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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01B
管理番号 1357401
審判番号 不服2018-13346  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-05 
確定日 2019-11-28 
事件の表示 特願2016- 60731「カーボンナノチューブ線材及びカーボンナノチューブ線材接続構造体」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月28日出願公開、特開2017-174689〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成28年3月24日を出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。

平成30年 3月29日付け:拒絶理由通知
平成30年 6月 4日 :意見書の提出
平成30年 6月28日付け:拒絶査定
平成30年10月 5日 :審判請求書及び手続補正書の提出


第2 本願発明

本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成30年10月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項8に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「複数のカーボンナノチューブ束を撚り合わせてなるカーボンナノチューブ線材と、前記カーボンナノチューブ線材に接続される端子とを備えるカーボンナノチューブ線材接続構造体であって、
前記カーボンナノチューブ線材の長手方向端部と前記端子とが接合された接合部に設けられ、前記カーボンナノチューブ線材の前記端部の側面と前記端子の内側面との間に介在する所定金属含有部材を備え、
前記所定金属含有部材に含有される金属は、タンタル、チタン、ニッケル、パラジウム、銅、銀、金、鉄及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1つの材料であることを特徴とする、カーボンナノチューブ線材接続構造体。」

なお、平成30年10月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項8に係る発明は、補正前の請求項9に係る発明と同じである。

第3 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献4.実願昭52-64003号(実開昭53-158891号)のマイクロフィルム
引用文献2.特開2013-47402号公報


第4 引用文献の記載

1 引用文献4の記載および引用文献4に記載された発明

引用文献4には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付したものである。引用文献2についても同様。)

「炭素繊維の表面に金属メツキ層を施し,該金属メツキ層の上に電気端子を取り付けたことを特徴とする炭素繊維製品の電気端子。」(実用新案登録請求の範囲)

「本考案は炭素繊維製品の電気端子に関するものである。
炭素繊維はその導電特性が利用されて電気製品用途にも使用される。面状発熱体などはその一例である。このような電気製品用途への応用において問題になるのは,炭素繊維が金属との親和性があまりよくないため,炭素繊維と電気端子との接続が十分でなく局部発熱を起しやすいということである。
従来,炭素繊維と金属電気端子との接点を行なうやり方として,銀粉などの導電性粉末を配合してなる導電性樹脂を炭素繊維に塗布し,これを銅板などの電気端子に接着することが提案されている。しかし,この接合手段は,繰返し加熱あるいは長期加熱に伴つて樹脂が劣化し,導通不良や局部加熱をひき起こす欠点がある。
本考案の目的は,上述のような従来技術の欠点を解決し,金属電気端子と炭素繊維との間の接触を完全にし,導通不良ならびにそれに伴う局部発熱のトラブルがなく,また長期使用によつても劣化のトラブルの起こらないような炭素繊維製品の電気端子を提供せんとすることにある。」(第1頁第8行ないし第2頁第9行)

「第1図?第3図は,それぞれ本考案による炭素繊維製品の電気端子の実施例を一部断面にして示した側面図である。
第1図において,1は炭素繊維であり,その端部の表面には金属メツキ層2が施されている。金属メツキは銅メツキ,ニツケルメツキ,クロムメツキなど一般に用いられるものでよい。また,メツキ法は電解メツキ,無電解メツキいずれでもよい。この金属メツキ層2の上に電気端子となるリード線3を接触させ,ハンダ4によつて接合が行なわれている。
炭素繊維1は繊維束の状態でもよく,また,織物などに加工されているものでもよい。要はその端部である電気端子との接合部が金属メツキされ,金属メツキ層2を形成するようにする。この金属メツキ層2は,炭素繊維1との間の接触が極めて密であり,分子オーダーの接触がなされていることになる。
第2図は他の実施例を示すもので,金属メツキ層2を施した炭素繊維1の端部に,その金属メツキ層を覆うように電気端子となる止付金具5を締付け結合したものである。」(第2頁第16行ないし第3頁第17行)

「上述したように,本考案は炭素繊維と電気端子との結合を,炭素繊維に金属メツキ層を施して行なうようにしたことにより,分子オーダーの金属-炭素繊維間の接触ができるようになり,導通不良問題は解消され,局部発熱のトラブルも解消される。」(第4頁第15行ないし同頁第20行)



」(第1図及び第2図)

以上の記載を総合すると、引用文献4には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「炭素繊維の繊維束の端部表面に金属メツキ層を施し、その金属メツキ層を覆うように電気端子となる止付金具を締付け結合し取り付けたものであり、
金属メツキは銅メツキあるいはニツケルメツキである、炭素繊維の繊維束と電気端子との結合体。」

2 引用文献2の記載

引用文献2には、次の事項が記載されている。

「【背景技術】
【0002】
従来、炭素系微細構造物の1つであるカーボンナノチューブ(以下、CNTと記すこともある)が知られている。このCNTは、例えば直径が約0.5nmから10nm程度、長さが約1μm程度のパイプ状のカーボン素材である。
【0003】
CNTは、上記のとおり、微細な構造を有するため、そのままでは、取り扱い性や加工性が悪い。このため、肉眼で確認しながら取り扱うことが容易な大きさのCNTの集合体を製造することが試みられている。
【0004】
このCNTの集合体としては、例えば多数のCNTを糸状にしたCNT糸(例えばCNTを撚り合わせたCNT撚糸:CNTyarn)が挙げられる。また、このCNT糸を用いて、CNT製の織布やシートを製造することができる。」

「【0041】
次に、Si基板1上に配向しているCNTの配向膜において、複数のCNTから成る束の端部を引出し具でつまみ、CNTの配向方向とは直交する方向に引出した。
引出されたCNTの束の端部(引出し方向に関して後方の端部)と、Si基板1上で隣接するCNTの束の端部とは、ファンデルワールス力により接続し、結果として、CNTの束が安定して長くつながる。
【0042】
このとき、CNTの束は、Si基板1上に配向しているCNTの配向膜から、複数箇所で引き出した。そして、CNTの束を複数撚ることで、CNTから成るCNT糸(CNT撚糸)3(図2(a)参照)が得られた。」






第5 対比・判断

1 対比

本願発明と引用発明を対比する。

(1)引用発明の「炭素繊維の繊維束」は導電部材として用いられるものであるから、本願発明の「カーボンナノチューブ線材」と、「カーボン線材」であるとの限りにおいて一致する。また、引用発明の「炭素繊維の繊維束」は、電気端子を取り付ける部分である「炭素繊維の繊維束の端部表面」に対して金属メツキ層を施すものであるから、引用発明の「炭素繊維の繊維束の端部表面」は、本願発明の「長手方向端部」に相当する。さらに、引用発明の「電気端子」は炭素繊維の繊維束と結合する部分を有するものであるから、本願発明のカーボン線材と結合する「端子」に相当する。そして、引用発明の「炭素繊維の繊維束と電気端子の結合体」は、炭素繊維の繊維束の端部表面に金属メツキが施されるとともに、金属メツキ層を覆うように電気端子となる止付金具を締付け結合するものであるから、本願発明の「カーボン線材接続構造体」に相当し、その「金属メツキ層」は、炭素繊維の繊維束の端部表面かつ電気端子の内側面に存在する、すなわち、本願発明の「線材の端部の側面と端子の内側面との間に介在する」ものであることは明らかである。
さらに、引用発明の金属メツキ層は、「銅メツキあるいはニッケルメツキ」であるから、本願発明の所定金属含有部材に含有される金属の特定事項を満たす。

(2)してみると、本願発明と引用発明は、

「カーボン線材と、カーボン線材に接続される端子とを備えるカーボン線材接続構造体であって、
前記カーボン線材の長手方向端部と前記端子とが接合された接合部に設けられ、前記カーボン線材の前記端部の側面と前記端子の内側面との間に介在する所定金属含有部材を備え、
前記所定金属含有部材に含有される金属は、タンタル、チタン、ニッケル、パラジウム、銅、銀、金、鉄及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1つの材料である、カーボン線材接続構造体。」

である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
カーボン線材について、本願発明は、「複数のカーボンナノチューブ束を撚り合わせてなるカーボンナノチューブ線材」であるのに対して、引用発明は、「炭素繊維の繊維束」である点。

2 判断

(1)相違点について検討する。
引用文献2の背景技術の項や段落【0042】に記載されているように、線材として、カーボンナノチューブ(CNT)の束を複数撚ったカーボンナノチューブ糸は、本願出願前において公知である。
してみれば、引用発明の「炭素繊維の繊維束と電気端子の結合体」を具体化するにあたり、その「炭素繊維の繊維束」として、引用文献2に示されるような、カーボンナノチューブの束を複数撚ったものを用いる、すなわち、本願発明の「複数のカーボンナノチューブ束を撚り合わせてなるカーボンナノチューブ線材」とすることは、当業者ならば容易になし得たことである。

(2)そして、その効果について検討するに、引用文献4には、金属電気端子と炭素繊維との間の接触を完全にし導通不良ならびにそれに伴う局部発熱のトラブルがない旨記載されており、これは、金属電気端子と炭素繊維との間の接触抵抗を低減することに他ならない。してみれば、本願発明における「カーボンナノチューブ線材と端子との界面接続における導電性の低下を抑制して、端子との接合部における良好な導電性及び強度を実現することができる」(段落【0021】)との効果は、当該引用文献4の記載から予測し得たものであるといえる。

(3)したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 請求人の主張について

(1)請求人は審判請求書の「[4]拒絶の理由に対する意見」の(b)、(c)において、請求項1に係る発明と、引用文献4及び引用文献2とをそれぞれ対比し、概略、次のように主張している。

ア 主張点1
引用文献4では、炭素繊維と電気端子を接続するにあたり、金属メッキと炭素繊維間の相性の良否については、一切記載されていない。これに対し、本願請求項1に係る発明(本願発明も同様)では、所定金属含有部材の所定金属が、タンタル、チタン、ニッケル、パラジウム、銅、銀、金、鉄及びコバルトからなる群から選択されるものに限定されることで、該所定金属の結晶構造とCNTの結晶構造との相性が良好であるため、所定金属含有部材と端子との界面接続における導電性が良好となる([0035]第3文参照)という格別な効果を発揮する。

イ 主張点2
引用文献2には、CNT糸と端子との接合部の構造については一切記載されておらず、従って、本願請求項1に係る発明の特徴である「所定金属含有部材がCNT線材に接続される端子との接合部に設けられ、該所定金属含有部材に含有される所定金属は、タンタル、チタン、ニッケル、パラジウム、銅、銀、金、鉄及びコバルトからなる群から選択される」ことは記載も示唆もない。

(2)上記主張点について順次検討する。

ア 主張点1について
「所定金属の結晶構造とCNTの結晶構造との相性」について、本願明細書には、発明の効果として、
「【0021】
本発明によれば、所定金属含有部材が、カーボンナノチューブ線材の長手方向端部に接続される端子との接合部に設けられ、且つカーボンナノチューブ線材の上記長手方向端部の側面に配置されるので、カーボンナノチューブ線材の側面と端子との間に所定金属含有部材を介在させることができ、カーボンナノチューブ線材が、当該所定金属含有部材を介して端子と良好に接合される。したがって、カーボンナノチューブ線材と端子との界面接続における導電性の低下を抑制して、端子との接合部における良好な導電性及び強度を実現することができる。
【0022】
また、上記所定金属含有部材に含有される所定金属が、タンタル、チタン、ニッケル、パラジウム、銅、銀、金、鉄及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1つの材料であるので、当該所定金属含有部材と端子との界面接続における導電性が良好となり、端子との接合部においてより良好な導電性及び強度を実現することができる。」
と記載され、さらに、所定金属含有部材については、
「【0035】
所定金属含有部材31に含有される所定金属は、遷移金属が好ましい。また、所定金属含有部材31に含有される所定金属は、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、鉄(Fe)及びコバルト(Co)からなる群から選択される少なくとも1つの材料であるのが好ましく、これらの合金であってもよい。上記の1又は複数の材料が所定金属含有部材31に含有されていると、上記所定金属の結晶構造とCNT線材11におけるCNTの結晶構造との相性が良好であるため、所定金属含有部材31と端子20との界面接続における導電性が良好となる。遷移金属は、他の金属と化合物を容易に形成する特徴を有しており、複数の遷移金属を構成させることにより、異なる金属との界面おいて優れた密着性、電気伝導性を発現させることが出来る。とりわけ、電気伝導率の高い、銅、銀、金、ニッケルの層を設けることにより、接合界面の電気伝導が良好となる。また、所定金属含有部材31に含有される金属は、六方晶金属であるのが好ましい。CNT線材11と端子20との接合部30で優れた導電性を実現することができる。」
とは記載されているものの、具体的にCNTと所定金属の結晶構造がどのように相性が良好なのか、どの程度界面における電気伝導性に寄与するのかを窺わせる記載や実験例等が示されているものはなく、結局のところ、
「【0060】
また、所定金属含有部材31に含有される所定金属が、タンタル、チタン、ニッケル、パラジウム、銅、銀、金、鉄及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1つの材料であるので、所定金属含有部材31と端子20との界面接続における導電性が良好となり、端子20との接合部30においてより良好な導電性及び強度を実現することができる。」
と、界面接続における導電性が良好となる、との定性的な効果が提示されているにすぎない。
そして、引用文献4(引用発明)は、「炭素繊維が金属との親和性があまりよくない」(第1頁第13行ないし同頁第14行)ことを問題とし、「金属電気端子と炭素繊維との間の接触を完全にし」(第2頁第5行ないし同頁第6行)、「分子オーダーの金属-炭素繊維間の接触ができる」(第4頁第17行ないし同頁第18行)ようにしたものであるから、接触界面で良好な接続が図られることで、接触抵抗が低減される(導電性が良好となる)ことが示されているといえる。
してみると、接触界面における導電性が良好となるとの効果については、既に引用文献4において示されているといえるのであるから、本願発明が格別の効果を奏するものであるとする請求人の主張は採用することができない。

イ 主張点2について
上記3で検討したとおり、引用文献2は、線材として、カーボンナノチューブ(CNT)の束を複数撚ったカーボンナノチューブ糸が公知であったことを示すものである。そして、引用発明の「炭素繊維の繊維束」、引用文献2記載の「カーボンナノチューブ(CNT)の束を複数撚ったカーボンナノチューブ糸」は、ともに、導電性の線材として用いられるものであるから、上記3で検討したとおり、引用発明の「炭素繊維の繊維束と電気端子の結合体」を具体化するにあたり、「炭素繊維の繊維束」として、引用文献2に示されるような、カーボンナノチューブの束を複数撚ったものを用いることは、当業者が容易になし得たことであり、引用文献2の明細書の発明の詳細な説明全体を通じてみても、引用文献2記載の「カーボンナノチューブ(CNT)の束を複数撚ったカーボンナノチューブ糸」を、引用発明の「炭素繊維の繊維束」として用いることを阻害する要因を見出すこともできない。

したがって、請求人の主張は何れも採用することができない。


第6 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-25 
結審通知日 2019-09-30 
審決日 2019-10-16 
出願番号 特願2016-60731(P2016-60731)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安川 聡青鹿 喜芳  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 植前 充司
土屋 知久
発明の名称 カーボンナノチューブ線材及びカーボンナノチューブ線材接続構造体  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 前川 純一  
代理人 二宮 浩康  
代理人 上島 類  
代理人 住吉 秀一  

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