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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08B
管理番号 1357659
異議申立番号 異議2018-700971  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-30 
確定日 2019-11-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6334574号発明「新規の超高分子量のエステル化セルロースエーテル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6334574号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。 特許第6334574号の請求項1?9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6334574号の請求項1?9に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2014年2月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年3月7日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成30年5月11日にその特許権の設定登録がされ、同年5月30日にその特許公報が発行され、その後、平成30年11月30日に信越化学工業株式会社(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

平成31年 2月28日付け 取消理由通知
同年 4月17日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
令和 1年 5月14日付け 訂正拒絶理由通知
同年 6月 4日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年 6月12日 意見書の提出(特許権者)
同年 6月25日付け 通知書
同年 8月 1日 意見書(特許異議申立人)

なお、平成31年4月17日付けの訂正請求は、令和1年6月4日に訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
また、平成31年4月17日付けの訂正請求に対する令和1年5月14日付けの訂正拒絶理由は、上記のとおり該当する訂正請求が取り下げられたものとみなされるため、当該訂正拒絶理由を有さないものとなり、特許権者から提出された同年6月12日付け意見書においても、その旨主張されている。


第2 訂正の適否
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和1年6月4日に訂正請求書を提出し、特許第6334574号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1?9について訂正(以下「本件訂正」という。)することを求めた。

1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「少なくとも」を「SEC-MALLS(サイズ排除クロマトグラフィーマルチアングルレーザー光散乱)器具、分子サイズ排除カラム、ならびに、8.0のpHに調節された移動相として、40容量部のアセトニトリルトと、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含有する60容量部の水性緩衝液との混合物を使用して測定される、少なくとも」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の「少なくとも」を「SEC-MALLS(サイズ排除クロマトグラフィーマルチアングルレーザー光散乱)器具、分子サイズ排除カラム、ならびに、8.0のpHに調節された移動相として、40容量部のアセトニトリルトと、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含有する60容量部の水性緩衝液との混合物を使用して測定される、少なくとも」に訂正する。

2 本件訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1に記載の「220,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)」の測定条件について特定することにより、前記「重量平均分子量M_(w)」が示す範囲を明瞭にしたものである。
すなわち、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
上記アに記載したとおり、請求項1に記載の「220,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)」が示す範囲を、前記「重量平均分子量M_(w)」の測定条件を明らかにすることによって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

新規事項の追加について
本件の願書に添付した明細書の【0038】、【0073】?【0085】には、訂正事項1で明瞭にした前記「重量平均分子量M_(w)」の測定条件が記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項2に記載の「310,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)」の測定条件について特定することにより、前記「重量平均分子量M_(w)」が示す範囲を明瞭にしたものである。
すなわち、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
上記アに記載したとおり、請求項2に記載の「310,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)」が示す範囲を、前記「重量平均分子量M_(w)」の測定条件を明らかにすることによって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

新規事項の追加について
本件の願書に添付した明細書の【0038】、【0073】?【0085】には、訂正事項2で明瞭にした前記「重量平均分子量M_(w)」の測定条件が記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

なお、訂正事項1及び2に係る訂正前の請求項1又は請求項2について、請求項3?9は請求項1又は請求項2を引用しているものであって、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1又は請求項2に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1?9に対応する訂正後の請求項1?9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。


第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項1?9について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1?9に係る発明は、令和1年6月4日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明1」?「本件発明9」ともいう。)である。

「【請求項1】
1.6?2.05のDS(メトキシル)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートであって、
20℃のアセトン中の前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの10重量%溶液として測定される、最大で50mPa・sの粘度を有し、
SEC-MALLS(サイズ排除クロマトグラフィーマルチアングルレーザー光散乱)器具、分子サイズ排除カラム、ならびに、8.0のpHに調節された移動相として、40容量部のアセトニトリルトと、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含有する60容量部の水性緩衝液との混合物を使用して測定される、少なくとも220,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有する、
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート。
【請求項2】
1.6?2.05のDS(メトキシル)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートであって、
20℃のアセトン中の前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの10重量%溶液として測定される、最大で100mPa・sの粘度を有し、
SEC-MALLS(サイズ排除クロマトグラフィーマルチアングルレーザー光散乱)器具、分子サイズ排除カラム、ならびに、8.0のpHに調節された移動相として、40容量部のアセトニトリルトと、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含有する60容量部の水性緩衝液との混合物を使用して測定される、少なくとも310,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有する、
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート。
【請求項3】
1.7?2.05のDS(メトキシル)を有する、請求項1又は2に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート。
【請求項4】
液体希釈剤、および請求項1?3のいずれか1項に記載の少なくとも1つのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む、組成物。
【請求項5】
前記組成物の総重量に基づき、5?20%の少なくとも1つのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、65?94%の液体希釈剤、および1?15%の活性成分を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも1つの活性成分、および請求項1?3のいずれか1項に記載の少なくとも1つのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む、固体分散体。
【請求項7】
前記固体分散体は、タブレット、ピル、顆粒、ペレット、カプレット、微粒子、カプセル充填物、またはペースト、クリーム、懸濁液、もしくはスラリーに製剤化されている、請求項6に記載の固体分散体。
【請求項8】
請求項1?3のいずれか1項に記載の少なくとも1つのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートでコーティングされている、タブレット、顆粒、ペレット、カプレット、トローチ剤、坐薬、ペッサリー、及び埋め込み型物品からなる群から選択される、物品。
【請求項9】
請求項1?3のいずれか1項に記載の少なくとも1つのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む、カプセル殻。」


第4 取消理由の概要
当審が平成31年2月28日付けの取消理由通知で通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた異議申立理由の概要は、以下に示すとおりである。

1 特許異議申立人が申し立てた異議申立理由
(1)特許法第29条第1項第3号について
本件特許の請求項1、3、4および6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1、3、4および6に係る発明の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。

甲第1号証:Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis,56(2011),pp.743-748、2011年7月30日オンライン公開

(2)特許法第29条第2項について
ア 本件特許の請求項1?4および6?9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1?5号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?4および6?9に係る発明の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 本件特許の請求項5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1?5号証及び甲第7号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項5に係る発明の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。

甲第1号証:上記(1)で示したとおりである。
甲第2号証:信越化学工業株式会社技術資料「薬添規 ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート 信越AQOAT^(R)(上付きRは、○の中にR) 腸溶性コーティング剤」、2009年3月発行、第1?18頁
甲第3号証:国際公開第2011/159626号
甲第4号証:「医薬品添加物規格 1998」、株式会社薬事日報社、平成10年3月16日、第508?513、788頁
甲第5号証:財団法人日本公定書協会監修、「第十一改正 日本薬局方 1986」、株式会社廣川書店、昭和61年5月1日、第166?167頁
甲第6号証:AquaSolve^(TM) hydroxypropylmethylcellulose acetate succinate、2016年
甲第7号証:特開2007-308480号公報

(3)特許法第36条第6項第2号について
甲第1号証および甲第3号証に記載されているように、重量平均分子量M_(w)の測定方法、測定条件およびヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートにおける各置換基の置換度の変動によって、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量平均分子量M_(w)が変動するため、発明が不明確となり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合せず、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、本件発明1?9の特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1項第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)特許法第36条第6項第1号について
本件明細書の実施例には、本件のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量平均分子量M_(w)の測定方法、測定条件として特定のものが記載されており、本件発明1?9は、当業者がその課題を解決できると認識できる範囲を超えており、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合せず、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、本件発明1?9の特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1項第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(5)特許法第36条第4項第1号について
甲第1号証および甲第3号証に記載されているように、重量平均分子量M_(w)の測定方法、測定条件およびヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートにおける各置換基の置換度の変動によって、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量平均分子量M_(w)が変動するため、本件発明1?9について、発明の詳細な説明の記載は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1?9は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1項第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 当審が平成31年2月28日付けの取消理由通知で通知した取消理由
理由1 特許法第36条第6項第2号について

本件発明1及び2の所定の値の重量平均分子量M_(w)は、「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」の「重量平均分子量M_(w)」を測定するための条件(移動相の混合溶媒、そのpH及び移動相に含まれる混合溶媒の含有率)が明らかでなく、当該「重量平均分子量M_(w)」の範囲が、その測定するための条件ごとに異なり、実際に特許請求の範囲で特定しようとする数値範囲が不明確となるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合せず、同法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、本件発明1?9の特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1項第4号に該当し、取り消されるべきものである。


第5 当審の判断
1 平成31年2月28日付けの取消理由通知で通知した取消理由について
○特許法第36条第6項第2号について
(1)本件発明1について
ア はじめに
特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

イ 本件発明1の記載について
本件発明1は、上記第3に記載されたとおりである。

ウ 本件特許明細書の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「重量平均分子量M_(w)」の測定方法や測定条件について、以下の記載がある。
(ア)「【0038】
M_(w)、M_(n)、およびM_(z)は、移動相として40容量部のアセトニトリルと、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含有する、60容量部の水性緩衝液との混合物を使用して、Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 56(2011)743に従って測定される。移動相は、8.0のpHに調節される。M_(w)、M_(n)、およびM_(z)の測定は、実施例においてより詳細に記載される。」
(イ)「【0073】
HPMCASのM_(w)、M_(n)、およびM_(z)の決定
特に指定のない限り、M_(w)、M_(n)、およびM_(z)を、Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 56(2011)743に従って測定した。移動相は、40容量部のアセトニトリルと、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含有する、60容量部の水性緩衝液との混合物であった。移動相を8.0のpHに調節した。セルロースエーテルエステルの溶液を細孔径0.45μmのシリンジフィルターを通して、HPLCバイアル中に濾過した。
【0074】
より具体的には、利用される化学物質および溶媒は、以下の通りである。
ポリエチレンオキシド標準物質(PEOX 20 KおよびPEOX 30 Kと省略される)を、Agilent Technologies,Inc.(Palo Alto,CA)、カタログ番号PL2083-1005およびPL2083-2005から購入した。
【0075】
アセトニトリル(HPLCグレード≧99.9%、CHROMASOL plus)、カタログ番号34998、水酸化ナトリウム(半導体グレード、99.99%、微量金属塩基)、カタログ番号306576、水(HPLCグレード、CHROMASOLV Plus)カタログ番号34877、および硝酸ナトリウム(99,995%、微量金属塩基)カタログ番号229938を、Sigma-Aldrich(Switzerland)から購入した。
【0076】
リン酸二水素ナトリウム(≧99.999% TraceSelect)カタログ番号71492を、FLUKA(Switzerland)から購入した。
【0077】
5mg/mLのPEOX20 Kの標準化溶液、2mg/mLのPEOX30 Kの基準溶液、および2mg/mLHPMCASの試料溶液を、計量された量のポリマーをバイアル中に添加し、測定された体積の移動相でそれを溶解することによって、調製した。全ての溶液を、PTFEコーティング磁気撹拌子を使用して撹拌しながら、24時間、蓋の付いたバイアル中で室温で溶解させた。
【0078】
標準化溶液(PEOX 20k、単回調製、N)および基準溶液(PEOX30 K、二重調製、S1およびS2)を、細孔径0.02μmおよび直径25mmのシリンジフィルター(Whatman Anatop 25、カタログ番号6809-2002)(Whatman)を通して、HPLCバイアル中に濾過した。
【0079】
試験試料溶液(HPMCAS、二重で調製、T1、T2)および実験室基準(HPMCAS、単回調製、LS)を、細孔径0.45μmのシリンジフィルター(Nylon、例えば、Acrodisc 13mm VWR カタログ番号514-4010)を通して、HPLCバイアル中に濾過した。
【0080】
クロマトグラフ条件および実行シーケンスを、Chen,R.et al.;Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 56(2011)743-748)によって記載されるように実施した。SEC-MALLS器具一式は、Agilent Technologies,Inc.(Palo Alto,CA)からのHP1100 HPLCシステム、DAWN Heleos II 18角度レーザ光散乱検出器およびOPTILAB rex屈折率検出器(両方ともWyatt Technologies,Inc.(Santa Barbara,CA)から)を含んだ。分析サイズ排除カラム(TSK-GEL(登録商標)GMPWXL、300×7.8mm)をTosoh Bioscienceから購入した。OPTILABおよびDAWNの両方を35℃で作動させた。分析SECカラムを、室温(24±5℃)で作動させた。移動相は、以下の通り調製された、40容量部のアセトニトリルと、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含有する、60容量部の水性緩衝液との混合物であった。
【0081】
水性緩衝液:7.20gのリン酸二水素ナトリウムおよび10.2gの硝酸ナトリウムを、溶解するまで撹拌下で、きれいな2Lのガラスボトル中の1.2Lの精製水に添加した。
【0082】
移動相:800mLのアセトニトリルを、上記で調製した1.2Lの水性緩衝液に添加し、良好な混合物が得られ、温度が周囲温度と平衡になるまで撹拌した。移動相を10MのNaOHで8.0に調節し、0.2mナイロン膜フィルタを通して濾過した。流速は、インライン脱ガスを用いて0.5mL/分であった。注入容量は、100μLであり、分析時間は、35分であった。
【0083】
HPMCASに対して、0.120mL/gのdn/dc値(屈折率増分)を使用して、Wyatt ASTRAソフトウェア(バージョン5.3.4.20)によって、MALLSデータを収集および処理した。検出器の光散乱信号(番号1?4、17、および18)は、分子量計算で使用しなかった。代表的なクロマトグラフ実行シーケンスは、以下:B、N、LS、S1(5x)、S2、T1(2x)、T2(2x)、T3(2x)、T4(2x)、S2、T5(2x)等、S2、LS、Wの通りであり、ここで、Bは、移動相のブランク注入を表し、N1は、標準化溶液を表し、LSは、実験室基準HPMCASを表し、S1およびS2は、基準溶液1および2のそれぞれを表し、T1、T2、T3、T4、およびT5は、試験試料溶液を表し、Wは、水注入を表す。(2x)および(5x)は、同一溶液の注入数を示す。
【0084】
OPTILABおよびDAWNの両方を、製造業者の推奨手順および頻度で、定期的に較正した。5mg/mLのポリエチレンオキシド基準(PEOX20 K)の100μL注入を、各実行シーケンスに対して、90°検出器に対する全ての角度光散乱検出器を標準化するために採用した。
【0085】
この単分散ポリマー基準の使用はまた、OPTILABとDAWNとの間の容量遅延が決定されるのを可能にし、屈折率信号に対する光散乱信号の適切な整合を可能にした。これは、各データスライスに対する重量平均分子量(M_(w))の計算のために必要である。」

エ 「Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 56(2011)743」の記載
上記ウによると、本件発明1における「重量平均分子量M_(w)」の測定方法や測定条件は、「Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 56(2011)743」(以下、「文献1」という。)に従って測定されることが記載されている。
前記文献1は、特許異議申立人が提出した甲第1号証と同じであり、甲第1号証には、以下の記載がある。なお、訳文は、当審によるものである。
(ア)「サイズ排除クロマトグラフィーによるヒプロメロースアセテートサクシネートの絶対分子量の測定:多角度レーザー光散乱検出器および混合溶媒の使用」(743頁の論文タイトル)
(イ)「分子量分布は、噴霧乾燥された分散体に使用される製薬学的賦形剤であるヒプロメロースアセテートサクシネート(HPMCAS)の重要な質的特性である。我々の以前の研究は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の相対的および絶対的較正法のいずれもHPMCASポリマーに有効でないことを示した。我々は、HPMCASポリマーの分子量分布を測定するために、質量感度がよい多角度レーザー光散乱検出器(MALLS)を用いるSEC法を開発するための我々の努力の成果をここに報告する。溶媒選択試験は、混合溶媒(50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含有する緩衝液とアセトニトリルとの体積比60:40、pH値8.0)が、HPMCASの下位分類であるHPMCAS-LFおよびMFに対して最良であることを見出した。混合溶媒の使用は、屈折率検出器を使用する分析法の条件をチャレンジングなものとした。したがって、我々は、分析法のパフォーマンスと統計学的頑健性(robustness)を充分に評価した。ポリエチレンオキシド標準物質の重量平均分子量の平均は、分析証明書に記載の28,700g/molに対して28,443?28,793g/molの95%信頼区間を有する。全てのポリマーの平均分子量の相対標準偏差は、3?6%である。これらの結果と実験計画検討は、本分析法が正確で頑健であることを示す。」(743頁のアブストラクト)
(ウ)「1.イントロダクション
ヒプロメロースアセテートサクシネートのユニークな特徴である化学組成、分子量分布および関連する物理化学物性は、ヒプロメロースアセテートサクシネートを、噴霧乾燥された分散体の可溶化技術における使用に対して理想的物質とする[文献1-3]。HPMCASポリマーをベースとする噴霧乾燥された分散体は、多くの水不溶性薬物候補の経口吸収を増加できる[文献3]。分子量分布は、噴霧乾燥された分散体の重要な質的特性であるので、HPMCASポリマーの分子量分布を理解し制御するために、適切な分析法が求められている。」(743頁の左欄1行?11行)
(エ)「2 実験の部
2.1.試薬と溶媒
ポリエチレンオキシド標準物質(PEOX20KとPEOX30Kと略す。)は、米国アマーストのポリマー研究所から購入した。ポリエチレンオキシドの標準参照物質(NIST SRM1923)は、米国メリーランド州ゲイザスバーグのアメリカ国立標準技術研究所から購入した。ヒプロメロース(HPMCと略す。CAS9004-65-3)およびヒプロメロースアセテートサクシネート(CAS71138-97-1、アセチル/スクシノイルの比を変えて3つの下位分類-LF、MF、HF)ポリマーは、日本国東京の信越化学工業株式会社から購入した。アセトニトリル(HPLCクレード)および水酸化ナトリウム(分析試薬グレード)は、米国ニュージャージー州のフィリップスバーグのJ.T.ベーカー社から購入した。水は、MILLIPORE MilliQシステムを用いて精製され、0.22μmのMillpakフィルターを用いてろ過した。溶媒の調製、装置較正およびカラム性能確認のために使用した試薬は、硝酸ナトリウム(分析試薬グレード)、リン酸二水素ナトリウム一水和物(分析試薬グレード)無水エチレングリコール(99.8%)、トルエン(99.8%、無水物)、および無水塩化のトリウム(99.999%)であり、これらは、全て米国ミズーリ州セントルイスのアルドリッチ社から購入した。

2.2.標準化、基準及び試料溶液の調製
5mg/mLのPEOX20Kの標準化溶液、2mg/mLのPEOX30Kの基準溶液および、2mg/mLのHPMCあるいはHPMCASの試料溶液は、計量された量のポリマーをバイアル中に添加し、測定された体積の移動相でそれを溶解することによって調製された。すべての溶液は、時々、意識的に撹拌しながら24時間、蓋のされたバイアル中、室温で溶解させた。標準化溶液だけは、シリンジフィルター(Whatman Anotop25、0.02μm、25mm)を通して、HPLCバイアルへろ過された。基準溶液は、分析用のHPLCバイアルへ直接移動させた。試料溶液は、15mLのプラスチック遠心分離管へ移動させ、遠心分離機にかけられた。その後、試料溶液のかき乱されていない上澄みの一部は、分析用のHPLCバイアルへ移動された。光散乱は、汚れとほこりによる試料の汚染に非常に敏感であるので、すべてのガラス器は、使用前に徹底的に洗浄された。

2.3.クロマトグラフィーの条件および実行されたシーケンス
SEC-MALLS装置一式は、カリフォルニア州パロアルトのAgilent Technologies社からのHP1100HPLCシステム、両方ともカリフォルニア州サンタバーバラのWyatt Technologies社からのDAWN DSP18 角度レーザー光散乱検出器及び、OPTILAB 屈折率検出器を含んでいた。分析用のサイズ排除カラム(TSK-GEL(R)(「(R)」は、○の中にRを示す。)GMPWXL、300×7.5mm、カタログ番号08025)は、ペンシルバニア州モンゴメリーのToso-Haas社から購入された。OPTILABは、35℃で作動させた。DAWNと分析用のSECカラムの両方は、室温(24±5℃)で作動させた。移動相は、アセトニトリルと、0.1Mの硝酸ナトリウムを備えた50mMのリン酸二水素ナトリウム緩衝液の混合物(40:60v/v)であった。移動相は、pH8.0に調節され、0.2μmのナイロン膜フィルターを通してろ過された。流速は、インライン脱ガスを用いて0.5mL/minであった。注入量は、100μLで、分析時間は、35分であった。
MALLSデータは、 Wyatt ASTRAソフトウェアによって収集及び処理された。適切な分析手順は、規定するコンプライアンスと薬学的使用のためのHPLC解析の確立された実施を考慮して開発された。代表的なクロマトグラフィーの実行シーケンスは以下のように行われる:B、N1、S1、S2、T1、T2、T3、T4、S2・・・・・、Bは、移動相のブランク注入を表し、N1は標準化溶液を表し、S1とS2は基準溶液1と2のそれぞれ表し、T1、T2、T3及びT4は、試験試料溶液を表す。基準溶液が再び注入される前に、高々10の試料溶液の注入が連続的に行われた。すべての実行されたシーケンスについて、複製の溶液は、基準溶液と試験試料溶液のために調製された。複製の注入は、S1以外の各溶液のために作られ、それは3?6つの注入としてセットされた。

2.4.較正および標準化
OPTILABとDAWNの両方は、メーカーが推奨する手順及び頻度で、定期的に較正された。5mg/mLのポリエチレンオキシド基準(PEOX20K)の100μLの注入は、各実行シーケンスについて90°検出器に対する角度光散乱検出器をすべて標準化するために採用された。この単分散ポリマー基準の使用は、また、OPTILABとDAWNとの間の容量遅延(我々の機器では0.133mL)を決定されることを可能にし、屈折率信号への光散乱信号の適切に整列させることができた。これは、各データスライスの重量平均分子量(M_(w))の計算に必要である。」(744頁左欄11行?同頁右欄29行)
(オ)「3.3 分析方法有効性-統計学的頑健性の評価
本方法の統計学的頑健性をDOE(実験計画法)を用いて評価した。検討すべき5つの変数は、移動相のpH、移動相のアセトニトリル含有率、緩衝液のイオン強度、流速および試料濃度であった。分散分析(ANOVA)は、測定された重量平均分子量に5つの変数が与えた影響を決定するために使用された。装置間および測定間の変動は、主に分析法移管に関係するため本件等に含めなかったことに留意されたい。分析法のパフォーマンス評価のために以前使用された5種類のポリマーに加えて、我々は、統計学的頑健性の検討において、入手可能な最も正確に測定された標準として、ポリマー分子量決定のためのアメリカ国立標準技術研究所(NIST)標準参照物質SRM1923も含めた。
実験計画および実験データの詳細は、補足データセットに含まれる。分析方法は、各種ポリマーに対して以下のように説明される。SRM1923およびHPMCの重量平均分子量M_(w)の変動への影響において、いずれの変数も統計的に重要であるとはみなされない。PEOX 30Kに影響を与える最も統計学的に重要な変数は、流速、アセトニトリル含有率および試料濃度であるが、変動の大きさはとても小さい(全体的な範囲2.81?3.13×10^(4)g/mol)。HPMCASポリマーのM_(w)測定に影響を与える最も統計学的に重要な変数は、pH(全てのグレード)およびアセトニトリル含有率(LFおよびMFに対してのみ)である。pHが増加すると、全てのグレードのM_(w)値は減少する。アセトニトリル含有率が増加すると、HPMCAS-LFのM_(w)値は減少し、HPMCAS-HFのM_(w)値は目に見えて増加する。HPMCAS-HFポリマーの測定M_(w)に対するアセトニトリル含有率のいくぶんか大きな影響は、この種のポリマーが物性におそらく関係する[文献21]。これは、現在の混合溶媒はこの種のポリマーに最良な溶媒ではないためである。他の全ての場合において、各種ポリマー(PEOX30K、HPMCAS-LF、MFおよびHF)の測定M_(w)に対するこれらの統計学的に重要な要因の影響は、他のソース(試料調製、注入、カラム間、移動相の調製等)からの変化に比べて実際には取るに足らない。本分析法は、評価された5つの変数によってカバーされた境界内において統計学的に頑健である。」(747頁左欄5行?40行)

オ 判断
本件特許明細書には、甲第1号証の上記エ(ア)?(オ)に記載された事項に基づき、発明の詳細な説明に上記ウ(ア)?(イ)に記載されたとおり、本件発明1の「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」の「重量平均分子量M_(w)」を測定するための装置、測定条件が記載されている。
そして、本件発明1には、「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」を特定する物性の一つとして、「少なくとも220,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有する」ことが特定され、当該「重量平均分子量M_(w)」の測定条件として、「SEC-MALLS(サイズ排除クロマトグラフィーマルチアングルレーザー光散乱)器具、分子サイズ排除カラム、ならびに、8.0のpHに調節された移動相として、40容量部のアセトニトリルトと、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含有する60容量部の水性緩衝液との混合物を使用して測定される」ことが特定されている。
そうすると、本件発明1は、当該「重量平均分子量M_(w)」を測定するための装置である「SEC-MALLS(サイズ排除クロマトグラフィーマルチアングルレーザー光散乱)器具、分子サイズ排除カラム」を使用すること、および、測定条件である「8.0のpHに調節された移動相として、40容量部のアセトニトリルトと、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含有する60容量部の水性緩衝液との混合物」を使用して「重量平均分子量M_(w)」を測定することが特定されており、当業者であれば、本件発明1の「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」の「重量平均分子量M_(w)」を測定するための装置及び測定条件を合理的に理解することができ、本件発明1は、その点で、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。

カ 特許異議申立人の令和1年8月1日付け意見書の主張について
特許異議申立人は、「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」の「重量平均分子量M_(w)」の測定条件が明確であるためには、本件発明1の測定条件に加え、「流速」、「試料濃度」を特定しなければ依然として明確性要件を満たさない旨主張している。
しかしながら、上記オのとおり、測定装置やカラム、移動相の種類を含めた測定条件が示されているのであるから、本件発明1は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明を参酌すると、上記ウ(イ)の【0082】に「流速」、【0077】に「試料濃度」が測定条件の一態様として記載されており、上記のとおり、特許請求の範囲の記載は、合理的に理解できるものであるから、「流速」、「試料濃度」が特定されていないことをもって、特許請求の範囲が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確とまではいえない。
よって、特許異議申立人の主張は採用することができない。

キ 小活
したがって、本件発明1は、特許請求の範囲が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確とまではいえない。

(2)本件発明2について
本件発明2には、「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」を特定する物性の一つとして、「少なくとも310,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有する」ことが特定され、当該「重量平均分子量M_(w)」の測定条件として、「SEC-MALLS(サイズ排除クロマトグラフィーマルチアングルレーザー光散乱)器具、分子サイズ排除カラム、ならびに、8.0のpHに調節された移動相として、40容量部のアセトニトリルトと、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含有する60容量部の水性緩衝液との混合物を使用して測定される」ことが特定されている。
そうすると、本件発明2の「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」の「重量平均分子量M_(w)」を測定するための装置及び測定条件は、上記(1)で既に検討したとおりであり、本件発明2は、本件発明1と同様に、特許請求の範囲が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確とまではいえない。

(3)本件発明3?9について
本件発明3?9は、いずれも本件発明1又は本件発明2を直接又は間接的に引用し、本件発明3は、DS(メトキシル)の値をさらに特定したヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの発明であり、本件発明4は、液体希釈剤及びヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む組成物の発明であり、本件発明5は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、液体希釈剤、活性成分を含む組成物の発明であり、本件発明6は、少なくとも1つの活性成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む固体分散体の発明であり、本件発明7は、固体分散体の製剤化の種類を特定した発明であり、本件発明8は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートでコーティングされた物品を特定した発明であり、本件発明9は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含むカプセル殻の発明であることを特定している。
そして、本件発明3?9は、いずれも、本件発明1又は2に記載の「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」を含む発明であることから、本件発明1及び2と同様に、特許請求の範囲が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確とまではいえない。

2 特許異議申立人が申し立てた異議申立理由について
(1)甲第1号証?甲第7号証の記載
ア 甲第1号証(Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis,56(2011),pp.743-748、2011年7月30日オンライン公開)には、以下の事項が記載されている。
(ア1)上記1(1)エ(イ)に示したとおりのことが記載されている。
(ア2)上記1(1)エ(ウ)に示したとおりのことが記載されている。
(ア3)上記1(1)エ(エ)に示したとおりのことが記載されている。
(ア4)上記1(1)エ(オ)に示したとおりのことが記載されている。
(ア5)「

」(747頁の表2)

イ 甲第2号証(信越化学工業株式会社技術資料「薬添規 ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート 信越AQOAT^(R)(上付きRは、○の中にR) 腸溶性コーティング剤」、2009年3月発行、第1?18頁)には、以下の事項が記載されている。
(イ1)「このパンフレットは、信越AQOAT^(R)(上付きRは、○の中にR)の特性と応用例についてごく簡単に紹介しています。さらに詳しい技術資料も用意しておりますので、ご不明な点がございましたら弊社営業担当までお問い合わせ下さい。」(1頁下から4行?末行)
(イ2)「

」(3頁下の表)
(イ3)「前ページに示したように、信越AQOAT^(R)(上付きRは、○の中にR)には、粒子径や置換度が異なる6つの品種があります。以下に物理化学的特性値を示します。数値は代表的な値であり、規格ではありません。また数値は品種、ロット、測定方法により変化する点をご理解ください。製品規格については17ページをご覧ください。
・・・・・・・
分子量 18000(重量平均、SEC-MALLS)」(4頁左欄1行?12行)
(イ4)「

」(4頁左下のグラフ)
(イ5)「

*医薬品添加物規格(Japaness Pharmaceutical Excipients)
」(17頁上の表)

ウ 甲第3号証(国際公開第2011/159626号)には、以下の事項が記載されている。なお、原文は英語であるため、翻訳は、対応する日本語ファミリー文献(特表2013-532151号公報)の訳を示す。
(ウ1)「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)は、元々、医薬剤形用の腸溶性ポリマー、および写真用フィルムのハレーション防止層製造用として開発された。Ondaら,米国特許第4,226,981号を参照のこと。腸溶性ポリマーは、胃の酸性環境中で損傷を受けずに残るものであり、そのようなポリマーでコートされた剤形は、酸性環境中での不活化または分解から活性剤を保護し、および/または活性剤による胃の刺激を低減する。HPMCASは現在、信越化学工業(株)(東京、日本)から市販で入手可能であり、商品名「AQOAT」として公知である。信越は3グレードのAQOATを製造し、これらは異なる組合せの置換基レベルを有して、種々のpHレベルで腸溶性の保護を付与する。AS-LFおよびAS-LGグレード(「F」は微細を表し、「G」は顆粒を表す)はpH5.5以下での腸溶性保護を付与する。AS-MFおよびAS-MGグレードは、pH6.0以下での腸溶性保護を付与し、一方AS-HFおよびAS-HGグレードは、pH6.8以下での腸溶性保護を付与する。信越は、これらの3グレードのAQOATポリマーについて以下の仕様を与える。

」(1頁17行?2頁上の表1、日本語ファミリー文献の【0004】?【0005】の表1)
(ウ2)「分子量は、分子中の原子の原子量の和である。ポリマーに関して本開示で用いる用語 分子量、平均分子量、ミーン分子量、および見かけ分子量は、個別の高分子の分子量の算術平均(以下のサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)で測定したとき)を意味する。ポリマーのサンプルは、移動相中、濃度2mg/mLで溶解させる。移動相は40:60(V:V)アセトニトリル:移動相バッファー(6mg/mLリン酸二水素ナトリウムおよび8.5mg/mLの硝酸ナトリウム、水中に溶解、からなる)からなり、10M NaOHを用いてpH8に調整される。100μlサンプルをSECでTSK-GEL(登録商標)GMPW_(XL) 300x7.8mmカラム((Tosoh Bioscience)を用いて試験し、0.5mL/分の移動相で、約40℃で操作する。サンプルは、マルチアングルレーザー光散乱(MALLS)検出器および示差屈折率(RI)検出器を用いて検出する。この方法で測定される分子量は見かけである。これはこの分析に用いる溶媒系に特有であるからである。分子量分布は、重量平均分子量(M_(w))および多分散度(PD)(これは重量平均分子量の、数平均分子量に対する比である)によって特性化される。」(9頁5?21行、日本語ファミリー文献の【0036】)
(ウ3)「先行技術のHPMCASポリマー(信越から得られるもの)は、以下の典型的な組合せの置換基レベルを有する。ここで与えられる範囲は、信越から得られるポリマーの多くの異なるロットについてである(表に示す通り)。

」(12頁14?17行及び13頁の表2、日本語ファミリー文献の【0052】?【0053】の表2)
(ウ4)「別の例において、固体分散体はタブレット上またはカプセル上にコートできる。更に別の態様において、固体分散体はタブレット内に組込まれている層に形成できる。」(28頁15?18行、日本語ファミリー文献の【0121】)
(ウ5)「組成物中に他の賦形剤を含めることは、組成物をタブレット、カプセル、サスペンション、サスペンション用粉末、クリーム、経皮パッチ、デポ等に配合するために有用である場合がある。」(33頁6?8行、日本語ファミリー文献の【0132】
(ウ6)「特性化
各ポリマーにおけるアセテートおよびサクシネートの置換度を、III節で上記したように評価した。見掛け分子量は、サイズ排除クロマトグラフィで評価した。結果を表3および図1に示す。比較のために、市販で入手可能なHPMCASポリマー(信越より)の置換度および分子量も示す。信越の分子量は過去の範囲である。

」(35頁10?16行及び表3、日本語ファミリー文献の【0140】?【141】の表3)

エ 甲第4号証(「医薬品添加物規格 1998」、株式会社薬事日報社、平成10年3月16日、第508?513、788頁)には、以下の事項が記載されている。
(エ1)「粘度 本品を乾燥し,その2.000gをとり,希水酸化ナトリウム試液を加えて100.0gとし,栓をして30分間絶えず振り混ぜて溶かす.この液につき20±0.1℃で粘度測定法第I法により試験を行うとき,本品の粘度は表示単位の50?120%である。」(509頁11?13行)

オ 甲第5号証(財団法人日本公定書協会監修、「第十一改正 日本薬局方 1986」、株式会社廣川書店、昭和61年5月1日、第166?167頁)には、以下の事項が記載されている。
(オ1)「水酸化ナトリウム試液,希 水酸化ナトリウム4.3gに新たに煮沸し冷却した水を加えて溶かし,1000mlとする.用時製する(0.1N).」(167頁4?5行)

カ 甲第6号証(AquaSolveTM hydroxypropylmethylcellulose acetate succinate、2016年)には、以下の事項が記載されている。なお、原文は英語であるため、翻訳は、当審による。
(カ1)「グレードとタイプ
アクアソルブHPMCASは、3つの置換グレードであるL、MおよびHで製造される。3つのグレードは、酸性水溶液に溶解しない。3つのグレードの全ては、希苛性アルカリ溶液に溶解し、アセトンおよびメタノールにさまざまな程度で溶解する。各グレードは、微粉状(F)および粒状(G)の粒子径で入手できる。アセチル基の含有量による各グレードの範囲を表1に示す。他の主な置換基の含有量も表1に示す、特記のない限り、このテキスト中の全ての百分率は、重量%である。

表1-アクアソルブ^(TM)HPMCASグレード

グレード アセチル基 サクシノイル基 メトキシ基 ヒドロキシ
プロポキシ基
L 5-9% 14-18% 20-24% 5-9%
M 7-11% 10-14% 21-25% 5-9%
H 10-14% 4-8% 22-26% 6-10%」
(5頁右欄22?33行及び表1)
(カ2)「各種溶媒中の粘度
より低い溶液粘度は、噴霧乾燥とコーティングに有利である。噴霧乾燥の典型的な相固形分濃度は、10%未満で有り、3?5%濃度がよく使用される。フィルムコーティングに関して、溶液中のポリマー濃度は、一般的に10%未満である。各種溶媒に溶解したアクアソルブHPMCASの各グレードの溶液粘度を、ブルックフィールド粘度計を用いて測定した。結果を図13?15に示す。固形分含有量10%において、300mPa・s未満の粘度は、良好な加工性を示す。

図13アクアソルブL HPMCASの20℃における各種溶媒中の粘度
アセトン
2:1 エタノール:アセトン
8:2 エタノール:水
メタノール
2:1 塩化メチレン:メタノール

図14アクアソルブM HPMCASの20℃における各種溶媒中の粘度
アセトン
2:1 エタノール:アセトン
8:2 エタノール:水
メタノール
2:1 塩化メチレン:メタノール

図15アクアソルブH HPMCASの20℃における各種溶媒中の粘度
アセトン
2:1 エタノール:アセトン
8:2 エタノール:水
メタノール
2:1 塩化メチレン:メタノール
」(10頁右欄1?11行、10頁の図13、14及び11頁の図15)

キ 甲第7号証(特開2007-308480号公報)には、以下の事項が記載されている。
(キ1)「【0015】
腸溶性ポリマーは、日本薬局方第14改正に定められている条件において、「ほとんど溶けない(薬物1g又は1ml溶かすのに必要な水量が10,000ml以上)」に該当し、かつアルカリ性溶液に溶けるポリマーである。腸溶性ポリマーとしては、具体的にはセルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、セルロースアセテートサクシネート、メチルセルロースフタレート、ヒドロキシメチルセルロースエチルフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルアセテートマレエート、ヒドロキシプロピルメチルトリメリテート、カルボキシメチルエチルセルロース、ポリビニルブチレートフタレート、ポリビニルアルコールアセテートフタレート、メタクリル酸/エチルアクリレート共重合体(好ましくは質量比1:99から99:1)、及びメタクリル酸/メチルメタクリレート共重合体((好ましくは質量比1:99から99:1)等が挙げられる。中でもヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルアセテートマレエート、ヒドロキシプロピルメチルトリメリテートが好ましく、特にヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートが好ましい。」
(キ2)「【0017】
難溶性薬物に対する腸溶性ポリマーの添加比率は、難溶性薬物:腸溶性ポリマー=1:1?5(質量比)が好ましい。腸溶性ポリマーの比率が1より小さいと固体分散体中の難溶性薬物を完全に非晶状態にすることができない場合があり、5よりも大きい場合は製剤中の腸溶性ポリマーの割合が大きくなるため、結果として製剤サイズが大きくなることになり、一般的な製剤として適さない場合がある。
【0018】
腸溶性ポリマーを含んでなる難溶性薬物の固体分散体を調製する際の溶媒は、難溶性薬物が良く溶け、かつ腸溶性ポリマーも溶ける溶媒が好ましい。例えばメタノール、エタノール、塩化メチレン、アセトン又はこれらの混合溶媒の他、これらと水との混合溶媒が挙げられるが、難溶性薬物と腸溶性ポリマーの溶媒への溶解性により適宜選択することができる。
溶媒の添加量は、固形分濃度が好ましくは3?18質量%、特に好ましくは3.5?12%溶液になる量である。」

(2)特許法第29条第1項第3号について
ア 甲第1号証に記載された発明について
甲第1号証には、上記(ア1)よりヒプロメロースアセテートサクシネート(HPMCAS)ポリマーの重量平均分子量の測定方法に関する文献であること、上記(ア3)より「ヒプロメロースアセテートサクシネート(CAS71138-97-1、アセチル/スクシノイルの比を変えて3つの下位分類-LF、MF、HF)ポリマーは、日本国東京の信越化学工業株式会社から購入した」こと、重量平均分子量の測定条件として「SEC-MALLS装置一式」、「分析用のサイズ排除カラム(TSK-GEL(R)(「(R)」は、○の中にRを示す。)GMPWXL、300×7.5mm、カタログ番号08025)を用いること、移動相が「アセトニトリルと、0.1Mの硝酸ナトリウムを備えた50mMのリン酸二水素ナトリウム緩衝液の混合物(40:60v/v)」であり、「pH8.0に調節され」たものであること、また、上記(1)アの(ア5)より表2にHPMCAS-HFの重量平均分子量が「281,463g/mol」であることが、それぞれ記載されている。
そうすると、甲第1号証には、「「ヒプロメロースアセテートサクシネート(HPMCAS)(CAS71138-97-1)」ポリマー(信越工業株式会社から購入)でアセチル/スクシノイルの比を変えたHFであって、「SEC-MALLS装置一式」、「分析用のサイズ排除カラム(TSK-GEL(R)(「(R)」は、○の中にRを示す。)GMPWXL、300×7.5mm、カタログ番号08025)を用い、移動相が「アセトニトリルと、0.1Mの硝酸ナトリウムを備えた50mMのリン酸二水素ナトリウム緩衝液の混合物(40:60v/v)」であり、「pH8.0に調節され」た測定条件で測定された重量平均分子量が281,463g/molであるHPMCASポリマー」(以下、「甲1発明」という)の発明が記載されているといえる。

イ 本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「ヒプロメロースアセテートサクシネート(HPMCAS)」は、略称であるHPMCASがCAS登録番号(CAS71138-97-1からヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを示すことは当業者に周知であるから、本件発明1の「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」に相当する。
甲1発明の「「SEC-MALLS装置一式」、「分析用のサイズ排除カラム(TSK-GEL(R)(「(R)」は、○の中にRを示す。)GMPWXL、300×7.5mm、カタログ番号08025)を用い、移動相が「アセトニトリルと、0.1Mの硝酸ナトリウムを備えた50mMのリン酸二水素ナトリウム緩衝液の混合物(40:60v/v)」であり、「pH8.0に調節され」た測定条件で測定された」は、本件発明1の「SEC-MALLS(サイズ排除クロマトグラフィーマルチアングルレーザー光散乱)器具、分子サイズ排除カラム、ならびに、8.0のpHに調節された移動相として、40容量部のアセトニトリルトと、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含有する60容量部の水性緩衝液との混合物を使用して測定される」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートであって、 SEC-MALLS(サイズ排除クロマトグラフィーマルチアングルレーザー光散乱)器具、分子サイズ排除カラム、ならびに、8.0のpHに調節された移動相として、40容量部のアセトニトリルトと、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含有する60容量部の水性緩衝液との混合物を使用して測定される重量平均分子量M_(w)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート。」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1 本件発明1は、1.6?2.05のDS(メトキシル)(当審注:メトキシル基の置換度)を有するのに対して、甲1発明はDS(メトキシル)に関する記載がない点。
相違点2 本件発明1は、20℃のアセトン中の前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの10重量%溶液として測定される、最大で50mPa・sの粘度を有するのに対して、甲1発明は、粘度に関する記載がない点。
相違点3 重量平均分子量M_(w)について、本件発明1は、少なくとも220,000ダルトンであるのに対して、甲1発明は、281,463g/molである点。
(ア)相違点1及び相違点2について
甲第1号証には、DS(メトキシル)に関する記載がなく、20℃のアセトン中の前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの10重量%溶液として測定される、最大粘度についての記載も示唆もないことから、この点は、実質的な相違点である。

(イ)相違点3について
重量平均分子量として表示される単位として、「g/mol」や「ダルトン」は、通常、同様な値として用いられる単位であるから、甲1発明1の「281,463g/mol」は、本件発明1の範囲に含まれる値であるからこの点は、実質的な相違点にならない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件発明1は、必要であれば、甲第2号証?甲第6号証を証拠として甲第1号証に記載された発明である旨主張している。
しかしながら、新規性の判断は、本件発明1と甲1発明との比較において判断されるものであり、上記のとおり、相違点1?3を有し、相違点1及び2は実質的な相違点である。
なお、甲第6号証は、本件特許の優先日後の文献であるから、証拠とすることはできない。
したがって、上記特許請求人の主張は採用することができない。

(エ)小活
上記のとおり、上記相違点1及び相違点2は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1発明ではない。

ウ 本件発明3、4及び6について
本件発明3、4及び6は、いずれも本件発明1を引用し、本件発明3は、DS(メトキシル)の値をさらに特定したヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの発明であり、本件発明4は、液体希釈剤及びヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む組成物の発明であり、本件発明6は、少なくとも1つの活性成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む固体分散体の発明である。
そして、本件発明3、4及び6と甲1発明を対比すると、本件発明1と同じ相違点1?3を有し、これらの相違点のうち、相違点1及び相違点2は、本件発明1と同様に、実質的な相違点であるから、本件発明3、4及び6は、甲1発明ではない。

エ まとめ
以上のとおり、本件発明1、3、4及び6は、甲1発明ではない。

(3)特許法第29条第2項について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、上記(2)イで検討したとおり、相違点1及び相違点2が実質的な相違点であるから、以下、この点についてさらに検討する。
(ア)相違点1について
甲第2号証は、信越化学工業株式会社から市販されているヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートである信越AQOAT^(R)(上付きRは、○の中にR)について記載されており、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートには、LF,MF,HFの3つの品種があること(上記(イ2)及び(イ5))、各品種におけるメトキシル基、ヒドロキシプロポキシル基、アセチル基、サクシノイル基の割合(上記(イ5))が記載されており、そこには、HF品種の割合として、メトキシル基22.0?26.0%、ヒドロキシプロポキシル基6.0?10.0%、アセチル基10.0?14.0%、サクシノイル基4.0?8.0%の範囲であることが記載されている。
また、甲第3号証には、先行技術のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートポリマーとして、表1、表2に信越化学工業株式会社から得られるLグレード、Mグレード、Hグレードのメトキシル基、ヒドロキシプロポキシル基、アセチル基、サクシノイル基の割合や、算出した置換度(上記(ウ1)及び(ウ3))が記載されている。特にHグレード(甲第2号証のHFに相当)のメトキシル基、ヒドロキシプロポキシル基、アセチル基、サクシノイル基の割合を見てみると、メトキシル基23.2?24.1wt%、ヒドロキシプロポキシル基7.1?7.8wt%、アセチル基11.0?12.2wt%、サクシノイル基5.3?7.6wt%の範囲であり、特に、算出したDS_(M)(メトキシ基の置換度)が1.84?1.92であることが記載されている。
そうすると、相違点1において、甲第2号証及び甲第3号証に基いて、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートポリマーの(メトキシ基の置換度)を1.84?1.92を含む「1.6?2.05」の範囲に特定する程度のことは当業者が容易に想到する程度のことである。

(イ)相違点2について
甲第2号証には、上記(イ5)より、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートポリマーの各品種の共通の粘度として2.4?3.6mm^(2)/sが示されている。当該粘度は、医薬品添加物規格の試験方法であることが記載されている。
甲第4号証には、医薬品添加物規格の試験方法によるHPMCASの粘度は、希水酸化ナトリウム試液中の2重量%溶液の20℃の粘度であること(上記(エ1))、甲第5号証には、希水酸化ナトリウム試液が0.1N水酸化ナトリウム水溶液であること(上記(オ1))が記載されているから、甲第2号証における各品種の粘度は、0.1N水酸化ナトリウム試液中の2重量%溶液の20℃の粘度が2.4?3.6mm^(2)/sであるといえる。
しかしながら、本件発明1における粘度は、20℃のアセトン中の前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの10重量%溶液として測定されるものである。
甲第2号証、甲第4?5号証において測定している粘度と本件発明1において測定している粘度は、測定するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを溶解する溶媒の種類が水とアセトンで異なること、また、溶解するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの濃度が本件発明1は10%であり、甲第2号証におけるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの濃度2%と5倍も異なる。
一般に、粘度を測定する際に同じ溶媒に溶かした場合、溶液濃度が高くなれば粘度が増大することが技術常識であり、なおかつ、溶媒の種類が異なれば粘度の値に影響を及ぼすことが技術常識であるから、甲第2号証、甲第4?5号証の記載から、相違点2における測定条件及び最大粘度を特定することは、当業者が容易に想到できるとはいえない。

(ウ)本件発明1の効果について
本件発明1は、HPMCASにおいて、特定のメトキシ基の置換度、20℃のアセトン中の前記HPMCASの10重量%溶液として測定される最大粘度の特定、及び少なくとも220000ダルトンの重量平均分子量M_(w)の3つの特性を特定したことにより、高分子量を有し、噴霧乾燥及びコーティングプロセスで効率的に使用され得るHPMCASを得ることができたものであるから、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に記載された事項からは当業者が予測できない顕著な効果を奏するものである。

(エ)小活
上記のとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に記載された事項からは当業者が容易に発明できたものではない。

イ 本件発明2と甲1発明との対比
(ア)対比
甲1発明の「ヒプロメロースアセテートサクシネート(HPMCAS)」は、略称であるHPMCASがCAS登録番号(CAS71138-97-1からヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを示すことは当業者に周知であるから、本件発明2の「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」に相当する。
甲1発明の「「SEC-MALLS装置一式」、「分析用のサイズ排除カラム(TSK-GEL(R)(「(R)」は、○の中にRを示す。)GMPWXL、300×7.5mm、カタログ番号08025)を用い、移動相が「アセトニトリルと、0.1Mの硝酸ナトリウムを備えた50mMのリン酸二水素ナトリウム緩衝液の混合物(40:60v/v)」であり、「pH8.0に調節され」た測定条件で測定された」は、本件発明2の「SEC-MALLS(サイズ排除クロマトグラフィーマルチアングルレーザー光散乱)器具、分子サイズ排除カラム、ならびに、8.0のpHに調節された移動相として、40容量部のアセトニトリルトと、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含有する60容量部の水性緩衝液との混合物を使用して測定される」に相当する。
そうすると、本件発明2と甲1発明は、「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートであって、 SEC-MALLS(サイズ排除クロマトグラフィーマルチアングルレーザー光散乱)器具、分子サイズ排除カラム、ならびに、8.0のpHに調節された移動相として、40容量部のアセトニトリルトと、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含有する60容量部の水性緩衝液との混合物を使用して測定される重量平均分子量M_(w)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート。」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点4 本件発明2は、1.6?2.05のDS(メトキシル)(当審注:メトキシ基の置換度)を有するのに対して、甲1発明はDS(メトキシル)に関する記載がない点。
相違点5 本件発明2は、20℃のアセトン中の前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの10重量%溶液として測定される、最大で50mPa・sの粘度を有するのに対して、甲1発明は、粘度に関する記載がない点。
相違点6 重量平均分子量について、本件発明2は、少なくとも310,000ダルトンであるのに対して、甲1発明は、281,463g/molである点。

(イ)相違点4及び相違点5について
相違点4及び相違点5は、上記アの本件発明1の相違点1及び2と同様であり、相違点1及び2は、上記アで既に検討したとおりであるから、相違点6について検討するまでもなく、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に記載された事項からは当業者が容易に発明できたものではない。

(ウ)小活
上記のとおり、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に記載された事項からは当業者が容易に発明できたものではない。

ウ 本件発明3、4及び6?9について
本件発明3、4及び6?9は、いずれも本件発明1又は本件発明2を直接又は間接的に引用し、本件発明3は、DS(メトキシル)の値をさらに特定したヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの発明であり、本件発明4は、液体希釈剤及びヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む組成物の発明であり、本件発明6は、少なくとも1つの活性成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む固体分散体の発明であり、本件発明7は、固体分散体の製剤化の種類を特定した発明であり、本件発明8は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートでコーティングされた物品を特定した発明であり、本件発明9は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含むカプセル殻の発明である。
本件発明3、4及び6?9のいずれの発明も、本件発明1又は2のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む発明であり、本件発明1又は本件発明2と同じ相違点を有するものである。
そして、本件発明1又は本件発明2の相違点については、上記ア及びイで既に検討したとおりであるから、本件発明3、4及び6?9は、本件発明1又は本件発明2と同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に記載された事項からは当業者が容易に発明できたものではない。

エ 本件発明5について
本件発明5は、本件発明1又は本件発明2を直接引用している本件発明4を引用し、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、液体希釈剤、活性成分を含む組成物の発明である。
甲第7号証には、腸溶性ポリマーとしてHPMCAS(上記(キ1))、難溶性薬物に対する腸溶性ポリマーの添加比率、溶媒の添加量(上記(キ2))に関する記載はある。
しかしながら、本件発明5は、本件発明1又は2のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む発明であり、本件発明1又は本件発明2と同じ相違点を有するものである。
そして、本件発明1又は本件発明2の相違点については、上記ア及びイで既に検討したとおりである。
そうすると、本件発明5は、甲第7号証の記載に関わらず、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証、甲第7号証に記載された事項からは当業者が容易に発明できたものではない。

オ まとめ
以上のとおり、本件発明1?4及び6?9は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明できたものではない。また、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証、甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

(4)特許法第36条第6項第2号について
ア 重量平均分子量M_(w)の測定方法、測定条件おける明確性要件は、上記1で既に検討したとおりである。

イ 特許異議申立人の令和1年8月1日付け意見書の主張について
特許異議申立人は、上記意見書において、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートのメトキシル基以外の置換基含有量が未特定であり、重量平均分子量M_(w)の測定方法、測定条件に影響を与える旨主張している。
しかしながら、本件発明1は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートのメトキシル基の置換度であるDS(メトキシル)、20℃のアセトン中の前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの10重量%溶液として測定される最大粘度、及び、所定の測定方法、測定条件で測定した重量平均分子量M_(w)の範囲の3つの特性を特定した発明であり、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートのメトキシル基以外の置換基について特定することを技術思想とするものではない。
そして、本件発明1は、上記アで既に述べたとおり、明確性要件を満たすものである。本件発明2?9についても、本件発明1と同様であるから、上記特許異議申立人の主張は採用することができない。

ウ 小活
上記のとおり、本件発明1?9は、明確性要件を満たすものである。

(5)特許法第36条第6項第1号について
本件明細書の実施例には、本件のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの重量平均分子量M_(w)の測定方法、測定条件として特定のものが記載されており、本件発明1?9は、当業者がその課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、本件発明1?9の記載は、サポート要件を満たすものである。

(6)特許法第36条第4項第1号について
本件発明1?9の重量平均分子量M_(w)の測定方法、測定条件については、本件明細書の実施例に記載されており、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たすものである。


第6 むすび
したがって、本件発明1?9に係る特許は、平成31年2月28日付けの取消理由通知で通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた異議申立理由によっては取り消すことができない。
また、他に本件発明1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.6?2.05のDS(メトキシル)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートであって、
20℃のアセトン中の前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの10重量%溶液として測定される、最大で50mPa・sの粘度を有し、
SEC-MALLS(サイズ排除クロマトグラフィ-マルチアングルレーザ光散乱)器具、分析サイズ排除カラム、ならびに、8.0のpHに調節された移動相として、40容量部のアセトニトリルと、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含有する60容量部の水性緩衝液との混合物を使用して測定される、少なくとも220,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有する、
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート。
【請求項2】
1.6?2.05のDS(メトキシル)を有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートであって、
20℃のアセトン中の前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの10重量%溶液として測定される、最大で100mPa・sの粘度を有し、
SEC-MALLS(サイズ排除クロマトグラフィ-マルチアングルレーザ光散乱)器具、分析サイズ排除カラム、ならびに、8.0のpHに調節された移動相として、40容量部のアセトニトリルと、50mMのNaH_(2)PO_(4)および0.1MのNaNO_(3)を含有する60容量部の水性緩衝液との混合物を使用して測定される、少なくとも310,000ダルトンの重量平均分子量M_(w)を有する、
ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート。
【請求項3】
1.7?2.05のDS(メトキシル)を有する、請求項1又は2に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート。
【請求項4】
液体希釈剤、および請求項1?3のいずれか1項に記載の少なくとも1つのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む、組成物。
【請求項5】
前記組成物の総重量に基づき、5?20%の少なくとも1つのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、65?94%の液体希釈剤、および1?15%の活性成分を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも1つの活性成分、および請求項1?3のいずれか1項に記載の少なくとも1つのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む、固体分散体。
【請求項7】
前記固体分散体は、タブレット、ピル、顆粒、ペレット、カプレット、微粒子、カプセル充填物、またはペースト、クリーム、懸濁液、もしくはスラリーに製剤化されている、請求項6に記載の固体分散体。
【請求項8】
請求項1?3のいずれか1項に記載の少なくとも1つのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートでコーティングされている、タブレット、顆粒、ペレット、カプレット、トローチ剤、坐薬、ペッサリー、及び埋め込み型物品からなる群から選択される、物品。
【請求項9】
請求項1?3のいずれか1項に記載の少なくとも1つのヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含む、カプセル殻。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-10-28 
出願番号 特願2015-561433(P2015-561433)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C08B)
P 1 651・ 121- YAA (C08B)
P 1 651・ 536- YAA (C08B)
P 1 651・ 537- YAA (C08B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 新留 素子三上 晶子吉海 周  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 佐々木 秀次
齊藤 真由美
登録日 2018-05-11 
登録番号 特許第6334574号(P6334574)
権利者 ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
発明の名称 新規の超高分子量のエステル化セルロースエーテル  
代理人 青木 篤  
代理人 胡田 尚則  
代理人 胡田 尚則  
代理人 出野 知  
代理人 古賀 哲次  
代理人 古賀 哲次  
代理人 齋藤 都子  
代理人 青木 篤  
代理人 河村 英文  
代理人 齋藤 都子  
代理人 出野 知  
代理人 松井 光夫  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 三橋 真二  
代理人 石田 敬  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 石田 敬  
代理人 三橋 真二  
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