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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K |
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管理番号 | 1357418 |
審判番号 | 不服2019-2956 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-03-04 |
確定日 | 2019-12-17 |
事件の表示 | 特願2016-512460「頭頚部がんの処置または予防において使用されるPI3キナーゼ阻害剤とパクリタキセルの組合せ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月13日国際公開、WO2014/181252、平成28年 6月23日国内公表、特表2016-518400、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2014年5月6日(パリ条約による優先権主張 2013年5月7日 フランス(FR))を国際出願日とする特許出願であって、出願後の主な手続の経緯は以下のとおりである。 平成29年 4月28日 :上申書及び手続補正書の提出 平成30年 2月28日付け :拒絶理由通知 平成30年 9月 3日 :意見書及び手続補正書の提出 平成30年10月31日付け :拒絶査定 平成31年 3月 4日 :審判請求書の提出 平成31年 4月17日 :手続補正書(方式)の提出 第2 原査定の概要 原査定(平成30年10月31日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。 本願請求項1-9に係る発明は、以下の引用文献4及び1に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 4.Annals of Oncology,2012年,Vol.23, Suppl.9,Abstract Number 454P 1.Experimental and Molecular Therapeutics,2013年 4月,Vol.73, No.8 Suppl.,Abstract 4411 第3 本願発明 本願請求項1-9に係る発明(以下、それぞれ請求項の順に「本願発明1」-「本願発明9」という。)は、平成30年9月3日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 頭頚部がんを処置または予防するための、同時、個別、または連続的に使用される、(a)式(I)の化合物: 【化2】 ![]() またはその薬学的に許容される塩と、(b)パクリタキセルまたはその薬学的に許容される塩とを含む組合せ医薬であって、 前記頭頚部がんが、頭頚部扁平上皮癌であり、 前記式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩が、ヒト成人に約60mg/日?約120mg/日の範囲の投与量で投与され、 前記パクリタキセルが、ヒト成人においておよそ約15?200mg/m^(2)/週の範囲の投与量で投与される、組合せ医薬。 【請求項2】 前記頭頚部がんが、パクリタキセル、フルオロウラシル(5-FU)、白金製剤治療、またはそれらの組合せによる以前の処置に対して抵抗性である、請求項1に記載の組合せ医薬。 【請求項3】 頭頚部扁平上皮癌は、口腔の扁平上皮癌または腫瘍である、請求項1または2に記載の組合せ医薬。 【請求項4】 頭頚部がんの処置または予防において使用される、請求項1?3のいずれか一項に記載の組合せ医薬の共同治療有効量と、任意選択で少なくとも1種の薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。 【請求項5】 頭頚部扁平上皮癌の処置または予防において使用され、(a)請求項1に記載の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩の1つまたは複数の単位投与剤形と、(b)パクリタキセルまたはその薬学的に許容される塩の1つまたは複数の単位投与剤形とを含み、 前記式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩が、ヒト成人に約60mg/日?約120mg/日の範囲の投与量で投与され、 前記パクリタキセルが、ヒト成人においておよそ約15?200mg/m^(2)/週の範囲の投与量で投与される、組合せ調製物。 【請求項6】 頭頚部扁平上皮癌は、口腔の扁平上皮癌または腫瘍である、請求項5に記載の組合せ調製物。 【請求項7】 頭頚部がんの処置または予防において使用される医薬を調製するための、請求項1?3のいずれか一項に記載の組合せ医薬の使用であって、前記頭頚部がんが頭頚部扁平上皮癌である、使用。 【請求項8】 前記頭頚部がんが、パクリタキセル、フルオロウラシル(5-FU)、白金製剤治療、またはそれらの組合せによる以前の処置に対して抵抗性である、請求項7に記載の使用。 【請求項9】 頭頚部がんの処置または予防において使用される、請求項1?3のいずれか一項に記載の組合せ医薬を、その同時、個別、または連続的投与のための説明書と共に含む商用パッケージ。」 第4 引用文献、引用発明等 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、次の事項が記載されている(原文は英語のため、当合議体が和訳を付した。以下、同じ。)。 (摘記4a) 「PHASE IB DOSE-ESCALATION STUDY OF BEZ235 OR BKM120 IN COMBINATION WITH PACLITAXEL (PTX) IN PATIENTS WITH ADVANCED SOLID TUMORS」(1頁2?5行) (和訳: 進行固形がん患者におけるパクリタキセル(PTX)と組み合わされたBEZ235又はBKM120の投与量漸増Ib相試験) (摘記4b) 「Background The pan-PI3K inhibitor BKM120 and the dual PI3K/mTOR inhibitor BEZ235 have demonstrated preclinical and clinical antitumor activity as single agents and in combination with other drugs.」(1頁9?12行) (和訳: 背景 汎用PI3K阻害剤であるBKM120とPI3K/mTOR双方の阻害剤であるBEZ235とは、単一薬剤として又は他の医薬と組み合わせて、前臨床及び臨床での抗腫瘍活性を示している。) (摘記4c) 「Methods In the first 2 arms of this 4-arm Phase Ib dose-escalation study, pts with metastatic or locally advanced solid tumors received once-daily oral BKM120 or BEZ235 + wkly IV PTX.」(1頁14?17行) (和訳: 方法 この4群投与量漸増Ib相試験の最初の2群において、転移性又は局所進行性の固形がん患者が、一日一回の経口投与のBKM120と週1回の投与を4週行うPTXの投与を受けた。) (摘記4d) 「Results 33 pts were treated with BKM120(mg/d) + PTX(mg/m^(2)) at 6 dosing levels: 40/70 (1 pt); 40/80 (5 pts); 60/80 (3 pts); 80/80 (4 pts); 100/80 (16 pts); and 120/80 (4 pts). DLTs were observed in 4 pts (1/16 at 100/80 and 3/4 at 120/80), including asthenia, hyperglycemia, and depression. The MTD of BKM120/PTX was declared as 100/80. Most common G3/4-suspected study treatment-related AEs (>5%) were neutropenia, hyperglycemia, and anemia.」(1頁20行?2頁3行) (和訳: 結果 33人の患者が以下の6段階の投与量でBKM120(mg/d)及びPTX(mg/m^(2))の治療を受けた:40/70 (1患者); 40/80 (5患者); 60/80 (3患者); 80/80 (4患者); 100/80 (16患者); 及び 120/80 (4患者)。無力症、高血糖及びうつを含む用量制限毒性が、4患者(100/80 の16患者中の1患者と120/80 の4患者中の3患者)で見られた。BKM120/PTXの最大耐量は100/80と申告された。グレード3又は4の疑いのある本試験の治療と関連した、よくある有害事象(5%以上)は、好中球減少症、高血糖及び貧血であった。) (摘記4e) 「As of Feb 29, 29 pts were evaluable for response in each arm. In the BKM120/PTX arm, 1 CR (penile carcinoma[Ca]), 4 PRs (breast and ovarian Ca pts, each with multiple lines of prior therapy [12 and 3] and progression on prior PTX; cervical and vulvar Ca), and 11DSs were oveserved.」(2頁9?13行) (和訳: 2月29日時点で、それぞれの群で、29患者が応答に対する評価が可能であった。BKM120とPTXの群においては、完全奏功1例(陰茎上皮癌[Ca])、部分奏功4例(それぞれ複数回の治療経験(12回と3回)があり、PTXの先行投与に対して進行性の乳房上皮癌と卵巣上皮癌の患者;子宮頸部上皮癌と外陰上皮癌の患者)及び安定状態11例が観察された。) 上記摘記4a?4eの記載からみて、引用文献4には次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。 「陰茎上皮癌、乳房上皮癌、卵巣上皮癌、子宮頸部上皮癌又は外陰上皮癌を治療するために投与される、BKM120とパクリタキセルからなる組合せ医薬。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明4とを対比する。 ア 本願明細書の【0023】には「本明細書において使用される用語「処置する」または「処置」は、対象における少なくとも1つの症状を軽減する、減少させる、もしくは緩和する、または頭頚部がんの進行を遅らせる処置を含む。」(原文では、「The term "treating" or "treatment" as used herein comprises a treatment relieving, reducing or alleviating at least one symptom in a subject or effecting a delay of progression of a cancer of the head and neck.」)と記載されているから、引用発明4における「治療(treat)するため」は、本願発明1における「処置または予防するため」に相当する。 また、引用発明4における「BKM120」は、本願発明1に式(I)として示される化合物であることが本願優先日前に周知技術であり(例えば、文献2:Abstract,電子的技術情報3:等を参照。(共に、平成30年2月28日付け拒絶理由通知書において「周知技術を示す文献」として示された文献である。))、また、引用発明4における「パクリタキセル」は、「パクリタキセルまたはその薬学的に許容される塩」に含まれるから、引用発明4における「BKM120とパクリタキセルからなる組合せ医薬」は、本願発明1における「(a)式(I)の化合物: ![]() またはその薬学的に許容される塩と、(b)パクリタキセルまたはその薬学的に許容される塩とを含む組合せ医薬」に相当する。 また、引用発明4において、治療される「陰茎上皮癌、乳房上皮癌、卵巣上皮癌、子宮頸部上皮癌又は外陰上皮癌」は、本願発明1において、処置または予防される「頭頚部扁平上皮癌」と、「上皮癌」という点で共通する。 したがって、本願発明1と引用発明4との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「上皮癌を処置または予防するための、同時、個別、または連続的に使用される、 (a)式(I)の化合物: ![]() またはその薬学的に許容される塩と、 (b)パクリタキセルまたはその薬学的に許容される塩とを含む組合せ医薬。」 (相違点1)組合せ医薬がその処置または予防に使用される対象疾患が、本願発明1では「頭頚部扁平上皮癌」であるのに対し、引用発明4では「陰茎上皮癌、乳房上皮癌、卵巣上皮癌、子宮頸部上皮癌又は外陰上皮癌」である点。 (相違点2)本願発明1では、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩が、「ヒト成人に約60mg/日?約120mg/日の範囲の投与量で投与され」、かつ、パクリタキセルが、「ヒト成人においておよそ約15?200mg/m^(2)/週の範囲の投与量で投与される」のに対し、引用発明4では、BKM120及びパクリタキセルの用法・用量について、かかる特定をしていない点。 (2)相違点についての判断 ア 上記相違点1について検討する。原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1は、2013年4月にワシントンで行われたAACRの第104回年次会合において発表された内容の要約を記載した文献である。引用文献1には、次のとおり記載されている。 「HNSCCにおいてPI3K/AKT/mTORシグナル経路がしばしば活性化されていることから、PI3K/mTORの阻害が有力な治療活性を有するのではないかと示唆されている。また、mTOR阻害剤であるエベロリムスを、パクリタキセル又はカルボプラチンと組み合わせた第I/II相CAPRA臨床試験の予備結果は、有望な抗増殖活性を示している。」(1頁2?5行) 「我々の研究は、3つのHNSCC細胞株において、エベロリムスと比較した、新規なPI3K/mTOR阻害剤の抗増殖効果を評価することを目的とする。」(1頁7?8行) 「材料と方法:HNSCC細胞株(SQ20B、HEP2及びSCC61)はmTORC1特異的阻害剤であるエベロリムス、PI3K/mTORの二重阻害剤であるBEZ235、PI3K特異的阻害剤であるBKM120により処理された。」(1頁9?11行) 「全ての細胞株において、エベロリムスのIC50は6μM以上であるのに対し、新規なmTOR阻害剤は2?30倍強いIC50を有し、BEZ235のIC50は0.2?0.8μM、BKM120のIC50は2.1?2.4μMであった。」(2頁5?7行) 「カルボプラチン又はパクリタキセルとの組み合わせにおいて、エベロリムス又はBEZ235は、HEP2に対して相乗的な増殖抑制効果を示し、SQ20Bに対して相加的な増殖抑制効果を示したのに対し、BKM120は、両方の細胞株に対してほとんど相加的な増殖抑制効果を示した。」(2頁12?15行) 「結論:新世代のPI3K/mTOR阻害剤は、HNSCC細胞株に対して、エベロリムスよりも強力な抗増殖活性を示した。」(2頁16?17行) 「いくつかの薬剤の組合せは、相乗的な効果を示しており、HNSCC患者に対して有望な治療法とみなされるかもしれない。」(2頁19?20行) 上記記載を総合すると、引用文献1には、エベロリムスを、パクリタキセル又はカルボプラチンと組み合わせた場合の第I/II相CAPRA臨床試験の予備結果が有望であったことを受けて、新規なPI3K/mTOR阻害剤である、BEZ235(PI3K/mTORの二重阻害剤)とBKM120(PI3K特異的阻害剤)と、エベロリムスとの、HNSCC細胞株における抗増殖作用を比較した著者らによる実験の結果、「いくつかの薬剤の組合せは、相乗的な効果を示しており、HNSCC患者に対して有望な治療法とみなされるかもしれない。」と結論付けたことが記載されていると認められる。 引用文献1に相乗的な効果を示したと記載された組合せは、その記載から不明確な点はあるものの、「エベロリムスと、カルボプラチン又はパクリタキセルとの組み合わせ」と「BEZ235と、カルボプラチン又はパクリタキセルとの組み合わせ」と認められることから、BEZ235はエベロリムスよりも強いIC50を示す阻害剤であることが示されていることも考慮すると、「BEZ235と、カルボプラチン又はパクリタキセルとの組み合わせ」は、HNSCC患者に対して有望な治療法であるかもしれないことを理解できる。 しかしながら、引用文献1に相加的な増殖抑制効果を示したと記載された組合せである「BKM120と、カルボプラチン又はパクリタキセルとの組み合わせ」については、HNSCC患者に対して、有望な治療法とする可能性が具体的に記載されていないことから、引用文献1の記載に接した当業者は、「BKM120と、カルボプラチン又はパクリタキセルとの組み合わせ」、また、その選択肢に含まれる「BKM120とパクリタキセルの組み合わせ」を、患者に適用すれば、有望な治療薬となることが理解できるとまではいえない。 イ 引用発明4と引用文献1に記載された技術については、引用発明4の上皮癌は「陰茎上皮癌、乳房上皮癌、卵巣上皮癌、子宮頸部上皮癌又は外陰上皮癌」という、いずれも泌尿生殖器ないし婦人科関連の上皮癌であるのに対し、引用文献1に記載された技術における上皮癌は「頭頚部扁平上皮癌」であり、上皮癌が生じる部位が異なり、それに伴って、一般的には、それらに対する治療薬も異なることが想定される。 また、上記アで示したように、引用文献1の記載に接した当業者は、HNSCC患者に適用することが有望であると理解できる治療薬として、「BKM120とパクリタキセルの組み合わせ」を認識することは困難であるといえる。 そうすると、引用発明4に係る「陰茎上皮癌、乳房上皮癌、卵巣上皮癌、子宮頸部上皮癌又は外陰上皮癌」を治療するために投与される組合せ医薬を、「頭頚部扁平上皮癌」に適用しようとする動機付けに欠けるといわざるを得ない。 一方、本願明細書等においては、本願発明1の組合せ医薬が頭頚部扁平上皮癌を処置または予防するために有用であったことが裏付けられている。 したがって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明4及び引用文献1に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 2 本願発明2-9について 本願発明2-9も、本願発明1の組合せ医薬が「頭頚部扁平上皮癌」を「処置または予防するため」に「使用される」点で同一の構成を備えるものであるから、前記1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明4及び引用文献1に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1-9は、当業者が引用発明4及び引用文献1に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-12-02 |
出願番号 | 特願2016-512460(P2016-512460) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A61K)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 高橋 樹理 |
特許庁審判長 |
井上 典之 |
特許庁審判官 |
藤原 浩子 渡邊 吉喜 |
発明の名称 | 頭頚部がんの処置または予防において使用されるPI3キナーゼ阻害剤とパクリタキセルの組合せ |
代理人 | 大森 規雄 |
代理人 | 植竹 友紀子 |
代理人 | 小林 浩 |
代理人 | 鈴木 康仁 |