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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01Q
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01Q
審判 全部無効 2項進歩性  H01Q
審判 全部無効 発明同一  H01Q
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  H01Q
管理番号 1357323
審判番号 無効2018-800060  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-05-17 
確定日 2019-11-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第4069958号発明「無線ICデバイス」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第4069958号(以下「本件特許」という。)は,平成19年1月12日(優先権主張 平成18年1月19日,平成18年3月22日,平成18年5月26日,平成18年6月30日,平成18年8月31日)を出願日とする特願2007-531525号(以下「本件特許出願」という。)が平成20年1月25日に設定登録されたものである。
その後の手続の経緯は,概ね次のとおりである。
平成30年 5月17日 本件無効審判の請求
平成30年 7月 6日 (請求人)手続補正書の提出
平成30年 8月 7日 (被請求人)上申書の提出
平成30年 8月29日付け 通知書
平成30年10月29日 答弁書の提出
平成31年 1月31日付け 審理事項の通知
平成31年 3月26日 (請求人)口頭審理陳述要領書の提出
平成31年 3月26日 (被請求人)口頭審理陳述要領書の提出
平成31年 4月 4日付け 審理事項(その2)の通知
平成31年 4月16日 (請求人)口頭審理陳述要領書(その2)の提出
平成31年 4月16日 (被請求人)口頭審理陳述要領書(その2)の提出
平成31年 4月19日付け 審理事項(その3)の通知
平成31年 4月23日 口頭審理
令和 元年 5月14日 (請求人)上申書の提出
令和 元年 5月14日 (被請求人)上申書の提出
令和 元年 9月12日付け 審理終結の通知
令和 元年 9月27日 (請求人)審理再開申立書の提出

なお,審判長は,請求人が提出した審理再開申立書を検討したが,下記第6に記載する理由により,審理再開の必要は認めなかった。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?29に係る発明(以下,請求項1?29に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明29」という。)は,特許請求の範囲の請求項1?29に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。

「【請求項1】
無線ICチップと,
前記無線ICチップと接続され,所定の共振周波数を有する共振回路を含む給電回路を設けた給電回路基板と,
前記給電回路基板が貼着又は近接配置されており,前記給電回路から供給された送信信号を放射する,及び/又は,受信信号を受けて前記給電回路に供給する放射板と,を備え,
前記送信信号及び/又は受信信号の周波数は,前記共振回路の共振周波数に実質的に相当すること,
を特徴とする無線ICデバイス。
【請求項2】
前記無線ICチップと前記給電回路基板は,配線基板上に並置されるとともに,該配線基板上に設けた導体を介して接続されていることを特徴とする請求項1に記載の無線ICデバイス。
【請求項3】
前記無線ICチップは,前記給電回路基板上に搭載され,該給電回路基板を介して前記放射板に設けられていること,を特徴とする請求項1に記載の無線ICデバイス。
【請求項4】
前記放射板が前記給電回路基板の表裏面に配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項5】
前記共振回路は分布定数型共振回路であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項6】
前記共振回路はコンデンサパターンとインダクタパターンとで構成された集中定数型共振回路であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項7】
前記集中定数型共振回路はLC直列共振回路又はLC並列共振回路であることを特徴とする請求項6に記載の無線ICデバイス。
【請求項8】
前記集中定数型共振回路は複数のLC直列共振回路又は複数のLC並列共振回路を含んで構成されていることを特徴とする請求項7に記載の無線ICデバイス。
【請求項9】
前記コンデンサパターンは,前記無線ICチップの後段であって,前記無線ICチップと前記インダクタパターンとの間に配置されていることを特徴とする請求項6ないし請求項8のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項10】
前記コンデンサパターン及び前記インダクタパターンは,前記放射板に対して平行に配置されていることを特徴とする請求項6ないし請求項9のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項11】
前記インダクタパターンによって磁界が形成される部分に反射器及び/又は導波器が配置されていることを特徴とする請求項10に記載の無線ICデバイス。
【請求項12】
前記給電回路基板は複数の誘電体層又は磁性体層を積層してなる多層基板であり,前記コンデンサパターンと前記インダクタパターンは前記多層基板の表面及び/又は内部に形成されていること,を特徴とする請求項6ないし請求項11のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項13】
前記給電回路基板は誘電体又は磁性体の単層基板であり,前記コンデンサパターン及び/又はインダクタパターンは前記単層基板の表面に形成されていること,を特徴とする請求項6ないし請求項11のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項14】
前記給電回路基板はリジッドな基板であり,前記放射板はフレキシブル金属膜で形成されていること,を特徴とする請求項1ないし請求項13のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項15】
前記フレキシブル金属膜はフレキシブルな樹脂フィルムに保持されていることを特徴とする請求項14に記載の無線ICデバイス。
【請求項16】
前記放射板の電気長は前記共振周波数の半波長の整数倍であることを特徴とする請求項1ないし請求項15のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項17】
前記無線ICチップにチップ側電極パターンが設けられており,かつ,前記給電回路基板に第1基板側電極パターンが設けられており,前記無線ICチップと前記給電回路基板とは前記チップ側電極パターンと前記第1基板側電極パターンとのDC接続により接続されていること,を特徴とする請求項1ないし請求項16のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項18】
前記無線ICチップにチップ側電極パターンが設けられており,かつ,前記給電回路基板に第1基板側電極パターンが設けられており,前記無線ICチップと前記給電回路基板とは前記チップ側電極パターンと前記第1基板側電極パターンとの間の容量結合により接続されていること,を特徴とする請求項1ないし請求項16のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項19】
前記チップ側電極パターン及び前記第1基板側電極パターンはそれぞれ互いに平行な平面電極パターンであり,前記無線ICチップと前記給電回路基板とは絶縁性接着層を介して接合されていること,を特徴とする請求項18に記載の無線ICデバイス。
【請求項20】
前記無線ICチップにチップ側電極パターンが設けられており,かつ,前記給電回路基板に第1基板側電極パターンが設けられており,前記無線ICチップと前記給電回路基板とは前記チップ側電極パターンと前記第1基板側電極パターンとの間の磁気結合により接続されていること,を特徴とする請求項1ないし請求項16のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項21】
前記チップ側電極パターン及び前記第1基板側電極パターンはそれぞれコイル状電極パターンであり,前記無線ICチップと前記給電回路基板とは絶縁性接着層を介して接合されていること,を特徴とする請求項20に記載の無線ICデバイス。
【請求項22】
前記給電回路基板に第2基板側電極パターンが設けられており,前記給電回路基板と前記放射板とは前記第2基板側電極パターンと前記放射板とのDC接続により接続されていること,を特徴とする請求項1ないし請求項21のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項23】
前記給電回路基板に第2基板側電極パターンが設けられており,前記給電回路基板と前記放射板とは前記第2基板側電極パターンと前記放射板との間の容量結合により接続されていること,を特徴とする請求項1ないし請求項21のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項24】
前記第2基板側電極パターンは前記放射板に対して平行に配置された平面電極パターンであり,前記給電回路基板と前記放射板とは絶縁性接着層を介して接合されていること,を特徴とする請求項23に記載の無線ICデバイス。
【請求項25】
前記給電回路基板に第2基板側電極パターンが設けられており,前記給電回路基板と前記放射板とは前記第2基板側電極パターンと前記放射板との間の磁気結合により接続されていること,を特徴とする請求項1ないし請求項21のいずれかに記載の無線ICデバイス。
【請求項26】
前記第2基板側電極パターンはコイル状電極パターンであり,前記給電回路基板と前記放射板とは絶縁性接着層を介して接合されていること,を特徴とする請求項25に記載の無線ICデバイス。
【請求項27】
前記コイル状電極パターンはその巻回軸が前記放射板に対して平行に形成されていることを特徴とする請求項26に記載の無線ICデバイス。
【請求項28】
前記コイル状電極パターンはその巻回軸が前記放射板に対して垂直に形成されていることを特徴とする請求項26に記載の無線ICデバイス。
【請求項29】
前記コイル状電極パターンはその巻回軸が前記放射板に向かって徐々に大きく形成されていることを特徴とする請求項28に記載の無線ICデバイス。」

第3 請求人の主張
1 主張の概要
請求人は,「特許第4069958号発明の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め,審判請求書において,次のような無効理由を主張している。

(1)無効理由1
本件特許発明1は,甲第13号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当する。したがって,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

(2)無効理由2
ア 本件特許発明1は,甲第4号証に記載された発明と,甲第13号証に記載された発明に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものである。したがって,本件特許発明1についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
イ 本件特許発明1は,甲第2号証に記載された発明と,甲第13号証に記載された発明に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものである。したがって,本件特許発明1についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
ウ 本件特許発明2?29は,甲13に記載された発明に基づいて,又は,甲13に記載された発明及び甲2?12,14,15,17?22のいずれかに記載された発明に基づいて,若しくは,甲13に記載された発明及び周知技術に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものである。したがって,本件特許発明2?29についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

(3)無効理由3
本件特許発明1は,本件出願の最先の優先日前に出願された他の特許出願であって,本件出願後に甲第23号証により出願公開されたものの願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲または図面に記載された先願発明(甲第23号証に記載された発明)と同一である。したがって,本件特許発明1についての特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから,特許法第123条第1項第2号の規定に該当し,無効とすべきである。

(4)無効理由4
本件特許明細書の記載は,当業者が本件特許発明1?29の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく,実施可能要件に違反しており,本件特許発明1?29についての特許は,特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,特許法第123条第1項第4号の規定に該当し,無効とすべきである。

(5)無効理由5
本件特許発明1?29は,発明の詳細な説明に記載したものでなく,サポート要件に違反しており,本件特許発明1?29についての特許は,特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,特許法第123条第1項第4号の規定に該当し,無効とすべきである。

2 証拠方法
甲第1号証 特開2005-191705号公報
甲第2号証 特開2002-290131号公報
甲第3号証 特開2005-244778号公報
甲第4号証 国際公開第2004/100366号
甲第4号証の1 特表2006-525759号公報
甲第5号証 特開2001-216485号公報
甲第6号証 特開平7-306264号公報
甲第7号証 特開平11-261330号公報
甲第8号証 特開2003-85501号公報
甲第9号証 特開2004-310619号公報
甲第10号証 特開2001-331772号公報
甲第11号証 米国特許出願公開第2005/0093678号明細書
甲第12号証 米国特許出願公開第2001/0000430号明細書
甲第13号証 特表2002-517764号公報
甲第14号証 特表2004-511033号公報
甲第15号証 特開平10-119521号公報
甲第16号証 特開2001-351083号公報
甲第17号証 特開2001-101371号公報
甲第18号証 特開2004-336250号公報
甲第19号証 特開平10-293828号公報
甲第20号証 特開2004-362190号公報
甲第21号証 特開平10-320519号公報
甲第22号証 特開2002-157568号公報
甲第23号証 国際公開第2006/059366号
甲第24号証 「RFIDハンドブック 非接触ICカードの原理と応用」,日刊工業新聞社,2001年2月26日発行
甲第25号証 特開2007-18067号公報
甲第26号証 特開2002-74271号公報
甲第27号証 特開平11-339142号公報
甲第28号証 特開2004-139405号公報

第4 被請求人の主張
1 主張の概要
被請求人は,「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め,請求人が主張する無効理由はいずれも成り立たない旨,主張している。

2 証拠方法
乙第1号証 特願2006-513426号の誤訳訂正書
乙第2号証 「ユビキタス無線工学と微細RFID ?無線ICタグの技術?」,学校法人東京電機大学,2003年4月30日発行
乙第3号証 技術説明の資料
乙第4号証 審理事項通知書(その3)に対する被請求人の回答要旨の資料
乙第5号証 本件特許発明1と従来技術との比較を示す動画の資料(DVD)

第5 当審の判断
1 無効理由1について
(1)甲第13号証の記載,甲13発明
ア 甲第13号証には,以下の記載がある(下線は当審による。)。
(ア)「【0017】
図1に示されるように,受動型無線周波応答素子10は一般に,2つの構成要素,すなわち集積回路12およびアンテナ14を含む。集積回路は,主要な識別機能を提供する。集積回路は,タグ識別および他の所望の情報を永久に格納し,問合せ用ハードウェアから受信した命令を解釈して処理し,問合せ器による情報の要求に応答し,同時に問合せに応答する複数のタグで生じる衝突を解決するハードウェアを支援するためのソフトウェアおよび回路を含む。また,集積回路は,情報を読み出すだけ(読出し専用)の場合に対して,そのメモリ(読出し/書込み用)に格納される情報を更新するために設けられてもよい。RFIDマーカで使用するのに適した集積回路には,特にTexas Instruments(製品のTIRIS系列),Philips(製品のMifare系列およびHitag系列),Motorola/IndalaおよびSingle Chip Systemsから入手可能なものが挙げられる。
【0018】
アンテナの幾何学的構成および特性は,タグのRFID部分の所望の作動周波数に依存する。たとえば,2.45GHz(または類似の)RFIDタグは通常,図1Aに示されているような直線型ダイポールアンテナおよび図1Bの無線周波応答素子10aに付属して示されている折畳み型ダイポールアンテナなどのダイポールアンテナを含む。13.56MHz(または類似の)RFIDタグは,図2の無線周波応答素子10bに付属して示されているように,螺旋またはコイル型アンテナ14bを使用する。いずれの場合も,アンテナ14は,問合せ信号発生源によって放射された無線周波エネルギを捕える。このような信号エネルギは,タグに電力および命令を伝達する。アンテナによって,無線周波応答素子は,ICチップに電力を供給するのに十分なエネルギを吸収することができ,それによって検出対象への応答を供給する。したがって,アンテナの特性は,アンテナが組込まれるシステムに適合していなければならない。高いMHz?GHzの範囲で作動するタグの場合には,最も重要な特性は,アンテナの長さである。一般に,ダイポールアンテナの有効長さは,問合せ信号の半波長または半波長の倍数に近くなるように選択される。半波長のアンテナがサイズの制限のために実用的でない低?中程度のMHz領域において(たとえば,13.56MHz)作動するタグの場合には,重要な特性は,アンテナのインダクタンスおよびアンテナコイルの巻数である。いずれのアンテナの種類においても,優れた導電率が必要となる。一般に,銅またはアルミニウムなどの金属が使用されるが,パーマロイなどの磁気金属をはじめとする他の導体も使用することができ,実際のところ,本発明の目的には後者の方が好ましい。また,選択されるICチップの入力インピーダンスが,最大エネルギ伝達に関して,アンテナのインピーダンスと適合することも重要である。アンテナに関する付加的な情報は,たとえば,J.D.Kraus「Antennas」(第2版,1988,McGraw-Hill,Inc.,New York)などの参考文献から当業者にとって周知である。
【0019】
コンデンサ16によって,図2に示されているように,マーカの性能を向上することがよくある。コンデンサ16が存在する場合,タグの作動周波数に特定の値で同調する。これは,最大作動範囲を得て,規定要件に合致していることを保証するためにも望ましい。コンデンサは,以下に述べるように,個別の構成要素であってもよく,アンテナに統合されていてもよい。いくつかのタグ設計,特に,2.45GHzなどのきわめて高い周波数で作動するように設計されたタグにおいて,同調コンデンサは必要とされない。コンデンサの容量は,アンテナによって形成されるインダクタンスに結合される場合に,合成構造の共振周波数が以下の式で与えられるように選択される:
【数1】

式中,
C=キャパシタンス(単位 ファラド)
L=インダクタンス(単位 ヘンリー)
であり,RFIDシステムの所望の作動周波数に厳密に適合する。コンデンサはまた,3Mに譲渡された米国特許第4,598,276号(Taitら)および米国特許第4,578,654号(Taitら)に記載されるように,分布コンデンサであってもよい。分布キャパシタンスは,タグサイズ,具体的には厚さの削減および手作業組立の最小化のために望ましい。」

(イ)「【0022】
III.組合せタグ
図3,5?8に示されているように,本発明の組合せタグ20は,磁気応答素子を無線周波応答素子と組合せ,両者の利点を提供する。したがって,2つの素子を同時に対象の品目に適用することができ,それによってコストを削減する。組合せタグは,除去可能なライナによって覆われた感圧接着剤を備えていてもよく,ライナが除去されたときに,感圧接着剤によって組合せタグを物品の表面に接着させることができる。別の実施形態において,タグは,無線周波応答素子用のアンテナとして磁気応答素子を使用する。磁気応答素子は,アンテナとして使用されるときに,無線周波応答素子に電気的に結合され,無線周波応答素子に物理的に結合されても結合されなくてもよい。」

(ウ)「【0029】
図7および図8は,2つ以上のアンテナ22が,アンテナ23b,23cにそれぞれ電気的に結合されるように設けられた実施形態を示している。図7に示された組合せタグ20bにおいて,集積回路12は,アンテナ22bに寄生結合されるダイポールアンテナ23bを含む。アンテナ22bは磁気に応答する材料で製作され,アンテナ23bも磁気に応答する材料で製作されてもよい。図8に示された組合せタグ20cにおいて,図2に示された種類の無線周波応答素子はアンテナ22cに寄生によって電気結合される。アンテナ22cは磁気に反応する材料で製作され,アンテナ23cも磁気に応答する材料で製作されてもよい。このような実施形態の他の変形は簡単に設計される。
【0030】
組合せタグの全体厚さは,タグを物品の上または中に目立たないように配置することができるようにするために,できる限り小さくする必要がある。たとえば,タグは,書籍の頁の間に接着剤を用いて貼りつけられることもでき,書籍の端を見ることによって簡単に検出されることをを防止するのに十分なほどタグを薄くすることが望ましい。従来のICは厚さ約0.5mm(0.02インチ)であると考えられ,タグの全体厚さは0.635mm(0.025インチ)未満であることが好ましい。
【0031】
本発明の組合せタグは,物品に個別のタグを自動的に順次貼付することができるようにするために,ロール形状で提供されることもある。この汎用システムは,たとえば,PCT出願第WO97/36270(DeValeら)に記載されている。1面以上の面が(感圧接着剤などの)接着剤によって覆われた個別の組合せタグをロールから取外し,書籍の2つの頁の間の結合部付近に貼りつけることができる。頁スプレッダが,組合せタグの挿入を迅速に行うことができるように設けられてもよく,さまざまな構成要素の位置を検出するために,システムにセンサなどの他のオプションが設けられてもよい。」

(エ)図2

(オ)図8


イ 上記アの記載及び図面について,以下のことがいえる。
(ア)「図2の無線周波応答素子10b」は,「コイル型アンテナ14bを使用する」ものであり(段落【0018】),「コイル型アンテナ14b」は「無線周波エネルギを捕える」ものであり(同),「コンデンサ16」は,コイル型アンテナ14bに「統合されていてもよい」ものである(段落【0019】)。
(イ)コンデンサ16のキャパシタンスの値「C」と,コイル型アンテナ14bによって「形成されるインダクタンス」の値「L」を含む数式で与えられる共振周波数は,「RFIDシステムの所望の作動周波数に厳密に適合する」(段落【0019】)。
(ウ)段落【0022】の記載によれば,図8の「組合せタグ20」は,「磁気応答素子を無線周波応答素子と組合せ,両者の利点を提供する」ものであり,段落【0029】の記載によれば,図8は「2つ以上のアンテナ22がアンテナ23cに電気的に結合されるように設けられた実施形態」であって,さらに,同段落に「図8に示された組合せタグ20cにおいて,図2に示された種類の無線周波応答素子はアンテナ22cに寄生によって電気結合される。」と記載されているから,図8の「組合せタグ20c」の「アンテナ23c」は,図2に示される「無線周波応答素子10b」の「コイル型アンテナ14b」である。そうすると,図8の番号「16」及び「アンテナ23c」とで構成される部分について,上記(ア),(イ)が当てはまることが明らかである。
したがって,図8のアンテナ23cは,アンテナ23cに統合されたコンデンサ16のキャパシタンス及びアンテナ23cによって形成されるインダクタンスで与えられる共振周波数であって,無線周波におけるRFIDシステムの所望の作動周波数に厳密に適合する共振周波数を有する。
(エ)上記(ウ)の段落【0029】の記載によれば,アンテナ22cは,磁気に反応する材料で製作され,アンテナ23cと寄生によって電気結合する。
(オ)段落【0017】及び【0029】の記載によれば,図1と図7においては番号「12」は「集積回路12」であるから,図8において,アンテナ23c及びコンデンサ16に接続されている番号「12」は,集積回路であると認められる。
(カ)段落【0030】に「組合せタグの全体厚さは,タグを物品の上または中に目立たないように配置することができるようにするために,できる限り小さくする必要がある。」と記載されているとともに,「タグの全体厚さは0.635mm(0.025インチ)未満であることが好ましい。」と記載され,また,段落【0031】に「本発明の組合せタグは,物品に個別のタグを自動的に順次貼付することができるようにするために,ロール形状で提供されることもある。」と記載されているから,図8の組合せタグ20cは,全体厚さができる限り小さくされ,物品に個別のタグを自動的に順次貼付することができるようにするために,ロール形状で提供されるものである。

ウ 甲13発明
上記ア,イにおける図8に関する事項によれば,甲第13号証には次の発明(以下「甲13発明」という。)が記載されていると認められる。

「集積回路12と,
集積回路12と接続され,無線周波エネルギを捕えるアンテナ23cに統合されたコンデンサ16のキャパシタンス及びアンテナ23cによって形成されるインダクタンスで与えられる共振周波数であって,無線周波におけるRFIDシステムの所望の作動周波数に厳密に適合する共振周波数を有する,アンテナ23c及びコンデンサ16と,
アンテナ23cと寄生によって電気結合する,磁気に反応する材料で製作されるアンテナ22cと,を備え,
全体厚さができる限り小さくされ,物品に個別のタグを自動的に順次貼付することができるようにするために,ロール形状で提供される,
組合せタグ。」

(2)対比,判断
ア 本件特許発明1と甲13発明とを対比する。
(ア)甲13発明の「集積回路12」は,「無線周波エネルギを捕えるアンテナ23c」と接続されるものであり,集積回路はICであって通常チップとして構成されるから,本件特許発明1の「無線ICチップ」に相当する。また,このことから,甲13発明の「組合せタグ」は,「無線ICデバイス」に含まれる。
甲13発明の「アンテナ23c及びコンデンサ16」で構成される部分は,それぞれのキャパシタンス及びインダクタンスで与えられる,「無線周波におけるRFIDシステムの所望の作動周波数に厳密に適合する共振周波数を有」し,当該共振周波数の値は所望の作動周波数に対応するように定められているといえるから,所定の共振周波数を有する共振回路である。
甲13発明の「アンテナ22c」は,磁気に反応する材料で製作されるから,磁気による「受信信号を受ける」ものであることが明らかである。
そして,甲13発明の「アンテナ22c」は,上記共振回路の一部である「アンテナ23c」と「寄生によって電気結合する」から,上記「受信信号」は,「アンテナ22c」から,「アンテナ23c及びコンデンサ16」を介して「集積回路12」に信号を供給する。したがって,甲13発明の「アンテナ23c及びコンデンサ16」を含む回路は,「アンテナ22c」に対する給電回路であるといえる。
また,本件特許発明1の「前記給電回路基板が貼着又は近接配置されており,前記給電回路から供給された送信信号を放射する,及び/又は,受信信号を受けて前記給電回路に供給する放射板」と,甲13発明の「アンテナ23cと寄生によって電気結合するアンテナ22c」とは,「前記給電回路が近接配置されており,受信信号を受けて前記給電回路に供給する放射素子」という点で共通する。

(イ)本件特許発明1において,「給電回路基板」が「放射板」に「貼着又は近接配置されて」いるとは,「給電回路基板」と「放射板」が「貼着又は近接配置されて」いることである。なお,「貼着」とは,「貼り着ける」ことである。そうすると,「給電回路基板」と「放射板」は,物理的に独立した構成であるといえる。
これに対し,甲13発明は,その要素として,給電回路素子である「アンテナ23c及びコンデンサ16」と,放射素子である「アンテナ22c」とを備えるものの,「全体厚さができる限り小さくされ,物品に個別のタグを自動的に順次貼付することができるようにするために,ロール形状で提供される,組合せタグ」である。

(ウ)甲13発明の「アンテナ23c」は「無線周波エネルギを捕える」ものであり,「アンテナ23c及びコンデンサ16」が有する「共振周波数」は「無線周波におけるRFIDシステムの所望の作動周波数」に「厳密に適合する」ものである一方,「磁気に応答する材料で製作され」た「アンテナ22c」が受ける受信信号は,磁気による受信信号であって,「磁気による」受信信号の周波数と,「無線周波」の周波数とが同じであるか否かについては,甲第13号証には記載されておらず,同じであることは自明でもない。
したがって,甲13発明の「アンテナ22c」が受ける受信信号の周波数が,「アンテナ23c及びコンデンサ16」が有する「共振周波数」に実質的に相当するとはいえない。

イ 上記アによれば,本件特許発明1と甲13発明とは,
(一致点)「無線ICチップと,
前記無線ICチップと接続され,所定の共振周波数を有する共振回路を含む給電回路と,
前記給電回路が近接配置されており,受信信号を受けて前記給電回路に供給する放射素子と,を備える,
無線ICデバイス。」
という点で一致し,また,両者は以下の点で相違する。

(相違点1)「給電回路」及び「放射素子」が,本件特許発明1では,「給電回路を設けた給電回路基板」及び「放射板」として構成されるものであるのに対し,甲13発明では,「アンテナ23c及びコンデンサ16」を含む回路及び「アンテナ22c」であって,それらを備える「組合せタグ」が「ロール形状で提供される」点。
(相違点2)「受信信号」の周波数が,本件特許発明1では,「共振回路の共振周波数に実質的に相当する」のに対し,甲13発明ではその特定がない点。

ウ よって,本件特許発明1は,相違点1,2において甲13発明と相違するから,甲13発明と同一とはいえない。

(3)請求人の主張について
請求人は,甲第13号証に,集積回路12は,受動型無線周波応答素子10,10bに含まれることが記載されていること,また,無線周波応答素子10bのコンデンサ16はコイル型アンテナ14bに結合されており,その共振回路の共振周波数が記載されていることから,甲第13号証には,構成1B(当審注:本件特許発明1のうちの「前記無線ICチップと接続され,所定の共振周波数を有する共振回路を含む給電回路を設けた給電回路基板」の部分。以下同様。)が記載されている旨,主張する(平成31年3月26日提出の口頭審理陳述要領書10頁)。
また,請求人は,図3,5?8に示される組合せタグは,感圧接着剤によって物品の表面に接着されるため,集積回路12および無線周波応答素子を支持するための基材(本件特許発明1の給電回路基板に相当)を有していること,組合せタグにおいて,磁気応答素子は,感圧接着剤によって基材と貼着されていることが記載されていること,組合せタグにおいて,磁気応答素子(図8の例におけるアンテナ22c)は,無線周波数応答素子に電気的に結合されてアンテナとして機能する旨が記載されていること,及び,段落[0009]に,「一実施形態において,磁気応答素子は,無線周波応答素子に物理的に接続されることによって,または物理的に接続されていないが電気的に結合されていることによって,無線周波応答素子用のアンテナとして作用する。」と記載されていることから,甲第13号証には,構成1C(当審注:本件特許発明1のうちの「前記給電回路基板が貼着又は近接配置されており,前記給電回路から供給された送信信号を放射する,及び/又は,受信信号を受けて前記給電回路に供給する放射板」の部分。以下同様。)が記載されている旨,主張する(同)。
しかしながら,上記(2)ア(イ)のとおり,本件特許発明1の「給電回路基板」と「放射板」は物理的に独立した構成であるのに対し,甲13発明は,給電回路素子である「アンテナ23c及びコンデンサ16」と,放射素子である「アンテナ22c」を備える「組合せタグ」が「ロール形状で提供される」ものであるから,甲13発明は,構成1B及び1Cにおいて本件特許発明1と一致するものではない。

(4)小括
以上のとおりであるから,本件特許発明1は,甲第13号証に記載された発明であるとはいえない。

2 無効理由2について
(1)甲第4号証の記載,甲4発明
ア 甲第4号証には,以下の記載がある(下線は当審による。)。
(ア)「BACKGROUND OF THE INVENTION
[0002] The use of inductor capacitor (LC) resonant frequency circuits is well known for applications which include electronic article surveillance (EAS), chip based radio frequency identification (RFID), chipless RFID and other such applications. In such applications there are three key circuit parameters, which are typically employed for quantifying the electrical performance of the circuit, and, in particular, the antenna portion of the circuit. The three parameters are (1) the center frequency of the resonant circuit, (2) the quality factor (Q factor) of the resonant circuit, and (3) the relative output signal amplitude of the resonant circuit. With such circuits, the bandwidth is defined as the difference between an upper frequency (F1) and a lower frequency (F2) of the circuit at which the output amplitude response is 3dB below the passband response. The output signal amplitude is a measured height of response of the circuit based on a fixed position and a fixed incident magnetic field strength. The quality or Q factor is the ratio of the center frequency of the resonant circuit divided by the bandwidth output signal of the circuit.
[0003] LC resonant frequency circuits are well known in the art. When used for EAS, such circuits are formed into labels or tags which are applied to goods to be protected. As an example, a tag may be formed of a dielectric substrate having first and second generally parallel planar surfaces on opposite sides thereof. A first side of the substrate includes a first conductive pattern in the form of a coil (forming the inductor of the circuit), a first end of which terminates in a generally square or rectangular plate forming a first electrode of the capacitor portion of the circuit. The second surface of the substrate includes a second generally square or rectangular plate forming the second electrode of the capacitor portion of the circuit and a conductive trace extending away from the capacitor plate to a point proximate an edge of the substrate. The distal end of the conductive trace is electrically connected by a weld through or around the edge of the substrate to the second end of the coil to thereby complete the parallel LC circuit. When a tag of this type is exposed to electromagnetic energy at or near the center frequency of the tag, as determined by the values of the inductor and capacitor in accordance with a known formula, the circuit resonates.」
(当審訳: 発明の背景
[0002] 電子物品監視(EAS),チップベースの無線識別(RFID),チップレスのRFIDおよび,他のそのような用途,を含む用途のために,インダクタ・キャパシタ(LC)共振周波数回路の使用がよく知られている。そのような用途には,3つの主要な回路パラメータがあり,それらは典型的に,回路,および,特に回路のアンテナ部の電気的特性を定量化するために採用される。その3つのパラメータは,(1)共振回路の中心周波数,(2)共振回路の特性ファクタ(Qファクタ),および(3)共振回路の相対的出力信号振幅である。そのような回路で,出力振幅応答が通過帯域応答の3dB下にある回路の上側周波数(F1)と下側周波数(F2)との差として,帯域幅が定義される。出力信号振幅は,固定位置,および固定の付随磁場強度に基づく,回路の応答の測定される高さである。特性またはQファクタは,共振回路の中心周波数を,回路の帯域幅出力信号で割った比である。
[0003] LC共振周波数回路はこの分野でよく知られている。EASに使用されるとき,そのような回路は,保護されるべき商品に適用されるラベルまたはタグに形成される。例として,タグは,それの対向する側に第1および第2の一般に平行な平面を持つ誘電性の基板で形成される。その基板の第1の側は,コイル(回路のインダクタを形成)の形態の第1の導体パターンを含み,その第1の端部は,回路のキャパシタ部の第1の電極となる,一般に方形または長方形のプレートで終端する。その基板の第2の面は,回路のキャパシタ部の電極を形成する第2の一般に正方形または長方形のプレート,および,キャパシタのプレートから基板のエッジに接近したポイントへ延在する導電性のトレースを含む。導電性トレースの遠位の端部は,溶接により,基板を通過して,または基板のエッジの回りを通過して,コイルの第2の端部に電気的に接続され,それにより,並列のLC回路を完成する。このタイプのタグが,公知の公式により,インダクタおよびキャパシタの値で決定されるような,同タグの中心周波数またはその近傍の電磁エネルギーに曝されたとき,その回路は共振する。)

(イ)「[0005] The present invention seeks to improve the performance of a typical LC resonant circuit. In particular, the present invention is aimed at enhancing or amplifying the output signal amplitude response from an LC resonant circuit.

SUMMARY OF THE INVENTION
[0006] The preferred embodiment includes a combination of a LC resonant frequency circuit with an adjacent amplification shield. In one preferred embodiment, a resonant LC circuit device includes a resonant frequency circuit having an inductor electrically coupled to a capacitor. The resonant frequency circuit has a center frequency and is arranged to resonate in response to exposure to electromagnetic energy at or near the center frequency, providing an output signal having an amplitude. The amplification shield directs a portion of the electromagnetic energy to the resonant frequency circuit to amplify the amplitude of the output signal from the resonant frequency circuit.
[0007] In another preferred embodiment, a resonant LC circuit device includes a passive response member that resonates an output signal having an amplitude in response to exposure of the passive response member to electromagnetic energy at or near a desired frequency. The LC circuit also includes a passive amplification member that directs a portion of the electromagnetic energy to the passive response member to amplify the amplitude of the output signal.
[0008] Yet another preferred embodiment includes a method for passively amplifying a response output signal from a LC circuit device. The method includes resonating an output signal having an amplitude from the resonant LC circuit device in response to exposure of the resonant LC circuit device to electromagnetic energy at or near a desired frequency, and directing a portion of the electromagnetic energy to the resonant LC circuit device to amplify the amplitude of the output signal.」
(当審訳: [0005] この発明は典型的なLC共振回路の性能を向上させることをねらっている。特に,この発明はLC共振回路から出力信号振幅応答を強化するか,または増幅することを目的とする。
発明の概要
[0006] 好ましい実施形態は,LC共振周波数回路と,隣接する増幅シールドとの組み合わせを含む。1つの好ましい実施形態では,共振LC回路デバイスは,電気的にキャパシタに接続されたインダクタを有する共振周波数回路を含む。共振周波数回路は,中心周波数を持ち,そして,その中心周波数またはそれに近い周波数の電磁エネルギーに曝された時に共振し,振幅を有する出力信号を与えるように構成されている。その増幅シールドは,共振周波数回路からの出力信号の振幅を増幅するために,電磁エネルギーの一部を共振周波数回路に指向させる。
[0007] 別の好ましい実施形態では,共振LC回路デバイスは,受動の応答部材を,所望の周波数またはそれに近い周波数の電磁エネルギーに曝すことに応答して,振幅を有する出力信号を共振させる受動の共振部材を含む。そのLC回路も,出力信号の振幅を増幅するために,電磁エネルギーの一部を受動の応答部材に指向させる受動の増幅部材を含む。
[0008] さらに別の好ましい実施形態は,LC回路デバイスからの応答出力信号を受動で増幅するための方法を含む。その方法は,所望の周波数またはその近傍の周波数の電磁エネルギーへ共振LC回路デバイスを曝したことに応答して,共振LC回路からの振幅を有する出力信号を共振させ,そして,出力信号を増幅するために,電磁エネルギーの一部を共振LC回路に指向させることを含む。)

(ウ)「DETAILED DESCRIPTION OF THE INVENTION
[0019] The preferred embodiment includes a combination of a LC resonant frequency circuit with an adjacent amplification shield. In the embodiments illustrated and described below, the LC resonant frequency circuit is in the form of an EAS tag of a type well known to those of ordinary skill in the art and described briefly above. It should be appreciated that the present invention is not limited to use in conjunction with an existing EAS tag. That is, the present invention is also useful in other applications, including chip based RFID applications, chipless RFID applications and other applications which are known or will become known to those of ordinary skill in the art. Accordingly, it should be clearly understood that while the following illustrations are directed to the use of an amplification shield in connection with either EAS or RFID LC resonant frequency tags, the examples are only for the purpose of illustrating the inventive concepts and the invention is not limited to the use of an amplification shield with such tags.
[0020] As stated above, the preferred embodiment includes a combination of an LC resonant frequency circuit and an amplification shield. While not being limited to a particular theory, in the illustrated examples the amplification shields are generally planar and are made of a metal or metallic material, such as steel, aluminum, or the like. There are several benefits regarding the methods and mechanisms that are in play with the shield that result in an increased circuit amplification. One benefit is that the shield absorbs at least some of the magnetic field and magnetically couples the absorbed energy to the resonant LC circuit to increase the circuit amplitude or energy available for resonance. Another benefit is that the shield reflects / refracts at least some of the energy from the magnetic field and redirects the energy field toward the LC circuit. A third benefit incorporates the combination of both the absorption and reflection / refraction of the magnetic field to couple added energy to the LC circuit and likewise increase the signal amplitude of the circuit. The presence of an amplification shield with an LC circuit increases the circuit's measured signal amplitude and likewise results in an improved detection or read distance of the LC circuit.」
(当審訳: 発明の詳細な説明
[0019] 好ましい実施形態は,LC共振周波数回路と,隣接する増幅シールドとの組み合わせを含む。以下で図示され,説明される実施形態では,LC共振周波数回路は,当業者には周知で,かつ,以下に簡単に説明するEASタグの形態としている。この発明が既存のEASタグに関連して使用されることに限定されないことに気付くべきである。即ち,この発明は,チップベースのRFID用途,チップレスのRFID用途および,既知のまたは当業者には既知である他の用途を含む他の用途にも有用である。以下の例示は,EASまたはRFID LC共振周波数タグのどちらかに関連して増幅シールドの使用に向けられているが,その例は,単にこの発明の概念を示す目的のためであり,この発明は,そのようなタグに増幅シールドを使用することに限定されない。
[0020] 上に述べたように,好ましい実施形態は,LC共振周波数回路と増幅シールドの組み合わせを含む。特定の理論に制限されないが,図示した例では,増幅シールドは,全体的に平面状であり,鉄鋼,アルミニウムまたは同様のもののような,金属または金属性の素材で作られる。増大される回路増幅をもたらす,シールドを伴って動作する方法および機構に関して,いくつかの利点がある。1つの利点は,シールドが少なくとも磁界のいくらかを吸収して,吸収されたエネルギーを,共振LC回路に電磁的に結合して,共振に利用可能な回路の振幅またはエネルギーを増加させることである。別の利点は,磁界からのエネルギーの少なくともいくらかをシールドが反射するか,または屈折させて,エネルギーの磁界をLC回路に向けることである。3番目の利点は,磁界の吸収と,反射/屈折との両方を組み合わせたものを含むことにより,追加のエネルギーをLC回路に結合して,同様に回路の信号振幅を増大させることである。LC回路とともに増幅シールドが存在することは,回路の測定される信号振幅を増大させ,同様に,LC回路の検出または読み取りの距離の改善につながる。)

(エ)「[0022] While not being limited to a particular theory, preferably, and as illustrated by the embodiments described below, the amplification shield is located adjacent to the LC resonant frequency circuit and is preferably in the same (or substantially the same) plane as the LC resonant frequency circuit, or is in a close, generally parallel plane to the circuit. It will be appreciated by those of ordinary skill in the art that the amplification shield may be spaced from the LC resonant frequency circuit, if desired, and may be in a different plane (Fig. 7 for example), if desired. The LC resonant frequency circuit could overlap all or a portion of the amplification shield but if there is an overlap it is preferably only a slight overlap. The LC resonant frequency circuit could be spaced from the amplification shield by preferably the spacing is small. While not being limited to a particular theory, both the LC resonant frequency circuit and the amplification shield are passive, in that they are not required to be a source of energy but are responsive to energy in an electromagnetic field.
[0023] Fig. 2, illustrates a first example of a preferred embodiment of a LC resonant frequency circuit 5 in the form of an exemplary LC resonant tag 10 and a surrounding amplification shield 12. While not being limited to a particular theory, the amplification shield 12 is comprised of a planar layer of metal foil with a thickness of about 38 microns and is generally in the configuration of a square. While the thickness of about 38 microns is a preferred thickness, the thickness of the amplification shield may vary within the scope of the invention. For example, a thinner shield may be preferable for lower costs, while a thicker shield may be preferable for structural integrity. The shield 12 includes a center portion 14 having an aperture of a size which approximates the dimensions of the tag 10. The center portion 14 has been removed from the amplification shield 12 to provide an open area within which the tag 10 is inserted. In this manner, the tag 10 is in the same or substantially the same plane as the plane of the amplification shield 12 with the amplification shield surrounding the tag on all sides.
[0024] Still referring to Fig. 2, the tag 10 and amplification shield 12 are electromagnetically coupled, as the tag and shield preferably are not in physical contact, but are substantially in the same plane. Electrical current flows through and around the amplification shield 12, and couples magnetically with the tag 10 via a coil or capacitor of the tag. Preferably, the amplification shield 12 includes a break or slotted groove 16, which extends between the cutout center portion 14 and an outer edge 18 of the amplification shield. The groove 16 provides an open loop to eliminate inductive short-circuiting of the coil portion of the tag 10. In the illustrated embodiment shown in Fig.2, the tag 10 is generally square, preferably with sides of approximately four inches and the amplification shield 12 is generally square with sides of about 8 inches with the open center portion 14 being square and about four inches. It will be appreciated by those of ordinary skill in the art that while it is preferable to have a shield 12 with dimensions that are greater than that of the tag 10, the specific dimensions employed in connection with the illustrated embodiment are not meant to be limiting.
[0025] Fig. 3 shows the output characteristics or traces of the response signals from the tag 10 of Fig.2 both with and without the amplification shield 12. The trace labeled "A" shows the output signal of the tag 10 without the amplification shield 12, in which the tag 10 has a center frequency of approximately 12.852 MHz, a quality factor of 71.7 and a signal amplitude of 6.85 dB. The trace labeled "B" illustrates the output characteristics of the same tag 10 but with the amplification shield 12 attached, as shown, for example, in Fig. 2. As can be seen from Trace B of Fig. 3, the center frequency is shifted upwardly to 13.57 MHz, the quality factor is slightly diminished to 60.3, but the signal amplitude has nearly doubled to 12.15 dB.」
(当審訳: [0022] 特定の理論に限定されるものではなく,また好ましくは,以下に述べる実施形態で説明するように,増幅シールドはLC共振周波数回路に接近して位置し,好ましくは,LC共振周波数回路と同一(または実質的に同一)の面,またはその面に接近し,一般に平行な面にある。所望により,増幅シールドはLC共振周波数から隔ててもよく,また,所望により,異なった面内に(例えば図7)位置してもよいことが当業者には理解されるであろう。LC共振周波数回路は,増幅シールドのすべてまたは一部を覆ってもよいが,オーバラップがある場合,望ましくは,それはわずかなオーバラップである。LC共振周波数回路は,増幅シールドから隔てられ,望ましくはその隔たりは小さい。特定の理論に限定されないが,LC共振周波数回路および増幅シールドの双方は受動であり,つまり,それらはエネルギー源である必要はなく,電磁界においてエネルギーに反応する。
[0023] 図2は,LC共振周波数回路5の好ましい実施形態の第1の例を示し,典型的なLC共振タグ10と,その回りの増幅シールド12の形態である。特定の理論に限定されないが,増幅シールド12は,およそ38ミクロンの厚さの金属ホイルの平面層からなり,そして一般に正方形の形態である。およそ38ミクロンの厚さが都合のよい厚さであるが,増幅シールドの厚さは発明の範囲の中で異なるかもしれない。例えば,より薄いシールドは低いコストで望ましいかもしれず,一方,より厚いシールドは,構造的な保全に対して望ましいかもしれない。シールド12は,タグ10の寸法に近似するサイズの開口を持つ中央部分14を含む。タグ10が挿入されるスペースを提供するために増幅シールド12から中央部分14が取り除かれる。この様に,タグ10は,タグの周囲を囲む増幅シールドの面と同じ面内に,または実質的に同じ面内にある。
[0024] 更に図2を参照すると,タグ10と増幅シールド12は電磁結合され,タグとシールドは物理的に接触しないが,実質的に同一面内にある。電流は,増幅シールド12を通過し,かつその周囲に流れ,そして,タグのコイルまたはキャパシタを通してタグ10に磁気的に結合する。望ましくは,増幅シールド12は,中断またはスロットの溝16を含み,それは,切抜き中央部分14と,増幅シールドの外側の縁18との間に延在する。その溝16は,タグ10のコイル部分の誘導性の短絡を排除するためにオープンループを提供する。図2で示した実施形態では,タグ10は,全体的に正方形であり,好ましくは,その1辺はほぼ4インチであり,そして増幅シールド12は,全体的に正方形で,その1辺はおよそ8インチで,その開口中央部分14は正方形でおよそ4インチである。シールド12はタグ10よりも寸法が大きいが,図示した実施形態で採用した特定の寸法は限定されることを意味しないことを当業者には理解されるであろう。
[0025] 図3は,増幅シールド12がある場合とない場合とにおける図2のタグ10からのそれぞれの応答信号の出力特性または軌跡を示す。"A" で示した軌跡は増幅シールド12がない場合のタグ10の出力信号を示し,タグ10の中心周波数はほぼ12.852 MHz,特性ファクタは71.7,そして6.85 dBの信号振幅を持つ。"B" で示した軌跡は,同じタグ10であるが,例えば図2のように増幅シールド12がある場合の出力信号を示す。図3の軌跡Bからわかるように,中心周波数は,上方に13.57MHzへシフトされ,特性ファクタは60.3へわずかに減少するが,信号振幅は12.15dBまでほぼ倍増した。)

(オ)「[0029] Fig. 6 illustrates another example of the preferred embodiment as a generally rectangular tag 30 having a resonant circuit 31 and a generally arcuate amplification shield 36. The resonant circuit 31 includes a first electrical member formed as an inductor coil 32 and a second electrical member formed as a capacitor 34 having two conducting plates, with one of the plates coupled to the inductor coil. The amplification shield 36 is positioned within the generally open central area 38 of the tag 30, such that the amplification shield 36 is in the same or substantially the same plane as the tag 30. The resonant circuit 31 and amplification shield 36 are attached to a substrate 37, preferably by bonding with an adhesive or heat. The bonding holds the resonant circuit 31 and amplification shield 36 in a spatial relationship as configured. While not being limited to a particular theory, the amplification shield 36 is connected to one of the conduction plates of the capacitor 34. A tag 30 with an amplification shield 36 as shown in Fig. 6 also exhibits enhanced output response signal amplitude.」
(当審訳: [0029] 図6は,好ましい実施形態の別の例を図示し,共振回路31および全体的に弧状の増幅シールド36を有する全体的に長方形のタグ30である。その共振回路31は,インダクタコイル32として形成された第1の電気的部材および,2つの導電性プレートを有し,そのプレートの一方がインダクタのコイルに接続されている,キャパシタ34として形成された第2の電気的部材を含む。増幅シールド36は,タグ30の全体的に空きになっている中央の領域38に位置し,その増幅シールド36はタグ30と同じか,または実質的に同じ面にある。共振回路31と増幅シールド36は,望ましくは,接着剤または熱で接着することによって,基板37に取り付けられる。その接着は,構成された時に,空間的な関係で共振回路31と増幅シールド36を保持する。特定の理論に限定されないが,増幅シールド36は,キャパシタ34の導電プレートの一つに接続される。図6で示されるように増幅シールド36を備えたタグ30は,強化された出力応答信号振幅をも示す。)

(カ)図2

(キ)図3

(ク)図6


イ 上記アの記載及び図面について,以下のことがいえる。
段落[0029]には,「好ましい実施形態の別の例」である,図6に示される「増幅シールド36を備えたタグ30」について,「共振回路31」は,「インダクタコイル32」及び「キャパシタ34」を含むこと,また,「共振回路31」と「増幅シールド36」が「基板37に取り付けられる」ことが記載されている。
ここで,段落[0020]は,「好ましい実施形態」についての記載であるから,その内容は,「好ましい実施形態」の「例」である上記「増幅シールド36を備えたタグ30」についても当てはまり,段落[0029]の「共振回路31」は段落[0020]の「共振LC回路」又は「LC回路」に,段落[0029]の「増幅シールド36」は段落[0020]の「シールド」又は「増幅シールド」に,それぞれ対応している。
したがって,「増幅シールド36」は,段落[0020]の記載を参照すれば,「磁界のいくらかを吸収して,吸収されたエネルギーを」,「共振回路31」に「電磁的に結合して,共振に利用可能な回路の振幅またはエネルギーを増加させ」,「共振回路31」の「検出または読み取りの距離を改善する」ものである。

ウ 甲4発明
上記ア,イにおける図6に関する事項によれば,甲第4号証には次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

「インダクタコイル32及びキャパシタ34を含む共振回路31が取り付けられる基板37と,
基板37に取り付けられ,磁界のいくらかを吸収して,吸収されたエネルギーを共振回路31に電磁的に結合して,共振に利用可能な回路の振幅またはエネルギーを増加させ,共振回路31の検出または読み取りの距離を改善する,増幅シールド36と,を備える
タグ30。」

(2)甲第2号証の記載,甲2発明
ア 甲第2号証には,以下の記載がある(下線は当審による。)。
(ア)「【0002】
【従来の技術】従来,トランスポンダには,アンテナとこのアンテナに電気的に接続され,管理対象の物品に関する情報が記憶されたICチップとを備えたものと,アンテナとこのアンテナに電気的に接続されたコンデンサとを備えたものが知られている。アンテナにICチップが接続されたトランスポンダは,アンテナに質問器の送受信アンテナから所定の周波数の電波を発信することにより活性化し,電波のデータ通信による読出しコマンドに応じてICチップに記憶されたデータの読出し,又は書込みコマンドに応じてそのICチップにデータを書込むように,又は読出しと書込みを行うように構成される。このトランスポンダでは,入退室管理の場合には個人の識別,出退室時刻の記憶等多様な情報の授受が可能であり,また製造工程では,製品の処理条件の指示,処理の記憶,検査結果の管理等多様な情報の授受が可能である。
【0003】一方,アンテナにコンデンサが接続されたトランスポンダは,固有の共振周波数を持ち,質問器から発せられる所定の周波数の電波に共振することにより電波を発し,この電波により質問器は所定の周波数を持つトランスポンダであるか否かの識別ができるようになっている。このトランスポンダでは,ICチップを有するトランスポンダに比較して多様な情報の授受はできないけれども,構造が簡単であるという利点を持つ。例えば,このトランスポンダを入退室の管理に用いれば,入退室した人数の計測が可能であり,製造工程管理に用いると製品の通過した数量の計測が可能となる。ここで,共振周波数の異なるトランスポンダを用いれば,複数種類に分類されたそれぞれの種類における計測が可能となり,例えば,男女,成人又は子供別に計測することが可能になる。また,商店等の商品に取付ければ,出口に質問器を設けることにより商品の持ち出しを監視することができ,このようにして不正に商品を持ち出すことを防止するために用いられることもある。」

(イ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし,上記従来のトランスポンダでは,スペーサの厚さが比較的大きいために,アンテナ自体を薄くできたとしても金属製の物品とトランスポンダとの間隔が比較的大きくなり,トランスポンダが管理対象の物品から大きく突出する不具合があった。このため,物品の搬送中にトランスポンダが周囲の物に接触するおそれがあった。本発明の目的は,管理対象物品の表面がどのような材料により形成されていてもスペーサを用いることなく直接取付け得るトランスポンダ用アンテナを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】請求項1に係る発明は,図1及び図2に示すように,ICチップ13又はコンデンサに電気的に接続され物品11に取付けられるトランスポンダ用アンテナの改良である。その特徴ある構成は,平板状に形成され裏面が物品11に取付けられる導電部材14aと,導電部材14aの表面に絶縁材16を介して渦巻き状に巻回されて固着され巻回された状態で所定の特性値を得るように巻数又は渦巻き径が調整されたコイル本体14bとを備えたところにある。
【0007】この請求項1に記載されたトランスポンダ用アンテナでは,コイル本体14bが導電部材14aの表面に巻回された状態で所定の特性値を確保できるように調整されているので,アンテナにICチップが接続されたトランスポンダであれば,このアンテナ14に図示しない質問器の送受信アンテナから所定の周波数の電波を発信することによりトランスポンダ12を確実に活性化させることができ,アンテナにコンデンサが接続されたトランスポンダであれば,質問器から発せられる電波に確実に共振することになる。また,このアンテナ14ではコイル本体14bが導電部材14aの表面に既に巻回されて所定の特性値が確保されているので,このアンテナ14を金属からなる管理対象である物品に直接取付けても,この金属の影響を受けることなく,従ってコイル本体14bの特性値が著しく変化することはない。このため,従来アンテナ14を金属製物品に取付ける際に必要としていたスペーが不要となり,トランスポンダ12が管理対象の物品から大きく突出することを回避できる。」

(ウ)「【0012】
【発明の実施の形態】次に本発明の第1の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2に示すように,トランスポンダであるRFID用タグ12は物品11の表面に取付けられるものであり,このタグ12は物品11毎に異なる固有の情報が記憶されたICチップ13と,ICチップ13に電気的に接続されたトランスポンダ用アンテナ14とを備える。この実施の形態における物品11は,トランスポンダが取付けられる部分が金属製の材料により形成されたものである。本発明のアンテナ14は導電性材料により平板状に形成され裏面がその物品11に取付けられる導電部材14aと,その導電部材14aの表面に絶縁材16を介して渦巻き状に巻回されたコイル本体14bとを備える。
【0013】導電部材14aとしては銅又はアルミニウム等の導電性材料からなるシート,板又は箔が挙げられ,渦巻き状の両端を接続させた導体であっても良い。図2の拡大図に示すように,絶縁材16はポリエチレンまたはポリエチレンテレフタレート等の非導電性シート,板又は箔であることが好ましい。また,導電部材14aは導電性を有する限り,絶縁材16の裏面に導電性インクを塗布乾燥させた導電性塗膜であってもよい。導電塗料としては,銀や黒鉛からなる粒子又はフレークを含むものが好ましい。更に,導電部材14aは絶縁材16の裏面に積層された導電性のメッキ層又は蒸着膜であっても良い。塗膜又はメッキ層若しくは蒸着層からなる導電部材14aを用いる場合には,その絶縁材16の厚さは0.01?5mmであることが好ましい。絶縁材16の厚さを0.01?5mmにすることにより,導電部材14aとコイル本体14bとの間隔が開き,コイル本体14bのQ値を向上させてアンテナとしての性能を向上させることができる。また,導電部材14aの幅1cm長さ1cmの電気抵抗は5Ω以下であることが好ましい。
【0014】螺旋状のコイル本体14bは従来から用いられているものが使用される。即ち,コイル本体14bは被覆銅線を巻回することにより作られるか,或いは絶縁材16である絶縁性のプラスチックシートに積層したアルミニウム箔や銅箔等の導電層をエッチング法又は打抜き法等により不要部分を除去して渦巻き状に形成したものが挙げられる。また,導電部材14aが絶縁材16の裏面に形成された塗膜又はメッキ層若しくは蒸着層とにより構成されるものである場合,絶縁材16の表面にアルミニウム箔や銅箔等の箔を直接積層し,そのアルミニウム箔や銅箔等をエッチング法により不要部分を除去して渦巻き状のコイル本体14bを直接その表面に形成しても良い。このコイル本体14bは導電部材14aの表面に巻回された状態で所定の特性値を確保できるように巻数又は渦巻き径が調整されて形成される。なお,この実施の形態におけるICチップ13はコイル本体14bの両端に接続された状態で導電部材14a上に直接接着されるものを示す。
【0015】このように構成されたトランスポンダ用アンテナ14では,通常コイル本体14bを導電部材14aに固着するとその特性値が変化するが,コイル本体14bが導電部材14aの表面に巻回された状態で所定の特性値を確保できるように調整されているので,このアンテナ14に図示しない質問器の送受信アンテナから所定の周波数の電波を発信することによりタグ12を確実に活性化させることができる。また,このアンテナ14では所定の周波数の電波を実際に受信するコイル本体14bが導電部材14aの表面に既に巻回されて所定の特性値が確保されているので,このアンテナ14を金属からなる物品に直接取付けても,コイル本体14bの特性値が著しく変化することはない。このため,従来アンテナ14を金属製物品に取付ける際に必要としていたスペーが不要となり,タグ12が物品から大きく突出することを回避するとともに,その金属製の物品からの影響を受けることなく確実にタグ12を活性化させることができる。」

(エ)図1

(オ)図2


イ 上記アの記載及び図面について,以下のことがいえる。
段落【0012】の記載のとおり,図1及び図2に示されるRFID用タグ12は,ICチップ13と,ICチップ13に電気的に接続されたトランスポンダ用アンテナ14とを備えるが,段落【0007】に「アンテナにICチップが接続されたトランスポンダであれば,このアンテナ14に図示しない質問器の送受信アンテナから所定の周波数の電波を発信することによりトランスポンダ12を確実に活性化させることができ,アンテナにコンデンサが接続されたトランスポンダであれば,質問器から発せられる電波に確実に共振することになる。」と記載され,段落【0003】に「一方,アンテナにコンデンサが接続されたトランスポンダは,固有の共振周波数を持ち,質問器から発せられる所定の周波数の電波に共振することにより電波を発し,この電波により質問器は所定の周波数を持つトランスポンダであるか否かの識別ができるようになっている。」と記載され,さらに,段落【0006】に「請求項1に係る発明は,図1及び図2に示すように,ICチップ13又はコンデンサに電気的に接続され物品11に取付けられるトランスポンダ用アンテナの改良である。」と記載されているから,図1のRFID用タグ12は,ICチップ13の代わりに,コンデンサをトランスポンダアンテナ14に接続して構成し得るものであり,コンデンサをトランスポンダアンテナ14に接続した場合は,固有の共振周波数を持つ。
コイル本体14bは,「絶縁材16の表面にアルミニウム箔や銅箔等の箔を直接積層し,そのアルミニウム箔や銅箔等をエッチング法により不要部分を除去して渦巻き状のコイル本体14bを直接その表面に形成しても良い」ものであり,「ICチップ13はコイル本体14bの両端に接続された状態で導電部材14a上に直接接着される」(段落【0014】)から,ICチップ13に代わるコンデンサも,絶縁材16の表面に形成されることが明らかである。
導電部材14aは,「絶縁材16の裏面」に形成される(段落【0014】)。また,「本発明のアンテナ14は導電性材料により平板状に形成され裏面がその物品11に取付けられる導電部材14aと,その導電部材14aの表面に絶縁材16を介して渦巻き状に巻回されたコイル本体14bとを備える。」(段落【0012】)と記載されているから,アンテナ14は,絶縁材16の裏面に形成された導電部材14a,及び,絶縁材16の表面に形成されたコイル本体14bで構成される。ここで,段落【0007】に「アンテナにコンデンサが接続されたトランスポンダであれば,質問器から発せられる電波に確実に共振する」と記載されているから,トランスポンダは,質問器から発せられる電波に共振することが明らかである。

ウ 甲2発明
上記ア,イによれば,甲第2号証には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「固有の共振周波数を持つコイル本体14b及びコンデンサが表面に形成される,絶縁材16と,
絶縁材16の裏面に形成された導電部材14a,及び,絶縁材16の表面に形成されたコイル本体14bで構成される,アンテナ14と,を備え,
質問器から発せられる電波に共振する,
RFID用タグ12。」

(3)対比,判断
ア 本件特許発明1と甲13発明との対比,判断
事案に鑑み,最初に,本件特許発明1が,甲13発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるかについて,検討する。

(ア)上記1(2)イのとおり,本件特許発明1は,相違点1,2において甲13発明と相違するので,まず,相違点1について検討する。
上記1(2)ア(イ)のとおり,本件特許発明1の「給電回路基板」と「放射板」は,物理的に独立した構成である。
しかしながら,甲13発明は,「全体厚さができる限り小さくされ,物品に個別のタグを自動的に順次貼付することができるようにするために,ロール形状で提供される,組合せタグ」であり,その一部である「アンテナ22c」を,他の部分と物理的に独立した構成とすることの必然性について,甲第13号証には記載も示唆もされていないから,そのように構成することの動機付けはない。むしろ,独立した構成とすることには,「全体厚さができる限り小さくされ,物品に個別のタグを自動的に順次貼付することができるようにするために,ロール形状で提供される」ことが困難となる点で阻害要因がある。
したがって,甲13発明において,「アンテナ23c及びコンデンサ16」を含む回路,「アンテナ22c」を,それぞれ「給電回路を設けた給電回路基板」,「放射板」として構成することは,当業者が容易に想到し得るとはいえない。

(イ)次に,相違点2について検討する。
甲第13号証の図2の無線周波応答素子10bは,13.56MHzのRFIDタグである(上記1(1)ア(ア)の段落【0018】)から,甲13発明の共振周波数は13.56MHzである。
一方,交通系ICカードに代表されるように,日本における一般的な電磁誘導方式のRFIDの周波数が13.56MHzであることは技術常識であるから,甲第13号証の図8の「アンテナ22c」が受信するような,磁気による受信信号の周波数として,13.56MHz,すなわち無線周波と同じ周波数を使用することは,周知である。
したがって,「受信信号」の周波数を「共振回路の共振周波数に実質的に相当する」ようにすることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。

(ウ)よって,本件特許発明1は,甲第1?12,14?22,24?28号証の記載を勘案しても,甲13発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

イ 本件特許発明1と甲4発明との対比,判断
(ア)甲4発明の「インダクタコイル32及びキャパシタ34を含む共振回路31」は,所定の共振周波数を有することが明らかである。
甲4発明の「増幅シールド36」は,「磁界のいくらかを吸収して,吸収されたエネルギーを共振回路31に電磁的に結合して」いるから,「共振回路31」と近接配置されており,「磁界」,すなわち受信信号を受けて「共振回路31」に供給する,放射素子であるといえる。
したがって,甲4発明の「インダクタコイル32及びキャパシタ34を含む共振回路31」は,「所定の共振周波数を有する共振回路」を含む給電回路であり,本件特許発明1の「前記給電回路基板が貼着又は近接配置されており,前記給電回路から供給された送信信号を放射する,及び/又は,受信信号を受けて前記給電回路に供給する放射板」と,甲4発明の「基板37に取り付けられ,磁界のいくらかを吸収して,吸収されたエネルギーを共振回路31に電磁的に結合して,共振に利用可能な回路の振幅またはエネルギーを増加させ,共振回路31の検出または読み取りの距離を改善する,増幅シールド36」とは,「前記給電回路が近接配置されており,受信信号を受けて前記給電回路に供給する放射素子」という点で共通する。

(イ)甲4発明の「タグ30」と本件特許発明1の「無線ICデバイス」とは,「無線デバイス」という点で共通する。

(ウ)上記1(2)ア(イ)のとおり,本件特許発明1の「給電回路基板」と「放射板」は,物理的に独立した構成である。
これに対し,甲4発明は,給電回路である「インダクタコイル32及びキャパシタ34を含む共振回路31」が「基板37」に「取り付けられ」,放射素子である「増幅シールド36」も「基板37に取り付けられ」るものである。

(エ)上記(ア)?(ウ)によれば,本件特許発明1と甲4発明とは,
(一致点)「所定の共振周波数を有する共振回路を含む給電回路と,
前記給電回路が近接配置されており,受信信号を受けて前記給電回路に供給する放射素子と,を備える,
無線デバイス。」
という点で一致し,また,両者は以下の点で相違する。

(相違点3)本件特許発明1は,「無線ICチップ」を備え,「共振回路を含む回路」が「給電回路」であるのに対し,甲4発明は,「無線ICチップ」について記載がない点。また,それに伴い,「無線デバイス」が,本件特許発明1では「無線ICデバイス」であるのに対し,甲4発明では「タグ30」である点。
(相違点4)「回路」,「放射素子」が,本件特許発明1では,それぞれ「給電回路を設けた給電回路基板」,「放射板」として構成されるものであるのに対し,甲4発明では,「インダクタコイル32及びキャパシタ34を含む共振回路31」,「増幅シールド36」であって,それらはいずれも「基板37」に「取り付けられ」るものである点。
(相違点5)「受信信号」の周波数が,本件特許発明1では,「共振回路の共振周波数に実質的に相当する」のに対し,甲4発明ではその特定がない点。

(オ)そこで,まず相違点3について検討する。
甲第4号証の段落[0002]によれば,LC共振周波数回路は,チップベースの無線識別(RFID)に用いられることがよく知られているから,甲4発明をチップを使用したRFIDに用いることは当業者が容易に想到し得ることであるものの,チップを使用する場合,甲第4号証の図6のタグ30に対してチップをどのように接続すべきかは明らかであるとはいえないから,共振回路にチップを接続して,該共振回路を含む給電回路が無線ICチップと接続されたものとすることは当業者が容易に想到することができた,とすることはできない。

(カ)次に,相違点4について検討する。
甲4発明は,「インダクタコイル32及びキャパシタ34を含む共振回路31」及び「増幅シールド36」がそれぞれ「基板37」に「取り付けられ」る「タグ30」であるところ,その一部である「増幅シールド36」を,「基板37」と物理的に独立した構成とすることの必然性について,甲第4号証には記載も示唆もされていないから,そのように構成することの動機付けはない。
したがって,甲4発明において,「インダクタコイル32及びキャパシタ34を含む共振回路31」,「増幅シールド36」を,それぞれ「給電回路を設けた給電回路基板」,「放射板」として構成することは,当業者が容易に想到し得るとはいえない。

(キ)次に,相違点5について検討する。
甲第4号証には,図2(上記(1)ア(カ))に示される,「LC共振周波数回路5の好ましい実施形態の第1の例」(段落[0023])であって,「典型的なLC共振タグ10と,その回りの増幅シールド12の形態」(同)である,「タグ10と増幅シールド12」が「電磁結合され」た構成(段落[0024])に関し,段落[0025]に,「増幅シールド12がある場合とない場合とにおける図2のタグ10からのそれぞれの応答信号の出力特性」が図3に示されている旨が記載され,さらに,「増幅シールド12がない場合のタグ10の出力信号」の「中心周波数」が「ほぼ12.852 MHz」であるのに対し,「増幅シールド12がある場合」の「中心周波数」が「上方に13.57MHzへシフトされ」る旨が記載されている。
ここで,段落[0006]に,「共振LC回路デバイスは,電気的にキャパシタに接続されたインダクタを有する共振周波数回路を含む。共振周波数回路は,中心周波数を持ち,そして,その中心周波数またはそれに近い周波数の電磁エネルギーに曝された時に共振し,振幅を有する出力信号を与えるように構成されている」と記載されているから,「好ましい実施形態の第1の例」においては,「増幅シールド12がない場合」における「LC共振タグ10」の共振周波数は,キャパシタ及びインダクタで決まる周波数であって,「ほぼ12.852 MHz」であること,「増幅シールド12がある場合」における「LC共振タグ10」の共振周波数は,キャパシタ及びインダクタで決まる周波数から「シフト」した「13.57MHz」であることが,それぞれ明らかである。
そして,「好ましい実施形態の別の例」に基づいて認定した,「エネルギーを共振回路31に電磁的に結合」する「増幅シールド36」を備える甲4発明と,「好ましい実施形態の第1の例」である,「LC共振タグ10」と「増幅シールド12」が「電磁結合され」た図2の構成とは,共振回路と増幅シールドが電磁結合している点で共通である。
そうすると,上記段落[0025]の記載は,甲4発明の「タグ30」を使用するに当たっては,「共振回路31」の共振周波数,すなわちインダクタコイル32及びキャパシタ34で決まる周波数に実質的に相当する周波数ではなく,それをある程度「シフト」した周波数を適用すべきことを示唆するものといえる。
したがって,甲4発明において,「増幅シールド36」が「吸収」する「磁界」の周波数を,「共振回路31」の共振周波数に実質的に相当する周波数とすることは,当業者が容易に想到し得るとはいえない。

(ク)上記(オ)?(キ)により,本件特許発明1は,甲第1?3,5?22,24?28号証の記載を勘案しても,甲4発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

ウ 本件特許発明1と甲2発明との対比,判断
(ア)甲2発明の「導電部材14a」及び「コイル本体14b」は,「質問器から発せられる電波に共振するアンテナ14」を構成するから,それらは全体として,「質問器から発せられる電波」,すなわち受信信号を受ける,放射手段であるといえる。
また,甲2発明の「絶縁材16」には「コンデンサ」が形成されているところ,甲2発明の「アンテナ14」は,それが受ける受信信号を「コンデンサ」に供給することが明らかである。
そうすると,甲2発明の「コンデンサ」は,甲2発明における,受信信号を受ける放射手段である「アンテナ14」に対して信号を供給する,給電回路であるといえる。
甲2発明の「RFID用タグ12」と本件特許発明1の「無線ICデバイス」とは,「無線デバイス」という点で共通する。

(イ)上記1(2)ア(イ)のとおり,本件特許発明1の「給電回路基板」と「放射板」は,物理的に独立した構成である。
これに対し,甲2発明は,給電回路である「コンデンサ」が「絶縁材16」に「形成され」,放射手段である「アンテナ14」を構成する「導電部材14a」及び「コイル本体14b」もそれぞれ「絶縁材16」に「形成され」るものである。

(ウ)上記(ア),(イ)によれば,本件特許発明1と甲2発明とは,
(一致点)「給電回路と,
受信信号を受けて前記給電回路に供給する放射手段と,を備える,
無線デバイス。」
という点で一致し,また,両者は以下の点で相違する。

(相違点6)本件特許発明1は,「給電回路基板」に接続された「無線ICチップ」を備えるのに対し,甲2発明は,「給電回路基板」,「無線ICチップ」のいずれも備えていない点。また,それに伴い,「無線デバイス」が,本件特許発明1では「無線ICデバイス」であるのに対し,甲2発明では「RFID用タグ12」である点。
(相違点7)「給電回路」が,本件特許発明1では,「所定の共振周波数を有する共振回路を含む給電回路」であるのに対し,甲2発明では,「コンデンサ」であって,コンデンサだけでは共振回路を構成し得ないから,「所定の共振周波数を有する共振回路を含む」ものではない点。また,「受信信号」の周波数が,本件特許発明1では,「前記共振回路の共振周波数に実質的に相当する」のに対し,甲2発明ではその特定がない点。
(相違点8)「給電回路」,「放射手段」が,本件特許発明1では,それぞれ「給電回路を設けた給電回路基板」,「放射板」として構成されるとともに,前者が後者に「貼着又は近接配置されて」いるのに対し,甲2発明では,「コンデンサ」,「アンテナ14」であって,それらはいずれも「絶縁材16」に「形成され」るものである点。

(エ)そこで,まず相違点6について検討する。
甲第2号証には,「アンテナにICチップが接続されたトランスポンダ」は,「多様な情報の授受が可能」であること(段落【0002】),また,「アンテナにコンデンサが接続されたトランスポンダ」は,「ICチップを有するトランスポンダに比較して多様な情報の授受はできないけれども,構造が簡単であるという利点を持つ」(段落【0003】)ことが記載されており,これによれば,授受可能な情報の多様性に関しては,前者(ICチップ)が後者(コンデンサ)よりも多く,構造の簡単さに関しては,後者が前者よりも簡単な構造であるという「利点」を有する。したがって,甲第2号証では,アンテナにICチップ,コンデンサのいずれかが排他的に接続されたトランスポンダが前提とされているといえる。
そして,段落【0006】に,「請求項1に係る発明は,図1及び図2に示すように,ICチップ13又はコンデンサに電気的に接続され物品11に取付けられるトランスポンダ用アンテナの改良である。」と記載されていることから明らかなように,「コンデンサ」を含む甲2発明についても上記前提が当てはまり,ICチップが接続されたトランスポンダと,授受可能な情報の多様性及び構造の簡単さに関して上記の関係を有するものである。
そうすると,甲2発明において,コンデンサを維持したまま,ICチップを追加して接続することは,上記前提から外れる上,コンデンサとICチップとを併存させることの利点が見出せない点で動機付けがなく,むしろ,簡単な構造であるという「利点」が損なわれる点で阻害要因があるから,当業者が容易に想到し得るとはいえない。

(オ)次に,相違点7について検討する。
「所定の共振周波数を有する共振回路を含む給電回路であって,送信信号を放射する及び/又は受信信号を受ける手段との間で,送信信号及び/又は受信信号の供給を行う関係にあり,前記送信信号及び/又は受信信号の周波数が,前記共振回路の共振周波数に実質的に相当する,給電回路」は,請求人が提出した甲第1,3?22,24?28号証のいずれにも記載されておらず,自明でもない。
したがって,甲2発明において,「コンデンサ」に代えて「所定の共振周波数を有する共振回路を含む給電回路」とし,かつ,「受信信号」の周波数が「前記共振回路の共振周波数に実質的に相当する」ものとすることは,当業者が容易に想到し得るとはいえない。

(カ)次に,相違点8について検討する。
甲2発明は,給電回路である「コンデンサ」と,放射手段である「アンテナ14」が,ともに「絶縁材16」に「形成され」る「RFID用タグ12」であって,「コンデンサ」と「アンテナ14」を物理的に独立した構成とすることの必然性について,甲第2号証には記載も示唆もされていないから,そのように構成することの動機付けはない。
したがって,甲2発明において,「コンデンサ」,「アンテナ14」を,それぞれ「給電回路を設けた給電回路基板」,「放射板」として構成し,それらが互いに「貼着又は近接配置されて」いるものとすることは,当業者が容易に想到し得るとはいえない。

(キ)よって,本件特許発明1は,甲第1,3?22,24?28号証の記載を勘案しても,甲2発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(ク)なお,以上の事項は,甲第2号証に記載されている「アンテナにコンデンサが接続されたトランスポンダ」(上記(2)ア(ア)の段落【0003】)に基づいて認定した甲2発明に関するものであるが,甲2発明に代えて,甲第2号証に記載された発明を,甲第2号証に別途記載されている「アンテナにICチップが接続されたトランスポンダ」(同段落【0002】)に基づいて認定した場合,すなわち,甲2発明の「コンデンサ」を「ICチップ」で置き換えて,「固有の共振周波数を持つ」との特定及び「質問器から発せられる電波に共振する」との特定がない発明を認定した場合についてみても,本件特許発明1は,当該発明に基づいて当業者が容易に想到し得るとはいえない。
具体的には,上記(エ)のとおり,甲第2号証では,アンテナにICチップ,コンデンサのいずれかが排他的に接続されたトランスポンダが前提とされているところ,甲2発明において,ICチップを維持したまま,コンデンサを追加して接続することは,上記前提から外れる上,コンデンサとICチップとを併存させることの利点が見出せない点で動機付けがない。

エ 本件特許発明2?29が甲13発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるかについて
上記ア(イ)のとおり,本件特許発明1は,甲13発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものとはいえないから,請求項1を引用する本件特許発明2?29も,甲13発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(4)請求人の主張について
ア 請求人は,乙第1号証の段落【0024】(当審注:甲第4号証のファミリー文献(甲第4号証の1)に係る特許出願における明細書等を訂正する誤訳訂正書の,甲第4号証の段落[0032]に対応する記載)に,「同じ基本的な回路設計及び構成でありながら,増幅シールドのサイズ,形状および形態を異ならせることにより,共振周波数回路アレイのアプリケーションに適合するより大きな柔軟性をもたらす。」と記載されているから,甲第4号証は,構成1A(当審注:本件特許発明1のうちの「無線ICチップ」の部分。以下同様。)?1Cを備えた無線ICデバイスであっても,増幅シールド(放射板に相当)の種類や位置関係等の条件によって,送受信信号の周波数が共振回路の共振周波数に実質的に相当する場合と,実質的に相当しない場合とがあることを示していること,本件発明においては,構成1D(当審注:本件特許発明1のうちの「前記送信信号及び/又は受信信号の周波数は,前記共振回路の共振周波数に実質的に相当すること」の部分。以下同様。)は構成1A?1Cが備わると必然的に生じる結果であると理解できるが,技術常識に基づくと,構成1A?1Cに加えて,本件明細書に記載のない構成,条件によっては,構成1Dを充足する場合と充足しない場合とが存在し得ること,本件特許明細書に段落【0009】の記載があり,本件特許明細書等に放射板の形状,配置位置を限定する記載は何ら存在しないことからすると,本件特許によれば,放射板の形状やサイズ,配置位置,誘電率等はどのようなものであってもよいと理解できること,以上のことから,甲第4号証は,無線ICデバイスの構成要素1A?1Cを備えた共振LC回路デバイスが開示されており,さらに,増幅シールドの条件を変えることによって,送信信号及び/又は受信信号の周波数が共振回路の共振周波数に実質的に相当する場合と,実質的に相当しない場合との両方を実現できることが記載されているため,甲4発明は構成1Dを備えている旨,主張する(口頭審理陳述要領書(その2)13頁)。
しかしながら,甲第4号証には,上記(3)イ(カ)のとおり,甲4発明の「タグ30」を使用するに当たっては,「共振回路31」の共振周波数を相当程度「シフト」した周波数を適用すべきことを示唆する記載はあるものの,請求人のいうような,送受信信号の周波数が共振回路の共振周波数に実質的に相当する場合と,実質的に相当しない場合とがあることを示す記載はない。したがって,甲第4号証に,「共振回路31」の共振周波数を「シフト」した周波数を適用するのではなく,共振周波数に実質的に相当する周波数を適用すること,すなわち構成1Dが記載されているとはいえない。

イ 請求人は,甲2発明において,「多様な情報の授受」を行うためにICチップを備えるようにすることの動機付けが存在する理由として,トランスポンダがコンデンサを備えた場合の機能(A:固有の共振周波数を持つ)と,トランスポンダがICチップを備えた場合の機能(B:多様な情報の授受)と,が異なるため,両者の機能を併存させたとしても甲2の発明の目的を損なうこととならず,併存させることに問題がないことを主張している(口頭審理陳述要領書(その2)15頁)。
しかしながら,上記(3)ウ(エ)のとおり,コンデンサとICチップとを併存させることには動機付けがなく,むしろ阻害要因があるといえる。

(5)小括
以上のとおりであるから,本件特許発明1は,甲第4号証に記載された発明等に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるとはいえず,甲第2号証に記載された発明等に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるともいえない。
また,本件特許発明2?29は,甲第13号証に記載された発明等に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。

3 無効理由3について
(1)甲第23号証の記載,甲23発明
ア 甲第23号証には,以下の記載がある(下線は当審による。)。
(ア)「[0031] 無線タグチップ103は,リーダライタ装置410より与えられる2.45GHz帯の電波を直流電圧に変換する電力部402と,送受信される信号を扱う信号部403とを含み,公知の半導体集積回路製造技術によりシリコン基板などの一つの半導体基板に形成される。」

(イ)「[0034] 図3及び図4は,上記無線タグ装置400における主要部の平面図及び側面図である。
[0035] 無線タグチップ103は,ポリイミドシート113上に形成した金属パターン107,108上に搭載されている。この半導体の無線タグチップ103のサイズは1.5mm×1.5mmである。小型無線タグ102の長さLcは15mm,幅Wは4.2mmとされる。小型無線タグチップ103のアンテナ端子109,110はボンディングワイヤ111,112で金属パターン107,108に接続されている。この金属パターン107,108は,無線タグ装置400のアンテナとして働くが,小型のためアンテナの効率が低く,通信距離は短い。本願発明者の実験によれば,6dBiの円偏波アンテナ付きの300mWのリーダライタ装置での通信距離は,約20mmである。上記小型無線タグ102は,その裏面には接着剤がついた状態のリール,またはシートで供給される。そしてユーザーはそのリール又はシートより小型無線タグ102を剥がして,所望の付加的アンテナ(第2アンテナ部)に貼り付けることができる。ここで,上記金属パターン107,108が,本発明における第1アンテナ部に対応する。」

(ウ)「[0061] 図15には,無線タグ装置の別の構成例が示される。
[0062] 立方体の紙箱の側面に立体的にU字型の金属パターン313が印刷されており,その金属パターン313に小型無線タグ102が両面テープで張り付けれられている。金属パターン313と小型無線タグのアンテナとが静電結合され,小型無線タグ単体より長距離の通信が可能である。図15に示されるアンテナは,一般のU字型アンテナに近い,球状の広い指向性を持つ。金属パターンは,紙箱を包装する包装紙や樹脂フィルムに形成することも可能である。」

(エ)「[0068] 図20には,無線タグ装置の別の構成例が示される。
[0069] 図15に示されるU字型の無線タグ303が,両面テープ308で金属板309の表面に接着されている。接着部分でU字型の無線タグ303の片側のアンテナと金属板309が静電結合し,金属版309全体がグランドプレーンとして働き,全体でグランドプレーン上のL字型アンテナの特性を持たせることができる。」

(オ)図3

(カ)図4

(キ)図15

(ク)図20


イ 上記アの記載及び図面について,以下のことがいえる。
図20に示される「無線タグ装置」(段落[0068])は,段落[0069]の記載によれば,「図15に示されるU字型の無線タグ303」と,「金属板309」とを備え,「金属版309全体がグランドプレーンとして働き,全体でグランドプレーン上のL字型アンテナの特性を持」つものである。なお,ここで,「金属版309」は「金属板309」の誤記と認められる。
段落[0061]?[0062] の「U字型の金属パターン313」についての記載によれば,段落[0069]における,「図15に示されるU字型の無線タグ303」の「片側のアンテナと金属板309が静電結合」するとは,U字型の無線タグ303の片側のアンテナであるU字型の金属パターン313の一方と,金属板309が,静電結合することである。
段落[0061]?[0062] の「U字型の金属パターン313」についての記載によれば,U字型の金属パターン313は,小型無線タグ102のアンテナと静電結合され,また,小型無線タグ102が両面テープで張り付けれられている。
段落[0035]の記載及び図3によれば,小型無線タグ102における,無線タグチップ103のアンテナ端子109,110がボンディングワイヤ111,112でそれぞれ接続され,ポリイミドシート113上に形成した金属パターン107,108は,「無線タグ装置400のアンテナとして働く」から,U字型の金属パターン313が静電結合される小型無線タグ102のアンテナは,金属パターン107,108である。そうすると,U字型の無線タグ303は,無線タグチップ103と,無線タグチップ103と接続された小型無線タグ102のアンテナと,U字型の金属パターン313とを含む。
段落[0031]の記載によれば,無線タグチップ103は,送受信される信号を扱う信号部を含み,一つの半導体基板に形成される。

ウ 甲23発明
上記ア,イにおける図20に関する事項によれば,甲第23号証には次の発明(以下「甲23発明」という。)が記載されていると認められる。

「送受信される信号を扱う信号部を含み,一つの半導体基板に形成される無線タグチップ103と,
無線タグチップ103と接続されたボンディングワイヤ111,112と,
小型無線タグ102のアンテナであり,無線タグチップ103がボンディングワイヤ111,112でそれぞれ接続され,ポリイミドシート113上に形成した金属パターン107,108と,
小型無線タグ102のアンテナと静電結合され,小型無線タグ102が両面テープで張り付けれられている,U字型の金属パターン313と,
U字型の無線タグ303の片側のアンテナであるU字型の金属パターン313の一方と静電結合する金属板309と,を備え,
金属板309全体がグランドプレーンとして働き,全体でグランドプレーン上のL字型アンテナの特性を持つ,
無線タグ装置。」

(2)対比,判断
ア 本件特許発明1と甲23発明とを対比する。
甲23発明の「無線タグチップ103」は,「送受信される信号を扱う信号部を含み,一つの半導体基板に形成される」から,本件特許発明1の「無線ICチップ」に相当する。また,このことから,甲23発明の「無線タグ装置」は,無線ICデバイスに含まれる。
甲23発明は,「U字型の無線タグ303の片側のアンテナであるU字型の金属パターン313の一方と静電結合する金属板309」を備え,「金属板309全体がグランドプレーンとして働き,全体でグランドプレーン上のL字型アンテナの特性を持つ」から,「U字型の金属パターン313」及び「金属板309」からなる構成は,送信信号を放射する放射手段であるといえる。
また,また,甲23発明の,「無線タグチップ103と接続されたボンディングワイヤ111,112と,小型無線タグ102のアンテナであり,無線タグチップ103がボンディングワイヤ111,112でそれぞれ接続され,ポリイミドシート113上に形成した金属パターン107,108と」からなる構成は,甲23発明の放射手段である「U字型の金属パターン313」及び「金属板309」に送信信号を供給するものであって,「ポリイミドシート113」は「板状」のものといえるから,「給電回路基板」であるといえる。
そして,上記構成のうちの「金属パターン107,108」は,「小型無線タグ102のアンテナ」であって,このような金属パターンが所定の周波数に共振する共振型のアンテナであることは技術常識である。
一方,甲23発明において,「小型無線タグ102」が「U字型の金属パターン313」に「両面テープで張り付けれられている」ことは,「貼着」されていることである。
そうすると,甲23発明の上記構成は,「所定の共振周波数を有する共振回路を含む給電回路を設けた給電回路基板」であり,本件特許発明1の「前記給電回路基板が貼着又は近接配置されており,前記給電回路から供給された送信信号を放射する,及び/又は,受信信号を受けて前記給電回路に供給する放射板」と,甲23発明の「小型無線タグ102のアンテナと静電結合され,小型無線タグ102が両面テープで張り付けれられている,U字型の金属パターン313と,U字型の無線タグ303の片側のアンテナであるU字型の金属パターン313の一方と静電結合する金属板309と」からなる構成とは,「前記給電回路基板が貼着されており,前記給電回路から供給された送信信号を放射する放射手段」という点で共通する。

イ 上記アによれば,本件特許発明1と甲23発明とは,
(一致点)「無線ICチップと,
前記無線ICチップと接続され,所定の共振周波数を有する共振回路を含む給電回路を設けた給電回路基板と,
前記給電回路基板が貼着されており,前記給電回路から供給された送信信号を放射する放射手段と,を備える,
無線ICデバイス。」
という点で一致し,また,両者は以下の点で相違する。

(相違点9)「放射手段」が,本件特許発明1では,「放射板」であるのに対し,甲23発明では,「U字型の金属パターン313」と「U字型の金属パターン313の一方と静電結合する金属板309」であって,「全体でグランドプレーン上のL字型アンテナの特性を持つ」点。
(相違点10)本件特許発明1は,「前記受信信号の周波数は,共振回路の共振周波数に実質的に相当する」のに対し,甲23発明はその特定がない点。

ウ そこで,相違点9,10が実質的な相違点であるか,検討する。
(ア)相違点9について
甲23発明の送信信号を放射する放射素子である「U字型の金属パターン313」の「一方」及び「金属板309」は「静電結合」しており,「U字型の金属パターン313」及び「金属板309」は全体として「板状」のものではない。そして,甲23発明は,「静電結合」により,「金属板309全体がグランドプレーンとして働き,全体でグランドプレーン上のL字型アンテナの特性を持つ」ものであり,「板」であるとすることはできない。
そうすると,相違点9は,課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえず,実質的な相違点である。

(イ)相違点10について
上記アのとおり,「金属パターン107,108」は所定の周波数に共振するものの,甲第23号証の段落[0035]に「小型のためアンテナの効率が低く,通信距離は短い。」と記載されていることからも明らかなように,「L字型アンテナの特性」である甲23発明の「無線タグ装置」の送信信号の周波数は,「金属パターン107,108」の共振周波数に合わせられるものではない。
そうすると,相違点10は,課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえず,実質的な相違点である。

(3)小括
以上のとおり,本件特許発明1は,相違点9,10において甲23発明と相違するから,甲第23号証に記載された発明と同一とはいえない。

4 無効理由4について
請求人が審判請求書(107?108頁)において主張する無効理由4は,本件特許明細書(当審注:本件特許の願書に添付した明細書。なお,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面については,以下「本件特許明細書等」という。)の発明の詳細な説明の記載は,本件特許発明1?29の構成1D(「前記送信信号及び/又は受信信号の周波数は,前記共振回路の共振周波数に実質的に相当する」)に関して実施可能要件を満たさない,というものである。
しかしながら,発明の詳細な説明の記載は,以下の理由により,構成1Dを実施することができる程度に記載したものである。
本件特許明細書等には,段落【0009】に,「本発明に係る無線ICデバイスにおいて,放射板から放射する送信信号の周波数及び無線ICチップに供給する受信信号の周波数は,給電回路基板における共振回路の共振周波数で実質的に決まる。実質的に決まるとは,給電回路基板と放射板の位置関係などで周波数が微少にずれることがあることによる。」と記載されている。
そして,段落【0038】?【0053】,図1?7に記載されている「第1実施例」について,段落【0047】に,「この無線ICデバイス1aは,図示しないリーダライタから放射される高周波信号(例えば,UHF周波数帯)を放射板20で受信し,放射板20と主として磁気的に結合している給電回路16(インダクタンス素子Lとキャパシタンス素子C1,C2からなるLC直列共振回路)を共振させ,所定の周波数帯の受信信号のみを無線ICチップ5に供給する。一方,この受信信号から所定のエネルギーを取り出し,このエネルギーを駆動源として無線ICチップ5にメモリされている情報を,給電回路16にて所定の周波数に整合させた後,給電回路16のインダクタンス素子Lから,磁界結合を介して放射板20に送信信号を伝え,放射板20からリーダライタに送信,転送する。」と記載されている。
また,段落【0050】には,「給電回路16においては,インダクタンス素子Lとキャパシタンス素子C1,C2で構成された共振回路にて共振周波数特性が決定される。」と記載されている。
ここで,段落【0047】の,「リーダライタから放射される高周波信号」を「放射板20で受信し」,「給電回路16」を「共振させ,所定の周波数帯の受信信号のみを無線ICチップ5に供給する」とは,「リーダライタから放射される高周波信号」が,「給電回路16」のLC直列共振回路の共振周波数と概ね一致する周波数成分を含んでおり,その周波数成分である「所定の周波数帯の受信信号のみを無線ICチップ5に供給」することであることが,明らかである。
また,同段落の,「給電回路16にて所定の周波数に整合させた後,給電回路16のインダクタンス素子Lから,磁界結合を介して放射板20に送信信号を伝え,放射板20からリーダライタに送信」するとは,「リーダライタ」が受信可能な,周波数成分が「給電回路16」のLC直列共振回路の共振周波数と概ね一致する送信信号を,「放射板20からリーダライタに送信」することであることが明らかである。
なお,上記において,「概ね一致する」ことには,段落【0009】に記載されている「微少にずれる」場合が含まれる。
以上によれば,発明の詳細な説明の記載から,本件特許発明1の構成1Dは,無線ICデバイスの共振回路の共振周波数を,リーダライタが送受信可能な信号の周波数に概ね一致させることである,と理解でき,構成1Dを実施することは,例えば,共振回路の共振周波数が,リーダライタが送受信可能な周波数と概ね一致するように,共振回路のインダクタンス素子のインダクタンスの値及びキャパシタンス素子のキャパシタンスの値(段落【0050】のL,C1,C2のそれぞれの値)を選ぶことにすぎないから,発明の詳細な説明の記載は,構成1Dを実施することができる程度に記載したものである。
以上のとおりであるから,本件特許出願は,特許法第36条第4項第1号の要件を満たしている。

5 無効理由5について
請求人が審判請求書(108?109頁)において主張する無効理由5は,本件特許発明1の構成1Dは,発明の詳細な説明に記載されていないから,本件特許発明1はサポート要件を満たさない,というものである。
しかしながら,以下の理由により,構成1Dは発明の詳細な説明に記載されており,本件特許発明1はサポート要件を満たしている。
上記4のとおり,発明の詳細な説明の「第1実施例」についての記載である,段落【0047】等の記載から,本件特許発明1の構成1Dは,無線ICデバイスの共振回路の共振周波数を,リーダライタが送受信可能な信号の周波数に概ね一致させることである,と理解できるから,構成1Dに対応する内容は,発明の詳細な説明に記載されている。
また,「第1実施例」について,さらに,段落【0051】に「給電回路16の共振周波数特性は給電回路基板10に内蔵されているインダクタンス素子Lとキャパシタンス素子C1,C2で構成された共振回路にて決定されるため,無線ICデバイス1aを書籍の間に挟んだりしても共振周波数特性が変化することはない。」と,共振回路により周波数特性が安定することが記載されているから,共振回路を含む本件特許発明1は,段落【0005】に記載されている「安定した周波数特性を有する無線ICデバイスを提供する」という課題を解決できることを,当業者が認識できる範囲のものである。
よって,本件特許発明1の構成1Dは,発明の詳細な説明に記載されており,本件特許発明1はサポート要件を満たしている。
以上のとおりであるから,本件特許出願は,特許法第36条第6項第1号の要件を満たしている。

第6 審理再開申立書について
請求人は,令和元年9月27日に提出した審理再開申立書において,概ね次のとおり主張する。
被請求人は,平成31年4月23日の口頭審理において,構成1Dの発明特定事項を具体的に説明しなかった一方,同口頭審理において,請求人が主張する実施可能要件違反およびサポート要件違反については,審判官および被請求人から何ら釈明等を求められることはなく,この主張を疑問とする審理は何らされなかった。請求人に反論の機会を与え,審理を尽くすべきである。

しかしながら,請求人は,口頭審理において,「構成1Dは,どんな構成が含まれ,どんな構成が含まれないか十分に開示されていない。」と,構成1Dに関する主張を述べており(第1回口頭審理調書の請求人4(1)),さらに,口頭審理の後,令和元年5月14日に提出した上申書の「5 上申の要領」「第1 構成1Dに関する被請求人の主張について」の項でも,構成1Dに関する主張を述べている。
したがって,請求人は構成1Dに関する主張を行っており,当事者の全主張を総合して審理したものであるから,請求人の上記主張は採用しない。

第7 むすび
無効理由1について,本件特許発明1についての特許は,特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえないから,無効理由1によって無効とすることはできない。
無効理由2について,本件特許発明1?29についての特許は,特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえないから,無効理由2によって無効とすることはできない。
無効理由3について,本件特許発明1についての特許は,特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえないから,無効理由3によって無効とすることはできない。
無効理由4について,本件特許出願は特許法第36条第4項第1号の要件を満たしているから,本件特許発明1?29についての特許は,無効理由4によって無効とすることはできない。
無効理由5について,本件特許出願は特許法第36条第6項第1号の要件を満たしているから,本件特許発明1?29についての特許は,無効理由5によって無効とすることはできない。
以上のとおりであるから,請求人の主張する無効理由1?5及び提出した証拠方法によっては,本件特許発明1?29についての特許を無効とすることはできない。
また,その他に,本件特許発明1?29についての特許を無効とすべき理由を発見しない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担とすべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-12 
結審通知日 2019-09-17 
審決日 2019-10-04 
出願番号 特願2007-531525(P2007-531525)
審決分類 P 1 113・ 536- Y (H01Q)
P 1 113・ 121- Y (H01Q)
P 1 113・ 161- Y (H01Q)
P 1 113・ 537- Y (H01Q)
P 1 113・ 113- Y (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 賢司安井 雅史  
特許庁審判長 吉田 隆之
特許庁審判官 中野 浩昌
富澤 哲生
登録日 2008-01-25 
登録番号 特許第4069958号(P4069958)
発明の名称 無線ICデバイス  
代理人 中谷 剣一  
代理人 萩原 義則  
代理人 山尾 憲人  
代理人 岡部 博史  
代理人 徳山 英浩  
代理人 特許業務法人 クレイア特許事務所  

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