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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07D
管理番号 1357560
審判番号 不服2018-3607  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-13 
確定日 2019-12-04 
事件の表示 特願2014-543844「メルドラム酸のフッ素化誘導体、その調製方法、および溶媒添加剤としてのそれらの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月 6日国際公開、WO2013/079397、平成27年 2月26日国内公表、特表2015-505825〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2012年11月23日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2011年11月30日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成28年6月2日付けで拒絶理由が通知され、同年9月13日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年2月10日付けで拒絶理由が通知され、同年7月12日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月6日付けで拒絶査定がされ、平成30年3月13日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年8月22日に上申書が提出され、同年9月28日付けで当審から拒絶理由が通知され、平成31年3月8日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
この出願の特許請求の範囲の記載は、平成31年3月8日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1?6に係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明6」という。)は、以下のとおりの事項により特定されるものである。
「【請求項1】
式(I):

(式中、R1およびR2は、独立して、水素、またはフッ素を示し、かつR3およびR4は、独立して、フッ素、メチル、モノフルオロメチル、ジフルオロメチル、またはトリフルオロメチルを示すが、ただし、前記R1?R4の少なくとも1個は、フッ素またはフッ素化置換基である)を有するメルドラム酸のフッ素化誘導体である化合物のリチウムイオン電池、リチウム空気電池およびリチウム硫黄電池のための添加剤として、または電解質溶媒としての使用。
【請求項2】
R1がフッ素である、請求項1に記載の化合物の使用。
【請求項3】
前記化合物が式(I-1)、(I-2)、(I-3)または(I-4)

を有する、請求項1または2に記載の化合物の使用。
【請求項4】
Liイオン電池のための少なくとも1種の溶媒を含有し、さらに式(I):

(式中、R1およびR2は、独立して、水素、またはフッ素を示し、かつR3およびR4は、独立して、フッ素、メチル、モノフルオロメチル、ジフルオロメチル、またはトリフルオロメチルを示すが、ただし、前記R1?R4の少なくとも1個は、フッ素またはフッ素化置換基である)、および式(I-1)、(I-2)、(I-3)、(I-4):

からなる群から選択される少なくとも1種のメルドラム酸のフッ素化誘導体を含有する、リチウムイオン電池、リチウム空気電池またはリチウム硫黄電池のための溶媒組成物。
【請求項5】
式(I):

(式中、R1およびR2は、独立して、水素、またはフッ素を示し、かつR3およびR4は、独立して、フッ素、メチル、モノフルオロメチル、ジフルオロメチル、またはトリフルオロメチルを示すが、ただし、前記R1?R4の少なくとも1個は、フッ素またはフッ素化置換基である)、および式(I-1)、(I-2)、(I-3)、(I-4):

からなる群から選択される少なくとも1種のメルドラム酸のフッ素化誘導体、少なくとも1種の溶媒および少なくとも1種の電解質塩を含有する、リチウムイオン電池、リチウム空気電池またはリチウム硫黄電池のための電解質組成物。
【請求項6】
式(I):

(式中、R1およびR2は、独立して、水素、またはフッ素を示し、かつR3およびR4は、独立して、フッ素、メチル、モノフルオロメチル、ジフルオロメチル、またはトリフルオロメチルを示すが、ただし、前記R1?R4の少なくとも1個は、フッ素またはフッ素化置換基である)、および式(I-1)、(I-2)、(I-3)、(I-4):

からなる群から選択される少なくとも1種のメルドラム酸のフッ素化誘導体を含有するリチウムイオン電池。」

なお、本願発明1は、平成30年3月13日付け手続補正により補正された請求項1に係る発明のうち、式(I)中のR3およびR4の選択肢を「水素、フッ素、メチル、モノフルオロメチル、ジフルオロメチル、またはトリフルオロメチル」から、「フッ素、メチル、モノフルオロメチル、ジフルオロメチル、またはトリフルオロメチル」と限定した発明である。

本願発明4は、平成30年3月13日付け手続補正により補正された請求項5に係る発明のうち、請求項1?4を引用して記載していた「メルドラム酸のフッ素化誘導体」を、請求項1?4を引用せず書き下して記載した上で、「メルドラム酸のフッ素化誘導体」として、式(I)中のR3およびR4の選択肢を「フッ素、メチル、モノフルオロメチル、ジフルオロメチル、またはトリフルオロメチル」と限定し、また、平成30年3月13日付け手続補正により補正された請求項3に係る発明の式(I-1)、(I-2)、(I-3)または(I-4)と限定した発明である。

本願発明5及び6は、平成30年3月13日付け手続補正により補正された請求項6及び7に係る発明のうち、請求項1?4を引用して記載していた「メルドラム酸のフッ素化誘導体」を、請求項1?4を引用せず書き下して記載した上で、「メルドラム酸のフッ素化誘導体」として、式(I)中のR3およびR4の選択肢を「フッ素、メチル、モノフルオロメチル、ジフルオロメチル、またはトリフルオロメチル」と限定し、また、平成30年3月13日付け手続補正により補正された請求項3に係る発明の式(I-1)、(I-2)、(I-3)または(I-4)と限定した発明である。

第3 当審が通知した拒絶理由の概要
平成30年9月28日付けで当審が通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)は、以下の理由2及び3を含むものである。

1 理由2は、この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないというものであり、要約すると下記で示したとおりのものである。

本願発明1?4の課題は、式(I)の化合物をリチウムイオン電池、リチウム空気電池およびリチウム硫黄電池のための添加剤または電解質溶媒として使用する方法を提供すること、本願発明5の課題は、式(I)の化合物を含有するリチウムイオン電池、リチウム空気電池およびリチウム硫黄電池のための溶媒組成物を提供すること、本願発明6の課題は、式(I)の化合物を含有するリチウムイオン電池、リチウム空気電池およびリチウム硫黄電池のための電解質組成物を提供すること、本願発明7の課題は、式(I)の化合物を含有するリチウムイオン電池を提供することであると認められるが、発明の詳細な説明には、式(I)の化合物をリチウムイオン電池等に使用した際の有用性やそのデータが何も記載されておらず、ただ、リチウムイオン電池等の添加剤または電解質溶媒として使用する旨の記載や電解質組成物の構成成分とその配合割合が記載されているというだけでは、本願発明1?7が、発明の詳細な説明により、発明の課題が解決できると当業者が理解できるように記載されているとはいえない、というものである。

2 理由3は、この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、要約すると下記で示したとおりのものである。

発明の詳細な説明には、物の発明では、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならず、また、方法の発明では、その方法を使用する具体的な記載がされていなければならず、そのような記載がない場合には、出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その方法を使用することができる程度にその発明が記載されてなければならないと解されるが、発明の詳細な説明には、式(I)の化合物をリチウムイオン電池等に使用した際の有用性やそのデータが何も記載されておらず、ただ、リチウムイオン電池等の添加剤または電解質溶媒として使用する旨の記載や、電解質組成物の構成成分とその配合割合の記載がされているだけであるので、発明の詳細な説明には、本願発明1?7の実施可能要件を満足する記載がされていない、というものである。

第4 当審の判断
当審は、当審拒絶理由のとおり、この出願は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないと判断し、また、この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないと判断する。
それらの理由は以下のとおりである。

1 特許法第36条第6項第1号について
(1)特許法第36条第6項第1号の考え方について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点に立って検討する。

(2)特許請求の範囲の記載
本願発明1?6に関して、特許請求の範囲には、上記「第2」に記載したとおりの記載がされている。

(3)発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(a)「【背景技術】
・・・
【0004】
Liイオン電池は、アノードと、カソードと、溶媒、導電性塩およびしばしば添加剤を含有する電解質組成物とを含んでなる。溶媒は、導電性塩を溶解するために有用な非プロトン性有機溶媒である。例えば、適切な溶媒に関する情報を提供する国際公開第2007/042471号パンフレットを参照のこと。適切な導電性塩は、当該技術において既知である。LiPF_(6)は、好ましい導電性塩である。他の導電性塩も、本発明の電解質溶液の成分として適切であり、例えば、リチウムビスオキサラトボレート(LiBOB)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド(LiTFSI)またはLiBF_(4)である。
【0005】
添加剤は、Liイオン電池の特性、例えば、電池の寿命を改善するか、または可燃性を低下させる。例えば、LiPO_(2)F_(2)は添加剤として適用可能である。フッ素化有機化合物、例えば、フッ素化環式カーボネートは、電池の寿命を改善し、溶媒の可燃性を低下させる。」

(b)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、さらなる添加剤をLiイオン電池に提供することである。この対象および他の対象は、本明細書および請求の範囲に概説されるように、本発明によって達成される。」

(c)「【0024】
本発明の別の態様は、式(I)の化合物の製造に関する。
【0025】
この態様に従って、式(I):

を有するメルドラム酸のフッ素化誘導体である化合物の調製プロセス、方法であって、式HO(O)C-CR1R2-C(O)OH(式中、R1およびR2は、独立して、水素、ハロゲン、または1個または複数個のハロゲン原子によって任意選択的に置換されている直鎖もしくは分枝鎖アルキル基を示す)を有するマロン酸またはフルオロマロン酸と、式R3-C(O)-R4(式中、R3およびR4は、独立して、1個または複数個のハロゲン原子によって任意選択的に置換されている直鎖または分枝鎖アルキル基を示す)を有するケトンとの反応を含んでなる方法であるか、式HO(O)C-CR1R2-C(O)OH(式中、R1およびR2は、独立して、水素、ハロゲン、または1個または複数個のハロゲン原子によって任意選択的に置換されている直鎖もしくは分枝鎖アルキル基を示す)を有するマロン酸またはフルオロマロン酸を、C(O)Cl_(2)またはC(O)F_(2)と反応させ、そして中間体の2,4,6-トリオン化合物をSF_(4)と反応させることによって、R3およびR4がFである式(I)の化合物を製造するための方法であるか、式HO(O)C-CR1R2-C(O)OH(式中、R1およびR2は、独立して、水素、ハロゲン、または1個または複数個のハロゲン原子によって任意選択的に置換されている直鎖もしくは分枝鎖アルキル基を示す)を有するマロン酸またはフルオロマロン酸を、C(O)Cl_(2)またはC(O)F_(2)と反応させ、中間体の2,4,6-トリオン化合物を還元剤、特に水素と反応させて、それぞれのC4-ヒドロキシ化合物を製造し、そして上記C4-ヒドロキシ化合物をSF_(4)と反応させて、R3がFであり、かつR4がHである式(I)の化合物を得ることによって、R3がFであり、かつR4がHである式(I)の化合物を製造するための方法を提供する。
【0026】
以下、メルドラム酸の好ましいフルオロ置換誘導体の製造を記載する。出発化合物はエステルである。それらは塩基性または酸性加水分解によって加水分解されて、それぞれの酸を形成することが可能である。加水分解は、DE Offenlegungsschrift 4120704に記載される通り、例えば、水中のジメチルエステルおよびNaOHから、そしてイオン交換樹脂、例えば、Lewatit S 100とのその後の接触によって実施することができる。この工程の後、硫酸によって触媒されてもよい縮合反応が実施される。この縮合反応は、David DavidsonおよびSidney A.Bernhardによる、J.Am.Chem.Soc.70(1948),第3426?3428頁、特に第3428頁左欄のメルドラム酸の調製と同様に実施することができる。縮合反応の平衡を移すために、必要に応じて、脱水剤、例えば、無水酢酸を利用することができる。
【0027】
5-フルオロ-2-メチル-2-トリフルオロメチル-1,3-ジオキサン-4,6-ジオンの製造:

5-フルオロ-2,2-ビストリフルオロメチル-1,3-ジオキサン-4,6-ジオンの製造:

2-メチル-2-トリフルオロメチル-1,3-ジオキサン-4,6-ジオンの製造:

2,2-ビストリフルオロメチル-1,3-ジオキサン-4,6-ジオンの製造:

【0028】
以下の反応式は、2,2,5-トリフルオロ-1,3-ジオキサン-4,6-ジオンを調製するための方法を示す。第1の工程は、加水分解によってそれぞれのジエステルからフルオロマロン酸を提供する。第2の工程において、5-フルオロ-1,3-ジオキサン-2,4,6-トリオンが、フルオロマロン酸とC(O)Cl_(2)との反応による中間体化合物として製造される。最後の工程は、中間体化合物をSF_(4)と反応させることによってケト基をCF_(2)基へと変換することによって、所望の化合物2,2,5-トリフルオロ-1,3-ジオキサン-4,6-ジオンを提供する。これは、米国特許第2,859,245号明細書に記載される通りに実施することができる。さらに、またはSF_(4)(気体)の代わりに、SF_(4)の誘導体、特にR_(2)NSF_(3)(式中、Rはアルキル基、特に1?3C原子である)を利用することができる。代表的な化合物は、ジエチルアミノ-SF_(3)(「DAST」)である。この種類の別のフッ素化剤は、Deoxo-Fluor(登録商標)であって、これは式(CH_(3)OCH_(2)CH_(2))_(2)NSF_(3)を有し、Aldrichから入手可能である。
【0029】
2,5-ジフルオロ-1,3-ジオキサン-2,4,6-トリオンを製造するための適切な方法:

【0030】
2,5-ジフルオロ-1,3-ジオキサン-2,4,6-トリオンを得るため、中間体5-フルオロ-1,3-ジオキサン-2,4,6-トリオンを水素と反応させて、5-ケト基を5-ヒドロキシル基へと還元させることができ、次いで、これをSF4と反応させて、それぞれのC5-モノフッ素化架橋基を形成することができる。
【0031】
化合物は、例えば、蒸留、クロマトグラフィー、抽出などによって、当該技術において既知の方法によって単離することができる。」

(d)「【0032】
本発明の別の態様は、式(I)

(式中、R1?R4は、独立して、水素、ハロゲン、または1個または複数個のハロゲン原子によって任意選択的に置換されている直鎖もしくは分枝鎖アルキル基を示すが、ただし、R1?R4の少なくとも1個は、フッ素またはフッ素化置換基である)の化合物の、再充電可能な電池、特に、導電性塩としてLi+イオンを含有する再充電可能な電池、特にLiイオン電池、Li空気電池およびLi硫黄電池のために有用な溶媒として、または好ましくは添加剤溶媒もしくは電解質組成物としての使用に関する。
【0033】
この使用のために、ハロゲンがフッ素である式(I)の化合物が好ましい。
【0034】
好ましくは、R1はフッ素である。
【0035】
好ましくは、R2は水素またはフッ素である。
【0036】
より好ましくは、R1はフッ素であり、かつR2は水素である。
【0037】
好ましくは、R3およびR4は、同一であるか、または異なって、独立して、フッ素、メチル、エチル、ならびに少なくとも1個のフッ素原子によって置換されているメチルおよびエチルからなる群から選択される。より好ましくは、R3およびR4は、独立して、フッ素、メチル、モノフルオロメチル、ジフルオロメチルおよびトリフルオロメチルからなる群から選択される。
【0038】
特に好ましくは、式(I-1)、(I-2)、(I-3)または(I-4)

の化合物が使用される。
【0039】
同様に、C-2炭素原子上でフッ素によって置換されていない式(I-2)?(I-4)の化合物に類似の化合物が利用される。
【0040】
しばしば、それらは添加剤として、他の溶媒、電解質塩および他の添加剤が存在する場合は他の添加剤を含む全電解質組成物と比較して、0重量%より多く、そして好ましくは15重量%以下である量で利用される。好ましくは、それらは、全電解質組成物と比較して、2重量%以上の量で存在する。好ましくは、それらは、全電解質組成物と比較して、10重量%以下の量で電解質組成物中に存在する。「全電解質組成物」という用語は、本発明の式(I)の少なくとも1種のメルドラム酸誘導体化合物、電解質塩、ならびに好ましくは少なくとも1種のさらなる溶媒および任意選択的にさらなる添加剤を含有する組成物を示す。」

(e)「【0041】
式(I)の化合物は、少なくとも1種の溶媒と共にしばしば利用される。Liイオン電池、Li空気電池およびLi硫黄電池のために適切な非プロトン溶媒は既知である。」

(f)「【0060】
本発明の別の態様は、リチウムイオン電池、リチウム空気電池またはリチウム硫黄電池のための少なくとも1種の溶媒を含有し、かつ式(I)

(式中、R1?R4は、独立して、水素、ハロゲン、または1個または複数個のハロゲン原子によって任意選択的に置換されている直鎖もしくは分枝鎖アルキル基を示すが、ただし、R1?R4の少なくとも1個は、フッ素またはフッ素化置換基である)を有するメルドラム酸の少なくとも1種のフッ素化誘導体;ならびにLiイオン電池、Li空気電池およびLi硫黄電池の溶媒として適切な少なくとも1種の溶媒;ならびに任意選択的に、少なくとも1種の溶媒添加剤をさらに含有する、リチウムイオン電池、リチウム空気電池またはリチウム硫黄電池のための溶媒組成物に関する。好ましい溶媒および溶媒添加剤は、上記で与えられる。溶媒組成物中、少なくとも1種の式(I)の化合物の量は、しばしば、6重量%以上であり、少なくとも1種の式(I)の化合物の量は、しばしば、12重量%以下である。添加剤の量は、存在する場合、好ましくは1重量%以上であり、かつ好ましくは12重量%以下である。100重量%までの残量は、少なくとも1種の溶媒である。
【0061】
本発明の別の態様は、少なくとも1種の式(I)

(式中、R1?R4は、独立して、水素、ハロゲン、または1個または複数個のハロゲン原子によって任意選択的に置換されている直鎖もしくは分枝鎖アルキル基を示すが、ただし、R1?R4の少なくとも1個は、フッ素またはフッ素化置換基である)の化合物;電解質塩、ならびに任意選択的に少なくとも1種のさらなる溶媒および任意選択的に少なくとも1種のさらなる添加剤を含んでなる電解質組成物である。好ましくは、電解質組成物は、少なくとも1種の式(I)の化合物、少なくとも1種の電解質塩、ならびに少なくとも1種の溶媒および少なくとも1種のさらなる添加剤を含んでなる。好ましい式(I)の化合物、好ましい電解質塩、好ましい溶媒および好ましい添加剤は、上記で与えられるものである。
【0062】
式(I)の化合物は、全組成物の0重量%より多く、好ましくは10重量%以下の量で組成物に含有される。電解質塩の量は、好ましくは1±0.1モルの範囲である。
【0063】
式(I)の化合物は、別々に、または他の化合物との混合物の形態で、例えば、電解質組成物に使用される溶媒との混合物として、または電解質塩もしくは他の添加剤と一緒に、電解質組成に導入可能である。
【0064】
本発明のさらに別の態様は、上記概説された溶媒組成物または上記概説された電解質組成物を含んでなるLiイオン電池、Li空気電池およびLi硫黄電池である。」

(g)「【実施例】
【0067】
実施例1:5-フルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-4,6-ジオンの調製

2-フルオロマロン酸ジエチルエステルは、米国特許第7,145,046号明細書の実施例2に記載の通り、80℃付近で、2-クロロマロン酸ジエチルエステルおよび1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデク-7-エン・1,37HFから製造する。未加工の生成物を、DE-Offenlegungsschrift 4120704の実施例1と同様に、水中NaOH(NaOHの濃度:30重量%)と接触させることによって加水分解する。得られるエタノールを蒸留によって除去し、そして得られる溶液を、H型(すなわち、酸性H^(+)を含んでなる)Lewatit S 100と接触させる。フルオロマロン酸の水溶液をトルエンと混合し、そして減圧(400mbar)下、水/トルエン混合物を除去する。
【0068】
得られるフルオロマロン酸を次いで、D.DavidsonおよびS.A.Bernhardによって、J.Chem.Soc.70(1948),第3428頁、 “Experimental”の章の第1段落に記載される通り、アセトンと反応させる。フルオロマロン酸を無水酢酸中に懸濁させ、そして濃硫酸を添加する。試薬および出発化合物の量は、Davidsonらによって記載されるものと一致する。
【0069】
アセトンを冷却下で添加する。2時間の後反応相の後、5-フルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-4,6-ジオンを単離することができる。
【0070】
実施例2:2,2,5-トリフルオロ-1,3-ジオキサン-4,6-ジオンの調製

第1の工程において、フルオロマロン酸(実施例1に記載される通りに得られてもよい)を、0℃まで冷却下、トリエチルアミンの存在下でC(O)Cl_(2)と反応させる。ジエチルエーテルを添加し、固体(ヒドロクロリド)を濾去し、低沸騰成分(主にジエチルエーテル)を蒸発させ、そして得られる2-フルオロ-1,3-ジオキサン-2,4,6-トリオンを、15時間、オートクレーブ中でSF4と接触させる。低沸騰内容物、例えば、SOF_(2)は、真空下でオートクレーブから除去され、そして2,2,5-トリフルオロ-1,3-ジオキサン-4,6-ジオンが単離され得る。
【0071】
実施例3:2,2,5-トリフルオロ-1,3-ジオキサン-4,6-ジオンの別の調製方法

第1の工程において、マロン酸を、0℃まで冷却下、トリエチルアミンの存在下でC(O)Cl_(2)と反応させる。ジエチルエーテルを添加し、固体(ヒドロクロリド)を濾去し、低沸騰成分(主にジエチルエーテル)を蒸発させ、そして得られる1,3-ジオキサン-2,4,6-トリオンを、ペルフルオロヘキサン中で懸濁させる。N_(2)中F_(2)の気体混合物(F_(2)対N_(2)の体積比1:4)を、約-20℃の温度で、F_(2):1,3-ジオキサン-2,4,6-トリオンのモル比が約3:1になるまで、懸濁液に通過させる。F_(2)/N_(2)気体の流れを停止し、そして低沸騰成分(特にHF)を除去するために真空を適用する。
【0072】
主に2,2,5-トリフルオロ-1,3-ジオキサン-4,6-ジオンおよび2,5,5-トリフルオロ-1,3-ジオキサン-4,6-ジオンを含有する混合物が得られ、これを例えば分取クロマトグラフィーによって精製および分離することができる。
【0073】
実施例4:5-フルオロ-2-トリフルオロメチル-2-メチル-1,3-ジオキサン-4,6-ジオンの製造

実施例1を繰り返すが、アセトンの代わりに1,1,1-トリフルオロアセトンを開始材料として利用する。
【0074】
実施例5:5-フルオロ-2,2-ビストリフルオロメチル-1,3-ジオキサン-4,6-ジオンの製造

実施例1を繰り返すが、アセトンの代わりにヘキサフルオロアセトンを開始材料として利用する。
【0075】
実施例6:2,2-ビストリフルオロメチル-1,3-ジオキサン-4,6-ジオンの製造
実施例5を繰り返すが、フルオロマロン酸の代わりにマロン酸を開始材料として利用する。
【0076】
実施例7:少なくとも1種の式(I)の化合物を含有する電解質組成物の製造
略語:
EC=エチレンカーボネート
DMC=ジメチルカーボネート
PC=プロピレンカーボネート
F1EC=フルオロエチレンカーボネート
LiPOF=LiPO_(2)F_(2)
【0077】

【0078】
予め乾燥させて、乾燥しており酸素を含まない雰囲気を防止するために乾燥N_(2)を通過させた容器中で、適切な量の式(I)の化合物、溶媒、電解質塩および利用する場合は添加剤を混合することによって、電解質組成物を調製する。」

(4)刊行物の記載
本願出願時の技術常識といえる刊行物1?3には、以下の事項が記載されている。
ア 刊行物1:芳尾真幸 他1名編、リチウムイオン二次電池-材料と応用-、日刊工業新聞社、1998年4月23日 初版第6刷発行、第75、77頁

刊行物1には、以下の事項が記載されている。
(1a)「第6章 有機電解液の溶液化学
6.1 はじめに
リチウム電池の多くには、有機電解液と呼ばれる液体が充填(原文の文字は、土偏に旁は眞である。以下同じ。)されている。」(第75頁第1?3行)

(1b)「6.2 有機電解液の要求性能とその材料
リチウム電池用の有機電解液は、有機溶媒に溶質としてリチウム塩が溶解したイオン伝導体である。有機溶媒およびリチウム塩の種類は無数にあるが、リチウム電池に使用できる材料は非常に限られており、実用的には以下の性能を満足するような電解液が使用されている。
○1(原文は○の中に数字が記載されている丸数字である。以下同じ。)電気伝導率が高い。
○2電極に対する化学的、電気化学的安定性が高い。
○3使用可能温度領域が広い。
○4安全性が高い。
○5価格が安い。」(第77頁第1?10行)

イ 刊行物2:竹原善一郎監修、高密度リチウム二次電池、株式会社テクノシステム、1998年3月14日 初版第1刷発行、第179頁

刊行物2には、以下の事項が記載されている。
(2a)「第1節 有機系電解液
1.有機系電解液に必要な基本特性
リチウム二次電池の正極と負極の間に存在する電解質は電極と共に重要な構成要素である。電解質はイオン導電性の材料である。ここではリチウム二次電池用の有機系電解液について述べる。
有機系電解液がそなえる必要のある性質としては
a)導電性が高いこと、特にリチウムイオン導電性が高いこと。
b)電極に対する電気化学的な安定性が高いこと。
c)安定な温度範囲が広く、化学的にも安定なこと。
d)安全性、無公害であること。
e)経済的に安価であること。
などが求められている。」(第179頁の見出し、左欄第1?13行)

ウ 刊行物3:電気化学会 電池技術委員会編、電池ハンドブック、株式会社オーム社、平成22年2月10日 第1版第1刷発行、第543頁

刊行物3には、以下の事項が記載されている。
(3a)「4.5 添加剤
リチウムイオン電池用有機電解液に使用される添加剤は、通常は有機電解液に溶解して使用され、電解液として本質的な性能であるリチウムイオン伝導性以外に、電池にとって有益な種々の機能を与えるものである。・・・添加剤は少量で電池性能を大幅に向上させることができるので、経済的かつ効果的な手法として、機能の異なった添加剤が複数併用されている。」(第543頁の見出し、左欄第1?11行)

(5)本願発明1?6の課題について
発明の詳細な説明の段落【0004】?【0006】、【0040】及び【0060】並びに明細書全体の記載からみて、本願発明1?3の課題は、式(I)(化学構造式の記載は省略する。以下も同様に省略する。)の化合物をリチウムイオン電池、リチウム空気電池およびリチウム硫黄電池(以下「リチウムイオン電池、リチウム空気電池およびリチウム硫黄電池」をまとめて「リチウムイオン電池等」という。)のための添加剤または電解質溶媒として使用する方法を提供すること、本願発明4の課題は、式(I)の化合物を含有するリチウムイオン電池等のための溶媒組成物を提供すること、本願発明5の課題は、式(I)の化合物を含有するリチウムイオン電池等のための電解質組成物を提供すること、本願発明6の課題は、式(I)の化合物を含有するリチウムイオン電池を提供することであると認められる。

(6)判断
ア 本願発明1について
本願発明1は、上記「第2」で示したとおり、式(I)で表される化合物(式(I)は省略する。)をリチウムイオン電池等のための添加剤として、または電解質溶媒として使用する方法の発明である。

ここで、上記(4)で示した、リチウムイオン電池という技術分野において本願出願時の技術常識が記載されているといえる刊行物1には、リチウム電池には有機電解液が充填されていることが記載されており(摘記(1a))、有機溶媒は無数にあるが、リチウム電池に使用できる有機溶媒は非常に限られており、電解液に求められる性質として、○1電気伝導率が高い、○2電極に対する化学的、電気化学的安定性が高い、○3使用可能温度領域が広い、○4安全性が高い、○5価格が安い、ことが具体的に記載されている(摘記(1b))。
また、刊行物2には、リチウムイオン電池の有機電解液に求められる性質として、a)リチウムイオン導電性が高いこと、b)電極に対する電気化学的な安定性が高いこと、c)安定な温度範囲が広く、化学的にも安定なこと、d)安全性、無公害であること、e)経済的に安価であることが具体的に記載されている(摘記(2a))。
さらに、刊行物3には、リチウムイオン電池の有機電解液に使用される添加剤は、電池にとって有益な種々の機能を与えるものであることが記載されている(摘記(3a))。
そして、本願の発明の詳細な説明の段落【0004】に記載されたように、リチウムイオン電池の電解質溶媒として使用するには、少なくとも溶媒は導電性塩を溶解する必要があり、非プロトン性有機溶媒でありさえすればどんな化合物でも使用することができるわけでないということができる。
これら刊行物1?3の記載や本願の発明の詳細な説明の記載をみると、リチウムイオン電池等の技術分野においては、有機電解液に求められる性質が知られており、有機電解液に配合される添加剤は、当然、有機電解液に求められる性質に何らかの貢献をする化合物である必要があるというべきであり、どのような化合物であっても電解質溶媒や有機電解液に配合される添加剤として使用できるものではないということができる。

そうすると、発明の詳細な説明の一般記載として、有機化合物をリチウムイオン電池等のための電解質溶媒や有機電解液に配合される添加剤に使用できるという可能性が示唆される程度の記載では不十分であり、少なくとも、リチウムイオン電池等の技術分野において、電解質溶媒や有機電解液に配合された添加剤がリチウムイオン電池等に用いられる電解質溶媒や有機電解液の求められる性質にどのような貢献をするのかということを示す必要があるといえる。
実際に有機化合物を電解質溶媒や有機電解液に配合される添加剤に使用した実施例が記載され、上記刊行物1?3に記載されるような何らかの有機電解液に求められる性質や添加剤としての機能について、具体的なデータを示すことによって、当業者は当該電解質溶媒や添加剤がリチウムイオン電池等に用いられる電解質溶媒や有機電解液に求められる性質にどのような貢献をするのか理解できるといえるのであり、これにより、式(I)の化合物をリチウムイオン電池等のための添加剤または電解質溶媒として使用する方法を提供できるという本願発明1?3の課題を解決できると当業者が認識できるということができる。

こういった点を勘案して本願の発明の詳細な説明をみてみると、段落【0032】?【0040】には、本願発明1のうち、式(I)で表される化合物をリチウムイオン電池等のための添加剤として、または電解質溶媒として使用する方法に関する記載がある(摘記(d))ものの、この記載は、あくまで一般的な記載にとどまるものである。そして、段落【0067】以降には、実施例として(I)で表される化合物の具体的な製造方法が記載され、製造された式(I)で表される化合物を溶媒に添加した電解質組成物の具体例が記載されている(摘記(g))。

しかしながら、この実施例は、電解質組成物の調製例が記載されているだけであり、加えて、電解質塩も具体的に特定されておらず、単に1モル/lと量が示されているにとどまり、当該電解質組成物が、リチウムイオン電池等に用いられる電解質溶媒や有機電解液の求められる性質にどのような貢献をするのかを示す具体的なデータは何も示されておらず、ましてや、当該電解質組成物をリチウムイオン電池等に適用したことも記載されていない。

そうすると、本願の発明の詳細な説明には、式(I)で表される化合物を電解質溶媒またはリチウムイオン電池等のための添加剤として使用した場合に何らかの性質について、具体的なデータと共に記載されておらず、リチウムイオン電池等という技術分野において使用することができることを理解できるということはいえないから、当業者であったとしても、発明の課題を解決できると認識できるということはできない。
また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる本願出願時の技術常識もない。

よって、本願特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

イ 本願発明2及び3について
本願発明2及び3は上記「第2」示したとおり、本願発明1を引用した上で、式(I)で表される化合物をさらに限定した発明である。

一方、発明の詳細な説明には、上記アで述べたとおりであり、本願発明2及び3で限定された式(I)で表される化合物であっても、リチウムイオン電池等のための添加剤として、または電解質溶媒として使用できることについて、具体的なデータと共に記載されておらず、リチウムイオン電池等という技術分野において使用することができることを理解できるということはいえないから、上記アで述べた理由と同じ理由により、本願特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

ウ 本願発明4について
本願発明4は、上記「第2」で示したとおり、Liイオン電池のための少なくとも1種の溶媒と、式(I)で表される化合物(式(I)は省略する。)とを含有するリチウムイオン電池等のための溶媒組成物の発明である。

上記アで述べたように、刊行物1?3の記載や本願の発明の詳細な説明の記載をみると、リチウムイオン電池等の技術分野においては、有機電解液に求められる性質が知られており、どんな有機化合物であっても、溶媒に配合してリチウムイオン電池等の溶媒組成物として使用することができるものではないということができる。
そうすると、発明の詳細な説明の一般記載として、有機化合物を配合した溶媒組成物がリチウムイオン電池等に使用できるという可能性が示唆される程度の記載では不十分であり、少なくとも、リチウムイオン電池等の技術分野において、当該溶媒組成物がリチウムイオン電池等に用いられる溶媒組成物に求められる性質にどのように貢献するのかということを示す必要があるといえる。
実際に溶媒に有機化合物を配合した具体的な溶媒組成物の実施例が記載され、上記刊行物1?3に記載されるような何らかの有機電解液に求められる性質について、具体的なデータを示すことによって、当業者は当該溶媒組成物がリチウムイオン電池等に用いられる溶媒組成物に求められる性質にどのような貢献をするのか理解できるといえるのであり、これにより、式(I)の化合物を含有するリチウムイオン電池等のための溶媒組成物を提供できるという本願発明4の課題を解決できると認識できるということができる。

こういった点を勘案して本願の発明の詳細な説明をみてみると、段落【0060】には、本願発明4のうち、式(I)で表される化合物を含有する溶媒組成物に関する記載がある(摘記(f))ものの、この記載は、あくまで一般的な記載にとどまるものである。そして、段落【0067】以降の実施例において、リチウムイオン電池等の有機電解液に求められる性質に関し具体的なデータは何も示されておらず、また、リチウムイオン電池等に適用したことも記載されていないことは、上記アで述べたとおりである。

そうすると、本願の発明の詳細な説明には、式(I)で表される化合物を含有するリチウムイオン電池等のための溶媒組成物の何らかの性質について、具体的なデータと共に記載されておらず、リチウムイオン電池等という技術分野において使用することができることを理解できるということはいえないから、当業者であったとしても、発明の課題を解決できると認識できるということはできない。
また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる本願出願時の技術常識もない。

よって、本願特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

エ 本願発明5について
本願発明5は、上記「第2」で示したとおり、式(I)で表される化合物(式(I)は省略する。)と、少なくとも1種の溶媒と、少なくとも1種の電解質塩を含有するリチウムイオン電池等のための電解質組成物の発明である。

上記アで述べたように、刊行物1?3の記載や本願の発明の詳細な説明の記載をみると、リチウムイオン電池等の技術分野においては、有機電解液に求められる性質が知られており、どんな有機化合物であっても、溶媒と電解質塩に配合してリチウムイオン電池等の電解質組成物として使用することができるものではないということができる。
そうすると、発明の詳細な説明の一般記載として、有機化合物を含む電解質組成物がリチウムイオン電池等に使用できるという可能性が示唆される程度の記載では不十分であり、少なくとも、リチウムイオン電池等の技術分野において、当該電解質組成物がリチウムイオン電池等に用いられる電解質組成物に求められる性質にどのように貢献するのかということを示す必要があるといえる。
実際に有機化合物を電解質組成物に使用した具体的な実施例が記載され、上記刊行物1?3に記載されるような何らかの有機電解液に求められる性質について、具体的なデータを示すことによって、当業者は当該電解質組成物がリチウムイオン電池等に用いられる電解質組成物に求められる性質にどのような貢献をするのか理解できるといえるのであり、これにより、式(I)の化合物を含有するリチウムイオン電池等のための電解質組成物を提供できるという本願発明5の課題を解決できると認識できるということができる。

こういった点を勘案して本願の発明の詳細な説明をみてみると、段落【0032】?【0040】、【0061】には、本願発明5のうち、式(I)で表される化合物を含有する溶媒組成物に関する記載がある(摘記(d)(f))ものの、この記載は、あくまで一般的な記載にとどまるものである。そして、段落【0067】以降の実施例において、リチウムイオン電池等の有機電解液に求められる性質に関し具体的なデータは何も示されておらず、また、リチウムイオン電池等に適用したことも記載されていないことは、上記アで述べたとおりである。

そうすると、本願の発明の詳細な説明には、式(I)で表される化合物を含有するリチウムイオン電池等のための電解質組成物の何らかの性質について、具体的なデータと共に記載されておらず、リチウムイオン電池等という技術分野において使用することができることを理解できるということはいえないから、当業者であったとしても、発明の課題を解決できると認識できるということはできない。
また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる本願出願時の技術常識もない。

よって、本願特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

オ 本願発明6について
本願発明6は、上記「第2」で示したとおり、式(I)で表される化合物(式(I)は省略する。)を含有するリチウムイオン電池の発明である。

上記アで述べたように、刊行物1?3の記載や本願の発明の詳細な説明の記載をみると、リチウムイオン電池等の技術分野においては、有機電解液に求められる性質が知られており、どんな有機化合物であっても、リチウムイオン電池として使用することができるものではないということができる。
そうすると、発明の詳細な説明の一般記載として、有機化合物を含有するリチウムイオン電池等がリチウムイオン電池等に使用できるという可能性が示唆される程度の記載では不十分であり、少なくとも、リチウムイオン電池等の技術分野において、当該リチウムイオン電池が、リチウムイオン電池に求められる性質にどのように貢献するかということを示す必要があるといえる。
実際に有機化合物をリチウムイオン電池に使用した具体的な実施例が記載され、上記刊行物1?3に記載されるような何らかの有機電解液に求められる性質について、具体的なデータを示すことによって、当業者は当該化合物がリチウムイオン電池に求められる性質にどのような貢献をするのか理解できるといえるのであり、これにより、式(I)の化合物を含有するリチウムイオン電池を提供できるという本願発明6の課題を解決できると認識できるということができる。

こういった点を勘案して本願の発明の詳細な説明をみてみると、段落【0064】には、本願発明6のうち、式(I)で表される化合物を含有するリチウムイオン電池に関する記載がある(摘記(f))ものの、この記載は、あくまで一般的な記載にとどまるものである。そして、段落【0067】以降の実施例において、リチウムイオン電池等の有機電解液に求められる性質に関し具体的なデータは何も示されておらず、また、リチウムイオン電池等に適用したことも記載されていないことは、上記アで述べたとおりである。

そうすると、本願の発明の詳細な説明には、式(I)で表される化合物を含有するリチウムイオン電池の何らかの性質について、具体的なデータと共に記載されておらず、リチウムイオン電池等という技術分野において使用することができることを理解できるということはいえないから、当業者であったとしても、発明の課題を解決できると認識できるということはできない。
また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる本願出願時の技術常識もない。

よって、本願特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

(7)審判請求人の主張
審判請求人は、平成31年3月8日に提出した意見書において、審査基準の記載や判決例を挙げた上で、「本願明細書の記載から、本願発明が特許法第36条第6項第1号の要求を満たしていることは明らかです。従いまして理由2は解消するものと思料致します。」と主張する。

そこで、この主張について検討するが、審判請求人の上記主張は、本願発明が特許法第36条第6項第1号に適合するという具体的な根拠及び理由は何も述べておらず、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないことは、上記(6)ア?オのとおりであるから、このような審判請求人の主張はそもそも採用することはできない。

(8)小括
以上のとおりであるから、本願特許請求の範囲に記載された本願発明1?6は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

2 特許法第36条第4項第1号について
(1)特許法第36条第4項第1号の考え方について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。

特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
また、方法の発明では、その方法を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載がない場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その方法を使用することができる程度にその発明が記載されてなければならないと解される。
よって、この観点に立って、本願の実施可能要件の判断をする。

(2)特許請求の範囲の記載について
上記「第2」に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載について
本願の発明の詳細な説明には、上記1(3)で示した事項が記載されている。

(4)刊行物の記載
本願出願時の技術常識といえる刊行物1?3には、上記1(4)で示した事項が記載されている。

(5)判断
ア 本願発明1?3について
本願発明1?3は、概略、式(I)の化合物をリチウムイオン電池等のための添加剤または電解質溶媒として使用する方法の発明である。

ここで、上記(4)で示した、リチウムイオン電池という技術分野において本願出願時の技術常識が記載されているといえる刊行物1?3や本願の発明の詳細な説明の記載をみると、上記1(6)アで述べたように、リチウムイオン電池等の技術分野においては、有機電解液に求められる性質が知られており、有機電解液に配合される添加剤は、当然、有機電解液に求められる性質に何らかの貢献をする化合物である必要があるというべきであり、どのような化合物であっても電解質溶媒や有機電解液に配合される添加剤として使用できるものではないということができる。

そうすると、発明の詳細な説明の一般記載として、有機化合物をリチウムイオン電池等のための有機溶媒や有機電解液に配合される添加剤に使用できるという可能性が示唆される程度の記載では不十分であり、少なくとも、リチウムイオン電池等の技術分野において、電解質溶媒や有機電解液に配合された添加剤がリチウムイオン電池等に用いられる電解質溶媒や有機電解液の求められる性質にどのような貢献をするのかということを示す必要があるといえる。
実際に有機化合物を有機溶媒や有機電解液に配合される添加剤に使用した実施例が記載され、上記刊行物1?3に記載されるような何らかの有機電解質に求められる性質や添加剤としての機能について、具体的なデータを示すことによって、当業者は当該電解質溶媒や添加剤がリチウムイオン電池等に用いられる有機電解液に求められる性質にどのような貢献をするのか理解できるといえる。

こういった点を勘案して本願発明1?3のうち、その方法を使用することができることに関して本願発明の詳細な説明をみてみると、その段落【0032】?【0040】には、本願発明1のうち、式(I)で表される化合物をリチウムイオン電池等のための添加剤として、または電解質溶媒として使用する方法に関する記載がある(摘記(d))ものの、この記載は、あくまで一般的な記載にとどまるものである。そして、段落【0067】以降には、実施例として(I)で表される化合物の具体的な製造方法が記載され、製造された式(I)で表される化合物を溶媒に添加した電解質組成物の具体例が記載されている(摘記(g))。

しかしながら、この実施例は、電解質組成物の調製例が記載されているだけであり、加えて、電解質塩も具体的に特定されておらず、単に1モル/lと量が示されているにとどまり、当該電解質組成物が、リチウムイオン電池等に用いられる電解質溶媒や有機電解液の求められる性質にどのような貢献をするのかを示す具体的なデータは何も示されておらず、ましてや、当該電解質組成物をリチウムイオン電池等に適用したことも記載されていない。

そうすると、本願の発明の詳細な説明には、式(I)で表される化合物を含有するリチウムイオン電池の何らかの性質について、具体的なデータと共に記載されておらず、リチウムイオン電池等という技術分野において使用することができることを理解できるということはいえないから、当業者であったとしても、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その方法を使用することができる程度にその発明が記載されているということはできない。

イ 本願発明4?6について
上記「第2」で示したとおり、本願発明4は、Liイオン電池のための少なくとも1種の溶媒と、式(I)で表される化合物(式(I)は省略する。)とを含有するリチウムイオン電池等のための溶媒組成物の発明であり、本願発明5は、式(I)で表される化合物(式(I)は省略する。)と、少なくとも1種の溶媒と、少なくとも1種の電解質塩を含有するリチウムイオン電池等のための電解質組成物の発明であり、また、本願発明6は、式(I)で表される化合物(式(I)は省略する。)を含有するリチウムイオン電池の発明である。

ここで、上記アで述べたように、リチウムイオン電池等の有機電解液という技術分野においては、有機電解液に求められる性質が知られており、どんな有機化合物であっても、溶媒組成物、電解質組成物又はリチウムイオン電池に使用することができるものではないということができる。

そうすると、発明の詳細な説明の一般記載として、有機化合物がリチウムイオン電池等のための溶媒組成物、電解質組成物又はリチウムイオン電池に使用できるという可能性が示唆される程度の記載では不十分であり、少なくとも、リチウムイオン電池等の技術分野において、当該溶媒組成物、電解質組成物又はリチウムイオン電池が、リチウムイオン電池等の技術分野において、溶媒組成物、電解質組成物又はリチウムイオン電池が求められる性質にどのように貢献するのかということを示す必要があるといえる。
実際に有機化合物をリチウムイオン電池等のための溶媒組成物、電解質組成物又はリチウムイオン電池に使用した実施例が記載され、上記刊行物1?3に記載されるような何らかの有機電解液に求められる性質について、具体的なデータを示すことによって、当業者は当該溶媒組成物、電解質組成物又はリチウムイオン電池がリチウムイオン電池等に用いられる溶媒組成物、電解質組成物又はリチウムイオン電池に求められる性質にどのような貢献をするのか理解できるといえるのである。

こういった点を勘案して本願発明4?6の溶媒組成物、電解質組成物又はリチウムイオン電池という物の発明のうち、それらの物を使用することができることに関して本願発明の詳細な説明をみてみると、段落【0060】には、本願発明4のうち、式(I)で表される化合物を含有する溶媒組成物に関する記載があり(摘記(f))、段落【0032】?【0040】、【0061】には、本願発明5のうち、式(I)で表される化合物を含有する溶媒組成物に関する記載があり(摘記(d)(f))、段落【0064】には、本願発明6のうち、式(I)で表される化合物を含有するリチウムイオン電池に関する記載がある(摘記(f))ものの、これらの記載は、あくまで一般的な記載にとどまるものである。そして、段落【0067】以降の実施例において、リチウムイオン電池等の有機電解液に求められる性質に関し具体的なデータは何も示されておらず、また、リチウムイオン電池等に適用したことも記載されていないことは、上記アで述べたとおりである。

そうすると、本願の発明の詳細な説明には、式(I)で表される化合物を含有するリチウムイオン電池の何らかの性質について、具体的なデータと共に記載されておらず、リチウムイオン電池等という技術分野において使用することができることを理解できるということはいえないから、当業者であったとしても、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を使用することができる程度にその発明が記載されているということはできない。

(6)審判請求人の主張
審判請求人は、平成31年3月8日に提出した意見書において、審査基準の記載や判決例を挙げた上で、「本願明細書の記載から、本願発明が特許法第36条第4項第1号の要求を満たしていることは明らかです。従いまして理由3は解消するものと思料致します。」と主張する。

そこで、この主張について検討するが、審判請求人の上記主張は、本願発明が特許法第36条第4項第1号の規定を満たすという具体的な根拠及び理由は何も述べておらず、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないことは、上記(5)ア?イのとおりであるから、このような審判請求人の主張はそもそも採用することはできない。

(7)小括
以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1?6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載しているものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
以上のとおり、この特許出願が、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないものであり、また、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-07-05 
結審通知日 2019-07-09 
審決日 2019-07-22 
出願番号 特願2014-543844(P2014-543844)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C07D)
P 1 8・ 537- WZ (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早乙女 智美  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 齊藤 真由美
佐藤 健史
発明の名称 メルドラム酸のフッ素化誘導体、その調製方法、および溶媒添加剤としてのそれらの使用  
代理人 園田・小林特許業務法人  
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