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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61N
管理番号 1357351
審判番号 不服2018-11115  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-15 
確定日 2019-12-17 
事件の表示 特願2017-211946「筋肉電気刺激装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月 1日出願公開,特開2018- 15638,請求項の数(1)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2015年(平成27)年6月22日(優先権主張 2015年2月27日)を国際出願日とする特願2017-501829号の一部を平成29年11月1日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年11月22日付け:拒絶理由通知
平成29年12月28日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年 1月18日付け:拒絶理由通知(最後)
平成30年 3月 1日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年 3月27日付け:拒絶理由通知(最後)
平成30年 5月 1日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年 5月10日付け:補正の却下の決定,拒絶査定
平成30年 8月15日 :審判請求
平成30年 9月27日 :手続補正書(審判請求書)の提出

第2 原査定の概要
原査定(平成30年5月10日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願の請求項1に係る発明は,以下の引用文献1に記載された発明及び周知の事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:米国特許第6445955号明細書
引用文献2:米国特許第8938303号明細書(周知技術を例示する文献)
引用文献3:特開平9-182805号公報(周知技術を例示する文献)
引用文献4:特開平10-57506号公報(周知技術を例示する文献)
引用文献5:国際公開第2013/106644号(周知技術を例示する文献)
引用文献6:米国特許第5423874号明細書(周知技術を例示する文献)

第3 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成30年3月1日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
本体部と,該本体部に収納される電源部と,該電源部から電力が供給される電極部と,該電極部への電力供給を制御する制御部と,該制御部の制御態様を変更可能に構成された操作部と,一方の面に上記電極部が形成されたシート状の基材と,を備え,人の腹部に取り付けられて上記電極部から上記腹部に電気刺激を付与するように構成された腹筋用の筋肉電気刺激装置であって,
上記電極部は,上記腹部の真ん中に取り付けたときに上記人の身長方向に平行で上記本体部の中心を通る中心線よりも上記人の右手方向に位置するように上記本体部から延出した第1電極群と,上記中心線よりも上記人の左手方向に位置するように上記本体部から延出した第2電極群と,を備え,
上記第1電極群と上記第2電極群との間が上記人を介して通電可能に構成されているとともに,上記第1電極群と上記第2電極群とはそれぞれ3個以上の電極を含んでおり,
上記第1電極群に含まれる電極と上記第2電極群に含まれる電極とは,上記中心線を基準として線対称に位置しており,
上記第1電極群に含まれる電極は,右手方向に凸となるように湾曲した円弧状に配列されているとともに,上記第2電極群に含まれる電極は,左手方向に凸となるように湾曲した円弧状に配列されており,
上記第1電極群及び上記第2電極群はそれぞれ,上記中心線に平行な方向における上端に位置する上側電極と,下端に位置する下側電極と,両者の間に位置する一個又は複数の中央電極とを含み,
上記基材における上記電極部が形成された面と反対側の面には,上記基材を支持する支持部が設けられており,
上記基材及び上記支持部において,上記第1電極群の上側電極と上記第2電極群の上側電極との間には第1の切り込み部が形成されているとともに,上記第1電極群の下側電極と上記第2電極群の下側電極との間には第2の切り込み部が形成されており,
上記支持部は,上記基材が設けられた面と反対側から正面視したときに上記各上側電極,上記各中央電極及び上記各下側電極が投影される位置に,上記中心線から離れるにつれて厚さが薄くなる厚さ変化部を有している,筋肉電気刺激装置。」

第4 引用文献,引用発明等
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。なお,仮訳は当審による。

1「 FIG. 8 shows an overhead view of the electrodes 5 attached to a miniature wireless transcutaneous electrical neuro or muscular-stimulation unit 1, placed on a user's lower back.」(第6欄第1?4行)
(仮訳:図8は,小型の無線経皮的電気的神経または筋肉刺激ユニット1に取り付けられ,使用者の腰部に配置された電極5の上面図を示す。)

2「 Turning now to the drawings, in which like numerals indicate like elements throughout the several views, FIG. 1 and FIG. 2 represent the present invention as a water resistant miniature wireless transcutaneous electrical neuro or muscular-stimulation unit 1 comprised of a housing 2 having a front portion 3 and a rear portion 4. The housing 2 which is made of an FDA approved thermoplastic material, has dimensions of approximately 1.5"×1.5"×0.3" and weighs about 4 oz. It is compatible with all versions of electrode/battery assemblies 18 as well as various industry-standard electrodes. 5
A plurality of electrodes 5, as seen in FIG. 3 each having an internal side 42 and an external side 41 (see FIG. 18), are attached to the housing 2. The electrodes 5 come in various shapes and sizes and can be disposable or non-disposable. The various types of electrode configurations can be seen in FIGS. 4a - 4l. The various electrode configurations can be placed in a number of different locations on the user's body including but not limited to: the neck; wrist; shoulder; the elbow or forearm; the hand or a finger; scapula; abdomen; lower back; knee; hip; buttocks; thigh; or ankle. The electrodes 5 are affixed directly to a pain site or other area requiring electro or muscular-stimulation anywhere on the user's body as illustrated in FIG. 5 and FIG. 6. Attached to the electrodes 5 is a flexible non-conductive carrier 19, as seen in FIG. 10, which carries current to a pain site requiring electrical neuro or muscular-stimulation via the electrodes 5. The electrodes 5 are either fixed or able to swivel at each connection point to allow for optimal electrode placement at each pain site.
The electronics module 20 is located within the housing 2 and is comprised of an electrical circuit 21 which provides a biphasic or monophasic sequence of pulses to the electrodes 5. It has several pre-programmable waveforms that are available for a variety of specific clinical needs. The electronics module 20 within the housing 2 is detachable and disposable and able to be snapped into and out of each miniature wireless transcutaneous electrical neuro or muscular-stimulation unit 1. 」(第6欄第44行?第7欄第15行)
(仮訳:ここで図面を参照すると,同様の数字はいくつかの図を通して同様の要素を示す。図1及び図2は,本発明を,前方部分3及び後方部分4を有するハウジング2から構成される,耐水性の小型無線経皮的電気的神経または筋肉刺激ユニット1として表している。
FDAに認可された熱可塑性材料で作られたハウジング2は,約1.5×1.5×0.3インチの寸法を有し,約4オンスの重さである。これは,電極/バッテリーアセンブリ18の全てのバージョン及び様々な業界標準の電極5と互換性がある。
図3に見られる,それぞれが内側面42と外側面41とを有する(図18参照)複数の電極5は,ハウジング2に取り付けられる。電極5は,様々な形状およびサイズのものがあり,使い捨てまたは非使い捨てであってもよい。様々なタイプの電極構成が,図4a-4lに見られる。様々な電極構成は,限定するものではないが,首,腕,肩,肘または前腕,手または指,肩甲骨,腹部,腰,膝,股関節部,臀部,大腿部,又は足首といったユーザの体上の多くの異なる位置に配置することができる。電極5は,図5及び図6に示すように,ユーザの体の上の電気筋肉刺激を必要とする疼痛部位または他の部位のどこにでも直接的に固定される。電極5に結合されるのは,図10に見られるように可撓性の非導電性担体19であり,電極5を介して電気的神経または筋肉刺激を必要とする疼痛部位に電流を搬送する。電極5は固定されても,疼痛部位に最適な電極配置を可能にするように各接続点で旋回できるようにされてもよい。電子モジュール20は,ハウジング2内に配置されて,単層または二相シークエンスのパルスを電極5に提供する電気回路21から構成される。それは,様々な特定の臨床上の必要性のために利用可能ないくつかの事前プログラム可能な波形を有する。ハウジング2内の電子機器モジュール20は取り外し可能であり,使い捨てであり,各小型の無線経皮的電気的神経または筋肉刺激ユニット1にスナップで嵌めたり外したりすることができる。)

3「One or more batteries 22 supply power to the electronics module 20 wherein the batteries 22 can be placed in a battery housing of the interface plate which connects to the bottom of the electronics module 20 or can be integrated with the electrodes 5 in one assembly.」(第7欄第29?34行)
(仮訳:1つ以上の電池22が電子モジュール20に電力を供給する。電池22は,電子モジュール20の底部に連結されるかまたは1つの組立体において電極5と一体化することができる,インターフェースプレートのバッテリーハウジング内に配置することができる。)

4「A series of one or more protrusions within the housing 2 provides a means to restrict the waveforms avilable to those appropriate for each particular electrode 5 and treatment. These protrusions interfce with the electronics module 20 to determine the wavevforms which may be used.
A user may select and control specific waveforms and the intensities of a number of various modes at the site of an electrode 5, as well as the orientation and quantity of the electrodes 5.」(第7欄第48?55行)
(仮訳:ハウジング2内の1つまたは複数の一連の突起は,各特定の電極5と処理のための適切な利用可能な波形を制限するための手段を提供する。これらの突起は電子機器モジュール20とインターフェースして,使用可能な波形を決定する。
ユーザは,特定の波形と,電極5の部位での様々な多数のモードの強度,及び電極5の向きや量を選択し,制御することができる。)

5「A disposable electrode-battery assembly 18, as seen in FIGS. 10, 11 and 12, resides within the housing 2 of the present invention. FIG. 10 shows the assembly 18 comprised of a plurality of electrodes 5 each having an internal and external side and a plurality of batteries 22 each having a positive pole 23 and a negative pole 24. Current carrying runners 25 comprise a conductive film 26. Two of these runners 25 make direct contact to the positive 23 and negative 24 poles of the battery 22, while the third makes contact with conductive hydrogel 27 which carries the stimulating current to the patient via each electrode 5. Contact to the battery poles is secured either by a conductive adhesive 28 as seen in FIG. 9 or a mechanical clip 29 as seen in FIG. 11. in order to apply the required pressure. The conductive film 26 may be a silver alloy film or other flexible low impedance material. The external side 41 of the electrode 5 is covered by soft cosmetically appealing molded foam or elastomer as seen in FIG. 17.」(第8欄第63行?第9欄第13行)
(仮訳:図10?12に見られるように,使い捨て電極-電池組立体18は本発明のハウジング2内に存在する。図10は,それぞれが内側面と外側面とを有する複数の電極とそれぞれが正極と負極とを有する複数の電池22とからなる組立体18を示している。電極運搬ランナー25は導電性フィルム26を含む。これらのランナー25の内2つは電池22の正極と負極に直接接続し,3番目は各電極を介して刺激電流を伝える導電性ハイドロゲル27と接続する。電池の極への接続は,図9に見られるような導電性接着剤28または図11に見られるような要求される圧力を印加するための機械的クリップ29で固定されている。導電性フィルム26は銀合金フィルムまたは他の可撓性の低インピーダンス材料であってよい。電極5の外側面41は,図17に示すように,柔らかく美容上魅力的な成形フォームまたはエラストマーにより被覆されている。)


6 図8からは,装置を人の腰部の真ん中に取付ける点,その際に,左右に線対称にそれぞれ上下2つの電極が位置する点,左右の電極間には上部及び下部にそれぞれ切り込みが形成される点が見てとれる。

7 図10にあるように,左右の電極がそれぞれ電池の正極と負極とに接続しているということは,左右の電極の間が人を介して通電可能に構成されているといえる。

8 図12からは,可撓性担体19の一方の側に導電フィルム26が設けられ,他方の側にシート状部材及び外側面41が設けられる点が見てとれる。

9 図16及び図18には,手足に用いる場合に,3対の電極を用いることが記載されている。

10 以上より,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ハウジング2と,該ハウジング2内に存在する電池22と,該電池22と接続される電極5と,該電極5へ必要なパルスを提供する電気回路21と,該電気回路21の使用可能な波形を決定する突起と,電極5に結合される可撓性の非導電性担体19と,を備え,人の腰部に取り付けられて上記電極5から腰部へ電気刺激を付与するように構成された電気的筋肉刺激ユニット1であって,
上記電極5は,腰部の真ん中に取付けたときに,左右に線対称にそれぞれ上下2つの電極5が位置し,
左右の電極5の間が人を介して通電可能に構成されているとともに,
可撓性の非導電性担体19の導電性フィルム26が形成された側と反対側には,シート状部材及び外側面41が設けられており,
左右の電極間には上部及び下部にそれぞれ切り込みが形成されている,
電気的筋肉刺激ユニット1。」

第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「ハウジング2」は,その構造,機能等からみて,本願発明における「本体部」に相当する。 同様に,引用発明における「該ハウジング2内に存在する電池22」は本願発明における「該本体部に収納される電源部」に,引用発明における「該電池22と接続される電極5」は,電池と接続される以上電力が供給されるのは当然であるから,本願発明における「該電源部から電力が供給される電極部」に,引用発明における「該電極へ必要なパルスを提供する電気回路21」は,必要なパルスを提供することは電力供給を制御することに他ならないから,本願発明における「該電極部への電力供給を制御する制御部」に,引用発明における「該電気回路21の使用可能な波形を決定する突起」は,使用可能な波形を決定することが可能であれば,制御態様を変更可能であるといえるから,本願発明における「該制御部の制御態様を変更可能に構成された操作部」に,引用発明における「電極5に結合される可撓性の担体19」は,図12の記載も合わせて見れば,本願発明の「一方の面に上記電極部が形成されたシート状の基材」に,それぞれ相当する。
また,引用発明の「人の腰部に取り付けられて上記電極5から腰部へ電気刺激を付与するように構成された」点は,「人の胴部に取り付けられて上記電極部から上記胴部へ電気刺激を付与するように構成された」限りにおいて本願発明の「人の腹部に取り付けられて上記電極部から上記腹部へ電気刺激を付与するように構成された」点と共通する。
引用発明における「電気的筋肉刺激ユニット1」は,明らかに,本願発明における「筋肉電気刺激装置」に相当する。
引用発明の「上記電極は,腰部の真ん中に取付けたときに,左右に線対称にそれぞれ上下2つの電極が位置」する点は,図8も合わせて見れば,「上記電極部は,上記胴部の真ん中に取り付けたときに上記人の身長方向に平行で上記本体部の中心を通る中心線よりも上記人の右手方向に位置するように上記本体部から延出した第1電極群と,上記中心線よりも上記人の左手方向に位置するように上記本体部から延出した第2電極群と,を備え」,「上記第1電極群に含まれる電極と上記第2電極群に含まれる電極とは,上記中心線を基準として線対称に位置しており」,「上記第1電極群及び上記第2電極群はそれぞれ,上記中心線に平行な方向における上端に位置する上側電極と,下端に位置する下側電極と」を含んでいる限りにおいて本願発明の「上記電極部は,上記腹部の真ん中に取り付けたときに上記人の身長方向に平行で上記本体部の中心を通る中心線よりも上記人の右手方向に位置するように上記本体部から延出した第1電極群と,上記中心線よりも上記人の左手方向に位置するように上記本体部から延出した第2電極群と,を備え」,「上記第1電極群に含まれる電極と上記第2電極群に含まれる電極とは,上記中心線を基準として線対称に位置しており」,「上記第1電極群及び上記第2電極群はそれぞれ,上記中心線に平行な方向における上端に位置する上側電極と,下端に位置する下側電極と」を含む点と共通する。
また,引用発明の「左右の電極の間が人を介して通電可能に構成されている」点は,本願発明の「上記第1電極群と上記第2電極群との間が上記人を介して通電可能に構成されている」点に相当する。
引用発明の,「可撓性の担体19の導電性フィルム26が形成された側と反対側には,シート状部材及び外側面41が設けられて」いる点は,本願発明の「上記基材における上記電極部が形成された面と反対側の面には,上記基材を支持する支持部が設けられて」いる点に相当する。
引用発明の,「左右の電極間には上部及び下部にそれぞれ切り込みが形成されている」点は,本願発明の「上記基材及び上記支持部において,上記第1電極群の上側電極と上記第2電極群の上側電極との間には第1の切り込み部が形成されているとともに,上記第1電極群の下側電極と上記第2電極群の下側電極との間には第2の切り込み部が形成されて」いる点に相当する。

したがって,本願発明と引用発明とは,次の一致点,相違点があるといえる。

【一致点】
「本体部と,該本体部に収納される電源部と,該電源部から電力が供給される電極部と,該電極部への電力供給を制御する制御部と,該制御部の制御態様を変更可能に構成された操作部と,一方の面に上記電極部が形成されたシート状の基材と,を備え,人の胴部に取り付けられて上記電極部から上記腹部に電気刺激を付与するように構成された胴部用の筋肉電気刺激装置であって,
上記電極部は,上記胴部の真ん中に取り付けたときに上記人の身長方向に平行で上記本体部の中心を通る中心線よりも上記人の右手方向に位置するように上記本体部から延出した第1電極群と,上記中心線よりも上記人の左手方向に位置するように上記本体部から延出した第2電極群と,を備え,
上記第1電極群と上記第2電極群との間が上記人を介して通電可能に構成されているとともに,
上記第1電極群に含まれる電極と上記第2電極群に含まれる電極とは,上記中心線を基準として線対称に位置しており,
上記第1電極群及び上記第2電極群はそれぞれ,上記中心線に平行な方向における上端に位置する上側電極と,下端に位置する下側電極と,を含み,
上記基材における上記電極部が形成された面と反対側の面には,上記基材を支持する支持部が設けられており,
上記基材及び上記支持部において,上記第1電極群の上側電極と上記第2電極群の上側電極との間には第1の切り込み部が形成されているとともに,上記第1電極群の下側電極と上記第2電極群の下側電極との間には第2の切り込み部が形成されている,
筋肉電気刺激装置。」

【相違点1】
筋肉電気刺激装置が取り付けられる胴部が,本願発明は「腹部」であるのに対し,引用発明は「腰部」である点。
【相違点2】
本願発明は,「上記第1電極群と上記第2電極群とはそれぞれ3個以上の電極を含」み,上側電極と下側電極と「の間に位置する一個又は複数の中央電極と」を含んでいるのに対し,引用発明はそのような構成を備えていない点。
【相違点3】
本願発明は,「上記第1電極群に含まれる電極は,右手方向に凸となるように湾曲した円弧状に配列されているとともに,上記第2電極群に含まれる電極は,左手方向に凸となるように湾曲した円弧状に配列されて」いるのに対し,引用発明はそのような構成を備えていない点。
【相違点4】
本願発明は,「上記支持部は,上記基材が設けられた面と反対側から正面視したときに上記各上側電極,上記各中央電極及び上記各下側電極が投影される位置に,上記中心線から離れるにつれて厚さが薄くなる厚さ変化部を有している,」のに対し,引用発明はそのような構成を備えていない点。

2 相違点についての判断
上記各相違点について検討するに際し,まず,本願発明の解決しようとする課題及び効果について確認すると,本願明細書には,本願発明が解決しようとする課題として「腹筋に効果的に刺激を与えることができる筋肉電気刺激装置を提供しようとするものである。」(【0005】)との記載が,効果として「上記筋肉電気刺激装置を腹部に取り付けたときに,第1電極群に含まれる電極と第2電極群に含まれる電極とが本体部を挟んで,人の左右方向に並ぶようになる。そのため,本体部の左右に同等の電気刺激が得られることとなり,腹筋にバランス良く刺激を与えることができる。」(【0008】)との記載がある。
また,上記課題及び効果に関連する実施例としては,「 変形例6では,図32に示すように,…(中略)… 第2電極群32には,第3左側電極323よりも本体部10に近く,第2左側電極322よりも本体部10から遠い位置であって,第2左側電極322と第3左側電極323との間に位置し,第1左側電極321,第2左側電極322及び第3左側電極323とともに円弧状又は線状に並んだ第4左側電極324が含まれている。」(【0274】),「また,変形例6では第4右側電極314及び第4左側電極324は,中心線10aを基準として線対称の位置に位置している。これにより,腹直筋4を刺激するのに一層適した筋肉電気刺激装置1となる。」(【0277】)との記載がある。
これらの記載からみるに,上記相違点1?3に係る,筋肉電気刺激装置を「腹部」にとりつけ,「上記第1電極群と上記第2電極群とはそれぞれ3個以上の電極を含」み,上側電極と下側電極と「の間に位置する一個又は複数の中央電極と」を含み,「上記第1電極群に含まれる電極は,右手方向に凸となるように湾曲した円弧状に配列されているとともに,上記第2電極群に含まれる電極は,左手方向に凸となるように湾曲した円弧状に配列されて」いる構成は,これらが総合して上記課題を解決し,上記のような効果を奏する構成として請求項1に特定されていると認められる。
そうすると,上記相違点1?3は,ひとまとまりの技術として捉えるのが妥当であるから,以下,相違点1?3を合わせて検討する。

引用文献1は,電極を配置し得る部位として,人体の様々な部位と並んで「腹部」を挙げている(上記第4 2参照。)。また,引用文献1には,手足への適用例として,電極を3個有するものが記載されている(上記第4 9参照。)。
しかし,筋肉電気刺激装置を「腹部」にとりつけ,「上記第1電極群と上記第2電極群とはそれぞれ3個以上の電極を含」み,上側電極と下側電極と「の間に位置する一個又は複数の中央電極と」を含み,「上記第1電極群に含まれる電極は,右手方向に凸となるように湾曲した円弧状に配列されているとともに,上記第2電極群に含まれる電極は,左手方向に凸となるように湾曲した円弧状に配列されて」いる構成は引用文献1に記載されていないし,従来周知でもない。
また,上記本願発明の解決しようとする課題等は,引用文献1に示唆されていないし,周知な課題でもない。そうすると,引用発明を,引用文献1に記載された事項を参酌して「腹部」に適用することは当業者が想到し得るとしても,その際に電極の個数と配置とを腹部への適用に適したものとするべく検討し,3個以上で右手及び左手方向に凸形状となるようにすることは,単なる設計的事項とはいえない。
よって,当業者といえども,引用発明から,上記相違点1?3に係る本願発明の構成に容易に想到し得るとはいえない。
また,上記相違点1?3に係る本願発明の構成を容易に想到し得ない以上,その効果も当業者が予測し得る範囲内のものではない。

したがって,上記相違点4について判断するまでもなく,本願発明は,当業者であっても,引用発明及び周知の技術事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知の技術事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する
 
審決日 2019-12-02 
出願番号 特願2017-211946(P2017-211946)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中村 一雄  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 寺川 ゆりか
莊司 英史
発明の名称 筋肉電気刺激装置  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  

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