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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47L
管理番号 1357569
審判番号 不服2018-11006  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-10 
確定日 2019-12-04 
事件の表示 特願2015-533436「空気排出装置を有するガラス拭きロボット」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月 3日国際公開、WO2014/048347、平成27年12月17日国内公表、特表2015-535707〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)9月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年9月26日、中国)を国際出願日とする特許出願であって、平成29年8月22日付けの拒絶理由の通知に対し、同年11月28日に意見書が提出されたが、平成30年3月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年8月10日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 平成30年8月10日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年8月10日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
1-1 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
空気排出装置を有するガラス拭きロボットであって、
吸着カップ装置(2)が設けられた機械本体(1)と、歩行機構と、を備え、
前記吸着カップ装置(2)は通気パイプ(3)を介して真空空気ポンプ(4)に接続され、前記機械本体(1)は、前記歩行機構によりガラス面を移動する間、前記吸着カップ装置(2)を介してガラス面に吸着され、
前記吸着カップ装置(2)は、開放位置及び閉鎖位置を有する空気排出装置(5)にも接続され、前記空気排出装置(5)が前記開放位置にあるとき、前記吸着カップ装置(2)は、前記空気排出装置(5)を介して大気に連通すること、
を特徴とする空気排出装置を有するガラス拭きロボット。
【請求項2】
前記空気排出装置(5)は前記真空空気ポンプ(4)と前記吸着カップ装置(2)とを接続する前記通気パイプ(3)に配置されること、
を特徴とする、請求項1に記載の空気排出装置を有するガラス拭きロボット。
【請求項3】
前記吸着カップ装置(2)と、前記真空空気ポンプ(4)と、前記空気排出装置(5)とが、T字型接合部(6)を介して接続されること、
を特徴とする、請求項2に記載の空気排出装置を有するガラス拭きロボット。
【請求項4】
前記通気パイプ(3)はフレキシブルパイプであること、
を特徴とする、請求項2に記載の空気排出装置を有するガラス拭きロボット。
【請求項5】
前記空気排出装置(5)は、互いに接続されたハンドル(51)と空気排出バルブ(52)とを有し、前記ハンドル(51)は位置決め回転軸(53)を介して前記空気排出バルブ(52)に接続され、前記位置決め回転軸(53)の一端は前記ハンドル(51)の底部に固定され、他端は空気排出ボタン(521)の最上部に固定されていること、
を特徴とする、請求項1に記載の空気排出装置を有するガラス拭きロボット。
【請求項6】
前記空気排出バルブ(52)は、前記空気排出ボタン(521)と、取り付けポール(522)と、バルブコア(523)とを有し、
通気口(524)が前記空気排出ボタン(521)の最上部に設けられ、
復帰バネ(525)が前記空気排出ボタン(521)の内部に設けられて前記バルブコア(523)の周りに配置され、
前記バルブコア(523)は、前記取り付けポール(522)の中央を通って、前記バルブコア(523)の周囲に嵌るボス(527)を介して前記取り付けポール(522)の下方に配置されるように設けられ、
前記バルブコア(523)は中心にコアホール(526)を有する円筒形状を有し、
前記復帰バネ(525)が圧縮状態にあるとき、前記空気排出ボタン(521)の最上部の前記通気口(524)は前記バルブコアの前記コアホール(526)と連通していること、
を特徴とする、請求項5に記載の空気排出装置を有するガラス拭きロボット。」

1-2 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、願書に添付して提出した特許請求の範囲とみなされた国際出願日における請求の範囲の翻訳文の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
空気排出装置を有するガラス拭きロボットであって、
吸着カップ装置(2)が設けられた機械本体(1)を備え、前記吸着カップ装置(2)は通気パイプ(3)を介して真空空気ポンプ(4)に接続され、当該ガラス拭きロボットは、前記吸着カップ装置(2)を介してガラス面に吸着され、
前記吸着カップ装置(2)は開放位置及び閉鎖位置を有する空気排出装置(5)にも接続され、前記空気排出装置(5)が前記開放位置にあるとき、前記吸着カップ装置(2)は前記空気排出装置(5)を介して大気に連通すること、
を特徴とする空気排出装置を有するガラス拭きロボット。
【請求項2】
前記空気排出装置(5)は前記真空空気ポンプ(4)と前記吸着カップ装置(2)とを接続する前記通気パイプ(3)に配置されること、
を特徴とする、請求項1に記載の空気排出装置を有するガラス拭きロボット。
【請求項3】
前記吸着カップ装置(2)と、前記真空空気ポンプ(4)と、前記空気排出装置(5)とが、T字型接合部(6)を介して接続されること、
を特徴とする、請求項2に記載の空気排出装置を有するガラス拭きロボット。
【請求項4】
前記通気パイプ(3)はフレキシブルパイプであること、
を特徴とする、請求項2に記載の空気排出装置を有するガラス拭きロボット。
【請求項5】
前記空気排出装置(5)は、互いに接続されたハンドル(51)と空気排出バルブ(52)とを有し、前記ハンドル(51)は位置決め回転軸(53)を介して前記空気排出バルブ(52)に接続され、前記位置決め回転軸(53)の一端は前記ハンドル(51)の底部に固定され、他端は空気排出ボタン(521)の最上部に固定されていること、
を特徴とする、請求項1に記載の空気排出装置を有するガラス拭きロボット。
【請求項6】
前記空気排出バルブ(52)は、前記空気排出ボタン(521)と、取り付けポール(522)と、バルブコア(523)とを有し、
通気口(524)が前記空気排出ボタン(521)の最上部に設けられ、
復帰バネ(525)が前記空気排出ボタン(521)の内部に設けられて前記バルブコア(523)の周りに配置され、
前記バルブコア(523)は、前記取り付けポール(522)の中央を通って、前記バルブコア(523)の周囲に嵌るボス(527)を介して前記取り付けポール(522)の下方に配置されるように設けられ、
前記バルブコア(523)は中心にコアホール(526)を有する円筒形状を有し、
前記復帰バネ(525)が圧縮状態にあるとき、前記空気排出ボタン(521)の最上部の前記通気口(524)は前記バルブコアの前記コアホール(526)と連通していること、
を特徴とする、請求項5に記載の空気排出装置を有するガラス拭きロボット。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ガラス拭きロボット」について、「歩行機構」を備えると限定するとともに、ガラス拭きロボットがガラス面に吸着される態様について、本件補正前の「ガラス拭きロボットは、前記吸着カップ装置(2)を介してガラス面に吸着され」るという事項を、「機械本体(1)は、前記歩行機構によりガラス面を移動する間、前記吸着カップ装置(2)を介してガラス面に吸着され」るという事項に補正し、吸着される部位及び吸着される期間を限定する補正を含むものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、この補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

2-1 本件補正発明
本件補正発明は、前記「1-1」の請求項1に記載したとおりのものである。

2-2 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
原査定(平成30年3月29日付け拒絶査定)の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、国際公開第2004/028324号(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付与した。以下、同様。)。

ア 「図1は本実施形態の窓拭き装置1による窓ガラスWの清掃状況を示す説明図である。同図に示すように、本実施形態の窓拭き装置1は、窓ガラスWに吸着しながら、そのガラス面に沿って移動し、窓ガラスWを清掃する装置である。」(第4ページ第3行?第5行)

イ 「図2?図3に示すように、本実施形態の窓拭き装置1は、吸着部10、清掃ユニット20、走行部30、検出部40および制御部50から構成されたものである。
まず、吸着部10を説明する。
図4は、本実施形態の窓拭き装置1の底面図である。同図に示すように、吸着部10は、吸引力によって窓ガラスWに吸着するものであり、吸引ノズル11、吸盤12および負圧発生器13から構成されたものである。
吸引ノズル11は、ノズル本体の中空部分に吸引孔が形成されたものである。
前記吸引ノズル11の先端部には、吸盤12が取り付けられている。この吸盤12は、摩擦抵抗が小さい素材、例えば四フッ化エチレンの重合体やポリアセタール、アセタール樹脂等を、吸盤状に形成したものである。
前記吸引ノズル11の基端部には、連結チューブ14の一端が取り付けられている。 連結チューブ14の他端は、真空ポンプやブロア等の負圧発生器13が取り付けられている。この負圧発生器13は、後述する内側フレーム31に取り付けられており、後述する電源28より電力が供給されるようになっている。
吸着部10によれば、負庄発生器13で吸引することにより、吸盤12を窓ガラスWに吸着させることができる。しかも、負圧発生器13は吸着部10の内部に取り付けられているので、外部の真空ポンプが必要なく、窓拭き装置1を自走式にすることができ、走行の制限を排除することができる。」(第4ページ第8行?第26行)

ウ 「前記吸着部10の吸引ノズル11には、外枠フレーム21の上面中央部が旋回自在に取り付けられている。この外枠フレーム21は、上面部および四側面部からなり、四隅を有する形状のフレームである。フレーム21の下端縁部には、拭取り部22が取り付けられている。」(第5ページ第6行?第9行)

エ 「つぎに、走行部30を説明する。
前記吸引ノズル11には、走行部30が旋回自在に取り付けられている。この走行部30は、内側フレーム31、走行用モータ32および車輪33から構成されたものである。
内側フレーム31は、上面および四側面を備えたフレームである。前記吸着部10の吸引ノズル11には、内側フレーム31の上面中央部が旋回自在に取り付けられている。」(第6ページ第6行?第12行)

オ 「前記車輪33は、ゴム製であり、その摩擦抵抗は高い。前記吸着部10における吸盤12は、その摩擦抵抗は低い。
走行部30における車輪33の摩擦抵抗に比べて、吸着部10における吸盤12の摩擦抵抗を小さくしているので、窓ガラスWに吸着した状態で、そのガラス面に沿ってスムーズに走行させることができる。」(第7ページ第3行?第7行)

カ 「窓拭き装置1が窓ガラスWの側端に到達すると、自動的に停止し、音や表示により窓拭き完了が知らされる。そこで、窓拭き装置1の電源スイッチを切ってから真空ポンプを停止し、窓ガラスWから窓拭き装置1を取り外せばよい。」(第8ページ第27行?第29行)

記載事項イ及びカによると、負圧発生器13として、真空ポンプを用いることが記載されているから、以下の事項が理解できる。
キ 吸着部10が、吸引ノズル11、吸盤12および真空ポンプから構成されること。

記載事項イよると、以下の事項が理解できる。
ク 吸盤12は、吸引ノズル11の先端部に取り付けられ、吸引ノズル11の基端部には連結チューブ14の一端が取り付けられ、連結チューブ14の他端は、真空ポンプが取り付けられること。

記載事項ウによると、以下の事項が理解できる。
ケ 外枠フレーム21は、吸引ノズル11に上面中央部が旋回自在に取り付けられていること。

記載事項エによると、以下の事項が理解できる。
コ 走行部30は、吸引ノズル11に旋回自在に取り付けられ、内側フレーム31、走行用モータ32および車輪33から構成されること。

(2)引用発明
前記引用文献1の記載事項ア?コ及び図面の図示内容を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「窓拭き装置1であって、
吸引ノズル11、吸盤12および真空ポンプから構成される吸着部10の前記吸引ノズル11に上面中央部が旋回自在に取り付けられている外枠フレーム21と、前記吸引ノズル11に旋回自在に取り付けられ、内側フレーム31、走行用モータ32および車輪33から構成される走行部30と、を備え、
前記吸盤12は、前記吸引ノズル11の先端部に取り付けられ、前記吸引ノズル11の基端部には連結チューブ14の一端が取り付けられ、前記連結チューブ14の他端は、前記真空ポンプが取り付けられ、前記走行部30における前記車輪33の摩擦抵抗に比べて、前記吸着部10における前記吸盤12の摩擦抵抗を小さくしているので、窓ガラスWに密着した状態で、そのガラス面に沿ってスムーズに走行させることができ、
電源スイッチを切ってから前記真空ポンプを停止し、窓ガラスWから取り外す、
窓拭き装置1。」

(3)引用文献2の記載
原査定(平成30年3月29日付け拒絶査定)の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平1-240800号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

サ 「(産業上の利用分野)
本発明は、圧力調整弁を介して導かれる圧縮空気を噴出ノズルから噴出させ、当該噴出空気流の吸引力によって真空を発生させ、その真空を保持する真空保持装置に係り、特に真空圧力を受ける受圧体の真空圧力に対応して噴出ノズルへの空気の供給を制御し、無駄な空気の消費を制限するようにした真空保持装置に関するものである。」(第1ページ右欄第2行?第9行)

シ 「吸着パッドFの真空を解除するには、真空破壊弁40のハンドルを押圧すれば、弁板44は開弁し、大気圧導入孔46から大気が流入して吸着パッドFに供給され、真空が破壊される。」(第4ページ右下欄第10行?第13行)

(4)引用文献3の記載
原査定(平成30年3月29日付け拒絶査定)の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、実願平4-41273号(実開平6-3586号)のCD-ROM(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

ス 「【0001】
【産業上の利用分野】
この考案は、合紙等の板状体を吸着する吸着装置に関するものである。」

セ 「【0005】
【考案が解決しようとする課題】
ところで、上記吸着装置においては、通気孔を開放する吸着解除状態において、サクション筒内には常に真空ポンプの吸引力が付与されているため、サクション筒内が常圧に戻るまでに時間を要し、合紙を直ちに吸着解除することができない問題がある。」

ソ 「【0017】
板状体Aの排出に際しては、シリンダ15の作動によって板状体Aを所定の高さまで下降させたのち、シャッタ20の移動により、通気孔19を開放する。
【0018】
上記通気孔19の開放によってサクション筒11内に外部エアが侵入し、また真空ポンプ12から排出される排気が排気導入管23からサクション筒11内に送り込まれるため、サクション筒11内の圧力は直ちに上昇し、板状体Aは直ちに吸着解除されて落下する。
【0019】
【考案の効果】
以上のように、この考案に係る吸着装置においては、通気孔を開放する吸着解除時に真空ポンプから排出される排気を上記通気孔からサクション筒内に送り込むようにしたので、吸着盤によって吸着された板状体を直ちに吸着解除することができる。」

(5)引用文献4の記載
原査定(平成30年3月29日付け拒絶査定)の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、登録実用新案第3143091号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

タ 「【技術分野】
【0001】
本考案は、ビルの壁面などに吸着可能であって、持ち運びが可能な吸着装置に関する。」

チ 「【0018】
例えば、ビルの窓ガラス清掃作業時にこの実施形態の吸着装置を利用する場合には、屋上からロープでぶら下がっている状態で、片手に持った吸着装置のパッド2を壁面に押し付けながらスイッチ9をオンすれば、真空ポンプ6が駆動されて、吸着エリアE内のエアが排出される。吸着エリアE内のエアが排出されて真空度が上がるに従って、パッド2の先端2aが外側に向かってスカート状に広がり、壁面に密着する。これによって、吸着装置が壁面に固定される。そして、通常、吸着中は上記スイッチ9をオン状態にしておく。
吸着装置が固定されたら、ロープでぶら下がっている作業者は、上記取っ手17を片手で掴むことによって自身の体勢を安定させることができ、その安定した体勢で、他方の手によって用具を用いた清掃作業を行なうことができる。
【0019】
一方、場所を移動する際には、スイッチ9をオフにするとともに、やはり片手で真空破壊弁14を開弁させて吸着エリアE内の真空を破壊することができる。吸着エリアEが真空破壊されれば、パッド2を壁面から簡単に離すことができ、速やかに移動できる。
つまり、この実施形態の吸着装置を用いれば、装置の着脱操作が片手で簡単にでき、清掃作業など、本来の目的とする作業の妨げになることがないことはもちろん、吸着時には作業者の体勢を安定させて、作業効率をより高めることができる。」

(6)引用文献5の記載
本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平5-84159号公報(以下、「引用文献5」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

ツ 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は主として垂直な窓ガラス等の極めて平滑な面を清掃する清掃装置に係り、そのガラス面等に吸着する真空吸盤の駆動装置に関する。」

テ 「【0010】即ち、この実施例では4個のエゼクタ31が設けられている(図13においては二つのみ図示する。なお、一つのエゼクタを複数の吸盤に利用してもよい。)そして、夫々のエゼクタ31のディフューザ21は図14の如く一例として内部に絞り部を有する筒状に形成され、絞り部に近接し、空気ノズル20先端が配置される。そして、空気ノズル20の外周に対向し、吸引管25の端部がディフューザ21に連通する。この吸引管25の他端は逆止弁18を介し真空吸盤2,3,補助吸盤14の内部に連通する。この逆止弁18は圧縮空気源22が一時的に停止しても真空吸盤内部を真空に保持し、清掃装置が落下するのを防止するものである。次に、これらの真空吸盤には図13の如く真空破壊弁19が設けられている。この真空破壊弁19は装置に取付けられた4つの真空吸盤の内2つの真空吸盤の内部を大気圧にすることにより、その吸盤のみをガラス面から容易に剥離させ、装置全体を容易に移動できるようにするためのものである。」

2-3 対比
以下、本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「窓拭き装置1」及び「吸盤12」は、それぞれ本件補正発明の「ガラス拭きロボット」及び「吸着カップ装置(2)」に相当する。そして、引用発明の「前記吸引ノズル11に上面中央部が旋回自在に取り付けられている外枠フレーム21」という事項、及び「前記吸盤12は、前記吸引ノズル11の先端部に取り付けられ」るという事項によると、外枠フレーム21が吸引ノズル11に旋回自在に取り付けられ、その吸引ノズル11の先端部に吸盤12が取り付けられるものであるから、吸盤12は、吸引ノズル11を介して、外枠フレーム21に取り付けられているといえるから、引用発明の「外枠フレーム21」は、本件補正発明の「機械本体(1)」に相当し、引用発明の「吸引ノズル11、吸盤12および真空ポンプから構成される吸着部10の前記吸引ノズル11に上面中央部が旋回自在に取り付けられている外枠フレーム21」は、本件補正発明の「吸着カップ装置(2)が設けられた機械本体(1)」に相当する。
また、引用発明の「前記吸引ノズル11に旋回自在に取り付けられ、内側フレーム31、走行用モータ32および車輪33から構成される走行部30」と、本件補正発明の「歩行機構」とは、「移動のための機構」である限りにおいて、共通する。
さらに、引用発明の「吸引ノズル11」と「連結チューブ14」とを合わせたものが、本件補正発明の「通気パイプ(3)」に相当し、引用発明の「真空ポンプ」は、本件補正発明の「真空空気ポンプ(4)」に相当する。すると、引用発明の「前記吸盤12は、前記吸引ノズル11の先端部に取り付けられ、前記吸引ノズル11の基端部には連結チューブ14の一端が取り付けられ、前記連結チューブ14の他端は、前記真空ポンプが取り付けられ」るという事項は、吸盤12が、吸引ノズル11及び連結チューブ14を介して、真空ポンプに取り付けられるものであるから、本件補正発明の「前記吸着カップ装置(2)は通気パイプ(3)を介して真空空気ポンプ(4)に接続され」るという事項に相当する。
そして、引用発明の「前記走行部30における前記車輪33の摩擦抵抗に比べて、前記吸着部10における前記吸盤12の摩擦抵抗を小さくしているので、窓ガラスWに吸着した状態で、そのガラス面に沿ってスムーズに走行させることができ」るという事項は、窓拭き装置1が、走行部30により、ガラス面に沿って走行する間、吸盤12でガラス面に吸着されていることを意味し、また、前記したように、吸盤12は、吸引ノズル11を介して、外枠フレーム21に取り付けられているから、窓拭き装置1が、ガラス面に沿って走行する間、吸盤12でガラス面に吸着されているということは、外枠フレーム21も同じく、ガラス面に沿って走行する間、吸盤12でガラス面に吸着されているといえる。すると、引用発明の「前記走行部30における前記車輪33の摩擦抵抗に比べて、前記吸着部10における前記吸盤12の摩擦抵抗を小さくしているので、窓ガラスWに吸着した状態で、そのガラス面に沿ってスムーズに走行させることができ」るという事項と、本件補正発明の「前記機械本体(1)は、前記歩行機構によりガラス面を移動する間、前記吸着カップ装置(2)を介してガラス面に吸着され」るという事項とは、「前記機械本体は、前記移動のための機構によりガラス面を移動する間、前記吸着カップ装置を介してガラス面に吸着され」る限りにおいて、共通する。

したがって、本件補正発明と引用発明とは、
「ガラス拭きロボットであって、
吸着カップ装置が設けられた機械本体と、移動のための機構と、を備え、
前記吸着カップ装置は通気パイプを介して真空空気ポンプに接続され、前記機械本体は、前記移動のための機構によりガラス面を移動する間、前記吸着カップ装置を介してガラス面に吸着される、
ガラス拭きロボット。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本件補正発明は「空気排出装置を有」し、「前記吸着カップ装置(2)は、開放位置及び閉鎖位置を有する空気排出装置(5)にも接続され、前記空気排出装置(5)が前記開放位置にあるとき、前記吸着カップ装置(2)は、前記空気排出装置(5)を介して大気に連通する」のに対し、引用発明はこのような事項を備えない点。

[相違点2]
移動のための機構について、本件補正発明は「歩行機構」であるのに対し、引用発明は「内側フレーム31、走行用モータ32および車輪33から構成される走行部30」である点。

2-4 判断
(1)相違点について
以下、前記相違点について判断する。
[相違点1]について
引用発明の窓拭き装置1は、「電源スイッチを切ってから前記真空ポンプを停止し、窓ガラスWから取り外す」ものであるが、種々の作業を行うにあたり、作業の効率は当然に考慮されるべきものであるから、引用発明において、窓拭き装置1を窓ガラスWから容易かつ迅速に取り外すという課題は内在しているといえる。
そして、引用発明の窓拭き装置1は、真空ポンプを停止しても、直ちに吸盤12内の負圧状態が解消されるとは限らず、この負圧状態が解消されないと、吸盤12の窓ガラスWへの吸着が維持されることになるが、吸盤12の窓ガラスWへの吸着に抗して、窓拭き装置1を窓ガラスWから取り外すことは、吸着の強さが窓拭き装置1を窓ガラスW上に留めることができる程の強さであることを考慮すれば、容易ではないから、引用発明において、窓拭き装置1を窓ガラスWから容易かつ迅速に取り外すには、吸盤12の吸着を迅速に解除する必要があることは明らかである。
一方、吸盤の吸着状態を迅速に解除するべく、吸盤内の真空状態を強制的に破壊するバルブ等の装置を設けることは、引用文献2?引用文献5に記載されているように、種々の技術分野や、種々の態様で使用される吸着装置にわたって汎用される、本願の優先日前から周知の事項である。特に、引用文献4には、本件補正発明と同様に、ビルの壁面等に吸着する吸着装置のパッド2を壁面から取り外すため、真空ポンプ6を停止した際に、開弁されてパッド2内の真空を破壊する真空破壊弁14を設ける点が記載され、引用文献5には、本件補正発明と同様の窓ガラス等を清掃する清掃装置の技術分野において、真空吸盤に真空破壊弁19を設ける点が記載されている。
すると、引用発明の吸盤12に、前記内在する課題を解決すべく、前記周知の事項を適用し、真空を破壊する装置を接続し、本件補正発明の前記相違点1に係る発明特定事項とすることは、この発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に想到し得たものである。

[相違点2]について
本件補正発明の「歩行機構」は、その具体的な機構が、発明の詳細な説明や図面に、何ら記載されていないから、ガラス拭きロボットを歩行させる機能を備えた何らかの機構としか把握することができない。
そして、引用発明の「内側フレーム31、走行用モータ32および車輪33から構成される走行部30」は、窓拭き装置1を走行させるものであって、走行させる機能を備えた機構といえるが、本件補正発明の歩行させる機能を備えた何らかの機構とは、走行か、歩行かの表現上の違いはあるにせよ、機構としての具体的な相違は見出せない。
すると、前記相違点2は、実質的な相違点とはいえないものである。

(2)請求人の主張について
(2-1)審判請求書における主張
審判請求人は、平成30年8月10日に提出された審判請求書の「(3)(d)本願発明と引用文献1から5に係る発明との対比 」において、次のように主張している。
「審査官殿が、ご指摘の引用文献1に係る発明は、「窓ガラスWに吸着する吸着部10と、この吸着部10に取り付けられ、窓ガラスWを清掃する清掃ユニット20と、吸着部10に取り付けられた走行部30とから構成される窓拭き装置」に関するものであり、本願発明の特徴部分である空気排出装置については、何ら記載も示唆もありません。
引用文献1に係る発明の窓拭き装置は、本願明細書の背景技術(段落番号0002)に記載のように、真空状態が自然にその効果を失うまで、ガラス表面から取り除かれるのを単純に待っている構成であることが明らかであり、本願発明の空気排出装置を必須の構成要素とするものではないと考えます。
一方で、審査官殿は、空気排出装置については、引用文献2から5に開示されている当業者にとっては一般常識であり、当業者がこの一般常識である空気排出装置を引用文献1に記載の装置に適用して本願発明に想到することは、容易であるとの見解を述べられておりますが、引用文献2から5に開示されている空気排出装置は、ごく一般的な空気排出装置に相当するものであり、上記のように、歩行機構が設けられたガラス拭きロボットの移動状態において、空気排出装置が、移動中の非作動状態と、ガラス清掃完了後の空気の排気作業という、2つの作業状態を有する本願発明における空気排出装置を開示するものではありません。
つまり、本願発明の空気排出装置は、上述の如く、移動中の非作動状態と、ガラス清掃完了後の空気の排気作業という、2つの作業状態を有することにより、清掃完了時に急速に内部空気圧と外部空気圧との均衡が図られるため、待機時間を要することなく、ガラス拭きロボットをガラスから着脱することができるため、作業効率が向上するという引用文献1から5に係る発明においては、決して、奏することのできない特有かつ顕著な効果を奏するものです。
したがって、たとえ当業者であっても、引用文献1から5に係る発明に基づいて、本願発明に容易に想到できるとは到底言えないものと思料いたします。」

(2-2)当審の判断
審判請求人は、本件補正発明について、「歩行機構が設けられたガラス拭きロボットの移動状態において、空気排出装置が、移動中の非作動状態と、ガラス清掃完了後の空気の排気作業という、2つの作業状態を有する本願発明における空気排出装置を開示するもの」であると主張しているが、引用文献2?引用文献5に記載されているような前記周知の事項である吸盤内の真空状態を強制的に破壊する装置は、吸盤により吸着している間の非作動状態と、吸盤の吸着を解除する際の作動状態との2つの作業状態を有している。すると、前記(1)の[相違点1]についてで検討したように、引用発明の吸盤12に、前記周知の事項を適用し、真空を破壊する装置を接続すれば、その真空を破壊する装置は、窓拭き装置1の作業中や移動中には吸盤12内の負圧を維持する必要があることからみて、窓拭き装置1の移動中の非作動状態と、清掃完了後の窓ガラスWからの取り外し時の作動状態(審判請求人が主張するところの「空気の排気作業」状態)という、2つの作業状態を有することになるのは明らかである。
また、審判請求人は「本願発明の空気排出装置は、上述の如く、移動中の非作動状態と、ガラス清掃完了後の空気の排気作業という、2つの作業状態を有することにより、清掃完了時に急速に内部空気圧と外部空気圧との均衡が図られるため、待機時間を要することなく、ガラス拭きロボットをガラスから着脱することができるため、作業効率が向上するという引用文献1から5に係る発明においては、決して、奏することのできない特有かつ顕著な効果を奏するものです。」と主張しているが、引用文献2?引用文献5に記載されているような前記周知の事項である吸盤内の真空状態を強制的に破壊する装置も、吸盤により吸着している間は非作動状態となり、吸盤の吸着を解除する際は、「急速に内部空気圧と外部空気圧との均衡が図られるため、待機時間を要することなく」着脱させることができるから、「作業効率が向上するという」効果は、前記周知の事項自体が備える効果にすぎないものである。すると、審判請求人が主張する本件補正発明の効果は、前記(1)の[相違点1]についてで検討したように、引用発明の吸盤12に前記周知の事項を適用することにより、必然的に生じる効果であって、この適用によって、異質の効果が生じるものでも、また、同質であっても際だって優れた効果が生じるものでもないから、当業者が予測できる範囲のものである。

(3)本件補正発明の作用効果について
本件補正発明の作用効果については、前記(2-2)でも検討したように、引用発明及び前記周知の事項から当業者が予測できる範囲のものである。

2-5 まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び前記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年8月10日にされた手続補正は、前記のとおり却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、願書に添付して提出した特許請求の範囲とみなされた国際出願日における請求の範囲の翻訳文の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみてその請求項1に記載された事項により特定される、前記「第2」[理由]「1-2」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし6に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載されるような周知の事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.国際公開第2004/028324号(本審決における「引用文献1」。)
引用文献2.特開平1-240800号公報(本審決における「引用文献2」。)
引用文献3.実願平4-41273号(実開平6-3586号)のCD-ROM(本審決における「引用文献3」。)
引用文献4.登録実用新案第3143091号公報(本審決における「引用文献4」。)
引用文献5.実願平4-20922号(実開平5-72383号)のCD-ROM

3 引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項、引用発明及び引用文献2?4の記載事項は、前記「第2」[理由]「2-2」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記「第2」[理由]「2」で検討した本件補正発明の特定事項から、「歩行機構」を削除するとともに、ガラス拭きロボットがガラス面に吸着される態様における、吸着される部位が「機械本体(1)」であるという限定、及び吸着される期間が「歩行機構によりガラス面を移動する間」であるという限定を削除するものであり、その余の発明特定事項は本件補正発明と同じである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものに相当する本件補正発明が、前記「第2」[理由]「2-5」に記載したとおり、引用発明及び前記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び前記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-07-04 
結審通知日 2019-07-09 
審決日 2019-07-22 
出願番号 特願2015-533436(P2015-533436)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A47L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 邦喜  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 柿崎 拓
長馬 望
発明の名称 空気排出装置を有するガラス拭きロボット  
代理人 加藤 清志  

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