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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B65D
審判 一部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1357628
異議申立番号 異議2019-700414  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-22 
確定日 2019-10-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6431582号発明「キャップ付容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6431582号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6431582号の請求項5に係る特許を維持する。 特許第6431582号の請求項1及び4に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6431582号(以下「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成25年6月19日にされた特許出願(特願2013-128369号、以下「原出願」という。)の一部を、平成29年8月21日に新たに特許出願したものであり、平成30年11月9日に特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成30年11月28日)がされた。その後、請求項1、4及び5に係る特許について、令和1年5月22日に特許異議申立人青山裕樹(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において令和1年7月22日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である令和1年9月19日に訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)がされたものである。
なお、以下の「第2」で述べるように、本件訂正は、特許異議の申立てがされた請求項1、4を削除して、申立てがされていない請求項2及び3、並びに請求項2又は3を引用する請求項5についてのみされたものであるため、特許法第120条の5第5項ただし書の特別の事情があると認め、本件訂正請求に関し、申立人に対して意見書を提出する機会を与えなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正の内容は次の訂正事項(1)?(7)のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2について、独立形式に改め、「容器と、該容器の口金部に装着されて密栓するキャップとを備えるキャップ付容器であって、前記キャップは、天面部と該天面部の周縁から略垂下されてなる円筒部とを備えるキャップ本体と、前記天面部の内面に設けたライナとを備え、前記ライナは、前記天面部の内面側に配置され該天面部と摺動する摺動層と、前記摺動層に積層され該摺動層よりも軟質で前記容器と接触する密封層とを有し、前記キャップは前記ライナを前記口金部に圧接した状態で該口金部に巻き締められて装着されており、
前記キャップにより前記容器を密栓した状態において、前記摺動層の一部が前記天面部と接着状態に設けられており、
前記摺動層と前記天面部との摺動開始の際のトルクのピーク値発生位置は、前記キャップの閉栓位置から10°以内であることを特徴とするキャップ付容器。」と訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項3及び5も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1から4のいずれか一項記載のキャップ付容器。」とあるのを、「請求項2又は3に記載のキャップ付容器。」と訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の段落【0008】に「巻き締められて装着されており、」とあるのを「巻き締められて装着されており、前記キャップにより前記容器を密栓した状態において、前記摺動層の一部が前記天面部と接着状態に設けられており、」と訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0011】の「本発明のキャップ付容器において、前記キャップにより前記容器を密栓した状態において、前記摺動層の一部が前記天面部と接着状態に設けられているとよい。」の記載を削除する。
(7)訂正事項7
明細書の段落【0012】の「また、本発明のキャップ付容器において、前記摺動層は前記天面部に接着されていないものとすることができる。」の記載を削除する。

2.訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の追加の有無、独立特許要件及び一群の請求項
(1)訂正事項1について
本件訂正の訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと、及び新規事項の追加に該当しないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
本件訂正の訂正事項2は、請求項2について請求項1との引用関係を解消するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号の他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと、及び新規事項の追加に該当しないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
本件訂正の訂正事項3は、請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと、及び新規事項の追加に該当しないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項4について
本件訂正の訂正事項4は、「請求項1から4のいずれか一項」を引用していた本件訂正前の請求項5について、上記訂正事項1及び3により請求項1及び4を削除することに伴い、「請求項2又は3」を引用するものとして、引用請求項の整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと、及び新規事項の追加に該当しないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(5)訂正事項5?7について
本件訂正の訂正事項5?7は、訂正事項1?4による特許請求の範囲の請求項1?5の記載の訂正に整合するように、明細書の記載を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと、及び新規事項の追加に該当しないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(6)独立特許要件
本件訂正の訂正事項2は、特許異議の申立てがされていない請求項2及び3に係る訂正であるが、当該訂正は前記(2)のとおり特許法第120条の5第2項ただし書第4号の他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
したがって、前記訂正事項2に関し、同法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
(7)一群の請求項
本件訂正前の請求項1?5は、請求項2?5がそれぞれ請求項1を直接又は間接に引用する関係にあり、前記訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正請求は、当該一群の請求項1?5に対して請求されたものである。
また、訂正事項5?7による明細書の訂正に係る請求項は、請求項1及びこの請求項1を直接又は間接に引用する請求項2?5であり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項に規定する、一群の請求項の全てについて行われたものである。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2のとおり本件訂正請求は認容されるから、本件特許の請求項2、3、5に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項2、3、5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項2】
容器と、該容器の口金部に装着されて密栓するキャップとを備えるキャップ付容器であって、前記キャップは、天面部と該天面部の周縁から略垂下されてなる円筒部とを備えるキャップ本体と、前記天面部の内面に設けたライナとを備え、前記ライナは、前記天面部の内面側に配置され該天面部と摺動する摺動層と、前記摺動層に積層され該摺動層よりも軟質で前記容器と接触する密封層とを有し、前記キャップは前記ライナを前記口金部に圧接した状態で該口金部に巻き締められて装着されており、
前記キャップにより前記容器を密栓した状態において、前記摺動層の一部が前記天面部と接着状態に設けられており、
前記摺動層と前記天面部との摺動開始の際のトルクのピーク値発生位置は、前記キャップの閉栓位置から10°以内であることを特徴とするキャップ付容器。
【請求項3】
前記ライナと前記天面部との接着力は、前記摺動層と前記天面部との間の静止摩擦力よりも小さいことを特徴とする請求項2記載のキャップ付容器。
【請求項5】
前記トルクのピーク値が40N・cm以上100N・cm以下とされていることを特徴とする請求項2又は3に記載のキャップ付容器。

第4 特許異議の申立てについて
請求項1及び4に係る特許は、上記のとおり、本件訂正により削除されたため、以下、請求項5に係る本件発明5について検討する。
1.取消理由の概要
本件発明5に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
理由1)本件特許は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由2)本件発明5は、原出願の出願前に頒布された甲第1号証(特開2008-213039号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由3)本件発明5は、原出願の出願前に頒布された上記甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.当審の判断
(1)理由1(特許法第36条第6項第2号)について
特許権者に通知した取消理由の理由1は、訂正前の請求項1の「前記摺動層と前記天面部との摺動開始の際のトルクのピーク値発生位置は、前記キャップの閉栓位置から10°以内である」との記載について、「トルクのピーク値」とは具体的に何を意味するのか明らかでなく、摺動層と天面部との摺動開始の際のトルクのピーク値発生位置は、キャップの閉栓位置から0°にほかならないと解されるところ、上記「10°以内」の数値範囲のうち0°以外の数値がどのような技術的意味を有するのか明らかでない、との不備があるというものである。
そこで、本件発明5についてみると、本件発明5は本件発明2の発明特定事項をすべて含むものであり、上記「前記摺動層と前記天面部との摺動開始の際のトルクのピーク値発生位置は、前記キャップの閉栓位置から10°以内である」との事項を含むものであるが、同じく、本件発明2の「前記キャップにより前記容器を密栓した状態において、前記摺動層の一部が前記天面部と接着状態に設けられており、」との事項も含むものである。ここで、本件明細書には、「接着部分によって開栓時の抵抗を高めることができる。・・・・摺動層と天面部とが摺動を開始するために要するトルクのピーク値の大きさを容易に調整することができる」(段落【0011】)、「キャップの閉栓位置から10°以内に摺動層と天面部との摺動開始位置を設ける」(段落【0010】)と記載されており、これらの記載からみて、本件発明5の「トルクのピーク値」は、摺動層と天面部との間の接着状態が解除され摺動を開始するために要するトルクのピーク値を意味し、また、本件発明5の「10°以内」の数値範囲のうち0°以外の数値は、キャップの閉栓位置から接着状態が解除される位置までを意味するものと解される。
そうすると、上記「前記摺動層と前記天面部との摺動開始の際のトルクのピーク値発生位置は、前記キャップの閉栓位置から10°以内である」との事項を含む本件発明5の記載が、明確でないとまではいえない。

(2)理由2(特許法第29条第1項第3号)及び理由3(特許法第29条第2項)について
ア.甲第1号証(特に【0001】、【0025】?【0028】、【0036】、【0047】、【0058】、【0074】?【0075】、図2、4)には、以下の「甲1発明」が記載されている。
「ボトル本体13と、口金部7に取り付けられて密封するキャップ1とを備えるキャップ付きボトル6であって、キャップ1は、天板部2と天板部2の周縁から垂下した筒状周壁部3とからなるキャップシェル4と、天板部2の内面に設けたライナー5とを備え、ライナー5は、天板部2の内面に接して配され、キャップシェル4の内天面と摺動する硬質シート5aと、硬質シート5a上に樹脂成型で形成され硬質シート5aよりも柔軟で口金部7に接する軟質層5bとを有し、キャップ1は、ライナー5が口金部7に圧接される状態で、これによりボトル6の内容物が密封された状態で口金部7に巻き締めた状態で備えられているキャップ付きボトル6。」
イ.本件発明5と甲1発明とを対比すると、
本件発明5が、キャップにより容器を密栓した状態において、摺動層の一部が天面部と接着状態に設けられており、摺動層と天面部との摺動開始の際のトルクのピーク値発生位置は、キャップの閉栓位置から10°以内であるのに対し、甲1発明は、そうではない点(以下「相違点1」という。)、
本件発明5が、トルクのピーク値が40N・cm以上100N・cm以下とされているのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点(以下「相違点2」という。)で相違し、その余で一致する。
ウ.上記相違点1について検討する。
甲第1号証には、ライナー5の一部とキャップシェル4との間を接着状態とすることは記載されていない。むしろ、ライナー5をキャップシェル4に硬質シート5aで接するようにして、摩擦抵抗が低く温度依存性の少ない開栓トルク値が得られる(甲第1号証の段落【0047】)ようにしたものであるから、ライナー5の一部とキャップシェル4との間を接着して、抵抗を増やす動機付けがない。
そうすると、上記相違点1は実質的な相違点であり、本件発明5の上記相違点1に係る構成は、甲1発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものではない。
エ.よって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明5は、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア.申立人は、甲第1号証のほか、甲第2号証(特許第3456684号公報)、甲第3号証(特開平11-37870号公報)及び甲第4号証(特開平7-134076号公報)を提出して、特許異議申立書(8頁9行?9頁12行)において、本件発明5は、甲1発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された事項に基いて、あるいは、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができた旨主張する。
しかし、甲第1号証?甲第4号証のいずれにも、「摺動層の一部が天面部と接着状態に設けられ」るとの事項が、記載も示唆もされていないから、申立人の主張は採用することができない。
イ.また、申立人は、特許異議申立書(9頁13行?10頁11行)において、ライナーと天面部とが部分的に接着されていることが限定されていないことによるサポート要件に係る理由を主張する。
しかし、上述のとおり、本件発明5は、本件発明2の「前記キャップにより前記容器を密栓した状態において、前記摺動層の一部が前記天面部と接着状態に設けられており、」との事項も含むものであり、申立人の主張は採用できない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件発明5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正により、請求項1及び4に係る特許は削除されたため、請求項1及び4に対して申立人がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
キャップ付容器
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料用等のキャップが螺着されるねじを有する容器を密封するライナ付キャップを備えるキャップ付容器に関する。
【背景技術】
【0002】
スチールやアルミニウム合金等からなる容器に装着されるキャップとして、金属製のキャップ本体と、そのキャップ本体の天面部内面に設けられたライナとを備えたものが知られており、キャップの閉止時に、このライナが容器の口金部の頂部に当接し、内部を密封し得るようになされている。
【0003】
このようなライナを備えるキャップ(ライナ付キャップ)においては、従来、キャップ本体の天面部内面に熱した樹脂球を落下させ、成形金型で型押成形することで、所定の形状のライナを形成するインシェルモールドタイプの金属キャップが主流であった。しかし、このようなライナ付キャップは、キャップ本体の天面部とライナを接着させているので、開栓時に容器の口金部とライナとが擦れ合ってトルクが非常に高くなり、開栓し難くなることが問題であった。
【0004】
そこで、特許文献1のように、キャップ本体の天面部(天板部)近傍の側部に内側に突出形成されたフック部(屈曲部)を設けて、シート状に成形したライナをキャップ本体に係止することが行われている。このキャップにおいては、ライナは天面部の内面(天面)に接着せずに、フック部と天面部の内面との間に配置されることにより、キャップ本体に取り付けられるようになっている。また、特許文献1では、ライナは摺動層と軟質層とにより構成され、このライナは、キャップ本体に摺動層となるポリプロピレン等の硬質シートを挿入した後で、その硬質シート上に密封層としてエラストマー等の樹脂(軟質層)をモールド成形して形成することが記載されている。
このようなライナ付キャップは、キャップ付容器を開栓する過程において、開栓始めは、容器の口金部の開口端部にライナの軟質層が密接し、ライナの摺動層とキャップ本体の天面部の内面とが摺動することにより、キャップ本体が開栓することから、飛躍的に開栓時のトルクを下げることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008‐213039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、キャップ付容器の開栓初期において、キャップが口金部のねじ部のリード角に沿って持ち上げられてキャップブリッジが切断される前に、稀にキャップが僅かな抵抗で回転することがあった。この回転は、特に品質には問題ないが、使用者において容器が密閉されていないという違和感を覚えることが問題となっていた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、容器開栓時のトルクを比較的低い状態で維持できるとともに、開栓時初期において微小なトルクにより回転することを防止することができるキャップ付容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、容器と、該容器の口金部に装着されて密栓するキャップとを備えるキャップ付容器であって、前記キャップは、天面部と該天面部の周縁から略垂下されてなる円筒部とを備えるキャップ本体と、前記天面部の内面に設けたライナとを備え、前記ライナは、前記天面部の内面側に配置され該天面部と摺動する摺動層と、前記摺動層に積層され該摺動層よりも軟質で前記容器と接触する密封層とを有し、前記キャップは前記ライナを前記口金部に圧接した状態で該口金部に巻き締められて装着されており、前記キャップにより前記容器を密栓した状態において、前記摺動層の一部が前記天面部と接着状態に設けられており、前記摺動層と前記天面部との摺動開始位置は、前記キャップの閉栓位置から10°以内であることを特徴とする。
【0009】
キャップ本体と接触する側に硬質で滑性のある摺動層を設け、容器と接する側に軟質な密封層を設けているので、開栓時はライナを摺動層とキャップ本体との間で滑らせることができ、少ない力で開栓することができるとともに、開栓前は密封層により良好に密封状態を維持することができる。
【0010】
キャップの閉栓位置から10°以内に摺動層と天面部との摺動開始位置を設けることで、使用者は、キャップの開栓時初期の早い段階(回転初期)で抵抗を感じることができ、開栓時の違和感をより一層緩和させることができる。
【0011】
摺動層を部分的にキャップ本体の天面部に接着することにしているので、キャップを容器に巻き締めた状態において、その接着部分によって開栓時の抵抗を高めることができる。そして、ライナと天面部との接着面積を増減することにより、その抵抗の大きさを微調整することが可能であり、摺動層と天面部とが摺動を開始するために要するトルクのピーク値の大きさを容易に調整することができる。
【0012】
本発明のキャップ付容器において、前記ライナと前記天面部との接着力は、前記摺動層と前記天面部との間の静止摩擦力よりも小さいとよい。
本発明のキャップ付容器において、前記キャップの開栓時初期において前記摺動層と前記天面部とが摺動を開始する際のトルクのピーク値が40N・cm以上100N・cm以下とされるとよい。
開栓時初期において、摺動層と天面部とが摺動を開始するために要するトルクのピーク値が40N・cm以上であれば、僅かな抵抗によってキャップが回転することを防止することができる。一方、摺動層と天面部とが摺動を開始する際のトルクのピーク値が100N・cmを超えると、使用者がキャップの開栓時初期において抵抗を重たく感じることがあるので、トルクのピーク値は、100N・cm以下とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、容器開栓時のトルクを比較的低い状態で維持できるとともに、開栓時初期において微小なトルクにより回転することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態のキャップ付ボトル缶のライナ付キャップを破断した要部側面図である。
【図2】図1に示すキャップ付ボトル缶の部分断面図である。
【図3】ボトル缶に巻き締める前のライナ付キャップを示す一部破断した側面図である。
【図4】図3に示すライナ付キャップのA矢視図(平面図)である。
【図5】図4を拡大した要部平面図である。
【図6】本実施形態においてライナ付キャップの製造工程を示す説明図である。
【図7】接着防止措置が施されたキャップ本体の平面図である。
【図8】実施例の開栓トルクチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るライナ付キャップを備えるキャップ付容器の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
本実施形態のキャップ付容器は、図1及び図2に示すように、例えば38mm口径のアルミニウム又はアルミニウム合金製(金属製)のボトル缶2(本発明でいう、容器)と、このボトル缶2の口金部21に装着されて密栓するピルファープルーフキャップ(PPキャップとも称す。)となるライナ付キャップ3とからなる、キャップ付ボトル缶1とされる。
【0016】
また、図1及び図2に示すライナ付キャップ3は、アルミニウム又はアルミニウム合金の板材をカップ状に成形したものをボトル缶2に装着しており、装着前のライナ付キャップ3は、図3及び図4に示すように、天面部41と、その天面部41の周縁から略垂下されてなる円筒部42とを備えるキャップ本体4と、そのキャップ本体4の内面に設けたライナ5とを有する。
【0017】
キャップ本体4を成形する板材は、内外面を塗装(内面:サイズニス+トップコート、外面:サイズコート+トップコート(ツヤニス))した塗装板を使用している。なお、内外面のトップコートには、必要に応じて各種滑材添加タイプを使用する。例えば、天面部41の内面には、エポキシフェノール等の樹脂に滑材としてポリオレフィン系ワックス等が添加された塗料が焼付けられている。
【0018】
ライナ5は、ボトル缶2のライナ付キャップ3による閉止時に口金部21に当接し、ボトル缶2の内部を密封し得るように形成されている。そして、ライナ5は、キャップ本体4の天面部41の内面側に配置され、その天面部41の内面と摺動する摺動層51と、摺動層51に直接又はバリア層等の中間層を介して積層され、摺動層51よりも柔軟で外径の小さい密封層52とから構成される多重構造とされている。また、ライナ5は、摺動層51の一部が天面部41と接着状態に設けられている。その詳細については後述する。
【0019】
摺動層51は、ポリプロピレン等により円盤状に形成されている。また、密封層52は、摺動層51よりも軟質のエラストマー樹脂等により形成され、シール機能を有するものである。この密封層52は、図4に示すように、摺動層51に対し同軸で、かつ摺動層51より小径の円形に形成されている。また、密封層52は、ボトル缶2の口金部21に密着する外周部54が、中心部55よりも厚く形成されている。
【0020】
また、キャップ本体4の円筒部42は、その下端面に周方向に断続的に形成されたスリット43を介して上下に分割された筒上部44と筒下部45とを有し、隣接するスリット43間に形成される複数のブリッジ43aによって筒上部44と筒下部45とを連結した形状とされている。
【0021】
そして、図1に示すように、このライナ付キャップ3が装着されるボトル缶2の口金部21には、その下端部に半径方向外方に突出する膨出部22が形成され、その上方にボトル側ねじ部23、ボトル側ねじ部23の上方に開口端部を丸めてなるカール部24が形成されている。口金部21に被せられたライナ付キャップ3は、膨出部22、ボトル側ねじ部23、カール部24の形状に沿うように、例えば、ネジローラー(図示略)で円筒部42を内方に押圧することにより塑性変形される。これにより、ボトル側ねじ部23に倣うようにキャップ側ねじ部46が形成され、口金部21に装着されたライナ付キャップ3は、円筒部42の下端部が膨出部22の下面に係止され、ライナ5がカール部24に圧接されて、ボトル缶2を密封状態としてキャップ付ボトル缶1とされる。
【0022】
キャップ本体4の円筒部42は、図3に示すように、筒上部44の天面部41近傍に、周方向に複数並べられたナール凹部11と、開栓時に内圧を開放する開口部12を有するとともにライナ5を係止する複数のフック部13とが形成されている。
ナール凹部11及びフック部13は、円筒部42の外周面において凹形状をなしており、これらが間隔をあけて配置されることにより円筒部42の外周面に凹凸表面が形成され、開栓時にライナ付キャップ3を把持する指との間の摩擦抵抗を増大させることができる。これにより、手を滑らせることなく把持することが可能となり、容易に開栓することができる。
【0023】
また、フック部13は、円筒部42の周方向に沿って形成した切り込みの下方部分を半径方向内方に押し込むことによって形成されており、図4及び図5に示すように、半径方向内方に山形(V字状)に突出形成されている。そして、切り込みが開くことにより、開口部12が形成されている。
また、フック部13の上端面15は、図3に示すように、少なくともライナ5を構成する摺動層51の厚さ分だけ天面部41の内面から離れた位置に形成されている。そして、各フック部13により構成される内接円C(図4)は、ライナ5の摺動層51の外径より小さく設定されており、この摺動層51がフック部13の上端面15と天面部41の内面との間に配置されることにより、ライナ5がキャップ本体4に取り付けられる。
なお、開口部12は、ライナ付キャップ3がブリッジ43aを破断しつつ回転操作された際、ボトル缶2の内部のガスを外部に放出するためのベントホールとして機能する。また、ライナ5の厚みやライナ5を構成する摺動層51の外径、密封層52の外径等は、キャップ本体4の寸法に応じて決定される。
【0024】
次に、本実施形態のライナ付キャップ3の製造方法を、図6を参照して説明する。
(塗装工程)
まず、キャップ本体4を形成する板材40の内外面を塗装する。通常、キャップ本体4の内面側とされる表面にサイズコート及びトップコートを施し、外面側とされる表面にサイズコートを必要に応じて印刷し、次にトップコート(ツヤニス)を塗布する。これらの厚さは、一般に1?10μmであり、各々は150?200℃で8?12分間焼付け乾燥される。
【0025】
(キャップ本体成形工程)
そして、この塗装された板材40に、潤滑剤を塗布してプレスでカップ状に打ち抜くことによりキャップ本体4の天面部41と円筒部42とを形成する。なお、ナール凹部11やフック部13等は、後述する工程において加工される。
【0026】
(接着防止措置工程)
次に、天面部41の内面に接着防止措置を施す。接着防止措置は、例えば、不揮発性有機液体(グリセリン又はシリコーンオイル等)を塗布したり、レーザー照射により板材40の塗装面を変質させてマスキングを形成したりすることにより行われる。また、塗装工程において、板材40の塗装面にマスキング用インキ(ラッカー)を塗布することにより予め接着防止措置を施しておくことも可能である。
そして、これら接着防止措置を施すに際し、図7に示すように、天面部41の内面の全面に接着防止措置を施すのではなくて、内面の一部について未処理部分62を残しておく。なお、符号61は、接着防止措置が施された部分を示す。
【0027】
(摺動層成形工程)
そして、接着防止措置が施されたキャップ本体4に、樹脂のモールド成形により摺動層51を形成する(インシェルモールド)。摺動層51の成形は、キャップ本体4を開口端部が上向きとなるように載置した状態で行われる。
まず、天面部41の内面側中央に押出機から押し出され溶融したポリエチレン等の硬質樹脂の一定量を供給し、直ちに冷却された金型M1で押圧して摺動層51を成形する。この際、天面部41の内面側中央に供給(滴下)された樹脂は、金型M1で押圧されることにより放射状に拡がって成形され、摺動層51が形成される。また、天面部41の内面には、一部の未処理部分62を除いて接着防止措置が施されていることから、摺動層51は、未処理部分62のみが天面部41の内面に接着状態とされ、その他の部分は非接着状態のままでキャップ本体4内部に成形される。
【0028】
(フック部形成工程)
次に、天面部41の内面上に摺動層51を形成した状態で、円筒部42の周方向に沿って切り込みを形成し、その切り込みの下方部分を半径方向内方に押し込むことによって切り込みを開き、半径方向内方に山形(V字状)に突出させたフック部13を形成する。この際、切り込みが開くことにより、開口部12が形成される。そして、フック部13が形成されることにより、摺動層51がキャップ本体4から抜けることなく、キャップ本体4に係止される。
なお、フック部13及び開口部12を形成する際に、ナール凹部11及びブリッジ43a等の加工も施される。
【0029】
(密封層成形工程)
そして、密封層52は、キャップ本体4内に摺動層51が形成された状態で、モールド成形用の金型M2をキャップ本体4内に挿入し、エラストマー樹脂等を樹脂成形することにより形成される。
モールド成形用の金型M2の外径は、フック部13の内接円C(図4参照)よりも小さく設定されており、フック部13の先端が、金型M2を挿入する際の金型M2のガイドの役割を果たすことにより、金型M2のセンタリング(位置決め)が行われる。
また、押出機から押し出され溶融したエラストマー等の軟質樹脂の一定量を、キャップ本体4に支持される摺動層51の中央に供給(滴下)し、直ちに冷却された金型M2で押圧することにより密封層52を成形することにより、摺動層51と密封層52とからなるライナ5が形成される。そして、ライナ5は、未処理部分62によりキャップ本体4内に部分的に接着状態に設けられ、本発明のライナ付キャップ3が形成される。
この際、密封層52は、摺動層51に対し同軸でかつ小径の円形に形成されるとともに、ボトル缶2の口金部21に密着する外周部54が、中心部55よりも厚く形成される。
【0030】
なお、摺動層51と密封層52とは、材料を選択することにより成形時に完全に接着するが、接着が弱い場合は、摺動層51を成形した後で、摺動層51の表面にコロナ放電処理、グロー放電処理、プラズマ処理、アンカーコート処理、接着剤塗布等の表面処理工程を加えてもよい。
【0031】
そして、上記のライナ付キャップ3をボトル缶2の口金部21に被せた状態でキャッピング加工を施すことにより、ライナ付キャップ3が口金部21に巻締められた状態で被着され、本実施形態のキャップ付ボトル缶1が形成される。
ライナ付キャップ3のキャッピング加工は、プレッシャーブロック、ネジローラー、スカートローラー等からなるキャッピング装置を用いて行われる。すなわち、口金部21に被せたキャップ本体4の天面部41を、図2に二点鎖線で示すように、プレッシャーブロックPでボトル缶2の底部の方向に押圧し、この状態でプレッシャーブロックPによる絞り加工を行うことでライナ付キャップ3の肩部に段差部48を形成する。
【0032】
さらに、この状態でネジローラー(図示略)によりキャップ側ねじ部46を形成し、スカートローラー(図示略)で口金部21の膨出部22にピルファープルーフ部47を巻きつけることで、キャッピング加工が行われる。この場合、ライナ付キャップ3(キャップ本体4)が被着されるボトル缶2の口金部21には、ボトル側ねじ部23及び膨出部22が形成されており、ここに被せられたライナ付キャップ3は、ボトル側ねじ部23、膨出部22等の形状に沿うようにキャップ側ねじ部46及びピルファープルーフ部47が塑性変形される。これによって、ライナ付キャップ3がボトル缶2の口金部21に装着され、ボトル缶2が密封状態とされる。この際、キャップ本体4の天面部41の内側には、上述したようにライナ5が配置されており、そのライナ5によってボトル缶2の開口部がシールされている。
【0033】
このように構成されたキャップ付ボトル缶1において、ライナ付キャップ3を開栓するために回転させると、まずライナ5の摺動層51とキャップ本体4の天面部41とが摺動を開始する。この際、摺動層51と天面部41との摺動は、ライナ付キャップ3の閉栓位置(0°)から10°以内の回転範囲において開始され、摺動層51と天面部41とが摺動を開始するために要するトルクのピーク値は40N・cm以上100N・cm以下とされる。なお、このトルクのピーク値は、ファーストトルクとも言われる。
【0034】
そして、ライナ付キャップ3をさらに回転させると、キャップ側ねじ部46が形成された筒上部44がボトル缶2のボトル側ねじ部23に沿って上方へ持ち上がりながら回転する。一方、ピルファープルーフ部47が形成された筒下部45はボトル缶2の膨出部22に係止され、筒上部44と一体に持ち上がらずに回転する。この際、上方向に引っ張る力と、周方向に引っ張る力(摩擦力)とを加えられた各ブリッジ43aが単独に順次破断していき、ライナ付キャップ3の開栓時における最大トルクが生じる。この最大トルクは、ファーストトルクに対してセカンドトルクとも言われる。そして、各ブリッジ43aが破断した際に、ライナ付キャップ3の筒上部44と筒下部45とが分断される。その後、筒上部44を口金部21のボトル側ねじ部23に対してさらに回転させることにより、ボトル缶2からライナ付キャップ3の筒上部44が外れて開栓させることができる。一方、ライナ付キャップ3の筒下部45は、リング状のピルファープルーフ部47としてボトル缶2に残される。
【0035】
本実施形態のキャップ付ボトル缶1のように、摺動層51と天面部41とが摺動を開始する際のトルクのピーク値が40N・cm以上であれば、僅かな抵抗によってライナ付キャップ3が回転することを防止することができる。一方で、そのトルクのピーク値が100N・cmを超えると、使用者がライナ付キャップ3の開栓時初期において抵抗を重たく感じることがある。このため、トルクのピーク値は、100N・cm以下とすることが望ましい。
また、キャップ本体4と接触する側に硬質で滑性のある摺動層51を設け、ボトル缶2と接する側に軟質な密封層52を設けていることから、開栓時はライナ5を摺動層51とキャップ本体4との間で滑らせることができ、少ない力で開栓することができるとともに、開栓前は密封層52により良好に密封状態を維持することができる。
【0036】
また、天面部41の内面に未処理部分62を設けて、摺動層51を部分的に天面部41に接着することにしているので、ライナ付キャップ3をボトル缶2に巻き締めた状態において、その接着部分によって開栓時の抵抗を高めることができる。そして、ライナ5と天面部41との接着面積を増減することにより、その抵抗の大きさを微調整することが可能であり、摺動層51と天面部41とが摺動を開始する際のトルクのピーク値を40N・cm以上100N・cm以下の範囲で容易に調整することができる。
また、そのライナ5と天面部41との接着力は、摺動層51と天面部41との間の静止摩擦力よりも小さく、開栓時に天面部41から剥離される程度の強度で接着することとしているので、キャップ付ボトル缶1の開栓時に開栓を阻害するような大きな抵抗となることが防止できる。
【0037】
さらに、ライナ付キャップ3の閉栓位置から10°以内に、摺動層51と天面部41との摺動開始位置を設けているので、使用者は、そのライナ付キャップ3の開栓時初期の早い段階(回転初期)で抵抗を感じることができ、開栓時の違和感をより一層緩和させることができる。
【実施例】
【0038】
次に、本実施形態のキャップ付ボトル缶について、その効果を確認するために実験を行った。
実施例として、摺動層の一部をキャップ本体の天面部に接着したライナ付キャップを作製し、従来例として、摺動層と天面部との全面を非接着状態に設けたライナ付キャップを作製した。
そして、これら従来例及び実施例のライナ付キャップを用いて、表1に示す従来例1、実施例1?4及び比較例1のキャップ付ボトル缶を作製し、それぞれについてキャップ開栓の官能試験を実施した。なお、各キャップ付ボトル缶の内圧は600kPaに設定した。
従来例1は、摺動層と天面部との全面を非接着状態に設けたライナ付キャップを用いたキャップ付ボトル缶である。また、実施例1?4及び比較例1は、摺動層の一部をキャップ本体の天面部に接着したライナ付キャップを用いたキャップ付ボトル缶であり、各キャップ付ボトル缶は、摺動層と天面部との接着部分の接着面積を変化させて摺動層と天面部の摺動開始のトルクのピーク値を調整したものである。各キャップ付ボトル缶の摺動開始のトルクのピーク値は、表1に示すとおりであった。
【0039】
また、キャップ開栓の官能試験は、各キャップ付ボトル缶について、キャップが口金部のボトルねじ部のリード角に沿って持ち上げられてブリッジが切断される前に、僅かな抵抗によるキャップの回転を感じ、ボトル缶の密封性に違和感を覚えるか否かを5人にテストすることにより行った。5人のうち一人でも違和感を覚えると答えた場合に「△」、5人ともが違和感を覚えないと答えた場合を「○」とした。一方、5人のうち一人でも摺動開始の抵抗を重たく感じると答えた場合は「△」とした。これらの結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果からわかるように、摺動開始のトルクのピーク値が40N・cm以上の実施例1?4においては、ボトル缶の密封性に違和感を感じることがなく、良好な結果を得ることができた。一方、摺動開始のトルクのピーク値が100N・cmを超える比較例1においては、摺動開始の抵抗を大きく感じるとの指摘があった。
このように、摺動層と天面部とが摺動を開始するために要するトルクのピーク値が40N・cm以上であれば、使用者の違和感を緩和することができる。また、摺動層と天面部とが摺動を開始する際のトルクのピーク値が100N・cm以下の場合であれば、ライナ付キャップの開栓時初期において、使用者が抵抗を重たく感じることを回避できる。
【0042】
次に、本実施形態のキャップ付ボトル缶について、ライナ付キャップの開栓時に生じるトルクを確認した。摺動層の一部をキャップ本体の天面部に接着したライナ付キャップを作製し、そのライナ付キャップを装着したキャップ付ボトル缶を3缶作製した。
なお、各キャップ付ボトル缶の内圧は600kPaに設定し、キャップの開栓は、所要時間3?10秒で、キャップを閉栓位置(0°)から360°回転させることにより行った。
結果を、図8に示す。図8は、ライナ付キャップの回転角度とその回転角度におけるトルクとをプロットした開栓トルクチャートである。
【0043】
図8において、符号Aで示す位置に現れるトルクのピーク値は、摺動層と天面部とが摺動を開始する際のトルク(ファーストトルク)である。また、摺動開始時のトルクのピーク値の次に現れる符号Bで示すトルクのピーク値は、キャップ本体の筒上部と筒下部との間のブリッジが破断される際のトルク(セカンドトルク)であり、ピルファープルーフキャップを開栓する際に要するトルクとしては、最も大きな値となる。
そして、図8に示される結果より明らかなように、摺動層の一部を天面部に接着することにより摺動開始のトルクのピーク値を40N・cm以上100N・cm以下の範囲で調整することができる。
【0044】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態においては、キャップ付ボトル缶及びボトル缶に装着されるライナ付キャップについて説明を行ったが、本発明でいうキャップ付容器の容器は、ボトル缶に限定されるものではなく、ボトル缶の他、ガラスビンやPETボトル等の容器も含まれる。
また、上記実施形態では、キャップ本体4の天面部41の内面に型押成形することによりライナ5を形成するインシェルモールドを採用し、天面部41の内面に未処理部分62を設けることで摺動層51の成形と同時に天面部41とライナ5とを接着状態に設ける構成としたが、これ以外にも、予めシートにより成形したライナを、キャップ本体4内に挿入する際に、部分的に接着剤を用いて天面部41に接着する構成とすることも可能である。
さらに、摺動層51と天面部41とが摺動を開始する際のトルク(ファーストトルク)のピーク値は、上記実施形態のようにライナ5と天面部41とを接着状態に設ける構成の他、段差部48の大きさや、ねじ部23,46の押し込み量、ピルファープループ部47の押し込み量を制御することによっても調整することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 キャップ付きボトル缶(キャップ付容器)
2 ボトル缶(容器)
3 ライナ付キャップ
4 キャップ本体
5 ライナ
11 ナール凹部
12 開口部
13 フック部
15 上端面
21 口金部
22 膨出部
23 ボトル側ねじ部
24 カール部
40 板材
41 天面部
42 円筒部
43 スリット
43a ブリッジ
44 筒上部
45 筒下部
46 キャップ側ねじ部
47 ピルファープルーフ部
48 段差部
51 摺動層
52 密封層
54 外周部
55 中心部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
容器と、該容器の口金部に装着されて密栓するキャップとを備えるキャップ付容器であって、前記キャップは、天面部と該天面部の周縁から略垂下されてなる円筒部とを備えるキャップ本体と、前記天面部の内面に設けたライナとを備え、前記ライナは、前記天面部の内面側に配置され該天面部と摺動する摺動層と、前記摺動層に積層され該摺動層よりも軟質で前記容器と接触する密封層とを有し、前記キャップは前記ライナを前記口金部に圧接した状態で該口金部に巻き締められて装着されており、
前記キャップにより前記容器を密栓した状態において、前記摺動層の一部が前記天面部と接着状態に設けられており、
前記摺動層と前記天面部との摺動開始の際のトルクのピーク値発生位置は、前記キャップの閉栓位置から10°以内であることを特徴とするキャップ付容器。
【請求項3】
前記ライナと前記天面部との接着力は、前記摺動層と前記天面部との間の静止摩擦力よりも小さいことを特徴とする請求項2記載のキャップ付容器。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記トルクのピーク値が40N・cm以上100N・cm以下とされていることを特徴とする請求項2又は3に記載のキャップ付容器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-10-10 
出願番号 特願2017-158371(P2017-158371)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (B65D)
P 1 652・ 537- YAA (B65D)
P 1 652・ 121- YAA (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 矢澤 周一郎  
特許庁審判長 高山 芳之
特許庁審判官 西尾 元宏
井上 茂夫
登録日 2018-11-09 
登録番号 特許第6431582号(P6431582)
権利者 ユニバーサル製缶株式会社
発明の名称 キャップ付容器  
代理人 青山 正和  
代理人 青山 正和  

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