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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02G
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02G
管理番号 1357585
審判番号 不服2017-13430  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-23 
確定日 2019-12-24 
事件の表示 特願2016-146762「エンジンと多目的ファンモーターターボ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月21日出願公開,特開2017-223212〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成28年6月16日(受付日:平成28年6月17日)の特許出願であって,平成28年9月16日付けで拒絶理由が通知され(発送日:平成28年10月4日),同年11月21日(受付日:同年11月22日)に意見書及び手続補正書が提出され,平成29年2月17日付けで拒絶理由が通知され(発送日:平成29年2月28日),同年3月31日(受付日:同年4月3日)に意見書が提出され,同年4月19日(受付日:同年4月20日)に手続補正書が提出されたが,同年7月4日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年7月11日),これに対して,同年8月23日(受付日:同年8月24日)に拒絶査定不服審判が請求された。
その後,当審より平成30年7月19日付けで拒絶理由を通知し(発送日:同年7月24日),これに対して同年8月15日(受付日:同年8月16日)に意見書が提出されたところである。

第2 本願発明
本願の請求項1,2に係る発明は,平成28年11月21日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
ファンモーターを排気ガスによって回転させるのとエンジンの回転数が低い場合はターボの効果が悪いのでファンをモーターで回転させる事により通常より高いターボ効果を出す。
また,ターボ効果を必要としない場合は,モータースィッチを切り燃費の悪化を防止する。
それと多目的ファンモーターターボにより送風をしてクーラントの冷却とエンジン外部冷却及びエンジンの通風口よりエンジン内部冷却とエンジンの吸気口に冷却送風する。
また発電もする多目的ファンターボ
【請求項2】
不完全燃焼防止装置を取り付けたエンジンで,回転部分であるタービンと軸を磁気反発浮上させてあり,アクセルを踏まない場合燃料が吸気されない構造でノーマル使用及びハイブリット使用が可能なエンジン」

第3 当審における拒絶の理由
当審が通知した拒絶理由は,次のとおりのものである。
「1)(新規事項)平成28年11月21日付け及び平成29年4月19日付けの手続補正書による補正は,出願当初の特許出願の明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
2)(明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3)(実施可能要件)この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


<理由1>
特許法第17条の2第3項は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の補正について規定するもので,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内において補正をすること,即ち,新規事項を追加しないことが求められる。
(1)一般的に「不完全燃焼」とは,「燃焼の際に酸素の供給が不十分で,一酸化炭素や煤が発生する現象。」(広辞苑第6版)であって,「不完全燃焼防止装置」とは,当該現象を防止するために燃焼の際の酸素の供給を十分にする装置と解されるが,そのような装置は,当初明細書等に記載されておらず,記載された事項から自明なものでもない。
当初明細書等の段落【0007】に「ターボスイッチを切ると燃費の悪化を防止します。」と記載されているものの,この記載は,上述した「不完全燃焼防止装置」を表すものではない。
そうすると,平成28年11月21日付け手続補正書により補正された,請求項2の「不完全燃焼防止装置を取り付けた」エンジンは,当初明細書等に記載されておらず,記載された事項から自明なものでもないから,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものと認めることができない。よって,この補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内のものではない。
(2)平成29年4月19日付け手続補正書にて,「テコ作用」(段落【0002】,【0005】,【0007】),不完全燃焼防止装置を取り付けたエンジン(段落【0002】,【0005】?【0007】),発電した電力の用途(段落【0007】,【0010】),各部寸法に関する記載(段落【0007】,【0010】)などを明細書に追加する補正を行った。
この補正により追加された事項は,当初明細書等に記載されておらず,記載された事項から自明なものでもないから,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものと認めることができない。
よって,この補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内のものではない。

<理由2>
特許法第36条第6項第2号は,特許請求の範囲の記載について規定するもので,特許を受けようとする発明が明確であることが求められる。
(1)特許請求の範囲の請求項1,2に記載された発明特定事項(特に,請求項1の「ファンモーター」,「エンジン」,「ファン」,「モーター」,「モータースイッチ」,「多目的ファンモーターターボ」,「クーラント」,「エンジンの通風口」,「エンジンの吸気口」,「多目的ファンターボ」,請求項2の「不完全燃焼防止装置」,「エンジン」,「タービン」,「軸」,「ノーマル使用及びハイブリット使用が可能なエンジン」)と,明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載された実施例の部材との対応関係が明確でないため,請求項1,2に係る発明が把握できない。
そこで,請求項1,2の発明特定事項の後に,対応する実施例の図面の符号を付記されたい(例えば,「タービン(17)」のように記載されたい。)。
(2)請求項1には,複数の文章があり,各々の文章から把握することのできる複数の発明が記載されているのか,全体から把握することのできる一つの発明が記載されているのかが不明確である。一つの発明であれば,発明の構成要素の相互関係を明確にし,一文で記載するか,構成を箇条書きにし,最後に「以上の構成からなる多目的ファンモーターターボ」のように記載されたい。
請求項1の「また」,「それと」という記載により,その後に特定される事項が必須の事項なのか,任意付加的な事項か否か不明にしているため,明確でない。
(3)請求項1には,「ファンモーターを排気ガスによって回転させるのとエンジンの回転数が低い場合はターボの効果が悪いのでファンをモーターで回転させる事により通常より高いターボ効果を出す。」と記載されているが,「ファンモーターを排気ガスによって回転させる」ことと「エンジン回転数が低い場合」との関係が明確でない。

<理由3>
特許法第36条第4項第1号は,発明の詳細な説明の記載について規定するもので,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載することが求められる。
(1)<理由2>の(1)に記載したように,請求項1,2に係る発明は,把握できないので,明細書の発明の詳細な説明を参照しても当業者がその実施ができるものではない。
(2)明細書の段落【0002】,【0005】,【0007】,【0010】の記載された「テコ作用」とは具体的にどの様な作用のことを表しているのか不明である。
(3)また,この「テコ作用」が請求項1,2に係る発明のどの発明特定事項のどの動作に関連するのかも不明である。
上記<理由3>の(2)(3)については,補正書に記載しても新規事項に該当する蓋然性が高いので,意見書において記載されたい。」

第4 判断
1.理由1(特許法第17条の2第3項)について
(1)出願当初の明細書の記載は以下のとおりである。
「【発明の名称】エンジンと多目的ファンモーター
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンと多目的ファンモーターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエンジンは,一般的に出力30%位排気損失35%冷却損失22%機械損失10%と言われています。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許公報第2524139号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】特開2015-94353
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
排気損失35%と冷却損失22%と機械損失10%できるだけ軽減して出力を上げて発電するエンジン
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は,強力磁石の反発作用や強力磁力を活用してタービンと多目的ファンモーターと回転軸を浮かせて重力を軽減して,吸気口及びタービン内部に多目的ファンモーターで,送風して発電力を向上及び冷却効果を出し,クーラントにも冷却効果を出し発電機を回転させ発電をして自動車の場合は,エンジンを停止してバッテリー走行時にも回生発電を実施して低燃費を実現させる。
【発明の効果】
【0007】
多目的ファンモーターによる出力アップと排気損失35%と冷却損失22%と機械損失10%をできるだけ軽減して排気ガスで多目的ファンモーターと発電機を回転させ回生して発電をする。
自動車の場合は,モーター走行時も回生をしてできるだけ発電をする。
電力消費はコンピューター制御と点火プラグと吸気バルブと遮断板に使用する電磁弁がメインなだけです。
従来のエンジンより性能が高い見込みです。
多目的ファンモーターを回転させ回転率を上げるとターボ車としても使用できます。普通はエンジンの回転数が上がらないとターボ効果は悪いですが,ターボスィッチを入れるとモータプラス排気ガスでファンを回転させるので低回転から早くターボ効果が出る見込みです。
また,ターボスィッチを切ると燃費の悪化を防止します。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の上から見た全体図の例
【図2】本発明のカーバを取ったエンジンの部分図の例
【図3】本発明の横から見たエンジン部分図(断面)A-A,
【図4】本発明の横から見た多目的ファンモーターの部分図
【図5】本発明の燃焼室付近の部分図
【図6】本発明の逆から見た風車(横)
【図7】本発明の上から見たクーラント循環用風車
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は,図1のように配置される。
【実施例】
【0010】
混合気を電磁弁を使用して燃焼室に入れる。
その時に同時に遮断板が下がり漏れが発生しないようにする。
バルブと遮断板が上昇したらスィッチが入り点火プラグで点火する。
爆発燃焼エネルギーがタービンを回転させ発電機も回転する。
排気ガスは多目的ファンモーターを回転させ発電機も回転する。
ファンモーターの回転により送風効果でエンジンとクーラントを冷却する。
クーラント循環用風車も回転させクーラントを循環させる。
モーター走行時にも回生をして発電する。
【符号の説明】
【0011】
1.ミッション
2.風車式クーラント循環装置(ポンプ)
3.クーラントタンク
4.排水管
5.フィルター
6.通風口
7.発電機
8.発電機またはモーター
9.ファンの羽根
10.ファンの羽根
11.吸気口
12.燃料機
13.発電機兼用モーター
14.燃焼室
15.点火プラグ
16.発電機兼用モーター
17.タービン
18.クーラント配管
19.タービン羽根
20.タービン主軸
21.吸気バルブ
22.排水コック
23.タービン羽根
24.多目的ファンモーター固定金具
25.電磁石装置
26.点火スィッチ
27.遮断板
28.点火プラグ
29.風車
30.風車下部循環用羽根
31.歯車
32.歯車
33.強力磁石
34.強力磁石
35.強力磁石
36.主軸
37.多目的ファンモーターのタービン羽根
注意点 強力磁石を使用しないと問題が発生する場合があります。
発電機やモーターも強力磁石を使用する事
多目的ファンモーターは複雑な構造になっていて排気ガスが漏れないように固定金具があります。
大型の多目的ファンモーターの場合は固定金具を増やして排気ガスが漏れないようにする

後,図面は一例としていますので,場合によって変更した方が便利です。
大型エンジンの場合はダブルタービンにする事も可能です。
エンジンの燃焼室付近はクーラント配管が図面上は記入がありませんが,理解しがたいた
め未記入にしました。
あらかじめご理解の方お願い申し上げます。」
また,出願当初の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである。
「【請求項1】
回転軸を磁気浮上させたファンモーターを排気ガスと場合によってモーターで回転させクーラントの冷却とエンジンの冷却と吸気口と通風口に送風して発電する多目的ファンモーター
【請求項2】
磁石の反発作用を活用して磁気浮上させたタービンを爆発燃焼エネルギーで回転させて,動力を発生させ発電機で発電をして,タービンの回転力でエンジン内部に送風冷却するエンジンでモーター走行も可能なエンジン
【請求項3】
磁石の反発作用を活用して磁気浮上させたタービンを爆発燃焼エネルギーで回転させ動力を発生させ発電機で発電して,排気ガスとモーターで多目的ファンモーターを回転させ発電とエンジン内部に送風とクーラント冷却循環と吸気口に強力な送風をする多目的ファンモータータービンエンジンで場合によってモータースィッチを切り燃費の悪化を防止するエンジン」

(2)平成28年11月21日付け手続補正書において,特許請求の範囲の請求項2に「不完全燃焼防止装置を取り付けた」エンジンとする補正がなされた。
一般的に「不完全燃焼」とは,「燃焼の際に酸素の供給が不十分で,一酸化炭素や煤が発生する現象。」(広辞苑第6版)であって,「不完全燃焼防止装置」とは,当該現象を防止するために燃焼の際の酸素の供給を十分にする装置と解されるが,そのような装置は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「当初明細書等」という。)に記載も示唆もなく,自明なものでもない。
当初明細書等の特許請求の範囲の請求項3に「場合によってモータースイッチを切り燃費の悪化を防止する」と記載され,当初明細書等の段落【0007】に「ターボスイッチを切ると燃費の悪化を防止します。」と記載されているものの,一般的に「燃費」とは,「1リットルの燃料で車が何キロメートル走れるかを示す燃料消費率。」(広辞苑第6版)であり,「燃費の悪化」とは,1リットルの燃料で車が何キロメートル走れるかを示す燃料消費率が小さくなることであって,「燃費の悪化」を防止するものが,必ずしも上述した「不完全燃焼防止装置」を表すものではない。
また,当初明細書等の特許請求の範囲の請求項2,3及び段落【0010】に「爆発燃焼エネルギー」という記載,当初明細書等の段落【0010】,【0011】に「燃焼室」という記載はあるが,この記載も「不完全燃焼防止装置」を表すものではない。
そうすると,平成28年11月21日付け手続補正書により補正された,請求項2の「不完全燃焼防止装置を取り付けた」エンジンは,当初明細書等に記載されておらず,自明なものでもないから,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものと認めることができない。
よって,この補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内のものではない。
(3)平成29年4月19日付け手続補正にて,明細書に対して「テコ作用」に関する記載,「不完全燃焼防止装置」に関する記載,具体的数値や各部寸法に関する記載等を追加する補正を行った。以下,平成29年4月19日付け手続補正書にて,明細書に追加された部分を示す。
(3-1)「テコ作用」及び「不完全燃焼防止装置」に関する記載
・「ジェットエンジンはテコ作用が小さく騒音も大きい。」(【0002】)
・「ピストン式エンジンもテコ作用は小さく,ロータリーエンジンは高温が発生する為に大型エンジンが実用化できない問題や不完全燃焼が発生する問題があった。」(【0002】)
・「従来のエンジンより不完全燃焼を防止してテコ作用をできるだけ出す高性能エンジンと高性能ファンモーターターボです。」(【0005】)
・「本発明はエンジンに不完全燃焼防止装置を取り付け不完全燃焼を防止して,エンジンに通風口を設けタービンの回転によりエンジンの内部を送風冷却する。」(【0006】)
・「テコ作用をエンジンの構造を活用してできるだけ出し,ロータリーエンジンでは製造実用化できなかった大型エンジンを実用可能にして不完全燃焼を防止して大型エンジンではテコ作用だけでも理論計算上約20倍の効果を出す。
計算例として,従来のディゼルエンジン20000CC8気筒の場合はシリンダー直径14.23524cm半径7.11762cmピストンの上下運動31.41592654cmクランクシャフトの円運動31.41592654cmクランクシャフトの円運動の直径は10cmでテコ作用はクランクシャフトの円運動の半径になるので5cmになります。
私の発明したエンジンの場合は例えば内径直径2m羽根の長さ3cm羽根の高さ1.5cmのタービンを使用すると(103×103×π×1.5)-(100×100×π×1.5)=2869.84489となり燃焼室の体積をプラスしても2900CC位の排気量で騒音も従来より小さい見込みです。
テコ作用は,タービンの内径半径に羽根の長さの約半分をプラスした数値で計算すると101.5cmになり従来のエンジンと比較すると20.3倍です。
燃焼室に入れる混合気の量を従来の20分の1にすると約20倍はテコ作用だけで燃費が向上する計算になります。」(【0007】)
・「私の発明したエンジンの場合は吸気バルブ1本と不完全燃焼防止装置に電力は消費しますが,タービンの上に発電機があり発電するので実質は冷却損失がゼロとエアコン●ラジエーター,パワステ,点火プラグ,ライト,カーナビ,不完全燃焼防止装置,燃料機,制動灯に使用する電力より発電する予定です。
また,私の発明したエンジンの場合タービンの回転により空気を取り入れ冷却するのとテコ作用が約20倍あるので発生する熱量は20分の1位を冷却するので消費電力は大幅に軽減する見込みです。」(【0007】)
・「エンジンに空気を取り込む事によりタービンに加わる圧力は従来のエンジンより高くなり,不完全燃焼防止装置の効果もあるので燃費はその分,向上する見込みです。」(【0007】)
・「それを私の発明したエンジンに仮定すると55%になり機械損失が8%向上すると63%位で一般的エンジン出力30%の約2倍となりテコ作用が20倍なので合計は約40倍従来のエンジンより燃費が向上する見込みです。」(【0007】)
これらの補正により「テコ作用」に関し具体的な寸法関係の記載が追加されたが,これらは,当初明細書等に記載も示唆もなく,自明なものでもないから,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものと認めることができない。
また,これらの補正により「不完全燃焼防止装置」に関する事項が追加されたが,上記(2)で述べたとおり,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものと認めることができない。
(3-2)具体的数値や各部寸法に関する記載
・「燃料タンクも従来200lを10l位にできる見込みです。
磁石の反発作用でタービンと軸と歯車を浮かせるので推定機械損失は8%位向上が見込めます。」(【0007】)
・「エンジンの内部直径110cm・タービンの内径107cm・羽根の長さ1.5cm・高さ1.5cmです。
従来の軽自動車のテコ作用は1.92825782cm位で私の発明したエンジンはタービンの半径53.5cmに羽根の長さ1.5cm÷2を合計した54.25cmがテコ作用になります。
ピストン式エンジンの28.13420458倍になりますので混合気は,従来の約25分の1位にした方がいいと思います。」(【0010】)
・「燃費がいいので燃料タンクは5l位でいいと思います。(【0010】)
・「単純計算では約40倍燃費がいいため発生する熱量も少量になりますのでクーラント使用量は2l位でいいと思います。」(【0010】)
・「タービンの上下には図面には書いていませんが,5mm位の板を取り付けて爆発圧力が逃げないようにしてください。」(【0010】)
これらの補正により追加された具体的数値や各部寸法に関する記載は,当初明細書等に記載も示唆もなく,自明なものでもないから,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものと認めることができない。
(3-3)その他の記載
・「排気損失は従来35%と言われていますが私の発明したエンジンの場合は,爆発燃焼圧力と排気ガスが,タービンを約半回転して遠心力排気をするので大幅に向上が見込まれます。」(【0007】)
・「それに耐熱構造になっています。
しかし,発明したエンジンにパワーがあるので自動車には,多目的ファンモーターターボは使用しない方がいいと思います。」(【0007】)
・「例として,エンジンを軽自動車に使用した場合は,多目的ファンモーターターボはエンジン性能が高い為に使用しない見込みです。」(【0010】)
・「パワステは別に電動モーターを使用してください。(エンジンを停止する場合がある為です。)
タービンの上に発電機があるので性能がいい発電機を使用すればバッテリーがなくなる事はない見込みです。
ファンモーターターボを使用しない場合は,ファンモーターを取り付けてください。」(【0010】)
・「点火プラグは1本だけで排気は排気バルブはなく遠心力排気システムです。
エンジンの組立は磁石の反発作用でタービンを浮かせた後にエンジンの外カバーを取り付けてその後発電機を取り付けてください。
磁石はサビに強い磁石を使用した方がよく,磁石付近は水分が高くならないようにカバーを取り付けてください。 」(【0010】)
これらの補正により追加された下線部の事項には,エンジンの効率,ファンモータターボの使用方法,パワステの構成,排気システム等についての記載があるが,これらは当初明細書等に記載も示唆もなく,自明なものでもないから,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものと認めることができない。
(3-4)よって,平成29年4月19日付け手続補正書による補正のうち,上記(3-1)?(3-3)の下線部の補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲内のものではない。
(4)小括
したがって,平成28年11月21日付け及び平成29年4月19日付けの手続補正書による補正は,特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしていない。

2.理由2(特許法第36条第6項第2号)について
(1)請求項1には,「ファンモーターを排気ガスによって回転させるのとエンジンの回転数が低い場合はターボの効果が悪いのでファンをモーターで回転させる事により通常より高いターボ効果を出す。」と記載されているが,「?回転させるのと」という記載があるため,「ファンモーターを排気ガスによって回転させる」場合と「エンジン回転数が低い場合」の両方の場合にターボの効果が悪くなるという意味か,または,ファンモーターを排気ガスによって回転させることによりエンジン回転数が低くなりターボ効果が悪くなるという意味か,それとも,「ファンモーターを排気ガスによって回転させる」が,「エンジンの回転数が低い場合はターボの効果が悪いのでファンをモーターで回転させる」という意味か,それ以外か,いずれを意味しているのかが不明である。
また,「ファンモーター」という語句と,「ファン」,「モーター」なる語句が特定されている。通常,語句が異なれば,別々の物として理解されることになるが,「ファンモーター」と「ファン」と「モーター」はそれぞれ別々の物なのか,それとも,「ファン」や「モーター」は「ファンモーター」の部品の一部であるのかが不明である。
さらに,「ファンモーター」は通常モーターによってファンを回転させるものであるが,どのようにして排気ガスによって回転させるのか不明であり,しかも「ファンモーター」が図面のどの部材であるのかが把握できないため構成が不明である。
(2)請求項1は,次の4つの部分ア.?エ.からなる。
ア.「ファンモーターを排気ガスによって回転させるのとエンジンの回転数が低い場合はターボの効果が悪いのでファンをモーターで回転させる事により通常より高いターボ効果を出す。」
イ.「また,ターボ効果を必要としない場合は,モータースィッチを切り燃費の悪化を防止する。」
ウ.「それと多目的ファンモーターターボにより送風をしてクーラントの冷却とエンジン外部冷却及びエンジンの通風口よりエンジン内部冷却とエンジンの吸気口に冷却送風する。」
エ.「また発電もする多目的ファンターボ」
上記アの,「ターボの効果が悪いのでファンをモーターで回転させる事により通常より高いターボ効果を出す」際に,上記イの,「ターボ効果を必要としない場合」が発生した場合にモータースィッチを切り燃費の悪化を防止するのか否か特定できず構成が不明である。
上記ウ,エは多目的ファン(モーター)ターボに関する構成であるのに対して,上記ア,イは多目的ファン(モーター)ターボの構成か不明であるので,請求項1に係る発明は,これら4つの部分の構成がそれぞれの発明であるのか,それとも4つの部分の構成のすべての構成を備えた一つの発明であるのか不明である。
(3)特許請求の範囲の請求項1,2に記載された発明特定事項(特に,請求項1の「ファンモーター」,「ファン」,「モーター」,「モータースイッチ」,「多目的ファンターボ」,請求項2の「不完全燃焼防止装置」)と,図面に記載された実施例の部材の名称が一致していないことにより対応関係が明確でないため,請求項1,2に係る発明の構成を特定することができない。
例えば,「ファンモーター」に対応するものとして,図面の発電機またはモータ-8,ファンの羽根9,10,発電機兼用モーター13,16,多目的ファンモーターターボ固定金具24,多目的ファンモーターターボのタービン羽根37が考えられ,請求項1の「ファンモーター」が図面に記載されたどの部材に対応するのか明確でないため,ひいては発明の構成が特定できず不明である。
「ファン」に対応するものとして,図面のファンの羽根9,10,多目的ファンモーターターボ固定金具24,多目的ファンモーターターボのタービン羽根37が考えられ,請求項1の「ファン」が図面に記載されたどの部材に対応するのか明確でないため,ひいては発明の構成が特定できず不明である。
「モーター」に対応するものとして,図面の発電機またはモーター8,発電機兼用モーター13,16が考えられ,請求項1の「モーター」が図面に記載されたどの部材に対応するのか明確でないため,ひいては発明の構成が特定できず不明である。
「モータースイッチ」に対応するものとして,図面には対応する部材がなく,請求項1の「モータースイッチ」が図面のどの部材に対応するのか明確でないため,ひいては発明の構成が特定できず不明である。
「多目的ファンターボ」に対応するものとして,図面の多目的ファンモーターターボ固定金具24,多目的ファンモーターターボのタービン羽根37が考えられ,請求項1の「多目的ファンターボ」が図面のどの部材に対応するのか明確でないため,ひいては発明の構成が特定できず不明である。
「不完全燃焼防止装置」に対応するものとして,図面には,対応する部材は記載されておらず,請求項2の「不完全燃焼防止装置」が図面のどの部材に対応するのか明確でなく,さらに「不完全燃焼防止装置を取り付けたエンジン」も図面のどの部材に対応するのか明確でないため,ひいては発明の構成が特定できず不明である。
(4)請求人は意見書等で本願発明のポイントとして「テコ作用」について主張しているが,請求項1,2に係る発明のどの発明特定事項が「テコ作用」(後述する「3.(2)」の記載を参照のこと。)に対応するのかも不明である。また,テコ作用が,タービンの内径半径に羽根の長さの約半分をプラスした長さのことである(後述する「3.(2)」の記載を参照のこと。)と仮定しても,当該長さを大きくすることは,請求項1,2に係る発明において何ら特定されていない。
よって,請求人の「テコ作用」に関する主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであり,失当である。
(5)小括
したがって,本願は,特許請求の範囲の記載が明確でないため,特許法第36条第6項第2項の規定を満たしていない。

3.理由3(特許法第36条第4項第1号)について
(1)明細書の発明の詳細な説明はどの様な技術的な構成が開示されているのか不明であり,請求項1,2に係る発明も上記2.で記載したように記載が不明であるため,発明の詳細な説明は,請求項1,2に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
(2)明細書の段落【0002】,【0005】,【0007】,【0010】に「テコ作用」とある。「テコ」とは「重いものを手でこじ上げるのに用いる棒。」(広辞苑第6版)であり,「テコの原理」とは「棒の1点を支点とし,小さな力を支点から遠い点(力点)に加えると,支点に近い点(作用点)で大きな力が得られるという原理。」(広辞苑第6版)であり,これらの前提では,支点,力点,作用点があるはずであるが,明細書の段落【0002】,【0005】,【0007】,【0010】の記載では,支点,力点,作用点がどこにあるのか不明であり,テコを形成しているのか否か不明である。
明細書の段落【0007】の記載からみて,「テコ作用」について,従来のデーゼルエンジンの場合は,クランクシャフトの円運動の半径になること,本願では,タービンの内径半径に羽根の長さの約半分をプラスした数値になること,審判請求書を参照すると,従来のロータリーエンジンの場合は,ローターの半分になることは記載されているが,これらの「テコ作用」とされた長さの定義が不明であり,物理的にどの様な作用を行い,どの様な技術的な意義を有するのかは不明である。
平成30年8月15日付け意見書には,「逃げる力の作用」が小さいと「テコ作用」が大きくなる旨記載されているが,当該意見書を参照しても,「逃げる力の作用」の物理的な定義が不明であるため,「テコ作用」も依然として不明である。。
(3)小括
したがって,発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから,本願は,特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない。

第5 むすび
以上のとおり,平成28年11月21日付け及び平成29年4月19日付けの手続補正書による補正は,特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしておらず,また,本願は,明細書,特許請求の範囲,及び図面の記載が特許法第36条第6項第2号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていないから,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-10-31 
結審通知日 2018-11-06 
審決日 2018-11-19 
出願番号 特願2016-146762(P2016-146762)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (F02G)
P 1 8・ 537- WZ (F02G)
P 1 8・ 55- WZ (F02G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新井 浩士  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 柿崎 拓
藤井 昇
発明の名称 エンジンと多目的ファンモーターターボ  

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