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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1357671
異議申立番号 異議2018-700889  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-07 
確定日 2019-11-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6321107号発明「光学積層体および画像表示装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6321107号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし3〕,4について訂正することを認める。 特許第6321107号の請求項1,2,4に係る特許を維持する。 特許第6321107号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6321107号(請求項の数4。以下,「本件特許」という。)に係る出願(以下,「本件特許出願」という。)は,平成28年10月4日の出願であって,平成30年4月13日に特許権の設定登録がされたものである。
同年5月9日に本件特許の特許掲載公報の発行がなされたところ,同年11月7日に特許異議申立人(以下,「申立人」という。)より請求項1ないし4に係る特許について特許異議の申立てがされ,平成31年1月15日付けで特許権者に取消理由が通知され,同年3月19日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ,同年4月25日に申立人より意見書が提出され,令和元年5月21日付けで特許権者に取消理由通知(決定の予告)がされ,同年7月22日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下,当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい,本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。本件訂正請求がなされたことで,特許法120条の5第7項の規定により,平成31年3月19日にされた訂正の請求は取り下げられたものとみなす。)がされた。
なお,本件訂正について,申立人に対して,訂正請求があった旨の特許法120条の5第5項の規定に基づく通知がされたが,指定された期間内に申立人による意見書の提出はなされなかった。


第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
(1)訂正前後の記載
本件訂正の請求の趣旨は,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1ないし4について訂正することを求める,というものである。なお,訂正前の請求項1ないし4は,請求項3及び4が訂正の請求の対象である請求項1,2の記載を引用する関係にあるから,一群の請求項である。
しかるに,本件訂正前後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
ア 本件訂正前の特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
偏光子と該偏光子の少なくとも一方の側に保護層とを含む偏光板と,第1の位相差層と,第2の位相差層と,導電層と,をこの順に有し,
該第2の位相差層と該導電層とを接着する粘着剤層が設けられており,
該粘着剤層を構成する粘着剤が粘着性ポリマーを含み,
該粘着性ポリマーを構成する全モノマー成分中の酸成分の量が4重量%未満であり,
該粘着剤の85℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(4)Pa?7.0×10^(4)Paであり,
前記第1の位相差層および前記第2の位相差層が,環状オレフィン系樹脂フィルムで構成されており,
前記第2の位相差層は,温度85℃および相対湿度85%の環境下に240時間置いた際の寸法変化率が1%以下である,
光学積層体。
【請求項2】
偏光子と該偏光子の少なくとも一方の側に保護層とを含む偏光板と,第1の位相差層と,第2の位相差層と,導電層と,をこの順に有し,
該第2の位相差層と該導電層とを接着する粘着剤層が設けられており,
該粘着剤層を構成する粘着剤が粘着性ポリマーを含み,
該粘着性ポリマーを構成する全モノマー成分中の酸成分の量が4重量%未満であり,
該粘着剤の85℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(4)Pa?7.0×10^(4)Paであり,
前記第1の位相差層および前記第2の位相差層が,液晶化合物の配向固化層であり,
前記偏光板と前記第1の位相差層と前記第2の位相差層との積層体は,温度85℃および相対湿度85%の環境下に240時間置いた際の寸法変化率が1%以下である,
光学積層体。
【請求項3】
前記偏光子の吸収軸と前記第1の位相差層の遅相軸とのなす角度が10°?20°であり,該吸収軸と前記第2の位相差層の遅相軸とのなす角度が65°?85°である,請求項1または2に記載の光学積層体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の光学積層体を備える,画像表示装置。」

イ 本件訂正後の特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
偏光子と該偏光子の少なくとも一方の側に保護層とを含む偏光板と,該偏光板に接着層を介して積層された第1の位相差層と,該第1の位相差層に接着層を介して積層された第2の位相差層と,該第2の位相差層に粘着剤層を介して接着された導電層と,を有し,
該粘着剤層を構成する粘着剤が粘着性ポリマーを含み,
該粘着性ポリマーを構成する全モノマー成分中の酸成分の量が4重量%未満であり,
該粘着剤の85℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(4)Pa?7.0×10^(4)Paであり,
該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度が10°?15°であり,該吸収軸と該第2の位相差層の遅相軸とのなす角度が72°?78°であり,
該第1の位相差層および該第2の位相差層が,環状オレフィン系樹脂フィルムで構成されており,
該第2の位相差層は,温度85℃および相対湿度85%の環境下に240時間置いた際の寸法変化率が1%以下である,
光学積層体。
【請求項2】
偏光子と該偏光子の少なくとも一方の側に保護層とを含む偏光板と,該偏光板に接着層を介して積層された第1の位相差層と,該第1の位相差層に接着層を介して積層された第2の位相差層と,該第2の位相差層に粘着剤層を介して接着された導電層と,を有し,
該粘着剤層を構成する粘着剤が粘着性ポリマーとしてポリエステル系ポリマーを含み,
該粘着性ポリマーを構成する全モノマー成分中の酸成分の量が4重量%未満であり,
該粘着剤の85℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(4)Pa?7.0×10^(4)Paであり,
該第1の位相差層および該第2の位相差層が,液晶化合物の配向固化層であり,
該偏光板と該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体は,温度85℃および相対湿度85%の環境下に240時間置いた際の寸法変化率が1%以下である,
光学積層体。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
請求項1または2のいずれかに記載の光学積層体を備える,画像表示装置。」

(2)訂正事項
本件訂正は,次の訂正事項からなる。
ア 訂正事項1
請求項1において,「偏光子と該偏光子の少なくとも一方の側に保護層とを含む偏光板と,第1の位相差層と,第2の位相差層と,導電層と,をこの順に有し,該第2の位相差層と該導電層とを接着する粘着剤層が設けられており,」とあるのを,「偏光子と該偏光子の少なくとも一方の側に保護層とを含む偏光板と,該偏光板に接着層を介して積層された第1の位相差層と,該第1の位相差層に接着層を介して積層された第2の位相差層と,該第2の位相差層に粘着剤層を介して接着された導電層と,を有し,」と訂正し(以下,「訂正事項1-1」という。),
「7.0×10^(4)Paであり,」との記載の後に「該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度が10°?15°であり,該吸収軸と該第2の位相差層の遅相軸とのなす角度が72°?78°であり,」との記載を挿入し(以下,「訂正事項1-2」という。),
「前記」とあるのを,いずれも「該」と訂正する(以下,「訂正事項1-3」という。)。

イ 訂正事項2
請求項2において,「偏光子と該偏光子の少なくとも一方の側に保護層とを含む偏光板と,第1の位相差層と,第2の位相差層と,導電層と,をこの順に有し,該第2の位相差層と該導電層とを接着する粘着剤層が設けられており,」とあるのを,「偏光子と該偏光子の少なくとも一方の側に保護層とを含む偏光板と,該偏光板に接着層を介して積層された第1の位相差層と,該第1の位相差層に接着層を介して積層された第2の位相差層と,該第2の位相差層に粘着剤層を介して接着された導電層と,を有し,」と訂正し(以下,「訂正事項2-1」という。),
「粘着剤が粘着性ポリマーを含み,」とあるのを,「粘着剤が粘着性ポリマーとしてポリエステル系ポリマーを含み,」と訂正し(以下,「訂正事項2-2という。),
「前記」とあるのを,いずれも「該」と訂正する(以下,「訂正事項2-3」という。)。

ウ 訂正事項3
請求項3を削除する。

エ 訂正事項4
請求項4に「請求項1?5のいずれかに記載の」とあるのを,「請求項1または2に記載の」と訂正する。

2 訂正の目的の適否について
訂正事項1-1及び訂正事項2-1は,請求項1及び2に係る発明,並びに請求項1又は2の記載を引用する形式で記載された請求項4に係る発明について,本件訂正前には,「偏光板」と「第1の位相差層」,及び「第1の位相差層」と「第2の位相差層」が,それぞれ接着層を介して積層されているの否かが任意であったものを,それぞれ接着層を介して積層されているものに限定しようとする訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
訂正事項1-2は,請求項1に係る発明,及び請求項4に係る発明のうち請求項1の記載を引用するものについて,本件訂正前には,「偏光子の吸収軸」と「第1の位相差層の遅相軸」とがなす角度,及び「偏光子の吸収軸」と「第2の位相差層の遅相軸」とがなす角度が任意であったものを,それぞれ「10°?15°」,及び「72°?78°」であるものに限定しようとする訂正であるから,同項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
訂正事項2-2は,請求項2に係る発明,及び請求項4に係る発明のうち請求項2の記載を引用するものについて,本件訂正前には,「粘着剤層を構成する粘着剤」が,「粘着性ポリマー」として「ポリエステル系ポリマー」を含むのか否かは任意であったものを,「粘着性ポリマー」として「ポリエステル系ポリマー」を含むものに限定しようとする訂正であるから,同項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
訂正事項1-3及び訂正事項2-3は,本件訂正前の請求項1及び2において,「該」という文言と「前記」という文言とが混在して用いられていたものを,「該」という文言に統一しようとする訂正であるから,同項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」に該当する。
訂正事項3及び訂正事項4は,本件特許の特許請求の範囲から,請求項3を削除しようとする訂正であるから,同項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

3 新規事項の追加の有無について
訂正事項1-1及び訂正事項2-1による限定事項(「接着層を介して積層」)は,本件訂正前の願書に添付された明細書(特許された時点での明細書である。以下,特許された時点の特許請求の範囲,明細書及び図面を総称して「特許明細書等」という。)の【0014】等に記載された事項であり,訂正事項1-2による限定事項(吸収軸と遅相軸とのなす角度)は,特許明細書等の【0032】や【0063】等に記載された事項であり,訂正事項2-2による限定事項(ポリエステル系ポリマー)は,特許明細書等の【0071】ないし【0074】に記載された事項である。
また,訂正事項1-3及び訂正事項2-3による訂正の前後で,請求項1,2及び4に係る発明の発明特定事項に差異はない。
さらに,訂正事項3及び訂正事項4は,本件特許の特許請求の範囲から,請求項3を削除しようとする訂正であるから,新規事項を追加するものでないことは明らかである。
したがって,本件訂正は,特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
よって,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。

4 特許請求の範囲の実質的拡張・変更の存否について
訂正事項1ないし4が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかであるから,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。

5 小括
訂正後の請求項4について,特許権者は,当該訂正が認められるときに請求項〔1ないし3〕とは別の訂正単位として扱われることを求めているところ,前記2ないし4のとおり,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1ないし3〕,4について訂正することを認める。


第3 本件特許の請求項1,2及び4に係る発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるから,本件特許の請求項1,2及び4に係る発明(以下,それぞれを「本件訂正発明1」,「本件訂正発明3」及び「本件訂正発明4」といい,これらを総称して「本件訂正発明」という。)は,それぞれ本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,2及び4に記載された事項により特定されるものと認められるところ,当該請求項1,2及び4の記載は,前記第2 1(1)イに「本件訂正後の特許請求の範囲の記載」として示したとおりである。


第4 取消理由通知(決定の予告)の概要
1 通知された取消理由
平成31年3月19日にされた訂正の請求による訂正後の請求項1,2及び4(以下,それぞれを「予告前請求項1」,「予告前請求項2」及び「予告前請求項4」という。)に係る特許に対して,令和元年5月21日付けの取消理由通知(決定の予告)により通知された取消理由は,概略次のとおりである。

取消理由1(甲1を主引例とする進歩性欠如):
予告前請求項1及び4に係る発明は,甲1に記載された発明,周知技術(周知例:甲3,甲4,甲5)及び甲6に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

取消理由2(甲3を主引例とする進歩性欠如):
予告前請求項2及び4に係る発明は,甲3に記載された発明,甲6に記載された事項及び甲12に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

取消理由3(明確性要件違反):
予告前請求項1及び2に記載された「偏光板に隣接して配置された第1の位相差層」という発明特定事項,及び「第1の位相差層に隣接して配置された第2の位相差層」という発明特定事項がどのようなことを特定しているのか,本件特許明細書等の記載を参酌しても明確に理解することができないから,本件訂正発明1,2,4は明確でない。
したがって,予告前請求項1,2及び4に係る特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 引用例,周知例及び参考資料
取消理由1及び取消理由2において引用された引用例,周知例及び参考資料は,次のとおりである。
[引用例及び周知例]
甲1:特開2015-210459号公報
甲3:特開2015-69156号公報
甲4:特開2011-180769号公報
甲5:特開2015-201002号公報
甲6:特開2009-79203号公報
甲12:国際公開第2010/092926号

[環状オレフィン系樹脂の寸法変化率に関する参考資料]
甲9:特開2007-11280号公報
参考資料1:特開2004-151640号公報
参考資料2:「フィルム用耐熱透明ARTON(R)(決定注:丸囲み文字のRを「(R)」と表現した。)樹脂」 「主な特性」 「ARTONフィルムの加熱による寸法変化率」,[online],JSR株式会社,[平成30年12月28日検索],インターネット
<URL:http://www.jsr.co.jp/pd/op_artonfilm-02.shtml>
参考資料3:「APEL^(TM) 環状オレフィンコポリマー Cyclo Olefin Copolymer(COC)」 「寸法安定性」 「吸水による寸法変化」,[online],三井化学株式会社,[平成30年12月28日検索],インターネット
<URL:https://www.mitsuichem.com/sites/default/files/media/document/2018/apel_j.pdf>


第5 取消理由1(甲1を主引例とする進歩性欠如)の成否について
1 引用例,周知例及び参考資料
(1)甲1
ア 甲1の記載
甲1(特開2015-210459号公報)は,本件特許出願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該甲1には,次の記載がある。(下線は,後述する「甲1円偏光板発明」及び「甲1表示装置発明」の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,有機EL表示装置用円偏光板および有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,薄型ディスプレイの普及と共に,有機ELパネルを搭載したディスプレイが提案されている。有機ELパネルは反射性の高い金属層を有するため,外光反射や背景の映り込み等の問題を生じやすい。そこで,円偏光板を視認側に設けることにより,これらの問題を防ぐことが知られている。一般的な円偏光板として,偏光子とλ/2板とλ/4板とを積層したものが知られている(例えば,特許文献1および2)。しかし,従来技術の円偏光板は,いわゆるロールトゥロールによる製造が困難であり生産性に劣る,所望でない反りが生じる,および/または,有機ELパネルに適用した場合に所望でない色味を生じるという問題がある。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり,その主たる目的は,生産性に優れ,反りが防止され,かつ,優れた色味を実現し得る有機EL表示装置用円偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の円偏光板は,有機EL表示装置に用いられる長尺状の円偏光板である。この円偏光板は,長尺方向に吸収軸を有する長尺状の偏光子と,λ/2板として機能する長尺状の第1の位相差層と,λ/4板として機能する長尺状の第2の位相差層と,をこの順に備える。該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とがなす角度は15°?30°であり,該偏光子の吸収軸と該第2の位相差層の遅相軸とは実質的に直交している。
1つの実施形態においては,上記偏光子,上記第1の位相差層および上記第2の位相差層は,それぞれの長尺方向に搬送されながら長尺方向を揃えて連続的に貼り合わせることにより積層されている。
1つの実施形態においては,上記第1の位相差層は,環状オレフィン系樹脂の斜め延伸フィルム,ポリカーボネート系樹脂の斜め延伸フィルム,または液晶化合物の配向固化層であり;上記第2の位相差層は,環状オレフィン系樹脂の横延伸フィルムまたはポリカーボネート系樹脂の横延伸フィルムである。
・・・(中略)・・・
本発明の別の局面によれば,有機EL表示装置が提供される。この有機表示装置は,上記の円偏光板を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば,偏光子と特定の2つの位相差層とを特定の軸角度で積層することにより,生産性に優れ,反りが防止され,かつ,優れた色味を実現し得る有機EL表示装置用円偏光板を得ることができる。」

(イ) 「【発明を実施するための形態】
【0008】
以下,本発明の実施形態について説明するが,本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
・・・(中略)・・・
(5)直交または平行
「実質的に直交」とは,2つの光学軸がなす角度が90°±5.0°である場合を包含し,好ましくは90°±3.0°,さらに好ましくは90°±1.0°である。・・・(中略)・・・
【0010】
A.円偏光板
A-1.円偏光板の全体構成
本発明の円偏光板は,有機EL表示装置に用いられる。本発明の円偏光板は,長尺方向に吸収軸を有する長尺状の偏光子と,λ/2板として機能する長尺状の第1の位相差層と,λ/4板として機能する長尺状の第2の位相差層と,をこの順に備える。すなわち,本発明の円偏光板は長尺状である。以下,円偏光板の全体的な構成を簡単に説明し,その後で,円偏光板を構成する各層および光学フィルムを詳細に説明する。
【0011】
図1は,本発明の1つの実施形態による円偏光板の概略断面図であり,図2は,図1の円偏光板の要部分解斜視図である。本実施形態の円偏光板100は,偏光子10と,偏光子10の片側に配置された第1の保護フィルム21と,偏光子10のもう片側に配置された第2の保護フィルム22と,第2の保護フィルム22の偏光子10と反対側に順に配置された第1の位相差層30および第2の位相差層40とを備える。すなわち,円偏光板100は,偏光子10と第1の位相差層30と第2の位相差層40とをこの順に備える。上記のとおり,第1の位相差層30はλ/2板として機能し,第2の位相差層40はλ/4板として機能する。なお,図面では明らかではないが,本発明の円偏光板は上記のとおり長尺状であり,1つの実施形態においてはロール状に巻回されている。
【0012】
第1の位相差層30は偏光子の保護フィルムとして機能し得る場合がある。したがって,第2の保護フィルム22は,目的等に応じて省略されてもよい。
【0013】
本発明においては,偏光子10の吸収軸Aと第1の位相差層30の遅相軸Bとがなす角度は15°?30°であり,好ましくは20°?25°であり,より好ましくは21.5°?23.5°であり,特に好ましくは約22.5°である。当該角度がこのような範囲であれば,所望の光学特性が得られる構成において,図2に示すように第2の位相差層の遅相軸Cを偏光子の吸収軸Aに対して実質的に直交させることができる。したがって,第2の位相差層の遅相軸を幅方向に設定できる。結果として,円偏光板をロールトゥロールで製造することができ,きわめて優れた生産性を実現することができる。また,偏光子の吸収軸Aと第2の位相差層の遅相軸Cとが実質的に直交することにより,円偏光板の反りを抑制することができ,かつ,円偏光板を有機EL表示装置に適用した場合に,色味に優れた有機EL表示装置を実現することができる。
・・・(中略)・・・
【0015】
A-2.偏光子
偏光子10としては,任意の適切な偏光子が採用され得る。具体例としては,ポリビニルアルコール系フィルム,部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム,エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに,ヨウ素や二色性染料等の二色性物質による染色処理および延伸処理が施されたもの,ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。好ましくは,光学特性に優れることから,ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸して得られた偏光子が用いられる。
・・・(中略)・・・
【0018】
A-3.第1の位相差層
第1の位相差層30は,上記のとおりλ/2板として機能し得る。第1の位相差層がλ/2板として機能することにより,λ/4板として機能する第2の位相差層40との積層後の波長分散特性(特に,位相差がλ/4を外れる波長範囲)について,位相差が適切に調節され得る。このような第1の位相差層の面内位相差Re(550)は,220nm?320nmであり,好ましくは240nm?300nmであり,さらに好ましくは250nm?280nmである。・・・(中略)・・・
【0022】
1つの実施形態においては,第1の位相差層は,上記のような光学的特性および機械的特性を満足し得る任意の適切な樹脂フィルムで構成され得る。そのような樹脂の代表例としては,環状オレフィン系樹脂またはポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
・・・(中略)・・・
【0030】
第1の位相差層は,好ましくは,長尺状の上記樹脂フィルムを長尺方向に対して所定の角度の方向に連続的に斜め延伸することにより作製される。斜め延伸を採用することにより,フィルムの長尺方向に対して所定の角度の配向角(当該角度の方向に遅相軸)を有する長尺状の延伸フィルムが得られ,例えば,偏光子との積層に際してロールトゥロールが可能となり,製造工程を簡略化することができる。なお,当該所定の角度は,偏光子の吸収軸(長尺方向)と第1の位相差層の遅相軸とがなす角度であり得る。
・・・(中略)・・・
【0043】
A-4.第2の位相差層
第2の位相差層40は,上記のとおりλ/4板として機能し得る。本発明によれば,λ/4板として機能する第2の位相差層の波長分散特性を,上記λ/2板として機能する第1の位相差層の光学特性によって補正することによって,広い波長範囲での円偏光機能を発揮することができる。このような第2の位相差層の面内位相差Re(550)は,100nm?180nmであり,好ましくは110nm?170nmであり,さらに好ましくは120nm?160nmである。・・・(中略)・・・
【0050】
第2の位相差層40は,好ましくは,環状オレフィン系樹脂フィルムおよびポリカーボネート系樹脂フィルムが横延伸されたフィルムである。上記のとおり,第1の位相差層30が所定の方向に遅相軸を有することにより,第2の位相差層を横延伸で作成することが可能となる。その結果,円偏光板をロールトゥロールで作製することが可能となる。横延伸は,例えばテンター式延伸機を用いて行われ得る。
【0051】
第2の位相差層40は,第1の位相差層30と同一の材料で形成されてもよく,異なる材料で形成されてもよい。さらに,第2の位相差層40は,屈折率楕円体およびNz係数等が第1の位相差層30と同一であってもよく,異なっていてもよい。
・・・(中略)・・・
【0056】
A-6.保護フィルム
保護フィルム21,22は,偏光子の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては,トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や,ポリエステル系,ポリビニルアルコール系,ポリカーボネート系,ポリアミド系,ポリイミド系,ポリエーテルスルホン系,ポリスルホン系,ポリスチレン系,ポリノルボルネン系,ポリオレフィン系,(メタ)アクリル系,アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また,(メタ)アクリル系,ウレタン系,(メタ)アクリルウレタン系,エポキシ系,シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも,例えば,シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また,特開2001-343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。・・・(中略)・・・
【0068】
A-7.その他
本発明の円偏光板を構成する各層の積層には,任意の適切な粘着剤層または接着剤層が用いられる。粘着剤層は,代表的にはアクリル系粘着剤で形成される。接着剤層は,代表的にはポリビニルアルコール系接着剤で形成される。第1の位相差層が液晶化合物の配向固化層であり,かつ,当該配向固化層が第2の保護フィルムまたは第2の位相差層の表面に形成される場合には,粘着剤層および接着剤層は省略され得る。
・・・(中略)・・・
【0070】
B.有機EL表示装置
本発明の有機EL表示装置は,その視認側に上記A項に記載の円偏光板を備える。円偏光板は,各位相差層が有機ELパネル側となるように(偏光子が視認側となるように)積層されている。」

(ウ) 「【0073】
[実施例1]
<第1の位相差層(λ/2板)の作製>
光弾性係数11×10^(-12)m^(2)/N,Tg125℃,厚み70μmのノルボルネン系樹脂製のロール状の未延伸フィルムを,133℃の雰囲気下で,斜め延伸した。斜め延伸は,テンター式延伸機を用い,左右の送り速度を異なるものとすることにより連続的に行った。結果として,厚み45μmのロール状の位相差フィルムを得た。この位相差フィルムの面内位相差Re(550)は270nmであり,遅相軸の方向はフィルムの長尺方向に対して22.5°の方向であった。この位相差フィルムを第1の位相差層とした。
【0074】
<第2の位相差層(λ/4板)の作製>
光弾性係数11×10^(-12)m^(2)/N,Tg125℃,厚み50μmであるノルボルネン系樹脂製のロール状の未延伸フィルムを,128℃の雰囲気下で,1.526倍に横一軸延伸し,厚み40μmのロール状の位相差フィルムを得た。横一軸延伸は,テンター式延伸機を用いて連続的に行った。この位相差フィルムの面内位相差Re(550)は,140nmであり,遅相軸の方向はフィルムの長尺方向に対して90°の方向であった。この位相差フィルムを第2の位相差層とした。
【0075】
<偏光子の作製>
ポリビニルアルコールフィルムを,ヨウ素を含む水溶液中で染色した後,ホウ酸を含む水溶液中で速比の異なるロール間にて6倍に一軸延伸して,長尺方向に吸収軸を有するロール状の偏光子を得た。
【0076】
<円偏光板の作製>
上記偏光子の片側に,ポリビニルアルコール系接着剤を介してトリアセチルセルロースフィルム(厚み40μm,コニカミノルタ社製,商品名「KC4UYW」)を貼り合わせた。偏光子のもう片側に,ポリビニルアルコール系接着剤を介して位相差フィルム(第1の位相差層)を貼り合わせた。次いで,第1の位相差層表面にアクリル系粘着剤を介して位相差フィルム(第2の位相差層)を貼り合わせた。これらの貼り合わせはロールトゥロールにより行った。このようにして,保護フィルム/偏光子/第1の位相差層/第2の位相差層の構成を有するロール状の円偏光板を得た。得られたロール状の円偏光板においては,偏光子の吸収軸は長尺方向であり,偏光子の吸収軸と第1の位相差層の遅相軸とがなす角度は22.5°であり,偏光子の吸収軸と第2の位相差層の遅相軸とがなす角度は90°であった。
【0077】
<有機EL表示装置の作製>
得られた円偏光板の第2の位相差層側にアクリル系粘着剤で粘着剤層を形成し,寸法50mm×50mmに切り出した。
有機ELディスプレイ(Samsung社製,製品名「Galaxy S4」)から有機ELパネルを取り出し,この有機ELパネルに貼り付けられている偏光フィルムを剥がし取り,かわりに,切り出した円偏光板を貼り合わせて有機EL表示装置を得た。」

イ 甲1の記載から把握される発明
前記ア(ア)ないし(ウ)で摘記した甲1の記載から,ロール状に巻回された長尺状の円偏光板100から所望の寸法に切り出された円偏光板であって,第2の保護フィルム22が省略され,第1の位相差層30及び第2の位相差層40の材質として環状オレフィン系樹脂を用いた態様の円偏光板に関する発明,及び,当該切り出された円偏光板を有機ELパネルに貼り合わせて得られる有機EL表示装置に関する発明を把握することができるところ,これら発明の構成は次のとおりである。

「ロール状に巻回された長尺状の円偏光板100から所望の寸法に切り出された円偏光板であって,
偏光子10と,前記偏光子10の片側に配置された第1の保護フィルム21と,前記偏光子10のもう片側に順に配置されたλ/2板として機能する第1の位相差層30及びλ/4板として機能する第2の位相差層40とを備え,
各層は,任意の適切な粘着剤層又は接着剤層を用いて貼り合わされ,
前記偏光子10の吸収軸Aと前記第1の位相差層30の遅相軸Bとがなす角度は15°?30°であり,前記偏光子10の吸収軸Aと前記第2の位相差層の遅相軸Cとがなす角度は90°±5.0°であり,
前記第1の位相差層30は,環状オレフィン系樹脂フィルムを斜め延伸することにより作製されたものであり,
第2の位相差層40は,環状オレフィン系樹脂フィルムを横延伸することにより作製されたものであり,
前記長尺状の円偏光板100は,前記第1の保護フィルム21,長尺方向に前記吸収軸Aを有する前記偏光子10,前記第1の位相差層30及び前記第2の位相差層40をそれぞれの長尺方向に搬送しながら長尺方向を揃えて連続的に貼り合わせるというロールトゥロールにより製造されたものである,
円偏光板。」(以下,「甲1円偏光板発明」という。)

「甲1円偏光板発明の円偏光板を,有機ELパネルの視認側に,各位相差層が有機ELパネル側となるように,貼り合わせることにより,外光反射や背景の映り込み等を防ぐように構成された有機EL表示装置。」(以下,「甲1表示装置発明」という。)

(2)周知の技術事項
甲3ないしび甲5の記載から,次の技術事項が本件特許出願の出願前に周知であったと認められる。

「粘着剤層を用いて,円偏光板の位相差層側に,両面にそれぞれ電極が形成されたセンサーフィルムを貼り合わせ,外来光の反射を防止する機能を有するタッチパネルとして用いる技術。」(以下,「周知技術」という。)

(3)甲6
ア 甲6の記載
甲6(特開2009-79203号公報)は,本件特許出願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該甲6には,次の記載がある。(下線は,後述する「甲6記載事項」の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,アクリル系粘着剤組成物に関する。詳しくは,ガラスおよびアクリル,ポリカーボネート,ポリエチレンテレフタレート(PET)などの透明プラスチックに対する接着性,耐発泡・剥がれ性,透明性,塗工性に優れ,特に金属薄膜に対して腐食を生じさせない粘着剤組成物に関する。また,該粘着剤組成物を塗布した粘着製品,該粘着製品を貼り合わせたディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,液晶ディスプレイ(LCD)をはじめとするFPD(Flat Panel Display:フラットパネルディスプレイ)が広く用いられるようになってきている。FPDは,様々な機能を有する光学フィルムを粘着剤(感圧性接着剤)を介して積層させることにより製造される。これらの用途においては,粘着剤には,接着性,透明性に加え,高温や高湿環境下等で,発泡や剥がれを生じない性質(耐発泡・剥がれ性)などの優れた信頼性が求められる。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は,塗工性,接着性,透明性,耐発泡・剥れ性に優れており,なおかつ,耐腐食性能に優れた粘着剤組成物を提供することにある。さらに,それを用いた信頼性の高い粘着製品,ディスプレイを提供することにある。
・・・(中略)・・・
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは,上記目的を達成するため鋭意検討した結果,アルコキシアルキルアクリレートを主たるモノマーとする特定分子量のアクリル系ポリマーを架橋構造をとりうるようにすることによって,アクリル酸などのカルボキシル基含有モノマー成分を含まなくても,高温下の耐発泡・剥がれ性を満足する粘着剤組成物が得られることを見出し,本発明を完成した。
・・・(中略)・・・
【0012】
すなわち,本発明は,アルコキシアルキルアクリレート(成分A)及び架橋可能な官能基を有するアクリル系モノマー(成分B)を必須の単量体成分として構成される重量平均分子量40万?160万のアクリル系ポリマーおよび架橋剤を含む粘着剤組成物であって,アクリル系ポリマーを構成する全モノマー成分100重量部に対する成分Aの含有量が45?99.5重量部,成分Bの含有量が0.5?4.5重量部であり,アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分中にカルボキシル基含有モノマーを実質的に含まないことを特徴とする粘着剤組成物を提供する。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0018】
本発明の粘着剤組成物によれば,前記構成を有しているので,塗工性,接着性(特に低温接着特性),透明性,耐発泡・剥れ性に優れているため,ディスプレイなどに用いられる光学部材の接着に用いた場合に,これらの製品の視認性などの光学特性を向上させることができる。また,金属薄膜(金属酸化物薄膜を含む)に対して腐食を生じさせないことから,ITO(酸化インジウム・スズ)フィルムなどの金属薄膜を形成したフィルムを積層させるような部分にも用いることができる。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[粘着剤組成物]
本発明の粘着剤組成物は,アクリル系ポリマー及び架橋剤を必須の成分として構成される。
【0020】
本発明の粘着剤組成物に用いられるアクリル系ポリマーは,アクリル酸アルコキシアルキルエステル(アルコキシアルキルアクリレート)(以下,「成分A」と称する場合がある)をモノマー主成分として構成される重合体である。また,上記モノマー主成分の他に,架橋可能な官能基(カルボキシル基を除く)を有するアクリル系モノマー(以下,「成分B」と称する場合がある)を必須の共重合モノマー成分として含む。必要に応じてさらに他のモノマー成分が用いられていてもよい。なお,カルボキシル基を含有するモノマーはモノマー成分として実質的に含まない。
・・・(中略)・・・
【0022】
アクリル系ポリマーにおいて,モノマー主成分である成分Aのモノマー割合は,全モノマー成分100重量部に対して,45?99.5重量部であり,50?80重量部が好ましい。全モノマー成分中,成分Aの含有量が45重量部未満の場合には,耐発泡・剥がれ性が不十分となる。一方,99.5重量部を超えると成分Bの含有量が低下して,ポリマー中の架橋構造化が不十分となり,耐発泡・剥がれ性が不十分となる。なお,上記モノマー割合は,アクリル系ポリマーを製造する際の各モノマー成分の仕込量の割合(配合割合)をいう。他のモノマー割合,モノマー含有量も同様である。
【0023】
上記架橋可能な官能基を有するアクリル系モノマー(成分B)における架橋可能な官能基としては,カルボキシル基以外の官能基であって,後述の架橋剤と架橋可能な官能基であれば,特に限定されないが,例えば,グリシジル基,アミノ基,N-メチロールアミド基,水酸基などが挙げられる。・・・(中略)・・・
【0024】
アクリル系ポリマーにおいて,成分Bのモノマー割合は,全モノマー成分100重量部に対して,0.5?4.5重量部であり,0.5?3.0重量部が好ましく,より好ましくは0.5?2.0重量部である。全モノマー成分中,成分Bの含有量が0.5重量部未満の場合には,ポリマー中への架橋構造化が不十分となり,発泡が生じやすくなってしまう。一方,4.5重量部を超えると,架橋構造が密になりすぎ剥がれを生じやすくなってしまう。
【0025】
アクリル系ポリマーには,カルボキシル基を含有するモノマーはモノマー成分として実質的に含まない。なお,「実質的に含まない」とは,不可避的に混入する場合を除いて能動的に配合はしないことをいい,具体的には,全モノマー成分100重量部に対して,0.05重量部未満であり,好ましくは0.01重量部未満,さらに好ましくは0.001重量部未満である。カルボキシル基含有モノマーが含まれる場合には,金属薄膜に対する耐腐食性が低下する(例えば,ITOフィルムなどの導電性能が低下する)。・・・(中略)・・・
【0031】
アクリル系ポリマーの重量平均分子量(以下,単に分子量と称する場合がある)は,40万以上160万以下(40万?160万)であり,好ましくは60万?120万,さらに好ましくは60万?100万である。アクリル系ポリマーの重量平均分子量が40万未満である場合,粘着剤として必要な粘着力,凝集力が得られず,耐発泡・剥がれ性も不十分となり,一方,160万を超えていると,粘着剤の粘度上昇による塗工性不良などの問題が生じる。
・・・(中略)・・・
【0035】
アクリル系ポリマーの80℃における貯蔵弾性率は,0.01MPa以上であることが好ましく,より好ましくは0.03MPa以上である。なお,上記貯蔵弾性率は粘着剤層を厚さ約1.5mm程度に積層させ,Rheometric Scientific社製「Advanced Rheometric Expansion System(ARES)」にて,周波数1Hzの条件で測定した。なお,測定は-70?200℃の範囲で昇温速度5℃/分で行った。
・・・(中略)・・・
【0058】
本発明の粘着剤組成物を構成するアクリル系ポリマーによる効果発現のメカニズムは明らかではないが,以下のように推定される。本発明においてはアルコキシアルキルアクリレート(成分A)を主モノマーとして用いているため,ポリマーのTgが比較的低くなる。一方,アルコキシアルキルアクリレートのアルコキシル基の効果及び本発明では特定の分子量としていることによって,粘着剤組成物を高分子量化したときに適度な相互作用が働き,高分子鎖同士の絡み合いが大きくなり,さらに高温下においても高分子鎖の絡み合いが解けにくくなるため,高温下でもポリマーの貯蔵弾性率が低下しない。このため,比較的低いTgおよび分子量であっても,高温下の貯蔵弾性率を高く維持することができ,塗工性および低温及び高速での接着性を満足しながら,高温下での耐発泡剥がれ性も両立させることができる。
【0059】
また,本発明の粘着剤組成物を構成するアクリル系ポリマーは,構成モノマーとしてカルボキシル基含有モノマーを含まないため,酸成分に起因して起こるITOなどの金属薄膜(金属酸化物薄膜)の抵抗値上昇が起こらず,ITOフィルムを積層するような用途などに好適に用いることができる。上記抵抗値上昇のメカニズムは明らかではないが,重合の際にモノマーとして残留したカルボキシル基含有モノマーや,水分に溶け込むことができる程度の低分子量ポリマーが,高温高湿条件下で水分によりITO膜に浸入して導通を妨げるためと推定される。
・・・(中略)・・・
【0063】
上記粘着剤層の厚み(粘着剤組成物の塗工,乾燥後の厚み)としては,特に制限されず,例えば,5?1000μmが好ましく,より好ましくは10?100μmである。なお,粘着剤層は,単層,積層体のいずれの形態を有していてもよい。
・・・(中略)・・・
【0069】
本発明の粘着製品は,プラズマディスプレイパネル(PDP),タッチパネル,液晶パネルなどのディスプレイに好適に用いられる。中でも,耐腐食性能,透明性,粘着特性の観点から,タッチパネルなどの金属薄膜に直接貼り付け固定する用途に特に好ましく用いられる。」

ウ 「【実施例】
【0070】
以下に,実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが,本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0071】
アクリル系ポリマーの調製例1
(アクリル系ポリマーA)
モノマー成分としてアクリル酸2-メトキシエチル:70重量部,アクリル酸2-エチルヘキシル:29重量部,アクリル酸4-ヒドロキシブチル:1重量部,重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリル:0.2重量部,および重合溶媒として酢酸エチル:100重量部を,セパラブルフラスコに投入し,窒素ガスを導入しながら,1時間攪拌した。このようにして,重合系内の酸素を除去した後,63℃に昇温し,10時間反応させて,トルエンを加え,固形分濃度25重量%のアクリル系ポリマー溶液(「アクリル系ポリマー溶液A」と称する場合がある。)を得た。該アクリル系ポリマー溶液Aにおけるアクリル系ポリマー(「アクリル系ポリマーA」と称する場合がある)の重量平均分子量は150万であった。
【0072】
(アクリル系ポリマーB?K)
表1に示すように,モノマー成分の種類,配合量,溶媒(酢酸エチル)の配合量を変更して,アクリル系ポリマー溶液(それぞれ「アクリル系ポリマー溶液B?K」と称する場合がある。)を得た。該アクリル系ポリマー溶液B?Kにおけるアクリル系ポリマー(それぞれ「アクリル系ポリマーB?K」と称する場合がある)の重量平均分子量は表1に示したとおりである。
【0073】
実施例1
固形分換算で,アクリル系ポリマー溶液A:100重量部(アクリル系ポリマーA:100重量部)に対して,架橋剤として多官能イソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業(株),商品名「コロネートL」)0.3重量部を加え,粘着剤組成物(溶液)を調製した。
上記で得られた溶液を,表面に離型処理したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ:38μm)(剥離ライナー)の離型処理面上に,乾燥後の厚さが約25μmとなるように流延塗布し,130℃で3分間加熱乾燥し,さらに50℃で72時間エージングを行い,基材レスの粘着シートを作製した。
【0074】
実施例2?8,比較例1?5
表2に示すように,アクリル系ポリマー溶液の種類および架橋剤の配合量を変更した以外は実施例1と同様にして,粘着剤組成物および粘着シートを作製した。
【0075】
[評価]
実施例1?8および比較例1?5で得られた粘着剤組成物,粘着シートについて,塗工性,透明性,接着性(低温接着特性),耐発泡剥がれ性,耐腐食性を,下記の測定方法又は評価方法により評価した。なお,評価結果は,表2に示した。・・・(中略)・・・
【0078】
(3)耐腐食性
実施例,比較例で得られた粘着シートに,PETフィルム(東レ(株)製,商品名「ルミラー S-10 #25」,厚さ:25μm)を貼り合わせ,20mm×50mmのサイズに切り出し,試験片とした。
図1に示すように,導電性PETフィルム(日東電工(株)製,商品名「エレクリスタ P400L-TNMP)(サイズ:70mm×25mm)の両端部に15mm幅で銀ペーストを塗布し,その導電面(ITO膜形成面2側)に,剥離ライナーを剥離した上記試験片1の粘着面を貼り合わせた。これを60℃95%RHと80℃のそれぞれの環境下で250時間放置し,貼付直後との抵抗値の変化率(%)を測定した。なお,抵抗値は,日置電機(株)製「デジタルミリオームハイテスター 品番3540」を用いて,両端の銀ペースト部分3に電極をつけて測定した。
抵抗率の変化率が120%未満であれば耐腐食性良好(○),120%以上であれば耐腐食性不良(×)と判断した。
なお,ブランクとして粘着シートを貼付しない導電性PETフィルムのみで同様の試験を行った結果,80℃の条件では110%,60℃95%RHの条件では120%であった。
・・・(中略)・・・
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
表1,表2の結果から明らかなように,本発明の規定を満たす粘着剤組成物は塗工性に優れ,また該粘着剤組成物より形成された粘着剤層および粘着シートは,高温下でも「気泡」や「浮き」が生じず,耐発泡・剥がれ性に優れる。さらに,導電性フィルムに貼付して高温環境や高温高湿環境下で長期間保存しても,被着体を腐食する問題がない(実施例)。
・・・(中略)・・・さらに,モノマー成分としてアクリル酸(カルボキシル基含有モノマー)を用いた場合(比較例2)には,高温高湿環境下で長期間保存した場合に,被着体を腐食する問題が生じた。」

イ 甲6の記載から把握される技術事項
前記ア(ア)ないし(ウ)で摘記した甲6の記載から,甲6に次の技術事項が記載されていると認められる。

「重量平均分子量が40万?160万のアクリル系ポリマーであって,当該アクリル系ポリマーを構成する全モノマー成分100重量部に対して,アルコキシアルキルアクリレートを45?99.5重量部含有し,架橋可能な官能基を有するアクリル系モノマーを0.5?4.5重量部含有し,カルボキシル基含有モノマーを実質的に含まないアクリル系ポリマーと,架橋剤とを含む粘着剤組成物を用いて形成した粘着剤層は,
透明性,耐発泡・剥れ性に優れ,金属薄膜及び金属酸化物薄膜に対して腐食を生じさせないので,光学フィルムをタッチパネルに直接貼り付け固定する用途に特に適しており,
前記アクリル系ポリマーの80℃における貯蔵弾性率は,0.01MPa以上であることが好ましく,
前記粘着剤組成物を用いて形成した粘着剤層の乾燥後の厚みは,5?1000μmが好ましいこと。」(以下,「甲6記載事項」という。)

2 本件訂正発明1について
(1)本件訂正発明1と甲1円偏光板発明の対比
ア 甲1円偏光板発明の「偏光子10」,「第1の保護フィルム21」,「第1の位相差層30」,「第2の位相差層40」及び「長尺状の円偏光板100から所望の寸法に切り出された円偏光板」は,技術的にみて,本件訂正発明1の「偏光子」,「保護層」,「第1の位相差層」,「第2の位相差層」及び「光学積層体」にそれぞれ対応する。

イ 甲1円偏光板発明の「円偏光板」(本件訂正発明1の「光学積層体」に対応する。以下,本「(1)本件訂正発明1と甲1円偏光板発明の対比」欄において,「」で囲まれた甲1円偏光板発明の構成に付した()中の文言は,当該甲1円偏光板発明の構成に対応する本件訂正発明1の発明特定事項を表す。)は,「偏光子10」(偏光子)と,前記「偏光子10」の片側に配置された「第1の保護フィルム21」(保護層)と,前記偏光子10のもう片側に順に配置されたλ/2板として機能する「第1の位相差層30」(第1の位相差層)及びλ/4板として機能する「第2の位相差層40」(第2の位相差層)とを備え,各層は,任意の適切な粘着剤層又は接着剤層を用いて貼り合わされている。
しかるに,甲1円偏光板発明の「偏光子10」とその片側に粘着剤層又は接着剤層を用いて積層された「第1の保護フィルム21」とからなる層構成は,「偏光子10と該偏光子10の少なくとも一方の側に第1の保護フィルム21とを含む偏光板」であるといえる。
また,特許明細書等の【0014】の「第2の位相差層30と導電層50との接着以外は,光学積層体を構成する各層は,任意の適切な接着層(接着剤層または粘着剤層:図示せず)を介して積層されていてもよく,直接(すなわち,接着層を用いることなく)積層されていてもよい。」という記載を参酌すると,本件訂正発明1の「接着層」とは,接着剤層及び粘着剤層の双方を包含する概念であると解されるから,甲1円偏光板発明の各層を貼り合わせる「任意の適切な粘着剤層又は接着剤層」は,本件訂正発明1の「接着層」に相当する。
以上によれば,甲1円偏光板発明と本件訂正発明1は,「偏光子と該偏光子の少なくとも一方の側に保護層とを含む偏光板と,該偏光板に接着層を介して積層された第1の位相差層と,該第1の位相差層に接着層を介して積層された第2の位相差層と,」を有する「光学積層体」である点で,共通する。

ウ 甲1円偏光板発明の「第1の位相差層30」(第1の位相差層)は環状オレフィン系樹脂フィルムを斜め延伸することにより作製されたものであり,「第2の位相差層40」(第2の位相差層)は環状オレフィン系樹脂フィルムを横延伸することにより作製されたものであるから,両者はいずれも「環状オレフィン系樹脂フィルム」で構成されたものといえる。
したがって,甲1円偏光板発明は,「第1の位相差層および第2の位相差層が,環状オレフィン系樹脂フィルムで構成されている」という本件訂正発明1の発明特定事項に相当する構成を具備している。

エ 前記アないしウに照らせば,本件訂正発明1と甲1円偏光板発明は,
「偏光子と該偏光子の少なくとも一方の側に保護層とを含む偏光板と,該偏光板に接着層を介して積層された第1の位相差層と,該第1の位相差層に接着層を介して積層された第2の位相差層と,を有し,
該第1の位相差層および該第2の位相差層が,環状オレフィン系樹脂フィルムで構成されている,
光学積層体。」
である点で一致し,次の点で相違する,又は一応相違する。

相違点1-1:
本件訂正発明1は,第2の位相差層に粘着剤層を介して接着された導電層を有し,該粘着剤層を構成する粘着剤が粘着性ポリマーを含むのに対して,
甲1円偏光板発明は,そのような導電層及び粘着剤層を有していない点。

相違点1-2:
本件訂正発明1は,粘着性ポリマーを構成する全モノマー成分中の酸成分の量が4重量%未満であり,該粘着剤の85℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(4)Pa?7.0×10^(4)Paであるのに対して,
甲1円偏光板発明は,そもそも粘着剤層を有していないことから,粘着剤ポリマーにおける酸成分の量や粘着剤の貯蔵弾性率は存在しない点。

相違点1-3:
本件訂正発明1では,偏光子の吸収軸と第1の位相差層の遅相軸とのなす角度が10°?15°であり,該吸収軸と第2の位相差層の遅相軸とのなす角度が72°?78°であるのに対して,
甲1円偏光板発明は,偏光子10の吸収軸Aと第1の位相差層30の遅相軸Bとのなす角度が15°?30°であり,該吸収軸Aと第2の位相差層40の遅相軸Cとのなす角度が90°±5.0°である点。

相違点1-4:
本件訂正発明1の第2の位相差層は,温度85℃および相対湿度85%の環境下に240時間置いた際の寸法変化率が1%以下であるのに対して,
甲1円偏光板発明では,第2の位相差層40の寸法変化率は特定されていない点。

(2)判断
事案に鑑みて,まず相違点1-3について判断する。
甲1の【0002】及び【0004】の記載から,甲1円偏光板発明は,従来技術の円偏光板では,ロールトゥロールによる製造が困難であり,生産性に劣ることを,解決しようとする課題の一つとしていることが把握されるところ,甲1の【0013】の記載から,偏光子10の吸収軸Aと第2の位相差層の遅相軸とのなす角度が90°±5.0°であるという構成を採用することによって,第2の位相差層の遅相軸の方向を幅方向に限定することができ,前記課題を解決することができるものと理解される。
しかるに,甲1円偏光板発明において,偏光子10の吸収軸Aと第2の位相差層40の遅相軸Cとのなす角度を,相違点1-3に係る本件訂正発明1の発明特定事項である「72°?78°」という範囲の値に変更すると,第2の位相差層の遅相軸が幅方向に対して大きく傾いてしまい,ロールトゥロールによる製造の容易性が失われ,前述した課題を解決することができなくなってしまうから,このような構成の変更には,阻害要因が存在するといわざるを得ない。
また,取消理由1において引用された甲6,及び周知例として例示した甲3ないし甲5のいずれにも,延伸フィルムからなる第1の位相差層及び第2の位相差層を有し,偏光子の吸収軸と第1の位相差層の遅相軸とのなす角度が10°?15°であり,該吸収軸と第2の位相差層の遅相軸とのなす角度が72°?78°である円偏光板を,甲1円偏光板発明と同様の容易性で,ロールトゥロールにより製造できるようにする手段は,記載も示唆もされていないし,また,そのような手段が,本件特許出願の出願前に当業者に知られていたことを示す証拠も見当たらない。
そうすると,甲1円偏光板発明を,相違点1-3に係る本件訂正発明1の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることが,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そして,本件訂正発明1は,本件訂正後の請求項1に記載された発明特定事項を具備することによって,高温高湿下における導電層のクラック発生を抑制でき,優れた耐久性を有する光学積層体を実現できるという,特許明細書等に記載された効果を奏するものと認められる。
以上のとおりであるから,他の相違点について判断するまでもなく,本件訂正発明1は,甲1円偏光板発明,周知技術及び甲6記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,本件訂正後の請求項1に係る特許について,取消理由1は成り立たない。

3 本件訂正発明4について
本件訂正後の請求項4は,請求項1又は2の記載を択一的に引用する形式で記載されたものであるから,請求項1の記載を引用する請求項4に係る発明(以下,「第1訂正発明4」という。)と,請求項2の記載を引用する請求項4に係る発明(以下,「第2訂正発明4」という。)とに分けて,判断する。
(1)第1訂正発明4について
甲1表示装置発明と第1訂正発明4とを対比すると,両者は,相違点1-1ないし相違点1-4と同様の点で相違又は一応相違し,その余の点で一致する。
しかるに,前記2(2)で述べたのと同様の理由によって,第1訂正発明4は,甲1表示装置発明,周知技術及び甲6記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)第2訂正発明4について
ア 第2訂正発明4と甲1表示装置発明の対比
第2訂正発明4と甲1表示装置発明とを対比すると,両者は,相違点1-2と同様の点に加えて,次の点でも相違し,その余の点で一致する。

相違点1-5:
第2訂正発明4は,第2の位相差層に粘着剤層を介して接着された導電層を有し,該粘着剤層を構成する粘着剤が粘着性ポリマーとしてポリエステル系ポリマーを含むのに対して,
甲1表示装置発明は,そのような導電層及び粘着剤層を有していない点。

相違点1-6:
第2訂正発明4の第1の位相差層および該第2の位相差層が,液晶化合物の配向固化層であるのに対して,
甲1表示装置発明の第1の位相差層及び第2の位相差層は,環状オレフィン系樹脂フィルムを延伸することにより作製されたものである点。

相違点1-7:
第2訂正発明4における「偏光板」と「第1の位相差層」と「第2の位相差層」との積層体は,温度85℃および相対湿度85%の環境下に240時間置いた際の寸法変化率が1%以下であるのに対して,
甲1表示装置発明における「偏光子10及び第1の保護フィルム21」と「第1の位相差層30」と「第2の位相差層40」とを備える円偏光板の寸法変化率は特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑みて,まず相違点1-2と相違点1-5とをあわせて判断する。
甲6には,アクリル系ポリマーを粘着性ポリマーとする粘着剤に関する技術事項である甲6記載事項が記載されているものの,粘着性ポリマーとしてポリエステル系ポリマーを含む粘着剤については記載も示唆もない。
また,取消理由1で周知例として例示した甲3ないし甲5を含め,相違点1-2に係る第2訂正発明4の発明特定事項に相当する構成を具備し,粘着性ポリマーとしてポリエステル系ポリマーを含む粘着剤が,本件特許出願の出願前に当業者に知られていたことを示す証拠も見当たらない。
そうすると,甲1表示装置発明を,相違点1-2及び相違点1-5に係る第2訂正発明4の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることが,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そして,第2訂正発明4は,本件訂正後の請求項1の記載を引用する請求項4に記載された発明特定事項を具備することによって,高温高湿下における導電層のクラック発生を抑制でき,優れた耐久性を有する光学積層体を実現できるという,特許明細書等に記載された効果を奏するものと認められる。
以上のとおりであるから,他の相違点について判断するまでもなく,第2訂正発明4は,甲1表示装置発明,周知技術及び甲6記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件訂正発明4における取消理由1の成否についての結論
前記(1)及び(2)のとおりであるから,本件訂正後の請求項4に係る特許について,取消理由1は成り立たない。


第6 取消理由2(甲3を主引例とする進歩性欠如)の成否について
1 引用例
(1)甲3
ア 甲3の記載
甲3(特開2015-69156号公報)は,本件特許の出願の日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該甲3には,次の記載がある。(前記第5 1(2)アで摘記した記載についても,再度摘記した。なお,下線は,後述する「甲3光学フィルム発明」及び「甲3画像表示装置発明」の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,円偏光板による反射防止フィルムとタッチパネル用センサーフィルムとの積層体による光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来,画像表示装置に関して,画像表示パネルのパネル面(視聴者側面)に円偏光板による光学フィルムを配置し,この光学フィルムにより外来光の反射を低減する方法が提案されている。ここでこの光学フィルムは,直線偏光板,1/4波長板の積層により構成され,画像表示パネルのパネル面に向かう外来光を直線偏光板により直線偏光に変換し,続く1/4波長板により円偏光に変換する。・・・(中略)・・・
【0004】
またこの種の画像表示装置では,画像表示パネルのパネル面にタッチパネル用センサーフィルムを配置する構成も採用されている。このタッチパネル用センサーフィルムは,ITO(Indium Tin Oxide)による透明電極材により電極を構成することにより,画像表示パネルのパネル面に配置して視認性の劣化を有効に回避できるように作製されている。・・・(中略)・・・
【0005】
ところでこの種の画像表示装置である有機ELパネルは,近年,可撓性を有するシート形状によるものが提供されつつある。このような可撓性を有するシート形状による画像表示装置では,例えば全体を外向きに折り曲げたり,これと逆向きに折り曲げたりした状態で,画像を表示することができ,従来に比して一段とこの種の画像表示装置の適用分野を拡大し得ると考えられる。
・・・(中略)・・・
【0007】
またユーザーインターフェースを向上させる観点から,このような可撓性を有する有機ELパネルに適用する光学フィルムにあっては,タッチパネル用センサーフィルムを一体に設けることが望まれ,この場合に,画像表示パネルの可撓性を損なわないようにすることが求められる。
・・・(中略)・・・
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり,円偏光板とタッチパネル用センサーフィルムとを一体化して光学フィルムを構成する場合に,十分な可撓性を確保することができるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は,上記課題を解決するために鋭意研究を重ね,転写法を有効に利用して円偏光板とタッチパネル用センサーフィルムとの積層体を構成するとの着想に至り,本発明を完成するに至った。
【0011】
(1) 円偏光板とタッチパネル用センサーフィルムとを積層した光学フィルムにおいて,
前記円偏光板は,
直線偏光板と1/4波長板とが積層され,
前記1/4波長板は,
少なくとも透過光に1/2波長分の位相差を付与する1/2波長位相差層と,透過光に1/4波長分の位相差を付与する1/4波長位相差層とを備え,
転写法により前記直線偏光板又は前記タッチパネル用センサーフィルムに貼り付けられた。
【0012】
(1)によれば,転写法の採用により,1/4波長板の作製に供した基材を支持体基材として排除することができ,これにより全体の厚みを薄くして可撓性を確保することができる。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば,円偏光板とタッチパネル用センサーフィルムとを一体化して光学フィルムを構成する場合に,十分な可撓性を確保することができる。」

(イ) 「【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態に係る画像表示装置を示す断面図である。
【図2】図1の画像表示装置に適用される光学フィルムを示す断面図である。
・・・(中略)・・・
【図6】図2の光学フィルムの製造工程の説明に供する図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る転写フィルムを示す図である。
【図8】図7の転写フィルムの説明に供する図である。」

(ウ) 「【0033】
〔第1実施形態〕
〔光学フィルム及び画像表示装置〕
図1は,本発明の第1実施形態に係る画像表示装置を示す図であり,図2は,この画像表示装置に係る光学フィルム3を示す図である。この画像表示装置1は,画像表示パネル2のパネル面(視聴者側面)に,光学フィルム3が配置される。ここで画像表示パネル2は,可撓性を有するシート状の有機ELパネルであり,所望のカラー画像を表示する。・・・(中略)・・・光学フィルム3は,セパレータフィルムを剥離して粘着剤である感圧接着剤による接着層4を露出させた後,この接着層4により,画像表示パネル2のパネル面に貼り付けられて保持される。なお感圧接着剤に代えて紫外線硬化性樹脂,熱硬化性樹脂剤等,各種の接着剤,粘着剤を広く適用することができ,全体の厚みを薄くする観点から,紫外線硬化性樹脂を適用することが好ましく,この場合は厚み1μm程度により作製することができる。
【0034】
光学フィルム3は,円偏光板6とタッチパネル用センサーフィルム7とを接着層11により貼り合せた積層体により構成され,タッチパネル用センサーフィルム7が画像表示パネル2側となるように配置される。ここでタッチパネル用センサーフィルム7は,X方向及びY方向に係る電極8X及び8Yを一定の間隔だけ離間して対向するように保持して構成され,この実施形態では,この電極8X及び8Yが,銅等の金属電極材により構成される。これによりこの実施形態では,タッチパネル用センサーフィルム7の可撓性を十分に確保して,光学フィルム3の可撓性,さらには画像表示装置1の可撓性を確保する。
【0035】
タッチパネル用センサーフィルム7は,透明フィルムによる基材9X及び9Yにそれぞれ電極8X及び8Yを作製し,この基材9X及び9Yを接着層10により積層して構成される。ここで基材9X及び9Yは,PETフィルム,TAC(トリアセチルセルロース)等の透明フィルムを適用することができるものの,円偏光板6による反射防止機能を十分に発揮させる観点から,光学異方性の小さな材料を適用することが好ましい。
【0036】
電極8X及び8Yは,銀,銅,金,アルミニウム等が好適に用いられる。電極8X及び8Yは,単体の金属や合金であってもよく,金属粒子が結着材により結着されたものでもよい。なお電極8X及び8Yは,必要に応じて,金属表面に防錆処理が施される。
【0037】
・・・(中略)・・・接着層10,11は,紫外線硬化性樹脂,熱硬化性樹脂剤等,各種の接着剤,粘着剤を広く適用することができるものの,全体の厚みを薄くする観点から,紫外線硬化性樹脂を適用することが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0039】
円偏光板6は,直線偏光板15と1/4波長板17とを接着層18により貼り合せて構成される。ここで直線偏光板15は,TAC(トリアセチルセルロース)等の透明フィルムからなる基材の下面側が鹸化処理された後,直線偏光板として機能を担う光学機能層が配置される。・・・(中略)・・・
【0040】
1/4波長板17は,透過光に1/2波長分の位相差を付与する1/2波長位相差層20,透過光に1/4波長分の位相差を付与する1/4波長位相差層21が,直線偏光板15側から順次設けられる。ここで図4に示すように,矢印により示す直線偏光板15の吸収軸に対して,1/2波長位相差層20及び1/4波長位相差層21の遅相軸(それぞれ矢印により示す)が,それぞれ反時計回りに15度,73度の角度を成すように配置される。これにより円偏光板6では,直線偏光板15の透過光に対して1/4波長板17が逆分散特性により機能するように構成され,広い波長帯域で十分に外来光の反射を防止できるように構成される。なおこの15度,73度の角度は,最も好適な角度ではあるものの,実用上十分な反射防止機能を確保することができる場合,それぞれ13度以上17度以下,71度以上77度以下の角度としても良く,さらに反射防止機能を許容できる場合には,10度以上20度以下,70度以上80度以下の角度としてもよい。
【0041】
さらに1/4波長板17は,+Cプレート22が設けられ,これにより斜め方向の光学特性を正面方向の光学特性に近づけ,一段と光学特性が向上される。・・・(中略)・・・
【0042】
より具体的に,1/4波長板17は,直線偏光板15側から,1/2波長位相差層20,この1/2波長位相差層20の作製に供する配向膜23,1/4波長位相差層21,この1/4波長位相差層21の作製に供する配向膜24,+Cプレート22,このCプレートの作製に供する配向膜25が順次設けられる。
【0043】
ここで1/2波長位相差層20及び1/4波長位相差層21は,それぞれ対応する配向膜23,24の配向規制力により屈折率異方性を保持した状態で固化(硬化)された液晶材料により形成される。より具体的に,1/2波長位相差層20及び1/4波長位相差層21は,重合性液晶モノマーを配向膜23,24上に積層した後,相転移点まで昇温し,その後,紫外線照射より重合性液晶モノマーを重合させて液晶の配向状態を固定することにより作製される。1/2波長位相差層20及び1/4波長位相差層21は,この種の光学フィルムに適用可能な各種の液晶材料を広く適用することができるものの,この実施形態では,同一の材料が適用される。・・・(中略)・・・
【0045】
配向膜23,24は,表面に微細なライン状凹凸形状を作製して形成され,この微細なライン状凹凸形状による配向規制力により対応する1/2波長位相差層20及び1/4波長位相差層21に係る液晶材料を配向させる。
・・・(中略)・・・
【0053】
図6は,この転写フィルム31による光学フィルム3の製造工程を示す図である。光学フィルム3は,接着層18により転写フィルム31が直線偏光板15に貼り付けられた後(図6(A)),支持体の基材32が剥離され,これにより円偏光板6が作製される(図6(B))。また別工程において,タッチパネル用センサーフィルム7が作製され,接着層11によりタッチパネル用センサーフィルム7と円偏光板6とが一体化され,接着層4,セパレータフィルムが設けられる(図6(C))。その後,セパレータフィルムが剥離されて画像表示パネル2のパネル面に配置される(図1参照)。
・・・(中略)・・・
【0059】
〔第2実施形態〕
図7は,図5との対比により本発明の第2実施形態に係る転写フィルムを示す図である。この実施形態は,この転写フィルム41に関する構成が異なる点を除いて,第1実施形態と同一に構成される。
【0060】
ここで転写フィルム41は,支持体基材32の上に,配向膜25,+Cプレート22,配向膜24,1/4波長位相差層21が順次設けられ,この1/4波長位相差層21の上に,接着層42を介して,1/2波長位相差層20,配向膜23が順次設けられる。これによりこの実施形態に係る画像表示装置,光学フィルムは,この転写フィルム41に係る層構成により1/4波長板が作製される。
【0061】
図8に示すように,この転写フィルム41は,支持体基材32の上に,配向膜25,+Cプレート22,配向膜24,1/4波長位相差層21が順次設けられる(図8(A))。また同様の支持体基材43の上に,配向膜23,1/2波長位相差層20が作製される(図8(B))。転写フィルム41は,接着層42が,1/4波長位相差層21又は1/2波長位相差層20に設けられ,この接着層42により1/4波長位相差層21及び1/2波長位相差層20が貼り合わされて積層され(図8(C)),1/2波長位相差層20側の支持体基材43が剥離により除去されて作製される。
・・・(中略)・・・
【0085】
また上述の実施形態では,位相差層,+Cプレートと共に対応する配向膜を配置する場合について述べたが,本発明はこれに限らず,配向膜を基材と共に除去するようにして,配向膜の全て又は一部を1/4波長板に含めないようにしてもよい。
・・・(中略)・・・
【0087】
また上述の実施形態では,1/4波長板に+Cプレートを設ける場合について述べたが,本発明はこれに限らず,実用上十分な視野角特性を確保できる場合には+Cプレートを省略してもよい。」

(エ) 「【図1】

【図2】

・・・(中略)・・・
【図6】

【図7】

【図8】



イ 甲3の記載から把握される発明
前記ア(ア)ないし(エ)で摘記した甲3の記載(特に【0085】及び【0087】を参照。)から,第2実施形態において,+Cプレートを省略するとともに,配向膜を基材とともに除去することで,配向膜の全てを1/4波長板に含めないようにした光学フィルム3に関する発明,及び当該光学フィルム3が,可撓性を有するシート状の有機ELパネルである画像表示パネル2のパネル面に,粘着剤である感圧接着剤による接着層4により貼り付けられて保持された画像表示装置1に関する発明を把握することができる。
しかるに,+Cプレート22を省略する際には,当然,Cプレート22を形成する液晶材料を配向させるための配向膜25も省略することになる。また,図1や図2から,第1実施形態において,基材9X及び9Yは電極8X及び8Yが外側となるように積層されたものであること,及び電極8Xが円偏光板6側に位置することが看取され,【0059】の記載から,第2実施形態も第1実施例と同様の構成を有していることが明らかである。
したがって,前記光学フィルム3に関する発明,及び前記画像表示装置1に関する発明は,次のとおりのものと認められる。

「円偏光板6とタッチパネル用センサーフィルム7とを接着層11により貼り合せた積層体により構成された光学フィルム3であって,
前記タッチパネル用センサーフィルム7は,透明フィルムによる基材9X及び9YにそれぞれX方向及びY方向に係る電極8X及び8Yを作製し,この基材9X及び9Yを前記電極8X及び8Yが外側となるように接着層10により積層して構成されたものであり,前記電極8Xが前記円偏光板6側に位置し,
前記電極8X及び8Yは金属電極材により構成され,
前記円偏光板6は,直線偏光板15と1/4波長板17とを接着層18により貼り合わせて構成され,
前記直線偏光板15は,透明フィルムからなる基材の下面側に直線偏光板として機能を担う光学機能層が配置されたものであり,
前記1/4波長板17は,透過光に1/2波長分の位相差を付与する1/2波長位相差層20,透過光に1/4波長分の位相差を付与する1/4波長位相差層21が,前記直線偏光板15側から順次設けられ,前記直線偏光板15の吸収軸に対して,前記1/2波長位相差層20及び前記1/4波長位相差層21の遅相軸が,それぞれ反時計回りに15度,73度の角度を成すように配置されたものであり,
前記1/2波長位相差層20及び前記1/4波長位相差層21は,それぞれ紫外線照射より重合性液晶モノマーを重合させて液晶の配向状態を固定されたものであり,
次の[積層方法]によって作製された,
光学フィルム3。

[積層方法]
支持体基材32の上に,配向膜24,1/4波長位相差層21を順次設け,また同様の支持体基材43の上に,配向膜23,1/2波長位相差層20を順次設け,接着層42により1/4波長位相差層21及び1/2波長位相差層20を貼り合わせて積層し,支持体基材43及び配向膜23を剥離により除去されることで,転写フィルム41を作製し,
接着層18により転写フィルム41を直線偏光板15に貼り合わせ,その後支持体基材32及び配向膜24を剥離することで,円偏光板6を作製し,
別工程において,タッチパネル用センサーフィルム7を作製し,接着層11によりタッチパネル用センサーフィルム7と円偏光板6とを一体化する。」(以下,「甲3光学フィルム発明」という。)

「可撓性を有するシート状の有機ELパネルである画像表示パネル2のパネル面に,甲3光学フィルム発明の光学フィルム3が,粘着剤である感圧接着剤による接着層4により貼り付けられて保持された画像表示装置1。」(以下,「甲3画像表示装置発明」という。)

(2)甲6
甲6(特開2009-79203号公報)の記載及び甲6記載事項については,前記第5 1(3)ア及びイに示したとおりである。

(3)甲12
ア 甲12の記載
甲12(国際公開第2010/092926号)は,本件特許の出願の日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該甲12には,次の記載がある。(下線は,後述する「甲12記載事項」の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「技術分野
[0001] 本発明は,積層光学体,光学フィルム,および該光学フィルムを用いた液晶表示装置,ならびに積層光学体の製造方法に関する。
背景技術
[0002] 液晶表示装置は,その表示メカニズムに起因して,偏光板を必須の構成要素として含む。・・・(中略)・・・
[0003] ところで,液晶表示装置において液晶セルの位相差を光学的に補償するためには,多くの場合,所定の位相差フィルムを,その遅相軸が偏光板(実際には,偏光板に含まれる偏光子)の吸収軸と直交するようにして設ける必要がある。そこで,偏光板と位相差フィルムとを含む積層体(いわゆる位相差板一体型偏光板)が用いられることも多い。
[0004]・・・(中略)・・・従来の偏光板は,高温・高湿環境下における寸法変化が大きいという問題がある。その結果,位相差板一体型偏光板においても,高温・高湿環境下では偏光板の寸法変化によって位相差フィルムが歪んでしまい,位相差ムラが生じるという問題がある。
・・・(中略)・・・
発明が解決しようとする課題
[0008] 本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり,その目的とするところは,製造効率に優れ,位相差フィルムの遅相軸の軸ズレおよび位相差ムラがきわめて小さく,かつ,高温・高湿環境下における寸法変化がきわめて小さい積層光学体を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0009] 本発明の積層光学体は,短手方向に吸収軸を有し,基材層と二色性物質が吸着された親水性高分子層とを含む長尺状の偏光フィルムと;長手方向に遅相軸を有する,長尺状の位相差フィルムと;を備える。この積層光学体は,長尺状である。
好ましい実施形態においては,上記親水性高分子層の厚みは1μm?10μmである。
・・・(中略)・・・
発明の効果
[0010]・・・(中略)・・・さらに,上記のような非常に薄い偏光フィルムは寸法変化率(特に,高温・高湿環境下)がきわめて小さいので,積層光学体において偏光フィルムの寸法変化に起因する位相差フィルムの歪みもきわめて小さくなる。その結果,積層光学体の位相差ムラがきわめて小さくなる。」

(イ) 「発明を実施するための最良の形態
[0012] 以下,本発明の好ましい実施形態について説明するが,本発明はこれらの実施形態には限定されない。
A.積層光学体の全体構成
図1は,本発明の好ましい実施形態による積層光学体の概略断面図である。積層光学体10は,偏光フィルム11と位相差フィルム12とが積層されてなる。偏光フィルム11は,基材層11aと親水性高分子層11b(本明細書においては偏光薄膜と称する場合もある)との積層体である。親水性高分子層12には二色性物質が吸着されている。積層光学体10は長尺状とされている。本明細書において「長尺状」とは,幅(短手方向)に対して長さ(長手方向)が10倍以上であるものをいう。好ましくは,本発明の積層光学体はロール状とされている。
[0013] 偏光フィルム11(実質的には,親水性高分子層11b)は,短手方向に吸収軸を有する。位相差フィルム12は,長手方向に遅相軸を有する。したがって,偏光フィルムの吸収軸と位相差フィルムの遅相軸とは,実質的に直交している。このように短手方向に吸収軸を有する長尺状の偏光フィルムを用いることにより,長手方向に遅相軸を有する位相差フィルムと,いわゆるロール・トゥ・ロールによる貼り合わせが可能となる。・・・(中略)・・・
[0014] 基材層11aは,親水性高分子層11bの保護フィルムとして機能し得る。親水性高分子層11bと位相差フィルム12とは,任意の適切な接着剤層または粘着剤層(図示せず)を介して貼り合わせられている。・・・(中略)・・・
[0015] 位相差フィルム12としては,長手方向に遅相軸を有し本発明の効果が得られる限りにおいて,任意の適切な位相差フィルムが採用され得る。・・・(中略)・・・
[0018] 上記積層光学体10の寸法変化率は,80℃の恒温環境試験室に500時間保管した条件下において,好ましくは0.2%以下であり,さらに好ましくは0.1%以下である。また,60℃,90%RHの恒温・恒湿試験室に500時間保管した条件下において,好ましくは0.12%以下であり,さらに好ましくは0.08%以下である。
[0019]A-1.偏光フィルム
上記のように,偏光フィルム11は,基材層11aと親水性高分子層11bとの積層体である。代表的には,基材層11aと親水性高分子層11bとは,接着剤層も粘着剤層も介することなく,密着積層されている。偏光フィルムの厚みは,親水性高分子層11bが非常に薄いので基材層11aの厚みが支配的であり,好ましくは10μm?90μm,さらに好ましくは21μm?90μm,特に好ましくは21μm?80μmである。
[0020] 偏光フィルム11の寸法変化率は,80℃の恒温環境試験室に500時間保管した条件下において,好ましくは2%以下であり,さらに好ましくは0.5%以下である。通常,偏光板の寸法変化率は,最も伸縮しやすい偏光子の寸法変化が支配的となる。本発明に用いられる偏光フィルムによれば,親水性高分子層(A-1-2項で詳述)が通常の偏光子に比べて格段に薄いので親水性高分子層の寸法変化が非常に小さく,結果として,偏光フィルム全体の寸法変化率が非常に小さくなる。さらに,A-1-2項に記載する偏光フィルムの製造方法が複合的に作用して,寸法変化率が小さくなると推察される。
[0021]A-1-1.基材層
基材層11aとしては,本発明の効果が得られる限りにおいて,任意の適切な高分子フィルムが採用され得る。基材層は,好ましくは延伸性に優れた高分子フィルムで構成され,さらに好ましくは5倍以上の延伸倍率で延伸可能な高分子フィルムで構成される。このようなフィルムであれば,親水性高分子層を形成するための組成物を密着させた状態で良好に延伸することができる。また,基材層は,好ましくは優れた平滑性を有するフィルムで構成される。このようなフィルムであれば,親水性高分子層を形成するための組成物を均一に塗布することができる。・・・(中略)・・・
[0028] 上記基材層は,延伸前の厚みが好ましくは50μm?200μmであり,さらに好ましくは100μm?200μmである。延伸後の厚み(すなわち,偏光フィルムにおける基材層の厚み)は,好ましくは20μm?80μmであり,さらに好ましくは30μm?60μmである。
[0029]A-1-2.親水性高分子層
親水性高分子層11bは,偏光子として機能し得る。親水性高分子層11bは,基材(結果的に基材層となる)にビニルアルコール系樹脂を含む組成物(以下,ビニルアルコール組成物とも称する)を塗布して薄膜を形成し,当該薄膜を基材と一緒に延伸し,当該延伸された薄膜を染色することにより得られる(実質的には,基材層/親水性高分子層が一体化した偏光フィルムが得られる)。
・・・(中略)・・・
[0034]・・・(中略)・・・本発明によれば,ビニルアルコール組成物を塗布することのみによって,接着剤層も粘着剤層も介することなく,基材と薄膜とを密着積層することができる。その結果,得られる偏光フィルムの寸法変化率を小さくすることができる。塗布の際には,ビニルアルコール組成物を下塗りしておいてもよい。
[0035] 上記塗布されたビニルアルコール組成物を乾燥させることにより,薄膜が形成される。乾燥は,自然乾燥でもよく,加熱乾燥でもよく,これらの組み合わせでもよい。乾燥後かつ延伸前の薄膜の厚みは,好ましくは2μm?50μmである。
[0036] 次に,上記基材/薄膜を一緒に延伸する。基材/薄膜を一緒に延伸することにより,得られる偏光フィルムの内部応力が低減され,寸法変化率の小さい偏光フィルムが得られる。上記基材/薄膜を延伸する方法としては,任意の適切な延伸方法が採用され得る。・・・(中略)・・・
[0037] 上記の延伸された基材/薄膜は,染色処理,ならびに,必要に応じて膨潤処理,架橋処理,水洗処理,および乾燥処理(水分率の調節処理)に供され,基材層/親水性高分子層の構成を有する偏光フィルムが得られる。延伸後に染色を行うことにより,得られる偏光フィルムの内部応力が低減され,寸法変化率の小さい偏光フィルムが得られる。・・・(中略)・・・1つの実施形態においては,上記の延伸された基材/薄膜は,高温(例えば,130℃?180℃)で乾式延伸した後,湿式染色される。このような手順を採用することにより,得られる偏光フィルムの内部応力をさらに低減することができ,寸法変化率がきわめて小さい偏光フィルムを得ることができる。膨潤処理,架橋処理,水洗処理,および乾燥処理については,当業界で通常に行われている条件が採用されるので,これらの詳細な説明は省略する。
[0038] 得られた親水性高分子層の厚みは,好ましくは1μm?10μmであり,さらに好ましくは1μm?6μmであり,特に好ましくは1μm?4μmである。本発明に用いられる親水性高分子層は,通常の偏光子(ビニルアルコール系フィルムを延伸・染色して得られる偏光子:代表的な厚み10μm?25μm程度)に比べて格段に薄いので,親水性高分子層自体の寸法変化が非常に小さい。さらに,上記で説明したように,本発明に用いられる偏光フィルムの製造方法によれば,(1)基材と薄膜とを直接に密着積層すること,(2)基材と薄膜とを一緒に延伸すること,および(3)延伸後に染色することが,それぞれ,得られる偏光フィルムの寸法変化率の低減に寄与していると推察される。親水性高分子層自体の寸法変化が非常に小さいことと製造方法に起因する寸法変化率の低減とが複合的に作用することにより,偏光フィルム全体の寸法変化率がきわめて小さくなると推察される。
・・・(中略)・・・
[0042]A-2.位相差フィルム
上記のように,位相差フィルム12は,長手方向に遅相軸を有する。位相差フィルム12としては,長手方向に遅相軸を有し,かつ,上記偏光フィルム11と積層可能である限り,目的に応じて任意の適切な位相差フィルムが採用され得る。」

(ウ) 「実施例
[0114] 以下,実施例によって本発明を具体的に説明するが,本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお,実施例における測定方法は以下の通りである。また,実施例において傾斜角度以外の角度を表す場合には,フィルムの長手方向を0°とし,長手方向から反時計回りの方向を正とする。
[0115](1)寸法変化率
実施例および比較例で得られた積層光学体を10cm×10cmに切り出し,試験片とした。当該試験片の所定の位置に所定の間隔でマーキングした。マーキングした試験片をオーブン(ESPEC社製,製品名PH-201)に入れ,80℃で500時間放置した後取り出した。取り出した試験片のマーキングの間隔を測定し,以下の式から寸法変化率を求めた:
寸法変化率(%)={(D_( A )-D_( B) )/D_( A )}×100
D_( A ):オーブンに入れる前のマーキング距離
D_( B ):オーブンに入れた後のマーキング距離
また,上記と同様にマーキングした試験片を恒温・恒湿オーブン(ESPEC社製,製品名PL-2KT)に入れ,60℃,90%RHの条件で500時間放置した後取り出した。取り出した試験片のマーキングの間隔を測定し,上記と同様の式を用いて寸法変化率を求めた。
・・・(中略)・・・
[0124][参考例1]
[偏光フィルムの作製]
ポリビニルアルコール樹脂(日本合成化学社製,製品名「ゴーセノールNH-18」,ケン化度98?99%)を熱水溶解した後冷却し,7重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。一方,基材としてノルボルネン系樹脂フィルム(JSR(株)製,製品名「アートン」,厚み100μm)を用意した。上記水溶液を,基材表面に塗布し,100℃で10分間乾燥して,基材上に厚み7μmのポリビニルアルコール薄膜を形成した。このようにして得られた基材/薄膜の積層体を,延伸温度140℃,延伸倍率4.5倍で短手方向に延伸した。延伸された積層体の全体厚みは60μm,ポリビニルアルコール薄膜の厚みは3μmであった。このようにして延伸された積層体を,30℃のヨウ素水溶液(ヨウ素:ヨウ化カリウム:水=1:10:200(重量比))に30秒間浸漬した後,55℃のホウ酸水溶液(5重量%)に60秒間浸漬し,さらに30℃のヨウ化カリウム水溶液(5重量%)に10秒間浸漬して,ポリビニルアルコール薄膜を染色および架橋した。これを80℃で4分間乾燥し,基材層/親水性高分子層の構成を有するロール状の偏光フィルムを得た。得られた偏光フィルムの透過率は41.5%,偏光度は99%であった。また,得られた偏光フィルムは,短手方向(TD)に吸収軸を有していた。
・・・(中略)・・・
[0127][参考例4]
[位相差フィルムの作製]
ノルボルネン系樹脂フィルム(JSR社製,商品名「アートン」,厚み100μm,幅1.2m,長さ500m)のロール状巻回体からフィルムを順次繰り出しながら,ロール式縦一軸延伸法により,150℃で長さ方向に1.3倍に延伸した後,幅1mに裁断し,長尺状の位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムは,長手方向(MD)に遅相軸を有していた。得られた位相差フィルムの厚みは70μm,面内位相差Re[590]は55nm,幅方向のRe[590]のバラツキは5nm,遅相軸の軸精度は0.5°であった。得られた位相差フィルムの屈折率楕円体はnx>ny=nzの関係を有していた。
・・・(中略)・・・
[0140][実施例1]
[積層光学体の作製]
参考例1で得られた偏光フィルムと参考例4で得られた位相差フィルムとを,アクリル系粘着剤(厚み:20μm)を介して,図3に示すようにしてロール・トゥ・ロールで貼り合わせ,ロール状の積層光学体を得た。用いた位相差フィルムの軸精度,得られた積層光学体の総厚みおよび寸法変化率を,後述の液晶表示装置の輝度ムラと併せて下記表1に示す。
・・・(中略)・・・
[0142][表1]



イ 甲12の記載から把握される技術事項
前記ア(ア)ないし(ウ)で摘記した甲12の記載から,甲12に次の技術事項が記載されていると認められる。

「従来の偏光板は高温・高湿環境下における寸法変化が大きいため,偏光板と位相差フィルムとを含む積層体である位相差板一体型偏光板は,高温・高湿環境下では偏光板の寸法変化によって位相差フィルムが歪んでしまい,位相差ムラが生じるという問題があるが,
高分子フィルムで構成された基材層11aに,ビニルアルコール組成物を塗布し,これを乾燥させることによって親水性高分子層11bを形成し,前記基材層11aと前記親水性高分子層11bとを一緒に延伸し,これに染色処理を行うという方法によって作製され,保護フィルムとして機能する基材層11aと偏光子として機能する親水性高分子層11bの積層体である偏光フィルム11では,最も伸縮しやすい親水性高分子層11bの厚みを,通常の偏光子に比べて格段に薄い1μm?10μmにすることができ,その結果,親水性高分子層11bの寸法変化を非常に小さくできるので,
位相差フィルムと積層する偏光板として当該偏光フィルム11を用いた位相差板一体型偏光板では,その寸法変化率を,80℃の恒温環境試験室に500時間保管した条件下において0.2%以下とし,60℃,90%RHの恒温・恒湿試験室に500時間保管した条件下において0.12%以下とすることができ,前記問題を解決することができること。」(以下,「甲12記載事項」という。)

2 本件訂正発明2について
(1)本件訂正発明2と甲3光学フィルム発明の対比
ア 甲3光学フィルム発明の「直線偏光板として機能を担う光学機能層」,「透明フィルムからなる基材」,「直線偏光板15」,「1/2波長位相差層20」,「1/4波長位相差層21」,「接着層11」,「電極8X」,「重合性液晶モノマー」及び「光学フィルム3」は,技術的にみて,本件訂正発明1の「偏光子」,「保護層」,「偏光板」,「第1の位相差層」,「第2の位相差層」,「粘着剤層」,「導電層」,「液晶化合物」及び「光学積層体」にそれぞれ対応する。

イ 甲3光学フィルム発明の「光学フィルム3」(本件訂正発明2の「光学積層体」に対応する。以下,本「(1)本件訂正発明2と甲3光学フィルム発明の対比」欄において,「」で囲まれた甲3光学フィルム発明の構成に付した()中の文言は,当該甲3光学フィルム発明の構成に対応する本件訂正発明2の発明特定事項を表す。)の層構成は,直線偏光板15側から順に,「直線偏光板15」(偏光板),接着層18,「1/2波長位相差層20」(第1の位相差層),接着層42,「1/4波長位相差層21」(第2の位相差層),「接着層11」(粘着剤層),「電極8X」(導電層),基材9X,接着層10,基材9Y,電極8Yである。
ここで,甲3光学フィルム発明の「直線偏光板15」(偏光板)は,「透明フィルムからなる基材」(保護層)の下面側に「直線偏光板として機能を担う光学機能層」(偏光子)が配置されたものであるから,「直線偏光板として機能を担う光学機能層」(偏光子)と該「光学機能層」(偏光子)の少なくとも一方の側に「透明フィルムからなる基材」(保護層)とを含む「直線偏光板15」(偏光板)であるといえる。
また,甲3光学フィルム発明において,「直線偏光板15」(偏光板)と「1/2波長位相差層20」(第1の位相差層)は,接着層18により貼り合わせて積層され,「1/2波長位相差層20」(第1の位相差層)と「1/4波長位相差層21」(第2の位相差層)は,接着層42により貼り合わせて積層されているから,「1/2波長位相差層20」(第1の位相差層)は「直線偏光板15」(偏光板)に「接着層を介して積層された」ものであり,「1/4波長位相差層21」(第2の位相差層)は「1/2波長位相差層20」(第1の位相差層)に「接着層を介して積層された」ものといえる。
さらに,甲3光学フィルム発明の「接着層11」(粘着剤層)は,「1/4波長位相差層21」(第2の位相差層)と「電極8X」(導電層)とを接着する接着層(本件訂正発明2と同様に,接着剤層及び粘着剤層の双方を包含する概念を指す文言として用いる。)である点で,本件訂正発明2の「粘着剤層」と共通する。
以上によれば,甲3光学フィルム発明は,「偏光子と該偏光子の少なくとも一方の側に保護層とを含む偏光板と,該偏光板に接着層を介して積層された第1の位相差層と,該第1の位相差層に接着層を介して積層された第2の位相差層と,該第2の位相差層に接着層を介して接着された導電層と,を有」する「光学積層体」である点で,本件訂正発明2と共通する。

ウ 甲3光学フィルム発明では,直線偏光板15の吸収軸(すなわち「直線偏光板として機能を担う光学機能層」(偏光子)の吸収軸である。)に対して,「1/2波長位相差層20」(第1の位相差層)及び「1/4波長位相差層21」(第2の位相差層)の遅相軸が,それぞれ反時計回りに15度,73度の角度を成すように配置されているから,本件訂正発明2の「偏光子の吸収軸と第1の位相差層の遅相軸とのなす角度が10°?20°であり,該吸収軸と第2の位相差層の遅相軸とのなす角度が65°?85°であ」るという発明特定事項に相当する構成を具備している。

エ 甲3光学フィルム発明の「1/2波長位相差層20」(第1の位相差層)及び「1/4波長位相差層21」(第2の位相差層)は,それぞれ紫外線照射より「重合性液晶モノマー」(液晶化合物)を重合させて液晶の配向状態を固定されたものであるから,本件訂正発明2の「第1の位相差層」及び「第2の位相差層」に係る「液晶化合物の配向固化層であ」るという発明特定事項に相当する構成を具備している。

オ 前記アないしエに照らせば,本件訂正発明2と甲3光学フィルム発明は,
「偏光子と該偏光子の少なくとも一方の側に保護層とを含む偏光板と,該偏光板に接着層を介して積層された第1の位相差層と,該第1の位相差層に接着層を介して積層された第2の位相差層と,該第2の位相差層に接着層を介して接着された導電層と,を有し,
該第1の位相差層および該第2の位相差層が,液晶化合物の配向固化層である,
光学積層体。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点2-1:
本件訂正発明2では,「第2の位相差層」と「導電層」を接着するのが「粘着剤層」であり,該「粘着剤層」を構成する粘着剤が粘着性ポリマーとしてポリエステル系ポリマーを含むのに対して,
甲3光学フィルム発明では,「1/4波長位相差層21」と「電極8X」を接着する「接着層11」が,粘着性ポリマーとしてポリエステル系ポリマーを含む粘着剤により構成された粘着剤層であることは特定されていない点。

相違点2-2:
本件訂正発明2では,粘着性ポリマーを構成する全モノマー成分中の酸成分の量が4重量%未満であり,該粘着剤の85℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(4)Pa?7.0×10^(4)Paであるのに対して,
甲3光学フィルム発明では,そもそも「接着層11」が粘着剤層であることは特定されておらず,当該粘着剤層を構成する粘着剤が含む粘着剤ポリマーにおける酸成分の量や,当該粘着剤の貯蔵弾性率は特定されていない点。

相違点2-3:
本件訂正発明2における「偏光板」と「第1の位相差層」と「第2の位相差層」との積層体は,温度85℃および相対湿度85%の環境下に240時間置いた際の寸法変化率が1%以下であるのに対して,
甲3光学フィルム発明における「直線偏光板15」と「1/2波長位相差層20」と「1/4波長位相差層21」との積層体である「円偏光板6」の寸法変化率は定かでない点。

(2)判断
事案に鑑みて,まず相違点2-1と相違点2-2とをあわせて判断する。
甲6には,アクリル系ポリマーを粘着性ポリマーとする粘着剤に関する技術事項である甲6記載事項が記載されているものの,粘着性ポリマーとしてポリエステル系ポリマーを含む粘着剤については記載も示唆もないこと,また,相違点2-2に係る本件訂正発明2の発明特定事項に相当する構成を具備し,粘着性ポリマーとしてポリエステル系ポリマーを含む粘着剤が,本件特許出願の出願前に当業者に知られていたことを示す証拠も見当たらないことは,前記第5 3(2)イで述べたのと同様であるから,甲3光学フィルム発明を,相違点2-1及び相違点2-2に係る本件訂正発明2の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることが,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そして,本件訂正発明2は,本件訂正後の請求項2に記載された発明特定事項を具備することによって,高温高湿下における導電層のクラック発生を抑制でき,優れた耐久性を有する光学積層体を実現できるという,特許明細書等に記載された効果を奏するものと認められる。
以上のとおりであるから,他の相違点について判断するまでもなく,本件訂正発明2は,甲3光学フィルム発明,甲6記載事項及び甲12記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本件訂正発明4について
(1)第1訂正発明4について
ア 第1訂正発明4と甲3画像表示装置発明の対比
第1訂正発明4と甲3画像表示装置発明とを対比すると,両者は,相違点2-2及び相違点2-3と同様の点に加えて,次の点でも相違し,その余の点で一致する。

相違点2-4:
第1訂正発明4では,「第2の位相差層」と「導電層」を接着するのが「粘着剤層」であり,該「粘着剤層」を構成する粘着剤が粘着性ポリマーを含むのに対して,
甲3画像表示装置発明では,「1/4波長位相差層21」と「電極8X」を接着する「接着層11」が,粘着性ポリマーを含む粘着剤により構成された粘着剤層であることは特定されていない点。

相違点2-5:
第1訂正発明4では,「第1の位相差層」及び「第2の位相差層」が,環状オレフィン系樹脂フィルムで構成されているのに対して,
甲3画像表示装置発明では,「1/2波長位相差層20」及び「1/4波長位相差層21」は,いずれも紫外線照射より重合性液晶モノマーを重合させて液晶の配向状態を固定されたものであり,環状オレフィン系樹脂フィルムで構成されてはいない点。

イ 判断
事案に鑑みて,まず相違点2-5について判断する。
甲3の【0005】,【0009】の記載から,甲3画像表示装置発明は,円偏光板とタッチパネル用センサーフィルムとを一体化して構成された光学フィルムにおいて,可撓性が損なわれることを,解決しようとする課題としていることが把握されるところ,甲3の【0010】ないし【0012】の記載から,1/4波長板と直線偏光板やタッチパネル用センサーフィルムとの貼り合わせにおいて「転写法」(甲3画像表示装置発明における[積層方法])を採用することで,1/4波長板の作製に供した基材(甲3画像表示装置発明における「配向膜23」及び「配向膜24」)を排除して,全体の厚みを薄くするという構成を採用することによって,前記課題を解決することができるものと理解される。
したがって,甲3画像表示装置発明において,「1/2波長位相差層20」及び「1/4波長位相差層21」として,紫外線照射より重合性液晶モノマーを重合させて液晶の配向状態を固定されたものを用いること,及び「直線偏光板15」,「1/2波長位相差層20」,「1/4波長位相差層21」,「タッチパネル用センサーフィルム7」の貼り合わせに[積層方法]を用いることは,甲3画像表示装置発明が解決しようとする課題を解決するために,欠くことのできない構成であるというべきであって,1/2波長位相差層20及び1/4波長位相差層21について,「重合性液晶モノマーを重合させたもの」(以下,便宜上「液晶位相差層」という。)から,「樹脂フィルムを延伸したもの」(以下,便宜上「延伸位相差層」という。)に変更することには,阻害要因が存在するといわざるを得ない。
加えて,液晶位相差層の厚みに対して,これと同じ位相差を発現する延伸位相差層の厚みは,一般に数十倍になってしまうことが,当業者における技術常識であるところ(例えば,申立人が提出したる甲2(特開2015-163938号公報)の【0075】の記載等を参照。),甲3画像表示装置発明において,1/2波長位相差層20及び1/4波長位相差層21として,環状オレフィン系の延伸位相差層を用いると,光学フィルム3全体の厚みが非常に大きなものとなり,必要とされる可撓性が得られなくなるおそれがある。
そうすると,甲3画像表示装置発明を,相違点2-5に係る第1訂正発明4の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることが,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そして,第1訂正発明4は,本件訂正後の請求項1の記載を引用する請求項4に記載された発明特定事項を具備することによって,高温高湿下における導電層のクラック発生を抑制でき,優れた耐久性を有する光学積層体を実現できるという,特許明細書等に記載された効果を奏するものと認められる。
以上のとおりであるから,他の相違点について判断するまでもなく,第1訂正発明4は,甲3画像表示装置発明,甲6記載事項及び甲12記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)第2訂正発明4について
第2訂正発明4と甲3画像表示装置発明とを対比すると,両者は,相違点2-1ないし相違点2-3と同様の点で相違し,その余の点で一致する。
しかるに,前記2(2)で述べたのと同様の理由によって,第2訂正発明4は,甲3画像表示装置発明,甲6記載事項及び甲12記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件訂正発明4における取消理由2の成否についての結論
前記(1)及び(2)のとおりであるから,本件訂正後の請求項4に係る特許について,取消理由2は成り立たない。


第7 取消理由3(明確性要件要件違反)の成否について
取消理由3において不明確であると指摘された「偏光板に隣接して配置された第1の位相差層」という記載,及び「第1の位相差層に隣接して配置された第2の位相差層」という記載は,本件訂正後の請求項1,2,4には存在しないから,本件訂正によって取消理由3は解消した。


第8 取消理由通知(決定の予告)で取り上げなかった特許異議申立ての理由について
特許異議申立書において,申立人は,本件特許の請求項1ないし4に係る発明は,甲2(特開2015-163938号公報)に記載された発明,甲6に記載された事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである(以下,「申立理由」という。)と主張するので,当該申立理由について,以下に判断する。

1 申立理由の成否について
(1)甲2の記載から把握される発明
甲2の記載(【0004】ないし【0006】,【0011】,【0051】,【0057】,【0061】,【0067】,【0071】,【0074】,【0075】,【0241】ないし【0247】等)から,円偏光板110に関する発明,及び当該円偏光板110とタッチパネルとを備える有機エレクトロルミネッセンス表示装置に関する発明を把握することができるところ,これらの発明の構成は,次のとおりである。

「タッチパネル表示装置に備えられる円偏光板110であって,
偏光子の片面又は両面に保護フィルムを有してなる偏光板と,
下記式(5),(6)及び(7)で表される光学特性を有する層Bであって,前記偏光板の吸収軸に対して遅相軸が75°となるように積層された層Bと,
下記式(4),(6)及び(7)で表される光学特性を有する層Aであって,前記偏光板の吸収軸に対して遅相軸が15°となるように積層された層Aと,
をこの順で有し,
下記式(3)で表される光学特性を有する第二の位相差層を,前記偏光板と前記層Bの間又は前記層Aにおける前記層Bとは反対側の面に有するとともに,
下記式(1)及び(2)で表される光学特性を有し,
前記層A及び層Bとして,ノルボルネン系ポリマーなどの環状オレフィン系樹脂からなる透光性樹脂基材を延伸することで得られる延伸フィルム,又は重合性液晶を重合させることにより形成されるコーティング層を用いた
円偏光板110。

Re(450)/Re(550)≦1.00 (1)
1.00≦Re(650)/Re(550) (2)
nx≒ny<nz (3)
100nm<Re(550)<160nm (4)
200nm<Re(550)<320nm (5)
Re(450)/Re(550)≧1.00 (6)
1.00≧Re(650)/Re(550) (7)
(式中,Re(450)は波長450nmにおける面内位相差値を表し,Re(550)は波長550nmにおける面内位相差値を表し,Re(650)は波長650nmにおける面内位相差値を表す。nxは,位相差層が形成する屈折率楕円体における,フィルム平面に対して平行な方向の主屈折率を表す。nyは,位相差層が形成する屈折率楕円体における,フィルム平面に対して平行であり,且つ,該nxの方向に対して直交する方向の屈折率を表す。nzは,位相差層が形成する屈折率楕円体における,フィルム平面に対して垂直な方向の屈折率を表す。)」(以下,「甲2円偏光板発明」という。)

「甲2円偏光板発明の円偏光板110とタッチパネルとを備える有機エレクトロルミネッセンス表示装置。」(以下,「甲2表示装置発明」という。)

2 本件訂正発明1について
(1)本件訂正発明1と甲2円偏光板発明の対比
本件訂正発明1と甲2円偏光板発明とを対比すると,甲2円偏光板発明の「偏光子」,「保護フィルム」,「偏光板」,「層B」,「層A」及び「円偏光板110」が,本件訂正発明1の「偏光子」,「保護層」,「偏光板」,「第1の位相差層」,「第2の位相差層」及び「光学積層体」に対応するから,両者は,
「偏光子と該偏光子の少なくとも一方の側に保護層とを含む偏光板と,第1の位相差層と,第2の位相差層と,を有し,
該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度が10°?15°であり,該吸収軸と該第2の位相差層の遅相軸とのなす角度が72°?78°であり,
該第1の位相差層および該第2の位相差層が,環状オレフィン系樹脂フィルムで構成されている,
光学積層体。」
である点で一致し,次の点で相違する,又は一応相違する。

相違点3-1:
本件訂正発明1では,第1位相差層が偏光板に接着層を介して積層され,第2の位相差層が第1の位相差層に接着層を介して積層されているとともに,第2の位相差層に粘着剤層を介して接着された導電層を有し,該粘着剤層を構成する粘着剤が粘着性ポリマーを含むのに対して,
甲2円偏光板発明は,偏光板と,層Bと,層Aと,をこの順で有するものの,偏光板と層Bの間又は層Aにおける層Bとは反対側の面に第二の位相差層を有しており,かつ,導電層及びこれを接着する粘着剤層を有していない点。

相違点3-2:
本件訂正発明1は,粘着性ポリマーを構成する全モノマー成分中の酸成分の量が4重量%未満であり,該粘着剤の85℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(4)Pa?7.0×10^(4)Paであるのに対して,
甲2円偏光板発明は,そもそも粘着剤層を有していないことから,粘着剤ポリマーにおける酸成分の量や粘着剤の貯蔵弾性率は存在しない点。

相違点3-3:
本件訂正発明1の第2の位相差層は,温度85℃および相対湿度85%の環境下に240時間置いた際の寸法変化率が1%以下であるのに対して,
甲2円偏光板発明では,層Aの寸法変化率は特定されていない点。

(2)判断
事案に鑑みて,まず,相違点3-1について判断する。
甲2の【0004】,【0315】等の記載からは,甲2円偏光板発明が解決しようとする課題は,従来の円偏光板では,黒表示時の光漏れの抑制が十分でなかったこと,より具体的には,明所での反射防止性能の方位角依存性が大きいことと理解される。そして,技術的にみて,甲2円偏光板発明では,式(3)で表される光学特性を有する第二の位相差層すなわち正のcプレートを設けることによって,前記課題が解決できるものと考えられる。したがって,甲2円偏光板発明において,式(3)で表される光学特性を有する第二の位相差層を有することは,発明の課題を解決するために欠くことのできない構成であって,これを省略することには阻害要因が存在するというべきである。
しかるに,甲2円偏光板発明において,第二の位相差層は,偏光板と層Bの間又は層Aにおける層Bとは反対側の面に存在するのであるから,このような第二の位相差層が存在する限りは,たとえ甲2円偏光板発明の偏光板側とは反対側の面に,粘着剤層を介して導電層を接着したとしても,相違点3-1に係る本件訂正発明1の発明特定事項のうち,第1位相差層が偏光板に接着層を介して積層される点,及び導電層が第2の位相差層に粘着剤層を介して接着される点のうちのいずれかについては,それに相当する構成を具備したものになることはない。
また,申立人が提出した証拠のいずれにも,甲2円偏光板発明において,第二の位相差層やその他の層構成を設けずに(すなわち,本件訂正発明1のような層構成で),明所での反射防止性能の方位角依存性を抑制できるようにする手段は,記載も示唆もされていないし,そのような手段が本件特許出願の出願前に当業者に知られていたことを示す証拠は見当たらない。
そうすると,甲2円偏光板発明を,相違点3-1に係る本件訂正発明1の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることが,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そして,本件訂正発明1は,本件訂正後の請求項1に記載された発明特定事項を具備することによって,高温高湿下における導電層のクラック発生を抑制でき,優れた耐久性を有する光学積層体を実現できるという,特許明細書等に記載された効果を奏するものと認められる。
以上のとおりであるから,他の相違点について判断するまでもなく,本件訂正発明1は,甲2円偏光板発明,甲6に記載された事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,本件訂正後の請求項1に係る特許について,請求人主張の申立理由は成り立たない。

3 本件訂正発明2について
(1)本件訂正発明2と甲2円偏光板発明の対比
本件訂正発明2と甲2円偏光板発明とを対比すると,両者は,
「偏光子と該偏光子の少なくとも一方の側に保護層とを含む偏光板と,第1の位相差層と,第2の位相差層と,を有し,
該第1の位相差層および該第2の位相差層が,液晶化合物の配向固化層である,
光学積層体。」
である点で一致し,相違点3-2及び相違点3-3で相違する,又は一応相違するとともに,次の点でも相違する。

相違点3-1’:
本件訂正発明2では,第1位相差層が偏光板に接着層を介して積層され,第2の位相差層が第1の位相差層に接着層を介して積層されているとともに,第2の位相差層に粘着剤層を介して接着された導電層を有し,該粘着剤層を構成する粘着剤が粘着性ポリマーとしてポリエステル系ポリマーを含むのに対して,
甲2円偏光板発明は,偏光板と,層Bと,層Aと,をこの順で有するものの,偏光板と層Bの間又は層Aにおける層Bとは反対側の面に第二の位相差層を有しており,かつ,導電層及びこれを接着する粘着剤層を有していない点。

(2)判断
前記2(2)で述べたのと同様の理由で,甲2円偏光板発明を,相違点3-1’に係る本件訂正発明2の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることが,当業者が容易に想到し得たこととはいえないから,本件訂正発明2は,甲2円偏光板発明,甲6に記載された事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,本件訂正後の請求項2に係る特許について,請求人主張の申立理由は成り立たない。

4 本件訂正発明4について
本件訂正発明4と甲2表示装置発明とを対比すると,両者は,相違点3-1又は相違点3-1’と,相違点3-2と,相違点3-3とで相違し,又は一応相違し,その余の点で一致するところ,前記2(2)又は前記3(2)で述べたのと同様の理由で,甲2表示装置発明を,相違点3-1又は相違点3-1’に相当する構成を具備したものとすることが,当業者が容易に想到し得たこととはいえないから,本件訂正発明4は,甲2円偏光板発明,甲6に記載された事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,本件訂正後の請求項4に係る特許について,請求人主張の申立理由は成り立たない。


第9 むすび
以上のとおり,取消理由通知(決定の予告)により通知された予告理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては,本件特許の請求項1,2及び4に係る特許を取り消すことはできない。また,他に本件特許の請求項1,2及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また,請求項3は,訂正により削除された。これにより,申立人による請求項3に係る特許異議の申立ては,申立ての対象が存在しないものとなったため,特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子と該偏光子の少なくとも一方の側に保護層とを含む偏光板と、該偏光板に接着層を介して積層された第1の位相差層と、該第1の位相差層に接着層を介して積層された第2の位相差層と、該第2の位相差層に粘着剤層を介して接着された導電層と、を有し、
該粘着剤層を構成する粘着剤が粘着性ポリマーを含み、
該粘着性ポリマーを構成する全モノマー成分中の酸成分の量が4重量%未満であり、
該粘着剤の85℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(4)Pa?7.0×10^(4)Paであり、
該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度が10°?15°であり、該吸収軸と該第2の位相差層の遅相軸とのなす角度が72°?78°であり、
該第1の位相差層および該第2の位相差層が、環状オレフィン系樹脂フィルムで構成されており、
該第2の位相差層は、温度85℃および相対湿度85%の環境下に240時間置いた際の寸法変化率が1%以下である、
光学積層体。
【請求項2】
偏光子と該偏光子の少なくとも一方の側に保護層とを含む偏光板と、該偏光板に接着層を介して積層された第1の位相差層と、該第1の位相差層に接着層を介して積層された第2の位相差層と、該第2の位相差層に粘着剤層を介して接着された導電層と、を有し、
該粘着剤層を構成する粘着剤が粘着性ポリマーとしてポリエステル系ポリマーを含み、
該粘着性ポリマーを構成する全モノマー成分中の酸成分の量が4重量%未満であり、
該粘着剤の85℃における貯蔵弾性率が1.0×10^(4)Pa?7.0×10^(4)Paであり、
該第1の位相差層および該第2の位相差層が、液晶化合物の配向固化層であり、
該偏光板と該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体は、温度85℃および相対湿度85%の環境下に240時間置いた際の寸法変化率が1%以下である、
光学積層体。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
請求項1または2に記載の光学積層体を備える、画像表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-11-01 
出願番号 特願2016-196597(P2016-196597)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井上 徹  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 清水 康司
河原 正
登録日 2018-04-13 
登録番号 特許第6321107号(P6321107)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 光学積層体および画像表示装置  
代理人 籾井 孝文  
代理人 籾井 孝文  

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