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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B65D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1357650
異議申立番号 異議2018-700869  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-24 
確定日 2019-11-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6315358号発明「包装材料及び包装容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6315358号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6315358号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6315358号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成24年11月 9日に出願した特願2012-247765号の一部を平成29年 2月28日に新たな特許出願としたものであって、平成30年 4月 6日に特許権の設定登録がされ、平成30年 4月25日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。

平成30年10月24日:特許異議申立人榊原昌伸(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
平成30年12月27日付け:取消理由通知
平成31年 2月27日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成31年 4月 4日:申立人による意見書の提出
令和 元年 5月28日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 元年 7月31日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 元年 9月18日:申立人による意見書の提出

なお、上記平成31年 2月27日提出の訂正請求書による訂正の請求は、令和 元年 7月31日に訂正請求書が提出されたことにより、特許法第120条の5第7項の規定に従い、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
令和 元年 7月31日提出の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6315358号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。

(訂正事項1)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「製袋して容器とするときの容器外方となる側から容器内方となる側に向けて基材層と遮光印刷層とシーラント層とを含む包装材料であって、
前記遮光印刷層は、ベタ印刷してなる2層の白ベタ層と白及び黒を混合してベタ印刷してなる無彩色層とがこの順序で積層されて構成されている
ことを特徴とする包装材料。」とあるのを
「製袋して容器とするときの容器外方となる側から容器内方となる側に向けて基材層と遮光印刷層とシーラント層とを含む包装材料であって、
前記基材層は、基材と、前記基材の容器内方側となる面に印刷された絵柄層と、を含み、
前記遮光印刷層は、ベタ印刷してなる2層の白ベタ層と白及び黒を混合してベタ印刷してなる無彩色層とがこの順序で積層されて構成されており、
前記白ベタ層は、前記絵柄層に印刷してなり、
2層の前記白ベタ層はいずれも、前記無彩色層より厚い
ことを特徴とする包装材料。」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2?5についても同様に訂正する。)
(訂正事項2)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2、3に「包袋材料。」とあるのを、「包装材料。」に訂正する。

ここで、本件訂正前の請求項1?5は、請求項2?5が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項1?5について請求されている。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
上記訂正事項1は、請求項1の基材層について、「基材と、前記基材の容器内方側となる面に印刷された絵柄層と、を含」むことを限定し、白ベタ層について、「前記絵柄層に印刷してなる」及び「2層の前記白ベタ層はいずれも、前記無彩色層より厚い」ことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項1は、上記アのとおり請求項1の基材層及び白ベタ層を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、本件特許明細書の【0021】の「基材層20は、図1に示すように、基材22と、基材22の容器内方側となる面に積層された、絵柄を含む絵柄層21と、を含んでいる。」の記載、【0103】の「基材として、厚み12μmからなるポリエチレンテレフタレート(PET)製の基材上に、絵柄層、白ベタ層及び無彩色層を、ベタ印刷によって、順に形成した。」の記載、並びに【0028】の「この白ベタ層31の厚みを厚くするにつれて、容器外方側から包装材料10を視たとき、絵柄層21の背景として観察される遮光印刷層30の白ベタ層31の白味が増し、絵柄層21の背景に明るさが醸し出されると共に需要者に清潔感を感じさせることができる。」の記載、及び【0104】に具体的に白ベタ層を無彩色層より厚く印刷した実施例が記載されていることに基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

なお、申立人は、令和 元年 9月18日意見書(3頁)において、「2層の白ベタ層はいずれも、無彩色層よりも厚い」との事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正でない旨主張する。
しかし、本件訂正前の請求項1には、白ベタ層と無彩色層の厚さの大小関係について特定されておらず、いずれかが厚い場合と同じ場合のいずれも含むものであったところ、本件訂正により、実施例のとおり白ベタ層が厚い場合に限定するものであるから、申立人の上記主張は採用できない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
請求項2、3が引用する請求項1には「包装材料」と記載されており、「包袋材料」との記載はない。また、下記のウに示すように願書に最初に添付された明細書には、「包装材料」との記載はあるものの、「包袋材料」との記載はない。そうすると、上記訂正事項2は、請求項2、3の「包袋材料」は「包装材料」の誤記であって、その誤記を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正に該当するものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、当業者には、「包袋材料」との記載は、「包装材料」と記載されるべきであることが理解できる。奏すると、上記訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2は、願書に最初に添付した明細書の【0013】の「本発明による包装材料において、前記遮光印刷層と前記シーラント層との間に、少なくとも1層のバリア層を含んでもよい。」の記載、【0014】の「本発明による包装材料において、前記バリア層が無機酸化物の蒸着膜を含んでもよい。」の記載に基づくものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下「本件発明1?5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
製袋して容器とするときの容器外方となる側から容器内方となる側に向けて基材層と遮光印刷層とシーラント層とを含む包装材料であって、
前記基材層は、基材と、前記基材の容器内方側となる面に印刷された絵柄層と、を含み、
前記遮光印刷層は、ベタ印刷してなる2層の白ベタ層と白及び黒を混合してベタ印刷してなる無彩色層とがこの順序で積層されて構成されており、
前記白ベタ層は、前記絵柄層に印刷してなり、
2層の前記白ベタ層はいずれも、前記無彩色層よりも厚い
ことを特徴とする包装材料。
【請求項2】
前記遮光印刷層と前記シーラント層との間に、少なくとも1層のバリア層を含むことを特徴とする請求項1に記載の包装材料。
【請求項3】
前記バリア層が無機酸化物の蒸着膜を含むことを特徴とする請求項2に記載の包装材料。
【請求項4】
前記シーラント層が、単層もしくは多層で有り、前記シーラント層の厚みが40μm以上200μm以下の範囲にあることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の包装材料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の包装材料を用いて作製されたことを特徴とする包装容器。」

第4 当審の判断
1 取消理由の概要
本件訂正前の本件特許に対して通知した令和 元年 5月28日付け取消理由(決定の予告)の概要は、以下のとおりである。

(1)(新規性)本件発明1は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するものである。
(2)(進歩性)本件発明1?5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2?6、8、9号証に記載された事項に基いて、又は甲第8号証に記載された発明及び甲第1?6、9号証に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものである。


<刊行物>
甲第1号証:特開平8-53165号公報
甲第2号証:特開平7-286263号公報
甲第3号証:特開平9-66578号公報
甲第4号証:特開平11-240580号公報
甲第5号証:特開2005-239231号公報
甲第6号証:特開平10-249989号公報
甲第7号証:特開2010-131992号公報
甲第8号証:特開2005-8264号公報
甲第9号証:大日本印刷株式会社編、”図解 印刷技術用語辞典」、日刊工業株式会社、昭和62年8月30日、p.295

2 令和 元年 5月28日付け取消理由(決定の予告)についての判断
2-1 甲第1号証を主引用発明とした新規性進歩性
(1)本件発明1について
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。)
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、飲食料品、液体洗剤等の各種液体製品を褪色等の光劣化させずに保存することができる液体用包装容器に関する。」
・「【0004】また、アルミ層等の金属層を有さずに光遮断性を有する液体用包装容器として、実開平5-5445号公報に、紙/着色層/紙の光遮断性積層構造を有する液体用紙容器が提案されているが、該液体用紙容器においては、特に合成樹脂からなる光遮断性層を設ける必要であり、且つ該光遮断性層と紙とを接着するための接着剤が必要であるため経済的に不利益であるという問題があり、更には該光遮断性層と紙とを分離することが困難であるため、環境問題上の問題もある。」
・「【0009】
【作用】本発明の液体用包装容器は、グレーインキ層を設けた着色層が内容物の光劣化を起こす波長の光を吸収するので、内容物にこのような波長の光が到達せず、保存中に内容物の光劣化を防止する。」
・「【0014】そして、上記スタンディングパウチは、それぞれ表面に印刷等を施すことができるシート状物(スタンディングパウチを構成するフィルム)20からなる、2つの上記側面部1,1と、それらの下端に2つ折にして挟まれた上記底面部2とからなっており、2つの上記側面部1,1がそれらの側縁で互いにシールされ,2つの上記側面部1,1と上記底面部2とが、それらの側縁及び下端縁でそれぞれシールされている。上記スタンディングパウチの全体形状は、内容物Cの非収容時には、上記底面部2が2つ折りに折り重ねられてなる扁平な袋状であるが、内容物Cの収容時(該スタンディングパウチの上端部11より内容物Cを収容して上記上端部11をシールした時)には、内容物Cの体積及び重量により、一対の弧状部を環状に連結した横断面を有し且つ上方に行くに従って該横断面が徐々に扁平となり、上記上端部11において完全に扁平な立体形状となる。そして、上記スタンディングパウチは、上記側面部1,1及び上記底面部2の最下端の環状下端周縁部4にて起立する。このような構成は従来品と同様の構成である。」
・「【0018】而して、本実施例のスタンディングパウチは、図4に示すように、容器の内面を形成する樹脂シート層21と、該樹脂シート層21の外面全面に設けられた着色層22と、該着色層22の外面全面に設けられた表面被覆層23とを具備するシート状物(本実施例においてはフィルムである)20により、該表面被覆層23を表面に配し且つ該樹脂シート層21が容器の内面(内容物Cと当接する面)となるように形成されている。また、上記着色層22は、その全面にグレーインキ層22cを有しており、色インキ層22a、白インキ層22b及び上記グレーインキ層22cの3層により形成されている。
【0019】上記樹脂シート層21を形成する材料としては、下記する樹脂等を挙げることができ、上記樹脂シート層21は、下記する樹脂の単独若しくは混合物からなる、1層若しくは2層以上の積層体により形成することができる。LLDPE(線状低密度ポリエチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、CPP(無延伸ポリプロピレン)等。
【0020】また、上記樹脂シート層21の膜厚は、50?150μmとするのが好ましい。
【0021】本発明において、上記色インキ層22aを形成する色インキとしては、グラビアインキ、オフセットインキ等が挙げられ、該色インキの色は特に制限されないが、白等とすることができる。また、上記白インキ層22bを形成する白インキ層としては、白色のグラビアインキ、オフセットインキ等が挙げられる。
【0022】また、上記グレーインキ層22cを形成する、グレーインキとしては、グレーのグラビアインキ、オフセットインキ等が挙げられる。また、上記グレーインキ層22cの色相は、5B?5Pであり、彩度は、0であり、明度は、6?7である。」
・「【0024】また、上記表面被覆層23を形成する材料としては、下記する材料等を好ましく挙げることができ、上記表面被覆層23は、下記する材料の単独若しくは混合物からなる、1層若しくは2層以上の積層体により形成することができる。ポリエチレンテレフタレート(PET)、延伸ナイロン(ONY)、延伸ポリプロピレン(OPP)等。」
・「【0030】尚、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、例えば、上記着色層は、ブラックインキ、シルバーインキを塗布して構成してもよく、また上記樹脂シート層、上記着色層及び上記表面被覆層の他に、バリアー層、耐ピンホール層、引き裂き誘導層等を設けることもできる。また、粘着部の設けられる位置は上方部でなく下方部であっても良い。また、上記実施例は、粘着部を用いて上方部の一側面部を下方部の該一側面部に着脱自在に固定するようになしてあるが、その着脱機構は制限されない。その他の点に関しても、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更が可能である。
【0031】更に、上記実施例においては、本発明の液体用包装容器としてスタンディングパウチを例示して説明したが、本発明の液体用包装容器は、スタンディングパウチに限定されるものではなく、例えば、紙パック、各種フィルム包装等とすることもでき、この際、上記樹脂シート層、上記着色層及び上記表面被覆層を具備する点を除いては、それぞれの通常公知の構成を特に制限なく採用することができる。
【0032】次に、実施例により本発明を具体的に説明する。
〔実施例1〕OPP20μm/LDDPE130μmにより樹脂シート層21を作成した後、該樹脂シート層21上に、グレーグラビアインキ3μm、白グラビアインキ3μm、白色のグラビアインキ3μmを順次塗布し、グレーインキ層22c、白インキ層22b及び色インキ層22aからなる着色層22を形成した。次いで、該着色層22上に、ONY15μmを被覆して、表面被覆層23を形成し、図4に示す構成のシート状物20を得た。得られたシート状物20を用いて、図1?3に示す本発明の液体用包装容器としてのスタンディングパウチを作成した。この際の上記シート状物20における着色層22のインキ構成は、白/白/グレー(グレー濃度2%)であり、該シート状物の200?800nmにおける光線透過率は13.1%であった。尚、上記グレーインキ層の色相、彩度及び明度は、それぞれ上述した範囲内であった。
【0033】また、比較対称として、上記グレーインキ層22cを有しない以外は上記シート状物20と同じ構成のフィルム状物(インキ構成;白/白)を作成し、該フィルム状物における200?800nmの光線透過率を測定したところ、27.5%であり、従来のフィルム状物に比して、本発明の液体用包装容器に用いられる上記フィルム状物20が良好な遮光性を有していることが判った。」

上記記載を総合すると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「飲食料品、液体洗剤等の液体用包装容器の内面を形成する樹脂シート層21と、該樹脂シート層21の外面全面に設けられた着色層22と、該着色層22の外面全面に設けられた表面被覆層23とを具備するシート状物20であって、
着色層22は、樹脂シート層21上に、グレーグラビアインキ3μm、白グラビアインキ3μm、白色のグラビアインキ3μmを順次塗布し、それぞれグレーインキ層22c、白インキ層22b及び色インキ層22aからなる着色層22を形成されており、
バリアー層を設けており、
樹脂シート層21が、OPP20μm/LDDPE130μmにより形成されたシート状物20。」

イ 対比
本件の請求項1記載の発明(以下「本件発明1」という。)と甲1発明とを対比すると、
(ア)甲1発明の「表面被覆層23」、「着色層22」、「樹脂シート層21」は、その構造及び作用から、それぞれ本件発明1の「基材層」、「遮光印刷層」、「シーラント層」に相当する
(イ)甲1発明の「飲食料品、液体洗剤等の液体用包装容器の内面を形成する樹脂シート層21と、該樹脂シート層21の外面全面に設けられた着色層22と、該着色層22の外面全面に設けられた表面被覆層23とを具備するシート状物20」は、シート状物20を製袋して液体用包装容器とするものであって、容器外方となる側から容器内方となる側に向けて表面被覆層23、着色層22、樹脂シート層21の順に設けられているから、本件発明1の「製袋して容器とするときの容器外方となる側から容器内方となる側に向けて基材層と遮光印刷層とシーラント層とを含む包装材料」に相当する。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。

<一致点>
「製袋して容器とするときの容器外方となる側から容器内方となる側に向けて基材層と遮光印刷層とシーラント層とを含む包装材料。」
<相違点1>
本件発明1は、「前記基材層は、基材と、前記基材の容器内方側となる面に印刷された絵柄層と、を含み」、「前記白ベタ層は、前記絵柄層に印刷してなる」ものに対して、甲1発明は、そのような絵柄層を有しない点。
<相違点2>
本件発明1の「遮光印刷層」は、「ベタ印刷してなる2層の白ベタ層と白及び黒を混合してベタ印刷してなる無彩色層とがこの順序で積層されて構成されている」ものであるのに対して、甲1発明の着色層22は、グレーグラビアインキ3μm、白グラビアインキ3μm、白色のグラビアインキ3μmを順次塗布し、グレーインキ層22c、白インキ層22b及び色インキ層22aからなるものである点。
<相違点3>
本件発明1は、「2層の前記白ベタ層はいずれも、前記無彩色層よりも厚い」のに対して、甲1発明は、グレーグラビアインキ3μm、白グラビアインキ3μm、白色のグラビアインキ3μmである点。

ウ 判断
事案に鑑み、上記相違点3について、まず検討する。
<相違点3について>
相違点3の白ベタ層及び無彩色層絵柄層の厚さは、実質的な相違点であるから、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。
甲1発明は、「グレーグラビアインキ3μm、白グラビアインキ3μm、白色のグラビアインキ3μm」であり、全て同じ厚さのインキであり、又甲第1号証の【0023】には、「上記着色層22の膜厚は、4?18μmとするのが好ましく、また上記グレーインキ層22cの膜厚は、2?6μm、上記白インキ層22bの膜厚は、1?6μm、上記色インキ層22aの膜厚は、1?6μmとするのが好ましい。」と記載されている。
そして、包装材料において、遮光性や隠蔽性の向上が周知の技術課題であるから、甲1発明において、グレーインキ層及び白インキ層として厚いものを選択することに動機付けはあるとしても、以下の本件発明1の作用効果を期待して、甲1発明において、白グラビアインキをグレーグラビアインキより厚いものとする動機付けは、甲第2?6、8、9号証を参酌してもない。

<本件発明1の作用効果について>
本件発明1は、2層の白ベタ層を、いずれも無彩色層よりも厚く形成すること、すなわち、白ベタ層を厚くすることで、「容器外方側から包装材料10を視たとき、絵柄層21の背景として観察される遮光印刷層30の白ベタ層31の白味が増し、絵柄層21の背景に明るさが醸し出されると共に需要者に清潔感を感じさせる」(【0028】)という格別の効果を奏するものであって、甲1発明、甲第2?6、8、9号証記載事項及び周知の事項から、当業者が予測し得る範囲のものでない。

なお、申立人は、令和 元年 9月18日の意見書(9頁)において、甲第1号証に記載された発明のなかで格別の白ベタ層の厚みを無彩色層の厚みよりも厚くすることを選択して本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができた旨主張する。
しかし、白ベタ層を無彩色層よりも厚くすることについて記載された証拠は何ら示されておらず、提出された甲第1号証?甲第9号証の記載からは、上記事項を容易に想到できたものとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するといえない。
また、本件発明1は、甲1発明、甲第2?6、8、9号証記載事項及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとはいえない。

(2)本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、さらに限定を付したものであるから、本件発明2?5と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記<相違点3>で相違する。
そして、<相違点3>については、上記(1)ウで検討したとおりであるから、本件発明2?5は、甲1発明、甲第2?6、8、9号証記載事項及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとはいえない。

2-2 甲第8号証を主引用発明とした進歩性
(1)本件発明1について
ア 甲第8号証に記載された発明
甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
・「【0002】
【従来技術】
従来、例えば、飲食品、医薬品、試薬品、化成品、化粧品、雑貨品、その他等の種々の物品を充填包装するために、種々の形態からなるプラスチック製軟包装用袋が開発され、提案されており、例えば、自立性袋(スタンディングパウチ)、ピロー形状の包装袋、バッグ・イン・ボックス等の詰替え用容器が広く知られている。
近年、詰替え用パウチは、シャンプ-、リンス、洗剤等の詰替用容器として極めて有用なものであり、環境問題と資源の有効利用の観点から、容器を再利用が求められ、その需要が高まっているものである。
ところで、従来のパウチを構成する積層材としては、通常、強度、剛性、耐衝撃性、耐ピンホ-ル性、耐突き刺し性、その他等の物性を充足するために、例えば、ポリアミド(ナイロン)系樹脂フィルム、あるいは、ポリエステル系樹脂フィルム等を使用し、必要に応じて、基材フィルムの裏面に絵柄印刷層を設け、更に、絵柄印刷層の意匠性を向上させるため、絵柄印刷層の下地として白ベタインキ層を設け、太陽光等を遮蔽する遮光性等の物性、及び、酸素ガス、水蒸気等の透過を阻止するバリア性等の物性を充足するために、アルミニウム箔等の金属箔等を使用するものである。
上記のように、詰替え用容器は、種々な保護機能を持たせたものが極めて広範囲にわたって実用化されているが、特に、光の透過によって変質し易い成分、香料等を含有するシャンプー、リンス、洗剤の場合、従来、遮光層として、アルミニウム箔、アルミニウム蒸着フィルムが広く利用されてきた。
例えば、その層構成としては、図7(a)に示すように、基材フィルム1/絵柄印刷層2/白ベタインキ層3/接着層5/アルミニウム箔14/接着層5/シーラント層6からなるものが広く使用されている。
図4に示すように、基材フィルム1の裏面に絵柄印刷層2を設け、絵柄印刷層2の意匠性を向上させるため、絵柄印刷層2の下地に白ベタインキ層3を設けるものであった。
従来、例えば、図8に示すように、グレーインキ層を有する着色層を設けることにより、保存中に内容物の光劣化を防止する液体用包装容器(層構成:基材フィルム1/絵柄印刷層2/白ベタインキ層3/グレイインキ層15/接着層5/シーラント層4が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。」
・「【0027】
絵柄絵柄層2は、文字、図形、記号、模様、その他等からなる所望の印刷模様を任意の色数のカラーインキによって基材フィルム1のいずれかの面に多色印刷されて形成され、最後に白インキによって白ベタ印刷されて全体をバックアップするように白ベタインキ層3が形成されている。
印刷絵柄層2を形成する面は、包装袋の最外面に形成されることもあるが、裏刷りと称して最外面に使用される基材フィルムの裏面に印刷される方が、好ましい。これは、裏刷りの方が、絵柄絵柄層2を保護し、かつ表面から見た絵柄の印刷を美しく、光沢のあるものとする効果を有しているためである。
また、当該白ベタインキ層3は、絵柄絵柄層2による発色と画像のコントラスト効果を高めるために設けられている。
上記の印刷模様層2、及び、白ベタインキ層3としては、通常のインキビヒクルの1種ないし2種以上を主成分とし、これに、必要ならば、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、硬化剤、架橋剤、滑剤、帯電防止剤、充填剤、その他等の添加剤の1種ないし2種以上を任意に添加し、更に、染料・顔料等の着色剤を添加し、溶媒、希釈剤等で充分に混練してインキ組成物を調整し、次いで、該インキ組成物を使用し、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、凸版印刷、スクリーン印刷、転写印刷、フレキソ印刷、その他等の印刷方式を使用し、上記の基材フィルムのいずれかの面に印刷して形成することができるものである。」

上記【0027】を参照すると、白ベタインキ層3は、絵柄印刷層2に印刷によって設けるものであるから、上記記載事項を総合すると、甲第8号証には、以下の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されている。
「基材フィルム1の裏面に絵柄印刷層2を設け、絵柄印刷層2の意匠性を向上させるため、絵柄印刷層2の下地に白ベタインキ層3を印刷によって設け、さらに、グレイインキ層15を有する着色層を設けた、保存中に内容物の光劣化を防止する液体用包装容器の層構成:基材フィルム1/絵柄印刷層2/白ベタインキ層3/グレイインキ層15/接着層5/シーラント層4からなる積層材。」

イ 対比
本件発明1と甲8発明とを対比すると、
(ア)甲8発明の「基材フィルム1」は、その構造及び作用から、本件発明1の「基材」に相当し、同様に、「絵柄印刷層2」は「絵柄層」に、「シーラント層4」は「シーラント層」に相当する。
また、甲8発明の「白ベタインキ層3」と「2層の白ベタ層」とは、白ベタ層である限りで一致し、さらに甲8発明の「白ベタインキ層3」と「グレイインキ層15」からなる層は、本件発明1の「遮光印刷層」に相当する。
(イ)甲8発明の「基材フィルム1の裏面に絵柄印刷層2を設け」た層は、裏面が容器内方側となる面であって、絵柄印刷層が印刷により形成されることは明らかであるから、本件発明1の「基材と、前記基材の容器内方側となる面に印刷された絵柄層と、を含」む「基材層」に相当する。
(ウ)甲8発明の「液体用包装容器の層構成:基材フィルム1/絵柄印刷層2/白ベタインキ層3/グレイインキ層15/接着層5/シーラント層4からなる積層材」は、積層材を製袋して液体用包装容器とするものであって、容器の外方より基材フィルム1/絵柄印刷層2/白ベタインキ層3/グレイインキ層15/接着層5/シーラント層4の順で並んでいるから、本件発明1の「製袋して容器とするときの容器外方となる側から容器内方となる側に向けて基材層と遮光印刷層とシーラント層とを含む包装材料」に相当する。
(エ)甲8発明の「絵柄印刷層2の下地に白ベタインキ層3を印刷によって設け」ることは、本件発明1の「前記白ベタ層は、前記絵柄層に印刷してなる」ことに相当する。

そうすると、本件発明1と甲8発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「製袋して容器とするときの容器外方となる側から容器内方となる側に向けて基材層と遮光印刷層とシーラント層とを含む包装材料であって、
前記基材層は、基材と、前記基材の容器内方側となる面に印刷された絵柄層と、を含み、
前記白ベタ層は、前記絵柄層に印刷してなる
ことを特徴とする包装材料。」
<相違点4>
本件発明1は、「遮光印刷層は、ベタ印刷してなる2層の白ベタ層と白及び黒を混合してベタ印刷してなる無彩色層とがこの順序で積層されて構成」し、「2層の前記白ベタ層はいずれも、前記無彩色層よりも厚い」のに対して、甲8発明は、「絵柄印刷層2の下地に白ベタインキ層3を設け、さらに、グレイインキ層15を有する着色層を設け」ているものの、白ベタインキ層3が2層によるものでなく、白ベタインキ層3及びグレイインキ層15の厚さが不明であるている点。

ウ 判断
<相違点4について>
甲8発明の「グレイインキ層15」は、甲第5号証の【0015】にも記載されているとおり、白及び黒を混合して作製することは技術常識であって、絵柄印刷層の下地であるから、ベタ印刷しているといえる。したがって、甲8発明の「グレイインキ層15」は、本件発明1の「白及び黒を混合してベタ印刷してなる無彩色層」に相当する。
仮に、相当しないとしても、「グレイインキ層15」を白及び黒を混合して作製することは技術常識であって、甲第5号証の【0024】には、遮光層を印刷で形成するものにおいて、ベタ印刷を用いること、甲第9号証には、全面にインキがついている状態を「ベタ」ということが記載されていることから、甲8発明において、グレイインキ層15を白及び黒を混合したものとし、ベタ印刷で作製することは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、印刷において、同色を複数回重ね塗りすることは慣用手段であるから、甲8発明の「白ベタインキ層3」を形成するにあたって2度の重ね塗りによって2層の白ベタ層とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
しかし、包装材料において、遮光性や隠蔽性の向上が周知の技術課題であるから、甲8発明において、白ベタインキ層3及びグレイインキ層15の厚さを厚いものとする動機付けはあるとしても、以下の本件発明1の作用効果は、当業者が予測し得る範囲内のものであるとはいえない。
ゆえに、甲8発明において、上記技術常識、甲第5号証記載の事項及び慣用手段に基づいて、上記相違点4に係る本件発明1の事項とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

<本件発明1の作用効果について>
本件発明1は、2層の白ベタ層を、いずれも無彩色層よりも厚く形成すること、すなわち、白ベタ層を厚くすることで、「容器外方側から包装材料10を視たとき、絵柄層21の背景として観察される遮光印刷層30の白ベタ層31の白味が増し、絵柄層21の背景に明るさが醸し出されると共に需要者に清潔感を感じさせる」(【0028】)という格別の効果を有するものであって、甲8発明、並びに甲第1?6、9号証記載事項及び周知の事項から、当業者が予測し得る範囲のものでない。

エ 小括
本件発明1は、甲8発明、並びに甲第1?6、9号証記載事項及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(2)本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、さらに限定を付したものであるから、本件発明2?5と甲8発明とを対比すると、少なくとも上記<相違点4>で相違する。
そして、<相違点4>については、上記(1)ウで検討したとおりであるから、本件発明2?5は、甲8発明、甲第1?6、9号証記載事項及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとはいえない。

3 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由についての判断
申立人は、本件発明4、5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するものである旨主張する点について、以下検討する。
本件発明4、5は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、さらに限定を付したものであるから、本件発明4、5と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記<相違点1>?<相違点3>で相違する。
そして、<相違点3>は、上記2-1(1)ウで検討したとおり、実質的な相違点であるから、本件発明4、5は、甲1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製袋して容器とするときの容器外方となる側から容器内方となる側に向けて基材層と遮光印刷層とシーラント層とを含む包装材料であって、
前記基材層は、基材と、前記基材の容器内方側となる面に印刷された絵柄層と、を含み、
前記遮光印刷層は、ベタ印刷してなる2層の白ベタ層と白及び黒を混合してベタ印刷してなる無彩色層とがこの順序で積層されて構成されており、
前記白ベタ層は、前記絵柄層に印刷してなり、
2層の前記白ベタ層はいずれも、前記無彩色層よりも厚い
ことを特徴とする包装材料。
【請求項2】
前記遮光印刷層と前記シーラント層との間に、少なくとも1層のバリア層を含むことを特徴とする請求項1に記載の包装材料。
【請求項3】
前記バリア層が無機酸化物の蒸着膜を含むことを特徴とする請求項2に記載の包装材料。
【請求項4】
前記シーラント層が、単層もしくは多層で有り、前記シーラント層の厚みが40μm以上200μm以下の範囲にあることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の包装材料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の包装材料を用いて作製されたことを特徴とする包装容器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-10-23 
出願番号 特願2017-37329(P2017-37329)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B65D)
P 1 651・ 121- YAA (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田口 傑  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 佐々木 正章
久保 克彦
登録日 2018-04-06 
登録番号 特許第6315358号(P6315358)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 包装材料及び包装容器  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 中村 行孝  
代理人 朝倉 悟  
代理人 宮嶋 学  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 永井 浩之  
代理人 岡村 和郎  
代理人 岡村 和郎  
代理人 高田 泰彦  
代理人 永井 浩之  
代理人 宮嶋 学  
代理人 中村 行孝  
代理人 高田 泰彦  
代理人 朝倉 悟  

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