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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
管理番号 1357678
異議申立番号 異議2019-700200  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-03-12 
確定日 2019-11-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6395924号発明「多結晶シリコンの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6395924号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第6395924号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6395924号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)8月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年8月18日(DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成30年9月7日にその特許権の設定登録がされ、平成30年9月26日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1?3に係る特許に対して、平成31年3月12日付けで特許異議申立人中川賢治(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和1年6月13日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和1年9月11日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、特許異議申立人から令和1年9月18日付け上申書及び令和1年10月17日付け意見書の提出がされたものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(なお、訂正箇所に下線を付した。)

(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1における「前記反応炉から前記多結晶シリコンロッドの取り出し後、かつ新しい支持体を前記反応炉に設置する前に、前記反応炉の前記底板を洗浄し、毎回のロッドの取り出し後に、前記底板を吸引除去し、及びその後に液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する」との記載を「前記反応炉から前記多結晶シリコンロッドの取り出し後、かつ新しい支持体を前記反応炉に設置する前に、毎回、前記反応炉の前記底板を吸引除去し、その後に液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する」に訂正する。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「前記反応炉から前記多結晶シリコンロッドの取り出し後、かつ新しい支持体を前記反応炉に設置する前に、前記反応炉の前記底板を洗浄し、毎回のロッドの取り出し後に、前記底板を吸引除去し、及びその後に液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する」との特定事項において、「前記反応炉の前記底板を洗浄」することと、「前記底板を吸引除去し、及びその後に液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する」ことの関係を明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、願書に添付した明細書の段落【0023】?【0025】の「底板の洗浄は、1種の気体洗浄媒体及び1種の液体洗浄媒体で実施する場合が好ましい。・・・さらに好ましいプロセスの型は、1種の固体含有洗浄媒体及び1種の気体洗浄媒体の使用を含んでなる。」との記載、及び、段落【0035】の「さらに好ましい実施形態としては、毎回のロッドの取り出し手順後に気体洗浄媒体を用いて底板の洗浄を実施することを含んでなる。最も単純な場合は、底板を吸引除去することを含んでなる。加えて、気体洗浄媒体を用いた洗浄は、その後に液体、又は固体若しくは固体含有洗浄媒体で底板の洗浄を追って行う。」との記載からみて、「底板を吸引除去し」、「その後に液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する」ことが、「底板を洗浄」することの実施形態であるは明らかであるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてなされたものである。

(2)一群の請求項、独立特許要件について
訂正前の請求項2及び3は、訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1?3は、一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求による訂正は、この一群の請求項1?3について請求されたものである。
また、本件訂正請求においては、請求項1?3に係る特許に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

(3)特許異議申立人の意見について
ア 特許異議申立人は、訂正前の請求項1に記載された「前記反応炉から前記多結晶シリコンロッドの取り出し後、かつ新しい支持体を前記反応炉に設置する前に、前記反応炉の前記底板を洗浄し、毎回のロッドの取り出し後に、前記底板を吸引除去し、及びその後に液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する」との特定事項を、時系列に、
反応炉から多結晶シリコンロッドの取り出し後、かつ新しい支持体を反応炉に設置する前に、
(ア)反応炉の底板を何らかの方法で洗浄する。
(イ)そして、製造された多結晶シリコンロッドを反応炉から取り出す。
(ウ)底板自体を吸引して除去する(取り出す)。
(エ)取り出した底板を液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する。
と解釈した上で、上記(ア)に対応する「底板を洗浄」という特定事項を削除することは、特許請求の範囲を拡張又は変更するものである旨を主張している(令和1年10月17日付け意見書第2頁第15行?第3頁第6行、令和1年9月18日付け上申書第3頁第8?25行)。
しかしながら、上記(1)で検討したように、願書に添付された明細書の段落【0023】?【0025】及び【0035】の記載からみて、上記特定事項は、「底板を洗浄」することの具体的な態様として、「前記底板を吸引除去し、及びその後に液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する」ことを特定していることは明らかであるから、当該特定事項を特許異議申立人が主張するように解釈することはできない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

イ 特許異議申立人は、訂正前の請求項1に記載された「毎回のロッドの取り出し後」という特定事項において、「ロッドの取り出し後」という事項を削除して、単に「毎回」とする訂正は、「ロッドの取り出し後」以外の事項の「毎回」を含むため、特許請求の範囲を拡張又は変更するものである旨を主張している(令和1年10月17日付け意見書第3頁第7?16行)。
しかしながら、訂正後の請求項1には、「前記反応炉から前記多結晶シリコンロッドの取り出し後、かつ新しい支持体を前記反応炉に設置する前に、毎回」と記載され、「毎回」が、反応炉から前記多結晶シリコンロッドの取り出し後の毎回を示し、「ロッドの取り出し後」以外の事項の「毎回」を含まないことは明らかである。
よって、特許異議申立人の上記主張も採用できない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?3に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明3」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
直接通電で加熱された支持体上に多結晶シリコンを堆積し、多結晶シリコンロッドを与え、前記支持体を反応炉の底板上で保持し、かつ電極によって電流を供給し、前記多結晶シリコンロッドが所要の最終径に達した際に、多結晶シリコンの前記堆積を終了し、その後、前記多結晶シリコンロッドを前記反応炉から取り出し、多結晶シリコンロッドをさらに与える新たな支持体を前記反応炉に設置し、前記反応炉から前記多結晶シリコンロッドの取り出し後、かつ新しい支持体を前記反応炉に設置する前に、毎回、前記反応炉の前記底板を吸引除去し、その後に液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する、多結晶シリコンの製造方法。
【請求項2】
前記底板の洗浄が、液体洗浄媒体を用いる洗浄工程を含んでなり、この洗浄工程後に前記底板を乾燥する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記底板の洗浄前に、気体及び水を通さないように底板の隙間を密閉する、請求項1又は2に記載の方法。」

2 取消理由の概要
令和1年6月13日付けで通知した取消理由は、
「請求項1に記載された『前記反応炉から前記多結晶シリコンロッドの取り出し後、かつ新しい支持体を前記反応炉に設置する前に、前記反応炉の前記底板を洗浄し、毎回のロッドの取り出し後に、前記底板を吸引除去し、及びその後に液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する』との特定事項において、『前記反応炉の前記底板を洗浄』することと、『前記底板を吸引除去し、及びその後に液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する』ことの関係が明確でない。
よって、請求項1に係る発明及びこれを引用する請求項2?3に係る発明は明確でないから、請求項1?3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしてない特許出願に対してされたものである。」
というものである。

3 取消理由の検討
(1)当審の判断
本件発明1では、底板の洗浄に関して、「前記反応炉から前記多結晶シリコンロッドの取り出し後、かつ新しい支持体を前記反応炉に設置する前に、毎回、前記反応炉の前記底板を吸引除去し、その後に液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する」との特定事項に訂正され、「前記反応炉から前記多結晶シリコンロッドの取り出し後、かつ新しい支持体を前記反応炉に設置する前」の反応炉の底板の洗浄が、「底板を吸引除去し、及びその後に液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する」ことであることが明確になった。
したがって、本件発明1及びこれを引用する本件発明2及び3は明確である。
よって、取消理由に理由はない。

(2)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、訂正前の請求項1に記載された「前記反応炉の前記底板を洗浄」することと、「前記底板を吸引除去し、及びその後に液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する」ことの関係について何ら説明することなく、単に「前記反応炉の前記底板を洗浄」するという構成を削除するだけでは、取消理由は解消していない旨を主張している(令和1年10月17日付け意見書第3頁第22行?第4頁第7行)。
しかしながら、特許権者は、訂正前の請求項1に記載された「前記反応炉の前記底板を洗浄」することが、「前記底板を吸引除去し、及びその後に液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する」ことであることを明確にするために、上記第2の1に示した訂正をした上で、「本願発明の多結晶シリコンの製造方法において、反応炉の底板の洗浄は2段階の工程があり、第1工程が『底板の吸引除去』、第2工程が『液体又は固体含有洗浄媒体での底板の洗浄』であることが明確となっている。」(令和1年9月11日付け意見書第2頁第21?23行)と説明しているから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

4 取消理由通知において採用しなかった申立理由の検討
(1)特許法第36条第6項第1号及び第2号に関する申立理由
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1に記載された「毎回のロッドの取り出し後に、前記底板を吸引除去し」との特定事項に関して、当該特定事項は、底板そのものを吸引力によって取り去る、という意味であるため、このような特定事項を含む請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した発明でないし、また、当該特定事項が、底板の洗浄を意味するのであれば、当該特定事項をそのように理解できないため、当該特定事項を含む請求項1に係る発明は明確でないから、訂正前の請求項1?3に係る発明は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしてない特許出願に対してされたものである旨を主張している(特許異議申立書第17頁第1?20行)。
そこで検討するに、本件発明1の「底板を吸引除去」することは、本件特許明細書の段落【0034】に「毎回の取り出し手順後に気体洗浄媒体を用いて底板の洗浄を実施することを含んでなる。最も単純な場合は、底板を吸引除去することを含んでなる(洗浄媒体は吸引除去される空気である)。」と記載されていることからして、気体洗浄媒体として空気を用いた洗浄であることは明らかであり、底板そのものを吸引力によって取り去ることを意味しているといえない。そして、気体洗浄媒体を用いた洗浄である「底板を吸引除去」することは、発明の詳細な説明に記載されている。
したがって、本件発明1は明確であるし、発明の詳細な説明に記載された発明であるから、特許異議申立人の主張する申立理由に理由はない。

(2)特許法第29条第2項に関する申立理由
ア 特許異議申立人は、訂正前の請求項1?3に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨を主張している(特許異議申立書第5頁第1行?第16頁末行)。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2013-18675号公報
甲第2号証:特開2014-73913号公報
甲第3号証:特開平5-1897号公報
甲第4号証:特開2010-275183号公報

イ 甲号証に記載された発明及び技術的事項
(ア)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、
「【0002】
半導体用単結晶シリコンあるいは太陽電池用シリコンの原料となる多結晶シリコンの製造方法として、シーメンス法が知られている。シーメンス法は、クロロシランを含む原料ガスを加熱されたシリコン芯線に接触させることにより、該シリコン芯線の表面に多結晶シリコンをCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて気相成長させる方法である。
【0003】
シーメンス法により多結晶シリコンを気相成長する際の反応炉は、ベルジャーと呼ばれる上部構造体とベースプレートと呼ばれる下部構造体(底板)により構成される空間内にシリコン芯線を鉛直方向2本、水平方向1本の鳥居型に組み立て、該鳥居型のシリコン芯線の両端を一対のカーボン製の芯線ホルダを介してベースプレート上に配置した一対の金属製の電極に固定する。・・・。」、
「【0009】
従って、反応炉で複数回のバッチの繰り返しにより多結晶シリコンの製造を行う場合、反応バッチ間において付着微粒子を清掃除去することが必要である。
【0010】
付着微粒子を除去するには、ベルジャーについては、ベースプレートから取り外し、高圧水や炭酸ガスペレットなどを用いて洗浄される。一方、ベースプレートは取り外しができないため、純水を用いた拭き取り清掃やブラシによる清掃、或いは、吸い込み式の掃除機による清掃を行うのが一般的である。」、
「【0027】
図1は、多結晶シリコン製造のための反応炉100の構成の一例を示す概略断面図である。反応炉100は、シーメンス法によりシリコン芯線11の表面に多結晶シリコンを気相成長させて多結晶シリコン棒12を得るための装置であり、ベースプレート5とベルジャー1により構成される。
【0028】
ベースプレート5には、シリコン芯線11に電流を供給する金属電極10と、窒素ガス、水素ガス、トリクロロシランガスなどのプロセスガスを供給するガスノズル9と、排気ガスを排出する排気口8が配置されている。・・・」、
「【0034】
先ず、図2に例示した態様について説明すると、シリコン芯線11が炭素製の芯線ホルダ15に保持され、この芯線ホルダ15が金属性の電極10の頂部に保持されている。電極10はシリコン芯線11に通電するための電極であって、反応炉の底板部5に設けられた貫通孔を介して反応炉内に挿入されている。・・・」
ことが記載されている(下線は当審が付した。以下同様。)。
これら記載を「多結晶シリコン棒の製造方法」に注目して整理すると、甲第1号証には、
「反応炉のベースプレートに配置された電極でシリコン芯線を固定し、かつ電極から電流を供給し、通電により加熱されたシリコン芯線の表面に多結晶シリコンを気相成長して、多結晶シリコン棒を製造する方法であって、
複数回のバッチの繰り返しにより多結晶シリコン棒の製造を行う際に、反応バッチ間において、純水を用いた拭き取り清掃、ブラシによる清掃、或いは、吸い込み式の掃除機による清掃によって、ベースプレートの付着微粒子を清掃除去する、多結晶シリコン棒の製造方法。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(イ)甲第2号証に記載された技術的事項
甲第2号証には、
「【請求項1】
シーメンス法による多結晶シリコンの製造に使用されるベルジャー型還元炉を操業後に開放し、製品を取り出した後に炉底部を加熱した状態で炉底部の表面をドライアイスブラストにより洗浄処理する還元炉洗浄方法。」、
「【0038】
多結晶シリコンの製造に使用するベルジャー炉の炉底部表面を前述した手法により洗浄した。ベルジャー炉の規模は多結晶シリコンの製造本数で34本である。ドライアイスブラスト条件については、米粒大の円柱形状ドライアイスペレット、具体的には直径が約3mmで長さが10?20mmの円柱形状ドライアイスペレットを使用すると共に、キャリアガスである窒素ガスの圧力を0.1?1.0MPa、ドライアイスペレットの噴射量を0.3?3kg/分の範囲内で様々に調整を行うことにより、洗浄性と経済性が両立する一つの適正条件を見出し、その条件で一定時間をかけて炉底部の表面全体を洗浄した。」
ことが記載されている。
これら記載からみて、甲第2号証には、
「シーメンス法による多結晶シリコンの製造に使用するベルジャー炉の炉底部表面をドライアイスブラストにより洗浄する。」
との技術的事項が記載されているといえる。

(ウ)甲第3号証に記載された技術的事項
甲第3号証には、
「【請求項1】 天井面に埋込み、あるいは吊下げられ、ケーシング内に熱交換器及びファンが収納された空調機の熱交換器を洗浄する方法において、空調機のケーシング下面を覆うようにホッパーを取付け、このホッパーに設けられた排水口をホース及び排水回収タンクを介して洗浄ユニットに設けられた真空ポンプに接続し、この真空ポンプを動作させて洗浄前に熱交換器に付着している塵埃を吸引し、その後、洗浄液タンク及び前記洗浄ユニットに設けられた送水ポンプに送水ホースを介して接続した洗浄ノズルを、前記ホッパーに形成された開閉自在な開口部を通して該ホッパー内に臨ませ、前記送水ポンプを動作させて前記洗浄ノズルより洗浄液を噴霧すると共に、前記真空ポンプを動作させて、この噴霧された洗浄液をホッパーの排水口より前記排水回収タンクに回収し、洗浄液の噴霧を終えた後、前記真空ポンプの動作による空気吸引により熱交換器の水切りを行うものであって、前記排水回収タンク及び洗浄液タンクを前記洗浄ユニットとは別個に取外し交換自在としたことを特徴とする空調機の熱交換器洗浄方法。」、
「【0010】上記構成の洗浄装置による洗浄方法について以下に説明する。洗浄作業の手順は次の通りである。
(1)空調機の前面パネル、ドレンパン、ファン、モータ、制御基板等を取外し、ケーシング22内の熱交換器23が見える状態とする。
(2)ケーシング22の外周縁にそれを覆うようにホッパー6を係合部材24及び吊り金具25を用いて取付ける。
(3)洗浄前の塵埃の回収を行う。それには、ホッパー6の排水口7に排水ホース8の一端を接続し、同ホース8の他端を排水回収タンク4を経て洗浄ユニット1の真空ポンプ2に接続する。そして、真空ポンプ2を動作させて排水ホース8の先端より空気を吸引し、ホッパー6内の荒ごみ、塵埃を吸い取る。このとき、ホッパー6の防水ファスナー等でなる開閉自在な開口部9の一部を開けて、ここから作業者は手を差し入れてホッパー6の排水口7の内側にフレキシブルチューブ(図示せず)を繋いで、このフレキシブルチューブを持って熱交換器23に付着している塵埃等を吸い取れば、効率良く作業ができる。
【0011】(4)薬液による洗浄を行う。それには、一端を洗浄ユニット1の送水ポンプ3に接続した送水ホース11の他端に洗浄ノズル10を接続し、この洗浄ノズル10を作業者が手に持ってホッパー6の開閉自在な開口部9を通してホッパー6内に臨ませる。送水ポンプ3を動作させ、薬液タンク5aより薬液を圧送し洗浄ノズル10から熱交換器23へ噴霧し、薬液を浸透させる。
(5)水洗いにより薬液を洗い落とす。それには、電磁弁28を切り替えて、洗浄液タンク5より洗浄水を送水ポンプ3により圧送し、洗浄ノズル10から熱交換器23に噴射する。薬液及び洗浄水の排水は、ホッパー6の排水口7より真空ポンプ2で吸引されて、排水ホース8を通って、排水回収タンク4に送られ回収される。・・・」
ことが記載されている。
これら記載からみて、甲第3号証には、
「天井面に埋込み、あるいは吊下げられ、ケーシング内に熱交換器及びファンが収納された空調機の熱交換器を洗浄するに際して、真空ポンプに接続したフレキシブルチューブによって、熱交換器に付着している塵埃等を吸い取り、その後、洗浄ノズルから熱交換器へ薬液及び洗浄水を噴霧して熱交換器を洗浄する。」
との技術的事項が記載されているといえる。

(エ)甲第4号証に記載された技術的事項
甲第4号証には、
「【0031】
この多結晶シリコン反応炉10を用いた反応処理および処理後の反応炉10の清掃について説明する。
図3および図4に示すように、反応処理の際には、炉底40に開口する流路44の開口部44aにプラグ50が装着されている。そして、バルブ60aが閉鎖されるとともにバルブ60bが開放されることにより、流路44は原料ガス供給源62からの原料ガスの供給流路として機能する。プラグ50の連通孔50aおよび噴出ノズル12から原料ガスが炉内に供給されると、通電により高温となったシリコン芯棒20および連結部材24の表面で、多結晶シリコンが析出する。このとき、ベルジャ30の内面および炉底40の内面が冷却されているので、これらの内面上での多結晶シリコンの析出反応が抑制される反面、クロロシランポリマー等を含む反応副生成物Aが炉内面に生じやすくなる。
・・・
【0034】
反応処理が終了すると、析出した多結晶シリコンを取り出すためにベルジャ30が取り外される前に、反応炉10内を不活性ガスで満たすとともに、反応副生成物Aに含まれるポリマーを不活性化する作業が行われる。このとき、ポリマーの不活性化によって生じたシリカ粉末等は、炉底40の上面40aにも付着する。なお、反応処理が終了した時点でバルブ60bは閉鎖されており、流路44からの原料ガスの供給は行われていない。
【0035】
雰囲気置換および不活性化処理が終了し、ベルジャ30が取り外されて多結晶シリコンが反応炉10から取り出された後、プラグ50が取り付けられた状態で、洗浄水が炉底40上に供給されて溜められ、暫時放置される。これにより、炉底40に付着したポリマーが、洗浄水により加水分解され、炉底40から取り除かれやすい状態となる。そして、洗浄用具を用いて上面40aの付着物を剥離し、水とともに炉底40上から取り除く。・・・」
ことが記載されている。
これら記載からみて、甲第4号証には、
「多結晶シリコン反応炉の反応処理後の炉底の清掃について、多結晶シリコンの析出により炉底内面に付着した反応副生物を不活性化処理した後、炉底上に溜めた洗浄水で反応副生物を加水分解し、その後、洗浄用具を用いて剥離し、洗浄水とともに取り除く。」
との技術的事項が記載されているといえる。

ウ 当審の判断
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「多結晶シリコン棒」、「ベースプレート」、「清掃除去する」ことは、それぞれ、本件発明の「多結晶シリコンロッド」、「底板」、「洗浄する」ことに相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、多結晶シリコンロッドの製造方法で使用される反応炉の底板の洗浄に関して、本件発明1では、「前記反応炉の前記底板を吸引除去し、その後に液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する」のに対して、甲1発明では、「純水を用いた拭き取り清掃、ブラシによる清掃、或いは、吸い込み式の掃除機による清掃によって、ベースプレートの付着微粒子を清掃除去する」点で少なくとも相違している(以下、「相違点1」という。)。
そこで、上記相違点1について検討すると、甲第2号証及び甲第4号証には、上記イ(イ)及び(エ)で認定したとおり、多結晶シリコンロッドの製造方法で使用される反応炉の底板の洗浄方法に関する技術的事項が記載されているものの、いずれも、1つの洗浄媒体での洗浄方法であって、「吸引除去し、その後に液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する」ことは記載も示唆もされていない。
また、甲第3号証には、上記イ(ウ)で認定したとおり、塵埃等を吸引除去し、その後に液体洗浄媒体で洗浄する技術的事項が記載されているが、当該技術的事項は、空調機の熱交換器を対象とする洗浄方法に関するものであって、多結晶シリコンロッドの製造方法で使用される反応炉の底板の洗浄に適用できることは記載も示唆もされていない。そして、空調機の熱交換器の洗浄方法を、多結晶シリコンロッド製造用反応炉の洗浄に転用できるとの技術常識も存在しない。
この点に関して、特許異議申立人は、甲第3号証の記載から、乾式で清掃した後に湿式で清掃する清掃順序が周知技術である旨を主張している(異議申立書第15頁第12?17行)が、先に検討したとおり、甲第3号証に記載された洗浄方法は、空調機の熱交換器を対象としたものであって、洗浄対象物を限定しない一般的な洗浄方法を示したものであるといえないから、特許異議申立人の主張は採用できない。
したがって、その他の点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
また、本件発明2及び3は、本件発明1を引用するものであって、少なくとも上記相違点1が存在するから、本件発明2及び3も、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
よって、特許異議申立人の主張する申立理由に理由はない。

5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接通電で加熱された支持体上に多結晶シリコンを堆積し、多結晶シリコンロッドを与え、前記支持体を反応炉の底板上で保持し、かつ電極によって電流を供給し、前記多結晶シリコンロッドが所要の最終径に達した際に、多結晶シリコンの前記堆積を終了し、その後、前記多結晶シリコンロッドを前記反応炉から取り出し、多結晶シリコンロッドをさらに与える新たな支持体を前記反応炉に設置し、前記反応炉から前記多結晶シリコンロッドの取り出し後、かつ新しい支持体を前記反応炉に設置する前に、毎回、前記反応炉の前記底板を吸引除去し、その後に液体又は固体含有洗浄媒体で洗浄する、多結晶シリコンの製造方法。
【請求項2】
前記底板の洗浄が、液体洗浄媒体を用いる洗浄工程を含んでなり、この洗浄工程後に前記底板を乾燥する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記底板の洗浄前に、気体及び水を通さないように底板の隙間を密閉する、請求項1又は2に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-11-06 
出願番号 特願2017-509751(P2017-509751)
審決分類 P 1 651・ 853- YAA (C01B)
P 1 651・ 537- YAA (C01B)
P 1 651・ 121- YAA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 廣野 知子  
特許庁審判長 服部 智
特許庁審判官 宮澤 尚之
小川 進
登録日 2018-09-07 
登録番号 特許第6395924号(P6395924)
権利者 ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
発明の名称 多結晶シリコンの製造方法  
代理人 朝倉 悟  
代理人 柏 延之  
代理人 宮嶋 学  
代理人 永井 浩之  
代理人 朝倉 悟  
代理人 中村 行孝  
代理人 小島 一真  
代理人 小島 一真  
代理人 永井 浩之  
代理人 宮嶋 学  
代理人 浅野 真理  
代理人 中村 行孝  
代理人 柏 延之  
代理人 浅野 真理  

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