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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  A61J
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61J
管理番号 1357644
異議申立番号 異議2018-700880  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-02 
確定日 2019-10-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6319224号発明「薬液調製方法及び薬液調製システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6319224号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、7について訂正することを認める。 特許第6319224号の請求項2-5、7に係る特許を維持する。 特許第6319224号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6319224号(以下「本件特許」という。)の請求項1-7に係る特許についての出願は、平成30年4月13日にその特許権の設定登録がされ、平成30年5月9日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1-5、7に係る特許について、平成30年10月31日付け(平成30年11月2日特許庁受付)で特許異議申立人大倉忠義(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
以下、特許異議の申立て後の経緯の概要は以下のとおりである。
平成31年1月21日付け 取消理由通知
同年3月25日 意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
同年4月26日 訂正請求書の手続補正書の提出(特許権者)
令和1年6月 7日受付 意見書の提出(申立人)
同年7月10日付け 審尋(特許権者に対して)
同年7月29日 回答書(特許権者)
同年9月 3日 上申書(特許権者)
同年9月 9日付け 審尋(申立人に対して)
同年9月18日受付 回答書(申立人)
以下、平成31年3月25日の訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。

第2 本件訂正について
1 本件訂正の内容 (下線は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を独立形式に改め、その際、訂正前に引用していた請求項1に
「少ない収容量の前記容器から順に前記輸液を注入していく」
と記載されているのを
「収容されている前記薬品の量が少ない前記容器から順に前記輸液を注入していく」
と訂正する。
また、請求項2の記載を直接的または間接的に引用する請求項3-5も同様に「少ない収容量の前記容器から順に前記輸液を注入していく」
と記載されているのを
「収容されている前記薬品の量が少ない前記容器から順に前記輸液を注入していく」
と訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の請求項7の「を有し、
前記第2制御部は、」
と記載されているのを
「を有し、
前記第2制御部は、1つの前記容器に対して前記プランジャーを引いた後に押す注入動作を複数回行うことで前記輸液を注入し、
前記第2制御部は、」
と訂正する。
(4)訂正事項4
訂正前の請求項7に
「前記第2制御部は、少ない収容量の前記容器から順に前記輸液を注入するように制御する、薬液調製システム。」
と記載されているのを
「前記第2制御部は、収容されている前記薬品の量が少ない前記容器から順に前記輸液を注入するように制御する、薬液調製システム。」
と訂正する。

2 訂正の目的、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、請求項1を削除するという訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内でしたものであって新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、請求項2を独立形式に改めるとともに、訂正前の請求項2に係る発明を特定するための事項である「少ない収容量の前記容器から順に前記輸液を注入していく」について、「少ない収容量」が容器に収容されている薬品の収容量であるのか、容器が収容し得る量であるのか特定されていなかったのを「収容されている」「薬品の量」であることを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2に係る訂正は、特許明細書等の「複数の容器のうち少ない収容量の容器6から順に輸液10Bを注入させるように構成されていてもよい。」(【0032】)との記載に基づくものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内でしたものであって新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項7に記載されていた「第2制御部」について「1つの前記容器に対して前記プランジャーを引いた後に押す注入動作を複数回行うことで前記輸液を注入」することをさらに特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項2に記載されていた「前記工程Bにおいて、1つの前記容器に対して前記プランジャーを引いた後に押す注入動作を複数回行うことで前記輸液を注入する、」との記載に基づくものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内でしたものであって新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項7に係る発明を特定するための事項である「少ない収容量の前記容器から順に前記輸液を注入する」について、「少ない収容量」が容器に収容されている薬品の収容量であるのか、容器が収容し得る量であるのか不明確であったのを、「収容されている」「薬品の量」であることを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4に係る訂正は、特許明細書等の「複数の容器のうち少ない収容量の容器6から順に輸液10Bを注入させるように構成されていてもよい。」(【0032】)との記載に基づくものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内でしたものであって新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)一群の請求項
訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし5はそれぞれ請求項1を直接又は間接に引用しているものであって、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1及び2に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1ないし5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕、7について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
上記「第2 本件訂正について」のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項2-5、7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明2」-「本件発明5」、「本件発明7」という。)は、平成31年3月25日提出の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項2-5、7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項2】
密封されている容器に収容されている薬品及び輸液バッグに収容されている輸液を混合調製する薬液調製方法であって、
複数の前記容器に対して注入すべき量に対応した前記輸液を前記輸液バッグから1つのシリンジに移送する工程Aと、
前記容器及び前記シリンジが把持されている状態で、前記シリンジのプランジャーを駆動するように構成されているシリンジ駆動装置及びロボットの少なくとも一方を制御することによって、前記シリンジから前記容器の各々に対して前記輸液を注入する工程Bと、
を有し、
前記工程Bにおいて、1つの前記容器に対して前記プランジャーを引いた後に押す注入動作を複数回行うことで前記輸液を注入し、
前記工程Bにおいて、収容されている前記薬品の量が少ない前記容器から順に前記輸液を注入していく、薬液調製方法。
【請求項3】
前記工程Bにおいて、1つの前記容器に対して前記注入動作を行う度に、前記プランジャーの移動量を増加させていく、請求項2に記載の薬液調製方法。
【請求項4】
電子カルテから取得した薬品情報及び投入量情報に基づいて、前記注入動作をする際の毎回の前記プランジャーの移動量を決定する工程Cを有する、請求項2又は3に記載の薬液調製方法。
【請求項5】
前記工程Cにおいて、前記薬品情報及び前記投入量情報に関連付けられている前記プランジャーによる前記注入動作の実施回数に基づいて、前記移動量を決定する、請求項4に記載の薬液調製方法。
【請求項7】
密封されている容器に収容されている薬品及び輸液バッグに収容されている輸液を混合調製するように構成されている薬液調製システムであって、
ハンドを先端に備えたアームを有するロボットと、
シリンジのプランジャーを駆動するように構成されているシリンジ駆動装置と、
前記ロボット及び前記シリンジ駆動装置を制御するように構成されているコントローラと、
を有し、
前記コントローラは、
前記ロボット及び前記シリンジ駆動装置の少なくとも一方を制御することによって、複数の前記容器に対して注入すべき量に対応する前記輸液を前記輸液バッグから1つの前記シリンジに移送するように制御する第1制御部と、
前記シリンジ及び前記容器が把持されている状態で、前記ロボット及び前記シリンジ駆動装置の少なくとも一方を制御することによって、前記シリンジから前記容器の各々に対して前記輸液を注入するように制御する第2制御部と、
を有し、
前記第2制御部は、1つの前記容器に対して前記プランジャーを引いた後に押す注入動作を複数回行うことで前記輸液を注入し、
前記第2制御部は、収容されている前記薬品の量が少ない前記容器から順に前記輸液を注入するように制御する、薬液調整システム。」

2 取消理由通知に記載した取消理由の概要
本件発明2-5、7に係る特許に対して、上記平成31年1月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。なお、当該取消理由は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由をすべて含んでいる。

取消理由1(進歩性)
本件発明2-5、7は、本件特許の出願前日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

取消理由2(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、取り消すべきものである。

取消理由3(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、取り消すべきものである。

甲第1号証:国際公開第2015/041092号

3 取消理由についての検討
事案に鑑み、取消理由2、取消理由3、取消理由1の順で検討する。
(1)取消理由2(明確性)について
ア 取消理由の内容
取消理由2は、本件発明2-5、7の「収容量」は、容器に収容されている薬品の量を意味するのか、容器の容積を意味するのか不明確であったというものである。
イ 判断
しかしながら、本件発明2-5及び7では、「収容量」は、「収容されている前記薬品の量」であると訂正されており、上記取消理由2の取消理由は解消されたため、特許請求の範囲が不明確であるとはいえない。

(2)取消理由3(サポート要件)について
ア 取消理由の内容
取消理由3は、本件発明2-5、7は、「少ない収容量の前記容器から順に前記輸液を注入」との発明特定事項を含んでおり、当該発明特定事項について、本件特許の明細書の段落【0032】には、「複数の容器のうち少ない収容量の容器6から順に輸液10Bを注入させるように構成されていてもよい。かかる構成によれば、各容器6に対する輸液10Bの注入精度を向上することができる。」と記載されていることから、本件発明2-5、7は、各容器に対する輸液の注入精度を向上させることを課題の1つとするものと認められる。
しかしながら、本件特許の明細書には、少ない収容量の容器から順に輸液を注入していくことと、各容器に対する輸液の注入精度が向上することとの因果関係が成り立つ理由について何ら説明がなく、当業者が当該理由を理解することができるとは認められない。
そうすると、本件発明2-5、7は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
よって、本件発明2-5、7は、発明の詳細な説明に記載したものでないというものである。
イ 判断
本件特許明細書等には、下記の記載がある(下線は当審で付与した。)。
「【0021】
第1制御部4Aは、ロボット2及びシリンジ駆動装置3の少なくとも一方を制御することによって、複数の容器6に対して注入すべき量に対応した輸液10Bを輸液バッグ7から1つのシリンジ5に移送させるように構成されている。」
「【0026】
第2制御部4Bは、容器6又はシリンジ5が把持されている状態で、ロボット2及びシリンジ駆動装置3の少なくとも一方を制御することによって、シリンジ5によって容器6の各々に対して輸液10Bを注入させるように構成されている。」
「【0032】
ここで、第2制御部4Bは、ロボット2及びシリンジ駆動装置3の少なくとも一方を制御することによって、複数の容器のうち少ない収容量の容器6から順に輸液10Bを注入させるように構成されていてもよい。かかる構成によれば、各容器6に対する輸液10Bの注入精度を向上することができる。」
「【0035】
例えば、第2制御部4Bは、図6に示すように、容器6及びシリンジ5が保持されている状態で(図6(a)参照)、ロボット2及びシリンジ駆動装置3の少なくとも一方を制御することによって、第1に、移動量X1だけプランジャー5Bを引かせ(図6(b)参照)、第2に、移動量X1(或いは、移動量X1よりも所定量だけ少ない量)だけプランジャー5Bを押させて輸液10Bを容器6に注入させ(図6(c)参照)、第3に、移動量X2だけプランジャー5Bを引かせ(図6(d)参照)、第4に、移動量X2(或いは、移動量X2よりも所定量だけ少ない量)だけプランジャー5Bを押させて輸液10Bを容器6に注入させる(図6(e)参照)ように構成されていてもよい。ここで、移動量X1は、移動量X2よりも少ない。
【0036】
かかる構成によれば、プランジャー5Bを引くことでシリンジ5に入った空気の影響により1回プランジャー5Bを押すことで容器6に対して注入される輸液10Bの量が減少してしまうという事態を回避することができ、正確な量の輸液10Bを容器6に対して注入することができる。」
「図6


上記摘記事項及び図6によれば、シリンジ5内の輸液10Bを容器6に注入動作をするときに、プランジャ5Bを引くことにより容器6内の空気がシリンジ5内に入ることから、注入動作を繰り返すとシリンジ5内の空気が増えることが理解できる。
特許明細書【0036】の「プランジャー5Bを引くことでシリンジ5に入った空気の影響により1回プランジャー5Bを押すことで容器6に対して注入される輸液10Bの量が減少してしまう」との記載、及び「気体は液体より膨張又は圧縮しやすい」という技術常識を踏まえれば、シリンジ5内に空気が存在するとプランジャーを駆動してもシリンジ5内の空気の影響により、正確な量の輸液10Bを容器6内に注入することができない、即ち注入誤差が発生することが理解できる。
そうすると、注入動作1回当たりの注入誤差はシリンジ5内の空気の量に応じて増大すると認められるから、N回目の注入動作(1回の注入動作において、プランジャーを常にX引いた後、X押す場合)では、Nの数が増えるにしたがってシリンジ5内の空気量が増えるから、N回目に近づく程注入誤差が大きくなるといえる。
そして、注入誤差が一定の場合、注入誤差による影響は、容器内の収容量が少ないものと多いもの(言い換えると注入量が少ないものと多いもの)とを比較すると、容器6内の薬品の収容量が少ないもののほうが注入誤差の影響が大きくなるといえるから、薬品の収容量が少ない容器から順に輸液を注入していくことにより、注入誤差の影響を分散させて相対的に小さくすることができ、その結果として、輸液の注入精度が向上することが当業者であれば理解できる。
そうすると、本件発明2-5、7は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものであるから、本件発明2-5、7は、発明の詳細な説明に記載したものでないということはできない。

(3)取消理由1(進歩性)について
ア 甲第1号証及び甲第1号証に記載された発明について
(ア)甲第1号証に記載された事項
甲第1号証:国際公開第2015/041092号には、図面とともに次の記載がある。(下線は、当審で付したものである。)
「[0001]本発明は、薬品容器に収容された抗がん剤などの薬品を輸液容器に注入する混注処理を実行する混注装置及び混注方法に関する。」
「[0062][混注装置1]
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る混注装置1は、混注制御装置100、薬品装填部200、及び混注処理部300を備える。そして、前記混注装置1では、前記混注制御装置100により前記混注処理部300の動作が制御されることによって、調製データに示された抗がん剤などの薬品を既定量の前記薬品が収容された一又は複数の薬品容器から輸液容器に注入する混注処理が実行される。
[0063][混注制御装置100]
まず、図1を参照しつつ前記混注制御装置100の概略構成について説明する。前記混注制御装置100は、通信可能に接続された第1制御部400及び第2制御部500を備える。前記第1制御部400は、前記薬品装填部200側に設けられ、前記第2制御部500は、前記混注処理部300側に設けられている。
[0064] なお、本実施形態で説明する前記第1制御部400及び前記第2制御部500各々の処理分担は一例に過ぎず、前記混注処理の各処理手順は前記第1制御部400及び前記第2制御部500のいずれかによって実行されればよい。また、前記混注制御装置100が、一つの制御部又は三つ以上の制御部を有することも他の実施形態として考えられる。さらに、前記第1制御部400及び前記第2制御部500で実行される処理の一部又は全部が、ASIC又はDSPなどの電子回路により実行されてもよい。
[0065] また、前記第1制御部400は、前記混注装置1に調製データを入力する電子カルテシステム又は調剤管理システムなどの上位システム600との間で通信可能である。前記調製データは、処方データに基づいて生成される調製用のデータ又は前記処方データそのものである。例えば、前記処方データには、処方箋交付年月日、患者ID、患者名、患者生年月日、薬品情報(薬品コード、薬品名、用量など)、剤形情報(内服、外用など)、用法情報(1日3回毎食後など)、診療種別(外来、入院など)、診療科、病棟、及び病室などが含まれる。また、前記調製データには、患者情報、医師情報、薬品情報、薬品の処方量、薬品容器の種類(薬液入りアンプル、薬液入りバイアル瓶、又は粉薬入りバイアル瓶など)、調製内容情報(混注処理に使用する薬品容器、注射器、注射針の種類や本数等)、及び調製手順情報(作業内容、溶解薬、溶媒、溶解薬量、溶媒量、抜取量)、調製日、処方箋区分、投薬日、診療科、病棟、調製時間などが含まれる。」
「[0076] なお、本発明は、前記混注制御装置100において前記CPU401及び前記CPU501に各種の処理を実行させるための前記混注制御プログラム又は前記混注制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体の発明として捉えてもよい。また、本発明は、前記混注装置1において前記混注処理の各処理手順を実行する混注方法の発明として捉えてもよい。」
「[0095][第1ロボットアーム21、第2ロボットアーム22]
前記第1ロボットアーム21及び前記第2ロボットアーム22は、多関節構造を有する駆動部であり、前記混注処理室104の天井側に基端部を固定して垂下状に設けられている。前記第1ロボットアーム21及び前記第2ロボットアーム22の間接はそれぞれ5?8軸程度である。そして、前記混注装置1では、双腕型の前記第1ロボットアーム21及び前記第2ロボットアーム22により混注処理における各作業工程が実行される。具体的に、前記第2制御部500は、前記第1ロボットアーム21及び前記第2ロボットアーム22の各間接に設けられた駆動モーターを個別に駆動させ、前記第1ロボットアーム21及び前記第2ロボットアーム22に前記混注処理における各作業を実行させる。なお、前記混注処理部300は、前記混注処理を実行することができる構造であれば、例えば1本のロボットアームを有する構成、3本以上のロボットアームを含む構成、又はロボットアームを用いない構成であってもよい。
[0096] 図6に示すように、前記第1ロボットアーム21は、前記薬品容器10及び前記注射器11などの器材を保持することが可能な保持部25を備え、前記保持部25を予め定められた可動範囲内において任意の位置に移動させることが可能である。前記第2ロボットアーム22は、前記薬品容器10及び前記注射器11などの器材を保持することが可能であり、前記注射器11による薬品の吸引及び注入の操作を実行することのできる保持部26を備える。ここに、前記第1ロボットアーム21及び前記第2ロボットアーム22が第1駆動手段の一例であり、前記保持部26が第2駆動手段の一例である。また、前記第2ロボットアーム22は、前記薬品容器10及び前記注射器11などを予め定められた可動範囲内において任意の位置に移動させることが可能である。
・・・
[0100] 図8に示すように、前記第2ロボットアーム22の前記保持部26は、注射器保持部261、プランジャ保持部262及び移動部263を備える。前記注射器保持部261は、前記注射器11のシリンジ11aを保持する一対の把持爪261aを備えている。前記一対の把持爪261aは、前記保持部25で用いられている駆動機構と同様の機構により、相互に近接及び離間して前記注射器11の前記シリンジ11aを保持及び解放する把持部である。また、前記一対の把持爪261aにおいては、互いに対向する対向面に、前記把持爪261aの上端面から前記対向面へ向けて下り傾斜する傾斜部261bが形成されている。
[0101] 前記プランジャ保持部262は、前記注射器11のプランジャ11bの鍔部を保持する一対の把持爪262aを備えている。前記一対の把持爪262aは、前記保持部25で用いられている駆動機構と同様の機構により、相互に近接及び離間して前記注射器11の前記プランジャ11bの鍔部を保持及び解放する把持部である。前記把持爪262a各々の上面には把持爪262bが固定されている。前記把持爪262b各々は、前記一対の把持爪262aを近接及び離間させることで近接及び離間し、前記注射器11だけではなく前記薬品容器10などの他の器材を把持する把持部である。なお、前記一対の把持爪262aの対向側の上面には前記プランジャ11bの鍔部が入り込むための凹部が形成されている。また、前記一対の把持爪262bの先端は前記一対の把持爪262aよりも前方に突出しており、前記一対の把持爪262bによる前記アンプル10A及び前記バイアル瓶10Bなどの器材の把持が容易である。なお、前記把持爪262bは前記把持爪261aに設けられていてもよい。
[0102] 前記移動部263は、前記プランジャ保持部262を前記注射器11のプランジャ11bの移動方向に移動させることが可能である。前記移動部263は、例えば、モーター、前記モーターによって回転されるねじシャフト、前記ねじシャフトに螺合されたナットブロック、ガイド等の駆動機構により前記プランジャ11bを移動させる。前記プランジャ保持部262は、前記ナットブロックに固定されており、前記ナットブロックの移動によって移動する。」
「[0150][バイアル瓶10Bを使用する混注処理]
・・・
[0157] 次に、前記第2制御部500は、前記第1ロボットアーム21により、前記載置台33から前記注射器11を取り出し、前記第2ロボットアーム22にセットする。続いて、前記第2制御部500は、前記第2ロボットアーム22により、前記注射器11を前記注射針着脱装置43に移動させて前記注射器11に前記注射針11cをセットさせる。その後、前記第2制御部500は、前記第2ロボットアーム22により、前記注射器11を前記針曲り検知部36に移動させ、前記注射針11cの曲りの有無を検出する。[0158] 続いて、前記第2制御部500は、前記第2ロボットアーム22により、前記トレイ搬送終端部110aに搬送された前記輸液バッグ12の混注口に前記注射器11の前記注射針11cを穿刺して、前記輸液バッグ12から前記調製データで示された溶解量の輸液を吸引する。一方、前記第2制御部500は、前記第1ロボットアーム21により、前記載置台33に載置されている前記バイアル瓶10Bを取り出す。
[0159] そして、前記第2制御部500は、前記第1ロボットアーム21及び前記第2ロボットアーム22により、前記バイアル瓶10Bと前記注射器11とをそれぞれ接近させて、前記注射器11の前記注射針11cを前記バイアル瓶10Bに穿刺する。その後、前記第2制御部500は、前記第2ロボットアーム22によって前記プランジャ11bを操作することにより、前記注射器11内の前記輸液を前記バイアル瓶10B内に注入する。これにより、前記バイアル瓶10B内の薬品が前記輸液で溶解される。このとき、前記注射器11及び前記バイアル瓶10Bの姿勢は、前記注射器11の前記注射針11cが鉛直下方向に向けられ、前記バイアル瓶10Bの口部が鉛直上方向に向けられた状態である。」
「[0361][第3の実施形態]
ところで、複数の前記バイアル瓶10Bを用いて前記混注処理を実行する場合、前記混注装置1Aでは、前記注射器11で前記バイアル瓶10B各々に輸液を注入する際に前記バイアル瓶10Bごとに対応する輸液の必要量がその都度前記輸液バッグ12から吸引されることが考えられる。しかしながら、このような手法では、前記バイアル瓶10Bの数と同じ回数だけ前記注射器11で前記輸液バッグ12から輸液の吸引を行う必要があるため前記混注処理の所要時間が長くなるという問題が生じる。
[0362] これに対し、前記混注装置1Aにおいて、前記注射器11で複数の前記バイアル瓶10Bに対応する輸液の必要量が纏めて前記輸液バッグ12から吸引され、その後に、前記注射器11から前記バイアル瓶10B各々に必要量の輸液が分配される手法も考えられる。この場合には、前記バイアル瓶10Bの数よりも少ない回数だけ前記注射器11で前記輸液バッグ12から輸液の吸引を行えばよいため前記混注処理の所要時間が短縮される。また、その後、複数の前記バイアル瓶10B内の薬液は、前記注射器11によって順に吸引され、前記輸液バッグ12に注入される。以下、本実施形態では、粉薬などの薬品が収容された2本の前記バイアル瓶10Bであるバイアル瓶10B1及びバイアル瓶10B2を用いて前記混注処理が実行される場合を例に挙げて説明する。また、ここでは前記バイアル瓶10B1及び前記バイアル瓶10B2の薬品の全量が前記混注処理で使用される場合について説明する。なお、前記バイアル瓶10Bの数は2本に限らない。」
「[0366] ところで、前記注射器11から前記バイアル瓶10B1、10B2にそのまま輸液を注入すると、前記バイアル瓶10B1、10B2内が陽圧になって、前記バイアル瓶10B1、10B2から薬液が漏れやすくなる。そのため、前記注射器11の注射針11cが前記バイアル瓶10B1、10B2のゴム栓10Cに挿通された後、前記注射器11のプランジャ11bが操作されて前記バイアル瓶10B1、10B2から所定量の空気が吸引され、前記バイアル瓶10B1、10B2内が負圧にされる。そして、前記注射器11のプランジャ11bが操作されて前記注射器11から前記バイアル瓶10B1、10B2に輸液が注入される。このような一連の注入処理が1回又は複数回実行されることにより前記バイアル瓶10B1に対応する必要量の輸液が前記バイアル瓶10B1、10B2に注入される。」
「[0384] 例えば、前記バイアル瓶10B1に1g、前記バイアル瓶10B1に200mgの薬品が収容されている場合であって、前記バイアル瓶10B1を使用する際の輸液の規定量が25ml以上、前記バイアル瓶10B2を使用する際の輸液の規定量が5ml以上である場合を考える。また、前記注射器10で吸引するべき薬液に含まれているべき薬品の必要量は1.1gであるとする。この場合、前記第2制御部500は、前記第2ロボットアーム22を制御して、前記注射器11で30mlの輸液を前記輸液バッグ12から吸引した後、前記バイアル瓶10B1に25mlの輸液を注入し、前記バイアル瓶10B2に5mlの輸液を注入する。これにより、前記バイアル瓶10B1及び前記バイアル瓶10B2の薬液の濃度が同じになる。そのため、前記第2制御部500は、前記注射器10により前記バイアル瓶10B1及び前記バイアル瓶10B2から順不同で合計27.5mlの薬液を吸引することにより必要量である1.1gの薬品を採取し、前記輸液バッグ12に注入することが可能となる。」
「[0477] ここで、前記注射器11から前記バイアル瓶10Bに輸液M1を注入する際には、前記バイアル瓶10B内が陽圧になって、前記バイアル瓶10Bから薬液が漏れやすくなる。そのため、前記注射器11から前記バイアル瓶10Bに輸液M1を注入する注入工程において、前記第2制御部500が、前記第1ロボットアーム21及び前記第2ロボットアーム22を制御して前記バイアル瓶10Bの開口部を上方に向けると共に前記注射器11の先端を下方に向けた後、前記注射器11により前記バイアル瓶10Bから空気A1を吸引する第1置換工程と前記注射器11内の輸液M1を前記バイアル瓶10Bに注入する第2置換工程とを交互に実行させることがある。ここに、前記注入工程を実行するための処理を実行するときの前記第2制御部500が第6制御手段の一例である。・・・」

上記、[0366]には、バイアル瓶10Bはゴム栓10Cを備えること、及び、バイアル瓶10Bに輸液を注入するとバイアル瓶10B内が陽圧になることが記載されているから、バイアル瓶10Bは、ゴム栓10Cにより密封されていると認められる。

(イ)甲第1号証に記載された発明
上記(ア)より、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1a発明」及び「甲1b発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲1a発明]
「 密封されているバイアル瓶10Bに収容されている薬品及び輸液バッグ12に収容されている輸液を混注処理する混注方法であって、
注射器11で複数の前記バイアル瓶10Bに対応する輸液の必要量を纏めて前記輸液バッグ12から吸引する工程と、
第1ロボットアーム21により前記バイアル瓶10Bを保持し、第2ロボットアーム22により前記注射器11を保持し、前記注射器11のプランジャ11bを操作する第2ロボットアーム22を制御することによって、前記注射器11から前記バイアル瓶10B各々に前記輸液を注入する工程と、を有し、
前記注入する工程において、前記プランジャ11bを操作して前記バイアル瓶10Bから空気を吸引する第1置換工程と、前記プランジャ11bを操作して輸液をバイアル瓶10B注入する第2置換工程とからなる一連の注入処理を複数回実行することにより輸液を注入する、混注方法。」

[甲1b発明]
「 密封されているバイアル瓶10Bに収容されている薬品及び輸液バッグ12に収容されている輸液を混注処理するように構成されている混注装置1であって、
保持部25を先端に備えた第1ロボットアーム21と、
注射器11のプランジャ11bを操作する第2ロボットアーム22と、
前記第1ロボットアーム21及び前記第2ロボットアーム22を制御するように構成されている混注制御装置100と、
を有し、
前記混注制御装置100は、
前記第2ロボットアーム22を制御することによって、前記注射器11で複数の前記バイアル瓶10Bに対応する輸液の必要量を纏めて前記輸液バッグから吸引するように制御する制御部と、
前記第1ロボットアーム21により前記バイアル瓶10Bを保持し、前記第2ロボットアーム22により前記注射器11を保持し、前記第2ロボットアーム22を制御することによって、前記注射器11から前記バイアル瓶10B各々に前記輸液を注入するように制御する制御部とを有し、
前記プランジャ11bを操作して前記バイアル瓶10Bから空気を吸引する第1置換工程と、前記プランジャ11bを操作して輸液をバイアル瓶10B注入する第2置換工程とからなる一連の注入処理を複数回実行することにより輸液を注入するように制御する、混注装置1。」

イ 本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と甲1a発明とを対比する。
甲1a発明の「バイアル瓶10B」は、本件発明2の「容器」に相当する。
甲1a発明の「薬品」は、本件発明2の「薬品」に相当する。
甲1a発明の「輸液バッグ12」は、本件発明2の「輸液バッグ」に相当する。
甲1a発明の「混注処理する」は、本件発明2の「混合調製する」に相当する。
甲1a発明の「混注方法」は、本件発明2の「薬液調整方法」に相当する。
甲1a発明の「注射器11」は、本件発明2の「シリンジ」に相当する。
甲1a発明の「注射器11で複数の前記バイアル瓶10Bに対応する輸液の必要量を纏めて前記輸液バッグ12から吸引する工程」は、本件発明2の「複数の前記容器に対して注入すべき量に対応した前記輸液を前記輸液バッグから1つのシリンジに移送する工程A」に相当する。
甲1a発明の「プランジャ11b」は、本件発明2の「プランジャー」に相当する。
甲1a発明の「第1ロボットアーム21により前記バイアル瓶10Bを保持し、第2ロボットアーム22により前記注射器11を保持し、前記注射器11のプランジャ11bを操作する第2ロボットアーム22を制御することによって、前記注射器11から前記バイアル瓶10B各々に前記輸液を注入する工程」は、本件発明2の「前記容器及び前記シリンジが把持されている状態で、前記シリンジのプランジャーを駆動するように構成されているシリンジ駆動装置及びロボットの少なくとも一方を制御することによって、前記シリンジから前記容器の各々に対して前記輸液を注入する工程B」に相当する。
甲1a発明の「前記注入する工程において、前記プランジャ11bを操作して前記バイアル瓶10Bから空気を吸引する第1置換工程と、前記プランジャ11bを操作して輸液をバイアル瓶10B注入する第2置換工程とからなる一連の注入処理を複数回実行することにより輸液を注入し」は、本件発明2の「前記工程Bにおいて、1つの前記容器に対して前記プランジャーを引いた後に押す注入動作を複数回行うことで前記輸液を注入」する態様に相当する。
以上より、本件発明2と甲1a発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
(一致点a)
「 密封されている容器に収容されている薬品及び輸液バッグに収容されている輸液を混合調製する薬液調製方法であって、
複数の前記容器に対して注入すべき量に対応した前記輸液を前記輸液バッグから1つのシリンジに移送する工程Aと、
前記容器及び前記シリンジが把持されている状態で、前記シリンジのプランジャーを駆動するように構成されているシリンジ駆動装置及びロボットの少なくとも一方を制御することによって、前記シリンジから前記容器の各々に対して前記輸液を注入する工程Bと、
を有し、
前記工程Bにおいて、1つの前記容器に対して前記プランジャーを引いた後に押す注入動作を複数回行うことで前記輸液を注入していく、薬液調製方法。」
(相違点a)
「輸液を注入する工程B」について、本件発明2は、「収容されている前記薬品の量が少ない前記容器から順に前記輸液を注入していく」のに対して、甲1a発明は、輸液の注入順を特定していない点。

(イ)判断
上記相違点aについて検討すると、甲第1号証には、バイアル瓶に収容されている薬品の収容量が少ないバイアル瓶から輸液を注入することが記載も示唆もされていない。また、バイアル瓶に収容されている薬品の収容量が少ないバイアル瓶から輸液を注入することが技術常識であるとの証拠もない。
そして、本件発明2は、「少ない収容量の前記容器から順に前記輸液を注入していく」ことにより「各容器6に対する輸液10Bの注入精度を向上することができる。」(【0032】)との効果を奏するものであるから、単なる設計事項であるともいえない。
したがって、本件発明2は、甲1a発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明3ないし5について
本件発明3ないし5は、本件発明2を直接又は間接に引用し、上記相違点aに係る本件発明2の「少ない収容量の前記容器から順に前記輸液を注入していく」という構成を備えるものである。
したがって、本件発明3ないし5は、上記「イ」「(イ)判断」と同じ理由により甲1a発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件発明7について
(ア)対比
本件発明7と甲1b発明とを対比する。
甲1b発明の「バイアル瓶10B」は、本件発明7の「容器」に相当する。
甲1b発明の「薬品」は、本件発明7の「薬品」に相当する。
甲1b発明の「輸液バッグ12」は、本件発明7の「輸液バッグ」に相当する。
甲1b発明の「混注処理する」は、本件発明7の「混合調製する」に相当する。
甲1b発明の「混注装置1」は、本件発明7の「薬液調整システム」に相当する。
甲1b発明の「保持部25」は、本件発明7の「ハンド」に相当する。
甲1b発明の「第1ロボットアーム21」は、本件発明7の「アームを有するロボット」に相当する。
甲1b発明の「注射器11」は、本件発明7の「シリンジ」に相当する。
甲1b発明の「プランジャ11b」は、本件発明7の「プランジャー」に相当する。
甲1b発明の「操作する」は、本件発明7の「駆動する」に相当する。
甲1b発明の「第2ロボットアーム22」は、本件発明7の「シリンジ駆動装置」に相当する。
甲1b発明の「混注制御装置100」は、本件発明7の「コントローラ」に相当する。
甲1b発明の「前記第2ロボットアーム22を制御することによって、前記注射器11で複数の前記バイアル瓶10Bに対応する輸液の必要量を纏めて前記輸液バッグから吸引するように制御する制御部」は、本件発明7の「前記ロボット及び前記シリンジ駆動装置の少なくとも一方を制御することによって、複数の前記容器に対して注入すべき量に対応する前記輸液を前記輸液バッグから1つの前記シリンジに移送するように制御する第1制御部」に相当する。
甲1b発明の「前記第1ロボットアーム21により前記バイアル瓶10Bを保持し、前記第2ロボットアーム22により前記注射器11を保持し、前記第2ロボットアーム22を制御することによって、前記注射器11から前記バイアル瓶10B各々に前記輸液を注入するように制御する制御部」は、本件発明7の「前記シリンジ及び前記容器が把持されている状態で、前記ロボット及び前記シリンジ駆動装置の少なくとも一方を制御することによって、前記シリンジから前記容器の各々に対して前記輸液を注入するように制御する第2制御部」に相当する。
甲1b発明の「前記プランジャ11bを操作して前記バイアル瓶10Bから空気を吸引する第1置換工程と、前記プランジャ11bを操作して輸液をバイアル瓶10B注入する第2置換工程とからなる一連の注入処理を複数回実行することにより輸液を注入するように制御する」態様は、本件発明7の「前記第2制御部は、1つの前記容器に対して前記プランジャーを引いた後に押す注入動作を複数回行うことで前記輸液を注入」するように制御する態様に相当する。
以上より、本件発明7に係る発明と甲1b発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
(一致点b)
「 密封されている容器に収容されている薬品及び輸液バッグに収容されている輸液を混合調製するように構成されている薬液調製システムであって、 ハンドを先端に備えたアームを有するロボットと、
シリンジのプランジャーを駆動するように構成されているシリンジ駆動装置と、
前記ロボット及び前記シリンジ駆動装置を制御するように構成されているコントローラと、
を有し、
前記コントローラは、
前記ロボット及び前記シリンジ駆動装置の少なくとも一方を制御することによって、複数の前記容器に対して注入すべき量に対応する前記輸液を前記輸液バッグから1つの前記シリンジに移送するように制御する第1制御部と、
前記シリンジ及び前記容器が把持されている状態で、前記ロボット及び前記シリンジ駆動装置の少なくとも一方を制御することによって、前記シリンジから前記容器の各々に対して前記輸液を注入するように制御する第2制御部と、
前記第2制御部は、1つの前記容器に対して前記プランジャーを引いた後に押す注入動作を複数回行うことで前記輸液を注入するように制御する薬液調製システム。」
(相違点b)
「第2制御部」について、本件発明7は、「収容されている前記薬品の量が少ない前記容器から順に前記輸液を注入していく」のに対して、甲1b発明は、輸液の注入順を特定していない点。
(イ)判断
相違点bについて検討すると、相違点bは、実質的には相違点aと同じ内容である。
そして、上記「イ」「(イ)判断」と同じ理由により、本件発明7は甲1b発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 小括
したがって、本件発明2-5、7に係る特許は、特許法第29条第2項、同法第36条第6項第1号及び第2号の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号及び同条第4号に該当しないので、取り消すべきものとすることはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、本件発明2-5、7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明2-5、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項1に係る特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったことから、不適法であって、その補正をすることができないものであり、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
密封されている容器に収容されている薬品及び輸液バッグに収容されている輸液を混合調製する薬液調製方法であって、
複数の前記容器に対して注入すべき量に対応した前記輸液を前記輸液バッグから1つのシリンジに移送する工程Aと、
前記容器及び前記シリンジが把持されている状態で、前記シリンジのプランジャーを駆動するように構成されているシリンジ駆動装置及びロボットの少なくとも一方を制御することによって、前記シリンジから前記容器の各々に対して前記輸液を注入する工程Bと、
を有し、
前記工程Bにおいて、1つの前記容器に対して前記プランジャーを引いた後に押す注入動作を複数回行うことで前記輸液を注入し、
前記工程Bにおいて、収容されている前記薬品の量が少ない前記容器から順に前記輸液を注入していく、薬液調製方法。
【請求項3】
前記工程Bにおいて、1つの前記容器に対して前記注入動作を行う度に、前記プランジャーの移動量を増加させていく、請求項2に記載の薬液調製方法。
【請求項4】
電子カルテから取得した薬品情報及び投入量情報に基づいて、前記注入動作をする際の毎回の前記プランジャーの移動量を決定する工程Cを有する、請求項2又は3に記載の薬液調製方法。
【請求項5】
前記工程Cにおいて、前記薬品情報及び前記投入量情報に関連付けられている前記プランジャーによる前記注入動作の実施回数に基づいて、前記移動量を決定する、請求項4に記載の薬液調製方法。
【請求項6】
密封されている容器に収容されている薬品及び輸液バッグに収容されている輸液を混合調製する薬液調製方法であって、
複数の前記容器に対して注入すべき量に対応した前記輸液を前記輸液バッグから1つのシリンジに移送する工程Aと、
前記容器及び前記シリンジが把持されている状態で、前記シリンジのプランジャーを駆動するように構成されているシリンジ駆動装置及びロボットの少なくとも一方を制御することによって、前記シリンジから前記容器の各々に対して前記輸液を注入する工程Bと、
前記工程Aの前に、内部が陰圧状態の前記容器の各々に対して、前記プランジャーが自由に動ける状態の前記シリンジの針を穿刺する工程と、
を有する、薬液調製方法。
【請求項7】
密封されている容器に収容されている薬品及び輸液バッグに収容されている輸液を混合調製するように構成されている薬液調製システムであって、
ハンドを先端に備えたアームを有するロボットと、
シリンジのプランジャーを駆動するように構成されているシリンジ駆動装置と、
前記ロボット及び前記シリンジ駆動装置を制御するように構成されているコントローラと、
を有し、
前記コントローラは、
前記ロボット及び前記シリンジ駆動装置の少なくとも一方を制御することによって、
複数の前記容器に対して注入すべき量に対応する前記輸液を前記輸液バッグから1つの前記シリンジに移送するように制御する第1制御部と、
前記シリンジ及び前記容器が把持されている状態で、前記ロボット及び前記シリンジ駆動装置の少なくとも一方を制御することによって、前記シリンジから前記容器の各々に対して前記輸液を注入するように制御する第2制御部と、
を有し、
前記第2制御部は、1つの前記容器に対して前記プランジャーを引いた後に押す注入動作を複数回行うことで前記輸液を注入し、
前記第2制御部は、収容されている前記薬品の量が少ない前記容器から順に前記輸液を注入するように制御する、薬液調製システム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-10-15 
出願番号 特願2015-159249(P2015-159249)
審決分類 P 1 652・ 537- YAA (A61J)
P 1 652・ 121- YAA (A61J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増山 慎也  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 関谷 一夫
莊司 英史
登録日 2018-04-13 
登録番号 特許第6319224号(P6319224)
権利者 株式会社安川電機
発明の名称 薬液調製方法及び薬液調製システム  
代理人 フェリシテ特許業務法人  
代理人 フェリシテ特許業務法人  

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