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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1357395
審判番号 不服2018-10962  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-09 
確定日 2019-11-28 
事件の表示 特願2016-551970「偏光性積層フィルムまたは偏光板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月 7日国際公開、WO2016/052331〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)9月25日(優先権主張 平成26年10月1日)を国際出願日とする出願であって、平成29年5月23日付けで拒絶理由が通知され、同年9月15日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年11月15日付けで拒絶理由が通知され、平成30年3月19日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年5月11日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年8月9日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。


第2 本件補正の補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年8月9日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、平成30年3月19日付けの手続補正の特許請求の範囲の請求項1
「 基材フィルムに、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を塗工して塗工フィルムを得る塗工工程と、
前記塗工フィルムを乾燥させて基材フィルムにポリビニルアルコール系樹脂層が形成された積層フィルムを得る乾燥工程と、
前記積層フィルムを一軸延伸して延伸積層フィルムを得る延伸工程と、
前記ポリビニルアルコール系樹脂層を染色して偏光子層とし、偏光性積層フィルムを得る染色工程とをこの順に含み、
前記延伸工程は、前記積層フィルムの水分率が0.3質量%以上1.8質量%以下であり、かつ、前記積層フィルムに含まれる前記ポリビニルアルコール系樹脂層の水分率が2.5質量%以上7.65質量%以下である状態で前記一軸延伸を開始する、偏光性積層フィルムの製造方法。」(以下、この請求項に係る発明を、「本件発明」という。)を、
「 基材フィルムに、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を塗工して塗工フィルムを得る塗工工程と、
前記塗工フィルムを乾燥させて基材フィルムにポリビニルアルコール系樹脂層が形成された積層フィルムを得る乾燥工程と、
前記積層フィルムを一軸延伸して延伸積層フィルムを得る延伸工程と、
前記ポリビニルアルコール系樹脂層を染色して偏光子層とし、偏光性積層フィルムを得る染色工程とをこの順に含み、
前記延伸工程は、前記積層フィルムの水分率が0.3質量%以上1.8質量%以下であり、かつ、前記積層フィルムに含まれる前記ポリビニルアルコール系樹脂層の水分率が2.5質量%以上7.65質量%以下である状態で前記一軸延伸を開始し、
前記偏光子層の視感度補正偏光度(Py)は、99.995%以上である、偏光性積層フィルムの製造方法。」(以下、この請求項に係る発明を、「本件補正発明」という。なお、下線部は補正箇所を示す。)
と補正するものである。

2 補正の目的
本件補正は、本件発明の発明特定事項である「偏光子層」について、「視感度補正偏光度(Py)」を「99.995%以上」に限定する補正事項を含むものである。上記補正事項は、発明特定事項を限定するものであって、本件発明と本件補正発明の、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるといえる。
したがって、本件補正は特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

3 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献3
ア 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2013-156623号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の記載事項がある。なお、合議体が引用発明の認定等に活用した箇所に下線を付した。以下の引用文献についても同様である。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、液晶表示装置における偏光の供給素子として、また偏光の検出素子として、広く用いられている。かかる偏光板として、従来より、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムにトリアセチルセルロースからなる保護フィルムを接着したものが使用されているが、近年、液晶表示装置のノート型パーソナルコンピュータや携帯電話などモバイル機器への展開、さらには大型テレビへの展開などに伴い、薄肉軽量化が求められている。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の従来技術のように、基材フィルム表面にポリビニルアルコール系樹脂層を設けた後、延伸、染色、架橋等することによって、基材フィルムと偏光子層とを有する積層フィルムを得る場合、その積層フィルムにおいては、染色、架橋等の工程で、熱、張力や延伸力などが作用し、その端部に波打ちや反りを生じることがあり、その結果、保護フィルムを貼合する際に端部に折れ込みやシワが生じることがある。このような折れ込みやシワが原因となって、たとえば部分的な接着剤の溜まりが生じ、その部分が乾燥不良となることで、偏光子層の青変劣化などの不具合を引き起こすことがあった。
【0007】
本発明は、基材フィルム表面にポリビニルアルコール系樹脂層を設けた後、延伸、染色、架橋等することによって積層フィルムを得、該積層フィルムにさらに保護フィルムを貼合する偏光板の製造方法であって、端部での折れ込みやシワの発生を抑制し、偏光子層の青変劣化を抑制する偏光板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記のものを含む。
[1] 偏光子層と保護フィルムとを有する偏光板の製造方法であって、基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る積層工程と、積層フィルムを一軸延伸する延伸工程と、一軸延伸を行なった積層フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層を二色性色素で染色する染色工程と、染色を行なった積層フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層を、架橋剤を含む溶液に浸漬して架橋し偏光子層を形成する架橋工程と、架橋を行なった積層フィルムから、幅方向の両方の第1端部を切断して除去する貼合前除去工程と、第1端部を除去した積層フィルムにおける偏光子層の基材フィルム側の面とは反対側の面に保護フィルムを貼合する貼合工程と、をこの順に有する偏光板の製造方法。

(中略)

【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、基材フィルム表面にポリビニルアルコール系樹脂層を設けた後、延伸、染色、架橋等することによって積層フィルムを得、該積層フィルムにさらに保護フィルムを貼合して偏光板を製造するにあたり、保護フィルムを貼合する際の端部での折れ込みやシワの発生を抑制し、偏光子層の青変劣化を抑制することができる。」

(イ)「【0024】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されることはなく、たとえば上記実施形態の各工程を組み合わせて実施することもできる。以下、全ての実施形態において共通する各工程について詳細に説明する。
【0025】
[樹脂層形成工程(S10)]
ここでは、基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層を形成する。基材フィルムに適した材料は、後述する。なお、本実施形態において、基材フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂の延伸に適した温度範囲で延伸できるものを用いることが好ましい。
【0026】
形成する樹脂層の厚みは、3μm超かつ30μm以下であることが好ましく、さらには5?20μmが好ましい。3μm以下であると延伸後に薄くなりすぎて染色性が著しく悪化してしまい、30μmを超えると、最終的に得られる偏光子層の厚みが10μmを超えてしまうことがある。
【0027】
樹脂層は、好ましくは、ポリビニルアルコール系樹脂の粉末を良溶媒に溶解させて得たポリビニルアルコール系樹脂溶液を基材フィルムの一方の表面上に塗工し、溶剤を蒸発させて乾燥することにより形成される。樹脂層をこのように形成することにより、薄く形成することが可能となる。ポリビニルアルコール系樹脂溶液を基材フィルムに塗工する方法としては、ワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング、グラビアコーティング等のロールコーティング法、ダイコート法、カンマコート法、リップコート法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法、などを公知の方法から適宜選択して採用できる。乾燥温度は、たとえば50?200℃であり、好ましくは60?150℃である。乾燥時間は、たとえば2?20分である。

(中略)

【0048】
[延伸工程(S20)]
ここでは、基材フィルムおよび樹脂層からなる積層フィルムを一軸延伸する。好ましくは、5倍超かつ17倍以下の延伸倍率となるように一軸延伸する。さらに好ましくは5倍超かつ8倍以下の延伸倍率となるように一軸延伸する。延伸倍率が5倍以下だと、ポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層が十分に配向しないため、結果として、偏光子層の偏光度が十分に高くならない不具合を生じることがある。一方、延伸倍率が17倍を超えると延伸時の積層フィルムの破断が生じ易くなると同時に、延伸フィルムの厚みが必要以上に薄くなり、後工程での加工性・ハンドリング性が低下するおそれがある。延伸工程(S20)における延伸処理は、一段での延伸に限定されることはなく多段で行なうこともできる。この場合、二段階目以降の延伸処理も延伸工程(S20)の中で行ってもよいが、染色工程(S30)や架橋工程(S40)における処理と同時に行なってもよい。このように多段で延伸を行なう場合は、延伸処理の全段を合わせて5倍超の延伸倍率となるように延伸処理を行なう。

(中略)

【0051】
[染色工程(S30)]
ここでは、延伸した後の積層フィルムの樹脂層を、二色性色素で染色する。二色性色素としては、たとえば、ヨウ素や有機染料などが挙げられる。有機染料としては、たとえば、

(中略)

などが使用できる。これらの二色性物質は、一種類でも良いし、二種類以上を併用して用いても良い。
【0052】
染色工程は、たとえば、上記二色性色素を含有する溶液(染色溶液)に、積層フィルム全体を浸漬することにより行なう。染色溶液としては、上記二色性色素を溶媒に溶解した溶液を使用できる。染色溶液の溶媒としては、一般的には水が使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒がさらに添加されても良い。二色性色素の濃度としては、0.01?10重量%であることが好ましく、0.02?7重量%であることがより好ましく、0.025?5重量%であることが特に好ましい。
【0053】
二色性色素としてヨウ素を使用する場合、染色効率をより一層向上できることから、さらにヨウ化物を添加することが好ましい。このヨウ化物としては、たとえば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンなどが挙げられる。これらヨウ化物の添加割合は、染色溶液において、0.01?20重量%であることが好ましい。ヨウ化物の中でも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましい。ヨウ化カリウムを添加する場合、ヨウ素とヨウ化カリウムの割合は重量比で、1:5?1:100の範囲にあることが好ましく、1:6?1:80の範囲にあることがより好ましく、1:7?1:70の範囲にあることが特に好ましい。
【0054】
染色溶液への積層フィルムの浸漬時間は、特に限定されないが、通常は15秒?15分間の範囲であることが好ましく、30秒?3分間であることがより好ましい。また、染色溶液の温度は、10?60℃の範囲にあることが好ましく、20?40℃の範囲にあることがより好ましい。」

(ウ)「【実施例】
【0094】
[実施例1]
(1)基材フィルムの作製
エチレンユニットを約5重量%含むプロピレン/エチレンのランダム共重合体(住友化学(株)製「住友ノーブレン W151」、融点Tm=138℃)からなる樹脂層の両側にプロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレン(住友化学(株)製「住友ノーブレンFLX80E4」、融点Tm=163℃)からなる樹脂層を配置した3層構造の基材フィルムロールを、多層押出成形機を用いた共押出成形により作製した。得られた基材フィルムロールの合計厚みは100μmであり、各層の厚み比(FLX80E4/W151/FLX80E4)は3/4/3であった。
【0095】
(2)プライマー層の形成
ポリビニルアルコール粉末(日本合成化学工業(株)製「Z-200」、平均重合度1100、平均ケン化度99.5モル%)を95℃の熱水に溶解し、濃度3重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られた水溶液に架橋剤(住友化学(株)製「スミレーズレジン650」)をポリビニルアルコール粉末6重量部に対して5重量部混合した。得られた混合水溶液を、コロナ処理を施した上記基材フィルムロールのコロナ処理面上にグラビアコーターを用いて連続で塗工し、80℃で10分間乾燥させることにより、厚み0.2μmのプライマー層を形成した。この作業を、基材フィルムの反対側にも施し、両面にプライマー層を設けた「プライマー層/基材フィルム/プライマー層」の構成からなるフィルムを作成した。
【0096】
(3)樹脂層形成工程
ポリビニルアルコール粉末(クラレ(株)製「PVA124」、平均重合度2400、平均ケン化度98.0?99.0モル%)を95℃の熱水に溶解し、濃度8重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られた水溶液を、基材フィルムの一方のプライマー層上にカンマコーターを用いて連続で塗工し、80℃で5分間乾燥させることにより、基材フィルム/プライマー層/ポリビニルアルコール系樹脂層からなる3層構造の積層フィルムロールを作製した。ポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層の厚みは10.6μmであった。ここでも、同じ作業を基材フィルムの反対側のプライマー層上にも施し、両面にポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層を設けた「ポリビニルアルコール系樹脂層/プライマー層/基材フィルム/プライマー層/ポリビニルアルコール系樹脂層」の構成からなる積層フィルムを作成した。ここで、ポリビニルアルコール水溶液は、基材フィルムの端から1cmの両端の領域(第3端部)においては塗布しなかった。
【0097】
(4)染色前除去工程および延伸工程
上記の積層フィルムロールの両端部(第2端部)を端から2cmの位置で切断して未塗布部分を連続で除去した後(染色前除去工程)、ロール間空中延伸装置にて160℃の延伸温度で縦方向に5.8倍に自由端一軸延伸し、積層フィルムロールを得た。得られた積層フィルムロールの厚みは55.2μmであり、ポリビニルアルコール系樹脂層の厚みは5.1μmであった。
【0098】
(5)染色工程、架橋工程、貼合前除去工程
延伸後の積層フィルムロールについて、次の手順で染色工程および架橋工程を行なった。まず、積層フィルムを30℃のヨウ素とヨウ化カリウムとを含む水溶液である30℃の染色溶液に150秒間程度の滞留時間となるように浸漬し、ポリビニルアルコール系樹脂層の染色を行ない(染色工程)、ついで10℃の純水で余分なヨウ素液を洗い流した。次に、ホウ酸とヨウ化カリウムとを含む水溶液である72℃の架橋溶液に600秒間程度の滞留時間となるように浸漬させた(架橋工程)。その後、10℃の純水で4秒間洗浄した後、このフィルムの両端部を端から1.5cmずつの位置でスリットして両端部のカール部分(第1端部)を除去した(貼合前除去工程)。最後に80℃で300秒間乾燥させて、積層フィルムロールを得た。
【0099】
(6)貼合工程
貼合前除去工程を経た積層フィルムロールを用いて、次の手順で偏光板を作製した。まず、ポリビニルアルコール粉末((株)クラレ製「KL-318」、平均重合度1800)を95℃の熱水に溶解し、濃度3重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られた水溶液に架橋剤(住友化学(株)製「スミレーズレジン650」)をポリビニルアルコール粉末2重量部に対して1重量部混合し、接着剤溶液とした。
【0100】
次に、得られた積層フィルムロールの両面に存在するポリビニルアルコール系樹脂層上に、上記接着剤溶液を塗布した後、トリアセチルセルロース(TAC)からなる保護フィルム(コニカミノルタオプト(株)製「KC4UY」)を両面から貼合し、保護フィルム/接着剤層/偏光子層/プライマー層/基材フィルム/プライマー層/偏光子層/接着剤層/保護フィルムの9層からなる偏光板ロールを得た。得られた偏光板は、偏光子端部での折れ込みやシワ、青変といった不具合もなく、偏光子の端部まで良好に接着された良い状態のものであった。
【0101】
[実施例2]
基材として、1,4-シクロヘキサンジメタノール、テレフタル酸、エチレングリコールの3種のモノマーが共重合されてなるポリエステル基材を用いた。基材フィルムの厚みは70μmであった。実施例1と同じ方法でプライマー層およびポリビニルアルコール系樹脂層を設け、「ポリビニルアルコール系樹脂層/プライマー層/基材フィルム/プライマー層/ポリビニルアルコール系樹脂層」の構成からなる積層フィルムを作成した(積層工程)。プライマー層の厚みは0.2μm、ポリビニルアルコール系樹脂層の厚みは10.4μmであった。ここでも、ポリビニルアルコール水溶液は、基材フィルムの端から1cmの両端の領域(第3端部)においては塗布しなかった。
【0102】
上記の積層フィルムロールの端から2cmの両端の領域(第2端部)を除去してから(染色前除去工程)、ロール間空中延伸装置にて110℃の延伸温度で縦方向に4.0倍に自由端一軸延伸し(延伸工程)、積層フィルムロールを得た。得られた積層フィルムロールの厚みは40.5μmであり、ポリビニルアルコール系樹脂層の厚みは5.2μmであった。
【0103】
得られた積層フィルムを実施例1と同様にして染色工程を行ない、洗浄し、ついで、積層フィルムの端から2cmの両端の領域(第1端部)をスリットにより連続で除去した(貼合前除去工程)。その後、実施例1と同じ方法で乾燥して積層フィルムを得た。得られた積層フィルムに実施例1と同じ方法で両面に保護フィルムを貼合して(貼合工程)、保護フィルム/接着剤層/偏光子層/プライマー層/基材フィルム/プライマー層/偏光子層/接着剤層/保護フィルムの9層からなる偏光板ロールを得た。得られた偏光板は、偏光子端部での折れ込みやシワ、青変といった不具合もなく、偏光子の端部まで良好に接着された良い状態のものであった。
【0104】
[実施例3]
実施例2と同じ積層フィルムロールを用いたが、延伸前に両端部を除去せずに(染色前除去工程を行なわずに)用いた。ロール間空中延伸装置にて110℃の延伸温度で縦方向に4.0倍に自由端一軸延伸し(延伸工程)、縦延伸した積層フィルムロールを得た。延伸倍率が低いため特に破断など不具合は生じなかったため、そのまま巻き取ることができた。得られた積層フィルムを実施例1と同様にして染色工程を行ない、洗浄し、ついで、積層フィルムの端から2cmの両端の領域(第1端部)をスリットにより連続で除去した(貼合前除去工程)。
【0105】
その後、実施例1と同じ方法で乾燥して積層フィルムを得た。得られた積層フィルムに実施例1と同じ方法で両面に保護フィルムを貼合して(貼合工程)、保護フィルム/接着剤層/偏光子層/プライマー層/基材フィルム/プライマー層/偏光子層/接着剤層/保護フィルムの9層からなる偏光板ロールを得た。得られた偏光板は、偏光子端部での折れ込みやシワ、青変といった不具合もなく、偏光子の端部まで良好に接着された良い状態のものであった。」

イ 引用文献3に記載された発明
上記記載事項(ウ)に基づけば、引用文献3には、実施例1における積層フィルムロールの製造方法として次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「エチレンユニットを約5重量%含むプロピレン/エチレンのランダム共重合体(住友化学(株)製「住友ノーブレン W151」)からなる樹脂層の両側にプロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレン(住友化学(株)製「住友ノーブレンFLX80E4」)からなる樹脂層を配置した、合計厚みが100μmであり、各層の厚み比は3/4/3である、3層構造の基材フィルムロールを作製し、
ポリビニルアルコール粉末(日本合成化学工業(株)製「Z-200」、平均重合度1100、平均ケン化度99.5モル%)6重量部に対して架橋剤(住友化学(株)製「スミレーズレジン650」)を5重量部混合して得られた混合水溶液を、コロナ処理を施した上記基材フィルムロールのコロナ処理面上にグラビアコーターを用いて連続で塗工し、80℃で10分間乾燥させることにより、厚み0.2μmのプライマー層を両面に形成した「プライマー層/基材フィルム/プライマー層」の構成からなるフィルムを作成し、
ポリビニルアルコール粉末(クラレ(株)製「PVA124」、平均重合度2400、平均ケン化度98.0?99.0モル%)を溶解した濃度8重量%のポリビニルアルコール水溶液を、基材フィルムのプライマー層上にカンマコーターを用いて連続で塗工し、80℃で5分間乾燥させる工程を繰り返すことにより、厚み10.6μmのポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層を両面に設けた「ポリビニルアルコール系樹脂層/プライマー層/基材フィルム/プライマー層/ポリビニルアルコール系樹脂層」の構成からなる積層フィルムを作成し、
ロール間空中延伸装置にて160℃の延伸温度で縦方向に5.8倍に自由端一軸延伸して、積層フィルムロールの厚みは55.2μmであり、ポリビニルアルコール系樹脂層の厚みは5.1μmである積層フィルムロールを得て、
積層フィルムを30℃のヨウ素とヨウ化カリウムとを含む水溶液である30℃の染色溶液に150秒間程度の滞留時間となるように浸漬し、ポリビニルアルコール系樹脂層の染色を行ない、ついで10℃の純水で余分なヨウ素液を洗い流し、次に、ホウ酸とヨウ化カリウムとを含む水溶液である72℃の架橋溶液に600秒間程度の滞留時間となるように浸漬させ、最後に80℃で300秒間乾燥させて、積層フィルムロールを得た、
積層フィルムロールの製造方法。」

(2)引用文献4
ア 引用文献4の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2013-37115号公報(以下、「引用文献4」という。)には、次の記載事項がある。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、光学積層体、光学積層体のセットおよびそれらを用いた液晶パネルに関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、液晶パネルの反りを顕著に抑制し、かつ、高いコントラストを実現し得る光学積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の光学積層体は、厚み10μm以下の偏光膜と反射偏光フィルムとを有する。
好ましい実施形態においては、上記偏光膜は横延伸により得られたものである。
本発明の別の局面によれば、光学積層体のセットが提供される。この光学積層体のセットは、上記の光学積層体である第1の光学積層体と、該第1の光学積層体の偏光膜の厚みよりも5μm以上厚い偏光膜を含む第2の光学積層体とで構成される。
本発明のさらに別の局面によれば、液晶パネルが提供される。本発明の液晶パネルは、液晶セルと上記の光学積層体とを有する。
本発明の別の液晶パネルは、液晶セルと上記の光学積層体のセットとを有し、上記第2の光学積層体が視認側に配置され、上記第1の光学積層体が視認側と反対側に配置されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、薄い偏光膜と反射偏光フィルムとを有する光学積層体を用いることにより、液晶パネルの反りの抑制と高コントラスト化という2つの効果を同時に実現することができる。さらに、このような光学積層体(第1の光学積層体)と、当該第1の光学積層体の偏光膜よりも厚い偏光膜を有する第2の光学積層体をセットとして用いることにより、上記の効果がより顕著となり得る。」

(イ)「【0026】
A-5.光学積層体の製造方法
A-5-1.偏光膜の製造方法
偏光膜110は、上記厚みを満足し得る限り、任意の適切な方法により製造される。偏光膜は、代表的には、PVA系樹脂膜に、適宜、延伸、染色等の処理を施すことにより製造される。PVA系樹脂膜は、例えば、PVA系樹脂フィルムであってもよいし、基材上に形成されたPVA系樹脂層であってもよい。
【0027】
延伸方法としては、例えば、テンター延伸機を用いた固定端延伸、周速の異なるロールを用いた自由端延伸、同時二軸延伸機を用いた二軸延伸、逐次二軸延伸が挙げられる。これらは、単独で、または、2種以上組み合わせて採用し得る。例えば、PVA系樹脂膜を周速の異なるロール間に通して搬送方向(MD)に延伸(自由端延伸)する場合、例えば、搬送方向に直交する方向(TD)への延伸と組み合わせることができる。以下、好ましい実施形態について具体的に説明する。
【0028】
好ましい実施形態においては、上記偏光膜は、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して積層体を作製する工程(積層体作製工程)と、積層体を延伸する工程(延伸工程)とを含む方法により製造される。以下、各々の工程について説明する。
【0029】
(積層体作製工程)
積層体は、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成することにより作製される。積層体は、代表的には、長尺状に形成される。

(中略)

【0035】
上記PVA系樹脂層の形成方法は、任意の適切な方法を採用することができる。好ましくは、熱可塑性樹脂基材上に、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、PVA系樹脂層を形成する。
【0036】
上記塗布液は、代表的には、上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部?20重量部である。このような樹脂濃度であれば、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。

(中略)

【0039】
上記乾燥温度は、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以下であることが好ましく、さらに好ましくはTg-20℃以下である。このような温度で乾燥することにより、PVA系樹脂層を形成する前に熱可塑性樹脂基材が変形するのを防止して、得られるPVA系樹脂層の配向性が悪化するのを防止することができる。こうして、熱可塑性樹脂基材がPVA系樹脂層とともに良好に変形し得、後述の積層体の収縮および延伸を良好に行うことができる。その結果、PVA系樹脂層に良好な配向性を付与することができ、優れた光学特性を有する偏光膜を得ることができる。
【0040】
PVA系樹脂層の厚みは、所望の偏光膜に応じて、任意の適切な値に設定し得る。1つの実施形態においては、厚みは、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは5μm?15μmである。このような薄い厚みでも、上記熱可塑性樹脂基材を用いることで良好に延伸することができる。その結果、本発明に好適な薄い偏光膜を良好に得ることができる。
【0041】
PVA系樹脂層の含有水分率は、好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下である。
【0042】
(延伸工程)
積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、後述の積層体の延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。また、本工程における延伸方式は、特に限定されず、空中延伸方式でもよいし、水中延伸方式でもよい。

(中略)

【0051】
1つの実施形態においては、上記ホウ酸水中延伸工程および染色工程の前に、例えば、上記積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸する工程を行ってもよい。このような空中延伸工程は、ホウ酸水中延伸に対する予備的または補助的な延伸として位置付けることができるため、以下「空中補助延伸」という。
【0052】
空中補助延伸を組み合わせることで、積層体をより高倍率に延伸することができる場合がある。その結果、より優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する薄型偏光膜を作製することができる。例えば、上記熱可塑性樹脂基材としてポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いた場合、ホウ酸水中延伸のみで延伸するよりも、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とを組み合せる方が、熱可塑性樹脂基材の配向を抑制しながら延伸することができる。当該熱可塑性樹脂基材は、その配向性が向上するにつれて延伸張力が大きくなり、安定的な延伸が困難となったり、熱可塑性樹脂基材が破断したりする。そのため、熱可塑性樹脂基材の配向を抑制しながら延伸することで、積層体をより高倍率に延伸することができる。
【0053】
また、空中補助延伸を組み合わせることで、PVA系樹脂の配向性を向上させ、そのことにより、ホウ酸水中延伸後においてもPVA系樹脂の配向性を向上させ得る。具体的には、予め、空中補助延伸によりPVA系樹脂の配向性を向上させておくことで、ホウ酸水中延伸の際にPVA系樹脂がホウ酸と架橋し易くなり、ホウ酸が結節点となった状態で延伸されることで、ホウ酸水中延伸後もPVA系樹脂の配向性が高くなるものと推定される。その結果、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する薄型偏光膜を作製することができる。

(中略)

【0056】
(その他の処理)
偏光膜を製造するための処理としては、延伸処理以外に、例えば、染色処理、不溶化処理、架橋処理、洗浄処理、乾燥処理等が挙げられる。これらの処理は、任意の適切なタイミングで施し得る。
【0057】
上記染色処理は、代表的には、PVA系樹脂膜を上記二色性物質で染色する処理である。好ましくは、PVA系樹脂膜に二色性物質を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、二色性物質を含む染色液にPVA系樹脂膜(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂膜に染色液を塗布する方法、PVA系樹脂膜に染色液を噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、二色性物質を含む染色液にPVA系樹脂膜(積層体)を浸漬させる方法である。二色性物質が良好に吸着し得るからである。なお、積層体両面を染色液に浸漬させてもよいし、片面のみ浸漬させてもよい。
【0058】
二色性物質としてヨウ素を用いる場合、上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.04重量部?5.0重量部である。ヨウ素の水に対する溶解性を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物塩を配合することが好ましい。ヨウ化物塩としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムである。ヨウ化物塩の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.3重量部?15重量部である。
【0059】
染色液の染色時の液温は、好ましくは20℃?40℃である。染色液にPVA系樹脂膜を浸漬させる場合、浸漬時間は、好ましくは5秒?300秒である。このような条件であれば、PVA系樹脂膜に十分に二色性物質を吸着させることができる。」

(ウ)「【実施例】
【0068】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。実施例における評価方法は下記の通りである。また、特に明記しない限り、実施例における「部」および「%」は重量基準である。

(中略)

【0070】
[参考例1]
<積層体の作製>
(熱可塑性樹脂基材)
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で厚み200μm、Tg123℃のシクロオレフィン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「ARTON」)を用いた。
(塗布液の調製)
重合度1800、ケン化度98?99%のポリビニルアルコール(PVA)樹脂(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセノール(登録商標)NH-18」)を水に溶解させて、濃度7重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。
(PVA系樹脂層の形成)
上記熱可塑性樹脂基材の片面に、上記塗布液をダイコーター(ダイコート法)により塗布した後、100℃で180秒間乾燥して、厚み11μmのPVA系樹脂層を形成した。このようにして、長尺の積層体を作製した。
【0071】
<延伸処理>
得られた長尺の積層体を、テンター延伸機を用いて、140℃で、積層体の長手方向と直交する方向に4.5倍に空中延伸した。
【0072】
<染色処理>
次いで、積層体を、25℃のヨウ素水溶液(ヨウ素濃度:0.5重量%、ヨウ化カリウム濃度:10重量%)に30秒間浸漬させた。
【0073】
<架橋処理>
染色後の積層体を、60℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度:5重量%、ヨウ化カリウム濃度:5重量%)に60秒間浸漬させた。
【0074】
<洗浄処理>
架橋処理後、積層体を、25℃のヨウ化カリウム水溶液(ヨウ化カリウム濃度:5重量%)に5秒間浸漬させた。
このようにして、熱可塑性樹脂基材上に、厚み2μmの偏光膜を作製した(偏光膜の単体透過率(Ts):41%)。
【0075】
<偏光膜の転写>
積層体の偏光膜側にビニルアルコール系接着剤を介して保護フィルム(富士フィルム社製TACフィルム、商品名「フジタック」、厚み:40μm)を貼り合わせた。さらに、この積層体から熱可塑性樹脂基材を剥離し、偏光膜の熱可塑性樹脂基材が剥離された側に同じ保護フィルムを貼り合わせた。このようにして、偏光フィルム1を作製した。
【0076】
[参考例2]
<積層体の作製>
(熱可塑性樹脂基材)
熱可塑性樹脂基材として、Tg75℃のイソフタル酸を6モル%共重合させたイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:200μm)を用いた。
(塗布液の調製)
重合度2600、ケン化度99.9%のポリビニルアルコール(PVA)樹脂(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセノール(登録商標)NH-26」)を水に溶解させて濃度7重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。
(PVA系樹脂層の形成)
上記熱可塑性樹脂基材の片面に、上記塗布液をダイコーター(ダイコート法)により塗布した後、60℃で300秒間乾燥して、厚み10μmのPVA系樹脂層を形成した。このようにして、長尺の積層体を作製した。
【0077】
<空中補助延伸処理>
得られた長尺の積層体を、130℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に1.8倍に自由端一軸延伸した。
【0078】
<不溶化処理>
その後、積層体を液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた。
【0079】
<染色処理>
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.4重量部配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる薄型偏光膜の単体透過率(Ts)が41%となるように浸漬させた。
【0080】
<架橋処理>
次いで、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に60秒間浸漬させた。
【0081】
<ホウ酸水中延伸処理>
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を5重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に一軸延伸を行い、光学フィルム積層体を得た。ホウ酸水中延伸処理における延伸倍率を3.3倍とし、総延伸倍率は6.0倍であった。
【0082】
<洗浄・乾燥処理>
その後、光学フィルム積層体を洗浄浴(水100重量に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた後、60℃の温風で乾燥させた。
このようにして、熱可塑性樹脂基材上に厚み4.5μmの偏光膜を得た。
【0083】
<偏光膜の転写>
積層体の偏光膜側にビニルアルコール系接着剤を介して保護フィルム(富士フィルム社製TACフィルム、商品名「フジタック」、厚み:40μm)を貼り合わせた。さらに、この積層体から熱可塑性樹脂基材を剥離し、偏光膜の熱可塑性樹脂基材が剥離された側に同じ保護フィルムを貼り合わせた。このようにして、偏光フィルム2を作製した。」

イ 引用文献4に記載された発明
上記記載事項(ウ)に基づけば、引用文献4には、参考例1の偏光膜を有する積層体の作製方法として、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「熱可塑性樹脂基材として、長尺状で厚み200μmのシクロオレフィン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「ARTON」)を用い、
重合度1800、ケン化度98?99%のポリビニルアルコール(PVA)樹脂(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセノール(登録商標)NH-18」)を水に溶解させて、濃度7重量%のポリビニルアルコール水溶液を塗布液として調製し、
上記熱可塑性樹脂基材の片面に、上記塗布液をダイコーター(ダイコート法)により塗布した後、100℃で180秒間乾燥して、厚み11μmのPVA系樹脂層を形成し、長尺の積層体を作製して、
得られた長尺の積層体を、140℃で、積層体の長手方向と直交する方向に4.5倍に空中延伸して延伸処理し、
次いで、積層体を、25℃のヨウ素水溶液(ヨウ素濃度:0.5重量%、ヨウ化カリウム濃度:10重量%)に30秒間浸漬させて染色処理し、
染色後の積層体を、60℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度:5重量%、ヨウ化カリウム濃度:5重量%)に60秒間浸漬させて架橋処理し、
架橋処理後、積層体を、25℃のヨウ化カリウム水溶液(ヨウ化カリウム濃度:5重量%)に5秒間浸漬させて洗浄処理する、
熱可塑性樹脂基材上に厚み2μmの偏光膜を有する積層体の作製方法。」

(3)引用文献5
ア 引用文献5の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2013-238640号公報(以下、「引用文献5」という。)には、次の記載事項がある。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子の製造方法および当該製造方法により得られた偏光子に関する。また本発明は当該偏光子を用いた偏光板、光学フィルム、さらには当該偏光子、偏光板、光学フィルムを用いた液晶表示装置、有機EL表示装置、PDP等の画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、パソコン、TV、モニター、携帯電話、PDA等に使用されている。従来、液晶表示装置等に用いる偏光子としては高透過率と高偏光度を兼ね備えていることから、染色処理されたポリビニルアルコール系フィルムが用いられている。当該偏光子は、ポリビニルアルコール系フィルムに、浴中にて、例えば、膨潤、染色、架橋、延伸等の各処理を施した後に、洗浄処理を施してから、乾燥することにより製造される。また前記偏光子は、通常、その片面または両面にトリアセチルセルロース等の保護フィルムが接着剤を用いて貼合された偏光板として用いられている。
【0003】
近年では、液晶表示装置の高性能化、薄型化が進み、それに伴い、偏光子に対しても、薄型化が求められている。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、染色工程において二色性物質としてヨウ素を用いた場合には、偏光子中のヨウ素錯体が可視光領域の光を吸収して偏光特性(偏光度)を示す。そのため、偏光子の光漏れを抑制する方法としては、偏光子中のヨウ素錯体の量を増やすことが考えられる。従って、前記薄型偏光子の製法においても、高い偏光特性を確保するためには、前記積層体(熱可塑性樹脂基材とポリビニルアルコール系樹脂層を有する)に施す染色工程において、二色性物質(ヨウ素等)の濃度を高く設定した染色浴を用いることが望まれる。

(中略)

【0007】
本発明は、熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体に、染色工程および延伸工程を少なくとも施して、厚み10μm以下の偏光子を製造方法であって、染色工程において、高濃度の二色性物質の染色浴を用いる場合であっても、偏光子の特性(単体透過率、偏光度)を満足することができる、偏光子の製造方法を提供することを目的とする。

(中略)

【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す偏光子の製造方法等により前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、熱可塑性樹脂基材上に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体に、染色工程および延伸工程を少なくとも施して、厚み10μm以下の偏光子を製造方法において、
染色工程以降の少なくとも1つの工程において、少なくとも一つの水溶性酸化防止剤を含有する処理浴による処理を行うことを特徴とする偏光子を製造方法、に関する。前記偏光子の製造方法は、前記染色工程が、ヨウ素染色工程である場合に好適である。

(中略)

【発明の効果】
【0020】
偏光子の製造方法において、染色工程以降の処理浴に大量のヨウ素イオン(I_(3)^(‐))が存在する時、ポリビニルアルコール系樹脂に配向の悪い状態でI_(3)^(-)が取り込まれて、ポリビニルアルコール系樹脂-ヨウ素錯体を形成する。そのため、得られる偏光子は配向性が低下し、偏光子の特性が低下する。本発明の偏光子の製造方法では、ポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体に、染色工程を施した後に、水溶性酸化防止剤を含有する処理浴による処理を行う。水溶性酸化防止剤は、染色浴以降の処理浴に不純物として存在するヨウ素に対する還元力を有しており、前記処理浴中のヨウ素イオン(I_(3)^(‐))を可視領域(380-780nm)において吸収を示さないI^(‐)に還元することができる。その結果、本発明の製造方法によれば、得られる偏光子の特性の低下を防止することが可能になる。」

(イ)「【0029】
<積層体>
本発明で用いる積層体は、前記熱可塑性樹脂基材に、ポリビニルアルコール系樹脂を含有する水溶液を塗布した後に、乾燥して、ポリビニルアルコール系樹脂層を形成することにより得ることができる。かかる塗布おいて、前記熱可塑性樹脂基材とポリビニルアルコール系樹脂層は、プライマー層を介して、または、前記熱可塑性樹脂基材とポリビニルアルコール系樹脂層が、直接、積層し、基材層と親水性高分子層が一体化した状態の積層体が得られる。
【0030】
前記水溶液は、ポリビニルアルコール系樹脂の粉末または粉砕物、切断物等を、適宜に加熱した水(熱水)に溶解することにより調製することができる。前記水溶液の濃度は2?20重量%程度、好ましくは4?10重量%である。前記水溶液の熱可塑性樹脂基材上への塗布は、ワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング、グラビアコーティング等のロールコーティング法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法などを適宜に選択して採用できる。前記熱可塑性樹脂基材がプライマー層を有する場合には当該プライマー層に、プライマー層を有しない場合には基材層に、直接、前記水溶液を塗布する。なお、乾燥温度は、通常、50?200℃、好ましくは80?150℃であり、乾燥時間は、通常、5?30分間程度である。
【0031】
前記ポリビニルアルコール系樹脂層は、前記積層体に施す延伸処理における延伸倍率を考慮して、得られる偏光子の厚みが10μm以下になるような厚みで形成する。通常、ポリビニルアルコール系樹脂層の厚み3?20μmであり、好ましくは5?15μmである。
【0032】
<処理工程>
本発明の偏光子の製造方法では、前記積層体に対して、染色工程および延伸工程を少なくとも施す。また、本発明の偏光子の製造方法では、架橋工程を施すことができる。染色工程、架橋工程および延伸工程には、それぞれ、染色浴、架橋浴および延伸浴の各処理浴を用いることができる。処理浴を用いる場合には、各工程に応じた処理液(水溶液等)が用いられる。
【0033】
<染色工程>
染色工程は、上記積層体におけるポリビニルアルコール系樹脂層にヨウ素または二色性染料を吸着・配向させることにより行う。染色工程は、延伸工程とともに行うことができる。染色は、通常、上記積層体を染色溶液に浸漬することにより一般に行われる。染色溶液としてはヨウ素溶液が一般的である。ヨウ素溶液として用いられるヨウ素水溶液は、ヨウ素および溶解助剤であるヨウ化化合物によりヨウ素イオンを含有させた水溶液などが用いられる。ヨウ化化合物としては、例えばヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が用いられる。ヨウ化化合物としては、ヨウ化カリウムが好適である。本発明で用いるヨウ化化合物は、他の工程で用いる場合についても、上記同様である。
【0034】
ヨウ素溶液中のヨウ素濃度は0.01?10重量%程度、好ましくは0.02?5重量%、さらに好ましくは0.1?1.0重量%である。ヨウ化化合物濃度は0.1?10重量%程度、さらには0.2?8重量%で用いるのが好ましい。ヨウ素染色にあたり、ヨウ素溶液の温度は、通常20?50℃程度、好ましくは25?40℃である。浸漬時間は通常10?300秒間程度、好ましくは20?240秒間の範囲である。なお、染色時間は、指定の偏光度または透過率が達成できるように任意の時間浸漬することができる。
【0035】
<延伸工程>
延伸工程は、乾式延伸方法と湿潤式延伸方法のいずれも採用できる。延伸工程は、前記積層体に、通常、一軸延伸を施すことにより行う。一軸延伸は、前記積層体の長手方向に対して行う縦延伸、前記積層体の幅方向に対して行う横延伸のいずれも採用することができる。横延伸では、幅方向に延伸を行いながら、長手方向に収縮させることもできる。横延伸方式としては、例えば、テンターを介して一端を固定した固定端一軸延伸方法や、一端を固定しない自由端一軸延伸方法等があげられる。縦延伸方式としては、ロール間延伸方法、圧縮延伸方法、テンターを用いた延伸方法等があげられる。延伸処理は多段で行うこともできる。また、延伸処理は、二軸延伸、斜め延伸などを施すことにより行うことができる。」

(ウ)「【実施例】
【0076】
以下に本発明を実施例および比較例をあげて具体的に説明する。
【0077】
実施例1-1(プロセス(1))
(積層体)
熱可塑性樹脂基材として、厚み100μmのガラス転移温度が80℃の非晶質ポリエチレンテレフタレート(三菱樹脂社製,ノバクリアー)を用いた。前記熱可塑性樹脂基材上に、濃度5重量%でポリビニルアルコール(平均重合度4200,ケン化度99.2%)を含有する水溶液を塗布した後、60℃で5分間乾燥して、厚さ10μmのポリビニルアルコール層を製膜して、積層体を得た。
【0078】
上記積層体に、各例において下記の順番にて、下記各工程を施した。
【0079】
(空中補助延伸工程)
上記積層体を、オーブンに配備された延伸装置を用いて、120℃の環境下で、1.8倍に縦延伸した。
【0080】
(不溶化工程)
不溶化浴の処理液には、ホウ酸を3重量%含有する水溶液を用いた。上記空中補助延伸された積層体を、不溶化浴に搬送し、30℃に調整した、前記処理液に30秒間浸漬した。
【0081】
(染色工程)
染色浴の処理液としては、水100重量部に対して、ヨウ素0.3重量部およびヨウ化カリウム2重量部を含有するヨウ素染色溶液を用いた。上記不溶化処理された積層体を、染色浴に搬送し、30℃に調整した前記ヨウ素染色溶液に浸漬して、ポリビニルアルコール層を染色した。
【0082】
(架橋工程/水溶性酸化防止剤含有)
架橋浴の処理液としては、ホウ酸を3重量%、ヨウ化カリウムを3重量%および水溶性酸化防止剤としてアスコルビン酸を0.1重量%含有する混合水溶液(1A)を用いた。上記処理された積層体を、架橋浴に搬送し、30℃に調整した前記混合水溶液(1A)に、30秒間浸漬した。
【0083】
(湿潤式延伸工程)
延伸浴の処理液としては、ホウ酸を4重量%およびヨウ化カリウムを5重量%含有する混合水溶液(1B)を用いた。上記処理された積層体を延伸浴に搬送し、70℃に調整した混合水溶液(1B)に、30秒間浸漬しながら、元長に対して総延伸倍率5.5倍まで、周速の異なる複数セットのロール間を通じて、一軸延伸した。
【0084】
(洗浄工程)
洗浄浴の処理液としては、ヨウ化カリウムを4重量%含有する水溶液を用いた。上記処理された積層体を、洗浄浴に搬送し、30℃に調整した、前記処理液に5秒間浸漬した。
【0085】
(乾燥工程)
次いで、上記洗浄処理された積層体を、洗浄浴から取り出し、60℃の温風で4分間乾燥して、熱可塑性樹脂基材上に偏光子を得た。熱可塑性樹脂基材と一体に延伸されたポリビニルアルコール層(偏光子)の厚みは5μmであった。

(中略)

【0087】
実施例2-1(プロセス(2))
(積層体)
熱可塑性樹脂基材として、厚み100μmのガラス転移温度が80℃の非晶質ポリエチレンテレフタレート(三菱樹脂社製,ノバクリアー)を用いた。前記熱可塑性樹脂基材上に、濃度5重量%でポリビニルアルコール(平均重合度4200,ケン化度99.2%)を含有する水溶液を塗布した後、60℃で5分間乾燥して、厚さ10μmのポリビニルアルコール層を製膜して、積層体を得た。
【0088】
上記積層体に、各例において下記の順番にて、下記各工程を施した。
【0089】
(空中補助延伸工程)
上記積層体を、オーブンに配備された延伸装置を用いて、120℃の環境下で、1.8倍に縦延伸した。
【0090】
(不溶化工程)
不溶化浴の処理液には、ホウ酸を3重量%含有する水溶液を用いた。上記空中補助延伸された積層体を、不溶化浴に搬送し、30℃に調整した、前記処理液に30秒間浸漬した。
【0091】
(染色工程)
染色浴の処理液としては、水100重量部に対して、ヨウ素0.3重量部およびヨウ化カリウム2重量部を含有するヨウ素染色溶液を用いた。上記不溶化処理された積層体を、染色浴に搬送し、30℃に調整した前記ヨウ素染色溶液に浸漬して、ポリビニルアルコール層を染色した。
【0092】
(架橋工程)
架橋浴の処理液としては、ホウ酸を3重量%およびヨウ化カリウムを3重量%含有する混合水溶液(2A)を用いた。上記処理された積層体を、架橋浴に搬送し、30℃に調整した前記混合水溶液(2A)に、30秒間浸漬した。
【0093】
(湿潤式延伸工程/水溶性酸化防止剤含有)
延伸浴の処理液としては、ホウ酸を4重量%、ヨウ化カリウムを5重量%および水溶性酸化防止剤としてアスコルビン酸を0.02重量%含有する混合水溶液(2B)を用いた。上記処理された積層体を延伸浴に搬送し、70℃に調整した混合水溶液(2B)に、30秒間浸漬しながら、元長に対して総延伸倍率5.5倍まで、周速の異なる複数セットのロール間を通じて、一軸延伸した。
【0094】
(洗浄工程)
洗浄浴の処理液としては、ヨウ化カリウムを4重量%含有する水溶液を用いた。上記処理された積層体を、洗浄浴に搬送し、30℃に調整した、前記処理液に5秒間浸漬した。
【0095】
(乾燥工程)
次いで、上記洗浄処理された積層体を、洗浄浴から取り出し、60℃の温風で4分間乾燥して、熱可塑性樹脂基材上に偏光子を得た。熱可塑性樹脂基材と一体に延伸されたポリビニルアルコール層(偏光子)の厚みは5μmであった。

(中略)

【0097】
実施例3-1(プロセス(3))
(積層体)
熱可塑性樹脂基材として、厚み100μmのガラス転移温度が80℃の非晶質ポリエチレンテレフタレート(三菱樹脂社製,ノバクリアー)を用いた。前記熱可塑性樹脂基材上に、濃度5重量%でポリビニルアルコール(平均重合度4200,ケン化度99.2%)を含有する水溶液を塗布した後、60℃で5分間乾燥して、厚さ10μmのポリビニルアルコール層を製膜して、積層体を得た。
【0098】
上記積層体に、各例において下記の順番にて、下記各工程を施した。
【0099】
(空中補助延伸工程)
上記積層体を、オーブンに配備された延伸装置を用いて、120℃の環境下で、1.8倍に縦延伸した。
【0100】
(不溶化工程)
不溶化浴の処理液には、ホウ酸を3重量%含有する水溶液を用いた。上記空中補助延伸された積層体を、不溶化浴に搬送し、30℃に調整した、前記処理液に30秒間浸漬した。
【0101】
(染色工程)
染色浴の処理液としては、水100重量部に対して、ヨウ素0.3重量部およびヨウ化カリウム2重量部を含有するヨウ素染色溶液を用いた。上記不溶化処理された積層体を、染色浴に搬送し、30℃に調整した前記ヨウ素染色溶液に浸漬して、ポリビニルアルコール層を染色した。
【0102】
(湿潤式延伸工程/水溶性酸化防止剤含有)
延伸浴の処理液としては、ホウ酸を4重量%、ヨウ化カリウムを5重量%および水溶性酸化防止剤としてアスコルビン酸を0.02重量%含有する混合水溶液(3A)を用いた。上記処理された積層体を延伸浴に搬送し、70℃に調整した混合水溶液(3A)に、30秒間浸漬しながら、元長に対して総延伸倍率5.5倍まで、周速の異なる複数セットのロール間を通じて、一軸延伸した。
【0103】
(洗浄工程)
洗浄浴の処理液としては、ヨウ化カリウムを4重量%含有する水溶液を用いた。上記処理された積層体を、洗浄浴に搬送し、30℃に調整した、前記処理液に5秒間浸漬した。
【0104】
(乾燥工程)
次いで、上記洗浄処理された積層体を、洗浄浴から取り出し、60℃の温風で4分間乾燥して、熱可塑性樹脂基材上に偏光子を得た。熱可塑性樹脂基材と一体に延伸されたポリビニルアルコール層(偏光子)の厚みは5μmであった。

(中略)

【0106】
実施例4-1(プロセス(4))
(積層体)
熱可塑性樹脂基材として、厚み100μmのシクロオレフィンポリマー(JSR社製,アートン)を用いた。前記熱可塑性樹脂基材上に、濃度10重量%でポリビニルアルコール(平均重合度1800,ケン化度99.2%)を含有する水溶液を塗布した後、60℃で5分間乾燥して、厚さ10μmのポリビニルアルコール層を製膜して、積層体を得た。
【0107】
上記積層体に、各例において下記の順番にて、下記各工程を施した。
【0108】
(乾式延伸工程)
上記積層体を、140℃の環境下で、テンター法により、4倍に横延伸した。
【0109】
(染色工程)
染色浴の処理液としては、水100重量部に対して、ヨウ素0.5重量部およびヨウ化カリウム4重量部を含有するヨウ素染色溶液を用いた。上記乾式延伸された積層体を、染色浴に搬送し、30℃に調整した前記ヨウ素染色溶液に浸漬して、ポリビニルアルコール層を染色した。
【0110】
(架橋工程)
架橋浴の処理液としては、ホウ酸を5重量%、ヨウ化カリウムを5重量%および水溶性酸化防止剤としてアスコルビン酸を0.02重量%含有する混合水溶液(4A)を用いた。上記処理された積層体を、架橋浴に搬送し、60℃に調整した前記混合水溶液(4A)に、60秒間浸漬した。
【0111】
(洗浄工程)
洗浄浴の処理液としては、ヨウ化カリウムを4重量%含有する水溶液を用いた。上記処理された積層体を、洗浄浴に搬送し、30℃に調整した、前記処理液に5秒間浸漬した。
【0112】
(乾燥工程)
次いで、上記洗浄処理された積層体を、洗浄浴から取り出し、60℃の温風で4分間乾燥して、熱可塑性樹脂基材上に偏光子を得た。熱可塑性樹脂基材と一体に延伸されたポリビニルアルコール層(偏光子)の厚みは3μmであった。

(中略)

【0115】
(評価)
実施例および比較例で得られた偏光子の光学特性を以下の方法により測定した。結果を表1に示す。

(中略)

【0119】
<光学特性測定方法>
偏光子の単体透過率(Ts)、偏光度(P)は、積分球付き分光光度計(日本分光(株)製のV7100)にて測定した。
なお、偏光度は、2枚の同じ偏光子を両者の透過軸が平行となるように重ね合わせた場合の透過率(平行透過率:Tp)および、両者の透過軸が直交するように重ね合わせた場合の透過率(直交透過率:Tc)を以下の式に適用することにより求められるものである。
偏光度P(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}^(1/2)×100
各透過率は、グランテラープリズム偏光子を通して得られた完全偏光を100%として、JIS Z8701の2度視野(C光源)により視感度補整したY値で示したものである。
【0120】
【表1】

【0121】
表1中、「初期」は溶液を調整後、浴中のヨウ素イオン(I_(3)^(‐))による特性低下がない状態、特にヨウ素イオン濃度が0.01%以下である状態を意味する。初期の状態でも吸光があるのは、浴中に添加されたヨウ化カリウムの一部がI_(3)^(‐)イオンを形成するためである。
【0122】
各実施例1?4の各例と比較例1?4-1における「初期」の対比から分かるように、実施例では、偏光子の製造を長時間に亘って行った場合においても「初期」と同様の光学特性(偏光度および単体透過率)を満足していることが分かる。なお、実施例およい比較例では、得られる偏光子の偏光度が99.99になるように、染色工程を行っており、同偏光度になる時の透過率を特性として対比している。従って、同じ透過率の偏光子であれば偏光度が低下することになる。」

イ 引用文献5に記載された発明
上記記載事項(ウ)に基づけば、引用文献5には、実施例1-1として、次の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されていると認められる。
「熱可塑性樹脂基材として、厚み100μmの非晶質ポリエチレンテレフタレート(三菱樹脂社製,ノバクリアー)を用い、前記熱可塑性樹脂基材上に、濃度5重量%でポリビニルアルコール(平均重合度4200,ケン化度99.2%)を含有する水溶液を塗布した後、60℃で5分間乾燥して、厚さ10μmのポリビニルアルコール層を製膜して、積層体を得て、
上記積層体を、オーブンに配備された延伸装置を用いて、120℃の環境下で、1.8倍に縦延伸して空中補助延伸し、
上記空中補助延伸された積層体を、ホウ酸を3重量%含有する水溶液を用いた不溶化浴に搬送し、30℃に調整した、前記処理液に30秒間浸漬して不溶化処理し、
上記不溶化処理された積層体を、水100重量部に対して、ヨウ素0.3重量部およびヨウ化カリウム2重量部を含有するヨウ素染色溶液を用いた染色浴に搬送し、30℃に調整した前記ヨウ素染色溶液に浸漬して、ポリビニルアルコール層を染色し、得られる偏光子の偏光度が99.99%になるように、染色工程を行い、
なお、偏光度は、2枚の同じ偏光子を両者の透過軸が平行となるように重ね合わせた場合の透過率(平行透過率:Tp)および、両者の透過軸が直交するように重ね合わせた場合の透過率(直交透過率:Tc)を以下の式に適用することにより求められるものであって、
偏光度P(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}^(1/2)×100
各透過率は、グランテラープリズム偏光子を通して得られた完全偏光を100%として、JIS Z8701の2度視野(C光源)により視感度補整したY値で示したものであり、
上記処理された積層体を、ホウ酸を3重量%、ヨウ化カリウムを3重量%および水溶性酸化防止剤としてアスコルビン酸を0.1重量%含有する混合水溶液(1A)を用いた架橋浴に搬送し、30℃に調整した前記混合水溶液(1A)に、30秒間浸漬し、
上記処理された積層体を、ホウ酸を4重量%およびヨウ化カリウムを5重量%含有する混合水溶液(1B)を用いた延伸浴に搬送し、70℃に調整した混合水溶液(1B)に、30秒間浸漬しながら、元長に対して総延伸倍率5.5倍まで、周速の異なる複数セットのロール間を通じて、一軸延伸し、
上記処理された積層体を、洗浄浴に搬送し、30℃に調整した、ヨウ化カリウムを4重量%含有する水溶液を用いた処理液に5秒間浸漬して洗浄処理し、
次いで、上記洗浄処理された積層体を、洗浄浴から取り出し、60℃の温風で4分間乾燥することによる、熱可塑性樹脂基材と一体に延伸された厚みが5μmの偏光子を得る方法。」

4 対比・判断
(1)引用発明3
ア 対比
本件補正発明と引用発明3とを対比する。

(ア)塗工工程
引用発明3の「ポリビニルアルコール粉末(クラレ(株)製「PVA124」、平均重合度2400、平均ケン化度98.0?99.0モル%)を溶解した濃度8重量%のポリビニルアルコール水溶液を、基材フィルムのプライマー層上にカンマコーターを用いて連続で塗工」する工程(以下、「引用発明塗工工程」という。)における、「基材フィルム」及び「ポリビニルアルコール粉末(クラレ(株)製「PVA124」、平均重合度2400、平均ケン化度98.0?99.0モル%)を溶解した濃度8重量%のポリビニルアルコール水溶液」は、それぞれ、本件補正発明の「基材フィルム」及び「ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液」に相当する。また、上記「引用発明塗工工程」により、ポリビニルアルコール水溶液が塗工されたフィルムが得られるところ、これは、本件補正発明の「塗工フィルム」に相当する。そうすると、引用発明3の「引用発明塗工工程」は、本件補正発明の「基材フィルムに、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を塗工して塗工フィルムを得る塗工工程」に相当する。

(イ)乾燥工程
引用発明3の「ポリビニルアルコール粉末(クラレ(株)製「PVA124」、平均重合度2400、平均ケン化度98.0?99.0モル%)を溶解した濃度8重量%のポリビニルアルコール水溶液を、基材フィルムのプライマー層上にカンマコーターを用いて連続で塗工」したフィルムを、「80℃で5分間乾燥させる」「ことにより、厚み10.6μmのポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層を両面に設けた「ポリビニルアルコール系樹脂層/プライマー層/基材フィルム/プライマー層/ポリビニルアルコール系樹脂層」の構成からなる積層フィルムを作成」する工程(以下「引用発明乾燥工程」という。)における「「ポリビニルアルコール系樹脂層/プライマー層/基材フィルム/プライマー層/ポリビニルアルコール系樹脂層」の構成からなる積層フィルム」は、本件補正発明の「基材フィルムにポリビニルアルコール系樹脂層が形成された積層フィルム」に相当する。そうすると、引用発明3の「引用発明乾燥工程」は、本件補正発明の「前記塗工フィルムを乾燥させて基材フィルムにポリビニルアルコール系樹脂層が形成された積層フィルムを得る乾燥工程」に相当する。

(ウ)延伸工程
引用発明3の「「ポリビニルアルコール系樹脂層/プライマー層/基材フィルム/プライマー層/ポリビニルアルコール系樹脂層」の構成からなる積層フィルム」を「ロール間空中延伸装置にて160℃の延伸温度で縦方向に5.8倍に自由端一軸延伸」する工程(以下「引用発明延伸工程」という。)によって得られる「積層フィルム」は、本件補正発明の「延伸フィルム」に相当する。そうしてみると、引用発明3の「引用発明延伸工程」は、本件補正発明の「前記積層フィルムを一軸延伸して延伸積層フィルムを得る延伸工程」に相当する。

(エ)染色工程
引用発明3の「積層フィルムを30℃のヨウ素とヨウ化カリウムとを含む水溶液である30℃の染色溶液に150秒間程度の滞留時間となるように浸漬し、ポリビニルアルコール系樹脂層の染色を行な」う工程(以下「引用発明染色工程」という。)を経た「ポリビニルアルコール系樹脂層」は、技術的にみて、偏光子として機能する層となるから、上記「引用発明染色工程」を経た後の「積層フィルム」は、偏光性を具備する積層フィルムとなるものである。そうしてみると、上記「引用発明染色工程」を経た後の「ポリビニルアルコール系樹脂層」及び「積層フィルム」は、それぞれ、本件補正発明の「偏光子層」及び「偏光性積層フィルム」に相当する。また、引用発明3の「引用発明染色工程」は、本件補正発明の「前記ポリビニルアルコール系樹脂層を染色して偏光子層とし、偏光性積層フィルムを得る染色工程」に相当する。

(オ)引用発明3は、前記(ア)?(エ)より、塗工工程、乾燥工程、延伸工程、染色工程を、この順に含むといえる。また、引用発明3のこれらの工程からなる方法は、本件補正発明の「偏光性積層フィルムの製造方法」に相当する。

(カ)以上より、本件補正発明と引用発明4とは、
「基材フィルムに、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を塗工して塗工フィルムを得る塗工工程と、
前記塗工フィルムを乾燥させて基材フィルムにポリビニルアルコール系樹脂層が形成された積層フィルムを得る乾燥工程と、
前記積層フィルムを一軸延伸して延伸積層フィルムを得る延伸工程と、
前記ポリビニルアルコール系樹脂層を染色して偏光子層とし、偏光性積層フィルムを得る染色工程とをこの順に含む、偏光性積層フィルムの製造方法。」である点で一致し、以下の点で一応相違する。
[相違点3-1]本件補正発明は、「積層フィルムの水分率が0.3質量%以上1.8質量%以下」、かつ、「ポリビニルアルコール系樹脂層の水分率が2.5質量%以上7.65質量%以下」である状態で、一軸延伸を開始するのに対し、引用発明3は、「ロール間空中延伸装置にて160℃の延伸温度で縦方向に5.8倍に自由端一軸延伸」を開始する際の、積層フィルム及び樹脂層の水分率の状態が明らかとされていない点。
[相違点3-2]本件補正発明は、「偏光子層の視感度補正偏光度(Py)」が「99.995%以上」であるのに対し、引用発明3は、染色して得られるポリビニルアルコール系樹脂層の視感度補正偏光度(Py)が明らかとされていない点。

イ 判断
(ア)[相違点3-1]について
a 引用文献3は、引用発明3の自由端一軸延伸を開始する際の積層フィルム及び樹脂層の水分率を明らかにしていない。しかしながら、引用発明3は、自由端一軸延伸を開始する前に、ポリビニルアルコール水溶液を、基材フィルムのプライマー層上にカンマコーターを用いて連続で塗工し、80℃で5分間乾燥させることにより、自由端一軸延伸に用いる積層フィルムを作成していることから、引用発明3の自由端一軸延伸を開始する際の積層フィルム及び樹脂層の水分率は、樹脂層を設ける際の諸条件の影響を受けるものといえる。
そして、引用発明3の「基材フィルムロール」は、本願の実施例1?6で用いられた「基材フィルム」と同じ構成及び厚みを有し、引用発明3の「プライマー層」も、本願の実施例1?6における「プライマー層」と組成及び厚みが同じものであり、引用発明3において「ポリビニルアルコール系樹脂層」の塗工に用いられる「ポリビニルアルコール水溶液」も、本願の実施例1?6において「ポリビニルアルコール系樹脂層」の塗工に用いられる「ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液」と同じものが用いられている。そして、引用発明3の一軸延伸を開始する前になされる「ポリビニルアルコール系樹脂層」の「乾燥」条件は「80℃で5分間」であり、形成される樹脂層の厚みは「10.6μm」である。一方、本願の実施例1の乾燥条件は、「90℃で4分間」であり、形成される樹脂層の厚みは第1のPVA層が「11.5μm」、第2のPVA層が「10.6μm」であり、実施例4の乾燥条件は、「75℃で2分間の次に80℃で2分間、合計4分間」であり、形成される樹脂層の厚みは第1のPVA層が「9.0μm」、第2のPVA層が「9.1μm」である。そうすると、引用発明3の乾燥温度は、いずれも、本件補正発明の「積層フィルムの水分率が0.3質量%以上1.8質量%以下」、かつ、「ポリビニルアルコール系樹脂層の水分率が2.5質量%以上7.65質量%以下」となる実施例1及び実施例4の乾燥温度の間にあり、形成される樹脂層の厚みも、実施例1及び実施例4における樹脂層の厚みの間にある。また、本願の実施例2と比較例2の、第1の乾燥工程を比較すると、両者における第1のPVA層の厚みが9.2μm、乾燥温度が90℃で共通し、乾燥時間のみが異なるところ、平均水分率変化(%/分)が、20.0(3分)及び15.1(4分)と大きく相違していることから、乾燥後の水分率に対する寄与は、乾燥開始時が大きく、乾燥終了時は小さいことが理解できる。そうすると、本願の実施例1の乾燥条件と引用発明3の乾燥条件とを比較しても、乾燥時間を4分から5分に延長したことの寄与は少なく、乾燥温度を90℃から80℃に下げたことにより相殺されるものと考えられる。そうすると、引用発明3の「ロール間空中延伸装置にて160℃の延伸温度で縦方向に5.8倍に自由端一軸延伸」を開始する際の、「積層フィルム」及び「ポリビニルアルコール系樹脂層」の水分率は、本願の実施例1と同程度である蓋然性が高いといえる。
したがって、上記[相違点3-1]は、実質的な相違点ではない。

b 請求人は、審判請求書の請求の理由において、「原査定では、引用文献3の実施例1(段落[0096])に記載されている乾燥温度80℃、乾燥時間5分間、ポリビニルアルコール系樹脂層の厚み10.6μmを根拠に、本願の請求項に規定する水分率となっている蓋然性が高いと判断されていると思料しますが、これらの乾燥条件及びポリビニルアルコール系樹脂層の厚みは、本願の実施例に記載されたもの(段落[0151](表1))と一致していません。上記(3)で述べたように、本願の実施例及び比較例の記載(表1)から、乾燥温度が変化したり、乾燥時間が変化したり、PVA層の厚みが変化すれば、水分率が変化することが理解できます。そして、引用文献3の実施例は、本願の実施例と乾燥温度の一部が一致している場合はありますが、その乾燥時間、PVA層の厚みにそれぞれ違いがあり、残りの乾燥温度及び乾燥時間も異なるため、引用文献3の実施例に記載のものが、本願の請求項1で規定する水分率と同等である蓋然性が高いと推測することは適切ではないと思料します。」と主張している。しかしながら、前記aにおいて既に述べたとおり、引用発明3の乾燥温度及びPVA層の厚みは、本願の実施例1と実施例4の間にある。そして、引用発明3の乾燥時間が本願の実施例1より長いとしても、4分から5分への乾燥時間の延長により水分率が大きく変化するとは考え難く、乾燥温度が80℃に下げられていることを鑑みれば、引用発明3の「積層フィルム」及び「ポリビニルアルコール系樹脂層」の水分率は、本願の実施例1と同程度であると考えるのが妥当である。

c また、請求人は、審判請求書の請求の理由において、「積層フィルムの水分率は、乾燥工程における雰囲気の水分濃度、水蒸気圧、湿度等によっても変化するものであり、これらの条件について開示も示唆もなく、ましてや積層フィルムやポリビニルアルコール系樹脂層の水分率についても開示も示唆もない引用文献3の記載に基づいて、本願の請求項1に記載の水分率が、引用文献3の実施例に記載されたものの水分率と同等と判断することも適切ではないと思料します。」と主張している。しかしながら、引用発明3は、本願の各実施例と同様に、連続的に搬送しながら各処理を行うものである。そして、本願及び引用文献3の明細書には、乾燥工程における雰囲気の水分濃度、水蒸気圧、湿度等を特別なものに制御することについて何ら記載がないのであるから、本件補正発明及び引用発明3の乾燥工程における雰囲気は、当業者が通常採用するものと理解するのが自然である。そうすると、引用発明3と本願の各実施例との間において、乾燥工程における雰囲気が大きく異なると考えることもできない。
なお、本願の明細書には、乾燥工程における雰囲気の水分濃度、水蒸気圧、湿度等について何ら記載がなく、各実施例の乾燥工程における雰囲気についても何ら開示がない。そして、比較例としてPVA層の厚みを変更した点以外は、実施例1と同様にして偏光性積層フィルム及び偏光板を作製したとされる、比較例1及び比較例2のみが開示されている。仮に、請求人が主張するように、「積層フィルムの水分率」が「乾燥工程における雰囲気の水分濃度、水蒸気圧、湿度等によっても変化する」ものであり、かつ、その雰囲気が当業者が通常採用するものでないとするならば、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件補正発明を実施するために必要と認められる事項を開示しないものということができる。そして、請求人の主張は、特許請求の範囲はもちろん、本願の発明の詳細な説明にも記載されていない事項に基づくものといえるから、採用し得るものではない。

(イ)[相違点3-2]について
引用文献3には、視感度補正偏光度について記載がない。しかしながら、引用発明3の「基材フィルムロール」は、本願の実施例1?6で用いられた「基材フィルム」と同じ構成及び厚みを有し、引用発明3の「プライマー層」も、本願の実施例1?6における「プライマー層」と組成及び厚みが同じものであり、引用発明3において「ポリビニルアルコール系樹脂層」の塗工に用いられる「ポリビニルアルコール水溶液」も、本願の実施例1?6において「ポリビニルアルコール系樹脂層」の塗工に用いられる「ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液」と同じものが用いられている。そして、乾燥工程も、本願の実施例と同様の条件で行われている。そして、引用発明3の染色条件も、本願の実施例1?6における条件と類似の条件で実施されている。そうすると、引用発明3においても、本件補正発明における「偏光子層の視感度補正偏光度(Py)」が「99.995%以上」とする条件を満たす蓋然性が高い。
また、そうでないとしても、一般に、偏光子として用いられる部材の偏光度(視感度補正偏光度)は、その用途から十分に高いものであることが求められており、求められる透過率とのバランスに基づいて当業者が適宜設定されるものである。そして、引用文献3の記載事項(イ)に「染色溶液への積層フィルムの浸漬時間は、特に限定されないが、通常は15秒?15分間の範囲であることが好ましく、30秒?3分間であることがより好ましい。」(段落【0054】)と記載されており、染色における浸漬時間を長くすることも示唆されている。
したがって、引用発明3において、「偏光子層の視感度補正偏光度(Py)」を「99.995%以上」とすること(例えば、特開2012-118521号公報に記載された99.997%(段落【0114】)程度に染色すること)は、当業者が適宜設定し得ることである。

ウ むすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明3と同一の発明であるか、そうでないとしても、引用発明3及び引用文献3の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、引用文献3の実施例2はポリビニルアルコール系樹脂層の厚みが「10.4μm」であり、実施例3のポリビニルアルコール系樹脂層が実施例1と同じ方法で得られたものである。そうすると、引用発明3の代わりに引用文献3の実施例2又は実施例3を主引用発明として対比・判断をおこなっても、同様のことがいえる。

(2)引用発明4
ア 対比
本件補正発明と引用発明4とを対比する。

(ア)塗工工程
引用発明4の「熱可塑性樹脂基材」は、「長尺状で厚み200μmのシクロオレフィン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「ARTON」)」である。そうすると、引用発明4の「熱可塑性樹脂基材」は、本件補正発明の「基材フィルム」に相当するといえる。また、引用発明4の「塗布液として調製」された「ポリビニルアルコール水溶液」は、本件補正発明の「ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液」に相当する。
そして、引用発明4の「上記熱可塑性樹脂基材の片面に、上記塗布液をダイコーター(ダイコート法)により塗布」する工程は、本件補正発明の「基材フィルムに、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を塗工して塗工フィルムを得る塗工工程」に相当する。

(イ)乾燥工程
引用発明4の「上記熱可塑性樹脂基材の片面に、上記塗布液をダイコーター(ダイコート法)により塗布した後」に行われる「100℃で180秒間乾燥して、厚み11μmのPVA系樹脂層を形成し、長尺の積層体を作製」する工程は、本件補正発明の「前記塗工フィルムを乾燥させて基材フィルムにポリビニルアルコール系樹脂層が形成された積層フィルムを得る乾燥工程」に相当する。

(ウ)延伸工程
引用発明4の上記「長尺の積層体を作製」した後に行われる「得られた長尺の積層体を、140℃で、積層体の長手方向と直交する方向に4.5倍に空中延伸して延伸処理」する工程は、本件補正発明の「前記積層フィルムを一軸延伸して延伸積層フィルムを得る延伸工程」に相当する。

(エ)染色工程
引用発明4の「空中延伸」に次いで行われる「積層体を、25℃のヨウ素水溶液(ヨウ素濃度:0.5重量%、ヨウ化カリウム濃度:10重量%)に30秒間浸漬させて染色処理」する工程は、本件補正発明の「前記ポリビニルアルコール系樹脂層を染色して偏光子層とし、偏光性積層フィルムを得る染色工程」に相当する。

(オ)引用発明4は、前記(ア)?(エ)より、塗工工程、乾燥工程、延伸工程、染色工程を、この順に含むといえる。

(カ)以上より、本件補正発明と引用発明4とは、
「基材フィルムに、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を塗工して塗工フィルムを得る塗工工程と、
前記塗工フィルムを乾燥させて基材フィルムにポリビニルアルコール系樹脂層が形成された積層フィルムを得る乾燥工程と、
前記積層フィルムを一軸延伸して延伸積層フィルムを得る延伸工程と、
前記ポリビニルアルコール系樹脂層を染色して偏光子層とし、偏光性積層フィルムを得る染色工程とをこの順に含む、偏光性積層フィルムの製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点4-1]本件補正発明は、「積層フィルムの水分率が0.3質量%以上1.8質量%以下」、かつ、「ポリビニルアルコール系樹脂層の水分率が2.5質量%以上7.65質量%以下」である状態で、一軸延伸を開始するのに対し、引用発明4は、「延伸処理」を開始する際の、積層フィルム及び樹脂層の水分率の状態が明らかとされていない点。
[相違点4-2]本件補正発明は、「偏光子層の視感度補正偏光度(Py)」が「99.995%以上」であるのに対し、引用発明4は、「偏光膜」の視感度補正偏光度(Py)が明らかとされていない点。

イ 判断
(ア)[相違点4-1]について
a 引用文献4は、引用発明4の延伸処理を開始する際の積層体及びPVA系樹脂層の水分率を明らかにしていない。しかしながら、引用発明4は、延伸処理を開始する前に、塗布液をダイコーター(ダイコート法)により塗布した後、100℃で180秒間乾燥して、厚み11μmのPVA系樹脂層を形成していることから、引用発明4の延伸処理を開始する際の積層体及びPVA系樹脂層の水分率は、PVA系樹脂層を形成する際の諸条件の影響を受けるものといえる。
そして、引用発明4の熱可塑性樹脂基材は、「厚み200μmのシクロオレフィン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「ARTON」)」であるから、水分を保持しにくいものである。そして、引用発明4の延伸処理を開始する前になされる塗布されたポリビニルアルコール水溶液の乾燥条件は、「100℃で180秒間」(3分間)であり、作製されるPVA系樹脂層の厚みは「11μm」である。一方、本願の実施例2の乾燥条件は、「90℃で3分間」であり、PVA層の厚みが「9.2μm」である。また、本願の実施例1及び比較例1は、乾燥温度が90℃、乾燥時間が4分で共通し、PVA層の厚みのみが異なるところ、PVA層の厚みが薄いと水分率が低くなることが理解できる。そうすると、引用発明4は、本願の実施例2に比べて乾燥温度が高い(100℃/90℃)ものの、PVA樹脂層の厚みも厚い(11μm/9.2μm)ため、引用発明4のPVA樹脂層の水分率も、本願の実施例2のポリビニルアルコール系樹脂層の水分率3.92質量%と同程度である蓋然性が高く、少なくとも2.5質量%未満の値あるいは7.65質量%より高い値となるとは考え難い。また、引用発明4の熱可塑性樹脂基材は、厚みが200μmであるから、引用発明4の積層フィルムの水分率は、基材フィルムの厚みが100μmである本願の実施例2における積層フィルムの水分率0.56質量%の半分強程度となると考えられ、本件補正発明における「積層フィルムの水分率が0.3質量%以上1.8質量%以下」とする範囲に含まれる蓋然性が高い。
したがって、上記[相違点4-1]は、実質的な相違点ではない。

b 請求人の主張については、すでに述べた理由と同様の理由により、採用できない。

(イ)[相違点4-2]について
引用文献4には、視感度補正偏光度について記載がない。しかしながら、一般に、偏光子として用いられる部材の偏光度(視感度補正偏光度)は、その用途から十分に高いものであることが求められており、求められる透過率とのバランスに基づいて当業者が適宜設定されるものである。そして、引用文献4の記載事項(イ)に「染色液にPVA系樹脂膜を浸漬させる場合、浸漬時間は、好ましくは5秒?300秒である。このような条件であれば、PVA系樹脂膜に十分に二色性物質を吸着させることができる。」(段落【0059】)と記載されていることから、染色における浸漬時間を長くし、十分に二色性物質を吸着させることで偏光度を高くすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、引用発明4において、「偏光子層の視感度補正偏光度(Py)」が「99.995%以上」とすることは、当業者が適宜設定し得ることである。

ウ むすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明4及び引用文献4の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)引用発明5
ア 対比
同様にして、本件補正発明と引用発明5とを対比すると、両者は、
「基材フィルムに、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を塗工して塗工フィルムを得る塗工工程と、
前記塗工フィルムを乾燥させて基材フィルムにポリビニルアルコール系樹脂層が形成された積層フィルムを得る乾燥工程と、
前記積層フィルムを一軸延伸して延伸積層フィルムを得る延伸工程と、
前記ポリビニルアルコール系樹脂層を染色して偏光子層とし、偏光性積層フィルムを得る染色工程とをこの順に含む、偏光性積層フィルムの製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点5-1]本件補正発明は、「積層フィルムの水分率が0.3質量%以上1.8質量%以下」、かつ、「ポリビニルアルコール系樹脂層の水分率が2.5質量%以上7.65質量%以下」である状態で、一軸延伸を開始するのに対し、引用発明5は、「空中補助延伸」を開始する際の、積層フィルム及び樹脂層の水分率の状態が明らかとされていない点。
[相違点5-2]偏光子層の視感度補正偏光度(Py)が、本件補正発明は、「99.995%以上」であるのに対し、引用発明5は、「99.99%」である点。

イ 判断
(ア)[相違点5-1]について
a 引用文献5は、引用発明5の空中補助延伸を開始する際の積層体及びポリビニルアルコール層の水分率を明らかにしていない。しかしながら、引用発明5は、空中補助延伸を開始する前に、60℃で5分間乾燥して、厚さ10μmのポリビニルアルコール層を製膜していることから、引用発明5の空中補助延伸を開始する際の積層体及びポリビニルアルコール層の水分率は、ポリビニルアルコール層を製膜する際の諸条件の影響を受けるものといえる。
そして、引用発明5の乾燥条件と本願の実施例(例:実施例5)の乾燥条件を比較すると、すでに述べた理由と同様の理由により、引用発明5は、[相違点5-1]に係る本件補正発明の要件を満たすといえる。
したがって、上記[相違点5-1]は、実質的な相違点ではない。

b 請求人の主張については、すでに述べた理由と同様の理由により、採用できない。

(イ)[相違点5-2]について
引用文献5の記載事項(ア)には、発明が解決しようとする課題として、「前記薄型偏光子の製法においても、高い偏光特性を確保するためには、前記積層体(熱可塑性樹脂基材とポリビニルアルコール系樹脂層を有する)に施す染色工程において、二色性物質(ヨウ素等)の濃度を高く設定した染色浴を用いることが望まれる。」(段落【0005】)との記載がある。上記記載に基づけば、引用発明5は、高い偏光特性を確保することを課題としているといえる。そして、引用文献5の記載事項(イ)には、「染色時間は、指定の偏光度または透過率が達成できるように任意の時間浸漬することができる。」(段落【0034】)と記載されており、当該記載に基づけば、高い偏光特性を得るには、染色時間を調整すればよいことが理解できる。
引用発明5は、「偏光子の偏光度が99.99%になるように、染色工程を行」ったものである。しかし、引用文献5の記載事項(ウ)の「実施例およい(合議体注:「およい」は「および」の誤記と考えられる。)比較例では、得られる偏光子の偏光度が99.99になるように、染色工程を行っており、同偏光度になる時の透過率を特性として対比している。従って、同じ透過率の偏光子であれば偏光度が低下することになる。」(段落【0122】)との記載に基づけば、引用発明5の偏光度は、比較例と対比するために「99.99%」に留めているものであり、所望の偏光度の積層体となるように染色時間を調整することを妨げないことが理解できる。
そうすると、当業者であれば、引用発明5の染色時間を調整し、偏光子の偏光度が99.995%以上とすることは、容易になし得ることといえる。

ウ むすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明5及び引用文献5の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、引用文献5の実施例2-1、実施例3-1、実施例4-1も、引用発明5と同じ乾燥条件で積層体を得て、空中補助延伸を行うものである。そうすると、引用発明5の替わりに引用文献5の実施例2-1、実施例3-1、実施例4-1を主引用発明として対比・判断をおこなっても、同様のことがいえる。

5 補正却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正発明は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本件発明について
1 本件発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?9に係る発明は、平成30年3月19日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりの発明であって、その請求項1に係る発明(本件発明)は、前記第2の1に記載したとおりである。

2 引用刊行物の記載及び引用発明
原査定の拒絶理由に引用された引用文献3?5の記載事項及び引用文献3?5に記載された発明は、前記第2の3に記載したとおりである。

3 対比・判断
本件発明は、本件補正発明における偏光子層の「視感度補正偏光度(Py)」について「99.995%以上」とした限定を、省いたものに相当する。そうすると、本件発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の4に記載したとおり、引用発明3と同一の発明であるか、又は、引用発明3?5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、しかも、本件発明においては、相違点4-2及び相違点5-2が存在しなくなることを考慮すれば、本件発明は、引用発明3?5と同一の発明であるか、又は、引用発明3?5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その他の請求項について言及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-25 
結審通知日 2019-10-01 
審決日 2019-10-16 
出願番号 特願2016-551970(P2016-551970)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 113- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 宮澤 浩
河原 正
発明の名称 偏光性積層フィルムまたは偏光板の製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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