及び前記表面電極14をすべて被覆するエポキシ系樹脂等からなる樹脂層16とが形成され、
前記絶縁性基板12は、直方体形状であり、
前記一対の表面電極14は、前記絶縁性基板12の長手方向両端部に位置し、
前記絶縁性基板12の長手方向両端面には、一対の端面電極18が形成され、
前記絶縁性基板12の裏面側には、一対の裏面電極17が形成され、
前記表面電極14、前記裏面電極17及び前記端面電極18は、下地電極層19を構成し、めっき層22(20、21)によって前記下地電極層19が被覆され、
前記一対の表面電極14は、前記絶縁性基板12の短辺側における前記絶縁性基板12と前記樹脂層16との間から各端面にそれぞれ露出している、チップ抵抗器11であって、
ダイシングによって前記絶縁性基板12となる大判基板12Aに一次スリット26を形成し、前記一次スリット26内に前記表面電極14を露出し、ダイシングによって前記大判基板12Aに二次スリット29を形成し、多数のチップ単体30に細分割し、前記チップ単体30の前記下地電極層19に前記めっき層22(20、21)を形成してなる、チップ抵抗器11。」

イ.特開2015-50234号公報
平成31年2月25日付け最後の拒絶の理由及び原査定の拒絶の理由に引用された特開2015-50234号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(ア)「【0039】
第1下地電極22は基材1の第1側面13に形成されている。本実施形態においては、第1下地電極22は第1側面13の全面を覆っている。第1下地電極22を構成する材料は、たとえば、NiやCrが挙げられる。本実施形態においては、第1下地電極22はスパッタによって形成される。そのため、第1下地電極22の厚さは非常に薄い。スパッタによって形成される第1下地電極22の厚さは、たとえば、20?200nmである。本実施形態とは異なり、第1下地電極22が印刷によって形成されていてもよい。第1下地電極22は第1内部電極21に接している。これにより、第1下地電極22は第1内部電極21に導通している。なお、第1下地電極22は、スパッタにより形成する場合、第1内部電極21、この第1内部電極21の一部を覆う後述するオーバーコート6の一部、基材1の第1側面13、および第1裏面電極23の表面を一連に覆うように形成するのがよい。こうして形成された第1下地電極22は、第1メッキ電極27を形成するための下地層となる。
・・・(中略)・・・
【0044】
第2下地電極32は基材1の第2側面14に形成されている。本実施形態においては、第2下地電極32は第2側面14の全面を覆っている。第2下地電極32を構成する材料は、たとえば、NiやCrが挙げられる。本実施形態においては、第2下地電極32は第1下地電極22と同様にスパッタによって形成される。スパッタによって形成される第2下地電極32の厚さは、たとえば、20?200nmである。本実施形態とは異なり、第2下地電極32が印刷によって形成されていてもよい。第2下地電極32は第2内部電極31に接している。これにより、第2下地電極32は第2内部電極31に導通している。なお、第2下地電極32は、スパッタにより形成する場合、第2内部電極31、この第2内部電極31の一部を覆う後述するオーバーコート6の一部、基材1の第2側面14、および第2裏面電極33の表面を一連に覆うように形成するのがよい。こうして形成された第2下地電極32は、第2メッキ電極37を形成するための下地層となる。」

(イ)図4によると、基材1の主面11に形成された第1内部電極21及び第2内部電極31は、基材1の長辺側である第3側面15側及び第4側面16側まで面一に形成されているものであり、該第3側面15側及び該第4側面16側にそれぞれ露出しているといえる。

(ウ)図5ないし7によると、第1メッキ電極27及び第2メッキ電極37は、基材1の第3側面15側及び第4側面16側まで回り込んで形成されるものである。

・上記(ア)によれば、第1下地電極22及び第2下地電極32は、第1内部電極21及び第2内部電極31を覆うように形成して、第1メッキ電極27及び第2メッキ電極37を形成するための下地層となるものである。
・上記(イ)によれば、第1内部電極21及び第2内部電極31は、基材1の長辺側である第3側面15側及び第4側面16側にそれぞれ露出しているものである。
・上記(ウ)によれば、第1メッキ電極27及び第2メッキ電極37は、基材1の第3側面15側及び第4側面16側まで回り込んで形成されるものである。

上記摘示事項及び図面を総合勘案すると、引用文献2には、「第1内部電極21及び第2内部電極31は、基材1の長辺側である第3側面15側及び第4側面16側にそれぞれ露出しており、第1下地電極22及び第2下地電極32は、第1内部電極21及び第2内部電極31を覆うように形成して第1メッキ電極27及び第2メッキ電極37を形成するための下地層となり、第1メッキ電極27及び第2メッキ電極37は、基材1の第3側面15側及び第4側面16側まで回り込んで形成される」技術事項が記載されている。

この点について、審判請求人は、令和1年8月22日の面接にて、第1メッキ電極27及び第2メッキ電極37は基材1の第3側面15側及び第4側面16側の表面に形成されるものではないので、該第1メッキ電極27及び該第2メッキ電極37は基材1の第3側面15側及び第4側面16側にまで回り込んで形成されていない旨を主張している。
しかしながら、図3及び4を参照すると、第1下地電極22及び第2下地電極32並びに第1内部電極21及び第2内部電極31は、第3側面15側及び第4側面16側にそれぞれ露出しているから、露出した電極部分にメッキが付着され、第1メッキ電極27及び第2メッキ電極37は、該第1下地電極22及び該第2下地電極32並びに該第1内部電極21及び該第2内部電極31により、基材1の第3側面15側及び第4側面16側まで回り込んで形成されると認められる。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

(2)対比
そこで、本願補正発明2と引用発明1とを対比する。

ア.引用発明1の「絶縁性基板12」は、直方体形状であるから、本願補正発明2の「直方体形状の絶縁基板」に相当する。

イ.引用発明1の「一対の表面電極14」は、絶縁性基板12の表面側に形成され、該絶縁性基板12の長手方向両端部に位置するものであるから、本願補正発明2の「この絶縁基板の表面における長手方向両端部に設けられた一対の表電極」に相当する。

ウ.引用発明1の「抵抗体13」は、両端部に一対の表面電極14が重なり合うものであるから、本願補正発明2の「これら両表電極間に設けられた抵抗体」に相当する。

エ.引用発明1の「前記ガラスコート層15及び前記表面電極14をすべて被覆するエポキシ系樹脂等からなる樹脂層16」は、ガラスコート層15が抵抗体13を覆っており、また、エポキシ系樹脂は絶縁体であることから、本願補正発明2の「この抵抗体と前記両表電極の全面を覆う絶縁性の保護層」に相当する。

オ.引用発明1の「一対の端面電極18」は、絶縁性基板12の長手方向両端面に形成されるものであるから、本願補正発明2の「前記絶縁基板の長手方向両端面に設けられた一対の端子電極」に相当する。

カ.引用発明1の「めっき層22(20、21)」は、下地電極層19を構成する表面電極14、裏面電極17及び端面電極18を被覆するものであるから、本願補正発明2の「前記端子電極を覆うメッキ層」に相当する。

キ.引用発明1の「チップ抵抗器11」は、本願補正発明2の「チップ抵抗器」に相当する。

ク.引用発明1の「表面電極14」は、絶縁性基板12の短辺側における絶縁性基板12と樹脂層16との間から各端面にそれぞれ露出しているものであり、本願補正発明2の「表電極」とは「前記絶縁基板の短辺側」「における前記絶縁基板と前記保護層との間から各端面にそれぞれ露出している」点で共通するといえる。
ただし、表電極について、本願補正発明2は「前記絶縁基板の」「長辺側における前記絶縁基板と前記保護層との間から各端面にそれぞれ露出している」のに対し、引用発明1にはその旨の特定はされていない。

ケ.本願補正発明2は「前記端子電極が前記絶縁基板の短手方向両端面まで回り込んで前記表電極の露出部に接続している」のに対し、引用発明1にはその旨の特定はされていない。

そうすると、本願補正発明2と引用発明1とは、
「直方体形状の絶縁基板と、この絶縁基板の表面における長手方向両端部に設けられた一対の表電極と、これら両表電極間に設けられた抵抗体と、この抵抗体と前記両表電極の全面を覆う絶縁性の保護層と、前記絶縁基板の長手方向両端面に設けられた一対の端子電極と、前記端子電極を覆うメッキ層とを備えているチップ抵抗器であって、前記表電極が前記絶縁基板の短辺側における前記絶縁基板と前記保護層との間から各端面にそれぞれ露出していることを特徴とするチップ抵抗器。」の点で一致し、
以下の点で相違する。

<相違点1>
表電極について、本願補正発明2は「前記絶縁基板の」「長辺側における前記絶縁基板と前記保護層との間から各端面にそれぞれ露出している」のに対し、引用発明1にはその旨の特定はされていない。

<相違点2>
本願補正発明2は「前記端子電極が前記絶縁基板の短手方向両端面まで回り込んで前記表電極の露出部に接続している」のに対し、引用発明1にはその旨の特定はされていない。

(3)判断
上記相違点について検討する。

<相違点1>及び<相違点2>について
引用文献2には、「第1内部電極21及び第2内部電極31は、基材1の長辺側である第3側面15側及び第4側面16側にそれぞれ露出しており、第1下地電極22及び第2下地電極32は、第1内部電極21及び第2内部電極31を覆うように形成して第1メッキ電極27及び第2メッキ電極37を形成するための下地層となり、第1メッキ電極27及び第2メッキ電極37は、基材1の第3側面15側及び第4側面16側まで回り込んで形成される」技術事項が記載されている。
そうすると、引用発明1のチップ抵抗器11はダイシングによって大判基板12Aに一次スリット26を形成して一次スリット26内に表面電極14を露出させるものであることを考慮すれば、ダイシングによって大判基板12Aに二次スリット29を形成する際に、二次スリット29内に表面電極14を露出させることにより、引用文献2に記載された技術事項のように絶縁性基板12の長辺側に表面電極14を露出させて相違点1の構成とすることは、当業者が容易になし得た事項である。
そして、引用発明1のチップ抵抗器11は二次スリット29を形成しチップ単体30とした後に下地電極層19にめっき層22(20、21)を形成するものであるから、二次スリット29内に露出した該表面電極14についても、引用文献2に記載された技術事項のようにめっき層22(20、21)を形成するための下地層である端面電極18で覆うように形成して相違点2の構成とすることは、当業者が容易になし得た事項である。

したがって、本願補正発明2は、引用発明1及び引用文献2に記載された技術事項から当業者が容易になし得たものである。
そして、本願補正発明2の作用効果も、引用文献1及び2から当業者が予測できる範囲のものである。

(4)予備的見解のむすび
以上のとおり、本件補正2の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

したがって、本件補正2は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 平成30年12月27日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年12月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正1
平成30年12月27日付けの手続補正(以下「本件補正1」という。)は、特許請求の範囲及び明細書についてするもので、特許請求の範囲については、
本件補正1前に、
「 【請求項1】
直方体形状の絶縁基板と、この絶縁基板の表面における長手方向両端部に設けられた一対の表電極と、これら両表電極間に設けられた抵抗体と、この抵抗体と前記両表電極の全面を覆う絶縁性の保護層と、前記絶縁基板の長手方向両端面に設けられた一対の端子電極とを備え、前記表電極が前記絶縁基板の短辺側と長辺側における前記絶縁基板と前記保護層との間から各端面にそれぞれ露出していると共に、前記端子電極が前記絶縁基板の短手方向両端面まで回り込んで前記表電極の露出部に接続していることを特徴とするチップ抵抗器。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記表電極が部分的に厚く形成された膜厚部を有しており、この膜厚部の端面に前記端子電極が接続されていることを特徴とするチップ抵抗器。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記表電極の一部のみを積層構造となし、この積層部分の前記表電極が前記膜厚部となっていることを特徴とするチップ抵抗器。
【請求項4】
請求項2の記載において、前記絶縁基板の表面に長手方向端面と短手方向端面の少なくとも一方に繋がる凹部が形成されており、この凹部内に形成された部分の前記表電極が前記膜厚部となっていることを特徴とするチップ抵抗器。」とあったところを、

本件補正1により、
「 【請求項1】
直方体形状の絶縁基板と、この絶縁基板の表面における長手方向両端部に設けられた一対の表電極と、これら両表電極間に設けられた抵抗体と、この抵抗体と前記両表電極の全面を覆う絶縁性の保護層と、前記絶縁基板の長手方向両端面に設けられた一対の端子電極とを備えているチップ抵抗器であって、前記表電極が前記絶縁基板の短辺側と長辺側における前記絶縁基板と前記保護層との間から各端面にそれぞれ露出していると共に、前記端子電極が前記絶縁基板の短手方向両端面まで回り込んで前記表電極の露出部に接続していることを特徴とするチップ抵抗器。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記表電極が部分的に厚く形成された膜厚部を有しており、この膜厚部の端面に前記端子電極が接続されていることを特徴とするチップ抵抗器。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記表電極の一部のみを積層構造となし、この積層部分の前記表電極が前記膜厚部となっていることを特徴とするチップ抵抗器。
【請求項4】
請求項2の記載において、前記絶縁基板の表面に長手方向端面と短手方向端面の少なくとも一方に繋がる凹部が形成されており、この凹部内に形成された部分の前記表電極が前記膜厚部となっていることを特徴とするチップ抵抗器。」とするものである。なお、下線は補正箇所を示す。

2.補正の目的要件について
本件補正1は、本件補正1前の請求項1に対して「チップ抵抗器であって」という事項を付加するものである。
しかしながら、本件補正1は請求項に記載した発明特定事項の限定に該当せず、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものに該当するとはいえない。また、同項第1号に掲げる請求項の削除、同項第3号に掲げる誤記の訂正及び同項第4号に掲げる拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことも明らかである。

よって、本件補正1は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第4 本願発明について

1.本願発明
平成30年12月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、同年9月4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されたものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
直方体形状の絶縁基板と、この絶縁基板の表面における長手方向両端部に設けられた一対の表電極と、これら両表電極間に設けられた抵抗体と、この抵抗体と前記両表電極の全面を覆う絶縁性の保護層と、前記絶縁基板の長手方向両端面に設けられた一対の端子電極とを備え、前記表電極が前記絶縁基板の短辺側と長辺側における前記絶縁基板と前記保護層との間から各端面にそれぞれ露出していると共に、前記端子電極が前記絶縁基板の短手方向両端面まで回り込んで前記表電極の露出部に接続していることを特徴とするチップ抵抗器。」

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載事項、引用発明1、引用文献2の記載事項及び引用文献2に記載された技術事項は、上記「第2[理由] 3.(1)」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明2から「前記端子電極を覆うメッキ層」及び「チップ抵抗器であって」という事項を省くものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明2が、上記「第2[理由] 3.(3)」に記載したとおり、引用発明1及び引用文献2に記載された技術事項から当業者が容易になし得たものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明1及び引用文献2に記載された技術事項から当業者が容易になし得たものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-17 
結審通知日 2019-09-24 
審決日 2019-10-10 
出願番号 特願2015-72214(P2015-72214)
審決分類 P 1 8・ 572- WZ (H01C)
P 1 8・ 121- WZ (H01C)
P 1 8・ 575- WZ (H01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森岡 俊行堀 拓也小林 大介  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 山田 正文
佐々木 洋
発明の名称 チップ抵抗器  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  

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