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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1357573
審判番号 不服2018-13861  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-18 
確定日 2019-12-04 
事件の表示 特願2016-195586「太陽電池」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月 6日出願公開、特開2017- 69567〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年10月3日(パリ条約による優先権主張2015年10月1日、大韓民国(KR)、2016年9月23日、大韓民国(KR))の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年 8月30日付け:拒絶理由通知書
平成29年12月21日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 2月23日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
平成30年 5月25日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 6月11日付け:平成30年5月25日の手続補正について
の補正の却下の決定、拒絶査定(原査定、
同年6月19日送達)
平成30年10月18日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成30年10月18日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成30年10月18日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載

本件補正により、特許請求の範囲の請求項1ないし11の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。

「 【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板の一面上の第1導電型領域と、
前記半導体基板の一面と対向する他面上の第2導電型領域と、
前記第1導電型領域に接続される第1電極と、
前記第2導電型領域に接続される第2電極とを含み、
前記第1導電型領域及び前記第2導電型領域のそれぞれは金属酸化物層で構成され、
前記第1電極は、前記第1導電型領域上に形成された第1透明電極を含み、
前記第2電極は、前記第2導電型領域上に形成された第2透明電極を含み、
前記第2導電型領域の仕事関数が前記半導体基板の仕事関数よりも小さく、
前記第2導電型領域のフェルミレベルは前記半導体基板のフェルミレベルより高く、
前記第2導電型領域の伝導帯と前記半導体基板の伝導帯のエネルギーバンドギャップは、1eV以下である、太陽電池。
【請求項2】
前記第1導電型領域及び前記第2導電型領域のそれぞれは、異なる金属酸化物層を含む、請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
前記金属酸化物層は二成分系化合物で構成される、請求項1に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記半導体基板が、n型の導電型を有する半導体物質としてシリコンを含む、請求項1に記載の太陽電池。
【請求項5】
前記第1導電型領域の仕事関数が前記半導体基板の仕事関数よりも大きい、請求項4に記載の太陽電池。
【請求項6】
前記第1導電型領域が、モリブデン酸化物層、タングステン酸化物層、バナジウム酸化物層、チタン酸化物層、ニッケル酸化物層、銅酸化物層、レニウム酸化物層、タンタル酸化物層またはハフニウム酸化物層で構成された、請求項4に記載の太陽電池。
【請求項7】
前記第2導電型領域が、チタン酸化物層、亜鉛酸化物層、錫酸化物層またはジルコニウム酸化物層で構成される、請求項4に記載の太陽電池。
【請求項8】
前記第1導電型領域と前記第2導電型領域は半導体物質を含まず、前記半導体物質中にドーパントとして作用する物質を含まない、請求項1に記載の太陽電池。
【請求項9】
前記第1導電型領域の仕事関数は、7eV以下である、請求項5に記載の太陽電池。
【請求項10】
前記第1電極と前記第2電極の少なくとも一つは、前記第1透明電極又は前記第2透明電極の上に形成された第2電極層を含み、パターンを有する、請求項1に記載の太陽電池。
【請求項11】
前記第1電極は、第1電極層と前記第2電極層を含み、
前記第1電極層は、前記第1導電型領域の金属酸化物とは異なる金属酸化物から形成された、請求項10に記載の太陽電池。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載

本件補正前の、平成29年12月21日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12の記載は次のとおりである。

「 【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板の一面上の第1導電型領域と、
前記半導体基板の一面と対向する他面上の第2導電型領域と、
前記第1導電型領域に接続される第1電極と、
前記第2導電型領域に接続される第2電極とを含み、
前記第1導電型領域及び前記第2導電型領域のそれぞれは金属酸化物層で構成され、
前記第1電極は、前記第1導電型領域上に形成された第1透明電極を含み、
前記第2電極は、前記第2導電型領域上に形成された第2透明電極を含む、太陽電池。
【請求項2】
前記第1導電型領域及び前記第2導電型領域のそれぞれは、異なる金属酸化物層を含む、請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
前記金属酸化物層は二成分系化合物で構成される、請求項1に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記半導体基板が、n型の導電型を有する半導体物質としてシリコンを含む、請求項1に記載の太陽電池。
【請求項5】
前記第1導電型領域の仕事関数が前記半導体基板の仕事関数よりも大きい、請求項4に記載の太陽電池。
【請求項6】
前記第1導電型領域が、モリブデン酸化物層、タングステン酸化物層、バナジウム酸化物層、チタン酸化物層、ニッケル酸化物層、銅酸化物層、レニウム酸化物層、タンタル酸化物層またはハフニウム酸化物層で構成された、請求項4に記載の太陽電池。
【請求項7】
前記第2導電型領域の仕事関数が前記半導体基板の仕事関数よりも小さい、請求項4に記載の太陽電池。
【請求項8】
前記第2導電型領域が、チタン酸化物層、亜鉛酸化物層、錫酸化物層またはジルコニウム酸化物層で構成される、請求項4に記載の太陽電池。
【請求項9】
前記第1導電型領域と前記第2導電型領域は半導体物質を含まず、前記半導体物質中にドーパントとして作用する物質を含まない、請求項1に記載の太陽電池。
【請求項10】
前記第1導電型領域の仕事関数は、7eV以下である、請求項5に記載の太陽電池。
【請求項11】
前記第1電極と前記第2電極の少なくとも一つは、前記第1透明電極又は前記第2透明電極の上に形成された第2電極層を含み、パターンを有する、請求項1に記載の太陽電池。
【請求項12】
前記第1電極は、前記第1電極層と前記第2電極層を含み、
前記第1電極層は、前記第1導電型領域の金属酸化物とは異なる金属酸化物から形成された、請求項11に記載の太陽電池。 」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1ないし6、8ないし12に記載された発明を特定するために必要な事項である「第2導電型領域」と「半導体基板」について、「前記第2導電型領域の仕事関数が前記半導体基板の仕事関数よりも小さく、前記第2導電型領域のフェルミレベルは前記半導体基板のフェルミレベルより高く、前記第2導電型領域の伝導帯と前記半導体基板の伝導帯のエネルギーバンドギャップは、1eV以下である、」と限定するものであって、本件補正前の請求項1ないし12に記載された発明と本件補正後の請求項1ないし11に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、
また、本件補正は、本件補正前の請求項7を削除するものであって、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当し、
さらに、本件補正は、本件補正前の請求項12の「前記第1電極層」を「第1電極層」と明りょうにするものであって、特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1、8に記載される発明(以下「本件補正発明1」、「本件補正発明8」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。

(1)本件補正発明1について
本件補正発明1は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

ア 引用文献の記載事項
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の最先の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2013-234106号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付した。)。

「【0007】
また、地球温暖化対策として発電時に二酸化炭素の排出の無く、有害な排出物を伴わないクリーンな光電変換装置が注目されている。その代表例としては、単結晶シリコンや多結晶シリコンなどを用いたシリコン(Si)太陽電池をはじめとする光電変換装置が知られ、盛んに研究開発が行われている。」

「【0034】
また、本明細書に開示する本発明の他の一態様は、n型の導電型を有するシリコン基板と、シリコン基板の一方の面に形成された、仕事関数が前記シリコン基板よりも大きく、p型の伝導性を有する酸化物半導体層と、酸化物半導体層上に形成された透光性導電膜と、透光性導電膜上に形成された第1の電極と、シリコン基板の他方の面に形成された第2の電極と、を有し、第2の電極は、仕事関数がシリコン基板よりも小さい材料で形成されていることを特徴とする半導体装置である。」

「【0114】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態2とは異なる構造の光電変換装置、およびその作製方法について図10乃至図15を参照して説明する。なお、実施の形態2と共通する内容については、その詳細を省略する。
【0115】
図10は、本発明の一態様における光電変換装置の断面図である。該光電変換装置は、シリコン基板200、該シリコン基板の一方の面上に形成された第1のシリコン半導体層201、酸化物半導体層210、透光性導電膜250、および第1の電極270、並びに、該シリコン基板の他方の面上に形成された第2のシリコン半導体層202、第3のシリコン半導体層203、および第2の電極290を含んで構成される。なお、第1の電極270はグリッド電極であり、第1の電極270側が受光面となる。
【0116】
なお、酸化物半導体層210には、実施の形態1、2に示したp型の導電性を有する酸化物半導体層110と同じ材料を用いることができる。例えば、二酸化モリブデンおよび三酸化モリブデンの中間組成を有する酸化モリブデン(MoO_(y)(2<y<3))を含有する酸化物半導体を用いればよい。
【0117】
従来の光電変換装置では、シリコン材料を窓層としていたため、窓層における光吸収は大きな損失となっていた。本発明の一態様では、光電変換装置の窓層として透光性を有する金属酸化物を用いることにより、窓層での光吸収損失が低減し、光吸収領域において効率良く光電変換を行うことできるようになる。
【0118】
また、図10では、シリコン基板200の表裏に凹凸加工を施したテクスチャ構造の例を示している。テクスチャ構造に加工された面では入射光が多重反射し、光電変換領域内には光が斜めに進行することから光路長が増大する。また、裏面からの反射光が表面で全反射する、所謂光閉じ込め効果を起こさせることもできる。
【0119】
なお、図11に例示したように、シリコン基板200の表裏のどちらか一方のみに凹凸加工を施した構成であっても良い。凹凸加工によってシリコン基板の表面積が増大するため、上記光学的効果が得られる一方で、表面欠陥の絶対量が増大してしまう。したがって、光学的効果と表面欠陥量のバランスを考慮し、より良好な電気特性が得られるように実施者が構造を決定すればよい。
【0120】
また、図12に示すように、第2の電極290もグリッド電極とし、第3のシリコン半導体層203と第2の電極290との間に透光性導電膜280を形成して両面を受光面とする構造としてもよい。
【0121】
また、図13に示すように、第1のシリコン半導体層201を設けずに、シリコン基板200と酸化物半導体層210が直接接する構造としてもよい。実施の形態1で説明したように、本発明の一態様の光電変換装置に用いることのできる酸化物半導体層は、シリコン表面のパッシベーション効果が高く、シリコン基板200と良好な接合を形成することができる。
【0122】
なお、図10、図11、図12および図13のそれぞれの構成を任意に複合した構成としてもよい。
【0123】
第1のシリコン半導体層201および第2のシリコン半導体層202には、水素を含む欠陥の少ない半導体層を用いることができ、シリコン基板200の表面の欠陥を終端することができる。該半導体層には、非晶質シリコン半導体を用いることが好ましい。
【0124】
第1のシリコン半導体層201および第2のシリコン半導体層202には、例えば、i型のシリコン半導体層を用いることができる。また、本実施の形態においては、シリコン基板200にn型のシリコン基板を用いるため、第1のシリコン半導体層201および第2のシリコン半導体層202にはp型のシリコン半導体層を用いることもできる。
【0125】
なお、本明細書において、i型の半導体とは、フェルミ準位がバンドギャップの中央に位置する所謂真性半導体の他、半導体に含まれるp型若しくはn型を付与する不純物が1×10^(18)cm^(-3)以下の濃度であり、暗伝導度に対して光伝導度が高い半導体を指す。
【0126】
また、第1のシリコン半導体層201および第2のシリコン半導体層202にp型のシリコン半導体層を用いる場合には、p^(-)型のシリコン半導体層を用いることが好ましい。p^(-)型シリコン半導体を用いる場合には、該半導体層の暗伝導度を1×10^(-10)S/cm?1×10^(-5)S/cm、好ましくは1×10^(-9)S/cm?1×10^(-6)S/cm、さらに好ましくは1×10^(-9)S/cm?1×10^(-7)S/cmとする。
【0127】
本実施の形態において、シリコン基板200の導電型はn型であり、酸化物半導体層210の導電型はp型である。したがって、シリコン基板200と酸化物半導体層210との間には、第1のシリコン半導体層201を介したp-n接合が形成される。
【0128】
また、裏面側に設けられる第3のシリコン半導体層203は、シリコン基板200と同じ導電型で、該シリコン基板よりもキャリア濃度が高い半導体層である。したがって、シリコン基板200と第3のシリコン半導体層203との間には、第2のシリコン半導体層202を介してn-n^(+)接合が形成される。つまり、第3のシリコン半導体層203は、BSF層として作用する。BSF層を設けることにより、n-n^(+)接合のバンドベンディングによる電位障壁により第2の電極290近傍での少数キャリアの再結合を防止することができる。
【0129】
なお、第3のシリコン半導体層203の代替として、導電型がn型の透光性導電膜を用いてもよい。該透光性導電膜には、例えば、インジウム錫酸化物、珪素を含むインジウム錫酸化物、亜鉛を含む酸化インジウム、酸化亜鉛、ガリウムを含む酸化亜鉛、アルミニウムを含む酸化亜鉛、酸化錫、フッ素を含む酸化錫、アンチモンを含む酸化錫、またはグラフェン等を用いることができる。また、透光性導電膜は単層に限らず、異なる膜の積層でも良い。該透光性導電膜は、電界形成層として作用するだけでなく、第2の電極290に到達した光の反射を助長させる効果も有する。」

「【0203】
また、図33のように、第2の電極691とシリコン基板600の間に、シリコンよりも仕事関数の小さい半導体領域692を設けてもよい。半導体領域692の仕事関数は4.6eV以下が好ましく、4.2eV以下がより好ましい。例えば、MgO、BaO、SrO、CaOなどから選ばれた1つ以上の半導体材料で形成することができる。このとき第2の電極は、同上の述べた低仕事関数材料の導体で構成されることが好ましいが、低仕事関数材料でなく、AlやAgなどの低抵抗金属としてもよい。」

(イ)上記(ア)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「シリコン基板200、
該シリコン基板の一方の面上に形成された第1のシリコン半導体層201、二酸化モリブデンおよび三酸化モリブデンの中間組成を有する酸化モリブデン(MoO_(y)(2<y<3))を含有する酸化物半導体を用いた酸化物半導体層210、透光性導電膜250、および第1の電極270、
並びに、該シリコン基板の他方の面上に形成された第2のシリコン半導体層202、酸化亜鉛、ガリウムを含む酸化亜鉛、アルミニウムを含む酸化亜鉛、酸化錫、フッ素を含む酸化錫、またはアンチモンを含む酸化錫を用いたn型の透光性導電膜、透光性導電膜280、および第2の電極290を含んで構成される、
シリコン(Si)太陽電池をはじめとする光電変換装置。」

イ 引用発明との対比
(ア)本件補正発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「シリコン基板200」は、本件補正発明1の「半導体基板」に、
引用発明の「二酸化モリブデンおよび三酸化モリブデンの中間組成を有する酸化モリブデン(MoO_(y)(2<y<3))を含有する酸化物半導体を用いた酸化物半導体層210」は、本件補正発明1の「第1導電型領域」及び「『第1導電型領域』『は金属酸化物層』」に、
引用発明の「酸化亜鉛、ガリウムを含む酸化亜鉛、アルミニウムを含む酸化亜鉛、酸化錫、フッ素を含む酸化錫、またはアンチモンを含む酸化錫を用いたn型の透光性導電膜」は、本件補正発明1の「第2導電型領域」及び「『第2導電型領域』『は金属酸化物層』」に、
引用発明の「透光性導電膜250、および第1の電極270」は、本件補正発明1の「第1導電型領域に接続される第1電極」に、
引用発明の「透光性導電膜280、および第2の電極290」は、本件補正発明1の「第2導電型領域に接続される第2電極」に、
引用発明の「透光性導電膜250」は、本件補正発明1の「第1導電型領域上に形成された第1透明電極」に、
引用発明の「透光性導電膜280」は、本件補正発明1の「第2導電型領域上に形成された第2透明電極」に、
引用発明の「シリコン(Si)太陽電池をはじめとする光電変換装置」は、本件補正発明1の「太陽電池」に、それぞれ相当する。

(イ)以上のことから、本件補正発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「半導体基板と、
第1導電型領域と、
第2導電型領域と、
前記第1導電型領域に接続される第1電極と、
前記第2導電型領域に接続される第2電極とを含み、
前記第1導電型領域及び前記第2導電型領域のそれぞれは金属酸化物層で構成され、
前記第1電極は、前記第1導電型領域上に形成された第1透明電極を含み、
前記第2電極は、前記第2導電型領域上に形成された第2透明電極を含む、太陽電池。」

【相違点1】
第1導電型領域と第2導電型領域について、本件補正発明1では半導体基板の一面上の第1導電型領域と、半導体基板の一面と対向する他面上の第2導電型領域であるのに対し、引用発明ではそのようなものか明らかでない点。

【相違点2】
第2導電型領域の仕事関数、フェルミレベル及び伝導帯のエネルギーバンドギャップについて、本件補正発明1では「半導体基板の仕事関数よりも小さく」、「半導体基板のフェルミレベルより高く」、「第2導電型領域の伝導帯と半導体基板の伝導帯のエネルギーバンドギャップは、1eV以下である」のに対し、引用発明ではそのようなものか明らかでない点。

ウ 判断
以下、上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
a 引用文献1の【0121】には「第1のシリコン半導体層201を設けずに、シリコン基板200と酸化物半導体層210が直接接する構造としてもよい。」、「本発明の一態様の光電変換装置に用いることのできる酸化物半導体層は、シリコン表面のパッシベーション効果が高く、シリコン基板200と良好な接合を形成することができる。」と記載され、【0122】には「図10、図11、図12および図13のそれぞれの構成を任意に複合した構成としてもよい。」と記載されている。

b 二酸化モリブデンおよび三酸化モリブデンの中間組成を有する酸化モリブデン(MoO_(y)(2<y<3))を含有する酸化物半導体を用いた酸化物半導体層210、酸化亜鉛、ガリウムを含む酸化亜鉛、アルミニウムを含む酸化亜鉛、酸化錫、フッ素を含む酸化錫、またはアンチモンを含む酸化錫を用いたn型の透光性導電膜は、ともに引用文献1の一態様の光電変換装置に用いることのできる酸化物半導体層である。

c そうすると、シリコン基板の一方の面上に、二酸化モリブデンおよび三酸化モリブデンの中間組成を有する酸化モリブデン(MoO_(y)(2<y<3))を含有する酸化物半導体を用いる酸化物半導体層210が直接接する構造とし、シリコン基板の他方の面上に、酸化亜鉛、ガリウムを含む酸化亜鉛、アルミニウムを含む酸化亜鉛、酸化錫、フッ素を含む酸化錫、またはアンチモンを含む酸化錫を用いたn型の透光性導電膜が直接接する構造とすることは、当業者が容易に想到する事項にすぎない。

(イ)相違点2について
a 引用文献1の【0034】には「シリコン基板の他方の面に形成された第2の電極と、を有し、第2の電極は、仕事関数がシリコン基板よりも小さい材料で形成されていることを特徴とする半導体装置である。」、【0203】には「また、図33のように、第2の電極691とシリコン基板600の間に、シリコンよりも仕事関数の小さい半導体領域692を設けてもよい。」と記載されていることからみて、第2の電極とシリコン基板の間に、シリコン基板よりも仕事関数の小さい半導体領域を設けてもよいことが把握できる。

b そうすると、引用発明の、シリコン基板と透光性導電膜280、および第2の電極290の間にある、酸化亜鉛、ガリウムを含む酸化亜鉛、アルミニウムを含む酸化亜鉛、酸化錫、フッ素を含む酸化錫、またはアンチモンを含む酸化錫を用いたn型の透光性導電膜をシリコン基板よりも仕事関数の小さい半導体領域とすることは、当業者が容易に想到する事項にすぎない。

c そして、仕事関数は真空準位からフェルミレベルまでのエネルギー差であり、仕事関数が小さくなればフェルミレベルが高くなることも、当業者には技術常識である。

d 電子を効率よく輸送するために、各層間の伝導帯下端の差を小さくすることは周知技術(例えば、特開2010-141121号公報の【0037】?【0039】及び図1を参照(n+型ZnO層の伝導帯Ecはn型非晶質シリコン層の伝導帯Ecよりも0.2eVだけ低い点についても記載されている。)、特開2010-258368号公報の【0049】を参照(n+型ZnO層の伝導帯Ecはn型非晶質シリコン層の伝導帯Ecよりも0.2eVだけ低い点についても記載されている。)。)である。

e 酸化亜鉛、ガリウムを含む酸化亜鉛、アルミニウムを含む酸化亜鉛、酸化錫、フッ素を含む酸化錫、またはアンチモンを含む酸化錫を用いたn型の透光性導電膜の伝導帯とシリコン基板の伝導帯のエネルギーバンドギャップについて、引用発明には具体的な数値が記載されていないので、以下検討する。

まず、本願の第2導電型領域の伝導帯と半導体基板の伝導帯のエネルギーバンドギャップは、1eV以下であることに関して、本願明細書には、【0031】に「より具体的には、第2導電型領域34の伝導帯と半導体基板10の伝導帯との間のエネルギーバンドギャップが1eV以下(一例として、0.1eV?1eV)であってもよい。上述したエネルギーバンドギャップが1eVを超えると、電子を選択的に収集することが難しい。上述したエネルギーバンドギャップが0.1eV未満であると、エネルギーバンドギャップが小さいため、正孔を除いて選択的に電子だけを収集することが難しい。」と記載されているものの、他の箇所を参照しても1eV以下の数値限定の臨界的意義については本願の明細書には記載されていない。(なお、本願明細書には【0033】に「一例として、上述したような第2導電型領域34に使用可能な金属化合物層としては、チタン酸化物(一例として、TiO_(2))で構成されるチタン酸化物層、亜鉛酸化物(一例として、ZnO)で構成される亜鉛酸化物層などを挙げることができる。」と、当該第2導電型領域34の例示がされている。)

そうすると、電子を効率よく輸送することを考慮し、酸化亜鉛、ガリウムを含む酸化亜鉛、アルミニウムを含む酸化亜鉛、酸化錫、フッ素を含む酸化錫、またはアンチモンを含む酸化錫を用いたn型の透光性導電膜の伝導帯とシリコン基板の伝導帯のエネルギーバンドギャップを、1eV以下とすることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。

(ウ)そして、相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明1の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(エ)したがって、本件補正発明1は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2)請求人の主張について
ア 本件請求人は、平成30年10月18日付けで提出された審判請求書において、
(ア)「本願の補正後の請求項1に係る発明は、上記(1)で指摘したとおり、(a)『前記第2導電型領域の仕事関数が前記半導体基板の仕事関数よりも小さく』、(b)『前記第2導電型領域のフェルミレベルは前記半導体基板のフェルミレベルより高く』、(c)『前記第2導電型領域の伝導帯と前記半導体基板の伝導帯のエネルギーバンドギャップは、1eV以下である』との構成を備えております。」、
(イ)「しかしながら、引用文献1の半導体酸化物は裏面電界層に適用できるものではないと考えます。 」、
(ウ)「さらに、補正後の請求項1に係る発明の備える上記構成(a)?(c)については、引用文献1?5のいずれにも開示も示唆もされていません。」、
と本件補正発明1の進歩性に関し、主張している(なお、上記審判請求書において、明確性に関しても主張しているものの、実施可能要件に関しての主張はない。)。

イ 上記主張について以下検討する。
(ア)上記(ア)、(ウ)については、上記(1)ウ(イ)で検討したとおりである。

(イ)引用文献1の【0128】には「第3のシリコン半導体層203は、BSF層として作用する。」、【0129】には「第3のシリコン半導体層203の代替として、導電型がn型の透光性導電膜を用いてもよい。該透光性導電膜には、例えば、インジウム錫酸化物、珪素を含むインジウム錫酸化物、亜鉛を含む酸化インジウム、酸化亜鉛、ガリウムを含む酸化亜鉛、アルミニウムを含む酸化亜鉛、酸化錫、フッ素を含む酸化錫、アンチモンを含む酸化錫、またはグラフェン等を用いることができる。また、透光性導電膜は単層に限らず、異なる膜の積層でも良い。該透光性導電膜は、電界形成層として作用する」と記載されていることから、引用文献1の酸化亜鉛、ガリウムを含む酸化亜鉛、アルミニウムを含む酸化亜鉛、酸化錫、フッ素を含む酸化錫、またはアンチモンを含む酸化錫を用いたn型の透光性導電膜は、BSF層として作用することが把握できる。

してみれば、請求人の上記主張は、採用することができない。

(3)本件補正発明8について
請求項8には、「前記第1導電型領域と前記第2導電型領域は半導体物質を含まず、前記半導体物質中にドーパントとして作用する物質を含まない、請求項1に記載の太陽電池。」と、請求項8は請求項1を引用し、第1導電型領域と第2導電型領域が半導体物質を含まず、かつ、ドーパントとして作用する物質も含まないことが記載されている。

一方、本願の請求項1には、第1導電型領域及び第2導電型領域のそれぞれは金属酸化物層で構成されと特定され、本願の発明の詳細な説明には、第1導電型領域に用いられる材料として、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、バナジウム酸化物、チタン酸化物、ニッケル酸化物、銅酸化物、レニウム酸化物、タンタル酸化物、ハフニウム酸化物が例示され(【0084】など)、第2導電型領域に用いられる材料としてチタン酸化物、亜鉛酸化物、錫酸化物、ジルコニウム酸化物が例示されている(【0088】など)が、これらの金属酸化物は一般に半導体物質であると解される(例えば、特開2013-58562号公報の【0016】、【0027】-【0028】、再公表特許第2004/006381号の第4頁第5-9行、特開2015-119023号公報の【0080】-【0081】などを参照。)。

そして、本願の発明の詳細な説明には、第1導電型領域及び第2導電型領域に用いられる金属酸化物であって半導体物質でない金属酸化物が具体的に記載されていないため、本件補正発明8をどのように実施するのかを当業者が理解することができない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本件補正発明8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年10月18日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年12月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1、9、12に係る発明(以下「本願発明1」、「本願発明9」、「本願発明12」という。)は、その請求項1、9、12に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(明確性)について

・請求項 12
請求項12の「前記第1電極は、前記第1電極層と前記第2電極層を含み」という記載について、請求項12が引用する請求項1及び請求項11には「第1電極層」が記載されていないため、「前記第1電極層」が示す内容を明確に把握することができない。
よって、請求項12に係る発明は明確でない。

●理由2(実施可能要件)について

・請求項 9
請求項9には、「前記第1導電型領域と前記第2導電型領域は半導体物質を含まず、前記半導体物質中にドーパントとして作用する物質を含まない」こと、すなわち、第1導電型領域と第2導電型領域が半導体物質を含まず、かつ、ドーパントとして作用する物質も含まないことが記載されている。
一方、本願の発明の詳細な説明には、第1導電型領域に用いられる材料として、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、バナジウム酸化物、チタン酸化物、ニッケル酸化物、銅酸化物、タンタル酸化物、ハフニウム酸化物が例示され([0084]など)、第2導電型領域に用いられる材料としてチタン酸化物、亜鉛酸化物、錫酸化物、ジルコニウム酸化物が例示されている([0088]など)が、これらの金属酸化物は一般に半導体物質であると解される(例えば、引用文献3の[0016]、[0027]-[0028]、引用文献4の第4ページ第5-9行、引用文献5の[0080]-[0081]などを参照。)。
そして、本願の発明の詳細な説明には、第1導電型領域及び第2導電型領域に用いられる金属酸化物であって半導体物質でない金属酸化物が具体的に記載されていないため、請求項9に係る発明をどのように実施するのかを当業者が理解することができない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項9に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

●理由3(進歩性)について

・請求項 1-8、10-12
・引用文献等 1
・備考
引用文献1には、n型のシリコン基板と、前記シリコン基板の受光面側に形成されたMoO_(y)(2<y<3)からなる酸化物半導体層と、前記シリコン基板の裏面側に形成されたZnO等からなるBSF層と、前記酸化物半導体層及び前記BSF層にそれぞれ電気的に接続される第1の電極及び第2の電極とを備える光電変換装置が記載されている(特に、[0023]、[0025]、[0048]-[0266]、図1-32などを参照。)。ここで、MoO_(y)の仕事関数は7eV以下であって(例えば、引用文献2の[0035]などを参照。)、かつ、シリコン基板の仕事関数より大きく、ZnO等の仕事関数はシリコン基板の仕事関数より小さいといえる。
そして、引用文献1には、光電変換装置の構成として、シリコン基板の受光面側の酸化物半導体層上に透光性導電膜と、グリッド電極である第1の電極とを順に形成し、裏面側のBSF層上に透光性導電膜とグリッド電極である第2の電極を順に形成した構成とすることや、透光性導電膜としてインジウム錫酸化物を用いることが記載されており([0114]-[0149]、図12など)、各構成を任意に複合して良いことが示唆されているため([0122]、[0149]など)、光電変換装置の構成を図12に記載の構成とし、MoO_(y)(2<y<3)からなる酸化物半導体層上にインジウム錫酸化物からなる透光性導電膜及びグリッド電極を形成し、ZnO等からなるBSF層上に透光性導電膜及びグリッド電極を形成して、本願の請求項1-8、10-12に係る発明となすことは、当業者が容易に想到し得た事項である。

<引用文献等一覧>

1.特開2013-234106号公報
2.特開2007-35893号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
3.特開2013-58562号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
4.再公表特許第2004/006381号(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
5.特開2015-119023号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)

3 本願発明12は、本件補正後の請求項11の「第1電極層」を「前記第1電極層」と不明りょうな記載に戻すものである。
よって、請求項12に係る発明は明確でない。

4 本願発明9は、本件補正後の請求項8と同様に「前記第1導電型領域と前記第2導電型領域は半導体物質を含まず、前記半導体物質中にドーパントとして作用する物質を含まない、請求項1に記載の太陽電池。」と特定されている。
そうすると、前記第2の[理由]2(3)に記載したことと同様に、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項9に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

5 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(1)アに記載したとおりである。

6 対比・判断
本願発明1は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明1の「前記第2導電型領域の仕事関数が前記半導体基板の仕事関数よりも小さく、前記第2導電型領域のフェルミレベルは前記半導体基板のフェルミレベルより高く、前記第2導電型領域の伝導帯と前記半導体基板の伝導帯のエネルギーバンドギャップは、1eV以下である」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明1が、前記第2の[理由]2(1)イ、ウに記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、上記限定事項が削除され本願発明1と引用発明の相違点は相違点1のみとなったことから、本願発明1は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件をみたしておらず、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-07-04 
結審通知日 2019-07-09 
審決日 2019-07-22 
出願番号 特願2016-195586(P2016-195586)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 536- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 537- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桂城 厚佐竹 政彦河村 麻梨子  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 星野 浩一
野村 伸雄
発明の名称 太陽電池  
代理人 河合 章  
代理人 三橋 真二  
代理人 竹本 実  
代理人 青木 篤  
代理人 南山 知広  
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