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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
管理番号 1357636
異議申立番号 異議2018-700910  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-09 
確定日 2019-10-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6331140号発明「水分量測定方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6331140号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6331140号の請求項2、3、5、6に係る特許を維持する。 特許第6331140号の請求項1及び4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯
特許第6331140号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成26年9月3日に出願され、平成30年5月11日にその特許権の設定登録がされ、同年5月30日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1?6に係る特許に対し、同年11月9日に特許異議申立人株式会社レクレアル(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、平成31年1月28日付けの取消理由を通知し、特許権者は、同年3月20日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、当審は、その訂正の請求に対し、同年4月4日付けの訂正拒絶理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からの応答はなく、上記訂正拒絶理由は妥当なものと認められることから、当審は、令和元年5月27日に、平成31年3月20日にした訂正の請求を認めないとした上で取消理由(決定の予告)を通知した。これに対し、特許権者は、令和元年7月22日に意見書の提出及び訂正の請求を行い(これにより先の訂正の請求は取り下げられたものとみなす)、その訂正の請求に対して、申立人は、同年9月3日に意見書を提出した。

第2 訂正について
令和元年7月22日に提出された訂正の請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「テラヘルツ波全反射減衰分光法を用いた薄膜試料の水分量測定方法であって、
薄膜試料に積層試料を積層した状態の測定対象物に対してテラヘルツ波を前記薄膜試料側からプリズムを介して前記薄膜試料側から照射して時間領域スペクトルを測定する工程と、
前記積層試料の複素屈折率と前記プリズムの屈折率と前記薄膜試料の厚みを用いて、積層状態にある測定対象物の反射係数を算出する工程と、
前記測定された時間領域スペクトルと前記算出した測定対象物の反射係数から、前記薄膜試料の吸収係数を求める工程と、
を有する薄膜の水分量測定方法。」と記載されているのを、

「テラヘルツ波全反射減衰分光法を用いた皮膚の角層の質量含水率測定方法であって、
前記皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層した状態の測定対象物に対して、テラヘルツ波出射面であるプリズム表面を前記皮膚の角層に接触させながらテラヘルツ波を照射して得られるテラヘルツ波の反射スペクトル及び位相差スペクトルを測定する工程と、
前記測定工程において得られた前記反射スペクトル及び位相差スペクトルから前記測定対象物全体の反射係数を算出する工程と、
前記算出された測定対象物全体の反射係数から前記皮膚の角層の複素屈折率を算出し、算出した複素屈折率に基づいて皮膚の角層の消衰係数を求め、それによって前記皮膚の角層の吸収係数を求める工程と、
を有する皮膚の角層の質量含水率測測定方法。」(下線は訂正箇所を示す。)
に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3、5及び6も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

2 訂正の適否について
(1)訂正事項1及び3について
訂正事項1及び3は、各々、特許請求の範囲の請求項1及び4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、そして、新規事項を追加するものでもなく、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2の内容は、上記1(2)で記載したとおりであるが、細分化して検討する。
ア 薄膜試料、積層試料について
「薄膜試料」、「積層試料」及び「薄膜試料に積層試料を積層した状態の測定対象物」を、「皮膚の角層」、「皮膚の表皮層」及び「前記皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層した状態の測定対象物」とする訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。なお、下線は当審において付与した。以下同様。)には、「前記測定対象物は皮膚であって、前記薄膜試料は皮膚の角層、前記積層試料は皮膚の表皮層である請求項1?3の何れか1項に記載の水分量測定方法。」(特許請求の範囲の【請求項4】)との記載があり、新規事項を追加するものでもなく、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

イ 水分量について
(ア)目的の適否について
訂正前の「水分量」については、令和元年5月27日に通知した取消理由通知書(決定の予告)(以下「取消理由通知書」という。)において「水分量の測定について 請求項1は「薄膜試料中の水分量測定方法」であるが、「水分量」とは、薄膜試料における水分をどのような量として測定したものであるのか明確でない。請求項2の「薄膜の水分量測定方法」、請求項3の「水分測定方法」についても、同様である。なお、この点、本件特許明細書の【0039】、【0041】及び【0044】には「質量含水率」と記載されていることから、薄膜試料における質量含水率であれば明確といえよう。」を踏まえたものといえる。
そして、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」とは、設定登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面中のそれ自体意味の不明瞭な記載、又は、設定登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面中の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっている記載等、明細書、特許請求の範囲又は図面に生じている記載上の不備を訂正し、その本来の意を明らかにすることをいうものであり、明瞭でない記載の釈明が認められるためには、設定登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面に明瞭でない記載が存在することが必要である(特許庁「審判便覧(18版)」38-03参照)とされている。
してみれば、「水分量」を「質量含水率」とする訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無について
上記(ア)で述べたとおり、本件特許明細書等には「この結果から、スクロース水溶液の質量含水率と吸収係数αは比例することが確認された(図4)。」(【0039】)、「図6に示すように質量含水率と吸収係数は比例し、吸収係数から角層モデル中の含水率を算出できることが示された。」(【0041】)、「含水率は、測定した吸収係数から、実施例2で得られた吸収係数と質量含水率の関係を示すグラフを用いて算出した。」(【0044】)との記載があり、新規事項を追加するものでもないことから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正前の「水分量」とは、上記(ア)で述べたとおり、薄膜試料における水分をどのような量として測定したものであるのか明確でないことから、それが本件特許明細書等の記載に基づいて具体的に「質量含水率」と訂正されたのであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ 時間領域スペクトルを測定する工程について
(ア)目的の適否について
訂正前の「テラヘルツ波の時間領域スペクトル」を「テラヘルツ波の反射スペクトル及び位相差スペクトル」とする訂正は、訂正前の「時間領域スペクトル」について、取消理由通知書において「「時間領域スペクトル」は、その前で「薄膜試料に積層試料を積層した状態の測定対象物に対してテラヘルツ波を前記薄膜試料側からプリズムを介して前記薄膜試料側から照射して時間領域スペクトルを測定する」と特定されているものの、どのようなスペクトルを測定するのか不明確であ」ること、そして、「上記「時間領域スペクトル」が「反射スペクトル及び位相差スペクトル」とも解されるが、請求項2記載の「時間領域スペクトル」がそのように解されるものか不明であ」ることを踏まえたものであるから、当該訂正は「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、そのスペクトルを測定するテラヘルツ波の照射について、訂正前の「測定対象物に対してテラヘルツ波を前記薄膜試料側からプリズムを介して前記薄膜試料側から照射す」ることを、「測定対象物に対して、テラヘルツ波出射面であるプリズム表面を前記皮膚の角層に接触させながらテラヘルツ波を照射」することに訂正することは、上記アで述べたとおり「薄膜試料」を「皮膚の角層」に限定し、さらに、「テラヘルツ波を」「プリズムを介して」「照射」することについて、具体的態様である「テラヘルツ波出射面であるプリズム表面を前記皮膚の角層に接触させながら」テラヘルツ波を照射することに限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
よって、時間領域スペクトルを測定する工程について、「薄膜試料に積層試料を積層した状態の測定対象物に対してテラヘルツ波を前記薄膜試料側からプリズムを介して前記薄膜試料側から照射して時間領域スペクトルを測定する工程」を「前記皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層した状態の測定対象物に対して、テラヘルツ波出射面であるプリズム表面を前記皮膚の角層に接触させながらテラヘルツ波を照射して得られるテラヘルツ波の反射スペクトル及び位相差スペクトルを測定する工程」とする訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無について
上記(ア)で述べた【0028】には、「反射後のATRスペクトルはテラヘルツ時間領域分光法により観測できる。この方法では、取得したテラヘルツ波の時間波形をフーリエ変換することで反射スペクトルと位相差スペクトルが得られる。・・・本発明に係る計測方法はテラヘルツ波出射面であるプリズム表面に測定対象物である試料(薄膜試料に積層試料が積層された試料)を接触させながらテラヘルツ波を照射して得られる反射スペクトル及び位相差スペクトルを計測する工程」(【0044】)との記載があり、「薄膜試料」、「積層試料」及び「薄膜試料に積層試料を積層した状態の測定対象物」については、上記アでのべたとおりであるから、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記(ア)で述べたとおり、時間領域スペクトルを測定する工程についての訂正は「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、その「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正部分は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、「明瞭でない記載の釈明」を目的に該当する部分についても、「テラヘルツ波の時間領域スペクトル」を「テラヘルツ波の反射スペクトル及び位相差スペクトル」に訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

エ 反射係数を算出する工程について
(ア)目的の適否について
反射係数を算出する工程について、取消理由通知書において、下記第4の1(2)アで記載したとおり、訂正前の「前記積層試料の複素屈折率と前記プリズムの屈折率と前記薄膜試料の厚みを用いて、積層状態にある測定対象物の反射係数を算出する工程」について、「測定対象物の反射係数」とは、薄膜試料、積層試料のどの面の反射係数のことを特定しているのか不明確であり、そして、「積層試料の複素屈折率」と「プリズムの屈折率」と「薄膜試料の厚み」を用いて、どのように「積層状態にある測定対象物の反射係数」を算出するのか不明確であることを示した上で、「反射係数r~123」を本件特許明細書等の【0028】?【0030】に記載されている【数8】の式と【数9】の式から求めるということであれば一応の理解はされるとの指摘を踏まえたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。

(イ)新規事項の有無について
上記(ア)で示された【0028】?【0030】を含む本件特許明細書等の【0014】?【0031】(なお、摘記にあたり、添え字の「?」は「~」で、添え字のローマ字、数字は半角文字として表記している。以下同様。)には、以下の記載がある。
「【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る方法は、全反射減衰分光法において、好ましくは水分量を求めたい薄膜試料よりも大きな滲みだし深さのエバネッセント波が生じるように、薄膜試料と積層試料を含む積層体である測定対象物に対してテラヘルツ波を照射した上で、前記薄膜試料と前記積層試料の界面での反射を考慮して解析を行う方法である。薄膜試料と積層試料の界面での反射を考慮して解析する方法は既に公知でありいわゆる二界面モデルと称される(非特許文献2参照)。
【0015】
図1は当該二界面モデルの説明図である。全反射減衰分光法では、テラヘルツ波はATRプリズム(以下「プリズム」と称する。)表面と薄膜試料との界面で全反射する条件でプリズムに入射し、プリズム表面と薄膜試料の界面で反射されたテラヘルツ波は図示しない検出装置で観測される。このとき、反射テラヘルツ波の電場強度E~outは、数式1に示すように入射テラヘルツ波の電場強度Einに係数aを掛けたものとして表される。二界面モデルを用いない場合、係数aにはプリズムと薄膜試料の界面でのフレネル反射係数r~12が用いられ、E~out=r~12×Einの関係が成り立つとして解析が行われる。一方、二界面モデルを用いた場合は、薄膜試料と積層試料の界面でも当該界面でのフレネル反射係数r~23に比例した減衰があるとして取り扱い、この減衰による影響を除くことで薄膜試料における減衰を取り出して解析する。このために、係数aにはプリズムと薄膜試料の界面でのフレネル反射係数r~12に、薄膜試料と積層試料の界面でのフレネル反射係数r~23を考慮した全体の反射係数r~123が用いられ、E~out=r~123×Einの関係が成り立つとして解析が行われる。つまり、二界面モデルを用いた解析では、プリズムと薄膜試料の界面でのフレネル反射係数r~12を薄膜試料と積層試料の界面でのフレネル反射係数r~23で修正した全体の反射係数r~123が用いられる。言い換えると、二界面モデルは、観測されたテラヘルツ波の減衰を薄膜試料と積層試料の界面でのフレネル反射係数を用いて修正したモデルであると言える。薄膜試料の含水量の算出に必要な薄膜試料の吸収係数αは、下記に述べるように、検出装置で観測された反射スペクトルと位相差スペクトルから全体の反射係数r~123を算出し、算出された全体の反射係数r~123から薄膜試料の複素屈折率n~2を算出することで求められる。
【0016】
(数1)
E~out = a×Ein (1≧a≧0)
【0017】
ここでプリズムの屈折率をn1、薄膜試料の複素屈折率をn~2、積層試料の複素屈折率をn~3、テラヘルツ波の入射角をθとすると、薄膜試料と積層試料の界面でのフレネル反射係数r~23は次の数式2で示される。
【0018】
【数2】

【0019】
また、薄膜試料とプリズムの界面のフレネル反射係数r~12は数式3で表されるので、薄膜試料の厚みをdとすると、2つの界面が存在するときの全体の反射係数r~123は、次の数式4で示される。
【0020】
【数3】

【0021】
【数4】

【0022】
ここで、試料がテラヘルツ波の吸収を有する物質の場合、プリズム表面にある試料の厚さをt、試料の吸収係数をαとすると、反射テラヘルツ波から観測されるATRスペクトルの吸収強度A(t)は次の数式5の関係で示される。なお、エバネッセント波の滲みだし深さdpは、入射波の電場強度が1/eに減衰する深さであり、入射テラヘルツ波の波長λ、プリズムの屈折率n1、試料の屈折率n~2、プリズム表面に対する入射角θによって一義的に決まる。
【0023】
【数5】

【0024】
一方、吸収のある物質における電磁波の伝搬は複素屈折率n~を用いて表せられる。複素屈折率n~は物質の消衰係数κを用いて数式6で示されるが、消衰係数κと当該物質の吸収係数αは数式7に示す比例関係にあることが知られている。なお、数式6中、nは物質の屈折率、iは虚数単位である。【0025】
【数6】

【0026】
【数7】

【0027】
つまり、ATRスペクトルの吸収強度A(t)は吸収係数αと比例し(数式5)、吸収係数αは消衰係数κと比例する(数式7)という関係にある。従って、ATRスペクトルの吸収強度A(t)を直接測定することや物質の消衰係数κを求めることで吸収係数αが求められる。
【0028】
反射後のATRスペクトルはテラヘルツ時間領域分光法により観測できる。この方法では、取得したテラヘルツ波の時間波形をフーリエ変換することで反射スペクトルと位相差スペクトルが得られる。エバネッセント波の滲みだし深さdpが試料の厚さtよりも大きい場合には、反射スペクトルR(ω)と位相差スペクトルΦ(ω)はそれぞれ次の数式8及び数式9で示される。また、薄膜試料と積層試料の界面でのフレネル反射係数r~23は数式2、プリズムと試料の界面におけるフレネル反射係数r~12は数式3、全体の反射係数r~123は数式4でそれぞれ示される。従って、テラヘルツ時間領域分光法により得られた反射スペクトルR(ω)と位相差スペクトルΦ(ω)から、数式2、数式3、数式4と数式8、数式9の連立方程数の解を求めることで薄膜試料の複素屈折率n~2が求められる。数式8及び数式9においてrrefは測定対象物が載置しない場合のフレネル反射係数である。そして求められた複素屈折率n~2の虚部(消衰係数κ)と数式7から、薄膜試料の吸収係数αが求められる。すなわち、本発明に係る計測方法はテラヘルツ波出射面であるプリズム表面に測定対象物である試料(薄膜試料に積層試料が積層された試料)を接触させながらテラヘルツ波を照射して得られる反射スペクトル及び位相差スペクトルを計測する工程と、得られた反射スペクトル及び位相差スペクトルとから試料の吸収係数αを算出する工程とを備え、吸収係数αの算出にあたり、プリズムと薄膜試料の界面でのフレネル反射係数r~12と薄膜試料と積層試料の界面でのフレネル反射係数r~23とから求められた全体の反射係数r~123が用いられる方法でもある。さらに言い換えると、薄膜試料に積層試料を積層した状態の測定対象物に対してテラヘルツ波を前記薄膜試料側からプリズムを介して前記薄膜試料側から照射して時間領域スペクトルを測定する工程と、前記積層試料の複素屈折率と前記プリズムの屈折率と前記薄膜試料の厚みを用いて、積層状態にある測定対象物の反射係数を算出する工程と、前記測定された時間領域スペクトルと前記算出した測定対象物の反射係数から、前記薄膜試料の吸収係数を求める工程とを有する方法であるとも言える。なお、反射係数r~123や薄膜試料の複素屈折率n~2の算出に必要となる薄膜試料の厚さdや積層試料の複素屈折率n~3は実測値であり、推定値であり、文献値などであり得る。
【0029】
【数8】

【0030】
【数9】

【0031】
上記で求められた吸収係数αは薄膜試料の吸収係数を表すが、テラヘルツ波は水による吸収が非常に大きく、水以外の物質に吸収をほとんど示さないので、水を含む薄膜試料では、上記で求められた吸収係数αは薄膜試料が含む水分による吸収を表すと言える。特に当該薄膜試料に水分を含む積層試料が積層された場合には、二界面モデルを適用することによって積層試料が含む水分による影響が排除される。」
上記摘記した【0028】には「エバネッセント波の滲みだし深さdpが試料の厚さtよりも大きい場合には、反射スペクトルR(ω)と位相差スペクトルΦ(ω)はそれぞれ次の数式8及び数式9で示される。」「全体の反射係数r~123」「数式8及び数式9においてrrefは測定対象物が載置しない場合のフレネル反射係数である」との記載から、反射スペクトル及び位相差スペクトルから測定対象物全体の反射係数を算出することについて記載されており、そして、同じ【0028】には「テラヘルツ波を照射して得られる反射スペクトル及び位相差スペクトルを計測する」と記載されていることから、「前記測定工程において得られた前記反射スペクトル及び位相差スペクトルから前記測定対象物全体の反射係数を算出する工程」は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記(ア)でも述べたが、訂正前の「前記積層試料の複素屈折率と前記プリズムの屈折率と前記薄膜試料の厚みを用いて、積層状態にある測定対象物の反射係数を算出する工程」は不明確なものであり、そもそも訂正後の算出方法に対して、訂正前の算出方法は具体的にどのような算出方法であったのか技術的に特定できないのであるから、訂正後の反射係数の算出工程が、訂正前の反射係数の算出工程を拡張するものとも、変更するものとも判断できない。
そこで、本件特許明細書等を参照するに、上記摘記した本件特許明細書等の【0028】の「本発明に係る計測方法はテラヘルツ波出射面であるプリズム表面に測定対象物である試料(薄膜試料に積層試料が積層された試料)を接触させながらテラヘルツ波を照射して得られる反射スペクトル及び位相差スペクトルを計測する工程と、得られた反射スペクトル及び位相差スペクトルとから試料の吸収係数αを算出する工程とを備え、吸収係数αの算出にあたり、プリズムと薄膜試料の界面でのフレネル反射係数r~12と薄膜試料と積層試料の界面でのフレネル反射係数r~23とから求められた全体の反射係数r~123が用いられる方法でもある。さらに言い換えると、薄膜試料に積層試料を積層した状態の測定対象物に対してテラヘルツ波を前記薄膜試料側からプリズムを介して前記薄膜試料側から照射して時間領域スペクトルを測定する工程と、前記積層試料の複素屈折率と前記プリズムの屈折率と前記薄膜試料の厚みを用いて、積層状態にある測定対象物の反射係数を算出する工程と、前記測定された時間領域スペクトルと前記算出した測定対象物の反射係数から、前記薄膜試料の吸収係数を求める工程とを有する方法であるとも言える。」との記載を参照するに、訂正前の反射係数の算出工程(不明確で技術的内容を把握できないが)は、訂正後の反射係数の算出工程を言い換えたものといえることから、訂正後の反射係数の算出工程は、訂正前の反射係数の算出工程と技術的に同じものを特定しようとしたものともいえる。
してみれば、訂正後の「前記測定工程において得られた前記反射スペクトル及び位相差スペクトルから前記測定対象物全体の反射係数を算出する工程」は、訂正前の技術的に不明確な「前記積層試料の複素屈折率と前記プリズムの屈折率と前記薄膜試料の厚みを用いて、積層状態にある測定対象物の反射係数を算出する工程」を、本件特許明細書等に基づいて同じ技術的内容の明確な記載であるものに訂正しようとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとまではいえず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合しないとまではいえない。

オ 吸収係数を求める工程について
(ア)目的の適否について
吸収係数を求める工程について、取消理由通知書において、下記第4の1(2)イで記載したとおり、訂正前の「前記測定された時間領域スペクトルと前記算出した測定対象物の反射係数から、前記薄膜試料の吸収係数を求める工程」について、「時間領域スペクトル」は、その前で「薄膜試料に積層試料を積層した状態の測定対象物に対してテラヘルツ波を前記薄膜試料側からプリズムを介して前記薄膜試料側から照射して時間領域スペクトルを測定する」と特定されているものの、どのようなスペクトルを測定するのか不明確であり、また、「測定対象物の反射係数」が不明確であることは、上記ア(ア)で述べたとおりであり、そして、「時間領域スペクトル」と「算出した測定対象物の反射係数」からどのように「薄膜試料の吸収係数」を求めるのか不明確であることを示した上で、「反射スペクトル及び位相差スペクトル」から「積層状態にある測定対象物の反射係数」を算出し、それから複素屈折率n~2を求め、さらに上記エ(イ)で摘記した【数6】の式でκを求め、【数7】の式で吸収係数αを求めるともいえるとの指摘を踏まえたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。

(イ)新規事項の有無について
上記エ(イ)で摘記した【0021】、【0025】及び【0026】には、【数4】、【数6】及び【数7】が記載されており、【数2】及び【数3】が代入された【数4】において、測定対象物全体の反射係数は「前記測定工程において得られた前記反射スペクトル及び位相差スペクトルから前記測定対象物全体の反射係数を算出する工程」によって算出されるから、「積層試料の複素屈折率」と「薄膜試料の厚み」の数値が決まれば、、積層資料の複素屈折率n~2を求まり、その積層資料の複素屈折率n~2から【数6】により消衰係数が求まり、その消衰係数から【数7】によって吸収係数が求まることが記載されている。
してみれば、「前記算出された測定対象物全体の反射係数から前記皮膚の角層の複素屈折率を算出し、算出した複素屈折率に基づいて皮膚の角層の消衰係数を求め、それによって前記皮膚の角層の吸収係数を求める工程」は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記(ア)でも述べたが、訂正前の「前記測定された時間領域スペクトルと前記算出した測定対象物の反射係数から、前記薄膜試料の吸収係数を求める工程」は不明確なものであるから、そもそも訂正後の求め方に対して、訂正前の求め方は具体的にどのような求め方であるのか技術的に特定できないのであるから、訂正後の吸収係数を求める工程が、訂正前の吸収係数を求める工程を拡張するものとも、変更するものとも判断できない。
そこで、本件特許明細書等を参照するに、上記エ(イ)で摘記した【0028】の「本発明に係る計測方法はテラヘルツ波出射面であるプリズム表面に測定対象物である試料(薄膜試料に積層試料が積層された試料)を接触させながらテラヘルツ波を照射して得られる反射スペクトル及び位相差スペクトルを計測する工程と、得られた反射スペクトル及び位相差スペクトルとから試料の吸収係数αを算出する工程とを備え、吸収係数αの算出にあたり、プリズムと薄膜試料の界面でのフレネル反射係数r~12と薄膜試料と積層試料の界面でのフレネル反射係数r~23とから求められた全体の反射係数r~123が用いられる方法でもある。さらに言い換えると、薄膜試料に積層試料を積層した状態の測定対象物に対してテラヘルツ波を前記薄膜試料側からプリズムを介して前記薄膜試料側から照射して時間領域スペクトルを測定する工程と、前記積層試料の複素屈折率と前記プリズムの屈折率と前記薄膜試料の厚みを用いて、積層状態にある測定対象物の反射係数を算出する工程と、前記測定された時間領域スペクトルと前記算出した測定対象物の反射係数から、前記薄膜試料の吸収係数を求める工程とを有する方法であるとも言える。」との記載を参照するに、訂正前の吸収係数を求める工程(不明確で技術的内容を把握できないが)は、訂正後の吸収係数を求める工程を言い換えたものといえることから、訂正後の吸収係数を求める工程は、訂正前の吸収係数を求める工程と技術的に同じものを特定しようとしたものともいえる。
してみれば、訂正後の「前記算出された測定対象物全体の反射係数から前記皮膚の角層の複素屈折率を算出し、算出した複素屈折率に基づいて皮膚の角層の消衰係数を求め、それによって前記皮膚の角層の吸収係数を求める工程」は、訂正前の技術的に不明確な「前記測定された時間領域スペクトルと前記算出した測定対象物の反射係数から、前記薄膜試料の吸収係数を求める工程」を、本件特許明細書等に基づいて同じ技術的内容の明確な記載であるものに訂正しようとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとまではいえず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合しないとまではいえない。

カ 訂正事項2のまとめ
以上のことから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、そして、新規事項を追加するものでもなく、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
そして、訂正事項2の括弧書きで記載されている「請求項2の記載を引用する請求項3、5及び6も同様に訂正する。」ことも、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項3?6は、独立項である請求項1及び2を引用するものであるから、訂正前の訂正前の請求項1?6は一群の請求項である。
そして、上記訂正事項1及び3は、請求項1及び4を削除し、上記訂正事項2は、請求項2を訂正(請求項2の記載を引用する請求項3、5及び6も同様に訂正する。)するものであるから、訂正の請求は、一群の請求項ごとに請求されたものであり、特許法第120条の5第4項の規定を満たすものである。

(4)申立人の主張について
申立人は、令和元年9月3日に提出の意見書(以下「申立人意見書」という。)において、訂正事項2の上記(2)エで記載した反射係数を算出する工程と上記(2)オで記載した吸収係数を求める工程について、「特許請求の範囲の減縮ではなく、特許請求の範囲を拡張し変更するものである」から、特許法第120条の5第2項ただし書き(前者)及び同条第9項で準用する特許法第126条第6項(後者)に規定する要件を満たしていないことを主張している。
前者については、上記(2)エ(ア)及びオ(ア)で述べたとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる目的に該当するものである。
後者についても、上記(2)エ(ウ)及びオ(ウ)で述べたとおり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとまではいえず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合しないとまではいえない。

3 訂正のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正の請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕(ただし請求項1及び4は削除された)について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正により訂正された請求項2、3、5及び6に係る発明(以下順に「本件訂正発明2」?「本件訂正発明6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項2、3、5及び6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項2】
テラヘルツ波全反射減衰分光法を用いた皮膚の角層の質量含水率測定方法であって、
前記皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層した状態の測定対象物に対して、テラヘルツ波出射面であるプリズム表面を前記皮膚の角層に接触させながらテラヘルツ波を照射して得られるテラヘルツ波の反射スペクトル及び位相差スペクトルを測定する工程と、
前記測定工程において得られた前記反射スペクトル及び位相差スペクトルから前記測定対象物全体の反射係数を算出する工程と、
前記算出された測定対象物全体の反射係数から前記皮膚の角層の複素屈折率を算出し、算出した複素屈折率に基づいて皮膚の角層の消衰係数を求め、それによって前記皮膚の角層の吸収係数を求める工程と、
を有する皮膚の角層の質量含水率測測定方法。
【請求項3】
前記皮膚の角層の厚みよりも大きな滲みだし深さを有するエバネッセント波を生じる周波数帯のテラヘルツ波を照射する請求項2に記載の質量含水率測定方法。
【請求項5】
屈折率が2.0以上であるプリズムを用いる請求項2又は3に記載の質量含水率測定方法。
【請求項6】
既知の含水率と吸収係数の相関関係から、前記皮膚の角層の質量含水率を求める工程をさらに有する請求項2、3及び5の何れか1項に記載の質量含水率測定方法。

第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由
訂正前の特許の請求項1?6に係る発明に対して、当審が令和元年5月27日に付けで特許権者に通知した取消理由は、次のとおりである。なお、訂正により請求項1及び4が削除されたことから、訂正前の請求項1及び4についてのみの取消理由は、その記載を省略した。
1 取消理由1(明確性)について
(1)請求項1について
(略)

(2)請求項2について
ア 反射係数を算出することについて
(ア)請求項の記載の判断
請求項2の「前記積層試料の複素屈折率と前記プリズムの屈折率と前記薄膜試料の厚みを用いて、積層状態にある測定対象物の反射係数を算出する工程」について、「測定対象物の反射係数」とは、薄膜試料、積層試料のどの面の反射係数のことを特定しているのか不明確であり、そして、「積層試料の複素屈折率」と「プリズムの屈折率」と「薄膜試料の厚み」を用いて、どのように「積層状態にある測定対象物の反射係数」を算出するのか不明確である。
(イ)明細書の記載を踏まえた判断
この点、上記第2の2(2)エ(イ)で摘記した本件特許明細書【0028】に「本発明に係る計測方法はテラヘルツ波出射面であるプリズム表面に測定対象物である試料(薄膜試料に積層試料が積層された試料)を接触させながらテラヘルツ波を照射して得られる反射スペクトル及び位相差スペクトルを計測する工程と、得られた反射スペクトル及び位相差スペクトルとから試料の吸収係数αを算出する工程とを備え、吸収係数αの算出にあたり、プリズムと薄膜試料の界面でのフレネル反射係数r~12と薄膜試料と積層試料の界面でのフレネル反射係数r~23とから求められた全体の反射係数r~123が用いられる方法でもある。さらに言い換えると、薄膜試料に積層試料を積層した状態の測定対象物に対してテラヘルツ波を前記薄膜試料側からプリズムを介して前記薄膜試料側から照射して時間領域スペクトルを測定する工程と、前記積層試料の複素屈折率と前記プリズムの屈折率と前記薄膜試料の厚みを用いて、積層状態にある測定対象物の反射係数を算出する工程と、前記測定された時間領域スペクトルと前記算出した測定対象物の反射係数から、前記薄膜試料の吸収係数を求める工程とを有する方法であるとも言える。」と記載されている。
当該記載を参照するに、「積層状態にある測定対象物の反射係数」は「反射係数r~123」といえるところ、「反射係数r~123」は【数4】の式(当該式におけるr~12とr~23には、【数2】の式と【数3】の式が代入される)で表され、「積層試料の複素屈折率」(n~3)と「プリズムの屈折率」(n1)と「薄膜試料の厚み」(d)について、「プリズムの屈折率」は既知としても、そもそも【数4】における「薄膜試料の複素屈折率」(n~2)が不明であり、さらに「積層試料の複素屈折率」と「薄膜試料の厚み」の変数として扱う場合、これらについても不明であるから、【数4】の式によっては「積層状態にある測定対象物の反射係数」を算出できず、これらを用いてどのように「積層状態にある測定対象物の反射係数」を算出するのか本願明細書の記載を参照しても不明である。
なお、「反射係数r~123」を上記第2の2(2)エ(イ)で摘記した【数8】の式と【数9】の式から求めるということであれば一応の理解はされるが、そのような解釈が正しいのかも不明である。
(ウ)小括
よって、請求項2の「前記積層試料の複素屈折率と前記プリズムの屈折率と前記薄膜試料の厚みを用いて、積層状態にある測定対象物の反射係数を算出する工程」との記載は不明確である。

イ 吸収係数を求めることについて
(ア)請求項の記載の判断
請求項2の「前記測定された時間領域スペクトルと前記算出した測定対象物の反射係数から、前記薄膜試料の吸収係数を求める工程」において、「時間領域スペクトル」は、その前で「薄膜試料に積層試料を積層した状態の測定対象物に対してテラヘルツ波を前記薄膜試料側からプリズムを介して前記薄膜試料側から照射して時間領域スペクトルを測定する」と特定されているものの、どのようなスペクトルを測定するのか不明確であり、また、「測定対象物の反射係数」が不明確であることは、上記ア(ア)で述べたとおりであり、そして、「時間領域スペクトル」と「算出した測定対象物の反射係数」からどのように「薄膜試料の吸収係数」を求めるのか不明確である。
(イ)明細書の記載を踏まえた判断
この点、上記第2の2(2)エ(イ)で摘記した本件特許明細書【0028】に「テラヘルツ時間領域分光法により得られた反射スペクトルR(ω)と位相差スペクトルΦ(ω)から、数式2、数式3、数式4と数式8、数式9の連立方程数の解を求めることで薄膜試料の複素屈折率n~2が求められる。数式8及び数式9においてrrefは測定対象物が載置しない場合のフレネル反射係数である。そして求められた複素屈折率n~2の虚部(消衰係数κ)と数式7から、薄膜試料の吸収係数αが求められる。」と記載されていることから、上記「時間領域スペクトル」が「反射スペクトル及び位相差スペクトル」とも解されるが、請求項2記載の「時間領域スペクトル」がそのように解されるものか不明であり、さらに、「測定対象物の反射係数」についていは、上記ア(イ)で述べたとおり、「反射係数r~123」としても、上記ア(イ)で指摘したとおり、「積層状態にある測定対象物の反射係数」は算出できず、その算出できない「積層状態にある測定対象物の反射係数」と「反射スペクトル及び位相差スペクトル」から、どのように「薄膜試料の吸収係数」を求めるのか本願明細書の記載を参照しても不明である。
なお、「反射スペクトル及び位相差スペクトル」から「積層状態にある測定対象物の反射係数」を算出し、それから複素屈折率n~2を求め、さらに上記第2の2(2)エ(イ)で摘記した【数6】の式でκを求め、【数7】の式で吸収係数αを求めるともいえるが、その際、上記ア(イ)で指摘したように、「積層試料の複素屈折率」と「薄膜試料の厚み」を変数として扱う場合これらについて不明であるから、【数4】の式によっては複素屈折率n~2を求まらず、吸収係数αは求まらない。
(ウ)小括
よって、請求項1の「前記測定された時間領域スペクトルと前記算出した測定対象物の反射係数から、前記薄膜試料の吸収係数を求める工程」との記載は不明確である。

ウ 請求項2で「薄膜の水分量測定方法」と記載されているが、「薄膜試料」のことであれば、表現は統一するべきである。

(3)水分量の測定について
請求項1は「薄膜試料中の水分量測定方法」であるが、「水分量」とは、薄膜試料における水分をどのような量として測定したものであるのか明確でない。請求項2の「薄膜の水分量測定方法」、請求項3の「水分測定方法」についても、同様である。
なお、この点、本件特許明細書の【0039】、【0041】及び【0044】には「質量含水率」と記載されていることから、薄膜試料における質量含水率であれば明確といえよう。

(4)請求項1と2の関係について
請求項1の記載と請求項2の記載では、「テラヘルツ波全反射減衰分光法を用いた薄膜試料の水分量測定方法であって」「前記薄膜試料の吸収係数を求める工程と、を有する薄膜試料中の水分量測定方法。」の点で共通しているが、「薄膜試料の吸収係数を求める」にあたり、各々別の表現で特定された工程により求めており、これらが技術的に同じ技術的事項を表しているのか、別の技術的事項を表しているのか不明確である。同じ技術的事項を表しているのならば、表現は統一するべきであり、別の技術的事項を表しているのならば、技術的に何が異なるのか明らかにすべきである。
なお、上記第2の2(2)エ(イ)で摘記した【発明を実施するための形態】の記載を参照するに、テラヘルツ波全反射減衰分光法を用いて薄膜試料の吸収係数を求め、薄膜試料の水分量を測定する方法としては、反射スペクトル及び位相差スペクトルから反射係数r~123を求め、そして、r~123を表す【数4】(【数2】式と【数3】式が代入される)式から複素屈折率n~2を求め(上記(1)及び(2)で説示したとおり、複素屈折率n~2がの求め方は不明であるが)、さらに【数6】の式でκを求め、【数7】の式で吸収係数αを求めるという方法のみが記載されており、2つの方法が記載されているとはいえない。

(5)請求項3?6について
請求項3?6は、請求項1又は2を引用していることから、同様に不明確である。

(6)取消理由1のまとめ
本件特許は、請求項1?6に係る記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 取消理由2(サポート要件)について
(1)請求項1について
(略)

(2)請求項2について
上記取消理由1の(2)で述べたとおり、請求項2の記載は不明確であり、本件特許明細書の記載を参照しても請求項2に係る発明を明確に把握できないのであるから、請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

(3)請求項3?6について
請求項3?6は請求項1又は2を引用していることから、同様に、請求項3?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

3 取消理由3(実施可能要件)について
(1)本件特許明細書等の記載
上記第2の2(2)エ(イ)で摘記した本件特許明細書の部分以外に、実施例として以下の記載がある。
「【実施例3】
【0042】
〔二界面モデルを用いた解析〕
次に二界面モデルによる解析を試みた。プリズム上に、厚さ10μmの誘電体薄膜(日東電工社製)を、厚みが10μm、20μm、30μm、40μm、50μmとなるように貼り付け、その上に1mLの蒸留水を滴下し、図1に示すように2つの界面(プリズムと誘電体薄膜の界面及び誘電体薄膜と水の積層との界面)が存在するようにした。また、誘電体薄膜はエバネッセント波の滲みだし深さよりも十分に深くなるような厚さになるまでプリズムに貼り付けて測定した。この測定から、誘電体薄膜の吸収係数を求めた。その結果を図7及び図8に示した。低周波側においては二界面モデルを用いて求めた計算値と、実際に用いた誘電体薄膜の吸収係数はほぼ一致していたが、誘電体薄膜の厚みが40μm、50μmの時には誘電体薄膜単体の測定値よりも高周波側で小さい値となった。この結果から、滲み出し深さdpが薄膜の厚さよりも大きくなるような周波数帯のテラヘルツ波を用いれば、二界面モデルにより薄膜の水分を正確に測定できると考えられる。また、誘電体膜上の水分の影響も排除されていると言える。」
「【実施例5】
【0045】
〔二界面モデルを適用したブタ皮膚(角層)の含水量の測定〕
実施例4で得られた計測データから二界面モデルを用いてブタ皮膚の角層の吸収係数と質量含水量を算出した。その結果を図11及び図12に示した。また、角層の吸収係数を算出するために導出された角層の複素屈折率n~2の屈折率n(実部)及び消衰係数κ(虚部)と周波数の関係を示す図の一例を図13に示す。なお、二界面モデルにおいて反射係数r~123の計算に必要となるブタ皮膚の角層厚さdは30μmと仮定した。また、表皮層の複素屈折率n~3には、実施例4において25回のストリッピングを行ったときの複素屈折率を用いた。」

(2)請求項1について
(略)

(3)請求項2について
ア 反射係数を算出することについて
請求項2の「前記積層試料の複素屈折率と前記プリズムの屈折率と前記薄膜試料の厚みを用いて、積層状態にある測定対象物の反射係数を算出する工程」は、上記取消理由1の(2)アで述べたとおり不明確であり、上記取消理由1の(2)ア(イ)で説示したとおり、本件特許明細書等の記載を踏まえると、「積層状態にある測定対象物の反射係数」は「反射係数r~123」といえるところ、「反射係数r~123」は【数4】の式(当該式におけるr~12とr~23には、【数2】の式と【数3】の式が代入される)で表され、「積層試料の複素屈折率」(n~3)と「プリズムの屈折率」(n1)と「薄膜試料の厚み」(d)について「プリズムの屈折率」は既知としても、そもそも【数4】における「薄膜試料の複素屈折率」(n~2)が不明であり、さらに「積層試料の複素屈折率」(n~3)と「薄膜試料の厚み」(d)を変数として扱う場合、これらについても不明であるから、【数4】の式によっては「積層状態にある測定対象物の反射係数」を算出できず、これらを用いてどのように「積層状態にある測定対象物の反射係数」を算出するのか本件特許明細書等の記載を参照しても不明である。
そして、「積層試料の複素屈折率」(n~3)と「薄膜試料の厚み」(d)について、「積層試料の複素屈折率」(n~3)は実験により求めた値、「薄膜試料の厚み」(d)は仮定の値を用いるとしても、表皮層(積層試料)の複素屈折率、角層(薄膜試料)の厚みは試料によって異なるものであり、試料毎に実験を行い、それらを求める必要があることから、「積層状態にある測定対象物の反射係数」が「算出」されるものではない。
してみれば、「前記積層試料の複素屈折率と前記プリズムの屈折率と前記薄膜試料の厚みを用いて、積層状態にある測定対象物の反射係数を算出する工程」について、発明の詳細な説明は、当業者が請求項2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
イ 吸収係数を求めることについて
請求項2の「前記測定された時間領域スペクトルと前記算出した測定対象物の反射係数から、前記薄膜試料の吸収係数を求める工程」は、上記取消理由1の(2)イで述べたとおり不明確であるところ、上記取消理由1の(2)イで説示したとおり、本件特許明細書の記載を踏まえると、「時間領域スペクトル」が「反射スペクトル及び位相差スペクトル」であり、「積層状態にある測定対象物の反射係数」は「反射係数r~123」としても、上記アで指摘したとおり、「積層状態にある測定対象物の反射係数」は算出できず、その算出できない「積層状態にある測定対象物の反射係数」と「反射スペクトル及び位相差スペクトル」から、どのように「薄膜試料の吸収係数」を求めるのか発明の詳細な説明を参照しても不明である。特に、上記(1)で摘記した実施例を含め発明の詳細な説明には、「反射スペクトル及び位相差スペクトル」と「反射係数r~123」から「薄膜試料の吸収係数」を求めることについて記載されていない。
してみれば、「前記測定された時間領域スペクトルと前記算出した測定対象物の反射係数から、前記薄膜試料の吸収係数を求める工程」について、発明の詳細な説明は、当業者が請求項2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
ウ 小括
よって、発明の詳細な説明は、当業者が請求項2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。

(4)請求項3?6について
請求項3?6は請求項1又は2を引用していることから、同様に、発明の詳細な説明は、当業者が請求項3?6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。

4 取消理由4(進歩性)
本件特許の請求項1?6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:Applied Physics Letters, 102, 053702 (2013)、pp.1-4、平成25年2月5日発行
甲第2号証:Handbook of Photonics for Biomedical Science, 23“Teraherz Tissue Spectroscopy and Imaging”pp.591-617、平成22年5月発行
甲第3号証:Quantum Electronics 44(7).633-640(2014)、pp.633-640、平成26年7月発行

第5 当審の判断
1 取消理由1(明確性)について
(2)請求項2について
ア 反射係数を算出することについて
上記第4の取消理由1の(2)アにおいて、「反射係数r~123」を上記第2の2(2)エ(イ)で摘記した【数8】の式と【数9】の式から求めるということであれば一応の理解はされる」との当審の指摘を受けて、特許権者は、「時間領域スペクトルを測定する工程」を「反射スペクトル及び位相差スペクトルを測定する工程」に訂正した上で、反射係数を算出する工程を「前記測定工程において得られた前記反射スペクトル及び位相差スペクトルから前記測定対象物全体の反射係数を算出する工程」と訂正したことにより、取消理由1の(2)アにおいて指摘した事項は解消された。

イ 吸収係数を求めることについて
(ア)上記第4の取消理由1の(2)イにおいて、「「反射スペクトル及び位相差スペクトル」から「積層状態にある測定対象物の反射係数」を算出し、それから複素屈折率n~2を求め、さらに上記第2の2(2)エ(イ)で摘記した【数6】の式でκを求め、【数7】の式で吸収係数αを求めるともいえる」との当審の指摘を受けて、特許権者は、「前記算出された測定対象物全体の反射係数から前記皮膚の角層の複素屈折率を算出し、算出した複素屈折率に基づいて皮膚の角層の消衰係数を求め、それによって前記皮膚の角層の吸収係数を求める工程」と訂正した。
(イ)さらに、上記第4の取消理由1の(2)イにおいて「「積層試料の複素屈折率」と「薄膜試料の厚み」を変数として扱う場合これらについて不明であるから、【数4】の式によっては複素屈折率n~2を求まらず、吸収係数αは求まらない。」ことも指摘したが、これに対し、特許権者は、令和元年7月22日に提出した意見書(以下「特許権者意見書」という。)において、本件特許明細書等の【0028】に「反射係数r~123や薄膜試料の複素屈折率n~2の算出に必要となる薄膜試料の厚さdや積層試料の複素屈折率n~3は実測値であり、推定値であり、文献値などであり得る。」との記載があることを述べた上で、「積層試料の複素屈折率」(「表皮層の複素屈折率n~3」)と「薄膜試料の厚み」(「皮膚の角層の厚みd」)は、文献値や推定値等を用いればよいのであるから、【数4】の式によっては複素屈折率n~2が求まり、吸収係数αが求まることになると説明しており、本件特許明細書等の【0028】の上記記載及び特許権者の説明を踏まえれば、吸収係数αが求まることになるから、技術的に不明確とはいえない。
(ウ)よって、吸収係数を求める工程について、「前記算出された測定対象物全体の反射係数から前記皮膚の角層の複素屈折率を算出し、算出した複素屈折率に基づいて皮膚の角層の消衰係数を求め、それによって前記皮膚の角層の吸収係数を求める工程」と訂正されたことより、取消理由1の(2)イにおいて指摘した事項は解消された。

ウ 取消理由1の(2)ウにおいて指摘した事項は、「皮膚の角層の質量含水率測測定方法」と訂正されたことにより解消された。

(3)水分量の測定について
取消理由1の(3)において指摘した事項は、「水分量」が「質量含水率」に訂正されたことにより解消された。

(4)請求項1と2の関係について
上記(1)のとおり、請求項2の記載が訂正により本件訂正発明2として明確になり、訂正により請求項1が削除されたことから、「請求項1と2の関係」において不明確と指摘した取消理由1の(4)は解消された。

(5)請求項3、5及び6について
本件訂正発明2が明確になったことから、「請求項3?6は、請求項1又は2を引用していることから、同様に不明確である」と指摘した取消理由1の(5)は解消された。

(6)申立人の主張について
取消理由1について、申立人は、申立人意見書において具体的な反論はしていない。

(7)取消理由1のまとめ
したがって、本件訂正発明2、3、5及び6に係る特許は、許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないことから、取消理由1によって、本件訂正発明2、3、5及び6に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由2(サポート要件)について
(1)取消理由2は、訂正前の請求項2の記載が不明確であることにより、請求項2に係る発明及び請求項2を引用している請求項3?6に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないことを指摘したものであるところ、請求項2の記載が、上記1(2)で述べたとおり、本件特許明細書等の記載に基づいた訂正により本件訂正発明2として明確になったことから、本件訂正発明2及び本件訂正発明3、5及び6は発明の詳細な説明に記載したものとなった。

(2)申立人の主張について
取消理由2について、申立人は、申立人意見書において具体的な反論はしていない。

(3)取消理由2のまとめ
したがって、本件訂正発明2、3、5及び6に係る特許は、許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないことから、取消理由1によって、本件訂正発明2、3、5及び6に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由3(実施可能要件)について
(1)上記第4の取消理由3において指摘した事項は、【数4】における「積層試料の複素屈折率」(n~3)と「薄膜試料の厚み」(d)を変数として扱う場合、これらについて不明であるから、【数4】の式によっては「積層状態にある測定対象物の反射係数」を算出できないところ、「積層試料の複素屈折率」(n~3)は実験により求めた値、「薄膜試料の厚み」(d)は仮定の値を用いるとしても、表皮層(積層試料)の複素屈折率、角層(薄膜試料)の厚みは試料によって異なるものであり、試料毎に実験を行い、それらを求める必要がある。してみれば、「積層状態にある測定対象物の反射係数」は算出できず、その算出できない「積層状態にある測定対象物の反射係数」と「反射スペクトル及び位相差スペクトル」から、どのように「薄膜試料の吸収係数」を求めるのか発明の詳細な説明を参照しても不明であるということである。

(2)特許権者の主張について
これに対し、特許権者は、上記1(2)イ(イ)での説明に加えて、特許権者意見書(下線は当審において付与した。)において、次のように説明している。
「本件特許明細書の「【0045】には「なお、二界面モデルにおいて反射係数r~123の計算に必要となるブタ皮膚の角層厚さdは30μmと仮定した。また、表皮層の複素屈折率n~3には、実施例4において25回のストリッピングを行ったときの複素屈折率を用いた。」と説明されてます。
さらに、本件特許明細書の「【0042】には「滲み出し深さdpが薄膜の厚さよりも大きくなるような周波数帯のテラヘルツ波を用いれば、二界面モデルにより薄膜の水分を正確に測定できると考えられる。また、誘電体膜上の水分の影響も排除されていると言える。」と説明されてます。
これらの記載を総合的に勘案すれば、薄膜試料(皮膚の角層)の厚みd及び積層試料(表皮層)の複素屈折率n~3は、実測値、推定値又は文献値等を参考にして測定対象に適合し得る所定の値を用いればよい旨が教示されているものであります。
具体的には、皮膚の角層の厚さdは、体の部位による差や個体差はあるものの、10μm?70μm程度であるから、たとえば部位毎のサンプル値を準備しておき、サンプル値に応じたエバネッセント波の滲み出し深さdpとなるように、テラヘルツ波の周波数帯域を選択し、皮膚の角層における質量含水率を測定すればよい旨が、本件特許明細書に教示され、又は示唆されているといえます。
また、人の皮膚の表皮層の含有水分率は、一般に、70?80%であることが知られており、ブタの表皮層の含有水分率と同程度ですから、ブタの表皮層の複素屈折率n~3を用いても、何ら問題があるものではありません。
換言すれば、本発明は皮膚の角層における質量含水率を測定する方法であり、そのために、皮膚の角層の吸収係数を算出しなければなりません。皮膚の角層の吸収係数を算出する過程で、皮膚の角層の厚みd及び表皮層の複素屈折率n~3を特定する必要がありますが、これら厚みd及び複素屈折率n~3に関しては、文献値や推定値等を用いればよく、測定対象物の実際の値と多少の誤差はあったとしても、テラヘルツ波の波長λを調整し、エバネッセント波の惨み出し深さdpが皮膚角層の厚みdよりも大きくなるように調整すれば、それらの誤差は吸収され、皮膚の角層の吸収係数が算出できる旨、説明されております。」と説明している。

(3)判断
そうすると、反射スペクトル及び位相差スペクトルから反射係数r~123を求め、そして、r~123を表す【数4】(【数2】式と【数3】式が代入される)式から複素屈折率n~2を求め、さらに【数6】の式でκを求め、【数7】の式で吸収係数αを求めることにおいて、【数4】の積層試料(表皮層)の複素屈折率n~3及び薄膜試料(皮膚の角層)の厚みdとして、具体的には、前者についてブタの表皮層の複素屈折率n~3の実測値を、後者について予め準備しておいた部位毎の10μm?70μm程度のサンプル値を用いれば、上記のとおり【数4】において複素屈折率n~2が求まり、吸収係数αが求まることになる。

(4)小括
よって、発明の詳細な説明は、当業者が、本件訂正発明2及びそれを引用する件訂正発明3、5及び6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえる。

(5)申立人の主張について
取消理由3について、申立人は、申立人意見書において具体的な反論はしていない。

(6)取消理由3のまとめ
発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないことから、取消理由3によって、本件訂正発明2、3、5及び6に係る特許を取り消すことはできない。

4 取消理由4(進歩性)について
(1)甲号証の記載
ア 甲第1号証について
(ア)甲第1号証(以下「甲1」という。)には、以下の記載がある。摘記にあたり、本件特許明細書等と同様に、添え字の「?」は「~」で、添え字のローマ字、数字は半角文字として表記し、文献を示す肩数字については省略した。なお、原文の後に記載した日本語訳については、申立人が提出したものを参照した(他の甲号証も同様である)。また、訳文に付した下線は、当審が付与したものである。
(1ア)「 We present a method to determine the complex dielectric constant of a cell monolayer using terahertz time-domain attenuated total refection spectroscopy combined with a two-interface model. The imaginary part of the dielectric constant of the cell monolayer shows a lower absorption of slow relaxation mode than that of the liquid medium. This result allows us to estimate the intracellular water dynamics on a picosecond time scale, and the existence of weakly hydrated water molecules inside the cell monolayer was indicated. This method will provide a perspective to investigate the mtracellular water dynamics in detail.」(1頁の要約の部分)
(訳:我々は、二界面モデルと組み合わせたテラヘルツ時間領域減衰全反射分光法を用いて細胞単層の複素誘電率を決定する方法を提示する。細胞単層の誘電率の虚部は、液体培地のそれよりもゆっくりとした緩和モードのより低い吸収を示す。この結果は、ピコ秒時間スケールで細胞内の水のダイナミクスを推定することを可能にし、細胞単層内に弱く水和した水分子の存在が示された。この方法は、細胞内水動態を詳細に調べるための視点を提供する。)

(1イ)THz time-domain spectroscopy (THz-TDS) in transmission geometry has been widely applied to measure the physical properties of a sample by comparing temporal THz fields with and without the sample. From this technique, phase and intensity spectra are obtained, providing both real and imaginary parts of the complex dielectric constant. However, it is extremely difficult to apply THz-TDS in transmission geometry to aqueous samples, because liquid water has a strong absorption in the THz region. Thus, a THz-TDS system using a reflection geometry has been pursued to determine the complex dielectric constant of aqueous samples. Hirori et al. proposed that THz TD-ATR spectroscopy could be used for accurate determination of the complex dielectric constant of water. This is because the temporal profile of the THz field measured with an ATR geometry provides information on the interaction between the sample and the evanescent wave. The ATR technique allowed us to better characterize strongly absorptive samples compared to a transmission and reflection geometry. In THz TD-ATR spectroscope Fresnel's reflection coefficient of the prism-sample interface (r~12) can be experimentally calculated from the Fourier transformed THz spectra of boch reflectance (R~), and phase spectrum (φ~) in the frequency domain, as indicated below:

where rREF is the reflection coefficient of the prism-air interface. Additionally, the theoretical Fresnels reflection coefficient of the prism-sample interface (r~12) is expressed as a function of the incident angle (θ), and the (complex) dielectric constant of the ATR prism (ε1) and the sample (ε~2).

The solution of these simultaneous equations (l)-(3) determines the complex dielectric constant of the sample (ε~2) if other parameters are given.」(1頁右欄27行?2頁左欄17行)
(訳:透過配置におけるTHz時間領域分光法(THz-TDS)は、時間的テラヘルツ場を試料の有無に応じて比較することによって、試料の物理的特性を測定するために広く適用されてきた。この技術から、複素誘電率の実部と虚部の両方を提供する位相スペクトルと強度スペクトルが得られる。しかしながら、液体の水はTHz領域に強い吸収を有するため、THz-TDSを透過配置で水性試料に適用することは極めて困難である。このように、水性試料の複素誘電率を求めるために、反射形状を用いたTHz-TDSシステムが追求されてきた。Hirori et al は、THz TD-ATR分光法を用いて水の複素誘電率を正確に測定できることを提案した。これは、ATR配置で測定されたテラヘルツ場の時間的なプロファイルが、サンプルとエバネッセント波との間の相互作用に関する情報を提供するためである。ATR技術により、透過型および反射型の配置に比べて、吸収率の高いサンプルの特性をよりよく評価することができた。THz TD-ATR分光法では、THzスペクトルをフーリエ変換して得られる周波数領域における反射率(R~)および位相スペクトル(φ~)から、プリズムー試料界面のフレネル反射係数(r~12)を実験的に計算することができ、以下の式で表される。
上記式(1)
上記式(2)
ここで、rREFは、プリズム空気界面の反射係数である。 さらに、プリズム-試料界面の理論的フレネル反射係数(r~12)は、入射角(θ)、ATRプリズムの誘電率(ε1)およびサンプルの複素誘電率(ε~2)の関数として、以下の式で表される。
上記式(3)
これらの連立方程式(1)?(3)の解は、他のパラメータが与えられれば、試料の複素誘電率(ε~2)を決定する。)

(1ウ)「As illustrated in Fig. 1, in the case of a two-interface model fox a bulk sample (ε~3) deposited on a thin layer (ε~2), the reflection coefficient of the layer-bulk interface (r~23), as expressed by Eq. (4), needs to be taken into account, as well as the reflection coefficient of the prism-layer boundary (r~12). When the thickness of the layer sample, d, is constant and a plane wave approximation is satisfied, the reflection coefficient r~123 is described by Eq. (5). Given ε1,ε~3,θ, and d are known parameters, the complex dielectric constant of the layer sample (ε~2) can be calculated by the same calculation process noted above.

」(2頁左欄18行?2頁右欄1行)
(訳:図1に示すように、薄層(ε~2)上に堆積されたバルク試料(ε~3)の二界面モデルの場合、プリズム一層境界の反射係数(r~12)とともに、(4)式で表現される層-バルク界面の反射係数(r~23)をも考慮する必要がある。層サンプルの厚さdが一定であり、平面波近似が満たされるとき、反射係数r~123は(5)式で表される。ε1、ε~3、θおよびdが既知のパラメータである場合、層サンプルの複素誘電率(ε~2)は、上記と同じ計算プロセスによって計算することができる。
上記式(4)
上記式(5) )

(1エ)FIG.1として以下の図面が記載されている。

FIG.1. Schematic illustration of THz TD-ATR spectroscopy with a two-interface model. Dielectric constants of the ATR prism, layer sample, and bulk sample are ε1,ε~2, and ε~3, respectively. In addition to the reflection at the prism-layer boundary 0(r~12), reflection at the layer-bulk boundary (r~23) needs to be taken into account.
(訳:図1.2つの界面モデルを用いたTHz TD-ATR分光法の模式図。ATRプリズム、層サンプルおよびバルクサンプルの誘電率は、それぞれ、ε1、ε~2およびε~3である。プリズム-層境界(r~12)での反射に加えて、層-バルク境界(r~23)での反射を考慮する必要がある。)

(1オ)「In the next phase of the experiment, we directly attached a cell incubation chamber onto the ATR prism in order to culture the ceils. The top of the incubation chamber was a transparent window, so the ceil growth could be monitored using a digital microscope (KEYENCE Co., VH-250L)mounted just above the cell incubator. Intestinal epithelial cancer cell, DLD-1, was cultured with a RPM1-1640 medium(Wako Pure Chemical Industries, Ltd.) at 37°in a humidified atmosphere of 5% CO2 in the incubation chamber. The medium is a dilute solution with minute amounts of various inorganic salts, amino acids, and vitamins. To remove excess suspended cells, the medium was renewed in the middle of cell incubation. After 72h, it was observed that the ATR prism was completely covered with a DLD-1 cell monolayer. THz TD-ATR measurements were then performed with the ATR prism maintained at 37°. In this case, the prism-cell-medium boundary is considered to be a two-interface model and Eq. (5) was applied to eliminate the contribution of the bulk medium above the DLD-1 cell monolayer. Here, we assume that the cell monolayer has a flat surface that satisfies a plane wave approximation. Observation of fluorescently stained DLD-1 monolayer on a glass plate using a confocal fluorescent microscope (Nikon Co., A-l) revealed that the thickness of the cell monolayer (d) was 6.5 ± 1.0μm. For comparison, the complex dielectric constant of the medium alone was measured under the same conditions.」(3頁11?36行)
(訳:実験の次の段階で、我々は、細胞を培養するために細胞インキュベーションチャンバーをATRプリズムに直接取り付けた。インキュベーションチャンバーの上部は透明な窓であったので、細胞の増殖は、細胞インキュベーターのすぐ上に取り付けられたデジタル顕微鏡(KEYENCE Co.、VH-Z50L)を用いてモニターすることができた。腸管上皮がん細胞DLD-1は、RPM-1640培地(和光純薬工業(株))で37℃、5%CO_(2)の加湿雰囲気下においてインキュベーションチャンバー内で培養した。培地は、微量の様々な無機塩、アミノ酸、およびビタミンを含む希釈溶液である。過剰の懸濁細胞を除去するために、培地を細胞インキュベーションの途中で更新した。72時間経過後、ATRプリズムがDLD-1 細胞単層で完全に覆われていることが観察された。次いで、37℃に維持されたATRプリズムを用いてTHz TD-ATR測定を行った。この場合、プリズム-細胞-培地の境界は二界面モデルと考えられ、式(5)を適用して、DLD-1 細胞単層上のバルク培地の寄与を排除した。ここでは、細胞単層が平面波近似を満足する平坦な表面を有すると仮定する。共焦点蛍光顕微鏡(Nikon Co.、A-1)を用いて、蛍光染色されたDLD-1単層をガラス板上で観察したところ、細胞単層の厚さ(d)は6.5±1.0μmであった。比較のために、培地単独の複素誘電率を同じ条件下で測定した。)

(1カ)「To conclude, we demonstrated that THz TD-ATR spectroscopy coupled with a two-interface (prism-cell layer-bulk medium) calculation model is a powerful investigative technique. Results from preliminary experiments were used to remove the contribution of distilled water (bulk sample) to determine the calculated complex dielectric constant of the silicone film (ε~2Cal). Our calculation successfully reproduced the measured result (ε~2Mea), which confirms the validity of Eq.(5). This calculation was also demonstrated to determine the complex dielectric constant of the DLD-1 cell monolayer, assuming the cell monolayer is a flat surface. The obtained imaginary part suggests a well-developed hydration stale with a picosecond timescale inside cells. This result seemingly conflicts with NMR and QENS measurements, but in fact because THz spectroscopy evaluates the global hydration state rather than just those water molecules directly bonded to the biomolecule, our results provide a perspective of intracellular water dynamics.」(4頁左欄1?18行)
(訳:結論として、我々は、二界面(プリズム-細胞層-バルク培地)計算モデルと結合したTHz TD-ATR分光法が強力な調査技術であることを実証した。予備実験の結果では、蒸留水(バルク試料)の寄与を除去し、シリコーンフィルムの計算された複素誘電率(ε~2Cal)を決定した。我々の計算は、測定結果(ε~2Mes)を再現するのに成功し、(5)式の妥当性が確認された。この計算はまた、細胞単層が平坦な表面であると仮定して、DLD-1細胞単層の複素誘電率を決定するために実証された。得られた虚部は、細胞内でピコ秒のタイムスケールでよく発達した水和状態を示唆している。この結果はNMRとQENSの測定値と一見矛盾するが、実際には、THz分光法は生体分子に直接結合した水分子だけでなく、全体の水和状態を評価するため、我々の結果は細胞内の水ダイナミクスの見通しを提供する。)

(イ)甲1発明について
a 記載事項の整理
(a)摘記(1イ)の式(1)及び(2)では、THzスペクトルをフーリエ変換して得られる周波数領域における反射率(R~)および位相スペクトル(φ~)から、反射係数(r~12)を計算することが記載されているが、これはプリズム-試料の1界面モデルであるからであり、摘記(甲1ウ)の二界面モデルでは、反射率(R~)および位相スペクトル(φ~)から測定対象物全体の反射係数(r~123)を計算することになる。
そして、摘記(1ウ)には、反射係数(r~123)から、ε1、ε~3、θおよびdが既知のパラメータである場合、層サンプルの複素誘電率(ε~2)が計算することができることが記載されている。

(b)摘記(1ウ)のFIG.1には、テラヘルツ波出射面であるプリズム表面を層サンプルに接触させながらテラヘルツ波を照射していること示されている。

(c)摘記(1オ)及び(1カ)の具体的な実験例の記載を、摘記(1イ)?(1エ)の一般的な記載にあてはめると、「細胞単層」が「層サンプル」、「バルク培地」が「バルクサンプル」に相当し、細胞単層がバルク培地に積層した状態のものが測定対象物となる。

b 甲1発明
上記aを踏まえると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
「二界面モデルと組み合わせたテラヘルツ時間領域減衰全反射分光法を用いて細胞単層の複素誘電率を決定する方法であって、
細胞単層がバルク培地に積層した状態の測定対象物に対して、テラヘルツ波出射面であるプリズム表面を細胞単層に接触させながらテラヘルツ波を照射して、THzスペクトルをフーリエ変換して周波数領域における反射率(R~)および位相スペクトル(φ~)得て、
得られた反射率(R~)および位相スペクトル(φ~)から、測定対象物全体の反射係数(r~123)を計算し、
反射係数(r~123)から、細胞単層の複素誘電率(ε~2)を計算し、
そして、細胞単層の複素誘電率は、細胞内でピコ秒のタイムスケールでよく発達した水和状態を示唆するものである、
細胞単層の複素誘電率を決定する方法。」(以下「甲1発明」という。)

イ 甲第2号証について
甲第2号証(以下「甲2」という。)には、以下の記載がある。
(2ア)「23.2.3.3 THz reflection spectroscopy
Transmission terahertz spectroscopy is not suitable for natural biological objects due to strong absorption by water or large sample sizes in in vivo measurements. Reflection spectroscopy is a more viable prospect in these instances, and provides distant noninvasive measurements without thickness ranging. In vivo skin studies are the most appropriate for this technique. The complex reflection coefficient R~p(ω) contains information about the refraction index and absorption coefficient of the medium:
(23.9)式(略)
It is characterized by amplitude R and phase φ as R~p=Re^(iφ), where subscript p denotes radiation polarization in the incidence plane; θ is the incident angle. The Fresnel formula takes into account the complex part of the refractive index n(ω) = n'(ω) - iα(ω)c/ω.
」(597頁1?11行)
(訳:23.2.3.3 THz反射スペクトル
透過テラヘルツ分光法は、水による強い吸収または生体内測定における大きな試料サイズのために、天然の生物学的対象には適していない。反射分光法は、これらの例ではより実行可能な見通しであり、厚さ範囲に制限されない遠隔非侵襲測定を提供する。インビボ皮膚研究にはこの技術に最も適している。複素反射係数Rp(ω)は、媒質の屈折率および吸収係数に関する情報を含む。
(23.9)式(略)
これは、振幅Rおよび位相φがR~p(ω)=Re^(iφ)として特徴付けられる。添え字pは入射面における放射偏光を表し、θは入射角である。フレネル式は、屈折率n(ω)=n’(ω)-iα(ω)c/ωの複素数部分を考慮に入れている。)

(2イ)「The main advantage of the ATR method relative to reflection spectroscopy is in the simplicity of the reference spectra measurement, and the reflection amplitude is maximal. The main difficulty of the ATR method is an optical contact problem for hard sample studies. Simulation of a three-layered system (prism-air-matter) using the experimental parameters has shown feat the existence of a 10μm layer of air between the prism surface and matter under study is critical for getting information about studied material. For liquid samples optical contact is always good. Equation (23.9) (Fresnel formula) describing reflection is valid also for the ATR, but one must account for the refection of the prism material npr and substitute nby n/npr in Eq. (23.9). The free-surface reflection mode and the prism scheme provide considerably different shapes for both the reflection amplitude and phase spectra.
The prism scheme is more convenient for soft tissues studies, since a sample attaching to the prism basis forms a flat smooth interface with the tissue sample. We have thus measured the reflection spectra of the finger skin (Caucasian mate, 32 years-old, thumb, Figure 23.13).
Since the ATR method provides measurements only for superficial tissue layers up to 10μm, the skin was probed only within the stratum corneum. In this layer water content is minima and is equal to 15% (by weight); the main content is formed by proteins(70%)and lipids (15%). As a result, the skin reflection spectrum is considerably different from the water reflection (see Figure 23.10). We can control evanescent field penetration depth by changing the incidence angle, thus we can measure the essential surface properties of the samples (up to λ/50 in thickness).」(597頁25行?598頁8行)
(訳:反射分光法と比較したATR法の主な利点は、基準スペクトル測定の単純さであり、反射振幅は最大である。ATR法の主な難点は、硬質試料の研究における光学的接触の問題である。実験パラメータを用いた3層系(プリズム-空気-物質)のシミュレーションは、プリズム表面と研究中の物質との間に10μmの空気層が存在することが、研究された物質に関する情報を得るために重要であることを示している。液体試料の場合、光学的接触は常に良好である。反射を記述する式(23.9)(フレネル式)は、ATRについても有効であるが、プリズム材料の屈折率nprを考慮に入れヽ式nのn/nprをnに代入する必要かおる(23. 9)。自由表面反射モードおよびプリズム方式は、反射振幅および位相スペクトルの両方に対してかなり異なる形状を提供する。
プリズム法は、プリズム基盤に付着した試料が組織試料と平滑な界面を形成するので、軟組織の研究にはより便利である。これにより、指の皮膚の反射スペクトルを測定した(白人男性、32歳、親指、図23. 13)。
ATR法は、10μmまでの表面組織層についてのみ測定を提供するので、角層内のみで皮膚を検査した。この層では、含水率は最小で15%(重量)に等しい。主な含有量はタンパク質(70%)と脂質(15%)によって形成される[23]。その結果、皮膚の反射スペクトルは水の反射とはかなり異なっている(図23.10参照)。入射角を変えることでエバネッセント場の侵入深さを制御することができ、サンプルの本質的な表面特性を測定することができる(最大λ/50の厚さ)。)

(2ウ)「23.5.3 Skin
Skin is the most convenient object for THz-TDs studies sad imaging. It Is easy to measure in vivo, in ordinary or total internal reflection configuration. There is evidence of THz sensitivity to cancer lesions of the skin that is related to changes in water concentration or its state within the malignant tumor area. Ordinary reflection technique gives higher values of absorption coefficients than total internal reflection because of the varied penetration depth of radiation inside the skin. Less absorption for ATR is connected with the small probing depth that allows one to measure absorption only of the upper skin layer-stratum corneum, which contains a small amount of water.
Normal skin is comprised of three main layers: the stratum corneum, epidermis, and dermis. The thickness of the stratum corneum of the human palm can be up to 200μm. The TPI system was able to resolve the stratum corneum as the layered structure thai gave rise to multiple reflections. The contrast seen in the images was due to the combined changes in the refractive index and absorption of the tissue.」(608頁1?13行)
「訳:23.5.3 皮膚
皮膚は、THz-TDsの研究および画像化のための最も便利な対象である。インビボ、通常または全反射構成で測定することは容易である。悪性腫瘍領域内の水分濃度またはその状態の変化に関連する皮膚の癌病変に対するTHz感受性の証拠がある。通常の反射技術は、皮膚内部の放射線の浸透深さが変化するため、全内部反射よりも高い吸収係数の値を与える。ATRの吸収が少ないことは、小さなブローピンクの深さと関連しているため、少量の水分を含む上皮層(角層)のみの吸収を測定することができる。
正常な皮膚は、3つの主要層:角層、表皮層および真皮層からなる。ヒトの掌の角層の厚さは200μmまでであり得る。TPIシステムは、複数の反射を生じさせる層状構造として角層を分解することができた。画像に見られるコントラストは、組織の屈折率と吸収とを合わせた変化によるものであった。」

ウ 甲第3号証について
甲第3号証(以下「甲3」という。)には、以下の記載がある。
(3ア)「With time the decrease in both the absorption coefficient and the refractive index of she biotissue samples was observed, which can be explained by the reduction of water content and the increase in the agent content in the tissue, since the agents have lower values of these parameters, than water.」(636頁左欄51?55行)
(訳:時間の経過とともに、生体組織試料の吸収係数および屈折率の双方の低下が観察された。これは、薬剤が水よりこれらのパラメータの値が低いので、含水量の減少および組織中の薬剤含量の増加によって説明することができる。)

(2)対比・判断
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明2と甲1発明とを対比すると、以下のとおりである。
a スペクトル測定工程について
甲1発明の「細胞単層がバルク培地に積層した状態の測定対象物」と本件訂正発明2の「皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層した状態の測定対象物」とは、皮膚の角層が細胞層といえることから、「細胞層がもう一つの層と積層した状態の測定対象物」の点で共通する。
また、甲1発明の「THzスペクトルをフーリエ変換して周波数領域における反射率(R~)および位相スペクトル(φ~)」は、本件訂正発明2の「テラヘルツ波の反射スペクトル及び位相差スペクトル」に相当する。
してみれば、甲1発明の「細胞単層がバルク培地に積層した状態の測定対象物に対して、テラヘルツ波出射面であるプリズム表面を細胞単層に接触させながらテラヘルツ波を照射して、THzスペクトルをフーリエ変換して周波数領域における反射率(R~)および位相スペクトル(φ~)を得」ることと、本件訂正発明2の「皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層した状態の測定対象物に対して、テラヘルツ波出射面であるプリズム表面を前記皮膚の角層に接触させながらテラヘルツ波を照射して得られるテラヘルツ波の反射スペクトル及び位相差スペクトルを測定する工程」とは、「細胞層がもう一つの層と積層した状態の測定対象物に対して、テラヘルツ波出射面であるプリズム表面を細胞層に接触させながらテラヘルツ波を照射して得られるテラヘルツ波の反射スペクトル及び位相差スペクトルを測定する工程」の点で共通する。

b 反射係数算出工程について
甲1発明の「得られた反射率(R~)および位相スペクトル(φ~)から、測定対象物全体の反射係数(r~123)を計算」することは、本件訂正発明2の「前記測定工程において得られた前記反射スペクトル及び位相差スペクトルから前記測定対象物全体の反射係数を算出する工程」に相当する。

c 吸収係数を求める工程について
屈折率nは誘電率εの平方根に比例するものであり、複素屈折率は複素誘電率から導出されるものであるから、甲1発明の「複素誘電率」は、物理的に、本件訂正発明2の「複素屈折率」に相当するといえる。
してみれば、甲1発明の「反射係数(r~123)から、細胞単層の複素誘電率(ε~2)を計算」することと、本件訂正発明2の「前記算出された測定対象物全体の反射係数から前記皮膚の角層の複素屈折率を算出し、算出した複素屈折率に基づいて皮膚の角層の消衰係数を求め、それによって前記皮膚の角層の吸収係数を求める工程」とは、「前記算出された測定対象物全体の反射係数から前記細胞層の複素屈折率を算出する」ことにおいて共通する。

d そして、甲1発明の「二界面モデルと組み合わせたテラヘルツ時間領域減衰全反射分光法を用いて細胞単層の複素誘電率を決定する方法」と、本件訂正発明2の「テラヘルツ波全反射減衰分光法を用いた皮膚の角層の質量含水率測定方法」とは、「テラヘルツ波全反射減衰分光法を用いた細胞層についての方法」という点で共通する。

e 一致点・相違点
上記a?dを踏まえると、本件訂正発明2と甲1発明とは、
(一致点)
「テラヘルツ波全反射減衰分光法を用いた細胞層についての方法であって、
前記細胞層がもう一つの層と積層した状態の測定対象物に対して、テラヘルツ波出射面であるプリズム表面を前記細胞層に接触させながらテラヘルツ波を照射して得られるテラヘルツ波の反射スペクトル及び位相差スペクトルを測定する工程と、
前記測定工程において得られた前記反射スペクトル及び位相差スペクトルから前記測定対象物全体の反射係数を算出する工程と、
前記算出された測定対象物全体の反射係数から前記細胞層の複素屈折率を算出する、
細胞層について方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
細胞層及び細胞層がもう一つの層と積層した状態の測定対象物が、本件訂正発明2では、「皮膚の角層」及び「皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層した状態の測定対象物」であるのに対し、甲1発明では、細胞単層及び細胞単層がバルク培地に積層した状態の測定対象物であり、
そして、本件訂正発明2では、「皮膚の角層の複素屈折率を算出し、算出した複素屈折率に基づいて皮膚の角層の消衰係数を求め、それによって前記皮膚の角層の吸収係数を求め」、「皮膚の角層の質量含水率」を「測定」しているのに対し、甲1発明では、細胞単層の複素誘電率(ε~2)を計算し、その複素誘電率が細胞内でピコ秒のタイムスケールでよく発達した水和状態を示唆するものであるとされているものの、「皮膚の角層の質量含水率」を求めておらず、そして、それを求めるために、「皮膚の角層の複素屈折率から消衰係数を求め、それによって吸収係数を求め」ることもしていない点。

(イ)判断
a 甲2の記載について
摘記(2ア)に「複素反射係数Rp(ω)は、媒質の屈折率および吸収係数に関する情報を含む」との記載があるものの、その吸収係数が「複素屈折率から消衰係数を求め、それによって吸収係数を求め」たものか不明であり、細胞層の「吸収係数を求め」ることにより細胞層の「質量含水率」を測定することは記載されていない。
また、上記甲2の摘記(2イ)には、「ATR法は、10μmまでの表面組織層についてのみ測定を提供するので、角層内のみで皮膚を検査した。この層では、含水率は最小で15%(重量)に等しい。主な含有量はタンパク質(70%)と脂質(15%)によって形成される。」との記載があるが、「表面組織層についてのみ測定」及び「角層内のみで皮膚を検査した」と記載されているとおり、測定対象物が「角層」のみであり、摘記(2ウ)に「正常な皮膚は、3つの主要層:角層、表皮層および真皮層からなる。ヒトの掌の角層の厚さは200μmまでであり得る」との記載があるが、摘記(2ア)の「ATR法は、10μmまでの表面組織層についてのみ測定を提供する」との記載からすると、「皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層した状態」のものを「測定対象物」とはしていない。
してみれば、甲2には、上記相違点に係る構成である「皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層した状態の測定対象物」であり「皮膚の角層の複素屈折率を算出し、算出した複素屈折率に基づいて皮膚の角層の消衰係数を求め、それによって前記皮膚の角層の吸収係数を求め」、「皮膚の角層の質量含水率」を「測定」するという技術的事項が記載されているとはいえない。
加えて、甲1発明では「細胞単層がバルク培地に積層した状態の測定対象物」という実験上の測定対象物あり、皮膚の表皮層は「培地」ではなく、甲1発明の「細胞単層がバルク培地に積層した状態の測定対象物」に対する手法を、そのまま「皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層した状態の測定対象物」に適用できるのかどうかも不明であったといえる。

b 甲3の記載について
上記甲3の摘記(3ア)には、「時間の経過とともに、生体組織試料の吸収係数および屈折率の双方の低下が観察された。これは、薬剤が水よりこれらのパラメータの値が低いので、含水量の減少および組織中の薬剤含量の増加によって説明することができる。」との記載はあるが、上記相違点に係る構成である「皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層した状態の測定対象物」ではなく、さらに「皮膚の角層の複素屈折率を算出し、算出した複素屈折率に基づいて皮膚の角層の消衰係数を求め、それによって前記皮膚の角層の吸収係数を求め」ることにより「皮膚の角層の質量含水率」を測定するという技術的事項も記載されていない。

c してみれば、甲2及び甲3には上記相違点に係る構成が記載されていないのであるから、甲1発明に、甲2及び甲3に記載された事項を適用しても、本件訂正発明2とはならないことから、本件訂正発明2は、甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得た発明ではない。
さらに、甲2及び甲3には上記相違点に係る構成が記載されていないのであるから、甲2又は甲3を主引用例として甲1に記載されている事項を適用しても本件訂正発明2とはならず、本件訂正発明2は、甲2又は甲3に記載された発明及び甲1に記載されている事項に基づいて、当業者が容易になし得た発明でもない。

d 申立人の主張について
(a)申立人は、申立人意見書で、
「訂正後発明2と甲1発明との相違点は次のとおりである。
相違点A:測定対象物について、訂正後発明2では、「皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層した状態の測定対象物」(訂正項目a)であるのに対して、甲1発明では、「積層した状態の測定対象物」ではあるものの、「皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層」したものではない点。
相違点B:測定項目について、訂正後発明2では、“複素屈折率から質量含水率を求める”(訂正項目b)のに対して、甲1発明では、複素屈折率の測定に留まる点。」と主張し、
「相違点Aに係る「皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層した状態の測定対象物」(訂正項目a)、および、相違点Bに係る“複素屈折率から質量含水率を求める点”(訂正項目b)は、甲第2号証に記載されている。
「皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層した状態の測定対象物」において「皮膚の角層の質量含水率」を求めることについては、特許異議申立書において指摘したとおり、甲第2号証に記載されている。
特に、甲第2号証の「23.2.3.4 Attenuated total internal reflection」欄に、「Since the ATR method provides measurements only for superficial tissue layers up to 10 μm, the skin was probed only within the stratum corneum. In this layer water content is minimal and is equal to 15% (by weight)」(ATR法は、10μmまでの表面組織層についてのみ測定を提供するので、角層内のみで皮膚を検査した。この層では、含水率は最小で15%(重量)に等しい)と記載されている。
したがって、訂正後発明2は、特許異議申立書および取消理由通知書に記載された理由により進歩性を有しない。」と主張している。

(b)上記主張に対する判断
イ 相違点について
申立人は「訂正後発明2では、“複素屈折率から質量含水率を求める”」とした上で相違点を抽出しているが、「複素屈折率に基づいて皮膚の角層の消衰係数を求め、それによって前記皮膚の角層の吸収係数を求める工程」についての相違点を看過している。

ロ 甲2について
上記申立人が主張している甲2の上記摘記箇所は、上記でa述べたとおり「ATR法は、10μmまでの表面組織層についてのみ測定を提供するので、角層内のみで皮膚を検査した」と記載されており、測定対象物は「角層」のみであり、「皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層した状態の測定対象物」を前提としたものではない。してみれば、申立人の「皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層した状態の測定対象物」において「皮膚の角層の質量含水率」を求めることが甲第2号証に記載されているとの主張は、その前提において誤りである。
さらに、甲2の上記摘記箇所には、「ATR法」との記載はあるが、「含水率」をどのように求めるか記載されていない(甲2のその余の記載箇所を参照しても、皮膚の角層の複素屈折率から消衰係数を求め、それによって吸収係数を求めた上で含水率を求めることについて具体的に記載されていないことについては、上記でa述べたとおりである)。

ハ 動機付けについて
上記甲1発明は、上記(1)ア(イ)で記載したように「細胞単層がバルク培地に積層した状態の測定対象物」(この点、当審では申立人の「積層した状態の測定対象物」より具体的に認定した)であり、甲2の皮膚の角層は「培地」に積層させるものでもなく、また二界面モデルに対応するものとして記載されていないことから、甲2には皮膚の角層の含水率を測定することについて記載されているからといって、甲1発明に甲2の記載事項を適用することの動機付けがあるともいえない。

ニ 以上、イ?ハの点で申立人の主張は当を得ず、申立人の主張によって、上記cで述べたことが覆ることはない。

(ウ)小括
よって、本件訂正発明2は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでない。

イ 本件訂正発明3、5及び6について
上記第3で記載したとおり、本件訂正発明3、5及び6は本件訂正発明2をさらに限定した発明であるから、本件訂正発明2と同様に、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでない。

(3)取消理由4のまとめ
したがって、本件訂正発明2、3、5及び6は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでないことから、取消理由4によって、本件訂正発明2、3、5及び6に係る特許を取り消すことはできない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

第7 申立人意見書にによる新たな申立理由について
(1)申立人は、本件訂正発明6の「既知の含水率と吸収係数の相関関係から、前記皮膚の角層の質量含水率を求める工程をさらに有する請求項2、3及び5の何れか1項に記載の質量含水率測定方法。」における「工程をさらに有する」との記載を捉えて、申立人意見書で、
「訂正後発明6は、“訂正後発明2,3,5において皮膚の角層の質量含水率を求める工程”に加えて、「既知の含水率と吸収係数の相関関係から、前記皮膚の角層の質量含水率を求める工程をさらに有する」」と解釈した上で、以下の新たな申立理由を主張している。
ア サポート要件(特許法第36条第6項第1号)違反
「訂正後発明6のように「前記皮膚の角層の質量含水率を求める工程」を二つ有する構成とした上で一方の工程については「既知の含水率と吸収係数の相関関係から、前記皮膚の角層の質量含水率を求める工程」とすることは、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていない。」
明確性要件(特許法第36条第6項第2号)違反
「「既知の含水率と吸収係数の相関関係から、前記皮膚の角層の質量含水率を求める工程」とは別の“訂正後発明2,3,5において皮膚の角層の質量含水率を求める工程”とは如何なる工程であるのか」、「或いは、訂正後発明2,3,5は「皮膚の角層の質量含水率を求める工程」を有しておらず、訂正後発明6において初めて「皮膚の角層の質量含水率を求める工程」を有する、とも解され得る。」「したがって、当業者が訂正後の請求項2,3,5の記載から訂正後発明2,3,5を明確に把握することができないので、訂正後発明2,3,5は明確でない。」
実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)違反
「「既知の含水率と吸収係数の相関関係から、前記皮膚の角層の質量含水率を求める工程」とは別の“訂正後発明2,3,5において皮膚の角層の質量含水率を求める工程”を如何にして行うのか、本件明細書の発明の詳細な説明において当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。」

(2)しかしながら、本件訂正前の請求項6の記載は「既知の含水率と吸収係数の相関関係から、前記薄膜試料の含水率を求める工程をさらに有する請求項1?5の何れか1項に記載された水分量測定方法。」であり、上記申立人の主張する解釈は、本件訂正によって生じたものではないことから、上記新たな申立理由ア?ウを特許異議申立ての申立理由として採用できない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、訂正の請求により訂正された請求項2、3、5及び6に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他にこれら訂正された請求項に2、3、5及び6係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1及び4に係る特許は、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項1及び4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
テラヘルツ波全反射減衰分光法を用いた皮膚の角層の質量含水率測定方法であって、
前記皮膚の角層が皮膚の表皮層に積層した状態の測定対象物に対して、テラヘルツ波出射面であるプリズム表面を前記皮膚の角層に接触させながらテラヘルツ波を照射して得られるテラヘルツ波の反射スペクトル及び位相差スペクトルを測定する工程と、
前記測定工程において得られた前記反射スペクトル及び位相差スペクトルから前記測定対象物全体の反射係数を算出する工程と、
前記算出された測定対象物全体の反射係数から前記皮膚の角層の複素屈折率を算出し、算出した複素屈折率に基づいて皮膚の角層の消衰係数を求め、それによって前記皮膚の角層の吸収係数を求める工程と、
を有する皮膚の角層の質量含水率測定方法。
【請求項3】
前記皮膚の角層の厚みよりも大きな滲みだし深さを有するエバネッセント波を生じる周波数帯のテラヘルツ波を照射する請求項2に記載の質量含水率測定方法。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
屈折率が2.0以上であるプリズムを用いる請求項2又は3に記載の質量含水率測定方法。
【請求項6】
既知の含水率と吸収係数の相関関係から、前記皮膚の角層の質量含水率を求める工程をさらに有する請求項2、3及び5の何れか1項に記載の質量含水率測定方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-30 
出願番号 特願2014-179671(P2014-179671)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (G01N)
P 1 651・ 121- YAA (G01N)
P 1 651・ 536- YAA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 将志  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 三木 隆
三崎 仁
登録日 2018-05-11 
登録番号 特許第6331140号(P6331140)
権利者 国立大学法人京都大学 株式会社ナリス化粧品
発明の名称 水分量測定方法  
代理人 志村 尚司  
代理人 特許業務法人あい特許事務所  
代理人 松浦 孝  
代理人 特許業務法人あい特許事務所  
代理人 志村 尚司  
代理人 志村 尚司  
代理人 特許業務法人あい特許事務所  

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